(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175668
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】グリッパ駆動系用の診断装置を備えたグリッパ織機
(51)【国際特許分類】
D03D 47/27 20060101AFI20241211BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20241211BHJP
D03D 47/24 20060101ALI20241211BHJP
D03D 51/44 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
D03D47/27
G01M99/00 A
D03D47/24
D03D51/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024088576
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】102023000011403
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】515355022
【氏名又は名称】イテマ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】ITEMA S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】ミネット,シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】ノッツァ,ダヴィデ
【テーマコード(参考)】
2G024
4L050
【Fターム(参考)】
2G024AD08
2G024BA27
2G024CA04
2G024CA22
2G024CA30
2G024DA09
2G024FA14
4L050AA12
4L050AB03
4L050CB02
4L050CB87
4L050EA03
4L050EA11
4L050EA16
4L050EB02
4L050EB05
4L050EB10
4L050ED23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】グリッパ駆動系を備えたグリッパ織機で、グリッパ駆動系の性能を継続的に監視し、グリッパ駆動系のあらゆる可能性のある異常を報告することが可能な診断装置を提供する。
【解決手段】グリッパ駆動系G用の診断装置を備えたグリッパ織機は、織機のグリッパの往復直線運動を引き起こす歯付きクラウンCの近傍に配置された検出装置Mと、制御ソフトウェアとを含み、検出装置は、織機の動作中に回転する歯付きクラウンの物理的形状に相関するパラメータを検出するように構成されており、制御ソフトウェアは、歯付きクラウンの電子プロファイルを構築するステップと、グリッパ駆動系の通常の動作と比較して、電子プロファイルの生じ得る異常を検出するステップと、電子プロファイルの検出された異常と、グリッパ駆動系の少なくとも1つの特定の構成要素の対応する異常との相関関係を生じさせるステップと、対応する警告信号を生成するステップとを実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリッパ駆動系(G)用の診断装置を備えたグリッパ織機であって、
前記グリッパ駆動系(G)は、織機のメインモータの回転運動を歯車(D)の支持シャフト(A)の往復回転運動に変換する運動学的な機構を含み、
前記往復回転運動が前記織機のグリッパの往復直線運動を引き起こすように構成されており、
前記診断装置は、前記支持シャフト(A)に一体化された歯付きクラウン(C)の近傍に配置された検出装置(M)と、制御ソフトウェアとを含み、
前記検出装置(M)は、前記織機の動作中に回転する前記歯付きクラウン(C)の物理的形状に相関するパラメータを検出するように構成されており、
前記制御ソフトウェアは、
前記歯付きクラウン(C)の電子プロファイルを構築するステップ(a)であって、前記電子プロファイルは、前記検出装置(M)によって検出された前記パラメータの変化をグラフ化したものであり、前記電子プロファイルは、谷部によってそれぞれ区切られた一連のピークを含み、前記ピークは前記歯付きクラウン(C)の歯を表している、ステップ(a)と、
前記電子プロファイルの生じ得る異常を検出するステップ(b)であって、前記グリッパ駆動系(G)の通常の動作に対応するように前記ピークの高さが全て同じになる状態と比べて、前記電子プロファイルが変化することで前記異常が示される、ステップ(b)と、
