(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175788
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】試料支持体及び試料支持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20241212BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20241212BHJP
H01J 49/42 20060101ALN20241212BHJP
H01J 49/16 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
G01N27/62 G
G01N27/62 F
H01J49/04 090
H01J49/04 500
H01J49/42 150
H01J49/16 500
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093795
(22)【出願日】2023-06-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴将
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA03
2G041DA05
2G041EA03
2G041GA03
2G041GA15
2G041GA16
2G041GA20
2G041JA06
(57)【要約】
【課題】試料の成分の検出感度を効果的に向上させることができる試料支持体及び当該試料支持体の製造方法を提供する。
【解決手段】試料支持体1は、試料Saのイオン化用の試料支持体である。試料支持体1は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、少なくとも第1表面2aに開口する不規則な多孔質構造3と、を有する基板2を備える。多孔質構造3は、互いに連結された複数の粒子31によって形成されている。複数の粒子31のうち第1表面2aを構成する粒子31Aは、第1表面2a側において凹凸構造4が形成された粗面31aと、第2表面2b側において凹凸構造4が形成されていない非粗面31bと、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のイオン化用の試料支持体であって、
第1表面と、前記第1表面とは反対側の第2表面と、前記第1表面に開口する不規則な多孔質構造と、を有する基板を備え、
前記多孔質構造は、互いに連結された複数の第1粒子によって形成されており、
前記複数の第1粒子のうち前記第1表面を構成する最外第1粒子は、前記第1表面側において凹凸構造が形成された粗面と、前記第2表面側において前記凹凸構造が形成されていない非粗面と、を有する、
試料支持体。
【請求項2】
前記多孔質構造は、それぞれ前記第1粒子よりも小さい径を有する複数の第2粒子を更に含み、
前記複数の第2粒子のうち少なくとも一部は、2以上の前記最外第1粒子の間に挟まれて保持されている、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項3】
前記複数の第2粒子のうち前記第1表面を構成する最外第2粒子は、前記第1表面側において前記凹凸構造が形成された粗面と、前記第2表面側において前記凹凸構造が形成されていない非粗面と、を有する、請求項2に記載の試料支持体。
【請求項4】
前記複数の第2粒子のうち前記第1表面を構成する最外第2粒子の前記第1表面側の面及び前記第2表面側の面のいずれにも、前記凹凸構造が形成されていない、請求項2に記載の試料支持体。
【請求項5】
前記基板は、
前記第1表面を含み、複数の前記第1粒子及び複数の前記第2粒子が混在する第1層と、
前記第1層よりも前記第2表面側に位置し、複数の前記第1粒子からなり、前記第2粒子を含まない第2層と、を有する、請求項2~4のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項6】
前記複数の第1粒子のうち前記第2表面を構成する粒子は、前記第2表面側において凹凸構造が形成された粗面と、前記第1表面側において凹凸構造が形成されていない非粗面と、を有する、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項7】
前記第1表面における前記多孔質構造の開口部を塞がず、且つ、前記最外第1粒子の前記凹凸構造の表面形状に沿って前記第1表面を覆う導電層を更に備える、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項8】
請求項1に記載の試料支持体の製造方法であって、
前記複数の第1粒子を焼結することにより、前記基板と略同一の外形を有する焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体における前記第1表面に対応する面に対する粗面化処理を実施することにより、それぞれ前記第1表面側において前記粗面が形成された複数の前記最外第1粒子を形成する粗面化工程と、を含む、試料支持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料支持体及び試料支持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料等の試料をイオン化する方法として、脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI:Desorption Electrospray Ionization)が知られている。また、このような脱離エレクトロスプレーイオン化法に適した試料支持体として、第1表面と、第1表面とは反対側の第2表面と、少なくとも第1表面に開口する不規則な多孔質構造と、を有する基板を備えた試料支持体が知られている(例えば、特許文献1参照)。上記試料支持体では、例えば、第1表面上に転写された試料に対して、帯電した微少液滴(charged-droplets)が照射されることにより、試料の脱離・イオン化がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような試料支持体においては、例えば上述した脱離エレクトロスプレーイオン化法等のイオン化法を用いた質量分析等において、試料の成分の検出感度の向上が求められている。
【0005】
本開示は、試料の成分の検出感度を効果的に向上させることができる試料支持体及び当該試料支持体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の[1]~[7]の試料支持体、及び[8]の試料支持体の製造方法を含む。
【0007】
[1]試料のイオン化用の試料支持体であって、
第1表面と、前記第1表面とは反対側の第2表面と、前記第1表面に開口する不規則な多孔質構造と、を有する基板を備え、
前記多孔質構造は、互いに連結された複数の第1粒子によって形成されており、
前記複数の第1粒子のうち前記第1表面を構成する最外第1粒子は、前記第1表面側において凹凸構造が形成された粗面と、前記第2表面側において前記凹凸構造が形成されていない非粗面と、を有する、試料支持体。
【0008】
