(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175705
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】歯車研削加工シミュレーション方法および装置
(51)【国際特許分類】
B23F 5/04 20060101AFI20241212BHJP
B23F 23/12 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B23F5/04
B23F23/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093598
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 滉明
(72)【発明者】
【氏名】吉永 克仁
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 明
【テーマコード(参考)】
3C025
【Fターム(参考)】
3C025HH07
(57)【要約】
【課題】ねじ状砥石を用いて工作物を研削加工する歯車研削加工における歯車研削加工シミュレーション方法および装置を提供する。
【解決手段】
工作物モデルMwを基準とする座標系において時刻t
nにおいて砥石刃断面点群を構成する隣り合う2つの砥石刃断面点Pt(i,t
n),Pt(i+1,t
n)の区間である砥石定義点区間Se(i,t
n)と時刻t
nのΔt後である時刻t
n+1において隣り合う2つの砥石刃断面点Pt(i,t
n+1),Pt(i+1,t
n+1)の区間である砥石定義点区間Se(i,t
n+1)とにより表される砥石定義点区間通過エリアの内部に位置すると判定された工作物定義点を一端とする対象線分と砥石定義点区間通過エリアを構成する面との交点を算出し、各工作物定義点につき変更前後の工作物定義点の距離に基づき平面研削モデルを用いて研削抵抗パラメータに基づき変更後の工作物定義点を含むメッシュでの研削抵抗を算出する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより、ねじ状砥石を用いて工作物を研削加工して歯車を創成する歯車研削加工のシミュレーションを行う歯車研削加工シミュレーション方法であって、
前記ねじ状砥石の軸方向断面において前記ねじ状砥石の凸刃の断面形状を定義する砥石刃断面点群を生成し、
前記砥石刃断面点群を、前記ねじ状砥石の前記凸刃の延在方向に配置することにより、前記ねじ状砥石の前記凸刃を3次元モデル化した砥石モデルを生成し、
前記工作物の表面上の工作物定義点群、および、前記工作物定義点群のそれぞれの点を一端とし前記工作物の径方向に延びる線分群により定義された工作物モデルを生成し、
前記工作物モデルを基準とする座標系において、時刻tn(nは序数)において前記砥石刃断面点群を構成する隣り合う2つの砥石刃断面点Pt(i,tn),Pt(i+1,tn)の区間である砥石定義点区間Se(i,tn)と、時刻tnのΔt後である時刻tn+1において隣り合う2つの砥石刃断面点Pt(i,tn+1),Pt(i+1,tn+1)の区間である砥石定義点区間Se(i,tn+1)とにより表される砥石定義点区間通過エリアを決定し、
前記工作物モデルを構成する前記工作物定義点群の各工作物定義点が、当該工作物定義点を一端とする線分の方向から見た場合において、前記砥石定義点区間通過エリアの内部に位置するか否かの包含チェックを行い、
前記包含チェックにおいて内部に位置すると判定された前記工作物定義点を一端とする対象線分と前記砥石定義点区間通過エリアを構成する面との交点を算出し、
前記対象線分の一端に位置する前記工作物定義点を前記交点の座標に変更し、
各前記工作物定義点について、変更前の前記工作物定義点と変更後の前記工作物定義点との距離に基づいて、平面研削モデルにおいて研削抵抗を算出するために使用される研削抵抗パラメータを算出し、
前記工作物の表面上における一つの前記工作物定義点を中心とするとともに隣り合う前記工作物定義点との中点を繋いだ境界を有する領域をメッシュとして規定し、前記平面研削モデルを用いて、前記研削抵抗パラメータに基づいて複数の前記メッシュのうちで前記変更後の工作物定義点を含む前記メッシュにおける研削抵抗を算出する、歯車研削加工シミュレーション方法。
【請求項2】
前記研削抵抗パラメータは、前記変更前後の工作物定義点の距離に基づいて算出される、前記工作物モデルにおける前記砥石モデルによる単位時間当たりの除去体積を含む、請求項1に記載の歯車研削加工シミュレーション方法。
【請求項3】
前記除去体積は、前記変更前の工作物定義点を含むメッシュの面積である第1メッシュ面積と、前記変更後の工作物定義点を含むメッシュの面積である第2メッシュ面積と、前記変更前後の工作物定義点の距離とに基づいて算出される、請求項2に記載の歯車研削加工シミュレーション方法。
【請求項4】
前記除去体積は、前記第1メッシュ面積と前記第2メッシュ面積との中央値であるメッシュ面積中央値と、前記変更前後の工作物定義点の距離との積として算出される、請求項3に記載の歯車研削加工シミュレーション方法。
【請求項5】
所定時刻における前記変更後の工作物定義点を含む前記メッシュにおける研削抵抗は、所定時刻における前記変更後の工作物定義点を含む前記メッシュにおける研削抵抗ベクトルに基づいて算出される、請求項1又は2に記載の歯車研削加工シミュレーション方法。
【請求項6】
前記研削抵抗ベクトルは、前記交点における前記工作物モデルと前記砥石モデルとの相対速度ベクトルである主分力ベクトルと、前記砥石モデルにおける前記交点を含む断面である砥石断面ベクトルと前記主分力ベクトルとに直交する背分力ベクトルと、を含む、請求項5に記載の歯車研削加工シミュレーション方法。
【請求項7】
前記変更後の工作物定義点を含む前記メッシュにおける研削抵抗に基づいて、前記工作物モデルにおける工作物1回転中の1歯溝の研削抵抗を算出する、請求項1又は2に記載の歯車研削加工シミュレーション方法。
【請求項8】
位相を変化させた前記工作物モデルにおける工作物1回転中の1歯溝の研削抵抗を複数合算して、前記工作物モデルにおける複数歯溝又は全歯溝の研削抵抗を算出する、請求項7に記載の歯車研削加工シミュレーション方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の歯車研削加工シミュレーション方法を実行する歯車研削加工シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車研削加工シミュレーション方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ねじ状砥石を用いて工作物を研削して歯車の歯面を創成する歯車研削加工方法が記載されている。工作物を回転させ、かつ、ねじ状砥石を回転させた状態で、工作物とねじ状砥石とを相対移動することにより、荒加工により予め歯車の歯形が形成された工作物において歯面を研削加工することができる。なお、歯車研削加工は、一定の取り代を研削する歯面の仕上加工に加えて、歯形方向の修整や歯すじ方向の修整を行うこともできる。
【0003】
また、特許文献2には円筒砥石を用いた研削加工装置において、研削抵抗を検出する構成が開示されている。また、特許文献3には、歯車切削加工装置において、切削抵抗を考慮して加工を行う構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-123569号公報
【特許文献2】特開2015-208812号公報
【特許文献3】特開2020-069622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ねじ状砥石を用いた歯車研削加工において、歯面にうねりが生じる場合がある。そのうねりの要因の一つとして、研削抵抗の変動が考えられる。しかしながら、ねじ状砥石を用いた歯車研削加工では、研削抵抗に関与するパラメータの値が時々刻々と変化するため、特許文献2に開示の円筒砥石を用いた研削加工における研削抵抗と同様に考えることはできない。また、特許文献3に開示の歯車切削加工と歯車研削加工とでは、加工のメカニズムが異なるため、特許文献3に開示の歯車切削加工に関する知見を、ねじ状砥石を用いた歯車研削加工に適用することはできない。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、ねじ状砥石を用いて工作物を研削加工する歯車研削加工における研削抵抗のシミュレーションを行う歯車研削加工シミュレーション方法および装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
