(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175762
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】高所作業安全管理システム
(51)【国際特許分類】
G08B 21/02 20060101AFI20241212BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20241212BHJP
G08B 25/10 20060101ALI20241212BHJP
G01C 5/06 20060101ALI20241212BHJP
A62B 35/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G08B21/02
G08B25/04 K
G08B25/10 A
G01C5/06
A62B35/00 A
A62B35/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093740
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】591080678
【氏名又は名称】株式会社中電工
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大地 秀二
(72)【発明者】
【氏名】加村 敦
【テーマコード(参考)】
2E184
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
2E184JA03
2E184KA11
2E184LA16
5C086AA22
5C086BA17
5C086CA16
5C086CB20
5C086DA08
5C086FA06
5C086FA18
5C087AA02
5C087AA03
5C087AA25
5C087AA44
5C087BB20
5C087BB74
5C087DD03
5C087DD49
5C087EE07
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF04
5C087FF16
5C087GG08
5C087GG66
5C087GG83
(57)【要約】
【課題】高所作業時に安全帯のフックをかけ忘れないようにして高所作業が安全に行えるようにする。
【解決手段】高所作業安全管理システム1は、フック状態検出センサ20A、20Bと、作業者側大気圧センサ51と、基準高さにおける大気圧を検出する基準大気圧センサ31と、作業者側大気圧センサ51から出力された大気圧の検出値と基準大気圧センサ31から出力された大気圧の検出値とに基づいて作業者が高所にいるか否かを推定する推定部54と、推定部54により作業者が高所にいると推定され、かつ、フック状態検出センサ20A、20Bの検出結果により、フックが落下防止用部材111にかけられた状態でないと判定された場合には、不安全状態であることを報知するように報知部55を制御する制御部56とを備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安全帯を装着して高所作業を行う作業者を管理する高所作業安全管理システムにおいて、
前記安全帯が有するフックに設けられ、作業者の落下を防止する落下防止用部材に前記フックがかけられた状態であるか否かを検出するフック状態検出センサと、
作業者に装着され、作業者の周囲の大気圧を検出する作業者側大気圧センサと、
前記作業者側大気圧センサとは別に構成されるとともに、地上の管理者に装着され、作業者が高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さにおける大気圧を検出する基準大気圧センサと、
前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者が高所にいるか否かを推定する推定部と、
作業者による高所作業が不安全状態であることを報知する報知部と、
前記推定部により作業者が高所にいると推定され、かつ、前記フック状態検出センサの検出結果により、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態でないと判定された場合には、不安全状態であることを報知するように前記報知部を制御する制御部とを備えていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記作業者側大気圧センサ、前記推定部、前記報知部及び前記制御部を有するとともに、作業者に装着される親機と、
前記基準大気圧センサを有するとともに、管理者に装着される基準機とを備え、
前記基準機は、前記基準大気圧センサから出力される大気圧の検出値を前記推定部に送信する基準機側送信部を有し、
前記親機は、前記基準機側送信部から送信された前記大気圧の検出値を受信する親機側受信部を有し、
