(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175621
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置及び表示制御システム
(51)【国際特許分類】
B60K 35/23 20240101AFI20241211BHJP
【FI】
B60K35/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093567
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100192533
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 如紘
(72)【発明者】
【氏名】片桐 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
【テーマコード(参考)】
3D344
【Fターム(参考)】
3D344AA19
3D344AB01
3D344AC25
(57)【要約】
【課題】 乗員の高さ方向の目の位置が変化した場合でも、表示する各画像の上下方向の位置が重複しないように制御して、乗員が画像間の前後関係を理解できるようにする。
【解決手段】 車両前方に仮想的に設定された表示領域に1以上の画像を前景に重畳して投影表示することで乗員に視認させるヘッドアップディスプレイ装置100であって、表示領域VAに第1の画像と第2の画像を投影して表示する表示部120と、乗員から見て第1の画像を第2の画像よりも奥側に配置して表示部に表示する制御を行う制御部160と、を有し、制御部は、乗員の高さ方向の目の位置に基づき、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置、及び/又は表示態様を異ならせて表示領域に配置する第1の制御を行い、第1の制御により第1の画像と第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、第1の画像及び/又は第2の画像を再配置して重複を回避する第2の制御を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方に仮想的に設定された表示領域に1以上の画像を前景に重畳して投影表示することで前記画像を乗員に視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記表示領域に第1の画像と第2の画像を投影して表示する表示部と、
前記乗員から見て前記第1の画像を前記第2の画像よりも奥側に配置して前記表示部に表示する制御を行う制御部と、を有し、
前記制御部は、
前記乗員の高さ方向の目の位置に基づき、前記第1の画像及び/又は前記第2の画像の表示位置、及び/又は表示態様を異ならせて前記表示領域に配置する第1の制御を行い、
前記第1の制御により前記第1の画像と前記第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、前記第1の画像及び/又は前記第2の画像を再配置して前記重複を回避する第2の制御を行う、ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、前記表示領域における第1の領域と、前記第2の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、前記表示領域における第2の領域との間で前記重複が生じる場合に、前記第2の制御を行なう、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第1の画像及び前記第2の画像が、前記車両前方の前景に関連する画像である場合に、前記第1の制御及び前記第2の制御を行う、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記表示領域の内側又は外側に線遠近法における仮想的な消失点を設定し、前記仮想的な消失点を通る前記前景の走行車線を模した仮想的なラインに沿って前記第1の画像及び前記第2の画像が配置されているように前記乗員が視認できる所定の範囲内に、前記第1の画像及び前記第2の画像を表示する場合に、前記第1の制御及び前記第2の制御を行なう、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第2の制御において、前記第2の画像を、前記乗員から見て前記表示領域の下側に移動させる制御を行うことにより前記重複を回避する、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第1の制御により前記第2の画像が前記表示領域の下部領域に配置され、前記第2の制御により前記第2の画像を前記下部領域の下側に移動させても前記重複が回避できない場合、前記第2の画像を前記表示領域の中心位置から遠ざかるように前記乗員から見て前記表示領域の左側又は右側に移動させる制御を行う、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記第2の制御において、前記第2の画像を、前記表示領域の内側又は外側に設定される線遠近法における仮想的な消失点を通る走行車線を模した仮想的なラインに沿って配置されているように前記乗員が視認できる所定の範囲内で下側に移動させる及び/又は前記表示領域の中心位置から遠ざかるように左側又は右側に移動させる制御を行う、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記乗員の高さ方向の目の位置が所定の基準位置よりも下に位置する場合、前記第1の制御と第2の制御を行い、前記所定の基準位置よりも上に位置する場合、前記第1の制御を行なう、請求項1記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記表示領域の前記車両に近い側の端部を下端部とし、遠い側の端部を上端部とした場合、前記乗員に前記上端部が前記下端部よりも奥側となって傾斜して視認されるように表示する制御を行なう、請求項1乃至8のいずれか1項記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項10】
車両前方に仮想的に設定された表示領域に1以上の画像を前景に重畳して投影表示するヘッドアップディスプレイ装置と、前記画像を生成して前記表示領域に配置する処理装置と、を含む表示制御システムであって、
前記ヘッドアップディスプレイ装置は、
前記表示領域に第1の画像と第2の画像を投影表示する表示部と、
乗員から見て前記第1の画像を前記第2の画像よりも奥側に配置して前記表示部に表示する制御を行う制御部と、を有し、
前記処理装置は、
前記乗員の操作入力により設定されるか又は検出される、前記乗員の高さ方向の目の位置に変更があった場合、前記第1の画像及び/又は前記第2の画像の表示位置、及び/又は表示態様を異ならせて前記表示領域に配置し、前記第1の画像と前記第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、前記第1の画像及び/又は前記第2の画像を再配置して前記重複を回避する処理を実行し、前記ヘッドアップディスプレイ装置に対し、前記第1の画像と前記第2の画像の表示を指示する、表示制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体で使用され、移動体の前景に仮想的な表示オブジェクトを重畳して視認させる、ヘッドアップディスプレイ装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に、仮想的な表示オブジェクト(虚像)を利用して奥行き方向(車両の前後方向)における表現力を高め、視認者である乗員(ドライバ)等に対して直観的な情報提示を可能にする、ヘッドアップディスプレイ装置(以下、単にHUD装置という)が記載されている。このHUD装置は、前景(車両の乗員から見た前進方向の実景)の空間内の奥行きや上下左右方向の所定の位置に虚像を配置し、路面等、現実の風景(前景)にその虚像を付加して表示する拡張現実(AR:Augmented Reality)を形成する。
【0003】
このようなHUD装置において、車両の前景に存在する、例えば、制限車速情報や前方車両追従情報等の前景オブジェクトに関連する情報を画像(虚像)として生成し、乗員から見て前景オブジェクトに近い位置にその画像(虚像)が表示されるように制御するものが知られている。また、乗員から見て上側(視認者から見て奥側に感じられる側)にある視認対象を虚像結像面(以下、表示領域という)の奥側に、下側(視認者から見て手前側に感じられる側)にある視認対象を上述した表示領域の手前側に配置することで、例えば、近方の制限車速情報を手前側に、遠方の前方車両追従情報を奥側に表示することで各情報の前後関係を表現するものも知られている。
【0004】
また、画像(虚像)の画角内あるいは画角外に仮想的な消失点(線遠近法で本来平行である2以上の線を平行でなく描くときのそれぞれが交わる地点)を設定し、その仮想的な消失点に向かう走行車線を模した白線画像上に、ナビゲーション画像や交通標識画像(虚像)を配置し、乗員から見て路面に沿うようにこれら画像(虚像)が表示されるように制御を行うものも知られている。
【0005】
これらの制御により、乗員には、(1)表示された画像(虚像)が、前景オブジェクトに関連する情報であるように視認され、(2)前景オブジェクトに関連する各情報の前後関係が理解できるように視認され、更には、(3)各画像(虚像)が路面に沿うように配置されているように視認される、といった効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
ところで、上述したHUD装置において、車両前方に仮想的に設定される表示領域(虚像結像面)に配置され投影表示される各画像は、乗員の高さ方向の目の位置が基準位置にあることを想定して表示される。そのため、身長等により乗員の高さ方向の目の位置が変化した場合は、乗員から見た前景オブジェクト、及びその前傾オブジェクトに関連する情報を示す画像(虚像)の見え方が変化する。この変化により、表示された画像(虚像)が、(1)前景オブジェクトに関連する情報であるように視認できない、あるいは(2)各画像(虚像)が路面に沿うように配置されているように視認できない、といった問題が発生する。これらの問題に対しては、各画像(虚像)の上下方向の表示位置を変更することによって解決できることが知られている。
【0008】
しかしながら、各画像(虚像)の表示位置を変更することにより、各画像の上下方向の表示位置が重複(オーバーラップ)することがあり、この場合、画像間の前後関係が理解し難くなる可能性がある。路面に対して傾斜した虚像結像面(表示領域)を生成するHUD装置は、画像の上下方向の位置によって表示距離(結像距離)が変化する。したがって、各画像の上下方向の位置が重複すれば、画像間の表示距離の差が無くなるか、又は小さくなるため、奥行き方向(車両の前後方向)における表現力を高めた表示を行うことができ、より自然で遠近感のある虚像の視認性を実現するといった、傾斜した虚像結像面(表示領域)を用いたHUD装置の利点が低減する。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、乗員の高さ方向の目の位置が変化した場合でも、表示する各画像の上下方向の位置が重複しないように制御することにより、乗員が画像間の前後関係を理解できるようにした、ヘッドアップディスプレイ装置及び表示制御システムを提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0012】
第1の態様において、車両前方に仮想的に設定された表示領域に1以上の画像を前景に重畳して投影表示することで前記画像を乗員に視認させるヘッドアップディスプレイ装置であって、前記表示領域に第1の画像と第2の画像を投影して表示する表示部と、前記乗員から見て前記第1の画像を前記第2の画像よりも奥側に配置して前記表示部に表示する制御を行う制御部と、を有し、前記制御部は、前記乗員の高さ方向の目の位置に基づき、前記第1の画像及び/又は前記第2の画像の表示位置、及び/又は表示態様を異ならせて前記表示領域に配置する第1の制御を行い、前記第1の制御により前記第1の画像と前記第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、前記第1の画像及び/又は前記第2の画像を再配置して前記重複を回避する第2の制御を行う。
