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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175832
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】不溶化剤
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/08 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B09C1/08 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093871
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(71)【出願人】
【識別番号】596041227
【氏名又は名称】石坂産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 豊
(72)【発明者】
【氏名】田島 創
(72)【発明者】
【氏名】小松秀和
(72)【発明者】
【氏名】綿貫陽介
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB03
4D004AB08
4D004AC04
4D004AC07
4D004CA34
4D004CC11
(57)【要約】
【課題】建設解体現場から発生する廃石膏混じり土や飛灰に含まれるフッ素や鉛を不溶化することによって、フッ素や鉛の溶出量を抑制することが可能となる。
【解決手段】建設解体現場から発生する廃石膏混じり土から抽出した精選土に少なくともリン酸二水素塩を含む水溶液の不溶化剤であり、この不溶化剤を加え、フッ素と、鉛とを不溶化し、溶出量を抑制する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフッ素と、鉛と、を不溶化する不溶化剤であって、リン酸二水素塩であり、該リン酸二水素塩が、少なくともリン酸二水素カルシウムもしくは、リン酸二水素ナトリウムのいずれか一方を含み、
カルシウムを含む不溶化助剤として、少なくとも水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、石膏のいずれか一つを添加して成ることを特徴とする不溶化剤。
【請求項2】
少なくとも前記不溶化剤と、前記不溶化助剤と、フッ素と、鉛と、により生成する物質が鉛フルオロアパタイトであることを特徴とする請求項1に記載の不溶化剤。
【請求項3】
フッ素を不溶化する不溶化剤であって、該不溶化剤が少なくとも鉛と、リンと、カルシウムと、酸素と、からなる化合物であることを特徴とするフッ素の鉛含有不溶化剤。
【請求項4】
フッ素を不溶化する不溶化剤であって、鉛のリンに対するモル含有比が、リン1モルに対し、鉛1/6モル以上1/3モル以下である請求項3に記載のフッ素の鉛含有不溶化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも土砂系混合廃棄物や飛灰に含まれるフッ素と、鉛と、を不溶化する不溶化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、汚染土壌や産業廃棄物の処理後の飛灰などに含有される土壌の汚染物質の溶出を抑制し、環境省の定める環境基準を満たすようにするための技術が種々提案されており、例えば、特許文献1には、フッ素、水銀、カドミウムなどの重金属類に汚染された汚染土壌に、燐酸質肥料を散布または添加・混合処理することによって、土壌中に存在する可溶性重金属を難溶性物質に変えて長期間にわたり安定化させることが記載されており、実施例では、環境省告示46号で規定された溶出試験を12ケ月の養生後に行っても処理土壌からのフッ素の溶出量は環境基準を満たしていることが示されている。
【0003】
特許文献2には、汚染物質により汚染された土壌と、液体と、汚染物質を吸着する能力を有する微粒子とを混合撹拌する工程と、汚染物質を吸着した微粒子を所定粒径以下の土壌粒子と共に分級除去する工程によって汚染土壌を洗浄する技術が提案されている。
【0004】
特許文献3には、土砂系混合廃棄物から抽出された精選土の再資源化処理方法として、この精選土にリン酸二水素塩を添加することで、長期的に土壌中のフッ素を六価クロムと共に不溶化する技術が提案されている。
