(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175633
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】方法、情報処理システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 49/78 20060101AFI20241211BHJP
B29C 45/76 20060101ALI20241211BHJP
B29C 49/64 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B29C49/78
B29C45/76
B29C49/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147571
(22)【出願日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2023093128
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520359240
【氏名又は名称】株式会社MAZIN
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(72)【発明者】
【氏名】内山 祐介
(72)【発明者】
【氏名】大平 倭
【テーマコード(参考)】
4F206
4F208
【Fターム(参考)】
4F206AM23
4F206AP03
4F206AP05
4F206AR03
4F206AR06
4F206JL02
4F206JL09
4F206JP01
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP30
4F206JQ88
4F206JQ90
4F208AM23
4F208AP03
4F208AP05
4F208AQ01
4F208AR03
4F208AR06
4F208LA09
4F208LB01
4F208LG03
4F208LG28
4F208LH01
4F208LH06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成形加工によって成形品を製造するための条件調整または成形品の良否判定を容易化する。
【解決手段】複数の良品の成形工程中に計測器によって計測された基準データ各々について、該基準データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、特徴量の次元を削減する第1の次元削減ステップと、該削減によって得られた複数の成分要素を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する決定ステップと、条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データ各々について、当該対象データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、該特徴量の次元を削減する第2の次元削減ステップと、該ステップによって得られた複数の成分要素を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する目的関数出力ステップと、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形加工によって成形品を製造する際に用いられる方法であって、
複数の良品の成形工程中に計測器によって計測された基準データそれぞれについて、当該基準データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第1の次元削減ステップと、
前記次元を削減することによって得られた複数の成分要素を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する決定ステップと、
条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データそれぞれについて、当該対象データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第2の次元削減ステップと、
前記第2の次元削減ステップによって得られた複数の成分要素を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する目的関数出力ステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記目的関数は、前記第2の次元削減ステップによって得られた複数の成分要素から構成されるベクトルと前記重心のベクトルとの各対応成分間の差分を式中に含む
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記目的関数の値に基づいて前記成形加工の条件調整を行うかどうか判断するか、または前記目的関数の値に基づいて成形加工の条件もしくは条件変更量を判断する判断ステップを更に有する
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記計測器はサーモカメラであり、
複数の良品、複数の不良品についてブロー成形においてヒータを通り抜けた後のプリフォームを前記サーモカメラで取得されたサーモ画像の互いに対応する画素値それぞれについて、良品群内で統計値を良品統計値として算出し、不良品群内において統計値を不良品統計値として算出する算出ステップと、
良品統計値と不良品統計値の差に基づいて、良品と不良品の差に基づいて、温度変化の感度が相対的に高い画像領域を1つ以上特定する特定ステップと、
を有し、
前記第1の次元削減ステップにおいて、複数の良品の成形工程中にサーモカメラで取得されたサーモ画像の前記特定された1つ以上の画像領域の画像データを前記基準データとして、当該データそれぞれから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減し、
前記決定ステップにおいて、当該サーモ画像それぞれから次元削減によって得られた複数の成分要素それぞれを含む複数のベクトルから重心のベクトルを決定し、
前記第2の次元削減ステップにおいて、条件調整用の成形品の成形工程中に前記サーモカメラによって取得されたサーモ画像の前記特定された1つ以上の画像領域のデータそれぞれから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減し、
