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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175744
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電極および蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/30 20130101AFI20241212BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241212BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241212BHJP
   H01G 11/44 20130101ALI20241212BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20241212BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20241212BHJP
【FI】
H01G11/30
H01M4/587
H01M4/36 C
H01G11/44
H01G11/38
H01G11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093709
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】藤井 嶺
(72)【発明者】
【氏名】坂本 ケネス 和哉
(72)【発明者】
【氏名】中屋 裕登
(72)【発明者】
【氏名】松浦 広幸
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AB06
5E078BA13
5E078BA14
5E078BA15
5H050AA12
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA14
5H050CA15
5H050CA16
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】低い内部抵抗は維持しつつ熱安定性を向上できる電極および蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】電極は、集電体と、集電体に付着した活物質層と、を備え、活物質層は活物質を含み、活物質の表面の少なくとも一部が膜で覆われた電極であって、膜は、ケイ素が結合した有機化合物と、ケイ素が結合した無機化合物と、を含む。蓄電デバイスは、電極を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体に付着した活物質層と、を備え、
前記活物質層は活物質を含み、
前記活物質の表面の少なくとも一部が膜で覆われた電極であって、
前記膜は、ケイ素が結合した有機化合物と、ケイ素が結合した無機化合物と、を含む電極。
【請求項2】
前記有機化合物と前記無機化合物のモル比は25:75から75:25である請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記膜に含まれるケイ素の原子濃度は0.1atm%以上である請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記活物質は、多孔性炭素、天然黒鉛、人工黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、炭素繊維から選択される1種以上である請求項1又は2に記載の電極。
【請求項5】
請求項1又は2に記載された電極を含む蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活物質を含む電極および蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
集電体、及び、集電体に付着した活物質層を備える電極において、特許文献1に開示された先行技術は、活物質層に含まれる活物質が、シリコーンを含む膜で覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-81922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術において活物質のさらなる熱安定性の向上の要求がある。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、低い内部抵抗は維持しつつ熱安定性を向上できる電極および蓄電デバイスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するための第1の態様は、集電体と、集電体に付着した活物質層と、を備え、活物質層は活物質を含み、活物質の表面の少なくとも一部が膜で覆われた電極であって、膜は、ケイ素が結合した有機化合物と、ケイ素が結合した無機化合物と、を含む。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、有機化合物と無機化合物のモル比は25:75から75:25である。
