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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175697
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20241212BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01F27/29 123
H01F27/29 G
H01F27/29 P
H01F27/28 128
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093585
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【弁理士】
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】孝山 康太
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AA01
5E043AB01
5E043EA01
5E043EB05
5E070AA01
5E070AB01
5E070BA03
5E070BB03
5E070EA01
5E070EB03
(57)【要約】
【課題】実装基板に対する固着強度を高め、かつワイヤと端子電極との接続強度を高めることができる、コイル部品を提供する。
【解決手段】コア2の鍔部5は、実装時において実装基板側に向く実装面7と、巻芯部3側に向く内側端面9と、内側端面9とは反対側の外側端面10と、を有する。端子電極21は、たとえば銀の焼付けによる下地層31と、下地層を覆う錫層32とを含む。下地層31は、実装面7ならびに実装面7から内側端面9および外側端面10の各一部にまで延びるように設けられる。ワイヤ23と端子電極21との接続部分の断面において、下地層31は、内側端面9に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H1が、外側端面10に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H2より高く、錫層32は、内側端面9に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H3が、外側端面10に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H4より低い。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる巻芯部ならびに前記巻芯部の前記軸線方向における互いに逆の第1端部および第2端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部を有する、コアと、
前記第1鍔部および前記第2鍔部にそれぞれ設けられた第1端子電極および第2端子電極と、
前記第1端子電極および前記第2端子電極間に接続されながら前記巻芯部のまわりに巻回された、少なくとも1本のワイヤと、
を備え、
前記第1鍔部および前記第2鍔部の各々は、実装時において実装基板側に向く実装面と、前記巻芯部側に向く内側端面と、前記内側端面とは反対側の外側端面と、を有し、
前記第1端子電極および前記第2端子電極の各々は、下地層と、錫を含む錫層とを含み、
前記下地層は、前記実装面ならびに前記実装面から前記内側端面および前記外側端面の各一部にまで延びるように設けられ、前記錫層は、前記下地層を覆うとともに、前記第1端子電極および前記第2端子電極の各々の少なくとも最外層を形成するように設けられ、
前記内側端面および前記外側端面の延びる方向に沿って前記実装面から離れる方向を高さ方向として、
前記第1端子電極および前記第2端子電極の少なくとも一方の端子電極について、前記ワイヤと前記端子電極との接続部分の断面であって、前記実装面、前記内側端面および前記外側端面のいずれにも直交する断面を見たとき、
(1)前記下地層は、前記内側端面に沿って延びる部分の先端の前記高さ方向の位置が、前記外側端面に沿って延びる部分の先端の前記高さ方向の位置より高く、
(2)前記錫層は、前記内側端面に沿って延びる部分の先端の前記高さ方向の位置が、前記外側端面に沿って延びる部分の先端の前記高さ方向の位置より低い、
コイル部品。
【請求項2】
前記少なくとも一方の端子電極が設けられる前記第1鍔部および前記第2鍔部の少なくとも一方は、前記実装面に設けられた溝を有し、前記溝は、前記内側端面と前記外側端面とを結ぶ方向に延びかつ前記外側端面側から前記内側端面側に向かってより深くなる勾配を持つ底面を規定しており、前記ワイヤは、前記溝の前記底面において前記端子電極に接続されている、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記少なくとも一方の第1端子電極において、前記下地層は、前記内側端面に沿って延びる部分の先端のすべての前記高さ方向の位置が、前記外側端面に沿って延びる部分の先端のすべての前記高さ方向の位置より高く、前記錫層は、前記内側端面に沿って延びる部分の先端のすべての前記高さ方向の位置が、前記外側端面に沿って延びる部分の先端のすべての前記高さ方向の位