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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175817
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】超半球形状の加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 11/10 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B24B11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093849
(22)【出願日】2023-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイト、令和5年3月 日刊工業新聞、令和5年4月18日 OPIE‘23、令和5年4月19日~同月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000162180
【氏名又は名称】共立精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】渡部 直也
【テーマコード(参考)】
3C049
【Fターム(参考)】
3C049AA02
3C049AA11
3C049AA13
3C049AB01
3C049AB03
3C049BA02
3C049BB02
3C049BB09
3C049BC01
3C049BC02
3C049CA02
3C049CB01
3C049CB03
(57)【要約】
【課題】ワークの加工工程を工夫することにより、標準的なカーブジェネレータを使用して超半球形状を加工することを可能にしたカップ砥石を用いた超半球形状の加工方法を提供する。
【解決手段】スピンドル2と昇降装置3とスライドテーブル4と旋回装置5と回転装置6とカップ砥石7とを備えたカーブジェネレータを使用し、カップ砥石7の傾斜角度αを45°超に設定し、カップ砥石7におけるワークWとの接触点であってZ軸方向で最も高い位置にある研削ポイントをスピンドル2の回転軸EからX軸方向に外れた位置に配置し、スピンドル2及びカップ砥石7が回転した状態で、ワークWをZ軸方向に上昇させる工程と、ワークWの上端がカップ砥石7の研削ポイントに到達した後、カップ砥石7の研削ポイントをスピンドル2の回転軸Eに一致するようにX軸方向に移動させる工程とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを着脱可能に保持する一方でZ軸方向の回転軸を有するスピンドルと、このスピンドルをZ軸方向に昇降させる昇降装置と、前記スピンドルの回転軸に対して直交するX軸方向に沿って進退可能に構成されたスライドテーブルと、このスライドテーブル上で前記Z軸方向及び前記X軸方向に対して直交するB軸の廻りに旋回可能に構成された旋回装置と、この旋回装置に搭載されていて前記B軸と直交する回転軸を有する回転装置と、この回転装置に着脱可能に取り付けられたカップ砥石とを備えたカーブジェネレータを使用し、
前記カップ砥石の前記スピンドルの回転軸に対する傾斜角度αを45°超に設定し、前記カップ砥石における前記ワークとの接触点であって前記Z軸方向で最も高い位置にある研削ポイントを前記スピンドルの回転軸から前記X軸方向に外れた位置に配置し、前記スピンドル及び前記カップ砥石が回転した状態で、前記ワークを前記Z軸方向に上昇させる工程と、
前記ワークの上端が前記カップ砥石の研削ポイントに到達した後、前記カップ砥石の研削ポイントを前記スピンドルの回転軸に一致するように前記X軸方向に移動させる工程とを有することを特徴とする超半球形状の加工方法。
【請求項2】
前記ワークの目標加工形状及び前記カップ砥石の形状を含む形状データに基づいて前記カップ砥石の前記スピンドルの回転軸に対する傾斜角度αと前記カップ砥石の前記X軸方向の移動量Δdとを演算する演算部と、この演算部により演算された算出値に基づいて前記昇降装置と前記スライドテーブルと前記旋回装置の移動を制御する制御部とを備え、