【0005】
特許文献4、特許文献5、特許文献6には、それぞれ排出された焼却灰である原灰を、外気と絶縁された低酸素状態の空間で一定温度および一定時間維持して処理することで、発生する排ガスを遷移金属触媒の存在下に加熱処理して無害化処理したり、発生する排ガスに窒素ガスを混合し、当該混合ガスを加熱して無害化処理したりする技術が提案されている。
【0006】
特許文献7には、やはり焼却灰である飛灰に対し、炭酸水素ナトリウムを煙道に添加して酸性ガスを処理する際に発生する飛灰などに含まれる重金属類の溶出量を低減させ、飛灰などを埋設処分できるようにする飛灰の処理方法が提案されている。
【0007】
このように土壌の汚染物質の溶出を抑制するための方法が種々提案されているが、汚染土壌や飛灰などの固体に対して、微粒子のような固体を処理方法に用いる場合には、汚染物質との接触確率が低下したり、微粒子が周囲に飛散することが問題となったりするため、水溶液として施すことができる不溶化剤であり、且つ長期間にわたり不溶化の効果が持続する不溶化剤の開発が望まれていた。この汚染物質の中でも、特に、フッ素と鉛両方に効果のある不溶化剤の開発が強く望まれていた。更に、不溶化剤の有効利用の観点から、重金属を不溶化した後の不溶化剤、即ち重金属を含有した不溶化剤による汚染物質の不溶化に関する技術開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-58917号公報
【特許文献2】特開2013-163158号公報
【特許文献3】特開2014―35456号公報
【特許文献4】特開2001-942号公報
【特許文献5】特開2000-24625号公報
【特許文献6】特開2000-24624号公報
【特許文献7】特開2006-110423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みなされたもので、建設解体現場から発生する廃石膏混じり土から抽出された精選土や、産業廃棄物の焼却で発生する飛灰に含まれるフッ素及び鉛を不溶化・安定化するとともに、長期間に亘ってフッ素及び鉛の溶出を抑制することを可能とする不溶化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、フッ素及び鉛を含有する建設解体現場から発生する廃石膏混じり土から抽出された精選土を再資源化するために、または、飛灰を安定的に管理や埋設処分するために、これらに含まれるフッ素及び鉛の不溶化剤として、少なくともリン酸二水素塩を含む水溶液を施すことで、この精選土に含まれるフッ素及び鉛とを不溶化・安定化する不溶化剤を開発し、更に、鉛を不溶化した不溶化剤を用いて、更にフッ素を不溶化する不溶化剤を開発するに至った。
【0011】
即ち本発明は、少なくともフッ素と、鉛と、を不溶化する不溶化剤であって、リン酸二水素塩であり、該リン酸二水素塩が、少なくともリン酸二水素カルシウムもしくは、リン酸二水素ナトリウムのいずれか一方を含み、
カルシウムを含む不溶化助剤として、少なくとも水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、石膏のいずれか一つを添加して成ることを特徴とする不溶化剤である。
【0012】
この発明の作用は、精選土や飛灰中に少なくともリン酸二水素カルシウムもしくは、リン酸二水素ナトリウムを水溶液として分散させることで、有効成分を効果的にフッ素と鉛に作用させる効果がある。また、精選土や飛灰に含まれるフッ素と鉛を不溶化する際に、このリン酸二水素塩からなる不溶化剤と、少なくともカルシウムを含む不溶化助剤と、で不溶化剤を形成することで、鉛とフッ素を不溶化する効果がある。
【0013】
本発明の第二の発明では、鉛を不溶化した該不溶化剤により、更にフッ素を不溶化する鉛含有不溶化剤である。
【0014】
この発明の効果は、不溶化剤であり、この不溶化剤により鉛を吸着した後、更にフッ素を吸着することができる作用である。
【0015】
本発明の第三の発明では、フッ素の不溶化剤であって、該不溶化剤が少なくとも鉛と、リンと、カルシウムと、酸素と、からなる化合物であることを特徴とするフッ素の不溶化剤である。
【0016】
この発明の効果は、鉛を含んだ不溶化剤であり、フッ素をより強固に不溶化する作用である。
【0017】
本発明の第四の発明は、フッ素を不溶化する不溶化剤であって、鉛のリンに対するモル含有比が、リン1モルに対し、鉛1/6モル以上1/3モル以下であるフッ素の鉛含有不溶化剤である。