【0013】
ここで、車両前方に仮想的に設定される表示領域のうち、下側(乗員から見て手前側に感じられる側)を手前側とし、上側(乗員から見て奥側に感じられる側)を奥側とした場合、表示部が投影して表示する「第1の画像」は、例えば、
図5(a)に表示形態の一例を示すように、手前側に表示される制限車速情報NIであり、第2の画像は、奥側に表示される制限車速情報FIである。また、「乗員の高さ方向の目の位置」は、例えば、乗員により設定されるヘッドアップディスプレイ装置が持つ反射部材(凹面鏡)の角度情報から判定することができ、あるいは車両に備えられたカメラ(車載センシング装置200)により取得される撮影情報を画像認識することにより判定することができる。
【0014】
また、「第1の制御」は、乗員の高さ方向の目の位置に基づき、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置及び/又は表示態様を異ならせて表示領域に配置するが、ここで、「表示位置を異ならせて表示する」とは、例えば、乗員の身長の高低等により乗員の高さ方向の目の位置が変化した場合、その変化量に応じて第1の画像及び/又は第2の画像の位置を、表示部の表示面と共役関係にある表示領域の奥側、あるいは手前側に移動させて配置する表示変更処制御を行なうことをいい、また、「表示態様を異ならせて表示する」は、例えば、第1の画像及び/又は第2の画像を構成する文字や装飾等の表示要素の大きさ、数、輝度、色彩、鮮明度等を、第1の画像と第2の画像とで異ならせる表示変更制御を行うことをいう。
【0015】
また、「第2の制御」は、第1の制御により、第1の画像と第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、第1の画像又は第2の画像を再配置して重複を回避するが、ここで、「重複」とは、例えば、第1の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、表示領域における第1の領域と、第2の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、表示領域における第2の領域の上下方向の少なくとも一部がオーバラップ(重複)する状況をいう。また、「再配置」とは、例えば、乗員から見て奥側に視認させたい第1の画像を表示領域の上側に移動させるか、あるいは、乗員から見て手前側に視認させたい第2の画像を表示領域の下側に移動させる重複解消制御を行うことをいう。但し、人間の視覚特性において、視認対象(第1の画像と第2の画像)に対して視認者(乗員)からの距離が近いほど奥行き弁別能力が高いことが知られていることから、路面に対して傾斜した虚像結像面(表示領域)を生成するHUD装置では、表示領域の上側より下側の方が乗員からの距離(表示距離)が近く、そのため、奥側に視認させたい画像である第1の画像を上側に移動させるより、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる方が乗員に画像間の前後関係を把握させるうえで有利である。
【0016】
第1の態様によれば、制御部は、乗員の高さ方向の目の位置に基づき、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置、及び/又は表示態様を異ならせて表示領域に配置する第1の制御(表示変更制御)を行い、この第1の制御により第1の画像と第2の画像との間で高さ方向に重複が生じた場合、第1の画像及び/又は第2の画像を再配置して重複を回避する第2の制御(重複解消制御)を行う。言い換えれば、制御部は、乗員の高さ方向の目の位置の変更を検出すると、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置を変更する、及び/又は表示態様を変更する表示変更制御を行い、表示変更制御の結果、画像間に重複があれば、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる重複解消制御を実行する。したがって、表示変更制御により画像間に重複が生じると乗員は画像間の前後関係が把握しづらくなるが、例えば、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる重複解消制御を実行し画像間で上下方向の表示位置に差を設けることで、乗員は、画像間の前後関係をより理解しやすくなる。すなわち、乗員の高さ方向の目の位置が変化した場合でも、表示する各画像の上下方向の位置が重複しないように制御することにより、乗員に対する画像間の前後関係の把握を担保することができる。
【0017】
第1の態様に従属する第2の態様において、前記制御部は、前記第1の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、前記表示領域における第1の領域と、前記第2の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、前記表示領域における第2の領域との間で前記重複が生じる場合に、前記第2の制御を行なってもよい。
【0018】
ここで、「第1の領域」とは、例えば、
図7(a)に表示形態の一例を示すように、近方にある制限車速情報NIの上下方向の表示領域NAであり、「第2の領域」とは、遠方にある制限車速情報FIの上下方向の表示領域FAである。第2の態様によれば、制御部が、第1の画像が属する第1の領域(近方にある制限車速情報NIの上下方向の表示領域NA)と第2の画像が属す第2の領域(遠方にある制限車速情報FIの上下方向の表示領域FA)の上下方向の重複を判定し、重複が生じる場合に第2の制御を行なう。この場合、第1の画像の下端の表示位置と第2の画像の上端の表示位置との比較のみで重複が検出されるため、画像間の画素同士を比較する場合に比べて少ない処理負荷で重複を検出することができる。したがって、少ない処理負荷で画像間の重複を検出した後に上下方向の表示位置に差異を設ける第2の制御を実行することで乗員に画像間の前後関係を把握させることができる。
【0019】
第1の態様に従属する第3の態様において、前記制御部は、前記第1の画像及び前記第2の画像が、前記車両前方の前景に関連する画像である場合に、前記第1の制御及び前記第2の制御を行なってもよい。
【0020】
第3の態様によれば、制御部は、第1の画像と第2の画像が車両前方の前景に関連する画像であれば第1の制御と第2の制御を行う。第3の態様によれば、そのような画像間の前後関係の把握は、特に、画像が車両前方の前景に関連するものであるときに重要となり、そのような画像に対して第2の制御を実行することで乗員に対する画像間の前後関係の把握を担保することができる。
【0021】
第1の態様に従属する第4の態様において、前記制御部は、前記表示領域の内側又は外側に線遠近法における仮想的な消失点を設定し、前記仮想的な消失点を通る前記前景の走行車線を模したラインに沿って前記第1の画像及び前記第2の画像が配置されているように前記乗員が視認できる所定の範囲内に、前記第1の画像及び前記第2の画像を表示する場合に、前記第1の制御及び前記第2の制御を行なってもよい。
【0022】
ここで、「仮想的な消失点」とは、例えば、線遠近法で本来平行である2以上の線を平行でなくして描くときのそれが交わる地点(例えば、
図5(a)のVP)であって、視認者である乗員が奥側を見通すように見ているときの視線方向をいう。また、「所定の範囲」とは、乗員が各画像(第1の画像と第2の画像)を路面に沿うように配置されているように視認できるか否かの閾値を基に決定される値であり、試験やシミュレーション等によって得られる値である。例えば、
図5(a)に表示形態の一例が示されているように、走行車線WLを模した仮想的なラインVLの傾きは35°であり、第1の画像、第2の画像としての2つの制限車速情報(NI,FI)も傾きが35°になるように配置されている。しかしながら、2つの画像NI,FIが垂直になるような配置、すなわち傾きが90°になるように2つの制限車速情報(NI,FI)を配置した場合、乗員は、各画像が路面に沿って配置されているようには視認できない。したがって、「所定の範囲」はこのような配置を行えないような値(傾き)である、例えば、8°以上66°未満が範囲として設定される。
【0023】
例えば、
図6(a)に表示形態の一例を示すように、手前側の制限車速情報NI(第2の画像)と奥側の制限車速情報FI(第1の画像)が配置される仮想的なラインVLと、現実世界(車両前方の前景)の走行車線WLの中心を通る仮想的なラインALの傾きが異なっており、この傾きの差が大きくなると、各画像が路面に沿っていないように視認される可能性がある。このため、第4の態様によれば、例えば、
図7(a)に表示形態の一例を示すように、制御部が、各画像を配置するための仮想的なラインVLと現実世界の走行車線WLの中心を通る仮想的なラインALとが同じ傾きになるように仮想的な消失点VPの表示位置を変更し、且つ仮想的な消失点VPに向かう仮想的なラインVLを通るように、手前側に配置される制限車速情報NI(第2の画像)と奥側に配置される制限車速情報FI(第1の画像)の表示位置を変更するか、あるいはその表示形態を変更するための第1の制御(表示変更制御)を実行する。
【0024】
但し、
図7(a)に示す表示形態の一例によれば、手前側に表示される制限車速情報NI(第2の画像)の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた領域(第1の領域NA)と、奥側に表示される制限車速情報FI(第1の画像)の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた領域(第2の領域FA)とが重複しており、画像間の上下方向に重複が生じる。このため、例えば、
図8(a)に表示形態の一例を示すように、制御部は、仮想的な消失点VPに向かう仮想的なラインVLに沿って手前側に表示される制限車速情報(第2の画像)を下側、かつ左側に所定の範囲(例えば、8°以上66°未満)内で移動させることにより画像間の重複を回避する第2の制御(重複解消制御)を行う。
【0025】
このように、第4の態様によれば、制御部は、仮想的な消失点VPを通る前景の走行車線を模した仮想的なラインVLに沿って第1の画像及び第2の画像が配置されているように乗員が視認できる所定の範囲(例えば、8°以上66°未満)内に第1の画像及び第2の画像を表示する場合に、第1の制御(表示変更制御)及び第2の制御(重複解消制御)を行なう。ここで、仮想的な消失点VPを通る仮想的なラインVLに沿って各画像を配置することは、画像間の前後関係を把握させたい場合によく用いられる手法である。そこで、そのような画像に対し、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置を変更する、及び/又は表示態様を変更する、第1の制御(表示変更制御)を行い、この第1の制御により画像間に重複があれば、例えば、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる第2の制御(重複解消制御)を実行する。このようにして画像間で上下方向の表示位置に差を設けることで、画像間の前後関係の把握を担保することができる。
【0026】
第1の態様乃至第4の態様に従属する第5の態様において、前記制御部は、前記第2の制御において、前記第2の画像を、前記乗員から見て前記表示領域の下側に移動させる制御を行うことにより前記重複を回避してもよい。
【0027】
第5の態様によれば、制御部は、第2の画像を、乗員から見て表示領域の下側に移動させる第2の制御により画像間の重複を回避する。これは、人間の視覚特性において、視認対象(第1の画像、第2の画像)に対して視認者(乗員)からの距離が近いほど奥行き弁別能力が高いことが知られていることから、路面に対して傾斜した虚像結像面(表示領域VA)を生成するヘッドアップディスプレイ装置では、表示領域の上側より下側の方が乗員からの距離(表示距離)が近く、そのため、奥側に視認させたい画像である第1の画像を上側に移動させるより、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる方が乗員に画像間の前後関係を把握させるうえで有利である。
【0028】