前記電子プロファイルの検出された前記異常と、前記グリッパ駆動系(G)の少なくとも1つの特定の構成要素の対応する異常との相関関係を、1つ以上の分析アルゴリズムによって見出すステップ(c)と、
前記少なくとも1つの特定の構成要素に対して、メンテナンス、調整、又は交換の介入を行うための対応する警告信号を発信するステップ(d)と、
を実行することを特徴とする、
診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項2】
前記電子プロファイルの異常は、前記織機の複数の作業サイクルにわたって、前記歯付きクラウン(C)の前記電子プロファイルの前記ピークの包絡線の形状が、直線(1)又は微小周期の変動を伴う線から、より広い周期の変動を伴う線(2)に変化することであり、
前記電子プロファイルの異常に対応する前記グリッパ駆動系(G)の異常は、前記歯車(D)の前記支持シャフト(A)のベアリングの故障である、
請求項1に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項3】
前記制御ソフトウェアは、前記より広い周期の変動の最大高さの初期値からの増加量が所定の閾値を超えたとき、前記ステップ(d)の前記警告信号を発信する、
請求項2に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項4】
前記電子プロファイルの異常は、前記歯車(D)の加速度が符号反転を起こす織機作業サイクル領域に対応して、前記電子プロファイルにおける第1対のピーク間の期間Δt1が、前記第1対のピークに隣接する第2対のピーク間の期間Δt2と異なることであり、
前記電子プロファイルの異常に対応する前記グリッパ駆動系(G)の異常は、前記グリッパ駆動系(G)の構成要素の遊びが過度に増大することである、
請求項1に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項5】
前記制御ソフトウェアは、前記第1対のピーク間の期間Δt1に対する前記第2対のピーク間の期間Δt2の比Δt2/Δt1が、1から設定値だけずれたとき、前記ステップ(d)の前記警告信号を発信する、
請求項4に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項6】
前記電子プロファイルの異常は、前記織機の複数の作業サイクルにわたって、前記歯付きクラウン(C)の同じ一対の歯に対応した連続する2つのピーク間の期間Δt1が増大することであり、該期間Δt1の増大は、前記歯車(D)の加速度が最大になる織機作業サイクル領域に対応して生じており、
前記電子プロファイルの異常に対応する前記グリッパ駆動系(G)の異常は、前記グリッパ駆動系(G)の構成要素間の機械的ジョイントの故障である、
請求項1に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項7】
前記グリッパ駆動系(G)の構成要素間の機械的ジョイントの前記故障は、前記支持シャフト(A)にキー止めされている前記歯車(D)の故障である、
請求項6に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項8】
前記運動学的な機構は、クランク機構を用いて前記メインモータによって往復直線運動するように駆動される摺動ブロックカーソルと、支持ベアリング上で回転自在であり、前記摺動ブロックカーソルによって往復回転運動するように駆動される可変ピッチウォームスクリューとの間のカップリングを含み、
前記摺動ブロックカーソルにヒンジ接続された摺動ブロックホルダ要素に、互いに対向する摺動ブロックの対が収容され、
前記歯車(D)は、前記可変ピッチウォームスクリューの一端にキー止めされている、
請求項1に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項9】
前記電子プロファイルの異常は、前記歯車(D)の加速度が符号反転を起こす織機作業サイクル領域に対応して、前記電子プロファイルにおける第1対のピーク間の期間Δt1が、前記第1対のピークに隣接する第2対のピーク間の期間Δt2と異なることであり
前記電子プロファイルの異常に対応する前記グリッパ駆動系(G)の異常は、前記可変ピッチウォームスクリューのねじ山における前記摺動ブロックカーソルの前記摺動ブロックの対の遊びの過度の増大、及び/又は、前記クランク機構のロッドの支持ベアリングの故障である、