【0018】
この発明の効果は、鉛とリンのモル含有比が1/6モル以上1/3モル以下となることで、効果的にフッ素を不溶化することができる効果である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の不溶化剤によれば、溶液として、水や精選土や飛灰に施すことで、この水や精選土や飛灰に含まれるフッ素や鉛を不溶化・安定化する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の不溶化剤の作用に係る想定される化学反応の反応概念図である。
図2】本発明の不溶化剤を作用させた後に回収した生成物の外観写真である。
図3】本発明の鉛含有不溶化剤を作用させた後に回収した生成物の電子顕微鏡写真である。
図4】本発明の鉛含有不溶化剤を作用させた後に回収した生成物の成分分析の結果である。
図5】本発明の実施例の結果をまとめた図である。
図6】本発明の不溶化剤を作用させた精選土より溶出したフッ素及び鉛の分析結果である。
図7】フルオロアパタイトの水溶液中でのフッ素溶出量を調べたイオンクロマトグラフの結果である。
図8】鉛フルオロアパタイトの水溶液中でのフッ素溶出量を調べたイオンクロマトグラフの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明につき、図面も含めより詳細に説明すると、本発明の不溶化剤は、建設解体現場から発生する廃石膏混じり土を分離分級した精選土や産業廃棄物の焼却時に発生する飛灰に含まれるフッ素と鉛を不溶化する不溶化剤である。また、この不溶化剤では、水溶液中に存在する鉛と、フッ素と、を不溶化し、水溶液中の濃度を低減できる。
【0022】
ここで、建設解体現場から発生する廃石膏混じり土とは、例えば建物の新築や解体工事から発生する建設系廃棄物などであり、土砂にコンクリート、瓦礫、紙、木くず及びプラスチック、石膏などが混ざったものである。この精選土は、このような建設解体現場から発生する廃石膏混じり土を分別分級し、粒径5mm以下で、且つ紙、木くず及びプラスチックなど可燃性物質の含有率が質量比で5%(重量%と記すこともある)未満となるように選別された土である。具体的な選別の方法としては、例えば、土砂系混合廃棄物に含まれる成分の物理特性を基に、乾式で分別・分級する方法によって、精選する精選方法などが挙げられ、より具体的には、得られる精選土の粒径が5mm以下となり、且つ紙、木くず及びプラスチックの含有率が5重量%未満となるように、スクリーン、比重差選別装置、風力選別機、吸選別機、磁力選別機、などの乾式分別分級装置を利用することによって選別され、複合的に土砂系混合廃棄物から粒径5mm以下で、且つ紙、木くず及びプラスチックの含有率が5重量%未満となる精選土を選別することができる。
【0023】
なお、選別された精選土の粒径は、例えばスクリーニングの際に粒径5mm以下の物質が篩い分けられるような篩を選定することによって5mm以下の土が選別されていることを確認することができ、精選土全量に対する木くずの質量含有率は、選別処理後の精選土から適量をサンプリングし、その全量を測定した後、加熱処理を施し、精選土中の紙、木くず及びプラスチックを燃焼させた後、加熱・燃焼処理後の質量を測定し、加熱燃焼処理前の質量差により確認できる。この際、石膏などの結晶水を含む物質が存在する場合には、この水の含有量分の誤差が生じる。この場合には、加熱処理する際、150℃程度で予熱し、水分量を低減することで、誤差を低減することができる。
【0024】
また、精選土の粒径は、5mm以下であれば良く、粒径5mm以下の物質が篩い分けられる篩などを通過したものである限り、その下限値は特に制限されるものではない。そして、精選土全量に対する紙、木くず及びプラスチックの含有率は、低ければ低いほど好適であり、その下限値は特に制限されるものではない。
【0025】
本発明の不溶化剤の水溶液の濃度は、特に限定されるものではない。リン酸二水素塩として、リン酸二水素カルシウムの場合は、溶解度から水100mL中の含有量が1.5g程度であると好適である。使用の際に更に水により薄めて用いることも好ましくできる。
【0026】
この不溶化剤がリン酸二水素ナトリウムの場合は、水に対する溶解度が約60g/100mLであることから、この濃度以下であることが好適である。使用の際に更に水により薄めて用いることも好ましくできる。
【0027】
これらリン酸二水素塩の高濃度の水溶液を作成しておき、フッ素と鉛との不溶化過程において水により希釈して添加することも好ましく行える。
