(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017585
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】インバータ制御装置、インバータ制御方法、インバータ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240201BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120318
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正志
(72)【発明者】
【氏名】木内 康太
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA01
5H770DA03
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770KA01Y
5H770KA01Z
(57)【要約】
【課題】汎用性の高いインバータ制御装置等を提供する。
【解決手段】インバータ制御装置30は、スイッチング素子10P、10Nの制御電極に印加される制御信号に応じて、直流を交流に変換するインバータ10を制御するインバータ制御装置30であって、インバータ10から出力される交流を測定する電流センサ31と、交流の周波数より高い第1遮断周波数を有し、それより高い高周波成分を測定された交流から抽出するハイパスフィルタ33と、抽出された高周波成分を、測定された交流から差し引く反転部34および加算器35と、高周波成分が差し引かれた交流に基づいて、スイッチング素子10P、10Nを線形領域においてスイッチング動作させる制御信号を生成する制御信号生成部36と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子の制御電極に印加される制御信号に応じて、直流を交流に変換するインバータを制御するインバータ制御装置であって、
前記インバータから出力される前記交流を測定する交流測定部と、
前記交流の周波数より高い第1遮断周波数を有し、それより高い高周波成分を測定された前記交流から抽出するハイパスフィルタと、
抽出された前記高周波成分を、測定された前記交流から差し引く高周波除去部と、
前記高周波成分が差し引かれた前記交流に基づいて、前記スイッチング素子を線形領域においてスイッチング動作させる制御信号を生成する制御信号生成部と、
を備えるインバータ制御装置。
【請求項2】
前記制御信号生成部は、リニアアンプによって構成される、請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
スイッチング素子の制御電極に印加される制御信号に応じて、直流を交流に変換するインバータを制御するインバータ制御装置であって、
前記インバータから出力される前記交流を測定する交流測定部と、
前記交流の周波数より高い第1遮断周波数を有し、それより高い高周波成分を測定された前記交流から抽出する、ハードウェア実装されたハイパスフィルタと、
抽出された前記高周波成分を、測定された前記交流から差し引く、ハードウェア実装された高周波除去部と、
前記高周波成分が差し引かれた前記交流に基づいて前記制御信号を生成する制御信号生成部と、
を備えるインバータ制御装置。
【請求項4】
前記制御信号生成部は、前記高周波成分が差し引かれた前記交流に基づいて、前記制御信号としてのパルス幅変調信号を生成する、請求項3に記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
前記制御信号生成部は、前記高周波成分が差し引かれた前記交流に基づいて、前記スイッチング素子を線形領域においてスイッチング動作させる前記制御信号としてのリニア制御信号を生成する、請求項3に記載のインバータ制御装置。
【請求項6】
前記第1遮断周波数より高い第2遮断周波数を有し、それより低い低周波成分を測定された前記交流から抽出するローパスフィルタを更に備え、
前記ハイパスフィルタは、前記第1遮断周波数より高い前記高周波成分を抽出された前記低周波成分から抽出し、
前記高周波除去部は、抽出された前記高周波成分を、抽出された前記低周波成分から差し引き、
前記制御信号生成部は、前記高周波成分が差し引かれた前記低周波成分に基づいて前記制御信号を生成する、
請求項1から5のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項7】
スイッチング素子の制御電極に印加される制御信号に応じて、直流を交流に変換するインバータを制御するインバータ制御方法であって、
前記インバータから出力される前記交流を測定する交流測定ステップと、
前記交流の周波数より高い第1遮断周波数より高い高周波成分を、測定された前記交流から抽出する高周波抽出ステップと、