前記目的関数出力ステップにおいて、第2の次元削減ステップによって得られた成分要素それぞれを含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて前記成形加工の条件調整を行うための目的関数の値を出力する
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記目的関数の値に基づいて前記ヒータの条件調整を行うかどうか判断するか、または前記ヒータの条件もしくは条件変更量を判断する判断ステップを更に有する
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記目的関数の値に基づいて条件調整対象の成形品の良否を判断する判断ステップを更に有する
請求項1、2、4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記計測器は、いずれかのキャビティに設けられたセンサと、金型内のキャビティに至る経路もしくは射出ユニットに設けられたセンサである
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記計測器は、各キャビティに1つずつ設けられたセンサと、金型内の各キャビティに至る共通の経路もしくは射出ユニットに設けられたセンサである
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
成形加工によって成形品を製造する際に用いられる情報処理システムであって、
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサは、
複数の良品の成形工程中に計測器によって計測された基準データそれぞれについて、当該基準データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第1の次元削減ステップと、
前記次元を削減することによって得られた複数の成分要素を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する決定ステップと、
条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データそれぞれについて、当該対象データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第2の次元削減ステップと、
前記第2の次元削減ステップによって得られた複数の成分要素を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する目的関数出力ステップと、
を実行する情報処理システム。
【請求項10】
成形加工によって成形品を製造する際に用いられるプログラムであって、
複数の良品の成形工程中に計測器によって計測された基準データそれぞれについて、当該基準データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第1の次元削減ステップと、
前記次元を削減することによって得られた複数の成分要素を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する決定ステップと、
条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データそれぞれについて、当該対象データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第2の次元削減ステップ、
前記第2の次元削減ステップによって得られた複数の成分要素を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する目的関数出力ステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形加工によって成形品を製造するための条件調整を行う方法、情報処理システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な成形加工(例えば射出成形、フィルム加工、プレス加工など)が行われている。例えば射出成形では金型内に樹脂を射出して成形することによって成形品を生産することが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成形加工(例えば射出成形、フィルム加工、プレス加工など)の条件調整では、良品である基準センサデータのサンプリング点と取得したセンサデータのサンプリング点との差を算出し、サンプリング点間の差を指標として、差を最小化するように条件調整を行う補方法が考えられる。具体的には基準センサデータの全サンプリング点に取得したセンサデータの波形全サンプリング点を合わせにいく方法が考えられる。この方法ではセンサデータの全体の形状のみに基づいて条件調整が行われる。しかし、基準センサデータからのずれがあったとしても、ずれている部分が実際には生産品の品質に影響がない場合があり、条件調整を行うかどうかの判定が難しい。またどこまで基準センサデータに近づければ良品と判断するかの見極めが難しい。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、成形加工によって成形品を製造するための条件調整または成形品の良否判定を容易化することを可能とする方法、情報処理システム及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る方法は、成形加工によって成形品を製造する際に用いられる方法であって、複数の良品の成形工程中に計測器によって計測された基準データそれぞれについて、当該基準データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第1の次元削減ステップと、前記次元を削減することによって得られた複数の成分要素を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する決定ステップと、条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データそれぞれについて、当該対象データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該
複数の特徴量の次元を削減する第2の次元削減ステップと、前記第2の次元削減ステップによって得られた複数の成分要素を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する目的関数出力ステップと、を有する。
【0007】
