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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175811
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/6592 20110101AFI20241212BHJP
   H01R 13/6473 20110101ALI20241212BHJP
【FI】
H01R13/6592
H01R13/6473
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093842
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慶
【テーマコード(参考)】
5E021
【Fターム(参考)】
5E021FA03
5E021FA09
5E021FA16
5E021FB07
5E021FB20
5E021FC20
5E021FC23
5E021LA10
5E021LA15
5E021LA21
(57)【要約】
【課題】簡易的に伝送特性を向上させるコネクタを提供する。
【解決手段】金属製の編組105で囲われたペア線101を含む電線100に取り付けられるコネクタ1であって、外部に露出した編組105の外周に配置される筒状のスリーブ20と、電線100でのスリーブ20が配置されている一部位を圧着させる編組圧着部42を有するシールド端子としてのアウター端子40と、を備え、スリーブ20は、軸方向でペア線101の端末に近い方の端部である前端部21eに複数の加締め片22を有し、スリーブ20が編組105の外周に配置されるとき、編組105の先端部105aは、加締め片22で折り返されてスリーブ20の外周21fを覆い、編組105の先端部105aがスリーブ20の外周21fを覆った後、複数の加締め片22は、ペア線101に近づく方向に折り曲げられる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の編組で囲われたペア線を含む電線に取り付けられるコネクタであって、
外部に露出した前記編組の外周に配置される筒状のスリーブと、
前記電線での前記スリーブが配置されている一部位を圧着させる編組圧着部を有するシールド端子と、を備え、
前記スリーブは、軸方向で前記ペア線の端末に近い方の端部である前端部に複数の加締め片を有し、
前記スリーブが前記編組の前記外周に配置されるとき、前記編組の先端部は、前記加締め片で折り返されて前記スリーブの外周を覆い、
前記編組の前記先端部が前記スリーブの前記外周を覆った後、複数の前記加締め片は、前記ペア線に近づく方向に折り曲げられる、コネクタ。
【請求項2】
複数の前記加締め片は、前記スリーブの軸中心を含む仮想面を基準として対称形状となる一対の当該加締め片の複数の組み合わせである、請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
互いに直交する第1仮想面と第2仮想面との2つの前記仮想面を想定し、
複数の前記加締め片は、第1加締め片、第2加締め片、第3加締め片及び第4加締め片を含み、
前記第1加締め片と前記第2加締め片との一対の組と、前記第3加締め片と前記第4加締め片との一対の組とは、前記第1仮想面を基準として対称形状であり、
前記第1加締め片と前記第3加締め片との一対の組と、前記第2加締め片と前記第4加締め片との一対の組とは、前記第2仮想面を基準として対称形状である、請求項2に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記第1加締め片と前記第2加締め片との間隔は、前記第1加締め片と前記第3加締め片との間隔よりも狭い、請求項3に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記スリーブは、各々の前記加締め片の根元で、かつ、前記スリーブの内壁に、周方向に沿った直線状の溝部を有する、請求項1又は2に記載のコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の編組で囲われたペア線を含むツイストペア電線のような電線に取り付けられる高速通信用のコネクタがある。例えばツイストペア電線では、ペア線全体の外周の断面形状が楕円状であるものの、ペア線を囲う編組の断面形状が、ツイストペア電線の外周形状に倣い、円環状である場合が多い。この場合、ペア線を構成する2つの配線のうちの1つに着目すると、2つの配線が並ぶ方向と、当該方向とは直交する方向とでは、芯線と編組との間の距離が異なるため、インピーダンスの不整合の結果として、高速通信上の伝送特性を低下させることもあり得る。
