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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175742
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】攪拌装置及び攪拌工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093705
(22)【出願日】2023-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年8月21日~8月26日に、愛媛県大洲市長浜町晴海にて、攪拌装置及び攪拌工法について試験を行った。 令和4年10月13日~10月19日に、愛媛県大洲市長浜町晴海にて、攪拌装置及び攪拌工法を実施した。
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000230788
【氏名又は名称】日本基礎技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 裕
(72)【発明者】
【氏名】四垂 拓也
(72)【発明者】
【氏名】京田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】秋本 浩平
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AB05
2D040BA01
2D040DA16
2D040DB07
2D040EA18
2D040EB01
(57)【要約】
【課題】高圧と低圧で固化材を噴射することが出来る攪拌装置の提供と、係る攪拌装置を用いて既存建造物の基礎構造を造成する攪拌工法の提供。
【解決手段】本発明の攪拌装置(100)は、攪拌翼(1)と、共回り防止用の部材(2)と、攪拌及び高圧固化材噴射用翼(3)が本体(10)に設けられ、攪拌及び高圧固化材噴射用翼は最も地中側に位置し、半径方向外方端部には高圧固化材噴射装置(4)が設けられ、本体の地中側先端部近傍には低圧固化材噴射装置(5)が設けられ、攪拌及び高圧固化材噴射用翼に連通するチャンバ(15)において高圧固化材供給流路(12)は半径方向外方に方向転換し2本の半径方向流路(12A)に分岐し、低圧固化材供給流路(11)を構成する配管は複数配管に分岐し、複数配管は2本の半径方向流路が延在しない2つの円周方向領域に配置され、半径方向流路よりも地中側の領域で合流する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌翼と、共回り防止用の部材と、攪拌及び高圧固化材噴射用翼が本体に設けられており、
前記攪拌及び高圧固化材噴射用翼は最も下方に位置しており、その半径方向外方端部には高圧固化材噴射装置が設けられており、
本体の下端部近傍であって、中心軸から半径方向外方へ偏寄した位置には低圧固化材噴射装置が設けられており、
低圧固化材噴射装置に固化材を供給する低圧固化材供給流路と、高圧固化材噴射装置に固化材を供給する高圧固化材供給流路が設けられ、
自在継手と攪拌翼とを接続するロッドは二重管で構成され、二重管の外管は前記低圧固化材供給流路を構成しており、二重管の内管が前記高圧固化材供給流路を構成しており、
本体の内側には攪拌及び高圧固化材噴射用翼に連通するチャンバが形成され、当該チャンバにおいて前記高圧固化材供給流路は半径方向外方に方向転換し且つ半径方向外方に延在する2本の半径方向流路に分岐し、当該2本の半径方向流路は本体の直径方向に延在し、
前記低圧固化材供給流路を構成する二重管の外管は二重管軸線方向に延在する複数の配管に分岐し、当該複数の配管の半数と残りの半数の配管は、本体の円周方向領域であって且つ前記2本の半径方向流路が延在していない2つの円周方向領域にそれぞれ配置されており、前記2つの円周領域に配置された半数の配管と残りの半数の配管は、本体の直径方向に延在する前記2本の半径方向流路を対象軸にして線対象に配置されており、前記半数の配管と残りの半数の配管は前記2本の半径方向流路よりも下方(地中側)の本体内の領域で合流することを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
本体内部で高圧固化材供給流路が半径方向外方へ方向転換する箇所には空洞部と、その空洞部に配置されるスリーブ状部材が設けられ、当該スリーブ状部材には熱処理が施されており、且つ、交換可能に構成されている請求項1の攪拌装置。
【請求項3】
