IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東洋新薬の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175703
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】睡眠の質向上用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7024 20060101AFI20241212BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20241212BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241212BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61K31/7024
A61P25/20
A23L33/105
A23L2/52
A23L2/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093596
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(72)【発明者】
【氏名】松岡 夏希
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 咲良
(72)【発明者】
【氏名】尾上 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 慎一郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD08
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LE10
4B117LG18
4B117LK08
4B117LK16
4B117LL01
4B117LL02
4B117LP01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA03
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA05
(57)【要約】
【課題】
睡眠の質向上が可能な組成物を提供すること。
【解決手段】
エノテインBを含有する組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エノテインBを含有することを特徴とする睡眠の質向上用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エノテインBを含有することを特徴とする睡眠の質向上用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
社会の環境や日常のストレスなどにより、睡眠障害や不眠症に悩む人々が非常に多い。質の悪い睡眠は生活習慣病の罹患リスクを高め、かつ症状を悪化させることも知られており、睡眠障害や不眠症の改善が求められている。
【0003】
睡眠を改善するために、医薬品である催眠剤、漢方薬の服用や、寝具や睡眠時の環境の改善などが提案されてきたが、睡眠状況は食生活にも大きく左右されることから、長期間安全に摂取できる食品による予防が重要であると考えられ、睡眠の質向上作用を有する食品の開発が試みられている。例えば、セサミン類による睡眠の質向上や(特許文献1)、ラクトフェリンによる睡眠の質向上が知られている(特許文献2)。しかしながら、これまで開発された組成物は必ずしも効果が十分とは言えないため、睡眠の質向上作用に優れた新たな組成物の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-188234号公報
【特許文献2】特開2018-043964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、睡眠の質向上が可能な組成物を提供することにある。
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を積み重ねた結果、驚くべきことに、エノテインBを含有することで、睡眠の質向上作用に優れた組成物を得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づき、完成された発明である。
【0007】
本発明の概要は、以下の通りである。
[1]エノテインBを含有することを特徴とする睡眠の質向上用組成物。
[2]エノテインBを含有することを特徴とする睡眠の質向上用組成物であって、睡眠の質向上が中途覚醒抑制であることを特徴とする睡眠の質向上用組成物。
[3]エノテインBがヤナギラン抽出物であることを特徴とする睡眠の質向上用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物は、中途覚醒抑制効果を有することから、優れた睡眠の質向上効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明の組成物は、エノテインBを含有することを特徴とする。エノテインBとは、加水分解性タンニンの一種であり、下記式(1)で表される化合物である。エノテインBは、オエノテインB、オノテインBとも称される。
【0011】
【化1】
【0012】
本発明に用いられるエノテインBとしては、飲食品の分野において通常使用されているものであれば特に限定されず、当業者に通常知られる方法により合成された合成物や、エノテインBを含有する植物、該植物の処理物などが挙げられる。経口摂取における安全性の観点から、エノテインBを含有する植物及び該植物の処理物を使用することが好ましい。
【0013】
本発明に用いられるエノテインBを含有する植物としては、例えば、ヤナギラン、ユーカリ、ザクロなどが挙げられる。エノテインBを豊富に含有する点から、ヤナギラン又はユーカリを使用することが好ましく、睡眠の質向上作用の観点から、ヤナギランを使用することが特に好ましい。
【0014】
