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特開2024-175858デジタル移相回路及びデジタル移相器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175858
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】デジタル移相回路及びデジタル移相器
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/185 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H01P1/185
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093908
(22)【出願日】2023-06-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】上道 雄介
(57)【要約】
【課題】従来よりも小型で所望の移相特性を実現することができるデジタル移相回路及びデジタル移相器を提供する。
【解決手段】デジタル移相回路Bは、信号線路10と、第1平行線路21p1を含む第1線路21と、第2平行線路22p2とループ線路22Lとを含む第2線路22と、第1接地導体31と、第2接地導体32と、第1電子スイッチと41、第2電子スイッチ42と、を備え、第1平行線路21p1と第2平行線路22p2との間に信号線路10が位置し、ループ線路22Lは、信号線路10、第1平行線路21p1、及び第2平行線路22p2が形成された第1層に形成された第1ループ線路部22L1と、ビアを介して第1ループ線路部22L1と電気的に接続され、第1層とは異なる第2層に形成された第2ループ線路部22L2と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号線路と、
前記信号線路と平行に延びる第1平行線路を含む第1線路と、
前記信号線路と平行に延びる第2平行線路と、平面視において前記第2平行線路の一方の端部から前記第2平行線路の他方の端部付近まで延び、前記信号線路の長手方向と交差する交差方向において前記信号線路から遠ざかる方向に凸状となるループ線路と、を含む第2線路と、
前記第1平行線路の一方の端部及び前記第2平行線路の一方の端部に電気的に接続された第1接地導体と、
前記第2線路の一方の端部に接続された第2接地導体と、
前記第1平行線路の他方の端部と前記第2接地導体との間に設けられた第1電子スイッチと、
前記第2平行線路の他方の端部と前記第2接地導体との間に設けられた第2電子スイッチと、を備え、
前記第1平行線路と前記第2平行線路との間に前記信号線路が位置し、
前記ループ線路は、前記信号線路、前記第1平行線路、及び前記第2平行線路が形成された第1層に形成された第1ループ線路部と、ビアを介して前記第1ループ線路部と電気的に接続され、前記第1層とは異なる第2層に形成された第2ループ線路部と、を含む、
デジタル移相回路。
【請求項2】
前記第2ループ線路部は、一部が他の部分の幅よりも小さい幅狭線路部とされている、請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項3】
前記第2ループ線路部は、前記第1ループ線路部よりも厚みが小さい、請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項4】
前記第2ループ線路部が形成された前記第2層は、前記第1ループ線路部が形成された前記第1層よりも内層である、請求項3記載のデジタル移相回路。
【請求項5】
前記第2ループ線路部の両端は、前記ビアが接続されるビアパッドとされており、
前記ビアパッドの各々には、複数のビアが接続される、
請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項6】
前記第2ループ線路部の両端における前記ビアは、配列方向が互いに平行になるように又は互いに直交するように配列されている、請求項5記載のデジタル移相回路。
【請求項7】
前記第2ループ線路部の前記ビアパッド以外の部分は、幅が前記ビアパッドの幅よりも小さい幅狭線路部とされている、請求項6記載のデジタル移相回路。
【請求項8】
平面視の方向において、前記第1ループ線路部と前記第2ループ線路部との間にビアパッドが形成され、
前記第1ループ線路部と前記第2ループ線路部とは、前記ビアパッドを介して電気的に接続されている、
請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項9】
前記信号線路の一方の端部に接続されたコンデンサと、
前記コンデンサと前記第1接地導体との間に設けられた第3電子スイッチと、
を更に備え、
前記第1接地導体の一方の端部は、前記交差方向において前記信号線路から遠ざかるように延びて前記第3電子スイッチに接続されている、
請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項10】
前記第1電子スイッチ、前記第2電子スイッチ、及び前記第3電子スイッチは、電界効果トランジスタであり、
前記第1電子スイッチ及び前記第2電子スイッチをなす電界効果トランジスタのサイズは、前記第3電子スイッチをなす電界効果トランジスタのサイズの2倍以上である、
請求項9記載のデジタル移相回路。
【請求項11】
前記第1平行線路の他方の端部に設けられた第1上側パッドと、
前記第2平行線路の他方の端部に設けられた第2上側パッドと、
を更に備え、
前記第1上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値は、前記第1平行線路の幅よりも大きく、
前記第2上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値は、前記第2平行線路の幅よりも大きい、
請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項12】
ビアを介して前記第1上側パッドに接続されるとともに、前記第1電子スイッチが接続される第1下側パッドと、
ビアを介して前記第2上側パッドに接続されるとともに、前記第2電子スイッチが接続される第2下側パッドと、
を更に備え、
前記第1下側パッドの前記交差方向における寸法の最大値は、前記第1上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値よりも大きく、
前記第2下側パッドの前記交差方向における寸法の最大値は、前記第2上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値よりも大きい、
請求項11記載のデジタル移相回路。
【請求項13】
前記信号線路の一方の端部と前記第1接地導体との間に設けられた第4電子スイッチを更に備える請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項14】
複数のデジタル移相回路が縦続接続されたデジタル移相器であって、
前記デジタル移相回路の各々は、請求項1から請求項13の何れか一項に記載のデジタル移相回路であり、
前記デジタル移相回路が隣り合う部分において、前記第1接地導体と前記第2接地導体とが共通化されている、
デジタル移相器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル移相回路及びデジタル移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の非特許文献1には、マイクロ波、準ミリ波、或いはミリ波を対象とするデジタル制御型の移相回路(デジタル移相回路)が開示されている。このデジタル移相回路は、非特許文献1の図2に示されているように、信号線路(signal line)、一対の内側線路(inner lines)、一対の外側線路(outer lines)、第1接地バー、第2接地バー、及び一対のNMOSスイッチ等を備える。一対の内側線路は、信号線路の両側に設けられる。一対の外側線路は、一対の内側線路の外側に設けられる。第1接地バーは、各内側線路及び各外側線路の一端に接続される。第2接地バーは、各外側線路の他端に接続される。各NMOSスイッチは、各内側線路の他端と第2接地バーとの間に設けられる。
【0003】
このようなデジタル移相回路は、信号線路における信号波の伝送に起因して一対の内側線路或いは一対の外側線路に流れるリターン電流を一対のNMOSスイッチの開/閉に応じて切り替えることにより、動作モードを低遅延モードと高遅延モードとに切り替える。即ち、デジタル移相回路は、一対の内側線路にリターン電流が流れる場合に動作モードが低遅延モードとなり、一対の外側線路にリターン電流が流れる場合に動作モードが高遅延モードとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A Ka-band Digitally-Controlled Phase Shifter with sub-degree Phase Precision (2016,IEEE,RFIC)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したようなデジタル移相回路において、限られた面積で移相量を確保するには、回路定数の1つであるインダクタンスについて、高遅延モード時の値(インダクタンス値)を低遅延モード時のインダクタンス値に対して十分に大きくすることが望ましい。しかしながら、上述した従来のデジタル移相回路において、高遅延モード時のインダクタンス値を大きくするためには、信号線路に対して外側線路を離す(或いは、外側線路の長さを長くする)必要があることから、サイズが大きくなってしまう。デジタル移相器は、複数のデジタル移相回路が縦続接続された構成であるから、デジタル移相回路のサイズが大きくなると、デジタル移相器が大型化してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも小型で所望の移相特性を実現することができるデジタル移相回路及びデジタル移相器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様によるデジタル移相回路(B、B′)は、信号線路(10)と、前記信号線路と平行に延びる第1平行線路(21p1)を含む第1線路(21)と、前記信号線路と平行に延びる第2平行線路(22p2)と、平面視において前記第2平行線路の一方の端部から前記第2平行線路の他方の端部付近まで延び、前記信号線路の長手方向と交差する交差方向(Y)において前記信号線路から遠ざかる方向に凸状となるループ線路(22L)と、を含む第2線路(22)と、前記第1平行線路の一方の端部及び前記第2平行線路の一方の端部に電気的に接続された第1接地導体(31)と、前記第2線路の一方の端部に接続された第2接地導体(32)と、前記第1平行線路の他方の端部と前記第2接地導体との間に設けられた第1電子スイッチ(41)と、前記第2平行線路の他方の端部と前記第2接地導体との間に設けられた第2電子スイッチ(42)と、を備え、前記第1平行線路と前記第2平行線路との間に前記信号線路が位置し、前記ループ線路が、前記信号線路、前記第1平行線路、及び前記第2平行線路が形成された第1層に形成された第1ループ線路部(22L1)と、ビア(23)を介して前記第1ループ線路部と電気的に接続され、前記第1層とは異なる第2層に形成された第2ループ線路部(22L2)と、を含む。
【0008】
本発明の第1の態様によるデジタル移相回路では、第1電子スイッチ及び第2電子スイッチが閉状態に設定される低遅延モードでは、第1線路の一部をなす第1平行線路に第1リターン電流が流れるとともに、第2線路の一部をなす第2平行線路に第2リターン電流が流れる。これに対し、第1電子スイッチ及び第2電子スイッチがオフ状態に設定される高遅延モードでは、第1ループ線路部と第2ループ線路部とが互いに異なる層に形成され、ビアによって接続された三次元の構造であるループ線路に第3リターン電流が流れる。これにより、インダクタンス値を大きくできるので、従来よりも小型で所望の移相特性を実現することができる。
【0009】
本発明の第2の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第1の態様によるデジタル移相回路において、前記第2ループ線路部が、一部が他の部分の幅よりも小さい幅狭線路部(22p3、22c3、22w1、22w2)とされている。