請求項8に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項10】
前記制御ソフトウェアは、前記第1対のピーク間の期間Δt1に対する前記第2対のピーク間の期間Δt2の比Δt2/Δt1が、1から設定値だけずれたとき、前記ステップ(d)の前記警告信号を発信する、
請求項9に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項11】
前記電子プロファイルの異常は、前記織機の複数の作業サイクルにわたって、前記歯付きクラウン(C)の同じ一対の歯に対応した連続する2つのピーク間の期間Δt1が増大することであり、該期間Δt1の増大は、前記歯車(D)の加速度が最大になる織機作業サイクル領域に対応して生じており、
前記電子プロファイルの異常に対応する前記グリッパ駆動系(G)の異常は、前記摺動ブロックホルダ要素を前記摺動ブロックカーソルに接続するヒンジの故障である、
請求項8に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項12】
前記検出装置(M)は、光学センサ、電子センサ、又は磁気センサを含む、
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項13】
前記磁気センサは、
前記歯車(D)の前記歯付きクラウン(C)の近傍に磁場を形成する磁石と、
前記磁石によって誘導され、前記歯付きクラウン(C)の回転によって変更される磁束を、前記歯付きクラウン(C)の物理的形状に相関する前記パラメータとして検出する磁力計(M)とを含む、
請求項12に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項14】
前記磁力計(M)は、ホール効果センサである、
請求項13に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項15】
前記歯付きクラウン(C)の前記電子プロファイルの異常が、構成要素の差し迫った破損の可能性を示唆する故障に相関しているとき、前記診断装置の前記制御ソフトウェアは、前記織機の動作を停止し、同時に、前記ステップ(d)の前記警告信号を発信する、
請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【請求項16】
前記歯付きクラウン(C)は、前記歯車(D)の歯付きクラウン(C)である、
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の診断装置を備えたグリッパ織機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリッパ駆動系用の診断装置を備えたグリッパ織機に関する。特に、本発明は、グリッパ織機において、グリッパ駆動系の機械部品に生じ得る機械的異常または不正確な調整を信号伝達可能な診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、グリッパ織機には、搬送グリッパと引込グリッパの往復直線運動を駆動するグリッパ駆動系が設けられている。グリッパ駆動系の駆動は、適切な運動学を通じて、織機のメインモータの回転運動を、一対の歯車の交互の回転運動に変換することによって行われる。一対の歯車は、経糸に平行なそれぞれのシャフトにキーで固定され、織機の両側に1つずつ配置されている。前記一対の歯車は、複数の軸方向スロットを備えた一対の可撓性バンド(ストラップ)を介して、上述の搬送グリッパと引込グリッパの往復直線運動を引き起こす。一対の可撓性バンドは、軸方向スロットにおいて対応する歯車の外周部に係合されたまま、適切なガイド手段によって杼口内に案内され得る。搬送グリッパと引込グリッパの往復直線運動では、搬送グリッパと引込グリッパとの間での緯糸の交換のために経糸の杼口(隙間)の中央へ向かう運動と、その逆の運動とが順に繰り返される。
【0003】
本願と同じ出願人名義の特許文献1(欧州特許第3298185号明細書)に、この種のグリッパ駆動系の一例が開示されている。特許文献1のグリッパ駆動系では、織機のメインモータの連続的な円運動が、ロッド/クランク機構によって織機のメインモータによって往復直線運動で駆動される摺動ブロックカーソルと、支持ベアリング上で回転自在な可変ピッチウォームスクリューとの間の可動カップリングによって、グリッパの往復直線運動に変換される。前記可変ピッチウォームスクリューは、前記摺動ブロックカーソルによって往復回転運動で駆動される。前記摺動ブロックカーソルにヒンジ接続されたそれぞれの摺動ブロックホルダ要素には、互いに対向する一対の摺動ブロックが収容されている。最後に、可変ピッチウォームスクリューの一端にキー止めされた歯車が、前述のように織機の一方のグリッパが固定された端部への可撓性バンド(ストラップ)の動きを駆動する。
