(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175793
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】偏光変換素子およびこれを備える画像投影装置、並びに位相差素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241212BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20241212BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20241212BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335
G03B21/00 D
G03B21/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093804
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】酒井 丈也
【テーマコード(参考)】
2H149
2H291
2K203
【Fターム(参考)】
2H149AA17
2H149AB23
2H149BA03
2H149DA02
2H149DA05
2H149DA12
2H149DB06
2H149EA02
2H149FA02Z
2H149FA21Y
2H149FA42Z
2H149FC10
2H149FD46
2H291FA29Z
2H291FA30Z
2H291FA56Z
2H291FA62Z
2H291FA81Z
2H291FB04
2H291FB05
2H291MA11
2H291MA20
2H291PA42
2H291PA87
2K203GA23
2K203GA24
2K203HA35
2K203MA32
(57)【要約】
【課題】薄型化の可能な偏光変換素子、およびこれに用いる位相差素子を提供する。
【解決手段】
プリズムアレイからなる偏光ビームスプリッタと、前記偏光ビームスプリッタ上に積層された位相差素子とを備える、偏光変換素子において、前記位相差素子は、感光性基を有する液晶性材料からなるフィルムを備え、前記フィルムにおいて、透過光に位相差を付与する光学的異方性領域と、光学的等方性領域とが、ストライプ状に交互に配列されている、偏光変換素子とする。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリズムアレイからなる偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタ上に積層された位相差素子とを備える、偏光変換素子において、
前記位相差素子は、感光性基を有する液晶性材料からなるフィルムを備え、
前記フィルムにおいて、透過光に位相差を付与する光学的異方性領域と、光学的等方性領域とが、ストライプ状に交互に配列されている、偏光変換素子。
【請求項2】
請求項1に記載の偏光変換素子において、前記位相差素子の前記光学的異方性領域と、前記光学的等方性領域が、1mm以下のピッチで交互に配列されている、偏光変換素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の偏光変換素子を含む画像投影装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の偏光変換素子に使用される位相差素子の製造方法であって、
基板上に感光性を有する液晶性材料を含む複屈折誘起材料からなる塗膜を形成する工程と、
前記塗膜上に周期的に設けられたスリットを有するマスクを配置し、前記マスクを介して偏光を照射する工程と、
照射後の塗膜を加熱後徐冷することにより、スリットを介して露光された部位に複屈折を誘起する工程とを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型の構成で偏光の振動方向を調整して光の利用効率を高め得る偏光変換素子、およびかかる偏光変換素子を備える画像投影装置、並びに偏光変換素子を構成する位相差素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像投影装置や、ヘッドアップディスプレイなどの投影機能を備える表示装置では、画像表示のために偏光板が使用されている。しかし、一般に自然光を偏光に変換すると、一つの振動方向以外の光は利用されないため、光の利用効率の面では不利となる。