(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175792
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】始動システムの制御器および始動システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/21 20160101AFI20241212BHJP
【FI】
H02P6/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093801
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 正志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正明
(72)【発明者】
【氏名】吉村 英治
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA08
5H560BB04
5H560BB07
5H560BB12
5H560DB13
5H560DC12
5H560DC13
5H560EB01
5H560HA04
5H560HA09
5H560SS02
5H560TT15
5H560UA06
5H560XA02
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】 センサレス制御される同期電動機を用いた回転機械の始動制御を、センサを追加することなく適切に実行することができる始動システムの制御器および制御方法を提供する。
【解決手段】 始動システムの制御器は、回転機械に機械的に接続され、回転機械の始動を行う同期電動機と、同期電動機に電気的に接続され、同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、処理回路を備え、同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、処理回路は、回転機械の始動開始時において、同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、駆動回路に出力する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、
処理回路を備え、
前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、
前記処理回路は、前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する、始動システムの制御器。
【請求項2】
回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、
処理回路を備え、
前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、
前記処理回路は、
前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力し、
前記第1直流電流を前記第1期間流した後、前記同期電動機の固定子に前記第1基準角度から所定の角度間隔進んだ第2基準角度方向の磁場を生じさせる第2直流電流を所定の第2期間流すような第2駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する、始動システムの制御器。
【請求項3】
回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、
処理回路を備え、
前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、
前記処理回路は、前記回転機械の始動開始時において、所定の始動周波数および所定の電流目標値の始動開始時交流電流を所定期間流すような始動時駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する、始動システムの制御器。
【請求項4】
前記処理回路は、前記始動開始時交流電流を前記所定期間流した後、前記始動開始時交流電流より小さい電流目標値を設定し、当該電流目標値に基づいて前記同期電動機の回転を制御するための始動制御信号を生成し、前記駆動回路に出力する、請求項3に記載の始動システムの制御器。
【請求項5】
前記回転機械は、エンジンである、請求項1から4の何れかに記載の始動システムの制御器。
【請求項6】
回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御方法であって、
前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、
前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場が生じるような第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する、始動システムの制御方法。
【請求項7】
回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御方法であって、
前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、
前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場が生じるような第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力し、
前記第1直流電流を前記第1期間流した後、前記同期電動機の固定子に前記第1基準角度から所定の角度間隔進んだ第2基準角度方向の磁場を生じさせる第2直流電流を所定の第2期間流すような第2駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する、始動システムの制御方法。
【請求項8】
回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御方法であって、