前記カップ砥石の前記傾斜角度αと前記X軸方向の移動量Δdとを演算し、この演算された算出値に基づいて前記カップ砥石が前記スピンドルの回転軸に対して前記傾斜角度αを有するように前記B軸の廻りに旋回すると共に前記カップ砥石が前記スピンドルの回転軸から前記X軸方向の移動量Δdだけ移動し、
前記ワークが前記Z軸方向に上昇して前記ワークと前記カップ砥石が接触し、前記カップ砥石が前記ワークの所定の量を研削した後、前記カップ砥石の研削ポイントが前記スピンドルの回転軸に一致するように前記X軸方向の移動量Δdだけ移動することにより前記カップ砥石が前記ワークを前記目標加工形状になるように研削することを特徴とする請求項1に記載の超半球形状の加工方法。
【請求項3】
前記カップ砥石の前記X軸方向の移動量Δd[mm]と、前記カップ砥石を前記傾斜角度αに設定した状態で前記ワークの中心軸と前記カップ砥石が接触するように前記ワークを上昇させたときの前記ワークと前記カップ砥石が干渉する前記X軸方向の仮想干渉量Xd[mm]とがXd≦Δd≦Xd+3mmの関係を満たすことを特徴とする請求項2に記載の超半球形状の加工方法。
【請求項4】
前記ワークを加工する前に、前記カップ砥石の前記傾斜角度αを0°に設定した状態で前記ワークの中心軸と前記カップ砥石が接触するように前記ワークを上昇させ、前記ワークと前記カップ砥石が接触したときの前記ワークの前記Z軸方向の位置を基準位置として予め登録しておき、
前記カップ砥石の前記傾斜角度αが0°の状態から45°超に設定したときに変位する前記カップ砥石の前記Z軸方向の変位量Zdを演算し、予め登録した前記ワークの基準位置と演算された前記カップ砥石の前記Z軸方向の変位量Zdとを含む位置データに基づいて前記ワークのZ軸方向の移動量Wzを演算し、
この演算された算出値に基づいて前記ワークを前記Z軸方向に移動させて研削することを特徴とする請求項2又は3に記載の超半球形状の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップ砥石を用いた超半球形状の加工方法に関し、更に詳しくは、ワークの加工工程を工夫することにより、標準的なカーブジェネレータを使用して超半球形状を加工することを可能にしたカップ砥石を用いた超半球形状の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレンズ加工機において、レンズを保持し、回転する軸(Z軸)とそれに直交するX軸とレンズを研削する工具側の軸(B軸)の3軸を同時に制御することにより、レンズを任意の形状に加工することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような3軸同時制御では、各軸を高い精度で制御することは難しく、また、加工後のレンズが所望の目標加工形状になるように十分な精度を維持することが難しいという問題がある。
【0003】
また、従来のカーブジェネレータを用いた加工方法では、カップ砥石を傾斜させた状態でZ軸方向に上昇させて加工するため、加工対象のワークは物理的に正確な球面になり、前段落に記載した3軸同時制御による加工方法よりも精度的に優位性がある。しかしながら、従来のカーブジェネレータを用いて超半球形状を加工する場合、工具(例えばカップ砥石)をZ軸に対して45°超に傾斜させた状態でレンズをZ軸方向に上昇させながら加工しようとすると、カップ砥石とレンズが干渉し、超半球形状を加工することができないという問題がある。具体的には、図6(a)~(c)に示すように、カップ砥石7をZ軸に対して例えば55°程度に傾斜させた状態で、従来の加工方法に基づいて超半球形状を加工しようとすると、未加工のワークWをZ軸方向に上昇させた際、カップ砥石の一部とワークWの側面とが干渉し、ワークWの側面が研削されてしまうため、超半球形状を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-068337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ワークの加工工程を工夫することにより、標準的なカーブジェネレータを使用して超半球形状を加工することを可能にしたカップ砥石を用いた超半球形状の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