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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175846
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】水田作業車
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20241212BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20241212BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A01B69/00 301
A01B69/00 303J
A01C11/02 330L
B62D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093893
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亘樹
(72)【発明者】
【氏名】尼崎 喬士
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田尾 哲也
(72)【発明者】
【氏名】天野 遼介
【テーマコード(参考)】
2B043
2B062
3D232
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB19
2B043BA02
2B043BB06
2B043EA15
2B043EB12
2B043EB14
2B043EC19
2B043ED11
2B043EE02
2B043EE05
2B062AA03
2B062AA04
2B062AB01
2B062BA26
2B062BA46
2B062BA69
2B062CA05
2B062CA08
2B062CB01
3D232CC20
3D232DC08
3D232DD01
3D232GG12
3D232GG13
(57)【要約】
【課題】車体左右方向の傾斜姿勢に対して、合理的な安全対策を講じた水田作業車を提供する。
【解決手段】水田作業車は、車輪によって対地支持された走行車体と、走行車体の左右傾斜角を決定する左右傾斜角決定部81と、左右傾斜角が警戒傾斜角を超えると、警戒信号を発する傾斜判定部82と、警戒信号の発出に基づいて、走行車体の状態を、走行車体の安全性を高める状態に変更する警戒制御を実行する警戒制御部83とを備え、警戒信号が所定時間にわたって発出された場合に、警戒制御が実行される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田作業車であって、
車輪によって対地支持された走行車体と、
前記走行車体の左右傾斜角を決定する左右傾斜角決定部と、
前記左右傾斜角が警戒傾斜角を超えると、警戒信号を発する傾斜判定部と、
前記警戒信号の発出に基づいて、前記走行車体の状態を、前記走行車体の安全性を高める状態に変更する警戒制御を実行する警戒制御部と、を備え、
前記警戒信号が所定時間にわたって発出された場合に、前記警戒制御が実行される水田作業車。
【請求項2】
前記警戒制御部は、前記所定時間未満の前記警戒信号の発出積算値が許容値を超えた場合に、前記警戒制御を実行する請求項1に記載の水田作業車。
【請求項3】
前記警戒制御が、前記走行車体の走行速度を減じる減速制御、または前記走行車体を停止させる停止制御である請求項1に記載の水田作業車。
【請求項4】
前記走行車体に、駆動源からの動力を駆動輪に伝達する変速装置が搭載されており、前記警戒制御が前記変速装置を中立に切り替える中立切替制御である請求項1に記載の水田作業車。
【請求項5】
前記警戒制御が、前記走行車体に設けられた操舵輪を前記走行車体の安全性を高める方向に操舵する操舵制御である請求項1に記載の水田作業車。
【請求項6】
前記走行車体は、自動走行モードまたは手動走行モードのいずれかで走行可能であり、前記操舵制御は前記自動走行モードでの走行中に行われる請求項5に記載の水田作業車。
【請求項7】
圃場における傾斜データを含む圃場マップデータが取得され、前記傾斜データに基づき、前記安全性を高める方向に操舵制御される請求項6に記載の水田作業車。
【請求項8】
苗作業装置が昇降機構を介して前記走行車体に取り付けられた場合、前記警戒制御が、前記苗作業装置を下降させる下降制御である請求項1に記載の水田作業車。
【請求項9】
前記走行車体は、自動走行モードまたは手動走行モードのいずれかで走行可能であり、前記手動走行モードにおける前記警戒傾斜角は、前記自動走行モードにおける前記警戒傾斜角より小さく設定されている請求項1に記載の水田作業車。
