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特開2024-175860計測装置、計測方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175860
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】計測装置、計測方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/14 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G01B11/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093910
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】植田 元春
(72)【発明者】
【氏名】國府田 敏明
(72)【発明者】
【氏名】大西 智之
(72)【発明者】
【氏名】武田 洋樹
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA02
2F065AA06
2F065BB16
2F065BB18
2F065CC05
2F065FF10
2F065HH02
2F065JJ01
2F065JJ25
2F065LL30
2F065PP22
2F065QQ01
2F065QQ03
2F065QQ34
2F065QQ43
(57)【要約】
【課題】非接触で精度よく、回転機械における回転体とケーシングのクリアランスを計測する方法を提供する。
【解決手段】計測装置は、回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングと間のクリアランスを計測する計測装置であって、回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体の間の距離の計測データを取得する手段と、前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去する手段と、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出する手段と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングとの間のクリアランスを計測する計測装置であって、
回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体との間の距離の計測データとを取得する手段と、
前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去する手段と、
ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出する手段と、
を備える計測装置。
【請求項2】
前記ノイズを除去する手段は、前記反射光の強度が所定の第1閾値より小さい前記反射光に基づく前記距離の計測データを除去する、
請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記回転体は、回転自在に支持されたロータと前記ロータの外周に周方向に沿って複数設けられた動翼であって、
前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記反射光の強度の計測データおよび前記距離の計測データを前記動翼ごとに分割する手段、
をさらに備える請求項1又は請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記取得する手段は、前記回転体の回転中に計測された、時系列の前記反射光の強度の計測データと、時系列の前記距離の計測データとを取得し、
前記分割する手段は、時系列の前記反射光の強度の計測データに基づいて、前記強度が所定の第2閾値以上となった時点を開始点とし、前記開始点の後に前記強度が前記第2閾値を下回ってから所定の保持時間が経過する時点を終了点とした場合に、前記開始点から前記終了点までの間に計測された前記反射光の強度の計測データおよび前記距離の計測データを1つの前記動翼の計測データとして切り出すことにより、前記反射光の強度の計測データおよび前記距離の計測データを前記動翼ごとに分割する、
請求項3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記クリアランスの計測値を算出する手段は、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データのヒストグラムを算出し、前記距離の最頻値を前記クリアランスの計測値として算出する、
請求項1又は請求項2に記載の計測装置。
【請求項6】
前記クリアランスの計測値を算出する手段は、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データの度数分布に近似する正規分布を算出し、前記正規分布における所定の区間の最小値を前記クリアランスの計測値として算出する、
請求項1又は請求項2に記載の計測装置。
【請求項7】
前記反射光の強度を計測する手段と、
前記距離を計測する手段と、
をさらに備える請求項1又は請求項2に記載の計測装置。