【0004】
これらの機械要素のグループ全体(一般的には「グリッパ駆動系」、より一般的には「緯糸搬送駆動系」という)は、個々の機械部品の異常や故障、又は、不適切な調整を防ぐために注意深く保守する必要がある。これらの異常は、すぐに修正しないと、織りのエラーや、グリッパ駆動系のより深刻で広範囲にわたる故障を引き起こし得る。
【0005】
この種のグリッパ駆動系において、異常の対象となる部品は、摩耗や変動負荷を受ける部品(特に、回転シャフトの支持ベアリングや、これら部品間の様々な種類の機械的ジョイントなど)であり、望ましくない遊びの形成や構造上の故障にさらされ得る。
【0006】
しかしながら、これらの部品の直接監視は、織機を停止してグリッパ駆動系を完全に分解しない限り行えない。この種の作業は簡単な診断動作には適していないため、現行は、摩耗部品の交換、遊びや機械的接続完全性のチェックなど、定期的なメンテナンスに頼らざるを得ない。しかしながら、このような管理方法は完全に満足できるものではない。なぜなら、グリッパ駆動系を安全な状態に維持するためには、摩耗部品の耐用年数がまだ十分にある場合でも、これらの部品の予定耐用年数中に故障が絶対に発生しないという保証はなく、隠れた欠陥があり、予想よりも耐用年数が短くなる可能性があるためである。
【0007】
特許文献2(特開2000-096388号公報)は、上記のようなグリッパ駆動系を有するグリッパ織機を開示している。該グリッパ織機は、さらに、グリッパ織機の動作中にレピアバンドのたわみの度合いを検出するために、レピアバンドが歯車の外周部に巻き付く領域においてレピアバンドの近くに配置された検出装置を備えている。たわみの度合いが規定の限度を超えると、織機制御装置に警告信号が送信される。特許文献2に開示された全体的な構造は、目的は全く異なるが、本発明でも使用されており、したがって、上記の特徴は本発明の独立請求項の前提部分に含まれる。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題は、グリッパ駆動系の通常の動作を妨げることなく、すなわち織機の通常の運転中に、グリッパ駆動系の性能を継続的に監視し、グリッパ駆動系のあらゆる可能性のある異常を報告することが可能な診断装置を提供することである。
【0009】
この課題において、本発明の第1の目的は、一方では、上記のグリッパ駆動系の重要な構成要素のいずれかの異常の可能性に対する十分に敏感な「監視者」として機能しつつ、他方では、織機の運転中に、好ましくは直接接触することなく継続的に監視できるほど十分にアクセス可能なグリッパ駆動系の構成要素を特定することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、異常が発生している可能性が高い(すなわち、メンテナンス、調整、又は交換介入を実行する必要がある)1つ又は複数のグリッパ駆動系構成要素にオペレータを誘導するために、上記の「監視者」である構成要素を継続的に監視し、生じ得る動作異常を自動的に検出し、その動作異常をグリッパ駆動系の特定の構成要素の異常と相関させることができる診断装置を提供することである。
【0011】
最後に、本発明の第3の目的は、ほこりや、環境条件(照明、温度、湿度など)の変動に影響されることなく、上記の「監視者」である構成要素の最小限の動作異常さえも検出可能であり、同時に、監視対象の構成要素に全く干渉することなく、実行される測定において高い精度、再現性、信頼性を提供可能な診断装置を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第3298185号明細書
【特許文献2】特開2000-096388号公報
【発明の概要】
【0013】
請求項1に規定されるグリッパ駆動系用の自動的かつ連続的な診断装置を備えた織機によって、上記の課題が解決され、上記の目的が達成される。
【0014】
グリッパ駆動系用のこのような診断装置の他の好ましい特徴は、従属クレームにおいて規定される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
ただし、本発明に係るグリッパ駆動系診断装置のさらなる特徴および利点は、単なる非限定的な例として示された以下の本発明の好ましい実施形態の詳細な説明からより明らかになり、以下の添付図面に例示される。
【0016】
【
