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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175651
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】分析システム及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20241211BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20241211BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20241211BHJP
【FI】
G01N1/00 101B
G02B21/00
G01N27/62 F
G01N27/62 G
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060996
(22)【出願日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】202310666601.5
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】524131486
【氏名又は名称】チンタオ シングル-セル バイオテック シーオー エルティーディ―
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲン ヂィー
(72)【発明者】
【氏名】スン ウェンジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジー ユートン
(72)【発明者】
【氏名】ホウ シーバオ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G052
2H052
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041DA05
2G041DA09
2G041DA14
2G041DA18
2G052AA33
2G052AA36
2G052AD29
2G052CA04
2G052CA18
2G052CA45
2G052FD07
2G052GA11
2G052GA24
2G052GA32
2H052AA09
2H052AE13
2H052AF02
2H052AF14
2H052AF25
(57)【要約】
【課題】より簡単な装置構造でサンプルを迅速且つ自動的に捕捉、識別及び検出してサンプル粒子のスペクトル及びマススペクトル情報を取得でき、検出効率を向上させるとともにコストを低減する分析システム及び分析方法を提供する。
【解決手段】サンプル粒子が含まれる溶液が貯蔵される又は流れる流路系と、該流路系に向けて設置され該流路系中のサンプル粒子を捕捉する光ピンセットと、該流路系中のサンプル粒子の光学的情報を検出する光学検出器と、該流路系の後段に設置された質量分析計とを含み、該流路系において、少なくとも部分的に光ピンセットの駆動でサンプル粒子を質量分析計に搬送させる分析システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析システムであって、
サンプル粒子が含まれる溶液が貯蔵される又は流れる流路系と、
前記流路系に向けて設置され前記流路系中の前記サンプル粒子を捕捉する光ピンセットと、
前記流路系中の前記サンプル粒子の光学的情報を検出する光学検出器と、
前記流路系の後段に設置された質量分析計とを含み、
前記流路系において、少なくとも部分的に前記光ピンセットの駆動で前記サンプル粒子を質量分析計に搬送させることを特徴とする分析システム。
【請求項2】
前記サンプル粒子は細胞、細胞小器官、単細胞微生物のうちの1種又は複数種の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記流路系は、前記溶液を貯蔵する貯液器と、前記貯液器に連通する流体通路とを含み、
前記光ピンセットは、前記貯液器と前記流体通路との間を相対的に移動することにより、少なくとも部分的に光勾配力を利用して前記サンプル粒子を前記貯液器から前記流体通路に移動させることを特徴とする請求項1に記載の分析システム。
【請求項4】
前記流体通路には出口端に向かって流れる流体を有し、前記流体通路の前記出口端にはイオン化装置が設置され、前記質量分析計のイオン入口は前記イオン化装置と対向して設けられることを特徴とする請求項3に記載の分析システム。
【請求項5】
前記流路系は、
前記流体通路に形成され、且つ前記貯液器の下流に位置するノズル口と、