【請求項10】
前記水田作業車の左右方向の傾斜運動時に、前記傾斜運動の所定傾斜角において接地する横転阻止体が、前記車輪の外周領域に設けられ、
前記傾斜判定部は、前記横転阻止体が接地したことを検出する接地検出器からの検出信号に基づいて、前記走行車体の傾斜が特別傾斜角に達したことを検知する請求項1に記載の水田作業車。
【請求項11】
前記警戒傾斜角は、横転予防のために規定された規定傾斜角の1/4から3/4の値である請求項1から10のいずれか一項に記載の水田作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型や歩行型の田植機、直播機、薬剤散布機などの水田作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車は、不整地や斜面を走行するので、傾斜姿勢における安定性の確保が重要である。特に、水田作業車は、動力源や制御機器などの水没を避けるために、比較的大径の車輪を用いることで、それらの対地高さを大きくしている。このため、水田作業車は、他の作業車に比べて車体重心が高くなり、傾斜姿勢において車体がより不安定になる。さらに、田植機などの水田作業車は、納屋などから圃場へトラックによって搬送されることもあり、その積み降ろしにおいて、水田作業車は、車体前後方向の傾斜姿勢となるだけでなく、水田作業車は、傾斜面を有する畦によって区画された圃場内を作業走行するので、圃場への進入や圃場からの退出時には、水田作業車は車体左右方向にも傾斜する。さらに、圃場作業において、圃場内に石や木材などの異物が投げ入れられていた場合、異物に乗り上げた水田作業車は左右方向の傾斜姿勢となる。車体前後方向の傾斜姿勢は、積み降ろし時や坂道走行において頻繁に生じるので、車体前後方向の傾斜姿勢に対する安全対策は以前から講じられている。
【0003】
車体左右方向の傾斜姿勢に対する安全対策に関しては、例えば、特許文献1には、機体の上下方向の加速度を検出する加速度センサと機体の左右の傾きを検出する左右傾斜角度検出手段とを設け、前記加速度センサと左右傾斜角度検出手段との検出結果に基づいて警報を出す田植機が開示されている。また、特許文献2には、車幅方向における傾斜角を検出する傾斜角センサと、車速センサとを備え、車速が大きいほど所定傾斜角が小さく設定され、傾斜角が所定傾斜角以上になると減速する作業車両が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-278711号公報
【特許文献2】特開2019-094035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1による田植機では、車体左右方向の傾斜姿勢に対する安全対策として、車体が所定角度に傾斜した場合に、警報を発するだけなので、運転者が警報に気づかなかった場合、安全性が確保できないという問題がある。また、特許文献2による作業車両では、車体が所定角度に傾斜した場合に、減速することで、安全性が確保される。しかしながら、車体の傾斜角が突発的にかつ瞬間的に所定角度に達しても、その都度警報が出されるので、所定角度を小さく設定した場合や、不整地などを走行する場合には、警報が煩わしくなるという問題が生じる。
【0006】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、車体左右方向の傾斜姿勢に対して、合理的な安全対策を講じた水田作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による水田作業車は、車輪によって対地支持された走行車体と、前記走行車体の左右傾斜角を決定する左右傾斜角決定部と、前記左右傾斜角が警戒傾斜角を超えると、警戒信号を発する傾斜判定部と、前記警戒信号の発出に基づいて、前記走行車体の状態を、前記走行車体の安全性を高める状態に変更する警戒制御を実行する警戒制御部と、を備え、前記警戒信号が所定時間にわたって発出された場合に、前記警戒制御が実行される。
【0008】
この構成によれば、左右傾斜角決定部で決定される左右傾斜角が警戒傾斜角を超えると直ちに警戒制御が実行されるのではなく、当該警戒信号が発出される経過状態に基づいて、例えば当該警戒信号が所定時間にわたって発出された場合に、警戒制御が実行される。この警戒制御により、走行車体の状態は、前記走行車体の安全性を高める状態に変更される。警戒信号が発出される経過状態を考慮して、警戒制御が実行されるので、上記所定時間を適切に設定することで、走行車体の傾斜角が突発的にかつ瞬間的に警戒傾斜角に達して、その都警戒制御が実行される不都合は抑制される。
【0009】