置より低い、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記下地層は、導電成分として銀を含む導電性ペーストの焼付け層である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記錫層は、めっき層である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記少なくとも一方の端子電極は、前記第1端子電極および前記第2端子電極の双方である、請求項1ないし5のいずれかに記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、巻線型のコイル部品に関するもので、特に、コアに設けられる端子電極の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば特開2005-347588号公報(特許文献1)に記載されるように、巻線型のコイル部品は、概ね、巻芯部ならびにその軸線方向における互いに逆の第1端部および第2端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部を有する、コアと、第1鍔部および第2鍔部にそれぞれ設けられた第1端子電極および第2端子電極と、第1端子電極および第2端子電極間に接続されながら巻芯部のまわりに巻回されたワイヤと、を備えている。
【0003】
第1鍔部および第2鍔部の各々は、実装時において実装基板側に向く実装面と、巻芯部側に向く内側端面と、内側端面とは反対側の外側端面と、内側端面および外側端面間を連結する第1側面および第2側面と、を有している。
【0004】
第1端子電極および第2端子電極の各々は、特許文献1のたとえば図1からわかるように、第1鍔部および第2鍔部の各々の実装面を覆うように形成されるとともに、実装面から、実装面に隣接する内側端面、外側端面、第1側面および第2側面の各一部にまで延びるように形成されている。
【0005】
また、特許文献1のたとえば段落0016、0023に記載されるように、端子電極は、下地層電極および上層電極を有している。下地層電極はたとえばAg、Cu等の導電性材料の焼付けによって形成され、上層電極はたとえばNi、Sn等の導電性材料のめっきによって形成される。上層電極では、Sn層を最上層に位置させ、ワイヤと端子電極との接合強度を高めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-347588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、車載市場において、たとえばコイル部品について高い信頼性を有することが求められている。高い信頼性を実現するには、一例として、コイル部品の、実装基板に対する固着強度が高いこと、コイル部品におけるワイヤと端子電極との接続強度が高いこと、などが必要とされる。
【0008】
コイル部品の、実装基板に対する固着強度を高めるためには、コイルの実装時において、はんだフィレットが実装基板から十分な高さをもって形成されなければならない。はんだフィレットの形成には、コアに設けられる端子電極において、鍔部の特に外側端面の一部にまで延びるように形成されている部分が重要な役割を果たす。すなわち、当該部分において、良好なはんだ濡れ性を示すSn層が十分な高さをもって形成されなければならない。
【0009】
また、コイル部品におけるワイヤと端子電極との接続強度を高めるには、十分な量のSnが端子電極からワイヤに向かって供給できなければならない。
【0010】
しかしながら、特許文献1には、上述した要望を十分に満たすことを可能にする技術が明確には記載されていない。
【0011】
そこで、この発明の目的は、実装基板に対する固着強度を高め、かつワイヤと端子電極との接続強度を高めることができる、コイル部品の構造を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、軸線方向に延びる巻芯部ならびに巻芯部の軸線方向における互いに逆の第1端部および第2端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部を有する、コアと、第1鍔部および第2鍔部にそれぞれ設けられた第1端子電極および第2端子電極と、第1端子電極および第2端子電極間に接続されながら巻芯部のまわりに巻回された、少なくとも1本のワイヤと、を備える、コイル部品に向けられる。
【0013】
第1鍔部および第2鍔部の各々は、実装時において実装基板側に向く実装面と、巻芯部側に向く内側端面と、内側端面とは反対側の外側端面と、を有する。
【0014】
第1端子電極および第2端子電極の各々は、下地層と、錫を含む錫層とを含み、下地層は、実装面ならびに実装面から内側端面および外側端面の各一部にまで延びるように設けられ、錫層は、下地層を覆うとともに、第1端子電極および第2端子電極の各々の少なくとも最外層を形成するように設けられる。
【0015】
このような構成を備えるコイル部品において、前述した技術的課題を解決するため、この発明は、以下のような構成を備えることを特徴としている。
【0016】