抽出された前記高周波成分を、測定された前記交流から差し引く高周波除去ステップと、
前記高周波成分が差し引かれた前記交流に基づいて、前記スイッチング素子を線形領域においてスイッチング動作させる制御信号を生成する制御信号生成ステップと、
を備えるインバータ制御方法。
【請求項8】
スイッチング素子の制御電極に印加される制御信号に応じて、直流を交流に変換するインバータを制御するインバータ制御プログラムであって、
前記インバータから出力される前記交流を測定する交流測定ステップと、
前記交流の周波数より高い第1遮断周波数より高い高周波成分を、測定された前記交流から抽出する高周波抽出ステップと、
抽出された前記高周波成分を、測定された前記交流から差し引く高周波除去ステップと、
前記高周波成分が差し引かれた前記交流に基づいて、前記スイッチング素子を線形領域においてスイッチング動作させる制御信号を生成する制御信号生成ステップと、
をコンピュータに実行させるインバータ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインバータ制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インバータのフィードバック制御系の発散を抑制するために、制御対象としての高調波の位相を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)信号に応じてスイッチング素子がスイッチング動作を行うインバータを対象としており、ソフトウェア制御によって高調波の位相を調整する。このように特許文献1の技術は、ソフトウェアによるPWM制御に適用対象が限られる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、汎用性の高いインバータ制御装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のインバータ制御装置は、スイッチング素子の制御電極に印加される制御信号に応じて、直流を交流に変換するインバータを制御するインバータ制御装置であって、インバータから出力される交流を測定する交流測定部と、交流の周波数より高い第1遮断周波数を有し、それより高い高周波成分を測定された交流から抽出するハイパスフィルタと、抽出された高周波成分を、測定された交流から差し引く高周波除去部と、高周波成分が差し引かれた交流に基づいて、スイッチング素子を線形領域においてスイッチング動作させる制御信号を生成する制御信号生成部と、を備える。
【0007】
本態様では、制御信号生成部が、ノイズとなりうる高周波成分が除去された交流のフィードバックに基づいて、高精度な制御信号を生成できる。本態様は、インバータのスイッチング素子を線形領域においてスイッチング動作させる「リニア制御」を対象とするが、ハイパスフィルタ、高周波除去部、制御信号生成部等の各機能は、ソフトウェアによってもハードウェアによっても実装可能であり汎用性が高い。
【0008】
本発明の別の態様もまた、インバータ制御装置である。この装置は、スイッチング素子の制御電極に印加される制御信号に応じて、直流を交流に変換するインバータを制御するインバータ制御装置であって、インバータから出力される交流を測定する交流測定部と、交流の周波数より高い第1遮断周波数を有し、それより高い高周波成分を測定された交流から抽出する、ハードウェア実装されたハイパスフィルタと、抽出された高周波成分を、測定された交流から差し引く、ハードウェア実装された高周波除去部と、高周波成分が差し引かれた交流に基づいて制御信号を生成する制御信号生成部と、を備える。
【0009】
本態様でも、制御信号生成部が、ノイズとなりうる高周波成分が除去された交流のフィードバックに基づいて、高精度な制御信号を生成できる。本態様は、ハードウェア実装されたハイパスフィルタおよび高周波除去部を対象とするが、制御信号生成部はリニア制御やPWM制御を含む各種の制御方式に対応可能であり汎用性が高い。
【0010】
本発明の更に別の態様は、インバータ制御方法である。この方法は、スイッチング素子の制御電極に印加される制御信号に応じて、直流を交流に変換するインバータを制御するインバータ制御方法であって、インバータから出力される交流を測定する交流測定ステップと、交流の周波数より高い第1遮断周波数より高い高周波成分を、測定された交流から抽出する高周波抽出ステップと、抽出された高周波成分を、測定された交流から差し引く高周波除去ステップと、高周波成分が差し引かれた交流に基づいて、スイッチング素子を線形領域においてスイッチング動作させる制御信号を生成する制御信号生成ステップと、を備える。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、汎用性の高いインバータ制御装置等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】各周波数における交流の強度を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るインバータ制御装置30の構成を模式的に示す。インバータ制御装置30は、直流を交流に変換する直流交流変換器であるインバータ10を制御する。インバータ10は、正電位ラインDCPから供給される直流の正電位または高電位と、負電位ラインDCNから供給される直流の負電位または低電位の間の直流電圧を、6個のスイッチング素子によって3相(U相、V相、W相)の交流電圧に変換する。