警戒制御が実行されない所定時間未満で警戒傾斜角が生じたとしても、そのような事象が、断続的に複数回続くと、走行車体の安定性に問題が生じることがある。この問題を回避するために、本発明では、前記警戒制御部は、前記所定時間未満の前記警戒信号の発出積算値が許容値を超えた場合に、前記警戒制御を実行することも提案される。
【0010】
警戒信号が発出される経過状態が警戒制御の実行を要求するものとなった場合、走行車体の状態を走行車体の安全性を高める状態に変更する警戒制御が、実行される。この警戒制御の第1の実施形態は、前記走行車体の走行速度を減じる減速制御、または前記走行車体を停止させる停止制御である。このような走行速度制御によって、走行車体の運動エネルギを低減させることで、傾斜走行における安全性が確保される。
【0011】
駆動源からの動力を駆動輪に伝達する変速装置が走行車体に搭載されている場合、警戒制御の第2の実施形態は、前記変速装置を中立に切り替える中立切替制御である。変速装置を中立にすることにより、走行車体は、減速し、停車する。これにより、傾斜走行における安全性が確保される。
【0012】
警戒制御の第3の実施形態は、前記走行車体に設けられた操舵輪を前記走行車体の安全性を高める方向に操舵する操舵制御である。走行車体が左右方向に傾斜した場合、操舵角を調整することで、走行車体の安定性が改善することが知られている。走行車体の左右方向の傾斜状態と、その際の走行車体の安定性を改善する操舵状態とを関係づけたルックアップテーブル等のルール表を作成しておき、当該操舵制御に用いることで、傾斜走行における安全性が確保される。
【0013】
上述した走行車体の安全性を高める方向に操舵する操舵制御は、特に、自動走行において好適である。このことから、本発明の1つでは、前記走行車体は、自動走行モードまたは手動走行モードのいずれかで走行可能であり、前記操舵制御は前記自動走行モードでの走行中に行われる。
【0014】
自動走行モードでの目標走行経路の作成や手動走行モードでの走行支援ガイダンスの作成のために圃場マップデータが用いられる。圃場マップデータは、データ通信やポータブルメモリなどを介して制御ユニットに格納される。この圃場マップデータに圃場における傾斜データが含まれている場合、この傾斜データは、走行車体の安全性を高める操舵制御に利用することができる。圃場における傾斜データには、圃場面の傾斜、畦面の傾斜、圃場出入口の傾斜などが含まれる。このことから、本発明の1つでは、圃場における傾斜データを含む圃場マップデータが取得され、前記傾斜データに基づき、前記安全性を高める方向に操舵制御される。
【0015】
水田作業車は、走行車体に昇降機構を介して苗作業装置を取り付けて、水田作業を行う。そのような水田作業における警戒制御の第4の実施形態は、前記警戒制御が、前記苗作業装置を下降させる下降制御である。苗作業装置を下降させることで、走行車体の重心が低くなり、傾斜走行における安全性が確保される。
【0016】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記走行車体は、自動走行モードまたは手動走行モードのいずれかで走行可能であり、前記手動走行モードにおける前記警戒傾斜角は、前記自動走行モードにおける前記警戒傾斜角より小さく設定されている。自動走行モードは無人走行に用いられるので、走行機体が不安定となっても、搭乗者に害を及ぼすことはない。これにより、車体左右方向の傾斜走行に対して、合理的な安全対策が講じられる。
【0017】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記水田作業車の左右方向の傾斜運動時に、前記傾斜運動の所定傾斜角において接地する横転阻止体が、前記車輪の外周領域に設けられ、前記傾斜判定部は、前記横転阻止体が接地したことを検出する接地検出器からの検出信号に基づいて、前記走行車体の傾斜が特別傾斜角に達したことを検知する。この構成によれば、走行車体の左右方向の傾斜角が特別傾斜角に達すると、横転阻止体の阻止部が接地し、それ以上の傾斜に対する抵抗力(踏ん張り力)が生み出される。この特別傾斜角と上述した警戒傾斜角とを一致させておくと、傾斜判定部が接地検出器から検出信号が出力された時点での走行車体の傾斜角を警戒傾斜角とみなすので、上述した警戒制御による転倒予防と、横転阻止体による転倒予防が同時に行われ、より高い安全性が得られる。
【0018】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記警戒傾斜角は、横転予防のために規定された規定傾斜角の1/4から3/4の値である。警戒傾斜角は、水田作業車の横転予防のために規定されている規定角より小さくすることが好ましいが、当該横転角の1/4から3/4程度に設定することで、水田作業車の横転に対する安全性がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】乗用型田植機の全体側面図である。