【0010】
本発明の第3の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第1又は第2の態様によるデジタル移相回路において、前記第2ループ線路部が、前記第1ループ線路部よりも厚みが小さい。
【0011】
本発明の第4の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第1から第3の何れかの態様によるデジタル移相回路において、前記第2ループ線路部が形成された前記第2層が、前記第1ループ線路部が形成された前記第1層よりも内層である。
【0012】
本発明の第5の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第1から第4の何れかの態様によるデジタル移相回路において、前記第2ループ線路部の両端が、前記ビアが接続されるビアパッド(VP21、VP22)とされており、前記ビアパッドの各々には、複数のビアが接続される。
【0013】
本発明の第6の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第5の態様によるデジタル移相回路において、前記第2ループ線路部の両端における前記ビアが、配列方向が互いに平行になるように又は互いに直交するように配列されている。
【0014】
本発明の第7の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第6の態様によるデジタル移相回路において、前記第2ループ線路部の前記ビアパッド以外の部分が、幅が前記ビアパッドの幅よりも小さい幅狭線路部(22p3、22c3、22w1、22w2)とされている。
【0015】
本発明の第8の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第1から第7の何れかの態様によるデジタル移相回路において、平面視の方向において、前記第1ループ線路部と前記第2ループ線路部との間にビアパッド(VP31)が形成され、前記第1ループ線路部と前記第2ループ線路部とは、前記ビアパッドを介して電気的に接続されている。
【0016】
本発明の第9の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第1から第8の何れかの態様によるデジタル移相回路において、前記信号線路の一方の端部に接続されたコンデンサ(60)と、前記コンデンサと前記第1接地導体との間に設けられた第3電子スイッチ(43)と、を更に備え、前記第1接地導体の一方の端部が、前記交差方向において前記信号線路から遠ざかるように延びて前記第3電子スイッチに接続されている。
【0017】
本発明の第10の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第9の態様によるデジタル移相回路において、前記第1電子スイッチ、前記第2電子スイッチ、及び前記第3電子スイッチが、電界効果トランジスタであり、前記第1電子スイッチ及び前記第2電子スイッチをなす電界効果トランジスタのサイズが、前記第3電子スイッチをなす電界効果トランジスタのサイズの2倍以上である。
【0018】
本発明の第11の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第1から第10の態様によるデジタル移相回路において、前記第1平行線路の他方の端部に設けられた第1上側パッド(21d2)と、前記第2平行線路の他方の端部に設けられた第2上側パッド(22d)と、を更に備え、前記第1上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値が、前記第1平行線路の幅よりも大きく、前記第2上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値が、前記第2平行線路の幅よりも大きい。
【0019】
本発明の第12の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第11の態様によるデジタル移相回路において、ビア(50)を介して前記第1上側パッドに接続されるとともに、前記第1電子スイッチが接続される第1下側パッド(33a)と、ビア(50)を介して前記第2上側パッドに接続されるとともに、前記第2電子スイッチが接続される第2下側パッド(33b)と、を更に備え、前記第1下側パッドの前記交差方向における寸法の最大値が、前記第1上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値よりも大きく、前記第2下側パッドの前記交差方向における寸法の最大値が、前記第2上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値よりも大きい。
【0020】
本発明の第13の態様によるデジタル移相回路は、本発明の第1から第12の態様によるデジタル移相回路において、前記信号線路の一方の端部と前記第1接地導体との間に設けられた第4電子スイッチ(44)を更に備える。
【0021】
本発明の第1の態様によるデジタル移相器は、複数のデジタル移相回路(B1~Bn)が縦続接続されたデジタル移相器(A1,A2、A21~A23)であって、前記デジタル移相回路の各々が、第1から第13の何れかの態様によるデジタル移相回路であり、前記デジタル移相回路が隣り合う部分において、前記第1接地導体と前記第2接地導体とが共通化されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来よりも小型で所望の移相特性を実現することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態によるデジタル移相回路の基本構成を示す平面図である。
図2図1中のII-II線に沿う断面矢視図である。
図3図1中のIII-III線に沿う断面矢視図である。
図4】本発明の第1実施形態によるデジタル移相回路におけるループ線路の一部を示す斜視図である。
図5】本発明の第1実施形態によるデジタル移相回路における接続パッドと第1,第2電子スイッチとの接続関係を示す平面図である。
図6】本発明の第1実施形態によるデジタル移相器の要部構成を示す平面図である。
図7】本発明の第2実施形態によるデジタル移相回路の基本構成を示す平面図である。
図8】本発明の第2実施形態によるデジタル移相回路におけるループ線路の一部を示す斜視図である。
図9】本発明の第2実施形態によるデジタル移相器の要部構成を示す平面図である。
図10】本発明の第2実施形態によるデジタル移相器の変形例を示す平面図である。
図11】本発明の第2実施形態によるデジタル移相器の変形例を示す平面図である。
図12】本発明の第2実施形態によるデジタル移相器の変形例を示す平面図である。
図13】ループ線路の他の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態によるデジタル移相回路及びデジタル移相器について詳細に説明する。尚、以下で参照する図面では、理解を容易にするために、必要に応じて各部材の寸法を適宜変えて図示している。
【0025】
〔第1実施形態〕
〈デジタル移相回路〉
図1は、本発明の第1実施形態によるデジタル移相回路の基本構成を示す平面図である。図2は、図1中のII-II線に沿う断面矢視図である。図3は、図1中のIII-III線に沿う断面矢視図である。
【0026】
図1に示す通り、デジタル移相回路Bは、信号線路10と、第1線路21と、第2線路22と、上側パッド25と、第1接地導体31と、第2接地導体32と、を備える。本実施形態における第1線路21は、第1平行線路21p1と、一対の上側パッド21d1,21d2と、を含む。本実施形態における第2線路22は、第2平行線路22p2と、ループ線路22Lと、上側パッド22dと、を含む。また、本実施形態におけるデジタル移相回路Bは、4つの電子スイッチ41~44と、複数の接続導体50と、コンデンサ60と、複数の接続パッドP1~P4と、を備える(図2及び図3も参照)。
【0027】
信号線路10は、図1に示す通り、一方向に延在する直線状の帯状導体である。即ち、信号線路10は、一定の幅、一定の厚さ及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。信号線路10には、図1における紙面左側から紙面右側に向かって、つまり紙面左側の端部(入力端)から紙面右側の端部(出力端)に向かって信号電流が流れる。この信号電流は、上述したマイクロ波、準ミリ波、或いはミリ波の波長域を有する高周波信号である。
【0028】
ここで、本実施形態では、信号線路10の長手方向(信号線路10が延在する方向)を、単に長手方向Xという。長手方向Xに沿って、信号線路10の入力端から出力端に向かう向きを、+Xの向き又は右方という。右方とは反対の向きを、左方又は-Xの向きという。信号線路10に交差する(例えば、直交する)方向を、交差方向Yという。交差方向Yに沿う一つの向きを、奥側又は+Yの向きという。奥側とは反対の向きを、手前側又は-Yの向きという。長手方向X及び交差方向Yの双方に交差する(例えば、直交する)方向を、上下方向Zという。上下方向Zに沿う一つの向きを、上方又は+Zの向きという。上方とは反対の向きを、下方又は-Zの向きという。上下方向Zから見ることを、平面視という。
【0029】
信号線路10は、電気的には集中定数回路素子としてのインダクタンスL1を有する。このインダクタンスL1は、信号線路10の長さ等、信号線路10の形状に応じた大きさを有する寄生インダクタンスである。また、信号線路10は、電気的には集中定数回路素子としての静電容量C1をも有する。この静電容量C1は、信号線路10と第1平行線路21p1(詳細は後述)との間、信号線路10と第2平行線路22p2(詳細は後述)との間、信号線路10と第3平行線路22p3(詳細は後述)との間、または信号線路10とシリコン基板(不図示)との間等における寄生容量である。
【0030】
第1平行線路21p1は、信号線路10の他方の側方(-Y側)に設けられた直線状の帯状導体である。第1平行線路21p1は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第1平行線路21p1は、信号線路10と平行(長手方向X)に延びている。第1平行線路21p1と信号線路10とは、交差方向Yに間隔を空けて配されている。
【0031】
上側パッド21d1は、第1平行線路21p1の一端(-X側)に接続された長方形状の平板導体である。上側パッド21d1の長辺は交差方向Yに延びており、上側パッド21d1の短辺は長手方向Xに延びている。上側パッド21d1の一方の短辺(+Y側)は、第1平行線路21p1の一方の側縁(+Y側)と交差方向Yにおいて略同一の位置にある。また、上側パッド21d1の他方の短辺(-Y側)は、第1平行線路21p1の他方の側縁(-Y側)よりも手前側(-Y側)に位置する。つまり、上側パッド21d1の交差方向Yにおける寸法は、第1平行線路21p1の幅(交差方向Yにおける寸法)よりも大きい。
【0032】
上側パッド21d2は、第1平行線路21p1の他端(+X側)に接続された長方形状の平板導体である。上側パッド21d2の長辺は交差方向Yに延びており、上側パッド21d2の短辺は長手方向Xに延びている。上側パッド21d2の一方の短辺(+Y側)は、第1平行線路21p1の一方の側縁(+Y側)と交差方向Yにおいて略同一の位置にある。また、上側パッド21d2の他方の短辺(-Y側)は、第1平行線路21p1の他方の側縁(-Y側)よりも手前側(-Y側)に位置する。つまり、上側パッド21d2の交差方向Yにおける寸法は、第1平行線路21p1の幅(交差方向Yにおける寸法)よりも大きい。
【0033】
第2平行線路22p2は、信号線路10の一方の側方(+Y側)に設けられた直線状の帯状導体である。第2平行線路22p2は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第2平行線路22p2は、信号線路10と平行(長手方向X)に延びている。第2平行線路22p2と信号線路10とは、交差方向Yに間隔を空けて配されている。
【0034】
第2平行線路22p2は、信号線路10に対して第1平行線路21p1とは逆側に設けられている。言い換えれば、第2平行線路22p2は、信号線路10が交差方向Yにおいて第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2の間に位置するように、配置されている。
