(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175825
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ジシアノナフタレンイリデン誘導体およびそれを用いた有機発光素子
(51)【国際特許分類】
C07C 255/35 20060101AFI20241212BHJP
H10K 50/125 20230101ALI20241212BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20241212BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20241212BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20241212BHJP
H10K 50/19 20230101ALI20241212BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241212BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241212BHJP
C07C 255/51 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C07C255/35 CSP
H10K50/125
H10K50/17
H10K50/15
H10K50/16
H10K50/19
H10K59/10
H10K85/60
C07C255/51
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093860
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】東 潤
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 敬司
【テーマコード(参考)】
3K107
4H006
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC09
3K107CC24
3K107CC45
3K107DD52
3K107DD71
3K107DD75
3K107DD78
4H006AA01
4H006AB90
(57)【要約】
【課題】熱安定性に優れ、蒸着温度が低く正孔注入材料として有用なジシアノナフタレンイリデン誘導体およびそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるジシアノナフタレンイリデン誘導体。式(1)中、Arは、無置換の環形成炭素数6~24の芳香環、環形成原子数5~24の複素環、置換基を有する環形成炭素数6~60のアリール基、ピリジル基、キノリル基、置換若しくは無置換の炭素数1~50のアルキル基、環形成炭素数3~50のシクロアルキル基、炭素数7~50のアラルキル基、炭素数1~50のアルコキシ基、環形成炭素数6~50のアリールオキシ基、環形成炭素数6~50のアリールチオ基、炭素数2~50のアルコキシカルボニル基、環形成炭素数6~50のアリール基で置換されたアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基又はカルボキシル基。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるジシアノナフタレンイリデン誘導体。
【化1】
(式(1)中、Arは、無置換の環形成炭素数6~24の芳香環、無置換の環形成原子数5~24の複素環、置換基を有する環形成炭素数6~60のアリール基、ピリジル基、キノリル基、置換若しくは無置換の炭素数1~50のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数3~50のシクロアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数7~50のアラルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1~50のアルコキシ基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~50のアリールオキシ基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~50のアリールチオ基、置換若しくは無置換の炭素数2~50のアルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~50のアリール基で置換されたアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基又はカルボキシル基である。R
1~R
4は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のフルオロアルキル基、又は、シアノ基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)が、下記の化学式(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)、(1-5)、又は(1-8)のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のジシアノナフタレンイリデン誘導体。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化9】
【請求項3】
基板と、
前記基板上に積層される陽極と、
前記陽極上に積層される、発光層を含む1層以上の有機薄膜層と、
前記有機薄膜層上に積層されるドナー含有層と、
前記ドナー含有層上に積層されるアクセプター含有層と、
前記アクセプター含有層上に積層される光透過性陰極と、