この問題を解決する手段として、偏光ビームスプリッタでP偏光とS偏光を分離し、一方の偏光の振動方向を位相差素子で変換する、偏光変換素子が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数のガラスを積層し、45度傾斜でカットすることにより形成されたプリズムアレイからなる偏光ビームスプリッタ上に、位相差板として機能する有効領域と、光をそのまま通過させる通過領域がストライプ状に配置された1/2波長板を設け、有効領域でP偏光をS偏光に変換させ、通過領域でS偏光をそのまま通過させることにより、自然光を全てS偏光として利用する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、偏光ビームスプリッタ上に設ける透明基材上に配向膜と液晶層を複数積層して1/2波長板を形成し、形成した1/2波長板に所定幅でかつ通過部及び非通過部が一定間隔で繰り返してなるストライプ状のマスクによるマスキングを施し、次に、非通過部に粘着材付きテープを貼り付けた後に、剥離し、マスクを剥がすことによって、粘着材付きテープに形成した1/2波長板が付着して剥離され、短冊状の1/2波長板、すなわち、ストライプ状の1/2波長板を形成し得ることを記載している。
【0006】
しかし、特許文献1の発明では、1/2波長板の製法が煩雑になることに加え、 多層構造や、マスキング加工上の制約から、ストライプ幅や1/2波長板の厚みを小さくすることには限界がある。他方、車載ディスプレイなどの分野では、光学機器設置スペースの制約から、偏光変換素子についても、薄型化が要望されている。そのためには、偏光ビームスプリッタ自体を薄型化する必要があるが、1/2波長板のストライプ幅を小さくできない場合、これに対応するプリズム幅を小さくすることができず、結果として偏光ビームスプリッタを構成するプリズムアレイの厚みを抑えることが困難であった。
【0007】
本発明は、簡便な製法で作製でき、位相差部と非位相差部の配置間隔を小さくすることが容易な位相差素子を利用した偏光変換素子、このような偏光変換素子を備える画像投影装置、およびこれらに用いる位相差素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の構成は、
プリズムアレイからなる偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタ上に積層された位相差素子とを備える、偏光変換素子において、
前記位相差素子は、感光性基を有する液晶性材料からなるフィルムを備え、
前記フィルムにおいて、透過光に位相差を付与する光学的異方性領域と、光学的等方性領域とが、ストライプ状に交互に配列されている、偏光変換素子である。
【0009】
上記の偏光変換素子は、簡便な方法で薄型かつ狭ピッチの位相差素子を設けることができるので、対応する偏光ビームスプリッタの薄型化も可能となり、偏光変換素子の設置スペースが限られた光学機器に応用性が高い。
【0010】
上記の偏光変換素子は、前記位相差素子の前記光学的異方性領域と、前記光学的等方性領域が、1mm以下のピッチで交互に配列されている、偏光変換素子であってもよい。
【0011】
上記偏光変換素子で用いる位相差素子は、フィルムに対する露光方法を調整することにより、ストライプ状の光学パターンを形成しているため、フィルムを物理的に切り貼りしたり、あるいは、一部を剥離したりする必要がなく、狭ピッチのパターンを正確に形成することができる。
【0012】
本発明の第2の構成は、上記本発明の偏光変換素子を含む画像投影装置である。偏光変換素子を本発明の素子とすることにより、設置スペースの限られた画像投影装置でも、光の利用効率を向上することが可能となる。
【0013】
本発明の第3の構成は、上記偏光変換素子に使用される位相差素子の製造方法であって、
基板上に感光性を有する液晶性材料を含む複屈折誘起材料からなる塗膜を形成する工程と、
前記塗膜上に周期的に設けられたスリットを有するマスクを配置し、前記マスクを介して偏光を照射する工程と、
照射後の塗膜を加熱後徐冷することにより、スリットを介して露光された部位に複屈折を誘起する工程とを含む、
方法である。
【0014】
上記の方法を用いれば、偏光変換素子に使用する位相差素子を簡便な方法で製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、位相差を付与する領域が狭ピッチでストライプ状に配列された位相差素子を用い、薄型化の容易な偏光変換素子、およびこれを用いた画像投影装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】従来技術に係る偏光変換素子の一例を示す斜視図である。
