(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175687
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】海藻類の検査方法、検査セット及び海藻類用検査器具
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20241211BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
A01G33/00
G01N33/483 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024092403
(22)【出願日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2023093509
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517414716
【氏名又は名称】株式会社アプロジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内川 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】白石 英一郎
【テーマコード(参考)】
2B026
2G045
【Fターム(参考)】
2B026AF04
2G045AA31
2G045CB20
2G045FA17
2G045FA26
(57)【要約】
【課題】養殖場において、養殖されている海藻類の損傷の有無を簡便に検査することができる検査方法、該検査方法に好適に使用できる海藻類損傷検査セット及び海藻類用検査器具を提供すること。
【解決手段】養殖されている海藻類の検査方法であって、
光照射装置を用いて海藻類に対して青色光を照射する工程、及び青色光の一部又は全部をカットするレンズを通して、前記光照射装置で照射された海藻類表面を観察し、観察された海藻類表面の状態に基づいて前記海藻類の損傷の有無 を検査する工程、を有する検査方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖されている海藻類の検査方法であって、
光照射装置を用いて海藻類に対して青色光を照射する工程、及び
青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材を通して、前記光照射装置で照射された海藻類表面を観察し、観察された海藻類表面の状態に基づいて前記海藻類の損傷の有無を検査する工程、を有する検査方法。
【請求項2】
前記フィルタ材が、フィルタレンズ又は樹脂板である、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記海藻類表面の状態が、赤色又は赤紫色に観察される領域と、前記領域に比べて色が薄く観察される領域とが不規則に存在する色むらが存在するときに、あるいは、前記海藻類表面に、赤色又は赤紫色とは異なる色の模様が観察されるときに、前記海藻類に損傷があると判断する、請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
光照射装置と、
青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材と、を備え、
前記光照射装置から海藻類に対して青色光を照射し、前記フィルタ材を通して観察された前記海藻類表面の色の状態に基づいて前記海藻類の損傷の有無を検査するための、海藻類損傷検査セット。
【請求項5】
前記フィルタ材がフィルタレンズ又は樹脂板である、請求項4に記載の海藻類損傷検査セット。
【請求項6】
青色光が照射された海藻類を検査するための海藻類用検査器具であって、
前記海藻類を収容する内部空間を有する箱状の本体からなり、
前記本体の上面が、青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材で構成されており、
前記上面に接する側面が、青色光を透過する暗色の樹脂板で構成されており、
前記側面の一部又は前記上面に対向する下面が開放された開口部を有し、前記開口部を通じて前記内部空間への海藻類の出し入れが可能となるように構成されており、
前記内部空間に収容され、青色光が照射されている海藻類の表面を、前記フィルタ材を通して観察し、観察された海藻類表面の状態に基づいて前記海藻類の損傷の有無を検査することができる、海藻類用検査器具。