前記ノズル口に対応して設けられるインクジェットアクチュエータとをさらに含み、
前記サンプル粒子を有す液滴が前記ノズル口を介して1つずつ排出されることを特徴とする請求項4に記載の分析システム。
【請求項6】
前記流体通路は第1流体通路と第2流体通路を含み、前記貯液器の出口、前記ノズル口及び前記インクジェットアクチュエータはいずれも前記第1流体通路に接続され、前記イオン化装置は前記第2流体通路に接続され、前記第2流体通路には通路開口が設けられ、前記通路開口は前記ノズル口に対応して設けられ、前記ノズル口から排出された前記液滴を受けることを特徴とする請求項5に記載の分析システム。
【請求項7】
前記流路系は、前記ノズル口の下方に設けられるターゲットプレートをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の分析システム。
【請求項8】
前記イオン化装置は、エレクトロスプレーイオン源、大気圧化学イオン化イオン源、誘導結合プラズマイオン化イオン源、或いはマトリックス支援レーザー脱離イオン源であることを特徴とする請求項4に記載の分析システム。
【請求項9】
前記光学検出器は、ラマン分光計、赤外分光計、蛍光分析計、または光学顕微鏡のうちの1種又は複数種の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の分析システム。
【請求項10】
前記溶液から前記サンプル粒子を識別するための画像認識システムをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の分析システム。
【請求項11】
光ピンセットを利用して流路系に貯蔵される又は流れる溶液中のサンプル粒子を捕捉する捕捉ステップと、
前記サンプル粒子の光学的情報を検出する光学分析ステップと、
少なくとも部分的に光ピンセットの駆動で前記サンプル粒子を質量分析計に搬送させ、前記サンプル粒子のマススペクトル情報を検出するマススペクトル検出ステップと、を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項12】
前記光学分析ステップは、前記捕捉ステップと同時に行われるか、又は前記捕捉ステップの前に行われることを特徴とする請求項11に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析技術分野に関し、特に分析システム及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピンセットは、強く集光したレーザービームによって形成された光トラップであり、光勾配力を利用して細胞を捕まえ移動させることができ、ひいては細胞内部まで食い込んで細胞小器官をコントロールすることができ、細胞生物学の研究で広く利用されている。
【0003】
研究により、光ピンセットと分析機器とを組み合わせることにより、溶液から細胞を正確に捕捉するとともに、該細胞の物質組成、分子構造、分子エネルギー準位などの情報を取得することができることが発見された。これに対して、多くの研究者は、光ピンセットに基づくさまざまの分析システム及び分析方法を提案した。
【0004】
2015年に、Yinmei Liらが発表した文献「光ピンセット技術の研究現況」では、光ピンセット技術とラマンスペクトル検出技術を組み合わせてラマン光ピンセット(Raman optical tweezers)により単一細胞又は小胞のラマンシグナルを捕捉及び測定することで、細胞における物質の成分又は構造情報を得るという単一小胞を検出するラマンスペクトルが開示された。しかし、さらに分子レベルの物質組成情報を得ることができなかった。
【0005】
特許文献1には、単一細胞のサブ細胞領域を生化学的に検出及び分析するための方法及び装置が提案されており、光ピンセット技術と質量分析計とを組み合わせ、力発生器(光ピンセットなど)技術を利用して分離された細胞又は細胞小器官を捕捉、分離し、分離された細胞及び細胞小器官をマイクロ流路を介して光学やイオン化に基づく敏感検出器(質量分析計など)に搬送して検出することで、1つの装置において細胞の分離、パッケージング、搬送及び検出を完成することができる。
【0006】
Aliらは、非特許文献1において、単細胞の薬力学及び薬物動態情報を同時に提供することができる、ラマンスペクトルとマススペクトルを順次使用して標的単一細胞を選択し測定する方法を開示した。しかし、上記過程において、単一細胞に対する操作と移動はいずれも手作業を必要とし、自動化レベルが低いとともに、ラマンスペクトルと質量スペクトルとのテストスループットが互いにミスマッチし、テスト効率が大きく制限される虞がある。
【0007】