本発明の第2の態様に係る方法は、第1の態様に係る方法であって、前記目的関数は、前記第2の次元削減ステップによって得られた複数の成分要素から構成されるベクトルと前記重心のベクトルとの各対応成分間の差分を式中に含む。
【0008】
本発明の第3の態様に係る方法は、第1または第2の態様に係る方法であって、前記目的関数の値に基づいて前記成形加工の条件調整を行うかどうか判断するか、または前記目的関数の値に基づいて成形加工の条件もしくは条件変更量を判断する判断ステップを更に有する。
【0009】
本発明の第4の態様に係る方法は、第1から3のいずれかの態様に係る方法であって、前記計測器はサーモカメラであり、複数の良品、複数の不良品についてブロー成形においてヒータを通り抜けた後のプリフォームを前記サーモカメラで取得されたサーモ画像の互いに対応する画素値それぞれについて、良品群内で統計値を良品統計値として算出し、不良品群内において統計値を不良品統計値として算出する算出ステップと、良品統計値と不良品統計値の差に基づいて、良品と不良品の差に基づいて、温度変化の感度が相対的に高い画像領域を1つ以上特定する特定ステップと、を有し、前記第1の次元削減ステップにおいて、複数の良品の成形工程中にサーモカメラで取得されたサーモ画像の前記特定された1つ以上の画像領域の画像データを前記基準データとして、当該データそれぞれから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減し、前記決定ステップにおいて、当該サーモ画像それぞれから次元削減によって得られた複数の成分要素それぞれを含む複数のベクトルから重心のベクトルを決定し、前記第2の次元削減ステップにおいて、条件調整用の成形品の成形工程中に前記サーモカメラによって取得されたサーモ画像の前記特定された1つ以上の画像領域のデータそれぞれから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減し、前記目的関数出力ステップにおいて、第2の次元削減ステップによって得られた成分要素それぞれを含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて前記成形加工の条件調整を行うための目的関数の値を出力する。
【0010】
本発明の第5の態様に係る方法は、第4の態様に係る方法であって、前記目的関数の値に基づいて前記ヒータの条件調整を行うかどうか判断するか、または前記ヒータの条件もしくは条件変更量を判断する判断ステップを更に有する。
【0011】
本発明の第6の態様に係る方法は、第1、第2、第4のいずれかの態様に係る方法であって、前記目的関数の値に基づいて条件調整対象の成形品の良否を判断する判断ステップを更に有する。
【0012】
本発明の第7の態様に係る方法は、第1~第6のいずれかの態様に係る方法であって、前記計測器は、いずれかのキャビティに設けられたセンサと、金型内のキャビティに至る経路もしくは射出ユニットに設けられたセンサである。
【0013】
本発明の第8の態様に係る方法は、第1~第6のいずれかの態様に係る方法であって、前記計測器は、各キャビティに1つずつ設けられたセンサと、金型内の各キャビティに至る共通の経路もしくは射出ユニットに設けられたセンサである。
【0014】
本発明の第9の態様に係る情報処理システムは、成形加工によって成形品を製造する際に用いられる情報処理システムであって、少なくとも一つのプロセッサを備え、前記少なくとも一つのプロセッサは、複数の良品の成形工程中に計測器によって計測された基準データそれぞれについて、当該基準データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第1の次元削減ステップと、前記次元を削減することによって得られた複数の成分要素を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する決定ステップと、条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データそれぞれについて、当該対象データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第2の次元削減ステップと、前記第2の次元削減ステップによって得られた複数の成分要素を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する目的関数出力ステップと、を実行する。
【0015】
本発明の第10の態様に係るプログラムは、成形加工によって成形品を製造する際に用いられるプログラムであって、複数の良品の成形工程中に計測器によって計測された基準データそれぞれについて、当該基準データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第1の次元削減ステップと、前記次元を削減することによって得られた複数の成分要素を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する決定ステップと、条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データそれぞれについて、当該対象データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第2の次元削減ステップと、前記第2の次元削減ステップによって得られた複数の成分要素を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する目的関数出力ステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値を用いて条件調整するので条件調整を容易化することができる。または成形品の良否を判定するための目的関数の値を用いて成形品の良否を判断するので成形品の良否判定を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】良品のケース1と、不良品のケース2~4の場合において主成分分析したときの第0主成分、第1主成分の散布図の例である。
【
図1B】良品のケース1と、不良品のケース2~4の場合の良品群の重心からの距離の例である。
【
図2】第1の実施形態における成形機の概略構成図である。
【
図3】情報処理システム4の概略構成を示すブロック図である。
【
図4】第2の実施形態の工程を説明するための模式図である。
【
図5】ヒータを通り抜けた後のプリフォームの温度分布の一例である。
【
図6】サーモ画像中のプリフォーム部分の画像領域の画素値を1列の数値に並べる処理を説明するための模式図である。
【
