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  • 特開-Tie2活性化向上剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017587
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】Tie2活性化向上剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/704 20060101AFI20240201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 36/258 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20240201BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240201BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240201BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20240201BHJP
   A23G 3/34 20060101ALN20240201BHJP
   A21D 2/18 20060101ALN20240201BHJP
   A21D 13/80 20170101ALN20240201BHJP
【FI】
A61K31/704
A61P43/00 111
A61K36/258
A61P43/00 107
A61K8/63
A61Q19/00
A61K8/9789
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52 101
A23L2/52
A23G3/34 101
A21D2/18
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120324
(22)【出願日】2022-07-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517063868
【氏名又は名称】株式会社日本薬業
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 洋介
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B032
4B117
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B014GB10
4B014GK12
4B014GL03
4B014GP12
4B014GP14
4B014GQ05
4B018LB01
4B018LB08
4B018LE01
4B018MD08
4B018MD64
4B018ME02
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B032DB22
4B032DG02
4B032DK02
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4B032DK42
4B032DK47
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4B032DP08
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4B032DP40
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4B117LG18
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4B117LK16
4C083AA111
4C083AA112
4C083AD491
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4C083CC02
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4C086EA19
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4C086ZA89
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4C088ZA89
4C088ZB22
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】Tie2(tyrosin kinase with Ig and EGF homology domain-2)を活性化する成分並びにその原材料を提供することを目的とする。
【解決手段】学名「Panax notoginseng」であり、現存する人参族植物の中では、最も原始的なものと推定される田七人参に含まれるジンセノサイドRg1、Rb1、Rb2、Rc、Rd、Re、ノトジンセノサイドR1がTie2を活性化することを見出した。
さらに、ジンセノサイドRg1とジンセノサイドRb1の含有量が合わせて全体の10%以上であり、ノトジンセノサイドR1が含まれることを特徴とするTie2活性化向上剤が得られた。
【選択図】 図4


