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特開2024-175770膜小胞産生菌を検出するための方法及びキット
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  • 特開-膜小胞産生菌を検出するための方法及びキット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175770
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】膜小胞産生菌を検出するための方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20241212BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20241212BHJP
   C07K 2/00 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
C12Q1/04 ZNA
C12N1/20 A
C07K2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093759
(22)【出願日】2023-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 令和 5年 5月 9日 刊行物 環境バイオテクノロジー学会 2023年度大会 プログラム 第7頁、NPO法人環境バイオテクノロジー学会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「細菌集合体における膜小胞分泌の分子機構解明」委託研究、令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「蛍光プローブの結合反応に基づくエクソソーム性質解析」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】田代 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大野 一騎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄介
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QR55
4B063QR66
4B063QS32
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD39
4B065BD50
4B065CA46
4H045AA30
4H045BA70
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】膜小胞産生菌を検出するための方法を提供すること。
【解決手段】膜小胞産生菌を検出する方法であって、膜小胞産生菌に、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブを接触させる工程、及び前記蛍光プローブで標識された前記膜小胞産生菌の蛍光を測定する工程を含む方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜小胞産生菌を検出する方法であって、
膜小胞産生菌に、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブを接触させる工程、及び
前記蛍光プローブで標識された前記膜小胞産生菌の蛍光を測定する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記蛍光プローブが、下記式(I):
X-Y ・・・(I)
で表され、式(I)中、
Xは、蛍光性基を表し、
Yは、アミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドを表す、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドが、配列番号1~6に示されるペプチドからなる群から選択されるペプチドである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光プローブが、下記構造式:
【化1】

で表される化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、膜小胞産生菌を分取する方法であり、
前記蛍光を測定する工程の後に、前記蛍光を測定する工程で得られた蛍光強度が所定の値より大きい膜小胞産生菌を分取する工程
をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記蛍光を測定する工程及び前記膜小胞産生菌を分取する工程が、フローサイトメーターを用いて行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
膜小胞産生菌を検出するためのキットであって、
高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ、及び
膜小胞産生菌に前記蛍光プローブを接触させ、前記蛍光プローブで標識された前記膜小胞産生菌の蛍光を測定する旨が記載された添付文書
を含む、キット。
【請求項8】
膜小胞産生菌を分取するためのキットであって、
高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ、及び
前記蛍光プローブと接触させた場合の蛍光強度が所定の値より大きい膜小胞産生菌を分取する旨が記載された添付文書
を含む、キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜小胞産生菌を検出するための方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細菌が細胞外に産生する「膜小胞」(Membrane vesicle)は、直径20-400nmの生体微粒子である。グラム陰性細菌、グラム陽性細菌、アーキアなど様々な原核生物が細胞外に膜小胞を放出することが知られている(非特許文献1)。例えばグラム陰性細菌が放出する膜小胞(Outer membrane vesicle)には、DNA、RNA、リポ多糖、タンパク質及びリン脂質など細菌由来の様々な物質が含まれている。細菌の膜小胞は、由来細菌の免疫活性化物質を宿主細胞に送達し、免疫反応を活性化する機能を有している。また、細菌の膜小胞は、微生物間の情報伝達物質の媒体としても機能している。
【0003】
近年、膜小胞は、生物工学的な応用の可能性が注目されている。例えば、細菌由来の膜小胞の、ワクチン若しくはドラグデリバリーシステムの媒体としての医療応用(非特許文献2)、細胞間シグナル伝達による細菌の病原性に関わる遺伝子の発現制御(非特許文献3)及びバイオフィルムの形成制御(非特許文献4)など、幅広い応用を志向した研究が盛んに行われている。
【0004】
本発明者らは、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブを開発した(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Brooke L Deatherage and Brad TCookson, "Membrane vesicle release in bacteria, eukaryotes, and archaea: aconserved yet underappreciated aspect of microbial life", Infect Immun. 80(6):1948-57(2012).
【非特許文献2】Qiong Long et al., "Engineeredbacterial membrane vesicles are promising carriers for vaccine design and tumorimmunotherapy", Adv. Drug Deliv. Rev. 186:114321 (2022).
【非特許文献3】Lauren M. Mashburn and MarvinWhiteley, "Membrane vesicles traffic signals and facilitate groupactivities in a prokaryote", Nature 437, 422-425 (2005).
【非特許文献4】Jonathan P. Remis et al.,"Biofilms: structures that may facilitate cell-cell interactions", TheISME Journal 4, 1085-1087 (2010).
【非特許文献5】Yusuke Sato et al., "Amphipathichelical peptide-based fluorogenic probes for a marker-free analysis of exosomesbased on membrane-curvature sensing", RSC Adv. 10, 38323-38327 (2020).
【非特許文献6】Guillaume Drin and BrunoAntonny, "Amphipathic helices and membrane curvature", FEBS Letters584(9), 1840-1847 (2010).
【非特許文献7】Manuel Gimenez-Andres et al., "TheMany Faces of Amphipathic Helices", Biomolecules 8(3): 45(2018)
【非特許文献8】Jensen M. B. et al., "Membranecurvature sensing by amphipathic helices: a single liposome study using α-synucleinand annexin B12", The Journal of Biological Chemistry 286(49):42603-42614(2011).
【非特許文献9】Agnieszka Martyna et al., "Membraneremodeling by the M2 amphipathic helix drives influenza virus membrane scission",Scientific Reports 7, 44695 (2017).
【非特許文献10】Kenichi Kawano et al., "Developmentof a Membrane Curvature-Sensing Peptide Based on a Structure-ActivityCorrelation Study", Chem. Pharm. Bull. 67(10), 1131-1138 (2019).
【非特許文献11】Masafumi Tanaka et al.,"Effect of amino acid distribution of amphipathic helical peptide derivedfrom human apolipoprotein A-I on membrane curvature sensing", FEBS Letters587(5), 510-515 (2013).