前記2つの円周領域に配置された半数の配管及び/又は残りの半数の配管は、前記2つの円周方向領域の各々においては円周方向に等間隔に配置されている請求項1の攪拌装置。
【請求項4】
前記2本の半径方向流路は内径が22mm以上である請求項1の攪拌装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項の攪拌装置を用いた攪拌方法において、
既存建造物近傍で、前記攪拌装置により地表から安定層まで掘削孔を削孔する削孔工程と、
前記削孔工程で削孔された掘削孔の底部から攪拌装置を引き上げつつ、前記本体の下端部近傍の低圧固化材噴射装置から固化材を噴射すると共に、前記攪拌及び高圧固化材噴射用翼の半径方向外方端部に設けられた高圧固化材噴射装置から前記既存建造物に到達する様に固化材を噴射して、前記既存建造物と接触する地中固結体を造成する工程を含むことを特徴とする攪拌工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械攪拌工法で用いられる攪拌装置の改良と、当該改良された攪拌装置を用いた攪拌工法に関する。
【背景技術】
【0002】
施工現場の地盤が軟弱な場合に行われる地盤改良の一種である攪拌工法は、回転する攪拌翼を備えた攪拌装置を使用し、地盤形成土と固化材(改良材)とを混合攪拌して、地中固結体を造成する工法である。
ここで、攪拌翼を回転すると共に、固化材を高速で噴射する技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0003】
係る従来技術(特許文献1~3)では、固化材を攪拌翼の半径方向先端から高圧で噴射している。
しかし、攪拌翼の半径方向先端から高圧の固化材を噴射すると同時に、攪拌翼の地下側先端から低圧の固化材を噴射する攪拌翼は、従来技術では提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63-29050号公報
【特許文献2】特開2004-225361号公報
【特許文献3】特公平6-37767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高圧の固化材と低圧の固化材を同時に噴射することが出来る攪拌装置の提供と、係る攪拌装置を用いて既存建造物の基礎構造を造成する攪拌工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の攪拌装置(100)は、
攪拌翼(1)と、共回り防止用の部材(2)と、攪拌及び高圧固化材噴射用翼(3)が本体(10)に設けられており、
前記攪拌及び高圧固化材噴射用翼(3)は最も下方(地中側)に位置しており、その半径方向外方端部には高圧固化材噴射装置(4)が設けられており、
本体(10)の下端部(地中側先端部)近傍であって、中心軸から半径方向外方へ偏寄した位置には低圧固化材噴射装置(5)が設けられており、
低圧固化材噴射装置(5)に固化材を供給する低圧固化材供給流路(11)と、高圧固化材噴射装置(4)に固化材を供給する高圧固化材供給流路(12)が設けられ、
(上方或いは地上側の)自在継手(13:スイベルジョイント)と攪拌翼(1)とを接続するロッド(14)は二重管で構成され、二重管(14)の外管は前記低圧固化材供給流路(11)を構成しており、二重管(14)の内管が前記高圧固化材供給流路(12)を構成しており、
本体(10)の内側には攪拌及び高圧固化材噴射用翼(3)に連通するチャンバ(15)が形成され、当該チャンバ(15)において前記高圧固化材供給流路(12)は半径方向外方に方向転換し且つ半径方向外方に延在する2本の半径方向流路(12A)に分岐し、当該2本の半径方向流路(12A)は本体(10)の直径方向に延在し、
前記低圧固化材供給流路(11)を構成する二重管(14A)の外管は二重管軸線方向に延在する複数の配管(例えば12本の配管:分岐後低圧固化材供給流路11A)に分岐し、当該複数の配管(分岐後低圧固化材供給流路11A)の半数(例えば6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)と残りの半数の配管(例えば残りの6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)は、本体(10)の円周方向領域であって且つ前記2本の半径方向流路(12A:高圧固化材供給流路)が延在していない2つの円周方向領域(R1、R2)にそれぞれ配置されており、前記2つの円周方向領域(R1、R2)に配置された半数の配管(例えば6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)と残りの半数の配管(例えば残りの6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)は、本体(10)の直径方向に延在する前記2本の半径方向流路(12A)を対象軸にして線対象に配置されており、前記半数の配管(例えば6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)と残りの半数の配管(例えば残りの6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)は前記2本の半径方向流路(12A)よりも下方(地中側)の本体(10)内の領域で合流することを特徴としている。