【0008】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、膜に含まれるケイ素の原子濃度は0.1atm%以上である。
【0009】
第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、活物質は、多孔性炭素、天然黒鉛、人工黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、炭素繊維から選択される1種以上である。
【0010】
第5の態様は、第1から第4の態様のいずれかの電極を含む蓄電デバイスである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電極および蓄電デバイスによれば、活物質の表面の少なくとも一部を覆う膜が、ケイ素が結合した有機化合物とケイ素が結合した無機化合物とを含むため、有機ケイ素化合物の膜で覆われた活物質を含む電極において、低い内部抵抗は維持しつつ熱安定性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施の形態における蓄電デバイスの断面図である。
図2】活物質層の断面図である。
図3】膜の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態における蓄電デバイス10の模式的な断面図である。蓄電デバイス10は、電極(負極)11と、正極15と、負極11と正極15とを隔離するセパレータ14と、を備えている。図1には負極11、セパレータ14及び正極15を1組有する蓄電デバイス10が図示されているが、これに限らず、これらを複数組含むものでも良い。また、蓄電デバイス10は積層型構造をもつものに限らず、負極11及び正極15がセパレータ14を介して積層され巻回された巻回型構造をもつものでも良い。
【0014】
蓄電デバイス10は、電解液中に存在するキャリアイオンが移動して電荷を放出するデバイスである。蓄電デバイス10は、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、ナトリウムイオン電池、金属空気電池などが挙げられる。以下、蓄電デバイス10として例示するのは、リチウムイオンをキャリアイオンとするリチウムイオンキャパシタである。
【0015】
負極11は、シート状の集電体12と、集電体12に付着した活物質層13と、を含む。集電体12の材料に特に制限はないが、Cu、Al、Cu合金、Al合金、ステンレス鋼が例示される。
【0016】
正極15は、集電体16と活物質層17とが重ね合わされている。集電体16の材料はNi,Ti,Fe及びAlから選ばれる金属、これらの2種以上の元素を含む合金やステンレス鋼が例示される。
【0017】
活物質層17は黒鉛や活性炭などの活物質、導電剤が含まれる。導電剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維が例示される。活物質はアニオンを可逆的に担持可能な材料であれば良く、黒鉛や活性炭に限定されない。
【0018】
活物質層17に活物質や導電剤を結着するバインダーが含まれていても良い。バインダーは、フッ素樹脂、ポリオレフィン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、セルロースエーテル、スチレンブタジエンゴムなどのゴムが例示される。フッ素樹脂は、フッ化ビニリデン系ポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、4フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体、エチレン4フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体が例示される。
【0019】
セパレータ14は、正極15や負極11に含まれる活物質や電解液に対して耐久性があり、キャリアイオンは通過するが電子伝導性は有しない多孔質体からなる。セパレータ14は、セルロース、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなる不織布や多孔膜が例示される。
【0020】
電解液は、溶媒の中にキャリアイオンが存在する。電解液の溶媒は、蓄電デバイス10の利用温度域で液体であれば特に制限されない。溶媒は、炭酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、リン酸エステル、γ-ラクトン類、エーテル類、ニトリル類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、フルオラス溶媒、イオン液体が例示される。これらの混合物であっても良い。