上記[1]の試料支持体では、多孔質構造を構成する複数の第1粒子のうち第1表面を構成する最外第1粒子(すなわち、第1表面側の最表層に位置する第1粒子)は、第1表面側に凹凸構造が形成された粗面を有している。このような凹凸構造を設けることにより、測定対象の試料を粗面に好適に留めることができる。一方、最外第1粒子の粗面とは反対側の面は、凹凸構造が形成されていない非粗面とされている。これにより、試料に含まれる余分な液体成分を第1表面側から第2表面側へと好適に浸透させることができる。その結果、第1表面上に余分な液体成分が溢れることによって測定(第1表面に留まる試料の成分のイオン化)が阻害されることを抑制することができる。従って、上記[1]の試料支持体によれば、第1表面上に留まった試料の成分を効率的にイオン化することが可能となるため、試料の成分の検出感度を効果的に向上させることができる。
【0009】
[2]前記多孔質構造は、それぞれ前記第1粒子よりも小さい径を有する複数の第2粒子を更に含み、
前記複数の第2粒子のうち少なくとも一部は、2以上の前記最外第1粒子の間に挟まれて保持されている、[1]の試料支持体。
【0010】
上記[2]の構成では、多孔質構造が、複数の第1粒子だけでなく、2以上の最外第1粒子の間に挟まれて保持された第2粒子を含んで構成される。これにより、試料支持体を第1表面に対向する位置から見た場合に、第1表面における試料支持体の隙間(すなわち、多孔質構造を構成する粒子が存在しない空間)を減らすことができる。また、第1表面において、第1粒子同士の繋ぎ目だけでなく、第1粒子と第2粒子との繋ぎ目、及び第2粒子同士の繋ぎ目が加わることになる。これにより、測定対象の試料を第1表面上(特に上述した繋ぎ目の上)により一層好適に留めることができる。その結果、試料の成分の検出感度をより一層効果的に向上させることができる。
【0011】
[3]前記複数の第2粒子のうち前記第1表面を構成する最外第2粒子は、前記第1表面側において前記凹凸構造が形成された粗面と、前記第2表面側において前記凹凸構造が形成されていない非粗面と、を有する、[2]の試料支持体。
【0012】
上記[3]の構成によれば、最外第1粒子だけでなく、2以上の最外第1粒子間に位置する最外第2粒子の第1表面側の面も粗面として構成されるため、測定対象の試料を第1表面上により一層好適に留めることができる。その結果、試料の成分の検出感度をより一層効果的に向上させることができる。
【0013】
[4]前記複数の第2粒子のうち前記第1表面を構成する最外第2粒子の前記第1表面側の面及び前記第2表面側の面のいずれにも、前記凹凸構造が形成されていない、[2]の試料支持体。
【0014】
上記[3]の構成は、例えば、第1粒子の表面に対する粗面化処理と同様の処理を第1粒子よりも小径の第2粒子の表面(第1表面側の面)にも実施することにより得られる。ここで、第2粒子は第1粒子よりも小さく脆いため、上記粗面化処理において、第2粒子が粉砕されてしまうおそれがある。その結果、上記[2]の効果が低減するおそれがある。これに対して、上記[4]の構成によれば、第1粒子の表面のみに粗面化処理が実施されるため、上述したような問題を回避できる。
【0015】
[5]前記基板は、
前記第1表面を含み、複数の前記第1粒子及び複数の前記第2粒子が混在する第1層と、
前記第1層よりも前記第2表面側に位置し、複数の前記第1粒子からなり、前記第2粒子を含まない第2層と、を有する、[2]~[4]のいずれかの試料支持体。
【0016】
上記[5]の構成では、第1表面に試料を留め易くするために第1粒子及び第2粒子を混在させた第1層が設けられる一方で、第1層の下方(第2表面側)には、第2粒子を含まないことによって第1層よりも液体が通過し易い第2層が設けられている。これにより、試料支持体の第1表面に液体成分を含む測定対象の試料を転写又は滴下した場合等において、第1表面上に余分な液体成分が溢れることによって測定(第1表面に留まる試料の成分のイオン化)が阻害されることを抑制することができる。
【0017】
[6]前記複数の第1粒子のうち前記第2表面を構成する粒子は、前記第2表面側において凹凸構造が形成された粗面と、前記第1表面側において凹凸構造が形成されていない非粗面と、を有する、[1]~[5]のいずれかの試料支持体。
【0018】
上記[6]の構成によれば、第1表面及び第2表面の両方を上記[1]の効果を発揮する測定面(すなわち、測定対象の試料を支持する面)として用いることが可能になる。これにより、試料支持体のユーザ(測定者)は、試料支持体に測定対象の試料を転写又は滴下する際に、試料支持体のどちらの面が測定面であるか否かを特定する必要がないため、利便性が向上する。
【0019】
[7]前記第1表面における前記多孔質構造の開口部を塞がず、且つ、前記最外第1粒子の前記凹凸構造の表面形状に沿って前記第1表面を覆う導電層を更に備える、[1]~[6]のいずれかの試料支持体。
【0020】
上記[7]の構成によれば、上記[1]の効果を阻害することなく、レーザ脱離イオン化法等に試料支持体を用いることが可能となる。より具体的には、レーザ脱離イオン化法等を用いる場合、すなわち、第1表面においてイオン化された試料の成分をイオン検出器(グランド電極)へと導くために第1表面に電圧を印加する必要がある場合に、導電層を介して適切に電圧を印加することが可能となる。
【0021】
[8][1]~[7]のいずれかの試料支持体の製造方法であって、
前記複数の第1粒子を焼結することにより、前記基板と略同一の外形を有する焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体における前記第1表面に対応する面に対する粗面化処理を実施することにより、それぞれ前記第1表面側において前記粗面が形成された複数の前記最外第1粒子を形成する粗面化工程と、を含む、試料支持体の製造方法。
【0022】
上記[8]の製造方法によれば、複数の第1粒子に対して焼結処理及び粗面化処理を順次行うことにより、上記[1]の効果を奏する試料支持体を容易且つ安定的に得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、試料の成分の検出感度を効果的に向上させることができる試料支持体及び当該試料支持体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態の試料支持体を示す斜視図である。
【
図3】
図1の試料支持体のうち最外粒子を含む部分を模式的に示す図である。
【
図4】
図1の試料支持体の断面を示すSEM像である。
【
図5】
図4に示されるSEM像の一部の拡大図である。
【
図6】
図1の試料支持体を用いた質量分析方法における第2工程を示す図である。
【
図7】上記質量分析方法を実施する質量分析装置の構成例を示す図である。
【
図8】実施例及び比較例における微少液滴の照射領域の一例を示す図である。
【
図9】実施例及び比較例の一照射領域あたりの検出感度の測定結果を示す図である。
【
図10】第1変形例に係る試料支持体の一部を第1表面に対向する位置から見たSEM像である。
【
図11】第1変形例の第1表面を構成する粒子の配置例を模式的に示す図である。
【
図12】第1変形例に係る試料支持体の層構造を模式的に示す図である。
【
図13】第2変形例の第1表面を構成する粒子の配置例を模式的に示す図である。
【
図14】第3変形例に係る試料支持体の層構造を模式的に示す図である。
【
図15】第3変形例に係る試料支持体の最外粒子を含む部分を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
