(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175669
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】スパイラル分離膜エレメント
(51)【国際特許分類】
B01D 63/10 20060101AFI20241211BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B01D63/10
B01D63/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088577
(22)【出願日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2023092832
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 秀
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】誉田 剛士
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA61
4D006JA01B
4D006JA05A
4D006JA05B
4D006JA06A
4D006JA30A
4D006JB06
4D006MC56X
4D006NA41
4D006PA01
4D006PB02
(57)【要約】
【課題】スパイラル分離膜エレメントを運転したときの供給側流路の流動抵抗やファウリングを低減しながら、供給側流路材の飛び出しやテレスコーピングを抑制できる分離膜エレメントを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のスパイラル分離膜エレメントは、集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備え、前記スパイラル分離膜エレメントの集水管の軸方向に対して垂直な断面において、集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線上に位置する前記分離膜と前記供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、外周側と内周側の供給側流路の高さが外周側と内周側の間の中央部の流路高さより大きいことを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備えるスパイラル分離膜エレメントであって、
前記スパイラル分離膜エレメントの集水管の軸方向に対して垂直な断面において、前記集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線上に位置する前記分離膜と前記供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、外周側と内周側の供給側流路の高さが外周側と内周側の間の中央部の流路高さより大きいことを特徴とするスパイラル分離膜エレメント。
【請求項2】
前記スパイラル分離膜エレメントの外径が4インチ以上であることを特徴とする請求項1に記載のスパイラル分離膜エレメント。
【請求項3】
前記供給側流路Fについて、外周側の供給側流路高さDOと内周側の供給側流路高さDIに対して外周側と内周側の間の中央部の供給側流路高さDCの比DC/DO、DC/DIがそれぞれ0.750以上0.950以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のスパイラル分離膜エレメント。
【請求項4】
請求項1または2に記載されるスパイラル分離膜エレメントを用いた流体分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物を含む種々の液体から不純物を分離するため、特に海水の淡水化、かん水の脱塩、超純水の製造または排水処理などに用いるためのスパイラル分離膜エレメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水およびかん水などに含まれるイオン性物質を除くための技術においては、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして、分離膜エレメントによる分離法の利用が拡大している。分離膜エレメントによる分離法に使用される分離膜は、その孔径や分離機能の点から、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜および正浸透膜に分類される。これらの膜は、例えば海水、かん水および有害物を含んだ水などからの飲料水の製造、工業用超純水の製造、並びに排水処理および有価物の回収などに用いられており、目的とする分離成分及び分離性能によって使い分けられている。