本明細書において、攪拌装置(100)の二重管ロッドを符号「14」で表し、本体(10)内の二重管ロッドを符号「14A」で表すが、両者は同一の二重管ロッドを構成している。
【0007】
本発明において、本体(10)内部で高圧固化材供給流路(12)が半径方向外方へ方向転換する箇所には空洞部(16)と、その空洞部(16)に配置(嵌合)されるスリーブ状部材(17)が設けられ、当該スリーブ状部材(17)には熱処理が施されており、且つ、交換可能に構成されているのが好ましい。
また本発明において、前記2つの円周領域に配置された半数の配管(例えば6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)及び/又は残りの半数の配管(例えば残りの6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)は、前記2つの円周方向領域の各々においては円周方向に等間隔に配置されているのが好ましい。
さらに本発明において、前記2本の半径方向流路(12A:高圧固化材供給流路)は内径が22mm以上であるのが好ましい。
【0008】
本発明の攪拌工法は、前記攪拌装置(100:請求項1~4の何れか1項の攪拌装置)を用いた攪拌方法において、
既存建造物(ES:既存建造物の地中基礎部分を含む)近傍で、前記攪拌装置(100)により地表から安定層(例えば岩盤)まで掘削孔(H)を削孔する削孔工程と、
前記削孔工程で削孔された掘削孔(H)の底部から攪拌装置(100)を引き上げつつ、前記本体(10)の下端部(地中側先端部)近傍の低圧固化材噴射装置(5)から固化材を噴射すると共に、前記攪拌及び高圧固化材噴射用翼(3)の半径方向外方端部に設けられた高圧固化材噴射装置(4)から前記既存建造物(ES)に到達する様に固化材を噴射して、前記既存建造物(ES)と接触する地中固結体(20)を造成する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上述の構成を具備する本発明によれば、本体(10)の内側には攪拌及び高圧固化材噴射用翼(3)に連通するチャンバ(15)が形成され、当該チャンバ(15)において前記高圧固化材供給流路(12)は半径方向外方に方向転換し且つ半径方向外方に延在する2本の半径方向流路(12A)に分岐し、当該2本の半径方向流路(12A)は本体(10)の直径方向に延在し、前記低圧固化材供給流路(11)を構成する二重管(14A)の外管は二重管軸線方向に延在する複数の配管(例えば12本の配管:分岐後低圧固化材供給流路11A)に分岐し、当該複数の配管の半数(6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)と残りの半数の配管(残りの6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)は、本体(10)の円周方向領域であって且つ前記2本の半径方向流路(12A:高圧固化材供給流路)が延在していない2つの円周方向領域(R1、R2)にそれぞれ配置されており、前記2つの円周領域(R1、R2)に配置された半数の配管(6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)と残りの半数の配管(残り6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)は、本体(10)の直径方向に延在する前記2本の半径方向流路(12A)を対象軸にして線対象に配置されており、前記半数の配管と残りの半数の配管は前記2本の半径方向流路(12A)よりも下方(地中側)の本体(10)内の領域で合流するので、二重管(14、14A)の内管を介して供給される高圧(例えば20MPa~50MPa)の固化材と、二重管(14、14A)の外管を介して供給される低圧(例えば5MPa以下)の固化材が、攪拌翼(3:攪拌及び高圧固化材噴射用翼)或いは本体(10)から噴射される以前の段階で混合されること無く、同一の攪拌装置(100)から噴射される。