第1乃至第5の態様に従属する第6の態様において、前記制御部は、前記第1の制御により前記第2の画像が前記表示領域の下部領域に配置され、前記第2の制御により前記第2の画像を前記下部領域の下側に移動させても前記重複が回避できない場合、前記第2の画像を前記表示領域の中心位置から遠ざかるように前記乗員から見て前記表示領域の左側又は右側に移動させる制御を行なってもよい。
【0029】
ここで、「下部領域」とは、例えば、
図1(b)に示すように、表示領域VAを境界線(図中、一点鎖線)で2等分して区画される下側の領域をいう。例えば、上下方向の表示領域が小さい等ヘッドアップディスプレイ装置の表示領域の制約上、第2の画像を下側に移動できない場合があり、そのような場合、制御部は、第2の画像を、表示領域の中心位置から遠ざかるように左側又は右側に移動させることにより、第1の画像と第2の画像との表示位置の間に差を設けることができる。この場合、上下方向の表示位置の差が小さくても横方向の表示位置の差を広げることで前後関係が把握しやすくなる。
【0030】
第1乃至第6の態様に従属する第7の態様において、前記制御部は、前記第2の制御において、前記第2の画像を、前記表示領域の内側又は外側に設定される線遠近法における仮想的な消失点を通る走行車線を模した仮想的なラインに沿って配置されているように前記乗員が視認できる所定の範囲で下側に移動させる、及び/又は前記表示領域の中心位置から遠ざかるように左側又は右側に移動させる制御を行なってもよい。
【0031】
例えば、
図7(a)に表示形態の一例を示すように、第2の画像である手前側の制限車速情報NIと、第1の画像である奥側に表示される制限車速情報FIが仮想的なラインVL上に配置されおり、この仮想的なラインVLからそれら画像が離れると乗員に違和感を与える可能性がある。このため、制御部が、例えば、
図8(a)に表示形態の一例を示すように、仮想的なラインVLに沿って第2の画像である手前側に表示される制限車速情報NIを、表示領域VAの下側に、且つ中心位置から遠ざけるように左側に移動させる制御を行う。したがって、第7の態様によれば、仮想的な消失点VPを通る仮想的なラインVL上で各画像を動かすことにより乗員に与える違和感を抑制しつつ画像間の前後関係の把握を容易にすることができる。
【0032】
第1乃至第7の態様に従属する第8の態様において、前記制御部は、前記乗員の高さ方向の目の位置が所定の基準位置よりも下に位置する場合、前記第1の制御と第2の制御を行い、前記所定の基準位置よりも上に位置する場合、前記第1の制御を行なってもよい。
【0033】
ここで、「所定の基準位置」とは、例えば、アイボックスが基準位置にある場合の反射部材である凹面鏡の角度位置をいう。凹面鏡は駆動部に接続されており、駆動部は、制御部による制御の下で、乗員により設定されるか、又は検出される乗員の高さ方向の目の位置により、凹面鏡を所定の角度範囲内で回転させることができ、このことにより表示光のウインドシールド内における到達地点を変えることができる。すなわち、アイボックスの位置(乗員の高さ方向の目の位置)の変化に伴い、画像(虚像)が配置される表示領域内の位置を変化させることができる。このため、制御部は、所定の基準位置と比較してアイボックスの位置が下がる比較的背の低い乗員と、基準位置と比較してアイボックスの位置か上がる比較的背の高い乗員のどちらに対しても第1の制御を実行するが、第1の制御を行った結果として画像間の重複が生じるのはアイボックスの位置か下がる比較的背の低い乗員であるため、比較的背の低い乗員に対してのみ第2の制御を実行して画像間の重複を回避する。したがって、無駄な制御を行うことのない効率の良い重複解消制御が可能になる。
【0034】
第1乃至第8の態様に従属する第9の態様において、前記制御部は、前記表示領域の前記車両に近い側の端部を下端部とし、遠い側の端部を上端部とした場合、前記乗員に前記上端部が前記下端部よりも奥側となって傾斜して視認されるように表示する制御を行なってもよい。
【0035】
第9の態様によれば、制御部は、表示領域の上端部(例えば、
図1(b)の画角のUp)が下端部(例えば、
図1(b)の画角のDn)よりも奥側となるような、傾斜した虚像結像面である表示領域VAを用いて、奥行き方向(車両の前後方向)における表現力を高めた表示を行うことができ、より自然で遠近感のある画像の視認性を実現することができる。また、表示位置に応じて表示距離(結像距離)を調整することができ、上端部側ではかなり広範囲にわたって奥行き感のある表示を実現することができるため、画像間の前後関係の把握が容易になる。
【0036】
第10の態様において、車両前方に仮想的に設定された表示領域に1以上の画像を前景に重畳して投影表示するヘッドアップディスプレイ装置と、前記画像を生成して前記表示領域に配置する処理装置と、を含む表示制御システムであって、前記ヘッドアップディスプレイ装置は、前記表示領域に第1の画像と第2の画像を投影して表示する表示部と、乗員から見て前記第1の画像を前記第2の画像よりも奥側に配置して前記表示部に表示する制御を行う制御部と、を有し、前記処理装置は、前記乗員の操作入力により設定されるか又は検出される、前記乗員の高さ方向の目の位置に変更があった場合、前記第1の画像及び/又は前記第2の画像の表示位置及び/又は表示態様を異ならせて前記表示領域に配置し、前記第1の画像と前記第2の画像との間で高さ方向に重複が生じた場合、前記第1の画像及び/又は前記第2の画像を再配置して前記重複を回避する処理を実行し、前記ヘッドアップディスプレイ装置に対し、前記第1の画像と前記第2の画像の表示を指示する。
【0037】
第10の態様によれば、処理装置は、乗員の操作入力により設定されるか又は検出される、乗員の高さ方向の目の位置に変更があった場合、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置及び/又は表示態様を異ならせて表示領域に配置し(表示変更処理)、第1の画像と第2の画像との間で高さ方向に重複が生じた場合、第1の画像及び/又は第2の画像を再配置して重複を回避する処理を実行し(重複解消処理)、ヘッドアップディスプレイ装置に対し、第1の画像と第2の画像の表示を指示する。したがって、表示変更処理により画像間に重複が生じると乗員は画像間の前後関係が把握しづらくなるが、例えば、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる重複解消処理を実行し画像間で上下方向の位置に差異を設けることで、乗員に対し画像間の前後関係をより理解しやすくした表示制御システムを提供することができる。
【0038】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態のヘッドアップディスプレイ装置の車両への適用例を示す図であり、
図1(a)は、乗員の高さ方向の目の位置と表示領域との関係を説明するために引用した図であり、
図1(b)は、車両前方に仮想的に設定される表示領域(虚像結像面)と画角との関係を説明するために引用した図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態のヘッドアップディスプレイ装置が適用される車両制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態のヘッドアップディスプレイ装置の断面構造を示す図であり、
図3(a)は、アイボックスが基準位置にある場合、
図3(b)は、反射部材である凹面鏡を
図3(a)の基準位置から反時計回りに回転させた場合を示す。
【
図4】
図4は本発明の実施形態のヘッドアップディスプレイ装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態のヘッドアップディスプレイ装置において、乗員の高さ方向の目の位置(標準位置)から見た場合の画像の見え方を示す図であり、
図5(a)は、その表示形態の一例を、
図5(b)は他の表示形態の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態のヘッドアップディスプレイ装置において、乗員の高さ方向の目の位置が変化した場合(標準位置から低くなった場合)の画像の見え方を示す図であり、
図6(a)は、その表示形態の一例を、
図6(b)は他の表示形態の一例をそれぞれ示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態のヘッドアップディスプレイ装置が「第1の制御」を行った結果、表示領域に配置された画像間で上下方向に重複が生じた場合の表示形態を示す図であり、
図7(a)は、その一例を、
図7(b)は、他の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態のヘッドアップディスプレイ装置が「第2の制御」を行った場合の表示形態の一例を示す図であり、
図8(a)は、
図7(a)に示した画像に対して「第2の制御」を行った場合、
図8(b)は、
図7(b)に示した画像に対して「第2の制御」を行った場合のそれぞれを示す。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態のヘッドアップディスプレイ装置が行う「第2の制御」において、第2の画像を下側に移動できない場合に表示領域の中心から左側に移動させる制御を行う場合の表示形態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態(以下、本実施形態という)によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0041】
以下に、本実施形態のヘッドアップディスプレイ装置が適用される車両制御システム1000を例示して添付図面に基づいて説明する。
【0042】
(実施形態の構成)
図1は、本実施形態のヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUD装置100という)の車両10への適用例を示す図であり、
図1(a)は、乗員14の高さ方向の目の位置と表示領域VAとの関係を説明するために引用した図であり、
図1(b)は、車両10の前方に仮想的に設定される表示領域VA(虚像結像面)と画角AVとの関係を説明するために引用した図である。
【0043】
図1(a)に示すように、HUD装置100による投影表示は、車両10のインストルメントパネル11内部に設けられたHUD装置100が投影する表示光Lを車両10のウインドシールド13で車両10の乗員14(車両10の運転席に着座したドライバ)の方向に反射させて画像(虚像V)を表示するものである。言い換えれば、HUD装置100は、表示部(後述する
図2の120)から発せられる表示光L(画像)を被投影部材であるウインドシールド13に投光し、この投光に応じて表示光L(画像)を乗員14に視認させるものである。これにより、乗員14は、画像(虚像V)を車両10の前方風景と重畳させて視認することができる。
【0044】
この場合、HUD装置100は、車両10が走行する路面に対して、画像(虚像V)が45°以下(0°~45°)に傾き、画像(虚像V)の上部が下部よりも乗員14から遠方側に傾斜したように見える表示光Lを投影している。これにより、乗員14は、車両10の前方側で主に路面に重ねて表示される画像(虚像V)を視認でき、その画像のコンテンツが示す種々の情報を得ることができる。
【0045】
ところで、HUD装置100には、画角AVが設定される。HUD装置100で画像(虚像V)を結像可能な空間中の仮想範囲を虚像結像面(表示領域VA)とすれば、画角AVは、乗員14のアイポイントEP(乗員の目と表示領域VAの外縁とを結ぶ仮想線に基づき規定される視野角であるアイボックスの中心)と表示領域VAの外縁とを結ぶ仮想線に基づき規定される視野角である。画角AVは、アイポイントEPから見て乗員14が画像(虚像V)を視認できる角度範囲になる。
【0046】
図1(b)に示すように、HUD装置100は、垂直方向における垂直画角(例えば、4~5°程度)よりも水平方向における水平画角(例えば、10~12°程度)の方が大きく設定されている。アイポイントEPから見たとき虚像結像面である表示領域VAと重なる前方範囲が画角AVの範囲になる。表示領域VAは、HUD装置100の後述する表示面120aに対応し(言い換えると、表示領域VAは後述する表示部120の表示面120aと共役関係となる)、そして、表示領域VAで視認される画像(虚像V)は、HUD装置100の表示面120aに投影され表示される画像に対応している。
【0047】