【0003】
分離膜エレメントとしては様々な形態があるが、分離膜の一方の面に原水を供給し、他方の面から透過流体を得る点では共通している。分離膜エレメントは、束ねられた多数の分離膜を備えることで、1個の分離膜エレメントあたりの膜面積が大きくなるように、つまり1個の分離膜エレメントあたりに得られる透過流体の量が大きくなるように形成されている。分離膜エレメントとしては、用途や目的にあわせて、スパイラル型、中空糸型、プレート・アンド・フレーム型、回転平膜型、平膜集積型などの各種の形状が提案されている。
【0004】
例えば、逆浸透ろ過には、スパイラル分離膜エレメントが広く用いられる。スパイラル分離膜エレメントは、集水管と、集水管の周囲に巻き付けられた分離膜ユニットとを備える。分離膜ユニットは、供給水としての原水(つまり被処理水)を分離膜表面へ供給する供給側流路材、原水に含まれる成分を分離する分離膜、及び分離膜を透過し供給側流体から分離された透過流体を集水管へと導くための透過側流路材が積層されることで形成される。スパイラル分離膜エレメントは、原水に圧力を付与することができるので、透過流体を多く取り出すことができる点で好ましく用いられている。
【0005】
分離膜エレメントを用いて供給水を処理する際に、供給水中の汚れ物質(ファウラント)が膜面や供給側流路材に付着し、膜面閉塞や圧力損失の増大を引き起こし、分離膜エレメントの性能を低下させる。圧力損失が増大すると、分離膜エレメントの入り口側と出口側で圧力差が生まれ、巻回体の巻きズレ(テレスコーピング)や供給側流路材の飛び出しやズレが生じることがある。テレスコーピングや供給側流路材のズレが生じると、供給側流路材と膜が擦れて性能低下の原因となったり、外観不良の原因となったりする場合がある。そこで、テレスコーピングを防止するための巻回シートや接着剤の硬度を上げることによる供給側流路材の飛び出し抑制が提案されている。
【0006】
具体的には、特許文献1では、巻回体の軸方向中央付近から両端側に広がるように略対称に単数又は複数のシートを巻回させることでテレスコーピングを低減させた分離膜エレメントが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した分離膜エレメントは、分離膜エレメント全体の供給側流路高さが最適化されておらず、分離膜エレメントの性能を十分に発揮できていない場合があった。また、汚れ物質が多く含まれる供給水では、分離膜エレメントに大きな差圧が付いて供給側流路材がズレて飛び出してしまったり、テレスコーピングが生じる場合があった。そこで、本発明は、分離膜エレメントの構造を制御することで、流動抵抗を低減し、ファウリングを抑制しながら、供給側流路材の飛び出しやテレスコーピングを防止できる分離膜エレメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明およびその好ましい態様は、以下の構成からなる。
(1)少なくとも集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備えるスパイラル分離膜エレメントであって、前記スパイラル分離膜エレメントの集水管の軸方向に対して垂直な断面において、前記集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線上に位置する前記分離膜と前記供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、外周側と内周側の供給側流路の高さが外周側と内周側の間の中央部の流路高さより大きいことを特徴とするスパイラル分離膜エレメント。
(2)前記スパイラル分離膜エレメントの外径が4インチ以上であることを特徴とする上記(1)に記載のスパイラル分離膜エレメント。