コンピュータにより、ねじ状砥石を用いて工作物を研削加工して歯車を創成する歯車研削加工のシミュレーションを行う歯車研削加工シミュレーション方法であって、
前記ねじ状砥石の軸方向断面において前記ねじ状砥石の凸刃の断面形状を定義する砥石刃断面点群を生成し、
前記砥石刃断面点群を、前記ねじ状砥石の前記凸刃の延在方向に配置することにより、前記ねじ状砥石の前記凸刃を3次元モデル化した砥石モデルを生成し、
前記工作物の表面上の工作物定義点群、および、前記工作物定義点群のそれぞれの点を一端とし前記工作物の径方向に延びる線分群により定義された工作物モデルを生成し、
前記工作物モデルを基準とする座標系において、時刻tn(nは序数)において前記砥石刃断面点群を構成する隣り合う2つの砥石刃断面点Pt(i,tn),Pt(i+1,tn)の区間である砥石定義点区間Se(i,tn)と、時刻tnのΔt後である時刻tn+1において隣り合う2つの砥石刃断面点Pt(i,tn+1),Pt(i+1,tn+1)の区間である砥石定義点区間Se(i,tn+1)とにより表される砥石定義点区間通過エリアを決定し、
前記工作物モデルを構成する前記工作物定義点群の各工作物定義点が、当該工作物定義点を一端とする線分の方向から見た場合において、前記砥石定義点区間通過エリアの内部に位置するか否かの包含チェックを行い、
前記包含チェックにおいて内部に位置すると判定された前記工作物定義点を一端とする対象線分と前記砥石定義点区間通過エリアを構成する面との交点を算出し、
前記対象線分の一端に位置する前記工作物定義点を前記交点の座標に変更し、
各前記工作物定義点について、変更前の前記工作物定義点と変更後の前記工作物定義点との距離に基づいて、平面研削モデルにおいて研削抵抗を算出するために使用される研削抵抗パラメータを算出し、
前記工作物の表面上における一つの前記工作物定義点を中心とするとともに隣り合う前記工作物定義点との中点を繋いだ境界を有する領域をメッシュとして規定し、前記平面研削モデルを用いて、前記研削抵抗パラメータに基づいて複数の前記メッシュのうちで前記変更後の工作物定義点を含む前記メッシュにおける研削抵抗を算出する、歯車研削加工シミュレーション方法にある。
【0008】
また、本発明の他の態様は、前記歯車研削加工シミュレーション方法を実行する歯車研削加工シミュレーション装置にある。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、各工作物定義点について、変更前の工作物定義点と変更後の工作物定義点との距離に基づいて、平面研削モデルにおいて研削抵抗を算出するために使用される研削抵抗パラメータを算出し、当該平面研削モデルを用いて研削抵抗パラメータに基づいて、工作物の表面上に規定された複数のメッシュのうちで変更後の工作物定義点を含むメッシュにおける研削抵抗を算出する。これにより、研削抵抗パラメータは、ねじ状砥石を用いて工作物を研削加工して歯車を創成する歯車研削加工において、時々刻々と変化する状態を反映したものであるため、当該メッシュにおける研削抵抗を算出することで、歯車研削加工中における研削抵抗を高精度に算出することに利用することができる。その結果、研削抵抗に起因する歯面誤差の要因の分析や工作機械の各軸剛性の決定が容易となる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、ねじ状砥石を用いて工作物を研削加工して歯車を創成する歯車研削加工における研削抵抗の変動のシミュレーションを行うことが可能な歯車研削加工シミュレーション方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】歯車加工装置を示す図であって、
図1の左側から見た図である。
【
図3】歯車研削加工シミュレーション装置の機能ブロック図である。
【
図4】歯車研削加工シミュレーション装置を構成する演算処理部による処理、すなわち歯車研削加工シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図5】歯車研削加工シミュレーション装置を構成する演算処理部による処理、すなわち歯車研削加工シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図6】歯車研削加工シミュレーション装置を構成する演算処理部による処理、すなわち歯車研削加工シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図7】歯車研削加工シミュレーション装置を構成する演算処理部による処理、すなわち歯車研削加工シミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図8】工作物である歯車の1つの目標歯形の斜視図である。
【
図10】砥石刃断面点群を示す図であって、(a)は1条ねじ、(b)は2条ねじ、(c)は3条ねじを示す図である。
【
図11】目標歯形とねじ状砥石の凸刃との接触状態を示す斜視図である。
【
図12】砥石モデルを生成するための座標系および砥石モデルの分割長を説明する図である。
【
図13】(a)は、ねじ状砥石が1条ねじの場合における砥石刃断面点群を示し、(b)は、1条ねじを構成する砥石モデルを示す図である。
【
図14】(a)は、ねじ状砥石が2条ねじの場合における砥石刃断面点群を示し、(b)は、2条ねじを構成する砥石モデルを示す図である。
【
図15】(a)は、ねじ状砥石が3条ねじの場合における砥石刃断面点群を示し、(b)は、3条ねじを構成する砥石モデルを示す図である。
【
図16】工作物モデルを生成するための座標系などを説明する図である。
【
図18】
図17とは異なる座標系にて示した工作物モデル図である。
【
図19】3次元極座標系(θ-Le-Zw)における工作物モデルを示す図である。
【
図20】砥石モデルの3次元直交座標系(Xt-Yt-Zt)において、砥石モデルにおける砥石定義点区間Seおよび砥石定義点区間通過エリアAtを示す図である。
【
図21】砥石モデルを工作物の2次元極座標系(θ-Zw)に変換した状態において、砥石定義点区間通過エリアAtと、砥石定義点区間通過エリアAtを含む矩形包含エリアAt’とを示す図である。
【
図22】工作物の2次元極座標系(θ-Zw)における工作物モデルMwと砥石定義点区間通過エリアAtおよび矩形包含エリアAt’とを配置した状態を示す図である。
【
図23】2次元極座標系(θ-Zw)において、工作物モデルMwを構成する線分群の1つの線分が、砥石定義点区間通過エリアAtに包含される状態を示す図である。
【
図24】2次元極座標系(θ-Zw)において、工作物モデルMwを構成する線分群の1つの線分が、砥石定義点区間通過エリアAtに包含されない状態を示す図である。
【
図25】2次元極座標系(θ-Le)において、工作物モデルMwを構成する線分と砥石定義点区間通過エリアAtとの交点を示す図である。
【
図26】工作物モデルMwの3次元直交座標系(Xw’-Yw’-Zw)において、工作物モデルMwを構成する線分と砥石定義点区間通過エリアAtとの交点を示す図である。
【
図27】2次元極座標系(θ-Le)において、工作物モデルMwを構成する工作物定義点を交点に変更した状態の図である。
【
図28】工作物モデルMwの3次元直交座標系(Xw’-Yw’-Zw)において、工作物モデルMwを構成する工作物定義点を交点に変更した状態の図である。
【
図29】歯車研削加工シミュレーションの途中における工作物モデルMwの状態と、砥石モデルMtの一部とを示す図である。
【
図30】工作物モデルMwの最終形状を示す図である。
【
図31】横軸平面研削モデルの概要を説明する図である。
