(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175677
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】ミョウガの葉部を用いた中性脂質吸収抑制剤及び加工食品
(51)【国際特許分類】
A61K 36/9068 20060101AFI20241211BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20241211BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20241211BHJP
A61K 127/00 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
A61K36/9068
A61P3/06
A23L33/105
A61K127:00
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090885
(22)【出願日】2024-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2023093183
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】523215118
【氏名又は名称】株式会社サンライト・リング・ブレス
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】森川 敏生
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD53
4B018ME04
4B018MF01
4C088AB81
4C088AC05
4C088BA09
4C088BA10
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA08
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZC33
(57)【要約】
【課題】ミョウガの葉部より得られる中性脂質吸収抑制剤、中性脂質吸収抑制効果を有するヒト又は動物用医薬もしくは加工食品を提供する。
【解決手段】ミョウガの葉部を水、低級アルコール若しくはその含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含むことを特徴とする中性脂質吸収抑制剤は、食事などにより摂取する脂質の吸収を抑え、血中中性脂質濃度の上昇を抑制する能力を有しており、しかも自然食品由来のものなので、毒性もなく好適に利用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミョウガの葉部を水、低級アルコール若しくはその含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含むことを特徴とする中性脂質吸収抑制剤。
【請求項2】
ミョウガの葉部を水、低級アルコール若しくはその含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含み、最終製品にした際に前記ミョウガの実体を含まないことを特徴とする中性脂質吸収抑制用加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショウガ科(Zingiberaceae)植物のミョウガ(学名:Zingiber mioga)の葉部の抽出物をベースとした中性脂質吸収抑制剤及び加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ミョウガ(学名:Zingiber mioga)は、ショウガ科(Zingiberaceae)ショウガ属の多年草で、日本を含む東アジアに自生している。ミョウガは食用として日本で広く栽培されており、独特のさわやかな香りがあり、また華やかな紅色をしているため、ハナミョウガ(開花前の花穂)やミョウガタケ(地下茎から別に出る茎葉)が香味野菜として利用されている。また、民間療法として、ミョウガは、脳を刺激する眠気覚まし、血流改善、発汗作用、食欲増進や解毒作用といった効果を期待して用いられている。
【0003】
一方、ミョウガの葉部は、岩手県や宮城県などの東北地方の郷土料理として、小麦粉やもち米粉と砂糖、味噌を練ったものを葉に包んで素焼きにする「みょうがの葉焼き」として利用されるが、一般に食される部位ではなく、多くが廃棄されている未利用資源である。
【0004】
例えば特許文献1には、ミョウガの水抽出物が降圧作用、中枢神経抑制作用、コリン作動性神経興奮作用、心臓抑制作用、抗炎症作用を有することが開示されている。また、特許文献2には、ミョウガのヘキサン抽出物から得られるラブダン型ジテルペン化合物であるミョウガトリアールが抗菌剤、抗血栓剤、抗炎症剤として用いられることが開示されている。
【0005】
さらに特許文献3には、ミョウガの花穂から得られるラブダン型ジテルペン化合物であるガラナールA、若しくはガラナールB、又はこれらの混合物およびミョウガナールが老化抑制剤として用いられることが開示されている。
【0006】
さらに特許文献4には、ミョウガの花穂から得られる抽出物が胃粘膜保護剤として用いられることが開示されている。
【0007】
また、非特許文献1には、ミョウガの酢酸エチル抽出物から得られるミョウガジアールが、抗菌作用、コレステロール低下作用、血小板凝集抑制作用を有し、また辛味成分であることが開示されている。
【0008】