【請求項7】
前記側面の一部が開放された開口部を有し、前記下面が暗色の樹脂板で構成される、請求項6に記載の海藻類用検査器具。
【請求項8】
前記下面が開放されている、請求項6に記載の海藻類用検査器具。
【請求項9】
前記フィルタ材が取り外し可能に構成された請求項6~8のいずれかに記載の海藻類用検査器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖されている海藻類の損傷の有無を検査するための方法、海藻類の損傷検査セット及び海藻類用検査器具に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻類の養殖は、重要な産業の一つであるが、養殖に大きな影響を与える要因として、病原菌による疾病があり、例えば、海苔養殖であれば、赤腐れ病と壺状菌病が知られている。
【0003】
赤腐れ病は、卵菌綱、ツユカビ目、フクハイガビ科に属する赤腐れ菌(Pythium sp.、Pythium porphyrae、Pythium marinum等)を起因とする疾病であり、赤腐れ菌が海苔の葉体に感染して病状が進むと、葉体全体が腐敗して穴があいて脱落する。赤腐れ病は、養殖期間を通して発生が見られ、特に水温が高めで推移する秋芽生産期には養殖場全域を短期間のうちに生産不能に陥れることもあり、12月以降の冷凍生産期においても局所的に生産低下を引き起こすことが知られている。
壺状菌病は、卵菌綱、フクロカビモドキ目、フクロカビモドキ科、フクロモドキ属の一種である壺状菌(Olpidiopsis porphyrae)に起因する疾病であり、壺状菌が海苔の葉体に感染して疾病が発症すると、海苔の葉体は緑色に変色し、さらに症状が進行すると、白く脱色して養殖網から脱落する。壺状菌病は、全国の海苔養殖場において毎年のように発生していることが知られている。
【0004】
前記赤腐れ病や壺状菌病に対する殺菌処理剤は、従来から数多く開発されている。
しかしながら、実際の養殖場では、視覚的に病原菌が感染した患部が確認できるまで感染が進んでいないと感染の有無の判別が難しく、養殖への影響が広がらない初期のタイミングで殺菌処理を行うことが難しいという問題がある。また、感染を予防する目的で、殺菌処理を頻繁に行うことは、処理にかかる費用が大きくなるため、現実的に難しい。
【0005】
そこで、感染の正確な検査を行うために、例えば、海苔赤腐れ病病原菌Pythium porphyraeまたはPythium marinumのrDNA領域のDNA塩基配列とハイブリダイズし得る海苔赤腐れ病病原菌菌種検出・同定用オリゴヌクレオチドプライマーとして用いてPCR法によりP.porphyraeまたはP.marinumを検出・同定することを特徴とする海苔赤腐れ病病原菌の検出方法が知られている(特許文献1)。
壺状菌についても、PCR法を用いて壺状菌遊走子を検出する方法が知られている(非特許文献1)
【0006】
しかしながら、養殖場、特に船上で検査を行うことができるPCR装置はなく、実際にPCR法で検査する場合、養殖場で検体をサンプリングするために養殖場と検査場とを往復する時間に加えて、検査結果を得るまでの時間も必要であり、赤腐れ菌、壺状菌のように繁殖力が強く、殺菌処理のタイミングが遅れると被害が増大し易い病原菌に対しての簡便な検査方法とは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】横尾一成、関本訓士、川村嘉応、本多大輔、日本水産学会誌、71巻6号、2005年、917-922頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、鋭意検討したところ、光照射装置から海藻類に対して青色光を照射し、青色光の一部又は全部をカットするレンズを通して観察したところ、海藻類表面にある傷や病原菌の感染等の損傷の有無を簡単に判別できることを見出して、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、養殖場において、養殖されている海藻類の損傷の有無を簡便に検査することができる検査方法、該検査方法に好適に使用できる海藻類損傷検査セット及び海藻類用検査器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、
[1]養殖されている海藻類の検査方法であって、
光照射装置を用いて海藻類に対して青色光を照射する工程、及び