【0028】
この不溶化剤の精選土に対する添加方法については、特に限定されるものではないが、ロータリーキルンで精選土を造粒する際にこの不溶化剤を添加する方法や、静置している精選土にこの不溶化剤を滴下する方法や、ベルトコンベヤなどで搬送している精選土にこの不溶化剤を滴下する方法などが好ましく用いられる。
【0029】
この不溶化剤の飛灰に対する添加方法については、特に限定されるものではないが、静置している飛灰にこの不溶化剤を滴下する方法や、搬送している飛灰にこの不溶化剤を滴下する方法や、回収した飛灰を撹拌しながらこの不溶化剤を添加する方法などが好ましく用いられる。
【0030】
この不溶化剤の鉛やフッ素を含む水溶液(汚染水と表す場合もある)への添加方法については、この汚染水に滴下したり、リン酸二水素塩を固体のまま加えたりすることが好ましくできる。また、環境基準を考慮しながら、不溶化剤を追加して添加することも可能である。
【0031】
この不溶化剤に不溶化助剤を加える方法について詳述する。
この不溶化剤にリン酸二水素塩以外の少なくともカルシウムを含む不溶化助剤を加える場合、この不溶化剤を精選土や飛灰に加える前に不溶化助剤を加えることもできるし、この不溶化剤を加えた後に不溶化助剤を加えることもできる。不溶化助剤の添加は、不溶化剤と同様に水溶液や水に懸濁した状態、更に、粉末の状態でも好ましく加えることができる。
【0032】
この不溶化剤の添加量については特に限定されるものではないが、環境省告示46号で規定された溶出試験によるフッ素溶出量が0.8mg/L以下で且つ鉛の溶出量が0.01mg/L以下となるような量であることが好ましい。不溶化剤を添加後、溶出する鉛の濃度が環境基準を超える場合には、不溶化剤を更に添加して用いることもできる。このような不溶化剤の添加量は、精選土や飛灰中のフッ素や鉛の含有量を考慮して適宜選定することができるが、添加量が多くなりすぎるとコストが嵩む場合がある。
【0033】
この不溶化剤を添加して鉛を不溶化した後、精選土から環境基準を超えるフッ素が溶出することがあるが、鉛を不溶化した鉛含有不溶化剤には、フッ素を不溶化する効果が認められ、且つこの不溶化剤の鉛とフッ素との不溶化速度には、鉛の不溶化速度がフッ素の不溶化速度より速いため、フッ素が徐々に不溶化することから、観察しながら添加量を決定することが効果的である。一方、フッ素の不溶化効果は、図7に示したフルオロアパタイトから水溶液へのフッ素の溶出量0.4mg/Lに比べ、図8に示した鉛以外の元素量を同量とした鉛含有不溶化剤から水溶液へのフッ素の溶出量が0.2mg/Lと約半分になることから、より効果的即ち少量の不溶化剤換言すると鉛含有不溶化剤でフッ素を長期間にわたり効果的に不溶化できることが確かめられる。
【0034】
鉛含有不溶化剤の鉛の含有割合は、リン1モルに対し鉛1/6以上1/3以下が好ましく、リン1モルに対し鉛1/5.5以上1/3未満がより好ましく、リン1モルに対し鉛1/5.5以上1/5未満が更に好ましい。後述する成分分析の結果から、フッ素の不溶化効果を持つ鉛含有不溶化剤では、リン1モルに対し、鉛が約1/5(19%)含有していることが確認できた。
【0035】
この不溶化剤による、フッ素と、鉛と、の不溶化について、推定する化学反応式を式1~式5に示す。図1には、これら式1から式5を模式的に示した図を示す。

Ca(H2PO4)2 + Ca2+ → リン酸二水素塩とカルシウムの複合体 (Ca5(PO4)3OH) (式1)
Ca5(PO4)3OH + F → Ca5(PO4)3F + OH (式2)
Ca5(PO4)3OH + Pb2+ → Pb Ca4(PO4)3OH + Ca2+ (式3)
Ca5(PO4)3F + Pb2+ → PbCa4(PO4)3F + Ca2+ (式4)
PbCa4(PO4)3OH + F → PbCa4(PO4)3F + OH (式5)

この発明の不溶化剤では、水溶液中で陽イオンである鉛と、やはり水溶液中で陰イオンとなるフッ素と、が同一分子内に結合することもできる。精選土中もしくは飛灰中で生成する不溶化剤の反応物がアパタイト様のものである場合、鉛と、フッ素とを不溶化した生成物は、鉛フルオロアパタイトとなる。
【0036】