以上、単一細胞スペクトルとマススペクトルの合併分析は生物学研究、薬物開発、腫瘍治療などの分野にとって重要であるが、単一細胞のスペクトルとマススペクトル情報を自動的に検出できる単一細胞分析機器は未だなく、従来の単一細胞のスペクトル-質量分析合併分析技術は、手作業の複雑さに制限され、実施が難しく、分析効率も低く、特定の応用分野で普及することが困難である。したがって、従来の細胞分析技術の上記の問題を解決するための改良策が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許US7767435B2
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ali et al.,「Single-Cell Screening of Tamoxifen Abundance and Effect Using Mass Spectrometry and Raman-Spectroscopy」,Anal.Chem.,2019,91,2710
【発明の概要】
【0010】
従来技術の上記問題に鑑み、本発明の技術案は、より簡単な装置構造でサンプルを自動的に捕捉、識別及び検出してサンプル粒子のスペクトル及びマススペクトル情報を取得でき、検出効率を向上させるとともにコストを低減する分析システム及び分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様は、サンプル粒子が含まれる溶液が貯蔵される又は流れる流路系と、該流路系に向けて設置され該流路系中のサンプル粒子を捕捉する光ピンセットと、該流路系中のサンプル粒子の光学的情報を検出する光学検出器と、該流路系の後段に設置された質量分析計とを含み、該流路系において、少なくとも部分的に光ピンセットの駆動でサンプル粒子を質量分析計に搬送させる分析システムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
該技術案によれば、光ピンセットにより溶液から単一のサンプル粒子を捕捉してコントロールすることができ、光学検出器によりサンプル粒子を識別するとともに該サンプル粒子の光学的情報を検出することができる。使用時に、光ピンセットによってサンプル粒子を捕捉すると同時に、光学検出器によって光ピンセットに捕捉されたサンプル粒子を検出し、該サンプル粒子の光学的情報を取得することができ、又は、まず光学検出器によってサンプル粒子を検出しサンプル粒子の光学的情報を取得してから、光ピンセットによってサンプル粒子における単一のサンプル粒子を捕捉し、最後に、少なくとも部分的に光ピンセットによってサンプル粒子を移動することで単一のサンプル粒子を質量分析計に送り込んで検出することができる。この分析技術は、サンプル粒子の光学及びマススペクトル情報を自動的に検出することができ、光ピンセットを用いて直接に流路系においてサンプル粒子を捕捉しイン・サイチュ(in situ)で検出及び移動するため、サンプル粒子を手動で移送する必要がなく、光学検出器のテストスループットを質量分析計にフィットさせることができ、単一のサンプル粒子に対する識別、捕捉、コントロール及び検出のプロセスを迅速、正確、かつ自動的に完了することができる。
【0013】
本発明の好ましい技術案として、サンプル粒子は、細胞、細胞小器官、単細胞微生物のうちの1種又は複数種の組み合わせであってもよい。
【0014】
本発明の好ましい技術案として、流路系は、溶液を貯蔵する貯液器と、貯液器に連通する流体通路とを含み、光ピンセットは、貯液器と流体通路との間を相対的に移動することにより、少なくとも部分的に光勾配力を利用してサンプル粒子を貯液器から流体通路に移動させる。
【0015】
この技術案によれば、光ピンセットによって貯液器において単一のサンプル粒子を捕捉かつ固定してから、光ピンセットと流路系との相対移動により、光ピンセットが流路系において作った光トラップが変位し、光トラップに固定されたサンプル粒子も光勾配力の駆動下で流体通路内に移動させる。貯液器と流体通路を別々に設置することにより、分離及び識別されていないサンプル粒子が溶液とともに質量分析計に流入することを避けることができる。一方、光勾配力を利用してサンプル粒子を貯液器から流体通路に搬送することにより、搬送前又は搬送中に該サンプル粒子の光学的情報を取得することができる。
【0016】
本発明の好ましい技術案として、流体通路には出口端に向かって流れる流体を有し、流体通路の出口端にはイオン化装置が設置され、質量分析計のイオン入口はイオン化装置と対向して設けられる。
【0017】
この技術案によれば、光ピンセットが貯液器と流体通路の入口で移動し単一のサンプル粒子を流体通路の入口に送り込むだけで、サンプル粒子が流体通路において流体とともに出口のイオン化装置に流れ、そして、イオン化されたサンプル粒子は、そのまま質量分析計のイオン入口に入って検出されることができ、光ピンセットの搬送距離を短縮させることができる。流体によってサンプル粒子を搬送することで、サンプル粒子の分離、識別及び光学検出を完成することを保証した上で、サンプル粒子の搬送速度をさらに向上させ、流路系におけるサンプル粒子の搬送スループットを増加させ、分析システムの検出効率を向上させることができる。
