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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175783
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】密閉式混練機
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/16 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
F16J15/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093786
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】貝ヶ石 康平
(72)【発明者】
【氏名】片岡 保人
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 瑛介
(72)【発明者】
【氏名】財前 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄介
【テーマコード(参考)】
3J043
【Fターム(参考)】
3J043AA15
3J043CA04
3J043CB16
3J043CB20
3J043CB24
3J043DA01
(57)【要約】
【課題】混練ロータのロータ軸部とチャンバとの間の漏出防止部に供給される潤滑油の油膜厚みを安定して維持することが可能な密閉式混練機を提供する。
【解決手段】混練機1の漏出防止部100は、混練ロータのロータ軸部を囲むようにケーシングに取り付けられた固定側シール10と、前記固定側シール10に対向するようにロータ軸部に取り付けられ、固定側シール10に対して摺動しながら回転可能な回転側シール9と、固定側シール10と回転側シール9との間の摺動部に潤滑油を供給する潤滑油供給機構50とを含む。潤滑油供給機構50は、前記摺動部に潤滑油を間欠的に供給するように潤滑油の供給動作と停止動作とを周期的に繰り返す。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被混練物を内部に収納するチャンバを含むケーシングと、
前記チャンバの外部に延びるロータ軸部と、前記チャンバの内部に配置される混練翼部とを含み、回転することで前記被混練物を前記チャンバ内で混練する混練ロータと、
前記チャンバ内の前記被混練物が前記チャンバの外部に漏出することを防止する漏出防止部と、
を備え、
前記漏出防止部は、
前記ロータ軸部を囲むように前記ケーシングに取り付けられた固定側シールと、
前記固定側シールに対向するように前記ロータ軸部に取り付けられ、前記固定側シールに対して摺動しながら回転可能な回転側シールと、
前記固定側シールと前記回転側シールとの間の摺動部に潤滑油を供給する潤滑油供給機構とを含み、前記潤滑油供給機構は、前記摺動部に前記潤滑油を間欠的に供給するように前記潤滑油の供給動作と停止動作とを周期的に繰り返す、密閉式混練機。
【請求項2】
前記固定側シールに複数の押圧箇所で接触して、前記固定側シールを前記回転側シールに向かって押圧する押圧部材を更に備え、
前記潤滑油供給機構は、前記複数の押圧箇所の各々の近傍において、前記摺動部に潤滑油を供給する複数の注油口を有する、請求項1に記載の密閉式混練機。
【請求項3】
前記固定側シールのうち、前記回転側シールに対向する表面には環状の溝が設けられており、当該溝の深さが前記回転側シールの回転方向に沿って異なるように設定されている、請求項2に記載の密閉式混練機。
【請求項4】
前記注油口は、前記押圧箇所に対して前記回転方向上流側に配置され、
前記溝の深さは、前記注油口から前記押圧箇所に近づくにつれて浅くなるように設定されている、請求項3に記載の密閉式混練機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉式混練機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム、プラスチックなどの被混練物を各種の添加剤とともに混練する密閉式混練機が知られている。特許文献1には、このような密閉式混練機として、チャンバと、一対の混練ロータと、を有するものが開示されている。チャンバは、混練室を形成し、一対の混練ロータは、混練室に並んで配置され回転する。一対の混練ロータとチャンバとの間で被混練物にせん断力が付与され、前記被混練物が混練される。
