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特開2024-175760端子用めっき材並びにそれを用いた端子及び端子付き電線
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175760
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】端子用めっき材並びにそれを用いた端子及び端子付き電線
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/03 20060101AFI20241212BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20241212BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01R13/03 D
C25D5/12
C25D7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093736
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】豊泉 隼
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA09
4K024AA10
4K024AA14
4K024AB02
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA02
4K024DA03
4K024DA04
4K024GA03
4K024GA04
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】銀めっきを用いた、耐腐食性に優れた端子用めっき材並びにそれを用いた端子及び端子付き電線を提供する。
【解決手段】端子用めっき材1は、銅又は銅合金を含む金属母材2と、金属母材2の上に配置された、銀又は銀合金を含む銀めっき層4と、を備え、銀めっき層4の表面粗さSaが0.17μm以上0.50μm以下であり、かつ、銀めっき層4の表面のビッカース硬さが70Hv以上130Hv以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金を含む金属母材と、
前記金属母材の上に配置された、銀又は銀合金を含む銀めっき層と、
を備え、
前記銀めっき層の表面粗さSaが0.17μm以上0.50μm以下であり、かつ、前記銀めっき層の表面のビッカース硬さが70Hv以上130Hv以下である、端子用めっき材。
【請求項2】
前記金属母材と、前記銀めっき層との間に配置され、ニッケル、銅及び銀からなる群より選択される少なくとも一種以上の金属を含む下地層をさらに備える、請求項1に記載の端子用めっき材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の端子用めっき材から形成される端子。
【請求項4】
請求項3に記載の端子を備える端子付き電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子用めっき材並びにそれを用いた端子及び端子付き電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車や電気自動車の需要が高まっているが、これらの自動車は高出力モーターを使用するため、その配線や端子には大電流が流れ、発熱量が大きい。そのため、これらの自動車で使用される端子には発熱量が小さい(電気抵抗率が小さい)銀めっきが使用されている。
【0003】
銀めっき層を構成する銀は、空気中の硫黄分と反応して硫化銀となって変色しやすく、さらに硫化銀は絶縁被膜となって端子金具同士の接触抵抗が増大するという問題があった。そのため、特許文献1では、銅又は銅合金を含む金属母材の上に、銀めっき層の代わりに、パラジウム、ルテニウムなどの合金からなる貴金属めっき層を設け、表面の硬度を調整し、硫化による腐食を防ぐことができる電気接点材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5676053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、添加元素が貴金属であるため、銀めっきに比べて製造コストが高くなるという問題点がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、銀めっきを用いた、耐腐食性に優れた端子用めっき材並びにそれを用いた端子及び端子付き電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に係る端子用めっき材は、銅又は銅合金を含む金属母材と、金属母材の上に配置された、銀又は銀合金を含む銀めっき層と、を備え、銀めっき層の表面粗さSaが0.17μm以上0.50μm以下であり、かつ、銀めっき層の表面のビッカース硬さが70Hv以上130Hv以下である。