表示部120の表示面120aには表示領域VAが設定され、この表示領域VA内に画像(虚像V)が表示される。その画像(虚像V)は、車両10の前方の実景である交通標識や前方車両(図示省略)や走行車線等の前景オブジェクトの他に、前景オブジェクトに関連する情報である、制限車速情報や走行車線を模した線遠近法で描かれた仮想的なライン等の虚像を含む。なお、「線遠近法」は、手前側から奥側に遠ざかるにつれて視認対象が小さく見えるという遠近法を線画によって表現する図法であり、典型的には、平行線の収束を用いた透視図的な表現方法である。
図1(b)では、例えば、地平線(図示省略)に仮想的な消失点VPが設定され、手前側から奥側に延びる平行な線分は、原則的には無限遠点においては仮想的な消失点VPに集束するように描かれる。
【0048】
図1(b)において、表示部120の縦方向を垂直画角、横方向を水平画角とする。表示領域VAにおいて、画角AVの上端部Upと下端部Dnの間の領域を境界線(図中、一点鎖線)で2等分し、これによって区画される領域のうちの下側(乗員14から見て近方に感じられる側)を「手前側」とし、上側(乗員14から見て遠方に感じられる側)を「奥側」とすることができる。なお、境界線は例示であってこれに限定されるものではない。
【0049】
図2は、本実施形態のHUD装置100が適用される車両制御システム1000の構成例を示すブロック図である。
【0050】
図2に示すように、車両制御システム1000は、HUD装置100、車載センシング装置200、運転支援装置300、ナビゲーション装置400、そして、操作入力装置500、を含む。これらはいずれも車内LANであるCAN(Control Area Network)600経由で双方向に情報の伝達を可能にする。
【0051】
車載センシング装置200は、車両10の前方を含む周囲の走行環境を認識するために必要なセンサ類であり、カメラやLiDAR(Light Detection And Ranging)等を含む。また、車両10の挙動を検出するIMU(Inertial Measurement Unit)や車速センサ等も含む。車載センシング装置200により認識され、あるいは検出された情報は、運転支援装置300、ナビゲーション装置400、そして本実施形態のHUD装置100へCAN600経由で転送される。
【0052】
なお、カメラは、少なくとも車両10の前方視界(実景)を撮影し、LiDARは、近赤外光や可視光、紫外線を使用して、例えば、カメラにより撮影された車両10の前方に存在する障害物等に光を照射し、その反射光を光センサで捕捉し、その時間差によって障害物までの距離を判定する。IMUは、3軸の加速度センサと3軸の角速度センサ(ジャイロセンサ)を使用して車両の運転状況や姿勢を測定(加速度[m/s2]から3軸方向の並進運動を、角速度[deg/s]から回転運動を検知する)することができる。
【0053】
運転支援装置300は、視認者である乗員14の運転操作を支援する、LKAS(Lane Keeping Assist System:車線維持システム)、ACC(Adaptive Cruise Control System:車間距離制御装置)等のADAS(Advanced Driver-Assistance System)による運転支援機能、及びドライバの運転操作を代行可能な自動運転機能の少なくとも一方を備える。そして、運転支援装置300は、車載センシング装置200から取得された情報に基づき、車両10の前方の走行環境及び挙動を認識し、あるいは検出し、ここで得られる情報の解析結果にしたがい、車両10(図示省略した、駆動系、制動系、及び操舵系)を制御する他に、これら情報の解析結果をCAN600経由でHUD装置100、ナビゲーション装置400等に転送することができる。
【0054】
ナビゲーション装置400は、GPS(Global Positioning System)などの全地球衛星航法システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)やジャイロセンサを用い(GPS等センサ402)、情報処理部401が、地
図DB404から、あるいは車外との無線通信により地図情報を得て、車両10の周辺施設案内や経路案内等を行う。ナビゲーション装置400は、適切なタイミングでこれら案内情報に基づいて表示出力を促す信号をCAN600経由でHUD装置100へ転送する。
【0055】
情報処理部401は、車載センシング装置200、運転支援装置300、操作入力装置500、及びGPSやジャイロセンサ等内蔵するセンサ類(GPS等センサ402)から取得された自車両の位置情報に基づき、目的地や施設検索及び案内等の情報処理を行なう。そして、その情報処理の結果に基づき、例えば、自車両が曲がるべき交差点に迫っていることが検出された場合に、該当の交差点で右折あるいは左折することを示す矢印等の虚像Vを生成してHUD装置100に転送する。情報処理部401はまた、上述したアイボックスの位置を制御するために、後述するHUD装置100の反射部材である凹面鏡141(
図3(a)(b)参照)の回転を制御する駆動信号をCAN600経由で出力する。
【0056】
情報処理部401は、乗員14の操作入力により設定されるか又は検出される乗員14の高さ方向の目の位置に変更があった場合、HUD装置100に対して表示指令を出力する。そして、表示指令を受信したHUD装置100は、第1の画像又は第2の画像の表示位置又は表示態様を異ならせて表示領域VAに配置し、第1の画像と第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、第1の画像又は第2の画像を再配置して重複を回避する制御を行い、第1の画像と第2の画像の表示を行う。なお、HUD装置100は、乗員14の高さ方向の目の位置に変更があった場合、第1の画像及び第2の画像の表示位置又は表示態様を異ならせて表示領域VAに配置し、第1の画像と第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、第1の画像及び第2の画像を再配置して重複を回避する処理を実行して第1の画像と第2の画像を表示してもよい。
【0057】
ここで、車両10の前方に仮想的に設定される表示領域VAのうち、下側(乗員から見て手前側に感じられる側)を手前側とし、上側(乗員から見て奥側に感じられる側)を奥側とした場合、表示部120が投影して表示する「第1の画像」は、例えば、
図5(a)に表示形態の一例を示すように、手前側に表示される制限車速情報NIであり、第2の画像は、奥側に表示される制限車速情報FIである。また、「乗員の高さ方向の目の位置」は、例えば、乗員14により設定されるHUD装置100装置が持つ反射部材(凹面鏡141)の角度情報から判定することができ、あるいは車両10に備えられたカメラ(車載センシング装置200)を用いた撮影情報かを画像認識することにより判定することができる。
【0058】
また、「第1の制御」は、乗員14の高さ方向の目の位置に基づき、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置、及び/又は表示態様を異ならせて表示領域VAに配置するが、ここで、「表示位置を異ならせて表示する」は、例えば、乗員14の身長の高低等により乗員14の高さ方向の目の位置が変化した場合、その変化量に応じて第1の画像及び/又は第2の画像の位置を、表示部120の表示面120aと共役関係にある表示領域VAの奥側、あるいは手前側に移動させて配置する表示変更処制御を行なうことをいい、また、「表示態様を異ならせて表示する」は、例えば、第1の画像(あるいは第2の画像)を構成する文字や装飾等の表示要素の大きさ、数、輝度、色彩、鮮明度等を、第1の画像と第2の画像とで異ならせる表示変更制御を行うことをいう。
【0059】
また、「第2の制御」は、第1の制御により、第1の画像と第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、第1の画像又は第2の画像を再配置して重複を回避するが、ここで、「重複」とは、例えば、第1の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、表示領域VAにおける第1の領域(例えば、
図7(a)に示す表示形態の一例において、近方にある制限車速情報NIの上下方向の表示領域NA)と、第2の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、表示領域における第2の領域(遠方にある制限車速情報FIの上下方向の表示領域FA)の上下方向の少なくとも一部がオーバラップ(重複)する状況をいう。
【0060】
また、「再配置」とは、例えば、乗員14から見て奥側に視認させたい第1の画像を表示領域VAの上側に移動させるか、あるいは、乗員14から見て手前側に視認させたい第2の画像を表示領域VAの下側に移動させる重複解消制御を行うことをいう。但し、人間の視覚特性において、視認対象(第1の画像と第2の画像)に対して視認者(乗員14)からの距離が近いほど奥行き弁別能力が高いことが知られていることから、路面に対して傾斜した虚像結像面(表示領域VA)を生成するHUD装置100では、表示領域VAの上側より下側の方が乗員からの距離(表示距離)が近く、そのため、奥側に視認させたい画像である第1の画像を上側に移動させるより、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる方が乗員14に画像間の前後関係を把握させるうえで有利である。
【0061】
記憶部403は、プログラム領域とワーク領域が割り当てられた、例えば、スタテックRAMやダイナミックRAM、あるいはフラッシュメモリ等が実装されるメモリである。ここで、プログラム領域には、例えば、ナビゲーションに必要な、目的地や施設検索、案内等に必要な各種プログラムが書き込まれており、ワーク領域には、上述した各種プログラムが実行過程で生成する情報や、HUD装置100に表示すべき画像を含む表示情報等が割り当てられて一時的に書き込まれる。
【0062】
なお、ナビゲーション装置400は、地図データベース(地
図DB404)を有する。地
図DB404は、例えば、図示省略したV2X(Vehicle to X)タイプの通信系を介した外部センタ(図示省略)との通信等により最新の地図情報を取得して記憶することができる。ここで、地
図DB404に記憶される地図情報は、車両10の走行環境を表すようにデータ化されたマッピングデータである。マッピングデータとして、特に高精度なダイナミックマップのディジタルデータであることが好ましい。「ダイナミックマップ」とは、交通規制や工事情報、事故や渋滞、歩行者や信号情報等、刻々と変わる膨大な動的情報と、高精度3次元位置情報(路面情報、斜線情報、3次元構造物)等の静的情報を組み合わせたディジタル地図である。
【0063】
操作入力装置500は、例えば、ステアリングホイール(ステアリングハンドル)の近傍に設けられているスイッチ類である。操作入力装置500は、視認者である乗員14がこれらスイッチ類を操作することにより、HUD装置100のON/OFF切り替え、LKAS、ACC等、ADASを実行する運転支援装置300の実行機能選択、エアコンの風量設定を行い、更には、HUD装置100の駆動部110(
図3(a)(b)参照)による反射部材(凹面鏡141)の回転動作を指示する設定情報(アイボックスの位置)等を設定することができる。
【0064】
HUD装置100は、駆動部110と、表示部120と、制御部160と、を含む。
【0065】
駆動部110は、反射部材である凹面鏡141(
図3(a)(b)参照)に接続され、制御部160により生成される制御信号に基づいて凹面鏡141を所定の角度位置まで回転させることができる。HUD装置100における凹面鏡141の回転位置は、いくつかのステップがあり、その範囲内で調整することができる。凹面鏡141は、その回転駆動のためにステッピングモータを用い、操作入力装置500の操作により設定されるアイボックスの位置(設定情報)に対応して所定のステップ数だけ回転させることができる。
【0066】
駆動部110は、凹面鏡141の角度固定位置を、ステッピングモータ用いた回転駆動機構によって制御するものとし、このため、凹面鏡141に設定される角度範囲として、基準位置を中心に、時計回り方向と反時計回り方向にそれぞれ所定のステップ数だけ設定することができる。
【0067】