この図1では、領域をA、B、C、Dに分けて表記している。領域Aでは、(式1)で示される(反応1)を示している。領域Aから領域Bへの反応は、フッ素イオンが不溶化する過程であり、(式2)で示される(反応2)を示している。領域Aから領域Cへの反応は、鉛イオンが不溶化する過程であり、(式3)で示される鉛含有不溶化剤の生成反応(反応3)を示している。この鉛含有不溶化剤は、この鉛含有不溶化剤に含まれるリン1モルに対して鉛1/3を含むことが好ましく、更に好ましくは、リン1モルに対して鉛1/3未満含むことが好ましく、更に好ましくは、リン1モルに対し、鉛1/5以下が好ましく用いられる。
図1の領域Bから領域Dへの反応は、フッ素を不溶化した不溶化剤が更に鉛イオンを不溶化する過程であり、(式4)で示される(反応4)を示している。領域Cから領域Dへの反応は、鉛を不溶化した不溶化剤(鉛含有不溶化剤と記す場合がある)が更にフッ素イオンを不溶化する過程であり、(式5)で示される(反応5)を示している。この鉛含有不溶化剤によりフッ素を不溶化した際に回収した生成物1の外観写真を図2に示す。また、この生成物1の電子顕微鏡写真を図3に示し、この電子顕微鏡写真の生成物換言すると鉛含有不溶化剤によりフッ素を不溶化して生成したフッ素を含有する鉛含有不溶化剤の成分分析の結果を図4に示す。この成分分析は、島津製作所製の電子線マイクロアナライザーEPMA-1610 を用いて測定した。この鉛含有不溶化剤の作製などについては、後述する。
【0037】
この図4には、成分分析の結果も示しており、リン17.6モルに対し、鉛3.4モルが含まれており、更にフッ素を9.5モル含んでいることが確認できた。この結果は、先に示したイオンクロマトグラフにおいて、鉛含有不溶化剤の高いフッ素不溶化効果の結果と矛盾しなかった。さらに、この結果から算出されるリン酸1モルに対するフッ素0.53モルの不溶化割合は、本発明の鉛含有不溶化剤のフッ素の高い不溶化率を示すものである。
【0038】
この不溶化剤に加える不溶化助剤について詳述する。不溶化助剤は、少なくともカルシウムを含む化合物からなり、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、石膏から選択される少なくとも一つを含む。不溶化剤と、この不溶化助剤と、により、図1では、領域Aに示した(式1)で示される(反応1)が生じる。不溶化処理する精選土中の石膏量が多かったり、精選土中のカルシウム量が多かったりする場合には、この不溶化助剤を加えなくても環境省告示46号で規定された鉛と、フッ素との環境基準値以下となることもあるが、これを満たさない場合には、不溶化助剤を加えることも好適である。
【0039】
この不溶化助剤の添加量については、不溶化剤としてリン酸二水素塩を用いる場合には、この不溶化剤のリンに対し、カルシウムがモル比で5/3以上となるように加えると好ましい。
【0040】
本発明の不溶化剤については、水溶液中の鉛やフッ素についても不溶化することが可能であるため、水溶液中にカルシウムを含まない場合には、特にこの不溶化助剤の添加は、これら汚染物質の不溶化に対し効果的である。
【実施例0041】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0042】
なお、これら実施例及び比較例では、鉛の濃度の測定は、誘導結合プラズマ分析装置により分析した。フッ素の濃度は、イオンクロマトグラフにより分析した。土壌中の腐植の分析は、熊田法により行った。なお、この腐植は、土壌に黒みを与える有機物の一種であり、リン酸などと反応する可能性があるため、分析結果を示した。
【0043】
(実施例1)
最初に本発明の不溶化剤の効果を検証するため、不溶化剤としてリン酸二水素ナトリウムを用いて、水溶液を作製した。この水溶液に、鉛イオンの濃度として、1mg/Lとなるように硝酸鉛を加えた。水溶液中には、カルシウムがないため、不溶化助剤として含まれるカルシウムの濃度が不溶化剤に含まれるリンの濃度のモル比として5/3倍となるように水酸化カルシウムを加えた。その後、水溶液の上澄みを回収し、この水溶液に含まれる鉛の濃度を測定した。この結果、鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回り、良好な結果となった。また、これにより鉛含有不溶化剤を作製することができた。この実施例1で作製した鉛含有不溶化剤を用いてフッ素イオン濃度として1mg/Lの水溶液中のフッ素の不溶化効果を確認したところ、フッ素イオン濃度は0.8mg/L以下となり、フッ素を不溶化することを確認した。このとき鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回った。フッ素の不溶化については、後述する実施例5でも実施した。
