IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブランテックインターナショナル株式会社の特許一覧

特開2024-175624フレークアイス、氷スラリー、フレークアイス製造装置、及びフレークアイス製造方法
<>
  • 特開-フレークアイス、氷スラリー、フレークアイス製造装置、及びフレークアイス製造方法 図1
  • 特開-フレークアイス、氷スラリー、フレークアイス製造装置、及びフレークアイス製造方法 図2
  • 特開-フレークアイス、氷スラリー、フレークアイス製造装置、及びフレークアイス製造方法 図3
  • 特開-フレークアイス、氷スラリー、フレークアイス製造装置、及びフレークアイス製造方法 図4
  • 特開-フレークアイス、氷スラリー、フレークアイス製造装置、及びフレークアイス製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175624
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】フレークアイス、氷スラリー、フレークアイス製造装置、及びフレークアイス製造方法
(51)【国際特許分類】
   F25C 1/00 20060101AFI20241211BHJP
   F25C 1/145 20180101ALN20241211BHJP
【FI】
F25C1/00 B
F25C1/145 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093570
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】518403539
【氏名又は名称】FrostiX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】廣兼 美雄
(57)【要約】
【課題】 被冷却物の冷却及び冷蔵保存のための特性に優れた氷スラリー、フレークアイス、氷スラリー、及び氷スラリーを効率的に製造できるフレークアイス製造装置、フレークアイス製造方法を提供する。
【解決手段】 フレークアイス製造装置1は、真水を貯留する水タンク2と、水タンク2内の真水に窒素ナノバブルを供給する窒素ナノバブル供給機4と、窒素ナノバブルが供給された真水の塩素濃度が0.1ppm以下であり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下となるように、窒素ナノバブルの供給量を調整する供給量調整手段4aと、窒素ナノバブルを含む真水からフレークアイスを生成するフレークアイス製造機5と、水タンク2からの真水とフレークアイス製造機5からのフレークアイスから氷スラリーを生成するための氷スラリー槽6とを備えた。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素ナノバブルを含んだ真水を凍結させて形成され、前記真水における塩素濃度が0.1ppm以下であり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下であるフレークアイス。
【請求項2】
空隙率20%以上である請求項1に記載のフレークアイス。
【請求項3】
前記フレークアイスの温度は、-1℃以上である請求項1又は請求項2に記載のフレークアイス。
【請求項4】
窒素ナノバブルを含んだ真水と、前記真水が凍結したフレークアイスとの混合物であり、
前記真水における塩素濃度が0.1ppm以下であり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下である氷スラリー。
【請求項5】
真水を貯留する水タンクと、
前記水タンクに窒素ナノバブルを供給する窒素ナノバブル供給手段と、
前記窒素ナノバブルが供給された前記水タンク内の真水の塩素濃度が0.1ppm以下であり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下となるように、前記窒素ナノバブルの前記水タンクへの供給量を調整する窒素ナノバブル供給量調整手段と、
前記窒素ナノバブル供給手段から供給された窒素ナノバブルを含む真水が凍結したフレークアイスを生成するフレークアイス生成手段と
を備えたフレークアイス製造装置。
【請求項6】
前記フレークアイス生成手段は、
所定温度以下に冷却され、前記真水と接触することで前記真水を凍結させて前記フレークアイスを生成する冷却部材と、
