(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175808
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】中空体、および医療器具
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20241212BHJP
A61M 25/09 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61M25/00 612
A61M25/00 620
A61M25/09 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093838
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 啓介
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA29
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB06
4C267BB10
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB13
4C267BB16
4C267BB19
4C267BB20
4C267BB26
4C267BB31
4C267BB39
4C267BB40
4C267CC08
4C267CC09
4C267GG02
4C267GG03
4C267GG21
4C267GG22
4C267GG23
4C267GG24
4C267GG33
4C267HH07
4C267HH08
4C267HH14
(57)【要約】
【課題】良好な回転追従性とトルク伝達性とを有する中空体を提供する。
【解決手段】中空体は、コイル体と、前記コイル体の外面に配される樹脂製のコーティング層と、を備え、前記コイル体が、第1の素線が螺旋状に巻回されて構成された第1のコイルを備え、前記第1のコイルが、前記第1の素線のうち隣り合う部位が互いに接触するように巻かれている密巻きコイルであって、かつ、外側に向かって凸となるように屈曲または湾曲する山部と、内側に向かって凹となるように屈曲または湾曲する谷部とが、前記第1のコイルの中心軸に沿って交互に配される波状の構造を有しないコイルであり、前記コーティング層が、外側に向かって凸となるように屈曲または湾曲する山部と、内側に向かって凹となるように屈曲または湾曲する谷部とが、前記第1のコイルの中心軸に沿って交互に配される波状に構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル体と、
前記コイル体の外面に配されるコーティング層と、
を備え、
前記コイル体が、第1の素線が螺旋状に巻回されて構成された第1のコイルを備え、
前記第1のコイルが、
前記第1の素線のうち隣り合う部位が互いに接触するように巻かれている密巻きコイルであって、かつ、
外側に向かって凸となるように屈曲または湾曲する山部と、内側に向かって凹となるように屈曲または湾曲する谷部とが、中心軸に沿って交互に配される波状の構造を有しないコイルであり、
前記コーティング層が、
外側に向かって凸となるように屈曲または湾曲する山部と、内側に向かって凹となるように屈曲または湾曲する谷部とが、前記第1のコイルの前記中心軸に沿って交互に配される波状に構成されている、
中空体。
【請求項2】
前記第1のコイルが、
前記第1のコイルの前記中心軸に沿った断面において、前記第1の素線の複数の断面の中心点が、前記第1のコイルの全長にわたって直線状に並ぶように構成されている、
請求項1に記載の中空体。
【請求項3】
前記第1のコイルが、一定の内径を有するコイルである、
請求項1または請求項2に記載の中空体。
【請求項4】
前記コイル体が、
第2の素線が螺旋状に巻回されて構成され、前記第1のコイルの外面に配された第2のコイルをさらに含み、
前記第2のコイルが、前記第2の素線のうち隣り合う部位の間に隙間を有するように巻かれている疎巻きコイルであり、
前記山部が、前記第2のコイルに沿って配されている、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の中空体。
【請求項5】
前記第1のコイルの中心軸と前記第2の素線とのなす角度が、75°以上である、