【0021】
図2は負極11の活物質層13の断面図である。活物質層13は活物質18を含む。活物質18はキャリアイオンの吸蔵・放出ができれば材料に制限はない。活物質18の材料は、多孔質炭素、天然黒鉛、人工黒鉛、易黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、難黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、炭素繊維などの炭素系材料、Si、Si-Li合金、SiとOを構成元素に含む化合物(以下「SiOx」と称す。ただし0.5≦X≦1.5)が例示される。SiOx(酸化ケイ素)は、Siの酸化物、非晶質のSiOマトリックス中に微結晶または非晶質のSiが分散した構造をもつものが例示される。活物質18は、これらの材料の1種または2種以上が選択されるが、少なくとも1種は、充電時にキャリアイオンが層間に挿入される炭素系材料が好ましい。
【0022】
SiOxは導電性が乏しいので、SiOxの表面を覆う導電層を設けたり、SiOxと導電材料とを複合したりするのが好ましい。SiOxと導電材料とを複合する手段は造粒が例示される。導電層の材料はPtやOs等の金属、炭素が例示される。導電材料は黒鉛、低結晶性炭素、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、繊維状やコイル状の金属が例示される。
【0023】
活物質18の導電性が低い場合、孤立した活物質18を低減するため、活物質層13に導電剤が混合・分散され導電ネットワークが作られる。導電剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、繊維状やコイル状の金属が例示される。
【0024】
活物質18の表面の少なくとも一部は、絶縁性を有する膜19で覆われている。膜19は活物質18の表面における電解液の分解を低減し、電解液の還元分解による活物質18の表面の不動態被膜の形成を低減する。
【0025】
キャリアイオンの拡散を膜19が妨げないように、膜19はキャリアイオンを通過できるものが好ましい。活物質層13の内部抵抗を低減するためである。膜19の厚さは、キャリアイオンの拡散を妨げないように、0.1nm以上1μm以下、より好ましくは0.1nm以上50nm以下、さらに好ましくは0.1nm以上5nm以下が適している。
【0026】
図3は膜19の模式図である。図3の黒丸はSi(ケイ素原子)を表し、白丸はO(酸素原子)を表す。図3では膜19を構成する化合物の三次元構造を簡略化して平面上に表すため、原子間の共有電子対を示す棒線の一部の図示が省略されている。膜19は、Siが結合した無機化合物21と、Siが結合した有機化合物22と、を含む。
【0027】
本実施形態では膜19は、Cが結合した炭素化合物23をさらに含む。炭素化合物23はCの鎖状構造や環状構造の化合物である。炭素化合物23は直鎖構造、枝分かれ構造、環状構造、これらの複合構造が挙げられる。炭素化合物23は無機化合物21や有機化合物22のSiに結合している。炭素化合物23は無機化合物21や有機化合物22を修飾する。
【0028】
無機化合物21(無機ケイ素化合物)は、Siを含むガラス、シリカゲル等の非晶質シリカ、結晶性シリカ、結晶性シリカのSiの一部がAlに置換したゼオライト等が例示される。シリカはSiOの四面体が酸素原子を共有して三次元的に連なった構造を有する。Siの他に、ガラスにNa,Li,Ca等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、Ti等の遷移金属が含まれていても良い。
【0029】
有機化合物22は、分子内にSi-C結合を有する有機ケイ素化合物である。有機化合物22は、シロキサン結合(Si-O-Si)を有するシロキサン化合物、シロキサン結合を主骨格としSiにアルキル基、アリール基などの有機基が結合したシリコーンが例示される。
【0030】
無機化合物21は、Si-C結合等の共有結合により有機化合物22に結合している。無機化合物21と有機化合物22との結合がSi-C結合であると、Si-C結合はC-C結合に比べて結合エネルギーが大きいため、膜19が分解され難くなる。膜19の構造は29Si-NMR(核磁気共鳴分光法)やX線回折法などを用いて解析できる。
【0031】
無機化合物21及び有機化合物22は絶縁性に優れるため、無機化合物21及び有機化合物22を含む膜19を活物質18の表面に設けることにより、活物質層13における電解液の電気化学的な分解を低減できる。活物質層13の不動態被膜の形成を低減できるため、不動態被膜の形成による蓄電デバイス10の放電容量の低下を低減できる。
【0032】