前記冷却部材に向けて前記真水を供給する水供給手段と、
前記冷却部材に付着した状態の前記フレークアイスを前記冷却部材から分離する分離手段と
を備えた請求項5に記載のフレークアイス製造装置。
【請求項7】
前記窒素ナノバブル供給手段に液体窒素を供給する液体窒素供給手段を備えるとともに、前記窒素ナノバブル供給手段に供給される前の液体窒素を、前記冷却部材を冷却するための冷媒として利用する請求項6に記載のフレークアイス製造装置。
【請求項8】
前記窒素ナノバブル供給手段から供給された窒素ナノバブルを含む真水と前記フレークアイスの混合物である氷スラリーを生成する氷スラリー生成手段を備えた請求項5に記載のフレークアイス製造装置。
【請求項9】
窒素ナノバブルを生成する工程と、
前記窒素ナノバブルを真水に供給するとともに、前記窒素ナノバブルを含んだ真水の塩素濃度が0.1ppm以下であり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下となるように、前記真水への前記窒素ナノバブルの供給量を調整する工程と、
前記窒素ナノバブルを含んだ真水を凍結させたフレークアイスを生成する工程と
を備えたフレークアイス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜等の被冷却物の運搬や保存に使用可能なフレークアイス、氷スラリー、フレークアイス製造装置、及びフレークアイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種生鮮食品(野菜、果物、肉、魚)等の被冷蔵物を冷蔵状態で運搬・保管するために、氷(フレークアイス)や氷スラリー(例えば、氷と食塩水の混合物)が用いられてきている。このような氷を用いた冷蔵に関連する技術として、例えば特許文献1には、氷の塊(クラッシュアイス)を製造するための装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-54166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような冷蔵技術に用いられるフレークアイスや氷スラリーには、より高い鮮度での冷蔵保存を可能とするための特性の向上が望まれている。また、フレークアイスや氷スラリーを効率的に製造可能とする技術も求められている。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、被冷却物の冷却及び冷蔵保存のための特性に優れたフレークアイスや氷スラリーを提供することを目的とする。また、本発明は、被冷却物の冷却及び冷蔵保存のための特性に優れた氷スラリーを効率的に製造できるフレークアイス製造装置及びフレークアイス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、窒素ナノバブルを含んだ真水を凍結させて形成され、前記真水における塩素濃度が0.1ppm以下であり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下であるフレークアイスである。
【0007】
前記フレークアイスは、空隙率20%以上であってもよい。
【0008】
前記フレークアイスの温度は、-1℃以上であってもよい。
【0009】
また、本発明は、窒素ナノバブルを含んだ真水と、前記真水が凍結したフレークアイスとの混合物であり、前記真水における塩素濃度が0.1ppm以下であり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下である氷スラリーである。
【0010】
また、本発明は、フレークアイス製造装置において、真水を貯留する水タンクと、前記水タンクに窒素ナノバブルを供給する窒素ナノバブル供給手段と、前記窒素ナノバブルが供給された前記水タンク内の真水の塩素濃度が0.1ppm以下であり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下となるように、前記窒素ナノバブルの前記水タンクへの供給量を調整する窒素ナノバブル供給量調整手段と、前記窒素ナノバブル供給手段から供給された窒素ナノバブルを含む真水が凍結したフレークアイスを生成するフレークアイス生成手段とを備えた。
【0011】
前記フレークアイス生成手段は、所定温度以下に冷却され、前記真水と接触することで前記真水を凍結させて前記フレークアイスを生成する冷却部材と、前記冷却部材に向けて前記真水を供給する水供給手段と、前記冷却部材に付着した状態の前記フレークアイスを前記冷却部材から分離する分離手段とを備えてもよい。