【0018】
本発明の好ましい技術案として、流路系は、流体通路に形成され、且つ貯液器の下流に位置するノズル口と、ノズル口に対応して設けられるインクジェットアクチュエータをさらに含み、サンプル粒子を有す液滴がノズル口を介して1つずつ排出される。
【0019】
当該技術案によれば、単一細胞プリンター技術(Single cell printer、SCP)は、圧電インクジェットを利用して1細胞を包む微小液滴を発生させることにより、異なる細胞個体に対する分離を実現し、検出スループットを顕著に向上させることができるが、プリント過程において細胞に対して位置決めやスクリーニングを行うことができないため、空液滴又は複数の細胞が含まれる液滴が発生する場合がある。一方、流路系の上流に光ピンセットと光学検出器を有し、貯液器におけるサンプル粒子が捕捉、分離、識別及び検出された後、光ピンセットにより流体通路に搬送されることにより、光ピンセットの搬送速度及びインクジェットアクチュエータのプリント速度を設定することで単一のサンプル粒子が含まれる液滴をノズル口から1つずつ排出させることができる。
【0020】
本発明の好ましい技術案として、流体通路は第1流体通路と第2流体通路を含み、貯液器の出口、ノズル口及びインクジェットアクチュエータはいずれも第1流体通路に接続され、イオン化装置は第2流体通路に接続され、第2流体通路には通路開口が設けられ、当該通路開口はノズル口に対応して設けられ、ノズル口から排出された液滴を受ける。
【0021】
この技術案によれば、インクジェットアクチュエータによってプリントされて形成した単一のサンプル粒子が含まれる液滴は、ノズル口から第2流体通路の通路開口に入り、第2流体通路においてイオン化されることで、相互影響がなく単一のサンプル粒子は単一の液滴においてイオン化されることができ、イオン化された単一のサンプルイオンはそのまま第2流体通路から質量分析計に入って検出されるため、より迅速かつ正確になる。特に、第2流体通路はナノジェットチップ(Nano-tip)として形成されてもよく、電極を介してサンプル液滴に高電圧(1-5kV)を印加する。高電圧電場の作用で、単一のサンプル粒子が含まれる液滴が第2流体通路の先端から噴出されてエレクトロスプレーになり、エレクトロスプレー中のサンプルイオンが質量分析計のサンプリング口に入る限り、マススペクトル検出を行うことができる。
【0022】
本発明の好ましい技術案として、流路系は、ノズル口の下方に設けられるターゲットプレートをさらに含む。
【0023】
この技術案によれば、インクジェットアクチュエータによってプリントされて形成した単一のサンプル粒子が含まれる液滴は、ノズル口からターゲットプレートに滴下され、1つのターゲットプレートには複数の液滴が同時に配列することができ、それによりターゲットプレート上の複数の液滴に対してイオン化した後にマススペクトル検出を行うことができ、特に、液滴が配列されたターゲットプレートはそのままマトリックス支援レーザー脱離イオン化装置のターゲットプレートとし、マトリックス支援レーザー脱離イオン化装置においてイオン化を完成することができる。
【0024】
本発明の好ましい技術案として、イオン化装置は、エレクトロスプレーイオン源(ESI)、大気圧化学イオン化イオン源(APCI)、誘導結合プラズマイオン化イオン源(ICP)、又はマトリックス支援レーザー脱離イオン源(MALDI)である。
【0025】
本発明の好ましい技術案として、光学検出器は、ラマン分光計、赤外分光計、蛍光分析計又は光学顕微鏡のうちの1種又は複数種の組み合わせである。
【0026】
本発明の好ましい技術案として、分析システムは、溶液からサンプル粒子を識別するための画像認識システムをさらに含む。
【0027】
この技術案によれば、画像認識システムにより、サンプル粒子を捕捉する前に、溶液中のサンプル粒子を広範囲で選別及び識別することができ、光ピンセットによるサンプル粒子の捕捉効率及び光学検出器の検出速度をさらに向上させる。
【0028】
本発明の第2態様は、
光ピンセットを利用して流路系に貯蔵される又は流れる溶液中のサンプル粒子を捕捉する捕捉ステップと、
前記サンプル粒子の光学的情報を検出する光学分析ステップと、
少なくとも部分的に光ピンセットの駆動で前記サンプル粒子を質量分析計に搬送させ、前記サンプル粒子のマススペクトル情報を検出するマススペクトル検出ステップと、を含む分析方法を提供する。
【0029】