[試料支持体]
図1に示されるように、試料支持体1は、基板2を備えている。一例として、基板2は、矩形板状に形成されている。基板2は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、を有している。第1表面2aは、絶縁性(電気絶縁性)を有している。本実施形態では、基板2は、絶縁性の部材である。このため、第1表面2aだけでなく、基板2の全体が絶縁性を有している。第1表面2aは、測定対象の試料が転写又は滴下される測定面として機能する。基板2の厚さ(第1表面2aから第2表面2bまでの距離)は、例えば100μm~1500μm程度である。
【0027】
図2は、試料支持体1(多孔質構造3からなる基板2)を第1表面2aに対向する方向から撮像することにより得られたSEM像である。
図2に示されるように、基板2には、第1表面2aに開口する不規則な多孔質構造3が形成されている。本実施形態では、基板2の全体が、多孔質構造3によって形成されている。ここで、「不規則な多孔質構造」とは、例えば、空隙(細孔)が不規則な方向に延びると共に3次元上において不規則に分布している構造である。例えば、第1表面2a側の1つの入口(開口)から基板2内に入って複数の経路に枝分かれするような構造、或いは、第1表面2a側の複数の入口(開口)から基板2内に入って1つの経路に合流するような構造等も、上記不規則な多孔質構造に含まれる。一方、例えば第1表面2aから第2表面2bにかけて基板2の厚み方向(すなわち、第1表面2aと第2表面2bとが対向する方向D1)に沿って延びる複数の細孔が主要な細孔として設けられた構造(すなわち、主に一方向に延びる細孔によって構成された規則的な構造)は、不規則な多孔質構造には含まれない。
【0028】
多孔質構造3は、複数の粒子31(第1粒子)の集合体によって形成されている。複数の粒子31の集合体とは、複数の粒子31が互いに接触するように集められた構造である。すなわち、多孔質構造3は、互いに連結された複数の粒子31によって形成されている。複数の粒子31の集合体の例として、複数の粒子31同士が接合又は接着された構造が挙げられる。つまり、複数の粒子31が互いに接触した状態で固定された構造を構成するために、複数の粒子31は、融着等によって直接的に繋がっていてもよいし、他の部材を介して間接的に繋がっていてもよい。本実施形態では、複数の粒子31同士が融着によって接合されている。本実施形態では、粒子31は、絶縁性材料によって形成されている。例えば、粒子31は、ガラスによって形成されている。本実施形態では、集合体構造を製造し易くする観点から、粒子31の材料として、ガラスの中でも比較的融点が低いソーダガラスが使用されている。また、粒子31は球状に形成されている。このような球状の粒子31の例としては、ガラスビーズ等が挙げられる。
【0029】
図3に示されるように、複数の粒子31のうち第1表面2aを構成する粒子31A(最外第1粒子)は、第1表面2a側(
図3における上側)の粗面31aと、第2表面2b側(
図3における下側)の非粗面31bと、を有している。第1表面2aを構成する粒子31Aは、第1表面2a側の最表層に位置する粒子31である。
【0030】
粒子31Aの粗面31aは、基板2の第1表面2aに対向する位置から、方向D1に沿って基板2を見た場合に見える面(すなわち、
図2のSEM像に写っている粒子31Aの面)である。粗面31aには、微細な凹凸構造4が形成されている。凹凸構造4は、外側に突出する(尖った)複数の凸部4aと、内側に窪んだ複数の凹部4bと、によって構成されている。複数の凸部4a及び複数の凹部4bは、規則的に形成されてもよいし、不規則的に形成されてもよい。例えば、粗面31aは、粒子31Aの表面を荒らすための種々の公知の粗面化処理によって形成され得る。粗面化処理の例としては、サンドブラスト処理、レーザ加工処理、エッチング(ドライエッチング)、型による形成等が挙げられる。一例として、複数の粒子31Aの各々の粗面31aは、各粒子31Aに粗面31aが形成される前の状態の基板2の第1表面2a(すなわち、複数の粒子31Aの上面)に対して、サンドブラスト処理を実施することによって同じタイミングで形成される。この場合、複数の凸部4a及び複数の凹部4bが不規則的に形成された凹凸構造4が得られる。
【0031】
粒子31Aの非粗面31bは、基板2の第1表面2aに対向する位置から、方向D1に沿って基板2を見た場合に見えない面(すなわち、粗面31aの裏側の面)である。非粗面31bには、粗面31aに形成されているような微細な凹凸構造4が形成されていない。すなわち、非粗面31bは、粗面31aよりも滑らかな面とされている。非粗面31bは、上述したように第1表面2aに対向する側から実施される粗面化処理の影響を受けておらず、粒子31Aの本来の滑らかな表面形状(曲面形状、半球面形状)を有している。
【0032】
なお、第1表面2aを構成しない粒子31(すなわち、最表層を構成する粒子31Aよりも基板2(多孔質構造3)の内部に存在する粒子31)の表面は、第1表面2a側及び第2表面2b側のいずれの面についても、上述した非粗面31bによって構成されている。すなわち、基板2の内部に存在する粒子31の表面は、粒子31Aの裏面(第2表面2b側の面)と同様に、上述した粗面化処理の影響を受けておらず、粒子31の本来の滑らかな表面形状(曲面形状、球面形状)を有している。
【0033】
図4は、試料支持体1の断面を示すSEM像である。
図5は、
図4のSEM像の一部の拡大図である。
図2、
図4及び
図5に示されるように、粒子毎に若干の形状及び大きさのばらつきがあるものの、多孔質構造3を構成する複数の粒子31の各々は、ほぼ均一の大きさ(径)を有している。また、
図2及び
図5のSEM像から、第1表面2aを構成する最表層の粒子31Aの上面が微細な凹凸構造4を有する粗面31aとして構成されていることがわかる。また、
図5のSEM像から、粒子31Aの下面が凹凸構造4を含まない滑らかな曲面形状(半球面形状)を有する非粗面31bとして構成されていることがわかる。また、
図4のSEM像から、基板2の内部に存在する粒子31の表面(上面及び下面)が粒子31Aの下面と同様の非粗面31bとして構成されていることがわかる。
【0034】
[試料支持体の製造方法]
試料支持体1(多孔質構造3)は、例えば、以下のようにして製造される。まず、複数の粒子31が焼結されることにより、焼結体が得られる(焼結工程)。具体的には、複数の粒子31がプレス機等によって押し固められた状態で、粒子31の融点以下の高温下で加熱されることにより、複数の粒子31の表面が融着されることによって同士が結合し、複数の粒子31からなる焼結体が得られる。上記焼結体は、最終的に得られる基板2と略同一の外形を有している。続いて、上記焼結体における第1表面2aに対応する面(すなわち、最終的に第1表面2aになる予定の面)に対して、上述したような粗面化処理が実施される(粗面化工程)。これにより、複数の粒子31Aの各々の上面を粗面31aとすることができる。その結果、上述した多孔質構造3が得られる。
【0035】
[イオン化法及び質量分析方法]
試料支持体1を用いたイオン化法及び質量分析方法について説明する。まず、試料のイオン化用の試料支持体として、上述した試料支持体1を用意する(第1工程)。試料支持体1は、イオン化法及び質量分析方法の実施者によって製造されることにより用意されてもよいし、試料支持体1の製造者又は販売者等から譲渡されることにより用意されてもよい。