前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、
前記回転機械の始動開始時において、所定の始動周波数および所定の電流目標値の始動開始時交流電流を所定期間流すような始動時駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する、始動システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、始動システムの制御器および始動システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、船舶、航空機等における駆動源であるエンジンを、同期電動機により始動する始動システムが知られている。このようなエンジンを始動するための同期電動機を、回転角度センサによる回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御することが考えられる。センサレス制御とすることで、システムの小型化および故障リスクの低減を実現できる。下記特許文献1には、回転電機の軸受非回転側に回転子の回転を検出するセンサを設置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
センサレス制御される同期電動機においては同期電動機に流れる電流を用いて当該同期電動機の角速度および位相を推定することができるが、当該同期電動機をエンジン等の回転機械の始動に用いる場合、同期電動機の回転数が0であることから同期電動機の誘起電圧が0であるため、同期電動機3の角速度ωおよび位相θの推定が困難である。
【0005】
上記特許文献1のように回転子の回転を検出するセンサを設置すれば、回転位置は検出できるが、センサレス制御のメリットが減殺される。すなわち、システムの大型化および故障リスクの増大を招く。また、部品点数の増大によりコストも増大する。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するものであり、センサレス制御される同期電動機を用いた回転機械の始動制御を、センサを追加することなく適切に実行することができる始動システムの制御器および始動システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る始動システムの制御器は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、処理回路を備え、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記処理回路は、前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0008】
本開示の他の態様に係る始動システムの制御器は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、処理回路を備え、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記処理回路は、前記回転機械の始動開始時において、所定の始動周波数および所定の電流目標値の始動開始時交流電流を所定期間流すような始動時駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0009】
本開示の他の態様に係る始動システムの制御器は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、処理回路を備え、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記処理回路は、前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力し、前記第1直流電流を前記所定期間流した後、前記同期電動機の固定子に前記第1基準角度から所定の角度間隔進んだ第2基準角度方向の磁場を生じさせる第2直流電流を所定の第2期間流すような第2駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0010】
本開示の他の態様に係る始動システムの制御器は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、処理回路を備え、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記処理回路は、前記回転機械の始動開始時において、所定の始動周波数および所定の電流目標値の始動開始時交流電流を所定期間流すような始動時駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0011】
本開示の他の態様に係る始動システムの制御方法は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御方法であって、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場が生じるような第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0012】
本開示の他の態様に係る始動システムの制御方法は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御方法であって、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場が生じるような第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力し、前記第1直流電流を前記第1期間流した後、前記同期電動機の固定子に前記第1基準角度から所定の角度間隔進んだ第2基準角度方向の磁場を生じさせる第2直流電流を所定の第2期間流すような第2駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0013】