請求項4に記載の中空体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の中空体を備える医療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、中空体、および医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばカテーテルやガイドワイヤなどの、生体管腔(血管、消化器官、尿管、気管等)内に挿入して使用する医療器具は、素線を螺旋状に巻回したコイル体によって構成される中空体を備える場合がある。コイル体には、摺動性の向上や気密性の確保を目的として、しばしば樹脂コーティングが施される。しかし、コーティングによってコイル体の柔軟性が妨げられることによって、回転追従性(医師等の手技者によって基端部が回転操作されたときに、先端部が基端部の回転に追従して回転する性能)が低下してしまうことが問題となっている。このような問題を解決するために、樹脂製の内層部と外層部との間に配されるコイル部材(コイル体)を、内層部に接触する接触部(谷部)と、内層部から離間する離間部(山部)と、が交互に配される波状とする技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成では、コイル体の柔軟性が大きくなりすぎ、トルク伝達性(医師等の手技者によって基端部が回転操作されたときに、そのトルクを先端部にスムーズに伝達する性能)が低下してしまうことが懸念される。
【0005】
なお、このような課題は、医療器具用の中空体に限られず、各種配管用を含む中空体一般に共通の課題である。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される中空体は、コイル体と、前記コイル体の外面に配されるコーティング層と、を備え、前記コイル体が、第1の素線が螺旋状に巻回されて構成された第1のコイルを備え、前記第1のコイルが、前記第1の素線のうち隣り合う部位が互いに接触するように巻かれている密巻きコイルであって、かつ、外側に向かって凸となるように屈曲または湾曲する山部と、内側に向かって凹となるように屈曲または湾曲する谷部とが、中心軸に沿って交互に配される波状の構造を有しないコイルであり、前記コーティング層が、外側に向かって凸となるように屈曲または湾曲する山部と、内側に向かって凹となるように屈曲または湾曲する谷部とが、前記第1のコイルの前記中心軸に沿って交互に配される波状に構成されている。
【0009】
上記の構成によれば、中空体が生体管腔等の対象物の内部の湾曲した部位を通過する際に、コーティング層が、コイル体の湾曲に追従して容易に変形する。これにより、中空体を湾曲させつつ回転させることが容易となり、良好な回転追従性を確保できる。一方、コイル体に備えられる第1のコイルが、山部と谷部とを有する波状の構成を有しないため、コイル体の柔軟性が、トルクのスムーズな伝達が妨げられるほどには大きくならない。これにより、良好なトルク伝達性を確保できる。
【0010】
(2)上記(1)に記載の中空体において、前記第1のコイルが、前記第1のコイルの前記中心軸に沿った断面において、前記第1の素線の複数の断面の中心点が、前記第1のコイルの全長にわたって直線状に並ぶように構成されていても構わない。
【0011】
このような構成によれば、コイル体の柔軟性が、トルクのスムーズな伝達が妨げられるほどには大きくならない。これにより、良好なトルク伝達性を確保できる。
【0012】
(3)上記(1)または(2)に記載の中空体において、前記第1のコイルが、一定の内径を有するコイルであっても構わない。
【0013】
このような構成によれば、いっそう良好なトルク伝達性を実現できる。
【0014】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の中空体において、前記コイル体が、第2の素線が螺旋状に巻回されて構成され、前記第1のコイルの外面に配された第2のコイルをさらに含み、前記第2のコイルが、前記第2の素線において隣り合う部位の間に隙間を有するように巻かれている疎巻きコイルであり、前記山部が、前記第2のコイルに沿って配されていても構わない。
【0015】
このような構成によれば、波状の構成を有するコーティング層を容易に形成できる。
【0016】
(5)上記(4)に記載の中空体において、前記第1のコイルの中心軸と前記第2の素線とのなす角度が、75°以上であっても構わない。
【0017】
このような構成によれば、コーティング層の変形の許容度を高め、いっそう良好な回転追従性を実現できる。
【0018】
(6)本明細書によって開示される医療器具は、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の中空体を備える。上記の中空体は、良好な回転追従性とトルク伝達性とを有しており、医療器具用として好適である。
【0019】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ガイドワイヤやその製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図4】実施形態のガイドワイヤの製造工程を概略的に示す断面図
【
図5】実施形態のガイドワイヤが湾曲された状態を示す部分拡大断面図
【
図6】性能評価で用いたサンプルS2の部分拡大断面図
【
