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特開2024-175841混合エステル化多糖類及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175841
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】混合エステル化多糖類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 7/00 20060101AFI20241212BHJP
   C08B 37/08 20060101ALI20241212BHJP
   C08B 31/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C08B7/00
C08B37/08 A
C08B31/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093884
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】丸田 彩子
(72)【発明者】
【氏名】能島 明史
(72)【発明者】
【氏名】伊東 結
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA05
4C090BA15
4C090BA25
4C090BA26
4C090BA27
4C090BA46
4C090BB95
4C090BB97
4C090BD36
4C090CA38
4C090CA39
4C090DA07
4C090DA10
4C090DA11
4C090DA22
4C090DA26
4C090DA31
(57)【要約】

【課題】 多糖類の水酸基を同時に硫酸エステル化およびアシル化反応して得られた多糖類の水酸基が硫酸エステル基とアシル基とで修飾された混合エステル化多糖類及び多糖類ナノファイバーとその製造方法の提供。
【解決手段】 本発明の混合エステル化多糖類は、多糖類の水酸基が硫酸エステル基とアシル基とで修飾された混合エステル化多糖類である。好ましくは、前記水酸基の修飾率は0.5~19mmol/gであり、硫酸エステル基/アシル基のモル比は10/90~99/1である。その製造方法は、プロトン性アミド系溶媒、一塩基カルボン酸無水物および硫酸を含む混合エステル化反応液を多糖類に浸透・膨潤させ、多糖類を硫酸エステル化と共にアシル化反応させることを特徴とする。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類の水酸基が硫酸エステル基とアシル基とで修飾された混合エステル化多糖類であることを特徴とする混合エステル化多糖類。
【請求項2】
前記水酸基の修飾率は0.3~19mmol/gであり、硫酸エステル基/アシル基のモル比は10/90~99/1であることを特徴とする請求項1に記載の混合エステル化多糖類。
【請求項3】
前記水酸基の修飾率は0.3~12.0mmol/gであり、硫酸エステル基/アシル基のモル比は10/90~99/1であり、平均繊維径が1nm ~500nmのナノファイバーであることを特徴とする請求項1に記載の混合エステル化多糖類。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の混合エステル化多糖類は、水又はDMSO、DMAc、DMF、アミド類溶媒、アルコール類およびエーテル類溶媒の何れかの1種以上の有機溶媒に分散または溶解可能であることを特徴とする混合エステル化多糖類。
【請求項5】
下記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒、一塩基カルボン酸無水物および硫酸を含む混合エステル化反応液を多糖類に浸透・膨潤させ、多糖類を硫酸エステル化と共にアシル化反応させることを含むことを特徴とする混合エステル化多糖類の製造方法。
R1-C(=O)―NH(R2) (1)
(式中、R1とR2はプロトン又は炭素数1~3のアルキル基を表わす。R1とR2は同じ又は異なる。)
【請求項6】
前記プロトン性アミド系溶媒が、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド及びN-メチルアセトアミドのいずれかの1種以上である請求項5に記載の混合エステル化多糖類の製造方法。
【請求項7】
前記の混合エステル化反応液における、一塩基カルボン酸無水物の濃度は、0.1~50重量%であり、硫酸の濃度は、0.1~50重量%であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の混合エステル化多糖類の製造方法。
【請求項8】
前記の混合エステル化反応液における、一塩基カルボン酸無水物の濃度は、0.1~25重量%であり、硫酸の濃度は、0.1~20重量%であり、混合エステル化多糖類は、平均繊維径が1nm~500nmのナノファイバーであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の混合エステル化多糖類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合エステル化多糖類及び混合エステル化多糖類ナノファイバー及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、一塩基カルボン酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等)を反応化剤または触媒とした解繊溶液を用いて製造する修飾セルロースナノファイバーに関する発明を多数特許出願している。
例えば、有機媒体への分散性が良好な疎水性を有する一塩基カルボン酸で修飾したセルロースナノファイバーに関する発明として、ドナー数26以上の非プロトン性溶媒に塩基触媒または有機酸触媒と反応化剤である一塩基カルボン酸無水物を含む解繊溶液によって、一塩基カルボン酸でエステル化修飾されたセルロースナノファイバーを得る発明(特許文献1)、ギ酸または高濃度ギ酸水溶液と反応化剤である一塩基カルボン酸無水物を含む解繊溶液によって、一塩基カルボン酸でエステル化修飾されたセルロースナノファイバーを得る発明(特許文献2)があげられる。
また、水に容易に分散する親水性を有する硫酸エステル化修飾セルロースナノファイバーに関する発明として、ジメチルスルホキシドに触媒として一塩基カルボン酸無水物と反応化剤として硫酸を含む解繊溶液によって、硫酸エステル化修飾セルロースナノファイバーを得る発明(特許文献3)がある。