表示部120は、配線基板に実装された発光ダイオードからなる光源121と、この光源121からの照明光を透過して表示光Lを形成するように光源121の出射側(真上)に位置するTFT(Thin Film Transistor Liquid Crystal)型の液晶表示素子122とから主に構成される。このことは、液晶表示素子122の背後に光源121が設けられ、液晶表示素子122は、光源121から発せられる光により所定の画像を表示することを意味している。
【0068】
また、表示部120は、光軸に対して斜めに配置された表示面120a(
図3(a)(b)参照)を有し、可視波長域の光からなる表示光Lを出力するもので、例えば、白色光を発する光源121を適用でき、この光源121から発する光を液晶表示素子122が透過することで所望の画像を含む表示光Lを出力する。液晶表示素子122は、制御部160による描画演算によって生成された表示画像データ(駆動信号)に基づいて所望の画像を形成する。
【0069】
制御部160は、運転支援装置300、あるいはナビゲーション装置400から転送される車両情報等に基づいて表示すべき画像、例えば、走行車線WL等の案内画像だけでなく、車両10の速度やエネルギー残量、時刻、経路案内画像等を、数値やアイコン等の画像データを用いて表示部120(液晶表示素子122)に表示させることができる。なお、表示するべき画像は、車両の速度やエネルギー残量などの車両情報に限らず、あらゆる表示形態を採用できる。
【0070】
制御部160は、例えば、ナビゲーション装置400の情報処理部401、あるいは運転支援装置300により生成され、転送される画像情報に基づき、視認者である乗員14に視認されるように表示を促す駆動信号を液晶表示素子122に出力する。また、制御部160は、液晶表示素子122を透過照明する光源121にも接続されており、駆動信号を出力することにより、点灯、消灯、あるいは輝度調整等を行うことができる。
【0071】
制御部160は、例えば、視認者である乗員14が、操作入力装置500を操作することにより取得されるアイボックスの位置に関する設定情報にしたがい、視認させる画像(虚像)の表示位置を制御することができる。具体的に、アイボックスの位置に関する設定情報にしたがい、駆動部110によって調整される反射部材(凹面鏡141)の角度を回転調整する。そして、その角度が基準位置と異なる場合、調整された角度に応じて虚像V(画像)の表示領域VAへの表示位置を変更する制御を行う。
【0072】
ここで、「基準位置」とは、アイボックスが基準位置にある場合の凹面鏡141の角度位置をいう。凹面鏡141は駆動部110に接続されており、駆動部110は、制御部160による制御の下で、乗員14により設定されるか、又は検出される乗員14の高さ方向の目の位置により、凹面鏡141を所定の角度範囲内で回転させることができ、このことにより表示光Lのウインドシールド13内における到達地点を変えることができる。すなわち、アイボックスの位置(乗員の高さ方向の目の位置)の変化に伴い、画像が配置される表示領域VA内の位置を変化させることができる。
【0073】
制御部160は、乗員14から見て第1の画像を第2の画像よりも奥側に配置して表示部120に表示する制御を行う。このとき、制御部160は、乗員14の高さ方向の目の位置に基づき、第1の画像又は第2の画像の表示位置又は表示態様を異ならせて表示領域VAに配置する「第1の制御」を行い、第1の制御により第1の画像と第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、第1の画像又は第2の画像を再配置して重複を回避する「第2の制御」を行うことができる。なお、制御部160は、乗員の高さ方向の目の位置に基づき、第1の画像及び第2の画像の表示位置又は表示態様を異ならせて表示領域VAに配置する「第1の制御」を行い、第1の制御により第1の画像と第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、第1の画像及び第2の画像を再配置して重複を回避する「第2の制御」を行なってもよい。
【0074】
ここで、車両10の前方に仮想的に設定される表示領域VAのうち、下側(乗員から見て手前側に感じられる側)を手前側とし、上側(乗員から見て奥側に感じられる側)を奥側とした場合、表示部120が投影して表示する「第1の画像」は、例えば、
図5(a)に表示形態の一例を示すように、手前側に表示される制限車速情報NIであり、第2の画像は、奥側に表示される制限車速情報FIである。また、「乗員の高さ方向の目の位置」は、例えば、乗員14により設定されるHUD装置100が持つ反射部材(凹面鏡141)の角度情報から、あるいは車両10に備えられたカメラ(車載センシング装置200)を用いた撮影情報から判定することができる。
【0075】
また、「第1の制御」は、乗員14の高さ方向の目の位置に基づき、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置及び/又は表示態様を異ならせて表示領域に配置するが、ここで、「表示位置を異ならせて表示する」とは、例えば、乗員14の身長の高低等により乗員の高さ方向の目の位置が変化した場合、その変化量に応じて第1の画像及び/又は第2の画像の位置を、表示部120の表示面120aと共役関係にある表示領域VAの奥側あるいは手前側に移動させて配置する表示変更処制御を行なうことをいい、また、「表示態様を異ならせて表示する」とは、例えば、第1の画像及び第2の画像を構成する文字や装飾等の表示要素の大きさ、数、輝度、色彩、鮮明度等を、第1の画像と第2の画像とで異ならせて表示する表示変更制御を行うことをいう。
【0076】
また、「第2の制御」は、第1の制御により、第1の画像と第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合、第1の画像又は第2の画像を再配置して重複を回避するが、ここで、「重複」とは、例えば、第1の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、表示領域における第1の領域(例えば、
図7(a)に示す表示形態の一例において、近方にある制限車速情報NIの上下方向の表示領域NA)と、第2の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、表示領域における第2の領域(遠方にある制限車速情報FIの上下方向の表示領域FA)の上下方向の少なくとも一部がオーバラップ(重複)する状況をいう。
【0077】
また、「再配置」とは、例えば、乗員14から見て奥側に視認させたい第1の画像を表示領域VAの上側に移動させるか、あるいは、乗員14から見て手前側に視認させたい第2の画像を表示領域VAの下側に移動させる重複解消制御を行うことをいう。但し、人間の視覚特性において、視認対象(第1の画像と第2の画像)に対して視認者(乗員14)からの距離が近いほど奥行き弁別能力が高いことが知られていることから、路面に対して傾斜した虚像結像面(表示領域VA)を生成するHUD装置100では、表示領域VAの上側より下側の方が乗員からの距離(表示距離)が近く、そのため、奥側に視認させたい画像である第1の画像を上側に移動させるより、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる方が乗員14に画像間の前後関係を把握させるうえで有利である。
【0078】
制御部160は、第1の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、表示領域VAにおける第1の領域(例えば、
図7(a)に示す表示形態の一例において、近方にある制限車速情報NIの上下方向の表示領域NA)と、第2の画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた、表示領域VAにおける第2の領域(遠方にある制限車速情報FIの上下方向の表示領域FA)との間で重複が生じる場合に、「第2の制御」を行なうことができる。
【0079】
制御部160は、第1の画像及び第2の画像が、車両10の前方の前景に関連する画像である場合に、第1の制御と第2の制御を行なうことができる。
【0080】
制御部160は、表示領域VAの内側又は外側に、例えば、
図5(a)に示す線遠近法における仮想的な消失点VPを設定する。そして、この仮想的な消失点VPを通る前景の走行車線WLを模した仮想的なラインVLに沿って第1の画像(NI)及び第2の画像(FI)が配置されているように乗員14が視認できる所定の範囲(例えば、8°以上66°未満)に、第1の画像(NI)及び第2の画像(FI)を表示する場合に、「第1の制御」及び「第2の制御」を行なうことができる。
【0081】
ここで、「仮想的な消失点VP」は、例えば、線遠近法で本来平行である2以上の線を平行でなく描くときの、それが交わる地点であって、視認者である乗員14が奥側を見通すように見ているときの視線方向をいう。また、「所定の範囲」は、乗員14が各画像(第1の画像と第2の画像)を路面に沿うように配置されているように視認できるか否かの閾値を基に決定される値であり、試験やシミュレーションによって得られる値である。例えば、
図5(a)に表示形態の一例が示されているように、走行車線WLを模した仮想的なラインVLの傾きは35°であり、第1、第2の画像としての2つの制限車速情報(NI,FI)も傾きが35°になるように配置されている。しかしながら、2つの画像(制限車速情報NI,FI)が垂直になるような配置、すなわち傾きが90°になるように2つの制限車速情報(NI,FI)を配置した場合、乗員14は各画像が路面に沿って配置されているようには視認できない。したがって、「所定の範囲」はこのような配置を行えないような値である、例えば、8°以上66°未満が範囲として設定される。
【0082】
制御部160は、「第2の制御」において、第2の画像を、乗員14から見て表示領域VAの下側に移動させる制御を行うことにより重複を回避することができる。これは、人間の視覚特性において、視認対象(第1の画像、第2の画像)に対して視認者(乗員)からの距離が近いほど奥行き弁別能力が高いことが知られていることから、路面に対して傾斜した虚像結像面(表示領域VA)を生成するHUD装置100では、表示領域VAの上側より下側の方が乗員からの距離(表示距離)が近く、そのため、奥側に視認させたい画像である第1の画像を上側に移動させるより、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる方が乗員14に画像間の前後関係を把握させるうえで有利である。
【0083】
また、制御部160は、「第1の制御」により第2の画像が表示領域VAの下部領域に配置され、「第2の制御」により第2の画像を下部領域の下側に移動させても重複が回避できない場合、第2の画像を表示領域VAの中心位置から遠ざかるように乗員14から見て表示領域VAの左側又は右側に移動させる制御を行うことができる。ここで、「下部領域」とは、例えば、
図1(b)に示すように、表示領域VAを境界線(図中、一点鎖線)で2等分して区画される下側に位置する領域をいう。
【0084】
また、制御部160は、「第2の制御」において、第2の画像を、表示領域VAの内側又は外側に設定される線遠近法における仮想的な消失点VPを通る走行車線WLを模した仮想的なラインVLに沿って配置されているように乗員14が視認できる所定の範囲(例えば、8°以上66°未満)で下側に移動させる、又は表示領域VAの中心位置から遠ざかるように左側又は右側に移動させる制御を行うことができる。
【0085】
また、制御部160は、仮想的なラインVLに沿って配置されているように乗員14が視認できる所定の範囲(例えば、8°以上66°未満)内で下側に移動させる、及び表示領域VAの中心位置から遠ざかるように左側又は右側に移動させる制御を行なってもよい。例えば、上下方向の表示領域VAが小さい等HUD装置100の表示領域VAの制約上、第2の画像を下側に移動できない場合があり、そのような場合、制御部160は、第2の画像を、表示領域VAの中心位置から遠ざかるように左側又は右側に移動させることにより、第1の画像と第2の画像との表示位置の間に差を設けることができる。
【0086】
また、制御部160は、乗員14の高さ方向の目の位置が所定の基準位置よりも下に位置する場合に「第1の制御」と「第2の制御」を行い、所定の基準位置よりも上に位置する場合に「第1の制御」を行なうことができる。
【0087】