【0003】
これに対して、特許文献1は、ツイストペア電線のような電線に取り付けられる圧着フェルールに関する技術を開示している。当該圧着フェルールは、コネクタの一構成要素であるインナースリーブとして機能し得る部材であり、前端部に、非円形断面の部位を圧着させることができる一対の平行な舌片を有する。一対の舌片は、楕円状のペア線全体の外周形状に合わせて編組をペア線全体の外周に配置させることができるので、インピーダンスの整合化に有利となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-8874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の圧着フェルールでは、一対の舌片がペア線全体の外周形状に合わせて編組を押え付ける必要があるため、圧着前に、ペア線全体の外周形状である楕円の向きが予め把握されていなければならない。そのため、圧着を実施する設備では、ペア線全体の楕円の向きを特定するために、ペア線全体の向き又は位置を認識させるためのカメラ等を要し、設備コストの上昇を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、簡易的に伝送特性を向上させるコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、金属製の編組で囲われたペア線を含む電線に取り付けられるコネクタであって、外部に露出した編組の外周に配置される筒状のスリーブと、電線でのスリーブが配置されている一部位を圧着させる編組圧着部を有するシールド端子と、を備え、スリーブは、軸方向でペア線の端末に近い方の端部である前端部に複数の加締め片を有し、スリーブが編組の外周に配置されるとき、編組の先端部は、加締め片で折り返されてスリーブの外周を覆い、編組の先端部がスリーブの外周を覆った後、複数の加締め片は、ペア線に近づく方向に折り曲げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易的に伝送特性を向上させるコネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るコネクタの斜視図である。
図2】一実施形態に係るコネクタでのコネクタアッセンブリの分解斜視図である。
図3図1中のIII-III部に相当するコネクタアッセンブリの断面図である。
図4A】加締め片が折り曲げられる前のスリーブの斜視図である。
図4B】加締め片が折り曲げられた後のスリーブの斜視図である。
図5A】加締め片が折り曲げられる前のスリーブを含む電線端末の斜視図である。
図5B図5中のVB-VB部に相当する位置から見た電線端末の正面図である。
図6A】加締め片が折り曲げられた後のスリーブを含む電線端末の斜視図である。
図6B図6中のVIB-VIB部に相当する位置から見た電線端末の正面図である。
図7】加締め片による他の加締め状態の第1例を示す図である。
図8】加締め片による他の加締め状態の第2例を示す図である。
図9A】加締め片が折り曲げられる前の他のスリーブの側面図及び断面図である。
図9B】加締め片が折り曲げられた後の他のスリーブの側面図である。
図10】他のスリーブを採用した場合の電線端末の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて各実施形態に係るコネクタについて詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0011】
図1は、一実施形態に係るコネクタ1の斜視図である。図1では、電線100に取り付けられ、かつ、アウターハウジング60のみ分離された状態にあるコネクタ1が示されている。以下、アウターハウジング60を除いたコネクタ1の構成ユニットを「コネクタアッセンブリ2」と表記する。
【0012】
図2は、コネクタアッセンブリ2の分解斜視図である。図2では、コネクタ1を取り付ける前の状態にある電線100が併せて示されている。
【0013】
図3は、図1中のIII-III部に相当する、コネクタアッセンブリ2の断面図である。図3では、コネクタアッセンブリ2が、電線100に含まれるペア線101の一方の配線である第2配線101bの第2芯線102bを通過する平面で切断されている。
【0014】
以下、コネクタ1の構造等を説明するために参照する各方向を次のように定義する。X方向は、コネクタ1が外部の接続対象に接続されるときの接続方向に対応する。また、X方向は、コネクタ1の内部に収容されるスリーブ20の軸方向にも対応する。コネクタ1を構成する各要素及び電線100に関する各位置での横断面は、X方向に対して垂直で、かつ、互いに垂直なY方向とZ方向とで規定されるYZ平面で表される。Y方向は、スリーブ20に関する幅方向に対応する。Z方向は、スリーブ20に関する高さ方向に対応する。