の超半球形状の加工方法は、ワークを着脱可能に保持する一方でZ軸方向の回転軸を有するスピンドルと、このスピンドルをZ軸方向に昇降させる昇降装置と、前記スピンドルの回転軸に対して直交するX軸方向に沿って進退可能に構成されたスライドテーブルと、このスライドテーブル上で前記Z軸方向及び前記X軸方向に対して直交するB軸の廻りに旋回可能に構成された旋回装置と、この旋回装置に搭載されていて前記B軸と直交する回転軸を有する回転装置と、この回転装置に着脱可能に取り付けられたカップ砥石とを備えたカーブジェネレータを使用し、前記カップ砥石の前記スピンドルの回転軸に対する傾斜角度αを45°超に設定し、前記カップ砥石における前記ワークとの接触点であって前記Z軸方向で最も高い位置にある研削ポイントを前記スピンドルの回転軸から前記X軸方向に外れた位置に配置し、前記スピンドル及び前記カップ砥石が回転した状態で、前記ワークを前記Z軸方向に上昇させる工程と、前記ワークの上端が前記カップ砥石の研削ポイントに到達した後、前記カップ砥石の研削ポイントを前記スピンドルの回転軸に一致するように前記X軸方向に移動させる工程とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の超半球形状の加工方法では、ワークを着脱可能に保持する一方でZ軸方向の回転軸を有するスピンドルと、このスピンドルをZ軸方向に昇降させる昇降装置と、スピンドルの回転軸に対して直交するX軸方向に沿って進退可能に構成されたスライドテーブルと、このスライドテーブル上でZ軸方向及びX軸方向に対して直交するB軸の廻りに旋回可能に構成された旋回装置と、この旋回装置に搭載されていてB軸と直交する回転軸を有する回転装置と、この回転装置に着脱可能に取り付けられたカップ砥石とを備えているので、標準的なカーブジェネレータの構成を備えながらも、カップ砥石のスピンドルの回転軸に対する傾斜角度αを45°超に設定し、カップ砥石の研削ポイントをスピンドルの回転軸からX軸方向に外れた位置に配置してワークをZ軸方向に上昇させる工程と、ワークの上端がカップ砥石の研削ポイントに到達した後、カップ砥石の研削ポイントをスピンドルの回転軸に一致するようにX軸方向に移動させる工程の2段階の加工工程を経ることにより、従来加工することができなかった超半球形状に加工することが可能になる。特に、標準的なカーブジェネレータの構成を備えていることで、カップ砥石の傾斜角度αを固定したまま連続的にワークを加工することができるという有利な点を維持することができるので、十分な精度を確保し易くなり、目標加工形状に対して高い精度を得ることができる。更に、ワークの形状を補正する場合にも従来のリングスフェロメータによる測定結果に基づいて補正することができるので、補正作業が簡便であり、非常に有利である。
【0008】
本発明の超半球形状の加工方法において、ワークの目標加工形状及びカップ砥石の形状を含む形状データに基づいてカップ砥石のスピンドルの回転軸に対する傾斜角度αとカップ砥石のX軸方向の移動量Δdとを演算する演算部と、この演算部により演算された算出値に基づいて昇降装置とスライドテーブルと旋回装置の移動を制御する制御部とを備え、カップ砥石の傾斜角度αとX軸方向の移動量Δdとを演算し、この演算された算出値に基づいてカップ砥石がスピンドルの回転軸に対して傾斜角度αを有するようにB軸の廻りに旋回すると共にカップ砥石がスピンドルの回転軸からX軸方向の移動量Δdだけ移動し、ワークがZ軸方向に上昇してワークとカップ砥石が接触し、カップ砥石がワークの所定の量を研削した後、カップ砥石の研削ポイントがスピンドルの回転軸に一致するようにX軸方向の移動量Δdだけ移動することによりカップ砥石がワークを目標加工形状になるように研削することが好ましい。これにより、ワークの目標加工形状に対して高い精度を得ることに寄与する。
【0009】
カップ砥石のX軸方向の移動量Δd[mm]と、カップ砥石を傾斜角度αに設定した状態でワークの中心軸とカップ砥石の先端が接触するようにワークを上昇させたときのワークとカップ砥石とが互いに干渉するX軸方向の仮想干渉量Xd[mm]とはXd≦Δd≦Xd+3mmの関係を満たすことが好ましい。このようにカップ砥石のX軸方向の移動量Δdを可及的に小さくすることにより、ワークの目標加工形状に対して高い精度を得ることに寄与する。