【0012】
前記窒素ナノバブル供給手段に液体窒素を供給する液体窒素供給手段を備えるとともに、前記窒素ナノバブル供給手段に供給される前の液体窒素を、前記冷却部材を冷却するための冷媒として利用するようにしてもよい。
【0013】
前記窒素ナノバブル供給手段から供給された窒素ナノバブルを含む真水と前記フレークアイスの混合物である氷スラリーを生成する氷スラリー生成手段を備えてもよい。
【0014】
また、本発明は、フレークアイス製造方法において、窒素ナノバブルを生成する工程と、前記窒素ナノバブルを真水に供給するとともに、前記窒素ナノバブルを含んだ真水の塩素濃度が0.1ppm以下であり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下となるように、前記真水への前記窒素ナノバブルの供給量を調整する工程と、前記窒素ナノバブルを含んだ真水を凍結させたフレークアイスを生成する工程とを備えた。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フレークアイスは、窒素ナノバブルを含んだ真水から形成され、前記真水における塩素濃度を0.1ppm以下とし、溶存酸素濃度を1.0mg/L以下としたものであるので、野菜や果物等の被冷却物の保存に悪影響のある酸素や塩素が適切に取り除かれたものとできる。また、原水(真水)中の溶存窒素はフレークアイス中に微小気泡として残存し、また凝固によってフレークアイス中から逃げた窒素はフレークアイスの空隙中に残存するので、フレークアイスを野菜等の被冷却物の運搬で使用する場合等にフレークアイスの一部が融解すると、フレークアイス中の微小気泡及び空隙中の窒素が融解水中に溶け込んで窒素含有水になり、フレークアイスと合わせて窒素含有氷スラリー(つまり酸欠且つ塩素フリーの氷スラリー)になり、野菜等の鮮度保持に好ましい氷スラリーが得られる。また、フレークアイスの製造においては、窒素ナノバブルの作用により、真水の塩素濃度及び溶存酸素濃度を効果的に低下させることができるので、水道水等から効率的にフレークアイスを製造できる。
【0016】
また、フレークアイスの空隙率を20%以上とすれば、窒素が残存するための空隙を十分に備えたフレークアイスを提供できる。
【0017】
また、フレークアイスの温度を-1℃以上とすれば、程度を超えた過冷却を避けることができ、野菜等の被冷却物を高品質に保ったまま、被冷却物の輸送や保存を行うことができる。
【0018】
本発明の氷スラリーによれば、氷スラリーは、窒素ナノバブルを含んだ真水と前記真水が凍結したフレークアイスとの混合物であり、前記真水を凍結させて形成され、前記真水における塩素濃度を0.1ppm以下とし、溶存酸素濃度を1.0mg/L以下としたものであるので、野菜や果物等の被冷却物の保存に悪影響のある酸素や塩素が適切に取り除かれたものとできる。
【0019】
本発明のフレークアイス製造装置(例えば、フレークアイス製造装置1)によれば、水タンク(例えば、水タンク2)と、窒素ナノバブル供給手段(例えば、窒素ナノバブル供給機4、ナノミキサ40)と、窒素ナノバブル供給量調整手段(例えば、供給量調整手段4a)と、フレークアイス生成手段(例えば、フレークアイス製造機5)とを備えたので、窒素ナノバブル供給量調整手段により、真水に含ませる窒素ナノバブルの供給量(発生量)を、真水における塩素濃度を0.1ppm以下、溶存酸素濃度を1.0mg/L以下とする適量に調整することができる。よって、野菜や果物等の被冷却物の保存に悪影響のある酸素や塩素が適切に取り除かれたフレークアイスやを効率的に生成することができる。
【0020】
また、フレークアイス生成手段に、冷却部材(例えば、ドラム22(内筒31))と、水供給手段(例えば、水噴射機構25)と、分離手段(例えば、掻き取り機構26)を備えれば、効率的にフレークアイスを生成できる。
【0021】
また、液体窒素供給手段(例えば、液体窒素タンク3)を備え、窒素ナノバブル供給手段に供給される前の液体窒素を冷却部材の冷却ための冷媒として利用すれば、窒素ナノバブル生成のための液体窒素を、冷却部材の冷却のためにも有効利用できる。
【0022】
また、氷スラリー生成手段(例えば、氷スラリー槽6)を備えれば、野菜や果物等の被冷却物の保存に悪影響のある酸素や塩素が適切に取り除かれた窒素含有氷スラリーを効率的に生成することができる。
【0023】