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tie2(tyrosin kinase with Ig and EGF hоmоlоgy dоmain-2)活性を促す成分がジンセノサイドRg1、Rb1、Rb2、Rc、Rd、Re、ノトジンセノサイドR1から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするTie2活性化向上剤。
【請求項2】
ジンセノサイドRg1、Rb1、Rb2、Rc、Rd、Re、ノトジンセノサイドR1から選択される1種又は2種以上の成分が田七人参(Panax nоtоginseng)の抽出物由来であることを特徴とするTie2活性化向上剤。
【請求項3】
ジンセノサイドRg1とジンセノサイドRb1の含有量が合わせて全体の10%以上であり、ノトジンセノサイドR1が含まれることを特徴とするTie2活性化向上剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はTie2活性の向上剤に関する。さらに詳しくは田七人参の抽出物によるTie2活性を促進する向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの毛細血管は壁細胞(外側)と内皮細胞(内側)の二重構造となっている。そして壁細胞から分泌される成分「アンジオポエチン-1」が内皮細胞に存在する受容体Tie2(tyrosin kinase with Ig and EGF homology domain-2)を活性化することで内皮細胞と壁細胞が密着し、毛細血管の安定を保っている。Tie2は、主に血管内皮細胞上に発現するレセプター型チロシンキナーゼである。
【0003】
毛細血管はヒトの体のあらゆる組織中に存在し、血液、酸素、栄養分を滞りなく各所に運び、末梢組織でのガス交換を行う生体の維持に不可欠なパイプラインである。ヒトの全血管をつなげると約10万キロメートルになると言われ、毛細血管はそのうちの95%以上を占める。こうした毛細血管を含む微小循環系は、大動脈など太い血管から成る大循環系や肺動脈などの小循環系と比して比較的新しい研究領域であるが、近年毛細血管の重要性が認識されてきている。
【0004】
糖質や脂質の過剰な摂取といった食習慣の乱れ、運動不足、寝不足などの生活習慣の乱れ、加齢、紫外線、疾患などによって血管の外側を覆っている壁細胞がダメージを受けると「アンジオポエチン-1」の分泌が損なわれ、毛細血管に隙間が生じ、血管やリンパ管の構造が徐々に不安定になる。
【0005】
壁細胞がダメージを受け不安定となった毛細血管は、血管の内側にある内皮細胞との接着がゆるみ、かつ内皮細胞同士の接着が弱くなり、間隙が生じる。生じた間隙から血液中の成分・栄養や酸素が漏れ出し、徐々に毛細血管が機能不全に陥り、細く短くなる。末端まで血液の流れがなくなると、さらに血管細胞がダメージを受け消失し始める。この現象は「ゴースト血管化」と呼ばれている。
【0006】
毛細血管のゴースト化が生じると、毛細血管から機能維持に必要な成分・栄養を受け取っている組織は徐々に機能維持が困難となり衰え始める。
例えば肌の場合には、肌の末端まで血液が届かなくなることから、肌を構成する細胞の機能が徐々に損なわれ、ターンオーバーが不調になり、古い角質やメラニン色素が排出されず、くすみやシミが出てくる。さらには肌の弾力を支えている真皮にも栄養が行き渡らず、ハリが失われ、たるみやしわが生じることにも繋がる。その他、頭皮では毛根に栄養が届きにくくなり毛髪が抜けたり白髪が増えたりする。このように毛細血管のゴースト化は特に外見に影響を及ぼしやすい。
【0007】
そのほか体内の主要臓器にも毛細血管は多数存在し、肝臓など毛細血管が非常に多い臓器で、ゴースト化が進むことで肝機能の低下や疲れを感じやすくなったり、これを契機に疾病が発症する事もある。近年の研究では、毛細血管が糖尿病、認知症、骨粗しょう症などの疾病と密接に関わっていることが報告されている(非特許文献1、2)。そうしたことから、毛細血管の機能維持の重要性が認識されている。
【0008】
血管内皮にあるTie2が活性化することにより、血管内皮細胞の寿命を延ばし血管の維持につながる。外観ではしわやむくみ、薄毛、白髪が改善され、体内においても疲労や各種臓器の機能低下を改善できる。Tie2の活性化は抗老化に繋がることから、医学分野のみならず、美容の分野でも非常に注目をされている。
【0009】
そのような理由から血管細胞のTie2活性を向上させる食品抽出物に関しても活発な研究がなされ、様々な食品抽出物にTie2活性の向上機能があることが報告されている。例えば、ヒハツエキス(特許文献1)、サンザシエキス、エゾウコギなどであるが、薬用人参の中では高麗人参Panax ginseng(特許文献2)やシベリアニンジンEleutherococcus senticosus(特許文献3)について報告がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6293402号
【特許文献2】特許第5926895号
【特許文献3】特許第5221783号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日医大医会誌 2018;14(3):131
【非特許文献2】日腎会誌 2012;54(2):73-77
【非特許文献3】Pharmacolоgical Research 161(2020) 105263
【非特許文献4】Scientific Reports(2011)11 5126
【非特許文献5】生薬学雑誌.40(3),345~351(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、血管及びリンパ管の安定化に寄与するTie2活性を向上させる成分並びにその原材料の提供にある。特に、植物の抽出物に着目する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述のように薬用人参の中にはTie2を活性化させる作用をもつものが報告されているが、薬用人参の種類は多く、未だその作用が知られていないものも多数あると考えられる。その中で、田七人参は学名「Panax notoginseng」であり、現存する人参属植物の中では、最も原始的なものと推定され、中国では古くから生薬として重用されてきた。田七人参はサポニンを7~12%含有し、その主成分がginsenoside(ジンセノサイド)Rg1、Rb1、Rg2である。少量しか含まれないサポニンとしてはジンセノサイドRa、Rb2、Rd、Reがある。また、通常のジンセノサイドは根茎に多く含まれるが、ジンセノサイドRcなど根茎より地上部に多く含まれる種類も存在する。その他、田七人参特有のサポニンとしてnotoginsenoside(ノトジンセノサイド)R1~R4などがある。
【0014】
薬用人参のなかでも最も研究されている高麗人参Panax ginsengと田七人参Panax notoginsengでは、産地、生育環境、外観、含有成分などでかなり違いがある。中国での栽培事例をあげると高麗人参は北方の吉林省・遼寧省・黒竜江省が産地であり、田七人参は南方の雲南省が産地である。外観は高麗人参の根茎は細身であるが、田七人参はずんぐりとしてゴツゴツとしている。含有する成分量もかなり異なり、ジンセノサイドを含むサポニン類は田七人参の方が多く、多糖類は高麗人参の方が多い。