図7】性能評価で用いたサンプルS3の部分拡大断面図
【
図8】回転追従性試験の試験方法を概略的に示す側面図
【
図9】性能評価で用いた各サンプルについて、入力角度と出力角度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.第1実施形態:
A-1.ガイドワイヤ100の構成:
図1は、実施形態のガイドワイヤ100の構成を概略的に示す説明図である。
図1には、ガイドワイヤ100の縦断面(YZ断面)が示されている。
図1において、Z軸正方向側が、体内に挿入される先端側(遠位側)であり、Z軸負方向側が、医師等の手技者によって操作される基端側(近位側)である。これらの点は、
図2以降の図についても同様である。
図1では、ガイドワイヤ100が全体としてZ軸方向に略平行な直線状となった状態を示しているが、ガイドワイヤ100は湾曲させることができる程度の柔軟性を有している。なお、以下において、ガイドワイヤ100及びガイドワイヤ100の各構成部材について、先端およびその近傍を「先端部」といい、基端およびその近傍を「基端部」という。
【0022】
本実施形態のガイドワイヤ100は、例えば血管等の生体管腔の病変部(狭窄部や閉塞部)にカテーテル(図示しない)を案内するために、生体管腔に挿入される医療器具である。
【0023】
図1に示すように、ガイドワイヤ100は、コアシャフト10と、コイル体20と、先端接合部30と、基端接合部40と、コーティング層50と、を備えている。コイル体20とコーティング層50とが、中空体60を構成している。
【0024】
(コアシャフト10)
コアシャフト10は、湾曲可能な長尺の棒状の部材であって、長尺の丸棒状の基部12と、基部12よりも外径の小さい丸棒状の細径部11と、基部12と細径部11とを繋ぐテーパ部13と、を備えている。基部12と、テーパ部13と、細径部11とは、基端側からこの順に並んでいる。テーパ部13は、基部12から細径部11に向かうにつれて外径が徐々に小さくなっている。基部12において細径部11とは反対側の部位は、医師等の手技者によって把持される把持部12Gである。細径部11の外径は、例えば0.03-0.085mm程度であり、基部12の外径は、例えば0.2-0.9mm程度である。
【0025】
コアシャフト10の材料としては、公知の材料が使用され、例えば、金属材料、より具体的には、ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、タングステン等が使用される。コアシャフト10は、全体が同じ材料により構成されていてもよいし、部分毎に異なる材料により構成されていてもよい。
【0026】
(コイル体20)
コイル体20は、第1のコイル21と、第1のコイル21の外面に配された第2のコイル22と、を備えている。コイル体20は、コアシャフト10の先端部(具体的には、細径部11と、テーパ部13と、基部12の一部)を取り囲むように配置されている。コイル体20の全長は、例えば10-500mm程度であり、第1のコイル21の外径は、例えば0.2-0.9mm程度である。
【0027】
第1のコイル21、および第2のコイル22の材料としては、公知の材料が使用され、例えば金属材料、より具体的には、ステンレス鋼(SUS302、SUS304、SUS316等)、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、タングステン等が使用される。第1のコイル21の材料と第2のコイル22の材料とは、同じであってもよく、異なっていても構わない。
【0028】
(先端接合部30)
先端接合部30は、細径部11の先端とコイル体20の先端とを接続する部材である。先端接合部30の内部に、コアシャフト10の先端とコイル体20の先端とが埋め込まれるようにして固着されている。先端接合部30の先端面は、滑らかな面(例えば、略半球面)となっている。先端接合部30は、例えば、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Ag合金、Au-Sn合金等の金属はんだやエポキシ系接着剤などの接着剤により構成される。コアシャフト10の先端に先端接合部30が配置されていることによって、コアシャフト10が血管壁などに当接することが防止され、コアシャフト10が損傷等することが抑制される。
【0029】
(基端接合部40)
基端接合部40は、コイル体20の基端をコアシャフト10に接合する部材である。基端接合部40は、上述した先端接合部30と同様の材料により構成される。
【0030】
(コーティング層50)
コーティング層50は、1種または2種以上の樹脂材料により構成され、コイル体20の外周面と、先端接合部30および基端接合部40の外表面を覆うコート部材である。コーティング層50の材料としては、公知の材料が使用され、例えば、PVA樹脂やヒアルロン酸系樹脂等の親水性樹脂、あるいは、シリコーン樹脂、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が使用される。コーティング層50の厚さは、例えば0.001-0.1mm程度である。