【非特許文献12】Kotaro Takaki et al., "Multilamellarand Multivesicular Outer Membrane Vesicles Produced by a Buttiauxella agrestistolB Mutant", Appl. Environ. Microbiol. 86:e01131-20 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細菌由来の膜小胞を生物工学的に応用する上では、膜小胞の量産等のために、膜小胞産生菌を検出する技術が必要不可欠である。従来の膜小胞の形成量の評価は、単離した細菌を液体培地で培養し、その培養上清中の膜小胞をリン脂質またはリポ多糖やタンパク質等を指標に定量することによって行われてきた。しかし、細菌の膜小胞産生能にはヘテロ性があり、単離した細菌の膜小胞産生能は均一ではないため、従来の方法では細菌集団内の平均化された情報を得ることができるに過ぎず、個々の細菌の膜小胞産生能を検出できないという問題点があった。
【0007】
本開示は、膜小胞産生菌を検出するための方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、膜小胞産生菌に、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブを接触させると、膜小胞産生菌が蛍光プローブで標識されることを見出した。さらに、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブで標識された膜小胞産生菌の蛍光を指標として、膜小胞産生菌の検出、及び膜小胞産生菌の分取が可能であることを見出し、本開示を完成させた。
【0009】
本開示は、例えば、以下に関する。
[1]膜小胞産生菌を検出する方法であって、
膜小胞産生菌に、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブを接触させる工程、及び
上記蛍光プローブで標識された上記膜小胞産生菌の蛍光を測定する工程
を含む方法。
[1-1]膜小胞産生菌の膜小胞産生能を評価する方法であって、
膜小胞産生菌に、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブを接触させる工程、及び
上記蛍光プローブで標識された上記膜小胞産生菌の蛍光を測定する工程
を含む方法。
[2]上記蛍光プローブが、下記式(I):
X-Y ・・・(I)
で表され、式(I)中、
Xは、蛍光性基を表し、
Yは、アミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドを表す、
[1]又は[1-1]に記載の方法。
[3]上記アミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドが、配列番号1~6に示されるペプチドからなる群から選択されるペプチドである、[2]に記載の方法。
[4]上記蛍光プローブが、下記構造式:
【化1】

で表される化合物である、[1]又は[1-1]に記載の方法。
[5]上記方法が、膜小胞産生菌を分取する方法であり、
上記蛍光を測定する工程の後に、上記蛍光を測定する工程で得られた蛍光強度が所定の値より大きい膜小胞産生菌を分取する工程
をさらに含む、[1]又は[1-1]に記載の方法。
[6]上記蛍光を測定する工程及び上記膜小胞産生菌を分取する工程が、フローサイトメーターを用いて行われる、[5]に記載の方法。
[7][5]又は[6]に記載の方法で分取された、膜小胞産生菌の集団。
[8]膜小胞産生菌を検出するためのキットであって、
高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ、及び
膜小胞産生菌に上記蛍光プローブを接触させ、上記蛍光プローブで標識された上記膜小胞産生菌の蛍光を測定する旨が記載された添付文書
を含む、キット。
[9]膜小胞産生菌を分取するためのキットであって、
高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ、及び
上記蛍光プローブと接触させた場合の蛍光強度が所定の値より大きい膜小胞産生菌を分取する旨が記載された添付文書
を含む、キット。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、膜小胞産生菌を検出するための方法及びキットが提供される。
【0011】
本開示の一実施形態によれば、膜小胞産生菌を分取するための方法及びキットが提供される。
【0012】
本開示の一実施形態に係る方法及びキットによれば、細菌の一細胞レベルでの膜小胞産生菌の検出、評価を行うことができる。そうすると、それに基づく膜小胞産生能の高い膜小胞産生菌の分取を行うことができる。また、実環境中には多種多様な細菌が混在した状態で存在するため、その細菌群の中から、膜小胞を活発に放出する細菌をいち早く検出することも可能となる。
【0013】
本開示の一実施形態に係る方法及びキットによれば、膜小胞産生菌が生きたまま、膜小胞産生菌の検出又は膜小胞産生菌の分取を行うことができる。
【0014】
本開示の一実施形態に係る方法及びキットによれば、膜小胞産生菌の生育への影響を抑えながら、膜小胞産生菌の検出又は膜小胞産生菌の分取を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1において、緑膿菌PseudomonasaeruginosaのPAO1株又はそのDpqsA株に、高曲率膜認識プローブApoC-NR又はコントロールプローブApoCmut-NRを接触させた場合の蛍光像を示す図である。
図2】実施例2において、野生株のButtiauxella agrestis JCM1090T株又はその膜小胞過剰形成株DtolB株に、高曲率膜認識プローブApoC-NR又はコントロールプローブApoCmut-NRを接触させた場合の蛍光像を示す図である。
図3図3は、実施例3において、高曲率膜認識プローブApoC-NR又はコントロールプローブApoCmut-NRに接触させたButtiauxella agrestis JCM1090株のDtolB株を生育させた場合の明視野像を示す図である。
図4図4は、実施例4において、高曲率膜認識プローブApoC-NRで標識されたB. agrestis JCM1090株又はそのDtolB株を、フローサイトメーターを用いて解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本開示の実施形態について説明するが、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本開示の第一側面は、膜小胞産生菌を検出する方法であって、膜小胞産生菌に、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブを接触させる工程(接触工程)、及び上記蛍光プローブで標識された上記膜小胞産生菌の蛍光を測定する工程(蛍光測定工程)を含む方法である。本開示における「膜小胞産生菌を検出する」ことは、膜小胞産生菌の存在を検出すること、及びすでに膜小胞産生菌であることがわかっている細菌を評価するために膜小胞産生菌を検出(測定)することを含む。