前記推定部は、前記親機側受信部で受信した前記大気圧の検出値と、前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者が高所にいるか否かを推定することを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項3】
請求項2に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記フックは、前記フック状態検出センサの検出結果を前記推定部に送信するフック側送信部を有し、
前記親機側受信部は、前記フック側送信部から送信された前記検出結果を受信するように構成され、
前記制御部は、前記親機側受信部で受信された前記検出結果に基づいて、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態であるか否かを判定するように構成されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項4】
請求項2に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記親機は、不安全状態であることを報知する警報信号を送信する親機側送信部を有し、
前記基準機は、前記親機側送信部から送信された前記警報信号を受信する基準機側受信部を有するとともに、当該基準機側受信部で受信した前記警報信号に基づいて不安全状態であることを報知するように構成されていることを特徴とする高所作業安全管理システム。
【請求項5】
請求項1に記載の高所作業安全管理システムにおいて、
前記フック状態検出センサは、第1のランヤードが有するフックに設けられた第1のフック状態検出センサと、第2のランヤードが有するフックに設けられた第2のフック状態検出センサとを含んでおり、
前記制御部は、前記第1のフック状態検出センサの検出結果と、前記第2のフック状態検出センサの検出結果とのいずれか一方で、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態であると判定された場合には、不安全状態であることを報知しないように前記報知部を制御することを特徴とする高所作業安全管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高所での作業時の安全を確保する際に使用される高所作業安全管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、エレベーターの保守点検作業で使用される保守点検支援システムが開示されている。特許文献1の保守点検支援システムは、保守員が所持する携帯端末を備えており、この携帯端末には気圧センサが内蔵されている。この保守点検支援システムによれば、気圧センサが検出した大気圧の値と、予め設定されている基準階での大気圧の値との差によって携帯端末の位置と基準階との高度の差を求め、高度の差が所定の値以下であれば、乗りかごを基準階に移動させて表示装置に保守点検作業を実施することを予告するメッセージを表示装置に表示させるように構成されている。
【0003】
また、特許文献2には、高所作業推定装置が開示されている。この高所作業推定装置も、作業者が所持する携帯端末を備えている。携帯端末には、気圧センサと加速度センサが内蔵されている。高所作業推定装置は、気圧センサによって作業者の存在する場所の気圧の情報を示す気圧情報を取得し、取得した気圧情報と基準気圧との差分が所定の閾値を超過した場合、作業者が高所にいると判定し、閾値を超過しない場合、作業者は高所にいないと判定する。さらに、高所作業推定装置は、加速度センサで取得された加速度情報に基づいて作業者が作業を実施しているか否かを判定する。そして、作業者が高所におり、かつ、作業を実施している場合にのみ、携帯端末や監督者端末にアラートや振動等の警告が出力されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-165521号公報
【特許文献2】特許第6684863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば送電用の鉄塔の上に作業者が登り、鉄塔の上で各種作業を行う場合がある。鉄塔の上での作業を行う作業者は安全帯を身に付けているが、鉄塔作業時に安全帯のフックをかけていなければ万一の場合の墜落事故を未然に防止することはできない。
【0006】
この点、特許文献1では、保守員が所持する携帯端末に内蔵された気圧センサによって携帯端末の位置と基準階との高度の差を検出しているが、その検出結果は、単に乗りかごの移動や保守点検作業を実施することを予告するメッセージを表示装置に表示させる制御に使用されているだけであり、墜落事故を防止するために使用されるものではなかった。
【0007】
また、特許文献2では、作業者が高所におり、かつ、作業を実施している場合にのみ、警告を出力するので、安全帯のフックを手摺り等にかけて正しく高所作業を行っていても、いちいち警告が出力されることになり、警告が煩わしく感じることが考えられる。加えて、特許文献2では、作業者が動いていない場合には加速度が0になるので作業を行っていないと判定し、その結果、高所にいたとしても警告が出力されないことになる。しかしながら、作業者が作業を行っていなかったとしても鉄塔の上にいれば安全帯のフックをかけておかなければならず、このような場合、特許文献2の装置では対応できなかった。