また、硫酸エステル化修飾セルロースナノファイバーと同じ水に容易に分散する親水性ジカルボン酸モノエステル化セルロースナノファイバーに関する発明がとして、プロトン性アミド系溶媒とジカルボン酸無水物を含む溶液によって、ジカルボン酸モノエステル化セルロースナノファイバーを得る発明(特許文献4)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/073700号
【特許文献2】国際公開第2017/208600号
【特許文献3】国際公開第2018/131721号
【特許文献4】特願2020-134492号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、多糖類を同時に硫酸エステル化とアシル化をすることにより、多糖類の水酸基が硫酸エステル基とアシル基とで修飾された混合エステル化多糖類及び多糖類ナノファイバーとその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、多糖類を予備処理することなく、混合エステル化多糖類の製造方法を見出し、混合エステル化多糖類を得ることに成功した。
【0006】
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
[1] 多糖類の水酸基が硫酸エステル基とアシル基とで修飾された混合エステル化多糖類であることを特徴とする混合エステル化多糖類。
[2] 前記水酸基の修飾率は0.3~19mmol/gであり、硫酸エステル基/アシル基のモル比は10/90~99/1であることを特徴とする前記[1]請求項1に記載の混合エステル化多糖類。
[3] 前記水酸基の修飾率は0.3~12.0mmol/gであり、硫酸エステル基/アシル基のモル比は10/90~99/1であり、平均繊維径が1nm ~500nmのナノファイバーであることを特徴とする前記[1]に記載の混合エステル化多糖類。
[4] 前記[1]~前記[3]のいずれかに記載の混合エステル化多糖類は、水又はDMSO、DMAc、DMF、アミド類溶媒、アルコール類およびエーテル類溶媒の何れかの1種以上の有機溶媒に分散または溶解可能であることを特徴とする混合エステル化多糖類。
[5] 下記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒、一塩基カルボン酸無水物および硫酸を含む混合エステル化反応液を多糖類に浸透・膨潤させ、多糖類を硫酸エステル化と共にアシル化反応させることを含むことを特徴とする混合エステル化多糖類の製造方法。
R1-C(=O)―NH(R2) (1)
(式中、R1とR2はプロトン又は炭素数1~3のアルキル基を表わす。R1とR2は同じ又は異なる。)
[6] 前記プロトン性アミド系溶媒が、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド及びN-メチルアセトアミドのいずれかの1種以上である前記[5]に記載の混合エステル化多糖類の製造方法。
[7] 前記の混合エステル化反応液における、一塩基カルボン酸無水物の濃度は、0.1~50重量%であり、硫酸の濃度は、0.1~50重量%であることを特徴とする請求項5または前記[6]に記載の混合エステル化多糖類の製造方法。
[8] 前記の混合エステル化反応液における、一塩基カルボン酸無水物の濃度は、0.1~25重量%であり、硫酸の濃度は、0.1~20重量%であり、混合エステル化多糖類は、平均繊維径が1nm~500nmのナノファイバーであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の混合エステル化多糖類の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方方法によると、硫酸エステル化とアシル化混合エステル化多糖類を一回の反応により合成することができる。
本発明の製造方法は、室温でも反応が起こるが、加熱すると硫酸エステル又はアシル化反応が促進されて、反応時間を短縮することが可能である。
【0008】
本発明の製造方法は、反応溶液(解繊溶液)がプロトン性アミド系溶媒と硫酸と一塩基カルボン酸無水物を含む反応溶液であり、副反応が少なくセルロース、キチン又はキトサンなどの多糖類への浸透性と膨潤性に優れ、室温近傍な温度範囲で多糖類を硫酸エステル化とアシル化を同時に修飾して混合エステル化多糖類を製造することができる。さらに、一塩基カルボン酸無水物の濃度と硫酸の濃度を一定な範囲内に制御することにより、多糖類の結晶構造を維持して硫酸エステル化とアシル化を同時に修飾して混合エステル化多糖類ナノファイアバーを製造することができる。
【0009】
本発明の反応溶液は、多糖類フィブリル間に浸透して多糖類フィブリルの表面の水酸基を硫酸エステルおよびカルボン酸エステル化修飾した後、静電反発とせん断力を加えることにより混合エステル化多糖類ナノファイバーを製造することができる。
【0010】
本発明の混合エステル化多糖類ナノファイバーは、CNFの平均繊維径が小さく、繊維径の分布が狭いため、透明性が高い。また、親水性の硫酸基と疎水性のアシル基を持つため様々な有機溶媒や樹脂に分散できる、補強材として樹脂と複合化される際に補強することと樹脂の透明性を担保することを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のIRスペクトル
図2】実施例2のIRスペクトル
図3】実施例3のIRスペクトル
図4】実施例4~12で作製した混合エステル化多糖類ナノファイバー(0.3%)の水分散液の写真
図5】実施例4のSEM写真
図6】実施例7のSEM写真
図7】実施例7の熱分解GC-MSの分析結果
図8】実施例9のSEM写真(左)とTEM写真(右)
図9】実施例11のSEM写真(左)とTEM写真(右)
図10】実施例12のSEM写真(左)とTEM写真(右)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の混合エステル化多糖類は、多糖類の水酸基が硫酸エステル基とアシル基とで修飾された混合エステル化多糖類である。
水酸基を修飾するアシル基としては、特に限定しないが、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ラウロイル基などの脂肪族アシル基、ベンゾイル基とシンナモイル基などの芳香族アシル基は挙げられる。
混合エステル化多糖類は、硫酸エステル基とアシル基を持つため疎水性と親水性の両方の性質を有し、界面活性剤、分散剤、保湿保水剤及び増粘剤として利用できる。