【0008】
本発明の他の態様に係る端子は、端子用めっき材から形成される。
【0009】
本発明の他の態様に係る端子付き電線は、端子を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、銀めっきを用いた、耐腐食性に優れた端子用めっき材並びにそれを用いた端子及び端子付き電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る端子用めっき材における、腐食ガス試験前の状態を概略的に示した断面図である。
図2】本実施形態に係る端子用めっき材における、腐食ガス試験後の状態を概略的に示した断面図である。
図3】従来の端子用めっき材における、腐食ガス試験前の状態を概略的に示した断面図である。
図4】従来の端子用めっき材における、腐食ガス試験後の状態を概略的に示した断面図である。
図5】電線を端子で圧着する前の本実施形態に係る端子付き電線の一例を示す斜視図である。
図6】電線を端子で圧着した後の本実施形態に係る端子付き電線の一例を示す斜視図である。
図7A】本実施形態に係る端子用めっき材について、腐食ガス試験前の銀めっき層の表面状態を拡大した、電子顕微鏡の写真である。
図7B】従来の端子用めっき材について、腐食ガス試験前の銀めっき層の表面状態を拡大した、電子顕微鏡の写真である。
図8A】本実施形態に係る端子用めっき材について、腐食ガス試験後の銀めっき層の表面状態を拡大した、電子顕微鏡の写真である。
図8B】従来の端子用めっき材について、腐食ガス試験後の銀めっき層の表面状態を拡大した、電子顕微鏡の写真である。
図9A】本実施形態に係る端子用めっき材について、腐食ガス試験後の銀めっき層の断面を拡大した、電子顕微鏡の写真である。
図9B】従来の端子用めっき材について、腐食ガス試験後の銀めっき層の断面を拡大した、電子顕微鏡の写真である。
図10A】接触抵抗を測定する実験概略図である。
図10B】接触抵抗を測定する実験概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本実施形態に係る端子用めっき材並びにそれを用いた端子及び端子付き電線について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
[端子用めっき材1]
本実施形態の端子用めっき材1は、図1に示すように、銅又は銅合金を含む金属母材2と、金属母材2の上に配置された、銀めっき層4と、を有する。以下、本実施形態の各構成の詳細について説明する。
【0014】
[金属母材2]
金属母材2は、銀めっき層4又は後述の下地層3にめっきされる被めっき材である。金属母材2は、銅又は銅合金を含む。金属母材2に使用する銅又は銅合金としては、例えば日本産業規格JIS H3100(銅及び銅合金の板並びに条)に規定のものを使用することができる。具体的には、無酸素銅(C1020)、タフピッチ銅(C1100)、りん脱酸銅(C1201)、すず入り銅(C1441)、ジルコニウム入り銅(C1510)、鉄入り銅(C1921)等を用いることができる。
【0015】
さらに、金属母材2の材質としては、銅及び銅合金以外の金属及び化合物を含んでもよい。銅及び銅合金以外の金属及び化合物としては、例えば、Ni、Co、Fe、Pt、Au、Al、Si、Cr、Mg、Mn、Mo、Rh、Ta、Ti、W、U、V及びZrからなる群より選択される1種以上の元素、又は前記1種以上の元素を含む化合物が挙げられる。金属母材2の具体的な形状は特に限定されず、用途に応じた形状とすればよい。
【0016】
[銀めっき層4]
銀めっき層4は、金属母材2又は後述の下地層3の上に配置される。銀めっき層4は、銀又は銀合金を含む。銀めっき層4は、金属母材2から拡散した銅を残存させ、銅の表面析出を抑制する役割を有する。そのため、本実施形態の端子用めっき材1は、発熱後の金属母材2の銅の表面析出を抑制することで、銀めっきの耐熱性を向上させることができる。銅の表面析出抑制の観点から、銀めっき層4は、金属母材2を全て被覆していることが好ましい。また、図1に示すように、銀めっき層4は金属母材2を、後述の下地層3を介して間接的に被覆してもよい。
【0017】
銀めっき層4には、錫(Sn)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)、セレン(Se)及びテルル(Te)からなる群より選択される少なくとも一種以上の金属と銀とを含有する合金を使用することができる。なお、銀合金は、二成分の金属を含む二元合金であってもよく、三成分の金属を含む三元合金であってもよく、四成分以上の金属を含む合金であってもよい。また、銀めっき層4は、単層であってもよく、複数層であってもよい。