【
図2】偏光変換素子を備える画像投影装置の一例を示す図である。
【
図3A】本発明の一実施形態に係る偏光変換素子を示す概略断面図である。
【
図3B】本発明の別の実施形態に係る偏光変換素子を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態における位相差素子の製造方向を説明するための図である。
【
図5A】側鎖がランダムに配向した塗膜に、直線偏光を照射する状態を示す模式図である。
【
図5B】光反応と再配列により、側鎖が一定方向に配向した塗膜の状態を示す模式図である。
【
図6】位相差素子の製造に使用するマスクの一部拡大図である。
【
図7】本発明の方法で形成された位相差素子を平行ニコルで観察した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成について説明する。なお、図面は説明のための概略図であって、実際のサイズ比を反映するものではない。
図1は、従来技術に係る偏光変換素子の一例を示す斜視図である。偏光ビームスプリッタ10は、棒状のプリズム10aが複数配列したプリズムアレイで構成され、プリズム10a同士の界面10bは、ビームスプリッタ10の表面10cに対し、所定角度(例えば、45度)傾斜している。プリズムアレイ型の偏光ビームスプリッタ10は、例えば、ガラス、アクリル等のプレートまたはシートを複数毎積層し、積層体を斜めに切断してプレートを切り出すことにより作製することができる。隣接するプリズム10aの界面10bにには、偏光分離膜10dが設けられており、偏光ビームスプリッタ10に非偏光(例えば自然光)L
Nが入射すると、P波L
Pを選択的に透過し、S波L
Sを反射する。反射されたS波L
Sは、隣接する偏光分離御膜10dで再度反射されて出光する。
【0018】
帯状に切り出された位相差板(例えば1/2波長板)21が、偏光ビームスプリッタ10上に貼り付けられている。位相差板21が1/2波長板であれば、偏光ビームスプリッタ10から出射したP偏光LPには180度の位相差が付与され、S偏光LSに変換される。そのため、偏光変換素子に入射した非偏光LNはすべてS偏光LSとして出射する。
【0019】
図2は、偏光変換素子1を備える画像投影装置100の一例を示す概略構成図である。この画像投影装置100は、光源2から出射した光を偏光に変換して透過型液晶表示装置3に入射させるものである。光源2と透過型液晶表示装置3の間に、第1のマイクロレンズアレイ4、第2のマイクロレンズアレイ5、偏光変換素子1、レンズ6が配置されており、光源2から出射する非偏光を偏光変換素子1でS波に変換するので、単に、光源2と透過型液晶表示装置3の間に偏光板(図示せず)を配置した場合に比べ、投影される画像の輝度を明るくすることができる。
【0020】
液晶表示装置3の画像を投影する、画像投影装置100は、車載用のヘッドアップディスプレイ(図示せず)などの用途でも使用されており、その際、設置スペースの制約から光学系のサイズの縮小が求められている。
図1の偏光変換素子1については、偏光ビームスプリッタ10の薄層化は、プリズム10aを構成する透光性部材を薄層化し、プリズム10aの幅を小さくすることにより可能であるが、その場合、位相差板21の幅と配置間隔も小さくする必要がある。しかし、切り抜いた位相差板21を貼り付ける従来の製法では、位相差板21の幅を一定以上小さくすることが難しい。また特許文献1に記載の方法を用いても、粘着テープでマスク部分をはぎとるという製法の制約上、ストライプ幅をごく小さくすることは難しい。そのため、従来は、位相差板21側の制約が原因となって、偏光ビームスプリッタ10の厚みを抑制することが困難であった。これに対し、本発明の偏光変換素子1では、光学的異方性領域の幅を1mm以下まで小さくすることが可能である。
【0021】
図3Aは、本発明の一実施形態に係る偏光変換素子1の構成を説明するための概略断面図である。本発明では、プリズムアレイからなる偏光ビームスプリッタ10の出射面10cの上に、感光性基を有する液晶性材料からなる位相差フィルム20aを備える位相差素子20(パターンド・リターダーとも称する)が配置されている。位相差フィルム20aには、入射光に位相差を付与する光学的異方性領域20bと、入射光をそのまま透過させる光学的等方性領域20cとがストライプ状に交互に形成されており、各領域の横幅は、プリズムの横幅に対応している。例えば、光学的異方性領域20bを、入射光に180°の位相差を付与する1/2波長板とすると、光学的異方性領域20bでP波L