図2】乗用型田植機の動力伝達系統図である。
図3】制御ユニットの機能ブロック図である。
図4】後輪の側面図である。
図5】後車軸ケース及び後輪支持ケース、後輪の縦断正面図である。
図6】左右傾斜時のラグと横転阻止体の姿勢を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
なお、本明細書では、特に断りがない限り、「前」は機体前後方向(走行方向)に関して前方を意味し、「後」は機体前後方向(走行方向)に関して後方を意味する。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味する。「上」または「下」は、機体の鉛直方向(垂直方向)での位置関係であり、地上高さにおける関係を示す。
【0021】
図1に、水田作業機の一例である乗用型田植機が示されている。図1に示すように、左右一対の前輪1と左右一対の後輪2とからなる車輪により対地支持された走行車体10の後部に、上下揺動自在な昇降機構であるリンク機構11が備えられて、リンク機構11の後部に苗作業装置の一例である苗植付装置12が支持されている。リンク機構11は油圧シリンダ11aによって昇降し、これにより、苗植付装置12も昇降する。前輪1は、操舵輪及び駆動輪として構成され、後輪2は駆動輪として構成されている。
【0022】
図1に示すように、苗植付装置12は、植付アーム、フロート、苗のせ台などを備えている。作業走行において、苗のせ台が左右に往復横送り駆動されるのに伴って、植付アームによって苗のせ台の下部から苗が取り出され、田面に植え付けられる。
【0023】
走行車体10の後領域には、運転座席13が設けられ、運転座席13の前方には、ステアリングホイール14が設けられている。ステアリングホイール14の下方には駆動源の一例としてのエンジン(内燃機関)15が配置されている。駆動源としては、エンジン15以外に、電動モータ、電動モータとエンジンとを組み合わせたハイブリッドエンジンなどが用いられる。以後の説明では、エンジン15が駆動源の一例として取り扱われている。
【0024】
ステアリングホイール14と前輪1とは、図示されていない、ラックピンオン方式のステアリング操作機構で連結されており、ステアリングホイール14の操作によって前輪1が操舵される。ステアリング機構に、電動操舵機器を組み込むと、前輪1は、操舵制御による自動操舵が可能となる。
【0025】
次に、図2を用いて、この田植機の動力伝達機構を説明する。エンジン15を動力源とする動力伝達機構は、前輪1及び後輪2に動力を伝達する走行動力伝達機構16と、苗植付装置12に動力を伝達する作業動力伝達機構17とに区分けされる。エンジン動力を駆動輪に伝達する走行動力伝達機構16及びエンジン動力を苗植付装置12に伝達する作業動力伝達機構17は、よく知られた構造であるので、その説明は省略するが、中立位置を有する変速装置(静油圧式無段変速装置やギヤ変速装置)や動力遮断を行うクラッチが備えられている。前輪1への動力伝達の下流側には、ブレーキ機構が設けられ、後輪2への動力伝達の下流側には、左右の後車輪用サイドクラッチが設けられている。
【0026】
次に、図3に示された機能ブロック図を用いて、この田植機に備えられている横転予防制御を説明する。田植機は、制御ユニット3を中核要素とする電子走行制御系を備えている。この実施形態では、制御ユニット3には、走行制御ユニット3A、作業制御ユニット3B、横転予防制御ユニット8が含まれている。
【0027】
走行制御ユニット3Aには、駆動源制御部の一例であるエンジン制御部31、変速制御部32、操舵制御部33が含まれている。エンジン制御部31は、エンジン15の負荷等に基づいて回転数を制御する。変速制御部32は、走行動力伝達機構16における変速装置の静油圧式無段変速装置の斜板角度変更やギヤ変速装置のクラッチON/OFFを含む変速段の選択等を行う。操舵制御部33は、自動走行などの走行モードにおいて、電動操舵機器の動作を制御する。
【0028】
作業制御ユニット3Bには、PTO制御部34、昇降制御部35が含まれている。PTO制御部34は、作業動力伝達機構17におけるクラッチ制御や変速段の選択を行う。昇降制御部35は、リンク機構11の油圧シリンダ11aための油圧弁を制御して、苗植付装置12を昇降させる。
【0029】