【0018】
銀めっき層4を形成するために用いられる銀めっき浴には、例えば銀塩、上述した金属の塩、電導度塩、光沢剤などを含むことができる。銀塩に用いられる材料としては、例えばシアン化銀、ヨウ化銀、酸化銀、硫酸銀、硝酸銀、メタンスルホン酸銀及び塩化銀からなる群より選択される少なくとも一種以上の塩が含まれる。また、電導度塩としては、例えばシアン化カリウム、シアン化ナトリウム、ピロリン酸カリウム、メタンスルホン酸銀、ヨウ化カリウム及びチオ硫酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも一種以上の塩が含まれる。光沢剤としては、例えばアンチモン、セレン、テルルなどの金属光沢剤、ベンゼンスルホン酸、メルカプタンなどの有機光沢剤が挙げられる。銀めっき浴の銀イオン濃度は、例えば30g/L~50g/Lであることが好ましい。
【0019】
銀めっき層4を形成する際のめっき処理は、膜厚の制御が容易であるため定電流電解であることが好ましい。電解めっきする場合の条件は特に限定されず、公知のめっき方法によりめっきすることができる。電流密度は、生産性、めっき浴組成、イオン濃度、被めっき物の形状など様々な因子を考慮した上で設定すればよい。また、めっき浴温度については特に限定されない。
【0020】
発熱後の金属母材の銅の拡散を抑制し、かつ、銅の表面析出を抑制するという観点から、銀めっき層4の厚みは3μm以上10μm以下であることが好ましく、5μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0021】
銀めっき層4の表面粗さSaは0.17μm以上0.50μm以下である。銀めっき層4の表面粗さSaをこのような範囲とすることにより、後述の通り、端子用めっき材1の表面の腐食及び変色の影響を低減し、接触抵抗の増加を最小限に抑えることができる。なお、表面粗さSaは、算術平均粗さであり、日本産業規格JIS B0601:2013(製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ)に従って測定することができる。
【0022】
銀めっき層4の表面のビッカース硬さが70Hv以上130Hv以下である。銀めっき層4の表面のビッカース硬さをこのような範囲とすることにより、後述の通り、端子用めっき材1の表面の腐食によって形成される硫化膜を容易に破壊することができる。なお、ビッカース硬さは、日本産業規格JIS Z2244:2009(ビッカース硬さ試験-試験方法)に従って測定することができる。
【0023】
本実施形態の端子用めっき材1の腐食ガス試験後の状態を示した断面図を図2に示す。一般的に、銀めっき層を構成する銀は、空気中の硫黄分と反応して硫化銀となって変色しやすく、さらに硫化銀は絶縁被膜となって銀めっき層4の表面の接触抵抗が増大するという問題がある。しかしながら、本実施形態の端子用めっき材1の表面、すなわち銀めっき層4の表面の凹凸及び表面の硬度の低さにより、銀めっき層4の表面の腐食によって形成される腐食膜(硫化膜)は容易に破壊され、腐食膜5が銀めっき層4の谷部に集中的に発生する。一方、銀めっき層4の山部の腐食は少ないため、銀めっき層4の表面全体における変色領域が少ない。さらに、銀めっき層4の表面の接触抵抗の増加を最小限に抑えることが可能となる。
【0024】
一方、従来の端子用めっき材51の断面図を図3に示す。銀めっき層54は、銅又は銅合金を含む金属母材52又は後述の下地層53の上に配置される。銀めっき層54は、銀又は銀合金を含む。従来の端子用めっき材51は、銀めっき層54の表面粗さSaは0.17μm未満である、又は銀めっき層54の表面のビッカース硬さが130Hvを超えている。従来の端子用めっき材51における、腐食ガス試験後の状態を示した断面図を図4に示す。従来の端子用めっき材51では、銀めっき層54の表面全体に腐食膜55が均一に発生するため、銀めっき層54の表面全体が変色し、銀めっき層54の表面の接触抵抗の増加を抑えることが難しい。
【0025】
[下地層3]
図1に示すように、本実施形態の端子用めっき材1は、種々の機能を付与するため、下地層3をさらに備えてもよい。本実施形態では、下地層3は、金属母材2と、銀めっき層4との間に配置されている。
【0026】
下地層3は、ニッケル、銅及び銀からなる群より選択される少なくとも一種以上の金属を含むことが好ましい。具体的には、下地層3は、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、銀及び銀合金からなる群より選択される少なくとも一種以上の金属を含むことが好ましい。
【0027】