PをS波L
Sに変換し、光学的等方性領域20bでS波をそのまま透過させることにより、プリズム10aに入射した非偏光L
NをS波L
Sに変換することができる。
【0022】
図3Bは、本発明の別の実施形態にかかる偏光変換素子1を示す概略断面図である。この例では、偏光ビームスプリッタ10のプリズム10aの界面10bは、偏光分離膜10dと、反射膜10eで交互に被覆されている。位相差素子20は、光学的等方体からなる基材フィルム20dと、該基材フィルム20dに積層された位相差フィルム20aとからなり、光学的異方性領域20bは、S波Lsの出射するプリズム10a上に配置されており、入射した非偏光L
Nは、すべてP波L
Pに変換される。
【0023】
本発明の偏光変換素子において、偏光ビームスプリッタ10の構造は、図に示したものに限定されず、公知の構成を採用することができる。例えば、偏光分離膜10dは必須ではなく、プリズム10a同志の界面において、P波とS波の反射率の違いにより、P波を選択的に透過させ、S波を選択的に反射させる構成であってもよい。また、偏光分離膜10dと反射膜10eの2層を積層し、プリズム10aの界面上に設けてもよい。
【0024】
本発明では、位相差素子20は、感光性基を有する液晶性材料からなるフィルム中に形成されている。そのため、薄膜状の位相差素子20の作製が容易であり、また、光学的異方性領域20b、光学的等方性領域20cのピッチ(間隔)pを狭くすることができる。ピッチpは特に限定しないが、例えば、1mm以下であってもよく、0.5mm以下であってもよく、0.3mm以下であってもよい。ピッチp(
図3A)を狭くすることにより、プリズム10aの横幅(配列方向の幅)wを小さくした、薄型の偏光ビームスプリッタ10を利用することが可能となる。位相差素子20を構成する位相差フィルム20aの厚みは、使用波長と、材料の不屈折性により決まるものであるが、例えば0.5~10μmでもよく、2~5μmであってもよい。
【0025】
[位相差素子の製造方法]
本発明において、位相差素子20を構成する位相差フィルム20aは、感光性基を有する液晶性材料を用い、以下の方法により製造することができる。
(感光性基を有する液晶性材料)
【0026】
上記の記載において、感光性基を有する液晶性材料とは、感光性基を有する液晶性高分子を含み、フィルム状とした場合に、光反応及び/又は熱処理により、複屈折を誘起し得る材料である(以下、複屈折誘起材料という場合がある。)。
好ましくは、複屈折誘起材料は、感光性基を有し、かつ液晶構造を形成可能な側鎖構造を有する液晶性高分子を含んでいてもよく、側鎖に有する感光性基の光反応により分子配向が誘起される性質を有していてもよい。その場合、分子配向性は、例えば、光照射(好ましくは光照射と加熱冷却処理)などによる分子運動による光配向性であるのが好ましい。光反応は、光二量化反応、光異性化反応、光フリース転位反応等が挙げられる。
【0027】
液晶性高分子の側鎖が液晶構造を形成可能である場合、側鎖構造に液晶性を発揮する剛直な部位であるメソゲン基を有することにより液晶性を発現していてもよいし、または、他の重合体または同一重合体の他の側鎖等との水素結合による二量体を形成可能な構造を有しており、その二量化によりメソゲン構造を形成することにより、液晶性を発現していてもよい。
【0028】
メソゲン基またはメソゲン構造は、2つ以上の芳香族環または脂肪族環とこれを結合する連結基とで構成され、連結基は共有結合でも水素結合でもよい。
芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、複素環(例えば、フラン環、ピラン環等の酸素含有複素環;ピロール環、イミダゾール環等の窒素含有複素環)等が挙げられ、脂肪族環としては、シクロヘキサン環等が挙げられる。なお、これらの芳香族環または脂肪族環は、置換基を有していてもよく、置換基としては、アルキル基(例えば、C1-6アルキル基、好ましくはC1-4アルキル基)、アルキルオキシ基(例えば、C1-6アルキルオキシ基、好ましくはC1-4アルキルオキシ基)、アルケニル基(例えば、C1-6アルケニル基、好ましくはC1-4アルケニル基)、アルキニル基(例えば、C1-6アルキニル基、好ましくはC1-4アルキニル基)、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0029】