【0013】
また、本発明の混合エステル化多糖類は、前記水酸基の修飾率は0.3~19mmol/gであり、硫酸エステル基/アシル基のモル比は10/90~99/1であることが好ましい。
【0014】
本発明の混合エステル化多糖類の修飾率とは、多糖類g当たり硫酸エステル基とアシル基に置換された水酸基の総合モル数を指す。多糖類の無水グルカン単位当たり最大3個の水酸基が存在するので、すべての水酸基を置換した場合、理論上最大修飾率は約19mmol/gである。修飾率は低すぎると界面活性剤、分散剤、保湿保水剤及び増粘剤などの効果が得られなくなるため、本発明の好ましい修飾率は0.3~19mmol/gが好ましい。より好ましくは0.5~18mmol/g、さらに好ましくは0.8~17mmol/g、最も好ましくは1.0~16mmol/gである。
【0015】
硫酸エステル基/アシル基のモル比は10/90~99/1であることが好ましい。最適なモル比はアシル基の種類により異なる。例えば、アシル基は炭素数6以下の脂肪族アシル基であれば硫酸エステル基/アシル基の比率は低い側の方が好ましい。一方、アシル基はラウリル基のような炭素数12以上のアシル基であれば高い側の方が好ましい。10/90より低くなると得られた混合エステル化多糖類の親水性は低く、硫酸エステル基に由来する界面活性剤効果や生理活性又は生物活性は低くなる恐れがあるため好ましくない。一方、99/1より高くなるとアシル基に由来する特性、例えば、有機媒体への分散性は低下するため好ましくない。従って、より好ましい硫酸エステル基/アシル基のモル比は15/85~98/2である。より好ましくは20/80~95/5、もっと好ましくは25/75~90/10である。
【0016】
混合エステル化多糖類の水または有機溶媒への分散性または溶解性は硫酸エステル化修飾率とアシル化修飾率に依存する。硫酸エステル化修飾率は高くなるほど混合エステル化多糖類は水に分散し易くなったり溶解し易くなったりする。一方、アシル化修飾率は高くなる程混合エステル化多糖類は有機溶媒に分散し易くなったり溶解したりすることになる。
混合エステル化多糖類を分散させる有機溶媒の種類はアシル基の種類によるが特に制限しない。例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが挙げられる。
【0017】
混合エステル化多糖類の形態については、特に制限しない。例えば、用途と平均置換度に応じて水や有機溶媒に溶ける溶液状、粉状、繊維状、パルプ状又はフィルム状などに加工できる。
【0018】
本発明の混合エステル化多糖類は、前記水酸基の修飾率は0.3~12.0mmol/g、硫酸エステル基/アシル基のモル比は10/90~99/1であり、平均繊維径が1nm~500nmのナノファイバーである。
【0019】
全ての水酸基を置換すると多糖分子鎖間の水素結合がなくなり天然I型結晶構造やフィブリル状は失われてしまう。結晶構造とナノファイバーの形状を保つため修飾率は0.3~12.0mmol/gの範囲内に入ると得られる混合エステル化多糖類は本来所持の天然結晶構造を持つため、混合エステル化多糖類を静電反発の力又はせん断力により解きほぐすとナノファイバーに解繊することができる。0.3mmol/gより低くなると静電反発の力が弱くなったりナノファイバー同士間の水素結合が残ったりすることでナノサイズまで解きほぐすことができず、得られるナノファイバーの繊維径は500nmを超える恐れがあるため好ましくない。一方、修飾率は12.0mmol/gを超えると混合エステル化多糖類は本来所持の天然結晶構造を殆ど失い、混合エステル化多糖類ナノファイバーが得られなくなる。
【0020】
従って、混合エステル化多糖類ナノファイバーを得るためには修飾率は0.3~12.0mmol/gの範囲内に抑えることが好ましい。より好ましくは0.5~11.0mmol/g、最も好ましくは0.9~10.0mmol/gである。
【0021】
また、硫酸エステル基/アシル基のモル比は10/90~99/1であることが好ましい。最適なモル比はアシル基の種類により異なる。例えば、アシル基は炭素数6以下の脂肪族アシル基であれば硫酸エステル基/アシル基の比率は低い側の方が好ましい。一方、アシル基はラウリル基のような炭素数12以上のアシル基であれば高い側の方が好ましい。10/90より低くなると得られた混合エステル化多糖類ナノファイバーの親水性は低く、硫酸エステル基に由来する界面活性剤効果や生理活性又は生物活性は低くなる恐れがあるため好ましくない。一方、99/1より高くなるとアシル基に由来する特性、例えば、有機媒体への分散性は低下するため好ましくない。従って、より好ましい硫酸エステル基/アシル基のモル比は15/85~98/2である。より好ましくは20/80~95/5、もっと好ましくは25/75~90/10である。
【0022】
多糖類ナノファイバーの繊維径とその分布範囲は水酸基の硫酸エステル化修飾率に支配されている。硫酸エステル化修飾率は高くなるにつれ多糖類ナノファイバーの平均繊維径は小さくなり、ナノファイバーの分布は狭くなる。硫酸エステル化修飾率は一定値を超える多糖類ナノファイバーの繊維径はほぼ単分散となり、繊維径は10nm以下となる。また、硫酸エステル化修飾率は高くなるほど、界面活性剤、分散剤、保湿保水剤及び増粘剤などの効果も高くなる。しかし、修飾率は高くなると結晶性とファイバーの形状を失ってしまうおそれがある。従って、硫酸エステル化修飾率は0.01~10.8mmol/gであることが好ましい。より好ましくは0.05~9.5mmol/g、最も好ましくは0.1~9.0mmol/gである。
【0023】
混合エステル化多糖類ナノファイバーの平均繊維径は、が1nm~500nmのナノファイバーであることが好ましい。この範囲より小さくなると多糖類の結晶化度が低下、又は結晶構造を失ってしまう恐れがあるため好ましくない。一方、500nmより大きくなると、ナノファイバーの表面積が小さくなり増粘効果、補強効果、分散効果及び生理や生物効果などは得られなくなる恐れがあるため好ましくない。特に好ましくは2nm~400nm、もっと好ましくは3nm~300nmである。
【0024】
繊維径の分布はナノファイバーの品質と物質に影響を及ぼす。分布は狭くなる程ナノファイバーの均一性が高く、機械特性、透明性、吸水吸湿性、界面活性等の特性は良くなる。繊維径の分布は硫酸エステル化修飾率の向上に連れ狭くなる。
【0025】
混合エステル化多糖類ナノファイバーの形態について特に制限しない。用途に応じて水や有機溶媒に分散した分散液状、粉状又はフィルム状などに加工することができる。