そのため、高圧の固化材で周辺の土壌を切削して、造成される地中固結体(20)の断面積を大きくしつつ、低圧の固化材を大量に供給して施工現場の土壌と固化材とを混合して、地中固結体(20)を造成することが出来る。
また、二重管(14、14A)の外管を介して供給される低圧の固化材を、地中側の先端から噴射することが出来るので、地山に硬化材が混合されて穿孔の抵抗を減少することが出来る。
ここで、複数の配管(11A)に分岐して合流するのは低圧の固化材が供給される低圧固化材供給流路(11)であるため、複数の配管(11A)に分岐する際の圧力損失と、複数の配管が合流する際の圧力損失は比較的小さい。そのため、必要な加圧エネルギの節約になる。
【0010】
ここで、前記高圧固化材供給流路(12)が半径方向外方に方向転換する箇所では、圧力が大きく、当該方向変換箇所の摩耗が大きくなってしまう。
しかし本発明において、本体(10)内部で高圧固化材供給流路(12)が半径方向外方へ方向転換する箇所には空洞部(16)と、その空洞部(16)に配置(嵌合)されるスリーブ状部材(17)が設けられ、当該スリーブ状部材(17)に熱処理が施されていれば、高圧の固化材の方向転換はスリーブ状部材(17)内で行われるので、スリーブ状部材(17)に熱処理を施せば、その摩耗量を減少することが出来る。そして、本発明において、スリーブ状部材(17)が交換可能に構成されていれば、仮にスリーブ状部材(17)が摩耗したとしても直ちに交換することが出来るので、攪拌装置(100)全体を長寿命化させることが出来る。
【0011】
さらに、本発明において、前記2本の半径方向流路(12A:高圧固化材供給流路)の内径を22mm以上に設定することにより、高圧(20MPa~50MPa)の固化材が前記2本の半径方向流路(12A)を流れる際の流路抵抗が低減すると共に、高圧の固化材が乱流状態から層流あるいは層流に近い状態となる。その結果、前記2本の半径方向流路(12A)の摩耗量が減少する。
【0012】
本発明の攪拌工法によれば、前記攪拌装置(100:請求項1~4の何れか1項の攪拌装置)を用いているので、高圧(例えば20MPa~50MPa)の固化材と低圧(例えば5MPa以下)の固化材を、攪拌翼(3:攪拌及び高圧固化材噴射用翼)或いは本体(10)から噴射される以前に混合させること無く、同一の攪拌装置(100)から噴射することが出来る。
そして、掘削孔(H)の底部から攪拌装置(100)を引き上げつつ、前記本体(10)の下端部(地中側先端部)近傍の低圧固化材噴射装置(5)から固化材を噴射すると共に、前記攪拌及び高圧固化材噴射用翼(3)の半径方向外方端部に設けられた高圧固化材噴射装置(4)から前記既存建造物(ES)に到達する様に固化材を噴射して、前記既存建造物(ES)と接触する地中固結体(20)を造成する工程を含むので、固化材の噴流を確実に既存建造物(ES)に衝突させて、既存建造物(ES)と接触した地中固結体(20)を造成することが出来る。そのため、既存建造物(ES)が地中固結体(20)により確実に耐震性や軟弱地盤に対する支持力が向上する。
【0013】
さらに前記攪拌装置(100)では、半径方向外方端部に高圧固化材噴射装置(4)が設けられた攪拌及び高圧固化材噴射用翼(3)は最も下方(地中側)に位置している。そのため、掘削工程が終了した際に、攪拌及び高圧固化材噴射用翼(3)は掘削孔(H)が到達している安定層(例えば岩盤)に接触しているか、或いは極めて近接している。そのため、攪拌装置(100)を引き上げて地中固結体(20)を造成する際に、安定層に接触しているか或いは極めて近接する位置において高圧の固化材が噴射され、造成された地中固結体(20)の最下層の半径方向寸法は、それより上方における半径方向寸法と同等となる。地中固結体(20)の最下層の半径方向寸法は、それより上方における半径方向寸法に比較して小さくなり、地中固結体(20)の最下方領域が縊れた状態になることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る攪拌装置を示す説明断面図である。
図2図1における本体の攪拌及び高圧固化材噴射用翼が設けられている部分の詳細を示す説明断面図である。
図3図2のA3-A3矢視断面説明図である。
図4図2において、本体内部で高圧固化材供給流路が半径方向外方に方向転換する箇所の部分拡大断面説明図である。
図5図1図4で示す攪拌装置を用いた攪拌工法の工程図であって、既存建造物近傍に穿孔する工程を示す説明図である。
図6図5に続く工程を示し、攪拌装置を引き上げて地中固結体を造成する工程を示す説明図である。