充放電時に活物質18が体積変化を伴う場合には、膜19の剥離を低減するため、膜19は活物質18の体積変化による形状の変化に追随することが好ましい。膜19に有機化合物22が含まれるため、有機化合物22が変形して、活物質18の体積変化による形状の変化に膜19が追随できる。
【0033】
有機化合物22にシリコーンが含まれる場合、活物質18の材料に応じて、シリコーンの有機基の親水性または疎水性を選択することで、活物質18と有機化合物22との密着性を高めることができる。疎水性の有機基はフェニル基、アルキル基が例示される。親水性の有機基はヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基が例示される。
【0034】
膜19は無機化合物21を含むため耐熱性に優れる。環境温度が高いほど活物質層13は劣化が促進されるが、膜19の耐熱性(熱安定性)を向上できるため、活物質層13の寿命を長くすることができる。
【0035】
膜19に含まれる無機化合物21と有機化合物22のモル比は25:75から75:25が好適である。化学的性質が異なる無機化合物21と有機化合物22の利点を補う合うためである。膜19に含まれるケイ素の原子濃度は0.1atm%以上が好ましい。膜19の結合を安定にするためである。無機化合物21と有機化合物22のモル比やケイ素の原子濃度は、X線光電子分光法(XPS)により解析できる。
【0036】
図2に戻って説明する。活物質層13は結着剤20及び増粘剤を任意成分として含む。結着剤20はフッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ゴムが例示される、フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロプレン共重合体が例示される。ポリオレフィンはポリエチレン、ポリプロピレンが例示される。ゴムはスチレンブタジエン系ゴムが例示される。増粘剤はカルボキシメチルセルロースが例示される。
【0037】
無機化合物21を含む膜19は結着剤20との接着性が高いため、活物質18や結着剤20が膨張しても膜19と結着剤20との接着が維持される。結着剤20によって活物質18の接着が維持されるため、活物質層13の構造が維持される。
【0038】
活物質18の表面の膜19の合成、すなわち活物質18上における無機化合物21と有機化合物22との複合化は、例えばいくつかのアルコキシドと活物質18の混合物を加水分解することにより行うことができる。アルコキシドは3官能性アルコキシシラン[R´Si(OR)]と4官能性のケイ素アルコキシド[Si(OR)]等を用いることができる。Rはアルキル基を表す。
【0039】
また、有機高分子にシラノール基(-SiOH)又はトリアルコキシシリル基(-Si(OR))を導入し、ケイ素アルコキシドとのゾル-ゲルプロセスでの縮重合反応により無機化合物21と有機化合物22とが共有結合した膜19を活物質18の表面に設けることや、ケイ素を含み有機反応部と無機反応部とを有するシランカップリング剤を活物質18と反応させて膜19を得ることもできる。
【0040】
負極11は例えば以下のように製造される。活物質18を必須成分として含み、結着剤および増粘剤を任意成分として含み、それらが分散媒に分散されたスラリーを調製する。分散媒はN-メチル-2-ピロリドン等の有機溶媒や水が例示される。調製したスラリーを集電体12に塗布し、スラリーを乾燥して活物質層13を得る。乾燥後の活物質層13をローラー等で圧延しても良い。次いでシランカップリング剤を用い大気圧気相法や真空気相法によって活物質層13にカップリング処理をして、活物質18の表面に膜19を設ける。活物質層13の表面にLiを供給し、不可逆容量の少なくとも一部に相当する量のLiをプレドープしても良い。
【0041】
蓄電デバイス10は例えば以下のように製造される。バインダーを溶解した溶液に活物質および導電剤を分散したスラリーを作る。集電体16の上にテープ成形後、乾燥して正極15のためのグリーンシート(正極シート)を得る。セパレータ14、正極シート及び負極11をそれぞれ所定の形に裁断した後、正極シート、セパレータ14、負極11の順に重ね、集電体12,16にそれぞれ端子(図示せず)を接続し、電解液と共にケース(図示せず)に封入して、順に正極15、セパレータ14及び負極11を含む蓄電デバイス10が得られる。
【実施例0042】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(負極の作製)
黒鉛94質量部、スチレンブタジエンゴム(結着剤)5質量部、カルボキシメチルセルロース(増粘剤)1質量部を純水100質量部に入れ、ミキサーで混合しスラリーを調製した。厚さ8μmの銅箔からなる集電体の上に、黒鉛と結着剤と増粘剤とを合わせた質量が6.5mg/cmとなるようにスラリーを塗布し、70℃で1時間真空乾燥して活物質層を形成した。これにより負極を得た。
【0044】