(3)前記供給側流路Fについて、外周側の供給側流路高さDOと内周側の供給側流路高さDIに対して外周側と内周側の間の中央部の供給側流路高さDCの比DC/DO、DC/DIがそれぞれ0.750以上0.950以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のスパイラル分離膜エレメント。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載される分離膜を用いた流体分離装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、長期間エレメントを運転しても、エレメント構造が崩れにくく、安定した透水性や脱塩率といった分離性能を発現することができる分離膜エレメントを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、分離膜エレメントの一例を示す一部展開斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の供給側流路材の一例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の分離膜エレメントの供給側流路高さパターンの例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明以外の分離膜エレメントの供給側流路高さパターンの例を示す図である。
【
図5】
図5は、供給側流路高さのグラフを説明する図である。
【
図6】
図6は、分離膜エレメントの流路高さを測定する方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
尚、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。また、本明細書において、「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0014】
<分離膜エレメント>
本発明の実施形態に係るスパイラル分離膜エレメントは、少なくとも集水管と、分離膜と、供給側流路材と、透過側流路材とを備える。
【0015】
図1に示すスパイラル分離膜エレメント1では、供給側の流路を形成する供給側流路材2としては、高分子製のネットが使用されている。また、透過側流路材4としては、分離膜3の落ち込みを防ぎ、かつ透過側の流路を形成させる目的で、供給側流路材2よりも間隔が細かいトリコットが使用されている。透過側流路材4と該透過側流路材4の両面に重ね合わせて封筒状に接着された分離膜3とにより、封筒状膜5が形成される。封筒状膜5の内側が透過側流路を構成している。供給側流路材2と交互に積層された封筒状膜5は、開口部側の所定部分を集水管6の外周面に接着しスパイラル状に巻囲される。
図1に示すx軸の方向が集水管6の長手方向である。またy軸、z軸を含む平面方向が集水管6の長手方向と垂直な方向である。
【0016】
スパイラル分離膜エレメント1では、通常長手方向の一方の側面から、供給水7が供給され、供給水7は、集水管6と平行に流れながら、透過水8と濃縮水9とに徐々に分離される。透過水8は、供給水7が供給される側面とは反対の側面からスパイラル分離膜エレメント1の外部へと出ていく。
【0017】
この方式においては、供給水7がスパイラル分離膜エレメント1の一方の側面から他方の側面へ流れるため必然的に膜に接している距離が十分にあり、それにより供給水7が、透過水8と濃縮水9とに十分に分離されるという特徴がある。
【0018】
<スパイラル分離膜エレメントの製造>
(分離膜リーフの形成)
分離膜リーフは、分離膜の間に供給側流路材を挟みこみ、供給側の面が内側を向くように分離膜を折りたたむことで形成されてもよいし、別々の2枚の分離膜を、供給側の面が向かい合うようにして重ね合わせ、分離膜の周囲を封止することで形成されてもよい。
【0019】
なお、「封止」する方法としては、接着剤またはホットメルトなどによる接着、加熱またはレーザなどによる融着、およびゴム製シートを挟みこむ方法が挙げられる。接着による封止は、最も簡便で効果が高いために特に好ましい。
【0020】
(スパイラル分離膜エレメントの製造)
スパイラル分離膜エレメントは、中心パイプに取り付けられたベースとなる透過側流路材の上に、分離膜リーフと透過側流路材を、接着剤を塗布しながら交互に積層し、巻回することでスパイラル型とすることができる。この時、巻囲張力や部材の厚み、素材などをコントロールすることで、供給側流路の高さを調整することができる。
【0021】
<スパイラル分離膜エレメントの構造>