本発明のフレークアイス製造方法によれば、窒素ナノバブルを生成する工程と、真水への窒素ナノバブルの供給量を調整する工程と、フレークアイスを生成する工程とを備えたので、窒素ナノバブルの供給量を調整する工程において、真水に含ませる窒素ナノバブルの供給量(発生量)を、真水における塩素濃度を0.1ppm以下、溶存酸素濃度を1.0mg/L以下とする適量に調整することができる。よって、野菜や果物等の被冷却物の保存に悪影響のある酸素や塩素が適切に取り除かれたフレークアイスや窒素含有氷スラリーを効率的に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態におけるフレークアイス製造装置を示すブロック構成図である。
図2】フレークアイス製造機の断面を示す斜視図である。
図3】窒素ナノバブル供給機(ナノミキサ)を示す横断面図である。
図4】窒素ナノバブル供給機(ナノミキサ)を示す縦断面図である。
図5】氷スラリーにおける窒素ナノバブルの機能(作用)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
図1には、本発明の実施形態におけるフレークアイス製造装置1をブロック構成図で示す。図示されるように、フレークアイス製造装置1は、水タンク2と、液体窒素タンク3と、窒素ナノバブル供給機4と、フレークアイス製造機5と、氷スラリー槽6とを備えている。
【0026】
水タンク2は、フレークアイス(及び氷スラリー)の原料となる真水が貯留されているタンクである。ここで、真水とは、不純物をほとんど含まない水(特に塩分を含まない水)であり、本発明においては、例えば水道水や井戸水も真水に含まれる。水タンク2内の真水は、所定温度以下に冷却されている。
【0027】
液体窒素タンク3は、低温の液体窒素が貯留されているタンクである。液体窒素タンク3からの液体窒素は、液体窒素通路11に送出され、フレークアイス製造機5において水を冷却するための冷媒として利用された後、液体窒素通路12を通って、窒素ナノバブル供給機4に供給される。
【0028】
窒素ナノバブル供給機4は、窒素ナノバブルを発生させる装置であり、水タンク2内に(又は水タンク2に隣接して)配置されており、液体窒素から窒素ナノバブルを生成して、生成した窒素ナノバブルを水タンク2内の真水に供給する。
【0029】
窒素ナノバブルは、水クラスターや水の分子と同程度の大きさ(ナノメートルサイズ)の微小な窒素ガスの気泡であり、真水に溶かし込まれることにより、真水内の塩素濃度及び酸素濃度を低減させるように作用する。
【0030】
窒素ナノバブル供給機4には、水タンク2への窒素ナノバブルの供給量(発生量)を調整する供給量調整手段4aが設けられている。供給量調整手段4aにより、真水への窒素ナノバブルの供給量は、真水の塩素濃度が0.1ppm以下となり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下となるように、調整される。これにより、塩素濃度及び溶存酸素濃度濃度の極めて小さな真水から氷スラリーを生成することができる。
【0031】
供給量調整手段4aは、窒素ナノバブルの供給量(発生量)を制御できるものであれば、任意の形態のものとできる。また、窒素ナノバブル供給量の調整は、予め用意された計測データや計算式に基づいて行ってもよいし、水タンク内の真水の塩素濃度及び酸素濃度を検出しながら(例えばコンピュータ制御で)制御するようにしてもよい。
【0032】
水タンク2内の窒素ナノバブルを含んだ状態の真水は、水供給通路13を介して氷スラリー槽6に供給されるとともに、水供給通路14を介してフレークアイス製造機5に供給される。
【0033】
フレークアイス製造機5は、水タンク2から供給された窒素ナノバブルを含んだ真水を凍らせることにより、フレークアイス(剥片状又は雪状の氷)を生成する製氷機である。フレークアイス製造機5で生成されたフレークアイスは、氷スラリー槽6に供給され、氷スラリーの生成に使用されるか、又は、そのままで(氷スラリーとされずに)被冷却物の冷却に利用される。なお、フレークアイス製造機5の具体的構成例については、図2とともに後述する。
【0034】
フレークアイスは、空隙率が20%以上となるように生成される。ここで、空隙率とは、フレークアイス全体の体積に対する空隙部(空気部分)の体積割合である。詳しくは後述するように、窒素ナノバブルを含み且つ空隙率が20%以上とされたフレークアイスや、このようなフレークアイスを用いて生成された氷スラリーは、野菜等の鮮度保持に適したものとできるとともに、被冷却物を効率的に冷却できるものとなる。