図7図5図6で示す工程の後、地中固結体と既存建造物との相対位置関係を示す説明平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、本発明の実施形態に係る攪拌装置は、全体を符号100で示されている。攪拌装置100は本体10(攪拌機本体)を有し、2枚の攪拌翼1と、共回り防止用の部材2と、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3が本体10に設けられている。換言すれば、図1において、攪拌翼1よりも下方の部分が本体10である。
攪拌及び高圧固化材噴射用翼3は、図1において最も下方(地中側)に位置している。攪拌及び高圧固化材噴射用翼3の半径方向外方端部には、高圧固化材噴射装置4が設けられている。攪拌及び高圧固化材噴射用翼3の下方部(地中側部)には、長手方向全体に亘って複数個の削孔用のビット6が配置されている。
攪拌及び高圧固化材噴射用翼3より上方(地上側)には共回り防止用の部材2が配置され、共回り防止用の部材2のさらに上方(地上側)には2枚の攪拌翼1が配置されている。攪拌装置100において、攪拌翼1、共回り防止用の部材2、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3、後述する低圧固化材噴射装置5の間を延在する二重管ロッド14A、ロッド14B(単管)及び取付部材を「本体10」と総称することがある。
なお、攪拌装置100の二重管ロッドを符号「14」で示し、本体10内の二重管ロッドを符号「14A」で示すが、両者は同一の二重管ロッドを構成している。
攪拌及び高圧固化材噴射用翼3及び攪拌翼1は二重管ロッド14Aに取り付けられ、二重管ロッド14Aロッドと共に回転する。共回り防止用の部材2は、攪拌翼1と攪拌及び高圧固化材噴射用翼3により攪拌された土壌が、攪拌翼1と攪拌及び高圧固化材噴射用翼3の回転と共に「共回り」することを防止する機能を有している。そのため、共回り防止用の部材2は、二重管ロッド14A、攪拌翼1、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3と同一の回転はしない。
【0016】
本体10の下端部(地中側先端部)近傍の位置(中心軸から半径方向外方へ偏寄した位置)には、低圧固化材噴射装置5が設けられている。ここで、本体10の下端部は下端部に近い位置(地中側)ほど小径の円錐台に形成されており、低圧固化材噴射装置5は前記円錐台の側面であって、円錐台の先端近傍(地中側先端近傍)の位置に配置される。
図示の実施形態では、低圧固化材噴射装置5は前記円錐台の側面に1箇所配置されているが、施工条件その他に起因して、低圧固化材噴射装置5を2箇所、或いはそれ以上だけ配置することも出来る。
【0017】
図1の攪拌装置100において、本体10及び本体10より地上側の領域には、低圧固化材噴射装置5に固化材を供給する低圧固化材供給流路11と、高圧固化材噴射装置4に固化材を供給する高圧固化材供給流路12が設けられている。図1(及び図2図4)では、高圧固化材供給流路12、低圧固化材供給流路11は、高圧固化材噴射装置4或いは低圧固化材噴射装置5から噴射される固化材噴射も含め、それぞれ別の種類のハッチングにより表示されている。
高圧固化材供給流路12、低圧固化材供給流路11は地上側において、それぞれ図示しない高圧固化材供給源(高圧ポンプを含む)、低圧固化材供給源(低圧ポンプを含む)に接続され、高圧及び低圧ポンプの駆動により高圧固化材及び低圧固化材が攪拌装置100に供給される。
攪拌装置100の地上側端部近傍には自在継手13(スイベルジョイント)が設けられ、攪拌装置100はスイベルジョイント13を介して図示しない高圧固化材供給源或いは低圧固化材供給源に接続される。
【0018】
スイベルジョイント13と攪拌翼1、1は二重管ロッド14に取り付けられている。上述した様に、二重管ロッド14は、攪拌翼1、1~攪拌及び高圧固化材噴射用翼3間の領域の二重管ロッド14A(本体10内の二重管ロッド14A)と同一の二重管を構成している。
二重管ロッド14、14Aの外管は低圧固化材供給流路11の一部を構成しており、二重管ロッド14、14Aの内管は高圧固化材供給流路12の一部を構成している。
【0019】
図1図2で示す様に、高圧固化材供給流路12は、チャンバ15(図1では図示せず:図2図4参照)において半径方向外方に方向転換し、且つ半径方向外方に延在する2本の半径方向流路12Aに分岐する。ここで、チャンバ15は本体10の内側に設けられ、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3に連通している。2本の半径方向流路12Aはそれぞれ配管により構成されている。高圧固化材供給流路12が2本の半径方向流路12Aに分岐する構成等については、図4等を参照して後述する。