【0015】
コネクタ1は、例えば車載用の電線100に取り付けられ、現在又は将来の高速通信規格に対応して高速領域・高周波帯域での高速デジタル信号伝送を実現する。本実施形態では、コネクタ1が取り付けられる電線100は、差動配線として、第1配線101aと第2配線101bとの2つの配線からなるペア線101を内部に含む。具体的には、電線100は、シールド付きツイストペア線(STP:Shielded Twisted Pair)、又は、シールド付き平行ペア線(SPP:Shielded Parallel Pair)であってもよい。第1配線101aは、導体である第1芯線102aと、第1芯線102aを覆う第1絶縁体103aとを含む。同様に、第2配線101bは、導体である第2芯線102bと、第2芯線102bを覆う第2絶縁体103bとを含む。また、電線100は、ペア線101を一体的に巻き付ける金属箔104と、金属箔104の外周を覆う金属製の編組105と、編組105の外周を覆う絶縁性のシース106とを含む。シース106は、例えば合成樹脂製である。
【0016】
また、コネクタ1は、2つのインナー端子10と、スリーブ20と、インナーハウジング30と、アウター端子40と、アウターハウジング60とを備える。
【0017】
インナー端子10は、信号線用の導体として機能する端子金具である。コネクタ1は、互いに同一形状である第1端子10aと第2端子10bとの2つのインナー端子10を備える。第1端子10aは、第1配線101aの端末に取り付けられる。第2端子10bは、第2配線101bの端末に取り付けられる。
【0018】
また、インナー端子10は、接続部11と、接合部12と、連結部13とを有する。接続部11は、コネクタ1が外部の接続対象に接続されたときに、相手方の信号用の端子金具を挿入させる。接続部11は、軸方向が長さ方向に沿った筒状である。接続部11の開放端の一部は、一対の弾性接触片で構成される。接合部12は、第1芯線102a又は第2芯線102bを圧着により接合させる。第1端子10aの接合部12は、第1配線101aの第1芯線102aを接合させる。第2端子10bの接合部12は、第2配線101bの第2芯線102bを接合させる。連結部13は、長さ方向に沿って接続部11と接合部12との間に位置し、接続部11と接合部12とを連結する。
【0019】
図4A及び図4Bは、複数の加締め片22を有するスリーブ20の斜視図である。図4Aは、複数の加締め片22がそれぞれ折り曲げられる前の状態にあるスリーブ20を示す図である。一方、図4Bは、複数の加締め片22がそれぞれ折り曲げられた後の状態にあるスリーブ20を示す図である。
【0020】
スリーブ20は、電線100において外部に露出した編組105の外周に配置される、筒状の金属部材である。スリーブ20は、例えば、一定の厚みを有する板金材に対して機械加工を施すことで、電線100に加締められる前の横断面形状がC字形となるような全体形状に仕上げられた部材であってもよい。この場合、スリーブ20は、第1周端部21aと、第2周端部21bとを有する。第1周端部21aと第2周端部21bとは、スリーブ20の周方向で互いに分離されつつ対向する。ここで、第1周端部21aは、係合凹部21cを有し、第2周端部21bは、係合凸部21dを有してもよい。スリーブ20が編組105の外周に配置され、その後、アウター端子40の編組圧着部42に圧着されたとき、係合凸部21dは、係合凹部21cに嵌め込まれることになる。
【0021】
また、スリーブ20は、軸方向でペア線101の端末に近い方の端部である前端部21eに、複数の加締め片22を有する。本実施形態では、一例として、スリーブ20は、第1加締め片22a、第2加締め片22b、第3加締め片22c及び第4加締め片22dの4つの加締め片22を有する。スリーブ20の周方向に沿った各々の加締め片22における幅について、先端の幅は、根元の幅よりも狭い。加締め片22の先端の幅がより狭く設定されることで、加締め片22の折り曲げの後に、隣り合う加締め片22同士の干渉を回避させやすくなる。一方、加締め片22の根元の幅がより広く設定されることで、加締め片22が折り曲げに耐え得る強度を得やすくなる。
【0022】