【0008】
本開示は、かかる点に鑑みたものであり、その目的とするところは、高所作業時に安全帯のフックをかけ忘れないようにして高所作業が安全に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示の第1の側面では、安全帯を装着して例えば鉄塔作業等の高所作業を行う作業者を管理する高所作業安全管理システムを前提とすることができる。高所作業安全管理システムは、前記安全帯が有するフックに設けられ、作業者の落下を防止する落下防止用部材に前記フックがかけられた状態であるか否かを検出するフック状態検出センサと、作業者に装着され、作業者の周囲の大気圧を検出する作業者側大気圧センサと、前記作業者側大気圧センサとは別に構成されるとともに、地上の管理者に装着され、作業者が高所にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さにおける大気圧を検出する基準大気圧センサと、前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、前記基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者が高所にいるか否かを推定する推定部と、作業者による高所作業が不安全状態であることを報知する報知部と、前記推定部により作業者が高所にいると推定され、かつ、前記フック状態検出センサの検出結果により、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態でないと判定された場合には、不安全状態であることを報知するように前記報知部を制御する制御部とを備えている。
【0010】
この構成によれば、作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値の方が、地上の管理者に装着されている基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値よりも所定以上低い場合には、推定部は、作業者が高所にいると推定する。また、安全帯のフックが例えば手摺りやロープのような落下防止用部材にかけられた状態であるか否かが、フック状態検出センサにより検出される。作業者が高所にいながら、安全帯のフックを落下防止用部材にかけていない場合は、作業者による高所作業が不安全状態であると言える。この場合に、制御部は、作業者による高所作業が不安全状態であることを報知部に報知させ、例えば作業者自身や管理者等にそのことを知らせることができる。これにより、不安全状態を改めるように作業者に注意できる。
【0011】
本開示の第2の側面に係る高所作業安全管理システムは、前記作業者側大気圧センサ、前記推定部、前記報知部及び前記制御部を有するとともに、作業者に装着される親機と、前記基準大気圧センサを有するとともに、管理者に装着される基準機とを備えている。前記基準機は、前記基準大気圧センサから出力される大気圧の検出値を前記推定部に送信する基準機側送信部を有しており、また、前記親機は、前記基準機側送信部から送信された前記大気圧の検出値を受信する親機側受信部を有している。前記推定部は、前記親機側受信部で受信した前記大気圧の検出値と、前記作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者が高所にいるか否かを推定することができる。
【0012】
すなわち、鉄塔の高さは数十または百m以上の場合があり、不安全状態であることが地上の管理者に報知されたとしても、そのことを鉄塔の上の作業者に知らせるのには時間がかかるとともに、知らせるのが困難な場合が考えられる。本態様によれば、作業者に装着される親機で不安全状態であることの推定、不安全状態であると推定された場合の報知を実行することができるので、不安全状態になってから作業者にそのことが報知されるまでの時間を短縮できる。
【0013】
本開示の第3の側面に係る前記フックは、前記フック状態検出センサの検出結果を前記推定部に送信するフック側送信部を有している。また、前記親機側受信部は、前記フック側送信部から送信された前記検出結果を受信するように構成されている。この場合、前記制御部は、前記親機側受信部で受信された前記検出結果に基づいて、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態であるか否かを判定するように構成できる。この構成によれば、フック側送信部と親機側受信部との通信により、フック状態検出センサの検出結果を推定部に送信し、不安全状態であるか否かを推定に利用できる。
【0014】
本開示の第4の側面に係る親機は、不安全状態であることを報知する警報信号を送信する親機側送信部を有している。この場合、前記基準機は、前記親機側送信部から送信された前記警報信号を受信する基準機側受信部を有するとともに、当該基準機側受信部で受信した前記警報信号に基づいて不安全状態であることを報知する。