横転予防制御ユニット8には、走行車体10に対する横転予防制御のための制御機能部として、左右傾斜角決定部81、傾斜判定部82、警戒制御部83が含まれている。左右傾斜角決定部81は、傾斜センサ88からの傾斜信号に基づいて、走行車体10の左右傾斜角を決定する。この実施形態では、傾斜センサ88としてIMUが用いられているが、その他の電子式または機械式の傾斜センサが用いられてもよい。傾斜判定部82は、左右傾斜角決定部81によって決定された左右傾斜角と、設定されている警戒傾斜角と比較して、左右傾斜角が警戒傾斜角を超えると、警戒信号を発する。警戒傾斜角は、横転予防のために、法的に規定された規定傾斜角、あるいは製造会社の規則によって規定された規定傾斜角の1/4から3/4の値、例えば1/2とする。警戒制御部83は、傾斜判定部82からの警戒信号の発出に基づいて、走行車体10の状態を、走行車体10の安全性(横転予防)を高める状態に変更する警戒制御を実行する。
【0030】
警戒制御部83は、警戒信号が所定時間にわたって発出された場合に、警戒制御を実行する。具体的には、例えば、T秒間にわたって、警戒信号が発出された場合、警戒制御される。但し、この実施形態では、警戒制御部83は、所定時間(T秒)内において、T秒未満にわたる警戒信号が所定回数以上発せられた場合、あるいは、T秒未満にわたる警戒信号の発出積算値が許容値を超えた場合にも、警戒制御を実行する。
【0031】
警戒制御を通じて実現する制御事象として、例えば、以下の事象が挙げられる。
(1)走行車体10の走行速度を減じる減速制御
これは、警戒制御部83が変速制御部32に減速指令を与えることで実現する。
(2)走行車体10を停止させる停止制御
これは、警戒制御部83が走行制御ユニット3Aに緊急停止指令を与えることで実現する。
(3)変速装置を中立に切り替える中立切替制御
これは、警戒制御部83が変速制御部32に静油圧式無段変速装置の斜板中立指令またはクラッチ中立指令を与えることで実現する。
(4)安全方向への操舵制御
これは、警戒制御部83が操舵輪である前輪1を走行車体10の安全性(傾斜を弱める方向)を高める方向(傾斜を弱める方向)に操舵する安全操舵指令を操舵制御部33に与えることで実現する。これは、自動走行モードにおいて特に好適に適用できるが、手動走行モードにおいても、運転支援ガイダンスとして、安全操舵アドバイスを与えるなどの手法で、適用することも可能である。
(5)圃場傾斜データを用いた操舵制御
データ通信やポータブルメモリなどを介して制御ユニット3に格納されている圃場マップデータに、圃場における傾斜データ(圃場面の傾斜、畦面の傾斜、圃場出入口の傾斜など)が含まれている場合、この傾斜データを用いて、走行車体10の安全性を高める安全操舵が実行される。具体例の1つとして、傾斜データが圃場を区分けして得られた各微小区画の傾斜を示している場合、傾斜の大きな区画を回避するように自動操舵が行われることで、走行車体10の安全性を高めることができる。また、走行目標となっている微小区画の傾きから、走行車体10の左右方向の傾き(走行面の傾き)を算定した場合、当該傾きの上流側(位置が高くなっている側)への車輪操舵を取り入れることで、走行車体の不測の向き変更が回避される。さらに、左右の車輪が通過する微小区画の傾斜が異なっている場合では、当該微小区画の傾斜の方向及び大きさから走行車体10の安全性を高める操舵量を算定し、この算定結果に基づいて操舵制御が行われてもよい。なお、この傾斜データを用いた操舵制御において、傾斜データを含む圃場マップデータが、必ずしも制御ユニット3に格納されている必要はない。例えば、IMUセンサ等の傾斜センサ88によるリアルタイムの傾斜計測値に基づいて、上述した走行車体10の走行安定性を高める方向への自動操舵が行われてもよい。
(6)苗作業装置を下降させる下降制御
これは、警戒制御部83が下降指令を昇降制御部35に与えることで実現する。
【0032】
上述した警戒制御事象として、全てを採用する必要はなく、少なくとも1つの制御事象を採用すればよい。また、上述した(1)から(6)の警戒制御事象は例であり、走行車体10の安全性を高める状態に変更する警戒制御事象であれば、その他の警戒制御事象を採用してもよい。
【0033】
この田植機は、自動走行モードまたは手動走行モードのいずれかで走行可能であり、図示されていない切替操作具の操作により、いずれかの走行モードが選択される。さらに、自動走行にふさわしくない状態が発生した場合、自動的に自動走行モードから手動走行モードに移行する。自動走行モードで、かつ走行車体10に作業員が乗車していない場合、万一横転しても、人的被害は回避される。手動走行モードでは、運転者が乗車しているので、横転の可能性は小さくする必要がある。このことから、手動走行モードにおける警戒傾斜角は、自動走行モードにおける警戒傾斜角より小さく設定される。
【0034】