青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材を通して、前記光照射装置で照射された海藻類表面を観察し、観察された海藻類表面の状態に基づいて前記海藻類の損傷の有無を検査する工程、を有する検査方法、
[2]前記フィルタ材が、フィルタレンズ又は樹脂板である、前記[1]に記載の検査方法、
[3]前記海藻類表面の状態が、赤色又は赤紫色に観察される領域と、前記領域に比べて色が薄く観察される領域とが不規則に存在する色むらが存在するときに、あるいは、前記海藻類表面に、赤色又は赤紫色とは異なる色の模様が観察されるときに、前記海藻類に損傷があると判断する、前記[1]又は[2]に記載の検査方法、
[4]光照射装置と、
青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材と、を備え、
前記光照射装置から海藻類に対して青色光を照射し、前記フィルタ材を通して観察された前記海藻類表面の色の状態に基づいて前記海藻類の損傷の有無を検査するための、海藻類損傷検査セット、
[5]前記フィルタ材がフィルタレンズ又は樹脂板である、前記[4]に記載の海藻類損傷検査セット、
[6]青色光が照射された海藻類を検査するための海藻類用検査器具であって、
前記海藻類を収容する内部空間を有する箱状の本体からなり、
前記本体の上面が、青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材で構成されており、
前記上面に接する側面が、青色光を透過する暗色の樹脂板で構成されており、
前記側面の一部又は前記上面に対向する下面が開放された開口部を有し、前記開口部を通じて前記内部空間への海藻類の出し入れが可能となるように構成されており、
前記内部空間に収容され、青色光が照射されている海藻類の表面を、前記フィルタ材を通して観察し、観察された海藻類表面の状態に基づいて前記海藻類の損傷の有無を検査することができる、海藻類用検査器具、
[7]前記側面の一部が開放された開口部を有し、前記下面が暗色の樹脂板で構成される、前記[6]に記載の海藻類用検査器具、
[8]前記下面が開放されている、前記[6]に記載の海藻類用検査器具、
[9]前記フィルタ材が取り外し可能に構成された前記[6]~[8]のいずれかに記載の海藻類用検査器具
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の検査方法を用いることで、養殖場において、顕微鏡を用いずとも海藻類の損傷の有無を簡便に検査することができるため、養殖されている海藻類に生じている損傷を早期に発見することができ、適切な処置を素早く行うことができる。その結果、例えば、赤腐れ菌、壺状菌のように繁殖力が強く、殺菌処理のタイミングが遅れると被害が増大し易い病原菌に対しても、早期のタイミングで殺菌処理を行うことが可能となり、殺菌処理の費用対効果を高め、海藻類の健康を維持し易くなり、海藻類の品質をあげることができる等、海藻類の養殖の効率を高めることができる。
また、本発明の検査セットを用いることで、本発明の検査方法を好適に実施することができるため、養殖場において、顕微鏡を用いずとも海藻類の損傷の有無を簡便に検査することができる。
また、本発明の海藻類用検査器具を用いることで、昼間の養殖場においても、顕微鏡を用いずとも海藻類の損傷の有無を簡便に検査することができるため、養殖されている海藻類に生じている損傷を早期に発見して、適切な処置を素早く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ヘッドライト型の光照射装置1を示す。
【
図2】
図2は、青色光の一部をカットするレンズ5を備えたゴーグル4を示す。
【
図3】
図3は、青色光の一部をカットするレンズ7を備えたコーラルレンズ6を示す。
【
図4】
図4は、コーラルレンズ6をスマートフォン8のカメラ9付近に装着した状態を示す。
【
図5】
図5は、実施例1でスマートフォン8を用いて撮影された、色むらのある海苔の一例である。
【
図6】
図6は、実施例1でスマートフォン8を用いて撮影された、赤腐れ菌に感染された海苔の一例である。
【
図7】
図7は、実施例2でスマートフォン8を用いて撮影された、色むらに加えて、斑点のある海苔の一例である。
【
図8】
図8は、実施例2でスマートフォン8を用いて撮影された、壺状菌に感染された海苔の一例である。
【
図9】
図9は、海藻類用検査器具10の一つの実施形態を示す図である。
【
図10】