【0015】
本開示の第5の側面に係るフック状態検出センサは、第1のランヤードが有するフックに設けられた第1のフック状態検出センサと、第2のランヤードが有するフックに設けられた第2のフック状態検出センサとを含んでいてもよい。この場合、前記制御部は、前記第1のフック状態検出センサの検出結果と、前記第2のフック状態検出センサの検出結果との一方で、前記フックが前記落下防止用部材にかけられた状態であると判定された場合には、不安全状態であることを報知しないように前記報知部を制御できる。
【0016】
すなわち、作業者が例えば鉄塔の上を移動する際には、第1のランヤードが有するフックを落下防止用部材にかけた状態で、第2のランヤードが有するフックを落下防止用部材から外す場合がある。このような場合は、第1のランヤードによって安全が担保されているので、不安全状態ではない。反対に、第2のランヤードが有するフックを落下防止用部材にかけた状態で、第1のランヤードが有するフックを落下防止用部材から外して作業者が移動する場合も、不安全状態ではない。このような場合には、不安全状態であることを報知しないようにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、高所で作業する作業者に装着された作業者側大気圧センサから出力された大気圧の検出値と、地上の管理者に装着された基準大気圧センサから出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者が高所にいるか否かを推定できるので、高所作業時における安全帯のフックをかけ忘れないようにして高所作業が安全に行えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る鉄塔作業安全管理システムが使用される作業現場を示す図である。
【
図3】上記鉄塔作業安全管理システムの概略構成図である。
【
図4】上記鉄塔作業安全管理システムのブロック図である。
【
図5】上記鉄塔作業安全管理システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る鉄塔作業安全管理システム(高所作業安全管理システム)1が使用される作業現場を示す図である。この図に示すように、送電用の鉄塔100の上に作業者Aが登り、鉄塔100の上で各種作業を行う場合がある。鉄塔100の上で行う作業のことを鉄塔作業という。一方、地上には、鉄塔作業の管理を行う管理者Bがいる。管理者Bは監督者と呼ぶこともできる。管理者Bは、鉄塔100の下にいてもよいし、図示しない管理事務所等にいてもよい。管理者Bの数は特に限定されるものではなく、2名以上であってもよい。
【0021】
鉄塔100の高さは、例えば数十m、百数十mであることから、作業者Aと管理者Bとは数十mないし百数十m以上離れることがある。作業者Aの鉄塔作業を管理者Bが管理するのであるが、鉄塔100の高さが数十m、百数十mあるため、鉄塔100の上にいる作業者Aを地上の管理者Bが目視することは難しい。このため、安全帯200が正しく使用されているか否かの判断は地上では難しい。
【0022】
図2は、鉄塔作業を行う作業者Aを示す図である。鉄塔作業の現場には、作業者Aが歩行したり、作業したりする際の足場となる部材110が設けられている。足場となる部材110が設けられていない場合には、鉄塔100を構成している部材の一部が足場となる。また、鉄塔作業の現場には、落下防止用部材111も設けられている。落下防止用部材111は、作業者Aの落下を防止するための部材であり、例えば手摺りや横に張り渡されたロープ等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、鉄塔100を構成している部材の一部であってもよい。
【0023】
作業者Aは、高所作業に備えて安全帯200を装着している。この実施形態では、安全帯200がフルハーネスタイプのものである場合について説明する。安全帯200は、作業者Aの腰に巻き付ける腰ベルト201、大腿部に巻き付ける脚ベルト202、腰ベルト201から肩まで延びる肩ベルト203と、腰ベルト201から左右にそれぞれ延びる第1のランヤード204及び第2のランヤード206とを備えている。第1のランヤード204及び第2のランヤード206は、それぞれ第1のフック205及び第2のフック207を有している。第1のフック205及び第2のフック207は、第1のランヤード204及び第2のランヤード206の先端部に取り付けられている。尚、本発明は、フルハーネスタイプの安全帯200以外の安全帯、例えば脚ベルト202や肩ベルト203の無い安全帯にも適用することができる。ランヤードの数(フックの数)は1つであってもよい。
【0024】