【0031】
A-2.中空体60の詳細構成:
上述したように、コイル体20とコーティング層50とが、中空体60を構成しており、コイル体20は、第1のコイル21と、第2のコイル22と、を備えている。
【0032】
(第1のコイル21)
第1のコイル21は、複数本の第1の素線21Wが螺旋状に巻かれることによって構成された、多条コイルである。
図3に示すように、第1のコイル21は、外力が加えられていない状態では、第1の素線21Wにおいて隣り合う部位が互いに接触している密巻きコイルである。つまり、第1のコイル21は、第1の素線21Wの一巻きと、それと隣り合う他の一巻きとの間に隙間を有しないように巻かれている。第1のコイル21は、この第1のコイル21の中心軸AXcに沿った断面(
図1に示す断面)において、第1の素線21Wの複数の断面21Wcの中心点Pcが、第1のコイル21の全長にわたって、直線状に(つまり、
図1の直線Lに沿って)並ぶように構成されている。より具体的には、第1のコイル21は、全長にわたって一定の内径を有する円筒状をなしている。なお、中心点Pcが、「直線状に並ぶ」とは、複数の中心点Pcが厳密に一直線に並んでいることのみを意味するものではなく、製造公差等に起因して不可避的に僅かなずれが生じてしまう場合も含む。
【0033】
(第2のコイル22)
第2のコイル22は、1本の第2の素線22Wが螺旋状に巻かれることによって構成されたコイルである。
図3に示すように、第2のコイル22は、第1のコイル21の外周を取り囲むように配され、第1のコイル21の外面に接触している。第2のコイル22は、外力が加えられていない状態では、第2の素線22Wにおいて隣り合う部位の間に隙間を有する疎巻きコイルである。つまり、第2のコイル22は、第2の素線22Wの一巻きと、それと隣り合う他の一巻きとの間に隙間を有するように巻かれている。第2のコイル22の巻き方向は、第1のコイル21の巻き方向と反対となっている。
図1では、第1のコイル21が先端から基端に向かって反時計回りに巻かれ、第2のコイル22が先端から基端に向かって時計回りに巻かれている例を示しているが、第1のコイル21が先端から基端に向かって時計回りに巻かれ、第2のコイル22が先端から基端に向かって反時計回りに巻かれていても構わない。
【0034】
(コーティング層50)
コーティング層50は、
図1および
図2に示すように、山部50Aと谷部50Bとを有している。山部50Aは、コーティング層50のうち、外側(第1のコイル21から離れる方向)に向かって凸となる山状に湾曲した部位である。山部50Aは、第2のコイル22に沿って螺旋状に延びている。谷部50Bは、コーティング層50のうち、内側(第1のコイル21に近づく方向)に向かって凹となる谷状に湾曲した部位である。谷部50Bは、コイル体20の表面のうち第2のコイル22が配されていない部位に、山部50Aに隣り合って螺旋状に延びている。つまり、コーティング層50は、第1のコイル21の中心軸AXcに沿う方向に、山部50Aの一巻きと谷部50Bの一巻きとが交互に並んだ波状の形状を有している。本実施形態では、谷部50Bの底部は、第1のコイル21に接している。
【0035】
A-3.コーティング層50の形成方法:
上記の形状を有するコーティング層50は、例えば以下の方法で形成することができる。
【0036】
まず、コイル体20の外周面に、樹脂製のシートSを巻き付ける。次に、巻き付けられたシートSの外側から、
図4に示すように、加工用ワイヤWpを巻き付ける。このとき、加工用ワイヤWpを、第2の素線22Wにおいて隣り合う部位の間の隙間に位置するように、螺旋状に巻き付ける。これにより、シートSにおいて加工用ワイヤWpが接している部分が第1のコイル21に近づくように凹んで谷部50Bが形成され、加工用ワイヤWpによって凹まされていない部分(第2のコイル22に沿う部分)が山部50Aとなる。その後、加工用ワイヤWpを取り外すと、山部50Aと谷部50Bとを有するコーティング層50が完成する。
【0037】
A-4.ガイドワイヤ100の動作
ガイドワイヤ100は、手技者が把持部12Gを回転させることによって、生体管腔の内部を回転しながら進んでいく。ガイドワイヤ100は、生体管腔の湾曲した部位を通過する際には、生体管腔の湾曲形状に倣って湾曲しながら回転する。ガイドワイヤ100の湾曲した部位において、コイル体20は、
図5に示すように、カーブの外側に位置する部位が伸びるように変形する。つまり、第1のコイル21の隣り合う部位の間に隙間ができ、第2のコイル22の隣り合う部位の間の隙間が大きくなる。この状態でガイドワイヤ100は回転させられるので、コイル体20の特定の部位に着目すると、伸縮運動を繰り返すこととなる。
【0038】