【0035】
ループ線路22Lは、第2平行線路22p2と同様に、信号線路10に対して第1平行線路21p1とは逆側に設けられている。ループ線路22Lは、平面視において第2平行線路22p2の一端(-X端)から、第2平行線路22p2の他端(+X端)付近まで延び、奥側(+Y側)に凸状となる線路である。
【0036】
図4は、本発明の第1実施形態によるデジタル移相回路におけるループ線路の一部を示す斜視図である。図1図4に示す通り、ループ線路22Lは、第1ループ線路部22L1と、第2ループ線路部22L2と、を含む。第1ループ線路部22L1は、信号線路10、第1平行線路21p1、及び第2平行線路22p2が形成された層(第1層)に形成されている。第2ループ線路部22L2は、第1ループ線路部22L1が形成された層とは異なる層(第2層)に形成されている。本実施形態において、第2ループ線路部22L2は、第1ループ線路部22L1よりも外層(+Z側の層)に形成されている。図4に示す通り、第1ループ線路部22L1と第2ループ線路部22L2とは、複数のビア23を介して電気的に接続されている。
【0037】
つまり、ループ線路22Lは、互いに異なる層に形成された第1ループ線路部22L1と第2ループ線路部22L2とがビア23によって接続された三次元の構造である。詳細は後述するが、ループ線路22Lを三次元の構造とするのは、ループ線路22Lにおけるインダクタンスを大きくするためである。
【0038】
第1ループ線路部22L1は、第1交差線路22c1と、第2交差線路22c2と、を含む。第1交差線路22c1は、第2平行線路22p2の一端(-X側)に接続された帯状導体である。この第1交差線路22c1には、屈曲部CR1が形成されており、第2平行線路22p2に近い側(例えば、Y方向における第1交差線路22c1の中点の位置よりも第2平行線路22p2側)がクランク形状である。第1交差線路22c1は、第2平行線路22p2の一端(-X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10から遠ざかるように延び、屈曲部CR1において右側(+X側)に折り曲がった後に、再び交差方向Yにおいて信号線路10から遠ざかるように延びている。
【0039】
第1交差線路22c1の手前側の端縁(-Y側)は、第2平行線路22p2の一方の側縁(-Y側)と交差方向Yにおいて略同一の位置にある。第1交差線路22c1の奥側の端部(+Y側)は、ビア23が接続されるビアパッドVP11とされている(図4参照)。ビアパッドVP11は、平面視において、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状である。ビアパッドVP11は、複数のビア23を介して第2ループ線路部22L2の一端におけるビアパッドVP21(詳細は後述する)と電気的に接続されている。
【0040】
第2交差線路22c2は、第2ループ線路部22L2の他端と電気的に接続された帯状導体である。この第2交差線路22c2には、屈曲部CR2が形成されており、第2平行線路22p2に近い側(例えば、Y方向における第2交差線路22c2の中点の位置よりも第2平行線路22p2側)がクランク形状である。第2交差線路22c2は、平面視において、第2ループ線路部22L2の他端と重なる部分が右側(+X側)に延び、該重なる部分の他端(+X端)から、交差方向Yにおいて信号線路10に近づくように延び、屈曲部CR2において右側(+X側)に折り曲がった後に、再び交差方向Yにおいて信号線路10に近づくように延びている。
【0041】
第2交差線路22c2の奥側の端部(+Y側)は、ビア23が接続されるビアパッドVP12とされている(図4参照)。ビアパッドVP12は、平面視において、長辺が長手方向Xに延び、短辺が交差方向Yに延びる長方形状である。第2交差線路22c2のビアパッドVP12は、複数のビア23を介して第2ループ線路部22L2の他端におけるビアパッドVP22(詳細は後述する)と電気的に接続されている。
【0042】
第2交差線路22c2の一端縁(-Y側)は、上側パッド22dの一方の短辺(-Y側)及び第2平行線路22p2の一方の側縁(-Y側)と交差方向Yにおいて略同一の位置にある。また、上側パッド22dと第2交差線路22c2とは、長手方向Xにおいて間隔を空けて配されている。また、本実施形態における第2交差線路22c2の一端(-Y側)における左側縁(-X側)は、信号線路10の右端縁(+X側)と長手方向Xにおいて略同一の位置にある。
【0043】
また、本実施形態における第2交差線路22c2の一端(-Y側)は、不図示の導体によって、第2接地導体32(後述)と常時電気的に接続されている。言い換えれば、第2線路22の一端は、不図示の導体によって、第2接地導体32と常時電気的に接続されている。
【0044】
第2ループ線路部22L2は、第3平行線路22p3(幅狭線路部)と第3交差線路22c3(幅狭線路部)とを有し、一端がビアパッドVP21とされ、他端がビアパッドVP22とされた帯状導体である。第3平行線路22p3は、ビアパッドVP21の一端(+Y端)に接続された直線状の帯状導体である。第3平行線路22p3は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する導体である。第3平行線路22p3は、ビアパッドVP21の一端(+Y側)から、信号線路10と平行(長手方向X)に延びている。つまり、本実施形態における第3平行線路22p3は、ビアパッドVP21の一端(+Y側)から右側(+X側)に向けて延びている。第3平行線路22p3の長さは第2平行線路22p2の長さより短い。
【0045】
第3平行線路22p3は、平面視で見た場合に、信号線路10の一方の側縁(+Y側)において、第2平行線路22p2よりも信号線路10から遠い位置に設けられている。言い換えれば、第3平行線路22p3は、第2平行線路22p2が交差方向Yにおいて信号線路10と第3平行線路22p3との間に位置するように、配置されている。
【0046】
図1に示す通り、平面視で見た場合に、交差方向Yにおいて、第2平行線路22p2の中心線と第3平行線路22p3の中心線との間の距離D1は、第2平行線路22p2の中心線と第1接地導体31(後述)の奥側の外縁(第3平行線路22p3側の外縁)との間の距離D2よりも大きい。
【0047】
第3交差線路22c3は、第3平行線路22p3の他端(+X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10に近づくように延び、ビアパッドVP22の一端(-X側)に接続された直線状の帯状導体である。第3交差線路22c3は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する導体である。第3交差線路22c3の長さは第1交差線路22c1の長さより短い。第3交差線路22c3とビアパッドVP22とによって屈曲部CRが形成されている。
【0048】
第3平行線路22p3及び第3交差線路22c3の幅は、ビアパッドVP21,VP22の幅(短辺の長さ)よりも狭い。つまり、第2ループ線路部22L2は、幅が他の部分よりも小さい幅狭線路部である第3平行線路22p3及び第3交差線路22c3を備える。言い換えると、第2ループ線路部22L2のビアパッドVP21,VP22以外の部分(第3平行線路22p3及び第3交差線路22c3)は、幅がビアパッドVP21,VP22の幅よりも小さい幅狭線路部とされている。
【0049】
ビアパッドVP21は、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状である。ビアパッドVP21は、上下方向ZにおいてビアパッドVP11と重なるように配置されている。ビアパッドVP21と、ビアパッドVP11とは、複数のビア23によって電気的に接続されている。ビアパッドVP22は、長辺が長手方向Xに延び、短辺が交差方向Yに延びる長方形状である。ビアパッドVP22は、上下方向ZにおいてビアパッドVP12と重なるように配置されている。ビアパッドVP22と、ビアパッドVP12とは、複数のビア23によって電気的に接続されている。
【0050】
ビアパッドVP11,VP12,VP21,VP22において、ビア23は、ビアパッドVP11,VP12,VP21,VP22の長辺に沿ってそれぞれ配列されている。具体的に、ビア23は、ビアパッドVP11,VP21において、交差方向Yに沿うように配列されており、ビアパッドVP12,VP22において、長手方向Xに沿うように配列されている。つまり、第2ループ線路部22L2の両端におけるビア23は、配列方向が互いに直交するように配列されている。
【0051】
上側パッド22dは、第2平行線路22p2の他端(+X側)に接続された長方形状の平板導体である。上側パッド22dの長辺は交差方向Yに延びており、上側パッド22dの短辺は長手方向Xに延びている。上側パッド22dの他方の短辺(-Y側)は、第2平行線路22p2の他方の側縁(-Y側)と交差方向Yにおいて略同一の位置にある。また、上側パッド22dの一方の短辺(+Y側)は、第2平行線路22p2の一方の側縁(+Y側)よりも奥側(+Y側)に位置する。つまり、上側パッド22dの交差方向Yにおける寸法は、第2平行線路22p2の幅(交差方向Yにおける寸法)よりも大きい。
【0052】
上側パッド25は、第1線路21の一部をなす上側パッド21d1,21d2、及び第2線路22の一部をなす上側パッド22dと同様の長方形状の平板導体である。上側パッド25の長辺は交差方向Yに延びており、上側パッド25の短辺は長手方向Xに延びている。上側パッド25の一方の短辺(+Y側)は、第1平行線路21p1の一方の側縁(+Y側)と交差方向Yにおいて略同一の位置にある。また、上側パッド25の他方の短辺(-Y側)は、第1平行線路21p1の他方の側縁(-Y側)よりも手前側(-Y側)に位置する。つまり、上側パッド25の交差方向Yにおける寸法は、第1線路21の一部をなす上側パッド21d1,21d2と同様に、第1平行線路21p1の幅(交差方向Yにおける寸法)よりも大きい。また、上側パッド25は、第2交差線路22c2の一端(-Y側)と同様に、不図示の導体によって、第2接地導体32と常時電気的に接続されている。
【0053】
第1接地導体31は、信号線路10の入力端側(-X側)に設けられる板状の導体である。第1接地導体31は、電気的に接地されている。第1接地導体31は、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状を有する。また、第1接地導体31は、上側パッド21d1及び第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部と上下方向Zにおいて重なっている。第1接地導体31は、図2に示す通り、信号線路10、第1線路21(上側パッド21d1)、及び第2線路22(第1交差線路22c1)よりも下方(-Z側)に位置する。
【0054】
第2接地導体32は、信号線路10の出力端側(+X側)に設けられる板状の導体である。第2接地導体32は、電気的に接地されている。詳細な図示は省略するが、第2接地導体32は、信号線路10、第1線路21、第2線路22(第2交差線路22c2)、及び上側パッド25よりも下方(-Z側)に位置する。
【0055】
第1接続パッドP1は、図2に示す通り、上述した上側パッド21d1と、第1中間パッド71aと、第2中間パッド71bと、第3中間パッド71cと、第1接地導体31と、を含む。上側パッド21d1、第1中間パッド71a、第2中間パッド71b、第3中間パッド71c、及び第1接地導体31は、平面視において互いに重なっている。また、上側パッド21d1、第1中間パッド71a、第2中間パッド71b、第3中間パッド71c、及び第1接地導体31は、上側(+Z側)から下側(-Z側)に向けてこの順に並んでおり、上下方向Zにおいて間隔を空けて配されている。
【0056】
図2に示す通り、上側パッド21d1と第1中間パッド71aとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第1中間パッド71aと第2中間パッド71bとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第2中間パッド71bと第3中間パッド71cとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第3中間パッド71cと第1接地導体31とは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。これにより、第1接続パッドP1は、第1平行線路21p1の一端(-X側)と第1接地導体31とを、常時電気的に接続している。
