(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175721
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 35/12 20060101AFI20241212BHJP
D05B 27/10 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
D05B35/12
D05B27/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093639
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】秋山 辰仁
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】本澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修平
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕斗
(72)【発明者】
【氏名】中島 穂純
(72)【発明者】
【氏名】中西 公紀
(72)【発明者】
【氏名】能本 幸代
(72)【発明者】
【氏名】小川 達矢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 邦彰
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA01
3B150CC01
3B150CC03
3B150CC05
3B150CE05
3B150CE23
3B150DE04
3B150DE08
3B150DE11
3B150DE14
3B150DE33
3B150ED01
3B150ED06
3B150ED09
(57)【要約】
【課題】位置決め定規を針落ち位置の近くに配置する。
【解決手段】
針板101より上方から搬送ベルト41,42により被縫製物を送る上送り機構40と、被縫製物Cの送り方向に交差する方向について被縫製物Cの側端部を位置決めする位置決め定規50とを備え、上送り機構40は、針落ち位置13の両側に個別に搬送ベルト41,42及びベルトガイド43,44を有し、少なくとも針落ち位置13に対する位置決め定規50側の搬送ベルト42及びベルトガイド44を針落ち位置13から離隔させた退避位置に保持する退避機構60を有する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針板より上方から搬送ベルトにより被縫製物を送る上送り機構と、
前記被縫製物の送り方向に交差する方向について前記被縫製物の側端部を位置決めする位置決め定規と、
を備え、
前記上送り機構は、針落ち位置の両側に個別に前記搬送ベルト及びベルトガイドを有し、
少なくとも前記針落ち位置に対する前記位置決め定規側の前記搬送ベルト及び前記ベルトガイドを前記針落ち位置から離隔させた退避位置に保持する退避機構を有することを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記退避機構は、前記搬送ベルト及び前記ベルトガイドを上方に退避させることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記ベルトガイドが前記被縫製物の押さえ機構に回動可能に支持され、
前記退避機構は、回動により退避した前記ベルトガイドを退避位置に保持する保持部材を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記退避機構は、前記搬送ベルト及び前記ベルトガイドを退避させるアクチュエータを有することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項5】
前記位置決め定規は、支持機構により前記針板又は前記針落ち位置に対して接離可能に支持されていることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項6】
前記支持機構は、前記位置決め定規を前記針板又は前記針落ち位置に対して接離移動させるアクチュエータを有することを特徴とする請求項5に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト送りを行うミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
針板の上側から被縫製物にベルトを当接させて送りを行う上送り機構とを備え、下側の被縫製物と上側の被縫製物とに対してそれぞれ送りを行うミシンがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ベルトによる上送り機構を備えるミシンは、被縫製物の側端部から一定の距離を維持して縫製を行うために、送り方向に直交する方向ついて被縫製物の側端部を位置決めする位置決め定規を使用する場合がある。
従来のミシンは、針落ち位置周辺にベルトローラを有する押さえが配置されているため、位置決め定規を針落ち位置の近くに配置することができなかった。
【0005】
本発明は、位置決め定規を針落ち位置の近くに配置することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ミシンにおいて、
針板より上方から搬送ベルトにより被縫製物を送る上送り機構と、
前記被縫製物の送り方向に交差する方向について前記被縫製物の側端部を位置決めする位置決め定規と、
を備え、
前記上送り機構は、針落ち位置の両側に個別に前記搬送ベルト及びベルトガイドを有し、
少なくとも前記針落ち位置に対する前記位置決め定規側の前記搬送ベルト及び前記ベルトガイドを前記針落ち位置から離隔させた退避位置に保持する退避機構を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のミシンは、上記構成により、位置決め定規を針落ち位置の近くに配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】発明の実施形態であるミシンの後面図である。
【
図4】押さえ足の図示を省略したミシンベッド部の左端部上面を示す斜視図である。
【
図6】四本の搬送ベルトが前後差動送り状態にある送り機構の斜視図である。
【
図7】四本の搬送ベルトが左右差動送り状態にある送り機構の斜視図である。
【
図8】針板上で被縫製物を上から押さえる布押さえ機構周辺の斜視図である。
【
図11】非使用位置にある位置決め定規とその周辺構成の斜視図である。
【
図12】使用位置にある位置決め定規とその周辺構成の斜視図である。
【
図15】第2実施形態における解放位置にある保持部材周辺の斜視図である。
【
図16】解放位置にある保持部材周辺の右側面図である。
【
図17】保持位置にある保持部材周辺の斜視図である。
【
図18】保持位置にある保持部材周辺の右側面図である。
【
図22】第3実施形態における退避機構の周辺の構成を示す右側面図である。
【
図23】第4実施形態における退避機構の周辺の構成を示す右側面図である。
【
図24】第5実施形態のベルトガイドの右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態であるミシン100について詳細に説明する。
図1はミシン100の後面図、
図2はミシン100の左側面図、
図3はミシン100の斜視図を示す。
以下、被縫製物C(
図12参照)の送り方向下流側を「前」、送り方向上流側を「後」、前を向いた状態で左手側を「左」、右手側を「右」、鉛直上方を「上」、鉛直下方を「下」とする。前後方向、左右方向、上下方向は、互いに直交する。
以下の説明では、ミシン100は水平面に設置されている前提であり、前後方向と左右方向は、水平となる。
【0010】
本発明の実施形態であるミシン100として、いわゆる本縫いミシンを例示する。
ミシン100は、ミシンフレーム110、針上下動機構、下送り機構20、上送り機構40、押さえ機構としての布押さえ機構70、釜機構、位置決め定規50(
図11参照)及び退避機構60(
図11参照)を備えている。
針上下動機構は、縫い針11に上下動動作を付与する。