【0036】
続いて、
図6に示されるように、基板2の第1表面2aに試料Saを転写する(第2工程)。
図6の例では、試料Saは、果物(レモン)の切片である。例えば、試料Saを基板2の第1表面2aに押し付けることにより、試料Saの一部を、第1表面2a上に付着させる。
【0037】
続いて、
図7に示されるように、質量分析装置10のイオン化室40内のステージ41上に、スライドグラス6及び試料支持体1を載置する。続いて、基板2の第1表面2aのうち転写された試料Saが存在する領域を含む領域(以下「対象領域」という。)に対して、帯電した微小液滴Iを照射することにより、第1表面2a上の成分Sa1をイオン化し、イオン化された成分である試料イオンSa2を吸引する(第3工程)。本実施形態では、例えばステージ41をX軸方向及びY軸方向に移動させることにより、対象領域に対して、帯電した微小液滴Iの照射領域I1を相対的に移動させる(つまり、対象領域に対して、帯電した微小液滴Iを走査する)。以上の第1工程、第2工程及び第3工程が、試料支持体1を用いたイオン化法(本実施形態では、脱離エレクトロスプレーイオン化法)に相当する。
【0038】
イオン化室40内では、ノズル42から、帯電した微小液滴Iが噴射され、イオン輸送管43の吸引口から試料イオンSa2が吸引される。ノズル42は、二重筒構造を有している。ノズル42の内筒には、高電圧が印加された状態で溶媒が案内される。これにより、ノズル42の先端に達した溶媒に、片寄った電荷が付与される。ノズル42の外筒には、ネブライズガスが案内される。これにより、溶媒が微小液滴となって噴霧され、溶媒が気化する過程で生成された溶媒イオンが、帯電した微小液滴Iとして出射される。
【0039】
イオン輸送管43の吸引口から吸引された試料イオンSa2は、イオン輸送管43によって質量分析室50内に輸送される。質量分析室50内は、高真空雰囲気(真空度10-4Torr以下の雰囲気)の条件下にある。質量分析室50内では、試料イオンSa2がイオン光学系51で収束され、高周波電圧が印加された四重極質量フィルタ52に導入される。高周波電圧が印加された四重極質量フィルタ52に試料イオンSa2が導入されると、当該高周波電圧の周波数によって決定される質量数を有するイオンが選択的に通過させられ、通過させられたイオンが検出器53で検出される(第4工程)。四重極質量フィルタ52に印加する高周波電圧の周波数を走査することにより、検出器53に到達するイオンの質量数を順次変化させて、所定の質量範囲の質量スペクトルを得る。本実施形態では、帯電した微小液滴Iの照射領域I1の位置に対応するように検出器53にイオンを検出させて、試料Saを構成する分子の二次元分布を画像化する。以上の第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程が、試料支持体1を用いた質量分析方法に相当する。
【0040】
[作用及び効果]
上述した試料支持体1では、多孔質構造3を構成する複数の粒子31のうち第1表面2aを構成する粒子31A(すなわち、第1表面2a側の最表層に位置する粒子31)は、第1表面2a側に凹凸構造4が形成された粗面31aを有している。このような凹凸構造4を設けることにより、測定対象の試料Saを粗面31aに好適に留めることができる。より具体的には、凹凸構造4は、外側に尖った凸部4a(
図5参照)を有している。このような凸部4aのエッジ部分に試料Saが引っかかりやすくなるため、粗面31aに好適に試料Saを留めることができる。また、例えば、試料Saが生体細胞等の場合、凸部4aが試料Saの細胞膜を破って、その中にある試料Saの成分Sa1を粗面31aの表面上に好適に染み渡らせることが可能となる。すなわち、試料Saを基板2の第1表面2aに接触させて転写する際の転写効率を向上させることができる。また、複数の凸部4a及び凹部4bによって、粗面31aは、滑らかな非粗面31bと比較して滑り難くなる。その結果、粗面31aに転写された試料Saの横滑りを抑制できる。
【0041】
一方、粒子31Aの粗面31aとは反対側の面は、凹凸構造4が形成されていない非粗面31bとされている。これにより、試料Saに含まれる余分な液体成分を第1表面2a側から第2表面2b側へと好適に浸透させることができる。すなわち、粒子31Aの裏面(下面)を凹凸構造4が形成された粗面31aよりも液体を円滑に浸透させることが可能な滑らかな曲面状の面(非粗面31b)とすることにより、液体を基板2の内部へと浸透させる機能を向上させることができる。その結果、第1表面2a上に余分な液体成分が溢れることによって測定(第1表面2aに留まる試料Saの成分Sa1のイオン化)が阻害されることを抑制することができる。
【0042】
以上述べた理由により、試料支持体1によれば、第1表面2a上に留まった試料Saの成分Sa1を効率的にイオン化することが可能となるため、試料Saの成分Sa1の検出感度を効果的に向上させることができる。さらに、上記のように第1表面2a上に試料Saが留まり易くなることにより、第1表面2aにおける試料Saの染みがつく領域が大きくなると共に染みが濃くなる。これにより、試料支持体1の測定面(第1表面2a)に付着した試料Saの視認性が向上し、イオン化のための微小液滴Iの照射範囲を決定する作業等を容易化できるという効果も得られる。
【0043】
図8及び
図9を参照して、上記効果について補足する。なお、
図8及び
図9の例では、後述する導電層5を設けることにより、上記実施形態の脱離エレクトロスプレーイオン化法ではなく、微小液滴Iの代わりにレーザ光を照射してイオン化を行うレーザ脱離イオン化が用いられる。ただし、
図8の(A)及び(B)は、実施例及び比較例において導電層5が設けられる前の状態を示している。
図8の(A)は、実施例(すなわち、後述する導電層5を備える試料支持体1C)におけるレーザ光の1回の照射範囲Rの一例を示している。
図8の(B)は、比較例におけるレーザ光の1回の照射範囲Rの一例を示している。比較例に係る試料支持体は、実施例と同様に複数の粒子31によって構成された基板(多孔質構造)を有しているが、第1表面2aを構成する複数の粒子31Aの上面が粗面31aとされていない点において、実施例と相違している。
【0044】
図9は、上記の実施例及び比較例の各々を用いて、試料Sa(一例として、Angiotensin II)の質量分析(レーザ脱離イオン化法)を実施することによって得られた質量スペクトルを示している。すなわち、
図9において、横軸は質量電荷比(m/z)を示し、縦軸は信号強度(任意単位:arb.unit)を示している。
図9は、実施例の質量スペクトルM1及び比較例の質量スペクトルM2を示している。なお、実施例の質量スペクトルM1と比較例の質量スペクトルM2とを比較し易くするために、実施例の質量スペクトルM1の信号強度の原点(すなわち、信号強度「0」に対応する値)を上方に(+0.37程度)シフトさせている。また、質量スペクトルM1,M2は、実施例及び比較例の各々におけるクエン酸Naのピーク強度を100%(1.0)として規格化したものである。
図9に示されるように、実施例によれば、試料Sa(Angiotensin II)に対応する位置において、比較例よりも高い信号強度が得られた。すなわち、実施例によれば、比較例よりも第1表面2a上に試料Saの成分Sa1が留まり易くなることによって、試料Saの成分Sa1の検出感度が格段に向上することが確認された。なお、上述したとおり、