ジンセノサイドについては共に含有する成分もあれば、それぞれにほぼ特異的に存在する成分もありバリエーションに富んでいるが、メジャージンセノサイドといわれるジンセノサイドRg1、Rb1の量については圧倒的に田七人参の方が多い(非特許文献3)。
【0015】
田七人参は伝承的には止血、高脂血症改善などに用いられて、中国においては医薬品として使用されている。近年の研究の進展から、多様な生理活性を有していることが分かっており、特に冠動脈疾患、脳血管疾患、中枢神経・認知疾患、抗炎症、止血・抗血栓、抗糖尿病についてその作用機序からヒトでの効果試験を含めてエビデンスが蓄積しつつある。
【0016】
本発明者らが検討した結果、田七人参にはTie2活性を向上させる機能があることを見出し、さらにその関与成分を特定して以下の発明を完成するに至った。
(1)Tie2(tyrosin kinase with Ig and EGF homology domain-2)活性を促す成分がジンセノサイドRg1、Rb1、Rb2、Rc、Rd、Re、Noto R1から選択される1種又は2種以上であることを特徴とするTie2活性化向上剤。
(2)ジンセノサイドRg1、Rb1、Rb2、Rc、Rd、Re、Noto R1から選択される1種又は2種以上の成分が田七人参(Panax notoginseng)の抽出物由来であることを特徴とするTie2活性化向上剤。
(3)ジンセノサイドRg1とジンセノサイドRb1の含有量が合わせて全体の10%以上であり、ノトジンセノサイドR1が含まれることを特徴とするTie2活性化向上剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るTie2活性向上剤を使用することにより、毛細血管やリンパ管の安定が図られることにより、血色の改善、手足の冷えやむくみの改善・予防が可能となる。さらに、しわの改善等が期待できることから美容にも寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】田七人参エキスによるTie2リン酸化の結果を示している。
図2】田七人参エキスによるTie2リン酸化を定量化した結果の図である。
図3】田七人参中の各ジンセノサイドによるTie2リン酸化の結果を示している。
図4】田七人参中の各ジンセノサイドによるTie2リン酸化を定量化した結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明者らは、田七人参のエキスを抽出し、そのエキスにTie2活性を向上させることを見出した。さらに、田七人参に含まれるジンセノサイドを検討した結果、一部のジンセノサイドがTie2活性化の機能を有することが示された。
【0020】
ジンセノサイドは人参属植物に含まれるステロイド配糖体で、トリテルペンのサポニンである。ジンセノサイドは組成によって中枢神経抑制作用のあるジオール系と中枢神経興奮作用のあるトリオール系に分けられる。ジオール系に属するものとしてジンセノサイドRb1、Rb2、Rc、Rdが挙げられ、トリオール系に属するものとしてはジンセノサイドRe,Rg1が挙げられる。
【0021】
以下に田七人参に含まれる代表的なジンセノサイドについて構造式と含有量を示す。なお、含有量については非特許文献4,5を参照した。
【0022】
ジンセノサイドRg1は下記[化1]の構造式で示される。田七人参におけるジンセノサイドRg1の含有量は1.3~8.0%程である。
【化1】
【0023】
ジンセノサイドRb1は下記[化2]の構造式で示される。田七人参におけるジンセノサイドRb1の含有量は1.0~6.0%程である。
【化2】
【0024】
ジンセノサイドRb2は下記[化3]の構造式で示される。田七人参におけるジンセノサイドRb2の含有量は0.003~0.02%程である。
【化3】
【0025】
ジンセノサイドRcは下記[化4]の構造式で示される。田七人参におけるジンセノサイドRcの含有量は0.02~0.1%程である。
【化4】
【0026】
ジンセノサイドRdは下記[化5]の構造式で示される。田七人参におけるジンセノサイドRdの含有量は0.2~1.2%程である。
【化5】
【0027】
ジンセノサイドReは下記[化6]の構造式で示される。田七人参におけるジンセノサイドReの含有量は0.15~0.9%程である。
【化6】
【0028】
ノトジンセノサイドR1は下記[化7]の構造式で示される。田七人参におけるノトジンセノサイドR1の含有量は0.2~1.7%程である。
【化7】
【0029】
本発明に係る向上剤は単独で摂取してもよく、また、医薬的に許容される担体、賦形剤、可塑剤、着色剤、防腐剤等と混合して経口用組成物の形で摂取してもよい。当該経口用組成物に用いる担体としては、例えば、糖アルコール(例として、マンニトール)、無機物(例として、炭酸カルシウム)、微結晶性セルロース、セルロース(例として、カルボキシメチルセルロース)、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、寒天、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が挙げられる。
前記経口用組成物の形態は特に限定されることはなく、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、トローチ剤、または溶液(飲料)等の形態とすることができる。
【0030】
また、本発明に係る向上剤は、一般食品、健康食品、保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品等)に配合された状態で、好適に摂取することができる。
前記食品としては、例えば、乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、アルコール飲料、粉末飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料等の飲料類;プリン、ゼリー、ババロア、ヨーグルト、アイスクリーム、ガム、グミ、チョコレート、キャンディー、キャラメル、ビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の菓子類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;味噌、醤油、ドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース、ふりかけなどの各種調味料;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種加工食品等が挙げられる。
【0031】
また、その摂取量は田七人参エキスの場合、60kgヒトを対象にすると1日に10~2000mg程度が好適であり、好ましくは10~1000mg、さらに好ましくは10~400mgである。
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明の説明をするが、本発明はこれらに制約されるものではない。
[実施例1]田七人参エキスの抽出方法
【0033】
まず発明者らは、田七人参のエキスを抽出するにあたり、溶媒によって抽出量に差が出るかを検討した。溶媒を水、10%エタノール、30%エタノールとしてエキスを抽出し、それぞれの抽出エキス量を測定した。
【表1】
【0034】
表1の結果より、抽出溶媒が30%エタノールであると抽出溶媒が水あるいは10%エタノールの場合よりも多く抽出エキスを得られることが分かった。