そして2本の半径方向流路12Aは攪拌及び高圧固化材噴射用翼3内に配置され、本体10の半径方向外方へ(直径の延長方向に)延在し、半径方向端部(直径方向端部)において高圧固化材噴射装置4(図1)に連通している。
ここで、2本の半径方向流路12Aは内径が22mm以上に設定されている。内径寸法を22mm以上という比較的大きい寸法に設定したため、高圧(20MPa~50MPa)の固化材が2本の半径方向流路12Aを流れる際の流路抵抗が低減すると共に、高圧の固化材が乱流状態から層流あるいは層流に近い状態となる。その結果、2本の半径方向流路12Aの摩耗量を減少させることが出来る。
【0020】
攪拌及び高圧固化材噴射用翼3が設けられている領域の詳細を断面で示す図2において、低圧固化材供給流路11、高圧固化材供給流路12の外方には本体10の一部を構成するハウジング18が設けられており、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3はハウジング18に取り付けられている。2本の半径方向流路12Aはハウジング18を貫通し、スリーブ状部材17(図4参照)内のチャンバ15(図4参照)に連通している。
図1図2において、高圧固化材は、地上側の図示しない高圧固化材供給源からスイベルジョイント13を介して、二重管ロッド14、14Aの内管で構成される高圧固化材供給流路12、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3内の半径方向流路12Aを流過して、高圧固化材噴射装置4から地中に噴射される(矢印J2:図1)。
【0021】
図1において、低圧固化材供給流路11は、高圧固化材供給流路12が2本の半径方向流路12Aに分岐する分岐箇所(攪拌及び高圧固化材噴射用翼3が配置される箇所)よりも下方(地中側)の領域で低圧固化材噴射装置5側に連通或いは接続している。そして、低圧固化材供給流路11は、高圧固化材供給流路12が2本の半径方向流路12Aに分岐する分岐箇所を通過する際に、2本の半径方向流路12Aとは干渉しない様に構成されている。係る構成は、図2図3に示されている。
図2図3において、低圧固化材供給流路11を構成する二重管ロッド14Aの外管は、高圧固化材供給流路12が2本の半径方向流路12Aに分岐している箇所よりも地上側(図2では上方)の領域で、複数の配管(図示の実施形態では12本の配管)に分岐し、分岐した複数の配管は二重管ロッド14Aの軸線方向に延在している。そして、分岐した12本の配管の各々が、分岐後低圧固化材供給流路11Aを構成する。
図3で示されている様に、当該12本の配管の半数(6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)と残りの半数の配管(残り6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)の円周方向位置は、本体10の円周方向領域であって且つ2本の半径方向流路12A(高圧固化材供給流路)が延在していない2つの円周方向領域R1、R2に、それぞれ配置されている。
2つの円周領域R1、R2に配置された6本の配管(6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)と残りの6本の配管(残り6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)は、本体10の直径方向に延在する2本の半径方向流路12A(高圧固化材供給流路)を対象軸にして、線対象となる様に配置されている。さらに、2つの円周領域R1、R2に配置された6本の分岐後低圧固化材供給流路11A(配管)及び残りの6本の分岐後低圧固化材供給流路11A(配管)は、円周方向領域R1、R1の各々において、円周方向に等間隔に配置されている。
【0022】
図2において、上述した態様で低圧固化材供給流路11から分岐した12本の分岐後低圧固化材供給流路11A(6本の分岐後低圧固化材供給流路11A及び残りの6本の分岐後低圧固化材供給流路11A)は、2本の半径方向流路12A(高圧固化材供給流路)の下方(地中側)の本体内の領域で合流し、合流後低圧固化材供給流路11Bを構成する。図1及び図2において、合流後低圧固化材供給流路11Bが延在する部分のロッドは、符号14Bで示されている。なお、ロッド14Bは低圧固化材が流れるのみなので、二重管である必要はなく、単管で構成されている。