【0010】
ワークを加工する前に、カップ砥石の傾斜角度αを0°に設定した状態でワークの中心軸とカップ砥石が接触するようにワークを上昇させ、ワークとカップ砥石が接触したときのワークのZ軸方向の位置を基準位置として予め登録しておき、カップ砥石の傾斜角度αが0°の状態から45°超に設定したときに変位するカップ砥石のZ軸方向の変位量Zdを演算し、予め登録したワークの基準位置と演算されたカップ砥石のZ軸方向の変位量Zdとを含む位置データに基づいてワークのZ軸方向の移動量Wzを演算し、この演算された算出値に基づいてワークをZ軸方向に移動させて研削することが好ましい。これにより、ワークの目標加工形状に対して高い精度を得ることに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明で使用するカーブジェネレータを示す斜視図である。
図2】本発明の加工方法に基づくフローチャートである。
図3】本発明の加工方法によるワーク形状の変化を示す説明図である。
図4】本発明の加工方法において各種の寸法を演算する際の説明図である。
図5】本発明の加工方法において各種の寸法を演算する際の説明図である。
図6】従来の加工方法によるワーク形状の変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明で使用するカーブジェネレータを示すものである。なお、図1において、スピンドルの回転軸Eに対して垂直となる方向をX軸方向とし、スピンドルの回転軸Eに対して平行となる方向をZ軸方向とする。
【0013】
図1に示すように、カーブジェネレータ1は、ワークWを着脱可能に保持する一方でZ軸方向に回転軸Eを有するスピンドル2と、このスピンドル2をZ軸方向に昇降させる昇降装置3と、X軸方向に沿って進退可能に構成されたスライドテーブル4と、スライドテーブル4上でX軸方向及びZ軸方向に対して直交するB軸の廻りに旋回可能に構成された旋回装置5と、旋回装置5に搭載されていてB軸と直交する回転軸Fを有する回転装置6と、回転装置6に着脱可能に取り付けられたカップ砥石7とを備えている。また、スピンドル2の回転軸EはワークWの回転軸と一致し、回転装置6の回転軸Fとカップ砥石7の回転軸と一致する。カップ砥石7は、有底筒状の砥石本体7aと、砥石本体7aの一端にダイヤモンド砥石が装着された先端部7bとを有している。ワークWの形状や大きさに応じて円筒体のもの等、種々の形状を有するものが使用される。
【0014】
更に、カーブジェネレータ1は、ワークWの加工に必要な各種の寸法を演算する演算部と、この演算部により演算された算出値に基づいて各部を制御する制御部とを備えている。演算部は、ワークWの目標加工形状及びカップ砥石7の形状を含む形状データと位置データに基づいて、カップ砥石7のスピンドル2の回転軸Eに対する傾斜角度αとカップ砥石7のX軸方向の移動量Δd及びZ軸方向の変位量ZdとワークWのZ軸方向の移動量Wzとを含むワークWの加工に必要な寸法を演算する。また、制御部は、昇降装置3とスライドテーブル4と旋回装置5の移動、及び、スピンドル2と回転装置6の回転を制御する。これら演算部及び制御部は、それぞれ演算装置や制御装置として構成することができ、カーブジェネレータ1の内部に搭載しても良く、又はカーブジェネレータ1の外部に配置され、接続されていても良い。
【0015】
上述したカーブジェネレータ1を用いてワークWを加工する方法について説明する。図2図5は本発明の加工方法を示すものである。本発明では、図2に示すように、ステップS1~S5の工程を経ることにより、ワークWを所望の超半球形状(目標加工形状)に研削することができる。
【0016】
ステップS1では、プリセット工程として、図3(a)に示すように、ワークWを加工する前に、カップ砥石7の傾斜角度αを0°に設定した状態で未加工のワークWの中心軸(スピンドル2の回転軸E)とカップ砥石7の先端が接触するように、スピンドル2の最下点位置からワークWを上昇させ、ワークWとカップ砥石7が接触したときのワークWのZ軸方向の位置を測定し、このワークWのZ軸方向の位置を基準位置として予め登録しておく。
【0017】