すなわち、内側端面および外側端面の延びる方向に沿って実装面から離れる方向を高さ方向として、第1端子電極および第2端子電極の少なくとも一方の端子電極について、ワイヤと端子電極との接続部分の断面であって、実装面、内側端面および外側端面のいずれにも直交する断面を見たとき、
(1)下地層は、内側端面に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置が、外側端面に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置より高く、
(2)錫層は、内側端面に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置が、外側端面に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置より低い、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、ワイヤと端子電極との接続部分の断面で見たとき、下地層は内側端面側より外側端面側の方が低く、錫層は内側端面側より外側端面側の方が高いので、外側端面側において錫を多く存在させることができる。そのため、実装時において外側端面側で良好なはんだ濡れ性を実現でき、実装基板に対する固着強度の向上に寄与するはんだフィレットを十分な高さで形成することができる。
【0018】
また、外側端面側において下地層より高く形成される錫層の、下地層との高さの差を大きくすることができるので、外側端面と錫層との接触面積を広くすることができる。したがって、錫層は、コイル部品の実装状態での熱衝撃により、その先端から加わるストレスを有利に緩和することができる。
【0019】
また、内側端面側では、下地層が比較的高く形成されるので、下地層を覆う錫層もそれに応じて十分な高さをもって形成される。したがって、内側端面側において、ワイヤと錫層との接合面積を広く取ることができ、ワイヤと端子電極との接続強度を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の一実施形態によるコイル部品1の外観を示す正面図である。
図2図1に示したコイル部品1の実装面7,13側から示す下面図である。
図3図2に示したコイル部品1の線III-IIIに沿う断面の一部を拡大して示す図である。
図4図2に示したコイル部品1の線IV-IVに沿う断面の一部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1ないし図4を参照して、この発明の一実施形態によるコイル部品1について説明する。
【0022】
図1および図2に示すように、コイル部品1は、コア2を備えている。コア2は、代表的にはフェライトから構成されるが、その他、たとえばフェライト粉、アルミナ粉もしくは金属磁性粉を含有する樹脂などから構成されてもよい。コア2は、軸線方向Aに延びる巻芯部3ならびに巻芯部3の軸線方向Aにおける互いに逆の第1端部および第2端部にそれぞれ設けられた第1鍔部5および第2鍔部6を有する。
【0023】
巻芯部3の、軸線方向Aに直交する断面は四角形状である。なお、断面四角形状の巻芯部3の稜線部分は面取りされてもよく、あるいは、巻芯部5の断面形状は、六角形状などの多角形状、円状、もしくは楕円状、またはこれらを適宜組み合わせた形状であってもよい。
【0024】
第1鍔部5および第2鍔部6は、四角柱形状である。第1鍔部5および第2鍔部6は、互いに対称な形状を有している。
【0025】
第1鍔部5は、実装時において実装基板側に向く実装面7と、実装面7とは反対側の天面8と、実装面7および天面8間を連結しかつ巻芯部3側に向く内側端面9と、内側端面9とは反対側の外側端面10と、実装面7および天面8間ならびに内側端面9および外側端面10間を連結しかつ互いに対向する第1側面11および第2側面12と、を有している。
【0026】
同様に、第2鍔部6は、実装時において実装基板側に向く実装面13と、実装面13とは反対側の天面14と、実装面13および天面14間を連結しかつ巻芯部3側に向く内側端面15と、内側端面15とは反対側の外側端面16と、実装面13および天面14間ならびに内側端面15および外側端面16間を連結しかつ互いに対向する第1側面17および第2側面18と、を有している。
【0027】
第1鍔部9および第2鍔部10の稜線部分は面取りされてもよい。また、第1鍔部5および第2鍔部6は、それぞれ、実装面7および13、内側端面9および15ならびに外側端面10および16を有する限り、四角柱形状以外の形状であってもよい。
【0028】
コイル部品1は、天板19を備えていてもよい。天板19は、第1鍔部5の天面8と第2鍔部6の天面14との間に渡され、図示しないが、エポキシ系接着剤などの熱硬化性樹脂によってコア2に固定される。コア2の軸線方向Aの寸法および図1紙面に直交する方向の寸法に関して、天板19の寸法はコア2の寸法と同等以上であることが望ましい。天板19は、フェライト、またはフェライト粉、アルミナ粉もしくは金属磁性粉を含有する樹脂などから構成される。なお、天板19に代えて、紫外線硬化型樹脂のような樹脂でコア2の天面をコーティングするようにしてもよい。
【0029】