図9は導電層5を備える試料支持体を用いてレーザ脱離イオン化法を行った場合の測定結果を示しているが、導電層5を備えない試料支持体を用いて上述した脱離エレクトロスプレーイオン化法による質量分析(上述した第1工程~第4工程)を実施した場合においても、同様の結果が得られると考えられる。すなわち、実施例(試料支持体1)の方が、比較例(すなわち、第1表面2aを構成する複数の粒子31Aの上面が粗面31aとされていない試料支持体)よりも、第1表面2a上に試料Saの成分Sa1が留まり易くなることから、上述した脱離エレクトロスプレーイオン化法による質量分析(上述した第1工程~第4工程)において高い検出感度が得られると考えられる。
【0045】
また、上記イオン化法では、第3工程においては、第1表面2aに対して、帯電した微小液滴Iの照射領域I1を相対的に移動させる。基板2の第1表面2a側に留まっている試料Saの成分Sa1においては、試料Saの位置情報(試料Saを構成する分子(成分Sa1)の二次元分布情報)が維持されている。したがって、第1表面2a(対象領域)に対して、帯電した微小液滴Iの照射領域I1を相対的に移動させることにより、試料Saの位置情報を維持しつつ試料Saの成分Sa1をイオン化することができる。これにより、試料イオンSa2を検出する後段の工程において、試料Saを構成する分子の二次元分布を画像化することができる。更に、上述したようにノズル42を第1表面2aに近付けることが可能であるため、帯電した微小液滴Iの照射領域I1が拡大するのを抑制することができる。これにより、試料イオンSa2を検出する後段の工程において、試料Saを構成する分子の二次元分布を高分解能で画像化することができる。
【0046】
また、試料支持体1を用いた質量分析方法では、上述したように、帯電した微小液滴Iの照射によって試料Saの成分Sa1が好適にイオン化されるため、試料イオンSa2を検出する際における信号強度の向上を図ることができる。
【0047】
[変形例]
本開示は、上述した実施形態に限定されない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。また、上記実施形態に係る試料支持体1に含まれる一部の構成は、適宜省略又は変更されてもよい。例えば、上記実施形態では、試料支持体1に含まれるいくつかの特徴的な構成、及び各構成によって発揮されるいくつかの効果について説明したが、本開示に係る試料支持体は、必ずしも、上記実施形態で説明された全ての効果を発揮するように構成される必要はなく、上記実施形態で説明された一部の効果のみを発揮するように構成されてもよい。後者の場合には、試料支持体は、少なくとも当該一部の効果を発揮するために必須の構成を備えていればよく、当該一部の効果を発揮するために必須ではない構成は適宜省略又は変更されてもよい。なお、一の効果に着目した場合において、当該一の効果を発揮するために必須の構成は、当業者を基準として、技術常識及び本明細書の記載に基づいて、合理的に把握されるべきである。以下、本開示の試料支持体について、いくつかの変形例を例示する。
【0048】
(第1変形例)
図10~
図12を参照して、第1変形例に係る試料支持体1Aについて説明する。試料支持体1Aは、多孔質構造3からなる基板2の代わりに多孔質構造3Aからなる基板2Aを備える点において、試料支持体1と相違している。多孔質構造3Aは、それぞれ粒子31よりも小さい径を有する複数の小粒子32(第2粒子)を更に含んでいる。また、複数の小粒子32のうち少なくとも一部は、多孔質構造3Aの第1表面2a側の最表層において、2以上の粒子31Aの間に挟まれて保持されている。
【0049】
多孔質構造3Aは、互いに連結された複数の粒子31(第1粒子)と、粒子31よりも小さい径を有する複数の小粒子32(第2粒子)と、によって形成されている。小粒子32は、粒子31と同一の材料によって形成されている。本実施形態では、粒子31及び小粒子32は、同一の絶縁性材料によって形成されている。例えば、粒子31及び小粒子32は、ガラスによって形成されている。本実施形態では、集合体構造を製造し易くする観点から、粒子31及び小粒子32の材料として、ガラスの中でも比較的融点が低いソーダガラスが使用されている。また、粒子31及び小粒子32は、いずれも球状のビーズ(ガラスビーズ)である。
【0050】
図10は、粒子31Aの粗面31a及び後述する最表層の小粒子32A(第1表面2a側の最表層の小粒子32)の粗面32aが形成される前の状態の基板2Aを第1表面2aに対向する方向から撮像することにより得られたSEM像である。
図10に示されるように、粒子毎に若干の形状及び大きさのばらつきがあるものの、多孔質構造3Aを構成する複数の粒子の各々は、目視においても粒子31及び小粒子32のいずれかに分類可能とされている。すなわち、多孔質構造3は、「大きさ」の観点において、明確に2つのグループに区別可能な粒子群によって構成されている。より具体的には、複数の粒子31の各々は、形状及び大きさについて多少のばらつきを有するが、少なくとも上記SEM像から判別可能な程度に小粒子32よりも大きい径を有しており、小粒子32と区別可能である。同様に、複数の小粒子32の各々は、形状及び大きさについて多少のばらつきを有するが、少なくとも上記SEM像から判別可能な程度に粒子31よりも小さい径を有しており、粒子31と区別可能である。
【0051】
第1表面2aに対向する位置から方向D1に沿って第1表面2aを見た場合において、所定の大きさの単位領域(例えば、数百μm~1mm四方の領域)に含まれる粒子31の平均粒径をR1とし、当該単位領域に含まれる小粒子32の平均粒径をR2とした場合、下記式(1)が満たされる。より好ましくは、下記式(2)が満たされる。
R1×1/100≦R2≦R1×1/2 ・・・(1)
R1×1/10≦R2≦R1×2/5 ・・・(2)
【0052】
上記の平均粒径R1,R2は、例えば、
図10に示したようなSEM像に基づいて算出することができる。例えば、まず、
図10のSEM像に対して公知の画像処理(エッジ検出等)を実施することにより、球状のオブジェクトを全て抽出する。なお、上記オブジェクトは、上記画像処理に代えて、目視によって抽出されてもよい。続いて、抽出された複数のオブジェクトの中から最大径を有するオブジェクトを抽出し、当該最大径との誤差が一定以下(例えば上記最大径の30%以下)の径を有するオブジェクトを大粒子(粒子31)に分類する。続いて、複数のオブジェクトのうち粒子31に分類されずに残ったものを小粒子32に分類する。続いて、粒子31に分類された複数のオブジェクトの平均径を粒子31の平均粒径R1として算出し、小粒子32に分類された複数のオブジェクトの平均径を小粒子32の平均粒径R2として算出する。以上のような処理により、平均粒径R1,R2を算出することができる。なお、上記の算出方法は一例であり、平均粒径R1,R2は、他の方法によって算出されてもよい。一例として、粒子31の平均粒径R1は、約50μmであり、小粒子32の平均粒径R2は、5μm~20μm程度である。
【0053】
図10に示されるように、基板2Aの第1表面2aは、第2表面2bから第1表面2aに向かう方向を上方向とした場合に、最上面(最表層)に位置する粒子31A及び小粒子32Aの表面(上面)によって構成される。
