(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017563
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】LNG燃料船の下部構造
(51)【国際特許分類】
B63B 11/04 20060101AFI20240201BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B63B11/04 Z
B63B25/16 101Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120282
(22)【出願日】2022-07-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】100090044
【弁理士】
【氏名又は名称】大滝 均
(72)【発明者】
【氏名】大谷 洋一
(57)【要約】
【課題】
船舶の損傷時であっても復原性性能が大きく悪化する(浸水後の最終平衡状態においても、船舶姿勢が極端なトリム・ヒールとなる)ことなく、損傷時復原性(ダメスタ)性能が良好なLNG燃料船のLNG燃料船の下部構造を提供する
【解決手段】
LNG燃料船の船底タンクトップ上の船尾LNG燃料タンク設置区画と、船尾LNG燃料タンク設置区画内に独立型円筒状ガス燃料タンク形状に対応した2本のレセスと、2本のレセスの間に船尾LNG燃料タンク区画の縦全長に渡り、断面台形状で隣接する貨物積載艙に仕切り壁を設けることなく連通するスツールと、を有するLNG燃料船の下部構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LNG燃料船の船底タンクトップ上の船尾LNG燃料タンク設置区画と、
船尾LNG燃料タンク設置区画内に独立型円筒状ガス燃料タンク形状に対応した2本のレセスと、
2本のレセスの間に船尾LNG燃料タンク区画の縦全長に渡り、断面台形状で隣接する貨物積載艙に仕切り壁を設けることなく連通するスツールと、
を有することを特徴とするLNG燃料船の下部構造。
【請求項2】
LNG燃料船の船底タンクトップ上の船尾LNG燃料タンク設置区画と、
船尾LNG燃料タンク区画の縦全長に渡り、断面台形状で隣接する貨物積載艙に仕切り壁を設けることなく連通するスツールと、
を有することを特徴とするLNG燃料船の下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲板下にガス燃料タンクを設置するLNG燃料船のLNG燃料タンク設置区画の下部構造、特に、ダメージスタビリティ(NK鋼船規則C編4章)(以下「ダメスタ」とも称する。)性能に優れたLNG燃料船のLNG燃料タンク設置区画の下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いくつかに区画された水密構造の船舶においては、損傷時の船舶の国際規則として、ダメスタの強化が求められ,NK鋼船規則C編4章に定める規則を適用しなければならないRORO船(Roll-on/Roll-off船)や自動車専用運搬船(PCTC:Pure Car & Truck Carrier)、フェリー等において損傷後の残存復原力の要求が厳しくなってきている。
【0003】
この種のダメスタ対応の技術として,例えば、特許第5894240号公報の開示が知られている。特許第5894240号公報の開示は、発明名称「船舶」に係り、「・・船損傷時における複数の部屋への浸水を防止すると共に設計の自由度を拡大可能とする船舶を提供する」ことを目的とする発明解決課題において(同公報明細書段落番号0007参照)、「船外に面する左右の側壁を有する船体と、該船体の内部であって隔壁により推進方向の前後に区画される複数の部屋と、前記側壁及び前記隔壁に接する少なくとも1つの浸水防止部屋と、を備え、前記浸水防止部屋は、端部が前記側壁及び前記隔壁に接合される仕切板により形成され、前記仕切板の全面が前記部屋に面すると共に、前記浸水防止部屋は、ショアランプが設けられる甲板の下方に面して、複数の前記部屋からなる機関区域に設けられ、前記機関区域の前記部屋の前記側壁と前記隔壁との連結部を覆った空間であり前記側壁が損傷した場合浸水し、前記機関区域の前記部屋は、縦通隔壁で区画されていない」構成とすることにより(同公報特許請求の範囲請求項1の記載等参照)、「隔壁により船体の前後に複数の部屋を区画し、側壁とこの隔壁に接する浸水防止部屋を設けるので、船損傷時における複数の部屋への浸水を防止することができると共に設計の自由度を拡大することができる」との効果を奏するものである(同公報明細書段落番号0018参照)。