【0016】
インバータ10は、正電位ラインDCPとUVW各相の交流出力の間に接続される正電位側スイッチング素子群10Pと、負電位ラインDCNとUVW各相の交流出力の間に接続される負電位側スイッチング素子群10Nを備える。正電位側スイッチング素子群10Pは、UVWの各相に対応する三つの正電位側スイッチング素子を備える。負電位側スイッチング素子群10Nは、UVWの各相に対応する三つの負電位側スイッチング素子を備える。
【0017】
正電位側スイッチング素子群10Pおよび/または負電位側スイッチング素子群10Nを構成する各スイッチング素子は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)であるのが好ましいが、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)その他のFET(Field-Effect Transistor:電界効果トランジスタ)やバイポーラトランジスタ等の他のトランジスタまたはスイッチング素子でもよい。
【0018】
UVWの各相の正電位側スイッチング素子と、UVWの各相の負電位側スイッチング素子は、相補的にスイッチング制御されるUVWの各相のスイッチング素子対を構成する。具体的には、
図1における左側の正電位側スイッチング素子と負電位側スイッチング素子の対は、その接続点であるU相出力端子(「U」と図示されている)からU相の交流電圧を出力するU相インバータを構成し、
図1における中央の正電位側スイッチング素子と負電位側スイッチング素子の対は、その接続点であるV相出力端子(「V」と図示されている)からV相の交流電圧を出力するV相インバータを構成し、
図1における右側の正電位側スイッチング素子と負電位側スイッチング素子の対は、その接続点であるW相出力端子(「W」と図示されている)からW相の交流電圧を出力するW相インバータを構成する。U相インバータ、V相インバータ、W相インバータは、正電位ラインDCPと負電位ラインDCNの間に並列に設けられる。UVWの各相のインバータの構成は同様であるため、以下ではU相インバータ(10の符号を付す)について代表的に説明する。
【0019】
U相インバータ10は、直流の正電位を供給する正電位ラインDCPおよび直流の負電位を供給する負電位ラインDCNの間に設けられて、当該正電位および当該負電位の間で変動するU相の交流電圧を出力するU相出力端子「U」を備える。正電位ラインDCPとU相出力端子「U」の間には正電位側スイッチング素子10Pが接続され、負電位ラインDCNとU相出力端子「U」の間には負電位側スイッチング素子10Nが接続される。正電位側スイッチング素子10Pおよび負電位側スイッチング素子10Nは、それぞれの制御電極に後述するドライバ37から印加される制御信号に応じて導通状態が切り替えられる。
【0020】
ドライバ37は、正電位側スイッチング素子10Pおよび負電位側スイッチング素子10Nからなるスイッチング素子対の導通状態を相補的に切り替えるスイッチング制御を行うことで、正電位ラインDCPおよび負電位ラインDCNの間の直流電圧をU相の交流電圧に変換する。ここで「相補的に切り替える」とは、各相のスイッチング素子対が同時にオン状態にならないように制御することを意味する。換言すれば、各相の一方のスイッチング素子がオン状態の時は、当該各相の他方のスイッチング素子がオフ状態になるように制御することを意味する。但し、各相のスイッチング素子対が同時にオフ状態になることは許容される。U相について具体的には、正電位側スイッチング素子10Pがオン状態の時は負電位側スイッチング素子10Nがオフ状態に制御され、負電位側スイッチング素子10Nがオン状態の時は正電位側スイッチング素子10Pがオフ状態に制御される。このため、正電位側スイッチング素子10Pがオン状態の時はU相出力端子「U」に正電位ラインDCPの正電位が現われ、負電位側スイッチング素子10Nがオン状態の時はU相出力端子「U」に負電位ラインDCNの負電位が現われる。このようなスイッチング制御を周期的に繰り返すことで、U相出力端子「U」には正電位と負電位が交互に現われるため交流電圧(U相)が生成される。
【0021】