図5A及び図5Bは、スリーブ20が編組105の外周に配置され、かつ、複数の加締め片22が折り曲げられる前の電線100の端末部分を示す図である。図5Aは、電線100の端末部分の斜視図である。図5Aでは、第1配線101aの端末に取り付けられ第1端子10aと、第2配線101bの端末に取り付けられた第2端子10bとの2つのインナー端子10が併せて示されている。図5Bは、図5A中のVB-VB部に相当する面で切断された位置からX方向とは反対方向に沿って見た電線100の端末部分の正面図である。なお、図5Bでは、便宜上、金属箔104の図示が省略されている。
【0023】
スリーブ20が編組105の外周に配置されるとき、まず、編組105の外周上では、スリーブ20の長さ程度の長さ寸法を有する先端部105aが確保され、先端部105aよりもX方向での上流部分にスリーブ20が配置される。次に、先端部105aは、各々の加締め片22で折り返されて、スリーブ20の外周21fを覆う。この段階で、スリーブ20は、外周21f及び内周21gの双方で編組105と接し、すなわち、スリーブ20全体が編組105で覆われる。
【0024】
ここで、図5Bを参照し、前端部21eにおける各々の加締め片22の配置について説明する。まず、スリーブ20の軸中心AXを含みつつ互いに直交する第1仮想面P1と第2仮想面P2との2つの仮想面を想定する。第1仮想面P1は、XY平面で表される仮想面である。第2仮想面P2は、XZ平面で表される仮想面である。また、図5Bの例示では、ペア線101を構成する第1配線101aと第2配線101bとは、Y方向に沿って並ぶものとする。このとき、第1配線101aと第2配線101bとの各々の中心軸は、おおよそ第1仮想面P1上にある。
【0025】
この場合、第1加締め片22aと第3加締め片22c、及び、第2加締め片22bと第4加締め片22dは、それぞれ、第1仮想面P1を基準として対称形状となる。同時に、第1加締め片22aと第2加締め片22bと、及び、第3加締め片22cと第4加締め片22dは、それぞれ、第2仮想面P2を基準として対称形状となる。つまり、複数の加締め片22は、スリーブ20の軸中心AXを含む仮想面を基準として対称形状となる一対の加締め片22の複数の組み合わせとみなすことができるように配置される。
【0026】
また、第1加締め片22aと第2加締め片22bとの一対の組と、第3加締め片22cと第4加締め片22dとの一対の組とは、第1仮想面P1を基準として対称形状となるように配置される。同時に、第1加締め片22aと第3加締め片22cとの一対の組と、第2加締め片22bと第4加締め片22dとの一対の組とは、第2仮想面P2を基準として対称形状となるように配置される。
【0027】
また、第1加締め片22aと第2加締め片22bとの間隔である第1間隔S1は、第1加締め片22aと第3加締め片22cとの間隔である第2間隔S2よりも狭い。ただし、第1間隔S1は、互いに隣り合う第1加締め片22aと第2加締め片22bとがそれぞれ折り曲げられたときに互いに干渉しない程度に予め設定される。なお、図5Bの例示では、第3加締め片22cと第4加締め片22dとの間隔も第1間隔S1で表され、第2加締め片22bと第4加締め片22dとの間隔も第2間隔S2で表される。
【0028】
更に、ペア線101を構成する2つの配線のうちの第1配線101aに着目する。ここで、第1配線101aと第2配線101bとが並ぶY方向に沿って、第1配線101aの線中心AX1と、第1配線101aに対して最も近傍にある編組105との間の距離を第1距離L1とする。一方、Y方向と直交するZ方向に沿って、第1配線101aの線中心AX1と、第1配線101aに対して最も近傍にある編組105との間の距離を第2距離L2とする。ここで、電線100の端末において、シース106の一部が切除されて編組105の一部が外部に露出されると、ペア線101と編組105との間に隙間が発生し、図5Bに示すように、第1距離L1に対して第2距離L2が長くなる。
【0029】
図6A及び図6Bは、図5A及び図5Bに示す状態に引き続き、複数の加締め片22が折り曲げられた後の電線100の端末部分を示す図である。図6Aは、図5Aに準拠して示された電線100の端末部分の斜視図である。図6Bは、図6A中のVIB-VIB部に相当する面で切断された位置からX方向とは反対方向に沿って見た電線100の端末部分の正面図である。なお、図6Bでは、便宜上、金属箔104の図示が省略されている。
【0030】
編組105の先端部105aがスリーブ20の外周21fを覆った後、各々の加締め片22は、図6A及び図6Bに示すように、ペア線101に近づく方向に折り曲げられる。これにより、本実施形態では、ペア線101は、第1加締め片22aと第2加締め片22bとの一対の組と、第3加締め片22cと第4加締め片22dとの一対の組とで、Z方向に沿って挟み込まれるように加締められる。このとき、各々の加締め片22の折り曲げに伴い、加締め片22を覆っている編組105もペア線101に接近するので、第2距離L2は、図6Bに示すように、図5Bに示す状態のときよりも短くなる。具体的には、本実施形態では、第2距離L2の値は、第1距離L1の値と同等となる。