連結基としては、共有結合である場合、単結合、-O-、-COO-、-OCO-、-N=N-、-NO=N-、-C=C-、-C≡C-、-CO-C=C-、-CH=N-、アルキレン基等が挙げられる。水素結合である場合、末端にカルボキシ基を有する側鎖構造等が挙げられ、この場合、カルボキシ基同士で水素結合を形成する。
【0030】
感光性基としては、光エネルギーにより光反応を起こすことが可能な官能基であれば特に制限されず、例えば、カルコン基、クマリン基、シンナモイル基、桂皮酸基、シンナミリデン酢酸基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基、アゾベンゼン基、ベンジリデンアニリン基またはこれらの誘導体等が挙げられ、好ましくは、シンナモイル基であってもよい。
【0031】
液晶性高分子は、繰り返し単位中に、感光性基および液晶構造を形成可能な構造の両方を有している側鎖構造を少なくとも有しているが、感光性基は、メソゲン基またはメソゲン構造とは、側鎖構造の中で独立に存在していてもよいし、化学構造を共有して複合的に存在していてもよい。
【0032】
好ましくは、複屈折誘起材料は、下記式(1)および(2)で表される側鎖構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を有する液晶性高分子を含んでいてもよい。
【0033】
【化1】
(式中、tは1~3の整数であり、R1は水素原子、アルキル基(例えば、C
1-6アルキル基、好ましくはC
1-4アルキル基)、アルキルオキシ基(例えば、C
1-6アルキルオキシ基、好ましくはC
1-4アルキルオキシ基)、アルケニル基(例えば、C
1-6アルケニル基、好ましくはC
1-4アルケニル基)、アルキニル基(例えば、C
1-6アルキニル基、好ましくはC
1-4アルキニル基)、およびハロゲン原子から選択される1種または2種以上を示す。)
【0034】
【化2】
(式中、kは0または1であり、kが0の場合、lは0、kが1の場合、lは1~12の整数;Xは、単結合、C1-3アルキレン基、-C=C-、-C≡C-、-O-、-N=N-、-COO-、または-OCO-;Wは、クマリン基、シンナモイル基、シンナミリデン酢酸基、ビフェニルアクリロイル基、フリルアクリロイル基、ナフチルアクリロイル基、またはそれらの誘導体基;R
2およびR
3は、それぞれ同一または異なって、水素原子、アルキル基(例えば、C1-6アルキル基、好ましくはC1-4アルキル基)、アルキルオキシ基(例えば、C
1-6アルキルオキシ基、好ましくはC
1-4アルキルオキシ基)、アルケニル基(例えば、C
1-6アルケニル基、好ましくはC
1-4アルケニル基)、アルキニル基(例えば、C
1-6アルキニル基、好ましくはC
1-4アルキニル基)、カルボキシ基およびハロゲン原子から選択される1種または2種以上を示す。)
【0035】
なお、上記式(1)および(2)で表される側鎖構造は、繰り返し単位における側鎖の末端の化学構造を表しており、本発明の効果を損なわない範囲において、これらの側鎖構造と主鎖構造との間に種々の化学構造、例えば、スペーサー(例えば、炭素数1~15(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5)の(オキシ)アルキレン基等)や芳香族環などを含んでいてもよい。
【0036】
液晶性高分子は、上記側鎖構造を含む同一繰り返し単位からなる単独重合体または上記側鎖構造を含む繰り返し単位以外に構造の異なる側鎖構造を含む繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。主鎖構造としては、炭化水素、アクリレート、メタクリレート、シロキサン、マレイミド、N-フェニルマレイミド等が重合して形成される構造が挙げられる。
【0037】
液晶性高分子は、共重合体である場合、感光性基および/または液晶構造を形成可能な構造を有していない繰り返し単位を有していてもよい。
【0038】
また、本発明の液晶性材料(複屈折誘起材料)は、液晶性高分子の側鎖の配向性を促進するために、液晶性高分子とともに低分子化合物を含んでいてもよい。低分子化合物としては、メソゲン成分として知られているビフェニル、ターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン等の置換基を有し、このような置換基と、アリル、アクリレート、メタクリレート、桂皮酸基(またはその誘導体基)等の官能基を、スペーサー(例えば、炭素数1~15(好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5)の(オキシ)アルキレン基等)を介して結合した液晶性を有するものが好ましく用いられる。これらの低分子化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0039】