【0026】
混合エステル化多糖類の溶媒溶解性又は分散性は総合修飾率と硫酸修飾率とアシル化修飾率のモル比に依存する。総合修飾率は高くなると溶媒への溶解性又は分散性は高くなる。溶解する溶媒は硫酸エステル基とアシル基のモル比に依存する。硫酸エステルは多いほど水、アルコール類などの極性溶媒に溶解または分散する。一方、アシル基のモル比は高くなると、極性の低い溶媒に溶解または分散する。
【0027】
混合エステル化多糖類ナノファイバーの水または有機溶媒への分散性は硫酸エステル化修飾率とアシル化修飾率に依存する。硫酸エステル化修飾率は高くなるほど混合エステル化多糖類は水に分散し易くなる。一方、アシル化修飾率は高くなる程有機溶媒に分散し易くなる。有機溶媒の種類はアシル基の種類によるが特に制限しない。例えば、エタノール、イソプロピルあるコースなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが挙げられる。
【0028】
本発明の混合エステル化多糖類ナノファイバーは、一旦乾燥しても、水、またはDMSO、DMAcとDMFなどのアミド類溶媒、メタノール、エタノール又はイソプロパノールなどのアルコール類およびエチレングリコールのエーテル類又はプロピレングリコールのエーテルなどのエーテル溶媒の何れかの1種以上の有機溶媒に分散できる。
詳しくは、本発明の混合エステル化多糖類のナノファイバーの分散液から分散溶媒を除去し乾燥状態になっても分散媒に入れると再び分散できる。分散溶媒を除く方法は特に限定しないが、例えば、風乾、常圧量留、減圧蒸留、凍結乾燥法又はドライスプレーなどは挙げられる。乾燥状態は特に限定しないが、フィルム状、粉末状、チップ状又はフレーク状のいずれも再分散可能できる。
【0029】
乾燥状態やサイズに応じて再分散の時に分散手法を適用すればよい。例えば、磁性スターラー法、機械攪拌法、超音波処理法又はホモジナイザー法などが挙げられる。
【0030】
混合エステル化多糖類ナノファイバー分散液の可視光透過率はナノファイバーの繊維径と硫酸エステル基/アシル基のモル比と関係する。繊維径は小さいほど又は硫酸エステル基は多いほど可視光透過率は高くなる。可視光透過率について特に制限しないが、40~96%が好ましい。特に好ましくは50~95%、最も好ましくは55~93%である。
【0031】
本発明の混合エステル化多糖類又は多糖類ナノファイバーは、硫酸エステル基とアシル基を持つため、水性媒体と非水性媒体との親和性に優れ、界面活性剤や増粘剤としての応用は期待されている。また、硫酸エステル基とアシル基のモル比を制御することにより水(連続相)の中に油滴が分散しているO/Wエマルジョンだけでなく油(連続相)の中に水滴が分散しているW/Oエマルジョンの界面活性剤としても期待できる。
【0032】
さらに、天然セルロースの結晶フィブリルの形状を維持しても維持しなくても同等の化学特性を持つものの、結晶フィブリルの形状を維持することで増粘効果と界面活性剤効果に加え、補強材としての応用も可能である。
【0033】
本発明の混合エステル化多糖類は、下記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒、一塩基カルボン酸無水物および硫酸を含む混合エステル化反応液を多糖類に浸透・膨潤させ、多糖類のフィブリルの表面を硫酸エステル化と共にアシル化反応させることにより製造することができる。
R1-C(=O)―NH(R2) (1)
(式中、R1とR2はプロトン又は炭素数1~3のアルキル基を表わす。R1とR2は同じ又は異なる。)
【0034】
本発明に用いる原料となる多糖類は、オリゴ糖を含み特に限定することはない。主な、多糖類としては、セルロース、キチン又はキトサン、澱粉、蔗糖、ヒアルロン酸、グリコーゲン、アガロース、ペクチンなどが挙げられる。
【0035】
本発明に用いる原料となるセルロースは、セルロース単独の形態であってもよく、リグニンやヘミセルロースなどの非セルロース成分を含む混合形態であってもよい。
単独形態のセルロース(又は非セルロース成分の含有量が少ないセルロース)としては、例えば、パルプ(例えば、木材パルプ、竹パルプ、ワラパルプ、バガスパルプ、リンターパルプ、亜麻パルプ、麻パルプ、楮パルプ、三椏パルプなど)、ホヤセルロース、バクテリアセルロース、セルロースパウダー、結晶セルロースなどが挙げられる。
混合形態のセルロース(セルロース組成物)としては、例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビ、紙などが挙げられる。
【0036】
これらのセルロースは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。混合形態のセルロースにおいて、リグニンや蛋白質などの非セルロース成分の割合は90重量%以下であってもよく、例えば1~90重量%、好ましくは3~80重量%、さらに好ましくは5~70重量%程度であってもよい。他の成分の割合が多すぎると、混合エステル化修飾CNFの製造が困難となる恐れがある。
【0037】
セルロースは、結晶セルロース(特にI型結晶セルロース)を含むのが好ましく、結晶セルロースと非晶セルロース(不定形セルロースなど)との組み合わせであってもよい。結晶セルロース(特にI型結晶セルロース)の割合は、セルロース全体に対して10重量%以上であってもよく、例えば30~99重量%、好ましくは50~98.5重量%、さらに好ましくは60~98重量%程度である。結晶セルロースの割合が少なすぎると、混合エステル化修飾CNFの耐熱性や強度が低下する恐れがある。一方、混合エステル化修飾CNF以外の混合エステル化多糖類を合成するには結晶ありとなしの何れも適用できる。
【0038】
これらのうち修飾及び解繊し易い点から、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維のパルプ(例えば、コットンリンターパルプ)、セルロースパウダーなどが汎用される。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ないことからパルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。
【0039】
原料となるキチン又はキトサンは、キチン単独の形態であってもよく、蟹、海老又は昆虫などの甲殻類、イカ類、貝類などの非キチン成分を含む混合形態であってもよい。また、甲殻類、イカ類、貝類などを使用する前に、脱灰処理や脱蛋白質処理してから用いることも好ましい。
【0040】