コイル部品1は、第1鍔部5および第2鍔部の少なくとも実装面7および13にそれぞれ設けられる第1端子電極21および第2端子電極22を備える。第1端子電極21および第2端子電極22が形成される領域は、図1および図2において暗色が施されることによって、それ以外の領域と区別されている。すなわち、端子電極21および22は、実装面7および13に形成されるとともに、実装面7および13に隣接する内側端面9および15、外側端面10および16、第1側面11および17、ならびに第2側面12および18の各々の一部にまで延びるように形成されている。なお、端子電極21および23の詳細については後述する。
【0030】
コイル部品1は、第1端子電極21および第2端子電極22間に接続されながら巻芯部3のまわりに巻回された、少なくとも1本のワイヤ23をさらに備える。ワイヤ23は、銅、銀または金などの良導電性金属からなる中心線材を備え、中心線材はポリウレタンまたはポリアミドイミドなどの樹脂によって被覆される。ワイヤ23の中心線材の径は特に制限はないが、たとえば60μm以上かつ180μm以下とされる。なお、ワイヤ23の巻芯部3でのターン数は、求められる特性に応じて任意に変更することができる。
【0031】
ワイヤ23の、端子電極21および22への接続には、たとえば、熱圧着が適用される。実装面7および13には、ワイヤ23の端部を受け入れるための溝25および26が設けられていてもよい。溝25および26は、内側端面9および15と外側端面10および16とを結ぶ方向に延びている。溝25および26の存在は、ワイヤ23を溝25および26内に収めることができるので、コイル部品1の実装状態を安定させることができる。
【0032】
溝25および26の各々の底面29および30は、溝25について図4に示されているように、外側端面10側から内側端面9側に向かってより深くなる勾配を有している。ワイヤ23の各端部は、溝25および30の底面29および30において、それぞれ、第1端子電極21および第2端子電極22に接続されている。
【0033】
前述したように、底面29および30に勾配が付与されることにより、ワイヤ23の圧着時において、ワイヤ23に及ぼされるダメージを低減することができる。よって、圧着部付近でのワイヤ23の断線のリスクを抑えることができる。勾配がない場合、ワイヤ23が端部において急激に薄くなり、ワイヤ23の断線のリスクが上がるという不都合が生じるが、それを避けることができる。
【0034】
なお、ワイヤ23の各端部が端子電極21および22の各々に熱圧着されたとき、溝25および26の底面29および30において、ワイヤ23は、たとえば高さ15μm、幅200μmの膨らみを形成する。
【0035】
一方の端子電極21について図3および図4に示されるように、端子電極21は、下地層31と、錫を含む錫層32とを含む。なお、第1端子電極21および第2端子電極22は、実質的に互いに同じ断面構造を有しているので、図3および図4に図示された第1端子電極21について詳細に説明し、第2端子電極22については詳細な説明を省略する。
【0036】
下地層31は、鍔部5の実装面7ならびに実装面7から内側端面9および外側端面10の各一部にまで延びるように設けられる。図3および図4では図示されないが、この実施形態では、下地層31は、さらに、実装面7から第1側面11および第2側面12の各一部にまで延びるように設けられる。錫層32は、下地層31を覆うとともに、端子電極21の各々の少なくとも最外層を形成するように設けられる。
【0037】
下地層31は、たとえば、銀を導電成分として含む導電性ペーストを塗布し、焼き付けることによって形成される焼付層で構成される。錫層32は、たとえばバレルめっきのようなめっきによって形成されるめっき層で構成される。
【0038】
図4は、ワイヤ23と第1端子電極21との接続部分の断面を示している。一方、図3は、上記接続部分ではない箇所における第1端子電極21の断面を示している。図3および図4を参照しての説明にあたり、内側端面9および外側端面10の延びる方向に沿って実装面7から離れる方向を高さ方向とする。
【0039】
まず、図4に示すように、ワイヤ23と第1端子電極21との接続部分では、
(1)下地層31は、内側端面9に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H1が、外側端面10に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H2より高く、
(2)錫層32は、内側端面9に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H3が、外側端面10に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H4より低い。
【0040】
なお、上述した4つの高さ方向の位置H1~H4の関係は、H1>H2、H4>H3で表わされるが、H1とH3との関係は、必ず、H3≧H1となる。なぜなら、内側端面9側において、錫層32は、下地層31を覆うように形成されるので、錫層32の先端の高さ方向の位置H3は、下地層31の先端の高さ方向の位置H1より低くなることはないからである。以上のことから、4つの高さ方向の位置H1~H4の関係は、H4>H3≧H1>H2で表わされる。
【0041】
このような構成によれば、以下のような効果が奏される。
【0042】
外側端面10側において錫を多く存在させることができる。そのため、実装時において外側端面10側で良好なはんだ濡れ性を実現でき、実装基板に対する固着強度の向上に寄与するはんだフィレットを十分な高さで形成することができる。