スパイラル分離膜エレメントは、均一な厚みの供給側流路材、均一な厚みの透過側流路材、均一な厚みの膜を用いて一定の張力で巻囲すると、基本的に均一な高さの流路を形成することができる。しかしながら、スパイラル分離膜エレメントは供給水側と濃縮水側で圧力差が生じると、供給側流路材がズレたり、テレスコーピングが起きる。これを避けるために、スパイラル分離膜エレメントを均一に強く巻囲すると、流路が全体的に狭くなり、圧力損失が増大したり、ファウリングが起きやすくなり、造水量の低下の原因となる。スパイラル分離膜エレメントは、外周部ではフィラメントワインディング、内周部では中心パイプによって固定されておりズレにくいが、その間の中央部は拘束されていないため、供給水側と濃縮水側で差圧が生じると、供給側流路材の飛び出しやテレスコーピングが生じる場合がある。
【0022】
そのため、本実施形態では分離膜エレメントの集水管に対して垂直な断面において、集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線上に位置する分離膜と供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、外周側の供給側流路高さDOと内周側の供給側流路高さDIが外周側と内周側の間の中央部の流路高さDCより大きい。このような流路高さ分布にする方法としては、最初に巻囲張力を弱くし、その後巻囲張力を上げて、最後に再び巻囲張力を弱める方法や、一度、均一な高さの流路を形成してから、集水管及び外周側を少しだけ緩め、外周と内周の流路を広くする方法、接着剤の塗布量を外周部・内周部で少なくすることで外周と内周の流路を広くする方法、スパイラル分離膜エレメントの外周部と内周部で、供給側流路材の厚みを厚くしたり、供給側流路材のピッチを狭くしたり、供給側流路材の素材を変えたり、外周部、内周部に当たる供給側流路材の一部に水に溶ける素材をコーティングして後から溶かすことで外周部、内周部を広くする方法や、透過側流路材の厚みをスパイラル分離膜エレメントの外周側と内周側で薄くなるように設計する方法、スパイラル分離膜エレメントの中央部で、分離膜の物理的強度を弱くして巻囲時に薄くなるようにする方法などが可能である。
【0023】
本実施形態のような、外周側の供給側流路高さDOと内周側の供給側流路高さDIが外周側と内周側の間の中央部の流路高さDCより大きい流路高さパターンを有するエレメントは、外径が大きくなるほどフィラメントワインディングや中心パイプによる拘束力が中央部に伝わりにくいため、ズレ抑制効果を高くするには、外径4インチ以上のものが好ましく、外径8インチ以上のものがさらに好ましい。
【0024】
供給側流路Fにおける供給側流路高さDFはX線CT装置を用いることで測定することができる。スパイラル分離膜エレメントの集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線L上に位置する分離膜と供給側流路材によって形成される供給側流路Fについて、接着部から集水管長手方向に平行な方向に2インチの位置から4インチの位置までの解析を行う。8インチエレメントの場合は、直線L上の平面で直線Lを中心とし、集水管の中心点を接点とする縦4インチ×横1インチ×奥行き2インチの直方体を解析範囲とし、それぞれの流路の空間体積を測定する。直径が8インチよりも小さい場合は、奥行きは2インチに固定し、縦、横に直径に応じた比率を掛けて縮小する。例えば、4インチの場合は4/8を掛けて縦2インチ、横0.5インチとする。
【0025】
外周側の供給側流路高さDOは外周から20%の流路の平均値を用いる。例えば、区切られた区画に流路が60個存在する場合、外周から12個の流路の平均値をDOとする。内周側の供給側流路高さDIは、集水管から20%の流路の平均値を用いる。DO及びDIを算出するとき、小数点が生じた場合は、四捨五入して整数値とする。中央部の流路高さDCは、DO及びDIの間に存在する流路、すなわち外周から20%、集水管から20%の流路を除く60%の流路の平均値を用いる。つまり、このケースの場合は60‐12‐12=36個の流路が中央部の流路高さに用いられる。
【0026】
なお、X線CTを測定するときにスパイラル分離膜エレメントが濡れている場合は、真空乾燥機等であらかじめ水を除去する必要がある。乾燥させる場合は、重量変化がなくなるまで40℃で真空乾燥を行う。重量変化がなくなるとは、スパイラル分離膜エレメントを24時間以上立てた状態で静置して内部の水を切り、24時間以上真空乾燥をした後、30分おきに真空乾燥機から取り出して重量を測定し、最終測定点と直前の測定点の差が最終測定点の重量の0.1%以下であればよい。例えば、最終測定点が10.14kg、直前の測定が10.15kgであれば、差が0.01kgであり、最終測定点が10.14kgであるので、0.01/10.14=0.098%となり、乾燥したと判断できる。