図3は、鉄塔作業安全管理システム1の一構成例を示す概略構成図である。鉄塔作業安全管理システム1は、安全帯200を装着して鉄塔作業を行う作業者Aを管理するためのシステムである。作業者Aの管理とは、作業者Aが不安全な鉄塔作業を行っているか否かを判定し、鉄塔作業が安全であれば特に報知等することなく、鉄塔作業を継続させ、鉄塔作業が不安全であれば例えば管理者Bや作業者A自身にそのことを報知し、鉄塔作業が不安全であることを知らせて改善させることである。本鉄塔作業安全管理システム1を使用することで、作業者Aの安全管理が可能になる。
【0025】
図4にも示すように、鉄塔作業安全管理システム1は、第1のフック側機器2Aと、第2のフック側機器2Bと、親機5と、基準機3とを備えている。
図3に示すように、第1のフック側機器2A、第2のフック側機器2B及び親機5は、作業者Aに装着される機器である。具体的には、第1のフック側機器2Aは第1のフック205に取り付けられており、また第2のフック側機器2Bは第2のフック207に取り付けられている。よって、第1のフック205は第1のフック側機器2Aを有することになり、また第2のフック207は第2のフック側機器2Bを有することになる。親機5は、作業者Aの例えばヘルメットやベルト等に取り付けられるが、その取付場所は特に限定されない。基準機3は、管理者Bに装着される機器であり、管理者Bの例えばヘルメットやベルト等に取り付けられるが、その取付場所は特に限定されない。また、基準機3は、例えばスマートフォン、タブレット型端末、ノート型パーソナルコンピュータ等で構成されていてもよい。
【0026】
図4に示すように、第1のフック側機器2Aは、第1のフック状態検出センサ20Aと、第1のフック側送信部21Aと、第1のフック側マイクロコンピュータ22Aと、第1の電池23Aとを有している。
図3に示すように、第1のフック状態検出センサ20Aは、第1のフック205の内周部、即ち第1のフック205における落下防止用部材111(
図2に示す)と接触する部分に設けられており、当該第1のフック205が落下防止用部材111にかけられた状態であるか否かを検出するためのセンサである。第1のフック205を落下防止用部材111にかけると、第1のフック205の自重によって第1のフック状態検出センサ20Aが落下防止用部材111に接触する。この第1のフック状態検出センサ20Aは、落下防止用部材111との接触によって非導通状態(OFF状態)から導通状態(ON状態)に切り替わる周知のスイッチ等で構成することができる。また、第1のフック状態検出センサ20Aは、所定以上の圧力が作用したことを検出する感圧センサ等で構成することもできる。第1のフック状態検出センサ20Aから延びる信号線(図示せず)は第1のフック側マイクロコンピュータ22Aに接続されており、第1のフック状態検出センサ20Aによる検出結果は、第1のフック側マイクロコンピュータ22Aに入力される。
【0027】
第1のフック側マイクロコンピュータ22Aは、第1のフック状態検出センサ20Aによる検出結果の入力を受け付けるとともに、第1のフック側送信部21A等を制御する部分である。第1のフック側送信部21Aは、第1のフック状態検出センサ20Aの検出結果を親機5が有する推定部54(後述する)に送信するための通信モジュール等で構成されている。親機5との通信形態は特に限定されるものではないが、例えばLPWA(Low Power Wide Area)の近距離無線通信とすることができる。第1の電池23Aは、第1のフック状態検出センサ20A、第1のフック側送信部21A及び第1のフック側マイクロコンピュータ22Aに必要な電力を供給するためのものであり、一次電池と二次電池のいずれであってもよい。第1のフック側送信部21Aと、第1のフック側マイクロコンピュータ22Aと、第1の電池23Aとは、同一の筐体に収容されていてもよいし、一部が他とは別の筐体に収容されていてもよい。第1のフック側送信部21Aと、第1のフック側マイクロコンピュータ22Aと、第1の電池23Aとは、第1のフック205と一体に設けられていてもよいし、第1のフック205から離れて設けられていてもよい。
【0028】
第2のフック側機器2Bは、第1のフック側機器2Aと同様に構成されている。すなわち、第2のフック側機器2Bは、第2のフック207が落下防止用部材111にかけられた状態であるか否かを検出するためのセンサからなる第2のフック状態検出センサ20Bと、第2のフック側送信部21Bと、第2のフック側マイクロコンピュータ22Bと、第2の電池23Bとを有している。尚、第2のフック状態検出センサ20Bによる検出結果を、第1のフック側マイクロコンピュータ22Aに入力し、第1のフック側送信部21Aから親機5に送信してもよい。
【0029】
基準機3は、基準大気圧センサ31と、基準機側受信部32と、基準機側送信部33と、基準機側マイクロコンピュータ34と、電池35と、これらを収容する筐体36とを有している。基準大気圧センサ31は、親機5が有する作業者側大気圧センサ51(後述する)とは別に構成されるとともに、地上の管理者Bに装着され、作業者Aが鉄塔100の上にいるか否かの判定を行う際の基準となる基準高さにおける大気圧を検出するためのセンサであり、従来から周知の気圧センサで構成されている。この実施形態では、基準機3の筐体36に基準大気圧センサ31が収容されている例について説明するが、基準大気圧センサ31は、例えば単独とされて管理者Bに装着されていてもよい。基準大気圧センサ31が管理者Bに装着されていることで、管理者Bがいる高さ、即ち地面近傍の大気圧を基準大気圧センサ31によって検出できる。基準大気圧センサ31は、例えば数十msecの短い周期で大気圧の検出値を出力する。