【0043】
また、外側端面10側において下地層31より高く形成される錫層32の、下地層31との高さの差を大きくすることができるので、外側端面10と錫層32との接触面積を広くすることができる。錫層32の、コア2に対する密着力は、下地層31の、コア2に対する密着力に比べて弱い。したがって、錫層10は、端子電極21の先端から加わるストレスを有利に緩和することができる。
【0044】
また、内側端面9側では、下地層31が比較的高く形成されるので、下地層31を覆う錫層32もそれに応じて十分な高さをもって形成される。したがって、内側端面9側において、ワイヤ23と錫層32との接合面積を広く取ることができ、ワイヤ23と端子電極21との接続強度を高く維持することができる。
【0045】
この実施形態では、上述した高さの関係は、ワイヤ23と第1端子電極21との接続部分以外の箇所でも維持されている。すなわち、図3に示すように、
(1)下地層31は、内側端面9に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H1が、外側端面10に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H2より高く、
(2)錫層32は、内側端面9に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H3が、外側端面10に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H4より低い。
【0046】
上述の図3および図4に示した状態からわかるように、この実施形態では、下地層31は、内側端面9に沿って延びる部分の先端のすべての高さ方向の位置H1が、外側端面10に沿って延びる部分の先端のすべての高さ方向の位置H2より高く、錫層32は、内側端面9に沿って延びる部分の先端のすべての高さ方向の位置H3が、外側端面10に沿って延びる部分の先端のすべての高さ方向の位置H4より低くされている。
【0047】
このような構成によれば、内側端面9および外側端面10のより広い範囲にわたって前述した効果が奏される。よって、より確実な効果が期待できる。
【0048】
具体的には図示されないが、下地層31と錫層32との間に、下地層31および錫層32のいずれに含まれる導電成分とも異なる導電成分を含む中間層をさらに備えていてもよい。この中間層は、単一層からなるものでも、互いに異なる導電成分を含む複数層からなるものでもよい。
【0049】
上述のように中間層を含む場合、好ましい実施形態では、銀を含む導電性ペーストを塗布し、焼き付けることによって、下地層31を形成した後、銅、ニッケル、錫の順にめっきを施すことによって、中間層および錫層32が形成される。ここで、たとえば、銀層の厚みは5μm~30μm、銅層の厚みは1μm~5μm、ニッケル層の厚みは1μm~5μm、錫層の厚みは5μm~20μmとされる。なお、中間層は、たとえばニッケル層の単一層であってもよい。
【0050】
第2端子電極22側の構成については詳細な説明を省略したが、第2端子電極22側においても、図示された第1端子電極21側と同様の構成を備えている。しかしながら、図示された第1端子電極21側の構成は、第1端子電極21側のみに採用されてもよい。
【0051】
コイル部品1は、たとえば、以下のようにして製造される。
【0052】
ドラム状のコア2を得るため、フェライトの粉末を金型でプレス成形し、得られた成形体を焼成し、焼成後にバレル研磨を行なうことによってバリを取る。このとき、コア2の稜線部分は面取りされて、小さなアール面が付与される。
【0053】
次いで、得られたコア2の鍔部5および6に端子電極21および22を形成する。
【0054】
より詳細には、第1端子電極21について説明すると、まず、第1端子電極21における下地層31を、たとえば、銀を導電成分として含む導電性ペーストを塗布し、焼き付けることによって形成する。下地層31となるべき導電性ペーストの塗布にあたっては、たとえば、導電性ペーストを塗布するためのアプリケータを操作して、導電性ペーストの塗布領域が図3および図4に示す状態となるように、すなわち、内側端面9に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H1が、外側端面10に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H2より高くなるようにする。
【0055】
第2端子電極22についても、第1端子電極21の場合と同様の方法で形成する。
【0056】
次いで、たとえばバレルめっきを適用して、錫層32となる錫めっき膜を形成する。このバレルめっきにおいて、メディアの衝突頻度が外側端面10側の方が内側端面9側より高いので、外側端面10側において、めっき析出がより進む。ここで、バレルめっきを長時間実施することによって、外側端面10側で錫を多く析出させることを行なう必要はない。このようにして、錫層32は、外側端面10に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H4が、内側端面9に沿って延びる部分の先端の高さ方向の位置H3より高くなる。