図10は、海藻類用検査器具10aの別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(検査方法)
本発明は、養殖されている海藻類の検査方法であって、
光照射装置を用いて海藻類に対して青色光を照射する工程(照射工程)、及び
青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材を通して、前記光照射装置で照射された海藻類表面を観察し、観察された海藻類表面の状態に基づいて前記海藻類の損傷の有無を検査する工程(検査工程)、を有する
【0014】
本発明において、養殖されている海藻類とは、海上又は陸上の養殖槽で養殖されている海藻類をいう。
【0015】
本発明において、海藻類としては、アオサ、アオノリ、アサクサノリ、スサビノリ、オオバアサクサノリ、ナラワスサビノリ、ウップルイノリ等の海苔類、コンブ、ワカメ、ヒジキ、アカモク、ホンダワラ、モズク、ダルス、イボノリ、ヒバマタ、ツノマタ等が挙げられる。これらの海藻類は、1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0016】
本発明において、損傷とは、主に、養殖されている海藻類の葉体の損傷をいい、具体的には、病原菌に由来する損傷をいう。
前記損傷には、例えば、健全な海藻類の葉体に比べて、クロロフィルの量が減少又はなくなっている状態(色落ち)、病原菌の病巣が見られる状態、葉体が腐っている又は脱落している状態等の明確な病状に加えて、これらの明確な病状は出ていないが、疾患の発生に進む可能性のある軽度の病状が含まれる。
【0017】
従来、養殖場では、養殖されている海藻類の葉体に病原菌に由来する明らかな病状が見られないと、病原菌による感染は判別できなかったのに対して、本発明では、明らかな病状が見られないような段階でも、病原菌の感染による異常を簡易に判別でき、養殖されている海苔における疾患の拡大を早期に防ぐことが可能になる。
【0018】
前記病原菌については、海藻類の生育を阻害する病原菌であれば特に限定はないが、例えば、赤腐れ菌、壺状菌、スミノリ病原細菌等が挙げられる。
【0019】
前記照射工程に使用する青色光とは、波長365~520nmの光をいう。中でも、400~500nmの青色光であれば、海藻類をより明瞭に観察することができる。
青色光の光源としては、青色光を照射できるものであれば特に限定はないが、例えば、青色LED、白色LED、HIDカラーランプ(高輝度放電ランプ)、蛍光ランプ、白熱電球、水銀灯等が挙げられる。
【0020】
前記光照射装置については、特に限定はないが、簡便性及び携帯性に優れるの観点から、ヘッドライト、ハンディライト、ペンライト、懐中電灯、強力面照射ライト等が挙げられる。
前記のような小型の光照射装置であれば、後述する箱メガネの所定の位置に固定してもよい。
また、大型の光照射装置であれば、海苔処理船等の船の適当な位置に固定してもよい。
【0021】
また、前記光照射装置では、青色光だけでなく、別の色の光も照射するタイプの光源が使用されていてもよいが、この場合、青色光のみを選択的に透過する干渉フィルタを前記光源に装着することで、青色光の照射を効率よく行うことができる。前記干渉フィルタとしては、バンドパスフィルタ、カラーアクリルフィルタ、カラーセロファン等が挙げられる。
【0022】
前記干渉フィルタを光照射装置の光源に装着する方法としては、特に限定はなく、テープで取り付けてもよいし、取付専用の器具を用いてもよい。
【0023】
前記照射工程において、青色光は、海又は養殖槽中で養殖されている海藻類に照射してもよいし、水中から取り出した海藻類に照射してもよい。
なお、海中で養殖されている海藻類に青色光を照射する場合、太陽光が弱い時間帯又は太陽が出ていない時間帯に照射を行うことで、海藻類の観察を効率よく行うことができる。
また、日中に青色光の照射をする場合には、例えば、室内、船上又は船内に設けた暗室で、水中から取り出した海藻類に青色光を照射することで、海藻類の観察を効率よく行うことができる。
【0024】
前記照射工程で青色光が照射された海藻類の状態は、前記検査工程で、前記青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材を通して、前記青色光が照射されている海藻類表面を観察する。
【0025】
前記青色光を一部又は全部をカットするフィルタ材としては、青色光を反射する(反射型)又は吸収する(吸収型)機能を有するフィルタ材であって、透過する光から青色光の一部又は全部をカットできるフィルタ材をいう。