【0030】
基準機側受信部32は、後述する親機側送信部53から送信された警報信号を受信する部分である。基準機側送信部33は、基準大気圧センサ31から出力される大気圧の検出値を親機5が有する親機側送信部53を介して推定部54に送信する部分である。
【0031】
基準機側マイクロコンピュータ34は、基準機側受信部32及び基準機側送信部33を制御する部分である。電池35は、基準大気圧センサ31、基準機側受信部32、基準機側送信部33及び基準機側マイクロコンピュータ34に必要な電力を供給するためのものであり、一次電池と二次電池のいずれであってもよい。
【0032】
親機5は、作業者側大気圧センサ51と、親機側受信部52と、親機側送信部53と、推定部54と、報知部55と、制御部56と、電池57と、これらを収容する筐体58とを有している。推定部54及び制御部56は、親機5に内蔵されているマイクロコンピュータを所定のプログラムにしたがって動作させることによって構成される部分であり、ハードウェアで構成されていてもよいし、ソフトウエアとハードウェアとの組み合わせで構成されていてもよい。
【0033】
作業者側大気圧センサ51は、作業者Aに装着され、作業者Aの周囲の大気圧を検出するためのセンサであり、従来から周知の気圧センサで構成されている。この実施形態では、親機5の筐体58に作業者側大気圧センサ51が収容されている例について説明するが、作業者側大気圧センサ51は、例えば第1のフック側機器2A、または第2のフック側機器2Bに設けられていてもよいし、単独で設けられていてもよい。
【0034】
作業者側大気圧センサ51が第1のフック側機器2A、または第2のフック側機器2Bに設けられている場合、フック205、207と作業者Aとは高さ方向にはそれほど大きく離れることはなく、一般的に作業者Aと略同じ高さにフック205、207が配置されることから、作業者側大気圧センサ51によって検出された大気圧は、作業者Aがいる高さの大気圧と等しくなる。作業者側大気圧センサ51を作業者Aのヘルメットや腰ベルト201等に取り付けている場合も、作業者Aがいる高さの大気圧を作業者側大気圧センサ51によって検出できる。作業者側大気圧センサ51は、例えば数十msecの短い周期で大気圧の検出値を出力する。
【0035】
親機側受信部52は、基準機3が有する基準機側送信部33から送信された大気圧の検出値を受信するための通信モジュール等で構成されている。親機側受信部52で受信された大気圧の検出値は、推定部54に入力される。親機5と基準機3との通信形態は特に限定されるものではないが、例えば上記LPWAの近距離無線通信とすることができる。また、親機側受信部52は、第1のフック側送信部21Aから送信された第1のフック状態検出センサ20Aの検出結果と、第2のフック側送信部21Bから送信された第2のフック状態検出センサ20Bの検出結果とを受信するように構成されている。
【0036】
親機側送信部53は、各種信号を基準機3に送信するための通信モジュール等で構成されており、その通信形態は、例えば上記LPWAの近距離無線通信とすることができる。
【0037】
推定部54は、親機5の作業者側大気圧センサ51から出力された大気圧の検出値と、基準機3の基準大気圧センサ31から出力された大気圧の検出値と取得し、作業者側大気圧センサ51から出力された大気圧の検出値と、基準大気圧センサ31から出力された大気圧の検出値とに基づいて、作業者が鉄塔100の上にいるか否かを推定する部分である。
【0038】
報知部55は、作業者Aによる鉄塔作業が不安全状態であることを当該作業者Aに報知するための部分である。報知部55の例としては、例えば振動発生機、スピーカ、ヘルメットを叩くアクチュエータを備えた伝達機器、表示部(ディスプレイ)等を挙げることができる。作業者Aによる高所作業が不安全状態である場合には、そのことを振動発生機、スピーカ、伝達機器によって作業者Aに報知する。例えば高所作業が不安全状態である場合には、振動発生機が振動を発生させて作業者Aに報知したり、不安全状態であることを示す音声をスピーカから発したり、伝達機器によってヘルメットを叩くことで作業者Aに報知したりすることができる。スピーカによる報知例としては、スピーカに例えば「鉄塔作業中にフックをかけていない」といった音声による形態や、各種警報音(アラーム音)を発生させる形態等を挙げることができる。また、表示部による報知例としては、表示部に例えば「鉄塔作業中にフックをかけていない」といった文章による表示形態や、不安全状態であることを示す記号やマークを表示する形態等を挙げることができる。
【0039】