【0057】
尚、本明細書において「接続導体50」は、上下方向Zに延在する導体であり、接続導体50の上端に接続される部材と接続導体50の下端に接続される部材とを電気的且つ機械的に接続する部材である。接続導体50は、例えば絶縁層(不図示)を上下方向Zに貫通するビアである。
【0058】
第2接続パッドP2は、図2に示す通り、上述した第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部と、第1中間パッド72aと、第2中間パッド72bと、第3中間パッド72cと、第1接地導体31と、を含む。第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部、第1中間パッド72a、第2中間パッド72b、第3中間パッド72c、及び第1接地導体31は、平面視において互いに重なっている。また、第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部、第1中間パッド72a、第2中間パッド72b、第3中間パッド72c、及び第1接地導体31は、上側(+Z側)から下側(-Z側)に向けてこの順に並んでおり、上下方向Zにおいて間隔を空けて配されている。
【0059】
図2に示す通り、第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部と第1中間パッド72aとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第1中間パッド72aと第2中間パッド72bとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第2中間パッド72bと第3中間パッド72cとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第3中間パッド72cと第1接地導体31とは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。これにより、第2接続パッドP2は、第2平行線路22p2の一端(-X側)と第1接地導体31とを、常時電気的に接続している。
【0060】
第3接続パッドP3は、図3に示す通り、上述した上側パッド21d2と、第1中間パッド73aと、第2中間パッド73bと、第3中間パッド73cと、下側パッド33aと、を含む。上側パッド21d2、第1中間パッド73a、第2中間パッド73b、第3中間パッド73c、及び下側パッド33aは、平面視において互いに重なっている。また、上側パッド21d2、第1中間パッド73a、第2中間パッド73b、第3中間パッド73c、及び下側パッド33aは、上側(+Z側)から下側(-Z側)に向けてこの順に並んでおり、上下方向Zにおいて間隔を空けて配されている。
【0061】
ここで、下側パッド33aは、図1に示す通り、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状の平板導体である。下側パッド33aは、第2接地導体32とは別体に設けられる。下側パッド33aと第2接地導体32とは、第1電子スイッチ41(後述)の状態に応じて、電気的接続の有無が切り替わる。従って、下側パッド33aは、第1電子スイッチ41の状態に応じて、電気的接地の有無が切り替わる。
【0062】
図3に示す通り、上側パッド21d2と第1中間パッド73aとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第1中間パッド73aと第2中間パッド73bとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第2中間パッド73bと第3中間パッド73cとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第3中間パッド73cと下側パッド33aとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。これにより、第3接続パッドP3は、第1平行線路21p1の他端(+X側)と第1電子スイッチ41とを、常時電気的に接続している。
【0063】
第4接続パッドP4は、図3に示す通り、上述した上側パッド22dと、第1中間パッド74aと、第2中間パッド74bと、第3中間パッド74cと、下側パッド33bと、を含む。上側パッド22d、第1中間パッド74a、第2中間パッド74b、第3中間パッド74c、及び下側パッド33bは、平面視において互いに重なっている。また、上側パッド22d、第1中間パッド74a、第2中間パッド74b、第3中間パッド74c、及び下側パッド33bは、上側(+Z側)から下側(-Z側)に向けてこの順に並んでおり、上下方向Zにおいて間隔を空けて配されている。
【0064】
ここで、下側パッド33bは、図1に示す通り、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状の平板導体である。下側パッド33bは、第2接地導体32及び下側パッド33aとは別体に設けられる。下側パッド33bと第2接地導体32とは、第2電子スイッチ42(後述)の状態に応じて、電気的接続の有無が切り替わる。従って、下側パッド33bは、第2電子スイッチ42の状態に応じて、電気的接地の有無が切り替わる。
【0065】
図3に示す通り、上側パッド22dと第1中間パッド74aとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第1中間パッド74aと第2中間パッド74bとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第2中間パッド74bと第3中間パッド74cとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、第3中間パッド74cと下側パッド33bとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。これにより、第4接続パッドP4は、第2平行線路22p2の他端(+X側)と第2電子スイッチ42とを、常時電気的に接続している。
【0066】
ここで、図3に示す通り、接続パッドP3の一部をなす下側パッド33aの交差方向Yにおける寸法D12は、接続パッドP3の一部をなす上側パッド21d2の交差方向Yにおける寸法D11よりも大きい。また、接続パッドP4の一部をなす下側パッド33bの交差方向Yにおける寸法D22は、接続パッドP4の一部をなす上側パッド22dの交差方向Yにおける寸法D21よりも大きい。詳細は後述するが、これは高周波信号の損失を低減するために、下側パッド33a,33bに接続される第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42のサイズを大きくしたことに伴うものである。
【0067】
コンデンサ60は、例えば、図2に示す通り、上部電極が信号線路10に接続され、下部電極が第3電子スイッチ43を介して第1接地導体31に接続される平行平板である。コンデンサ60は、平行平板の対向面積に応じた静電容量Caを有する。即ち、この静電容量Caは、信号線路10と第1接地導体31との間に設けられる回路定数である。但し、コンデンサ60は櫛歯型コンデンサであってもよい。
【0068】
第1電子スイッチ41は、図1に示す通り、第3接続パッドP3の下側パッド33aと第2接地導体32とを開閉自在に接続するトランジスタである。本実施形態における第1電子スイッチ41は、図1に示す通り、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が第3接続パッドP3の下側パッド33aに接続され、ソース端子が第2接地導体32に接続され、またゲート端子がスイッチ制御部80に接続されている。
【0069】
第1電子スイッチ41は、スイッチ制御部80からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて、ドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態或いは閉状態に切り替える。即ち、第1電子スイッチ41は、スイッチ制御部80によって、第1平行線路21p1の他端(+X側)と第2接地導体32との間を導通状態又は遮断状態にする。
【0070】
第2電子スイッチ42は、図1に示す通り、第4接続パッドP4の下側パッド33bと第2接地導体32とを開閉自在に接続するトランジスタである。本実施形態における第2電子スイッチ42は、図1に示す通り、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が第4接続パッドP4の下側パッド33bに接続され、ソース端子が第2接地導体32に接続され、またゲート端子がスイッチ制御部80に接続されている。
【0071】
第2電子スイッチ42は、スイッチ制御部80からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて、ドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態或いは閉状態に切り替える。即ち、第2電子スイッチ42は、スイッチ制御部80によって、第2平行線路22p2の他端(+X側)と第2接地導体32との間を導通状態又は遮断状態にする。
【0072】
図5は、本発明の第1実施形態によるデジタル移相回路における接続パッドと第1,第2電子スイッチとの接続関係を示す平面図である。図5に示す通り、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42は、例えば、平面視形状が矩形形状のMOS型FETであり、ドレイン端子DT及びソース端子STを備える。尚、図5においては、ゲート端子の図示は省略している。
【0073】
上述した通り、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42は、高周波信号の損失を低減するためにサイズ(具体的には、ゲート幅W)を大きくしている。第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42のサイズが大きくなると、図5に示す通り、ドレイン端子DT及びソース端子STのY方向における長さも長くなる。
【0074】
下側パッド33aの交差方向Yにおける寸法D12(図3参照)が、上側パッド21d2の交差方向Yにおける寸法D11と同程度であると、第1電子スイッチ41は、ドレイン端子DTの一部のみが下側パッド33aに接続されることとなる。同様に、下側パッド33bの交差方向Yにおける寸法D22(図3参照)が、上側パッド22dの交差方向Yにおける寸法D21と同程度であると、第2電子スイッチ42は、ドレイン端子DTの一部のみが下側パッド33bに接続されることとなる。
【0075】
本実施形態では、下側パッド33aの交差方向Yにおける寸法D12を、第1電子スイッチ41のドレイン端子DTのY方向における長さに合わせて長くしている。つまり、下側パッド33aの交差方向Yにおける寸法D12を、上側パッド21d2の交差方向Yにおける寸法D11よりも大きくしている。これにより、第1電子スイッチ41のドレイン端子DTの全体が下側パッド33aに接続されるようにしている。
【0076】
同様に、下側パッド33bの交差方向Yにおける寸法D22を、第2電子スイッチ42のドレイン端子DTのY方向における長さに合わせて長くしている。つまり、下側パッド33bの交差方向Yにおける寸法D22を、上側パッド22dの交差方向Yにおける寸法D21よりも大きくしている。これにより、第2電子スイッチ42のドレイン端子DTの全体が下側パッド33bに接続されるようにしている。
【0077】
尚、第2接地導体32の他方の短辺(-Y側)は、下側パッド33aの他方の短辺(-Y側)と交差方向Yにおいて略同一の位置にある。つまり、第2接地導体32は、Y方向において、下側パッド33bの一方の短辺(+Y側)から下側パッド33aの他方の短辺(-Y側)まで延在している。このため、図5に示す通り、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42のソース端子STも、全体が第2接地導体32に接続されている。