図1】グリッパ駆動系に異常がない場合における、グリッパを制御する歯車の歯の近傍に設置された磁力計によって検出された磁束(mf)と時間(t)との関係を示すグラフである。
【
図2】グリッパを制御する歯車の歯が破損した場合における
図1と同様のグラフである。
【
図3】グリッパ駆動系に異常が発生した場合における
図1と同様のグラフである。
【
図4】織機の作業サイクルの進行度(d)の関数として、グリッパを制御する歯車の加速度(a)を示すグラフである。
【
図5】好ましいグリッパ駆動系の歯車の近傍における前記磁力計の好ましい配置を示す全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、上記課題を解決するために、出願人はまず、グリッパ駆動系の他の構成要素の異常を検出するための、グリッパ駆動系のより有望な「監視者」たる構成要素として、歯車、特にその歯付きクラウン(以下、単に「クラウン」ともいう)を特定した。歯車は、実際にはグリッパ駆動系の運動連鎖における最後の構成要素であり、関連の支持シャフトにしっかりと接続されている。これにより、歯車よりも上流にあるグリッパ駆動系の他の構成要素に何らかの異常が発生すると、それに応じた異常が必然的に歯車の動きに生じる。さらに、前記歯車のクラウン(外周部)で検出を行うことにより、歯の存在自体が、歯車の周縁に沿った検出、ひいては織機作業サイクルに関する検出をインデックスするための便利な要素となる。最後に、可撓性バンド(可撓性ストラップ)に係合されない歯車の外周部に感知装置を配置するために、歯車のクラウン、又は、少なくともその一部は容易にアクセス可能である。歯車のクラウンを使用する代わりに、該歯車と同じ支持シャフトと一体化した専用の歯付きクラウンがこの目的で使用されてもよい。この代替構成は、歯車の配置や歯車の材質の検討においてより効果的または便利である。
【0018】
グリッパ駆動系の異常がまだ初期状態にあるときに、その異常を迅速に知らせることができる十分に感度の高い制御装置を得るためには、歯車の動きにおけるあらゆる異常(例えば、偏心回転、位相変化など)を検出し得るように、高精度の検出装置(例えば、市場で入手可能な高品質の光学センサ又は電子センサを備えた検出装置)を使用して歯車の動きが検出される必要がある。
【0019】
歯付きクラウンがセンサの前で動いている間、前記検出装置によって検出された値の変化を時間の関数としてプロット(グラフ化)することにより、歯車の歯の「電子プロファイル(電子的統計データ)」が得られる。電子プロファイルは、定性的でありながら実際の状態を非常によく表すように、歯付きクラウンの物理的形状(物理的プロファイル)を再現する。本発明の診断装置の制御ソフトウェアに含まれる分析アルゴリズムによって、同じ歯車について後続のサイクルで検出された電子プロファイルを分析することにより、当該歯車の動きにおける生じ得る異常の発生をタイムリー(適時)且つ完全に自動的に特定することが可能になる。
【0020】
上記の検出装置を使用した一連の実験テストにより、グリッパ駆動系の特定の構成要素の各異常が、歯車のクラウンの電子プロファイルの明確に定義された構成に実際に対応していることを検証することができた。したがって、電子プロファイルを分析するための複数のアルゴリズムを設定することが可能になり、各アルゴリズムによって、電子プロファイルのこれらの特定の構成のうちの1つの発現(開始)を迅速に検出可能になる。このような状況が発生すると、上記のような分析アルゴリズムを組み込んだ診断装置の制御ソフトウェアは、対応する警告信号を発する。警告信号は、グリッパ駆動系の1つ又は複数の構成要素を確認するようオペレータに指示したり、検出された電子プロファイルの構成に関連する異常が構成要素の差し迫った故障の可能性を示しているときに織機の動作を直ちに停止させたりする。
【0021】
これにより、メンテナンス、調整、又は交換の作業は、異常の可能性があることが警告された構成要素に対してのみ実行され得るため、電子プロファイル異常の原因となった故障の特定に必要な時間が短縮されるという点で効果が著しく向上する。また、非常に早い段階、すなわち、その構成要素の故障が他の構成要素または処理中の織物に故障を引き起こす前に、異常が検出されるという点でも、効果が著しく向上する。さらに、スケジュールされた定期メンテナンスで規定された時間に比べて、グリッパ駆動系の構成要素のメンテナンス、調整、又は交換の介入が先延ばし可能であり、歯車のクラウンの電子プロファイルに特定の異常が検出されるまで介入不要になる。これにより、グリッパ駆動系の操作上の安全性を損なうことなく、上記のような構成要素の有効寿命が大幅に延ばされ得る。