図7】プリフォームの良品の平均と不良品の平均の差分画像の一例である。
【
図8】第2の実施形態に係る情報処理システム4bの概略構成を示すブロック図である。
【
図9】第1の実施形態の変形例における金型の概略縦断面図である。
【
図12】第1の実施形態の変形例の実験結果の一例を示すグラフである。
【
図13A】射出ユニットの第1変形例の概略断面図である。
【
図13B】射出ユニットの第2変形例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、各実施形態について、図面を参照しながら説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0019】
本出願の発明者は、一例として以下のような工程を踏むことによって、製品の良否という定性的な指標を定量的な指標である目的関数に落とし込み、目的関数に基づいて成形加工の条件調整を行うかどうかを判断もしくは目的関数に基づいて条件変更量を判断することで、製品の良否に影響のない波形ずれに対して条件調整が行われるのを回避することに着想した。
【0020】
(1:第1主成分分析ステップ)複数の良品の成形工程中に計測器(例えば、圧力センサまたはサーモグラフィなど)によって計測された基準データそれぞれについて、当該基準データから製品の良否に関連する複数(N個)の特徴量(例えば、最大圧力、面積など)を抽出して、当該複数の特徴量を主成分分析する。
(2:決定ステップ)主成分分析によって得られた複数(M(≦N)個)の主成分要素を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する。
(3:第2主成分分析ステップ)条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データそれぞれについて、当該対象データから製品の良否に関連する複数(N個)の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量を主成分分析する。
(4:目的関数出力ステップ)第2主成分分析ステップで得られた複数(M(≦N)個)の主成分要素を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて成形加工の条件調整を行うための目的関数の値を出力する。
(5:判断ステップ)目的関数の値に基づいて前記成形加工の条件調整を行うかどうか判断するか、もしくは前記目的関数の値に基づいて条件変更量を判断する。この判断は人が行ってもよいし後述するプロセッサが行ってもよい。
【0021】
ここで、目的関数は例えば、第2主成分分析ステップによって得られた複数の主成分要素から構成されるベクトルと前記重心のベクトルとの各対応成分間の差分を式中に含む。これにより、各対応成分間の差分を目的関数に含むことにより、条件調整対象の成形品の複数の主成分が、良品の複数の主成分に近いかどうかを評価することができる。このため、目的関数の値に基づいて成形加工の条件調整を行うかどうか判断するか、もしくは目的関数に基づいて条件変更量を判断することができる。
【0022】
具体的には例えば目的関数は、ベクトル間の距離であってもよいし、ベクトル間の統計上の距離であってもよい。以降の説明及び実施例では一例として目的関数は、条件調整対象の成形品から得られた複数の主成分要素を含むベクトルと前記複数の良品から得られた複数の主成分要素を含むベクトルの重心のベクトル(以下、良品群の重心ともいう)との間の距離であるとして説明する。また成形加工は例えば射出成形、フィルム加工、プレス加工などであるが、以降の説明及び実施例では一例として成形加工は射出成形であるとして説明する。
【0023】
図1Aは、良品のケース1と、不良品のケース2~4の場合において主成分分析したときの第0主成分、第1主成分の散布図の例である。
図1Bは、良品のケース1と、不良品のケース2~4の場合の良品群の重心からの距離の例である。
図1Aに示すように、不良品のケース2の分布は、不良品のケース3、4の分布より良品のケース1の分布に近い傾向にある。
図1Bに示すように、不良品のケース2は、不良品のケース3、4より良品群の重心からの距離が近く、良品のケース1の良品群の重心からの距離に近い。このように、主成分要素の分布の近さを良品群の重心からの距離に変換することによって、良品群の
重心からの距離を基準に、前記成形加工の条件調整を行うかどうか判断するか、または条件もしくは条件変更量を判断することができる。
【0024】
<第1の実施形態>
図2は、第1の実施形態における成形システムの概略構成図である。第1の実施形態における成形システム100は、成形機1、計装アンプ2、A/Dコンバータ3、情報処理システム4、成形条件(例えば、樹脂を金型に注入する際の速度、圧力、温度など)を制御するための制御装置5、を有する。
【0025】
成形機1は、溶かした樹脂(プラスチック)を金型へ流し入れ、冷やして固め、取り出すことで様々なプラスチック製品を作る機械である射出成形機である。成形機1は、材料の樹脂等を熱で溶かして金型に注入するための射出ユニット10、金型の開閉を行う型締めユニット20を有する。
【0026】
図2に示すように、射出ユニット10は、中空のシリンダ11、ホッパ12、スクリュー13、逆流防止弁14、ヒータ15、ノズル16、モータ17等を備える。ホッパ12は、成形材料(例えば粒状の成形材料であるペレット)の投入口である。スクリュー13は、シリンダ11の内部に配置され、回転可能かつシリンダ11の軸方向へ移動可能に設けられている。ノズル16は、シリンダ11の先端に設けられた射出口であり、スクリュー13の軸方向移動によって、シリンダ11の内部の溶かした樹脂を、金型22のキャビティに供給する。
【0027】
型締めユニット20は、装着された金型の開閉動作を行うと共に、金型を締め付けた状態において、金型のキャビティ(成形品部)に射出された溶かした樹脂の圧力により金型が開かないようにする。型締めユニット20は、固定盤、可動盤、タイバー21、駆動装置等を備える。金型は固定側の第一金型と第二金型を有し、固定盤には固定側の第一金型が固定されている。固定盤には、上記のノズル16に当接可能であって、ノズル16から射出される樹脂を金型のキャビティへ導く。キャビティは、第一金型と第二金型との間に形成され、製品形状に対応する領域である。可動盤には、可動側の第二金型が固定されており、固定盤に対して接近および離間可能である。タイバー21は、可動盤の移動を支持する。駆動装置は、例えば、シリンダ装置によって構成されており、可動盤を移動させる。第一金型は、ノズルからキャビティまでの間に供給路を備える。なお、3プレート金型等も同様に適用可能である。