下地層3は、ニッケル又はニッケル合金が含まれることがより好ましい。下地層3にニッケル又はニッケル合金が含まれる場合は、例えば、下地層3は、銀めっき層4への金属母材2の銅の拡散を抑制し、接触信頼性や耐熱性を改善することができる。すなわち、下地層3はバリア層として機能する。下地層3にニッケル又はニッケル合金のいずれかが含まれる場合の層厚は、バリア層として機能すれば特に限定されないが、0.5μm超1μm以下であることが好ましい。
【0028】
下地層3に銅、銅合金、銀及び銀合金からなる群より選択される少なくとも一種以上の金属が含まれる場合は、例えば、金属母材2と、銀めっき層4との密着性を向上させることができる。すなわち、下地層3はストライクめっき層として機能する。下地層3として銅、銅合金、銀及び銀合金からなる群より選択される少なくとも一種以上の金属が含まれる場合の層厚は、密着性が向上すれば特に限定されず、非常に薄い層厚でも密着性を向上させることができる場合がある。
【0029】
下地層3は単層であってもよく、複数層であってもよい。例えば、下地層3は、下層と下層の上に配置された上層とを含んでいてもよい。そして、例えば、下地層3の下層がニッケル又はニッケル合金のいずれかを含み、下地層3の上層が銅、銅合金、銀及び銀合金からなる群より選択される少なくとも一種以上の金属を含んでいてもよい。よって、例えば、下地層3の下層にニッケルめっき層、下地層3の上層に銀ストライクめっき層を形成してもよい。これらの層の組合せは、目的に応じて適宜変更することができる。
【0030】
下地層3を形成する方法は特に限定されないが、例えば、金属母材2の被めっき材をめっき浴に入れて、公知のめっき方法によりめっきすることができる。
【0031】
端子用めっき材1の表面は、半径1mmの半球状の凸部を接触部位として備えた接触子を用いて、接触荷重2Nを付与した際の接触抵抗が0mΩ以上0.9mΩ以下であることが好ましく、0mΩ以上0.7mΩ以下であることがより好ましい。端子用めっき材1の接触抵抗をこのような範囲とすることにより、端子として用いた場合に発熱や消費電力を低減することができる。
【0032】
このように、本実施形態の端子用めっき材1は、銅又は銅合金を含む金属母材2と、金属母材2の上に配置された、銀又は銀合金を含む銀めっき層4と、を備える。そして、銀めっき層の表面粗さSaが0.17μm以上0.50μm以下であり、かつ、銀めっき層の表面のビッカース硬さが70Hv以上130Hv以下である。そのため、端子用めっき材1は、耐腐食性に優れる。
【0033】
[端子10]
本実施形態の端子10は端子用めっき材1から形成される。そのため、本実施形態の端子10は、従来の銀又は銀合金でめっきした端子と比較して、接触抵抗の増加を最小限に抑えつつ耐腐食性が高い。
【0034】
[端子付き電線20]
図5及び図6に示すように、本実施形態の端子付き電線20は端子10を備える。具体的には、本実施形態の端子付き電線20は、導体31及び導体31を覆う電線被覆材32を有する電線30と、電線30の導体31に接続されめっき材から形成された端子10とを備える。なお、図5は電線を端子で圧着する前の状態を示し、図6は電線を端子で圧着した後の状態を示す。
【0035】
図5に示す端子10はメス型の圧着端子である。端子10は、図示しない相手方端子に対して接続される電気接続部11を有する。電気接続部11は、ボックス状の形体をしており、相手方端子に係合するバネ片を内蔵している。さらに、端子10のうち、電気接続部11と反対側には、電線30の端末部に対して加締めることにより接続される電線接続部12が設けられる。電気接続部11と電線接続部12とは繋ぎ部13を介して接続される。なお、電気接続部11、電線接続部12及び繋ぎ部13は、同一材料からなり一体となって端子10を構成しているが、便宜的に部位ごとに名称を付与している。
【0036】
電線接続部12は、電線30の導体31を加締める導体圧着部14と、電線30の電線被覆材32を加締める被覆材加締部15とを備える。
【0037】
導体圧着部14は、電線30の端末部の電線被覆材32を除去して露出させた導体31と直接接触するものであり、底板部16と一対の導体加締片17とを有する。一対の導体加締片17は、底板部16の両側縁から上方に延設される。一対の導体加締片17は、電線30の導体31を包み込むように内側に曲げられることで、導体31を底板部16の上面に密着した状態となるように加締めることができるようになっている。導体圧着部14は、この底板部16と一対の導体加締片17とにより、断面視略U字状に形成されている。
【0038】