【0027】
(供給側流路高さパターン)
本実施形態の供給側流路高さのパターンとしては、
図3(a)~(e)に示すように、中央部の流路高さD
Cが小さく、外周側の供給側流路高さD
O及び内周側の供給側流路高さD
Iが大きい形状が例として挙げられる。
図3のグラフの見方としては、
図5に示すように、横軸が流路の位置、縦軸が流路高さであり、分離膜エレメントの外周側の流路高さがグラフの左側、内周側の流路高さがグラフの右側に位置するようにプロットしたときの分布を示している。他にも、流路がD
I>D
Oとなっていたり、D
O>D
Iとなっていてもよい。流路高さのパターンとしては、V字であったり、Ωを逆にしたような直線とU字を組み合わせた外周側と内周側が平坦なものなどがあるが、エレメントを把持する力が確保できる観点から、中央部がある程度狭く、外周側・内周側が広い、
図3(b)のようなすり鉢状のものが形状としてはより好ましい。
【0028】
本発明以外の従来の形態の供給側流路高さのパターンとして、
図4のような均一な流路が例として挙げられる。
【0029】
(DO及びDIに対するDCの比)
外周側の供給側流路高さDO及び内周側の供給側流路高さDIに対する中央部の流路高さDCの比DC/DO及びDC/DIは、0.750以上0.950以下が好ましい。DC/DO及びDC/DIがこの範囲であると、供給側流路材のズレやテレスコーピングを抑制し、長期間運転してもエレメント構造が崩れにくく、安定した運転が可能となる。
【0030】
<供給側流路>
(供給側流路材)
スパイラル分離膜エレメントに用いられる供給側流路材は、一般に、
図2に示すように、一方向に並んだ、繊維状物A(21)から構成される複数の繊維状列X、および繊維状列Xとは異なる方向に並んだ、繊維状物B(22)から構成される複数の繊維状列Yから構成され、繊維状列Xと繊維状列Yとが互いに立体交差して複数の地点で交点を形成したネット形状をしている。
【0031】
スパイラル分離膜エレメントにおいて、透過の駆動力は膜間差圧であるため、造水量を向上させるためには膜間差圧を増加させることが有効である。膜間差圧は、分離膜エレメントへの印加圧力から流動抵抗と浸透圧を差し引いたもので表される。よって、膜間差圧を増加させるには、印加圧力を大きくする、流動抵抗を下げる又は膜面浸透圧を下げることが必要である。膜面浸透圧は膜面濃度分極が生じることで増大する。供給側流路材の繊維状物は、供給水をかき乱す役割があり、膜面濃度分極を抑制するためには、繊維状物後方の膜面に供給水の渦(流れ)を生み出すことが重要である。流動抵抗を下げるためには、繊維状物の繊維径を小さくしたり、ピッチを広くしたりすることで、供給水が繊維に当たることを減らすことが重要である。
【0032】
スパイラル分離膜エレメントに用いられる供給側流路材の形状は、膜と膜の間のスペースを確保できるものであれば、この形状に限らず、井桁状、波板状など様々なものを用いることができる。
【0033】
(供給側流路材の厚み)
供給側流路材の平均厚さは、0.50mm以上2.0mm以下の範囲が好ましい。供給側流路材の平均厚さがこの範囲であれば、圧力損失が大きくなりすぎず、膜面や供給側流路材に堆積し得るファウラントなどの物質が詰まりにくい十分な供給側流路を確保でき、供給水中の不純物や、微生物などのファウラントによる供給側流路の閉塞を抑制し、ポンプの必要動力を大きくすることなく、長期にわたり安定的に分離膜エレメントの運転を行うことが可能となる。この範囲よりも供給側流路材が薄くなると、圧力損失が大きくなったり、ファウリングが進行しやすくなる原因になる。この範囲よりも供給側流路材が厚くなると、ハンドリング性の観点で好ましくないが、交点ピッチや素材を適当なものを選ぶことで、適切な剛性に調整することができる。
【0034】
なお、交点部及び供給側流路材の厚みの測定には市販のマイクロスコープやX線CT測定装置を用いて、繊維状列に平行な縦断面を観察し、その距離を測定することで求めることができ、測定モードを用いて交点部または供給側流路材の厚みの任意の30カ所の径を抽出して測定し、その平均値とすることができる。
【0035】
(素材)
供給側流路材の素材は特に限定されないが、成形性の観点から熱可塑性樹脂が好ましく、特にポリエチレンおよびポリプロピレンは分離膜の表面を傷つけにくく、また安価であるので好適である。また、供給側流路材は、繊維状物Aと繊維状物Bが同じ素材で形成されても構わないし、異なる素材で形成されていても構わない。