【0028】
制御装置5は、成形条件に関する指令値(パラメータ)に基づいて、射出ユニット10のモータ17および型締めユニット20の駆動装置を制御する。
【0029】
成形機1の型締めユニット20には、型内圧などの金型内データを取得するセンサ23を備えた金型22が設置される。センサ23は例えば、溶かした樹脂から受ける金型内圧力を検出する圧力センサであり、例えば、ロードセル等である。この場合、型内圧などのキャビティ内データを取得することができるセンサであれば種類やデータ通信方法は問わなく、その設置位置も任意である。例えば、金型を作製する際に、金型自体にセンサを埋め込むか、キャビティに触れる態様でセンサが設けられて入れば、型内圧などのキャビティ内データは取得可能である。なお、センサ23の取り付け位置は金型内データを取得
することが可能であれば特に限定されなく金型の内部外部を問わず任意である。
【0030】
センサ23は、データ取得部としての計装アンプ2、A/Dコンバータ3等を介して、情報処理システム4にセンシングデータを送る。
【0031】
情報処理システム4は、成形加工(例えば射出成形、フィルム加工、プレス加工など)によって成形品を製造するための条件調整を行うために設けられている。情報処理システム4は例えば、産業用PC(パーソナルコンピューター)であり、制御部・計算部としての演算装置であるプロセッサ(例えば、CPU:Central Processing Unite)等、ROM(Read Only Memory)・RAM(Random Access Memory)等、公知の入出力手段を備え、記憶部として所定の記憶装置を内蔵又は外付けHDD等として備えている。情報処理システム4は例えば、成形加工の条件調整を行うと判断した場合、制御装置5が再度、成形条件を制御するように指令してもよい。また情報処理システム4は例えば、条件変更量を判断した場合、制御装置5がこの条件変更量で成形条件を変更するように指令してもよい。
【0032】
図3は、情報処理システム4の概略構成を示すブロック図である。
図3に示すように、情報処理システム4は、入力部41、出力部42、記憶部43、通信部44、プロセッサ45を備える。入力部41は例えば、ユーザからの入力を受け付ける。出力部42は例えば、表示装置(図示せず)に映像信号を出力する。記憶部43には、プロセッサ45が読み出して実行するプログラムが格納されている。通信部44は例えば有線または無線によって通信する。
【0033】
プロセッサ45は、記憶部43からプログラムを読みだして実行することにより、第1の次元削減部451、決定部452、第2の次元削減部453、目的関数出力部454、判断部455として機能する。
【0034】
第1の次元削減部451は、複数の良品の成形工程中に計測器によって計測された基準データそれぞれについて、当該基準データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元削減をする。具体的には例えば第1の次元削減部451は、当該複数の特徴量を主成分分析する。次元削減する方法は例えば、主成分分析の他に、オートエンコーダ、カーネルPCA、または独立成分分析などであってもよい。
決定部452は、次元を削減すること(例えば主成分分析すること)によって得られた複数の成分要素(例えば主成分要素)を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する。
【0035】
第2の次元削減部453は、条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データそれぞれについて、当該対象データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元削減をする。具体的には例えば第2の次元削減部453は、当該複数の特徴量を主成分分析する。次元削減する方法は例えば、主成分分析の他に、オートエンコーダ、カーネルPCA、または独立成分分析などであってもよい。
目的関数出力部454は、第2の次元削減部453によって得られた複数の成分要素(例えば主成分要素)を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する。ここで目的関数は例えば上述した良品群の重心からの距離である。
【0036】
判断部455は例えば、目的関数の値に基づいて前記成形加工の条件調整を行うかどうか判断するか、または前記目的関数の値に基づいて成形加工の条件(例えばヒータ15の温度、モータ17のトルクなど)もしくは条件変更量を判断してもよい。具体的には例えば判断部455は目的関数(例えば良品群の重心からの距離)の値が閾値より小さければ成形加工の条件調整を行わないと判断し、一方、目的関数(例えば良品群の重心からの距離)の値が閾値以上であれば成形加工の条件調整を行うと判断してもよい。もしくは判断部455は目的関数(例えば良品群の重心からの距離)の値が大きいほど条件変更量が大
きくなるように成形加工の条件もしくは条件変更量を判断してもよい。
一方、判断部455は例えば、目的関数の値に基づいて条件調整対象の成形品の良否を判断してもよい。具体的には例えば判断部455は目的関数(例えば良品群の重心からの距離)の値が閾値より小さければ条件調整対象の成形品を良品と判断し、一方、目的関数(例えば良品群の重心からの距離)の値が閾値以上であれば条件調整対象の成形品を不良品と判断してもよい。
【0037】
この構成により、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値を用いて条件調整するので条件調整を容易化することができる。または成形品の良否を判定するための目的関数の値を用いて成形品の良否を判断するので成形品の良否判定を容易化することができる。
【0038】
<第2の実施形態>
続いて第2の実施形態について説明する。
図4は第2の実施形態の工程を説明するための模式図である。
図4に示すように第2の実施形態の成形システム100bは、第1の実施形態の成形システム100と比べて、情報処理システム4が情報処理システム4bに変更され、計測器の一例であるサーモカメラ6と、ヒータ31と、ヒータ31を制御するヒータ制御装置7が追加された構成になっている。
【0039】
図4に示すように以下のブロー成形工程によって成形品を成形する。
(工程1)射出成形でプリフォーム30を作る。
(工程2)プリフォームをヒータ31で加熱する。
(工程3)加熱したプリフォームを金型41に設置して空気を吹き込み、金型の内側に貼り付くまでプリフォームを膨らませるブロー成型を実施する。このブロー成型時に例えば延伸棒42と呼ばれる金属棒を加熱されたプリフォーム内部に入れ、延伸棒を深く挿入しつつプリフォームを垂直方向に引き伸ばし、同時に高圧空気をプリフォーム内部に吹き込んで水平方向にも伸ばすように膨らませ成形してもよい。