を備え、
前記有機薄膜層は、前記陽極と前記発光層の間に正孔注入層を有し、
前記正孔注入層として、請求項1又は請求項2に記載のジシアノナフタレンイリデン誘導体を含む、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光層を含む1層以上の前記有機薄膜層が、電荷発生層を介して積層された2以上の発光ユニットを構成している、請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光ユニットの発光層を構成する少なくとも1つの材料が、他の発光ユニットの発光層を構成する材料と異なっている、請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層が白色発光する、請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換層の正孔注入層の材料として用いられる電子受容性有機材料、およびそれを用いた有機発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED、organic electroluminescent diode)は、自己発光かつ高輝度で、視野角が広く、応答がより速く、製造プロセスが簡単であることから、工業的なディスプレイによく用いられている。近年、携帯電話、携帯情報端末(personal digital assistant)およびノートパソコン等の電子製品の発展と広範な応用に伴い、消費する電力がより低くかつ占めるスペースのより小さなフラットディスプレイデバイスに対する需要が高まっている。
【0003】
従来の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一般的に真性半導体材料に依存し、かつ非ドープ正孔注入層を有しており、同じタイプの液晶ディスプレイ(LCD)と比べ、駆動電圧と消費電力が高い。有機エレクトロルミネセントダイオードの駆動電圧および消費電力を減らすため、p-i-n構造を有するOLEDが知られている。具体的に言うと、そのOLEDはp-ドープ正孔注入層を有する。
【0004】
また、p-ドーパントとしてF4-TCNQ(2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタン)、およびp-ドープ層のホストとしてm-MTDATA(4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)-トリフェニルアミン)を用いたp-i-nOLEDが知られている。
【0005】
特許文献1には、正孔注入層がF4-TCNQ構造を有する化合物を含む有機エレクトロルミネセントダイオードを含む画像表示システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、F4-TCNQは熱安定性が低く、蒸発時に分解し易いことから、OLEDの信頼性および性能が落ちる。さらに、F4-TCNQは蒸着温度が低いため、F4-TCNQのドーパント量を制御し難いという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、熱安定性に優れ、蒸着温度が低く正孔輸送層として有用なジシアノナフタレンイリデン誘導体およびそれを用いた有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、下記の一般式(1)で表されるジシアノナフタレンイリデン誘導体である。
【化1】
式(1)中、Arは、無置換の環形成炭素数6~24の芳香環、無置換の環形成原子数5~24の複素環、置換基を有する環形成炭素数6~60のアリール基、置換基を有するピリジル基、置換基を有するキノリル基、置換若しくは無置換の炭素数1~50のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数3~50のシクロアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数7~50のアラルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1~50のアルコキシ基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~50のアリールオキシ基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~50のアリールチオ基、置換若しくは無置換の炭素数2~50のアルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~50のアリール基で置換されたアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基又はカルボキシル基である。R
1~R
6は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のフルオロアルキル基、又は、シアノ基である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の構成によれば、有機発光素子の正孔注入層の材料として上記式(1)で表される化合物を用いることにより、熱安定性に優れ、蒸着温度の低い正孔注入層を形成することができ、ドーパント量の制御が容易となる。従って、有機発光素子の信頼性および性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100の部分断面図
【
図2】本発明の第2実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子100の部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.有機エレクトロルミネッセンス素子の構成]