被覆材加締部15は、電線30の端末部の電線被覆材32と直接接触するものであり、底板部18と一対の被覆材加締片19とを有する。一対の被覆材加締片19は、底板部18の両側縁から上方に延設される。一対の被覆材加締片19は、電線被覆材32の付いた部分を包み込むように内側に曲げられることで、電線被覆材32を底板部18の上面に密着した状態で加締めることができるようになっている。被覆材加締部15は、この底板部18と一対の被覆材加締片19とにより、断面視略U字状に形成されている。なお、導体圧着部14の底板部16から被覆材加締部15の底板部18までは、共通の底板部として連続して形成されている。
【0039】
電線30は、導体31及び導体31を覆う電線被覆材32を有する。導体31の材料としては、導電性が高い金属を使用することができる。導体31の材料としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金等を用いることができる。なお、近年、電線の軽量化が求められている。そのため、導体31は軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金からなることが好ましい。
【0040】
導体31を覆う電線被覆材32の材料としては、電気絶縁性を確保できる樹脂を使用することができる。電線被覆材32の材料としては、例えばオレフィン系の樹脂を用いることができる。具体的には、電線被覆材32の材料として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン共重合体及びプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とすることができる。また、電線被覆材32の材料として、ポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とすることもできる。これらのなかでも、柔軟性や耐久性が高いことから、電線被覆材32の材料はポリプロピレン又はポリ塩化ビニルを主成分として含むことが好ましい。なお、ここでの主成分とは、電線被覆材32全体の50質量%以上の成分をいう。
【0041】
端子10は、例えば、以下のようにして製造することができる。はじめに、図5に示すように、電線30の端末部を端子10の電線接続部12に挿入する。これにより、導体圧着部14の底板部16の上面に電線30の導体31を載置すると共に、被覆材加締部15の底板部18の上面に電線30の電線被覆材32の付いた部分を載置する。次に、電線接続部12と電線30の端末部を押圧することにより、導体圧着部14及び被覆材加締部15を変形させる。具体的には、導体圧着部14の一対の導体加締片17を、導体31を包み込むように内側に曲げることで、導体31を底板部16の上面に密着した状態となるように加締める。さらに、被覆材加締部15の一対の被覆材加締片19を、電線被覆材32の付いた部分を包み込むように内側に曲げることで、電線被覆材32を底板部18の上面に密着した状態となるように加締める。こうすることにより、図6に示すように、端子10と電線30とを圧着して接続することができる。
【0042】
本実施形態の端子付き電線20は端子10を備える。そのため、本実施形態の端子付き電線20は、従来の銀又は銀合金めっきをした端子と比較して、端子10部分の耐腐食性が高く、接触抵抗の増加を最小限に抑えることができる。そのため、本実施形態の端子付き電線20は、ハイブリッド自動車や電気自動車などのような場所においても好適に用いることができる。
【0043】
以上、本実施形態に係る端子10及び端子付き電線20について説明したが、本実施形態は上記実施形態に限定されず、例えば電気自動車などにおいて繰り返し挿抜されるような高圧コネクタ端子などとして好適に使用することができる。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
まず、被めっき材である金属母材の前処理を行った。具体的には、金属母材をアルカリ脱脂で洗浄し、10%硫酸中に1分間浸漬する酸洗いを行い、水洗した。なお、金属母材は、銅合金であるNB-109EH(DOWAメタルテック(株)製)を用いた。
【0046】
次に、金属母材の上にニッケルめっき層を形成した。ニッケルめっき層は下地層である。具体的には、上記のように前処理した金属母材をニッケルめっき層用めっき浴に浸漬し、直流安定化電源を用い、定電流電解した。電解終了後、銀めっき浴から金属母材を取り出し、水洗した。この結果、金属母材の表面全体にニッケルめっき層が形成された金属母材が得られた。なお、ニッケルめっき層の厚みは1.0μmであった。
【0047】
さらに、ニッケルめっき層の上に銀めっき層を形成した。ニッケルめっき層を形成した金属母材を、銀めっき浴に浸漬し、直流安定化電源を用い、定電流電解した。電解終了後、めっき浴から金属母材を取り出し、水洗した。この結果、金属母材の表面全体にニッケルめっき層及び銀めっき層が形成された金属母材が得られた。なお、銀めっき層の厚みは狙い値として5~10μmとした。上記作製方法により、実施例1(本実施形態に係る端子用めっき材1)及び比較例1(従来の端子用めっき材51)の試験サンプルを作製した。