【0078】
第3電子スイッチ43は、図2に示す通り、コンデンサ60の下部電極と第1接地導体31とを開閉自在に接続するトランジスタである。第3電子スイッチ43は、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子がコンデンサ60の下部電極に接続され、ソース端子が第1接地導体31に接続され、またゲート端子がスイッチ制御部80に接続されている。
【0079】
ここで、第3電子スイッチ43は、図2に示す通り、信号線路10から奥側(+Y側)に離れた位置に配置されている。また、第1接地導体31の一端(+Y側)は、交差方向Yにおいて、信号線路10から遠ざかるように延びて第3電子スイッチ43に接続されている。このような配置にするのは、特定の半導体製造工程において、コンデンサ60の下部電極の接続には設計ルール上の制約があるためである。
【0080】
具体的には、コンデンサ60の下部電極は、一旦、接続配線及びビアを介して上の配線層(例えば、信号線路10が形成されている層)に接続し、その配線層からビアを介して下の配線層に接続しなければならないないという制約である。尚、図2においては、コンデンサ60の下部電極と第3電子スイッチ43との接続経路を簡略化して図示している。この制約のために、第3電子スイッチ43を、コンデンサ60が形成されている位置(例えば、図1に示す信号線路10の入力端側(-X側))の近傍に配置することはできず、信号線路10から奥側(+Y側)に離れた位置に配置しなければならない。第1接地導体31は、このような位置に配置された第3電子スイッチ43のソース端子に接続されるために、交差方向Yにおいて、信号線路10から遠ざかるように延びている。
【0081】
第3電子スイッチ43は、スイッチ制御部80からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて、ドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態或いは閉状態に切り替える。即ち、第3電子スイッチ43は、スイッチ制御部80によって、コンデンサ60の下部電極と第1接地導体31との間を導通状態又は遮断状態にする。
【0082】
ここで、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42のサイズ(ゲート幅)は、例えば、第3電子スイッチ43のサイズ(ゲート幅)の2倍以上に設定される。尚、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42のサイズ(ゲート幅)は、第3電子スイッチ43のサイズ(ゲート幅)の5倍以上であることが好ましい。
【0083】
詳細は後述するが、本実施形態では、高遅延モードにおける高周波信号の損失を格段に低減することができる。高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失との差は極力小さいことが望ましいため、高遅延モードにおける高周波信号の損失が低減されれば、低遅延モードにおける高周波信号の損失も低減させる必要がある。このため、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42のサイズを、第3電子スイッチ43のサイズよりも大きくしている。
【0084】
尚、高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失との差を小さくするためには、1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42のサイズを、少なくとも第3電子スイッチ43のサイズの2倍以上に設定する必要がある。また、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42のサイズを、第3電子スイッチ43のサイズの5倍以上にすれば、高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失とを同程度にすることができる。
【0085】
第4電子スイッチ44は、図2に示す通り、信号線路10の入力端側(-X側)と第1接地導体31とを開閉自在に接続するトランジスタである。この第4電子スイッチ44は、上述した第1電子スイッチ41、第2電子スイッチ42、及び第3電子スイッチ43と同様に、MOS型FETであり、ドレイン端子が信号線路10の入力端側(-X側)に接続され、ソース端子が第1接地導体31に接続され、またゲート端子がスイッチ制御部80に接続されている。尚、第4電子スイッチ44は、信号線路10の入力端側(-X側)と第1接地導体31との間ではなく、信号線路10の出力端側(+X側)と第2接地導体32との間に設けてもよい。
【0086】
第4電子スイッチ44は、スイッチ制御部80からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて、ドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態或いは閉状態に切り替える。即ち、第4電子スイッチ44は、スイッチ制御部80によって、信号線路10の入力端側(-X側)と第1接地導体31との間を導通状態又は遮断状態にする。
【0087】
スイッチ制御部80は、上述した第1電子スイッチ41、第2電子スイッチ42、第3電子スイッチ43、及び第4電子スイッチ44を制御する制御回路である。スイッチ制御部80は、4つの出力ポートを備えており、各出力ポートから第1電子スイッチ41、第2電子スイッチ42、第3電子スイッチ43、及び第4電子スイッチ44の各ゲート端子にゲート信号を個別に出力する。即ち、スイッチ制御部80は、上記ゲート信号によって、第1電子スイッチ41、第2電子スイッチ42、第3電子スイッチ43、及び第4電子スイッチ44を開状態又は閉状態にする。
【0088】
次に、以上のように構成されたデジタル移相回路Bの作用について説明する。
【0089】
本実施形態におけるデジタル移相回路Bは、第1~第3電子スイッチ41~43の導通状態に応じて動作モードが切り替えられる。即ち、デジタル移相回路Bの動作モードには、スイッチ制御部80によって第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42が閉状態に設定され、第3電子スイッチ43が開状態に設定される低遅延モードと、スイッチ制御部80によって第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42が開状態に設定され、第3電子スイッチ43が閉状態に設定される高遅延モードと、がある。
【0090】
低遅延モードにおいて、スイッチ制御部80は、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42を閉状態に設定し、第3電子スイッチ43を開状態に設定する。即ち、低遅延モードでは、高周波信号が信号線路10の入力端(左端)から出力端(右端)まで伝播するまでの第1伝搬遅延時間TLによって、出力端(右端)における位相が、高遅延モードにおける第2の位相θHよりも小さな第1の位相θLとなる。以下、低遅延モードについて更に詳しく説明する。
【0091】
第1電子スイッチ41が閉状態に設定されることにより、第1平行線路21p1の他端(+X側)は、第3接続パッドP3を介して、第2接地導体32と接続される(図1参照)。一方、第1平行線路21p1の一端(-X側)は、第1接続パッドP1を介して、第1接地導体31と常時接続されている(図1及び図2参照)。従って、第1平行線路21p1は、他端(+X側)が第1電子スイッチ41を介して第2接地導体32に接続されることによって、一端(-X側)と他端(+X側)との間に電流が流れ得る第1通電経路を形成する。
【0092】
また、第2電子スイッチ42が閉状態に設定されることにより、第2平行線路22p2の他端(+X側)は、第4接続パッドP4を介して、第2接地導体32と接続される(図1参照)。一方、第2平行線路22p2の一端(-X側)は、第2接続パッドP2を介して、第1接地導体31と常時接続されている(図1及び図2参照)。従って、第2平行線路22p2は、他端(+X側)が第2電子スイッチ42を介して第2接地導体32に接続されることによって、一端(-X側)と他端(+X側)との間に電流が流れ得る第2通電経路を形成する。
【0093】
そして、第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2の両端接続状態において、信号線路10に入力端から出力端に向けた信号電流が流れると、当該信号電流の伝播に起因して、第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2にリターン電流が生じる。当該リターン電流は、第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2を、他端(+X側)から一端(-X側)に向かって流れる。
【0094】
即ち、第1通電経路を形成する第1平行線路21p1には、信号線路10における信号電流の通電によって、信号電流の通電の向きとは逆向きの第1リターン電流が流れる。また、第2通電経路を形成する第2平行線路22p2には、信号線路10における信号電流の通電によって、信号電流の通電の向きとは逆向き、つまり第1リターン電流と同じ向きの第2リターン電流が流れる。
【0095】
ここで、第1平行線路21p1に流れる第1リターン電流及び第2平行線路22p2に流れる第2リターン電流は、何れも、信号電流の通電の向きとは逆向きである。従って、第1リターン電流及び第2リターン電流は、信号線路10と第1平行線路21p1との電磁気的な結合(相互誘導)及び信号線路10と第2平行線路22p2との電磁気的な結合(相互誘導)に起因して、デジタル移相回路Bの全体のインダクタンスを減少させるように作用する。信号線路10のインダクタンスをLslow、リターン経路(第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2)のインダクタンスをLglow、信号線路10とリターン経路との相互インダクタンスをMlowとする。低遅延モードにおけるデジタル移相回路Bの全体のインダクタンスLlowは、Lslow+Lglow-Mlowとなる。
【0096】
また、信号線路10は、上述した通り寄生容量としての静電容量C1を有している。低遅延モードでは、第3電子スイッチ43が開状態に設定されるので、コンデンサ60は、信号線路10と第1接地導体31との間に接続されていない。即ち、コンデンサ60の静電容量Caは、信号線路10を伝播する高周波信号に影響を与えない。従って、信号線路10を伝播する高周波信号には、(Llow×C1)1/2に比例した第1伝搬遅延時間TLが作用する。
【0097】
そして、信号線路10の出力端における高周波信号は、このような第1伝搬遅延時間TLに起因して、信号線路10の入力端における高周波信号より位相が第1の位相θLだけ遅れたものとなる。即ち、低遅延モードでは、第1リターン電流及び第2リターン電流に起因してデジタル移相回路Bの全体のインダクタンスがインダクタンスLlowになることによって、伝搬遅延時間が減少する。
【0098】
一方、高遅延モードにおいて、スイッチ制御部80は、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42を開状態に設定し、第3電子スイッチ43を閉状態に設定する。尚、第4電子スイッチ44は、開状態に設定される。即ち、高遅延モードでは、高周波信号が信号線路10の入力端(左端)から出力端(右端)まで伝播するまでの第2伝搬遅延時間THによって、出力端(右端)における位相が、低遅延モードにおける第1の位相θLよりも大きな第2の位相θHとなる。以下、高遅延モードについて更に詳しく説明する。
【0099】
上述した通り、高遅延モードでは、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42が開状態に設定される。よって、第1平行線路21p1には上述した第1導電経路が形成されず、また、第2平行線路22p2には上述した第2導電経路が形成されない。従って、第1平行線路21p1に流れる第1リターン電流は極めて小さくなり、また、第2平行線路22p2に流れる第2リターン電流は極めて小さくなる。
【0100】