【0003】
また、特許文献1に記載された技術では、チャンバと混練ロータのロータ軸部との間のシール部に潤滑油が供給され、その供給量を混練ロータの回転数に合わせて調整する機構が設けられている。具体的に、当該機構は、混練ロータの低速運転時に潤滑油の供給量を小さくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6526439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、混練ロータの回転数を変更しながら運転する場合には所定の効果が見込まれるが、混練ロータを一定速度下で運転する定常状態では、潤滑油の供給量を低減することができない。また、混練ロータの回転数を低速に設定した場合、潤滑油の供給量を制御する電動モータの回転数を低下させるため、潤滑油の油膜厚みが過剰に小さくなり、周辺部材の摩耗や被混練物の漏出が発生しやすいという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、摺動部に供給される潤滑油の全体の油量を減らしつつ、混練ロータのロータ軸部とチャンバとの間の漏出防止部に供給される潤滑油の油膜厚みを安定して維持することが可能な密閉式混練機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る密閉式混練機は、被混練物を内部に収納するチャンバを含むケーシングと、前記チャンバの外部に延びるロータ軸部と、前記チャンバの内部に配置される混練翼部とを含み、回転することで前記被混練物を前記チャンバ内で混練する混練ロータと、前記チャンバ内の前記被混練物が前記チャンバの外部に漏出することを防止する漏出防止部と、を備える。前記漏出防止部は、前記ロータ軸部を囲むように前記ケーシングに取り付けられた固定側シールと、前記固定側シールに対向するように前記ロータ軸部に取り付けられ、前記固定側シールに対して摺動しながら回転可能な回転側シールと、前記固定側シールと前記回転側シールとの間の摺動部に潤滑油を供給する潤滑油供給機構とを含み、前記潤滑油供給機構は、前記摺動部に前記潤滑油を間欠的に供給するように前記潤滑油の供給動作と停止動作とを周期的に繰り返す。
【0008】
本構成によれば、摺動部に供給される潤滑油の全体の油量を減らしつつ、潤滑機能に必要な油膜厚みを安定して維持することができる。この結果、油使用量を減少させることによって、廃油による環境への影響が少なく、混練機のランニングコストを低減することも可能になる。
【0009】
上記の構成において、前記固定側シールに複数の押圧箇所で接触して、前記固定側シールを前記回転側シールに向かって押圧する押圧部材を更に備え、前記潤滑油供給機構は、前記複数の押圧箇所の各々の近傍において、前記摺動部に潤滑油を供給する複数の注油口を有するものでもよい。
【0010】
本構成によれば、押圧部材の押圧箇所において固定側シールと回転側シールとの間のシール圧力が最も高くなり、回転方向において押圧箇所から最も離れた点では前記シール圧が低くなる。仮に前記シール圧が低い箇所に注油口を設けた場合、注油圧によって2つのシールの間隙が開き、油の流出量が増えるため、潤滑油を浪費することになる。一方、本構成によれば、押圧部材の押圧箇所における油膜厚みを相対的に大きくするとともに、油膜切れを効果的に防止することができるため、潤滑油の供給量を少なくしても漏出防止部のシール機能を維持することができる。
【0011】
上記の構成において、前記固定側シールのうち、前記回転側シールに対向する表面には環状の溝が設けられており、当該溝の深さが前記回転側シールの回転方向に沿って異なるように設定されているものでもよい。
【0012】
本構成によれば、溝の深さが回転方向に沿って異なるように設定されるため、溝内の潤滑油の圧力を部分的に変更することが可能になり、その圧力差によって溝内の潤滑油の流れを調整することが可能になる。
【0013】
上記の構成において、前記注油口は、前記押圧箇所に対して前記回転方向上流側に配置され、前記溝の深さは、前記注油口から前記押圧箇所に近づくにつれて浅くなるように設定されているものでもよい。
【0014】