【0026】
本発明で使用できるフィルタ材としては、フィルタレンズ又は樹脂板が挙げられる。前記フィルタレンズとしては、反射型又は吸収型レンズを用いることができる。
【0027】
また、フィルタレンズの実施形態の例としては、例えば、目視の観察に使用する場合、反射型又は吸収型レンズを備えたメガネ、反射型又は吸収型レンズを備えたゴーグル、遮光プレート等を用いることができる。
樹脂板の実施形態の例としては、透明板として青色光を一部又は全部カットするフィルタ材を備えた箱メガネ、後述する青色光を一部又は全部カットするフィルタ材を備えた海藻類用検査器具等が挙げられる。
前記フィルタ材は、市販されているフィルタレンズ、樹脂板であれよく、特に限定はない。
【0028】
また、海藻類を拡大して観察する場合、ルーペ(ジュエルルーペ)、ハンディ顕微鏡、デジタル顕微鏡、顕微鏡カメラ、カメラ、スマートフォン、タブレット等の装置を用いることができる。
これらの装置を用いる場合、前記装置の対物側の観察部表面に反射型又は吸収型レンズを備えたフィルタ材を配置したり、取り付けたりすることで、海藻類の状態を観察することができる。
【0029】
中でも、フィルタ材を介してデジタル顕微鏡、顕微鏡カメラ、カメラ、スマートフォン、タブレット等の画像データを取得できる装置を用いて海藻類を撮影した場合、得られた画像データを拡大して、目視では見えにくい海藻類の細部の状態を簡単に観察することができ、また、得られた複数の画像データを保存しておくことで、海藻類の経時的な変化を確認することができ、さらに、画像データを養殖場から離れた位置にいる専門家に送ってその意見を聞くことで、海藻類の状態についてより詳しい情報を得ることができる等の利点がある。
【0030】
前記フィルタ材をスマートフォン等に装着する方法としては、特に限定はなく、テープで取り付けてもよいし、取付専用の器具を用いてもよい。
【0031】
本発明の方法の具体的な実施形態の例としては、
養殖場から採取した海藻類を観察用容器に置き、その海藻類に対して、ヘッドライト、ハンディライト、ペンライト、懐中電灯、強力面照射ライト等の小型の光照射装置から青色光を照射しながら、反射型又は吸収型レンズを備えたメガネ、反射型又は吸収型レンズを備えたゴーグル、遮光プレート又は後述する藻類用検査器具を用いて観察して、前記海藻類の損傷の有無を検査する方法、
海苔処理船等の船に固定された大型の光照射装置から、養殖場の海面又は海中の海藻類に対して青色光を照射しながら、反射型又は吸収型レンズを備えたメガネ、反射型又は吸収型レンズを備えたゴーグル、遮光プレートを用いて観察して、前記海藻類の損傷の有無を検査する方法、
海苔処理船等の船に固定された大型の光照射装置から、養殖場の海中の海藻類に対して青色光を照射しながら、青色光を反射する樹脂板を備えた箱メガネを用いて観察して、前記海藻類の損傷の有無を検査する方法、
前記箱メガネの外側に、ハンディライト、ペンライト、懐中電灯、強力面照射ライト等の小型の光照射装置を固定し、養殖場の海中にある海藻類に青色光が照射しながら、箱メガネ底部の透明な樹脂板を通して観察して、前記海藻類の損傷の有無を検査する方法等が挙げられる。
【0032】
本発明の検査方法では、前記照射工程において前記光照射装置で照射された海藻類の表面を、前記検査工程において青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材を通して観察した場合、クロロフィル蛍光由来の赤色又は赤紫色を呈している状態が観察される。
一方、前記海藻類表面に、損傷を受けて異常のある海藻類は、葉体中のクロロフィルの存在が不均一になっているため、赤色又は赤紫色の領域と、前記領域に比べて色の薄い領域とが不規則に存在する色むらが観察される。
また、前記海藻類表面に、海藻類表面に付着している病原菌等に由来する、赤色又は赤紫色とは異なる色の模様が観察されることがある。
例えば、赤腐れ菌が感染している海藻類の表面を観察した場合には、黄色、緑色等の菌糸様の模様が見える傾向がある。
また、壺状菌が感染している表面を観察した場合には、白色、緑色又は黄色の斑点が見える傾向がある。
【0033】
したがって、本発明の検査方法を用いて海藻類を観察した場合、前記海藻類表面に、赤色又は赤紫色の領域と、前記領域に比べて色の薄い領域とが不規則に存在する色むらが観察されるときに、あるいは、前記海藻類表面に、赤色又は赤紫色とは異なる色の模様が観察されるときに、前記海藻類に損傷があると判断することができる。