下送り機構20は、針板101上の被縫製物Cに下から送り動作を付与する。
上送り機構40は、針板101上の被縫製物Cに上から送り動作を付与する。
布押さえ機構70は、針板101上の被縫製物Cに押さえ圧を付与する。
釜機構は、縫い針11から上糸のループを捕捉して下糸を絡め、縫い目を形成する。
なお、上記ミシン100は、一般的な本縫いミシンが備える、天秤機構、糸調子等の各構成を備えているが、これらは周知のものなので説明は省略する。
【0011】
[ミシンフレーム]
上記ミシンフレーム110は、上述したミシン100の各構成を支持又は格納する。
ミシンフレーム110は、ミシンベッド部111と立胴部112とミシンアーム部113とを有する。
ミシンベッド部111は、ミシン100の下部に位置し、左右方向に沿って延在している。
立胴部112は、ミシンベッド部111の右端部から立設されている。
ミシンアーム部113は、立胴部112の上端部から左方に向かって延出されている。
【0012】
[針上下動機構]
図4は後述する押さえ足の図示を省略したミシンベッド部111の左端部上面を示す斜視図である。
針上下動機構は、
図1~
図4に示すように、ミシンアーム部113の内側に配設され、ミシンモータに回転駆動されると共に左右方向に沿った上軸を有する。
さらに、針上下動機構は、縫い針11を下端部で保持する針棒12と、上軸の回転力を上下動の往復駆動力に変換して針棒に伝達するクランク機構とを備えている。
なお、上軸及びクランク機構は、周知なので図示は省略している。
【0013】
針棒12は、上下方向に沿って延在し、ミシンアーム部113の左端下部において、上下動可能に支持されている。
縫い針11は、針棒12の下端部に保持され、針棒12と共に上下動を行う。ミシンベッド部111の上面における針棒12の下方には、水平な平板からなる針板101が設けられている。
【0014】
そして、針板101に対する縫い針11の針落ち位置には、複合開口部102が形成されている。針板101の複合開口部102には、針穴13を有する針穴部材30と後述する下送り機構20の後左下ベルト21,前左下ベルト22,前右下ベルト23,後右下ベルト24が上方に露出して配置されている。即ち、複合開口部102は、針穴部材30と各下ベルト21~24とが露出する複数の矩形の開口部が一体的に複合した形状となっている。
【0015】
[釜機構]
釜機構は、
図2及び
図3に示すように、針板101の針穴部材30の下側に設けられた外釜14及び中釜15と、中釜15を回転させる釜軸(図示略)とを有する。
釜軸は、ミシンベッド部111内において、左右方向に沿った状態で回転可能に支持されている。釜軸は、前述した上軸から歯車機構又はベルト機構を介して上軸の二倍に増速された左右方向に沿った軸回りの回転が入力される。
【0016】
中釜15は外釜14の内側に格納されている。さらに、中釜15は、その内側に下糸を供給する図示しないボビンを格納している。
外釜14は、釜軸の左端部に連結され、中釜15の周囲を回転する。中釜15は、外釜14と共に回転しないように回転が規制されている。外釜14は、外周に縫い針11から上糸のループを捕捉するための剣先を有する。外釜14は、回転することにより、剣先により上糸のループを捕捉して、中釜15の内側から繰り出される下糸をくぐらせることができる。
上記外釜14と中釜15は、後述する下送り機構20の略円筒状のガイド枠29の内側に格納状態で配置されている。
【0017】
[下送り機構]
図5は下送り機構20のガイド枠29の斜視図、
図6及び
図7は下送り機構20の斜視図である。
図6と
図7は、後述する各下ベルト21~24の掛け渡し状態が異なる場合を示している。
以下、
図1~
図7に基づいて下送り機構20について詳細に説明する。
【0018】
下送り機構20は、各図に示すように、搬送ベルトとしての各下ベルト21~24、第一モータ25、第二モータ26、回転軸27,28、第一プーリ31、第二プーリ32を有する。
さらに、下送り機構20は、それぞれの下ベルト21~24が被縫製物Cの下面に接触するようにガイドするガイド枠29と、第一加圧機構33と、第二加圧機構34とを備えている。
【0019】
第一及び第二モータ25,26は、いずれも、動作量を任意に制御可能なモータ、例えは、ステッピングモータやサーボモータである。第一及び第二モータ25,26は、前後に並んだ状態でミシンベッド部111の右端部の内側に配置され、出力軸を左方に向けている。
前側の第一モータ25の出力軸には、回転軸27を介して第一プーリ31が連結されている。
後側の第二モータ26の出力軸には、回転軸28を介して第二プーリ32が連結されている。
【0020】
回転軸27,28は、いずれも左右方向に平行であって、ミシンベッド部111内で回転可能に支持されている。
第一及び第二プーリ31,32は、ミシンベッド部111の左端部内で左右方向に沿った軸回りに回転可能に支持されている。そして、第一及び第二プーリ31,32は、回転軸27,28を介して、それぞれ、第一モータ25と第二モータ26から回転動作が付与される。
第一及び第二プーリ31,32は、前後方向から見て重複する配置、即ち、同じ高さで左右方向について同じ位置である。また、第一プーリ31が第二プーリ32の前側に配置されている。
【0021】
第一及び第二プーリ31,32は、いずれも、左右方向に並列に配置された下ベルト21,22,23,24の全てを掛け渡すことが可能である。
即ち、第一プーリ31は、外周面に、後左下ベルト21,前左下ベルト22を掛け渡すための左溝311と前右下ベルト23,後右下ベルト24を掛け渡すための右溝312とを有する。
第二プーリ32は、外周面に、後左下ベルト21,前左下ベルト22を掛け渡すための左溝321と前右下ベルト23,後右下ベルト24を掛け渡すための右溝322とを有する。
各下ベルト21~24は、幅が等しく、左溝及び右溝311,312,321,322は、いずれも、少なくともベルト二本分の幅を有する。
これにより、各下ベルト21~24は、いずれも、第一プーリ31と第二プーリ32とを適宜選択して掛け渡すことができる。
【0022】
各下ベルト21,22,23,24は、無端環状であって、ガイド枠29と第一プーリ31又はガイド枠29と第二プーリ32の間に掛け渡される。
また、各下ベルト21,22,23,24は、左から右に向かって順番に並列されている。
【0023】
ガイド枠29(ガイド部材)は、
図2に示すように、左右方向について各プーリ31,32と略一致し、前後方向について各プーリ31,32の間となるように配置されている。さらに、ガイド枠29は、各プーリ31,32の上方であって、針板101の真下に配置されている。
ガイド枠29は、
図5に示すように、ミシンベッド部111内に固定するためのブラケット部295と、各下ベルト21~24をガイドする円筒状の本体部296とを有する。
【0024】
ガイド枠29は、本体部296の中心軸が左右方向に向けられた状態で針板101の真下に配置されている。
本体部296の外周面上部の左右方向中央には、前後方向に沿った嵌合溝297が形成されている。嵌合溝297の内側には、前後方向に長尺な板状の針穴部材30が配置されている。針穴部材30は、針落ち位置に上下に貫通した針穴13が形成されている。
針穴部材30は、前述したミシンモータを駆動源として縫い針11と同じ周期で上下動させる図示しない針上下動機構に連結されている。針穴部材30は、この針上下動機構により、縫い針11と逆の位相で上下動を行う。即ち、針穴部材30の針穴13の形成面は、縫い針11の下死点となる位相で針板101の上面と同じ高さ又はわずかに高くなる最高位置となり、縫い針11の上死点となる位相で針板101の上面から最も下降した最低位置となる。
【0025】
また、本体部296は、その外周面の上部で周方向に各下ベルト21~24を摺動させて被縫製物Cの送りを行わせる。このため、本体部296の外周面の上部には、それぞれの下ベルト21~24をガイドする第一~第四ガイド部291,292,293,294が設けられている。
第一ガイド部291は針穴13の左後方、第二ガイド部292は針穴13の左前方、第三ガイド部293は針穴13の右前方、第四ガイド部294は針穴13の右後方に設けられている。