インバータ10は直流電圧から変換した3相の交流電圧を、例えばLCフィルタ11等を介してモータ20に供給する。モータ20は、例えば、U相、V相、W相の3相のコイル(不図示)を持つ3相ブラシレスモータである。U相コイルにはU相インバータからのU相電圧が印加されてU相電流が流れ、V相コイルにはV相インバータからのV相電圧が印加されてV相電流が流れ、W相コイルにはW相インバータからのW相電圧が印加されてW相電流が流れる。UVWの各相のインバータ10は、モータ20のホール素子(不図示)が検知した回転子(不図示)の回転位置に基づいて、互いに位相が異なる交流電圧を各相のコイルに印加する。このように各相のコイルに印加された交流電圧は回転磁界を発生させ、磁石等を備える回転子を回転させることで所望の回転動力が得られる。なお、モータ20は、交流電圧によって駆動される他のタイプのモータでもよい。また、モータ20の相の数は3に限られず任意の自然数でよい。
【0022】
インバータ制御装置30は、電流センサ31と、ローパスフィルタ(LPF:Low-Pass Filter)32と、ハイパスフィルタ(HPF:High-Pass Filter)33と、反転部34と、加算器35と、制御信号生成部36と、ドライバ37を備える。これらの構成要素、特に、ローパスフィルタ32、ハイパスフィルタ33、反転部34、加算器35、制御信号生成部36、ドライバ37の一部または全部は、ソフトウェアを利用することなくハードウェアのみで実装(以下では簡潔に「ハードウェア実装」ともいう)されてもよいし、ソフトウェアおよび汎用ハードウェアの協働によって実装(以下では簡潔に「ソフトウェア実装」ともいう)されてもよい。
【0023】
典型的なユースケースでは、ハードウェア実装された構成要素はアナログ信号を処理するため、ハードウェア実装はアナログ実装と言い換えてもよい。同様に、典型的なユースケースでは、ソフトウェア実装された構成要素はデジタル信号を処理するため、ソフトウェア実装はデジタル実装と言い換えてもよい。ソフトウェアで実装される構成要素は、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各構成要素は、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0024】
電流センサ31は、インバータ10から出力される交流を測定する交流測定部である。電流センサ31は、インバータ10から出力されるUVWの3相の交流電流を全て測定してもよいし、そのうち少なくとも1相の交流電流を測定してもよい。電流センサ31によって測定された交流電流の周波数を以下ではFACと表す。
【0025】
ローパスフィルタ32は、後述するハイパスフィルタ33の第1遮断周波数F
C1より高い第2遮断周波数F
C2を有し、それより低い低周波成分を電流センサ31によって測定された交流から抽出する。
図2における破線は、ローパスフィルタ32を通過した後の交流の各周波数における強度を模式的に示す。第2遮断周波数F
C2は交流周波数F
ACより高く、それより高い周波数成分がローパスフィルタ32によって減衰され、それより低い周波数成分がローパスフィルタ32を通過する。インバータ10から出力される周波数F
ACの交流には、電源ノイズ等の高周波ノイズが定常的に重畳されうる。そこで、ローパスフィルタ32が第2遮断周波数F
C2より高い電源ノイズ等を除去することで、インバータ制御装置30によるフィードバック制御の精度が高められる。ローパスフィルタ32は、インダクタ、コンデンサ、抵抗等の素子の組合せによってハードウェア実装されてもよいし、デジタルフィルタ等としてソフトウェア実装されてもよい。
【0026】
ハイパスフィルタ33は、交流周波数FACより高く第2遮断周波数FC2より低い第1遮断周波数FC1を有し、それより高い高周波成分を電流センサ31によって測定された交流から抽出する。ハイパスフィルタ33は、インダクタ、コンデンサ、抵抗等の素子の組合せによってハードウェア実装されてもよいし、デジタルフィルタ等としてソフトウェア実装されてもよい。
【0027】
本実施形態の例では、ハイパスフィルタ33の前段に設けられるローパスフィルタ32が第2遮断周波数F
C2より高い周波数成分を既に減衰させているため、ハイパスフィルタ33は実質的に第1遮断周波数F
C1と第2遮断周波数F
C2の間の周波数帯域を選択的に抽出する。この周波数帯域には、
図2において「外乱」と示されているように、ランダムノイズ等の外乱が混入または残存しうる。このような外乱は、第2遮断周波数F
C2より周波数が低いためローパスフィルタ32では除去されず、インバータ制御装置30によるフィードバック制御の精度に悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、本実施形態では、ローパスフィルタ32で除去しきれない外乱(交流周波数F
ACおよび/または第1遮断周波数F
C1より周波数が高い成分という意味で、以下では「高周波成分」とも表す)が、ハイパスフィルタ33によって選択的に抽出され、後段の反転部34および加算器35によって効果的に除去される。