この田植機は、横転安全性を高めるため、さらに別な安全策が講じられている。図4図5とに示すように、後輪2は、円環状の本体部20と、接地部として機能するラグ4と、横転阻止体5とを備えている。本体部20は、円環状のリム21と、リム21によって形成される円環の中心領域に位置するハブ22と、リム21とハブ22とに亘って設けられた複数(本実施形態では4本)のスポーク23とからなる。
【0035】
リム21は、例えば、中空のパイプ部材を円環状に曲げ加工することにより構成されている。この実施形態では、ハブ22は、板状部材を絞り加工(プレス加工)することにより製作され、スポーク23は、中空のパイプ部材により製作されている。
【0036】
スポーク23の先端部(後輪2の径方向における外側の端部)が、リム21の内周部分に取付けられている。スポーク23とリム21とは、例えば、溶接により連結されている。スポーク23の他端部(後輪2の径方向における内側の端部)が、ハブ22に取付けられている。
【0037】
ハブ22の中央領域に円環状のフランジ部22aが形成され、当該フランジ部22aに複数(この実施形態では3つ)の孔部が形成されている。フランジ部22aが、車軸18のフランジ部18aに複数本のボルト19により連結されている。これにより、後輪2が車軸18に取付けられている。ハブ22の内側面(凹面)は機体内側を向いている。
【0038】
ラグ4は、本体部20の外周部に装着されている。図5で示すラグ4は、スポーク23の先端部に装着される装着部41と、リム21を外囲する外囲部42とを有する。ラグ4は、硬質のゴムで成形されている。しかしながら、ラグ4の材質や製造方法は、成形及び硬質ゴムに限定されず、金属を材料として機械加工等で製作されてもよい。
【0039】
さらに、ラグ4の外囲部42の左右方向外側には、つまり車輪の外周領域に、横転阻止体5が配置されている。図6で拡大表示されているように、横転阻止体5には、ラグ4の接地点を回転軸とする田植機(走行車体10)の左右方向の傾斜運動時に、傾斜運動(図5で記号RMと矢印で示されている)の所定傾斜角:θにおいて接地する阻止部51が形成されている。横転阻止体5の形態の一例は、一面が斜面となっている略直方体である。この平面状の斜面が阻止部51としての機能を有し、走行車体10の所定傾斜角:θの傾斜において、地面(圃場面100)と接触し(接地)、それ以上の傾斜に対する抵抗力(踏ん張り力)を作り出している。所定傾斜角:θは、水田作業車の横転を予防するために規則で規定されている規定角より小さくすることはもちろんであるが、安全性を考慮して、規定角の1/4から3/4程度に設定される。
【0040】
この実施形態では、横転阻止体5は、ラグ4と一体成形されている。横転阻止体5は所定ピッチで形成されてもよいし、連続的に形成された円環状であってもよい。また、横転阻止体5は、ラグ4と一体成形されるのではなく、ラグ4と別体で成形され、ラグ4や本体部20にブラケットなどを用いて、取り付けられてもよい。
【0041】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、走行車体10に設けられたIMUが傾斜センサ88として用いられていた。これに代えて、あるいは、これに追加して、図3において点線で描かれているように、横転阻止体5が接地したことを検出する接地検出器89が、傾斜センサ88として用いられてもよい。その場合、接地検出器89は、横転阻止体5の接地圧を検出するように、横転阻止体5の内部、または表面に配置される。傾斜判定部82は、横転阻止体5の阻止部51が接地検出器89からの検出信号に基づいて、前記走行車体の傾斜が特別傾斜角に達したことを検知する
【0042】
(2)上述した実施形態では、本発明の水田作業車は、乗用型田植機であったが、水田作業車は乗用型田植機に限定されず、歩行型の田植機や、播種装置を備えた直播機、あるいは薬剤散布機等であってもよい。
【0043】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、電子走行制御系を備えた水田作業車に適用される。
【符号の説明】
【0045】
1 :前輪
2 :後輪
3 :制御ユニット
3A :走行制御ユニット
3B :作業制御ユニット
5 :横転阻止体
8 :横転制御ユニット
10 :走行車体
11 :リンク機構
11a :油圧シリンダ
12 :苗植付装置
15 :エンジン(駆動源)
16 :走行動力伝達機構
17 :作業動力伝達機構
31 :エンジン制御部(駆動源制御部)
32 :変速制御部
33 :操舵制御部
34 :PTO制御部
35 :昇降制御部
51 :阻止部
81 :左右傾斜角決定部
82 :傾斜判定部
83 :警戒制御部
88 :傾斜センサ
89 :接地検出器

図1
図2
図3
図4
図5
図6