ここで、「所定の基準位置」とは、アイボックスが基準位置にある場合の凹面鏡141の角度位置をいう。凹面鏡141は駆動部110と接続されており、駆動部110は、制御部160による制御の下で、乗員14により設定されるか、又は検出される乗員14の高さ方向の目の位置により、凹面鏡141を所定の角度範囲内で回転させることができ、このことにより表示光のウインドシールド内における到達地点を変えることができる。すなわち、アイボックスの位置(乗員の高さ方向の目の位置)の変化に伴い、画像(虚像)が配置される表示領域内の位置を変化させることができる。このため、制御部160は、所定の基準位置と比較してアイボックスの位置が下がる比較的背の低い乗員と、基準位置と比較してアイボックスの位置か上がる比較的背の高い乗員のどちらに対しても第1の制御を実行するが、第1の制御を行った結果として画像間の重複が生じるのはアイボックスの位置か下がる比較的背の低い乗員であるため、比較的背が低い乗員に対してのみ第2の制御を実行して画像間の重複を回避する。
【0088】
また、制御部160は、表示領域VAの車両10に近い側の端部を下端部(画角のDn)とし、遠い側の端部を上端部(画角のUp)とした場合、乗員14に上端部が下端部よりも奥側となって傾斜して視認されるように表示する制御を行なうことができる。制御部160は、上端部が下端部よりも奥側となる、傾斜した虚像結像面である表示領域VAを用いて、奥行き方向(車両の前後方向)における表現力を高めた表示を行うことができ、より自然で遠近感のある画像の視認性を実現することができる。
【0089】
図3に、本実施形態のHUD装置100の内部構造が略断面図で示されており、
図3(a)は、アイボックスが基準位置にある場合、
図3(b)は、反射部材である凹面鏡を
図3(a)の基準位置から反時計回りに回転させた場合の断面構造が示されている。
【0090】
図3(a)(b)によれば、HUD装置100は、表示部120と、第1反射器130と、第2反射器140と、ハウジング150とから主に構成されている。
【0091】
表示部120は、表示面120aを有し、可視波長域の光からなる表示光Lを出力するもので、例えば、白色光を発する光源121を適用でき、この光源121から発する光を液晶表示素子122が透過することで所望の画像を含む表示光Lを出力する。液晶表示素子122は、制御部160による描画演算によって生成された表示画像データ(駆動信号)に基づいて所望の画像を形成する。
【0092】
第1反射器130は、コールドミラー131を備えている。なお、コールドミラー131は、表示部120の発光波長域を含む可視波長域(450~750nm)の光を、例えば、80%以上の高い反射率で反射し、可視波長域以外の光を低い反射率で反射するものである。この場合、コールドミラー131は、可視波長域以外の、特に赤外波長域の光(太陽光等の外光の熱線)を、例えば15%以下の低い反射率で反射するものが適用される。なお、コールドミラー131の反射層で反射されない光は、コールドミラー131を透過するように構成される。コールドミラー131により、液晶表示素子122が太陽光等によって熱せられて高温化してしまうことを抑止できる。
【0093】
第2反射器140は、コールドミラー131(つまり、液晶表示素子122)からの表示光Lを反射させる反射部材である凹面鏡141と、凹面鏡141を保持するミラーホルダ142とを備えている。
【0094】
凹面鏡141は、凹面を有するポリカーボネートからなる樹脂基板に第2の反射層141aを蒸着形成している。凹面鏡141は、その第2の反射層141aがコールドミラー131ならびに透光性カバー153に対向し、透光性カバー153から臨める位置に傾斜して設けられる。
【0095】
凹面鏡141は、コールドミラー131からの表示光Lを拡大しつつ、透光性カバー153(車両10のウインドシールド13)側へ反射(投射)させるものである。このことは、凹面鏡141が、コールドミラー131によって反射された表示光Lを拡大し、この拡大された表示光Lを、透光性カバー153を通じてウインドシールド13に投射することを意味している。なお、凹面鏡141は、ミラーホルダ142に両面粘着部材により接着されている。ミラーホルダ142は、例えばABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)等の合成樹脂からなるものであり、ハウジング150に固定される。
【0096】
凹面鏡141は、駆動部110に接続されており、状況に応じて所定の角度範囲内で回転させることができる。このことにより、表示光(L)のウインドシールド13内での到達地点を変えることができる。すなわち、HUD装置100のアイボックスの位置が変化する。このことから、視認者である乗員14が画像を視認できるための高さ方向の目の位置、及び画像が表示される表示領域VA内の表示位置を変化させることができる。
【0097】
ここで、アイボックスの位置が下がるほど、画像(虚像V)の表示領域VA内における表示位置は高くなる。これは、視認者である乗員14の高さ方向の目の位置を基準にした路面に平行な直線と、乗員14の目と画像(虚像V)とを結ぶ直線との2つの直線のなす角度である俯角が小さくなる方向に変化することを意味する。一方、アイボックスの位置が上がるほど、画像の表示領域VA内における表示位置が低くなる。これは視認者である乗員14の高さ方向の目の位置を基準にした路面に平行な直線と、乗員14の目と画像(虚像V)とを結ぶ直線の2つの直線のなす角度である俯角が大きくなる方向に変化することを意味する。
【0098】
言い換えれば、
図3(a)に示す基準位置にある凹面鏡141が、時計回りに回転すると、
図3(b)に示すようにアイボックスの位置が低くなり、逆に反時計回りに回転すると、アイボックスの位置が高くなる。なお、俯角は、アイボックスの位置により所定の計算式で一意に決まるため、アイボックスの位置で画像の表示位置を算出することと、俯角によって画像の表示領域VAにおける表示位置を算出することとは等価である。
【0099】
ハウジング150は、例えば、黒色の遮光性合成樹脂材料からなり、略箱型形状に形成され、その内部空間である空間部151に表示部120、第1反射器130、第2反射器140からなる投影部を保持して収容するものであり、第2反射器140における凹面鏡141の上部(ウインドシールド13側)が開口する開口窓部152を備えている。
【0100】
また、ハウジング150には、開口窓部152を塞ぐように出射部である透光性カバー153が設けられている。この透光性カバー153は、透光性の合成樹脂材料(例えばアクリル樹脂)を使用しており、湾曲形状(曲面形状)に形成され、凹面鏡141で反射された表示光Lが透過(通過)する光透過性部材としての機能を有している。つまり、コールドミラー131ならびに凹面鏡141によって反射された表示光L、すなわち、投影部によって出力される表示光Lは、ハウジング150に形成された透光性カバー153を通じてウインドシールド13に投影され、これにより画像の表示が行なわれることになる。
【0101】
なお、HUD装置100は、ウインドシールド13の下部側に表示光L(画像)を投影出力する。このため、視認者である乗員14側からは、ウインドシールド13の下部領域から車両10の前景オブジェクトと重畳して画像を見ることができる。したがって、視認者である乗員14は、主に、車両10の近傍の路面に画像が表示されて見えることになる。また、HUD装置100の投影部の構成により、出力される画像の上部が下部よりも車両10から奥側になるように傾斜して見える画像を出力することになる。
【0102】
(実施形態の動作)
図4は、本実施形態のHUD装置100の動作を示すフローチャートである。又、
図5~
図9は、本実施形態のHUD装置100において、車両10の前方に仮想的に設定される表示領域VAに1以上の画像(NI,FI,VL等)を、車両10の前方の実風景である前景(FS,CF等)に重畳して投影表示した場合の表示形態の一例を示した図である。具体的に、
図5(a)は、乗員14の高さ方向の目の位置(標準位置)から見た場合の画像の見え方(表示形態)の一例を示し、
図5(b)は、他の表示形態の一例を示している。また、
図6(a)は、乗員14の高さ方向の目の位置が変化した(標準位置より低くなった)場合の画像の見え方(表示形態)の一例を示し、
図6(b)は他の表示形態の一例を示している。
【0103】
また、
図7(a)は、本実施形態のHUD装置100が表示変更制御(「第1の制御」)を行った結果、表示領域VAに配置された画像間で上下方向に重複が生じた場合の表示形態の一例を示し、
図7(b)は、他の表示形態の一例を示す。また、
図8(a)は、本実施形態のHUD装置100が
図7(a)に示した画像に対して重複解消制御(「第2の制御」)を行った場合の表示形態の一例を示し、
図8(b)は、
図7(b)に示した画像に対して重複解消制御(「第2の制御」)を行った場合の表示形態の一例を示す。また、
図9は、本実施形態のHUD装置100が行う重複解消制御(「第2の制御」)において、第2の画像を下側に移動できない場合に表示領域VAの中心から左側に移動させる制御を行う場合の表示形態の一例を示す。
【0104】
以下、
図4~
図9を参照しながら、
図2に示す本実施形態のHUD装置100の動作について説明する。
【0105】
まず、ナビゲーション装置400の情報処理部401は、本実施形態のHUD装置100に表示する画像を生成し(ステップS101)、HUD装置100に対して生成した画像と共に表示指令を出力する。ここで、生成される画像は、例えば、車両10の前方の実風景である前景オブジェクト(例えば、
図5(a)の制限車速標識NS,FSや、
図5(b)の前方車両CF等)に関する情報、すなわち、制限車速情報(例えば、
図5(a)のNI,FI)や前方車追従情報(例えば、
図5(b)のCI)、あるいはナビゲーション情報を含む画像である。
【0106】
なお、制限車速情報NI,FIや、前方車両追従情報CIは、運転支援装置300により生成されてもよい。ナビゲーション情報は、ナビゲーション装置400(情報処理部401)で生成される周辺施設案内や経路案内を含んだ情報である。その他、車速、エンジン回転数、ガソリン残量、各種警告等の車両情報、あるいは時刻、外気温等の一般情報も画像(虚像V)として生成され、本実施形態のHUD装置100に表示される。
【0107】
図5は、本実施形態のHUD装置100において、乗員14の高さ方向の目の位置(標準位置)から見た場合の画像の見え方を示した図であり、
図5(a)は、近方の制限車速情報NIと遠方の制限車速情報FI)を画像(虚像V)として生成し、HUD装置100の表示領域VAに表示する表示形態の一例を示した例である。車両10は、初めに40km/hの制限車速標識NSが適用される道路を走行し、その後、60km/hの制限車速標識FSが適用される道路を走行する。そのため、2つの制限車速情報NI,FIの画像が路面に沿って配置され、且つ画像間の前後関係が理解できるようにそれら画像を表示することが望ましい。
【0108】
図5(a)に示す表示形態の一例によれば、表示領域VAの内側に線遠近法における仮想的な消失点VPを設定し、この仮想的な消失点VPに向かう走行車線WLを模した仮想的なラインVL上に2つの制限車速情報NI,FIを配置している。ここで、仮想的な消失点VPは、仮想的な消失点VPに向かう仮想的なラインVLが、現実世界の走行車線WL(白線画像)の中央を通る仮想的なラインALと同じ傾き(立ち上がり角度)になるよう設定している。これにより、乗員14は、各画像(制限車速情報NI,FI)が路面に沿うように配置されているように視認することができる。
【0109】
なお、各画像は、仮想的なラインVL上からずれた位置に配置してもよいが、仮想的なラインVLから大きくずれると、各画像と路面との関連性が低いように感じられ、各画像が路面に沿っていないように視認される可能性がある。そのため、各画像を仮想的なラインVLから所定の範囲内に配置する必要がある。
【0110】
ここで、「所定の範囲」は、乗員14が各画像を路面に沿うように配置されているように視認できるか否かの閾値を基に決定され、試験やシミュレーション等により設定される値である。例えば、
図5(a)における仮想的なラインVL,ALの傾きは35°であり、2つの制限車速情報NI,FIも傾きが35°となるように配置されているが、2つの画像(制限車速情報NIとFI)が垂直となるような配置、すなわち傾きが90°となるような配置を行った場合、乗員14が各画像を路面に沿うように配置されているように視認できない。したがって、所定の範囲は、このような配置を行えないような値を設定すべきであり、ここでは、8°以上66°未満が所定の範囲として設定される。
【0111】