【0028】
反転部34は、ハイパスフィルタ33によって選択的に抽出された高周波成分の正負を反転する。加算器35は、反転部34によって反転された高周波成分と、電流センサ31によって測定されてローパスフィルタ32を通過した交流を加算する。反転部34によって正負が反転された高周波成分が加算器35によって加算されることで、当該高周波成分(すなわち外乱)が元の交流から効果的に除去される。
【0029】
このように、反転部34および加算器35は、ハイパスフィルタ33によって抽出された高周波成分を、電流センサ31によって測定された交流から差し引く高周波除去部を構成する。なお、反転部34および加算器35の代わりに、ハイパスフィルタ33によって選択的に抽出された高周波成分を、電流センサ31によって測定されてローパスフィルタ32を通過した交流から減算する減算器によって高周波除去部を構成してもよい。高周波除去部の機能は、ハードウェアで実装されてもよいし、ソフトウェアで実装されてもよい。
【0030】
図2における実線は、ハイパスフィルタ33によって選択的に抽出された第1遮断周波数F
C1と第2遮断周波数F
C2の間の外乱が、ローパスフィルタ32通過後の交流(破線)から、反転部34および加算器35によって除去された後の交流の各周波数における強度を模式的に示す。ローパスフィルタ32の通過後には存在した高周波成分としての外乱が、ハイパスフィルタ33、反転部34、加算器35によって効果的に除去されていることが分かる。このように、本実施形態によれば、ローパスフィルタ32によって定常的な電源ノイズ等を除去できるだけでなく、ハイパスフィルタ33、反転部34、加算器35によって非定常的または突発的な外乱等も除去できるため、インバータ制御装置30によるフィードバック制御の精度が高められる。
【0031】
制御信号生成部36は、加算器35または高周波除去部によって高周波成分(外乱)が差し引かれた交流に基づいて、ドライバ37を通じてインバータ10におけるスイッチング素子10P、10Nの制御電極に印加される制御信号を生成する。スイッチング素子10P、10Nがゲートを制御電極とするトランジスタである場合、制御信号生成部36はゲート信号を制御信号として生成する。
【0032】
制御信号生成部36は、スイッチング素子10P、10Nを(飽和領域ではない)線形領域においてスイッチング動作させるリニア制御信号を生成してもよい。このようなリニア制御信号生成部は、ドライバ37の機能も備えるリニアアンプ等によってハードウェア実装されてもよいし、ソフトウェア実装されてもよい。前述のように、ローパスフィルタ32、ハイパスフィルタ33、反転部34、加算器35も、ハードウェア実装およびソフトウェア実装のいずれにも対応可能である。このため、電流センサ31を除くインバータ制御装置30の大半の構成要素32~37について、全てハードウェア実装にしてもよいし、全てソフトウェア実装にしてもよいし、ハードウェア実装とソフトウェア実装を組み合わせてもよい。
【0033】
また、制御信号生成部36は、スイッチング素子10P、10Nの制御電極に印加される制御信号としてパルス幅変調信号(PWM信号)を生成してもよい。このようなPWM制御信号生成部は、典型的にはソフトウェア実装される。このため、従来のPWM制御信号生成部に付随する構成要素(例えば、特許文献1における高調波位相調整部)は、ソフトウェア実装されるのが一般的であった。前述のように、本実施形態によれば、ローパスフィルタ32、ハイパスフィルタ33、反転部34、加算器35等のPWM制御信号生成部(制御信号生成部36)に付随する構成要素を、従来の慣習に則ってソフトウェア実装してもよいがハードウェア実装することもできるため、インバータ制御装置30の汎用性や柔軟性が高まる。
【0034】
以上のように、本実施形態に係るインバータ制御装置30は、汎用性や柔軟性が高いだけでなく、ローパスフィルタ32では除去できない外乱等の高周波成分を効果的に除去できるため、インバータ10ひいてはモータ20に対して高精度なフィードバック制御を提供できる。このため、本実施形態に係るインバータ制御装置30は、精緻な位置制御や速度制御が求められる精密位置決め装置、例えば、半導体製造装置において処理対象の半導体ウエハ等が載置されたテーブルまたはステージを精緻に駆動するステージ装置等に好適である。
【0035】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0036】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0037】
10 インバータ、10P 正電位側スイッチング素子、10N 負電位側スイッチング素子、20 モータ、30 インバータ制御装置、31 電流センサ、32 ローパスフィルタ、33 ハイパスフィルタ、34 反転部、35 加算器、36 制御信号生成部、37 ドライバ。