本構成によれば、溝による油だまり効果と、溝内に設けられた傾斜の楔効果とによって、押圧箇所の近傍の圧力を相対的に高くすることができるため、潤滑油の供給量を少なくしても油膜切れを効果的に防止することができ、漏出防止部のシール機能を維持することができる。特に、注油口から溝内に流入した潤滑油が、押圧箇所で回転方向下流側への移動が阻まれ、回転方向上流側に折り返して流れていくため、その周囲の油膜を厚くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、摺動部に供給される潤滑油の全体の油量を減らしつつ、混練ロータのロータ軸部とチャンバとの間の漏出防止部に供給される潤滑油の油膜厚みを安定して維持することが可能な密閉式混練機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る密閉式混練機の断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る密閉式混練機の漏出防止部を示す正面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る密閉式混練機の漏出防止部への給油構造を示す模式的な斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る密閉式混練機の給油機構の回転数に応じたシール部の油膜厚みの推移を示すグラフである。
図5図4のグラフの一部を拡大したグラフである。
図6】本発明の一実施形態に係る密閉式混練機の給油機構における平均注油量を示すグラフである。
図7】密閉式混練機において、時間あたりの総注油量と油膜厚みとの関係を示すグラフである。
図8】本発明の変形実施形態に係る密閉式混練機の漏出防止部への給油構造を示す模式的な斜視図である。
図9図8の漏出防止部の平面図である。
図10図9の漏出防止部の断面XI-XIを含む断面斜視図である。
図11図9の漏出防止部の断面XI-XIにおける断面図である。
図12図10図11に示す固定側シールの溝の深さの分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る混練機1(密閉式混練機)について説明する。図1は、本実施形態に係る混練機1の断面図である。図2は、混練機1の漏出防止部100を示す正面図である。図3は、混練機1の漏出防止部100への給油構造を示す模式的な斜視図である。以下、混練機1の構造および作動を説明する。
【0018】
図1を参照して、混練機1は、一対の混練ロータ2と、ケーシング3と、チャンバ4と、ラム5と、ドロップドア6と、を備える。チャンバ4は、ケーシング3の内部に形成された空間部である。
【0019】
一対の混練ロータ2は、回転され、高分子材料などからなる被混練物をチャンバ4の内部で混練する。各混練ロータ2は、ロータ軸部2Aと、混練翼部2Bとを有する。ロータ軸部2Aは、チャンバ4の外部に延びるとともに、ケーシング3に回転可能に支持されている。混練翼部2Bは、チャンバ4の内部に配置され、ロータ軸部2Aから径方向外側に突設された翼部である。混練翼部2Bは、回転によって被混練物にせん断力を付与する。
【0020】
ケーシング3の内面壁は、図1に示す縦断面でまゆ型形状に形成されており、このケーシング3のうち図1の紙面と直交する方向の両側面には、図2に示すようにエンドプレート8がそれぞれ接合されている。この結果、左右一対の混練室4aを含むチャンバ4が、被混練物を内部に収容できるように形成されている。
【0021】
また、ケーシング3の上側中央部には、ゴムやプラスチックなどの被混練物をチャンバ4に投入する投入口3aが形成されている。そして、この投入口3aには、チャンバ4に投入された被混練物を圧入するラム5が昇降可能に設けられている。一方、チャンバ4の下側中央部には、所望の混練状態となった被混練物を外部に排出できるように、排出口3bが形成されているとともに、この排出口3bを開閉するドロップドア6が設けられている。そして、これらラム5およびドロップドア6は、混練時にケーシング3に密接することによって、チャンバ4の内壁面の一部を構成するようになっている。
【0022】
図2図3を参照して、混練機1は、漏出防止部100を更に備える。漏出防止部100は、チャンバ4に圧入され混練されている被混練物等が、混練ロータ2の端部から混練室4aの
外部へダストとして漏れ出さないようにするためのダストストップ装置として機能する。
【0023】
漏出防止部100は、回転側シール部材9と、固定側シール部材10と、複数の冷却水配管16と、複数の潤滑油配管18と、ヨーク20と、一対のヨークピン21と、ヨーク鋲22と、油圧シリンダ23と、を有する。更に、混練機1は、漏出防止部100に潤滑油を供給する潤滑油供給機構50を有する(図3)。