各ガイド部291~294は、いずれも、前後方向に延在する凸条であり、左右方向の幅が各下ベルト21~24と等しいか幾分広い。各ガイド部291~294の後端部は、本体部296の外周面に対して半径方向外側への突出量が前に向かって漸増するスロープとなっている。また、各ガイド部291~294の前端部は、本体部296の外周面に対して半径方向外側への突出量が前に向かって漸減するスロープとなっている。
【0026】
第一ガイド部291は、針穴13よりも左側であって、ほぼ全長に渡って針穴13の中心よりも後側に位置している。
そして、第一ガイド部291は、本体部296の半径方向外側への最大突出部より前側に平坦且つ水平となるガイド面291a(
図5模様部分)を有する。ガイド面291aは、上から見て針板101の複合開口部102に臨む配置である。
そして、ガイド面291aは、その上を摺接して通過する後左下ベルト21の外側面が針板101の上面よりも僅かに高くなるように設定されている。
ガイド面291aは、その前端部が針穴13の中心よりもわずかに後方に位置し、後左下ベルト21が針穴13の中心より後側で被縫製物Cに当接するように形成されている。
【0027】
第二ガイド部292は、針穴13よりも左側且つ第一ガイド部291よりも右側であって、ほぼ全長に渡って針穴13の中心よりも前側に位置している。
そして、第二ガイド部292は、本体部296の半径方向外側への最大突出部より後側に平坦且つ水平となるガイド面292a(
図5模様部分)を有する。ガイド面292aは、上から見て針板101の複合開口部102に臨む配置である。
そして、ガイド面292aは、その上を摺接して通過する前左下ベルト22の外側面が針板101の上面よりも僅かに高くなるように設定されている。
ガイド面292aは、その後端部が針穴13の中心よりもわずかに前方に位置し、前左下ベルト22が針穴13の中心より前側で被縫製物Cに当接するように形成されている。
【0028】
第三ガイド部293は、針穴13よりも右側であって、ほぼ全長に渡って針穴13の中心よりも前側に位置している。
そして、第三ガイド部293は、本体部296の半径方向外側への最大突出部より後側に平坦且つ水平となるガイド面293a(
図5模様部分)を有する。ガイド面293aは、上から見て針板101の複合開口部102に臨む配置である。
そして、ガイド面293aは、その上を摺接して通過する前右下ベルト23の外側面が針板101の上面よりも僅かに高くなるように設定されている。
ガイド面293aは、その後端部が針穴13の中心よりもわずかに前方に位置し、前右下ベルト23が針穴13の中心より前側で被縫製物Cに当接するように形成されている。
【0029】
第四ガイド部294は、針穴13及び第三ガイド部293よりも右側であって、ほぼ全長に渡って針穴13の中心よりも後側に位置している。
そして、第四ガイド部294は、本体部296の半径方向外側への最大突出部より前側に平坦且つ水平となるガイド面294a(
図5模様部分)を有する。ガイド面294aは、上から見て針板101の複合開口部102に臨む配置である。
そして、ガイド面294aは、その上を摺接して通過する後右下ベルト24の外側面が針板101の上面よりも僅かに高くなるように設定されている。
ガイド面294aは、その前端部が針穴13の中心よりもわずかに後方に位置し、後右下ベルト24が針穴13の中心より後側で被縫製物Cに当接するように形成されている。
【0030】
ガイド面291a,294aは針穴13の中心よりも後側、ガイド面292a,293aは針穴13の中心よりも前側に設けられている。このため、後側の後左下ベルト21,後右下ベルト24と前側の前左下ベルト22,前右下ベルト23とで速度差(搬送量差)を設けた場合に、各下ベルト21~24が干渉することなく、前後の送り速度差(搬送量差)による搬送力を被縫製物Cに付与することができる。従って、前後方向の差動送りにおける狙い通りの縫い目が形成され、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0031】
第一加圧機構33は、各下ベルト21~24の内、ガイド枠29と第一プーリ31との間に掛け渡された全てのベルトに対して張力を付与して弛みの発生を抑止する。
第一加圧機構33は、
図2,
図3及び
図6に示すように、左加圧ローラ331と、右加圧ローラ332と、支持板333と、ベースブロック334とを有する。
【0032】
支持板333は、前後上下方向に沿った長尺の平板状であって、長手方向が前斜め上方向を向いた状態でベースブロック334に支持されている。
さらに、支持板333は、その上端部の左面と右面とで左加圧ローラ331と右加圧ローラ332とを同心且つ回転可能に支持する。支持板333は、ガイド枠29-第一プーリ31間に渡るベルトの外側面に対して後部下方から左加圧ローラ331及び右加圧ローラ332が当接するように配置されている。
【0033】
ベースブロック334は、後述する第二加圧機構34と共用され、第一及び第二加圧機構33、34の構成を支持する。ベースブロック334は、ミシンベッド部111内において、ガイド枠29の下方に固定装備されている。
支持板333は、その長手方向に沿った長穴を有し、ベースブロック334に対して長穴に挿通された二つのボルトによって締結固定される。支持板333の長手方向は、第一プーリ31に掛け渡されたベルトに対して略直交する方向に向けられている。このため、ボルトを緩めて支持板333を長穴に沿って移動させることで、ベルトに対する左加圧ローラ331及び右加圧ローラ332の圧接力を調節することができる。換言すると、ガイド枠29と第一プーリ31との間を渡るベルトのテンションを調節することができる。
【0034】
左加圧ローラ331と右加圧ローラ332は、外径が等しく、支持板333によって左右方向に沿った同一軸回りに回転可能に支持されている。また、左加圧ローラ331及び右加圧ローラ332の左右の幅は、いずれも各下ベルト21~24の幅の二倍かそれ以上の幅を有する。
これにより、左加圧ローラ331は、ガイド枠29と第一プーリ31との間に掛け渡された後左下ベルト21と前左下ベルト22のいずれにも当接させることができる。
同様に、右加圧ローラ332は、ガイド枠29と第一プーリ31との間に掛け渡された前右下ベルト23と後右下ベルト24のいずれにも当接させることができる。
【0035】
第二加圧機構34は、各下ベルト21~24の内、ガイド枠29と第二プーリ32との間に掛け渡された全てのベルトに対して張力を付与して弛みの発生を抑止する。
第二加圧機構34は、
図2,
図3及び
図6に示すように、左加圧ローラ341と、右加圧ローラ342と、支持板343と、前述したベースブロック334とを有する。
【0036】
支持板343は、前述した支持板333と同一の構造であり、長手方向が後斜め上方向を向いた状態でベースブロック334に支持されている。
また、支持板343は、その上端部の左面と右面とで左加圧ローラ341と右加圧ローラ342とを同心且つ回転可能に支持する。支持板343は、ガイド枠29-第二プーリ32間に渡るベルトの外側面に対して後部上方から左加圧ローラ341及び右加圧ローラ342が当接するように配置されている。
【0037】
支持板343も長穴を有し、支持板343を当該長穴に沿って移動させることができる。これにより、第二プーリ32に掛け渡されたベルトに対する左加圧ローラ341及び右加圧ローラ342の圧接力を調節することができる。従って、ガイド枠29と第二プーリ32との間を渡るベルトのテンションを調節することができる。
【0038】
左加圧ローラ341と右加圧ローラ342は、外径が等しく、支持板343によって左右方向に沿った同一軸回りに回転可能に支持されている。また、左加圧ローラ341及び右加圧ローラ342の左右の幅は、いずれも各下ベルト21~24の二倍かそれ以上の幅を有する。
これにより、左加圧ローラ341は、ガイド枠29と第二プーリ32との間に掛け渡された後左下ベルト21と前左下ベルト22のいずれにも当接させることができる。
同様に、右加圧ローラ342は、ガイド枠29と第二プーリ32との間に掛け渡された前右下ベルト23と後右下ベルト24のいずれにも当接させることができる。
【0039】
第一加圧機構33の左加圧ローラ331と第二加圧機構34の左加圧ローラ341は、いずれも、後左下ベルト21と前左下ベルト22とに当接させることができる。同様に、第一加圧機構33の右加圧ローラ332と第二加圧機構34の右加圧ローラ342は、いずれも、前右下ベルト23と後右下ベルト24とに当接させることができる。