【0018】
<膜小胞産生菌>
膜小胞(Membrane vesicle)とは、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌、アーキアなど様々な原核生物から放出される、表面が脂質二重膜で覆われた直径20-400nm程度の生体微粒子である。原核生物からの膜小胞の放出の分子生物学的なメカニズムは複雑かつ多岐にわたり、未解明の部分も多い。原核生物からの膜小胞の放出においては、原核生物の細胞表面の脂質二重膜の部分的な突出、及びその突出部分の根本の狭窄が生じ、最終的に突出部分が原核生物の細胞表面の脂質二重膜から分離することによって、膜小胞が放出される。したがって、膜小胞の形成過程において、原核生物の細胞表面の脂質二重膜の突出部分は、曲率が高い状態になる。
【0019】
本開示において、膜小胞産生菌とは、膜小胞を産生する細菌(バクテリア)を意味する。細菌の種類としては、膜小胞を産生するものであれば特に限定されず、例えばグラム陽性細菌及びグラム陰性細菌のいずれであってもよく、好気性細菌及び嫌気性細菌のいずれであってもよい。膜小胞産生菌としては、例えばプロテオバクテリア門に属する膜小胞産生菌であってよく、ガンマプロテオバクテリア綱に属する膜小胞産生菌であってもよく、エンテロバクター目又はシュードモナス目に属する膜小胞産生菌であってもよい。また、膜小胞産生菌としては、例えば大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、ピロリ菌(Helicobacter pylori)、サルモネラ属細菌(Salmonella)、シゲラ属細菌(Shigella)、エルシニア属細菌(Yersinia)、ナイセリア属細菌(Neisseria)、ビブリオ属細菌(Vibrio)、カンピロバクター属細菌(Campylobacter)、アシネトバクター属細菌(Acinetobacter)、セラチア属細菌(Serratia)、シェワネラ属細菌(Shewanella)、粘液細菌(Myxococcus xanthus)、結核菌(Mycobacteriumtuberculosis)、歯周病菌(Porphylomonas gingivalisなど)、乳酸菌(Lactobacillusなど)を例示することができる。
【0020】
<高曲率膜認識プローブ>
本開示において、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ(以下では、「高曲率膜認識プローブ」とも記載する。)とは、高曲率の脂質二重膜に対して結合性を有し、かつ高曲率の脂質二重膜に結合したことが蛍光を指標として検出可能な化合物を示す。高曲率膜認識プローブとしては、例えば高曲率の脂質二重膜に選択的に結合する結合部位と、蛍光色素とのコンジュゲート分子、及び脂質二重膜に結合する結合部位と、該結合部位が結合した脂質二重膜の曲率が高くなった場合に蛍光強度が大きくなる蛍光色素とのコンジュゲート分子を挙げることができる。本開示に係る高曲率膜認識プローブは、例えば、高曲率の脂質二重膜に対して結合性を有し、高曲率ではない(低曲率の)脂質二重膜に対して結合性を有さず、かつ高曲率の脂質二重膜に結合したことが蛍光を指標として検出可能な化合物であってよい。本開示に係る高曲率膜認識プローブは、例えば、高曲率のアニオン性脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブであってよい。本開示に係る高曲率膜認識プローブは、例えば、高曲率のリン脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブであってよい。これらの場合において、該高曲率の脂質二重膜としては、例えば曲率半径が170nm以下、140nm以下、120nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下又は60nm以下の脂質二重膜であってよい。また、これらの場合において、高曲率膜認識プローブは、例えば溶液中に存在するときと比較して、高曲率の脂質二重膜に結合したときの蛍光強度が2倍以上、3倍以上、5倍以上、10倍以上又は20倍以上の蛍光プローブであってよい。該蛍光強度は例えば、高曲率膜認識プローブの水溶液又は高曲率膜認識プローブ及び高曲率の脂質二重膜(例えばリポソーム)を含む水溶液を蛍光光度計によって測定した蛍光強度であってよく、該測定における高曲率膜認識プローブの濃度は例えば1.0~10μMであってよく、該測定におけるリポソームの濃度は例えば100μM~1.00mMであってよい。
【0021】
好ましい一実施形態において、高曲率膜認識プローブは、下記式(I):
X-Y ・・・(I)
で表され、式(I)中、Xは、蛍光性基を表し、Yは、アミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドを表す。
【0022】
式(I)中のXは、蛍光性基であれば特に限定されず、例えば蛍光性の有機化合物から水素原子を1個除いた蛍光性の基であってよい。上記蛍光性の有機化合物としては、例えば有機蛍光色素又はその誘導体若しくはリンカー付与体であってよい。上記有機蛍光色素としては特に限定されず、例えばフルオレセイン、テトラメチルローダミン、クマリン及びシアニン誘導体等を用いてもよい。蛍光強度を大きくして検出感度を向上させる観点から、上記有機蛍光色素の溶液(例えば水-ジオキサンの1:1混合溶液)中の蛍光量子収率は、例えば0.00001以上、0.0001以上、0.001以上、0.01以上、0.03以上又は0.10以上であってよい。また、細菌由来の蛍光(自家蛍光)とのオーバーラップを抑制して検出感度を向上させる観点から、上記有機蛍光色素の最大蛍光波長は、例えば300nm以上、350nm以上、400nm以上、420nm以上、440nm以上、450nm以上、460nm以上、470nm以上、480nm以上、490nm以上又は500nm以上であってよく、1000nm以下、900nm以下、800nm以下、700nm以下、650nm以下又は600nm以下であってもよい。
【0023】
好ましい一実施形態において、上記有機蛍光色素は、環境応答性の蛍光色素である。換言すると、好ましい一実施形態において、式(I)中のXは、環境応答性の有機蛍光色素から水素原子を1個除いた蛍光性の基、あるいは環境応答性の有機蛍光色素又はその誘導体若しくはリンカー付与体から水素原子を1個除いた蛍光性の基である。本開示において、環境応答性の蛍光色素とは、疎水的な環境において特定の波長の励起光で励起した場合の蛍光強度が、親水的な環境において同じ波長の励起光で励起した場合の蛍光強度よりも大きい蛍光色素を意味する。環境応答性の蛍光色素は、例えば、テトラヒドロフラン、n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、クロロホルム又はアセトニトリル等の有機溶媒中に溶解させた状態で特定の波長の励起光で励起した場合の蛍光強度が、水系溶媒、エタノール又はメタノールに溶解させた状態で同じ波長の励起光で励起した場合の蛍光強度の2倍以上、3倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、50倍以上又は100倍以上の蛍光色素であってよい。より具体的には、環境応答性の蛍光色素は、例えば、n-ヘプタンの0.1μg/mL溶液において特定の波長の励起光で励起した場合の蛍光強度が、エタノールの0.1μg/mL溶液において同じ波長の励起光で励起した場合の蛍光強度の20倍以上の蛍光色素であってよい。上記有機蛍光色素が環境応答性の蛍光色素であると、蛍光プローブが高曲率の脂質二重膜に結合した際に、細菌の表面の脂溶性環境において蛍光強度が上昇するため、蛍光強度を指標として膜小胞産生菌が検出しやすくなり、また洗浄操作を行わなくても膜小胞産生菌が検出しやすくなる。