なお、海藻類表面に明確な色むらがなければ、損傷がないと判断できる。
【0034】
本発明の検査方法を用いることで、養殖場において、病原菌による損傷を、感染症状が明らかになる前の段階で判断できることは、養殖場において赤腐れ菌、壺状菌等の病原菌の感染の判別が難しい現状において、画期的な利点であるといえる。
【0035】
(海藻類損傷検査セット)
本発明に係る海藻類損傷検査セットは、光照射装置と、
青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材と、を備える。
【0036】
前記光照射装置及び前記青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材としては、前記の本発明の検査方法で使用できるものと同じであるため、説明を省略する。
【0037】
前記光照射装置では、青色光だけでなく、別の色の光も照射するタイプの光源が使用されていてもよいが、この場合、青色光のみを選択的に透過する干渉フィルタを前記光源に装着することで、青色光の照射を効率よく行うことができる。前記干渉フィルタとしては、バンドパスフィルタ、カラーアクリルフィルタ、カラーセロファン等が挙げられる。
【0038】
また、前記検査セットに加えて、海藻類を拡大して観察するために、ルーペ、ハンディ顕微鏡、デジタル顕微鏡、顕微鏡カメラ、カメラ、スマートフォン、タブレット等の装置を用いる場合、前記装置の対物側の観察部表面に反射型又は吸収型レンズを備えたフィルタ材を配置したり、取り付けたりすればよい。
【0039】
例えば、
図1に海藻類損傷検査セットを構成する光照射装置の一例として、ヘッドライト1を示す。ヘッドライト1は、青色光を照射する光源2及び光源2の照射部分に被せるためのバンドパスフィルタ3を有する。
【0040】
図2に海藻類損傷検査セットを構成するフィルタ材の一例として、ゴーグル4を示す。ゴーグル4のレンズ部分は、青色光の一部を反射するレンズ5で構成される。
【0041】
前記ヘッドライト1とゴーグル4との組み合わせは、海藻類の検査を効率よく行うことができるため好ましい。例えば、ヘッドライト1を頭に装着し、ゴーグル4を眼に装着することで、使用者は両手を自由に使うことができるため、海藻類の観察、検査等の作業を効率よく行うことができ、また、ヘッドライト1の光源を消して、前記ゴーグル4を眼から外して装着しておけば、観察、検査以外の作業も行うことができるため、使用者にとって好適な実施形態の一つである。
【0042】
図3に海藻類損傷検査セットを構成するフィルタ材の一例として、青色光の一部を反射するレンズ7を備えたフィルタレンズ6を示す。フィルタレンズ6は、カメラ機能付きスマートフォン8のカメラ9に装着するように構成される。例えば、
図1に示すヘッドライト1を装着した使用者は、手元に置いた海藻類に、ヘッドライト1からの青色光を照射しながら、その海藻類の表面を、フィルタレンズ6を通してスマートフォン8のカメラ9で観察したり、撮影することができる。撮影した海藻類の表面は、スマートフォン8のカメラ機能を用いて拡大して海藻類の状態をより詳しく観察したり、画像データとして、別の場所にいる専門家に送信して、海藻類の状態を診断してもらうことができる。
【0043】
(海藻類用検査器具)
本発明に係る海藻類用検査器具は、青色光が照射された海藻類を検査するための海藻類用検査器具である。以下、
図9、10を用いて海藻類用検査器具を説明するが、本発明は、
図9、10に記載の構成に限定されるものではない。
【0044】
前記海藻類用検査器具は、海藻類を収容する内部空間を有する箱状の本体からなる。
本発明において、箱状の本体のサイズ及び内部空間の大きさは、海藻類を収容できる広さがあればよく、特に限定はない。
【0045】
前記箱状の本体の形状については、上面及び側面を有する立体形状のものであればよい。
上面の形状については、略正方形、略長方形、略円形、略楕円形、略多角形等が挙げられるが、特に限定はない。
例えば、
図9では、海藻類用検査器具10の本体12の上面部材16及び対向する下面部材20の形状は、略長方形になっており、この場合、海藻類用検査器具10の箱状の本体12の内部空間13に、海藻類14が入ったシャーレ15が余裕をもって配置することができ、また、側面部材17a、17bとシャーレ15との距離が異なることから、ライト19の位置を変えることで、青色光を当てる角度や距離を調整し易くでき、その結果、海藻類の状態をより詳細に検査することができる。