【0035】
このような被冷却物の冷却において、フレークアイスの温度は、-1℃以上に保たれることが望ましい。すなわち、フレークアイスは真水から形成されるので、凝固後の更なる冷却では0℃以下になるが、野菜等の被冷却物のためには、冷却し過ぎることは好ましくなく、-1℃以上に保たれることが望ましい。これにより、野菜等の被冷却物を高品質に保ったまま、被冷却物の輸送や保存を行うことができる。なお、フレークアイスや氷スラリーの温度の管理は、フレークアイスや氷スラリーの温度を保てるような冷蔵容器を使用したり、フレークアイスや氷スラリーの温度が上がった場合に新たなフレークアイスや氷スラリーと入れ替えたりすることにより行えばよい。
【0036】
氷スラリー槽6は、氷スラリーを生成するための槽であり、水タンク2からの真水とフレークアイス製造機5からのフレークアイスを所定の割合で混合することにより、氷スラリー槽6内において氷スラリーが生成される。氷スラリー槽6内に生成された氷スラリーは、氷スラリー槽6から取り出されて、例えば野菜等の被冷却物の冷却のために利用され得る。
【0037】
氷スラリーは、原水(本発明では真水)をフレーク状に加工したフレークアイス(固体)と、原水(液体)とを所定の比率で混合させたシャーベット状の混合物で、流動性を有している。氷スラリー中のフレークアイスの濃度(IPF:Ice Packing Factor)は、「IPF=(フレークアイスの質量)/(フレークアイスの質量+原水の質量)」で算出され、所定の範囲になるように制御される。
【0038】
フレークアイスは、融解する際に大量の潜熱を周囲から奪うことができるが、融解が完全に完了せずに氷が残存している間は0℃に維持され、温度が上昇することがない。したがって、氷スラリー(フレークアイス)は、長時間に亘って効果的に被冷却物(例えば、野菜)を冷却し続けることができる。
【0039】
以上のように、本実施形態のフレークアイス製造装置1によれば、フレークアイス及び氷スラリーの原水である真水に適量の窒素ナノバブルを加えることにより、窒素ナノバブルの作用により、真水の塩素濃度と酸素濃度を、塩素濃度が0.1ppm以下となり、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下となるように調整することができる。したがって、野菜等の冷却保存に適した塩素濃度及び酸素濃度が小さな真水からなるフレークアイスや氷スラリーを、水道水等の真水から効率的に生成することができる。
【0040】
また、フレークアイスは、(例えば図2に示すような)フレークアイス製造機2において急速冷凍により生成されるので、フレークアイスを生成するための原水(窒素ナノバブルを含む真水)中の溶存窒素が、フレークアイス中に微小気泡として残存する。また、フレークアイスの空隙率が20%以上であるので、フレークアイスの形成中に、凝固によって氷中から逃げた窒素は、フレークアイスの空隙中に残存することができる。
【0041】
したがって、本実施形態のフレークアイスや氷スラリーを被冷却物(野菜等)の冷却・運搬で使用する場合に、フレークアイスの一部が融解したときには、フレークアイスの微小気泡及び空隙中の窒素が融解水中に溶け込んで窒素含有水になる。したがって、氷スラリーは、フレークアイスを合わせて窒素含有氷スラリー(つまり酸欠且つ塩素フリーの氷スラリー)となり、野菜等の鮮度保持に好ましいものとなる。
【0042】
詳しく説明すると、原水(窒素ナノバブルを含む真水)からフレークアイスを生成するに際して、窒素ガスが大きな濃度で溶け込んでいる(飽和している)原水が、-40℃程度に冷却された冷却部材(金属板)に接触して「急速冷凍」されて凍結すると、氷における窒素ガスの溶解度は液体の水よりも小さいため、原水中に溶け込んでいた窒素ガスが凍結の途中で急激にガス化し微細気泡となり、生成された氷は、その内部に窒素の微細気泡が無数に分散したフレークアイスになる。なお、本明細書においては、このようなメカニズム(作用効果)が生じるような急激な冷却を「急速冷凍」という。
【0043】
このように、その内部に窒素の微細気泡が無数に分散したフレークアイスが、直接に被冷却物(例えば野菜)に接して0℃程度までの冷却や、運搬などにおける0℃に保持した冷蔵保存に利用される場合、又は氷スラリーを生成するために真水と混合された場合に、フレークアイスが融解していく際には、無数の微細気泡中の窒素ガスは大気に逃げることなく、フレークアイスが融解して生成される真水の中に溶け込むことになる。したがって、生成された真水は、高濃度で窒素を含み、野菜等の鮮度保持に好ましいものとなる。