【0031】
なお、加締め片22を折り曲げる作業、すなわちペア線101に対して加締め片22を加締める作業は、電線100の端末にコネクタ1を取り付ける作業の一工程として、作業者が実施してもよいし、適切な設備において作業ロボットが自動で実施してもよい。
【0032】
インナーハウジング30は、第1配線101aと第2配線101bとでインピーダンスを整合させるための絶縁部材である。インナーハウジング30の材質は、例えば合成樹脂である。インナーハウジング30は、X方向を長手方向とし、下流側の第1端面31と上流側の第2端面32との間で各々貫通する2つの並列な貫通孔33を有する。一方の貫通孔33は、第1端子10a全体を収容する。他方の貫通孔33は、第2端子10b全体を収容する。インナーハウジング30の横断面の形状は、2つの貫通孔33の各々に対して外周部分の肉厚が同等に確保されるように、おおよそ長円形である。
【0033】
アウター端子40は、シールド用の導体として機能するシールド端子である。アウター端子40は、シールド接続部41と、編組圧着部42と、シース圧着部43とを有する。
【0034】
シールド接続部41は、コネクタ1が外部の接続対象に接続されたときに、相手方のシールド用の端子金具と係合する。シールド接続部41は、X方向を軸方向とし、横断面がインナーハウジング30の外形に合わせておおよそ長円状である筒状である。シールド接続部41は、内周面41bで囲まれた内部空間に、インナー端子10を貫通孔33に収容した状態にあるインナーハウジング30を収容する。シールド接続部41の接続口41aは、インナーハウジング30の第1端面31を外方へ開放する。
【0035】
編組圧着部42は、シールド接続部41に対して同軸状に連結された筒状部であり、電線導入口43aから電線100の先端が挿入され、シールド接続部41がインナーハウジング30を収容した状態で、電線100の編組105を圧着により係合させる。本実施形態では、編組圧着部42は、電線100でのスリーブ20が配置されている一部位を圧着させることになる。
【0036】
シース圧着部43は、編組圧着部42に対して同軸状に連結された筒状部であり、編組圧着部42が編組105を圧着させている状態で、電線100のシース106を圧着により係合させる。
【0037】
アウターハウジング60は、コネクタ1の外装を成す絶縁部材である。アウターハウジング60の材質は、例えば合成樹脂である。アウターハウジング60は、X方向を軸方向とし、横断面がおおよそ矩形状である筒状である。アウターハウジング60は、先端面61と電線接続面62との間で軸方向に沿って貫通する収容部63を有する。収容部63は、コネクタアッセンブリ2を収容する。完成状態にあるコネクタ1では、収容部63の先端面61側の開口は、インナーハウジング30の第1端面31と、シールド接続部41の接続口41aとを外方へ開放する。また、アウターハウジング60は、その外壁面の一部に、コネクタ1が外部の接続対象に接続されたときに、当該接続対象に予め設けられている係止部と係合する係合部64を有してもよい。係合部64は、接続対象からのコネクタ1の脱落を抑止する、いわゆるロック機構として機能する。
【0038】
次に、コネクタ1の効果について説明する。
【0039】
コネクタ1は、金属製の編組105で囲われたペア線101を含む電線100に取り付けられる。コネクタ1は、外部に露出した編組105の外周に配置される筒状のスリーブ20と、電線100でのスリーブ20が配置されている一部位を圧着させる編組圧着部42を有するシールド端子としてのアウター端子40とを備える。スリーブ20は、軸方向でペア線101の端末に近い方の端部である前端部21eに複数の加締め片22を有する。スリーブ20が編組105の外周に配置されるとき、編組105の先端部105aは、加締め片22で折り返されてスリーブ20の外周21fを覆う。編組105の先端部105aがスリーブ20の外周21fを覆った後、複数の加締め片22は、ペア線101に近づく方向に折り曲げられる。
【0040】
まず、コネクタ1によれば、編組105に覆われた各々の加締め片22がペア線101に近づく方向に折り曲げられることで、加締め片22を覆っている編組105もペア線101に接近するので、ペア線101と編組105との間の隙間が狭くなる。つまり、図5B図6Bとの比較として上記例示したように、第2距離L2の値を第1距離L1の値に近づけることができるので、インピーダンスの整合化に寄与させ、結果として、高速通信上の伝送特性を向上させることができる。
【0041】