【0044】
(実施例2)
不溶化剤としてリン酸二水素カルシウムを用いて、水溶液を作製した。この水溶液に、鉛イオンの濃度として、1mg/Lとなるように硝酸鉛を加えた。このリン酸二水素カルシウムの濃度を考慮し、不溶化助剤としてカルシウムの濃度が不溶化剤に含まれるリンの濃度のモル比として5/3倍となるように水酸化カルシウムを加えた。その後、水溶液の上澄みを回収し、この水溶液に含まれる鉛の濃度を測定した。この結果、鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回り、良好な結果となった。また、これにより鉛含有不溶化剤を作製することができた。この実施例2で作製した鉛含有不溶化剤を用いてフッ素イオン濃度として1mg/Lの水溶液中のフッ素の不溶化効果を確認したところ、フッ素イオン濃度は0.8mg/L以下となり、フッ素を不溶化することを確認した。このとき鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回った。フッ素の不溶化については、後述する実施例6でも実施した。
【0045】
(実施例3)
実施例1と同様に、不溶化剤としてリン酸二水素ナトリウムを用いて、水溶液を作製した。この水溶液に、鉛イオンの濃度として、1mg/Lとなるように硝酸鉛を加えた。水溶液中には、カルシウムがないため、不溶化助剤として含まれるカルシウムの濃度が不溶化剤に含まれるリンの濃度のモル比として5/3倍となるように炭酸カルシウムを加えた。その後、水溶液の上澄みを回収し、この水溶液に含まれる鉛の濃度を測定した。この結果、鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回り、良好な結果となった。また、これにより鉛含有不溶化剤を作製することができた。この実施例3で作製した鉛含有不溶化剤を用いてフッ素イオン濃度として1mg/Lの水溶液中のフッ素の不溶化効果を確認したところ、フッ素イオン濃度は0.8mg/L以下となり、フッ素を不溶化することを確認した。このとき鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回った。フッ素の不溶化については、後述する実施例7でも実施した。
【0046】
(実施例4)
実施例2と同様に、不溶化剤としてリン酸二水素カルシウムを用いて、水溶液を作製した。この水溶液に、鉛イオンの濃度として、10mg/Lとなるように硝酸鉛を加えた。このリン酸二水素カルシウムの濃度を考慮し、不溶化助剤としてカルシウムの濃度が不溶化剤に含まれるリンの濃度のモル比として5/3倍となるように炭酸カルシウムを加えた。その後、水溶液中を回収し、この水溶液に含まれる鉛の濃度を測定した。この結果、鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回り、良好な結果となった。また、これにより鉛含有不溶化剤を作製することができた。この実施例4で作製した鉛含有不溶化剤を用いてフッ素イオン濃度として1mg/Lの水溶液中のフッ素の不溶化効果を確認したところ、フッ素イオン濃度は0.8mg/L以下となり、フッ素を不溶化することを確認した。このとき鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回った。フッ素の不溶化については、後述する実施例8でも実施した。
【0047】
(実施例5)
実施例1で鉛を不溶化した溶液にフッ素イオン濃度として1mg/Lとなるようにフッ化ナトリウム水溶液を加えた。撹拌及び静置後、フッ素と鉛の濃度を測定したところ、フッ素の濃度は、環境基準である0.8mg/Lを下回り、鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回った。
【0048】
(実施例6~実施例8)
実施例6では、実施例2の溶液に、実施例7では、実施例3の溶液に、実施例8では、実施例4の溶液にそれぞれ実施例5と同様にフッ素イオン濃度として1mg/Lとなるようにフッ化ナトリウム水溶液を加え、それぞれの溶液について、フッ素と鉛の濃度を測定したところ、いずれの実施例でもフッ素の濃度は、環境基準である0.8mg/Lを下回り、鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回った。
【0049】
(実施例9)