ケイ素が結合した有機化合物の原料である試薬ジメトキシジメチルシランと、ケイ素が結合した無機化合物の原料である試薬テトラメトキシシランと、を混合した溶液(シランカップリング剤)と負極とを容器の中に入れ、容器内の空間に活物質層が現れるように負極を配置した。容器を密閉した後、大気圧下で溶液を80℃に加熱し、溶液を気化した。溶液の蒸気と大気との混合気体の雰囲気に活物質層を一定時間置いた後、容器から負極を取り出し、大気中150℃で1時間加熱して、有機化合物および無機化合物の少なくとも一方を含む膜が、活物質層に含まれる物質の表面に形成された、表1に示すサンプルNo.1-12における負極を得た。サンプルNo.13はシランカップリング剤を用いた処理を行っていない負極(活物質が膜で覆われていない負極)であり、比較のために作製した。
【0045】
【表1】
【0046】
サンプルNo.1-12において、膜に含まれる有機化合物と無機化合物のモル比は、2つの試薬の混合比を調整して設定した。膜に含まれるSiの原子濃度は、溶液の蒸気と大気との混合気体の雰囲気に活物質層を置いた時間の長さによって調整した。雰囲気に負極を置いた時間は表1に記した。
【0047】
(正極の作製)
活性炭80.7質量部、アセチレンブラック(導電剤)18.3質量部、ポリアクリル酸(結着剤)5.5質量部を純水317質量部に入れ、ミキサーで混合しスラリーを調製した。厚さ18μmのアルミニウム箔からなる集電体の上に、活性炭と導電剤と結着剤とを合わせた質量が5.0mg/cmとなるようにスラリーを塗布し、70℃で1時間真空乾燥して活物質層を形成した。これにより正極を得た。
【0048】
(セルの作製)
一辺の長さが25mmの正方形に負極を切断し、一辺の長さが25mmの正方形のLi金属箔を活物質層の上に重ねた後、セパレータの間に挟んだ。電解液をセパレータに注入した後、真空状態で封止してハーフセルを作製した。電解液はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)をリチウム塩(1mol/dm)としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを混合した溶媒に溶解したものであった。ハーフセルを0Vまで0.1Cレートで定電流充電した後、0.01Cの電流値になるまで定電圧充電してプレドープを行った。
【0049】
解体したハーフセルから取り出した負極と、セパレータと、一辺の長さが20mmの正方形に切断した正極と、を順に重ね合わせたものを、アルミニウムが蒸着された軟包装袋に入れ、電解液を注入してセルの半製品を作製した。電解液はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)をリチウム塩(1mol/dm)としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを混合した溶媒に溶解したものであった。半製品に3.8Vの電位を48時間印加するエージングを行った後、エージング時に発生した軟包装袋の中のガスを吸引すると共に真空状態で封止して、サンプルNo.1-13における負極を含むセルを2つずつ得た。
【0050】
(初期抵抗の判定)
サンプルNo.1-13におけるセルについて、50Cレートの定電流で充放電した後、直流法により放電停止直後の電圧変化と電流から抵抗(初期抵抗)を求めた。活物質の表面の膜が不動態被膜の形成に与える影響を調べるため、サンプルNo.13の初期抵抗を基準にして、サンプルNo.13の初期抵抗から各サンプルの初期抵抗をそれぞれ減じた値を、サンプルNo.13の初期抵抗で除した割合(%)を計算した。割合が3%未満のものをAと判定し、割合が3%以上5%未満のものをBと判定し、割合が5%以上10%未満のものをCと判定し、割合が10%以上のものをDと判定した。結果は表1の初期抵抗の欄に記した。
【0051】
(Siの原子濃度の測定)
初期抵抗を測定したサンプルNo.1-12におけるセルを解体して負極を取り出し、ジメチルカーボネートに負極を5分間浸し、活物質層に付着した電解液を除去した。活物質層をAr雰囲気下でトランスファーベッセルに封入した後、活物質層の表面をXPSで分析し、膜に含まれるケイ素の原子濃度(atm%)を算出した。XPSの条件は、X線:単色化AlKα線、パスエネルギー:140eV、分析領域:100μmΦとした。結果は表1のSi原子濃度の欄に記した。
【0052】
(有機化合物と無機化合物のモル比の測定)
活物質層の表面のXPS測定によって得られたSi2pナロースペクトルに対してピークフィッティングを実施した後、Siの無機化合物に由来する101eVのピーク強度の面積強度と、Siの有機化合物に由来する104eVのピーク強度の面積強度と、の比率から有機化合物と無機化合物のモル比を求めた。XPSの条件は、X線:単色化AlKα線、パスエネルギー:140eV、分析領域:100μmΦとした。結果は表1の有機化合物と無機化合物の欄に記した。
【0053】
(高温特性の判定)