制御部56は、推定部54により作業者Aが鉄塔100の上にいると推定され、かつ、フック状態検出センサ20A、20Bの検出結果により、フック205、207の両方が落下防止用部材111にかけられた状態でないと判定された場合には、不安全状態であることを報知するように報知部55を制御する。制御部56は、フック205、207が落下防止用部材111にかけられた状態であるか否かを判定する際、親機側受信部52で受信されたフック状態検出センサ20A、20Bの検出結果に基づいて、フック205、207が落下防止用部材111にかけられた状態であるか否かを判定するように構成されている。電池57は、作業者側大気圧センサ51、親機側受信部52、親機側送信部53、推定部54、報知部55及び制御部56に必要な電力を供給するためのものであり、一次電池と二次電池のいずれであってもよい。
【0040】
尚、親機5と基準機3とは同じ機器で構成されていてもよい。すなわち、ハードウェアが共通の機器を用意し、これら機器に、親機5用のプログラムと基準機3用のプログラムとの両方を記憶させておく。機器には選択スイッチを設けておき、選択スイッチによって親機5用のプログラムを実行するか、基準機3用のプログラムを実行するか、選択可能にしておく。親機5用のプログラムを実行することで当該機器が親機5として動作し、基準機3用のプログラムを実行することで当該機器が基準機3として動作する。
【0041】
以下、鉄塔作業安全管理システム1の動作例について
図5に示すフローチャートに基づいて説明する。このフローチャートは、第1のフック側機器2A、第2のフック側機器2B、親機5及び基準機3の電源が投入されて相互の認識処理(ペアリング処理)を経た上で開始される。また、作業者Aが装着する親機5の作業者側大気圧センサ51と、基準機3の基準大気圧センサ31とは、使用前にキャリブレーション等を行っておく。
【0042】
ステップSA1では、基準機3の基準大気圧センサ31で検出された基準大気圧の検出値を親機5が受信する。基準大気圧の検出値を基準機側送信部33が送信する周期は、例えば30秒~90秒の範囲で設定することができ、本実施形態では60秒としている。作業者Aの安全を考えた場合には大気圧の送信周期は短い方が好ましいが、電池35の消耗も考慮すると、上記範囲とするのが好ましい。尚、上記範囲よりも短い周期で基準大気圧の検出値を送信してもよい。
【0043】
ステップSA2では、推定部54が作業者側大気圧センサ51の検出値を取得する。作業者側大気圧センサ51の検出値をCとする。ステップSA3では、推定部54がステップSA1で取得した基準大気圧の検出値を取得し、基準大気圧の検出値から所定のしきい値を減算する処理を実行して値(D)を得る。しきい値は、作業者Aが高所、即ち鉄塔100の上にいるか否かを判定するための値であり、例えば地面を基準として数mないし十m上の気圧に対応する値とすることができる。ステップSA3では、基準大気圧の検出値から所定のしきい値を減算して得られた値をDとする。尚、しきい値は、親機5が有する記憶部(図示せず)に予め記憶させておくことができる。
【0044】
ステップSA4では、推定部54が、ステップSA2で取得した作業者側大気圧センサ51の検出値(C)と、ステップSA3で算出した値(D)とを比較し、検出値(C)が値(D)よりも小さいか否かを判定する。ステップSA4でNOと判定されて検出値(C)が値(D)以上であった場合には作業者Aが鉄塔100の上にはいない、即ち地面等の低所にいると推定部54が推定し、ステップSA1に進む。
【0045】
一方、ステップSA4でYESと判定されて検出値(C)が値(D)よりも小さかった場合は、作業者Aが鉄塔100の上にいると推定部54が推定し、ステップSA5に進む。ステップSA5では、制御部56が、第1のフック状態検出センサ20Aの検出結果と、第2のフック状態検出センサ20Bの検出結果とを取得する。第1のフック側機器2A及び第2のフック側機器2Bが、第1のフック状態検出センサ20A及び第2のフック状態検出センサ20Bの検出結果を送信する周期は、例えば5秒~30秒の範囲で設定することができ、本実施形態では15秒としている。ただし、第1のフック状態検出センサ20A、あるいは第2の状態検出センサ20Bのいずれかの状態が変わった場合は周期に関わらず検出結果を送信する。このように、第1のフック状態検出センサ20A及び第2のフック状態検出センサ20Bの検出結果を送信する周期を、基準大気圧を送信する周期よりも短くしている。
【0046】
第1のフック状態検出センサ20Aの検出結果により第1のフック205が落下防止用部材111にかけられた状態であると制御部56が判定した場合は、ステップSA5の判定結果がYESとなる。また、第2のフック状態検出センサ20Bの検出結果により第2のフック207が落下防止用部材111にかけられた状態であると制御部56が判定した場合は、ステップSA5の判定結果がYESとなる。また、第1のフック205が落下防止用部材111にかけられた状態であるが、第2のフック207が落下防止用部材111にかけられていない場合も、ステップSA5の判定結果がYESとなる。さらに、第2のフック207が落下防止用部材111にかけられた状態であるが、第1のフック205が落下防止用部材111にかけられていない場合も、ステップSA5の判定結果がYESとなる。YESの場合は、作業者Aによる鉄塔作業が安全な状態であるので、報知等せずに、ステップSA1に進む。