【0004】
図3は、特許第5894240号公報に
図1として添付される開示発明の実施例1に係る船舶としての旅客船における後部の平面図である。
図3において、符号211は、船体、220a、220bは、側壁、222a、222b、223a、223bは、部屋、225(225a、225b)は、隔壁、227a、227b、229a、229bは、浸水防止部屋である(符号は、先行技術であることを明らかにするために、本願出願人において、二百番台の3桁に変更して説明した。)。
図3に示すように、特許第5894240号公報の開示は、浸水時の復元力を保つために、隔壁225(225a、225b)で仕切られた浸水防止部屋227a、227b、229a、229bを常時配置しておかなければならないなど設計の制約が大きい。
【0005】
また、本願出願人は、LNG燃料船のLNG燃料タンク設置区画の下部構造にについては、例えば、既に特許第6554126号に係る開示を提案している。
特許第6554126号に提案する開示は、発明名称「自動車運搬船のガス燃料独立タンク設置構造」に係り、「LNG等のガス燃料を使用する自動車運搬船にガス燃料タンクを設置する自動車運搬船のガス燃料独立タンク設置構造を提供せんとすることを目的とするものであり、特に、上甲板ではなく、タンクトップ上への設置及びタンクトップ上に設置した際に、クリア高さに制限のある場合であっても、大径のガス燃料独立タンクを搭載可能なタンクトップレセス(凹部)構造の自動車運搬船のガス燃料独立タンク設置構造を提供せんとする」ことを目的とする発明解決課題において(同公報明細書段落番号0006参照)、「乗り込み甲板を有する自動車運搬船の当該乗り込み甲板下で周囲の車両積載倉の天井と同じ高さのクリア高さ制限のあるタンクトップ上で、かつ,機関室への燃料供給配管が最小となる船尾機関室船首側の船首壁に接する位置に配置された独立型円筒状ガス燃料タンク設置区画と、前記タンクトップ面の一部を大径の前記独立型円筒状ガス燃料タンクの径に対応して大径タンクの設置の高さを確保し、前記タンクトップ面に対し、垂直な壁形状又は所定の落とし込み角度を有する壁及び当該壁に対し、前記タンクトップ面と平行な底面を有するレセス(凹形状)と、を有した」構成とすることにより(同公報特許請求の範囲請求項1の記載等参照)、「船舶の環境規制強化に伴い、LNG(液化天然ガス)を燃料とする自動車運搬船においてもガス燃料タンクを設置することが可能となる。特に、簡単な構造調整するのみで、カーゴエリアを減少させることがなく、大径タンクの採用が可能となり、また、設置後のタンク下面の点検・メンテナンスのため、船殻構造とタンクの間にもその目的を可能とするクリアを確保することができる」等の効果を奏するものである(同公報明細書段落番号0008参照)。
【0006】
図4(A)(B)は、特許第6554126号公報に
図1(A)(B)として添付された自動車運搬船にLNG用の独立型円筒状ガス燃料タンクを設置する概略を示す側断面図及び同平面図である。
図4(A)(B)において、符号101、101は、独立型円筒状ガス燃料タンク、102は、ガス燃料タンク設置区画、103a、103bは、タンクサドル、104は、タンクコネクションスペース、105は、ガス燃料タンク設置区画の天井、1100は、自動車運搬船、1112は、上部車両積載甲板、1113は、下部車両積載倉、1114は、船員居住区、1117は、タンクトップである(なお、符号は、先行技術であることを明らかにするために、本願出願人において、3桁又は4桁に変更して説明した。)。
図4(A)(B)に示されるように、上述するガス燃料タンク設置区画102は、フラットのタンクトップ1117を有しており、タンク101の支持用のタンク架台(サドル)103a、103bを設けていた。
【0007】
図4から明らかなように、甲板下にガス燃料タンク101、101を配置するガス(LNG/LPG/AMMONIA etc)燃料船1100においては、燃料タンク設置区画102は船舶下部構造として用いられており、また、LNG等のガス燃料タンク設置区画102はフラットのタンクトップ1117を有しており、タンクの支持用のタンク架台(サドル)103a、103bを設け、LNG燃料タンク設置区画102と、これに隣接する下部車両積載艙1113とは,その間の隔壁108で水密に仕切られている。