また、非特許文献2には、ミョウガジアールやミョウガトリアールがTRP(Transient Receptor Potential)チャネルである、TRPA1受容体やTRPV1受容体の活性化を促進することが開示されている。TRPA1受容体やTRPV1受容体は体熱産生に関与するため、ミョウガジアールやミョウガトリアールは体熱産生を促進する効果と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭55-009021号公報
【特許文献2】特開2006-241068号公報
【特許文献3】特開2014-152118号公報
【特許文献4】特開2019-199433号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Biosci. Biotechnol. Biochem., 2002,66(12), p.2698-2700
【非特許文献2】Life Sci., 2009,85,p.60-69
【非特許文献3】Bioorg. Med. Chem. Lett, 2003,13, p.1101-1106
【非特許文献4】J. Nat. Prod., 2005,68,p.1360-1365
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ミョウガの葉部より得られ、中性脂質吸収抑制作用を有する薬剤(中性脂質吸収抑制剤)を提供することを目的とする。本発明は、これらを含有するヒト又は動物用医薬、及び、この中性脂質吸収抑制剤を含有する加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、天然植物を利用した中性脂質吸収抑制剤の開発において、有用な利用植物を求めて、鋭意、検討を進めた。具体的には、ショウガ科(Zingiberaceae)植物のミョウガ(学名:Zingiber mioga)の葉部や、ミョウガの葉部を水や低級アルコール等により抽出して得られた抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスについて、中性脂質吸収抑制作用としての活性評価の指標として、マウスを用いたオリーブ油誘発血中中性脂質上昇抑制作用を検討した。その結果、ミョウガの葉部、ミョウガの葉部を水や低級アルコール等により抽出して得られる抽出液、又は抽出エキスが中性脂質吸収抑制作用を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
より具体的に、本発明に係る中性脂質吸収抑制剤は、
ミョウガの葉部を水、低級アルコール若しくはその含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る中性脂質吸収抑制用加工食品は、
ミョウガの葉部を水、低級アルコール若しくはその含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含み、最終製品にした際に前記ミョウガの実体を含まないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、新規な中性脂質吸収抑制剤が提供される。本発明の前記中性脂質吸収抑制剤は、従来のクロフィブラート等の合成薬品系の中性脂質吸収抑制剤に代わる天然植物系の生体安全性と経済性に優れる中性脂質吸収抑制剤として有効である。すなわち、本発明のショウガ科(Zingiberaceae)植物のミョウガ(学名:Zingiber mioga)の葉部から調製された抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスは摂取した中性脂質の吸収を抑制し、血中の中性脂質の上昇を抑える。したがって生体安全性と経済性に優れる天然植物系の中性脂質吸収抑制剤として有効なものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る中性脂質吸収抑制剤(ミョウガ葉部エタノール抽出エキス)のオリーブ油負荷マウスに対する血中中性脂質濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に係る中性脂質吸収抑制剤について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0018】
本発明に係る中性脂質吸収抑制剤は、ショウガ科(Zingiberaceae)植物のミョウガ(学名:Zingiber mioga;以下単に「ミョウガ」と呼ぶ。)の葉部から抽出した抽出エキスを含有する。
【0019】
ミョウガは、国内では、高知県、奈良県、群馬県、秋田県、山形県、和歌山県、長野県、富山県、青森県、新潟県などで生産されている。産地や栽培法などによって、ミョウガの中に含有されている成分量や種類に若干の差異はある。しかし、いずれの地域に育成しているものでも利用することができる。
【0020】
ミョウガの葉部は、発芽して毎年夏~秋(7~11月)頃迄の物が好適に利用できる。なお、枯れ葉は除外する。
【0021】
ミョウガの葉部からエキスを抽出するには、一般的な抽出法を利用することができる。具体的には、刻加工あるいは粉末化した植物(以後「被抽出物」という。)を水あるいは低級アルコール(例えばメタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノールなど)、あるいはそれらの混合溶媒(以後「溶媒等」という。)にて、(1)室温下、冷浸抽出であれば一昼夜、(2)沸騰水浴下熱時抽出であれば2~3時間の抽出時間にて抽出する。なお、この際溶媒等は、被抽出物の10倍量(重量比)以上の溶媒量が用いられる。また、溶媒等は、水、低級アルコール若しくはその含水物ということもできる。なお、ここで低級アルコールとは、炭素数5以下のアルコールをいう。