同様の理由で、2つの仮想的なラインVL,ALは、異なる角度にしてもよいが、2つの仮想的なラインVL,ALの傾きの差を所定の値以下にする必要がある。なお、仮想的な消失点VPは、HUD装置100の表示領域VAの外側に設定してもよい。更に、走行車線WL(白線画像)を模した仮想的なラインVLを仮想的な消失点VPに向かうよう生成し、各画像を仮想的なラインVLに沿うよう配置して表示する表現方法を用いてもよい。このような表現方法を用いることにより、乗員14は各画像がより路面に沿うように配置されているように視認できる。
【0112】
また、
図5(a)では、近方の制限車速情報NIを下側に(乗員14から見て手前側に)、遠方の制限車速情報FIを上側(乗員14から見て奥側に)、それぞれに配置している。人間の視覚特性において、視認者(乗員14)から見て上側にある視認対象は遠方に、下側にある視認対象は近方に、それぞれ存在するように視認されることが知られている。そのため、乗員14は、近方の制限車速情報NIが手前側に、遠方の制限車速情報FIが奥側に表示されるように視認でき、各画像間の前後関係の理解を容易にしている。更に、HUD装置100は、傾斜した表示領域VAを生成するため、表示領域VAの上下位置によっては表示距離が変化する。そのため、画像間で上下方向の位置に差を設けることで画像間の前後関係がより理解しやすくなる。
【0113】
図5(b)は、画像(虚像V)として前方車両追従情報CIと制限車速情報LIを生成し、表示領域VAに投影表示した場合の表示形態の一例である。これらの画像は、前景オブジェクトに関する情報であるため、表示された画像(虚像V)が前景オブジェクトの関連情報であることを視認者である乗員14が理解できるように、且つ画像間の前後関係が理解できるようにこれら画像を表示することが望ましい。このため、
図5(b)に示す表示形態によれば、前方車両追従情報CIを前方車両CFの近傍に、制限車速情報LIを制限車速標識LSの近傍に、それぞれ配置して表示している。これにより、乗員14は、各画像がそれぞれの前景オブジェクトに関する情報であることを理解することができる。
【0114】
また、
図5(b)に示す表示形態によれば、制限車速情報LIは下側に、前方車両追従情報CIは上側に配置されている。そのため、乗員14は、制限車速情報LIが表示領域VAの手前側、前方車両追従情報CIが表示領域VAの奥側に表示されるように視認でき、各画像間の前後関係の理解を高めている。なお、
図5(a)と
図5(b)に示す表示形態の一例は、乗員14の高さ方向の目の位置が標準的な場合、すなわち標準的な身長を有する乗員14による画像の見え方を示しものである。
【0115】
ナビゲーション装置400(情報処理部401)から表示指令を受信した本実施形態のHUD装置100(制御部160)は、乗員14の高さ方向の目の位置が所定値以下であるか否かを判定する(ステップS102)。ここで、乗員14の高さ方向の目の位置が所定値以下であれば(ステップS102“YES”)、制御部160は、表示変更制御(「第1の制御」)を行い、乗員14の高さ方向の目の位置が所定値以下でなければ(ステップS102“NO”)、画像表示制御(ステップS106)に遷移する。乗員14の高さ方向の目の位置は、操作入力装置500を操作することにより設定される、HUD装置100の反射部材である凹面鏡141の角度情報から判定するか、あるいは、車両10に備えらえたカメラ(車載センシング装置200)から取得される撮影情報を画像認識して得られる情報から判定される。
【0116】
ここで、制御部160が表示変更制御(ステップS103)を行うにあたり、乗員14の高さ方向の目の位置が、その標準位置に比べて低い場合、乗員14から見た画像の見え方が、
図5(a)、
図5(b)に示した表示形態から変化する。ここで、
図6(a)は、
図5(a)よりも低い視点からの画像の見え方を示している。
【0117】
図6(a)に示す表示形態の一例によれば、近方の制限車速情報NIと遠方の制限車速情報FIの画像を配置するための仮想的なラインVLと、車両10の前景である現実世界の走行車線WL(白線画像)の中央を通る仮想的なラインALの傾きが異なっている。上述したように、各画像(近方の制限車速情報NIと遠方の制限車速情報FI)の傾きの差が大きくなると、各画像が路面に沿っていないように視認される可能性がある。そのため、表示変更制御(ステップS103)において、制御部160は、例えば、
図7(a)にその表示形態の一例を示すように、画像(虚像V)を配置するための仮想的なラインVLと、現実世界の走行車線WL(白線画像)の中央を通る仮想的なラインALとが同じ傾きになるように、仮想的な消失点VPの位置を変更し、且つ、仮想的なラインVLを通るように近方の制限車速情報NIと遠方の制限車速情報FIの画像(虚像V)の表示位置を変更する。
【0118】
ここで、画像(虚像V)の表示位置を変更するのではなく、画像(虚像V)の表示態様を変更して(異ならせて)違和感を低減してもよい。表示態様を変更する場合、制御部160は、例えば、近方の制限車速情報NIと遠方の制限車速情報FIを構成する文字や装飾等の表示要素の大きさ、数、輝度、色彩、鮮明度等を、第1の画像と第2の画像とで異ならせることが考えられる。例えば、手前側に表示される近方の制限車速情報NIの鮮明度を高め、遠方の制限車速情報FIの鮮明度を低くして表示することにより遠近感を強調することによって違和感を低減することができる。
【0119】
また、制御部160は、仮想的なラインVLから所定の範囲(例えば、8°以上66°未満)内に各画像(虚像)を配置すること、及び2つの仮想的なラインVL,ALの傾きの差を所定の値以下にすること、にしたがった上で、
図6(a)の表示形態とは異なる制限車速情報NI,FIの画像位置、及び仮想的なラインVLの傾きを設定してもよい。例えば、
図7(a)に示す表示形態によれば、近方の制限車速情報NIの画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた領域(第1の領域NA)と、遠方の制限車速情報FIの画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた領域(第2の領域FA)が重複しており、画像の上下方向に重複がある状態である。
【0120】
図6(b)は、
図5(b)に示す表示形態よりも低い視点からの画像の見え方を示している。
図6(b)に示すように、前方車両追従情報CIが前方車両と重複している。すなわち、
図5(b)に示した表示形態とは異なる見え方になり、乗員14に違和感を与える可能性がある。そのため、表示変更制御(「第1の制御)」において、制御部160は、
図7(b)に示すように、前方車追従情報(CI)が乗員から見て前方車の下側に位置するように、前方車追従情報(CI)の画像表示位置を変更する。なお、画像の表示位置を変更するのではなく、画像の表示態様を異ならせて違和感を低減してもよい。
図7(b)に示す表示形態によれば、前方車両追従情報CIの画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた領域(第1の領域CA)と、制限車速情報LIの画像の上端と下端をそれぞれ通る2つの水平方向の線分に囲まれた領域(第2の領域LA)が重複しており、画像の上下方向に重複がある状態である。
【0121】
このため、制御部160は、画像(虚像V)の上下方向に重複があるかを判定する(ステップS104)。ここで、画像(虚像V)の上下方向に重複がある場合(ステップS104“YES”)、制御部160は、各画像(虚像V)の重複解消制御を行い(ステップS105)、重複がない場合(ステップS104“NO”)は、画像表示制御(ステップS106)に遷移する。ステップS103の「表示変更制御」を行った結果、例えば、
図7(a)、
図7(b)の表示形態に示すように、いずれも画像の上下方に重複が生じている。上述したように、乗員14から見て上側にある視認対象(遠方の制限車速情報FI、前方車両追従情報CI)は奥側に、下側にある視認対象(近方の制限車速情報NI,制限車速情報LI)は手前側にそれぞれ存在するように視認されるため、画像(虚像V)の上下方向に重複がある場合は各画像の前後関係が理解しづらくなる。また、傾斜した表示領域VAにおいては、画像の上下方向の位置が同じか又は重複している場合には、画像間の表示距離の差が無くなるか又は小さくなるため、画像間の前後関係が理解しづらくなる。
【0122】
このため、制御部160は、重複解消制御(第2の制御)を行う(ステップS105)。ここで行われる重複解消制御は、画像間に重複があった場合に、重複を解消するために行う制御である。
図7(a)に示す表示形態に対して重複解消制御が行なわれた場合の表示形態の一例を
図8(a)に示す。
【0123】
図7(a)において、近方の制限車速情報NIと遠方の制限車速情報FIの画像は、仮想的な消失点VPに向かう仮想的なラインVL上に配置されている。この仮想的なラインVLから画像(虚像V)が離れると、乗員14に違和感を与える可能性がある。そのため、
図8(a)に示す例では、制御部160が、仮想的なラインVLに沿って、近方の制限車速情報NIの画像を下側に、且つ左側に移動させている。人間の視覚特性において、視認者(乗員14)からの距離が近いほど、奥行き弁別能力が高いことが知られている。傾斜した表示領域VAを用いるHUD装置100では、表示領域VAの上側よりも下側の方が乗員14からの距離(表示距離)が近い。そのため、奥側に視認させたい画像(虚像V)、すなわち遠方の制限車速情報FIを上側に移動させるよりも、手前に視認させたい画像、すなわち近方の制限車速情報NIを下側に移動させる方が、画像間の前後関係の把握には有効である。なお、仮想的なラインVLから所定の範囲(例えば、8°以上66°未満)内に各画像を配置することにしたがった上で、
図7(a)とは異なる制限車速情報NI,FIの画像位置を設定してもよい。
【0124】
図7(b)に示す表示形態の画像(虚像V)に対して重複解消制御が実施された場合の表示形態の一例を
図8(b)に示す。
図8(b)によれば、制御部160は、手前側に視認させたい画像、すなわち制限車速情報LIの画像を下側に移動させる制御を行うことで、画像間の重複を解消することができる。ここでは、奥側に視認させたい画像、すなわち前方車両追従情報CIを上側に移動させるのではなく、手前側に視認させたい画像、すなわち制限車速情報LIを下側に移動させる理由は、
図8(a)に示す表示形態の場合と同様である。
【0125】
なお、上下方向の表示領域VAが小さい場合等、画像を下側に移動できない場合がある。そのような場合、制御部160は、例えば、
図9に示す表示形態のように、制限車速情報LIを表示領域VAの中心から遠ざけるように、結果として前方車両追従情報CIから遠ざかるように左側に移動させる制御を行う。その結果、画像間の上下方向の重複は解消されないが、左右方向の位置の差を広げることで、乗員14は、表示される各画像(虚像V)の前後関係が把握しやすくなる。
【0126】
続いて制御部160は、これら画像の表示タイミングを待って、内蔵のVRAM領域(図示省略)からナビゲーション装置400(情報処理部401)や運転支援装置300により生成されたこれら画像を読み取って表示部120に出力する画像表示制御を行う(ステップS106)。最後に、表示部120は、光源121からの照明光を透過して表示光Lを形成し所望む画像(虚像V)を投影表示する。
【0127】
(変形例)
上述した本実施形態のHUD装置100によれば、ナビゲーション装置400の情報処理部401が、操作入力装置500を介して乗員14によって設定されるアイボックスの位置に関する設定情報を取込んでHUD装置100に対して表示指令を発行し、これを受けたHUD装置100が、乗員14の高さ方向の目の位置が所定値以下である場合に、第1の制御(表示変更制御)を行い、第1の制御により画像間の上下方向に重複が生じた場合、第2の制御(重複解消制御)によって画像間で上下方向の位置に差異を設け、画像間の前後関係を理解しやすくする構成としたが、操作入力の取り込みと画像を生成する機能は、ナビゲーション装置400(情報処理部401)に限らず、運転支援装置300で代替してもよく、また、ナビゲーション装置400や運転支援装置300とは独立して、これら機能を取込むことによりHUD装置100が単独で行ってもよい。
【0128】
また、HUD装置100を画像表示制御のみ行う単なる表示装置とみなし、ナビゲーション装置400(情報処理部401)あるいは運転支援装置300が、画像生成、表示変更制御、重複解消制御、の全てを担い、HUD装置100に対して表示指令を出力する構成としてもよい。