先ず、本発明のジシアノナフタレンイリデン誘導体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、単に有機発光素子という)100の部分断面図である。有機発光素子100は、基板1と、陽極2と、正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5と、ドナー含有層6と、アクセプター含有層7と、光透過性陰極8とを備える。
【0013】
<基板>
基板1は、有機発光素子100に使用可能であれば、特に限定されない。基板1は、透明であっても不透明であってもよい。透明基板としては、例えば、石英ガラスのようなガラス、合成石英板等の透明なリジット基板、および透明樹脂フィルム、光学用樹脂板等の透明なフレキシブル基板が挙げられる。透明なフレキシブル基板は、加工の容易さ、製造コストの低減、軽量化、割れ難さ、曲面への適用が可能という利点を有する。
【0014】
<陽極>
陽極2は、正孔注入電極である。陽極2として用いられる材料としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、カーボン(C)、酸化インジウムスズ(ITO、Indium tin oxide)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO、Fluorine-doped tin oxide)、および酸化亜鉛(ZnO)が挙げられる。
【0015】
また、陽極2の材料は、有機発光素子100が基板1側の面からも光を出射するか否かを考慮して適宜選択される。基板1が透明基板であり、基板1側の面からも光を出射する場合、陽極2は透明電極であることが好ましい。陽極2が透明電極である場合に用いられる材料としては、例えば、酸化インジウム亜鉛(IZO、Indium zinc oxide)、ITO、FTO、ZnO-Al、およびZn-Sn-Oが挙げられる。
【0016】
陽極2は、単層であってもよい。また、陽極2は、異なる仕事関数を有する複数の層から構成されていてもよい。
【0017】
陽極2は、基板1の全面にシート状に形成されていてもよく、基板1上にパターン状に形成されていてもよい。また、陽極2の形状は、フラット形状であってもよく、凹凸状であってもよい。凹凸状としては、例えば、テクスチャー構造状、ピラミッド構造状、波型構造状、くし型構造状、およびナノピロー構造状が挙げられる。陽極2は、例えばスパッタリング、電子ビーム蒸着、熱蒸着または化学蒸着などの方法で形成される。
【0018】
<正孔注入層>
正孔注入層3は陽極電極2と正孔輸送層4との間に積層されている。正孔注入層3は、陽極2(正孔注入電極)から正孔輸送層4への正孔の注入(移動)が容易に行われるように設けられる。
【0019】
本実施形態の有機発光素子100では、正孔注入層3は、以下の一般式(1)で表されるジシアノナフタレンイリデン誘導体を含有する。正孔注入層3は、一般式(1)で表されるジシアノナフタレンイリデン誘導体のみを含有してもよいし、添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、界面処理剤等の従来公知の添加剤を用いることができる。
【0020】
【0021】
式(1)中、Arは、無置換の環形成炭素数6~24の芳香環、無置換の環形成原子数5~24の複素環、置換基を有する環形成炭素数6~60のアリール基、置換基を有するピリジル基、置換基を有するキノリル基、置換若しくは無置換の炭素数1~50のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数3~50のシクロアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数7~50のアラルキル基、置換もしくは無置換の炭素数1~50のアルコキシ基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~50のアリールオキシ基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~50のアリールチオ基、置換若しくは無置換の炭素数2~50のアルコキシカルボニル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6~50のアリール基で置換されたアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基又はカルボキシル基である。R1~R6は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のフルオロアルキル基、又は、シアノ基である。
【0022】
一般式(1)で表されるジシアノナフタレンイリデン誘導体の具体例としては、下記の化学式で表される化合物(1-1)~(1-7)が挙げられる。化合物(1-1)~(1-7)の熱物性データ(昇華温度)をF4-TCNQと比較して表1に示す。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
表1に示すように、化合物(1-1)~(1-8)の蒸着温度はいずれも200℃以下と低めであるが、F4-TCNQの蒸着温度(100℃)よりも高い。そのため、F4-TCNQに比べてドーパント量を制御し易いことがわかる。
【0033】
正孔注入層3を構成するドーパント材料(電子受容性材料)として上記式(1)で表される化合物を用いることにより、電荷(電子)の移動度を改善することができ、有機発光素子100の発光効率が向上する。また、上記式(1)で表される化合物は熱安定性に優れ、蒸着温度が低いため、有機発光素子100を容易に製造することができ、信頼性も向上する。
【0034】