【0044】
また、20%以上の空隙率を有するフレークアイスと原水からなる氷スラリーは、全体として十分な柔軟性を備え、高い流動性を有する。このような流動性(柔軟性)は、フレークアイスの融解によって空隙部に原水が充填された後も、十分に保たれる。したがって、氷スラリー中のフレークアイスは被冷却物の周囲に回り込むことができ、被冷却物に対し万遍なくフレークアイスを接触させることができるので、被冷却物を効率的に冷却することができる。
【0045】
上述もしたように、フレークアイスは、そのまま(氷スラリーとされずに)被冷却物(特に野菜)の冷却に利用され得る。具体的には、例えば野菜の出荷時において、フレークアイスを一旦容器に貯めて、箱に詰めた野菜の隙間を埋めて使用する。このように、野菜の冷却(冷蔵)においては、野菜の出荷形態としてはフレークアイスがそのまま用いられることが多い。一方、氷スラリーは、野菜の出荷前の事前冷却用に用いられることが多い。すなわち、氷スラリーは、出荷後の被冷却物の運搬(冷蔵保存)に用いることも可能ではあるが、実際の使用においては、主として被冷却物(野菜)の(0℃程度までの)予冷に使用され、被冷却物の運搬には、フレークアイスが使用される。
【0046】
以下、更に詳しく説明する。野菜(例えばキャベツ、レタス等の夏野菜)は、まず収穫後に、プールに貯めた氷スラリーに漬けることにより冷却される。この場合、氷スラリーを構成するフレークアイスは、空隙率20%以上であって表面積が大きいので、被冷却物(野菜)及び真水への接触面積が大きく、また被冷却物(野菜)に接触して昇温した水に対する接触面積も大きい。したがって、フレークアイスが溶ける際には、被冷却物及び水から融解潜熱に相当する熱を効果的に奪って、被冷却物を急速冷却する。これにより、被冷却物である野菜は、収穫後の劣化しやすい20℃程度の温度から劣化しにくい0℃まで一気に冷却されるため、ほとんど劣化することはない。
【0047】
なお、このような氷スラリーによる野菜の事前冷却においては、野菜を氷スラリーに漬ける前に樹脂袋(ビニール袋)中に挿入しておく。これにより、野菜に水が直接触れないようにできるため、野菜の水切り作業が不要になり、また水が残ると好ましくない葉物野菜等も適切に冷却することができる。
【0048】
一方、野菜の出荷時(輸送時)においては、0℃近傍まで冷却した野菜を氷スラリーから取り出して箱詰めし、箱内の隙間にフレークアイスを挿入する。このように、フレークアイスを野菜の冷却に用いた場合、野菜に触れたフレークアイス(低酸素、低塩素状態)は溶けて微小な真水になるが、溶けた微小な真水は低酸素、低塩素状態であり、更にフレークアイスの空隙内に保持されていた窒素がその微小な真水に溶け込み空気中の酸素の溶け込みを防ぐ。したがって、出荷以降の輸送段階ではその微小な真水(低酸素、低塩素状態、0℃)が野菜に触れているため、野菜は輸送中劣化しない。また、フレークアイスは多孔性のあるためクッション効果も得られる。すなわち、空隙率20%以上のフレークアイスは雪状で柔らかいため、野菜の輸送の間、冷却材且つクッション材として機能する。
【0049】
図2には、フレークアイス製造機5の具体的構成の一例を示す。図示されるように、本例におけるフレークアイス製造機5は、ドラム式製氷機として構成されており、ケーシング21と、ケーシング21内に配置された円筒形のドラム22と、ドラム22の中心軸上を延びる回転軸23と、回転軸23を回転駆動させる駆動モータ24と、回転軸23に取り付けられた水噴射機構25と、同じく回転軸23に取り付けられた掻き取り機構26とを備えている。
【0050】
ドラム22は、内筒31と、内筒31の外側に配置された外筒32とを備えている。内筒31と外筒32は、例えば金属から形成されている。内筒31と外筒32の間には、隙間部分が形成されており、この隙間部分は、冷媒(液体窒素タンク3からの液体窒素)が導入される冷媒導入部33となっている。このような構成により、冷媒導入部33に冷媒が導入されたドラム22(内筒31)は、所定温度(例えば-20℃)以下に冷却された状態となる。
【0051】
水噴射機構25は、回転軸23に固定された円盤状の本体部34と、本体部34の側面に放射状に配置された複数の噴射ノズル35を備えている。本体部34には、回転軸23に取り付けられたロータリジョイント36及び回転軸23内部の中空部(図示せず)を介して、水タンク2からの水(窒素ナノバブルを含む真水)が供給され、この水が複数の噴射ノズル35から噴射される。