【0040】
図4の工程2において、ヒータの近傍にサーモカメラ6が設置され、サーモカメラ6はヒータ31を通り抜けた後のプリフォーム30の温ss度分布を取得する。情報処理システム4bは例えば、この取得した温度分布に基づいて工程3で成形される成形品の良否を予測し、良否判定の目的関数(スコアともいう、例えば距離)を用いて、ヒータの条件調整を行うか判断するか、またはヒータの条件(例えば温度、加熱時間など)もしくは条件変更料を決定してもよい。ヒータ制御装置7は、この決定された条件(例えば温度、加熱時間など)にヒータを調整する。これにより、不良品の発生頻度を抑制することができる。
【0041】
図5は、ヒータを通り抜けた後のプリフォームの温度分布の一例である。
図5に示すようにプリフォームの内部は温度が一定ではない温度分布を有する。
【0042】
プリフォームの品質を温度変化で評価するために、本願の発明者はヒータ温度を変更した際に、温度変動が大きく現れる領域は品質への寄与が大きいということを着想した。そこで、サーモ画像においてヒータ条件の変更に対して温度変化の感度が相対的に高い画像領域を対象画像領域として予め抽出する。
【0043】
図6は、サーモ画像中のプリフォーム部分の画像領域の画素値を1列の数値に並べる処理を説明するための模式図である。
図7は、プリフォームの良品の平均と不良品の平均の差分画像の一例である。
図7の例では、差分画像の画像領域R1、画像領域R2、画像領域R3が対象画像領域として示されている。
【0044】
<実施手順例>
(手順1)
図6に示すように、良品群、不良品群それぞれのサーモ画像中のプリフォームの画像領域毎(すなわちサーモ画像毎)に画素値を1列の数値に並べる。
(手順2)良品・不良品ごとにそれぞれの画素に対応する数値の一例として平均をとる。これによって、良品の平均値の数値列、不良品の平均値の数値列が生成される。なお、平均に限らず、中央値などの統計値であってもよい。
(手順3)良品の平均値の数値列、不良品の平均値の数値列との間で差をとりそれぞれの画素に戻す。これによって、例えば
図7の差分画像が生成される。
(手順4)良品と不良品の差が大きく出た画像領域を対象画像領域として抽出する。この抽出は差が閾値より大きい画像領域を抽出してもよいし、差が大きい上位K(Kは自然数)個の画像領域を抽出してもよい。
【0045】
<温度変化が大きい画像領域の数値化の一例>
手順4によって例えば、温度変化が相対的に大きい3つの画像領域が抽出されたものと
する。この場合においてサーモ画像同士の差を評価するため温度変化が相対的に大きい3つの画像領域それぞれで14個の指標を作成する。これにより、14(個)×3(画像領域)=42個の指標の組でプリフォームの状態を表現する。ここで14個の指標は、例えば画素値の最大値、最小値、平均値、分散、尖度、歪度、相関係数、エネルギー、エントロピー、スペクトログラムなどが含まれる。ここで相関係数は画像同士をずらしたときのピクセル間の相関である。エネルギーは各ピクセルの画素値を2乗して合算したものである。エントロピーは1枚の画像中のピクセルのエントロピーである。スペクトログラムは画像を2次元フーリエ変換してその絶対値を取ったものである。
【0046】
<主成分分析>
続いて42個の指標の中から寄与の大きなものを例えば主成分分析により抽出する。ここで、主成分分析は、複数のベクトル(数値の組)に対して統計処理を行ない変動の大きな要素(何番目の数値か)を抽出して並べ替える処理である。
【0047】
図8は、第2の実施形態に係る情報処理システム4bの概略構成を示すブロック図である。
図6に示すように、第2の実施形態に係る情報処理システム4bは、第1の実施形態に係る情報処理システム4に比べて、プロセッサ45がプロセッサ45bに変更されたものになっている。プロセッサ45bは、記憶部43からプログラムを読みだして実行することにより、第1の次元削減部451、決定部452、第2の次元削減部453、目的関数出力部454、判断部455bだけではなく、算出部456、特定部457として機能する。
【0048】
算出部456は、複数の良品、複数の不良品についてブロー成形においてヒータ31を通り抜けた後のプリフォーム30をサーモカメラ6で取得されたサーモ画像の互いに対応する画素値それぞれについて、良品群内で統計値(例えば平均値)を良品統計値として算出し、不良品群内において統計値(例えば平均値)を不良品統計値として算出する。
【0049】
特定部457は、良品統計値と不良品統計値の差に基づいて、良品と不良品の差に基づいて、温度変化の感度が相対的に高い画像領域を1つ以上特定する。
【0050】
第1の次元削減部451は、複数の良品の成形工程中にサーモカメラで取得されたサーモ画像の前記特定された1つ以上の画像領域の画像データを前記基準データとして、当該データそれぞれから製品の良否に関連する複数の特徴量(例えば上述した42個の特徴量)を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する(例えば当該複数の特徴量を主成分分析する)。
決定部452は、当該サーモ画像それぞれから次元を削減することによって得られた複数の成分要素(例えば主成分要素)それぞれを含む複数のベクトルから重心のベクトルを決定する。
第2の次元削減部453は、条件調整用の成形品の成形工程中に前記サーモカメラによって取得されたサーモ画像の前記特定された1つ以上の画像領域のデータそれぞれから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する(例えば当該複数の特徴量を主成分分析する)。
目的関数出力部454は、第2の次元削減部453によって得られた成分要素(例えば主成分要素)それぞれを含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する。
【0051】
判断部455bは、当該目的関数(例えば距離)の値に基づいてヒータの条件調整を行うかどうか判断するか、またはヒータの条件(例えば温度、加熱時間など)もしくは条件変更量を判断してもよい。具体的には例えば判断部455bは、当該目的関数(例えば距離)の値が閾値より小さければヒータの条件調整を行わないと判断し、一方、該目的関数(例えば距離)の値が閾値以上の場合、ヒータの条件調整を行うと判断してもよい。もしくは判断部455bは、当該目的関数(例えば距離)の値が大きいほど条件変更量が大きくなるようにヒータの条件(例えば温度、加熱時間など)もしくは条件変更量を判断してもよい。