図10に示す海藻類用検査器具10aの本体12の上面部材16a及び対向する下面の形状は、略正方形になっており、この場合、側面部材17a’、17b’、17c’、17d’は、海藻類14が入ったシャーレ15の外縁部からほぼ等しい距離になるように設計されており、海藻類用検査器具10に比べてサイズをコンパクトにすることができ、海苔処理船内への持ち運びが便利である。
【0046】
前記本体12、12aの上面部材16、16aは、青色光の一部又は全部をカットするフィルタ材で構成されている。
前記フィルタ材は、青色光を反射する(反射型)又は吸収する(吸収型)機能を有するフィルタ材であって、透過する光から青色光の一部又は全部をカットできるフィルタ材をいう。前記フィルタ材としては、樹脂板が挙げられる。
【0047】
本発明の海藻類用検査器具は、上面を構成する樹脂板が平面であることで、この上面に、カメラ機能つきスマートフォンをおいて海苔類の状態を撮影することができる。例えば、
図9に示す海藻類用検査器具10では、内部空間13に配置された海藻類14の表面に、側面部材17a側に配置したライト19から青色光を照射した状態を、上面部材16においたカメラ機能つきスマートフォン8で撮影することができる。撮影した海藻類の表面は、スマートフォン8のカメラ機能を用いて拡大して海藻類の状態をより詳しく観察したり、画像データとして、別の場所にいる専門家に送信して、海藻類の状態を診断してもらうことができる。
【0048】
前記上面部材16に接する側面部材17a、17b、17cは、青色光を透過する暗色の樹脂板で構成されている。本発明の海藻類用検査器具では、暗色の樹脂板を通して、前記内部空間内に配置された海藻類に青色光が照射されると、昼間の養殖場のような太陽光線がある明るい場所であっても、前記上面部材16のフィルタ材を通して、照射された海藻類表面の状態を判別することができる。
【0049】
本発明において、暗色とは、青色光が照射された海藻類の色を判別し易くするための暗い色を言い、例えば、青色系、藍色径、紫色系、緑色系、黄緑色系、赤紫色系等の暗い色が挙げられるが、特に限定はない。
【0050】
暗色の樹脂板の素材については、青色光を透過できる性質を有していればよく、特に限定はない。
【0051】
例えば、
図9に示す海藻類用検査器具10では、外形が立方体形状である本体12の側面部材17a、17b、17cが青色光を透過する暗色の樹脂板で構成されており、残りの側面部17dには樹脂板はなく、開放された開口部18となっており、この開口部18から海藻類用検査器具10の内部空間13に、海藻類14を出し入れすることができる。
照射装置であるライト19は、海藻類用検査器具10の外側から、内部空間13に配置された海藻類14に対して、側面部材17a、17b、17cを通して青色光を照射する。青色光を照射する側面部材17a、17b、17cの位置は特に限定はない。
【0052】
図10に示す海藻類用検査器具10aでは、外形が直方体形状である本体12aの全ての側面部材17a’、17b’、17c’、17d’が青色光を透過する暗色の樹脂板で構成されている。上面部材16aに対向する下面が開放された開口部18aとなっており、この開口部18aから海藻類用検査器具10aの内部空間13aに、海藻類14を出し入れすることが可能になっている。
照射装置であるライト19は、海藻類用検査器具10aの外側から、内部空間13aに配置された海藻類14に対して、側面部材17a’、17b’、17c’、17d’を通して青色光を照射する。青色光を照射する側面部材17a’、17b’、17c’、17d’の位置は特に限定はない。
【0053】
側面の長さ(高さ方向の長さ)については、観察容器を配置できるのであれば特に限定はないが、例えば、
図9に示すように、カメラ機能付きスマートフォン8で撮影する場合には、焦点が合うような位置になるように設計することが好ましい。例えば、海藻類をシャーレに入れて観察する場合には、シャーレの観察面から上面表面までの距離が10~15cmになるように、側面の長さを調節しておくことで、スマートフォン8のカメラの焦点の調整が容易となり、撮影に係る時間を大幅に短縮することができる。
【0054】
また、前記側面は、前記上面に対して略90°の方向に接続していてもよし、前記内部空間に観察容器が配置できるのであれば、前記側面が前記上面に対して90°を超える方向に接続していてもよい。例えば、図示しないが、上面部材16に対して、下面部材20の面積が広くなっており、前記上面部材16に対して側面部材17a、17b、17cが90°を超える角度に接続している海藻類用検査器具等が挙げられる。