原料の多糖類の含水率(乾燥多糖類に対する水分の重量割合)は特に制限しないが、1重量%以上であってもよく、例えば1~100重量%、好ましくは2~80重量%、さらに好ましくは3~60重量%(特に5~50重量%)程度である。本発明では、反応溶液の浸透性又は膨潤効率の観点から、多糖類は、このような範囲で水分を含むのが好ましく、例えば、市販のセルロースパルプやキチン又はキトサンの場合、乾燥せずに、そのまま利用してもよい。含水率が小さすぎると、反応溶液の浸透性が低下するおそれがある。
【0041】
混合エステル化反応液として、一塩基カルボン酸無水物が好ましい。一塩基カルボン酸無水物は、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、ペンタン酸無水物、ヘキサン酸無水物、ラウリン酸無水物などの脂肪族カルボン酸無水物、又は、無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物である。
【0042】
さらに、好ましいカルボン酸無水物は無水酢酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、ラウリン酸無水物と無水安息香酸である。これらの無水物は市販から容易に入手できるため好ましい。
【0043】
好ましい前記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒としては、常温での誘電率が45以上、アクセプター数が20以上のプロトン性アミド系溶媒が好ましい。例えば、ホルムアミド(FA)、N-メチルホルムアミド(MFA)、N-エチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N-エチルアセトアミドなどが挙げられる。好ましくは、ホルムアミド、メチルホルムアミド、アセトアミド及びN-メチルアセトアミドであり、最も好ましくはホルムアミドとメチルホルムアミドである。
【0044】
混合エステル化多糖類ナノファイバーの製造に用いられる溶媒は、反応化剤を溶解することに加え、多糖類への浸透速度、多糖類の膨潤度及び修飾反応の促進作用など4つの性質が最も重要であり、修飾多糖類ナノファイバーの繊維径、均一性を支配すると考えられる。
【0045】
プロトン性アミド系溶媒、特に、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド及びN-メチルアセトアミドはこれらの効果を兼備え、溶媒沸点が高いため加熱反応にも適するため好ましい。加えて、プロトン性アミド系溶媒はアニオンを溶媒和により安定化する効果が高いと思われ好ましい。また、プロトン性アミド系溶媒は、一般のプロトン性極性溶媒と異なり、溶媒自身からプロトンを供与又は放出する能力が低いため、競合反応が起こりにくい。
【0046】
反応液の多糖類への浸透性低下や副反応が起こらない限り、DMAc、DMF、NMP、DMSO、アセトンなどのケトン系、THFなどのエーテル系などの非プロトン性溶媒を含ませることもできる。
【0047】
プロトン性アミド系溶媒に含まれる一塩基カルボン酸無水物の濃度は無水物の種類又は反応性、反応条件(温度、時間、パルプ濃度、触媒有無)により適宜に調整すればよい。例えば、0.1~50重量%、さらに好ましくは0.5~40重量%、もっと好ましくは1~35重量%、最も好ましくは1.5~30重量%である。濃度がこの範囲より低くなると反応速度が低下したり修飾率が低くなったりする恐れがあるため好ましくない。逆にこの範囲より高くなると、カルボン酸無水物が完全溶解できなくなったり、反応溶液が多糖類の内部への浸透性が低下したりする可能性があるため好ましくない。
【0048】
混合エステル化多糖類を合成する時、前記混合エステル化反応液における、硫酸の濃度は、0.1~50重量%であることが好ましい。0.1重量%より低くなると硫酸エステル化とアシル化修飾が出来なくなる恐れがあるため好ましくない。50重量%を超えると多糖類の酸加水分解したり、酸化反応により分解したりする恐れがあるため好ましくない。従って、より好ましくは0.2~40重量%、もっと好ましくは0.3~35重量%、最も好ましくは0.5~30%である。
【0049】
一方、混合エステル化多糖類ナノファイバーを合成する場合、硫酸の濃度は、0.1~20重量%であることが好ましい。0.1重量%より低くなると硫酸エステル化修飾だけでなくアシル化修飾はできなくなる恐れがあるため好ましくない。より好ましくは0.15重量%、さらに好ましくは0.25重量%、最も好ましくは0.35重量%以上である。一方、20重量%を超えると、多糖類の加水分解や結晶性の劣化が起こり得る恐れが高いため好ましくない。より好ましくは16重量%、もっと好ましくは12重量%、最も好ましくは10重量%以下である。
【0050】
反応に用いる硫酸は、特に制限することなく、一般市販硫酸であればよい。硫酸の含水率は高過ぎると反応速度と修飾率が低下する恐れがあるため好ましくないが、含水率は20重量%以下が好ましい。より好ましくは15重量%である。最も好ましくは10重量%以下である。
【0051】
前記混合エステル化反応液を用いることで、マイルドな反応条件で混合エステル化多糖類を製造することが可能である。
【0052】
混合エステル化多糖類を合成する時、多糖類と反応溶液の重量割合は特に制限しなく、多糖の種類、形状及び密度により適宜に制御すればよい。但し、割合は低すぎると製造効率は低い。高すぎると硫酸エステル修飾とアシル化修飾の均一性が低下し、得られる混合エステル化多糖類の品質を担保できない恐れがある。従って、多糖類の重量割合は、多糖類/反応液=0.5/99.5~50/50程度の範囲から選択でき、例えば、1/99~45/55、好ましくは1.5/99.5~40/60、さらに好ましくは2/98~35/65である。
【0053】
一方、混合エステル化多糖類ナノファイバーを合成する時には、多糖類/反応液=0.5/99.5~35/65程度の範囲から選択でき、例えば1.2/98.8~30/70、好ましくは1.5/98.5~25/75、さらに好ましくは2/98~20/80程度である。多糖類の割合が少なすぎると、混合エステル化多糖類ナノファイバーの生産効率が低くなり、多すぎると、反応時間が長くなるため、いずれにしても生産性が低下するおそれがある。さらに、多糖類の割合が多すぎると得られた得られた混合エステル化多糖類ナノファイバーのサイズと修飾率の均一性が低下するおそれがある。
【0054】
多糖類を硫酸エステル化とアシル化で修飾する方法は、混合エステル化反応液と原料多糖類を混合して混合エステル化反応液を多糖類のフィブリル間に浸透させて、多糖類フィブリル表面の水酸基を混合エステル化反応して静電反発により解繊することによって行うことができる。