従って、各下ベルト21~24を第一プーリ31と第二プーリ32のいずれに掛け渡しても、第一加圧機構33又は第二加圧機構34のいずれかによってテンションが付与される。
【0040】
図6は針落ち位置の前側で送る前左下ベルト22,前右下ベルト23を第一プーリ31、後側で送る後左下ベルト及び後右下ベルト21,24を第二プーリ32に掛け渡した状態を示す。
図7は針落ち位置の左側で送る後左下ベルト21,前左下ベルト22を第一プーリ31、前右下ベルト23,後右下ベルト24を第二プーリ32に掛け渡した状態を示す。
【0041】
各下ベルト21~24は、ボルトを緩めて各加圧ローラ331,332,341,342を後退させると、各プーリ31,32から容易に外して架け替えることが可能である。
このため、
図6の掛け渡し状態での縫製と
図7の掛け渡し状態での縫製とを容易に選択して行うことが可能である。
【0042】
例えば、
図6の掛け渡し状態(前後差動送り状態とする)では、針落ち位置より前側を後側より速く送るいわゆるいせ込み縫いを行うことが可能である。
また、前後差動送り状態では、針落ち位置より前側を後側より遅く送り、被縫製物Cにテンションを加える縫製を行うことも可能である。
【0043】
図7の掛け渡し状態(左右差動送り状態とする)では、左側を速く送れば右曲がりの曲線縫いを行うことができ、右側を速く送れば左曲がりの曲線縫いを行うことができる。
また、左右の速度差(搬送量差)の大小に応じて曲率を変えることができるので多様な曲線縫いを行うことが可能である。
【0044】
[布押さえ機構]
図8は針板101上で被縫製物Cを上から押さえる押さえ機構としての布押さえ機構70の斜視図、
図9は後面図、
図10は右側面図である。なお、
図8及び
図10では後述する位置決め定規50とその支持機構53の図示を省略している。
【0045】
布押さえ機構70は、押さえ足71、押さえ棒72、取付台74、押さえモータ(図示略)、押さえ高さ検出部(図示略)を有する。
押さえ棒72は、針棒12の前隣に配置され、上下方向に沿った状態でミシンアーム部113の内部に上下動可能に支持されている。
【0046】
押さえ棒72の上端部は、ミシンアーム部113の内部において、図示しない押さえバネにより下方に押圧されている。押さえバネの伸縮量は、動作量を任意に制御可能な押さえモータによって調節可能である。従って、押さえモータを制御することにより、押さえ足71の押さえ圧を任意に設定することが可能である。
また、押さえモータは、押さえ足71が針板101上の被縫製物Cを押さえる押さえ高さと上方に離隔した解放高さとに切り替える昇降動作の付与も行う。
【0047】
また、押さえ棒72には、その高さを検出する図示しない押さえ高さ検出部が併設されている。従って、押さえ足71の押さえ圧を規定値に設定した後、被縫製物Cの厚さの変化によって押さえ足71の高さが変化した場合に、押さえバネの伸縮量が変化しないように押さえモータを制御することにより、押さえ圧を一定の設定値に維持することが可能である。
【0048】
押さえ足71は、取付台74を介して押さえ棒72の下端部に装備されている。取付台74は、上面と下面とが水平且つ平坦なブロックである。取付台74は、押さえ棒72を挿入可能な挿入孔が上下に貫通形成されている。取付台74は、例えば、ネジの締結によって押さえ棒72の下端部に固定されている。
また、取付台74の前端部には、後述する上送り機構40のリンク部材474の下端部が左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。
【0049】
押さえ足71は、針板101の複合開口部102の上に配置されている。押さえ足71は、被縫製物Cを上から押さえて、各下ベルト21~24による搬送力を被縫製物Cに適切に伝達させる。また、押さえ足71は、上送り機構40の左上ベルト41及び右上ベルト42を搬送可能に支持している。そして、押さえ足71は、各上ベルト41,42を被縫製物Cに押し付けてその搬送力を被縫製物Cに適切に伝達させる機能も有する。
【0050】
押さえ足71は、
図8~
図10に示すように、被縫製物Cを上から押さえる底板711と押さえ棒72の下端部に取り付けられる連結部712とを有する。
【0051】
底板711は、底面が平滑であって布送り方向上流側(後端部)が上方に反り上がったいわゆる舟形を呈する。
連結部712は、底板711の前端部上面に立設され、底板711に対して左右方向に沿った軸回りに幾分揺動可能に連結されている。連結部712の上部は、取付台74の下側に例えばネジ止めによって固定されている。なお、連結部712は、取付台74に対して溶接等で接合してもよいし、連結部712と取付台74とを一体化した一部材で構成してもよい。
【0052】
[上送り機構]
図1,
図2,
図8~
図10に示すように、上送り機構40は、搬送ベルトとしての左上ベルト41及び右上ベルト42と、前述した左右のベルトガイド43,44と、左上ベルト41のベルト送りの駆動源となる左上モータ45と、右上ベルト42のベルト送りの駆動源となる右上モータ46と、各上モータ45,46から押さえ足71まで各上ベルト41,42をガイドするガイド機構47とを備えている。
【0053】
左右のベルトガイド43,44は、押さえ足71の左右両側に装備されている。
各ベルトガイド43,44は、押さえ足71の連結部712の下部の左右の側面に対して左右方向に沿った図示しない支軸によって回動可能に取り付けられている。
【0054】
各ベルトガイド43,44は、側面視で、前端部が前斜め上に向かって延出され、後端部の手前で針板101に最も近接し、後端部は後斜め上側に浮き上がった形状となっている。また、各ベルトガイド43,44は、それぞれ、後端部に左右方向に沿った軸によって回転可能な送りローラ432,442を備えている。
左右の無端環状の上ベルト41,42は、それぞれ、左右のベルトガイド43,44と押さえ足71の側面との間を通るようにガイドされる。即ち、左右の上ベルト41,42は、それぞれ、送りローラ432,442の上部から外周に沿って下方に折り返され、各ベルトガイド43,44における針板101に最も近接する部位を前方に向かって進行するようにガイドされた後、前斜め上の方向に抜けてゆく。各上ベルト41,42は、各ベルトガイド43,44における針板101に最も近接する部位に沿って前方に進行する際に、針板101上の被縫製物Cに当接して前側への送りを行う。
なお、左上ベルト41の被縫製物Cの当接位置は、平面視で、前左下ベルト22の被縫製物Cの当接位置と重合し、これらのベルトで挟むように被縫製物Cの送りを行う。
同様に、右上ベルト42の被縫製物Cの当接位置は、平面視で、前右下ベルト23の被縫製物Cの当接位置と重合し、これらのベルトで挟むように被縫製物Cの送りを行う。
【0055】
また、前述したように、各ベルトガイド43,44は、支軸によって押さえ足71に軸支されている。そして、各ベルトガイド43,44の前端部に設けられた軸部434,444には、バネとしての引っ張りバネ433,443の一端部が連結されている。各引っ張りバネ433,443は、他端部が取付台74の左右の側面部にそれぞれ設けられた軸部745,746連結されており、各ベルトガイド43,44の前端部に上側への張力を付与している。
このため、各ベルトガイド43,44の後端部側は下方への回動が付勢され、針板101に最も近接する部位に沿って前方に進行する各上ベルト41,42に対して針板101側への圧接力が付与される。従って、各上ベルト41,42に対して針板101上の被縫製物Cへの圧接力が付与される。
【0056】
左右の上モータ45,46は、回転数が制御可能なモータ、例えば、直流モータ、交流モータ、ステッピングモータ等が使用される。
そして、左上モータ45は、出力軸を左方に向けた状態で、モータブラケット451を介してミシンアーム部113の左端部の前側に支持されている。
また、右上モータ46は、出力軸を左方に向けた状態で、モータブラケット451を介してミシンアーム部113の左端部の前側において、左上モータ45の上方に支持されている。
【0057】
そして、左上モータ45の出力軸にはモータプーリ452が装備され、当該モータプーリ452には、左上ベルト41の一端部が巻回されている。