【
図32】工作物モデルにおける除去体積を説明する概念図である。
【
図33】主分力ベクトルと背分力ベクトルとを説明する概念図である。
【
図34】(a)工作物モデルにおけるメッシュ面積を説明する概念図、(b)(a)の一部拡大図、(c)(b)の上面図である。
【
図36】工作物モデルにおける研削抵抗算出位置を例示する概念図である。
【
図37】実施形態1における(a)全歯溝の加工点群を例示する概念図である。
【
図38】工作物モデルMwの1歯溝で生じる研削抵抗を示す概念図である。
【
図39】工作物モデルMwにおける1歯溝の研削抵抗を位相変更して並べた概念図である。
【
図40】工作物モデルMwにおける全歯溝の研削抵抗を表す概念図である。
【
図41】他の平面研削モデルの概要を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
1.歯車研削加工装置1
歯車研削加工装置1の構成について
図1および
図2を参照して説明する。歯車研削加工装置1は、ねじ状砥石Tを用いて工作物Wを研削加工して、工作物Wに歯車の歯形を創成する。詳細には、歯車研削加工装置1は、ねじ状砥石Tをねじ状砥石Tの中心軸線回りに回転し、工作物Wを工作物Wの中心軸線回りに回転した状態において、ねじ状砥石Tを工作物Wの中心軸方向に相対移動することにより、工作物Wに歯車の歯形を研削する。
【0013】
そこで、歯車研削加工装置1は、工作物Wとねじ状砥石Tとを直交3軸のそれぞれの方向に相対移動可能に構成される。さらに、歯車研削加工装置1は、工作物Wを工作物Wの中心軸線回りに回転可能に設け、ねじ状砥石Tをねじ状砥石Tの中心軸線回りに回転可能に設け、工作物Wとねじ状砥石Tとの相対姿勢を変更するために工作物Wまたはねじ状砥石Tを回転可能に設けられる。
【0014】
歯車研削加工装置1は、6軸加工機、すなわち、直進3軸かつ回転3軸を有する加工機を適用する。本実施形態においては、歯車研削加工装置1は、工作物WをB軸回りに回転可能とし、ねじ状砥石TをA軸回りかつC軸回りに回転可能とし、ねじ状砥石TをX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動可能とする。A軸とは、工作物Wの中心軸線およびねじ状砥石Tの中心軸線に対して直交する方向の軸線である。B軸は、工作物Wの中心軸線に一致する。C軸は、ねじ状砥石Tの中心軸線に一致する。
【0015】
歯車研削加工装置1は、ベッド2、コラム3、Y軸スライド4、回転部材5、砥石支持部材6、ねじ状砥石T、工作物支持部材7を備える。ベッド2は、設置面上に設置される。コラム3は、ベッド2の上面に設けられたX軸ガイドに案内されて、ベッド2に対してX軸方向(水平方向)に移動可能に設けられる。図示しないが、コラム3は、ボールねじ機構またはリニアモータなどにより駆動される。
【0016】
Y軸スライド4は、コラム3の鉛直方向に延びる側面に設けられたY軸ガイドに案内されて、コラム3に対してY軸方向(上下方向)に移動可能に設けられる。回転部材5は、Y軸スライド4に設けられ、水平軸線であるA軸回りに回転可能に設けられる。回転部材5は、例えば、360°の範囲で回転可能に設けられる。
【0017】
砥石支持部材6は、回転部材5に設けられたZ軸ガイドに案内されて、Z軸方向に移動可能に設けられる。Z軸方向は、回転部材5がA軸回りに回転することにより方向が異なる。初期状態としては、Z軸方向は、水平方向であって、X軸方向およびY軸方向に直交する方向である。
【0018】
砥石支持部材6は、ねじ状砥石TをC軸回りに回転可能に支持する。C軸は、ねじ状砥石Tの中心軸線に一致し、かつ、Z軸方向に平行な軸線である。ねじ状砥石Tは、径方向外側に突出する螺旋状の凸刃を有する。ねじ状砥石Tは、1条ねじとしても良いし、多条ねじとしても良い。ねじ状砥石Tは、多条ねじの場合には、複数の螺旋状の凸刃を有することになる。工作物支持部材7は、ベッド2上に設けられ、工作物WをB軸回りに回転可能に支持する。
【0019】
歯車研削加工装置1による研削加工は、次のように行われる。工作物Wとねじ状砥石Tとを同期回転させる。詳細には、工作物WをB軸回りに回転させ、かつ、ねじ状砥石TをC軸回りに回転させ、両者の回転を同期させる。
【0020】
続いて、工作物Wとねじ状砥石Tとを交差角を有する研削姿勢とするために、本実施形態においては、回転部材5をA軸回りに所定角度回転させる。続いて、コラム3をX軸方向に移動し、Y軸スライド4をY軸方向に移動し、かつ、砥石支持部材6をZ軸方向に移動することにより、ねじ状砥石Tを研削初期位置に移動する。続いて、Y軸スライド4を移動することにより、ねじ状砥石Tを工作物Wの中心軸線方向に移動し、工作物Wの歯形の研削を行う。
【0021】
2.歯車研削加工シミュレーション装置10
歯車研削加工シミュレーション装置10について、
図3~
図40を参照して説明する。歯車研削加工シミュレーション装置10は、コンピュータにより構成され、例えば、演算処理装置、記憶装置、インターフェースなどにより構成される。
【0022】
図3に示すように、歯車研削加工シミュレーション装置10は、入力部11、演算処理部12、工作物モデル記憶部13、砥石モデル記憶部14、および、出力部15を備える。入力部11は、シミュレーションに使用する各種情報を入力する。各種情報は、例えば、工作物Wの最終形状すなわち歯車Gの目標歯形情報、工作物Wの素材形状、ねじ状砥石Tの外径、軸方向幅、条数、歯車研削加工装置1の機械構成などを含む。
【0023】
演算処理部12は、入力部11にて入力された情報を用いて、歯車研削加工シミュレーションを実行する。本実施形態における歯車研削加工シミュレーションは、演算処理の容易化のため、工作物Wを固定した状態とみなし、ねじ状砥石Tが、工作物Wに対して移動するものとして行う。つまり、歯車研削加工シミュレーションにおいては、ねじ状砥石Tが、ねじ状砥石Tの中心軸線回りに回転すると共に、工作物Wの周りを工作物Wの中心軸線回りに回転するものとして行う。ただし、歯車研削加工シミュレーションは、工作物Wおよびねじ状砥石Tが実際の歯車研削加工と同様の動作を行うようにすることも可能である。
【0024】
工作物モデル記憶部13は、工作物モデルMwを記憶する。詳細には、工作物モデル記憶部13は、初期に生成された工作物モデルMwを記憶し、その後、演算処理部12により実行される歯車研削加工シミュレーションにより変更された工作物モデルMwを逐次更新して記憶する。なお、更新される過程における全ての工作物モデルMwを記憶しても良い。
【0025】
砥石モデル記憶部14は、初期に生成された砥石モデルMtを記憶する。本実施形態においては、歯車研削加工シミュレーションにおいて、砥石モデルMtは形状変化しないものとする。従って、砥石モデルMtの形状が更新されることはない。ただし、砥石モデルMtを形状変化させることも可能である。出力部15は、演算処理部12により歯車研削加工シミュレーションを実行することにより生成された情報を出力する。例えば、出力部15は、更新された工作物モデルMwを出力したり、砥石モデルMtを出力したり、砥石モデルMtの微小部位毎の研削量を出力したりする。
【0026】
2-1.研削歯車加工シミュレーション
図4~
図7のフローチャートを中心に、研削歯車加工シミュレーションについて説明する。研削歯車加工シミュレーションは、
図3における演算処理部12により実行されるシミュレーション方法である。
【0027】
まず、
図4に示すように、歯車Gの軸直交方向断面(Xw-Yw面)において、歯車Gの目標歯形の断面形状を定義する目標歯形断面点群W_tarを生成する(S1)。歯車Gの目標歯形は、
図8に示す。例えば、歯車Gの目標歯形は、インボリュート曲面により形成される。ただし、歯車Gの目標歯形は、インボリュートに限らず、任意の歯面形状を適用することができる。
図8に示すように、歯車Gの目標歯形において、歯面の任意の点は、歯面法線ベクトルGa、歯すじ方向接線ベクトルGb、歯丈方向接線ベクトルGcにより表される。そして、
図9に示すように、目標歯形断面点群W_tarは、歯車Gの軸直交方向断面(Xw-Yw面)における点群として定義される。
【0028】