【0024】
固定側シール部材10は、リング形状を有し、ロータ軸部2Aを囲むようにケーシング3に取り付けられている。回転側シール部材9は、リング形状を有し、固定側シール部材10に対向するようにロータ軸部2Aに取り付けられている。回転側シール部材9は、固定側シール部材10に対して摺動しながらロータ軸部2Aと一体で回転可能とされている。換言すれば、回転側シール部材9が回転するのに対し、固定側シール部材10は回転しない。そして、回転側シール部材9および固定側シール部材10は、互いに対向するリング状の対向面(表面、シール面)を有する。この対向面同士の間にシール部が形成され、前記ダストの漏出が防止される。
【0025】
固定側シール部材10は、被混練物や潤滑油を外部に漏洩させないように、その混練ロータ2側において不図示のシールリングを介してエンドプレート8に液密状態に嵌合されている。また、図2に示すように、エンドプレート8には、冷却水配管16および潤滑油配管18がそれぞれ接続されており、冷却水配管16に冷却水が流入されることにより固定側シール部材10が冷却される。一方、図3の潤滑油供給機構50から各潤滑油配管18に潤滑油が流入されることにより固定側シール部材10と回転側シール部材9との間に潤滑油が供給される。
【0026】
ここで、回転側シール部材9および固定側シール部材10の各摺動面は、例えば、硬質肉盛金属により形成されている。なお、これらの摺動面に適用できる材料としては、各種鋼、銅合金の他、セラミックスや焼結カーボンなどの油含浸していない材料、砲金や鋳鉄、焼結金属などの油含浸金属を挙げることができる。
【0027】
ヨーク20は、油圧シリンダ23の作動力を、固定側シール部材10に伝えるための板材であり、一方の端部に油圧シリンダ23が取り付けられ、二股に分かれた他方の端部にはそれぞれヨークピン21が取り付けられている。また、ヨーク20の二股に分かれる部分(ヨーク20のほぼ中心部分)にはヨーク鋲22が貫挿され、このヨーク鋲22を支点としてヨーク20が揺動する。また、ヨーク鋲22は前記エンドプレート8に固設されており、ヨーク鋲22においてヨーク20がエンドプレート8に支持されている。また、2つのヨークピン21の先端部は、固定側シール部材10のうちロータ軸部2A外側の端面に形成された穴にそれぞれ嵌められている。
【0028】
固定側シール部材10は、ヨーク20の二股に分かれた端部にそれぞれ取り付けられたヨークピン21により、その回転が防止される。なお、油圧シリンダ23により、ヨーク20を介してヨークピン21が固定側シール部材10に押し付けられることによって、固定側シール部材10の回転はより確実に防止される。
【0029】
油圧シリンダ23は、シリンダ本体とピストンロッドとを有し、その内部に作動油の給排を受けることで、前記ピストンロッドが直線運動するリニアアクチュエータである。なお、リニアアクチュエータとは、直線運動するアクチュエータのことをいい、油圧シリンダ23に限られることはない。また、リニアアクチュエータの作動源は、油圧に限られず他の液体であってもよいし、空圧シリンダを用いることもできる。
【0030】
図3を参照して、潤滑油供給機構50は、モータ51と、給油機構52と、潤滑油タンク53と、油量調整機構54と、コントローラ60とを有する。
【0031】
給油機構52は、クランクシャフト52Aと、当該クランクシャフトの3つのクランク部にそれぞれ接続された3つの吐出シリンダ52B(プランジャ)と、を有する。モータ51は、コントローラ60からの指令信号を受けて回転し、給油機構52内のクランクシャフト52Aを回転させる。各吐出シリンダ52Bは、プランジャポンプに相当し、潤滑油タンク53から潤滑油を吸引し、前記クランクシャフト52Aの回転に伴って前記潤滑油を漏出防止部100に向かって吐出する。この際、図2の潤滑油配管18を通じて潤滑油が供給され、固定側シール部材10に形成された注油口18Aに前記潤滑油が流入する。なお、注油口18Aは固定側シール部材10を貫通して回転側シール部材9との摺動部に連通している。この結果、回転側シール部材9と固定側シール部材10との間に、潤滑油層W(図3)が形成される。なお、前記クランクシャフト52Aの3つのクランク部は、回転方向に沿って120度間隔に配置されており、互いに等間隔の位相差が設定されている。
【0032】