【0008】
ところが、
図4(A)(B)に示すような甲板下にガス燃料タンク101、101を配置するガス(LNG/LPG/AMMONIA etc)燃料船1100においては、燃料タンク101、101の設置を甲板下にすることにより、損傷時復原性性能が大きく悪化することとなる。これは、仮想浸水をさせた後の最終平衡状態で船舶の姿勢が好ましくない(極端なトリム・ヒールの発生)、損傷時復原性性能が悪化することを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6554126号公報
【特許文献2】特許第5894240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本願発明は、LNG燃料船におけるLNG燃料タンク設置に際し、船舶の損傷時であっても復原性性能が大きく悪化する(浸水後の最終平衡状態においても、船舶姿勢が極端なトリム・ヒールとなる)ことなく、損傷時復原性(ダメスタ)性能が向上し、かつ、カーゴ運搬量の増大、速力・燃費改善可能なLNG燃料船のLNG燃料船の下部構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本願請求項1に係る発明は、LNG燃料船の下部構造において、LNG燃料船の船底タンクトップ上の船尾LNG燃料タンク設置区画と、船尾LNG燃料タンク設置区画内に独立型円筒状ガス燃料タンク形状に対応した2本のレセスと、2本のレセスの間に船尾LNG燃料タンク区画の縦全長に渡り、断面台形状で隣接する貨物積載艙に仕切り壁を設けることなく連通するスツールと、を有することを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、LNG燃料船の下部構造において、LNG燃料船の船底タンクトップ上の船尾LNG燃料タンク設置区画と、船尾LNG燃料タンク区画の縦全長に渡り、断面台形状で隣接する貨物積載艙に仕切り壁を設けることなく連通するスツールと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構造としたので、船舶の損傷時復原性性能が向上し、このため、カーゴ運搬量の増大、ひいては速力・燃費が改善することなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(A)(B)(C)は、実施例1に係る自動車運搬船の船舶下部構造の概略を示す図であり、
図1(A)は、側断面図、
図1(B)は、タンクトップ面図、
図1(C)は、船体縦断面図である。
【
図2】
図2(A)(B)は、実施例1に示したLNG燃料船の下部構造1が、ダメスタがよくなる原理を示す模式図である。
【
図3】
図3は、特許第5894240号公報に
図1として添付される開示発明の実施例1に係る船舶としての旅客船における後部の平面図である。
【
図4】
図4(A)(B)は、特許第6554126号公報に
図1(A)(B)として添付された自動車運搬船にLNG用の独立型円筒状ガス燃料タンクを設置する概略を示す側断面図及び同平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るLNG燃料船の下部構造を実施するための一実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0015】
図1(A)(B)(C)は、実施例1に係る自動車運搬船の船舶下部構造の概略を示す図であり、
図1(A)は、側断面図、
図1(B)は、タンクトップ面図、
図1(C)は、船体縦断面図である。
図1(A)(B)(C)において、符号1は、LNG燃料船の下部構造、2は、タンクトップ、3は、タンクトップ2上の設けるレセス、4、4は、レセス3内に設置されるLNG燃料タンク、5は、船尾LNG燃料タンク区画、6は、前方に隣接する車両等の貨物積載艙(No.2HOLD)、7は、LNG燃料タンク4、4の間に配置されるスツール、8は、LNG燃料タンク設置区画5と前方に隣接する下部車両積載艙6との間を仕切り隔壁である。
【0016】
図1(A)(B)(C)に示すように、本実施例1に係るLNG燃料船の下部構造1においては、船体船尾LNG燃料タンク区画5に縦方向に2本配置されるLNG燃料タンク4,4の間に横方向断面台形状のスツール7を設けたことである。すなわち、独立型円筒状ガス燃料タンク4、4の大型化に伴い、船尾LNG燃料タンク区画5のタンクトップ2に独立型円筒状ガス燃料タンク4、4の形状に対応して2本のレセス3、3を形成し、2本のレセス3、3の間に船尾LNG燃料タンク区画5長さの断面台形状のスツール7を設け、独立型円筒状ガス燃料タンク4、4をより安定的に配置するようにしたものである。