そして、ステップS2では、加工前のカップ砥石7の位置決め工程として、各種の形状データに基づいて、カップ砥石7の傾斜角度α及びX軸方向の移動量Δd[mm](図3(b)参照)を演算する。具体的には、図4に示すように、ワークWの目標加工形状とカップ砥石7の位置を想定した上で、カップ砥石7の傾斜角度α、X軸方向の移動量Δdを演算する。ここで、X軸方向の移動量Δdは、スピンドル2の回転軸Eとカップ砥石7の研削ポイントGpとの間でX軸方向に沿って測定される距離である。このカップ砥石7の研削ポイントGpは、カップ砥石7が傾斜角度αで傾いた状態で、カップ砥石7とワークWの接触点であって、カップ砥石7の研削面においてZ軸方向で最高位置にある点である。まず、カップ砥石7の外径D1[mm]及び内径D2[mm]と、ワークWの目標加工形状の加工曲率半径R[mm]と、カップ砥石7の先端部7bの曲率半径r[mm]とを用いた下記の数式1により、傾斜角度α[°]を求める。この算出されたカップ砥石7の傾斜角度αは、45°超60°以下の範囲にある。
【0018】
【数1】
【0019】
そして、ワークWの目標加工形状の加工曲率半径Rと傾斜角度αとを用いた下記の数式2により、第1のX軸方向の仮想干渉量D[mm]を求めると共に、カップ砥石7の先端部7bの曲率半径rと傾斜角度αとを用いた下記の数式3により、第2のX軸方向の仮想干渉量d[mm]を求める。ここで、図4に示すように、第1のX軸方向の仮想干渉量D及び第2のX軸方向の仮想干渉量dは、いずれもX軸方向の仮想的な重複量である。第1のX軸方向の仮想干渉量Dは、ワークWとカップ砥石7の接触点Pを境として接触点Pよりも上側の干渉量に相当し、第2のX軸方向の仮想干渉量dは、接触点Pよりも下側の干渉量に相当し、仮想干渉量dは仮想干渉量Dに比べて微小である。そして、下記の数式4により、カップ砥石7のX軸方向の仮想干渉量Xd[mm]を求める。この算出されたカップ砥石7のX軸方向の仮想干渉量Xdをカップ砥石7のX軸方向の移動量Δdとして設定した場合、カップ砥石7を傾斜角度αに設定した状態でワークWを上昇させても、ワークWとカップ砥石7とが互いに干渉することはない。
【0020】
【数2】
【0021】
【数3】
【0022】
【数4】
【0023】
上記のように算出されたカップ砥石7のX軸方向の仮想干渉量Xdをカップ砥石7のX軸方向の移動量Δdとして設定しても良いが、加工時のズレ等を考慮して、下記の関係を満たすようにカップ砥石7のX軸方向の移動量Δdを設定しても良い。カップ砥石7のX軸方向の移動量Δd[mm]とX軸方向の仮想干渉量Xd[mm]とは、Xd≦Δd≦Xd+3mmの関係を満たすことが好ましい。特に、Xd≦Δd≦Xd+2mmの関係を満たすことがより好ましく、Xd≦Δd≦Xd+1mmの関係を満たすことが最も好ましい。このようにカップ砥石7のX軸方向の移動量Δdを可及的に小さくすることにより、ワークWの目標加工形状に対して高い精度を得ることに寄与する。
【0024】
ステップS2において、更に、カップ砥石7の各種の位置データに基づいて、最終的なワークWのZ軸方向の移動量Wzを演算する。具体的に、まず、図5に示すように、カップ砥石7の傾斜角度αが0°の状態と、ワークWの目標加工形状に対してカップ砥石7が傾斜角度αで傾いた状態を想定した上で、カップ砥石7のZ軸方向の変位量Zdを演算する。そして、カップ砥石7の傾斜角度αが0°の状態でB軸からカップ砥石7の軸中心までのX軸方向の距離KC[mm]と、カップ砥石7の傾斜角度αが0°の状態で基準面SからB軸までのZ軸方向の距離KX[mm]と、カップ砥石7の外径D1及び内径D2と、カップ砥石7の傾斜角度αが0°の状態で基準面Sからカップ砥石7の先端までのZ軸方向の砥石長さLW[mm]と、カップ砥石7の先端部7bの曲率半径rとを用いた下記の数式5により、角度θ1[°]を求める。この角度θ1は、カップ砥石7の先端部7bの曲率半径rの中心とB軸を結ぶ直線と、B軸を通るX軸方向に平行な直線とがなす角度である。更に、距離KCと距離KXとカップ砥石7の外径D1及び内径D2と砥石長さLWとカップ砥石7の先端部7bの曲率半径rと角度θ1と傾斜角度αを入力した角度θ2[°]とを用いた下記の数式6により、長さL[mm]を求める。この長さLは、カップ砥石7が傾斜角度α(角度θ2)で傾いた状態で、B軸を通るX軸方向に平行な直線からカップ砥石7の先端部7bの曲率半径rの中心までのZ軸方向に沿って測定される長さである。