油量調整機構54は、給油機構52のクランクシャフト52Aが1回転する際の、吐出シリンダ52Bのピストンのストロークを調整するものであり、この結果、各吐出シリンダ52Bからの潤滑油52Cの吐出量が調整される。油量調整機構54は、作業者によって操作されてもよいし、コントローラ60から受ける指令信号に応じて、前記ピストンのストロークを調整するものでもよい。
【0033】
図3に示すように、本実施形態では、固定側シール部材10に形成された3箇所の注油口18Aから固定側シール部材10と回転側シール部材9との間に潤滑油が供給される。この際、潤滑油供給機構50のクランクシャフトの3つのクランク部の位相差によって、各注油口18Aに潤滑油が順に供給される。図4は、本実施形態に係る密閉式の混練機1の潤滑油供給機構50の回転数に応じたシール部の油膜厚みの推移を示すグラフである。図5は、図4のグラフの一部(太枠部)を拡大したグラフである。図4は、総注油量一定条件の下、モータ51の回転数に応じた給油間隔ごとの油膜厚みを示している。
【0034】
図4のうち、60rpm(3クランク)以外の4つの条件のグラフは、仮想的に図3のクランクシャフト52Aに1つのクランク部が配置された場合の、モータ51の回転数に応じた油膜厚みの推移を示している。図4に示されるように、モータ51の回転数が大きいほど、すなわち、給油間隔が短いほど油膜厚みの変動が小さくなり、最小油膜厚みが大きくなっていることが分かる。
【0035】
一方、図4の60rpm(3クランク)は、図3に示すようにクランクシャフト52Aに3つのクランク部が設けられた場合において、モータ51が60rpmで回転された場合の油膜厚みの推移を示している。図4図5に示すように、位相が120度ずつ異なるクランク部に吐出シリンダ52Bをそれぞれ設けた場合、他の4つの条件と比較して最小油膜厚みが最も大きくなることが確認される。
【0036】
図6は、本実施形態に係る混練機1の潤滑油供給機構50における平均注油量を示すグラフであって、図4図5の60rpm(3クランク)の条件に相当するグラフである。図6では、3つのクランク部に対応する吐出シリンダからの注油量がq(+0°)、q(+120°)、q(+240°)で示されており、その平均注油量がsum qで示されている。図6に示すように、各吐出シリンダからの注油量が理想的にsin波で表されるとすると、その平均注油量は3つのsin波の重ね合わせとなり、間欠供給でありながら、連続供給に近い状態を形成することができる。この結果、前述のように、最小油膜厚みを大きく維持することができる。一方、連続的に一定量の潤滑油を供給する場合と比較して、無駄な供給を低減し、油膜厚みを安定して維持することができる。
【0037】
図7は、密閉式混練機について、時間あたりの総注油量と油膜厚みとの関係を示すグラフである。当該グラフは、本実施形態に係る混練機1の効果を説明するために行った実験結果に相当する。図7の油膜厚みは、一例として注油口18A直下の厚みである。また、表1は、図7に示される各データの詳細を示すものである。
【表1】
【0038】
図7および表1は、モータ51の回転数を60rpm、吐出シリンダ52Bによる1回転あたりの潤滑油の給油量を0.75ccとした場合(太枠内)の油膜厚みを基準として、1回転あたりの給油量を変えずにモータ51の回転数を小さくした場合(白丸)と、モータ51の回転数を変えずに1回転あたりの給油量の方を小さくした場合(黒丸)との、それぞれ油膜厚みの比較を行ったものである。図7に示すように、1回転あたりの給油量を変化させたデータ群よりも、モータ51の回転数を変化させたデータ群の方が、油膜厚みが大きく変化している。これらの結果から、モータ51の回転数の方が、1回転あたりの給油量よりも油膜厚みに大きく寄与していることが確認される。すなわち、図4図5のグラフと同様に、油膜厚みは、給油間隔に大きく関係していることがわかる。
【0039】
本実施形態では、上記の結果を踏まえて、回転側シール部材9と固定側シール部材10との間の摺動部に潤滑油を供給する潤滑油供給機構50が、前記摺動部に潤滑油を間欠的に供給するように前記潤滑油の供給動作と停止動作とを周期的に繰り返す。
【0040】
このような構成によれば、前記摺動部に供給される潤滑油の全体の油量を減らしつつ、潤滑機能に必要な油膜厚みを安定して維持することができる。この結果、油使用量を減少させることによって、廃油による環境への影響が少なく、混練機1のランニングコストを低減することも可能になる。更に、本実施形態では、潤滑油供給機構50によって潤滑油を間欠的に供給するため、パルス的な供給作用によって摺動部における瞬間的な油の流出を防止することが可能になり、より潤滑効果を高めることができる。