ここで、上記例示では、第1配線101aと第2配線101bとが並ぶ方向すなわちY方向に沿って第1距離L1を規定し、第1距離L1と直交する方向すなわちZ方向に沿って第2距離L2が規定された。この場合、複数の加締め片22が折り曲げられなければ、図5Bに示すように、Z方向でペア線101と編組105との間の隙間が大きくなる。これに対して、ペア線101は、Z方向に沿って複数の加締め片22で加締められるので、図6Bに示すように、ペア線101と編組105との間の大部分の隙間を狭くすることができる。
【0042】
ところが、電線100の端末にコネクタ1を取り付ける作業では、必ずしも、ペア線101と編組105との間の隙間が大きい方向と、複数の加締め片22がペア線101を加締める方向とが一致するとは限らない。以下、図7及び図8に、ペア線101と編組105との間の隙間が大きい方向と、複数の加締め片22がペア線101を加締める方向とが一致しない場合の複数の加締め片22による加締め状態を例示する。
【0043】
図7は、加締め片22による他の加締め状態の第1例として、第1配線101aと第2配線101bとが並ぶ方向が第2加締め片22bと第3加締め片22cとを結んだ方向におおよそ沿うように傾いている場合を示す図である。なお、図7は、図6Bに準拠して描画されている。
【0044】
図7に示すような場合、第2加締め片22b及び第3加締め片22cは、第1配線101aと第2配線101bとが並ぶ方向で対向するため、大きく折り曲げられない。しかしながら、第1加締め片22aは、より第2配線101bに接近するように折り曲げられ、同様に、第4加締め片22dは、より第1配線101aに接近するように折り曲げられ得る。したがって、ペア線101と編組105との間の隙間が全体的には残存するものの、一部の第2距離L2の値を短くすることができるので、インピーダンスの整合化に有利となり得る。
【0045】
図8は、加締め片22による他の加締め状態の第2例として、第1配線101aと第2配線101bとが並ぶ方向が、複数の加締め片22がペア線101を加締める方向と一致する場合を示す図である。なお、図8は、図6Bに準拠して描画されている。
【0046】
図8に示すような場合、すべての加締め片22が大きく折り曲げられない。しかしながら、第1加締め片22a及び第2加締め片22bの双方が第2配線101bに接近し、同様に、第3加締め片22c及び第4加締め片22dの双方が第1配線101aに接近することになる。したがって、例えば、第3加締め片22c近傍の編組105との間の距離である第3距離L3、及び、第4加締め片22d近傍の編組105との間の距離である第4距離L4で示される部分の各々の隙間が小さくなるので、インピーダンスの整合化に有利となる。
【0047】
このように、コネクタ1によれば、ペア線101と編組105との間の隙間が大きい方向と、複数の加締め片22がペア線101を加締める方向とが一致する場合に限らず、各々の加締め片22は、ペア線101全体の外周形状に追従して折り曲げられる。そして、図7及び図8の例示のとおり、複数の加締め片22によるいずれの加締め状態が選択されたとしても、インピーダンスの整合化が向上される方向に作用する。つまり、コネクタ1によれば、編組105へのスリーブ20の配置に際して、予めペア線101全体の外周形状の向きを特定する必要がないので、電線100の端末へのコネクタ1の取付作業を簡易化させることができる。
【0048】
以上のように、本実施形態によれば、簡易的に伝送特性を向上させるコネクタ1を提供することができる。
【0049】
なお、上記説明では、複数の加締め片22のうちの1つが、第1仮想面P1又は第2仮想面P2を基準として、他のいずれかの加締め片22と対称形状の関係にある場合を例示した。これに対して、同様の効果を奏する範囲において、これらの加締め片22の少なくとも1つは、他の加締め片22と対称関係にない配置となってもよい。
【0050】
また、コネクタ1では、複数の加締め片22は、スリーブ20の軸中心AXを含む仮想面を基準として対称形状となる一対の加締め片22の複数の組み合わせであってもよい。
【0051】
ここで、スリーブ20の軸中心AXを含む仮想面は、上記例示の第1仮想面P1又は第2仮想面P2のいずれであってもよい。
【0052】
このコネクタ1によれば、各々の加締め片22がスリーブ20の前端部21eにバランスよく配置される。したがって、ペア線101全体の外周形状がスリーブ20の姿勢に対してどのような向きになったとしても、複数の加締め片22の折り曲げに際して、ペア線101全体の外周形状に各々の加締め片22を追従させやすくすることができる。
【0053】