【0024】
環境応答性の蛍光色素としては、例えばダンシル色素及びその誘導体、Dapoxyl色素及びその誘導体、ベンゾフェノキサジン色素及びその誘導体等を挙げることができる。環境応答性蛍光色素の具体的な例としては、1-アニリノナフタレン-8-スルホン酸(ANS)、N-メチル-2-アリニノナフタレン-6-スルホン酸(MANS)、2-p-トルイジニルナフタレン-6-スルホン酸(TNS)等のアリルナフタレンスルホン酸類;ジメチルアミノナフタレンスルホン酸;ニトロベンゾフラザン(NBD)等のベンゾフラザン誘導体;Dapoxyl色素(Benzenesulfonic acid, 4-[5-[4-(dimethylamino)phenyl]-2- oxazolyl);Dapoxyl sulfonyl chloride 、Dapoxylsuccinimidyl ester、Dapoxyl 3-sulfonamidopropionic acid、Dapoxyl (2-bromoacetamidoethyl) sulfonamide、Dapoxyl(2-aminoethyl) sulfonamide等のDapoxyl誘導体;ダンシルクロリド、ダンシルスルホンアミド、ダンシルアミノエチル-3-リン酸、1-ダンシルスルホンアミド-3-N,N-ジメチルアミノプロパン、ダンシルコリン、ダンシルガラクトシド、ダンシルリジン、ダンシルホスファチジルエタノールアミン等のダンシル色素;ナイルレッド、ナイルブルー等のベンゾフェノキサジン誘導体等を例示することができる。
【0025】
式(I)中のYは、アミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドである。両親媒性ペプチドとは、2次構造としてαヘリックスを形成するペプチドであって、αヘリックスの表面の一部に露出した残基に疎水性残基が多く含まれ、該表面の一部を除いたαヘリックスの表面に露出した残基に極性残基が多く含まれるペプチドをいう。このような両親媒性ペプチドは、脂質二重膜に結合しやすいことが知られている。本開示における両親媒性ペプチドのアミノ酸残基数は5以上130以下であればよく、例えば7以上100以下、9以上80以下、10以上70以下、11以上60以下、12以上60以下又は13以上45以下であってもよい。極性残基は、例えば、側鎖に環構造を有しないα-アミノ酸であって、pH7.4の生理的条件下で側鎖の少なくとも一部が正及び/若しくは負に帯電しているα-アミノ酸並びに/又は側鎖に親水性残基(例えばアミノ基、カルボキシル基、水酸基、カルバモイル基)を有するα-アミノ酸に由来する残基であってよく、より具体的には例えばアスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、リジン(K)、ヒスチジン(H)、アルギニン(R)、スレオニン(T)、セリン(S)、アスパラギン(N)又はグルタミン(Q)に由来する残基であってもよい。疎水性残基は、例えば、極性残基に属しない残基であって、側鎖に含まれる炭素原子の数が3以上のα-アミノ酸(プロリンを含む)に由来する残基であってよく、より具体的には例えばバリン(V)、プロリン(P)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、フェニルアラニン(F)、メチオニン(M)、トリプトファン(W)又はチロシン(Y)に由来する残基であってもよい。表面の一部に露出した残基に疎水性残基が多く含まれるとは、例えば該表面の一部に露出している残基に占める疎水性残基の割合が50%以上であることであってもよい。該表面の一部を除いたαヘリックスの表面に露出した残基に極性残基が多く含まれるとは、例えば該表面の一部を除いたαヘリックスの表面に露出した残基に占める極性残基の割合が50%以上であることであってもよい。また、一実施形態において、両親媒性ペプチドとは、2次構造としてαヘリックスを形成するペプチドであって、αヘリックスの表面の一部に露出した残基に占める疎水性残基の割合が50%以上であり、該表面の一部を除いたαヘリックスの表面に露出した残基に占める極性残基の割合が50%以上であり、かつ該表面の一部を除いたαヘリックスの表面に露出した残基に占める疎水性残基の割合が30%以下のペプチドであってもよい。本開示に係る両親媒性ペプチドは、好ましくは、L体のα-アミノ酸に由来する残基からなるペプチドである。
【0026】
式(I)中のYとして利用することができるアミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドとしては、例えば、非特許文献6又は非特許文献7に記載された両親媒性ペプチドを用いることができる。具体的なα-ヘリックスペプチドとしては、ArfGAPl [199-223](R. norvegicus)、ヌクレオポリンNupl33[245-267] (H. sapiens)、αシヌクレイン [9-52](H. sapiens、配列番号1、非特許文献8). DivIVA [24-41] (B. subtillis) 、dAmph [3-28](D. melanogaster) 、エンドフィリンAl [2-21] (R. norvegicus)、Sarlp [1-23] (S. cervisiae)、抗微生物マゲイニン2 (X.laevis)、GMAP-210 [1-38] (H. sapiens)のstring様N末端、ステロールトランスポーターKeslp [7-29] (S. cerevisiae) 、SpoVM (B.subtilis)、Epsin [3-15] (H. sapiens、配列番号2、非特許文献6) 、Binl/amphiphysin II [8-33] (H. sapiens) 、BRAP/Bin2由来のH0-NBAR [16-34]、ミリストイル化 Arf 1 [1-17] (B. taurus)、メリチン(A. mellifera)、Arf1 [1-18] (配列番号3、非特許文献9)、SNX1 [281-298] (配列番号4、非特許文献10)及びM2 [42-62 of A/Udorn/72] (配列番号5、非特許文献9)等のペプチド若しくはこれらのペプチドをベースとしたペプチド(例えば該ペプチドの一部や、該ペプチドの1~数個、より具体的には1~5個程度のアミノ酸を変異させたアミノ酸)を例示することができる。また、式(I)中のYとして利用することができるアミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドとしては、例えば、human apolipoprotein (apo) A-IのC末端から22残基のペプチド(apoA-I 220-241、配列番号6、非特許文献11)を例示することもできる。式(I)中のYとして利用することができるアミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドは、好ましくは配列番号1~6に示されるペプチドからなる群から選択されるペプチドであってよく、より好ましくは配列番号6に示されるペプチドであってもよい。