続いて、砥石刃断面点群Pt_gを生成する(S2)。
図10の(a)に示すように、砥石刃断面点群Pt_gは、ねじ状砥石Tの軸方向断面において、ねじ状砥石Tの凸刃の断面形状を定義する。1つの砥石刃断面点群Pt_gは、複数の砥石刃断面点Ptにより構成されている。
図10の(a)に示す砥石刃断面点群Pt_gは、ねじ状砥石Tが1条ねじであって、ねじ状砥石TのリードがL1の場合である。そこで、入力部11にて入力されたねじ状砥石Tに関する情報に基づいて、砥石刃断面点群Pt_gが生成される。
【0029】
ここで、砥石刃断面点群Pt_gの各点Ptは、
図11に示すように、目標歯形断面点群W_tarの各点に一致する状態において、歯車Gの目標歯形における歯面法線ベクトルGaとねじ状砥石Tの凸刃における砥石刃法線ベクトルTaとが同軸上に位置するように生成される。
図11においては、歯面法線ベクトルGaとねじ状砥石Tの砥石刃法線ベクトルTaとは、逆方向のベクトルとなる。なお、歯面法線ベクトルGaおよび砥石刃法線ベクトルTaは、単位ベクトルであるため、ベクトル長(ベクトルの大きさ)は同一である。
【0030】
ねじ状砥石Tが2条ねじの場合には、
図10の(b)に示すような砥石刃断面点群Pt_gが生成される。この時のねじ状砥石Tのリードは、L2となる。ねじ状砥石Tが3条ねじの場合には、
図10の(c)に示すような砥石刃断面点群Pt_gが生成される。この時のねじ状砥石Tのリードは、L3となる。このように、ねじ状砥石Tの条数に応じて、砥石刃断面点群Pt_gが生成される。ねじ状砥石Tが多条ねじである場合には、砥石刃断面点群Pt_gは、多条ねじを構成する複数の凸刃の断面形状を定義する。
【0031】
続いて、
図4に示すように、砥石モデルMtを生成する(S3)。砥石モデルMtは、砥石刃断面点群Pt_gをねじ状砥石Tの凸刃の延在方向に配置することにより、ねじ状砥石Tの凸刃を3次元モデル化したものである。
【0032】
砥石モデルMtは、砥石刃断面点群Pt_gを、ねじ状砥石Tの所定角度毎に、かつ、ねじ状砥石TのリードL1~L3から求められる所定軸方向位置毎に配置することにより生成される。そこで、砥石モデルMtの座標系は、
図12に示すように定義する。そして、砥石モデルMtを、所定軸方向位置毎に、砥石モデルMtの軸方向に複数に分割する。隣り合う所定軸方向位置の軸方向長さ、すなわち、砥石モデルMtの軸方向分割長Ldtは、予め設定しておく。また、砥石モデルMtの軸方向長さWtは、ねじ状砥石Tの軸方向長さに一致する。
【0033】
図13は、ねじ状砥石Tが1条ねじの場合を示す。
図13の(a)は、1条ねじにより構成される砥石刃断面点群Pt_gを示し、
図13の(b)は、
図13の(a)に示す砥石刃断面点群Pt_gを用いて生成した砥石モデルMtである。
図14は、ねじ状砥石Tが2条ねじの場合を示す。
図14の(a)は、2条ねじにより構成される砥石刃断面点群Pt_gを示し、
図14の(b)は、
図14の(a)に示す砥石刃断面点群Pt_gを用いて生成した砥石モデルMtである。
図15は、ねじ状砥石Tが3条ねじの場合を示す。
図15の(a)は、3条ねじにより構成される砥石刃断面点群Pt_gを示し、
図15の(b)は、
図15の(a)に示す砥石刃断面点群Pt_gを用いて生成した砥石モデルMtである。
【0034】
続いて、
図4に示すように、工作物モデルMwを生成する(S4)。工作物モデルMwは、工作物Wの表面上の工作物定義点群Pw_g、および、工作物定義点群Pw_gのそれぞれの点を一端とし工作物Wの径方向に延びる線分群LS_gにより定義される。
【0035】
図16に示すように、工作物モデルMwは、初期形状として、例えば円筒形状とする。工作物モデルMwの軸方向長さWwは、工作物Wの軸方向長さに一致する。工作物モデルMwの円筒形状における外径および内径は、研削される径方向範囲に対応する。つまり、工作物モデルMwを円筒形状として、研削に必要な範囲のみを定義する形状として表している。さらに、
図16に示すように、工作物モデルMwは、工作物Wの中心軸線の方向(Zw方向)に等間隔に分割する。分割する軸方向長さLdwは、任意に設定される。
【0036】
そして、分割面のそれぞれにおいて、円筒形状の外周面上に、周方向に等間隔に工作物定義点Pwを配置する。ただし、工作物Wに創成される歯形は、周方向に複数存在し、複数の歯形は、同一である。そこで、
図17に示すように、工作物モデルMwは、例えば、1つの歯形を表すことができる角度範囲Δθのみを対象として、工作物定義点Pwを配置する。角度範囲Δθは、工作物モデルMwの座標系において、1つの歯形に対応する開始角度θsから終了角度θeまでの範囲とする。
【0037】
なお、工作物定義点Pwは、歯車研削加工シミュレーションにより、円筒形状の外周面から内周面までの径方向範囲にて変更可能とされる。そして、工作物定義点Pwは、工作物モデルMwの外周面上に位置する点であるため、工作物モデルMwの外周面形状を表す点となる。
【0038】
上述したように、工作物モデルMwは、工作物定義点群Pw_gと線分群LS_gとにより定義される。つまり、
図17に示すように、工作物定義点Pwのそれぞれを一端とし、工作物モデルMwの中心軸線を他端とする線分LSが配置される。従って、
図17のハッチングにて示す領域が、工作物モデルMwを定義する領域となる。
【0039】
ここで、
図18には、工作物モデルMwの座標系をXw’-Yw’-Zwとして、工作物モデルMwを表したものである。Yw’が、角度範囲Δθの中央に位置し、Xw’が、Yw’に直交する方向となる。
図18において、白丸は、工作物モデルMwを円筒形状として定義した内周面に位置する。
【0040】
続いて、
図4に示すように、工作物分割エリアAd(h)を生成する(S5)。工作物分割エリアAd(h)は、工作物定義点群Pw_gの一部である複数の工作物定義点Pwを含むように、工作物モデルMwを分割したエリアである。
図19に示すように、本実施形態においては、工作物分割エリアAd(h)は、3次元極座標系(θ-Le-Zw)に座標変換された工作物モデルMwにおいて定義されている。つまり、
図19において、横軸を角度θとして、縦軸を線分LSの線分長Leとし、奥行き方向の軸を工作物モデルMwを分割したZw軸とする。
図19においては、9個の工作物分割エリアAd(1)~Ad(9)に分割した場合を示す。工作物分割エリアAd(h)の形状、大きさ、分割数は、任意に設定される。
【0041】
なお、以下において、演算処理の簡易化のために、工作物モデルMwを3次元極座標系(θ-Le-Zw)に変換して処理を行う。ただし、工作物モデルMwを3次元直交座標系(Xw’-Yw’-Zw)において処理を行うこともできる。工作物分割エリアAd(h)の設定も、3次元直交座標系(Xw’-Yw’-Zw)にて定義することもできる。
【0042】
続いて、時刻カウンタn(nは序数)を初期値として0に設定する(S6)。歯車研削加工が行われることで時刻は進んで行く。そこで、歯車研削加工シミュレーションにおける時刻tnを表す指標として時刻カウンタnを用いる。続いて、時刻カウンタnが最大値n_max-1、すなわち最大値n_maxより1小さい値であるか否かを判定する(S7)。時刻カウンタnが最大値n_max-1でなければ(S7:No)、時刻カウンタnを1加算する(S8)。
【0043】
続いて、工作物分割エリア番号h(hは序数)を初期値として0に設定する(S9)。
図19に示すように、工作物モデルMwは、複数の工作物分割エリアAd(h)に分割されている。つまり工作物分割エリア番号hは、工作物分割エリアAd(h)を表す番号である。続いて、工作物分割エリア番号hが最大値h_maxであるか否かを判定する(S10)。工作物分割エリア番号hが最大値h_maxでなければ(S10:No)、
図5に示すように、工作物分割エリア番号hを1加算する(S11)
【0044】
続いて、砥石刃断面点群番号m(mは序数)を初期値として0に設定する(S12)。
図13~
図15に示すように、砥石モデルMtは、複数の砥石刃断面点群Pt_g(m)により構成される。砥石刃断面点群番号mは、砥石モデルMtにおける複数の砥石刃断面点群Pt_g(m)を表す番号である。続いて、砥石刃断面点群番号mが最大値m_maxであるか否かを判定する(S13)。砥石刃断面点群番号mが最大値m_maxでなければ(S13:No)、砥石刃断面点群番号mを1加算する(S14)。