図10において黒色の部分は、第1表面2aを構成する粒子31A及び小粒子32Aが存在しない部分であり、粒子間の隙間(開口部)に該当する。第1表面2aに対向する位置から方向D1に沿って第1表面2aを見た場合において、所定の大きさの単位領域(例えば、数百μm~1mm四方の領域)では、粒子31の占める面積が一番大きく、次いで小粒子32の占める面積が粒子間の隙間(開口部)の占める面積よりも大きいことが好ましい。多孔質構造3Aは、このような開口部において、第1表面2aに開口している。第1表面2aの開口部から多孔質構造3Aの内部へと浸透した液体は、多孔質構造3Aの内部を通って第2表面2b側の開口部から第2表面2bの外側に抜けることが可能となっている。すなわち、本実施形態では、多孔質構造3Aは、第1表面2a及び第2表面2bの両方に開口しており、第1表面2aの開口部と第2表面2bの開口部とは、多孔質構造3Aの内部の粒子間の隙間を介して、互いに連通している。
【0054】
図10に示されるように、多孔質構造3Aに含まれる複数の小粒子32の少なくとも一部、すなわち、粒子31Aと共に第1表面2aを構成する小粒子32A(最外第2粒子)は、2以上の粒子31Aの間に挟まれて保持されている。2以上の粒子31Aによって小粒子32Aが保持される形態の例としては、
図11の(A)に示されるように1つの小粒子32Aが2つの粒子31Aの間に保持される形態、
図11の(B)に示されるように2つの粒子31Aの間に互いに接触する複数(この例では2つ)の小粒子32Aが保持される形態等が挙げられる。ただし、2以上の粒子31Aによって小粒子32Aが保持される形態は、上記例に限られない。
図10及び
図11に示されるように、多孔質構造3Aは、第1表面2aを構成する2以上の粒子31Aによって一以上の小粒子32Aが保持される構成を有することにより、第1表面2aにおいて、粒子31A同士の繋ぎ目J1、粒子31Aと小粒子32Aとの繋ぎ目J2、及び小粒子32A同士の繋ぎ目J3を有している。
【0055】
ここで、複数の小粒子32の大部分は、第1表面2a(すなわち、第1表面2aを構成する粒子31A同士の間)に分布しており、第1表面2aから第2表面2b側に一定以上離れた基板2(多孔質構造3A)の内部には存在しない。すなわち、
図12に示されるように、多孔質構造3Aによって構成される基板2Aの層構造を模式的に表した場合、基板2Aは、混在層21(第1層)と、大粒子層22(第2層)と、を有している。混在層21は、第1表面2aを含み、複数の粒子31及び複数の小粒子32が混在する層である。大粒子層22は、混在層21よりも第2表面2b側に位置し、複数の粒子31からなり、小粒子32を含まない層である。
【0056】
方向D1における混在層21の厚さは、方向D1における大粒子層22の厚さの1/5以下である。本実施形態では一例として、混在層21は、基板2A(多孔質構造3A)の全体の厚さの1/10程度とされている。すなわち、混在層21の厚さは、大粒子層22の厚さの1/9程度とされている。
【0057】
図11の(A)及び(B)に示されるように、本実施形態では、最表層に位置して第1表面2aを構成する小粒子32Aは、第1表面2a側において凹凸構造4が形成された粗面32aと、第2表面2b側において凹凸構造4が形成されていない非粗面32bと、を有する。粗面32a及び非粗面32bは、それぞれ、上述した粒子31Aの粗面31a及び非粗面31bと同様の構成を有している。
【0058】
試料支持体1A(多孔質構造3A)は、例えば、以下のようにして製造される。まず、複数の粒子31が焼結されることにより、焼結体が得られる(第1焼結工程)。具体的には、複数の粒子31がプレス機等によって押し固められた状態で、粒子31の融点以下の高温下で加熱されることにより、複数の粒子31同士の表面が融着されることによって結合し、複数の粒子31のみからなる焼結体が得られる。上記焼結体は、最終的に得られる基板2Aと略同一の外形を有している。続いて、上記焼結体における第1表面2aに対応する面(すなわち、最終的に第1表面2aになる予定の面)に、複数の小粒子32が添加される(添加工程)。例えば、複数の小粒子32が、上記焼結体の上記面に対してまぶされる。続いて、上記焼結体及び上記焼結体に添加された複数の小粒子32が混在する状態で焼結(再焼結)されることにより、複数の粒子31及び複数の小粒子32の表面が融着されることによって結合された第2焼結体が得られる(第2焼結工程)。続いて、上記第2焼結体に対して上述した試料支持体1の製造方法と同様の粗面化工程が実施される。これにより、複数の粒子31A及び複数の小粒子32Aの各々の上面を粗面31a,32aとすることができる。その結果、上述した多孔質構造3Aが得られる。
【0059】
試料支持体1Aによれば、上述した試料支持体1の効果に加えて、以下の効果が奏される。すなわち、試料支持体1Aでは、多孔質構造3Aが、複数の粒子31だけでなく、2以上の粒子31Aの間に挟まれて保持された小粒子32Aを含んで構成される。これにより、試料支持体1Aを第1表面2aに対向する位置から見た場合に、第1表面2aにおける試料支持体1Aの隙間(すなわち、多孔質構造3Aを構成する粒子が存在しない空間)を減らすことができる。すなわち、
図10のSEM像からわかるように、小粒子32Aが最表層の複数の粒子31Aの間に保持されることにより、最表層の粒子31A間の隙間が埋められている。また、
図10及び
図11に示されるように、第1表面2aにおいて、粒子31A同士の繋ぎ目J1だけでなく、粒子31Aと小粒子32Aとの繋ぎ目J2、及び小粒子32A同士の繋ぎ目J3が加わることになる。第1表面2aに転写又は滴下された試料Saは、このような繋ぎ目J1,J2,J3に特に留まり易い。すなわち、このような繋ぎ目J1,J2,J3を増やすことにより、測定対象の試料Saを第1表面2a上(特に上述した繋ぎ目J1,J2,J3の上)に好適に留めることができる。従って、試料支持体1Aによれば、第1表面2a上に留まった試料Saの成分Sa1を効率的にイオン化することが可能となるため、試料支持体1Aを用いた質量分析(例えば、上記実施形態における第1~第4工程)における試料Saの成分Sa1の検出感度(すなわち、試料イオンSa2の検出感度)をより一層効果的に向上させることができる。さらに、上記のように第1表面2a上に試料Saが留まり易くなることにより、第1表面2aにおける試料Saの染みがつく領域が大きくなると共に染みが濃くなる。これにより、試料支持体1Aの測定面(第1表面2a)に付着した試料Saの視認性が向上し、イオン化のための微小液滴Iの照射範囲を決定する作業等を容易化できるという効果も得られる。
【0060】
図11の(A)及び(B)に示されるように、試料支持体1Aでは、小粒子32Aは、第1表面2a側の粗面32aと、第2表面2b側の非粗面32bと、を有している。上記構成によれば、粒子31Aだけでなく、2以上の粒子31Aに挟まれて保持された小粒子32Aの第1表面2a側の面も粗面32aとして構成されるため、測定対象の試料Saを第1表面2a上に、より一層好適に留めることができる。その結果、試料Saの成分Sa1の検出感度をより一層効果的に向上させることができる。
【0061】
試料支持体1Aでは、小粒子32は、粒子31と同一の材料によって形成されている。仮に粒子31と小粒子32とを互いに異なる材料によって形成した場合、イオン化の際(本実施形態では、微小液滴Iの照射による成分Sa1のイオン化の際)に、母材(粒子31の材料)とは異なる材料(小粒子32の材料)に起因する信号がノイズとして発生するおそれがある。これに対して、本実施形態のように粒子31及び小粒子32を同一の材料で形成することにより、上記のような問題の発生を回避できる。また、粒子31及び小粒子32の融点及び熱膨張率が等しくなるため、上述した第2焼結工程を容易に実施できる(すなわち、第1焼結工程と同じ温度条件で実施できる)ため、基板2A(多孔質構造3A)を容易且つ安定した品質で製造することができる。