合流後低圧固化材供給流路11Bは、本体10の下端部(地中側先端部)近傍に配置された低圧固化材噴射装置5(図1)に連通(接続)されている。
図1図2において、低圧固化材は、地上側の図示しない低圧固化材供給源からスイベルジョイント13を介し、二重管ロッド14と、14Aの外管により構成される低圧固化材供給流路11と、12本の分岐後低圧固化材供給流路11A(図2)と、合流後低圧固化材供給流路11B(図2)を流過し、低圧固化材噴射装置5から地中に噴射される(矢印J1:図1)。
【0023】
図1図3に示す様に、二重管ロッド14、14Aの内管を介して供給される高圧(例えば20MPa~50MPa)の固化材と、二重管ロッド14、14Aの外管、ロッド14Bを介して供給される低圧(例えば5MPa以下)の固化材は、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3の高圧固化材噴射装置4或いは本体10下端部の低圧固化材噴射装置5から噴射される以前の段階で(高圧の固化材と低圧の固化材が)混合されてしまうことは無く、同一の攪拌装置100から噴射される。
そのため、高圧の固化材を噴射(J2:図1参照)して周辺の土壌を切削して、造成される地中固結体の断面積を大きくすると共に、低圧の固化材を大量に噴射(J1:図1参照)して施工現場の土壌と大量の固化材とを混合して、高品質な地中固結体を造成することが出来る。
ここで、複数(12本)の分岐後低圧固化材供給流路11Aに分岐し、半径方向流路12Aの下方(地中側)で単一の合流後低圧固化材供給流路11Bに合流するのは低圧の固化材が供給される低圧固化材供給流路11である。低圧固化材供給流路11を流れる低圧固化材の圧力は比較的小さい(例えば5MPa以下)ので、12本の配管11Aに分岐する際の圧力損失と、12本の配管11Aが合流する際の圧力損失は比較的小さく、その分だけ必要な加圧エネルギが節約される。
【0024】
図4を参照して、本体10内部で高圧固化材供給流路12が半径方向外方へ方向転換する構成について説明する。図4において、高圧固化材供給流路12が半径方向外方へ方向転換する箇所は、高圧固化材供給流路12の下端部近傍であって、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3(図4では図示せず)の幅方向(図4の上下方向)の概略中心である。
図4において、当該方向転換する箇所には、本体10内の空洞部16と、空洞部16に配置されるスリーブ状部材17が設けられている。図4において、スリーブ状部材17に施したハッチングは、固化材流路12、11のハッチングとは別種である。スリーブ状部材17の内部の空間はチャンバ15を構成している。
チャンバ15は、スリーブ状部材17上部の上部接続部17Aを介して高圧固化材供給流路12に連通し、スリーブ状部材17の側面に設けられた2箇所の側面接続部17Bを介して2本の半径方向流路12Aの各々に連通している。スリーブ状部材17は、本体10の空洞部16において取付用部材19に固定されている。
【0025】
ここで、スリーブ状部材17には熱処理が施されており、且つ、交換可能(すなわち取付用部材19から着脱可能)に構成されている。スリーブ状部材17に熱処理が施されているので、スリーブ状部材17内で高圧固化材が方向転換した際に、スリーブ状部材17における摩耗量を減少させることが出来る。さらに、スリーブ状部材17が交換可能に構成されているので、スリーブ状部材17が摩耗したとしても、直ちに交換して、攪拌装置100全体を長寿命化させることが出来る。
図4において、高圧固化材供給流路12からスリーブ状部材17の上部接続部17Aを介してチャンバ15に導入された高圧固化材は、チャンバ5内で半径方向外方の2方向(図4における左右方向)へ方向転換し、スリーブ状部材17の2箇所の側面接続部17Bを介してそれぞれ半径方向流路12A内に流入し、半径方向流路12Aを流過する。そして図1で示す様に、高圧固化材噴射装置4から噴流J2として地中に噴射される。
【0026】
次に、図5図7を参照して、図示の実施形態の攪拌工法を説明する。
図5は削孔工程を示しており、既存建造物ES(その地中基礎部分を含む)の近傍に攪拌装置100を設置する。ここで、攪拌装置100の設置に際しては、図6の工程において高圧固化材噴射装置4から噴射された固化材が既存建造物ESに到達する様に、攪拌装置100の設置位置が設定される。
図示の煩雑を回避するため、図5においては、攪拌装置100の本体10に設けられる2枚の攪拌翼1、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3の半径方向外方端部の高圧固化材噴射装置4、本体10の下端部(地中側先端部)近傍の低圧固化材噴射装置5を示す。図5及び後述する図6では共回り防止用の部材2(図1参照)は図示しない。