【0027】
αシヌクレイン [9-52]:DVFMKGLSKAKEGVVAAAEKTK(配列番号1)
Epsin [3-15]:SSLRRQMKNIVHN(配列番号2)
Arf1 [1-18]:MGNIFANLFKGLFGKKEM(配列番号3)
SNX1 [281-298]:GAGLLKXFNKATDAVSKX(配列番号4)
M2 [42-62 of A/Udorn/72]:RLFFKSIYRFFEHGLKRG(配列番号5)
apoA-I 220-241:PVLESFKVSFLSALEEYTKKLN(配列番号6)
【0028】
式(I)中のXとYの間の結合の様式は、共有結合である限りは特に限定されず、例えばアミド結合、エステル結合、カルバメート結合(-NH-C(=O)-O-)又はウレア結合(-NH-C(=O)-NH-)であってよく、好ましくはYのN末端のα-アミノ酸の主鎖アミノ基とXとの間のアミド結合、カルバメート結合若しくはウレア結合又はYのC末端のα-アミノ酸の主鎖カルボキシル基とXとの間のアミド結合、エステル結合若しくはカルバメート結合であり、より好ましくはYのN末端のα-アミノ酸の主鎖アミノ基とXとの間のアミド結合又はYのC末端のα-アミノ酸の主鎖カルボキシル基とXとの間のアミド結合若しくはエステル結合である。
【0029】
好ましい一実施形態において、高曲率膜認識プローブは、下記構造式:
【化2】

で表される化合物(以下では、「ApoC-NR」とも記載する。)である。ApoC-NRは本発明者らによって開発された高曲率膜認識プローブであり、環境応答性の蛍光色素であるナイルレッドのリンカー付与体と、両親媒性ペプチドである配列番号6に記載のペプチドとがアミド結合によって共有結合を形成した化学構造を有している(非特許文献5)。
【0030】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本開示に係る高曲率膜認識プローブは、膜小胞産生菌の表面又は膜小胞産生菌が放出した膜小胞の表面に存在する脂質パッキング欠損に対して結合することによって、膜小胞産生菌を標識することができると考えられる。アミノ酸残基数が5以上130以下の両親媒性ペプチドは、膜小胞産生菌の表面又は膜小胞産生菌が放出した膜小胞の表面に存在する脂質パッキング欠損に対して結合性を有することが知られている(非特許文献5~7)。また、これによって、例えばApoc-NRを膜小胞産生菌に接触させると、両親媒性ペプチド部分が膜小胞産生菌の細胞表面の脂質二重膜の高曲率の部分に対して結合し、ナイルレッドの蛍光強度が脂溶性環境に応答して上昇することで、膜小胞産生菌を標識することができると考えられる。
【0031】
高曲率膜認識プローブは、当業者が通常行う方法によって合成することができる。例えば、市販されているものを購入あるいは公知の方法によって合成して得られた蛍光色素又はその誘導体若しくはリンカー付与体と、外部の業者に委託又はFmoc固相合成法等の当業者が通常行う方法によって合成して得られた両親媒性ペプチドとを、HATU、PyBOP等の縮合剤を用いてアミド縮合させることにとって合成することができる。また、高曲率膜認識プローブがApoc-NRである場合、Apoc-NRは、非特許文献5に記載された方法に従って合成することができる。
【0032】
<接触工程>
接触工程では、膜小胞産生菌に、高曲率膜認識プローブを接触させる。接触工程における接触の方法は、膜小胞産生菌に高曲率膜認識プローブを接触させることができるものであれば限定されないが、通常、膜小胞産生菌のペレット又はその懸濁液に対して、高曲率膜認識プローブの溶液を添加し、得られた膜小胞産生菌が懸濁され、かつ高曲率膜認識プローブを含む水溶液(以下では、「細菌標識溶液」とも記載する。)をインキュベートすることによって行われる。
【0033】
膜小胞産生菌のペレットは、当業者が通常行う方法によって用意することができ、例えば、膜小胞産生菌を培養しているLB液体培地、M9培地、TB培地又はHanahan液体培地等の液体培地を、遠心分離することによって膜小胞産生菌を容器の底に沈殿させたのち、上清を取り除くことによって、用意することができる。
【0034】
膜小胞産生菌の懸濁液は、当業者が通常行う方法によって用意することができ、例えば、膜小胞産生菌を培養している液体培地を膜小胞産生菌の懸濁液として用いてもよく、また、上述した方法に従って用意した膜小胞産生菌のペレットに対して、PBS又はHBSS等のpH及び浸透圧が膜小胞産生菌の生存可能な範囲内に調整されている水系溶液(バッファー)を添加し、ピペッティング又はタッピング等によってペレットを崩して膜小胞産生菌を懸濁させて用意してもよい。
【0035】
高曲率膜認識プローブの溶液は、当業者が通常行う方法によって用意することができ、例えば高曲率膜認識プローブの溶液を膜小胞産生菌のペレットに対して添加する場合、該高曲率膜認識プローブの溶液は、高曲率膜認識プローブ若しくはその塩又はそれら溶媒和物をPBS又はHBSS等のpH及び浸透圧が膜小胞産生菌の生存可能な範囲内に調整されている水系溶液(バッファー)に溶解させた水溶液であってよい。また、例えば高曲率膜認識プローブの溶液を膜小胞産生菌の懸濁液に対して添加する場合、該高曲率膜認識プローブの溶液は、例えば高曲率膜認識プローブ若しくはその塩又はそれら溶媒和物をジメチルスルホキシド(DMSO)又はエタノール等の有機溶媒に溶解させた溶液であってよく、高曲率膜認識プローブ若しくはその塩又はそれら溶媒和物を純水、生理食塩水、PBS又はHBSS等の水系溶液に溶解させた水溶液であってもよい。また、高曲率膜認識プローブを膜小胞産生菌の懸濁液に対して添加する場合、該高曲率膜認識プローブは、溶液の形態ではなく、高曲率膜認識プローブ若しくはその塩又はそれら溶媒和物等の固体の形態の態様で添加されてもよい。なお、以上で説明したように、接触工程において、膜小胞産生菌に接触させる高曲率膜認識プローブは、塩、又は化合物若しくは塩の溶媒和物の形態で添加されてもよい。また、接触工程において、膜小胞産生菌に接触させる高曲率膜認識プローブは、塩、又は化合物若しくは塩の溶媒和物の形態で、膜小胞産生菌に接触させてもよい。
【0036】
細菌標識溶液における膜小胞産生菌の濃度は特に限定されない。
【0037】
細菌標識溶液における高曲率膜認識プローブの濃度は、標識された膜小胞産生菌の蛍光を検出可能な濃度であれば特に限定されず、例えば1nM~10mMであってよく、10nM~1mM、100nM~100μM、300nM~30μM、500nM~20μM又は1μM~10μMであってもよい。
【0038】
細菌標識溶液は、膜小胞産生菌及び高曲率膜認識プローブ以外のその他成分を含んでもよい。このようなその他成分としては、緩衝剤、pH調整剤、浸透圧調整剤(例えば塩化ナトリウム)、酵素抽出液、ペプトン、天然アミノ酸、ビタミン及び単糖類(例えばD-グルコース)、抗生物質を挙げることができる。
【0039】