【0052】
<状態判別>
一方、判断部455bは例えば、目的関数の値に基づいて条件調整対象の成形品の良否を判断してもよい。具体的には良品の主成分データは良品群の主成分データからの距離が近く、不良品の主成分データから遠い。よって、判断部455bは例えば、条件調整対象の成形品の主成分データと良品群の主成分データの重心からの距離に基づいて、条件調整対象の成形品の良否を判断してもよい。具体的には例えば判断部455bは条件調整対象の成形品の主成分データと良品群の主成分データの重心からの距離が閾値より小さければ条件調整対象の成形品を良品と判断し、一方、条件調整対象の成形品の主成分データと良品群の主成分データの重心からの距離が閾値以上であれば条件調整対象の成形品を不良品と判断してもよい。
【0053】
以上、各実施形態に係る情報処理システムは成形加工によって成形品を製造する際に用いられる情報処理システムであって、少なくとも一つのプロセッサを備える。
少なくとも一つのプロセッサは、複数の良品の成形工程中に計測器によって計測された基準データそれぞれについて、当該基準データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第1の次元削減ステップを実行する。
少なくとも一つのプロセッサは、次元削減することによって得られた複数の成分要素を含む複数のベクトルの重心のベクトルを決定する決定ステップを実行する。
少なくとも一つのプロセッサは、条件調整対象の成形品の成形工程中に前記計測器によって計測された対象データそれぞれについて、当該対象データから製品の良否に関連する複数の特徴量を抽出して、当該複数の特徴量の次元を削減する第2の次元削減ステップを実行する。
少なくとも一つのプロセッサは、第2の次元削減ステップによって得られた複数の成分要素を含むベクトルと前記重心のベクトルとを用いて、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値もしくは成形品の良否を判定するための目的関数の値を出力する目的関数出力ステップを実行する。
【0054】
この構成により、成形加工の条件調整を行うための目的関数の値を用いて条件調整するので条件調整を容易化することができる。または成形品の良否を判定するための目的関数の値を用いて成形品の良否を判断するので成形品の良否判定を容易化することができる。
【0055】
なお、実施形態に係る情報処理システム4、4bは一つのプロセッサを備えるとしたが、これに限らず複数のプロセッサを備えてもよく、少なくとも一つのプロセッサを備えていればよい。
また実施形態に係る情報処理システム4、4bは、オンプレミスで構築されるとして説明したが、これに限らずクラウドに構築されていてもよい。クラウドに構築される場合、情報処理システム4は、制御装置5と直接または間接的に通信するように構成されていてもよく、情報処理システム4bは、サーモカメラ6及びヒータ制御装置7と直接または間接的に通信するように構成されていてもよい。
【0056】
<第1の実施形態の変形例>
続いて第1の実施形態の変形例について説明する。本変形例では1つの金型に複数のキャビティがあって、1ショットで複数の成形品を成形する場合を想定する。この場合、比較例としては樹脂の流動性を見るために各キャビティに圧力センサを2つ以上置いて圧力センサ間の到達時間差を得ることによって、成形加工の条件調整または成形品の良否判定を行うことが考えられる。しかし、一度の射出成形で成形品が多くなると、計測器の一例である圧力センサの数が多くなってしまう問題がある。例えば64個の成形品を一度に作る場合、キャビティの数が64個になるためその2倍(すなわち128個)の圧力センサが必要になってしまい、圧力センサの数が多くなってしまう問題がある。
【0057】
上記の問題に対して本変形例では後述するように、複数の計測器を用いるがその配置を工夫する。これにより、計測器(例えば圧力センサ)を減らしたとしても、複数の計測器の間の差に関する特徴量(例えば樹脂の到達時間差)を用いることができる。
第1の実施形態では計測器(例えばセンサ、具体的には例えば圧力センサ)が1つなのに対して本変形例では計測器(例えばセンサ、具体的には例えば圧力センサ)が複数になることによって取得できる特徴量が増加する。具体的には第1の実施形態では圧力センサが1つであれば最大圧力などが特徴量として取得可能であった。本変形例では圧力センサが複数になることによってこれに加えてもしくは代えて例えば樹脂の到達時間差を特徴量として取得できる。
本変形例でも、特徴量抽出、次元削減、重心ベクトルの算出、重心からの距離の算出という手順は変わらないが、特徴量として複数の計測器(例えば圧力センサ、流量センサまたは温度センサなど)の間の差に関する特徴量(例えば樹脂の到達時間差、圧力差、流量差または温度差など)を抽出する点が異なっている。
ここでは一例として取得する特徴量を樹脂の到達時間差とし計測器は圧力センサであるものとして以下、説明する。
【0058】
本変形例では一例としてキャビティの数が4つであるものとして説明する。
図9は第1の実施形態の変形例における金型の概略縦断面図である。
図9に示すように、金型120には、射出ユニット10によって射出された溶融樹脂(プラスチック)が流れ込む空洞であるスプルー121が形成されており、スプルー121と連通する空洞であるランナー122が形成されている。
【0059】
図10は
図9のA―A断面図である。
図10に示すように金型120には、ランナー122に連通するゲート123a、123bと、ゲート123aに連通するキャビティ124a、ゲート123bに連通するキャビティ124bが形成されている。また金型120には、押し出しピン(エジェクタピン)125a、125b、125c、125dが設けられている。押し出しピン(エジェクタピン)125a、125b、125c、125dが型開き時に突き出すことで、成形後の成形品をキャビティ124a、124bから外すことができる。
【0060】
一例としてキャビティ124aに圧力センサ126が設けられている。また一例としてゲート123aに圧力センサ127が設けられている。なお、
図9のB―B断面図についても
図10と同様の形状を有している。これにより、4つのキャビティが形成されるので、
図11に示すように4つの成形品134が形成される。
【0061】
図11は成形品の一例の概略斜視図である。
図11に示すように成形品134は有底の筒状であり、
図11では上面側に底板が形成されており下面側は塞がれておらず中に空洞が形成されている。
図11に示すように、成形時にスプルー121に対応する部品131、ランナー122に対応する部品132、ゲート123aに対応する部品133aが形成される。