【0041】
また、本実施形態では、ヨーク20(押圧部材)が、固定側シール部材10に複数のヨークピン21(押圧箇所)において接触し、固定側シール部材10を回転側シール部材9に向かって押圧する。そして、潤滑油供給機構50は、前記複数のヨークピン21の各々の近傍において、前記摺動部に潤滑油を供給する複数の注油口18Aを有する。ここで、一例として、上記近傍とは、回転方向において±10度の範囲とすることができる。
【0042】
このような構成によれば、ヨーク20のヨークピン21において固定側シール部材10と回転側シール部材9との間のシール圧力が最も高くなり、回転方向においてヨークピン21から最も離れた点では前記シール圧が低くなる。仮に前記シール圧が低い箇所に注油口18Aを設けた場合、注油圧によって2つのシール部材の間隙が開き、油の流出量が増えるため、潤滑油を浪費することになる。一方、上記のような構成によれば、ヨーク20のヨークピン21近傍における油膜厚みを相対的に大きくするとともに、油膜切れを効果的に防止することができるため、潤滑油の供給量を少なくしても漏出防止部100のシール機能を維持することができる。
【0043】
なお、本実施形態のような間欠的な給油機構では、給油の停止タイミングにおいて大きく油膜厚みが減少する可能性があり、油膜が小さいときには摩耗が起こりやすくなる。したがって、このような間欠的な給油機構よりも、給油量が変動しない静圧タイプの給油機構の方が油膜形成に一見有利である。しかし、このように常に一定量の油を供給する静圧機構は構造が複雑となることが知られている。そこで、本実施形態では、間欠的な給油機構を採用しつつ、いかにして給油間隔を短くする、すなわち、静圧タイプの給油機構に近づけるかに着目しており、その結果、油膜厚みを増加させることを実現したものである。
【0044】
ここで、本発明の発明者は、上記の実験に加えて更なる実験を鋭意行った結果、1つの注油口18Aから1秒間に1回以上給油することが望ましく、1秒間に1.5回以上給油することが更に望ましく、1秒間に2.0回以上給油することが最も望ましいことを、新たに知見した。このような構成によれば、2つのシール間の摺動部に潤滑油が供給されない過程を短くすることができる。
【0045】
また、潤滑油の消費量を抑制するためには、1回転あたりの給油量を0.3cc以下に設定することがより望ましい。
【0046】
更に、本実施形態では、図3に示すように、潤滑油供給機構50が給油タイミングのそれぞれ異なる(位相差を有する)複数のプランジャポンプ構造を有することで、回転側シール部材9と固定側シール部材10との間への給油間隔を短くすることができる。特に、本実施形態のように、モータ51の1回転当たりの注油数を3つ以上、かつ、それぞれに位相差を設けることで給油間隔をより短くすることができる。
【0047】
次に、本発明の変形実施形態について説明する。図8は、本変形実施形態に係る混練機1の漏出防止部100への給油構造を示す模式的な斜視図である。図9は、図8の漏出防止部100の平面図である。図10は、図9の漏出防止部100の断面XI-XIを含む断面斜視図である。図11は、図9の漏出防止部100の断面XI-XIにおける断面図である。図12は、図10図11に示す固定側シール部材10の溝10Aの深さの分布を示すグラフである。図12のグラフの横軸は、図9の角度θに対応している。また、図12に記載した「押付け」部分は、図9乃至図11のヨークピン21に相当する。
【0048】
図8を参照して、本実施形態では、固定側シール部材10に2つの注油口18Aが設けられている。なお、この場合、図3に示される潤滑油供給機構50も、同様に2つの吐出シリンダを有しており、その位相差によって交互に給油される。そして、図10図11に示すように、固定側シール部材10のうち、回転側シール部材9に対向する表面には環状の溝10Aが設けられている。この結果、回転側シール部材9と固定側シール部材10との間において、溝10Aが潤滑油を貯留する効果を有する(油だまり効果)。
【0049】
また、固定側シール部材10の溝10Aの深さは回転側シール部材9の回転方向に沿って異なるように設定されている。特に、本変形実施形態では、注油口18Aが、ヨークピン21に対して前記回転方向上流側に配置されており、図11図12に示すように、溝10Aの深さは、注油口18Aからヨークピン21に近づくにつれて浅くなるように設定されている。