本開示の他の態様に係る始動システムの制御方法は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御方法であって、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記回転機械の始動開始時において、所定の始動周波数および所定の電流目標値の始動開始時交流電流を所定期間流すような始動時駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、センサレス制御される同期電動機を用いた回転機械の始動制御を、センサを追加することなく適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示の一実施の形態における始動システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す第1電力変換器の回路構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す始動システムにおける処理回路の概略構成を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1における制御態様を例示するためのイメージ図である。
【
図5】
図5は、実施の形態2における制御態様を例示するためのイメージ図である。
【
図6】
図6は、実施の形態3における制御態様を例示するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または同じ機能を有する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0017】
[実施の形態1]
図1は、本開示の一実施の形態における始動システムの概略構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施の形態における始動システム1は、エンジン2および同期電動機3を備えている。エンジン2は、例えば、車両、船舶、航空機等の移動体における駆動源として構成される。エンジン2は、例えばガスタービンエンジンを含む。なお、エンジン2は、レシプロエンジンであってもよい。
【0018】
同期電動機3は、エンジン2に機械的に接続される。これにより、同期電動機3は、エンジン2の出力軸4の回転に同期して回転可能である。なお、同期電動機3は、エンジン2の出力軸4に直結されてもよいし、エンジン2の出力軸4にギヤ等の動力伝達機構を介して接続されてもよい。同期電動機3は、エンジン2の駆動力を利用して発電可能な同期電動発電機として構成される。本実施の形態において、同期電動機3は、回転角度センサによる回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御される。同期電動機3は、エンジン2の高速回転に対応するために円筒形の回転子を有する。すなわち、本実施の形態における同期電動機3は、回転子の表面に磁石が配置された円筒型の同期電動機である。ただし、同期電動機3は、これに限られず、例えば、突極形の回転子を有してもよい。
【0019】
さらに、始動システム1は、同期電動機3に電気的に接続される第1電力変換器5を備えている。第1電力変換器5は、同期電動機3を駆動する駆動回路として構成される。第1電力変換器5と同期電動機3との間は、交流配線6により接続されている。第1電力変換器5は、第2電力変換器7を介して所定の電源8に接続されている。第1電力変換器5と第2電力変換器7との間は直流配線9により接続されている。直流配線9には当該直流配線9における直流電圧を定義するキャパシタ10が電気的に接続されている。第1電力変換器5は、同期電動機3で発電された交流電力を直流電力に変換して直流配線9に供給し、直流配線9における直流電力を交流電力に変換して同期電動機3に供給する。
【0020】
電源8は、例えば移動体内交流系統等の交流電源系統であってもよいし、例えばバッテリ等の直流電源系統であってもよい。すなわち、第2電力変換器7と電源8との間の電源配線11は、電源8が交流電源系統の場合は交流配線となり、電源8が直流電源系との場合は直流配線となる。第2電力変換器7は、直流配線9の直流電力を電源8に供給するための電力に変換し、電源8からの電源電力を直流配線9に供給するための直流電力に変換する。第2電力変換器7は、電源8が交流電源系統の場合はAC-DCコンバータであり、電源8が直流電源系統の場合はDC-DCコンバータである。
【0021】
さらに、始動システム1は、制御器12を備えている。制御器12は、第1電力変換器5および第2電力変換器7を制御する。制御器12は、各種の信号処理を行う処理回路13を備えている。処理回路13は、例えばマイクロコントローラ、パーソナルコンピュータ、PLC(Programmable Logic Controller)等のコンピュータを有する。例えば、処理回路13は、プロセッサ、メモリおよび周辺回路を含む。また、制御器12の処理回路13は、複数に分割された処理回路により構成されてもよい。
【0022】
プロセッサは、例えば、CPUまたはMPU等を含む。メモリは、ROM、RAM、レジスタ等の揮発性メモリおよびフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを含む。メモリには、電力変換器5,7に対する制御プログラムが予め記憶されている。周辺回路、入出力インターフェイス等を含む。プロセッサ、メモリおよび周辺回路は、バスを通じて相互にデータ伝達を行う。プロセッサは、制御プログラムを実行することにより、メモリに記憶された各種の情報に基づいて後述する演算処理を実行する。
【0023】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、または、それらの組み合わせを含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本明細書において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、ユニット、手段、または部は、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアまたはプロセッサの構成に使用される。