【0052】
各噴射ノズル35の先端部35aは、内筒31の内周面に向けて配置されてる。これにより、噴射ノズル35からの水は、内筒31の内周面の上部付近に噴射され、回転軸23に伴う噴射ノズル35の移動により、内筒31の全周にわたって万遍なく行き渡るようになっている。水噴射機構35から噴射された水は、冷媒(液体窒素)の作用で低温となっている内筒31との接触により冷却され、直ちに凍結してフレークアイスとなり、内筒31の内周面上にフレークアイスが付着した状態となる。なお、内筒31の内周面上で凍結しきらなかった水は、図示されない水回収機構で回収され、水タンク2に戻される。
【0053】
掻き取り機構26は、回転軸23に固定されたフレーム37と、フレーム37に固定されたブレード38を備えている。ブレード38の側辺部分は、内筒31の内周面に隣接して配置された鋸歯部38aとなっている。このような構成により、回転軸23の回転に伴ってブレード38の動くことにより、内筒31の内周面上に付着したフレークアイスはブレード38により掻き取られ、内筒31の内周面から分離される。掻き取られたフレークアイスは、ドラム22の下端に開放した排出口39から、氷スラリー槽6に向けて排出される。
【0054】
図3及び図4には、窒素ナノバブル供給機4の具体的構成の一例を示す。図示されるように、本例では、窒素ナノバブル供給機4として、回転運動や直線運動等を行う部分を有していない静止型の流体混合装置であるナノミキサ40が採用されている。ナノミキサ40は、水タンク2の真水の中に配置されている。
【0055】
ナノミキサ40においては、ハニカム構造を有する第1円板41及び第2円板42を軸方向に重ねて混合エレメント43が形成されている。相対的に小径な第2円板42は、大径な第1円板41の内側の凹みに収容されている。第1円板41及び第2円板42には、それぞれ、正六角形状の小室44、45が多数形成されている。なお、図3では、図示が煩雑になるのを避けるため、第1円板41及び第2円板42における小室44、45や、第1円板41及び第2円板42の断面を示すハッチングの図示は省略されている。
【0056】
第1円板41における小室44の配置と、第2円板42における小室45の配置は、第1円板41及び第2円板42における円の中心を基準とした場合に、互いに異なっている。第1円板41及び第2円板42を同心的に、且つ、軸方向に重ねると、小室44、45は、互いに中心をずらした状態で、空間的に繋がる。
【0057】
混合エレメント43は、段付きな円筒状の分割ケース46内に、同軸的に、且つ、多段に並べられている。図3の例では、10個の混合エレメント43が使用されている。分割ケース46の中には、互いに逆向きに設置された2つの混合エレメント43を1組として、5組の混合エレメント43が設けられている。
【0058】
混合エレメント43の内部において、多数の小室44、45が、軸方向に向かい合った小室44、45だけでなく、その他の小室44、45とも、空間的に繋がっている。多数の小室44、45を空間的に繋げる経路は、直線部分や、蛇行部分、及び、折曲部分等を有している。また、多数の小室44、45は、第1円板41及び第2円板42の軸方向や径方向にも繋がっている。
【0059】
ナノミキサ40の軸方向における一端(図3の左側)には入口47が形成されており、他端(図3の右側)には出口48が形成されている。ナノミキサ40の入口47には、フレークアイス製造機5で冷媒として利用された後の液体窒素が、連続して供給される。ナノミキサ40に供給された液体窒素は、各混合エレメント43の内部において複雑な経路を通過して、後段(下流)の混合エレメント43に向かう。
【0060】
なお、軸方向に並んだ混合エレメント43の間には隙間49が形成されており、上流側の混合エレメント43を通過した液体窒素は、混合エレメント43の径方向や軸方向に流れ、次段の混合エレメント43に流入する。
【0061】
液体窒素は、混合エレメント43を通過する間に、側壁への衝突、流体同士の衝突、分散、合流、蛇行、渦流等の状態を、繰り返し組み合わせながら複雑に流動する。液体窒素が、混合エレメント43を通過する間に、渦流による流体力学的な剪断、各小室44、45の壁間をオリフィスとして通過する際の流体力学的な剪断、衝撃的破壊による粉砕、側壁の上端面を通過する際の剪断、機械的なキャビテーション等によって、流体の分散や混合が行われる。ナノミキサ40は、液体窒素が多数の混合エレメント43を通過する毎に、このような分散や混合を繰り返すことにより、ナノメートルサイズの微小な窒素ガスの泡(窒素ナノバブル)を発生させるようになっている。