【0036】
(供給側流路材厚みDに対する供給側流路高さDFの比)
供給側流路高さDに対する供給側流路高さDFの比DF/Dは1.00以下であることが好ましい。供給側流路の高さは、エレメント製造時には供給側流路材の厚みよりも大きくなることは少ない。なぜなら、運転中に供給側流路材が動いたり、飛び出したりしないように供給側流路材と分離膜がしっかりと接するように巻囲するためである。しかしながら、スパイラル分離膜エレメントは運転圧力を受けると、逆浸透膜の支持膜の空隙が潰れ、薄くなってしまったり、エレメントが巻緩むことで、供給側流路が広がってしまうことがある。供給側流路材は供給水をかき乱すために存在するが、供給側流路材よりも極端に広い供給側流路が存在すると、広がった流路に供給水が流れてしまい、十分なかき乱し効果が得られなくなる。その結果、膜面濃度分極が上昇し、脱塩率の低下につながる。DF/Dを1.00以下にするには、分離膜の支持膜のポリマー濃度を上げることで圧力を受けても支持膜の空隙を潰れにくくしたり、エレメント製造時に供給側流路材を分離膜に食い込ませることで圧力を受けて分離膜が薄くなり、供給側流路が広がっても供給側流路材が分離膜と接する状態にするなど様々な方法を採用することができる。
【0037】
(供給側流路材厚みDに対する外周側・内周側の流路高さDO・DIの比)
供給側流路材厚みDに対する外周側の流路高さDOの比DO/D及び供給側流路高さDに対する内周側の流路高さDIの比DI/Dは1.00以下が好ましい。DO/D、DI/Dが1.00を上回ると、分離膜から供給側流路材が浮いている領域が生じるため、供給側流路材がズレてしまう懸念があり、性能面では、分離膜から供給側流路材がわずかに浮いていると、十分なかき乱し効果が得られなくなってしまう。
【0038】
<透過側流路>
(透過側流路材)
封筒状膜5において、分離膜3は透過側の面を対向させて重ね合わされており、分離膜3同士の間には透過側流路材4が配置され、透過側流路材4によって透過側流路が形成される。透過側流路材の材料としては限定されず、トリコットや不織布、突起物を固着させた多孔性シート、凹凸成形し、穿孔加工を施したフィルム、凹凸不織布を用いることができる。また、透過側流路材として機能する突起物を分離膜の透過側に固着させてもよい。
【0039】
<分離膜エレメントの利用>
分離膜エレメントは、直列または並列に接続して圧力容器に収納されることで、分離膜モジュールとして使用されてもよい。
【0040】
また、上記の分離膜エレメント、分離膜モジュールは、それらに流体を供給するポンプや、その流体を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、例えば供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0041】
流体分離装置の操作圧力は高い方が除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、分離膜エレメントの供給流路、透過流路の保持性を考慮すると、分離膜モジュールに供給水を透過する際の操作圧力は、0.2MPa以上6MPa以下が好ましい。
【0042】
供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上45℃以下が好ましい。
【0043】
また、原水のpHが中性領域にある場合、原水が海水などの高塩濃度の液体であっても、マグネシウムなどのスケールの発生が抑制され、また、膜の劣化も抑制される。
【0044】
(供給水)
本実施形態の分離膜エレメントへの供給水は特に限定されず、予め処理された水道水でもよく、海水やかん水、下廃水のように溶液中の不純物が多いものでもよい。例えば、水処理に使用する場合、原水(供給水)としては、海水、かん水、排水等の500mg/L以上100g/L以下のTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」で表されるが、1Lを1kgと見なして「重量比」で表されることもある。定義によれば、0.45μmのフィルターで濾過した溶液を39.5~40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【実施例0045】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0046】
(供給側流路材の厚み測定)