【請求項8】
共焦点式センサをさらに備え、
前記取得する手段は、前記共焦点式センサによって計測された前記反射光の強度の計測データと、前記距離の計測データとを取得する、
請求項1又は請求項2に記載の計測装置。
【請求項9】
回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングとの間のクリアランスを計測する計測方法であって、
回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体との間の距離の計測データとを取得するステップと、
前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去するステップと、
ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出するステップと、
を有する計測方法。
【請求項10】
コンピュータに、
回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングとの間のクリアランスを計測する計測処理であって、
回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体との間の距離の計測データとを取得するステップと、
前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去するステップと、
ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出するステップと、
を有する計測処理を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、計測装置、計測方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン、ガスタービン、圧縮機などの回転機械において、動翼の先端と動翼を囲むケーシングの内周面とのクリアランスは性能に影響する。その為、回転機械の組み立て時、試運転時、定期検査時などにクリアランスを計測して、適切な値かどうかを確認することが重要である。
【0003】
クリアランスの計測に関し、特許文献1には、ケーシングに形成された開口部から接触式のセンサを挿入して、センサの先端を動翼に押し当ててクリアランスを計測する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法では、ロータを低速で回転させながら、センサを動翼へ接触させてクリアランスを計測するため、変形や損傷等の可能性がある。これに対し、特許文献2には、ケーシングに設置した光源から動翼へ光を照射し、その反射光を受光してクリアランスを計測するシステムが開示されている。特許文献2に記載の方法では、非接触でクリアランスを計測することができるため、翼やセンサの損傷を防ぐことができるが、反射光に含まれるノイズの扱いを適切に行わなければ、計測精度の低下を招いてしまう。なお、特許文献3には、クリアランスを計測するセンサを、ケーシングの外部から抜き差し可能に取り付けることを可能とするセンサの設置構造が開示されている。この設置構造によれば、ケーシングの開放や分解の必要がなく、接触式、非接触式にかかわらず、クリアランス計測用のセンサの設置および取り外しが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5984648号公報
【特許文献2】特許第6959027号公報
【特許文献3】特許第4476116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非接触で精度よく、動翼とケーシングのクリアランスを計測することができる方法が求められている。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができる計測装置、計測方法およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の計測装置は、回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングとの間のクリアランスを計測する計測装置であって、回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体との間の距離の計測データを取得する手段と、前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去する手段と、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出する手段と、を備える。
【0008】
本開示の計測方法は、回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングとの間のクリアランスを計測する計測方法であって、回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体との間の距離の計測データを取得するステップと、前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去するステップと、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出するステップと、を有する。