【0062】
試料支持体1Aでは、粒子31及び小粒子32は、絶縁性材料によって形成されている。上記構成によれば、複数の粒子31及び複数の小粒子32が一体化された基板2Aを、焼結等の容易な方法によって製造することができる。また、基板2Aを絶縁性にすることができるため、上述した脱離エレクトロスプレーイオン化法に適した試料支持体1Aを実現することができる。また、本実施形態では、粒子31及び小粒子32は、ガラスによって形成されている。上記構成によれば、比較的低い融点を有するガラスで粒子31及び小粒子32を形成することにより、上述した第1焼結工程及び第2焼結工程に必要な加熱温度を比較的低くすることができるため、多孔質構造3Aを有する基板2Aを好適且つ安価に得ることができる。
【0063】
試料支持体1Aでは、上記式(1)(すなわち、「R1×1/100≦R2≦R1×1/2」)を満たすように、多孔質構造3Aに含まれる複数の粒子31及び複数の小粒子32の大きさが調整されている。上記構成によれば、第1表面2aを構成する2以上の粒子31の間に一以上の小粒子32を挟んで保持する構成を好適に実現できる。その結果、上述したような検出感度を向上させる効果を好適に得ることができる。なお、上述したように粒子31間に小粒子32を保持する構成をより好適に実現する観点において、上述した式(2)(すなわち、「R1×1/10≦R2≦R1×2/5」)を満たすことがより好ましい。
【0064】
試料支持体1Aでは、基板2Aは、第1表面2aを含む混在層21と、混在層21よりも第2表面2b側に位置する大粒子層22と、を有している。すなわち、試料支持体1Aでは、第1表面2aに試料Saを留め易くするために粒子31及び小粒子32を混在させた混在層21が設けられる一方で、混在層21の下方(第2表面2b側)には、小粒子32を含まないことによって混在層21よりも液体が通過し易い大粒子層22が設けられている。これにより、試料支持体1Aの第1表面2aに液体成分を含む測定対象の試料Saを転写又は滴下した場合等において、当該液体成分を混在層21から大粒子層22へと適切に逃がすことができる。その結果、第1表面2a上に余分な液体成分が溢れることを抑制し、このような余分な液体成分が発生することによって測定(すなわち、第1表面2aに留まる試料Saの成分Sa1のイオン化)が阻害されることを抑制することができる。
【0065】
試料支持体1Aでは、方向D1における混在層21の厚さは、方向D1における大粒子層22の厚さの1/5以下である。上記構成によれば、混在層21に対する大粒子層22の厚さを十分に確保することにより、上述した効果(すなわち、測定を阻害し得る液体成分を混在層21から大粒子層22へと逃がす効果)を好適に得ることができる。
【0066】
(第2変形例)
図13を参照して、第2変形例に係る試料支持体1Bについて説明する。試料支持体1Bは、第1表面2aを構成する小粒子32Aの第1表面2a側の面及び第2表面2b側の面のいずれにも凹凸構造4が形成されていない点において、試料支持体1Aと相違している。すなわち、
図13の(A)及び(B)に示されるように、試料支持体1Bでは、小粒子32Aの表面の全体が、非粗面32bとして構成されている。
【0067】
試料支持体1Bは、例えば、以下のようにして製造される。まず、上述した試料支持体1の製造方法が実施されることにより、試料支持体1が得られる。続いて、試料支持体1の第1表面2aに、複数の小粒子32が添加される(添加工程)。例えば、複数の小粒子32が、上記焼結体の上記面に対してまぶされる。続いて、試料支持体1及び複数の小粒子32が混在する状態で焼結(再焼結)される(第2焼結工程)。その結果、上述した第2変形例の多孔質構造が得られる。このように、試料支持体1Bの製造方法においては、粒子31Aのみに対する粗面化処理が実施され、小粒子32Aに対する粗面化処理が実施されない。
【0068】
試料支持体1Bによれば、試料支持体1Aと同様に、繋ぎ目J1に加えて、繋ぎ目J2,J3を増やすことにより、測定対象の試料Saを第1表面2a上(特に上述した繋ぎ目J1,J2,J3の上)に好適に留めることができる。また、上述した第1変形例に係る試料支持体1A(多孔質構造3A)は、粒子31Aの表面に対する粗面化処理と同様の処理を粒子31Aよりも小径の小粒子32Aの表面(第1表面2a側の面)にも実施することにより得られる。ここで、小粒子32Aは粒子31Aよりも小さく脆いため、上記粗面化処理において、小粒子32Aが粉砕され、多孔質構造3Aの内部に入り込んでしまうおそれがある。その結果、上述した試料支持体1Aの効果(すなわち、小粒子32Aが2以上の粒子31Aの間に保持されることによる効果)が低減するおそれがある。これに対して、試料支持体1Bによれば、粒子31Aの表面のみに粗面化処理が実施され、小粒子32Aに対する粗面化処理が実施されないため、上述したような問題を回避できる。
【0069】
(第3変形例)
図14及び
図15を参照して、第3変形例に係る試料支持体1Cについて説明する。試料支持体1Cは、導電層5を備える点において、試料支持体1と相違している。試料支持体1Cは、導電層5を備えることにより、イオン化された試料Saの成分Sa1を検出するために第1表面2a上に電圧を印加する必要があるイオン化法(例えば、レーザ脱離イオン化法等)に用いることが可能とされている。
【0070】
導電層5は、第1表面2aにおける多孔質構造3の開口部を塞がないように、第1表面2aを覆っている。すなわち、導電層5は、第1表面2aにおける多孔質構造3の開口部(粒子間の隙間)を完全に塞ぐことがないように設けられている。これにより、試料支持体1Cにおいても、第1表面2a上(厳密には、第1表面2a上に成膜された導電層5上)に転写又は滴下された試料Saに含まれる液体成分は、多孔質構造3の内部に浸透可能となっている。
【0071】
また、導電層5は、粒子31Aの凹凸構造4の表面形状に沿って第1表面2aを覆っている。すなわち、導電層5の厚さは、粒子31Aの大きさ(径)に対して非常に薄くされている。これにより、粒子31Aの表面に成膜された導電層5の外面の形状は、凹凸構造4の表面形状(凹凸形状)に追従した形状となる。従って、
図15に示されるように、導電層5が成膜された後の状態においても、第1表面2aの凹凸形状(すなわち、各粒子31Aの粗面31aの凹凸形状)が維持される。
【0072】
導電層5は、導電性材料によって形成されている。導電層5の材料としては、試料Saとの親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。このような観点から、導電層5の材料としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)等が用いられることが好ましい。導電層5は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm~350nm程度に形成される。なお、導電層5の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
【0073】