また、右上モータ46の出力軸にはモータプーリ462が装備され、当該モータプーリ462には、右上ベルト42の一端部が巻回されている。
【0058】
左上ベルト41は、無端環状であり、環を引き延ばした状態の一端部が左上モータ45のモータプーリ452に掛け渡され、ベルトガイド43の送りローラ432に他端部が掛け渡されている。
右上ベルト42も、無端環状であり、環を引き延ばした状態の一端部が右上モータ46のモータプーリ462に掛け渡され、前述したベルトガイド44の後端部の送りローラ442に他端部が掛け渡されている。
【0059】
そして、左上ベルト41におけるモータプーリ452から送りローラ432に至る経路と、右上ベルト42におけるモータプーリ462から送りローラ442に至る経路は、左右方向から見て、モータプーリ452,462の周辺を除いて重複している。なお、左上ベルト41に対して右上ベルト42は、右側に配置されている。
【0060】
ガイド機構47は、左上ベルト41と右上ベルト42とをそれぞれの上記経路に沿ってガイドする。
ガイド機構47は、左右に並んだ一対の第一テンションローラ471と、左右に並んだ一対の第二テンションローラ472と、上下のリンク部材473,474からなるガイドアーム475と、各上ベルト41,42の経路上の各部に回転可能に設けられた複数のガイドローラ476とを有する。
【0061】
一対の第一テンションローラ471は、モータプーリ452の下方に配置されている。また、一対の第二テンションローラ472は、モータプーリ452と一対の第一テンションローラ471との間に配置されている。
一対の第一テンションローラ471は、左右方向に沿った軸回りに回転可能であって、軸方向の幅が広い。そして、一対の第一テンションローラ471は、左上ベルト41と右上ベルト42の双方に対して外側から圧接してこれらに内側向きのテンションの付与を行う。
一対の第二テンションローラ472は、左右方向に沿った軸回りに回転可能であって、軸方向の幅が狭い。そして、一対の第二テンションローラ472は、右上ベルト42のみに対して内側から圧接して外側向きのテンションの付与を行う。
また、右上ベルト42は、一対の第二テンションローラ472によって左右両側に広げられるので、経路の途中にあるモータプーリ452との干渉を回避することが出来る。
【0062】
ガイドアーム475を構成する上側のリンク部材473は、一端部がモータブラケット451の下端部に左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。また、上側のリンク部材473の他端部は、左右方向に沿った軸回りに回動可能に下側のリンク部材474の一端部に連結されている。
さらに、下側のリンク部材474の他端部は、前述したように、取付台74の前端部に左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。
【0063】
上側のリンク部材473と下側のリンク部材474の連結部には、左上ベルト41と右上ベルト42とに対して、環の内側に前側から当接するガイドローラ476と、環の外側に前側から当接するガイドローラ(図示略)とが設けられている。
これにより、左右の上ベルト41,42は、上側のリンク部材473に沿った経路と下側のリンク部材474に沿った経路とによって搬送が行われる。
従って、押さえ足71が被縫製物Cの厚さの変化や凹凸によって昇降し、上側のリンク部材473と下側のリンク部材474の屈曲角度が変動を生じた場合でも、左右の上ベルト41,42は、上側のリンク部材473に沿った経路と下側のリンク部材474に沿った経路とが維持される。このため、各上ベルト41,42の経路長が一定に維持され、張力の変動を抑制することができる。
【0064】
[位置決め定規]
位置決め定規50は、被縫製物Cの側端部を被縫製物Cの送り方向に直交する方向(左右方向)について位置決めするためのものである。位置決め定規50の位置決めを行う方向は、被縫製物Cの送り方向に直交する方向が望ましいが、これに限定されず、ある程度、直交方向に対して傾斜してもよい。
図11は非使用位置にある位置決め定規50とその周辺構成の斜視図、
図12は使用位置にある位置決め定規50とその周辺構成の斜視図である。
図9,
図11及び
図12に示すように、位置決め定規50は、支持機構53に支持されている。
【0065】
位置決め定規50は、針板101上の被縫製物Cの側端部(本実施形態では右端部)を突き当てることにより、当該側端部に沿って一定の間隔で縫製(いわゆるコバ縫い)を行わせるための突き当て板である。以下の記載では、被縫製物Cの側端部に沿って行われるコバ縫いの一定の間隔のことを「コバステッチ幅」とする。
【0066】
位置決め定規50は、支持機構53により、針板101の上面に近接又は当接状態にある使用位置と針板101の上面から上方に離隔した非使用位置とに位置切り替えが行われる。ここでは、使用位置にある前提で位置決め定規50の各部の位置及び向きについて説明する。
【0067】
位置決め定規50は、被縫製物Cの側端部を突き当てる突き当て板51と、突き当て板51から支持機構53側に延びる連結部52とを有する。突き当て板51と連結部52は、一枚の金属板に対する折曲加工により形成されている。
【0068】
突き当て板51は、前後上下方向に平行な平板状であり、その左面が被縫製物Cの突き当て面となる。突き当て板51は、側方視で略短冊状を呈し、前後方向に長尺である。
突き当て板51は、下縁部が直線状であって、使用位置において、下縁部が前後方向に沿って水平となり、下縁部の全長に渡って針板101の上面に当接又は近接させることができる。
【0069】
使用位置において、突き当て板51の前端部は、前後方向について、針穴13と同位置かそれよりも前側となることが好ましい。
また、針穴13の中心から突き当て板51の左面までの左右方向の距離が縫製時におけるコバステッチ幅となる。針穴13の中心から突き当て板51の左面までの左右方向の距離は、支持機構53により調節可能である。
なお、突き当て板51は、左面が針穴13の中心よりも右側となるように配置される。そして、突き当て板51は、縫い針11や押さえ足71と干渉しない範囲で、突き当て板51の左面が左右方向について針穴13の中心に最も近接する位置まで寄せるように位置調節することが可能である。
【0070】
連結部52は、突き当て板51の前端上縁部から右方に延出され、前後方向から見てクランク形状を呈している。連結部52は、このクランク形状により、突き当て板51側の端部よりも右端部が一段高くなっている。連結部52の右端部が支持機構53に連結されて、位置決め定規50の全体が支持機構53に支持されている。
なお、連結部52の配置や形状は、上記に限定されない。例えば、連結部52は、突き当て板51に対して、突き当て面に被縫製物Cの側端部を突き当てるのに妨げとならない配置であればよく、突き当て板51の外縁のいずれに連結されてもよい。また、連結部52は、平板状でなくてもよく、さらに、突き当て板51と一体的でなくともよい。
【0071】
支持機構53は、位置決め定規50を保持する保持軸54と、保持軸54を挿通保持する筒状体55と、筒状体55を保持する回動腕56と、回動腕56に回動動作を付与する図示しない駆動源としてのアクチュエータとを有する。
支持機構53は、位置決め定規50を回動させて使用位置と非使用位置との切り替え動作を行う。
【0072】
保持軸54は、左右方向に沿った丸棒状の軸部541と、軸部541の左端部に固定的に設けられた保持ブロック542とを有する。
保持ブロック542は、軸部541の左端部から左方に延出された略直方体である。保持ブロック542の上面左端部には、下方に落差を生じた段差部を有し、当該段差部の上面に連結部52の右端部が下面を当接させた状態でボルト等の締結部材で連結されている。
【0073】
保持軸54の軸部541は、左右方向の全長に渡って外径が均一であり、その右端部が筒状体55に挿入されている。
筒状体55は、左右方向に沿って配置されており、ボルト等の締結部材によって保持軸54の抱き締め固定を行っている。従って、締結部材を緩めることで、左右方向に沿った軸回りに保持軸54及び位置決め定規50を回転させて向きの調節を行うことができる。
【0074】
回動腕56は、筒状体55を保持する伸縮軸561と、伸縮軸561を挿入可能な筒状腕部562とを有する。