本発明の好ましい技術案として、前記光学分析ステップは、前記捕捉ステップと同時に行われるか、又は前記捕捉ステップの前に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態における分析システムの構造模式図である。
図2】本発明の実施形態における好ましい分析システムの構造模式図である。
図3】本発明の好ましい実施形態における分析システムの構造模式図である。
図4】本発明の別の好ましい実施形態における分析システムの構造模式図である。
図5】本発明の実施形態における分析方法の第1種の作動方式のフローチャートである、
図6】本発明の実施形態における分析方法の第2種の作動方式のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のいくつかの実施形態を、図面を参照しながら説明する。当業者が理解すべきことは、これらの実施形態が本発明の技術的原理を説明するためだけに使用され、本発明の保護範囲を制限するものではない。
【0032】
[第1実施形態]
図1は本実施形態における分析システムの構造模式図である。図1に示すように、当該分析システムは、流路系100、光ピンセット200、光学検出器300、及び質量分析計400を含む。
【0033】
ここで、流路系100の具体的な形状構造は限定されず、例えば、内部に流体を収容するハウジング構造であってもよく、又は表面に凹溝流路を有する板状構造に形成されてもよい。流路系100に貯蔵又は流れる流体は、少なくともサンプル粒子10を含む溶液を含み、サンプル粒子10は溶液内に浮遊し、流路系100は、該溶液が貯蔵又は流れる箇所において、光束が通過可能な光透過構造に形成される。
【0034】
光ピンセット200は、1つ又は複数のレーザー発生器21を含み、流路系100における流体に向かって1つ又は複数の強く集光したレーザーを発射し、流体においての1つ又は複数のレーザーの集光位置に光トラップを形成し、該光トラップに位置する単一粒子(溶液における全ての粒子、サンプル粒子10を含む)が光勾配力によって拘束されることにより光トラップに固定され、これにより、溶液における単一粒子の分離及び捕捉を実現する。また、光ピンセット200と流路系100の相対移動により、光トラップの流路系100における位置を変更することができ、光トラップ内の粒子が光勾配力の拘束によって横方向に移動し、即ち、光ピンセット200が粒子を駆動して流路系100に対して移動させることにより、流路系100内で光勾配力による粒子搬送を実現する。
【0035】
光学検出器300は、粒子の光学的情報を検出することで溶液中の粒子又は光ピンセット200に捕捉された粒子を識別、光学的に検出することができ、光学検出器300は、例えば、ラマン分光計、赤外分光計、蛍光分析計又は光学顕微鏡のうちの1種又は複数種の組み合わせのような、単一又は複数のサンプル粒子10を識別、検出することができる任意の機器であってもよい。好ましくは、光学検出器300はラマン分光計であり、光ピンセット200はラマン分光計の検出光源とすることができ、光ピンセット200がサンプル粒子10を捕捉する際に、ラマン分光計は光ピンセット200のレーザービームとサンプル粒子10との間の散乱スペクトルに基づいてサンプル粒子10の物質成分と物質の分子構造情報を得ることができる。これにより、装置の構造がより簡単になり、検出プロセスもより迅速で正確になる。
【0036】
質量分析計400は、流路系100の後段に設けられ、例えば、流体が流れる流路系100の場合、質量分析計400は、イオン化されたサンプル粒子10を受け入れ、サンプル粒子10の物質組成を検出するように、流体の流れ経路の末端に設けられてもよい。
【0037】
なお、本実施形態におけるサンプル粒子10は、イオン、中性粒子、単一細胞、細胞小器官、単一細胞微生物などの任意の光ピンセットに捕捉可能な粒子であってもよく、ここでは特に限定されないが、好ましくは、サンプル粒子10は、細胞、細胞小器官、単細胞微生物のうちの1種又は複数種の組み合わせであってもよく、それにより、本実施形態に係る分析システムは、自動の単一細胞多次元分析機器として、単一細胞総合分析の技術的難易度及び実施コストを低減させるとともに分析速度を向上させることができる。薬物開発、腫瘍治療分野に応用される場合、スペクトル情報とマススペクトル情報は、それぞれ単一細胞の薬力学及び薬物動態学情報を提供し、ハイスループット薬剤感受性スクリーニングを実現し、腫瘍細胞の異質性の問題を克服し、抗癌剤の研究開発を加速することができる。生物学研究などの分野に応用される場合、スペクトル又は免疫蛍光を判断の根拠として、膨大な数の細胞集団から特殊細胞を迅速かつ正確に特定することができ、また、光ピンセット200の操作により、溶液中の全ての粒子を必要に応じて選択し、特定細胞に対する質量分析を迅速かつ自動的に完了することができ、例えば、大量の正常細胞から循環腫瘍細胞を迅速かつ正確にスクリーニング、分析することができる。