鉛イオンを1mg/L、フッ素イオンを1mg/L含む鉛とフッ素と含む水溶液を用いて不溶化剤の効果を検証した。不溶化剤として、リン酸二水素カルシウムと、リン酸二水素ナトリウムと、をそれぞれ別に用意した鉛とフッ素とを含む水溶液に加え、更に不溶化助剤として水酸化カルシウムをカルシウムとしてそれぞれの溶液に含まれるリンの濃度に対しモル比で5/3倍になるように加えた。不溶化剤を加えた30分後に鉛の濃度を測定したところ、鉛の濃度は、環境基準である0.01mg/Lを下回った。一方、不溶化剤を加えた30分後に測定したフッ素の濃度は、0.9mg/Lであり環境基準を上回った。その後、この溶液を3時間静置した後、再度鉛とフッ素との濃度を測定したところ、鉛、フッ素共に、環境基準を下回る結果が得られた。また、このとき、不溶化剤として、リン酸二水素ナトリウムを用いた場合には、3時間後のフッ素溶出量は、0.7mg/Lであり、不溶化剤としてリン酸二水素カルシウムを用いた場合には、フッ素溶出量は、0.6mg/Lだった。この実施例9の結果から、(反応2)と(反応3)のそれぞれの反応速度を比べた場合、(反応3)の反応速度は、(反応2)の反応速度を上回ると考えられた。また、リン酸二水素カルシウムのフッ素不溶化効果は、リン酸二水素ナトリウムに比べ、より高いと考えられた。
【0050】
(実施例10)
建設解体現場から発生する廃石膏混じり土を分別分級し、粒径が5mm以下、紙、木くず及びプラスチックの含有率が5質量%未満となるように選別した土を精選土とし、この精選土中のフッ素と、鉛と、を、不溶化・安定化することを目的とした実験を行った。なお、精選土に含まれる石膏は、化学式としてCaSO4であり、水和物として存在している。精選土に対するX線回折実験の結果から、精選土に含まれる石膏の含有割合を求めたところ、10重量%から20重量%であることを確認した。なお、精選土は、分別日として7月1日から8月4日までの26検体を用い、それぞれの検体ごとにリン酸二水素ナトリウムを水溶液として加える処理を行い不溶化剤の効果を検証した。精選土中の石膏を不溶化助剤として利用した。この不溶化剤を含む水溶液をロータリーキルン内に導入した精選土に噴霧しながら撹拌混合した。精選土は、この処理により粒径約10mm程度に造粒した。これら精選土について、一定期間養生した後、環境省の定める溶出試験を行った。精選土に含まれる腐植物質の濃度、鉛(Pb)、ヒ素(As)、フッ素(F)の濃度をそれぞれ図6に示す。なお、鉛とヒ素とは、養生7日目に測定した結果である。この結果、鉛とヒ素とは、これら精選土から溶出しないことが確認できた。また、フッ素は、養生7日目では、環境基準を上回るものもあったが、養生日数が増すにしたがって溶出量が低下し、30日間の養生後では、フッ素溶出量は、環境基準である0.8mg/Lを下回った。このことから、不溶化剤の精選土に対する不溶化効果を確認した。この精選土に対するこの不溶化剤効果の検証結果は、実施例1から9の水溶液中の結果と矛盾しなかった。
【0051】
(実施例11)
鉛を含む飛灰を入手し、これを水溶液に添加したのち、鉛濃度として1000mg/Lとなるように調整した。この飛灰を含む鉛水溶液について、不溶化剤として、リン酸二水素カルシウムを添加して鉛の濃度を確認したところ、50mg/Lに低下した。環境基準を超えていたため、更にリンの量として同僚となるようにリン酸二水素ナトリウムを加えたところ、鉛の濃度が環境基準である0.01mg/Lを下回る結果が得られた。
【0052】
(実施例12)
本発明のリン酸二水素カルシウムを水に加えて水溶液とし、更にカルシウムとして添加したリンに対しモル比で5/3倍になるように水酸化カルシウムを添加した。生成した白色の固体を採取し、この固体に硝酸鉛の水溶液を少量ずつ加え、鉛の濃度が低下しなくなるまで、この硝酸鉛の水溶液の添加を続け、鉛含有不溶化剤を得た。この鉛含有不溶化剤を採取し、更にフッ素イオンの濃度として1mg/Lとなるように調整した水溶液に、この鉛含有不溶化剤を添加してフッ素の濃度を測定した。この結果、フッ素濃度は、環境基準となる0.8mg/Lを下回った。
【0053】
(実施例13、比較例1)