筒状腕部562の基端部は、ミシンフレーム又はその他の支持構造体によって左右方向に沿った軸回りに回動可能に支持されている。また、筒状腕部562は、基端部の回動軸を中心とする半径方向に沿って延出されている。具体的には、筒状腕部562は、基端部から概ね後方に向かって延出されている。
【0075】
筒状腕部562は、伸縮軸561を挿入可能な円筒状であって、ボルト等の締結部材によって伸縮軸561を保持する。筒状腕部562は、締結部材を緩めることにより、伸縮軸561を挿入方向に沿って位置調節することができる。即ち、回動腕56は、筒状腕部562の回動半径方向に沿って伸縮軸561を伸縮させて、位置決め定規50の回動動作における回動半径の調節を可能としている。これにより、位置決め定規50の使用位置における前後方向の配置を調節することができる。
【0076】
伸縮軸561は、後端部側の回動端部において、筒状体55を左右方向に向けた状態で保持している。また、伸縮軸561の回動端部には、調節ネジ563が設けられている。この調節ネジ563は、回転操作を行うことにより、筒状体55を左右方向に沿って位置調節することができる。
従って、調節ネジ563により、筒状体55及び保持軸54を通じて、位置決め定規50を左右方向に沿って位置調節してコバステッチ幅の調節を行うことができる。
【0077】
アクチュエータは、回動腕56を回動させるモータ、回転式のエアシリンダ等からなる。また、直動式のエアシリンダのプランジャを回動腕56に連結して回動させてもよい。
アクチュエータは、回動腕56の回動を通じて、針板101に対する位置決め定規50の接離移動動作を付与する。これにより、アクチュエータは、位置決め定規50の使用位置と非使用位置との位置切り替え動作の付与を行う。
【0078】
非使用位置では、回動腕56は、概ね前後方向に沿った水平状態となり、位置決め定規50側の回動端部は後方を向いた状態となり、位置決め定規50は針板101から上方に離隔した状態となる。
そして、アクチュエータの駆動により、回動腕56は、回動端部が前斜め下に回動し、位置決め定規50が下降して針板101の上面に当接又は近接する使用位置となる。
また、アクチュエータの上記と逆方向の駆動により、回動腕56は上記と逆方向に回動し、位置決め定規50は、使用位置から非使用位置に移動する。
非使用位置の位置決め定規50の高さについて制限はないが、ミシン100の他の構成と干渉せず、縫製作業の妨げとならない高さとすることが好ましい。
【0079】
[退避機構]
左右のベルトガイド43,44は、被縫製物の送りを行う際には、後端部の底部が針板101の上面高さとなる送り位置に位置している。
退避機構60は、位置決め定規50を使用する縫製を行う場合に、位置に配置するために、針穴13に対する位置決め定規50側となる右側のベルトガイド44及び送りローラ442とこれらにガイドされる右上ベルト42を退避位置に移動させる。
前述したように、位置決め定規50は、使用位置において、前後方向について位置決め定規50の前端部が針穴13と同位置からそれよりも前側となるように配置される。さらに、位置決め定規50は、左右方向について、縫い針11に干渉しない範囲で、突き当て板51の左面が針穴13の中心に最も近接する位置まで寄せる配置とされる場合がある。
【0080】
右側のベルトガイド44は、針落ち位置である針穴13に最も近接する部位である後端部側が、前後方向について針穴13と重合する配置である。また、右側のベルトガイド44及び送りローラ442とこれらにガイドされる右上ベルト42は、左右方向について、針穴13の右隣りに近接配置されている。
このため、右側のベルトガイド44及び送りローラ442とこれらにガイドされる右上ベルト42と位置決め定規50とは、位置決め定規50を使用位置において針穴13に近接する配置にしようとすると干渉するおそれがある。
このため、退避機構60は、ベルトガイド44の後端部を針板101から上方に離隔した退避位置に移動させて、右側のベルトガイド44及び送りローラ442とこれらにガイドされる右上ベルト42と位置決め定規50との干渉を回避させる。
【0081】
図13は退避機構60の周辺の斜視図、
図14は右側面図である。
図13及び
図14では位置決め定規50とその支持機構53の図示を省略している。
退避機構60は、
図8,
図10,
図13及び
図14に示すように、右側のベルトガイド44を退避位置に保持する保持部材61と、保持部材61の上端部を回動可能に軸支する支軸62と、保持部材61を所定位置側に付勢する弾性部材としてのねじりコイルバネ(トーションばね)63とを有する。
【0082】
保持部材61は、上端部が取付台74の右側面に対して、段付きネジからなる支軸62により左右方向を軸として回動可能に支持されている。
保持部材61は、短冊状平板からなり、その下端部を回動端部として、支軸62を中心とする半径方向に延出されている。保持部材61の下端部には、略半円状の凹部611が形成されている。
また、保持部材61の下端部の前側には、折曲により右方に立ち上げられた操作片612が形成されている。
【0083】
保持部材61は、
図8及び
図10に示すように、ねじりコイルバネ63により、保持部材61の下端部が前向に付勢されている。そして、保持部材61の下端部は、リンク部材474の下端部を取付台74に連結するボルトの頭部に押し当てられて、ベルトガイド44の前端部より前方に離隔した解放位置に維持されている。
保持部材61が解放位置に位置する場合には、ベルトガイド44に干渉せず、ベルトガイド44は、送り位置を維持している。
【0084】
そして、
図13及び
図14に示すように、ベルトガイド44が退避位置となるように前端部を押し下げた状態で保持部材61の下端部の操作片612を押して後方に回動させると、凹部611に軸部444を下方から嵌合させることができる。凹部611に軸部444が嵌合した位置を保持部材61の保持位置とする。
保持部材61を保持位置にすると、保持部材61は、ほぼ鉛直下方を向いた状態となる。
その場合、ベルトガイド44の前端部は、引っ張りバネ443の上向きの張力により、凹部611に対して軸部444が嵌合した状態が維持される。これにより、保持部材61は、ねじりコイルバネ63に抗して保持位置を維持することができる。従って、ベルトガイド44は、退避位置に保持される。
【0085】
ベルトガイド44を送り位置に戻すには、当該ベルトガイド44の前端部を押し下げるか後端部を引き上げればよい。これにより、凹部611に嵌合した軸部444が外れて、保持部材61は、ねじりコイルバネ63により解放位置に復帰する。従って、ベルトガイド44も送り位置に戻すことができる。
【0086】
[ミシンの使用]
上記構成のミシン100は、上ベルト送り及び下ベルト送りを行う縫製を実行可能である。
この場合、下送り機構20は、各下ベルト21~24を
図6の態様で掛け渡すことにより、針穴13の前側と後側とで異なる速度で送る縫製を行うことが出来る。
また、下送り機構20は、各下ベルト21~24を
図7の態様で掛け渡すことにより、針穴13の左側と右側とで異なる速度で送る縫製を行うことが出来る。
【0087】
一方、被縫製物Cの右端部に沿ってコバ縫いを行う場合には、
図13及び
図14に示すように、右側のベルトガイド44の前端部を押し下げて、送り位置から退避位置に移動させる。
さらに、保持部材61の下端部を後方に回動させて、解放位置から保持位置に切り替えると共に、凹部611にベルトガイド44の軸部444を嵌合させる。
保持部材61は、ベルトガイド44が送り位置にある場合のベルトガイド44の軸部444と軸部746の間隔よりも十分に長くなるように軸部444を保持するので、ベルトガイド44を退避位置に保持することができる。そして、ベルトガイド44の後端部が針板101に対して上方に離隔し、針穴13の右側周辺にスペースが形成される。
そして、位置決め定規50の支持機構53のアクチュエータを駆動させ、位置決め定規50を非使用位置から使用位置に移動させる。これにより、針板101の上面であって針穴13の右側に位置決め定規50の突き当て板51が前後方向に沿った状態で下縁部が針板101の上面に当接又は近接する。なお、突き当て板51の左右方向の位置は、針穴13の中心から目標とするコバステッチ幅となるように予め調節されている。