【0045】
続いて、砥石刃断面点番号i(iは序数)を初期値として0に設定する(S15)。
図10に示すように、1つの砥石刃断面点群Pt_gは、複数の砥石刃断面点Pt(i)により構成される。砥石刃断面点番号iは、1つの砥石刃断面点群Pt_gにおける砥石刃断面点Pt(i)を表す番号である。続いて、砥石刃断面点番号iが最大値i_max-1、すなわち最大値i_maxより1小さい値であるか否かを判定する(S16)。砥石刃断面点番号iが最大値i_max-1でなければ(S16:No)、砥石刃断面点番号iを1加算する(S17)。
【0046】
続いて、
図5に示すように、時刻t
nにおける砥石定義点区間Se(i,t
n)を算出する(S18)。砥石定義点区間Se(i,t
n)は、工作物モデルMwを基準とする座標系において、時刻t
nにおいて、砥石刃断面点群Pt_g(t
n)を構成する隣り合う2つの砥石刃断面点Pt(i,t
n),Pt(i+1,t
n)の区間である。砥石刃断面点群Pt_g(t
n)とは、時刻t
nにおける砥石刃断面点群Pt_gを意味する。砥石刃断面点Pt(i,t
n)は、時刻t
nにおける砥石刃断面点群Pt_gのうちのi番目の砥石刃断面点Ptを意味する。
【0047】
本実施形態においては、砥石定義点区間Se(i,t
n)は、工作物モデルMwの3次元極座標系(θ-Le-Zw)にて表す。
図20には、黒丸にて、複数の砥石刃断面点Pt(i,t
n)により構成される砥石刃断面点群Pt_g(t
n)を示す。さらに、
図20には、例えば、砥石刃断面点番号iを3とした場合における砥石定義点区間Se(3,t
n)を示す。砥石定義点区間Se(3,t
n)は、時刻t
nにおける隣り合う砥石刃断面点Pt(3,t
n)、Pt(4,t
n)の区間である。
【0048】
さらに、
図5に示すように、時刻t
nのΔt後である時刻t
n+1における砥石定義点区間Se(i,t
n+1)を算出する(S18)。砥石定義点区間Se(i,t
n+1)は、工作物モデルMwを基準とする座標系において、時刻t
n+1において、砥石刃断面点群Pt_g(t
n+1)を構成する隣り合う2つの砥石刃断面点Pt(i,t
n+1),Pt(i+1,t
n+1)の区間である。砥石刃断面点群Pt_g(t
n+1)とは、時刻t
n+1における砥石刃断面点群Pt_gを意味する。砥石刃断面点Pt(i,t
n+1)は、時刻t
n+1における砥石刃断面点群Pt_gのうちのi番目の砥石刃断面点Ptを意味する。
【0049】
本実施形態においては、砥石定義点区間Se(i,t
n+1)は、砥石定義点区間Se(i,t
n)と同様に、工作物モデルMwの3次元極座標系(θ-Le-Zw)にて表す。
図20には、白丸にて、複数の砥石刃断面点Pt(i,t
n+1)により構成される砥石刃断面点群Pt_g(t
n+1)を示す。さらに、
図20には、例えば、砥石刃断面点番号iを3とした場合における砥石定義点区間Se(3,t
n+1)を示す。砥石定義点区間Se(3,t
n+1)は、時刻t
n+1における隣り合う砥石刃断面点Pt(3,t
n+1)、Pt(4,t
n+1)の区間である。
【0050】
続いて、
図5に示すように、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)を決定する(S19)。時刻t
nにおける砥石定義点区間Se(i,t
n)と、時刻t
n+1における砥石定義点区間Se(i,t
n+1)とにより表されるエリアである。砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)は、時刻t
nと時刻t
n+1との間において、砥石定義点区間Se(i)が通過するエリアに相当する。
図20には、例えば、砥石刃断面点番号iを3とした場合における砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)を示す。
【0051】
続いて、
図5に示すように、工作物分割エリアAd(h)毎に、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)との干渉チェックを行う(S20)。本実施形態においては、演算処理の容易化のため、工作物モデルMwの2次元極座標系(θ-Zw)、すなわち工作物モデルMwの周方向角度θおよび工作物モデルMwの軸方向位置Zwにより表される座標系において、干渉チェックを行う。
【0052】
干渉チェックについて、
図21および
図22を参照して説明する。説明の容易化のため、適宜、
図20にて示した砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)を用いる。まず、
図21に示すように、工作物モデルMwの2次元極座標系(θ-Zw)において、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)を含む矩形包含エリアAt’(i,t
n)を生成する。矩形包含エリアAt’(i,t
n)は、演算処理の容易化のために用いる。つまり、矩形包含エリアAt’(i,t
n)を、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)とみなして処理を行う。
【0053】
図21においては、砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)を含む矩形包含エリアAt’(3,t
n)を生成する。矩形包含エリアAt’(3,t
n)は、点Pt’(3,t
n)、点Pt’(3,t
n+1)、点Pt’(4,t
n)、点Pt’(4,t
n+1)により表される矩形形状である。
図21においては、点Pt’(3,t
n)および点Pt’(4,t
n)のθ座標は、点Pt(3,t
n)のθ座標に一致する。
図21においては、点Pt’(3,t
n+1)および点Pt’(4,t
n+1)のθ座標は、点Pt(4,t
n+1)のθ座標に一致する。
【0054】
図21においては、点Pt’(3,t
n)および点Pt’(3,t
n+1)のZw座標は、点Pt(3,t
n+1)のZw座標に一致する。
図21においては、点Pt’(4,t
n)および点Pt’(4,t
n+1)のZw座標は、点Pt(4,t
n)のZw座標に一致する。ただし、点の対応関係は、砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)の形状によって異なる。
【0055】
そして、
図22に示すように、工作物モデルMwの2次元極座標系(θ-Zw)において、工作物モデルMwと、砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)を包含する矩形包含エリアAt’(3,t
n)とを配置する。このとき、現在処理の対象である工作物分割エリアAd(h)に、現在処理の対象である砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)を包含する矩形包含エリアAt’(i,t
n)が干渉するか否かをチェックする。
【0056】
例えば、
図22においては、工作物分割エリアAd(5)と、砥石定義点区間通過エリア(3,t
n)を包含する矩形包含エリアAt’(3,t
n)とが干渉している。「干渉している」とは、工作物分割エリアAd(5)に、矩形包含エリアAt’(3,t
n)の少なくとも一部が含まれていることを意味する。一方、他の工作物分割エリアAd(1)~Ad(4)、Ad(6)~Ad(9)は、矩形包含エリアAt’(3,t
n)に干渉していない。
図5におけるS20における最初の処理では、現在処理の対象である工作物分割エリアAd(1)に、現在処理の対象である矩形包含エリアAt’(1,t
1)との干渉チェックを行う。
【0057】
上記において、干渉チェックは、演算処理の容易化のため、現在処理の対象である工作物分割エリアAd(h)と、現在処理の対象である矩形包含エリアAt’(i,tn)との干渉チェックとした。この他に、干渉チェックは、現在処理の対象である工作物分割エリアAd(h)に、現在処理の対象である砥石定義点区間通過エリアAt(i,tn)との干渉チェックとしても良い。