【0009】
また、本開示のプログラムは、コンピュータに、回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングとの間のクリアランスを計測する計測処理であって、回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体との間の距離の計測データを取得するステップと、前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去するステップと、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出するステップと、を有する計測処理を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
上述の計測装置、計測方法およびプログラムによれば、非接触で精度よく、回転機械における動翼などの回転体の先端部と、回転体を収容するケーシングとのクリアランスを計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る計測装置の一例を示す図である。
図2】実施形態に係る共焦点センサの概要を示す図である。
図3】実施形態に係る回転機械の断面の模式図である。
図4】実施形態に係る計測データの一例を示す第1の図である。
図5】実施形態に係る計測データの一例を示す第2の図である。
図6】実施形態に係る計測データの一例を示す第3の図である。
図7】実施形態に係るクリアランス計測データの度数分布の一例を示す図である。
図8】実施形態に係るクリアランス計測処理の一例を示すフローチャートである。
図9】実施形態に係る計測装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
実施形態に係るクリアランスの計測装置について図面を参照して説明する。以下の説明に用いる図面において本開示に関係ない部分の構成については、記載を省略し、図示しない場合がある。
【0013】
(構成)
図1は、実施形態に係る計測装置の一例を示す図である。図1に計測装置10のブロック図と、計測対象の回転機械100の模式図を示す。
図示するように計測装置10は、センサ11と、計測データ取得部12と、分割部13と、ノイズ除去部14と、クリアランス計測部15と、記憶部16と、を備えている。
センサ11は、対象物に光を照射して対象物からの反射光を受光することにより、非接触で対象物までの距離を計測するセンサである。例えば、センサ11は、回転機械100におけるケーシング3の内周面31に沿った所定位置から光を照射するように設置され、その位置から動翼2までの距離と、動翼2にて反射した反射光の強度を計測する。
計測データ取得部12は、センサ11によって計測された計測データを取得する。計測データには、距離の計測値と光強度の計測値が含まれている。
分割部13は、計測データ取得部12が取得した計測データを動翼2ごとに分割する。
ノイズ除去部14は、計測データからノイズを除去する。
クリアランス計測部15は、動翼2ごとのノイズ除去後の計測データから、動翼2ごとのクリアランスαを算出する。
記憶部16は、計測データ取得部12によって取得された計測データ、分割部13、ノイズ除去部14、クリアランス計測部15によって処理された各種データを記憶する。
計測装置10は、これらの機能を使って、動翼2の先端とケーシング3の距離であるクリアランスαを計測する。センサ11と、分割部13と、ノイズ除去部14と、クリアランス計測部15については後にさらに詳しく説明する。
【0014】
圧縮機やタービンなどの回転機械100は、軸線Aに沿って延びるロータ1と、ロータ1の外周面上に軸線A方向に間隔をあけて設けられた複数段の動翼2と、ロータ1を外周側から覆うケーシング3と、ケーシング3の内周面31に軸線A方向に間隔をあけて設けられている複数段の静翼4と、を備えている。ロータ1は、図示しない軸受装置によって、軸線Aを中心として回転可能に支持されている。センサ11は、ケーシング3に設けられた開口部を通じて、ケーシング3の外部から内周面31に向けて挿入され、内周面31に沿った位置から光を照射できるように設置される。センサ11の設置については、例えば、特許文献3に開示された方法を適用することができる。
【0015】
センサ11は、例えば、共焦点式センサである。共焦点式センサ110の概要を図2に示す。共焦点式センサ110とは、焦点距離が異なる複数の波長の光を対象物200へ照射させて、反射光の波長から対象物200までの距離を計測するセンサである。共焦点式センサ110は、光源111、ビームスプリッタ112、レンズ113、ピンホールの開いた部材114、スペクトルメータ115などを備えている。ビームスプリッタ112は、入射光の半分を透過し、半分は反射するガラスで構成されており、光源111からの光111aと同じ経路で戻ってきた反射光117を取り出すために用いられる。光源111が照射した光111aの半分が、ビームスプリッタ112を透過し、レンズ113によって、波長が分解されて対象物200へ照射される。レンズ113によって分解される各波長の光は、例えば、波長1の光116aはL1mm、波長2の光116bはL2mm、波長3の光116cはL3mm、波長4の光116dはL4mm・・・等の予め定められた距離で焦点が合うように調整されている。そして、例えば、レンズ113から対象物200までの距離がちょうどL3mmであれば、光116cの反射光117だけが、ビームスプリッタ112によって部材114のピンホールを通過するように導かれ、スペクトルメータ115にて反射光117の波長3を検出することにより、距離L3が計測される仕組みとなっている。共焦点式センサ110の出力は、共焦点式センサ110から対象物200までの距離と、対象物200からのピンホールを通過する波長の反射光の強度である。