図15に示されるように、導電層5は、例えば上述した蒸着法、スパッタ法等を第1表面2a側から行うことにより、第1表面2aを構成する粒子31Aの表面のうち、第1表面2a側に露出する粗面31aを覆うように形成される。一方、ALDによって導電層5を形成する場合には、導電層5は、多孔質構造3の隙間に入り込むことにより、第1表面2a側に露出する表面だけでなく、粒子31Aの第2表面2b側を向く表面(非粗面31b)や多孔質構造3の内部に存在する粒子31の表面(非粗面31b)にも形成され得る。すなわち、導電層5は、第1表面2aを構成する粒子31Aの少なくとも第1表面2a側に露出する表面(粗面31a)を覆うように形成されればよく、それ以外の粒子31の表面にも形成されてもよい。
【0074】
試料支持体1Cによれば、試料支持体1と同様の効果を得ることを可能としつつ(すなわち、導電層5の存在によって試料支持体1の効果を阻害することなく)、レーザ脱離イオン化法等に試料支持体1Cを用いることが可能となる。より具体的には、レーザ脱離イオン化法等を用いる場合、すなわち、第1表面2aにおいてイオン化された試料Saの成分Sa1をイオン検出器(グランド電極側)へと導くために第1表面2aに電圧を印加する必要がある場合に、導電層5を介して適切に電圧を印加することが可能となる。
【0075】
(第4変形例)
試料支持体1において、複数の粒子31のうち第2表面2bを構成する粒子31は、第2表面2b側において凹凸構造4が形成された粗面31aと、第1表面2a側において凹凸構造4が形成されていない非粗面31bと、を有してもよい。すなわち、試料支持体1は、方向D1において対称的な構造を有してもよい。言い換えれば、第1表面2a側の部分と第2表面2b側の部分とが同様の構成を有してもよい。
【0076】
上記の第4変形例によれば、第1表面2a及び第2表面2bの両方を上述した試料支持体1の効果を発揮する測定面(すなわち、測定対象の試料Saを支持する面)として用いることが可能になる。これにより、試料支持体1のユーザ(測定者)は、試料支持体1に測定対象の試料Saを転写又は滴下する際に、試料支持体1のどちらの面が測定面であるか否かを特定する必要がないため、利便性が向上する。
【0077】
(他の変形例)
上述した実施形態及び第1~第4変形例の構成は適宜組み合わせられてもよい。例えば、第1変形例と第3変形例とを組み合わせてもよい。この場合、試料支持体1Aの粒子31Aの上面(粗面31a)及び小粒子32Aの上面(粗面32a)の各々(
図11参照)に導電層5が設けられる。また、第2変形例と第3変形例とを組み合わせてもよい。この場合、試料支持体1Bの粒子31Aの上面(粗面31a)及び小粒子32Aの上面(非粗面32b)の各々(
図13参照)に導電層5が設けられる。また、第1変形例又は第2変形例と第4変形例とを組み合わせてもよい。この場合、第2表面2b側にも混在層21と同様の第3層(すなわち、粒子31及び小粒子32が混在する層)が形成される。この場合、試料支持体1A,1Bにおける大粒子層22は、第1表面2a側の混在層21と第3層との間に位置することになる。
【0078】
また、第1変形例及び第2変形例では、多孔質構造3Aは、複数の粒子31と複数の小粒子32とが互いに融着されることにより、第1表面2aを構成する2以上の粒子31Aの間に小粒子32Aが挟まれて保持される構成が実現されていたが、当該小粒子32Aは、必ずしも隣接する粒子31Aと融着されていなくてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、試料支持体1は、基板2のみを含んで構成されたが、試料支持体1は、基板2以外の部材を含んでもよい。例えば、基板2の一部(例えば隅部等)に、基板2を支持するための支持部材(フレーム等)が設けられてもよい。
【0080】
また、試料Saは、上記実施形態で例示した果物(レモン)の切片に限られない。試料Saは、平坦な表面を有するものであってもよいし、凹凸のある表面を有するものであってもよい。また、試料Saは、果物以外であってもよく、例えば植物の葉等であってもよい。この場合、試料Saである葉の表面の成分を第1表面2aに転写することにより、当該葉の表面(葉脈)のイメージング質量分析を行うことが可能となる。
【0081】
また、上記実施形態では、基板2の全体が、多孔質構造3によって構成されたが、多孔質構造3は、基板2の一部に形成されてもよい。例えば、多孔質構造3は、基板2において試料Saを転写又は滴下するための測定領域として定められた中央部分の領域(第1表面2aの一部の領域)のみに形成されてもよい。この場合、基板2のその他の部分には、多孔質構造3が形成されていなくてもよい。また、多孔質構造3は、第1表面2aから第2表面2bまでの全域に亘って形成されていなくてもよい。すなわち、多孔質構造3は、少なくとも第1表面2aに開口していればよく、第2表面2bに開口していなくてもよい。例えば、基板2は、第2表面2bを含む平板状のプレートと、当該プレートにおける第2表面2bとは反対側の面上に設けられた多孔質構造3と、によって構成されてもよい。一例として、基板2は、ガラスプレートと、ガラスプレート上に設けられたガラスビーズの焼結体(多孔質構造3)と、によって構成されてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、試料支持体1を脱離エレクトロスプレーイオン化法に用いることができるように、第1表面2aが絶縁性を有していた。より具体的には、基板2(多孔質構造3)自体が絶縁性材料によって形成されることにより、第1表面2aが絶縁性を有していた。しかし、上記以外の構成によっても、試料支持体1を脱離エレクトロスプレーイオン化法に用いることが可能なように構成することができる。例えば、基板2(多孔質構造3)は、導電性材料によって形成されてもよい。この場合、基板2の第1表面2aに絶縁性のコーティングが施されることによって、第1表面2aが絶縁性を有する構成が実現されてもよい。このような絶縁性のコーティングを施すことによって、基板2の第1表面2aを絶縁性にすることができるため、導電性を有する材料で形成された基板2を用いることが可能となる。例えば、この場合、多孔質構造3は、金属からなる複数の粒子31の集合体によって形成されてもよい。このように、絶縁性のコーティングを設ける場合には、基板材料(すなわち、粒子31の材料)の選択の自由度を向上させることができる。
【0083】
また、上述した粒子31,32の材料としては、上記実施形態において例示した絶縁性材料(上記実施形態では一例として、ガラス(ソーダガラス)以外に、金属酸化物(例えばアルミナ等)、又は絶縁コーティングされた金属等が用いられてもよい。また、粒子31,32の形状は、球状に限られず、球状以外の形状を有してもよい。後者の場合、上記実施形態において説明した粒子31,32の径(平均粒径R1,R2)は、第1表面2aに対向する位置から方向D1に沿って基板2を見た場合に観察される粒子の有効径(すなわち、粒子が占める領域に収まる仮想的な円筒の最大の径)と読み替えられてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1,1A,1B,1C…試料支持体、2,2A…基板、2a…第1表面、2b…第2表面、3,3A…多孔質構造、4…凹凸構造、5…導電層、21…混在層(第1層)、22…大粒子層(第2層)、31…粒子(第1粒子)、31a…粗面、31b…非粗面、31A…粒子(最外第1粒子)、32…小粒子(第2粒子)、32a…粗面、32b…非粗面、32A…小粒子(最外第2粒子)、Sa…試料、Sa1…成分、Sa2…試料イオン(イオン化された成分)。