【0058】
続いて、
図6に示すように、干渉チェックの結果、干渉がない場合には(S21:No)、S17に戻り処理を繰り返す。例えば、工作物分割エリアAd(1)に矩形包含エリアAt’(1,t
1)が干渉しない場合には、次に、工作物分割エリアAd(1)と矩形包含エリアAt’(2,t
1)との干渉チェックを行う。
【0059】
一方、
図6のS21において、干渉チェックの結果、干渉がある場合には(S21:Yes)、工作物分割エリアAd(h)内の工作物定義点番号qの初期値として0に設定する(S22)。
図22に示すように、1つの工作物分割エリアAd(h)は、複数の工作物定義点Pw(q)により構成される。工作物定義点番号qは、1つの工作物分割エリアAd(h)における工作物定義点Pw(q)を表す番号である。
【0060】
図22においては、1つの工作物分割エリアAd(h)は、16個の工作物定義点Pw(1)~Pw(16)により構成される。ただし、工作物定義点Pw(q)が工作物分割エリアAd(h)の境界に位置する場合には、複数の工作物分割エリアAd(h)で共通するため、1つの工作物分割エリアAd(h)のみを構成するものとしても良い。
【0061】
続いて、工作物定義点番号qが最大値q_maxであるか否かを判定する(S23)。工作物定義点番号qが最大値q_maxでなければ(S23:No)、工作物定義点番号qを1加算する(S24)。
【0062】
続いて、
図6に示すように、工作物モデルMwを構成する各工作物定義点Pwが、当該工作物定義点Pwを一端とする線分LSの延在方向から見た場合において、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)の内部に位置するか否かの包含チェックを行う(S25)。
【0063】
包含チェックについて、
図23および
図24を参照して説明する。
図23は、工作物モデルMwを構成する工作物定義点Pw(6)が、当該工作物定義点Pw(6)を一端とする線分LS(6)の延在方向から見た場合において、砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)の内部に位置する状態を示す。この状態を、包含された状態とする。
図24は、工作物モデルMwを構成する工作物定義点Pw(7)が、当該工作物定義点Pw(7)を一端とする線分LS(7)の延在方向から見た場合において、砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)の内部に位置しない状態、すなわち包含されていない状態を示す。
【0064】
包含チェックは、
図23および
図24に示すように、工作物モデルMwの2次元極座標系(θ-Zw)において行うと容易に演算処理を行うことができる。
図23および
図24に示すように、2次元極座標系(θ-Zw)において、工作物定義点Pw(6)、Pw(7)が、砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)の内部に位置するか否かをチェックすれば良い。
【0065】
例えば、2次元極座標系(θ-Zw)において、工作物定義点Pw(q)と、砥石定義点区間通過エリアAt(i,tn)を構成する点Pt(i,tn)、点Pt(i,tn+1)、点Pt(i+1,tn)、点Pt(i+1,tn+1)のそれぞれとを結ぶベクトルv1,v2,v3,v4を算出する。
【0066】
そして、工作物定義点Pw(q)を中心とした一方の周方向に隣り合う2つのベクトルの外積を算出する。当該隣り合う2つのベクトルの外積とは、例えば、v1×v2、v2×v3、v3×v4、v4×v1である。4つの外積の符号が全て同じであれば、工作物定義点Pw(q)が、砥石定義点区間通過エリアAt(i,tn)の内部に位置すると判定される。一方、4つの外積の中に異なる符号のものがある場合には、工作物定義点Pw(q)が、砥石定義点区間通過エリアAt(i,tn)の内部に位置しないと判定される。
【0067】
図23に示すように、工作物定義点Pw(6)の場合、工作物定義点Pw(6)を中心とした一方の周方向に隣り合う2つのベクトルの外積の符号が全て同じになるため、工作物定義点Pw(6)は、砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)の内部に位置すると判定される。一方、
図24に示すように、工作物定義点Pw(7)の場合、工作物定義点Pw(7)を中心とした一方の周方向に隣り合う2つのベクトルの外積の符号に異なる符号があるため、工作物定義点Pw(7)は、砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)の内部に位置しないと判定される。
【0068】
続いて、
図6に示すように、包含チェックの結果、工作物定義点Pw(q)が砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)の内部に位置しないと判定された場合には(S26:No)、S23に戻り処理を繰り返す。例えば、工作物分割エリアAd(5)を構成する工作物定義点Pw(1)が砥石定義点区間通過エリアAt(1,t
1)の内部に位置しない場合には、次に、工作物分割エリアAd(5)を構成する工作物定義点Pw(2)が砥石定義点区間通過エリアAt(1,t
1)の内部に位置するか否かの包含チェックを行う。
【0069】
一方、
図6のS26において、包含チェックの結果、工作物定義点Pw(q)が砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)の内部に位置すると判定された場合には(S26:Yes)、交点Pxを算出する(S27)。交点Pxは、包含チェックにおいて砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)の内部に位置すると判定された工作物定義点Pw(q)を一端とする対象線分LS(q)と、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)との交点である。
【0070】
交点Pxの算出について、
図25および
図26を参照して説明する。砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)は、点Pt(i,t
n)、点Pt(i,t
n+1)、点Pt(i+1,t
n)、点Pt(i+1,t
n+1)により構成される。構成する4つの点が同一平面上に存在する場合には、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)は、1つの平面により表すことができる。しかし、構成する4つの点が同一平面上に存在しなければ、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)を1つの平面により表すことができない。
【0071】
そこで、
図25に示すように、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)を構成する面は、構成する4点のうち隣り合う点同士を接続する線、および、構成する4点の対角の2点を接続する線により表される2個の三角形平面とする。
図25においては、砥石定義点区間通過エリアAt(i,t
n)を構成する面は、点Pt(3,t
n)、点Pt(3,t
n+1)、点Pt(4,t
n)を頂点とする三角形平面と、点Pt(4,t
n)、点Pt(4,t
n+1)、点Pt(3,t
n)を頂点とする三角形平面とにより表す。
【0072】
そして、
図25に示す2次元極座標系(θ-Le)において、対象線分LS(6)と2個の三角形平面の一方との交点を算出する。対象線分LS(6)と砥石定義点区間通過エリアAt(3,t
n)との交点Pxは、対象線分LS(6)と2個の三角形平面の一方との交点である。3次元直交座標系(Xw’-Yw’-Zw)においては、
図26に示すようになる。なお、3次元直交座標系(Xw’-Yw’-Zw)において、交点Pxを算出しても良い。ただし、2次元極座標系(θ-Le)における演算処理の方が容易である。