【0055】
また、本発明の海藻類用検査器具では、前記フィルタ材が取り外し可能に構成されていてもよい。例えば、
図10に示す海藻類用検査器具10aは、所望の位置に配置した状態で、上面部材16aのフィルタ材を取り外し、内部空間13aに配置されたシャーレ15を、別のシャーレに入れ替えることができる。
【0056】
以上のような構成を有する本発明の海藻類用検査器具を用いることで、昼間の養殖場においても、顕微鏡を用いずとも海藻類の損傷の有無を簡便に検査することができるため、養殖されている海藻類に生じている損傷を早期に発見して、適切な処置を素早く行うことができる。
中でも、好ましい実施形態の一つとして、
図9に示す海藻類用検査器具10では、前記側面部17dには樹脂板がなく、開放された開口部18となっていることに加えて、下面部材20が暗色の樹脂板で構成されていることで、シャーレの下面表面が平板状であるため、観察中に、本体12の内部空間13に配置したシャーレ15を指で動かすなどして、所望の位置に変え易く、また、下面が暗色の樹脂版であるため、海藻類の色が見えやすいという利点がある。
また、
図10に示す海藻類用検査器具10aでは、シャーレ15の外縁にあわせた略正方形状の下面が開口部18aとなっているため、シャーレ15の上から海藻検査器具10aを被せるだけで、観察位置が決まるため、素早く観察することが可能になる。また、サイズがコンパクトで取扱い易いため、例えば、観察対象の海苔類を入れたシャーレを複数配置しておき、それに対して、海藻類用検査器具10aを順番に被せながら複数の検査対象の海藻類を素早く観察していくこともできる。
【実施例0057】
(実施例1)
図1に示すヘッドライト1、
図2に示すゴーグル4、
図3に示すフィルタレンズ6及びカメラ機能付きスマートフォン8を用意した。
前記ヘッドライト1は、市販のヘッドライト1の青色光を照射する光源2に、400~500nm付近の青色光を選択的に透過するバンドパスフィルタ3を装着したものである。
前記ゴーグル4は、青色光の一部を反射するレンズ5を備えたゴーグルである。
前記フィルタレンズ6は、青色光の一部を反射するレンズ7を備えたコーラルレンズである。
前記フィルタレンズ6は、
図4に示すように、スマートフォン8のカメラ9付近に装着することで、前記レンズ7を通して前記カメラ9により画像撮影をすることができる。
【0058】
夜中に海上にある海苔の養殖場に海苔処理船で行き、養殖網に付着している海苔をサンプリングして、シャーレに入れた。サンプリングした海苔を目視で観察しても明確な異常は見られなかった。
【0059】
次いで、前記ヘッドライト1と前記ゴーグル4とを装着し、ヘッドライト1の光源2から青色光をサンプリングした海苔の表面に照射しながら、ゴーグル4のレンズ5を通して海苔の表面を観察したところ、赤色と薄い赤色とが混在する色むらが確認された。
【0060】
そこで、前記フィルタレンズ6のレンズ7をスマートフォン8のカメラ9の前に配置して、青色光が照射されている海苔を撮影した。次いで、スマートフォン8を操作して、得られた画像データを拡大したところ、薄い赤色の模様は不規則な形状になっている色むらの状態がはっきりと確認されたことから(
図5)、海苔には損傷が発生していると考えられた。
【0061】
そこで、同じ場所でサンプリングした別の海苔について、青色光を照射しながら、フィルタレンズ6のレンズ7をスマートフォン8のカメラ9の前に配置して撮影し、得られた画像データを拡大したところ、カビに特有の樹状模様(黄色)が海苔の表面(赤紫色)に確認された(
図6)。このことから、サンプリングした海苔網で養殖されている海苔には赤腐れ菌による赤腐れ病が発生していることがわかった。
【0062】
(実施例2)
収量が落ちてきたと感じられる別の海苔網から海苔をサンプリングして、実施例1と同様に、青色光を照射しながら、フィルタレンズ6のレンズ7をスマートフォン8のカメラ9の前に配置して海苔を撮影した。得られた画像データを拡大したところ、色むらに加えて、斑点(黄色)が複数見られた(
図7)。
【0063】
そこで、得られた画像データをさらに拡大したところ、海苔の表面に小さな斑点(黄色又は白色)が多数見られた(
図8)。これは壺状菌に特有の感染状態であることから、サンプリングした海苔網で養殖されている海苔には壺状菌病が発生していることがわかった。
【0064】
以上の結果に基づいて、実施例1、2で検査した海苔網で養殖されている海苔に対して、検査後に速やかに殺菌処理を施した。