上記式(1)で表される化合物は、R1~R6基の電子吸引性をベースとして、Ar基の置換基として電子吸引性基が多いほど化合物自体の電子吸引性が大きくなり、ドーパントとしての性能も向上する。例えば、化合物(1-7)は、Ar基に電子吸引性の置換基が無く、ニトリル基、フッソ原子の電子吸引性のみである。Ar基が電子吸引基を有しない化合物の例としては、以下の化学式で表される化合物(1-9)~(1-11)が挙げられる。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
化合物(1-1)~(1-4)は、Ar基の置換基として電子吸引性のトリフルオロメチル基、ニトリル基、またはニトロ基を1個有する。Ar基が電子吸引性基を1個有する化合物の例としては、以下の化学式で表される化合物(1-12)~(1-17)が挙げられる。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
化合物(1-5)は、Ar基の置換基として電子吸引性のトリフルオロメチル基を2個有する。Ar基が電子吸引性基を2個有する化合物の例としては、以下の化学式で表される化合物(1-18)~(1-22)が挙げられる。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
化合物(1-6)、(1-8)は、Ar基の置換基として電子吸引性のフッ素原子またはニトリル基を5個有する。Ar基が電子吸引性基を3個以上有する化合物の例としては、以下の化学式で表される化合物(1-23)~(1-27)が挙げられる。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
<正孔輸送層>
正孔輸送層4は正孔注入層3と発光層5との間に積層されている。正孔輸送層4は、正孔注入層3から発光層5への正孔の注入(移動)が容易に行われるように設けられる。正孔注入層3および正孔輸送層4が積層されることにより、陽極2から発光層5への正孔注入効率が高められ、有機発光素子100の発光効率が向上する。
【0058】
<発光層>
発光層5は、正孔輸送層4とドナー含有層6との間に積層されている。発光層5は、陽極2より注入された正孔と光透過性陰極8より注入された電子の再結合エネルギーにより発光する発光材料を含む。発光層5は発光材料を単独で使用してもよいし、発光材料とホスト材料を含んでもよい。有機発光素子100が高い発光効率を発現するためには、発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、発光材料中に閉じ込めることが重要である。従って、発光層5中に発光材料に加えてホスト材料を添加することが好ましい。
【0059】
発光材料としては、従来公知の化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。ホスト材料としては、励起一重項エネルギー、励起三重項エネルギーの少なくとも一方が発光材料よりも高い値を有する有機化合物を用いることができる。ホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、かつ、高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。発光層5の発光は、発光層5に含まれる発光材料から生じる。この発光は蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。但し、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
【0060】
<ドナー含有層>
ドナー含有層6は、発光層5とアクセプター含有層7との間に積層されている。ドナー含有層6は、アクセプター含有層7から電子を引き抜き、電子を発光層5に注入する(電子をドナーする)層である。ドナー含有層6を設けることにより、発光層5とアクセプター含有層7のアフィニティレベルの大きな段差を解消することができ、アクセプター含有層7から電子を受け取りやすくなる。
【0061】
<アクセプター含有層>
アクセプター含有層7は、ドナー含有層6と光透過性陰極8との間に積層されている。アクセプター含有層7は、光透過性陰極8(電子注入電極)からドナー含有層6への電子の注入(移動)が容易に行われるように設けられる。アクセプター含有層7としては、易還元性の有機化合物が使用できる。化合物の還元し易さは、還元電位で測定することができる。本発明では飽和カロメル(SCE)電極を参照電極とした還元電位において、好ましくは-0.8V以上、より好ましくは-0.3V以上であり、特に好ましくはテトラシアノキノジメタン(TCNQ)の還元電位(約0V)より大きな値を持つ化合物が好ましい。
【0062】
ドナー含有層6と光透過性陰極8との間にアクセプター含有層7を設けることにより、アクセプター含有層7に含まれるアクセプターが、光透過性陰極8との間にある接触面より電子を引き抜く。アクセプター含有層7は電子輸送性であるので、電子はこの接触面からアクセプター含有層7中にドナー含有層6の方向に輸送される。さらに、電子はドナー含有層6から発光層5の方向に注入される。一方、陽極2から正孔が正孔注入層3、正孔輸送層4に注入され、さらに、発光層5に注入される。発光層5において正孔と電子が再結合し発光が生じる。
【0063】
本実施形態の有機発光素子100では、光透過性陰極8と発光層5の間にアクセプター含有層7とドナー含有層6を設けることにより、光透過性陰極8から発光層5への電子の注入(移動)を容易にし、有機発光素子100の駆動電圧の低下、高効率化、長寿命化を図ることができる。
【0064】
<光透過性陰極>
光透過性陰極8は、アクセプター含有層7上に積層される電子注入電極である。光透過性陰極8は、陽極2と対向して設けられる。光透過性陰極8は、導電性を有する限り、特に限定されない。光透過性陰極8の材料は、例えば、アクセプター含有層7の材料を考慮して、適宜選択される。
【0065】