細菌標識溶液のpHは、高曲率膜認識プローブが膜小胞産生菌を標識可能な範囲であれば特に限定されないが、膜小胞産生菌の生存率及び/又は標識効率を高める観点から、例えば4.0~10.0、5.0~9.0、5.5~8.5又は6.0~8.0であってよい。
【0040】
細菌標識溶液の温度は、高曲率膜認識プローブが膜小胞産生菌を標識可能な範囲であれば特に限定されないが、膜小胞産生菌の生存率を高める観点から、例えば10~50℃、15~45℃、20~42℃又は25℃~40℃に保たれてもよい。
【0041】
接触工程における好気的条件又は嫌気的条件の選択は、膜小胞産生菌の種類に合わせて当業者が自由に選択することができるが、膜小胞産生菌の生存率を高める観点から、膜小胞産生菌が好気性細菌の場合には、接触工程は通気環境、又は湿度、酸素濃度及び/若しくは二酸化炭素濃度を調整されたインキュベーター内の環境等の好気的条件で行ってよく、膜小胞産生菌が嫌気性細菌の場合には、密閉環境等の嫌気的条件で行ってもよい。
【0042】
接触工程において、膜小胞産生菌に高曲率膜認識プローブを接触させる時間は、高曲率膜認識プローブが膜小胞産生菌を標識することができる時間であれば特に限定されず、例えば1秒以上24時間以下であってよく、10秒以上3時間以下、1分以上1時間以下又は3分以上30分以下であってもよい。
【0043】
<蛍光測定工程>
蛍光測定工程では、接触工程において高曲率膜認識プローブで標識された膜小胞産生菌の蛍光を測定する。蛍光を測定する際の励起波長及び蛍光波長は、高曲率膜認識プローブの構造に応じて当業者が適宜に定めることができる。
【0044】
蛍光測定工程における膜小胞産生菌の蛍光の測定は、当業者が通常用いる装置を用いて行うことができ、例えば蛍光が測定可能な透過型蛍光顕微鏡、落射型蛍光顕微鏡若しくは共焦点顕微鏡等の蛍光顕微鏡、フローサイトメーター、マイクロウェルプレートリーター又は蛍光光度計等を用いて行うことができる。
【0045】
好ましい一実施形態において、蛍光測定工程は、1つの膜小胞産生菌ごとの蛍光を測定することを含んでもよい。換言すると、好ましい一実施形態において、蛍光測定工程は、膜小胞産生菌の蛍光を1細胞レベルで測定することを含んでもよい。蛍光測定工程が、1つの膜小胞産生菌ごとの蛍光を測定することを含むと、それぞれの膜小胞産生菌が膜小胞産生菌であるかの判定、あるいはそれぞれの膜小胞産生菌の膜小胞産生能の評価を行うことができる。この場合、蛍光測定工程における膜小胞産生菌の蛍光の測定は、当業者が1細胞レベルでの蛍光を測定する際に通常行う方法によって行うことができ、例えば蛍光が測定可能な透過型蛍光顕微鏡、落射型蛍光顕微鏡若しくは共焦点顕微鏡等の蛍光顕微鏡又はフローサイトメーターを用いて行うことができる。
【0046】
膜小胞産生菌の検出の一態様としては、例えば蛍光測定工程において蛍光が検出された細菌を、膜小胞産生菌であると評価(検出)してもよい。また例えば、蛍光測定工程において測定された蛍光強度が大きい細菌を、膜小胞産生菌であると評価(検出)してもよい。この場合、蛍光強度が所定の値よりも大きい細菌を、膜小胞産生菌であると評価(検出)してもよく、該所定の値としては、例えば高曲率膜認識プローブに接触させていない該細菌及び/又は膜小胞産生菌に対して結合能を有しないコントロールプローブに接触させた該細菌の蛍光強度の分布が正規分布に従うとしてフィッティングした場合の、80%信頼区間、85%信頼区間、90%信頼区間、95%信頼区間、97%信頼区間、99%区間又は99.5%信頼区間の上限値であってよく、例えば95%信頼区間の上限値であってもよい。また、該所定の値としては、例えば、高曲率膜認識プローブに接触させた、該膜小胞産生菌に遺伝子変異を導入し膜小胞産生能を低下させた変異株、及び/又は高曲率膜認識プローブに接触させた、膜小胞産生能を有しない細菌の蛍光強度の分布が正規分布に従うとしてフィッティングした場合の、80%信頼区間、85%信頼区間、90%信頼区間、95%信頼区間、97%信頼区間、99%区間又は99.5%信頼区間の上限値であってもよく、例えば95%信頼区間の上限値であってもよい。また、該所定の値としては、例えば、膜小胞産生菌を含む細菌の集団を高曲率膜認識プローブに接触させた場合の、細菌全体の30%、25%、20%、15%、10%、5%、3%又は1%の細菌が膜小胞産生菌であると評価(検出)されるように定めた値であってもよい。また、これらの場合における細菌ごとの蛍光強度の指標は、細菌ごとの蛍光強度の測定値に変わって、該測定値を細菌毎の体積又はその指標(例えば前方散乱光(FSC))で除した値を用いてもよい。
【0047】
膜小胞産生菌の検出の一態様としては、例えば蛍光測定工程における蛍光強度を指標として、膜小胞産生菌の膜小胞産生能を評価してもよい。換言すると、本開示の第一側面に係る方法は、一態様において、膜小胞産生菌の膜小胞産生能を評価する方法であって、膜小胞産生菌に、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブを接触させる工程、及び上記蛍光プローブで標識された上記膜小胞産生菌の蛍光を測定する工程を含む方法であってもよい。この場合、例えば蛍光測定工程において蛍光強度が大きい細菌を、膜小胞産生能が高い膜小胞産生菌であると評価(検出)してもよい。この場合、蛍光強度が所定の値よりも大きい細菌を、膜小胞産生能が高い膜小胞産生菌であると評価(検出)してもよく、該所定の値としては、例えば膜小胞産生菌の集団又は膜小胞産生菌を含む細菌の集団を高曲率膜認識プローブに接触させた場合の、細菌全体の50%、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、3%又は1%の細菌が膜小胞産生菌能が高い膜小胞産生菌であると評価(検出)されるように定めた値であってよい。また、該所定の値としては、例えば高曲率膜認識プローブに接触していない該細菌及び/又は膜小胞産生菌に対して結合能を有しないコントロールプローブに接触させた該細菌の蛍光強度の分布が正規分布に従うとしてフィッティングした場合の、80%信頼区間、85%信頼区間、90%信頼区間、95%信頼区間、97%信頼区間、99%区間又は99.5%信頼区間の上限値であってよく、例えば95%信頼区間の上限値であってもよい。また、該所定の値としては、例えば、高曲率膜認識プローブに接触させた、該膜小胞産生菌に遺伝子変異を導入し膜小胞産生能を低下させた変異株、及び/又は高曲率膜認識プローブに接触させた、膜小胞産生能を有しない細菌の蛍光強度の分布が正規分布に従うとしてフィッティングした場合の、80%信頼区間、85%信頼区間、90%信頼区間、95%信頼区間、97%信頼区間、99%区間又は99.5%信頼区間の上限値であってもよく、例えば95%信頼区間の上限値であってもよい。また、これらの場合における細菌ごとの蛍光強度の指標は、細菌ごとの蛍光強度の測定値に変わって、該測定値を細菌毎の体積又はそのの指標(例えば前方散乱光(FSC))で除した値を用いてもよい。蛍光強度が所定の値よりも大きい細菌の膜小胞産生能が高いとは、例えば、蛍光強度が所定の値以下である細菌と比較して、産生する膜小胞の数が1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上又は10倍以上であることであってよい。
【0048】