ここで、角度θ2は、B軸を通るX軸方向に平行な直線と、その直線に対してX軸方向の下方に傾斜角度αで傾斜する直線とがなす角度である。そして、下記の数式7により、カップ砥石7の傾斜角度αが0°の状態から45°超に設定したときに変位するカップ砥石7のZ軸方向の変位量Zd[mm]を求める。最後に、ステップS1で予め登録したワークWの基準位置と演算されたカップ砥石7のZ軸方向の変位量Zdに基づいて、両者の差(前者から後者を引いた値)となるワークWのZ軸方向の移動量Wzを求める。このワークWのZ軸方向の移動量Wzは、スピンドル2の最下点位置からワークWの上端がカップ砥石7の研削ポイントGpに到達するまでの総移動量に相当する。なお、距離KXと砥石長さLWの基準となる基準面Sは、例えば回転装置6の下端に設定することができる。
【0025】
【数5】
【0026】
【数6】
【0027】
【数7】
【0028】
次に、ステップS3では、加工前のカップ砥石7のセッティング工程として、カップ砥石7を所定位置に移動する。具体的に、ステップS2で演算された算出値に基づいて、図3(b)に示すように、カップ砥石7の研削ポイントGpが、スピンドル2の回転軸Eに対して傾斜角度αを有するようにB軸の廻りに傾斜すると共に、スピンドル2の回転軸EからX軸方向に離れるようにX軸方向の移動量Δdだけ移動する。
【0029】
そして、ステップS4では、ワークWをZ軸方向に上昇させ、カップ砥石7によるワークWの研削作業を開始する。具体的に、ステップS2で演算されたZ軸方向の移動量Wzの分だけワークWがZ軸方向に徐々に上昇することにより、ワークWの上部が所定の量だけ研削される(第1研削工程)。その際、ワークWは、スピンドル2の最下点位置からカップ砥石7の研削ポイントGpまで移動している。このような第1研削工程の終了時には、図3(c)に示すように、ワークWの上部には円形状の未加工部分が形成される。
【0030】
次に、ステップS5では、カップ砥石7がX軸方向に移動し、カップ砥石7によるワークWの残りの研削作業が開始する。具体的に、カップ砥石7の研削ポイントGpがスピンドル2の回転軸Eに一致するようにX軸方向の移動量Δdだけ徐々に移動することにより、ワークWの残りの部分が所定の加工曲率半径Rになるように研削される(第2研削工程)。このような第2研削工程の終了時には、図3(d)に示すように、ワークWが所望の超半球形状(目標加工形状)に研削される。
【0031】
上述した本発明の超半球形状の加工方法では、ワークWを着脱可能に保持する一方でZ軸方向の回転軸Eを有するスピンドル2と、スピンドル2をZ軸方向に昇降させる昇降装置3と、X軸方向に沿って進退可能に構成されたスライドテーブル4と、スライドテーブル4上でB軸の廻りに旋回可能に構成された旋回装置5と、旋回装置5に搭載されていてB軸と直交する回転軸Fを有する回転装置6と、回転装置6に着脱可能に取り付けられたカップ砥石7とを備えているので、標準的なカーブジェネレータの構成を備えながらも、カップ砥石7の傾斜角度αを45°超に設定し、カップ砥石7の研削ポイントGpをスピンドル2の回転軸EからX軸方向に外れた位置に配置してワークWをZ軸方向に上昇させる工程と、ワークWの上端がカップ砥石7の研削ポイントGpに到達した後、カップ砥石7の研削ポイントGpをスピンドル2の回転軸Eに一致するようにX軸方向に移動させる工程の2段階の加工工程を経ることにより、従来加工することができなかった超半球形状に加工することが可能になる。特に、標準的なカーブジェネレータの構成を備えていることで、カップ砥石7の傾斜角度αを固定したまま連続的にワークWを加工することができるという有利な点を維持することができるので、十分な精度を確保し易くなり、目標加工形状に対して高い精度を得ることができる。更に、ワークWの形状を補正する場合にも従来のリングスフェロメータによる測定結果に基づいて補正することができるので、補正作業が簡便であり、非常に有利である。
【符号の説明】
【0032】
1 カーブジェネレータ
2 スピンドル
3 昇降装置
4 スライドテーブル
5 旋回装置
6 回転装置
7 カップ砥石
Gp 研削ポイント
図1
図2
図3
図4
図5
図6