【0048】
[評価]
上記のようにして作製した端子用めっき材を試験サンプルとし、次の方法により評価を実施した。
【0049】
(表面粗さ)
表面粗さは、接触式表面粗さ測定器(KLA Tencor(株)製、Alpha-Step D500)を用い、JIS B0601:2013に従って、試験サンプル表面の算術平均粗さを測定した。実施例1及び比較例1の測定結果を表1に示す。
【0050】
(ビッカース硬さ)
ビッカース硬さは、微小硬度計((株)島津製作所製、DUH-211)を用い、JIS Z2244:2009に従って、試験サンプル表面を測定することにより評価した。なお、試験温度は25℃、試験力は3gfとした。実施例1及び比較例1の測定結果を表1に示す。
【0051】
(腐食ガス試験)
ガス腐食試験機を用い、腐食性ガスの種類HS(硫化水素)、濃度1ppm、温度25℃、湿度75%RH、放置時間504時間の条件にて、試験サンプルに対して腐食ガス試験を行った。
【0052】
(顕微鏡観察)
腐食ガス試験前後の試験サンプルの断面を、透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)により観察した。本実施形態に係る端子用めっき材1について、図7Aは、腐食ガス試験前の銀めっき層の表面状態を拡大した写真であり、図8Aは、腐食ガス試験後の銀めっき層の表面状態を拡大した写真である。また、図9Aは、端子用めっき材1について、腐食ガス試験後の銀めっき層の断面を拡大した写真である。図7Aにおいて、銀めっき層の表面に見える筋はめっき前の銅母材の圧延痕である。図8Aにおいても図7Aと同様に、銅母材の圧延痕が確認できた。そして、図9Aにより、銀めっき層の表面では、硫化物として示された腐食膜が銀めっき層の谷部に集中的に発生していることが観察できた。よって、図2で示したような、本実施形態に係る端子用めっき材1の状態になっていることを確認できた。
【0053】
一方、従来の端子用めっき材51について、図7Bは、腐食ガス試験前の銀めっき層の表面状態を拡大した写真であり、図8Bは、腐食ガス試験後の銀めっき層の表面状態を拡大した写真である。また、図9Bは、従来の端子用めっき材について、腐食ガス試験後の銀めっき層の断面を拡大した写真である。図7Bにおいて、銀めっき層の表面に見える筋はめっき前の銅母材の圧延痕である。図8Bにおいても図7Bと同様に、銅母材の圧延痕が確認できた。そして、図9Bにより、銀めっき層の表面全体に腐食膜が均一に発生していることが観察できた。よって、図4で示したような、従来の端子用めっき材51の状態になっていることを確認できた。
【0054】
(接触抵抗)
電気接点シミュレータ((株)山崎精機研究所製)を使用し、四端子法(N=3)にて接触抵抗を測定した。具体的には、図10A及び図10Bに示すように、ステージの上に、試験サンプルである膜厚5μmのプレート60を固定し、プレート60の上に接触子61を接触させた。接触子61は、半径1mmの半球状の凸部を接触部位として備え、接触子61の打ち出し高さは0.5mmとした。そして、腐食ガス試験前後の銀めっき層の表面について、接触荷重2Nを付与した際の接触抵抗(mΩ)を測定した。実施例1及び比較例1の測定結果を表1に示す。
【0055】
(変色の有無)
腐食ガス試験後の試験サンプルの表面を目視により観察して変色の有無を確認した。実施例1及び比較例1の結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1の結果より、実施例1は銀めっき層の表面粗さSaが0.17μm以上0.50μm以下であり、かつ、銀めっき層の表面のビッカース硬さが70Hv以上130Hv以下であった。そのため、腐食ガス試験後の銀めっき層の表面では、腐食膜が銀めっき層の谷部に集中的に発生しており、銀めっき層の表面の変色は見られなかった。また、腐食ガス試験前後の銀めっき層の接触抵抗は共に0.7mΩ以下であり、良好な結果となった。
【0058】
一方、比較例1は銀めっき層の表面粗さSaが0.17μm未満であり、かつ、銀めっき層の表面のビッカース硬さが130Hvを超えていた。そのため、腐食ガス試験後の銀めっき層の表面では、腐食膜が銀めっき層の表面全体に均一に発生しており、銀めっき層の表面の変色が見られた。また、腐食ガス試験前後の銀めっき層の接触抵抗は共に1.0mΩ以上であり、実施例1に比べて接触抵抗の上昇が抑えにくいことが分かった。
【0059】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 端子用めっき材
2 金属母材
3 下地層
4 銀めっき層
10 端子
20 端子付き電線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B