【0016】
なお、例えば、対象物200が遮熱目的などでコーティングされているような場合、共焦点式センサ110から対象物200のコーティング面までの距離および光強度と、対象物200までの距離および光強度が出力される。この場合には、その目的に応じて必要な値を選択する。例えば、この例の場合であれば、コーティング面よりも対象物200で反射する光の強度が大きい。したがって、対象物200までの距離を計測したいのであれば、共焦点式センサ110から出力される計測値のうち、光強度が大きい計測値とともに得られる距離の計測値を採用する。
【0017】
以下で説明するように、計測装置10では、計測データ取得部12が、センサ11(例えば、共焦点式センサ110)によって計測された距離と光強度を取得し、光強度に注目して、分割部13による計測データの分割、ノイズ除去部14によるノイズ除去などを行って評価対象とするデータの抽出を行う。そして、クリアランス計測部15が、抽出された距離の計測データに基づいて、クリアランスαを算出する。
【0018】
なお、図1では、一例として、1段分の動翼2に対してセンサ11が設けられているが、全ての動翼段のそれぞれに対してセンサ11を設けてもよいし、複数の代表的な動翼段に対してセンサ11を設け、代表的な動翼段を構成する動翼2のクリアランスαを計測するようにしてもよい。なお、動翼段とは、軸線A方向の同じ位置において、ロータ1の外周1周分に設けられた複数の動翼2のセットのことである。
【0019】
複数の動翼段のうちの1つに注目したときの回転機械100の断面の模式図を図3に示す。図3に例示するように、1つの動翼段には、軸線Aの周方向に間隔をあけて配列された複数の動翼2a,2b,2c・・・などが含まれる。例えば、矢印方向にロータ1が回転する場合、動翼2bがセンサ11の計測範囲を通過する間は動翼2bのクリアランスαが計測されるが、動翼2bと動翼2cの間では、ケーシング3の内周面31からロータ1の外周面までの距離が計測され、再び動翼2cがセンサ11の計測範囲を通過する位置に至ると、今度は動翼2cのクリアランスαが計測される。計測装置10は、手動又は自動的にロータ1を低速で回転させ、その回転中に所定のサンプリング周期で、センサ11に距離と光強度を計測させ、その計測データを蓄積する。そして、蓄積した計測データについて、統計的な処理を行って、動翼2aのクリアランスα、動翼2bのクリアランスα、動翼2cのクリアランスα・・・など動翼2別にクリアランスαを計測する。ロータ1を回転させながらセンサ11によって計測した距離の計測データの一例を図4に示す。
【0020】
図4は、ロータ1を手動により低速で回転させながら、センサ11によって、ある特定の動翼段の計測を行ったときに出力される距離と光強度の計測値のうち、距離の計測データを示したグラフである。図4のグラフの縦軸は距離、横軸は時間を示す。図示する41a~41lは、ロータ1の回転に伴って計測対象の動翼段を構成する動翼2の何れかが、センサ11の計測範囲に入っている時間帯である。手動による回転のため、回転速度にばらつきが生じ、41a~41lの時間長は異なっている。これらの時間帯のグラフの値は、センサ11の計測範囲を通過している動翼2のクリアランスαである。丸印で囲った42a~42lは、1つの動翼2について計測されたクリアランスのうちの最小値を示している。41a~41l以外は、動翼2と次の動翼2の間がセンサ11の計測範囲に入っている時間帯であり、このときにはケーシング3の内周面31からロータ1の外周面の距離が計測される。分割部13は、計測データ取得部12が取得した距離の計測データと光強度の計測データを動翼2ごとに分割する。
【0021】
(計測データの分割)
次に、計測データの分割について図5を参照して説明する。図5は、センサ11が計測した時系列の距離と光強度の推移を示す。図5のグラフの縦軸は距離又は光強度で、横軸は時間である。グラフ51は距離の推移を示し、グラフ52は光強度の推移を示す。センサ11によって計測される光強度は、動翼2がセンサ11の計測範囲に達すると上昇し、動翼2の通過中は一定以上の値を示し、動翼2が計測範囲を通過した後には0となる。図5の閾値53(第1閾値と称する場合がある。)は、動翼2がセンサ11の計測範囲に達したことを検知する為の閾値である。光強度が閾値53以上となっているときに計測された距離の計測データをクリアランスαの評価対象とする。また、光強度が閾値53以上となるとトリガONとなり、トリガONとなった後、光強度が閾値53を下回ると、所定のトリガ保持時間54の間だけトリガONが継続される。トリガONとは、ある1つの動翼2がセンサ11の計測範囲に入ってから通過し終えるまでの状態のことである。つまり、トリガONの間は、光強度が如何なる値を示したとしても、次の動翼2が計測範囲に到達したとはみなさない。これにより、例えば、瞬間的に光強度が閾値53未満に低下して、すぐに閾値53以上に復活するような変動を示した場合であっても、この間に得られる計測データは、同じ動翼2に関するものとすることができ、計測データを動翼2ごとに分割する際に、別の動翼2に関する計測データとの混同を防ぐことができる。以上をまとsめると、分割部13は、センサ11による計測値のうちの光強度に基づいて、次の(1)~(3)のアルゴリズムにより切り出される、ある時間帯の計測データを1つの動翼2に関する計測データとすることにより、計測データ取得部12が取得した時系列の計測データを動翼2ごとに分割する。