これに対して、第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部は、第2接続パッドP2を介して、第1接地導体31と常時接続されている(図2参照)。また、第2交差線路22c2の一端(-Y側)は、上述した通り、第2接地導体32と常時接続されている。従って、ループ線路22Lには、第2交差線路22c2の一端(-Y側)と第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部との間に電流が流れ得る第3通電経路が予め形成されている。このため、高遅延モードでは、信号線路10における信号電流に起因して、第1ループ線路部22L1における第2交差線路22c2の一端(-Y側)から、ビア23、第2ループ線路部22L2、ビア23を経由して第1ループ線路部22L1における第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部に向かう第3リターン電流が流れる。
【0101】
ここで、第3リターン電流が流れるループ線路22Lは、信号線路10とは反対側(+Y側)に凸となる線路である。従って、リターン経路(第3リターン電流が流れる経路)がループ線路を構成していない従来の構成と比較してリターン経路のインダクタンスを増大させることができる。これにより、デジタル移相回路Bの全体のインダクタンスを増加させることができる。信号線路10のインダクタンスをLshigh、リターン経路(ループ線路22L)のインダクタンスをLghigh、信号線路10とリターン経路との相互インダクタンスをMhighとする。尚、Lshigh=Lslowである。高遅延モードにおけるデジタル移相回路Bの全体のインダクタンスLhighは、Lshigh+Lghigh-Mhighとなる。ここで、明らかに、Lglow<Lghigh及びMlow>Mhighが成り立つから、Lhigh>Llowが成り立つ。
【0102】
尚、第3リターン電流がリターン経路のインダクタンスを増加させるように作用する原理は次のように説明できる。つまり、ループ線路22Lの各部を流れる第3リターン電流がループ線路22L内に発生させる磁界は、同一の向き(+Zの向き)である。このため、これらの磁界は互いに強め合う。従って、第3リターン電流が流れる線路がループ線路を構成していない従来の構成と比較して、第3リターン電流が生じさせる磁界を大きくし、リターン経路のインダクタンスを増大させることができる。
【0103】
また、本実施形態において、ループ線路22Lは、互いに異なる層に形成された第1ループ線路部22L1と第2ループ線路部22L2とがビア23によって接続された三次元構造である(図4参照)。ビア23自体がインダクタンスを有するため、ループ線路22Lを上記の三次元構造とすることで、リターン経路のインダクタンスを更に増大させることができる。また、第2ループ線路部22L2のビアパッドVP21,VP22以外の部分(第3平行線路22p3及び第3交差線路22c3)は、幅がビアパッドVP21,VP22の幅よりも小さい幅狭線路部とされている。これによっても、リターン経路のインダクタンスを増大させることができる。また、ループの高さ(即ち、第3平行線路22p3の交差方向Yにおける位置、並びに、第1交差線路22c1及び第2交差線路22c2)を調整することによっても、リターン経路のインダクタンスの値を大きく変化させることができる。
【0104】
一方、信号線路10は寄生容量としての静電容量C1を有している。また、高遅延モードでは、第3電子スイッチ43が閉状態に設定されるので、信号線路10と第1接地導体31との間には、コンデンサ60が接続されている。即ち、信号線路10は、コンデンサ60の静電容量Caと静電容量C1(寄生容量)とを合算した静電容量Cbを有する。従って、信号線路10を伝播する高周波信号には、伝送系のインダクタンスの増加と、合算した静電容量Cbと、に係る第2伝搬遅延時間THが作用する。
【0105】
そして、信号線路10の出力端における高周波信号は、このような第2伝搬遅延時間THに起因して、信号線路10の入力端における高周波信号より位相が第2の位相θHだけ遅れたものとなる。即ち、高遅延モードでは、第3リターン電流に起因して伝送系のインダクタンスが増大されることによって、伝搬遅延時間が増大する。
【0106】
ここで、高遅延モードでは、電子スイッチ44を閉状態に設定することにより、信号線路10の損失を意図的に増加させてもよい。この損失付与は、高遅延モードにおける高周波信号の損失を、低遅延モードにおける高周波信号の損失と同程度にしようとするためのものである。
【0107】
〈デジタル移相器〉
図6は、本発明の第1実施形態によるデジタル移相器の要部構成を示す平面図である。図6に示す通り、本実施形態のデジタル移相器A1は、複数のデジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnを長手方向Xに縦続接続したものである。尚、デジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnの基本構成は、図1図5を用いて説明したデジタル移相回路Bと同様である。
【0108】
デジタル移相器A1は、デジタル移相回路B1から入力された高周波信号をデジタル移相回路Bnから出力し、又は、デジタル移相回路Bnから入力された高周波信号をデジタル移相回路B1から出力する。尚、以下では、デジタル移相回路B1から入力された高周波信号をデジタル移相回路Bnから出力する場合を例に挙げて説明する。尚、見やすさのため、図6においては、第1電子スイッチ41、第2電子スイッチ42、及びスイッチ制御部80の図示は省略している。
【0109】
図6に示す通り、デジタル移相器A1は、第1線路21が信号線路10の他方側(-Y側)にのみ位置し、第2線路22が信号線路10の一方側(+Y側)にのみ位置するように長手方向Xに縦続接続されている。つまり、デジタル移相器A1は、信号線路10の一方側(+Y側)にのみループ線路が配置された構成である。このような構成にするのは、デジタル移相器A1の小型化を図るためである。
【0110】
本実施形態によるデジタル移相器A1において、デジタル移相回路B1~Bn-1は、右側(+X側)に隣接するデジタル移相回路B2~Bnに対し、一部が入り込むように接続されている。尚、実施形態によるデジタル移相器A1において、デジタル移相回路B2~Bnは、左側(-X側)に隣接するデジタル移相回路B1~Bn-1に対し、一部が入り込むように接続されているということもできる。
【0111】
より具体的には、デジタル移相回路が隣り合う部分において、第1接地導体31と第2接地導体32とが共通化されており、第1交差線路22c1の一部と第2交差線路22c2の一部とが共通化されており、上側パッド21d1と上側パッド25とが共通化されている。図6に示す例では、例えば、デジタル移相回路B1の第2接地導体32と、デジタル移相回路B2の第1接地導体31とが共通化されており、デジタル移相回路B1の第2交差線路22c2の一部と、デジタル移相回路B2の第1交差線路22c1の一部とが共通化されており、デジタル移相回路B1の上側パッド25と、デジタル移相回路B2の上側パッド21d1とが共通化されている。
【0112】
このため、デジタル移相回路B2の第1接地導体31は、デジタル移相回路B1の第2接地導体32としても機能する。また、デジタル移相回路B2の第1交差線路22c1の一部は、デジタル移相回路B1の第2交差線路22c2の一部としても機能する。また、デジタル移相回路B2の上側パッド21d1は、デジタル移相回路B1の上側パッド25としても機能する。
【0113】
ここで、第1交差線路22c1には屈曲部CR1が形成されており、第2平行線路22p2に近い側がクランク形状である。また、第2交差線路22c2には屈曲部CR2が形成されており、第2平行線路22p2に近い側がクランク形状である。このため、デジタル移相回路Bが隣り合う部分において、共通化された第1交差線路22c1及び第2交差線路22c2は、平面視において、第2平行線路22p2の一端(-X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10から遠ざかるように延び、屈曲部CR1において右側(+X側)に折り曲がり、屈曲部CR2において左側(-X側)に折り曲がるT字形状となっている。
【0114】
このような接続を行うことで、隣り合うデジタル移相回路Bが互いに干渉し合うことで生ずる磁界の低下を軽減することができる。その結果、隣り合うデジタル移相回路Bの間における相互インダクタンスを小さくすることができる。
【0115】
このように、本実施形態のデジタル移相器A1では、前述した通り、デジタル移相回路B1~Bnの各々において、第3リターン電流が流れる線路が、信号線路10とは反対側(+Y側)に凸となるループ線路22Lを構成している。また、ループ線路22Lは、ビア23を介した三次元構造とされ、更には、ループ線路22Lを構成する第2ループ線路部22L2は、幅が他の部分よりも小さい幅狭線路部である第3平行線路22p3及び第3交差線路22c3を備える。このため、従来に比べて磁界の発生効率を格段に高めることができる。また、本実施形態のデジタル移相器A1では、上述の通り、隣り合うデジタル移相回路B間における相互インダクタンスを小さくすることができる。これにより、本実施形態のデジタル移相器A1は、信号線路10の一方側(+Y側)にのみループ線路が配置された構成であっても、必要な移相量を確保することができる。
【0116】
また、本実施形態のデジタル移相器A1では、例えば、デジタル移相回路B1を除き、隣接するデジタル移相回路が高遅延モードに設定された場合に、第3リターン電流が第2接続パッドP2を介さない経路を流れる。例えば、デジタル移相回路B1~B3が高遅延モードに設定されたとすると、第3リターン電流は、デジタル移相回路B2,B3の第2接続パッドP2及び第1接地導体31(第2接地導体32)等のロスの大きい障害物を介することなく、図中の経路PTを流れる。このため、本実施形態のデジタル移相器A1は、高遅延モードにおいて、高周波信号の損失を格段に低減することができる。
【0117】
このように、本実施形態のデジタル移相器A1は、高遅延モードにおいて、高周波信号の損失を格段に低減することができる。その結果、低遅延モードにおける第1リターン電流及び第2リターン電流の電流経路に配置されている第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42の大きさを大きくすることができる。なぜならば、高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失との差は極力小さいことが望ましいため、高遅延モードにおける高周波信号の損失が低減されれば、低遅延モードにおける高周波信号の損失も低減させる必要があるからである。このように、本実施形態のデジタル移相器A1は、全体として高周波信号の損失を低減することができる。
【0118】
以上の通り、本実施形態のデジタル移相器A1は、縦続接続された複数のデジタル移相回路B1~Bnを有する移相器である。複数のデジタル移相回路B1~Bnはそれぞれ、信号線路10、第1線路21、第2線路22、第1接地導体31、第2接地導体32、第1電子スイッチ41、及び第2電子スイッチ42を備える。第1線路21は、信号線路10と平行に延びる第1平行線路21p1を含む。第2線路22は、信号線路10と平行に延びる第2平行線路22p2と、平面視において第2平行線路22p2の一方の端部から第2平行線路22p2の他方の端部付近まで延び、信号線路10の長手方向と交差する交差方向において信号線路10から遠ざかる方向に凸状となるループ線路22Lと、を含む。
【0119】
また、複数のデジタル移相回路B1~Bnはそれぞれ、第1接地導体31と第2接地導体32と第1電子スイッチ41と第2電子スイッチ42とを備える。第1接地導体31は、第1平行線路21p1の一方の端部及び第2平行線路22p2の一方の端部に電気的に接続されており、第2接地導体32は、第2線路22の一方の端部に接続されている。第1電子スイッチ41は、第1平行線路21p1の他方の端部と第2接地導体32との間に設けられており、第2電子スイッチ42は、第2平行線路22p2の他方の端部と第2接地導体32との間に設けられている。
【0120】