【0088】
これにより、位置決め定規50の突き当て板51の左面に被縫製物Cの右端部が常に当接するように被縫製物Cを送りながら縫製を行うことで、目標とするコバステッチ幅で縫製が行われる。
なお、この縫製の場合、右上ベルト42が被縫製物Cの送りに寄与しないので、作業者は、被縫製物が右側に曲がり過ぎないように被縫製物Cを手で操作しながら縫製することが好ましい。
【0089】
また、右上ベルト42の駆動源である右上モータ46を制御する制御装置は、コバ縫いの際には、右上モータ46を駆動しないように規制する制御を行ってもよい。この場合、ベルトガイド44の退避位置への移動、保持部材61の保持位置への移動、位置決め定規50の使用位置への移動のいずれかを検出するセンサを設け、制御装置は、センサの検出に連動して右上モータ46の駆動を規制する制御を行う構成としてもよい。
また、制御装置は、位置決め定規50の位置切り替えを行うアクチュエータの使用位置への駆動に連動して右上モータ46の駆動を規制する制御を行う構成としてもよい。
【0090】
[第1実施形態の技術的効果]
ミシン100は、針落ち位置である針穴13に対する位置決め定規50側の右上ベルト42及びベルトガイド44を針穴13から離隔させた退避位置に保持する退避機構60を有している。
これにより、右上ベルト42及びベルトガイド44が干渉することなく針穴13に近づけて位置決め定規50を針板101上に配置することができるので、より狭いコバステッチ幅の縫製を行うことが可能となる。
【0091】
また、退避機構60は、右上ベルト42及びベルトガイド44を上方に退避させるので、位置決め定規50の配置を左右だけでなく、前後方向にも制限なく配置することができ、前後方向について針穴13に重なるように位置決め定規50を配置することで、より良好なコバ縫いを行うことが可能となる。
【0092】
また、退避機構60は、回動により退避したベルトガイド44を退避位置に保持する保持部材61を有するので、ベルトガイド44の引っ張りバネ443の復帰力を利用して保持状態を維持することができ、退避機構60の構成の簡易化、部品点数の低減を図ることが可能となる。
【0093】
また、位置決め定規50は、支持機構53により針板101又は針穴13に対して接離可能に支持されているので、コバ縫い等の必要時のみ、位置決め定規50を針板101上に配置することができ、ミシン100は、コバ縫いに限らず、多様な縫製を行うことが可能となる。
【0094】
また、支持機構53は、位置決め定規50を針板101又は針穴13に対して接離移動させるアクチュエータを有するので、コバ縫い等の必要時の位置決め定規50の位置切り替えを速やかに行うことができ、縫製作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0095】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について詳細に説明する。
本実施形態では、退避機構が前述した保持部材61と異なる構造の保持部材61Aで構成されたミシンを示す。
図15は解放位置にある保持部材61A周辺の斜視図、
図16は同右側面図、
図17は保持位置にある保持部材61A周辺の斜視図、
図18は同右側面図を示す。また、
図19は保持部材61Aの斜視図、
図20は同平面図、
図21は同右側面図である。
【0096】
保持部材61Aは、
図19~
図21に示すように、一端部に、ベルトガイド44の前端部に設けられた引っ張りバネ443を掛ける軸部444を挿入可能な貫通孔615Aが形成されている。保持部材61Aは、保持部材61と違って、一端部がベルトガイド44の前端部において左右方向に沿った軸回りに回動可能に支持される。
なお、保持部材61Aは、ベルトガイド44との間にバネ座金を介挿し、回動操作に摺動抵抗を加えてもよい。
【0097】
また、保持部材61Aの他端部には、略半円状の凹部611Aが形成されている。この凹部611Aは、前述した保持部材61と違い、布押さえ機構70側に設けられた引っ張りバネ443を掛ける軸部746を嵌合させるためのものである。
なお、第2実施形態では、軸部746が取付台74ではなく、連結部712の上部の右側面に設けられた構成を図示しているが、軸部746を取付台74に設ける構成としてもよい。
【0098】
さらに、保持部材61Aは、長手方向中間部の側縁部に保持部材61Aの厚さ方向に延出されたフック部614Aが形成されている。
これは、
図15及び
図16に示すように、ベルトガイド44の右側面に支持された保持部材61Aが解放位置にある場合に、回動端部側が下方に垂れ下がると、被縫製物Cに対する引っ掛かり、他の部材との干渉、針板101を傷つける等のおそれがある。従って、保持部材61Aが垂れ下がらないようにフック部614Aをベルトガイド44の上面に係止させてストッパとして機能させている。
【0099】
[ミシンの使用]
上記構成の場合、コバ縫いの際には、
図15及び
図16のように、保持部材61Aが解放位置にある状態で、右側のベルトガイド44の前端部を押し下げて、送り位置から退避位置に回動させる。
さらに、
図17及び
図18のように、保持部材61Aの回動端部を上方に回動させて、解放位置から保持位置に切り替えると共に、凹部611Aにベルトガイド44の軸部746を嵌合させる。
保持部材61Aは、ベルトガイド44が送り位置にある場合のベルトガイド44の軸部444と軸部746の間隔よりも十分に長いので、ベルトガイド44を退避位置に保持することができる。
これにより、針板101上の針穴13の右側において、針穴13に対して位置決め定規50をより近接するように配置して、コバ縫いを行ことができる。
【0100】
[第2実施形態の技術的効果]
保持部材61Aからなる保持機構を搭載したミシンは、前述した第1実施形態のミシン100と同一の技術的効果を有する。
さらに、保持部材61Aは、ねじりコイルバネや段付きネジを不要として、保持機構をより簡易な構成とすることができる。
但し、保持部材61Aの回動端部を下方に付勢するバネを設けてもよい。
【0101】
[第3実施形態]
第3実施形態では、アクチュエータ65Bによりベルトガイド44Bの送り位置と退避位置とを切り替える退避機構60Bを備えるミシンを示す。
図22は退避機構60Bの周辺の構成を示す右側面図である。
【0102】
このミシンでは、ベルトガイド44Bが押圧力により送り位置から退避位置に切り替え可能であり、ベルトガイド44Bの上端部には、位置を切り替える押圧力の受圧部445Bが設けられている。受圧部445Bは、上下左右方向に沿った平板状に形成されている。ベルトガイド44Bは、受圧部445Bを備える以外の構成については、前述したベルトガイド44と同一である。
【0103】
退避機構60Bは、二方向に延びる延出部641B,642Bを有するベルクランク状の保持部材64Bと、保持部材64Bに回動動作を付与するアクチュエータ65Bとを有する。
【0104】
保持部材64Bは、取付台74の右側面において、左右方向に沿った軸回りに回動可能に支持されている。保持部材64Bの一方の延出部641Bは、下方に延出され、その先端部がベルトガイド44Bの受圧部445Bの後側において当該受圧部445Bと対向している。
保持部材64Bの他方の延出部642Bは、前方に延出されている。この延出部642Bには、アクチュエータ65Bにより上方への回動動作が入力される。
他方の延出部642Bに上方への回動動作が入力されると、一方の延出部641Bは、前方に回動し、ベルトガイド44Bの上端部は、受圧部445Bを通じて前方に押圧され、ベルトガイド44Bの後端部を上方に回動させて、送り位置から退避位置に切り替えることができる。
【0105】
アクチュエータ65Bは、直動動作を行うアクチュエータであり、例えば、エアシリンダを利用することができる。エアシリンダからなるアクチュエータ65Bは、プランジャ651Bを下方に向けて配置されると共に、プランジャ651Bの先端部が後方に屈曲した鉤状を呈している。
プランジャ651Bの鉤状の先端部上面は、保持部材64Bの他方の延出部642Bの先端下面に対向している。これにより、アクチュエータ65Bのプランジャ651Bを上方に退避させることにより、保持部材64Bの他方の延出部642Bを上方に回動させて、ベルトガイド44Bの退避位置への切り替えを行うことができる。