しかし、コイル体20の外面に樹脂層が存在すると、樹脂層によってコイル体20の伸縮運動が妨げられる。これにより、手技者が把持部12Gを回転操作しても、中空体60の先端部が把持部12Gの回転に追従して回転することが妨げられ、回転追従性が低下すると考えられる。
【0039】
本実施形態では、コーティング層50が、複数の山部50Aと複数の谷部50Bとが第1のコイル21の中心軸AXcに沿う方向に交互に並んだ波状に構成されている。このような構成によれば、コイル体20の伸縮運動に追従して、山部50Aおよび谷部50Bの湾曲角度が変化することで、コーティング層50が容易に変形する。これにより、良好な回転追従性を確保することができる。
【0040】
一方、コイル体を構成する第1のコイルそのものを、山部と谷部とを有する波状の構成としてしまうと、コイル体の柔軟性が極めて大きくなる。これにより、医師等の手技者により把持部に加えられたトルクが、かえって先端部に伝わりにくくなり、キンクが生じやすくなってしまうと考えられる。本実施形態では、第1のコイル21が、波状の構成を有していない。より具体的には、第1のコイル21が、一定の内径を有している。このような構成によれば、コイル体20の柔軟性が大きくなりすぎることがないため、良好なトルク伝達性を確保できる。
【0041】
コーティング層50の変形の許容度を高める観点から、コイル体20の中心軸AXcと第2の素線22Wとのなす角度(より具体的には、コイル体20の中心軸AXcと第2の素線22Wの中心線AXwとのなす角度θ)は、75°以上であることが好ましく、80°以上であることがさらに好ましい。
【0042】
A-5.本実施形態の効果:
以上のように本実施形態の中空体60は、コイル体20と、コイル体20の外面に配されるコーティング層50と、を備え、コイル体20が、第1の素線21Wが螺旋状に巻回されて構成された第1のコイル21を備え、第1のコイル21が、第1の素線21Wのうち隣り合う部位が互いに接触するように巻かれている密巻きコイルであって、かつ、一定の内径を有するコイルであり、コーティング層50が、外側に向かって凸となるように屈曲または湾曲する山部50Aと、内側に向かって凹となるように屈曲または湾曲する谷部50Bとが、第1のコイル21の中心軸AXcに沿って交互に配される波状に構成されている。
【0043】
上記の構成によれば、中空体60が生体管腔等の対象物の内部の湾曲した部位を通過する際に、コーティング層50が、コイル体20の湾曲に追従して容易に変形する。これにより、中空体60を湾曲させつつ回転させることが容易となり、良好な回転追従性を確保できる。一方、コイル体20を構成する第1のコイル21が、山部と谷部とを有する波状の構成を有しないので、コイル体20の柔軟性が、医師等の手技者による回転操作のスムーズな伝達が妨げられるほどには大きくならない。これにより、良好なトルク伝達性を確保できる。
【0044】
また、コイル体20が、第2の素線22Wが螺旋状に巻回されて構成され、第1のコイル21の外面に配された第2のコイル22をさらに含み、第2のコイル22が、第2の素線22Wにおいて隣り合う部位の間に隙間を有するように巻かれている疎巻きコイルであり、山部50Aが、第2のコイル22に沿って配されている。このような構成によれば、波状の構成を有するコーティング層50を容易に形成できる。
【0045】
また、第1のコイル21の中心軸AXcと第2の素線22Wとのなす角度が、75°以上である。このような構成によれば、コーティング層50の変形の許容度を高めることができ、いっそう良好な回転追従性を確保できる。
【0046】
A-6.性能評価:
以下の3つのガイドワイヤのサンプルS1、S2、S3を用いて行った性能評価について、以下説明する。
【0047】
(サンプルS1)
上記実施形態と同様の構成を有するガイドワイヤを準備し、サンプルS1とした。第1のコイルとしては8条の多条コイルを用い、コーティング層50の材料としては、PeBax5533(東京材料株式会社製)を用いた。
【0048】
(サンプルS2)
コーティング層50S2となるシートをコイル体20に巻き付けた後、加工用ワイヤの巻き付けを行わなかった他は、サンプルS1と同様のガイドワイヤを準備し、サンプルS2とした。
図6に示すように、サンプルS2のコーティング層50S2は、第2のコイル22に沿う部分が山部50A2となり、第2のコイル22が配されていない部分が、第1のコイル21に近づくように緩やかに凹んで谷部50B2となっていた。
【0049】
(サンプルS3)
図7に示すように、第2のコイル22が巻き付けられていない第1のコイル21をコイル体として用い、コーティング層50S3となるシートを第1のコイル21に巻き付けた後、加工用ワイヤの巻き付けを行わなかった他は、サンプルS1と同様のガイドワイヤを準備し、サンプルS3とした。
【0050】
(回転追従性試験)
図8に示すように、チューブCを用いて、半径50mmの円形の輪をつくり、輪の前後を直線状とした試験経路を作成した。この試験経路の一方の開口部(