エノテインBを含有する植物の処理物としては、例えば、粉砕物、搾汁、抽出物などが挙げられるが、エノテインBを豊富に含有する点から、抽出物が好ましい。抽出に用いる溶媒は、極性溶媒、非極性溶媒のいずれでもよく、水、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、n-ヘキサン等およびそれらの混合液を使用することができるが、エノテインBを効率的に抽出する点から、水、含水エタノール、エタノールを使用することが好ましい。抽出方法は、通常植物成分を抽出するのに際して許容される方法であれば、特に限定されないが、例えば、加温抽出法、超臨界流体抽出法などの固液抽出法が挙げられる。搾汁や抽出物は、液状であってもよいが、ペースト状や乾燥粉末として用いることもできる。ペースト状や乾燥粉末とする場合は、そのもののみを用いて製造しても良いし、賦形剤と共に加工しても良い。また、得られた処理物は、さらに化学処理、酵素処理、精製処理を行っても良い。
【0015】
本発明の組成物におけるエノテインBの含有量は、例えばHPLCによって測定することができる。例えば、紫外部吸収検出器付きHPLC分析装置により測定することができ、分析カラムは株式会社大阪ソーダ製のCAPCELLPAK C18 UG120 5μm(4.6×250mm)を用い、移動相の液媒として、0.05%リン酸水溶液(移動相A)、アセトニトリル溶液(移動相B)を用い、カラム温度は40℃、流量1.0mL/分とすることができる。グラジエント条件は以下の通りとすることができる。
【0016】
【表A】
【0017】
本発明の組成物には、エノテインB以外に、必要に応じてその他の成分を配合することができる。その他の成分としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、水溶性食物繊維や不溶性食物繊維等の食物繊維、タンパク質、各種ビタミン類やミネラル類、藻類、酵母等の微生物等を配合することができる。更に、必要に応じて、通常食品分野で用いられる、甘味料、酸味料、栄養補助剤、安定剤、結合剤、光沢剤、増粘剤、着色料、希釈剤、乳化剤、食品添加物、調味料等を挙げることができる。これらその他の成分の含有量は、本発明の組成物の形態等に応じて適宜選択することができる。
【0018】
本発明の組成物は、後述する実施例に記載の通り、中途覚醒を抑制することで、睡眠の質を向上することができる。本発明の組成物は、睡眠の質向上効果を奏することから、睡眠の質向上用組成物として用いることができる。
【0019】
本発明の組成物は、睡眠の質向上作用に用いられる点において、製品として他の製品と区別することができるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、本発明に係る製品の本体、包装、説明書、宣伝物のいずれかに睡眠の質向上作用の機能がある旨を表示したものが本発明の範囲に含まれる。例えば、医薬品(医薬部外品を含む)や、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の所定機関より効能の表示が認められた機能性食品などのいわゆる健康食品や、飼料等を挙げることができる。また、一般的な食品であっても、睡眠の質向上の用途を示唆して製造販売されるものは、本発明の睡眠の質向上用組成物の範囲に含まれる。
【0020】
具体的に、睡眠の質向上用組成物において、例えば、「睡眠の質の向上」、「睡眠の質(眠りの深さ、起床時の睡眠に対する満足感)の向上」、「熟眠感の改善」、「睡眠時の中途覚醒回数を減らす」、「中途覚醒時間を減少する」、「眠りの深さの改善」、「眠りの深さの満足感の向上」、「睡眠リズムの改善」、「日中の眠気の改善」、「起床時の満足感の向上」、「睡眠時間延長感の改善」、「夜間の良質な睡眠をサポート」、「睡眠サポート」、「睡眠改善」、「起床時の眠気の軽減」、「起床時の疲労感の軽減」、「良質な眠りをサポートする」、「日中の眠気をやわらげる」等の文言による広告・宣伝が可能であり、これらの広告・宣伝は本発明の実施とみなすことができる。
【0021】
本発明の組成物は、経口的な使用に適した形態であれば特に限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、粒状剤、棒状剤、板状剤、ブロック状剤、固形状剤、丸状剤、ペースト状剤、クリーム状剤、カプレット状剤、ゲル状剤、チュアブル状剤、スティック状剤等を挙げることができる。これらの中でも、服用しやすさの観点から、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、液剤の形態が好ましく、錠剤、カプセル剤、顆粒剤がより好ましい。錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、液剤として用いられる経口用組成物の例としては、サプリメント、食品添加剤、ペットボトル、缶、瓶等に充填された容器詰飲料、水(湯)、牛乳、果汁等に溶解して飲むための粉末飲料等を例示することができる。
【0022】
本発明の組成物におけるエノテインBの含有量としては、その効果の奏する範囲で適宜含有させればよい。睡眠の質向上作用の観点から、固形分中、0.001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。また、日常生活において継続的に経口摂取しやすい観点から、エノテインBを80質量%以下含有させることが好ましく、60質量%以下含有させることがより好ましく、40質量%以下含有させることがよりさらに好ましく、20質量%以下含有させることが特に好ましい。
【0023】
本発明における組成物の摂取量としては特に制限はないが、睡眠の質向上作用の観点から、エノテインBの摂取量が、1日当たり0.01mg以上となるように摂取することが好ましく、0.1mg以上となるように摂取することがより好ましく、1mg以上となるように摂取することがよりさらに好ましく、10mg以上となるように摂取することが特に好ましい。また、日常生活において継続的に経口摂取しやすい観点から、エノテインBの摂取量が、1日当たり1000mg以下となるように摂取することが好ましく、500mg以下となるように摂取することがより好ましく、200mg以下となるように摂取することが特に好ましい。
【0024】
本発明の組成物は、エノテインBの1日の摂取量が上記摂取量となるように適宜設計すればよく、1回で上記摂取量を摂取する態様であってもよいし、複数回に分けて上記摂取量を摂取する態様であってもよい。すなわち、例えば、1つの容器に、又は2~4の複数の容器に分けて、1日分として収容することができる。