【0073】
続いて、
図6に示すように、工作物定義点Pw(q)を交点Pxに変更した場合において、線分LS(q)の線分長が、元の線分長よりも短くなったか否かを判定する(S28)。線分長が短くなった場合には(S28:Yes)、工作物定義点Pw(q)を交点Pxの座標に変更し、さらに、対象線分LS(q)の線分長を変更する(S29)。これらの変更後、研削抵抗パラメータを算出する(S40)。当該研削抵抗パラメータの算出後は、S23に戻り処理を繰り返す。工作物定義点Pw(6)および対象線分LS(6)を変更した場合、
図27および
図28に示すようになる。S40にて算出される研削抵抗パラメータについては後述する。
【0074】
線分LS(q)の線分長が、元の線分長よりも短くなっていない場合には(S28:No)、工作物定義点Pw(q)および対象線分LS(q)の線分長を変更することなく、S23に戻り処理を繰り返す。
【0075】
例えば、工作物分割エリアAd(5)を構成する工作物定義点Pw(6)が砥石定義点区間通過エリアAt(3,t1)の内部に位置する場合に、工作物定義点Pw(6)および対象線分LS(6)を変更した後には、次に、工作物分割エリアAd(5)を構成する工作物定義点Pw(7)が砥石定義点区間通過エリアAt(3,t1)の内部に位置するか否かの包含チェックを行う。
【0076】
図6のS24~S29を繰り返して実行した場合に、
図6のS23において、工作物定義点番号qが最大値q_maxになると(S23:Yes)、
図5のS16に戻り処理を繰り返す。つまり、現在処理の対象である砥石刃断面点番号iが最大値i_max-1に達したか否かを判定し(S16)、まだ達していなければ(S16:No)、砥石刃断面点番号iを1加算して(S17)、S18以降の処理を行う。
【0077】
S16において、現在処理の対象である砥石刃断面点番号iが最大値i_max-1に達した場合(S16:Yes)、S13に戻り処理を繰り返す。つまり、現在処理の対象である砥石刃断面点群番号mが最大値m_maxに達したか否かを判定し(S13)、まだ達していなければ(S13:No)、砥石刃断面点群番号mを1加算して(S14)、S15以降の処理を行う。
【0078】
S13において、現在処理の対象である砥石刃断面点群番号mが最大値m_maxに達した場合(S13:Yes)、
図4に示すように、S10に戻り処理を繰り返す。つまり、現在処理の対象である工作物分割エリア番号hが最大値h_maxに達したか否かを判定し(S10)、まだ達していなければ(S10:No)、工作物分割エリア番号hを1加算して(S11)、S12以降の処理を行う。
【0079】
S10において、現在処理の対象である工作物分割エリア番号hが最大値h_maxに達した場合(S10:Yes)、S7に戻り処理を繰り返す。つまり、現在処理の対象である時刻カウンタnが最大値n_maxに達したか否かを判定し(S7)、まだ達していなければ(S7:No)、時刻カウンタnを1加算して(S8)、S9以降の処理を行う。
【0080】
S7において、現在処理の対象である時刻カウンタnが最大値n_maxに達した場合(S7:Yes)、変更された工作物定義点群Pw_gにより定義された工作物モデルMwを出力する(S30)。なお、S30では、工作物モデルMwの出力に加えて、砥石モデルMtを出力しても良い。さらに、砥石モデルMtの砥石刃断面点群Pt_gのそれぞれにおける砥石定義点区間Se(i)毎の研削量を出力しても良い。
【0081】
例えば、
図29には、3次元極座標系(θ-Le-Zw)において、歯車研削加工シミュレーションの途中における工作物モデルMwの状態と、砥石モデルMtの一部とを示す図である。
図30には、3次元直交座標系(Xw’-Yw’-Zw)において、工作物モデルMwの最終形状を示す図である。
【0082】
工作物モデルMwの出力後、
図7に示すように、研削抵抗パラメータを出力する(S41)。当該研削抵抗パラメータは、S40において、各時刻で各メッシュにおいて算出した研削抵抗パラメータである。研削抵抗パラメータは、所定の平面研削モデルにおいて、研削抵抗を算出するために必要なパラメータである。ここで用いる平面研削モデルの種類は限定されないが、例えば、平面モデルとして、
図8に示す横軸平面研削モデルを用いることが考えられる。この場合、主分力ベクトルft及び背分力ベクトルfnは、それぞれ、比研削抵抗Cp、テーブル速度v、切り込み量(深さ方向)Δ、厚みb、砥石周速V、摩擦係数μ、砥石切れ刃先端半角αを用いて、下記のように表される。
【0083】
【0084】
そして、当該横軸平面研削モデルを本シミュレーションへ適用するにあたって、
図33、及び
図34(a)、(b)に示すように、本シミュレーションにおける相対速度ベクトルを主分力ベクトルft、砥石断面ベクトルと相対速度ベクトルに垂直なベクトルを背分力ベクトルfnと定義する。
図33では、白抜きの丸は、所定時刻における隣り合って並んだ4個の砥石刃断面点Ptを示す。黒潰しの丸は、所定時刻における隣り合った3個の工作物定義点Pwを示す。そして、主分力ベクトルftを示す相対速度ベクトルは、工作物モデルMwにおける工作物定義点Pwごとに算出される。本実施形態では、相対速度ベクトルとして、砥石モデルMtを固定したときの工作物定義点Pwが移動する際の速度ベクトルと考える。そして、背分力ベクトルfnも工作物定義点Pwごとに算出される。背分力ベクトルfnを算出するための砥石断面ベクトルは、工作物定義点Pwを含む砥石軸断面上のベクトルであり、時刻tn、tn+1における砥石断面ベクトルから算出できる。
【0085】
また、式(1)におけるvΔbは、砥石モデルMtによる工作物モデルMwの単位時間当たりの除去体積Vcutと表すことができる。したがって、本シミュレーションでは、下記の式(2)のように表すことができる。
【0086】
【0087】
ここで、単位時間当たりの除去体積Vcutは、
図34(b)に示す変更前後の工作物定義点の距離である除去長さLcutに基づいて算出される。より詳細には、まず、
図34に示すように、工作物モデルMwの表面は、複数のメッシュにより規定され、一つの工作物定義点Pwが一つのメッシュに対応する。一つのメッシュは、工作物モデルMwの表面上における一つの工作物定義点Pwを中心とするとともに隣り合う工作物定義点Pwとの中点を繋いだ境界を有する領域として規定する。工作物モデルMwの表面は当該メッシュが連なった状態に規定される。そして、単位時間当たりの除去体積Vcutは、変更前の工作物定義点Pwを含むメッシュの面積である第1メッシュ面積Sm1と、変更後の工作物定義点Pw(Px)を含むメッシュの面積である第2メッシュ面積Sm2と、変更前後の工作物定義点の距離(すなわち、除去長さLcut)とに基づいて算出することができる。
【0088】
さらに、本実施形態では、Vcutは、
図34(b)に示すように、第1メッシュ面積Sm1と第2メッシュ面積Sm2との中央値であるメッシュ面積中央値であるメッシュの面積Smeshと、除去長さLcut、時間刻みtに基づいて、下記の式(3)により算出される。
【0089】
【0090】
一方、式(2)において、比研削抵抗Cp、摩擦係数μ、砥石切れ刃先端半角αは予め設定した値としたり、ユーザが都度設定した値とすることができる。例えば、摩擦係数μは砥石の種類に応じて適宜設定することができる。また、砥石切れ刃先端半角αは、砥石に備えられた砥粒について、
図35に示す円錐砥石モデルに基づいて設定することができる。
【0091】
なお、式(3)におけるVcut及びSmeshの式は、
図34(c)に示す扇形モデルに基づいて導出することもできる。すなわち、工作物中心Oとする円弧である第1メッシュSm1及び第2メッシュSm2の半径をr
1、r
2、扇形の中心角aとすると、除去前の扇形の面積S
1、除去後の扇形の面積S
2、及び除去部分の面積ΔSは下記の式(4)のように表すことができる。
【0092】
【0093】
そして、除去長さLcut=r1-r2、円弧の長さLi=2πr×(a/2π)であることから、上記式(4)から下記式(5)を導出できる。
【0094】
【0095】