直径8インチ長さ40インチのスパイラル分離膜エレメント1本のフィラメントワインディングをディスクグラインダーでカットし、取り外した。エレメント内部のネット状サンプルを、変形しないように丁寧に取り出し、ネット状サンプルを10×10cmに切り出し、キーエンス社製ワンショット3D形状測定機VR-3000を用い、ネット状サンプルの繊維状列に平行な縦断面を倍率20倍で観察し、任意の交点部分の厚みを30カ所抽出して測定し、その平均値を算出した。
【0047】
(供給側流路高さ)
ニコン社製X線CT測定装置C2を用い、管電流100μA、管電圧150kV、解像度20μmの条件でスキャンし、3D像を得た。その後、VOLUMEGRAPHICS社製VGSTUDIOMAXで解析を行い、供給側流路高さを測定した。
【0048】
供給側流路高さの測定方法は、供給側流路の体積から求めることができる。
図6に示すように、分離膜エレメントの集水管の軸方向に対して垂直な断面において、集水管の中心を接点とし、集水管の中心と任意の外周を結ぶ直線L上に位置する分離膜と供給側流路材によって形成される供給側流路Fを縦4インチ×横1インチ×奥行2インチの直方体の領域で区切り、それぞれの流路の空間体積を測定し、それぞれの流路に対応した供給側流路の体積を取得した。集水管や外周のフィラメントワインディングに流路の片端が触れている場合、他の流路に比べて体積が小さくなるため、公平に流路高さを比較することができない。そのため、流路の両端が縦4インチ×横1インチの長方形の領域における、縦線に触れている流路のみを解析した。得られる流路体積は供給側流路材込みの値であるため、供給側流路材の空隙率で割ることで供給側流路材を無視した流路体積を得ることができる。円弧の長さはImageJを用いて測定した。画面上のスケールに合わせて直線選択ツールでなぞり、Set Scaleで実寸とピクセルの関係を設定した。円弧に沿って折れ線選択ツールでなぞり、Measureを選択して円弧の長さを得た。流路の上下に円弧が存在するため、上下の円弧を測定し、それらの平均値を円弧の長さとした。流路の奥行きは解析範囲で既知の値であり、円弧の長さ、供給側流路材の空隙率を用いて式(1)により供給側流路の高さD
Fを得た。
【0049】
【0050】
4インチ、2インチの場合は解析範囲を縦4インチ×横1インチから外径が小さくなった分に応じて縮小して測定した。例えば4インチの場合は縦2インチ×横0.5インチとし、奥行きは2インチで測定した。
【0051】
(供給側流路材の空隙率測定)
供給側流路材を50cm×50cmの大きさにカットし、重量を測定し、単位面積当たりの重量(kg/m2)を計算した。得られた値を供給側流路材の厚みで割り、単位体積当たりの重量(kg/m3)を計算した。式(2)より、素材密度(kg/m3)を用いて供給側流路材の空隙率を計算した。
【0052】
【0053】
(供給側流路材の飛び出し距離)
ROエレメントを用いて、琵琶湖水を回収率50%で運転し、得られた濃縮水を再度回収率50%で運転し、2回濃縮を掛けて、汚れ物質が多い濃縮琵琶湖水を得た。濃縮琵琶湖水を用いて、対象エレメントで推奨されている運転圧で、供給水温度25℃、回収率30%、供給水pHなりゆきで30日間運転し、エレメントを耐圧容器から取り出してエレメントの端面を観察し、エレメントの端面を0としたとき、供給側流路材が飛び出している最大距離を測定した。
【0054】
<実施例>
(スパイラル分離膜エレメントの作製)
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布(繊度:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm2/sec、密度0.80g/cm3)上にポリスルホンの16.5質量%のDMF溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置し、80℃の温水で1分間浸漬することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる、多孔性支持層(厚さ130μm)ロールを作製した。
【0055】
その後、多孔性支持膜のポリスルホンからなる層の表面をm-PDAの1.6質量%およびε-カプロラクタム1.2重量%を含む水溶液中に2分間浸漬してから、垂直方向にゆっくりと引き上げた。さらに、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。
【0056】