【0024】
図2は、
図1に示す第1電力変換器の回路構成の一例を示す図である。
図2の例では、第1電力変換器5は、PWM(Pulse Width Modulation)インバータ回路として構成される。この場合、第1電力変換器5は、例えば三相のブリッジ回路によって実現される。第1電力変換器5は、直流配線9で与えられる直流電力を、3相の交流電力に変換して同期電動機3に供給する。すなわち、交流配線6は、3つの接続配線6a,6b,6cを含む。接続配線6a,6b,6cは、同期電動機3の3つの端子3a,3b,3cにそれぞれ接続される。3つの端子3a,3b,3cのそれぞれに接続される固定子の巻線がa相巻線、b相巻線、c相巻線に対応する。
【0025】
第1電力変換器5は、交流電流を各接続配線6a,6cにそれぞれ流すための複数のスイッチング素子Tを含む。スイッチング素子Tは、制御器12からの駆動信号Sd1に基づいて、オンオフ状態が切り替えられる。スイッチング素子Tにおいて、オン状態は、スイッチング素子Tの主端子間の導通状態を意味し、オフ状態は、スイッチング素子Tの主端子間の遮断状態を意味する。スイッチング素子Tは、例えばトランジスタによって実現される。例えば、
図2の例において、スイッチング素子Tは、IGBTやバイポーラトランジスタである。この場合のスイッチング素子Tには、ダイオードDが逆並列に接続される。なお、スイッチング素子Tは、MOSFET等の電界効果型トランジスタでもよい。この場合のスイッチング素子には、ダイオードDは接続されなくてもよい。
【0026】
本実施の形態において、スイッチング素子Tは、6つのスイッチング素子T1U,T1D,T2U,T2D,T3U,T3Dを含む。スイッチング素子T1U,T1Dは、直列接続されてスイッチング素子対を構成し、当該スイッチング素子対がキャパシタ10に並列に接続される。同様に、スイッチング素子T2U,T2Dは、直列接続されてスイッチング素子対を構成し、当該スイッチング素子対がキャパシタ10に並列に接続される。同様に、スイッチング素子T3U,T3Dは、直列接続されてスイッチング素子対を構成し、当該スイッチング素子対がキャパシタ10に並列に接続される。
【0027】
スイッチング素子T1U,T1D間の中間配線51には接続配線6aが接続される。スイッチング素子T2U,T2D間の中間配線52には接続配線6bが接続される。スイッチング素子T3U,T3D間の中間配線53には接続配線6cが接続される。
【0028】
制御器12の処理回路13は、各スイッチング素子Tに対応するゲート信号を生成する。ゲート信号は、PWM変調、すなわちパルス幅変調された信号である。複数のスイッチング素子Tに対するゲート信号の組み合わせが駆動信号Sd1となる。
【0029】
処理回路13は、同期電動機3を発電機として機能させる発電制御モードと、同期電動機3をエンジン2のスタータとして機能させる始動制御モードとを実行可能である。
【0030】
処理回路13は、発電制御モードにおいて、同期電動機3と第1電力変換器5との間の交流配線6の交流電力を直流電力に変換して直流配線9に出力するように第1電力変換器5を制御する。発電制御モードにおいて、処理回路13は、同期電動機3に流れる実電流および交流配線6における電圧目標値から同期電動機3の回転子の磁極の角速度および位相を推定する。処理回路13は、推定した角速度および位相に追従するように、整流器として機能する第1電力変換器5を制御するための駆動信号Sd1を生成する。
【0031】
処理回路13は、始動制御モードにおいて、エンジン2を停止状態から始動させるために、直流配線9の直流電力を交流電力に変換し、当該交流電力を同期電動機3に供給するように第1電力変換器5を制御する。始動制御モードにおいて、処理回路13は、120度ずつ位相がずれた正弦波形の交流電流が各接続配線6a,6b,6cに流れるように、第1電力変換器5を制御するための駆動信号Sd1を生成する。このような交流電流が各接続配線6a,6b,6cに流れることによって、同期電動機3の回転子が回転駆動される。処理回路13は、駆動信号Sd1を調整することにより同期電動機3の回転子の速度を変更することができる。
【0032】
本実施の形態において、処理回路13は、同期電動機3の角速度が所定の基準角速度以上である場合に、センサレスベクトル制御である第1制御を実行し、同期電動機3の始動開始から同期電動機3の角速度が第1角速度基準値ωa未満である間には、第1制御とは異なる第2制御を実行する。例えば、第1角速度基準値ωaは、エンジン2が自立運転可能な回転数に相当する角速度に設定され得る。
【0033】
例えば、第2制御は、電流目標値を用いたV/f制御であってもよい。この場合、処理回路13は、予め設定された値または演算式を用いて電流目標値を生成する。処理回路13は、電流目標値に実電流が一致するように、例えばPID演算を用いて電圧目標値を生成する。処理回路13は、第1電力変換器5の周波数に対する出力電圧の比率が一定となるような制御であってもよい。この場合、処理回路13は、第1電力変換器5が出力する電力の周波数が周波数目標値となるような電圧目標値を生成する。
【0034】
始動システム1は、制御器12の処理回路13により第1電力変換器5を第1制御により制御するために、交流配線6における交流電流を検出する電流検出器15を備えている。電流検出器15は、接続配線6aの電流Iaを検出する第1検出器15aと接続配線6cの電流Icを検出する第2検出器15cを含む。なお、接続配線6bの電流Ibは、接続配線6aの電流Iaおよび接続配線6cの電流Icのベクトル和から算出可能である。
【0035】
図3は、
図1に示す始動システムにおける処理回路の概略構成を示す図である。処理回路13は、制御ブロックとして推定部21および信号生成部22を含む。推定部21は、同期電動機3の回転子における磁極の角速度および位相を推定する。このために、推定部21は、dq変換回路23、モデル適用回路24および推定回路25を有する。
【0036】
dq変換回路23は、電流検出器15a,15cにより検出された交流配線6に流れる電流の瞬時値から後述する磁極の推定位相θmを用いてd軸実電流Idおよびq軸実電流Iqを出力する。モデル適用回路24は、同期電動機3をモデル化したモデル演算式を用いて、同期電動機3に流れる電流を推定する。モデル演算式は、処理回路13のメモリに予め記憶される。