[実施例2]田七人参エキスの製造方法
【0035】
発明者らは研究室内で抽出条件を検討した結果を元に、実機にて田七人参原体を30%エタノールで抽出し、濃縮後にバインダーを添加してスプレードライにてエキスパウダーの製造を行った。当該エキスパウダーは日本薬局法外生薬規格2018中のサンシチニンジン末の試験法に準じて試験を行った。その結果、確認試験でノトジンセノサイドR1が陽性であり、ジンセノサイドRg1とRb1の含有量は足すと10%以上であることを確認した。純度試験としてヒ素は5ppm以下、重金属は20ppm以下であることも確認した。


[実施例3]Tie2活性測定試験
【0036】
発明者らは田七人参エキスパウダーに対してTie2活性測定実験を行った。
【0037】
サンプルの調製方法は以下のように行った。
田七人参エキスパウダー、陽性コントロールとしてのヒハツエキス(丸善製薬社製)、エゾウコギエキス(松浦薬業社製)は50%エタノールにて50mg/mLの濃度で溶解した。ジンセノサイドRg1、Rb1、ノトジンセノサイドR1(共に富士フィルム和光純薬社製)、ジンセノサイドRb2、Rc(共にMedChemExpress社製)、ジンセノサイドRd、Re(共に東京化成工業社製)は99.5%エタノールにて5mg/mLの濃度で溶解した。
【0038】
活性の測定方法は以下のように行った。
1.細胞の刺激とタンパク質抽出
HUVEC細胞(タカラバイオ社製)を12ウェルプレート(Thermo Scientific社製)に播種・増殖用培地を用いて1×105cellsで播種し、COインキュベーター(三洋電機製)中で37℃、5%CO環境にて24時間培養した。その後、播種・増殖用培地を除去し、各種成長因子を除いたアッセイ培地に交換して2時間培養した。その後、アッセイ培地に各エキスサンプルを500μg/mLとなるように加えた刺激用培地と交換し、交換後20分間培養した。使用した培地はEndothelial Cell Growth Medium Kit(タカラバイオ社製)で血管内皮細胞用基礎培地とウシ血清、血管内皮成長因子、EGF(Epidermal Growth Factor)、bFGF(basic Fibroblast Growth Factor)、ヘパリン、ハイドロコルチゾンの添加因子から構成される。播種・増殖用培地はキットのプロトコール通りに調製し、アッセイ用培地は播種・増殖用培地からEGF、bFGF、ハイドロコルチゾンを抜いたものを調製した。
刺激培地を除去し、氷冷した1×Hanks‘ Balanced Salt Solution(1×HBSS)にて細胞を洗浄して、予めプロテアーゼ阻害剤とフォスファターゼ阻害剤(共に富士フィルム和光純薬社製)を添加した氷冷Radio-Immunoprecipitation Assay(RIPA)バッファーを加え、セルスクレイパー(旭テクノグラス社製)にて細胞を破砕・回収し、1.5mL遠心チューブに移した。その後、26G注射針に10回通して粘性を下げ、氷上にて15分間放置した。放置後に遠心分離機(久保田商事製)にて10000×g、10分間遠心分離を行い、上清を別のチューブに回収した。この上清を抽出タンパクとした。
【0039】
2.ウエスタンブロッティング
タンパク電気泳動と膜転写はNuPAGE試薬・システム(Thermo Scientific社製)を用いて添付のプロトコールに従って行った。抽出したタンパクにLDS Sample Buffer(4×)とSample Reducing Agent(10×)を加えて70℃、10分間加熱処理を行い、4-12%Bis-Trisゲルにアプライした。泳動バッファーとして1×MES SDS Running Bufferを用いて定電圧下で電気泳動を行った。
泳動後にゲルを取り出し、メタノールにて親水化処理をしたPolyvinylidene fluoride(PVDF)膜とろ紙にて挟んでプロトコールに従って調製した膜転写バッファーを用いて定電圧下でゲル中のタンパクをPVDF膜に転写した。
転写後のPVDF膜はブロッキングワン(ナカライテスク社製)の添付プロトコールに沿ってブロッキングを行い、1次抗体としてPhospho-TEK(Y992)抗体(CUSABIO社製)もしくは抗β-アクチンmAb(MBL社製)と反応させた。1次抗体反応後は1×Tris-Buffered Saline Tween20(TBST)にて5分間、4回洗浄して2次抗体である抗マウスIgG HRPもしくは抗ウサギIgG HRP(共にProteintech社製)と反応させた。2次抗体反応後は1×TBSTにて5分間、4回洗浄してTMB(3,3‘,5,5’TetraMethyl Benzidine)溶液(ナカライテスク社製)にて発色させた。
発色後のメンブレンは水洗後に風乾して、スキャナーにて発色像をPCに取込んだ。取込んだ画像はImage-Jsoftware(NIH)にて解析を行った。
結果を図1図2に示す。
【0040】
図1から分かるように、田七人参エキスでもコントロールに比べてTie2リン酸化が見られた。定量化した図2によると田七人参ではコントロールの2倍以上のTie2活性が見られた。