【0038】
具体的には、サンプル粒子10を含む溶液は、流路系100に貯蔵され又は流れており、光ピンセット200のレーザー発生器21は、流路系100に向けてレーザービームを発射し、レーザービームは、流路系100に集光して光トラップを形成し、溶液において単一のサンプル粒子10を捕捉、固定する。さらに、光学検出器300は、溶液中のサンプル粒子10又は光ピンセット200に捕捉されたサンプル粒子10に対して識別及び検出分析を行い、捕捉されたサンプル粒子10の光学的情報(物質組成、物質構造など)を提供し、光学検出器300の検出結果に基づいて、光ピンセット200は、適切なサンプル粒子10を選別、捕捉し、その後、光ピンセット200による光勾配力を利用して単一のサンプル粒子10を駆動して流路系100に搬送させて、単一のサンプル粒子10が後段の質量分析計400に流入してさらに質量分析を行う。
【0039】
本実施形態において、光ピンセット200は溶液から単一のサンプル粒子10を捕捉、搬送することができ、且つ光ピンセット200が単一のサンプル粒子10を捕捉、搬送すると同時又はその前に、光学検出器300によってサンプル粒子10の光学的情報を識別、検出することができ、それにより光学検出器300を利用して溶液中の粒子を優先的に検出することができるため、光ピンセット200によって溶液から単一の目標サンプル粒子を選択的に捕捉することが便利になる。さらに、少なくとも部分的に光ピンセット200を利用してサンプル粒子を横方向に移動させ、単一のサンプル粒子10を質量分析計400に送り込んで検出することができる。光ピンセット200を利用してサンプル粒子を直接に捕捉しイン・サイチュで検出及び移動するため、サンプルを手動で移送する必要がなく、光学検出器300のテストスループット量分析を質量分析計にフィットさせることができ、サンプル粒子10に対する識別、捕捉、コントロール及び検出のプロセスを迅速、正確、かつ自動的に完了することができる。
【0040】
特に、本実施形態の分析システムは、1回の分析プロセスで単一サンプル粒子10に対する光学的情報の検出とマススペクトル情報の検出を共に完了することができるため、単一サンプル粒子10の光学的性質と組成を同時にモニタリングすることができ、特に、単一細胞薬物スクリーニングにおいて、単一細胞レベルの薬物動態学と薬力学を同時にモニタリングすることができる。
【0041】
図2は本実施形態における好ましい分析システムの構造模式図である。
【0042】
好ましい実施形態として、図2に示すように、流路系100は、サンプル粒子10を含む溶液を貯留する貯液器11と、貯液器11に連通する流体通路12とを含む。
【0043】
ここで、流体通路12と貯液器11はいずれも光透過性構造に形成され、流体通路12は流体入口121と流体出口122を有し、流体入口121にサンプル粒子10を含まない媒体溶液が連続的に導入され、流体出口122にはイオン化装置13、及び該イオン化装置13に対応して設置された質量分析計400のイオン入口41が設けられる。イオン化装置13はエレクトロスプレーイオン源、大気圧化学イオン化源、誘導結合プラズマイオン化源、又はマトリックス支援レーザー脱離イオン源であってもよい。エレクトロスプレーイオン源を例として、流体通路12の流体出口122はエレクトロスプレーイオン源のジェットチップの先端であってもよく、流体が該先端から噴出された後、電極の作用でイオン化され、イオン化したサンプル粒子10は質量分析計400のイオン入口41から質量分析計400のイオン入口41に入って検出される。
【0044】
貯液器11は、流体通路12の中部(流体入口121及び流体出口122を除く箇所)の貯液器連通口123に連通しており、貯液器11内の溶液は、外力による駆動がないときには、相対的に静止して貯液器11内に貯留される。貯液器11及び流体通路12を別々に設置することにより、分離及び識別されていないサンプル粒子10が溶液とともに流路系100の後段の質量分析計400に流入することを避けることができ、さらに、貯液器11内の溶液が静止したままであると、溶液の乱れが光ピンセット200の拘束力に影響することを回避することもできる。
【0045】
具体的には、貯液器11におけるサンプル粒子10を捕捉及びコントロールする時に、光ピンセット200は貯液器11における溶液に向けてレーザービームを発射して、貯液器11の溶液において単一のサンプル粒子10を捕捉、固定し、その後、光ピンセット200と流路系100との相対移動により、好ましくは、光ピンセット200のレーザー発生器21は不動のまま、流路系100が移動することで、光ピンセット200が流路系100において作った光トラップを貯液器11から流体通路12内にゆっくりと移動させ、光トラップに拘束されたサンプル粒子10はそれに伴って流体通路12内に移動し、流体通路12内で持続的に流れる媒体溶液に運ばれて流体出口122に向かって流れ、流体出口122でイオン化され、イオン化したサンプル粒子10は下段の質量分析計400に入ってマススペクトル検出を行う。