【0037】
モデル適用回路24には、d軸実電流Idおよびq軸実電流Iqが入力される。さらに、モデル適用回路24には、後述する電圧目標値生成回路26で生成されるd軸電圧目標値Vodおよびq軸電圧目標値Voqが入力される。さらに、モデル適用回路24には、推定回路25で推定される推定誘起電圧Emが入力される。モデル適用回路24は、これらの値Id,iq,Vod,Voq,Emをモデル演算式に代入してモデル演算式を解くことにより、d軸推定電流Imdおよびq軸推定電流Imqを出力する。
【0038】
推定回路25は、d軸実電流Idとd軸推定電流Imdとの間のd軸推定偏差ΔIdおよびq軸実電流Iqとq軸推定電流Imqとの間のq軸推定偏差ΔIqから所定の推定アルゴリズムを用いて推定誘起電圧Em、推定角速度ωmおよび推定位相θmを推定する。d軸推定偏差ΔIdは、d軸実電流Idからd軸推定電流Imdを差し引くことにより得られる。q軸推定偏差ΔIqは、q軸実電流Iqからq軸推定電流Imqを差し引くことにより得られる。
【0039】
推定回路25で推定された推定誘起電圧Emは、前述の通りモデル適用回路24においてモデル演算式に代入される。推定位相θmは、dq変換回路23および後述する駆動信号生成回路27で用いられる。
【0040】
信号生成部22は、第1電力変換器5に対する駆動信号Sd1を生成する。このために、信号生成部22は、電圧目標値生成回路26および駆動信号生成回路27を有する。電圧目標値生成回路26は、d軸実電流Id、q軸実電流Iqおよび推定回路25で推定された推定角速度ωmを用いて電圧目標値Vod,Voqを生成する。
【0041】
例えば、電圧目標値生成回路26は、推定角速度ωmと角速度目標値ωoとの偏差である角速度偏差Δωを生成する。角速度偏差Δωは、角速度目標値ωoから推定角速度ωmを差し引いて求められる。電圧目標値生成回路26は、角速度偏差ΔωをPID演算してq軸電流目標値Ioqを算出する。d軸電流目標値Iodは、トルク目標値または回転速度目標値等に応じて設定される。
【0042】
電圧目標値生成回路26は、d軸電流目標値Iodとd軸実電流Idとの間のd軸目標偏差ΔIodおよびq軸電流目標値Ioqとq軸実電流Iqとの間のq軸目標偏差ΔIoqを生成する。d軸目標偏差ΔIodは、d軸電流目標値Iodからd軸実電流Idを差し引くことにより得られる。q軸目標偏差ΔIoqは、q軸電流目標値Ioqからq軸実電流Iqを差し引くことにより得られる。電圧目標値生成回路26は、d軸目標偏差ΔIodをPID演算してd軸電圧目標値Vodを算出し、q軸目標偏差ΔIoqをPID演算してq軸電圧目標値Voqを算出する。
【0043】
駆動信号生成回路27は、電圧目標値Vod,Voqおよび推定位相θmから駆動信号Sd1を生成する。駆動信号生成回路27は、電圧目標値Vod,Voqを磁極の推定位相θmを用いて逆dq変換して三相の電圧目標値voa,vob,vocを算出する。さらに、駆動信号生成回路27は、三相の電圧目標値voa,vob,vocを所定のキャリア周波数fcに基づいてパルス幅変調した駆動信号Sd1を生成する。
【0044】
エンジン2の始動開始時においては、同期電動機3における誘起電圧が0または微小であるため、同期電動機3の角速度ωおよび位相θの推定が困難である。このため、第1制御を行う代わりに第2制御によりエンジン2の始動が行われる。エンジン2の始動時において、処理回路13は、周波数目標値または電流目標値を徐々に高くする。これに伴って、同期電動機3とともにエンジン2の回転数が増大する。これにより、同期電動機3の角速度および誘起電圧を推定することなく同期電動機3が制御される。
【0045】
しかし、このような第2制御では、同期電動機3の角速度ωおよび位相θを推定していないため、第2制御におけるフィードバックだけでは同期電動機3が正常に回転しているかどうかを正しく検出することができない。特に、同期電動機3が円筒形の回転子を有している場合、回転停止時の回転子の回転角度が推定できないため、より推定が難しい。
【0046】
従来の構成では、同期電動機3の固定子には、第1電力変換器5から出力される三相交流電流Ia,Ib,Icにより回転磁場が生じる。同期電動機3の回転子は、発生した回転磁場に磁極が合うように回転しようとするが、磁場の回転に追従できなかったり、回転子の慣性力により、回転子の磁極の向きと固定子に生じる磁場の向きとが大きくずれてしまったりする可能性がある。回転子の磁極の向きと固定子に生じる磁場の向きとが一度大きくずれてしまうと、回転子が回転できなくなる恐れがある。
【0047】
そこで、処理回路13は、エンジン2の始動開始時において、第2制御の実行前に、同期電動機3の固定子に第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、第1電力変換器5に出力する。例えば、第1基準角度方向が同期電動機3の端子3aに接続されるa相巻線に沿った方向である場合、第1駆動信号は、各相の端子3a,3b,3cに印加される電圧が1:-0.5:-0.5となるような各スイッチング素子Tに対するスイッチング信号である。
【0048】
図4は、実施の形態1における制御態様を例示するためのイメージ図である。
図4は、同期電動機3の回転子における磁極の向きを模式的に示す回転子モデル3rと、同期電動機3の固定子において生じる磁場の向きを模式的に示す固定子モデル3sとの位置関係を示している。
【0049】
図4における状態A1は、同期電動機3の停止状態において第1直流電流を流した直後の状態を示す。
図4の例において、第1基準角度方向θ1は、
図4の鉛直方向である。停止状態において、回転子の磁極の向きは、第1基準角度方向θ1に一致しているとは限らない。この状態で固定子に第1直流電流が流れることにより、
図4の状態A1に示すように、第1基準角度方向θ1に沿った磁場が生じる。これにより、回転子は、当該磁場に回転子の磁極が合うように回転する。この結果、回転子モデル3rと固定子モデル3sとの位置関係が状態A1から状態A2に遷移する。
【0050】