【0025】
本発明の組成物の包装形態は特に限定されず、剤形などに応じて適宜選択できるが、例えば、PTPなどのブリスターパック;ストリップ包装;ヒートシール;アルミパウチ;プラスチックや合成樹脂などを用いるフィルム包装;バイアルなどのガラス容器;アンプルなどのプラスチック容器などが挙げられる。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【0027】
<試験 中途覚醒抑制作用の評価>
本発明の組成物を摂取することにより、中途覚醒抑制による睡眠の質向上効果が発揮されることを確認するため、以下の試験を実施した。
【0028】
[1.試験食品]
エノテインBとして、ヤナギランの含水エタノール抽出物を使用した。実施例1には、ヤナギラン抽出物に、還元麦芽糖、セルロース、ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素を混合し、打錠した錠剤を使用した。実施例2には、実施例1中のヤナギラン抽出物の半分を,還元麦芽糖に置き換えた錠剤を使用した。比較例には、実施例1中のヤナギラン抽出物を還元麦芽糖に置き換え、さらに外観で実施例1及び実施例2との区別がつかないようにするため、カラメル色素を加え二酸化ケイ素の量を調整した錠剤を使用した。実施例1、実施例2及び比較例ともに1日摂取目安量(250mg×2錠)を無地アルミ個包装とし、被験者および介入実施者への盲検性を確保した。1日摂取目安量あたりの実施例1に含まれるエノテインBは30mgであり、1日摂取目安量あたりの実施例2に含まれるエノテインBは15mgであった。なお、実施例1及び実施例2中のエノテインBの含有量はHPLCにより測定した。
【0029】
[2.被験者]
40名(男性16名、女性24名)を被験者として選定した。
【0030】
[3.試験デザイン]
本試験は、前観察期間(1週間)、摂取期間(8週間)からなる合計9週間のランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験(割付け比1:1:1)として実施した。試験責任医師が選択基準および除外基準に従い組入れを行い、ランダム化担当者が年齢、性別、1日の総排尿回数を調整因子としたブロックランダム化法にて割振りを行った。割振りした3群を、試験に直接関係のない割付責任者が実施例1群、実施例2群、比較例群に割り付けた。さらに、割付責任者は割付け結果を記載した表(キーコード)を作成および封緘し、解析対象者決定後にキーコードを開示するまで密封保管することで、盲検性を確保した。摂取期間中は、被験者に1日1回1袋(2錠)の試験食品(実施例1群は実施例1、実施例2群は実施例2、比較例群は比較例)を水またはぬるま湯とともに摂取させた。
【0031】
[4.評価方法]
有効性評価として摂取開始前検査(以下、摂取前)、摂取8週間後検査(以下、摂取8週間後)の計2回、脳波測定デバイスによる中途覚醒時間の測定を実施した。中途覚醒時間はウェアラブル脳波測定デバイス(InSomnograf K2、株式会社S’UIMIN製)を用いて、各検査日の2日前から当日までの3日間の脳波を測定した。脳波から入眠後の覚醒時間を算出し、3日間のデータの平均値を採用した。ただし、測定不良により、一晩のうち判定不能となった時間が5%を越えるデータは不採用とし、不採用としたデータの日数が、試験期間内の測定日数の50%を越える場合は欠損値とした。
【0032】
[5.統計解析]
解析対象集団はPPS(Per-Protocol Set)とし、脳波測定で欠損値が生じた被験者はその項目のみ解析対象者から除外した。中途覚醒時間については、まず反復測定分散分析を行い、群と時点との交互作用が認められた場合、検査の実測値および摂取前からの変化量に対し、検査毎にDunnett検定により比較例に対する群間比較を行った。有意水準は両側で0.05とした。統計解析はIBM SPSS Statistics 28を使用して行った。また、統計データは平均値±標準誤差で示した。
【0033】
[6.結果]
結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すように、エノテインBを含有する実施例1~2を摂取することで、中途覚醒時間は減少した。したがって、本発明の組成物は、中途覚醒抑制効果を示すことから、睡眠の質向上効果が期待できる。
【0036】
[製造例]
実施例の結果に基づいて、以下に本発明の製造例を示す。
【0037】
[製造例1-4:顆粒剤]
表2の配合の通り、エノテインBと他の原料を混合後、造粒機を用いて流動層造粒を行い、製造例1-4に記載の顆粒剤を製造した。製造例1-4に記載の顆粒剤は、1日あたり3gを100mlの水などに溶かして摂取してもよく、溶かさずにそのまま摂取してもよい。製造例1-4のいずれの顆粒剤も中途覚醒を抑制することができ、睡眠の質向上に有効である。
【0038】
【表2】
【0039】
[製造例5-8:錠剤]
表3の配合の通り、エノテインBと他の原料を混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠を行い、製造例5-8の錠剤(250mg)を製造した。製造例5-8に記載の錠剤は1日あたり1~2粒を水などと共に摂取すればよい。製造例5-8のいずれの錠剤も中途覚醒を抑制することができ、睡眠の質向上に有効である。
【0040】
【表3】
【0041】
[製造例9-12:ハードカプセル]
表4の配合の通り、エノテインBと他の原料を混合し、ゼラチン又はヒドロキシプロピルセルロースを含む被膜で被包することで、ハードカプセル(内容量:300mg)を製造した。1日あたり1~2粒、水などと共に摂取すればよい。製造例9-12のいずれのハードカプセルも中途覚醒を抑制することができ、睡眠の質向上に有効である。
【0042】
【表4】
【0043】
[製造例13-16:PET飲料]
表5の配合の通り、エノテインBと他の原料を混合した液剤をPET容器に詰め、PET飲料(500ml)を製造した。1日あたり1本摂取すればよい。製造例13-16のいずれのPET飲料も中途覚醒を抑制することができ、睡眠の質向上に有効である。
【0044】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の組成物は、睡眠の質向上を可能とし、健康食品等として用いることができることから、産業上有用である。