光透過性陰極8の材料として用いられる材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO、Indium tin oxide)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO、Fluorine-doped tin oxide)、および酸化亜鉛(ZnO)が挙げられる。
【0066】
光透過性陰極8は、単層であってもよい。また、第2電極6は、異なる仕事関数を有する複数の層から構成されていてもよい。光透過性陰極8は、アクセプター含有層7の全面にシート状に形成されていてもよく、アクセプター含有層7上にパターン状に形成されていてもよい。
【0067】
<その他の構成部材>
有機発光素子100は、必要に応じて、上述した基板1、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、ドナー含有層6、アクセプター含有層7および光透過性陰極8に加えて、他の構成部材を更に備えていてもよい。他の構成部材としては、例えば、保護シート層、充填材層、バリア層、保護ハードコート層、強度支持層、防汚層、高光反射層、紫外線遮断層、赤外線遮断層、および封止材層が挙げられる。また、有機発光素子100には、必要に応じて、各層間に接着層が積層されていてもよい。
【0068】
本実施形態の有機発光素子100は、
図1に示す構成に限定されない。例えば、正孔注入層3、正孔輸送層4は任意の層であるため省略することが可能であり、また、発光層5とドナー含有層6との間に電子輸送層等を積層することもできる。正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層等が、本実施形態の有機発光素子100における有機薄膜層に相当する。また、光透過性陰極8とアクセプター含有層7との間にバッファー層を形成してもよい。
【0069】
以上、本発明の有機発光素子100の構成について、
図1に示した第1実施形態の有機発光素子100を例示して説明したが、本発明は第1実施形態の有機発光素子100の構成に限定されるものではない。例えば、陽極2と光透過性陰極8との間に2以上の発光ユニットが挟持され、かつ、発光ユニットの間に電荷発生層が積層されているスタック型のマルチフォトンエミッション素子(MPE素子)でもよい。
【0070】
図2は、本発明の第2実施形態に係る有機発光素子100の概略断面図である。本実施形態の有機発光素子100は、基板1上に、陽極2、第1発光ユニット10、電荷発生層11、第2発光ユニット12、ドナー含有層6、アクセプター含有層7及び光透過性陰極8を、この順に備える。2つの発光ユニット10、12は、それぞれ少なくとも発光層を有する単層又は積層構造を有する。例えば、発光ユニット51、53は、陽極2側から、正孔輸送層、発光層および電子輸送層を積層した多層膜構造であることが好ましい。
【0071】
有機発光素子100は、発光ユニットを2つ形成した以外は
図1に示した第1実施形態の有機発光素子100と同様の構成を有する。換言すれば、第1実施形態の有機発光素子100は、正孔注入層3、正孔輸送層4および発光層5からなる発光ユニットを1つ有する素子構成である。
【0072】
本実施形態では、例えば、各発光ユニット10、12を構成する発光層の材料を変えて発光色を異ならせることにより、白色発光する有機発光素子100が得られる。
【0073】
本実施形態の有機発光素子100は、
図2に示す構成に限定されない。例えば、本実施形態の有機発光素子100の各発光ユニット10、12において、発光層と電荷発生層との間に、上述したドナー含有層およびアクセプター含有層を積層してもよい。具体的には、第1発光ユニット10が、陽極2側から、正孔輸送層、発光層、ドナー含有層およびアクセプター含有層を積層した構成であってもよい。
【0074】
その他本発明は、上記各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明のジシアノナフタレンイリデン誘導体を有機発光素子100のアクセプター含有層7に用いた例について説明したが、例えば有機太陽電池のアクセプター層として用いることもできる。以下、実施例により本発明の効果について更に具体的に説明する。
【実施例0075】
[中間生成物(a-1)の合成例]
窒素雰囲気下、炭酸カリウム3.32g(24mmol)のジメチルホルムアミド溶液に化学式(A)で示されるヘキサフルオロベンゼン3.72g(20mmol)、化学式(B)で示される4-トリフルオロメチルベンジルニトリル3.70g(20mmol)を加え、室温にて15時間攪拌した。反応液を水に注ぎ、塩酸で酸性にした後、クロロホルムで抽出した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物(a-1)3.16gを得た(収率45%)。合成スキームを以下に示す。
【0076】
【0077】
[中間生成物(b-1)の合成例]
窒素雰囲気下、0℃で60%水素化ナトリウム1.20g(30mmol)の無水テトラヒドロフラン溶液に、マロノニトリル2.11g(32mmol)を滴下して1時間攪拌した。反応液に中間生成物(a-1)3.50g(10mmol)を滴下し、80℃に加温して還流しながら8時間攪拌した。反応液を水に注ぎ、塩酸で酸性にした後、クロロホルムで抽出した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物(b-1)1.98gを得た(収率50%)。合成スキームを以下に示す。
【0078】
【0079】
[ジシアノナフタレンイリデン誘導体(1-1)の合成例]
窒素雰囲気下、中間生成物(b-1)0.80g(2mmol)を無水アセトニトリル20mLに溶解し、溶液を0℃に冷却した後、2%臭素水16g(4mmol)を滴下して、室温に戻しながら1時間攪拌した。反応液を水に注ぎ、析出した固体をろ過により濾別し、水で2回、エーテルで2回洗浄し、乾燥して化合物(1-1)0.24gを得た(収率30%、H-NMR 600MHz;7.64(dd,2H),7.79(d,2H)CDCl3)。合成スキームを以下に示す。
【0080】