【0062】
本変形例の状態(1つのキャビティに1つの圧力センサ、そのキャビティに繋がるゲートに1つの圧力センサを配置し且つ他の3のキャビティにはセンサなしの状態)における実験結果について
図12を用いて説明する。
【0063】
図12は第1の実施形態の変形例の実験結果の一例を示すグラフである。
図12において縦軸は目的関数の値であり、一例として条件調整対象の成形品から得られた複数の主成分要素を含むベクトルの良品群の重心からの距離であり、横軸が射出のショット番号である。良品群の条件(通常)で射出した場合よりも、異常がある条件で射出した場合で、目的関数の値が大きくなっている。
【0064】
このように、1つのキャビティに1つの圧力センサ、ゲートに1つの圧力センサを配置し且つ他の3のキャビティにはセンサなしの状態において、目的関数の値から異常を検知することができる。
【0065】
圧力センサの配置の態様について以下の態様がある。この態様であれば、樹脂の到達時間差を計測することができる。一態様の計測器は、いずれかのキャビティに設けられた1センサと、金型内のキャビティに至る経路もしくは射出ユニット10に設けられた1センサであり、その具体的な例が(1)~(4)の態様である。これによりいずれかのキャビティの1センサと当該経路に設けられた1センサにおける到達時間差を特徴量の1つとして用いることができる。
(1)複数のキャビティのうちのいずれか1キャビティに設けられた1センサと、そのキャビティに繋がるランナーかゲート(上述の例)に設けられた1センサ
(2)複数のキャビティのうちのいずれか1キャビティに設けられた1センサと、スプルーに設けられた1センサ
(3)複数のキャビティのうちのいずれか1キャビティに設けられた1センサと、射出ユニットの射出圧を取得するセンサ(
図13Aのロードセル18参照)
(4)複数のキャビティのうちのいずれか1キャビティに設けられた1センサと、射出ユニットのノズル圧を取得するセンサ(
図13Bの圧力センサ19参照)
【0066】
別の態様に係る計測器は、各キャビティに1つずつ設けられたセンサと、金型内の各キャビティに至る共通の経路もしくは射出ユニット10に設けられた1センサであり、その具体的な例が(5)~(8)の態様である。これにより、各キャビティに設けられたセンサと各キャビティに至る共通の経路に設けられたセンサとの間の樹脂の到達時間差を特徴量の1つとして用いることができる。
(5)各キャビティに設けられた1センサと、分岐前のスプルーに設けられた1センサ
(6)各キャビティに設けられた1センサと、分岐前のランナーに設けられた1センサ
(7)各キャビティに設けられた1センサと、射出ユニットの射出圧を取得するセンサ(
図13Aのロードセル18参照)
(8)各キャビティに設けられた1センサと、射出ユニットのノズル圧を取得するセンサ(
図13Bの圧力センサ19参照)
【0067】
(1)~(4)の態様は、複数のキャビティのうちのいずれか1キャビティに設けられた1センサと、そのキャビティに繋がるランナーかゲートに設けられた1センサまたはスプルーに設けられた1センサまたは射出ユニットの射出圧を取得するセンサまたは射出ユニットのノズル圧を取得するセンサが設けられている。(1)~(4)に共通することは、他のキャビティにはセンサが配置されていないことである。これによってセンサの数を減らしつつ、成形品の不良検知ができ、その結果に基づいて条件調整または成形品の良否の判定をすることができる。ここで、他のキャビティにセンサが配置されていないにも関わらず、不良検知ができるのは、1つのキャビティにおける樹脂の流動を把握することで、ランナーを介して繋がっている金型全体における流動パターンの変化を読み取ることができるからであると考えられる。
【0068】
ここで射出ユニットの射出圧を取得するセンサは、例えば
図13Aに示すロードセル18である。
図13Aは射出ユニット10bの第1変形例の概略断面図である。ロードセル18は射出圧力を検出する圧力センサの一例である。ロードセル18はスクリュー13の端部側に設けられている。
【0069】
また射出ユニットのノズル圧を取得するセンサは、例えば
図13Bに示す圧力センサ19である。
図13Bは射出ユニットの第2変形例の概略断面図である。圧力センサ19は、シリンダ11の先端近傍に設けられており、これにより、ノズル16にかかる圧力であるノズル圧を検出することができる。
【0070】
なお、上述した実施形態で説明した情報処理システム4、4bの少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、情報処理システム4、4bの少なくとも一部の機能を実現するプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0071】
また、情報処理システム4、4bの少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0072】
さらに、一つまたは複数の情報機器によって情報処理システム4、4bを機能させてもよい。複数の情報機器を用いる場合、そのうちの1つをコンピュータとし、当該コンピュータが所定のプログラムを実行することにより情報処理システム4、4bの少なくとも1つの手段として機能が実現されてもよい。
【0073】
また、方法の発明においては、全ての工程(ステップ)をコンピュータによって自動制御で実現するようにしてもよい。また、各工程をコンピュータに実施させながら、工程間の進行制御を人の手によって実施するようにしてもよい。また、さらには、全工程のうちの少なくとも一部を人の手によって実施するようにしてもよい。
【0074】
以上、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 成形機
10、10b、10c 射出ユニット
100、100b 成形システム
11 シリンダ
12 ホッパ
13 スクリュー
14 逆流防止弁
15 ヒータ
16 ノズル
17 モータ
2 計装アンプ
20 型締めユニット
21 タイバー
22 金型
23 センサ
3 A/Dコンバータ
4、4b 情報処理システム
41 入力部
42 出力部
43 記憶部
44 通信部
45、45b プロセッサ
451 第1の次元削減部
452 決定部
453 第2の次元削減部
454 目的関数出力部
455 判断部
456 算出部
457 特定部
5 制御装置
6 サーモカメラ
7 ヒータ制御装置
120 金型
121 スプルー
122 ランナー
123a、123b ゲート
124a、124b キャビティ
125a、125b、125c、125d 押し出しピン
126、127 圧力センサ