図8の右側の開口部)から、サンプルS1を挿入し、先端部FRをチューブCの他方の開口部から突出させた。この状態で、サンプルS1の把持部12Gを把持して回転させ、先端部FRが何度回転したかを測定した。サンプルS2およびサンプルS3についても同様に試験した。
【0051】
(結果)
サンプルS1、S2、S3のそれぞれについて、把持部の回転角度(入力角度)と先端部の回転角度(出力角度)との関係を
図9に示した。
図9において、細い実線は、入力角度と出力角度とが一致している、つまり、把持部の回転に先端部が完全に追従している理想的な状態を示す理想直線である。
【0052】
コーティング層50S3が山部と谷部とを有しないサンプルS3では、把持部を回転させ始めてもしばらくは先端部がほとんど回転せず、把持部を一定以上回転させると突然先端部が大きく回転する、という動きが繰り返された。サンプルS3では、把持部の回転が先端部に円滑に伝わらず、しばらくの間トルクが蓄積され、蓄積されたトルクが一定以上の大きさになると急激に開放される、という現象が繰り返されているものと考えられる。
【0053】
サンプルS2では、サンプルS3と比較して、把持部と先端部との回転角度の差が小さくなっていた。また、把持部を一定以上回転させると突然先端部が大きく回転する、という動きがみられたものの、その動きはサンプルS3よりも緩やかであった。このことより、コーティング層50S2を、山部50A2と谷部50B2とを有する構成とすることにより、回転追従性が改善していると考えられる。
【0054】
サンプルS1では、入力角度と出力角度とがほぼ等しくなっており、把持部の回転に先端部がよく追従していた。サンプルS1は、加工用ワイヤの巻き付けを行わなかったサンプルS2と比較して、谷部50Bの凹み量が大きくなっている。これにより、コーティング層がより変形しやすくなり、回転追従性がさらに改善されたものと考えられる。
【0055】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
(1)上記実施形態では、第1のコイル21が一定の内径を有するコイルであったが、第1のコイルは、山部および谷部が交互に配される波状の構造を有していなければ、必ずしも一定の内径でなくてもよく、例えば、第1のコイルの先端に近い部分が、先端に近づくほど内径が徐々に小さくなるように構成されていても構わない。また、「前記第1のコイルの前記中心軸に沿った断面において、前記第1の素線の複数の断面の中心点が、前記第1のコイルの全長にわたって直線状に並ぶように構成されている」とは、例えば、第1のコイルが、基端から先端に向かって内径が徐々に小さくなるように構成されている場合や、基端から先端に向かって内径が徐々に大きくなるように構成されている場合を含む。
(2)上記実施形態では、第1のコイル21が多条コイルであったが、第1のコイルは、1本の素線が螺旋状に巻かれたコイルであっても構わない。
(3)上記実施形態では、コイル体が第1のコイル21と第2のコイル22とを備えていたが、コイル体が第2のコイルを有していなくてもよく、例えば、複数の環が第1のコイルの外面に間隔を空けて複数配され、その外側にコーティング層が配されることにより、コーティング層に山部および谷部が形成されていても構わない。
(4)上記実施形態では、第2のコイル22が第1のコイル21とは反対方向に巻かれていたが、第2のコイルが第1のコイルと同じ方向に巻かれていても構わない。
(5)上記実施形態では、加工用ワイヤWp巻き付けによって山部50Aと谷部50Bとを有するコーティング層50を形成する例を示したが、コーティング層の形成方法は上記方法に限られず、例えば、熱収縮チューブの内部にコイル体を挿入して加熱を行うことにより、山部と谷部とを有するコーティング層を形成しても構わない。
(6)第1のコイルを構成する素線は、単線であってもよく、複数の細線が撚り合わせられた撚り線であっても構わない。第2のコイルについても同様である。
(7)第1のコイルを構成する素線の形状には特に制限はなく、例えば、断面が円形の丸線であってもよく、断面が楕円形の線であってもよく、断面が平坦な平線であっても構わない。
(8)上記実施形態では、中空体60を備える医療器具としてガイドワイヤ100を例示したが、中空体を備える医療器具は、例えばカテーテル、内視鏡用処置具等であっても構わない。また、中空体が医療用以外の用途(例えば配管用)に適用されるものであっても構わない。
【符号の説明】
【0056】
10:コアシャフト 11:細径部 12:基部 12G:把持部 13:テーパ部 20:コイル体 21:第1のコイル 21W:第1の素線 22:第2のコイル 22W:第2の素線 30:先端接合部 40:基端接合部 50:コーティング層 50A:山部 50B:谷部 60:中空体 100:ガイドワイヤ(医療器具) AXc:第1のコイルの中心軸 AXw:第2の素線の中心線