(1)光強度が第1閾値(閾値53)以上となる時間の距離の計測データをクリアランスの評価対象とする。
(2)光強度が第1閾値を超えるとトリガONとする。
(3)光強度が第1閾値を下回った時点から、所定のトリガ保持時間54が経過するとトリガをOFFとし、動翼2が通過し終えたとみなす。
【0022】
分割部13は、上記の(1)~(3)によって計測データを分割し、分割後のデータを動翼2ごとに記憶部16に保存する。このように計測データを分割し、分割後の計測データを、計測データが得られた順にロータ1の回転と共にセンサ11の計測範囲を通過する1つ1つの動翼2と対応付けることで、動翼2ごとのクリアランスαの評価データを蓄積することができる。例えば、ロータ1の外周にX枚の動翼2が設けられている場合、1番目、X+1番目、2X+1番目、・・・の計測データは、全て同じ動翼2に関するクリアランスの計測データである。ロータ1を回転させながら計測される計測データを分割して、動翼2ごとに評価データを蓄積することにより、1つの動翼2のクリアランスαについて、多数の計測データに基づいて評価することができる。
【0023】
第1閾値には、1~50%のうち適切な値を設定する。光強度は、動翼2の状態(運転時間や劣化)などに応じて変化するため、第1閾値は、動翼2の状態と、どの程度のノイズを許容するかなどに応じて適切に設定する。
トリガ保持時間54には、0.05~1秒未満のうち適切な値を設定する。この値は、ロータ1の回転速度、1段を構成する動翼2の枚数、動翼2のサイズ、隣接する動翼2と動翼2の距離などに応じて適切に設定する。
また、センサ11のサンプリング周期について、なるべく多数の計測データを採取できるよう適切な値を設定する。
【0024】
上記では手回しで回転させる場合のようにロータ1の回転数が一定ではない状況にも適用できるデータ分割方法を説明したが、例えば、ロータ1を自動回転させるときのように、回転数が一定であることが既知の場合(動翼2の枚数も既知であるとする)、上記の方法だけではなく、計測データを時間的に等間隔で区切ることによっても計測データを動翼2ごとに分割することができる。
【0025】
(スパイクノイズの除去)
動翼2ごとに分割された計測データから、動翼2ごとのクリアランスを推定することができるが、その際、ノイズが問題となる。光を回転体などの動的な対象物に照射して計測を行う場合、スパイク状のノイズ(スパイクノイズと称する。)が計測されることがある。ノイズ除去部14は、分割部13によって分割された計測データからスパイクノイズを除去する。図6に分割後の計測データの一例を示す。図6のグラフの縦軸は距離又は光強度で、横軸は時間である。グラフ61は距離の推移を示し、グラフ62は光強度の推移を示す。例えば、囲み64内に示す距離の値は、スパイクノイズである。スパイクノイズは、対象物の傷や翼の角部(エッジ)など不連続部を通過する際に発生しやすく、瞬間的に反射信号が乱れることが原因となって生じる。圧縮機などの場合、スパイクノイズは、例えば、動翼2が計測範囲に入ったときや通過直後などに計測される。また、圧縮機などの動翼では、スパイクノイズ発生と光強度の低下に相関があり、スパイクノイズを計測したときの光強度は小さくなることが分かっている。この性質を利用し、ノイズ除去部14は、所定の閾値63(第2閾値と称する場合がある。)に基づいて、計測データに含まれる光強度が閾値63を下回ったときに計測された距離の計測データはスパイクノイズであると見做して評価対象から除外する。例えば、ノイズ除去部14は、記憶部16に保存された動翼2ごとの計測データの中から光強度に基づいて、スパイクノイズとみなされる距離の計測データを削除する。
【0026】
(クリアランスの計測)
クリアランス計測部15は、スパイクノイズ除去後の計測データを統計処理して、動翼2ごとのクリアランスαを算出する。例えば、クリアランス計測部15は、動翼2ごとに、スパイクノイズ除去後の距離の計測データから度数分布を算出する。ある1つの動翼2に関する距離の計測データから算出した度数分布の一例を図7に示す。図7の度数分布図(ヒストグラム)の縦軸は度数(距離の計測値の出現頻度)、横軸は距離(クリアランス)である。例えば、クリアランス計測部15は、動翼2ごとに、図7に示すようなヒストグラムを算出し、最頻値をその動翼2のクリアランスαとして算出する。あるいは、度数の高い順に所定個のクリアランスを選択してそれらの平均や加重平均(例えば度数で重み付けする)を評価対象の動翼2のクリアランスとして算出してもよい。また、クリアランス計測部15は、クリアランスの度数分布が正規分布に従うと仮定して、クリアランスのヒストグラムに近似する正規分布を算出し、その平均値(期待値)を評価対象の動翼2のクリアランスαとして算出してもよい。また、クリアランスの度数分布が正規分布に従うとみなし、標準偏差σを求め、平均値±iσ(たとえばi=1,2,3・・・など。また、iは整数に限定しない。)を外れた値を除外した範囲(例えば、±1σの場合は68%信頼区間、±2σの場合は95%信頼区間、±3σの場合は99.7%信頼区間などの所定の区間)の中から、最小値をクリアランスαとして算出してもよい。