本発明では、上記の液晶性材料を溶媒に溶解させた塗液を支持体に対して塗布し塗膜を形成後(塗工工程)、加熱下または非加熱下で溶媒を除去する(乾燥工程)。ここで支持体としては、ガラス板、トリアセチルセルロースフィルムなどの光学的等方体を用いることができる。
【0040】
溶媒は、液晶性材料の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、ジオキサン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、トルエン、テトラヒドロフラン、o-ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等)、プロピレングリコール誘導体(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート等)などが挙げられ、これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0041】
溶液の塗布は、スピンコート、ロールコート、スクリーン印刷法、ナイフコート、スプレーコートなどの一般的な塗布方法により行うことができる塗布する(塗工工程)。次いで、乾燥のために加熱を行う場合は、液晶性高分子がミクロドメインを形成しない、15~50℃程度の温度(例えば20~30℃の室温)で行うことが好ましい(乾燥工程)。
【0042】
乾燥後のフィルムを用いて、位相差素子を製造する方法は、後述のように各種考えられるが、以下では、後述の実施例で使用した方法について説明する。
【0043】
図4は、本発明の位相差素子の製造方法の一実施形態を説明するための概略図である。この方法では、基材20d上で液晶性材料を塗布・乾燥した塗膜22上に、所定の間隔で、スリット23aを設けた、遮光マスク23を配置する。ついで、マスク上から直線偏光に変換した光を照射することにより、スリットに対応する部分の塗膜22が露光される。ついで、塗膜22を加熱後、徐冷することにより、露光部分に複屈折を誘起し、光学的異方性領域20b(
図3A参照)を形成することができる。他方、遮光部23bでマスクされた部分は光反応を生ぜず、光学的等方性領域20c(
図3A参照)となる。
【0044】
図5A、5Bは、上記のプロセスを説明するための概略図であり、黒い紡錘形(長楕円)は、液晶性高分子の感光性基を有する側鎖22aを示し、白い紡錘形は、感光性基を持たない側鎖22bを示す。液晶性材料が塗布・乾燥された状態の塗膜22では、側鎖22a、22bはランダムに配向している。これに対し、所定角度(例えば45°)で直線偏光L
Lを照射すると、感光性基を有する側鎖22aが光反応し、配向性が誘起される。その際、光反応と塗膜22内の分子運動によって、光反応した側鎖22aは照射光進行方向、あるいは
図5Bに示すように、照射光進行方向に垂直な略同一の方向に配向し、光反応を起こさなかった側鎖22bも、塗膜22内の分子運動によって、光反応した側鎖と同じ方向に再配向する。その結果、塗膜22全体において、側鎖22a、22bが略同一の傾斜方向に配向し、複屈折性が誘起され、光学的異方性領域20b(
図3A参照)が形成される。光照射工程後の加熱工程により、この再配向が促進される。他方、直線偏光L
Lの露光がマスク23により遮蔽されていた部分では、光反応が起こらず、加熱と、徐冷により、
図5Aに示すようなランダムな配向が固定され、光学的等方性領域20c(
図3A参照)となる。直線偏光L
Lの照射には、直線偏光紫外線を用いることが好ましい。例えば、光源として高圧水銀灯などの紫外線照射装置を用いて、グランテーラープリズムを介して直線偏光に偏光変換してもよい。露光後の加熱は、液晶性高分子の等方相転移温度より低い80~150℃程度の温度、好ましくは、100~140℃程度で行えばよい。
【0045】
図6は、上記の方法で用いるマスク23の一部拡大図である。マスク23には、遮光部23bとスリット(透光部)23aがほぼ同じ幅W1、W2で等間隔に設けられており、ライン/スペースパターンの露光に用いることができる。