【0050】
図11の矢印を参照して、回転側シール部材9が回転方向に回転した状態で、注油口18Aから潤滑油が供給されると、溝10Aに流入した潤滑油は回転側シール部材9の回転力によってヨークピン21側に移動しようとする。しかしながら、上記のように溝10Aの深さが浅くなるように傾斜が設けられているため、その流れが押さえつけられる(楔効果)。
【0051】
このような構成によれば、溝10Aによる油だまり効果と、溝10A内に設けられた傾斜の楔効果とによって、ヨークピン21の近傍の圧力を相対的に高くすることができる。このため、潤滑油の供給量を少なくしても油膜切れを効果的に防止することができ、漏出防止部100のシール機能を安定して維持することができる。特に、注油口18Aから溝10A内に流入した潤滑油は、ヨークピン21の近傍で回転方向下流側への移動が阻まれ、回転方向上流側に流れていく。このため、注油された潤滑油に対して回転方向に沿った移動力を付与することが可能になり、潤滑油の折り返しによって、油膜厚みを大きくすることができる。更には、折り返された潤滑油によって、溝10Aの回転方向の全域に安定して潤滑油を供給することができる。この結果、固定側シール部材10に対して回転側シール部材9を相対的に浮かせて、混練ロータ2の回転性能を安定して維持することができる。
【0052】
更に、上記のような構成によれば、回転方向に沿って見た場合、機械的な押圧力が大きい領域への潤滑油の供給が促進され、機械的な押圧力が弱い領域への潤滑油の供給が低減される。この結果、回転側シール部材9と固定側シール部材10との間の油の流出量のムラが低減され、少ない油量でシール機能を保つことが可能になる。
【0053】
なお、溝10Aの深さは、上記のような形態に限定されるものではない。例えば、注油口18Aの数、形状、流路構造などに応じて、溝10Aの深さが設定されてもよい。溝10Aの深さが回転側シール部材9の回転方向に沿って異なるように設定されていることで、溝10A内の潤滑油の圧力を部分的に変更することが可能になり、その圧力差によって溝10A内の潤滑油の流れを調整することが可能になる。
【0054】
以上、本発明の各実施形態に係る混練機1について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、以下に例示されるような更なる変形実施形態ととることができる。
【0055】
上記の図2および図3に示す実施形態では、潤滑油供給機構50が、モータ51に接続されたクランクシャフト52Aと、3つの吐出シリンダ52Bから構成される態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。固定側シール部材10の複数の注油口18Aに連通する給油路に、開閉弁が設けられ、当該開閉弁の開閉によって潤滑油の供給動作と停止動作とが周期的に繰り返されてもよい。
【0056】
また、上記の各実施形態において、ヨーク20による固定側シール部材10の固定構造は2点支持に限定されるものではなく、3点支持またはそれ以上の支持点を有するものでもよい。
【0057】
また、図3に示される3つのクランク部の位相は、120度間隔に限定されるものではない。2つのクランク部と残りの1つのクランク部との位相が180度間隔に設定されることで、3つの注油口18Aのうちの2つの注油口18Aと残りの1つの注油口18Aとに交互に潤滑油が供給されるものでもよい。
【0058】
また、上記の各実施形態のように、ヨーク20等による機械的な押圧機構を介することなく、シリンダなどのアクチュエータやばね等で個別に押圧箇所を押圧するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 混練機(密閉式混練機)
2 混練ロータ
2A ロータ軸部
2B 混練翼部
3 ケーシング
3a 投入口
3b 排出口
4 チャンバ
4a 混練室
5 ラム
6 ドロップドア
7 ロータ軸
9 回転側シール部材(回転側シール)
10 固定側シール部材(固定側シール)
10A 溝
16 冷却配管
18 潤滑油配管
18A 注油口
20 ヨーク(押圧部材)
21 ヨークピン(押圧箇所)
22 ヨーク鋲
23 油圧シリンダ
50 潤滑油供給機構
51 モータ
52 給油機構
53 潤滑油タンク
54 油量調整機構
60 コントローラ
100 漏出防止部
W 潤滑油層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12