【0047】
一方、第1のフック205が落下防止用部材111にかけられておらず、かつ、第2のフック207が落下防止用部材111にかけられていない場合は、ステップSA5の判定結果がNOとなる。第1のフック205と第2のフック207の両方が落下防止用部材111にかけられていないということは、作業者Aが鉄塔100の上にいるのに不安全な状態であると推測される。この場合は、ステップSA6に進み、制御部56が不安全状態であることを報知するように報知部55を制御する。
【0048】
つまり、制御部56は、第1のフック状態検出センサ20Aの検出結果と、第2のフック状態検出センサ20Bの検出結果とのいずれか一方で、フック205、207が落下防止用部材111にかけられた状態であると判定された場合には、不安全状態であることを報知しないように報知部55を制御する。すなわち、作業者Aが鉄塔100の上を移動する際には、第1のフック205を落下防止用部材111にかけた状態で、第2のフック207を落下防止用部材111から外す場合がある。このような場合は、第1のフック205によって安全が担保されているので、不安全状態ではない。反対に、第2のフック207を落下防止用部材111にかけた状態で、第1のフック205を落下防止用部材111から外して作業者Aが移動する場合も、不安全状態ではない。このような場合には、不安全状態であることを報知しないようにすることができる。
【0049】
必須ではないが、親機5が有する親機側送信部53は、作業者Aによる鉄塔作業が不安全状態であることを報知する警報信号を送信することもできる。例えば、ステップSA6に進むと、作業者Aによる鉄塔作業が不安全状態であることを示す警報信号を制御部56が生成する。生成された警報信号は、親機側送信部53から送信されて基準機3の基準機側受信部32で受信される。基準機3には、親機5と同様な報知部(図示せず)を設けておくことができ、基準機側受信部32で受信した警報信号に基づいて不安全状態であることを報知部で報知するように基準機3が構成されている。これにより、管理者Bが鉄塔100の上で作業している作業者Aを目視できなくても、作業者Aが不安全な状態であればそのことを管理者Bが把握できる。
【0050】
制御部56は、第1のフック状態検出センサ20Aの検出結果と、第2のフック状態検出センサ20Bの検出結果とを常時受信している。ステップSA6に進んだ後、次のフローのステップSA5でYESと判定された場合には、不安全状態が解消されたということであるので、以後、不安全状態であることを報知しないように制御部56が報知部55を制御する。また、ステップSA6に進んだ後、次のフローのステップSA4でNOと判定された場合には、作業者Aが鉄塔100から降りたと考えられるので、以後、不安全状態であることを報知しないように制御部56が報知部55を制御する。
【0051】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態に係る鉄塔作業安全管理システム1によれば、親機5が有する作業者側大気圧センサ51から出力された大気圧の検出値と、地上の管理者Bに装着されている基準大気圧センサ31から出力された大気圧の検出値との比較によって作業者Aが鉄塔100の上にいるか否かを精度良く推定できる。
【0052】
作業者Aが鉄塔100の上にいる場合に、安全帯200のフック205、207の両方が落下防止用部材111にかけられていないことがフック状態検出センサ20A、20Bにより検出されると、作業者Aによる鉄塔作業が不安全状態であると言える。この場合に、制御部56は、作業者Aによる鉄塔作業が不安全状態であることを報知部55に報知させることができる。これにより、不安全状態を改めるように作業者Aに注意できる。また、作業者Aによる鉄塔作業が不安全状態であることを管理者Bに報知することで、管理者Bが作業者Aの安全管理を行うこともできる。
【0053】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。また、本発明の適用範囲は、鉄塔作業に限られるものではなく、高所作業車上での作業や電柱上での作業にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明に係る高所作業安全管理システムは、例えば鉄塔上での作業時の安全を確保する場合に利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 鉄塔作業安全管理システム
3 基準機
5 親機
20A 第1のフック状態検出センサ
20B 第2のフック状態検出センサ
31 基準大気圧センサ
32 基準機側受信部
33 基準機側送信部
51 作業者側大気圧センサ
52 親機側受信部
53 親機側送信部
54 推定部
55 報知部
56 制御部
100 鉄塔
111 落下防止用部材
200 安全帯
205 第1のフック
207 第2のフック