また、複数のデジタル移相回路B1~Bnのそれぞれにおいては、第1平行線路21p1と第2平行線路22p2との間に信号線路10が位置する。ループ線路22Lは、信号線路10、第1平行線路21p1、及び第2平行線路22p2が形成された第1層に形成された第1ループ線路部22L1と、ビア23を介して第1層とは異なる第2層に形成された第2ループ線路部22L2と、を含む。
【0121】
本実施形態のデジタル移相器A1においては、デジタル移相回路が隣り合う部分において、第1接地導体31と第2接地導体32とが共通化されている。また、デジタル移相回路が隣り合う部分において、第2交差線路22c2は、隣り合うデジタル移相回路における第1交差線路22c1に接続されている。以上の構成により、従来よりも小型で所望の移相特性を実現することができる。
【0122】
〔第2実施形態〕
〈デジタル移相回路〉
図7は、本発明の第2実施形態によるデジタル移相回路の基本構成を示す平面図である。尚、図7においては、図1に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。図7に示す通り、本実施形態によるデジタル移相回路B′は、図1に示すデジタル移相回路Bと概ね同様の構成であるが、ループ線路22Lの構成が異なる。具体的に、ループ線路22Lは、奥側(+Y側)に凸状であって、X方向に関して線対称の形状とされている。尚、ループ線路22Lは、X方向に関して厳密に線対称の形状である必要は必ずしもなく、形状が多少異なっていてもよい。つまり、ループ線路22Lは、X方向に関してほぼ線対称の形状(或いは、概ね線対称の形状)であってもよい。
【0123】
図8は、本発明の第2実施形態によるデジタル移相回路におけるループ線路の一部を示す斜視図である。図7図8に示す通り、ループ線路22Lは、X方向に関して線対称の形状とされた第1ループ線路部22L1と、X方向に関して線対称の形状とされた第2ループ線路部22L2と、を含む。
【0124】
第1ループ線路部22L1の第1交差線路22c1は、第1実施形態における第1交差線路22c1と同様に、屈曲部CR1が形成された帯状導体である。但し、本実施形態における第1交差線路22c1は、屈曲部CR1が、第1接地導体31の奥側の外縁(第3平行線路22p3側の外縁)よりも奥側(+Y側)に設けられている。また、本実施形態における第1交差線路22c1は、一定の幅である。
【0125】
第1交差線路22c1の奥側の端部(+Y側)は、ビア23が接続されるビアパッドVP11とされている(図8参照)。ビアパッドVP11は、平面視において、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状である。ビアパッドVP11は、複数のビア23を介して第2ループ線路部22L2の一端におけるビアパッドVP21(詳細は後述する)と電気的に接続されている。
【0126】
第1ループ線路部22L1の第2交差線路22c2は、X方向に関して第1交差線路22c1と線対称の形状の帯状導体である。このため、第2交差線路22c2は、屈曲部CR2が、第1接地導体31の奥側の外縁(第3平行線路22p3側の外縁)よりも奥側(+Y側)に設けられている。また、第2交差線路22c2は、一定の幅である。
【0127】
第2交差線路22c2の奥側の端部(+Y側)は、ビア23が接続されるビアパッドVP12とされている(図8参照)。ビアパッドVP12は、平面視において、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状である。ビアパッドVP12は、複数のビア23を介して第2ループ線路部22L2の他端におけるビアパッドVP22(詳細は後述する)と電気的に接続されている。
【0128】
第2ループ線路部22L2は、第3平行線路22p3、第4交差線路22c4、及び第5交差線路22c5を有し、一端がビアパッドVP21とされ、他端がビアパッドVP22とされた帯状導体である。第3平行線路22p3は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する導体である。本実施形態における第3平行線路22p3は、平面視において、第1交差線路22c1の奥側における端部の左側の側縁(-X側)から第2交差線路22c2の奥側における端部の右側の側縁(+X側)まで延びている。
【0129】
第4交差線路22c4は、第3平行線路22p3の一端(-X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10に近づくように延び、手前側(-Y側)の端部がビアパッドVP21(図8参照)とされた直線状の帯状導体である。第5交差線路22c5は、第3平行線路22p3の他端(+X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10に近づくように延び、手前側(-Y側)の端部がビアパッドVP22(図8参照)とされた直線状の帯状導体である。尚、第3平行線路22p3は、第4交差線路22c4及び第5交差線路22c5よりも幅が狭く、第4交差線路22c4及び第5交差線路22c5は、長さが同じである。第3平行線路22p3の幅が、第4交差線路22c4及び第5交差線路22c5の幅よりも狭いのは、第1実施形態と同様に、リターン経路のインダクタンスを増大させるためである。
【0130】
ビアパッドVP21は、平面視において、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状である。ビアパッドVP21は、上下方向ZにおいてビアパッドVP11と重なるように配置されている。ビアパッドVP21と、ビアパッドVP11とは、複数のビア23によって電気的接続されている。ビアパッドVP22は、平面視において、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状である。ビアパッドVP22は、上下方向ZにおいてビアパッドVP12と重なるように配置されている。ビアパッドVP22と、ビアパッドVP12とは、複数のビア23によって電気的接続されている。
【0131】
ビアパッドVP11,VP12,VP21,VP22において、ビア23は、ビアパッドVP11,VP12,VP21,VP22の長辺に沿ってそれぞれ配列されている。具体的に、ビア23は、ビアパッドVP11,VP21及びビアパッドVP12,VP22において、交差方向Yに沿うように配列されている。つまり、第2ループ線路部22L2の両端におけるビア23は、配列方向が互いに平行になるように配列されている。
【0132】
本実施形態では、図7図8に示す通り、ビアパッドVP11とビアパッドVP12とを、いわばU字形状の第2ループ線路部22L2で接続するようにしている。また、3平行線路22p3の幅が、第4交差線路22c4及び第5交差線路22c5の幅よりも狭い。これにより、リターン経路のインダクタンスを増大させることができ、従来よりも小型で所望の移相特性を実現することができる。
【0133】
デジタル移相回路B′のループ線路22L以外の構成は、第1実施形態のデジタル移相回路Bと同様である。また、デジタル移相回路B′の作用は、基本的には、デジタル移相回路Bと同様である。このため、デジタル移相回路B′のループ線路22L以外の構成、及びデジタル移相回路B′の作用の説明は省略する。
【0134】
〈デジタル移相器〉
図9は、本発明の第2実施形態によるデジタル移相器の要部構成を示す平面図である。図9に示す通り、本実施形態のデジタル移相器A2は、複数のデジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnを長手方向Xに縦続接続したものである。尚、デジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnの基本構成は、図7図8を用いて説明したデジタル移相回路B′と同様である。尚、図9においては、図6と同様に、第1電子スイッチ41、第2電子スイッチ42、及びスイッチ制御部80の図示は省略している。
【0135】
図9に示すデジタル移相器A2は、図6に示すデジタル移相器A1と同様に、デジタル移相回路B1~Bnの各々において、第3リターン電流が流れる線路が、信号線路10とは反対側(+Y側)に凸となるループ線路22Lを構成している。また、ループ線路22Lは、ビア23を介した三次元構造とされている。このため、従来に比べて磁界の発生効率を格段に高めることができる。これにより、本実施形態のデジタル移相器A2は、図6に示すデジタル移相器A1と同様に、信号線路10の一方側(+Y側)にのみループ線路が配置された構成であっても、必要な移相量を確保することができる。
【0136】
また、図9に示すデジタル移相器A2は、図6に示すデジタル移相器A1とは、デジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnの各々に設けられたループ線路22Lが異なるのみで、ループ線路22L以外の構成は、図6に示すデジタル移相器A1と同様である。このため、本実施形態のデジタル移相器A2においても、例えば、デジタル移相回路B1を除き、隣接するデジタル移相回路が高遅延モードに設定された場合に、第3リターン電流が第2接続パッドP2を介さない経路を流れる。例えば、デジタル移相回路B1~B3が高遅延モードに設定された場合には、図中の経路PTを流れる。このため、本実施形態のデジタル移相器A2は、図6に示すデジタル移相器A1と同様に、高遅延モードにおいて、高周波信号の損失を格段に低減することができる。
【0137】
その結果、本実施形態のデジタル移相器A2においても、低遅延モードにおける第1リターン電流及び第2リターン電流の電流経路に配置されている第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42の大きさを大きくすることができる。なぜならば、高遅延モードにおける高周波信号の損失と低遅延モードにおける高周波信号の損失との差は極力小さいことが望ましいため、高遅延モードにおける高周波信号の損失が低減されれば、低遅延モードにおける高周波信号の損失も低減させる必要があるからである。このように、本実施形態のデジタル移相器A2も、全体として高周波信号の損失を低減することができる。
【0138】
以上の通り、本実施形態のデジタル移相器A2は、図6に示すデジタル移相器A1とは、デジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnの各々に設けられたループ線路22Lが異なるのみで、ループ線路22L以外の構成は、図6に示すデジタル移相器A1と同様である。このため、本実施形態のデジタル移相器A2においても、従来よりも小型で所望の移相特性を実現することができる。
【0139】
〈変形例〉
図10図12は、本発明の第2実施形態によるデジタル移相器の変形例を示す平面図である。図10図12に示すデジタル移相器A21~A23は何れも、デジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnの各々におけるループ線路22Lの構成を変えたものである。
【0140】
図10に示すデジタル移相器A21は、デジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnの各々におけるループ線路22Lの第2ループ線路部22L2が、ビアパッドVP21、ビアパッドVP22、及び直線配線22w1(幅狭線路部)を有する。本変形例に係るデジタル移相器A21は、図6に示すデジタル移相器A1よりも移相量を小さくしたものである。
【0141】
直線配線22w1は、長手方向Xに延び、ビアパッドVP21とビアパッドVP22とを接続する直線状の配線である。直線配線22w1は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する導体である。但し、直線配線22w1の幅は、ビアパッドVP21,VP22の幅、又は、第1ループ線路部22L1の第1交差線路22c1及び第2交差線路22c2よりも小さい。
【0142】
図10に示す例において、直線配線22w1は、ビアパッドVP21,VP22の交差方向Yにおける中央部において、ビアパッドVP21の右端縁(+X側)と、ビアパッドVP22の左端縁(-X側)とを接続している。尚、ビアパッドVP21,VP22の奥側の端部(+Y側)において、直線配線22w1が、ビアパッドVP21の右端縁(+X側)と、ビアパッドVP22の左端縁(-X側)とを接続する構成にすることもできる。このような構成にすることで、図10に示す構成のデジタル移相器A21よりも移相量を大きくすることができる。
【0143】