その後、トリメシン酸クロリド0.08質量%を含むn-デカン溶液を、膜の表面が完全に濡れるように塗布してから、1分間静置した。その後、膜から余分な溶液をエアブローで除去し、80℃の熱水で1分間洗浄して、複合分離膜ロールを得た。5.5%グリセリン水溶液に10分間浸漬し、エアナイフで液切りした後、90℃に温調したオーブンの中で5分間乾燥させ、乾燥膜ロールを得た。
【0057】
このように得られた分離膜を、分離膜エレメントでの有効面積が40.9m2となるように折り畳み断裁加工し、ポリプロピレン製ネット(厚み:0.7mm)を供給水側流路材として挟み込んで分離膜リーフを作製した。
【0058】
得られた分離膜リーフの透過側面に透過側流路材としてトリコット(厚み:0.26mm)を積層し、リーフ接着剤を塗布して、PVC(ポリ塩化ビニル)製集水管(幅:1016mm、径:47.6mm、孔数40個×直線状1列)に積層体を20%巻囲するまで巻囲張力を弱くし、巻囲体の構造が変わらないように抑えながら、その後80%巻囲するまで巻囲張力を上げ、最後に再び巻囲張力を弱めてスパイラル状に巻き付け、巻囲体の外周面をテープで固定後、両端のエッジカットと端板取り付けを行い、一方の側面から供給水が供給され濃縮水が排出される、直径が8インチの分離膜エレメントを作製した。また、同様の手順で、分離膜エレメントでの有効面積が9.4m2、2.1m2となるように、直径が4インチ、2インチの分離膜エレメントを作製した。
【0059】
(初期造水量)
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、供給水として、温度25℃、濃度32000mg/L、pH7.0のNaCl水溶液を用い、運転圧力5.52MPa、回収率8%とした。24時間運転した後に1分間のサンプリングを行い、1日あたりの透水量(ガロン)を初期造水量(GPD(ガロン/日))として表した。
【0060】
(初期除去率(TDS除去率))
初期造水量の測定における1分間の運転で用いた供給水およびサンプリングした透過水について、TDS濃度を伝導率測定により求め、下記式からTDS除去率を算出した。
【0061】
TDS除去率(%)=100×{1-(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
(造水量低下率)
供給側流路材の飛び出し距離を測定したエレメントについて、供給水として、温度25℃、濃度32000mg/L、pH7.0のNaCl水溶液を用い、運転圧力5.52MPa、回収率8%とした。24時間運転した後に1分間のサンプリングを行い、1日あたりの透水量(ガロン)を造水量(GPD(ガロン/日))として計算し、式(3)より、初期造水量からの低下率を造水量低下率(%)として表した。また、この時の除去率を測定し、初期除去率からの除去性能低下率(pt)として表した。
【0062】
【0063】
(エレメント差圧)
分離膜エレメントを装填する円筒状圧力容器の上流側(供給水側)と下流側(濃縮水側)を長野計器製差圧計(型式DG16)を介して配管で接続し、運転中のエレメント差圧を計測した。運転条件は、供給水はクロスフロー流速が15cm/sec、運転圧力は1.0MPaとし、供給水には逆浸透膜処理水を用いた。また、エレメント内部の気泡が抜けた後は透過水配管のコックを閉じ、実質的に膜ろ過が行えない状態、つまり供給水が全量濃縮水として排出される状態で運転を行いエレメント差圧(kPa)の測定を行った。
【0064】
(実施例1)
作製したエレメントを圧力容器に入れて、上述の条件で評価したところ、結果は表1の通りであった。
【0065】
(実施例2~9)
供給側流路を表1の通りにした以外は全て実施例1と同様にして、分離膜エレメントを作製した。
【0066】
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、実施例1と同条件で各性能を評価したところ、結果は表1、2の通りであった。
【0067】
<比較例>
(比較例1~3)
供給側流路を表1の通りにした以外は全て実施例1と同様にして、分離膜エレメントを作製した。
【0068】
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、上述の条件で各性能を評価したところ、結果は表2の通りであった。
【0069】
【0070】
【0071】
表1、2に示す結果から明らかなように、実施例1~9の分離膜エレメントは、圧力損失や造水量・除去率低下、供給側流路材の飛び出しを抑えることができ、優れた分離性能を安定して備えているといえる。