試薬として購入したフルオロアパタイトに硝酸鉛水溶液を加えて鉛フルオロアパタイトを作製した。この鉛フルオロアパタイトと、このフルオロアパタイトとを用いて、これらを水に入れた後、それぞれの物質から溶出するフッ素とリン酸とを測定した。この際、このフルオロアパタイトのみを用いた場合を比較例1とした。この結果を比較例1の結果を図7に、実施例13の結果を図8にそれぞれ示す。なお、図7図8の横軸は時間であり、縦軸は電気伝導度である。カラムを通過した測定対象であるフッ素やリン酸は、フッ素では、時間約3.1分に、リン酸では、時間約9.4分にカラムを通過し、検出器により電気伝導度として観測される。測定対象の濃度が高いほど、電気伝導度は高くなる傾向にある。図8に示した、鉛フルオロアパタイトから溶出したフッ素量は、水溶液中の濃度で0.2mg/Lだった。図7に示したフルオロアパタイトから溶出したフッ素量は、0.4mg/Lであった。更に、図7に示したフルオロアパタイトでは、リン酸が溶出したが、図8に示した鉛フルオロアパタイトからは、リン酸の溶出はほとんど確認できなかった。この結果から、鉛フルオロアパタイトからのフッ素及びリン酸の溶出量は、フルオロアパタイトからのフッ素及びリン酸の溶出量より低く、鉛フルオロアパタイト換言すると鉛含有不溶化剤は、フルオロアパタイトに比べ、フッ素の不溶化効果がより高いことが確認できた。この不溶化剤の鉛と、フッ素との不溶化速度を比較した場合、鉛の不溶化速度がフッ素の不溶化速度より高いことから、鉛含有不溶化剤が生成した後、この鉛含有不溶化剤がフッ素を不溶化することが確認できた。なお、この鉛フルオロアパタイトの作製に用いた硝酸については、水溶液中に残ったため、イオンクロマトグラフにおいて、存在が確認できた。
【0054】
(実施例14)
本発明の鉛含有不溶化剤によるフッ素の不溶化効果並びに鉛含有量を確認するため、実施例14を行った。
まず、鉛として1000mg/Lとなるように硝酸鉛水溶液を作製した。3つの容器にこの鉛水溶液をそれぞれ10mLずつ取った。リンのモル濃度が同じになるように、フルオロアパタイト0.1gと、リン酸二水素ナトリウムと、リン酸二水素カルシウムと、をそれぞれの鉛水溶液に加え撹拌した。リン酸二水素ナトリウムとリン酸二水素カルシウムを加えた鉛水溶液には、更に水酸化カルシウムを加えた。それぞれの鉛水溶液を更に撹拌した後、3時間静置し、沈降した白色の結晶を巻き込まないように上澄みを取り、鉛の濃度を測定した。この結果、鉛の含有量は、フルオロアパタイトで処理した鉛溶液では、約50mg/L、リン酸二水素カルシウム及びリン酸二水素ナトリウムを用いた場合には、それぞれ50mg/L、50mg/Lとほぼ同等の結果となった。この実施例の鉛濃度の測定には、簡便な比色分析法を用いた。更にこれらの結果、不溶化剤に含有しているリンのモル数を基準にした場合、リン1モルに対し、不溶化した鉛、即ち不溶化剤に含まれる鉛の含有モル比は、約20%と算出された。この鉛水溶液では、それぞれフッ素の溶出は認められなかった。更に、この鉛水溶液から沈殿物を採取し、純水で3回洗浄して乾燥した物質、即ち本発明の鉛含有不溶化剤について、フッ素10mg/Lとなるように調整したフッ化ナトリウム水溶液を加え、フッ素を不溶化した。フッ素の溶出量は、0.6mg/Lとなった。更に、このフッ素を不溶化した後の鉛含有不溶化剤を回収し、純水により3回洗浄した後、乾燥した。この乾燥物についてそれぞれ電子顕微鏡撮影並びに電子線マイクロアナライザーによる定量測定を行った。図4に電子線マイクロアナライザーの結果の一部を示す。この結果、鉛含有不溶化剤がフッ素を不溶化していることを確認できた。
【0055】
この電子線マイクロアナライザーは、電子線を被測定物に照射した際に観測される特性X線をこの特性X線の波長ごとに観測する分析装置である。図4に結果を示した電子線マイクロアナライザーでは、異なる波長領域を分光する4種の分光結晶を搭載している。この特性X線は、元素ごとに異なる波で観測されるため、特性X線が観測されたピーク位置から測定対象に含まれる元素の種類を、このピークの強度から、この元素の含有量をそれぞれ求めることができる。なお、図4には4つのグラフが含まれているが、この4つのグラフはこの4種の分光結晶それぞれに対応している。
【0056】
これら実施例1~実施例9及び実施例11~実施例13、比較例1についてまとめた結果を図5に示す。実施例10についてまとめた結果を図6に示す。
【0057】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、環境衛生に利用される不溶化剤に係るものであり、更に廃棄物の安全な管理に利用できるため、産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0059】
1:生成物


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8