図11に示すデジタル移相器A22は、デジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnの各々におけるループ線路22Lの第2ループ線路部22L2が、ビアパッドVP21、ビアパッドVP22、及びループ配線22w2(幅狭線路部)を有する。本変形例に係るデジタル移相器A22は、図6に示すデジタル移相器A1よりも移相量を大きくしたものである。
【0144】
図11に例示するループ配線22w2は、4つの直線部(第1直線部、第2直線部、第3直線部、第4直線部)からなる。第1直線部は、ビアパッドVP22の奥側の端部から奥側(+Y側)に延びる。第2直線部は、第1直線部の一方の端部(+Y側)から左側(-X側)に延びる。第3直線部は、第2直線部の一方の端部(-X側)から手前側(-Y側)に延びる。第4直線部は、第3直線部の一方の端部(-Y側)から右側(+X側)に延び、ビアパッドVP21の奥側(+Y側)における左端縁(-X側)に接続される。但し、ループ配線22w2の幅は、ビアパッドVP21,VP22の幅、又は、第1ループ線路部22L1の第1交差線路22c1及び第2交差線路22c2よりも小さい。
【0145】
図12に示すデジタル移相器A23は、デジタル移相回路B1,B2,B3,…,Bn-1,Bnの各々におけるループ線路22Lの第2ループ線路部22L2を、信号線路10側に凸となるようにしたものである。本変形例に係るデジタル移相器A22は、交差方向における寸法を、図6に示すデジタル移相器A1より小さくしたものである。
【0146】
図12に示す通り、本変形例では、第1ループ線路部22L1に含まれる第1交差線路22c1のビアパッドVP11となる部分と、第2交差線路22c2のビアパッドVP12となる部分とが手前側(-Y側)に延びるようにされている。本変形例の第2ループ線路部22L2は、ここまでの実施形態などで述べた第2ループ線路部22Lを平面視で180度回転した状態にされ(または、長手方向Xに延伸する直線を軸とした線対象となり)、ビアパッドVP21が、上下方向ZにおいてビアパッドVP12と重なるように配置され、ビアパッドVP22が、上下方向ZにおいてビアパッドVP11と重なるように配置されている。
【0147】
以上、本発明の実施形態によるデジタル移相回路及びデジタル移相器について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した実施形態では、ループ線路22Lを構成する第2ループ線路部22L2が、第1ループ線路部22L1よりも外層(+Z側の層)に形成されているデジタル移相回路(以下、「UP-DOWN型のデジタル移相回路」という)を例に挙げて説明した。しかしながら、第2ループ線路部22L2が、第1ループ線路部22L1よりも内層(-Z側の層)に形成されているデジタル移相回路(以下、「DOWN-UP型のデジタル移相回路」という)てもよい。
【0148】
一般的に、多層構造の半導体では、表面よりも内層に行くほど配線の厚みが小さくなるように形成される。このため、DOWN-UP型のデジタル移相回路では、第2ループ線路部22L2の厚みを、第1ループ線路部22L1の厚みよりも小さくすることができる。これにより、伝送系のインダクタンスが大きくなり、伝搬遅延時間を増大させることができる。尚、第2ループ線路部22L2の厚みに加えて、第2ループ線路部22L2の一部の幅を他の部分よりも小さくし、第2ループ線路部22L2に幅狭線路部を設けてもよい。これにより、伝送系のインダクタンスを更に大きくすることができるとともに、振幅の移相依存性を緩和することができる。
【0149】
図13は、ループ線路の他の構成例を示す断面図である。尚、図13は、ループ線路22Lの第2ループ線路部22L2が、第1ループ線路部22L1よりも内層(-Z側の層)に形成されている場合における図1中のXIII-XIII線に沿う断面矢視図である。図13に示す通り、ループ線路22Lの第1ループ線路部22L1が形成された層(第1層)と、第2ループ線路部22L2が形成された層(第2層)との間に、ビアパッドVP31が形成された少なくとも1つの層(第3層)が設けられている。このようなループ線路を有するデジタル移相回路は、「DOWN-DOWN-UP-UP型のデジタル移相回路」ということができる。
【0150】
第1ループ線路部22L1のビアパッドVP11、ビアパッドVP31、及び第2ループ線路部22L2のビアパッドVP21は、上下方向Zにおいて重なるように配置されている。第1ループ線路部22L1のビアパッドVP11とビアパッドVP31とは複数のビア23によって電気的に接続されている。ビアパッドVP31と第2ループ線路部22L2のビアパッドVP21とは、複数のビア23によって電気的に接続されている。
【0151】
つまり、図13に示すループ線路22Lは、第1ループ線路部22L1と第2ループ線路部22L2とが、ビアパッドVP31の上方に位置する複数のビア23と、ビアパッドVP31の下方に位置する複数のビア23とを介して接続された構成である。このような構成のループ線路22Lは、2つ分のビア(ビアパッドVP31の上方及び下方それぞれに位置するビア23)のインダクタンスが得られるため、上述した第1,第2実施形態よりも高いインダクタンスを実現することができる。尚、図13に示す構成の場合においても、第2ループ線路部22L2の厚みに加えて、第2ループ線路部22L2の一部の幅を他の部分よりも小さくし、第2ループ線路部22L2に幅狭線路部を設けてもよい。
【0152】
また、上述した第1,第2実施形態によるデジタル移相器A1,A2において、UP-DOWN型のデジタル移相回路と、DOWN-UP型のデジタル移相回路とが混在していてもよい。更には、DOWN-DOWN-UP-UP型のデジタル移相回路が混在していてもよい。
【0153】
また、上述した第1,第2実施形態によるデジタル移相器A1,A2は、交差方向Yにおける第2平行線路22p2の中心線と第3平行線路22p3の中心線との間の距離D1(図1図7参照)が、デジタル移相回路B1~Bnで全て同じであった。しかしながら、少なくとも1つのデジタル移相回路における上記の距離D1が、他のデジタル移相回路における上記の距離D1と異なっていてもよい。また、上記の距離D1は、2種類に制限される訳ではなく、3種類以上であってもよい。
【符号の説明】
【0154】
10…信号線路、21…第1線路、21d2…上側パッド、21p1…第1平行線路、22…第2線路、22d…上側パッド、22L…ループ線路、22L1…第1ループ線路部、22L2…第2ループ線路部、23…ビア、22w1…直線配線、22w2…ループ配線、31…第1接地導体、32…第2接地導体、33a,33b…下側パッド、41…第1電子スイッチ、42…第2電子スイッチ、43…第3電子スイッチ、44…第4電子スイッチ、50…接続導体、60…コンデンサ、A1,A2,A21~A23…デジタル移相器、B,B′,B1~Bn…デジタル移相回路、VP21,VP22…ビアパッド、Y…交差方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号線路と、
前記信号線路と平行に延びる第1平行線路を含む第1線路と、
前記信号線路と平行に延びる第2平行線路と、平面視において前記第2平行線路の一方の端部から前記第2平行線路の他方の端部付近まで延び、前記信号線路の長手方向と交差する交差方向において前記信号線路から遠ざかる方向に凸状となるループ線路と、を含む第2線路と、
前記第1平行線路の一方の端部及び前記第2平行線路の一方の端部に電気的に接続された第1接地導体と、
前記第2線路の一方の端部に接続された第2接地導体と、
前記第1平行線路の他方の端部と前記第2接地導体との間に設けられた第1電子スイッチと、
前記第2平行線路の他方の端部と前記第2接地導体との間に設けられた第2電子スイッチと、を備え、
前記第1平行線路と前記第2平行線路との間に前記信号線路が位置し、
前記ループ線路は、前記信号線路、前記第1平行線路、及び前記第2平行線路が形成された第1層に形成された第1ループ線路部と、ビアを介して前記第1ループ線路部と電気的に接続され、前記第1層とは異なる第2層に形成された第2ループ線路部と、を含み、
前記第1ループ線路部及び前記第2ループ線路部は、1つのループを構成し、平面視において端部のみが重なるように配置されており、前記端部が前記ビアを介して電気的に接続されている、
デジタル移相回路。
【請求項2】
前記第2ループ線路部は、一部が他の部分の幅よりも小さい幅狭線路部とされている、請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項3】
前記第2ループ線路部は、前記第1ループ線路部よりも厚みが小さい、請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項4】
前記第2ループ線路部が形成された前記第2層は、前記第1ループ線路部が形成された前記第1層よりも内層である、請求項3記載のデジタル移相回路。
【請求項5】
前記第2ループ線路部の両端は、前記ビアが接続されるビアパッドとされており、
前記ビアパッドの各々には、複数のビアが接続される、
請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項6】
前記第2ループ線路部の両端における前記ビアは、配列方向が互いに平行になるように又は互いに直交するように配列されている、請求項5記載のデジタル移相回路。
【請求項7】
前記第2ループ線路部の前記ビアパッド以外の部分は、幅が前記ビアパッドの幅よりも小さい幅狭線路部とされている、請求項6記載のデジタル移相回路。
【請求項8】
平面視の方向において、前記第1ループ線路部と前記第2ループ線路部との間にビアパッドが形成され、
前記第1ループ線路部と前記第2ループ線路部とは、前記ビアパッドを介して電気的に接続されている、
請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項9】
前記信号線路の一方の端部に接続されたコンデンサと、
前記コンデンサと前記第1接地導体との間に設けられた第3電子スイッチと、
を更に備え、
前記第1接地導体の一方の端部は、前記交差方向において前記信号線路から遠ざかるように延びて前記第3電子スイッチに接続されている、
請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項10】
前記第1電子スイッチ、前記第2電子スイッチ、及び前記第3電子スイッチは、電界効果トランジスタであり、
前記第1電子スイッチ及び前記第2電子スイッチをなす電界効果トランジスタのサイズは、前記第3電子スイッチをなす電界効果トランジスタのサイズの2倍以上である、
請求項9記載のデジタル移相回路。
【請求項11】
前記第1平行線路の他方の端部に設けられた第1上側パッドと、
前記第2平行線路の他方の端部に設けられた第2上側パッドと、
を更に備え、
前記第1上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値は、前記第1平行線路の幅よりも大きく、
前記第2上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値は、前記第2平行線路の幅よりも大きい、
請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項12】
ビアを介して前記第1上側パッドに接続されるとともに、前記第1電子スイッチが接続される第1下側パッドと、
ビアを介して前記第2上側パッドに接続されるとともに、前記第2電子スイッチが接続される第2下側パッドと、
を更に備え、
前記第1下側パッドの前記交差方向における寸法の最大値は、前記第1上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値よりも大きく、
前記第2下側パッドの前記交差方向における寸法の最大値は、前記第2上側パッドの前記交差方向における寸法の最大値よりも大きい、
請求項11記載のデジタル移相回路。
【請求項13】
前記信号線路の一方の端部と前記第1接地導体との間に設けられた第4電子スイッチを更に備える請求項1記載のデジタル移相回路。
【請求項14】
複数のデジタル移相回路が縦続接続されたデジタル移相器であって、
前記デジタル移相回路の各々は、請求項1から請求項13の何れか一項に記載のデジタル移相回路であり、
前記デジタル移相回路が隣り合う部分において、前記第1接地導体と前記第2接地導体とが共通化されている、
デジタル移相器。