【0046】
本実施形態において、光ピンセット200が貯液器11においてサンプル粒子10を捕捉した後、貯液器11と流体通路12との貯液器連通口123のところで移動するだけで、単一のサンプル粒子10が流体通路12の貯液器連通口123に搬送され、流体通路12において流体通路12における媒体溶液につれて流体出口122にあるイオン化装置13まで流れる。そして、イオン化されたサンプル粒子10がそのまま質量分析計400のイオン入口41に入って検出される。これにより、光ピンセット200の搬送距離が短縮され、また、流体によってサンプル粒子10を搬送することで、サンプル粒子10の分離、識別及び光学検出の完成を保証した上で、サンプル粒子10の搬送速度をさらに向上させ、流路系100におけるサンプル粒子10の搬送スループットを増加させ、分析システムの検出効率を向上させることができる。
【0047】
別の実施形態として、図3に示すように、流体通路12は、第1流体通路12aと第2流体通路12bとを含む。
【0048】
そのうち、第1流体通路12aには、流体入口121、貯液器連通口123及びノズル口124が順次形成され、第1流体通路12a内の流体は、流体入口121から流入し、かつ貯液器連通口123を流れる際に光ピンセット200によって搬送されたサンプル粒子10を担持してからノズル口124から流出する。ノズル口124は、流体通路12に開口された貫通孔であり、ノズル口124に対向する位置には、流体通路12内の流体を液滴にプリントするためのインクジェットアクチュエータ125が設けられる。これにより、第1流体通路12a内のサンプル粒子10を担持している流体は、インクジェットアクチュエータ125によって単一のサンプル粒子10を包む液滴としてプリントされ、ノズル口124から液滴の形態で第1流体通路12aから1つずつ流出する。
【0049】
ノズル口124から1つずつ排出されたサンプル粒子10を包んだ液滴を受けるように、第2流体通路12bには、ノズル口124を挟んでインクジェットアクチュエータ125と対向する通路開口126を有する。また、第2流体通路12bの末端は、エレクトロスプレーイオン源としてのイオン化装置13である。第2流体通路の末端における気圧が通路開口126よりも低く、気圧差によってサンプル粒子10を溶液とともにイオン化装置13へ流動させる。第2流体通路12bの末端は、ナノジェットチップ(Nano-tip)として形成され、電極を介してサンプル粒子10に高電圧(1-5kV)を印加する。高電圧電場の作用下で、単一のサンプル粒子10が含まれる液滴が第2流体通路12bの先端から噴出されてエレクトロスプレーになり、エレクトロスプレー中のサンプルイオンが質量分析計400のイオン入口41に入る限り、マススペクトル検出を行うことができる。
【0050】
本実施形態において、流路系100の上流には、光ピンセット200と光学検出器300を有し、貯液器11におけるサンプル粒子10が捕捉、分離、識別及び検出された後、光ピンセット200により流体通路12に搬送されることにより、光ピンセット200の搬送速度とインクジェットアクチュエータ125のプリント速度を設定することで単一のサンプル粒子10が含まれる液滴をノズル口124から1つずつ排出させることができる。インクジェットアクチュエータ125によってプリントされて形成した単一のサンプル粒子10が含まれる液滴は、ノズル口124から第2流体通路12bの通路開口126に入り、第2流体通路12bにおいてイオン化されることで、相互影響がなく単一のサンプル粒子10は単一の液滴においてイオン化されることができ、イオン化された単一のサンプルイオンは、そのまま第2流体通路12bから質量分析計400に入って検出されるため、より迅速かつ正確である。
【0051】
別の実施形態として、図4に示すように、流路系100は、ターゲットプレート127をさらに含み、ターゲットプレート127は、ノズル口124の下方に設けられる。インクジェットアクチュエータ125によってプリントされて形成した単一のサンプル粒子10が含まれる液滴は、ノズル口124からターゲットプレート127に滴下され、1つのターゲットプレート127には複数の液滴が同時に配列することができ、それによりターゲットプレート127上の複数の液滴に対してイオン化した後にマススペクトル検出を行うことができる。
【0052】