回転子がこのような回転を行う間、固定子において生じる磁場の向きは、第1基準角度方向θ1に維持される。このため、回転子の磁極の向きは、第1基準角度方向θ1に合致する。言い換えれば、第1直流電流を流す第1期間は、回転子の磁極の向きが第1基準角度方向θ1に合致するのに十分な期間に設定される。
【0051】
第1期間の経過後、第2制御により同期電動機3には交流電流が供給される。このため、固定子において生じる磁場の向きは、第1基準角度方向θ1から同期電動機3の回転軸回りに変化し、回転し始める。すなわち、回転子モデル3rと固定子モデル3sとの位置関係が状態A2から状態A3に遷移する。状態A2において固定子において生じる磁場の向きと回転子の磁極の向きとは、第1基準角度方向θ1で一致しているため、固定子において生じる磁場の回転に伴って回転子も回転軸回りに容易に回転し始めることができる。
【0052】
上記構成によれば、同期電動機3の固定子に交流電流を供給する前に、第1基準角度方向θ1の磁場を生じさせる第1直流電流が所定の第1期間供給される。これにより、固定子において生じる磁場が回転し始める前に固定子において生じる磁場の向きと回転子の磁極の向きとを揃えておくことができる。その結果、固定子において生じる磁場が回転し始めた際に回転子の追従性を高めることができる。したがって、センサレス制御される同期電動機3を用いたエンジン2の始動制御を、センサを追加することなく適切に実行することができる。
【0053】
また、回転子の追従性が高くなることにより、同期電動機3を回転させるために交流電流を供給する際の始動トルクを低減させることができ、同期電動機3に供給する電流を低減させることができる。特に、エンジン2としてガスタービンエンジンが採用される場合、エンジン2の始動に必要な始動トルクは、同期電動機3単体での始動時よりもかなり大きくなる場合がある。この場合、必要な電流も大きくなる。上記構成によれば、このような大電流を低減することができるため、第1電力変換器5の小型化に大きく寄与することができる。
【0054】
[実施の形態2]
次に、実施の形態2について説明する。始動システム1の構造は、実施の形態1と同様の構造を有している。
図5は、実施の形態2における制御態様を例示するためのイメージ図である。本実施の形態において、処理回路13は、実施の形態1と同様に、エンジン2の始動開始時において、同期電動機3の固定子に第1基準角度方向θ1の磁場を生じさせる第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、第1電力変換器5に出力する。さらに、処理回路13は、第1直流電流を所定期間流した後、同期電動機3の固定子に第1基準角度方向θ1から所定の角度間隔θin進んだ第2基準角度方向θ2の磁場を生じさせる第2直流電流を所定期間流すような第2駆動信号を生成し、第1電力変換器5に出力する。
【0055】
図5における状態B1は、
図4における状態A1と同様である。第1直流電流が固定子に流れることにより、第1基準角度方向θ1の磁場が生じ、回転子が当該磁場に回転子の磁極が合うように回転する。しかし、第1直流電流の大きさや元々の回転子の磁極の位置によっては、状態B2に示すように、第1直流電流が流れる第1期間内に固定子において生じる磁場の向きと回転子の磁極の向きとが一致した状態にならなかったり、回転子の動きが振動的になったりする場合も生じ得る。
【0056】
そのため、本実施の形態では、処理回路13は、第1直流電流を所定期間流した後、同期電動機3の固定子に第1基準角度方向θ1から所定の角度間隔θin進んだ第2基準角度方向θ2の磁場を生じさせる第2直流電流を流すように第1電力変換器5を制御する。例えば、
図5の例では、状態B3に示すように、角度間隔θinが30°に設定される。そのため、第2基準角度方向θ2は、
図5における鉛直方向から30°傾斜した方向に設定される。第2直流電流を流す第2期間は、第1直流電流を流す第1期と同じ期間としてもよいし、互いに異なる期間としてもよい。
【0057】
固定子に第2直流電流が流れることにより、状態B3に示すように、第2基準角度方向θ2に沿った磁場が生じる。これにより、回転子は、当該磁場に回転子の磁極が合うように回転する。この結果、回転子モデル3rと固定子モデル3sとの位置関係が状態B3から状態B4に遷移する。
【0058】
回転子がこのような回転を行う間、固定子において生じる磁場の向きは、第2基準角度方向θ2に維持される。このため、回転子の磁極の向きは、第2基準角度方向θ2に合致する。
【0059】
第2期間の経過後、第2制御により同期電動機3には交流電流が供給される。このため、固定子において生じる磁場の向きは、第2基準角度方向θ2から同期電動機3の回転軸回りに変化し、回転し始める。すなわち、回転子モデル3rと固定子モデル3sとの位置関係が状態B4から状態B5に遷移する。状態B4において固定子において生じる磁場の向きと回転子の磁極の向きとは、第2基準角度方向θ2で一致しているため、固定子において生じる磁場の回転に伴って回転子も回転軸回りに容易に回転し始めることができる。
【0060】
上記構成によれば、同期電動機3の固定子に交流電流を供給する前に、第1基準角度方向θ1の磁場を生じさせる第1直流電流が所定の第1期間供給され、その後、第1基準角度方向θ1から角度間隔θin進んだ第2基準角度方向θ2の磁場を生じさせる第1直流電流が所定の第2期間供給される。固定子に角度を変えて複数の方向に磁場を生じさせることにより、回転しない磁場を生じさせている間に回転子の磁極の向きを固定子において生じる磁場の向きに合致させ易くすることができる。これにより、固定子において生じる磁場が回転し始めた際に回転子の追従性を高めることができる。したがって、センサレス制御される同期電動機3を用いたエンジン2の始動制御を、センサを追加することなく適切に実行することができる。
【0061】
さらに、本実施の形態においては、実施の形態1に比べて小さな直流電流でも回転子の磁極の向きを固定子において生じる磁場の向きに合致させ易い。したがって、実施の形態1に比べて固定子に供給する直流電流の大きさを小さくすることができる。また、1つの基準角度方向において磁場を生じさせるために直流電流を流す期間は、実施の形態1に比べて短くすることができる。