【0055】
混合エステル化反応液の調製は、硫酸と一塩基カルボン酸無水物と下記式(1)に示すプロトン性アミド系溶媒を含む反応溶液を混合して調製する。一般的な混合エステル化反応液の調製方法は、各成分を混合して攪拌し溶媒に他の成分を均一に溶解させて調製することができる。
【0056】
混合エステル化反応液と原料多糖類の混合は、反応容器中の混合エステル化反応液に原料多糖類を加えてもよく、反応容器中の原料多糖類に混合エステル化反応液を加えてもよい。反応容器は、ラボスケールではサンプル瓶やフラスコなどが利用できる。スケールアップの場合、通常有機合成に適用する反応装置が良い。多糖類濃度が高い場合、二軸押し出し機などの混練機も使用できる。
【0057】
混合エステル化反応は、多糖類と混合エステル化反応液の混合液を所定温度で所定時間まで攪拌することにより行う。
【0058】
攪拌は、多糖類の形態、多糖類と反応液の重量割合に応じて、通常用いられる各種の攪拌方法の中から適宜に選択して攪拌すればよい。粉状多糖類の場合又は多糖類の濃度は低い場合、一般的に有機合成に用いた攪拌機又は合成装置が適用する。一方、多糖類は繊維状又は多糖類濃度は高い場合二軸混錬機やニーダーは適用する。基本的に、反応段階において攪拌のせん断力により、最後得られる混合エステル化多糖類は異なる。せん断力は高すぎると得られる混合エステル化多糖類は細かくなり洗浄し難くなる。混合エステル化多糖類と多糖類ナノファイバーの合成に用いる攪拌方法は同様で良い。特に分けて使用する必要がない。
【0059】
混合エステル化修飾した多糖類の形状は、攪拌手法やそのせん断力により異なる。例えば、磁性スターラーや機械攪拌などのようなマイルドな攪拌を用いる場合、得られたものの繊維径はミクロンオーダーから数十ミクロンオーダーである。形状が大きいため分離、洗浄の利便性が高く、通常のろ過、加圧ろ過、圧搾などの手法で簡単に分離、洗浄できる。一方、ペイントシェーカーなどの強力攪拌手法を用いると、修飾後殆どの多糖類をナノスケールにすることができるが、生成した混合エステル化多糖類は、ろ過等の通常分離方法では分離、洗浄することが困難で、複雑な分離、洗浄方法が必要ととなる。よって、用途と目的により反応手法を適宜に選定すればよい。
【0060】
反応温度は、15℃~200℃が好ましい。15℃より低くなると反応速度が低くなり所要反応時間が長いため好ましくない。200℃より高くなると多糖類が分解する恐れがあるため好ましくない。より好ましくは20~150℃、最も好ましくは23~120℃である。
【0061】
反応は空気雰囲気で行うことができるが、高温加熱した反応の場合、反応化剤や多糖類の酸化反応を避けるため、不活性ガス下で反応を行うことが好ましい。不活性ガスで行うことで副反応が抑えられるため好ましい。不活性ガスとしては、窒素又はアルゴンガスの何れも利用できる。
【0062】
反応時間は、温度、エステル化反応液の種類と濃度により適宜に調整すればよい。
例えば、室温の場合、反応時間は6~24時間が好ましい。
反応時間は、加熱又は温度の上昇により短縮することができる。例えば、40~80℃加熱した場合では30分~6時間に短縮できる。
【0063】
反応時間が短いと、修飾率が低くなったり修飾官能基の分布が不均一になったりするため得られた混合エステル化多糖類の品質を担保できなくなる恐れがあるため好ましくない。一方、反応時間が長すぎると、製造効率が悪くなるだけでなく多糖類の分解が生じる恐れがあるため好ましくない。
【0064】
続いて、反応により得られた混合エステル化多糖を含む反応溶液から混合エステル化多糖を分離、洗浄することにより、反応溶液中のプロトン性アミド系溶媒、硫酸、カルボン酸無水物などを除去し、混合エステル化修飾された多糖を回収する。
洗浄溶媒として、特に限定しないが、反応溶液の各成分を溶解できればよい。例えば、水又はアルコール又は水とアルコールの混合液が好ましい。
洗浄方法は、特に限定しないが、圧搾法、加圧濾過法、減圧濾過法、遠心分離法、析出法などが考えられる。
【0065】
反応条件により洗浄途中で、中和用アルカリを用いて中和することが好ましい場合がある。中和用アルカリは特に制限しないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物や炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどのアルカリ金属の炭酸塩又はアミン系化合物などが挙げられる。
【0066】
回収した混合エステル化修飾された多糖の状態は特に限定しない。例えば、洗浄した後、水などのプロトン性溶媒を含んだままのウェット状又は乾燥した状態の何れでも良い。回収した修飾多糖は乾燥させても水を加えると再び分散する。
【0067】
回収した混合エステル化修飾された多糖の形状については、修飾反応時の反応条件、攪拌条件により様々であるが、通常は、繊維径数μm~十μmの繊維状、繊維径数百nm~1000nmの微細繊維状又は繊維径3nm~100nmの多糖類ナノファイバーである。攪拌速度が速いほど、反応と共に解繊が行うため得られるアニオン性セルロースの中にミクロンオーダー以上の繊維の含有率が少なくなる。しかし、攪拌が強力すぎると反応過程でナノスケールまで解されて、洗浄する際に離水性が低下し洗浄に所要する洗浄溶媒の量が増えたり、洗浄時間が長くなったりするなど、生産効率の低下に至る可能性がある。
【0068】
本発明の混合エステル化多糖類の平均繊維径が1nm~500nmのナノファイバーである混合エステル化多糖類ナノファイバーの製造方法は、一塩基カルボン酸無水物の濃度が0.1~25重量%、硫酸の濃度が0.1~20重量%の混合エステル化反応液を用いることにより、多糖類の水酸基の修飾率が0.5~9.0mmol/gであり、硫酸エステル基/アシル基のモル比が10/90~99/1であり、平均繊維径が1nm~500nmのナノファイバーが製造される。
【0069】
混合エステル化多糖類ナノファイバーの製造における、好ましい一塩基カルボン酸無水物の濃度は、0.1~25重量%であるが、より好ましくは0.2~20重量%である。0.1重量%より低くなるとアシル化だけでなく硫酸エステル化もできなくなる。一方、25重量%を超えると混合エステル化反応液は多糖類内部への浸透はでき難くなり修飾反応の効率と均一性は低下したり、硫酸エステル化ができなくなったりする恐れがあるため好ましくない。従って、最も好ましい濃度は0.5~15重量%である。
【0070】