そして、VcutはΔSを用いて、Vcut=ΔS×tと表すことができる。これは上記式(3)と同一の式となる。したがって、式(3)は近似値ではなく正確な値を算出するものである。
【0096】
以上から、S40において、平面研削モデルに基づいて、研削抵抗を算出するために必要なパラメータである研削抵抗パラメータは、主分力ベクトルとしての相対速度ベクトル、背分力ベクトルの算出に使用する砥石断面ベクトル、単位時間当たりの除去体積の算出に使用するメッシュ面積Smesh、除去長さLcutを含む。さらに、後述する工作物モデルMwの歯溝判別のために用いる加工点座標、後述する同一時刻の研削抵抗を合算するために用いる加工時刻も研削抵抗パラメータに含むものとする。
【0097】
そして、
図4に示す工作物モデルMwの出力後、
図7に示すS41において、上述の研削抵抗パラメータを出力する。S41では、砥石モデルMtが任意の砥石送り位置にあるときの工作物1回転分または複数回転分のデータを出力することができる。これにより、全送り位置でパラメータの出力を行う場合に比べて、演算量を低減できる。パラメータの出力を行う砥石送り位置は限定されないが、研削開始付近、中間付近、研削終了付近の3か所を含むことが好ましい。本実施形態では、
図36に示すように、研削開始付近、中間付近、研削終了付近の3か所を含む5か所の砥石送り位置においてパラメータの出力を行う。
【0098】
次いで、
図7に示すS42において、S30で出力された工作物モデルMwから1歯溝を抽出する。例えば、
図37(a)に示すように、工作物モデルMwにおける工作物1回転分の加工点のシミュレーション結果から、
図37(b)に示す1歯溝の加工点を抽出する。1歯溝の加工点の抽出は、工作物モデルMwの定義角度を指定し、完全にモデリングされた1歯溝を抽出することにより行うことができる。
【0099】
その後、
図7に示すS43において、工作物モデルMwのメッシュごとの研削抵抗を算出する。メッシュは、
図18において、工作物Wの表面上の工作物定義点群Pw_gで区画された略格子状の平面である。そして、S44において、同時刻の研削抵抗を合算する。当該研削抵抗の合算は、下記の式(6)のように、3次元成分ごとに算出される。なお、式(6)においてρは、各メッシュに割り振られた番号である。
【0100】
【0101】
そして、
図7のS45において、工作物1回転中の1歯溝の研削抵抗を算出する。1歯溝の研削抵抗は、
図38に示すように、1歯溝分の工作物回転角度に基づいて算出する。
【0102】
その後、
図7のS46において、工作物1回転中の1歯溝の研削抵抗を複数合算して、工作物モデルMwにおける全歯溝の研削抵抗を算出する。全歯溝の研削抵抗の算出は、1歯溝の研削抵抗を位相を変化させて複数合算することで行う。位相の変化量は、工作物モデルMwの歯数を考慮して決定することができる。本実施形態では、工作物モデルMwと砥石モデルMtとの噛み合い歯数は1と2とが交互に到来するものである。そのため、全歯溝の研削抵抗は、まず、
図39に示すように1歯溝の研削抵抗をワーク1ピッチずつシフトして複製し、
図40に示すようにこれらを合算して行う。なお、全歯溝の研削抵抗の算出に替えて、複数の歯溝の研削抵抗を算出するものとしてもよい。全歯溝の研削抵抗の算出の完了により当該シミュレーションを終了する。
【0103】
本実施形態では、平面研削モデルとして、式(1)に示す関係式を用いたが、これに替えて、
図41及び下記の式(7)に示す研削抵抗理論式を用いてもよい。
【0104】
【0105】
そして、下記の式(8)の通り、Vcut、Ks、λを規定する。
【0106】
【0107】
そして、上記式(7)と上記式(8)とから、上記式(7)は下記の式(9)の通りとなる。
【0108】
【0109】
上記式(9)の通り、本実施形態のCp、μ及びαを用いることに替えて、λ、Ksを用いることにより、平面研削モデルとして式(5)に示す研削抵抗理論式を用いた場合も本願発明を適用可能である。
【0110】
3.効果
本実施形態の歯車研削加工シミュレーション方法によれば、各工作物定義点Pwについて、変更前の工作物定義点Pwと変更後の工作物定義点Pw(Px)との距離に基づいて、平面研削モデルにおいて研削抵抗を算出するために使用される研削抵抗パラメータを算出し、当該平面研削モデルを用いて研削抵抗パラメータに基づいて、工作物モデルMwの表面上に規定された複数のメッシュのうちで変更後の工作物定義点Pw(Px)を含むメッシュにおける研削抵抗を算出する。これにより、研削抵抗パラメータは、ねじ状砥石Tを用いて工作物Wを研削加工して歯車を創成する歯車研削加工において、時々刻々と変化する状態を反映したものであるため、当該メッシュにおける研削抵抗を算出することで、歯車研削加工中における研削抵抗を高精度に算出することに利用することができる。その結果、研削抵抗に起因する歯面誤差の要因の分析や工作機械の各軸剛性の決定が容易となる。
【0111】
また、本実施形態1では、研削抵抗パラメータは、変更前後の工作物定義点の距離Lcutに基づいて算出される、工作物モデルMwにおける砥石モデルMtによる単位時間当たりの除去体積Vcutを含む。これにより、研削抵抗パラメータを容易に算出することができる。
【0112】
また、本実施形態1では、除去体積Vcutは、変更前の工作物定義点Pwを含むメッシュの面積である第1メッシュ面積Sm1と、変更後の工作物定義点Pw(Px)を含むメッシュの面積である第2メッシュ面積Sm2と、変更前後の工作物定義点の距離Lcutとに基づいて算出される。これにより、除去体積Vcutを正確に算出することができる。
【0113】
また、本実施形態1では、除去体積Vcutは、第1メッシュ面積Sm1と第2メッシュ面積Sm2との中央値であるメッシュ面積中央値と、変更前後の工作物定義点の距離Lcutとの積として算出される。これより、少ない演算量で除去体積Vcutを正確に算出することができる。
【0114】
また、本実施形態1では、所定時刻における前記交点の座標を含む前記メッシュにおける研削抵抗は、所定時刻における変更後の工作物定義点Pw(Px)を含むメッシュにおける研削抵抗ベクトルに基づいて算出される。これにより、当該歯車研削加工シミュレーションにおいて平面研削モデルを用いることが容易となる。
【0115】
また、本実施形態1では、前記研削抵抗ベクトルは、交点Pxにおける工作物モデルMwと砥石モデルMtとの相対速度ベクトルである主分力ベクトルと、砥石モデルMtにおける交点Pxを含む断面である砥石断面ベクトルと主分力ベクトルftとに直交する背分力ベクトルfnと、を含む。これにより、高精度に研削抵抗を算出することができる。
【0116】
また、本実施形態1では、変更後の工作物定義点Pw(Px)を含むメッシュにおける研削抵抗に基づいて、工作物モデルMwにおける工作物1回転中の1歯溝の研削抵抗を算出する。これにより、1歯溝の研削抵抗を算出せずに直接全歯溝の研削抵抗を算出する場合に比べて演算量を低減することができる。
【0117】
位相を変化させた前記工作物モデルにおける工作物1回転中の1歯溝の研削抵抗を複数合算して、前記工作物モデルにおける複数歯溝又は全歯溝の研削抵抗を算出する。これにより、1歯溝の研削抵抗を算出せずに直接全歯溝の研削抵抗を算出する場合に比べて演算量を低減することができる。
【0118】
また、本実施形態1では、歯車研削加工シミュレーション方法を実行する歯車研削加工シミュレーション装置10を開示している。歯車研削加工シミュレーション装置10によれば、上述の歯車研削加工シミュレーションを行うことができる。
【0119】
以上のごとく、上記態様によれば、ねじ状砥石Tを用いて工作物Wを研削加工して歯車を創成する歯車研削加工における研削抵抗の変動のシミュレーションを行うことが可能な歯車研削加工シミュレーション方法および装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0120】
W 工作物
Mw 工作物モデル
Pw 工作物定義点
Pw_g 工作物定義点群
LS 対象線分
T ねじ状砥石
Mt 砥石モデル
Pt 砥石刃断面点
Pt_g 砥石刃断面点群
Se 砥石定義点区間
At 砥石定義点区間通過エリア
Px 交点
ft 主分力ベクトル
fn 背分力ベクトル