【0046】
図7は、上記の方法で製造した位相差フィルム20aを平行ニコルで観察した状態を模式的の示す平面図である。平行ニコルで観察すると、光学的等方体領域20cは消光せずに明るく観察されるが、光学的異方性領域20bは消光して暗くなる。本発明の偏光変換素子1では、上記の方法で形成した位相差フィルム20aを、必要に応じ基材(支持体)20dから剥離し、あるいは基材20dにのせたまま、適宜切り出して、位相差素子20として使用することができる。
【0047】
上記の方法において、マスク23は透明フィルム上に金属等の遮光性の薄膜を印刷したものであってもよく、スリット23aの幅を任意に小さくすることができる。そのため、本発明の位相差素子20は、光学的異方性領域20bのピッチを極めて小さくすることができ、例えば、1mm以下とすることができる。また、上記の複屈折誘起材料から形成されたフィルムは、一般に用いられる1/2波長板よりも耐熱性に優れるとの利点もある。
【0048】
なお、上記の液晶性材料およびマスク23を使用すれば、以下の代替的方法でも、光学特性の異なる部位が、パターン状に配置された位相差素子を得ることができる。
【0049】
塗膜22の全面に直線偏光を照射後、振動方向が90°異なる直線偏光を部分的に照射する方法。
方法2
塗膜22の全面に直線偏光を照射後、非偏光を部分的に照射する方法。
方法3
塗膜22の全面に直線偏光を照射後、非偏光と直線偏光を部分的に照射する方法。
方法4
塗膜22に部分的に直線偏光を照射する方法。
【0050】
上記の各種方法により、光学特性の異なる微細パターンの形成された位相差素子20を提供することが可能である。このような位相差素子20を用いれば、偏光ビームスプリッタの薄層化に対応することができ、偏光変換素子1やこれを含む画像投影装置100などの光学機器のサイズ縮小に寄与することができる。
【実施例0051】
(単量体1)
p-クマル酸と6-クロロ-1-ヘキサノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)桂皮酸を合成した。この生成物にp-トルエンスルホン酸の存在下でメタクリル酸を大過剰加えてエステル化反応させ、以下の化学式3に示される単量体1を合成した。
【0052】
【0053】
(単量体2)
p-ヒドロキシ安息香酸と6-クロロ-1-ヘキサノールを、アルカリ条件下で加熱することにより、4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)安息香酸を合成した。この生成物にp-トルエンスルホン酸の存在下でメタクリル酸を大過剰加えてエステル化反応させ、以下の化学式4に示される単量体2を合成した。
【0054】
【0055】
(重合体1)
単量体1と単量体2を3:7のモル比でジオキサン中に溶解し、反応開始剤としてAIBNを添加して、70℃で24時間重合することにより、感光性の重合体1を得た。この重合体1は液晶性を呈した。
【0056】
[実施例1]
重合体1をテトラヒドロフランに溶解し、溶液を調整した。基板(支持体)20dとしてカバーガラスを使用し、この溶液を基板20d上にスピンコーターを用いて厚さが4.5μmとなるよう塗布し、室温(25℃)で乾燥させて、位相差フィルム20aの前駆体となる塗膜22を形成した。
【0057】
この基板20dに形成した塗膜22上に、ライン&スリット幅が0.7mmのマスク23を配置し、この露光マスク23を介し、高圧水銀灯からの光を、グランテーラープリズムを用いて直線偏光性に変換した光Lを100秒間照射した。このとき、直線偏光性に変換した光の偏光方向は、露光マスク23のライン&スリットに対して45°となるようにした。次に、130℃まで加熱後徐冷することによって配向させ複屈折を誘起させた。露光マスク23のスリット23aにあたる塗膜22の部分の位相差値は、275nmであり、位相差の進相軸は、露光マスク23のライン&スリットに対して45°であった。一方、露光マスクのライン部(遮光部)23bにあたる塗膜22の部分は、複屈折を生じず、透明な塗膜状態を保っていることが確認でき、ストライプ状の位相差部位(光学的異方性領域20b)と等方性部位(光学的等方性領域20c)が交互に形成されていることが確認された。
【0058】
上記と同様の方法により、0.25mmピッチのパターンの製造も可能であった。他方、比較のため、特許文献1の材料にマスク露光を行ったところでは、遮光された部位が透明な光学的等方体とはならず、本発明の方法による狭ピッチの位相差素子20の製造には利用できないことが確認された。