[実施例4]Tie2活性化をする成分の検討
【0041】
さらに発明者らは田七人参中のどの成分がTie2活性化に関与しているのかを検討した。中でもジンセノサイドRg1、Rb1、Rb2、Rc,Rd,Re,Noto R1について検討した。試験方法とコントロール、陽性コントロールについては実施例2と同様である。
なお、各ジンセノサイドは5mg/mLにて99.5%EtOHに溶解したものである。アッセイ培地中には25μg/mLとなるようにサンプルを加えた。
結果を図3図4に示す。
【0042】
図3から分かるように、いずれのジンセノサイドでもコントロールと比べてTie2リン酸化が見られる。定量化した図4においては、ほとんどのジンセノサイドにおいて、有意な活性が確認された。また、田七人参中で含有量の少ないジンセノサイドであるジンセノサイドRdとReでも活性化傾向が見られる。
【0043】
[実施例5]田七人参エキス入り錠剤のヒトモニター試験
実施例2で得られた田七人参エキスパウダーに賦形剤として粉末還元麦芽糖水飴、ステアリン酸カルシウム、結晶セルロースを加えて混合・打錠し、1錠に田七人参エキスパウダーが100mg含まれる錠剤を試作した。
この錠剤を1日あたり2錠、30日間飲用するモニターを実施した。被験者は医師の指示による医薬品の服用が無い方で、30~60代の健常男性18名、20~50代の健常女性15名の計33名である。モニター開始前にモニター内容の説明を行い、同意書を得られた方のみが参加した。モニターでは飲用前と30日飲用後にアンケートを実施した。
アンケートにて、使い心地や、体調の変化、活力(元気、やる気など)の変化、今後も続けて飲用したいか(継続意向)等を解析した。また、田七人参は特有のにおいを有し、そのにおいが苦手であるという意見がある。当該エキスパウダーは従来から使用される田七人参粉末と比べて、田七人参特有のにおいを低減化している。そのためにおいについてもアンケート項目に加えた。結果を表2、3にしめす。