【0062】
なお、本実施の形態においては、固定子において生じる磁場の向きが第1基準角度方向θ1と第2基準角度方向θ2との2方向に順に変わる態様を例示したが、これに限られない。すなわち、処理回路13は、固定子において生じる磁場の向きが3方向以上の基準角度方向に順に変わるように、固定子に流れる直流電流を順に変化させるような駆動信号を生成してもよい。
【0063】
例えば、磁場の向きを変化させる回数は、固定子において生じる磁場の向きが一周する回数としてもよい。例えば、角度間隔θinが30°である場合、磁場の向きを変化させる回数は、12回であってもよい。また、例えば、角度間隔θinが60°である場合、磁場の向きを変化させる回数は、6回であってもよい。角度間隔θinごとに固定子において生じる磁場の向きを変えるような直流電流を供給することにより、固定子において生じる磁場の向きを同期電動機3の回転軸回りに一周させることにより、その間に回転子の磁極の向きが固定子において生じる磁場の向きに一致する可能性を高めることができる。
【0064】
ただし、磁場の向きを変化させる回数は、固定子において生じる磁場の向きが一周するより多く変わる回数としてもよいし、一周するより少なく変わる回数としてもよい。
【0065】
なお、直流電流Isは、発生させたいトルク、すなわち、始動トルクTsと角度間隔θinとによって決定される。トルク定数をKtとすると、直流電流Isは、以下の式で表される。
Is=Ts/(Ktcosθin)
【0066】
したがって、角度間隔θinが短いほど直流電流の大きさを小さくすることができる。例えば、角度間隔θinは、例えば、0より大きく60°以下とすることが好ましい。
【0067】
[実施の形態3]
次に、実施の形態3について説明する。始動システム1の構造は、実施の形態1と同様の構造を有している。
図6は、実施の形態3における制御態様を例示するためのイメージ図である。本実施の形態において、処理回路13は、エンジン2の始動開始時において、所定の始動周波数および所定の電流目標値の始動開始時交流電流を所定期間流すような始動時駆動信号を生成し、第1電力変換器5に出力する。
【0068】
本実施の形態は、実施の形態2をより連続的に行う、すなわち、角度分解能を小さくして行う態様と捉えることができる。処理回路13から出力される始動時駆動信号により、第1電力変換器5は、所定の期間、一定の始動周波数および一定の電流目標値に基づいて交流配線6に始動開始時交流電流を供給する。
【0069】
始動周波数は、所定期間経過後に実行される第2制御における周波数初期値以下に設定される。処理回路13は、第2制御において、周波数目標値を、周波数初期値から徐々に上昇するように設定する。このように、低い周波数とすることで固定子に生じる磁場の回転を低速かつ一定にすることができ、回転子の磁極の向きが固定子に生じる磁場の向きに合致し易くすることができる。
【0070】
図6における状態C1は、同期電動機3の停止状態において始動開始時交流電流を流した直後の状態を示す。このとき、
図4の状態A1と同様に、固定子においてある方向に磁場が生じる。これにより、回転子は、当該磁場に回転子の磁極が合うように回転する。この結果、回転子モデル3rと固定子モデル3sとの位置関係が状態C1から状態C2に遷移する。
【0071】
実施の形態1および2とは異なり、固定子には交流電流が流れるため、固定子において生じる磁場の向きは変化する。しかし、一般的な始動制御時とは異なり、交流電流の周波数が固定されているため、固定子において生じる磁場の向きが回転軸回りに変化する速度は一定である。このため、磁場の向きの変化がある程度継続されることにより、回転子の磁極の向きが固定子において生じる磁場の向きに合致し易い。
【0072】
これにより、固定子において生じる磁場が回転し始めた状態で固定子において生じる磁場の向きと回転子の磁極の向きとを揃えておくことができる。したがって、センサレス制御される同期電動機3を用いたエンジン2の始動制御を、センサを追加することなく適切に実行することができる。
【0073】
始動開始時交流電流を流す所定期間は、例えば、電気角が一周する程度の期間に設定される。ただし、これに限られず、所定期間は、電気角が一周分未満の期間でもよいし、一周分より長い期間でもよい。なお、電気角φeは、回転子の回転軸回りの回転角を示す機械角φmと同期電動機3の極対数pを用いてφe=φm/pで表される。
【0074】
さらに、第2制御として、電流制御を行う場合、第2制御における電流目標値の初期値は、始動開始時交流電流より小さい電流目標値に設定され得る。本実施の形態によれば、第2制御の開始前に既に回転子が回転し始めているため、一定の低い周波数で磁束が回転している。これにより、最大トルクを発生する角度付近で長い期間回転子に磁束を与えることができるため、第2制御において始動トルクが不要となる。したがって、始動開始時交流電流を、始動開始時交流電流を流さずに第2制御を開始する場合に比べて小さい電流とすることができる。
【0075】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0076】
[他の実施の形態]
例えば、上記実施の形態では、同期電動機3がエンジン2の回転動力により発電可能な同期電動発電機である例を示したが、同期電動機3が発電機として機能しなくてもよい。
【0077】
また、上記実施の形態では、同期電動機3の動力で始動させる対象としてエンジン2を例示したが、これに限られず、その他の回転機械を始動する場合にも適用可能である。例えば、その他の回転機械は、曝気用ブロワ等の各種ブロワ、各種ファン、各種ポンプ等を含み得る。
【0078】
[本開示のまとめ]
[項目1]
本開示の一態様に係る始動システムの制御器は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、処理回路を備え、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記処理回路は、前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0079】