【0129】
(実施形態の効果)
以上説明のように本実施形態のHUD装置100は、例えば、
図5(a)に示すように、車両10の前方に仮想的に設定された表示領域VAに1以上の画像(NI,FI)を前景(FS,WL等)に重畳して投影表示することで画像を乗員14に視認させるヘッドアップディスプレイ装置である。そして、そのHUD装置100は、例えば、
図2に示すように、表示領域VAに、第1の画像(例えば、FI)と第2の画像(例えば、NI)を投影して表示する表示部120と、乗員14から見て第1の画像(例えば、FI)を第2の画像(例えば、NI)よりも奥側に配置して表示部120に表示する制御を行う制御部160と、を有する。そして、その制御部160は、例えば、
図4に示すように、乗員14の高さ方向の目の位置に基づき(ステップS102)、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置及び/又は表示態様を異ならせて表示領域VAに配置する第1の制御を行い(ステップS103)、第1の制御により第1の画像と第2の画像との間で上下方向に重複が生じた場合(ステップS104“YES”)、第1の画像及び/又は第2の画像を再配置して重複を回避する第2の制御を行う(ステップS105)。
【0130】
本実施形態のHUD装置100によれば、制御部160は、乗員14の高さ方向の目の位置の変更を検出すると、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置を変更する、及び/又は表示態様を変更する表示変更制御(第1の制御)を行い、表示変更制御の結果、画像間に重複があれば、例えば、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させて重複を解消する重複解消制御(第2の制御)を実行する。したがって、表示変更制御(第1の制御)により画像間に重複が生じると、乗員14は画像間の前後関係が把握しづらくなるが、例えば、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる重複解消制御(第2の制御)を実行して画像間で上下方向の表示位置に差を設けることで、乗員14は、画像間の前後関係をより理解しやすくなる。
【0131】
また、本実施形態のHUD装置100によれば、制御部160が、表示領域VAにおいて、第1の画像が属する第1の領域(例えば、
図7(a)のNA)と、第2の画像が属す第2の領域(例えば、
図7(a)のFA)の上下方向の重複を判定し、重複が生じる場合に第2の制御(重複解消制御)を行なう。この場合、第1の画像の下端の表示位置と第2の画像の上端の表示位置との比較のみで重複が検出されるため、画像間の画素同士を比較する場合に比べて少ない処理負荷で重複を検出することができる。
【0132】
また、本実施形態のHUD装置100によれば、制御部160は、第1の画像と第2の画像が車両10の前方の前景に関連する画像であれば第1の制御と第2の制御を行う。そのような画像間の前後関係の把握は、特に、画像が車両10の前方の前景に関するものであるときに重要となり、そのような画像に対して第2の制御を実行することで乗員14に対する画像間の前後関係の把握を担保することができる。
【0133】
また、本実施形態のHUD装置100によれば、制御部160は、仮想的な消失点VPを通る前景の走行車線を模したラインVLに沿って第1の画像及び第2の画像が配置されているように乗員14が視認できる所定の範囲(例えば、8°以上66°未満)に第1の画像及び第2の画像を表示する場合に第1の制御(表示変更制御)及び第2の制御(重複解消制御)を行なう。ここで、仮想的な消失点VPを通る仮想的なラインVLに沿って各画像を配置することは、画像間の前後関係を把握させたい場合によく用いられる手法であり、そのような画像に対し、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置を変更する、及び/又は表示態様を変更する第1の制御(表示変更制御)を行い、第1の制御により画像間に重複があれば、例えば、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる複解消制御を実行して画像間で上下方向の表示位置に差を設ける第2の制御(重複解消制御)を行うことで前後関係の把握を担保することができる。
【0134】
また、本実施形態のHUD装置100によれば、制御部160は、第2の画像を、乗員14から見て表示領域VAの下側に移動させる第2の制御(重複解消制御)により画像間の重複を回避する。これは、人間の視覚特性において、視認対象(第1の画像、第2の画像)に対して視認者(乗員14)からの距離(表示距離)が近いほど奥行き弁別能力が高いことが知られていることから、路面に対して傾斜しているような虚像を生成するHUD装置100は、表示領域VAの上側より下側の方が乗員14からの距離(表示距離)が近く、そのため、奥側に視認させたい画像である第1の画像を上側に移動させるより、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる方が乗員14に画像間の前後関係を把握させるうえで有利である。
【0135】
また、本実施形態のHUD装置100によれば、例えば、上下方向の表示領域VAが小さい等、HUD装置100の表示領域VAの制約上、第2の画像を下側に移動できない場合があり、そのような場合、制御部160は、第2の画像を、表示領域VAの中心位置から遠ざかるように左側又は右側に移動させることにより、第1の画像と第2の画像との表示位置の間に差を設けることができる。この場合、上下方向の表示位置の差が小さくても横方向の表示位置の差を広げることで前後関係が把握しやすくなる。
【0136】
また、本実施形態のHUD装置100によれば、制御部160は、例えば、
図8(a)に表示形態の一例を示すように、仮想的なラインVLに沿って第2の画像である手前側に表示される制限車速情報NIを表示領域VAの下側に、且つ中心位置から遠ざけるように左側に移動する制御を行う。したがって、仮想的な消失点VPを通る仮想的なラインVL上で画像を動かすことにより乗員14に与える違和感を抑制しつつ、画像間の前後関係の把握を容易にすることができる。
【0137】
また、本実施形態のHUD装置100によれば、制御部160は、所定の基準位置と比較してアイボックスの位置が下がる比較的背の低い乗員と、基準位置と比較してアイボックスの位置が上がる比較的背の高い乗員のどちらに対しても第1の制御(表示変更制御)を実行するが、第1の制御(表示変更制御)を行った結果として画像間の重複が生じるのはアイボックスの位置が下がる比較的背の低い乗員である可能性が高いため、比較的背が低い乗員に対してのみ第2の制御(重複解消制御)を実行して画像間の重複を回避する。したがって、無駄な制御を行うことのない効率の良い重複解消制御を行うことができ、画像間の前後関係の把握を容易にすることができる。
【0138】
また、本実施形態のHUD装置100によれば、制御部160は、表示領域VAの上端部(画角のUp)が下端部(画角のDn)よりも奥側となる、傾斜した虚像結像面である表示領域VAを用いて、奥行き方向(車両の前後方向)における表現力を高めた表示を行うことができ、より自然で遠近感のある画像の視認性を実現することができる。また、表示位置に応じて表示距離(結像距離)を調整することができ、上端部側ではかなり広範囲にわたって奥行き感のある表示を実現することができるため、画像間の前後関係の把握が容易になる。
【0139】
本実施形態の表示制御システムは、例えば、
図2に示すように、車両10の前方に仮想的に設定された表示領域VAに1以上の画像を前景に重畳して投影表示するヘッドアップディスプレイ装置(HUD装置100)と、画像を生成する処理装置(例えば、ナビゲーション装置400の情報処理部401)と、を含む表示制御システム(車両制御システム1000)である。そして、ヘッドアップディスプレイ装置は、表示領域VAに第1の画像と第2の画像を投影して表示する表示部120と、乗員14から見て第1の画像を第2の画像よりも奥側に配置して表示部120に表示する制御を行う制御部160と、を有する。そして、処理装置は、乗員14の操作入力により設定されるか又は検出される、乗員14の高さ方向の目の位置に変更があった場合、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置、及び/又は表示態様を異ならせて表示領域VAに配置し、第1の画像と第2の画像との間で高さ方向に重複が生じた場合、第1の画像及び/又は第2の画像を再配置して重複を回避する処理を実行して、ヘッドアップディスプレイ装置に対して第1の画像と第2の画像の表示を指示する。
【0140】
本実施形態の表示制御システムによれば、処理装置は、乗員14の操作入力により設定されるか又は検出される、乗員14の高さ方向の目の位置に変更があった場合、第1の画像及び/又は第2の画像の表示位置、及び/又は表示態様を異ならせて表示領域VAに配置し(表示変更処理)、第1の画像と第2の画像との間で高さ方向に重複が生じた場合、第1の画像及び/又は第2の画像を再配置して重複を回避する処理(重複解消処理)を行い、HUD装置100に対して第1の画像と第2の画像の表示を指示する。したがって、表示変更処理(第1の制御)により画像間に重複が生じると乗員14は画像間の前後関係が把握しづらくなるが、例えば、手前側に視認させたい第2の画像を下側に移動させる重複解消処理(第2の制御)を行い画像間で上下方向の表示位置に差を設けることで、乗員に14対し画像間の前後関係をより理解しやすくした表示制御システム(車両制御システム1000)を提供することができる。
【0141】
なお、本実施形態の表示制御システム(車両制御システム1000)において、処理装置(例えば、ナビゲーション装置400が有する情報処理部401)が実行する機能は、コンピュータが実行するプログラムによって実現される。この場合、情報処理部401は、上述したプログラムを実行するためのハードウエアとして、少なくとも一つの制御装置(例えばプロセッサ)と、少なくとも一つの記憶装置(例えば、RAM)からなるコンピュータを備えている。
【0142】
また、上述したプログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な1以上の記録媒体に記録されてもよい。この記録媒体は、情報処理部401が備えてもよく、また、備えなくてもよい。後者の場合、上述したプログラムは、有線又は無線の任意の伝送媒体を介して上述した情報処理部401に供給されてもよい、
【0143】
また、上述した機能の少なくとも一部は論理回路によって実現することも可能である。例えば、論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも例えば量子コンピュータにより上述した機能を実現することも可能である。また、本実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは、情報処理部401で動作するものでもよく、また、他の装置(例えば、クラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0144】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0145】
100・・・ヘッドアップディスプレイ装置(HUD)、110・・・駆動部、120・・・表示部、120a・・・表示面、121・・・光源、122・・・液晶表示素子、141・・・凹面鏡、160・・・制御部、200・・・車載センシング装置、300・・・運転支援装置、400・・・ナビゲーション装置、500・・・操作入力装置、1000・・・車両制御システム(表示制御システム)、V・・・虚像、VA・・・表示領域、LS・・・制限車速標識、LI・・・制限車速情報、LA・・・制限車速情報の表示領域(第1の領域)、CF・・・前方車両、CI・・・前方車両追従情報、CA・・・前方車両追従情報の表示領域(第2の領域)、NS・・・近方にある制限車速標識、NI・・・近方にある制限車速情報(第1の画像)、NA・・・近方にある制限車速情報の表示領域(第1の領域)、FS・・・遠方にある制限車速標識、FI・・・遠方にある制限車速情報(第2の画像)、FA・・・遠方にある制限車速情報の表示領域(第2の領域)、WL・・・走行車線、VP・・・仮想的な消失点、VL・・・仮想的な消失点に向かう仮想的なライン、AL・・・走行車線の中央を通る仮想的なライン