本開示において、1つの膜小胞産生菌ごとの蛍光を測定した際に、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブによって標識された膜小胞産生菌の蛍光強度が大きくなる場合には、膜小胞産生菌の細胞表面の脂質二重膜の突起部分の曲率が大きくなっているときに加え、膜小胞産生菌から放出された膜小胞が膜小胞産生菌の細胞表面又はその近傍に留まっているときも含まれてよい。換言すると、本開示の第一側面に係る膜小胞産生菌の検出方法において蛍光の測定の対象となるのは、膜小胞産生菌そのものに加えて、膜小胞産生菌の細胞表面の脂質二重膜と構造的に一体となった脂質二重膜を有する膜小胞、及び脂質二重膜は構造的に一部又は全体が膜小胞産生菌の脂質二重膜と分離しているものの、膜小胞産生菌と空間的に近接して存在する膜小胞も含み、例えばこれらの発する蛍光の強度が大きい場合に、測定された細菌は膜小胞産生菌である、又は測定された膜小胞産生菌の膜小胞産生能が高いと評価してもよい。
【0049】
<分取工程>
本開示の第一側面に係る方法は、一実施形態において、膜小胞産生菌を分取する方法であって、蛍光測定工程の後に、蛍光測定工程で得られた蛍光強度が所定の値より大きい膜小胞産生菌を分取する工程(分取工程)を含む方法であってよい。換言すると、本開示の第一側面の一実施形態は、膜小胞産生菌を分取する方法であって、膜小胞産生菌に、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブを接触させる工程、上記蛍光プローブで標識された上記膜小胞産生菌の蛍光を測定する工程、及び上記蛍光を測定する工程で得られた蛍光強度が所定の値より大きい膜小胞産生菌を分取する工程を含む方法であってよい。好ましい一実施形態において、本開示の第一側面に係る方法は、膜小胞産生能が高い膜小胞産生菌を分取する方法であって、蛍光測定工程の後に、蛍光測定工程で得られた蛍光強度が所定の値より大きい膜小胞産生菌を、膜小胞生成能が高い膜小胞産生菌であるとして分取する工程を含む方法であってよい。
【0050】
好ましい一実施形態では、分取方法における蛍光測定工程及び分取工程は、フローサイトメーターを用いて行われる。すなわち、好ましい一実施形態では、分取方法における蛍光測定工程及び分取工程はフローサイトメトリー法によってセルソーティングを行う。この場合、蛍光測定工程及び分取工程は1つの細菌毎に行われること、すなわち1つの細菌に対する蛍光測定工程及び分取工程が細菌の数だけ繰り返し行われることが通常であり、例えば第1の細菌についての蛍光測定工程(第1蛍光測定工程)及び分取工程(第1分取工程)を行った後に、第2の細菌の蛍光測定工程(第2蛍光測定工程)及び分取工程(第2分取工程)を含んでよい。
【0051】
<用途>
本開示の第一側面に係る方法は、例えば、膜小胞産生菌の検出、評価及び/又は分取に用いることができる。また、実環境中には多種多様な細菌が混在した状態で存在するため、その細菌群の中から、膜小胞を活発に放出する細菌をいち早く検出、評価及び/又は分取することも可能となる。例えば、本開示の第一側面に係る方法で得られた膜小胞産生菌、膜小胞産生能が高いと評価された膜小胞産生菌又は分取した膜小胞産生菌は、例えばドラッグデリバリーシステム又はワクチン等の担体として利用するための膜小胞の製造に使用することができる。また、これらの膜小胞産生菌に、薬剤又はワクチンの有効成分又はその前駆体を導入することによって、有効成分又はその前駆体を含む膜小胞の製造、すなわち治療剤又はワクチンとして使用可能な膜小胞の製造を行うことができる。また、これらの膜小胞産生菌を、活性汚泥法における活性汚泥として使用することができる可能性もある。さらに、第一側面に係る膜小胞産生菌の検出方法によって、複合微生物系の中から膜小胞産生菌を検出し、系統学的に解析することによって、様々な特性を有する膜小胞を含み、かつ系統的に整理された膜小胞及び/又は膜小胞産生菌のライブラリーの構築が期待できる。
【0052】
<他の側面>
本開示の他の一側面は、膜小胞産生菌を検出するためのキットであって、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ、及び膜小胞産生菌に上記蛍光プローブを接触させ、上記蛍光プローブで標識された上記膜小胞産生菌の蛍光を測定する旨が記載された添付文書を含む、キットである。この場合、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ(高曲率膜認識プローブ)としては、本開示の第一側面において用いるものと同様のものを用いることができる。キットに含まれる高曲率膜認識プローブは、塩の態様であってよく、高曲率膜認識プローブ又はその塩の溶媒和物の態様であってもよい。また、添付文書における記載は、本開示の第一側面に係る膜小胞産生菌を検出する方法に対応する記載であってよい。
【0053】
本開示の他の一側面は、膜小胞産生菌を分取するためのキットであって、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ、及び上記蛍光プローブと接触させた場合の蛍光強度が所定の値より大きい膜小胞産生菌を分取する旨が記載された添付文書を含む、キットである。この場合、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ(高曲率膜認識プローブ)としては、本開示の第一側面において用いるものと同様のものを用いることができる。キットに含まれる高曲率膜認識プローブは、塩の態様であってよく、高曲率膜認識プローブ又はその塩の溶媒和物の態様であってもよい。また、添付文書における記載は、本開示の第一側面に係る膜小胞産生菌を分取する方法に対応する記載であってよい。好ましい一実施形態において、本開示の他の一側面は、膜小胞産生能が高い膜小胞産生菌を分取するためのキットであって、高曲率の脂質二重膜を選択的に標識する蛍光プローブ、及び上記蛍光プローブと接触させた場合の蛍光強度が所定の値より大きい膜小胞産生菌を、膜小胞生成能が高い膜小胞産生菌であるとして分取する旨が記載された添付文書を含む、キットである。この場合、添付文書における記載は、本開示の第一側面に係る膜小胞産生能の高い膜小胞産生菌を分取する方法に対応する記載であってよい。
【実施例0054】
以下に、実施例を用いて本開示をより詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1:高曲率膜認識プローブを用いた膜小胞産生菌(緑膿菌Pseudomonasaeruginosa PAO1株)の標識]
野生株の緑膿菌Pseudomonas aeruginosa PAO1株及びその膜小胞形成低下株DpqsA株を用いて、膜小胞形成能と、高曲率膜認識プローブを用いた蛍光標識との関係を検証した。DpqsA株は膜小胞の形成を促進するシグナル物質であるPseudomonas quinolone signal(PQS)を産生しない変異株である。PQSは細胞外に放出された後に細胞表層に挿入されることにより細胞外膜を湾曲させ、膜小胞形成を誘発する(非特許文献3)。したがって、DpqsA株は、PAO1株と比較して膜小胞産生能が大幅に低下している。以降の実施例で用いた緑膿菌Pseudomonasaeruginosa PAO1株ならびにDpqsA株は、非特許文献3に記載の細菌株を用いた。