【0062】
図5(a)~(d)には、氷スラリー中における窒素ナノバブルの作用(機能)を示す。なお、図5(a)~(d)において、Oは酸素(酸素分子)を表しており、Nは窒素(窒素分子)を表している。さらに、Nの文字が付された丸の図形は、窒素マイクロバブルや窒素ナノバブルを示している。図5(b)~(d)では、窒素マイクロバブルに符号50が付され、窒素ナノバブルに符号52が付されている。
【0063】
図5(a)においては、真水W中に大気中の酸素が溶解し、真水Wが溶存酸素濃度飽和状態となっている。図5(b)に示すように、真水Wに、窒素マイクロバブル50や窒素ナノバブル52が連続して供給されると、真水Wに窒素マイクロバブル50や窒素ナノバブル52が溶解し、混合される。これにより、真水W中では、酸素が放散し(酸素放散化が起こり)、酸素が、相対的に粒形が大きい窒素マイクロバブル50に入り込む。
【0064】
続いて、図5(c)に示すように、酸素を内包した窒素マイクロバブル50が、図5(d)に示すように、真水W内で浮上する。真水Wの液面54に達した窒素マイクロバブル50は、破裂し、内包されていた酸素が、大気中に放出される。真水Wでは、酸素が窒素に置換され(窒素置換が行われ)、窒素が残留する。液体窒素の供給を連続して行うことにより、真水W中の酸素が追い出される。真水W中の溶存酸素濃度量は減少し、窒素ナノバブルの密度(ナノバブル密度)が上昇する。この結果、窒素が溶解した真水Wが製造される。
【0065】
窒素マイクロバブル50は、窒素ナノバブル52に比べて、真水W中において早く浮上する。このため、窒素マイクロバブル50は、窒素置換の効率を向上することに効果的である。また、窒素ナノバブル52は、真水W中に、相対的に長時間滞在するため、低酸素状態を維持することに効果的である。
【0066】
このように、真水Wに窒素マイクロバブル50や窒素ナノバブル52を供給することで、真水Wにおける酸素濃度が低下し、窒素濃度が上昇する。真水Wの溶存酸素量は、例えば、1.0~0.3mg/Lとされる。より好適には、溶存酸素量は、0.6~0.3mg/L、更に好適には0.4~0.3mg/Lとされる。
【0067】
本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において適宜の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、ドラム式のフレークアイス製造機2を例示したが、本発明はこのような形態に限られるものではない。例えば、ドラム型ではなく平坦な金属板に水を噴射してフレークアイスを生成し、金属板表面上のフレークアイスを、任意の構成の掻き出し機構で掻き出すような構成を採用することもできる。更に、このような金属板を、氷スラリー槽の原水(真水)内に配置して、低温に冷却された金属板の表面で原水が凍結することにより形成されたフレークアイスを、掻き出し機構で掻き出す(金属板から分離する)ようにしてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、窒素ナノバブル供給機の一例として、ナノミキサ40を例示したが、窒素ナノバブル供給手段は、このような形態に限定されるものではなく、窒素ナノバブルを生成して真水に供給できるものであれば、任意の形態を採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、野菜等の被冷却物(保冷対象物)を、適切に冷却した状態で保管・運搬するために利用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 フレークアイス製造装置
2 水タンク
3 液体窒素タンク
4 窒素ナノバブル供給機
4a 供給量調整手段
5 フレークアイス製造機
6 氷スラリー槽
11 液体窒素通路
12 液体窒素通路
13 水供給通路
14 水供給通路
21 ケーシング
22 ドラム
23 回転軸
24 駆動モータ
25 水噴射機構
26 掻き取り機構
31 ドラムの内筒
32 ドラムの外筒
33 冷媒導入部
34 水噴射機構の本体部
35 水噴射機構の噴射ノズル
36 ロータリジョイント
37 掻き取り機構のフレーム
38 掻き取り機構のブレード
39 排出口
40 ナノミキサ
41 ナノミキサの第1円板
42 ナノミキサの第2円板
43 ナノミキサの混合エレメント
図1
図2
図3
図4
図5