【0017】
そして、当該スツール7は、船尾LNG燃料タンク区画5の縦全長に渡って配置されるスツール構造であり、当初は、当該船尾LNG燃料タンク区画5と、この前方に隣接する車両等の貨物積載艙(例えば、No.2HOLD)との間は、完全に水密構造の仕切り壁で仕切られていた。
しかしながら、本実施例1に係るLNG燃料船の下部構造1においては、スツール7と前方に隣接する車両等積載艙6との間の仕切り壁を撤廃した構造,すなわち、仕切り壁等を配置することのなく連通する開口構造としたものである。
本実施例1に係るLNG燃料船の下部構造1においては、このような構造とすることにより、極端なトリム・ヒールが発生した場合にも、損傷時復原性性能(ダメスタ性能)が悪化することがないようにしたものである。
【0018】
次に、本実施例1に係るLNG燃料船の下部構造1が、ダメスタ性能が向上する動作原理について説明する。
図2(A)(B)は、実施例1に示したLNG燃料船の下部構造1が、ダメスタがよくなる原理を示す模式図である。
図2(A)(B)において、符号10は、LNG燃料船、11a、11bは、係船デッキの開口孔、12は、BOSUN STORE(甲板長倉庫)、13は、BOW THRUSTER ROOM(バウスラスター室)、14は、海水面であり、符号4は、前述のLNG燃料タンク、5は、船尾LNGタンク区画、6は、船尾LNGタンク区画5の前方に隣接する貨物積載艙(No.2HOLD)である。
【0019】
図2(A)は、船尾LNG燃料タンク区画5及びその前方に隣接する貨物積載艙(No.2HOLD)にも浸水して船主トリムが発生した状態を示す図であり、
図2(B)は、本実施例1に係るLNG燃料船の下部構造1とすることにより、ダメスタが改善されることを示す図である。なお、
図2(A)(B)において、下方向き矢印は、それぞれ浸水の際の重心位置を示している。
図2(A)に示すように、係船デッキの開口孔11a、11bに繋がっているBOW THRUSTER ROOM(バウスラスター室)13やBOSUN STORE(甲板長倉庫)12に浸水し、船尾LNG燃料タンク区画5及びその前方に隣接する貨物積載艙(No.2HOLD)6にも浸水して船首トリムが発生すると、その浸水の際の重心位置は、貨物積載艙6の中心位置であり、これらの箇所への浸水により、さらにトリムが大きくなり、ダメスタが悪化することとなる。
【0020】
そこで、本実施例1に係るLNG燃料船の下部構造1においては、貨物積載艙(No.2HOLD)6と船尾LNG燃料タンク区画5のLNG燃料タンク4、4の間に配置されるスツール7との間に仕切りを設けることなく、浸水の際には、浸水した海水を貨物積載艙(No.2HOLD)6とスツール7に導く構造とすることにより、スツール容積分だけ浸水量を船舶後方に移動するようにして、その結果、浸水の重心位置が、
図2(B)に示すように、船舶後方(船尾側)に移動することとなる。
【0021】
すなわち、本実施例1に係るLNG燃料船の下部構造1は、船尾LNG燃料タンク区画5に設けられるLNG燃料タンク4、4間のスツール7とその前方に配置される貨物積載艙(No.2HOLD)との間に仕切り壁を設けることない構造とすることにより、浸水の際の重心位置が船尾側に移動し、浸水時におけるLNG燃料船10の最終的な姿勢が後ろ側に傾くような配置構造とすることができることとなる。
このことは、この構造とすることにより極端な船首トリムが避けられることとなり、船首側の浸水開口(前述の通風筒やエア抜き口等)が海水面14下に浸かることがなくなるため、さらなる船首部への浸水を止めることができることとなり、ダメスタ性能の改善に繋がることとなる。
上述する実施例1に係るLNG燃料船の下部構造1においては、大型化した独立型円筒状ガス燃料タンク4、4の形状に対応して、船尾LNG燃料タンク区画5内にレセス3,3を設けたが、中小径ガス燃料タンクが設置される際には、本実施例2に係るLNG燃料船の下部構造1においては、船尾LNG燃料タンク区画5内にレセスを設けることなく、船尾LNG燃料タンク区画5のタンクトップ上に縦方向全長に渡る断面台形状のスツール7であってもよく、この場合にも、当該スツールは、前方に隣接する貨物積載艙との間に仕切り壁等を配置することのない連通する開口構造のLNG燃料船の下部構造としても良い。