【0022】
グリッパ駆動系の構成要素の異常のいくつかの具体的な事象が以下に簡単に紹介される。これらの事象は、上記のような異常が、グリッパを制御する歯車のクラウンの電子プロファイルの典型的な異常にどのように関連しているかを示す。したがって、これらの典型的な異常は、前述の電子プロファイルを分析するための対応する分析アルゴリズムによって、簡単に自動的に検出され得る。
【0023】
これらのテストを実行するために、出願人によって通常製造される歯車の外側のクラウンに強磁性材料が含まれているという事実を考慮して、出願人は、グリッパを制御する歯車の歯の輪郭(形状)を磁気的に検出するための特別な装置を開発した。この装置は、
図5に示すように、磁石と、グリッパ駆動系Gの歯車DのクラウンCの近傍の公知の距離に設置された磁力計M(例えば、ホール効果センサ)とを使用することに基づいている。実際、歯車Dが回転しているとき、磁力計Mは、可変磁場を検出する。可変磁場は、永久磁石によって誘導される一定の磁場によって決まり、移動する歯車Dの強磁性材料によって変更される。可変磁場の値は、歯の先端で高く、連続する2つの歯の間の空間の底部で低くなる。検出される磁場は、歯の輪郭と磁力計Mとの間の距離にほぼ比例する。この検出装置により、歯車Dの動きの異常を特に正確に検出することが可能になった。
【0024】
<グリッパ駆動系の構成要素に機械的異常がない状態>
この状態、すなわち、グリッパ駆動系Gが完全に規則的に動作し、歯車Dがグリッパ支持バンド(ストラップ)との繰り返しの接触によって標準的な摩耗を受ける状態では、
図1に概略的に示すような電子プロファイルになる。この場合、全ての電子プロファイルのピークの高さは略一定であるため、このようなピークの包絡線は、直線1になるか、又は、織機動作サイクルで発生し得る一般的なハンチングに関連する微小周期の変動を伴う線になる。どちらの場合も、ピーク間の期間(連続するピークのペア間で経過する時間)Δtは一定である。つまり、
図1に示すように、Δt1=Δt2になる。ピーク間の期間Δtは、歯車Dの可変加速度の関数として織機作業サイクルに沿って変化するが、そのような変化は実際には十分に遅いため、連続する2組のピーク間の期間Δtに大きな変化は生じない。
【0025】
ただし、このようなグリッパ駆動系Gの通常の動作である状態であっても、診断装置は、他の全てのピークよりも大幅に低い高さのピークや、ピークの欠落を、電子プロファイル内において検出することもある。一般的に規則的なプロファイルにおけるこの種の異常は、部分的に破損したクラウン歯、又は、歯車Dから完全に切断されたクラウン歯に対応する。この状態は、複数のピーク間の期間(連続するピークのペア間の時間)Δtを比較することで簡単に強調され得る。なぜなら、
図2に示すように、破損した歯に対応する期間Δt1が、他の期間Δt2よりもはるかに(約2倍)大きくなるためである。
【0026】
<グリッパ駆動系の構成要素に機械的異常がある場合>
[歯車支持シャフトのベアリングの摩耗]
歯車支持シャフトAの支持ベアリングが過度に摩耗すると、支持シャフトA及びこれにキー止めされた歯車Dの動きは完全な円形ではなくなる。ベアリングの故障により、支持シャフトAの軸は、加えられる荷重に応じて、元の固定位置に対して不規則に振動する。したがって、この場合、歯車のクラウンの電子プロファイルは、ピークの高さに漸進的かつ周期的な変化を示すが、これは歯の摩耗ではなく、支持シャフトAの不規則な動きから生じる歯車Dの振動によって引き起こされる。
【0027】
したがって、
図3に示すように、電子プロファイルのピークの包絡線は、幅広の変動を伴う形状の線2の形状になる。そこで、本発明の診断装置の制御ソフトウェアに提供され得る分析アルゴリズムは、直線1(又は微小変動線)が、より広い周期の変動を伴う線2に変わる瞬間(より正確には、周期変動の最大高さに関する最小値(すなわち、初期値ゼロ)からの増加量が設定閾値を超える瞬間)を検出可能に構成されている。この場合、制御ソフトウェアは、歯車支持シャフトAの支持ベアリングのメンテナンス/交換を実行するように警告信号を発信する。
【0028】
[グリッパ駆動系の運動学における遊びの増大]
グリッパ駆動系Gの運動学における摩耗現象により、グリッパ駆動系Gの内部構成要素(内部部品)間の遊びが過度に増大し、その結果、歯車Dの回転運動に遊びが生じる可能性がある。この遊びは、歯車Dが加速度の符号反転(正負反転)にさらされる運動法則領域における歯車Dの漸増の回転運動によって示される。