そして、図示しない駆動装置により、ロッド14(二重管ロッド14、14A、及び単管14B)を回転しつつ地盤に貫入し、地表から安定層(例えば岩盤BR)まで到達する掘削孔Hを削孔する。係る削孔は、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3に配置された複数個の削孔用のビット6(図1参照)により可能となる。
【0027】
次に、図6に示す工程を実施する。図6では地中固結体20を造成する工程を示しており、図5の削孔工程で削孔された掘削孔Hの底部から、攪拌装置100を、ロッド14を回転しつつ、矢印Uで示す様に引き上げる。
攪拌装置100を引き上げると同時に、本体10の下端部(地中側先端部)近傍の低圧固化材噴射装置5から低圧の固化材を噴射し(矢印J1)、それと共に、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3の半径方向外方端部に設けられた高圧固化材噴射装置4から既存建造物の地中基礎部分ESに到達する様に高圧固化材を噴射する(矢印J2)。
高圧固化材噴流J2を確実に既存建造物の地中基礎部分ESに衝突させることにより、既存建造物の地中基礎部分ESに接触した地中固結体20を造成することが出来る。それにより、既存建造物ESが、地中固結体20により、耐震性或いは軟弱地盤に対する支持力が確実に向上する。なお、造成された地中固結体20の最下層の半径方向寸法を符号Lで示す。
【0028】
図5図6の工程により造成された地中固結体20と既存建造物(の地中の基礎部分)ESの位置関係は、図7において、平面的に示されている。
図7において、高圧固化材噴射装置4からの固化材噴射領域RJ2は、既存建造物(の地中の基礎部分)ESまで到達している。
ここで、2枚の攪拌翼1及び共回り防止用の部材2の軌跡は、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3の軌跡3Mと同様であり、2枚の攪拌翼1及び共回り防止用の部材2と攪拌及び高圧固化材噴射用翼3のそれぞれの作動軌跡が既存建造物の地中基礎部分ESとは重複していない。このことは、2枚の攪拌翼1及び共回り防止用の部材2と攪拌及び高圧固化材噴射用翼3が、既存建造物の地中基礎部分ESと干渉するのを回避していることを意味している。
換言すれば、図6において、地中固結体20は既存建造物(の地中の基礎部分)ESに接触しているが、高圧固化材噴射装置4からの固化材噴射領域RJ2のみが既存建造物(の地中の基礎部分)ESに到達したためであり、2枚の攪拌翼1の先端、共回り防止用の部材2の先端、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3の先端は、既存建造物(の地中の基礎部分)ESに到達していない。
【0029】
図示の実施形態の攪拌装置100では、半径方向外方端部に高圧固化材噴射装置4が設けられた攪拌及び高圧固化材噴射用翼3は、撹拌装置100の最も下方(地中側)に位置している(図1図5図6)。そのため、掘削工程が終了した際に、攪拌及び高圧固化材噴射用翼3は掘削孔Hが到達している安定層BR(例えば岩盤)に接触しているか、或いは極めて近接している。
従って、攪拌装置100を引き上げて地中固結体20を造成する際に、安定層BRに接触しているか或いは極めて近接する位置から高圧の固化材が噴射されるので、造成された地中固結体20の最下層の半径方向寸法(図6の半径方向寸法L)が、それより上方の地中固結体20の半径方向寸法に比較して小さくなることはなく、地中固結体20の最下方領域が縊れた状態になることもない。
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0030】
1・・・攪拌翼
2・・・共回り防止用の部材
3・・・攪拌及び高圧固化材噴射用翼
4・・・高圧固化材噴射装置
5・・・低圧固化材噴射装置
10・・・本体
11・・・低圧固化材供給流路
11A・・・分岐後低圧固化材供給流路
11B・・・合流後低圧固化材供給流路
12・・・高圧固化材供給流路
12A・・・半径方向流路(高圧固化材供給流路)
13・・・スイベルジョイント(自在継手)
14・・・ロッド(二重管ロッド等)
15・・・チャンバ
16・・・空洞部
17・・・スリーブ状部材
20・・・地中固結体
100・・・攪拌装置
ES・・・既存建造物の地中基礎部分
H・・・掘削孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7