混合エステル化多糖類ナノファイバーの製造における、好ましい硫酸の濃度は、0.1~20重量%であるが、より好ましくは0.2~15重量%であり、さらに好ましくは0.3~10重量%である。0.1重量%より低くなると硫酸エステル化だけでなくアシル化もできなくなる。一方、20重量%を超えると多糖類は分解する恐れがあるため好ましくない。従って、最も好ましい濃度は0.5~10重量%である。
【0071】
混合エステル化多糖類ナノファイバーの製造は、前記した混合エステル化多糖類の製造と同様に、混合エステル化反応液を多糖類にフィブリル間に浸透させて、多糖類を膨潤させ、多糖類のフィブリルの表面を硫酸エステル化と共にアシル化反応させて行うが、混合エステル化と同時に、または混合エステル化した後に、混合エステル化多糖類を静電反発又はせん断力により解繊することにより製造する。
【0072】
混合エステル化と同時に混合エステル化多糖類を解繊する場合は、反応時の攪拌にホモミキサー、ホモジナイザー、クレアミックス、ボールミル等の剪断力が強い攪拌機を用いて反応を行うことにより、解繊度合いが向上し、繊維長を所要範囲まで切断して短くした混合エステル化多糖類ナノファイバーを得ることができる。
【0073】
混合エステル化した後に混合エステル化多糖類を解繊する場合は、混合エステル化多糖類を合成、洗浄、中和した後、水または極性溶媒50%以下の水溶液などの極性溶媒に分散し、せん断力を加え解繊することにより混合エステル化修飾多糖類ナノファイバーを得ることはできる。分散溶媒は、静電反発の効果から、水(蒸留水)が最も好ましいが、ナノ化解繊の後に多糖類ナノファイバーの濃縮の利便性からアルコールなどの極性溶媒50%以下の水溶液を用いてもよい。
【0074】
本発明の前記混合エステル化多糖類ナノファイバーは天然多糖類の結晶構造を有していることが好ましい。
【0075】
また、本発明の前記混合エステル化修飾多糖類ナノファイバーの結晶化度は、30%~75%である。結晶化度が75%より高くなると繊維径が20nm以上のナノファイバーの本数含有率が高く、集合体の透明性が低くなるため好ましくない。一方、結晶化度が30%以下になると非結晶性多糖類の含有率が増えて、補強効果や増粘効果が低下する恐れがあるため好ましくない。もっと好まし結晶化度は35~69%、最も好ましくは40~68%である。
【0076】
前記混合エステル化多糖類ナノファイバーの平均繊維長は、100nm以上、5000nm未満である。この範囲より短くなると補強効果、増粘効果や保水効果が低くなるため好ましくない。一方、5μm以上になるとポリマーと複合化する際に凝集でき易いため補強効果を発現できなくなるため好ましくない。さらに、繊維長が長すぎると塗料や接着剤に添加する時粘度が大きく増加し塗料又は接着剤の流動性や加工性が失う恐れがあるため好ましくない。
前記混合エステル化多糖類ナノファイバーの平均繊維長は、より好ましくは200nm~2000nm、最も好ましくは300~1000nmである。
【0077】
本発明の前記混合エステル化多糖類ナノファイバーの0.3重量%の水分散液の可視光透過率は50%以上である。50%以下になると補強したコンポジットや分散液の透明性が低いため好ましくない。可視光透過率が50%以上であれば、繊維径が小さく補強したコンポジットや分散液の透明性が高いため好ましい。可視光透過率は、さらに好ましくは60%以上、最も好ましくは65%である。
【実施例0078】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。表1に、実施例及び比較例の反応液の組成と反応条件を一覧表にして示す。なお、用いた原料の詳細は以下の通りであり、得られた混合エステル化多糖類又は混合エステル化多糖類ナノファイバーの特性は以下のようにして測定した。
【0079】
(用いた原料と溶媒)
セルロースパルプは、市販針葉樹木材パルプ(Georgia Pacific社製、商品名:フラッフパルプARC48000GP)を乾燥せずにそのまま用いた。
キチンは、東京化成から購入し、前処理せずそのまま使用した。馬鈴薯澱粉はナカライテスク(株)から購入した粉状澱粉をそのまま用いた。他の試薬はナカライテスク(株)から購入しそのまま用いた。
【0080】
(反応と解繊に用いた機器)
多糖類の混合エステル化修飾反応は20mlサンプル瓶、マグネチックスターラー又はマグネチックホットスターラーを用いた。混合エステル化多糖類をナノファイバーに解繊するには、パナソニック社製のMX-X701-T ミキサーを用いた。
【0081】
(FT-IR分析)
混合エステル化多糖類又は混合エステル化多糖類ナノファイバーのIRスペクトルはフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)で測定した。なお、測定は、NICOLET社製「NICOLET MAGNA-IR760 Spectrometer」を用い、ATRモードで分析した。
【0082】
(混合エステル化多糖類又は多糖類ナノファイバーの硫酸エステル化修飾率の評価)
混合エステル化多糖類又は多糖類ナノファイバーの硫酸エステル化修飾率は次の通りに評価した。まずは、燃焼吸収―IC法で混合エステル化多糖類又は多糖類ナノファイバーの硫黄含有量を定量する。即ち、磁性ボードに乾燥した混合エステル化多糖類又は多糖類ナノファイバー(0.01g)を入れ、酸素雰囲気(流量:1.5L/分)環状炉(1350℃)にて燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させた。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップし、希釈液のイオンクロマトグラフィー測定結果から硫酸イオンのモル濃度を算出した。硫酸イオンのモル濃度から混合エステル化多糖類又は多糖類ナノファイバー1gあたり硫酸基のミリモル数を換算し硫酸エステル化修飾率(mmol/g)とする。なお、燃焼吸収―IC法は 日本ダイオネクス社製のICS-1500を用いた。
【0083】
(混合エステル化多糖類又は多糖類ナノファイバーのアシル化修飾率の評価)
アシル化修飾率は次の通りに定量した。即ち、混合エステル化多糖類又は多糖類ナノファイバー0.1gをエタノールと水酸化ナトリウム水溶液の混合液に入れ、室温で2時間の加水分解を行うことでアシル基と水酸基のエステル結合を切断しアシル基をカルボン酸に変換した。加水分解後固形分を除き、溶液を滴下法によりカルボン酸のモル数を定量した。カルボン酸のモル数から混合エステル化多糖類又は多糖類ナノファイバー1gあたりアシル基のミリモル数を換算しアシル化修飾率(mmol/g)とする。