【0022】
そして、抽出液をろ別後、残渣に更に同量の溶媒を加え、同様の操作を2~3回繰り返す。各操作毎に得られた抽出液を合わせて減圧下濃縮し、抽出物(抽出エキス)を得る。
【0023】
この抽出物は、医薬的に受容可能な塩、賦形剤、保存剤、着色剤、矯味剤等と共に、医薬品又は加工食品の製造分野において公知の方法によって、液剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などの種々の形態で使用することができる。
【0024】
本発明の医薬又は加工食品における、前記の抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスの有効成分としての使用量は、濃縮、精製の程度、活性の強さ等、使用目的、対象疾患や自覚症状の程度、使用者の体重、年齢等によって適宣調整される。例えば、医薬として成人について使用する場合は、1回の投与毎に、抽出液又は抽出エキスでは、1mg~20g程度の範囲で使用し、この範囲内で精製度や水分含量等に応じて調整することが適当な場合が多い。
【0025】
また、加工食品として使用する場合は、加工食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる加工食品1kgに対して、前記の抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを、1mg~20g程度の範囲で添加することが適当な場合が多い。なお、加工食品にはいわゆる「健康食品」と呼ばれるものが含まれる。
【0026】
また、加工食品には、ミョウガの実体(ハナミョウガ、ミョウガタケおよび葉部)が最終製品に残るものは除かれる。すなわち、ミョウガの実体を、磨り潰したもの、湯がいたもの、加熱したもの、焼いたもの、粕や味噌などに漬け込んだもの等は除かれる。すなわち、本発明における加工食品は最終製品にミョウガの実体が含まれず、ミョウガの葉部を水、低級アルコール若しくはその含水物により抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスを有効成分として含む加工食品と言える。
【実施例0027】
以下本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。なお、本発明は実施例のものに限定されないことは言うまでもない。
【0028】
[実施例1]ミョウガ乾燥葉部の抽出
ミョウガ乾燥葉部(102.65g)を室温にて解凍後、ジューサーミキサーに適量の日本薬局方エタノール(甘糟化学産業社製)を加えて粉砕し、被抽出物とした。この被抽出物に、溶媒等として総計で湿重量の約20倍量となる日本薬局方エタノール(約2.0L)を加え、加熱還流下、3時間抽出した。抽出液をひだ折りろ紙(アドバンテック社製、No.2ろ紙)にて濾別した後、残渣に新たな日本薬局方エタノールを加え同様の抽出操作を合計3回繰り返した。各抽出操作で得た抽出液を合わせ、ロータリーエバポレーターにて減圧下、溶媒留去し、エタノール抽出エキス(抽出物)10.74g(10.46%、乾燥葉部からの収率)を得た。
【0029】
[実施例2]マウスを用いたオリーブ油誘発血中中性脂質上昇に対する抑制作用の検証 24~26時間絶食させたddY系雄性ラット(体重約25~30g)に、ミョウガ葉部エタノール抽出エキス(1000mg/kg,マウス体重1kg当りの投与量をmgで表した値)およびオリーブ油(ラット体重1kg当り5mL)を経口投与した。なお、ヒト等価容量(Human equivalent dose:HED)では、81.4mg/kgに相当する。オリーブ油投与から2、4及び6時間後に眼窩静脈より採血し、市販キット“トリグリセリドEテストワコー(富士フイルム和光純薬社製)”を用いて血清中の中性脂質量を測定した(非特許文献4の記載に準じる。)。
【0030】
被験物質として、本発明に係るミョウガ葉部エタノール抽出エキスを用意し、これをミョウガ投与群と呼ぶ。これに被験物質を何も与えないコントロールも実施した。これをコントロール群と呼ぶ。また、オリーブ油のかわりに同量の生理食塩水を負荷したノーマルも実施した。これをノーマル群と呼ぶ。ノーマル群は生理食塩水とミョウガ葉部エタノール抽出エキスを投与された群である。
【0031】
したがって、形成したサンプル群は、ノーマル群、コントロール群、ミョウガ投与群の3群である。各群はn=8-9で行った。
【0032】
結果を
図1に示す。縦軸は血中中性脂質濃度(mg/dL)を示し、また、横軸はオリーブ油投与からの経過時間(h)を示す。ノーマル群を「Normal」(破線)、コントロール群を「Control」(一点鎖線)とし、ミョウガ投与群は投与量「1000mg/kg」(実線)で示した。なお、「*」はp<0.05であり、「**」はp<0.01を表す。
【0033】
図1を参照して、コントロール群に対して、ミョウガ投与群では2時間後の血中中性脂質濃度が有意に減少していた。以上のことから本発明に係る中性脂質吸収抑制剤は少なくとも食前に服用することで効果を発揮する。
【0034】
以上のことより、本発明に係るミョウガ抽出物が、中性脂質吸収抑制剤として有効であることがわかる。
本発明に係る中性脂質吸収抑制剤は、食事などにより摂取する脂質の吸収を抑え、血中中性脂質濃度の上昇を抑制する薬剤や加工食品として好適に利用することができる。