【0056】
試験管に入った5mLのLB液体培地に緑膿菌PseudomonasaeruginosaのPAO1株又はそのDpqsA株を植菌し、30℃で振盪して前培養した。その前培養液を600nmの濁度が0.1となるように5mLのLB液体培地に植えつぎ、30°C、200rpmで6時間振盪培養した。培養液を1.5mLチューブに入れ、遠心分離機で6,000×g,5minで遠心した。上清を捨て、ペレット状になった細菌をPBSで再懸濁し、2μMとなるように高曲率膜認識プローブApoC-NR(非特許文献5)又はコントロールプローブApoCmut-NR(ApoC-NRの11番目のロイシンがプロリンに置換されているため、高極率膜を認識しない。非特許文献5;ペプチド部分のアミノ酸配列を配列番号7として記載)を添加し、室温で5分反応させた。標識された細菌の懸濁液をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかけ、蛍光顕微鏡(Olympus IX-73、励起波長530-550nm、蛍光波長575-625nm)で100倍の対物レンズを用いて観察した。
【0057】
結果を図1に示す。図1によれば、膜小胞産生能が高い野生株のPAO1株に高曲率膜認識プローブApoC-NRを接触させた場合に、細菌から蛍光が観測されたのに対し、野生株のPAO1株にコントロールプローブApoCmut-NRを接触させた場合、及び膜小胞形成低下株DpqsA株にApoC-NRを接触させた場合には、細菌から蛍光が観測されなかった。このことから、高曲率膜認識プローブを膜小胞産生菌に接触させ、プローブによって標識された膜小胞産生菌の蛍光を測定することによって、膜小胞産生菌を検出できることが明らかとなった。
【0058】
[実施例2:高曲率膜認識プローブを用いた膜小胞産生菌(Buttiauxellaagrestis JCM1090T株のDtolB株)の標識]
野生株のButtiauxella agrestis JCM1090T株及びその膜小胞過剰形成株DtolB株を用いて、膜小胞形成能と高曲率膜認識プローブを用いた蛍光標識との関係を検証した。DtolB株は野生株に比べて約15倍の膜小胞形成能を有しており、放出された膜小胞は小型、多重膜小胞、多胞膜小胞など多岐にわたる形状である(非特許文献12)ことが、本発明者らによって見出されている。さらにDtolB株では細胞の形態が変化しており、細胞表層に微細な突起が形成されることが確認されている。以降の実施例で用いたButtiauxella agrestis JCM1090T株は、理化学研究所バイオリソースセンターから譲渡されたものを用いた。以降の実施例で用いたButtiauxella agrestis JCM1090T株のDtolB株は、非特許文献12に記載の株を使用した。
【0059】
試験管に入った5mLのLB液体培地に野生株のButtiauxellaagrestis JCM1090T株又はその膜小胞過剰形成株DtolB株を植菌し、30°Cで振盪して前培養した。その前培養液を600nmの濁度が0.01となるように5mLのLB液体培地に植えつぎ、30℃、200rpmで16時間振盪培養した。培養液を1.5mLチューブに入れ、遠心分離機で6,000×g,5minで遠心した。上清を捨て、ペレット状になった細菌をPBSで再懸濁し、2μMとなるように高曲率膜認識プローブApoC-NR又はコントロールプローブApoCmut-NRを添加し、室温で5分反応させた。標識された細菌の懸濁液をスライドガラスに滴下し、カバーガラスをかけ、蛍光顕微鏡(Olympus IX-73、励起波長530-550nm、蛍光波長575-625nm)で100倍の対物レンズを用いて観察した。
【0060】
結果を図2に示す。図2によれば、ApoC-NRを用いた場合、膜小胞産生能が低い野生株では細菌から蛍光が観測されなかったのに対し、膜小胞形成能が過剰なDtolB株では、細菌から蛍光が観測された。また、コントロールプローブApoCmut-NRを用いたとしても、DtolB株から蛍光が観測されなかった。このことから、実施例1において実証した、高曲率膜認識プローブを用いた膜小胞産生菌の検出は、緑膿菌Pseudomonas aeruginosa PAO1株に限らない膜小胞産生菌において可能であることが示された。
【0061】
[実施例3:高曲率膜認識プローブを接触させることの、細菌の生育への影響の検証]
高曲率膜認識プローブを接触させることが、細菌の生育に影響を与えるか否かを検証した。
【0062】
実施例2と同様の方法でButtiauxella agrestis JCM1090株のDtolB株を培養し、PBSで洗浄後、2μMとなるように高曲率膜認識プローブApoC-NR若しくはコントロールプローブApoCmut-NR、又はPBSを添加して、室温で5分反応させた。反応後のサンプルを10分の1となるよう順次希釈して、7.5μLをLB寒天培地に滴下した。寒天培地を30℃で一晩培養し、明視野像を取得した。結果を図3に示す。図3によれば、高曲率膜認識プローブApoC-NRを添加した場合であっても、Buttiauxella agrestis JCM1090株のDtolB株は、コントロールプローブApoCmut-NR又はPBS群を添加した場合と同様に生育したことから、高曲率膜認識プローブを接触させることは細菌の生育に影響を与えないことが明らかとなった。よって、本開示の方法によれば、膜小胞産生菌が生きたまま、かつ膜小胞産生菌の生育への影響を抑えながら、膜小胞産生菌を検出することが可能であることが示された。
【0063】
[実施例4:高曲率膜認識プローブを用いた、高い膜小胞産生能を有する膜小胞産生菌の分取可否の検討]
高曲率膜標識プローブで蛍光標識した細菌を分離可能か検証した。実施例2と同様に、B.agrestis JCM1090株及びそのDtolB株の培養及び高曲率膜認識プローブApoC-NRでの標識を行った。またコントロールとして、ApoC-NRで標識しなかった細菌も用意した。これらの細菌をフローサイトメーター(SONY社製)を用いて解析した。結果を図4に示す。野生株をプローブで標識しなかった場合の結果を図4のAに示す。野生株をApoC-NRで標識した結果を図4のBに示す。DtolB株をプローブで標識しなかった場合の結果を図4のCに示す。DtolB株をApoC-NRで標識した結果を図4のDに示す。図4のA~Dにおいて、縦軸のFSC(Forward Scatter、前方散乱光)は細胞のサイズを示し、横軸のRed FluorescenceはApoC-NR由来の蛍光を示す。これらの結果によれば、ApoC-NRを接触させた野生株(B)に比べてDtolB株(D)では高い蛍光強度の位置にプロットが多く、ゲーティングにより膜小胞産生能が高い膜小胞産生菌を選別可能であった。このことから、本開示の方法によれば、細菌の1細胞レベルで膜小胞産生菌の検出及び膜小胞産生能の評価が可能であることが示された。また、高曲率膜標識プローブを接触させた細菌を、フローサイトメトリー法によってセルソーティングすることで、膜小胞産生能が高い膜小胞産生菌を分取可能であることが示された。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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