図4のグラフは、緯糸挿入サイクル全体にわたる歯車Dの角加速度の変化を示している。通常の繊維業界の慣例に従い、グラフの横軸には、織機の主制御軸の360°までの回転位置を基準として緯糸挿入サイクルが示され、グラフの縦軸には、加速度の変化が示されている。
図4のグラフから明らかなように、織機の1回の作業サイクルで加速度の符号は2回反転する。
【0029】
この種の異常を検出するために、本発明の診断装置の制御ソフトウェアにおける1つの分析アルゴリズムは、加速度の符号反転の時点の付近における十分に広い角度間隔に対応して、第1対のピーク間の期間(第1対の連続するピーク間の時間間隔)Δt1と、これにすぐ隣り合う第2対のピーク間の期間(第2対の連続するピーク間の時間間隔)Δt2とが等しいか又は異なるかを、歯車Dの電子プロファイル上で検証する。より具体的に、前記分析アルゴリズムは、第1対のピーク間の期間Δt1に対する第2対のピーク間の期間Δt2の比Δt2/Δt1が、1から設定値だけずれているかどうかを検証する。この状態が発生した場合、診断装置の制御ソフトウェアは、グリッパ駆動系Gの構成要素の遊びを調整するように、又は、摩耗した構成要素を交換するようにメンテナンス介入を実行するための警告信号を発信する。上述の特許文献1(欧州特許第3298185号明細書)に記載されている種類の運動機構を備えたグリッパ駆動系Gの場合、メンテナンス作業には、ウォームスクリューのねじ山における摺動ブロックカーソルの摺動ブロックの遊びの調整、及び/又は、ロッドヘッドベアリングのメンテナンス/交換が含まれる。
【0030】
[グリッパ駆動系を構成する機械的ジョイントの故障]
最後に、グリッパ駆動系Gの異常の中には、摩耗現象ではなく、グリッパ駆動系Gの構成要素間の機械的ジョイントの故障に起因するもの(例えば、関連する支持シャフトAにキー止めされている歯車Dの故障)があり、その結果は特に深刻である。
【0031】
この種の故障は、歯車Dの元の位置からの瞬間的または進行的な位相シフトを引き起こすため、本発明の診断装置の別のアルゴリズムを使用することで、簡単に検出され得る。このアルゴリズムは、連続する複数のサイクルにわたって、歯付きクラウンCにおける同じ対の歯に対応する2つの連続するピーク間の期間(時間間隔)Δt1を比較する。理論上、実際、織機の主制御軸の所定の位置で検出された期間Δt1は、その後のサイクルにおいても略一定のままである。しかし、後続の複数の緯糸挿入サイクルにわたって、織機作業サイクルにおける歯車Dの加速度が最大となる領域で、期間Δt1が増大する場合がある。このことは、グリッパ駆動系Gの構成要素間の機械的ジョイントの構造的故障が始まったことを意味する。この結果の重大性と完全な故障の切迫性を考慮して、本発明の診断装置の制御ソフトウェアは、オペレータに警告信号を送信しつつ、これと同時に織機の動作を停止する。例えば、上述の特許文献1(欧州特許第3298185号明細書)に記載されている種類の運動機構を備えたグリッパ駆動系Gの場合、上記の構造上の故障は、ウォームスクリューシャフトにキー止めされている歯車Dの上記故障に加えて、摺動ブロックホルダと摺動ブロックカーソルとの間の回転可能な機械的ヒンジ接続の故障にも関係し得る。
【0032】
前述の説明から、本発明のグリッパ駆動系Gの診断装置を備えた織機は、まず、グリッパ駆動系Gの機械部品の異常を早期に知らせるための最も有望な「監視者」たる部品を歯車のクラウン内で特定することにより、意図した課題を完全に達成したことがわかる。第2に、本発明のグリッパ駆動系Gの診断装置を備えた織機は、歯車の特殊な電子プロファイルを検出し、次いで前記電子プロファイルに対して完全に革新的な分析を実行し、適切な分析アルゴリズムによって前記電子プロファイルのさまざまな可能性のある異常をグリッパ駆動系Gの特定の構成要素の異常と相関させ、最後に、対象を定めた調整/保守/交換の介入を警告し、且つ/又は、検出された異常がグリッパ駆動系Gの構成要素の差し迫った故障につながる可能性がある場合に織機の動作を直接停止させる。最後に、磁気検出装置を使用して、歯付きクラウンCの形状(プロファイル)を検出することにより、動作において、ほこりの存在や照明、温度、湿度のさまざまな条件から完全に独立しているという利点があり、検出される機械部品との物理的な接触を必要とせず、歯付きクラウンCの物理的形状(物理的プロファイル)を用いて取得される電子プロファイルの精度と一貫性も高くなる。
【0033】
ただし、本発明は、その例示的な実施形態に過ぎない上述の特定の構成に限定されるものではなく、添付の請求項によってのみ定義される本発明の保護範囲から逸脱しない限り、当業者の理解の範囲内で、様々な変形が可能であることを理解されたい。
【外国語明細書】