特に、液滴が配列されたターゲットプレート127はそのままマトリックス支援レーザー脱離イオン化装置のターゲットプレート127とし、マトリックス支援レーザー脱離イオン化装置においてターゲットプレート127上の複数の液滴のイオン化を完成することができる。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、分析システムは、溶液からサンプル粒子10を識別するための画像認識システム(図示せず)をさらに含む。画像認識システムは、光学顕微鏡、光学カメラなどの画像認識装置であってもよく、画像認識システムにより、サンプル粒子10を捕捉する前に、溶液中のサンプル粒子10をより広い範囲で識別及び選別することができ、光ピンセット200によるサンプル粒子10の捕捉効率及び光学検出器300の検出速度をさらに向上させる。
【0054】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態は、
光ピンセットを利用して流路系に貯蔵される又は流れる溶液中のサンプル粒子を捕捉する捕捉ステップS1と、
サンプル粒子の光学的情報を検出する光学分析ステップS2と、
少なくとも部分的に光ピンセットの駆動でサンプル粒子を質量分析計に搬送させ、サンプル粒子のマススペクトル情報を検出するマススペクトル検出ステップS3と、を含む分析方法を提供する。
【0055】
その中、光学分析ステップS2は、捕捉ステップS1と同時に行われるか、又は捕捉ステップS1の前に行われることが好ましい。
【0056】
なお、本実施形態における分析方法は、第1実施形態における分析システムに適用されてもよく、他の光ピンセット、光学検出器及び質量分析計が結合された分析システムに適用されてもよい。図5及び図6は、それぞれ本実施形態における分析方法の2つの作動方式を示し、ここで、第1実施形態の図2における分析システムを例として本実施形態における分析方法の2つの作動方式を説明する。
【0057】
図5に示すように、貯液器11中のサンプル粒子10に対して検出分析を行う際に、まず、光学分析ステップS2を実行する。光学検出装置が蛍光顕微鏡であることを例として、まず、蛍光により溶液中で目標サンプル粒子(単一細胞)を検出、発見する。次に、光ピンセット200が貯液器11中の溶液に向けてレーザービームを発射し、貯液器11の溶液中で単一のサンプル粒子10を捕捉、固定する捕捉ステップS1を実行する。その後、光学分析ステップS2の識別及び検出結果に基づいて、マススペクトル検出ステップS3を実行する。光ピンセット200と流路系100との間に相対移動が発生し、光学検出器300に識別されたサンプル粒子10を光勾配力の駆動下で貯液器11から流体通路12に移動させ、サンプル粒子10が流体通路12内で持続的に流れる流体に運ばれて流体出口122に向かって流れ、流体出口122でイオン化され、イオン化したサンプル粒子10が下段の質量分析計400に入って質量分析を行う。
【0058】
あるいは、図6に示すように、貯液器11におけるサンプル粒子10に対して検出分析を行う際に、まず、捕捉ステップS1を実行する。光ピンセット200によって貯液器11における溶液に向けてレーザービームを発射し、貯液器11の溶液において単一のサンプル粒子10を捕捉、固定する。捕捉ステップS1を実行すると同時に、光ピンセット200のレーザービームを検出光源とし、光学検出器300により光ピンセット200が捕捉したサンプル粒子10に対して検出分析を行い、溶液におけるサンプル粒子10を識別するとともにサンプル粒子10の光学的情報(物質組成、物質構造など)を検出する光学分析ステップS2を実行する。その後、マススペクトル検出ステップS3を実行する。流路系100との間に相対移動を発生させ、光学検出器300により識別されたサンプル粒子10は光勾配力の駆動下で貯液器11から流体通路12に移動させ、サンプル粒子10が流体通路12内で流体出口122に向かって流れ、流体出口122でイオン化され、イオン化したサンプル粒子10が下段の質量分析計400に入って質量分析を行う。
【0059】
ここまでは本発明の技術案を図面と合わせて説明したが、本発明の保護範囲がこれらの具体的な実施形態に限定されないことは、当業者にとって自明である。本発明の原理から逸脱しない前提で、当業者は、関連する技術的特徴に対して同等の変更又は置換を行うことができ、これらの変更又は置換後の態様はいずれも、本発明の保護範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
100流路系;10サンプル粒子;11貯液器;12流体通路;12a第1流体通路;12b第2流体通路;121流体入口;122流体出口;123貯液器連通口;124ノズル口;125インクジェットアクチュエータ;126通路開口;127ターゲットプレート;13イオン化装置;200光ピンセット;21レーザー発生器;300光学検出器;400質量分析計;41イオン入口
図1
図2
図3
図4
図5
図6