【0027】
(動作)
次に図8を参照して、計測装置10の動作について説明する。
図8は、実施形態に係るクリアランス計測処理の一例を示すフローチャートである。
例えば、回転機械100の組み立て時、試運転時、定期点検時などにケーシング3を開放させずに、ケーシング3の所定位置にセンサ11を設置する。また、ロータ1を低速で回転させながら距離と光強度を計測する際に、1つの動翼2について十分な数の計測値が取得できるようなセンサ11のサンプリング周期を、ロータ1の回転速度や動翼2のサイズ等に応じて設定する。次に、ロータ1を低速で回転させながらセンサ11により、距離と光強度を計測する(ステップS1)。センサ11は、所定のサンプリング周期で距離と光強度を計測し、その計測結果を計測装置10へ出力する。計測データ取得部12は、センサ11によって計測された時系列の計測データ(距離の計測データと光強度の計測データ)を取得し、記憶部16に保存する(ステップS2)。
【0028】
計測データの採取が完了すると、次に分割部13が、記憶部16に保存された計測データを読み出して、動翼2ごとに計測データを分割する(ステップS3)。分割部13は、図5を用いて説明したように、第1閾値(図5の閾値53)とトリガ保持時間54を使って計測データを分割し、分割後の計測データを動翼2と対応付けて記憶部16に保存する。例えば、最初にセンサ11の計測範囲を通過する動翼2に目印を付けておいて、最初に計測された計測データと目印を付けた動翼とを対応付け、後はロータ1の回転方向に応じて、次にセンサ11の計測範囲を通過する動翼2と2番目に計測された計測データとを対応付け、3番目に計測範囲を通過する動翼2と3番目に計測された計測データとを対応付け・・・、といった方法であってもよい。
【0029】
次にノイズ除去部14が、スパイクノイズを除去する(ステップS4)。例えば、ノイズ除去部14は、記憶部16に保存された、分割後の動翼2ごとの計測データを読み出して、各計測データから光強度が第2閾値(図6の閾値63)より小さいときに計測された距離の計測データを削除する処理を行う。次にクリアランス計測部15が、統計処理を行ってクリアランスを算出する(ステップS5)。例えば、クリアランス計測部15は、ノイズ除去後の動翼2ごとの距離の計測データについて移動平均を算出し、動翼2ごとに所定点数の距離(クリアランス)の値を算出する。クリアランス計測部15は、算出した所定点数のクリアランス値のヒストグラムを算出し、最頻値を求める。クリアランス計測部15は、動翼2ごとに最頻値を算出して、その値を動翼2のクリアランス計測値とする。クリアランス計測部15は、算出した動翼2ごとのクリアランス計測値を記憶部16に保存する。次にクリアランス計測部15は、算出した動翼2ごとのクリアランス計測値を表示装置や電子ファイル等へ出力する(ステップS6)。
【0030】
(効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、非接触で精度よく、回転機械における動翼などの回転体の先端部と、回転体を収容するケーシングとの間のクリアランスを計測することができる。
【0031】
図9は、実施形態に係る計測装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。上述の計測装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0032】
計測装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0033】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0034】
<付記>
各実施形態に記載の計測装置、計測方法およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0035】
(1)第1の態様に係る計測装置10は、回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングとの間のクリアランスを計測する計測装置であって、回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体との間の距離の計測データを取得する手段と、前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去する手段と、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出する手段と、を備える。
これにより、非接触で精度よく、回転機械における回転体と、回転体を収容するケーシングとのクリアランスを計測することができる。
【0036】
(2)第2の態様に係る計測装置10は、(1)の計測装置10であって、前記ノイズを除去する手段は、前記反射光の強度が所定の第1閾値より小さい前記反射光に基づく前記距離の計測データを除去する。
これにより、動的な対象物に対して光を照射したときに計測されるスパイクノイズを除去することができる。