一方、上記説明では、複数の加締め片22が、第1加締め片22a、第2加締め片22b、第3加締め片22c及び第4加締め片22dの4つである場合を例示したが、上記規定に従えば、スリーブ20を以下のように改変することができる。
【0054】
図9A及び図9Bは、スリーブ20に代わる、複数の加締め片52を有するスリーブ50の図である。図9Aは、複数の加締め片52が折り曲げられる前のスリーブ50の側面及び断面の併合図である。図9Bは、複数の加締め片52が折り曲げられた後のスリーブ50の側面図である。
【0055】
図10は、スリーブ50を採用した場合のX方向とは反対方向に沿って見た電線100の端末部分の正面図である。図10は、スリーブ20を採用した場合の図6Bに準拠して描画されている。
【0056】
スリーブ50は、スリーブ20と同径の筒状であるとともに、前端部51eに8つの加締め片52を有する。すなわち、複数の加締め片52は、第1加締め片52a、第2加締め片52b、第3加締め片52c、第4加締め片52d、第5加締め片52e、第6加締め片52f、第7加締め片52g及び第8加締め片52hである。この例では、第1加締め片52aと第5加締め片52eとは、第2仮想面P2を基準として対称形状である。第2加締め片52bと第8加締め片52h、第3加締め片52cと第7加締め片52g、及び、第4加締め片52dと第6加締め片52fが、それぞれ、第1仮想面P1を基準として対称形状である。同時に、第2加締め片52bと第4加締め片52d、及び、第6加締め片52fと第8加締め片52hが、それぞれ、第2仮想面P2を基準として対称形状である。このような複数の加締め片52によれば、例えば、第3加締め片52c及び第7加締め片52gを第2仮想面P2上に配置させることで、第1配線101aと第2配線101bとの間の隙間に編組105を入り込ませやすくなる。したがって、スリーブ50によれば、スリーブ20を採用した場合の図6Bと比較するとわかるとおり、ペア線101と編組105との間の隙間をより狭くすることができ、結果として、より伝送特性を向上させることができる。
【0057】
また、コネクタ1では、互いに直交する第1仮想面P1と第2仮想面P2との2つの仮想面を想定し、複数の加締め片22は、第1加締め片22a、第2加締め片22b、第3加締め片22c及び第4加締め片22dを含んでもよい。第1加締め片22aと第2加締め片22bとの一対の組と、第3加締め片22cと第4加締め片22dとの一対の組とは、第1仮想面P1を基準として対称形状であってもよい。第1加締め片22aと第3加締め片22cとの一対の組と、第2加締め片22bと第4加締め片22dとの一対の組とは、第2仮想面P2を基準として対称形状であってもよい。
【0058】
このコネクタ1は、すなわち、上記例示のスリーブ20を採用する場合に相当し、スリーブ50を採用する場合よりもペア線101と編組105との間の隙間が多いものの、より簡易的な構成で伝送特性を向上させるのに有利となる。
【0059】
また、コネクタ1では、第1加締め片22aと第2加締め片22bとの間隔である第1間隔S1は、第1加締め片22aと第3加締め片22cとの間隔である第2間隔S2よりも狭くてもよい。
【0060】
このコネクタ1によれば、ペア線101を加締める方向を、第1加締め片22aと第2加締め片22bとの一対の組と、第3加締め片22cと第4加締め片22dとの一対の組とが対向する方向に特定される。したがって、図6Bの例示のように、より少ない加締め片22の配置数で、ペア線101と編組105との間の隙間をより狭くさせるのに有利となる。
【0061】
更に、図9Aに例示のとおり、コネクタ1では、スリーブ50は、各々の加締め片52の根元で、かつ、スリーブ50の内壁51gに、周方向に沿った直線状の溝部53を有してもよい。
【0062】
このコネクタ1によれば、各々の加締め片52をペア線101に向けて折り曲げやすくさせることができる。なお、このような溝部53は、スリーブ20における各々の加締め片22の根元に設けられてもよい。
【0063】
以上、各実施形態を説明したが、実施形態はこれらに限定されるものではなく、実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 コネクタ
20,50 スリーブ
21e,51e 前端部
21f,51f 外周
22,52 加締め片
22a 第1加締め片
22b 第2加締め片
22c 第3加締め片
22d 第4加締め片
40 アウター端子
42 編組圧着部
51g 内壁
53 溝部
100 電線
101 ペア線
105 編組
AX 軸中心
P1 第1仮想面
P2 第2仮想面
S1 第1間隔
S2 第2間隔
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10