上記構成によれば、同期電動機の固定子に交流電流を供給する前に、第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流が所定の第1期間供給される。これにより、固定子において生じる磁場が回転し始める前に固定子において生じる磁場の向きと回転子の磁極の向きとを揃えておくことができる。その結果、固定子において生じる磁場が回転し始めた際に回転子の追従性を高めることができる。したがって、センサレス制御される同期電動機を用いた回転機械の始動制御を、センサを追加することなく適切に実行することができる。
【0080】
[項目2]
本開示の他の態様に係る始動システムの制御器は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、処理回路を備え、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記処理回路は、前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力し、前記第1直流電流を前記所定期間流した後、前記同期電動機の固定子に前記第1基準角度から所定の角度間隔進んだ第2基準角度方向の磁場を生じさせる第2直流電流を所定の第2期間流すような第2駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0081】
上記構成によれば、同期電動機の固定子に交流電流を供給する前に、第1基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流が所定の第1期間供給され、その後、第2基準角度方向から角度間隔進んだ第2基準角度方向の磁場を生じさせる第1直流電流が所定の第2期間供給される。固定子に角度を変えて複数の方向に磁場を生じさせることにより、回転しない磁場を生じさせている間に回転子の磁極の向きを固定子において生じる磁場の向きに合致させ易くすることができる。これにより、固定子において生じる磁場が回転し始めた際に回転子の追従性を高めることができる。したがって、センサレス制御される同期電動機3を用いた回転機械の始動制御を、センサを追加することなく適切に実行することができる。
【0082】
[項目3]
本開示の他の態様に係る始動システムの制御器は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御器であって、処理回路を備え、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記処理回路は、前記回転機械の始動開始時において、所定の始動周波数および所定の電流目標値の始動開始時交流電流を所定期間流すような始動時駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0083】
上記構成によれば、回転機械の始動開始時において、所定の始動周波数および所定の電流目標値の始動開始時交流電流が同期電動機の固定子に所定期間供給される。交流電流の周波数が固定されているため、固定子において生じる磁場の向きが回転軸回りに変化する速度は一定である。このため、磁場の向きの変化がある程度継続されることにより、回転子の磁極の向きが固定子において生じる磁場の向きに合致し易い。これにより、固定子において生じる磁場が回転し始めた状態で固定子において生じる磁場の向きと回転子の磁極の向きとを揃えておくことができる。したがって、センサレス制御される同期電動機を用いた回転機械の始動制御を、センサを追加することなく適切に実行することができる。
【0084】
[項目4]
項目3の始動システムの制御機において、前記処理回路は、前記始動開始時交流電流を前記所定期間流した後、前記始動開始時交流電流より小さい電流目標値を設定し、当該電流目標値に基づいて前記同期電動機の回転を制御するための始動制御信号を生成し、前記駆動回路に出力してもよい。
【0085】
[項目5]
項目1から4の何れかの始動システムの制御器において、前記回転機械は、エンジンであってもよい。
【0086】
[項目6]
本開示の他の態様に係る始動システムの制御方法は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御方法であって、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場が生じるような第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0087】
[項目7]
本開示の他の態様に係る始動システムの制御方法は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御方法であって、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記回転機械の始動開始時において、前記同期電動機の固定子に第1基準角度方向の磁場が生じるような第1直流電流を所定の第1期間流すような第1駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力し、前記第1直流電流を前記第1期間流した後、前記同期電動機の固定子に前記第1基準角度から所定の角度間隔進んだ第2基準角度方向の磁場を生じさせる第2直流電流を所定の第2期間流すような第2駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【0088】
[項目8]
本開示の他の態様に係る始動システムの制御方法は、回転機械に機械的に接続され、前記回転機械の始動を行う同期電動機と、前記同期電動機に電気的に接続され、前記同期電動機を駆動する駆動回路と、を備えた始動システムの制御方法であって、前記同期電動機は、回転角度の検出が行われないセンサレス制御により制御され、前記回転機械の始動開始時において、所定の始動周波数および所定の電流目標値の始動開始時交流電流を所定期間流すような始動時駆動信号を生成し、前記駆動回路に出力する。
【符号の説明】
【0089】
1 始動システム
2 エンジン(回転機械)
3 同期電動機
5 第1電力変換器(駆動回路)
12 制御器
13 処理回路