サンプルNo.1-13におけるセルに、85℃に保った恒温槽の中で3.8Vの電位を500時間印加する試験を行った。試験中は125時間毎に恒温槽の温度を室温まで下げ、セルを恒温槽から取り出し、活物質と電解液との反応によって生じるガスの量を調べるため、ガスによって膨れたセルの体積をアルキメデス法によって測定した。試験中のセルの体積から試験前のセルの体積を減じた値を、試験前のセルの体積で除した割合が50%以上になった試験時間を調べた。試験時間が500時間を超えたものをAと判定し、試験時間が375時間を超え500時間以下のものをBと判定し、試験時間が250時間を超え375時間以下のものをCと判定し、試験時間が250時間以下のものをDと判定した。結果は表1の高温特性の欄に記した。
【0054】
(評価)
No.12は有機化合物が100モル%、無機化合物が0モル%のサンプルであり、シリコーンを含む膜が活物質に設けられた先行技術に相当する。サンプルNo.12は高温特性の判定がDであったが、有機化合物と無機化合物とを含むサンプルNo.1-9,11は高温特性の判定がA,B又はCであった。ケイ素が結合した有機化合物と、ケイ素が結合した無機化合物と、を含む膜が表面に形成された活物質を含む電極は、高温特性を向上できること、すなわち熱安定性を向上できることが確認された。
【0055】
初期抵抗の判定がA又はBのサンプルはNo.1-8,10,12であった。サンプルNo.1-8,10,12は無機化合物のモル比が0-75モル%の範囲にあり、有機化合物のモル比が25-100モル%の範囲にあり、Si原子濃度が0.19-1.12atm%の範囲にあった。リチウムイオンの拡散を阻害し難く、内部抵抗を低減できる電極に設けられる膜は、無機化合物のモル比が0-75モル%の範囲にあり、有機化合物のモル比が25-100モル%の範囲にあり、Si原子濃度が0.19-1.12atm%の範囲にあることが必要であることが確認された。
【0056】
高温特性の判定がA又はBのサンプルはNo.1-6,9,11であった。サンプルNo.1-6,9,11は無機化合物のモル比が27-92モル%の範囲にあり、有機化合物のモル比が8-73モル%の範囲にあり、Si原子濃度が0.46-2.50atm%の範囲にあった。熱安定性が高く、高温下において劣化し難く耐久性を確保できる電極に設けられる膜は、無機化合物のモル比が27-92モル%の範囲にあり、有機化合物のモル比が8-73モル%の範囲にあり、Si原子濃度が0.46-2.50atm%の範囲にあることが必要であることが確認された。
【0057】
初期抵抗の判定と高温特性の判定が共にA-Cの範囲にあったサンプルはNo.1-9であった。サンプルNo.1-9は無機化合物のモル比が27-75モル%の範囲にあり、有機化合物のモル比が25-73モル%の範囲にあり、Si原子濃度が0.19-2.50atm%の範囲にあった。内部抵抗を低減し耐久性を確保できる電極に設けられる膜は、無機化合物のモル比が27-75モル%の範囲にあり、有機化合物のモル比が25-73モル%の範囲にあり、Si原子濃度が0.19-2.50atm%の範囲にあることが必要であることが確認された。
【0058】
初期抵抗の判定と高温特性の判定が共にA又はBであったサンプルはNo.1-6であった。サンプルNo.1-6は無機化合物のモル比が27-75モル%の範囲にあり、有機化合物のモル比が25-73モル%の範囲にあり、Si原子濃度が0.46-1.12atm%の範囲にあった。従って内部抵抗をさらに低減し耐久性を確保できる電極に設けられる膜は、無機化合物のモル比が25-73モル%の範囲にあり、有機化合物のモル比が25-73モル%の範囲にあり、Si原子濃度が0.46-1.12atm%の範囲にあることが必要であることが確認された。
【0059】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0060】
実施形態では、蓄電デバイス10として、集電体16の片面に活物質層17が設けられた正極15、及び、集電体12の片面に活物質層13が設けられた負極11を備えるものを説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば集電体の両面に活物質層13と活物質層17とをそれぞれ設けた電極層(いわゆるバイポーラ電極)を備える蓄電デバイスに、実施形態における各要素を適用することは当然可能である。バイポーラ電極とセパレータ14とを交互に積層しケース(図示せず)に収容すれば、いわゆるバイポーラ構造の蓄電デバイスが得られる。
【0061】
実施形態では、集電体12の片面に活物質層13を設けた負極11(電極)を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。集電体12の両面に活物質層13を設けることは当然可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 蓄電デバイス
11 負極(電極)
12 集電体
13 活物質層
18 活物質
19 膜
21 無機化合物
22 有機化合物
図1
図2
図3