水酸基の修飾率(mmol/g)=硫酸エステル化修飾率+アシル化修飾率
【0084】
(可視光線透過率の測定)
混合エステル化修飾セルロースナノファイバーの集合体の0.3重量%の水分散液を調製して紫外可視分光光度計を用いて測定し、波長589nm(D線)での可視光線透過率を測定した。測定に用いた装置は、島津製作所製のUV-3600で、測定波長範囲は300nm~800nmだった。
【0085】
(SEM観察)
混合エステル化多糖類ナノファイバーの形状はFE-SEM(日本電子(株)製「JSM-6700F」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。
【0086】
(TEM観察)
前記TEM観察サンプルを日本電子製 電界放出型透過電子顕微鏡(FE-TEM) JEM-2100Fを用いて、加速電圧120kV、TEM明視野で観察した。
【0087】
(熱分解GC―MS)
混合エステル化多糖類の熱分解GC-MSの測定条件を次に示す。
熱分解装置:フロンティア・ラボ社製「PY-2020D」
熱分解条件:炉温度200℃、加熱時間1分、インターフェース温度250℃
GC-MS分析装置:Agilent社製「GC6890」/JEOL社製「JMS―Q1050GC」
分離カラム:アジレント社製「DB-5ms」
キャリアガス:ヘリウム
注入口温度:250℃
カラム温度:40℃(1分保持)-10℃/分で昇温-250℃
スプリットモード:50:1
MSスキャン範囲:10~500amu
【0088】
[実施例1]
表1に示す重量に従って98%の濃硫酸、ホルムアミドとカルボン酸無水物として無水酢酸をそれぞれ20mlのサンプル瓶に入れ、マグネチックスターラーを用い室温で1分間攪拌し混合エステル化反応溶液として調製した。
次いで、セルロースパルプ0.3gを加え、70℃に設定したマグネチックホットスターラーに移し既定時間まで攪拌した。サンプル瓶内の混合物の温度は50℃であった。3時間攪拌した後、反応液を150mlの蒸留水に入れて3分間攪拌した後、ろ過により固形分を回収した。回収した固形分を再び蒸留水150mlに加え3分間攪拌してろ過した。3回繰り返しの攪拌とろ過により無水酢酸、硫酸とホルムアミドなどの反応液を除去した後、0.1重量%の炭酸ナトリウム水溶液を用いて硫酸基を中和した。次に、サンプルを105℃の送風乾燥機内で2時間乾燥した後、FT-IRで分析し、得られたIRスペクトルを図1に示す。
周波数1250cm-1と1730cm-1付近にS=OとC=Oそれぞれに由来する吸収バンド来が検出された。それぞれの修飾率を定量した結果を表2に示す。
【0089】
[実施例2]
セルロースに代えてキチンを用いた以外、表1に示す条件で実施例1と同じ手順と手法を用い混合エステル化反応を行った。得られた混合エステル化キチンを実施例1と同様に洗浄、分析した。IRスペクトル(図2)から、周波数1205~1250cm-1と1730cm-1にS=OとC=Oそれぞれに由来する吸収バンド来が検出された。それぞれの修飾率を定量した結果を表2に示す。
【0090】
[実施例3]
セルロースに代えて馬鈴薯澱粉、表1に示す条件で洗浄時用いた蒸留水に代えてエタノールと蒸留水の混合液(50/50、重量比)を用いた以外、実施例1と同様に混合エステル化反応を行った。得られた混合エステル化澱粉を蒸留水とエタノールの混合液で洗浄した。乾燥した後FT-IR分析した。IRスペクトル(図3)から、周波数1205~1250cm-1と1730cm-1にS=OとC=Oそれぞれに由来する吸収バンド来が検出された。それぞれの修飾率を定量した結果を表2に示す。
【0091】
[実施例4]
実施例1と同じ条件で混合エステル化セルロースを調製し、中和と洗浄した後、乾燥せずに蒸留水を加え100mlの分散液を調製した。分散液をミキサーに入れ、3分間攪拌することで混合エステル化セルロースナノファイバーの分散液(外観写真を図4に示す)を得た。分散液の可視光透過率を測定した結果、89%でした。修飾率の評価結果を表2に示す。一方、得られた混合エステル化修飾セルロースナノファイバーのSEM写真を図5に示す。幅10nm以上のナノファイバーは殆ど観察されず、長さは数100nmであった。
【0092】
[実施例5]
反応温度を室温にした以外実施例4と同様に混合エステル化修飾セルロースナノファイバーを調製した。得られた混合エステル化修飾セルロースナノファイバーの分散液の外観写真を図4、他の評価結果を表2に示す。得られた混合エステル化CNFの繊維長は数100nmであり、幅10nm以下のCNFは殆ど観察されなかった。
【0093】
[実施例6~10]
表1に示す組成と反応条件を用い実施例4と同じ手順に従って混合エステル化修飾セルロースナノファイバーを調製した。それぞれの分散液の外観写真を図4に、他の評価結果を表2に示す。さらに、実施例7で得た混合エステル化修飾セルロースナノファイバーのSEMとTEM写真を図6、熱分解GC-MS分析結果を図7に示す。加熱GC-MS分析から酪酸が検出された。混合エステル化セルロースナノファイバーのブチリル基は分解し酪酸に変換した。一方、実施例9で得た混合エステル化セルロースナノファイバーのSEMとTEM写真を図8に示す。CNFの幅は10nm以下、長さは数100nmであった。
【0094】
[実施例11、12]
実施例2と同じ条件で混合エステル化キチンを調製した後、乾燥せずに蒸留水を加え100mlの分散液を調製した。分散液をミキサーに入れ、3分間攪拌することで混合エステル化キチンナノファイバーの分散液(外観写真を図4に示す)を得た。それぞれのSEM又はTEM写真を図9と10に示す。他の評価結果を表2に示す。得られた混合エステル化キチンナノファイバーの幅は実施例4~10の混合エステル化CNFと比べやや大きく、10nm以上であり、長さは数100であった。
【0095】
[比較例1~3]
表1に示す組成と条件を用い実施例1と同じ手順に従ってセルロースを反応させたが、何れも修飾と微細化はできず、無修飾セルロース繊維のままであった。
【0096】
表1.実施例と比較例の反応条件
【表1】
【0097】
表2.実施例と比較例の評価結果
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の混合エステル化多糖類又は混合エステル化多糖類ナノファイバーは、補強材、分散剤又は保水・保湿剤として、各種複合材料、コーティング剤、化粧品などに利用でき、シートやフィルムに成形して利用することもできる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10