【表2】

【表3】
【0044】
結果として男性・女性ともに半数以上が使い心地も良く、体調の良化、活力の良化がこのアンケートで得られた。体調や活力についての体感は女性の方が男性よりもやや多い結果も関連すると推察されるが、継続意向については女性が男性の約1.4倍とかなり上回った値となった。また、においについて好きか嫌いかの評価では男女とも7割以上が「特になし」であり、従来の田七人参粉末と比べると特有のにおいが低減していると推察された。

【0045】
[実施例6]モニター試験の再解析
モニター結果にて男性・女性の半数以上に体調や活力について良化する結果が得られた。さらに解析を進めると、むくみ・血色良化、手足の冷えの軽減など女性に多い悩みについて改善効果がある可能性が示唆された。これらの悩みは毛細血管の機能不全が関与する典型的な症状であることが多数報告されており、田七人参はTie2を活性化してこれらの症状の改善に役立つ可能性が示唆された。

【0046】

処方例1:錠剤型サプリメント
〔成分〕 〔配合量〕
(1)田七人参エキスパウダー :109.9
(2)粉末還元麦芽糖水飴 : 16.5
(3)ステアリン酸カルシウム : 2.7
(4)結晶セルロース :120.9

〔製法〕
(1)~(4)を均一に混合した後、打錠機を用いて直径9mm、質量250mgの錠剤を得た。
【0047】
処方例2:顆粒型サプリメント
〔成分〕 〔配合量〕
(1)田七人参エキスパウダー : 15.0
(2)アスコルビン酸 : 25.0
(3)酢酸d―α―トコフェロール : 1.5
(4)粉末還元麦芽糖水飴 : 54.0
(5)アスパルテーム : 0.6
(6)ヒドロキシプロピルセルロース : 1.5
(7)リボフラビン酪酸エステル : 0.2
(8)スクラロース : 0.2
(9)ショ糖脂肪酸エステル : 2.0

〔製法〕
(1)~(6)を混合した混合物と、(7)と(8)を25mLのエタノールに溶解した溶解液を混合し、練合後、押出し造粒機を用いて造粒する。得られた造粒物に(9)を添加・混合して顆粒剤を得る。
【0048】
処方例3:グミ
〔成分〕 〔配合量〕
(1)田七人参エキスパウダー : 25.5
(2)リンゴ5倍濃縮果汁 : 34.0
(3)蜂蜜 : 30.0
(4)レモン搾り汁 : 4.5
(5)ゼラチン : 6.0
(6)シナモン : 適量

〔製法〕
(1)-(4)を加熱混合し、(5)、(6)加えてさらに均一になるまで加熱混合した。当該混合液を型に流し入れ、4℃で1時間冷却した。その後、型から外してグミを得た。
【0049】
処方例4:野菜ジュース
〔成分〕
(1)田七人参エキスパウダー : 18.5
(2)野菜搾り汁 : 73.0
(3)リンゴ5倍濃縮果汁 : 6.0
(4)レモン3倍濃縮果汁 : 2.0
(5)アスコルビン酸ナトリウム : 0.05
(6)精製水 : 残余

〔製法〕
(1)-(6)を混合して野菜ジュースを得た。
【0050】
処方例5:クッキー
〔成分〕
(1)田七人参エキスパウダー : 10.0
(2)ショートニング : 40.0
(3)牛乳 : 5.0
(4)アスパルテーム : 7.5
(5)卵 : 7.5
(6)ベーキングパウダー :0.001
(7)薄力粉 : 残余

〔製法〕
撹拌機を用いて(2)~(4)を混合後、(5)を少しずつ加えて均一になるまで混合した。当該混合物に予め混合しておいた(6)、(7)及び(1)を加えて混練し、クッキー生地を得た。冷蔵庫で30分静置後、成型し、焼く。





図1
図2
図3
図4