【0037】
(3)第3の態様に係る計測装置10は、(1)~(2)の計測装置10であって、前記回転体は、回転自在に支持されたロータと前記ロータの外周に周方向に沿って複数設けられた動翼であって、前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記反射光の強度の計測データおよび前記距離の計測データを前記動翼ごとに分割する手段、をさらに備える。
これにより、非接触で精度よく、回転機械における動翼などの回転体の先端部と、ケーシングとの動翼ごとのクリアランスを計測することができる。
【0038】
(4)第4の態様に係る計測装置10は、(3)の計測装置10であって、前記取得する手段は、前記回転体の回転中に計測された、時系列の前記反射光の強度の計測データと、時系列の前記距離の計測データとを取得し、前記分割する手段は、時系列の前記反射光の強度の計測データに基づいて、前記強度が所定の第2閾値以上となった時点を開始点とし、前記開始点の後に前記強度が前記第2閾値を下回ってから所定の保持時間が経過する時点を終了点とした場合に、前記開始点から前記終了点までの間に計測された前記反射光の強度の計測データおよび前記距離の計測データを1つの前記動翼の計測データとして切り出すことにより、前記反射光の強度の計測データおよび前記距離の計測データを前記動翼ごとに分割する。
これにより、計測データを動翼ごとに分割することができる。
【0039】
(5)第5の態様に係る計測装置10は、(1)~(4)の計測装置10であって、前記クリアランスの計測値を算出する手段は、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データのヒストグラムを算出し、前記距離の最頻値を前記クリアランスの計測値として算出する。
このように、多数計測されたクリアランスの計測値(距離の計測データ)を統計処理することにより、ノイズやはずれ値等を除去して、精度の良いクリアランス計測値を算出することができる。
【0040】
(6)第6の態様に係る計測装置10は、(1)~(4)の計測装置10であって、前記クリアランスの計測値を算出する手段は、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データの度数分布に近似する正規分布を算出し、前記正規分布における所定の区間の最小値を前記クリアランスの計測値として算出する。
このように、多数計測されたクリアランスの計測値(距離の計測データ)を統計処理することにより、ノイズやはずれ値等を除去して、精度の良いクリアランス計測値を算出することができる。
【0041】
(7)第7の態様に係る計測装置10は、(1)~(5)の計測装置10であって、前記反射光の強度を計測する手段と、前記距離を計測する手段と、をさらに備える。
これにより、反射光の強度の計測データと距離の計測データを取得することができる。
【0042】
(8)第8の態様に係る計測装置10は、(1)~(7)の計測装置10であって、共焦点式センサをさらに備え、前記取得する手段は、前記共焦点式センサによって計測された前記反射光の強度の計測データと、前記距離の計測データとを取得する。
これにより、反射光の強度の計測データと距離の計測データを取得することができる。
【0043】
(9)第9の態様に係る計測方法は、回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングとの間のクリアランスを計測する計測方法であって、回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体との間の距離の計測データを取得するステップと、前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去するステップと、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出するステップと、を有する。
【0044】
(10)第10の態様に係るプログラムは、コンピュータに、回転機械における回転体と前記回転体を囲むケーシングとの間のクリアランスを計測する計測処理であって、回転中の前記回転体へ前記ケーシングから照射した光の反射光の強度の計測データと、前記反射光に基づく前記ケーシングと前記回転体との間の距離の計測データを取得するステップと、前記反射光の強度の計測データに基づいて、取得された前記距離の計測データからスパイク状のノイズを除去するステップと、ノイズ除去後の複数の前記距離の計測データを統計処理し、前記クリアランスの計測値を算出するステップと、を有する計測処理を実行させる。
【符号の説明】
【0045】
1・・・ロータ
2、2a、2b、2c・・・動翼
3・・・ケーシング
31・・・内周面
4・・・静翼
10・・・計測装置
11・・・センサ
12・・・計測データ取得部
13・・・分割部
14・・・ノイズ除去部
15・・・クリアランス計測部
16・・・記憶部
100・・・回転機械
110・・・共焦点式センサ
111・・・光源
112・・・ビームスプリッタ
113・・・レンズ
114・・・部材
115・・・スペクトルメータ
116a、116b、116c、116d・・・光
200・・・対象物
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9