【0057】
その後、ノズルを用いて、コア2の巻芯部3にワイヤ23を巻回し、次いで、ヒーターチップを用いて、ワイヤ23の端部を端子電極21および22に熱圧着する。熱圧着において、たとえば温度500℃で1秒間の圧着条件が適用される。圧着後、ヒーターチップの温度を下げていき、300℃以下温度に達したとき、ヒーターチップを引き上げる。次いで、端子電極21および22に接続されたワイヤ23の余分はカット刃によりカットされる。
【0058】
天板19を備える場合は、その後、天板19が接着剤を介してコア2に固着される。天板19に代えて樹脂がコーティングされる場合には、コア2に樹脂が塗布され、次いで硬化される。
【0059】
得られたコイル部品1は、たとえば、軸線方向Aの寸法が3.2mm、図1紙面に直交する幅方向の寸法が2.5mm、図2紙面に直交する高さ方向の寸法が2.5mmである。
【0060】
以上、この発明を図示した実施形態に関連して説明したが、この発明の範囲内において、その他種々の変形例が可能である。
【0061】
たとえば、この発明が向けられるコイル部品は、図示された実施形態のように、単一のコイルを構成するもの以外に、コモンモードチョークコイルを構成するもの、あるいは、トランスやバランなどを構成するものであってもよい。したがって、ワイヤの数についても、コイル部品の機能に応じて変更され、それに応じて、各鍔部に設けられる端子電極の数や溝の数も変更され得る。
【0062】
また、コイル部品に備える巻線用コアおよび天板についての形状は、図示されたものに限らず、望まれる設計に応じて、任意に変更することができる。
【0063】
また、この発明に係るコイル部品を構成するにあたり、この明細書に記載された異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
【0064】
この発明の実施態様には、次のようなものがある。
【0065】
<1>
軸線方向に延びる巻芯部ならびに前記巻芯部の前記軸線方向における互いに逆の第1端部および第2端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部を有する、コアと、
前記第1鍔部および前記第2鍔部にそれぞれ設けられた第1端子電極および第2端子電極と、
前記第1端子電極および前記第2端子電極間に接続されながら前記巻芯部のまわりに巻回された、少なくとも1本のワイヤと、
を備え、
前記第1鍔部および前記第2鍔部の各々は、実装時において実装基板側に向く実装面と、前記巻芯部側に向く内側端面と、前記内側端面とは反対側の外側端面と、を有し、
前記第1端子電極および前記第2端子電極の各々は、下地層と、錫を含む錫層とを含み、
前記下地層は、前記実装面ならびに前記実装面から前記内側端面および前記外側端面の各一部にまで延びるように設けられ、前記錫層は、前記下地層を覆うとともに、前記第1端子電極および前記第2端子電極の各々の少なくとも最外層を形成するように設けられ、
前記内側端面および前記外側端面の延びる方向に沿って前記実装面から離れる方向を高さ方向として、
前記第1端子電極および前記第2端子電極の少なくとも一方の端子電極について、前記ワイヤと前記端子電極との接続部分の断面であって、前記実装面、前記内側端面および前記外側端面のいずれにも直交する断面を見たとき、
(1)前記下地層は、前記内側端面に沿って延びる部分の先端の前記高さ方向の位置が、前記外側端面に沿って延びる部分の先端の前記高さ方向の位置より高く、
(2)前記錫層は、前記内側端面に沿って延びる部分の先端の前記高さ方向の位置が、前記外側端面に沿って延びる部分の先端の前記高さ方向の位置より低い、
コイル部品。
【0066】
<2>
前記少なくとも一方の端子電極が設けられる前記第1鍔部および前記第2鍔部の少なくとも一方は、前記実装面に設けられた溝を有し、前記溝は、前記内側端面と前記外側端面とを結ぶ方向に延びかつ前記外側端面側から前記内側端面側に向かってより深くなる勾配を持つ底面を規定しており、前記ワイヤは、前記溝の前記底面において前記端子電極に接続されている、<1>に記載のコイル部品。
【0067】
<3>
前記少なくとも一方の第1端子電極において、前記下地層は、前記内側端面に沿って延びる部分の先端のすべての前記高さ方向の位置が、前記外側端面に沿って延びる部分の先端のすべての前記高さ方向の位置より高く、前記錫層は、前記内側端面に沿って延びる部分の先端のすべての前記高さ方向の位置が、前記外側端面に沿って延びる部分の先端のすべての前記高さ方向の位置より低い、<1>または<2>に記載のコイル部品。
【0068】
<4>
前記下地層は、導電成分として銀を含む導電性ペーストの焼付け層である、<1>ないし<3>のいずれかに記載のコイル部品。
【0069】
<5>
前記錫層は、めっき層である、<1>ないし<4>のいずれかに記載のコイル部品。
【0070】
<6>
前記少なくとも一方の端子電極は、前記第1端子電極および前記第2端子電極の双方である、<1>ないし<5>のいずれかに記載のコイル部品。
【符号の説明】
【0071】
1 コイル部品
2 コア
3 巻芯部
5,6 鍔部
7,13 実装面
9,15 内側端面
10,16 外側端面
21,22 端子電極
23 ワイヤ
25,26 溝
29 底面
31 下地層
32 錫層
A 軸線方向
図1
図2
図3
図4