【0106】
また、エアシリンダであるアクチュエータ65Bのプランジャのストロークを適正に設定することで、ベルトガイド44Bを退避位置に保持することができる。
押さえ足71は、縫製時には針板101上に下降しているが、被縫製時には被縫製物Cを解放するために押さえモータによって上方に引き上げられる。
退避機構60Bでは、プランジャ651Bの先端部上面が保持部材64Bの他方の延出部642Bの先端下面に対向する構造のため、押さえ足71の解放時の引き上げ動作に影響を与えない。
【0107】
アクチュエータ65Bは、電磁弁等を通じて、制御装置によって動作制御可能な構成とすることが好ましい。これにより、作業者の指示入力操作に応じて、アクチュエータ65Bを制御することができ、ベルトガイド44Bを送り位置と退避位置とを任意に切り替えることが可能となる。
これにより、コバ縫いを行うために位置決め定規50を針板101上に配置する場合に、ベルトガイド44Bの位置切り替えを速やかに行うことができ、縫製作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0108】
[第4実施形態]
第4実施形態も、アクチュエータ65Cによりベルトガイド44Bの送り位置と退避位置とを切り替える退避機構60Cを備えるミシンを示す。
図23は退避機構60Cの周辺の構成を示す右側面図である。
【0109】
退避機構60Cは、二方向に延びる延出部641C,642Cを有するベルクランク状の保持部材64Cと、保持部材64Cに回動動作を付与するアクチュエータ65Cと、保持部材64Cとアクチュエータ65Cとを連結する二つのリンク部材66C,67Cとを有する。
【0110】
保持部材64Cは、前述した保持部材64Bとほぼ同一の構成であり、下方に延出された一方の延出部641Cと、前方に延出された他方の延出部642Cとを有する。
そして、他方の延出部642Cの前端部は、二つのリンク部材66C,67Cを介してアクチュエータ65Cに連結されている。
【0111】
アクチュエータ65Cは、前述したアクチュエータ65Bと同様に、直動動作を行うアクチュエータであり、例えば、エアシリンダを利用することができる。
エアシリンダからなるアクチュエータ65Cのプランジャ651Cの下端部は、二つのリンク部材66C,67Cを介して保持部材64Cの他方の延出部642Cの前端部に連結されている。
【0112】
下側のリンク部材66Cは、下端部が、保持部材64Cの他方の延出部642Cの前端部に左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。また、リンク部材66Cの上端部は、上側のリンク部材67Cの下端部に左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。
上側のリンク部材67Cの上端部は、アクチュエータ65Cのプランジャ651Cの下端部に左右方向に沿った軸回りに回動可能に連結されている。
【0113】
また、保持部材64Cの一方の延出部641Cが下方を向き、他方の延出部642Cが前方を向いた状態(ベルトガイド44Bが送り位置にある状態)で、
図23に示すように、二つのリンク部材66C,67Cは、互いの連結部でわずかに屈曲した姿勢となるように各々の長さが設定されている。なお、この状態で二つのリンク部材66C,67Cが直線状となる長さに設定してもよい。
一方、アクチュエータ65Cのプランジャ651Cの上方への引き上げストロークは、二つのリンク部材66C,67Cを真っ直ぐな状態に引き延ばし、さらに、保持部材64Cを回動させて、ベルトガイド44Bを送り位置から退避位置まで回動させる長さに設定されている。
これにより、アクチュエータ65Cのプランジャ651Cを退避動作させることにより、二つのリンク部材66C,67Cを引き延ばすと共に、保持部材64Cの他方の延出部642Cを上方に回動させて、ベルトガイド44Bの退避位置への切り替えを行うことができる。
【0114】
退避機構60Cでは、プランジャ651Cの先端部が僅かに屈曲した(又は直線状に連結した)二つのリンク部材66C,67Cを介して保持部材64Cに連結されているので、押さえ足71の解放時の引き上げの際には、二つのリンク部材66C,67Cが大きく屈曲するだけにとどまり、押さえ足71の引き上げ動作に影響を与えない。
【0115】
アクチュエータ65Cは、制御装置によって動作制御可能な構成とすることが好ましい。
これにより、コバ縫いを行うために位置決め定規50を針板101上に配置する場合に、ベルトガイド44Bの位置切り替えを速やかに行うことができ、縫製作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0116】
[第5実施形態]
第5実施形態は、前進移動によって送り位置から退避位置に移動可能なベルトガイド44Dを備えるミシンを例示する。
図24はベルトガイド44Dの右側面図である。
前述したベルトガイド44,44Bは、いずれも、被縫製物Cに当接又は近接する後端部を上方に離隔移動させて退避位置に切り替える構成としている。
第5実施形態のベルトガイド44Dは、ベルトガイド44Dを回動可能に支持する支軸431の軸穴446Dを前後方向に沿った長穴とすることで、ベルトガイド44Dを回動可能且つ送り位置から前進移動可能としている。
この場合、ベルトガイド44Dの後退位置が送り位置となり、前進位置が退避位置となる。
上記ベルトガイド44Dを搭載する場合には、退避機構は、ベルトガイド44Dを前方に引き寄せて保持する構成とすることが好ましい。
【0117】
[その他]
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られるものではない。例えば、実施形態において、単一の部材により一体的に形成された構成要素は、複数の部材に分割されて互いに連結又は固着された構成要素に置換してもよい。また、複数の部材が連結されて構成された構成要素は、単一の部材により一体的に形成された構成要素に置換してもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0118】
例えば、上記各実施形態では、被縫製物Cの右端部を位置決め定規50に当接させてコバ縫いを行う構成を例示したが、被縫製物Cの左端部を位置決め定規に当接させてコバ縫いを行う構成としてもよい。
その場合には、位置決め定規を針穴13の左方に配置し、突き当て板の右面に被縫製物Cの左端部を当接させる構成とする。
また、右のベルトガイド44ではなく、左のベルトガイド43を送り位置から退避位置に切り替えると共に、押さえ足71の左側に保持部材を配置する構成とすることが好ましい。
【0119】
また、上記各実施形態では、片側のベルトガイド44,44Dのみを退避位置に切り替えてコバ縫いを行う構成を例示したが、押さえ足が下ベルト21~24に被縫製物Cを押し付ける構造であって、上ベルト41,42が退避しても下ベルト21~24による送り機能を維持することが可能な構成である場合には、位置決め定規50を使用位置に配置する際に、両方のベルトガイド43,44を退避位置に維持する退避機構を備える構成としてもよい。
【0120】
また、位置決め定規50は、非使用位置と使用位置とを手動で切り替える構成としてもよい。
また、位置決め定規50は、非使用時には、針板101から取り外して除去し、使用時にネジ等で針板101上に取り付ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0121】
11 縫い針
12 針棒
13 針穴(針落ち位置)
20 下送り機構
21 後左下ベルト
22 前左下ベルト
23 前右下ベルト
24 後右下ベルト
40 上送り機構
41 左上ベルト(搬送ベルト)
42 右上ベルト(搬送ベルト)
43,44,44B,44D ベルトガイド
45 左上モータ
46 右上モータ
50 位置決め定規
51 突き当て板
52 連結部
53 支持機構
60,60B,60C 退避機構
61,61A,64B,64C 保持部材
63 コイルバネ
65B,65C アクチュエータ
66C,67C リンク部材
70 布押さえ機構
71 押さえ足
74 取付台
100 ミシン
101 針板
611,611A 凹部
612 操作片
614A フック部
615A 貫通孔
C 被縫製物