(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175871
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/30 20060101AFI20241212BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241212BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20241212BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20241212BHJP
B60W 20/17 20160101ALI20241212BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20241212BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241212BHJP
【FI】
B60W10/30 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/52
B60W10/26 900
B60W20/17
B60L1/00 L
B60L3/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093946
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 純平
(72)【発明者】
【氏名】若宮 優
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 賢史
(72)【発明者】
【氏名】丸山 和輝
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB22
3D202BB24
3D202BB46
3D202CC20
3D202CC55
3D202CC61
3D202DD24
3D202DD29
3D202DD46
3D202EE00
3D202FF02
5H125AA01
5H125AC12
5H125BB05
5H125BB09
5H125BC25
5H125CD06
5H125EE15
5H125EE70
5H125FF23
(57)【要約】
【課題】高負荷走行時においてチップ温度を適正に維持しつつ、低負荷走行時における燃費の悪化及び低暗騒音時における騒音の発生を抑制可能な車両を提供する。
【解決手段】車両Vは、バッテリBATと、モータMOT1と、バッテリBATから出力される直流電力を交流電力に変換してモータMOT1に供給する第2インバータINV2と、バッテリBATからの直流電圧を、第2インバータINV2に入力する電圧である昇圧電圧に昇圧して第2インバータINV2に供給するコンバータVCUと、第2ポンプ621によって冷媒を流通させて第2インバータINV2及びコンバータVCUを冷却する温調回路60と、温調回路60を制御する制御装置ECUと、を備える。制御装置ECUは、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsに基づいて第2ポンプ621の流量を制御し、昇圧電圧Vsが閾値電圧Th0以上の場合に第2ポンプ621の流量を増加させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリと、
モータと、
前記バッテリから出力される直流電力を交流電力に変換して前記モータに供給するインバータと、
前記バッテリからの直流電圧を昇圧した昇圧電圧を前記インバータに供給するコンバータと、
電動ポンプによって冷媒を流通させて前記インバータ及び前記コンバータを冷却する冷却装置と、
前記冷却装置を制御する制御装置と、を備える車両であって、
前記制御装置は、
前記コンバータにより昇圧された前記昇圧電圧に基づいて前記電動ポンプの流量を制御し、
前記昇圧電圧が第1所定値以上の場合に、前記電動ポンプの流量を増加させる、車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両であって、
前記モータは、前輪を駆動する第1モータと、後輪を駆動する第2モータと、を有し、
前記制御装置は、さらに前記第1モータ及び前記第2モータの合計トルクに基づいて前記電動ポンプの流量を制御し、
前記合計トルクが第2所定値以上の場合に、前記電動ポンプの流量を増加させる、車両。
【請求項3】
請求項2に記載の車両であって、
前記制御装置は、さらに前記コンバータのスイッチング素子の温度に基づいて前記電動ポンプの流量を制御し、
前記スイッチング素子の温度が第3所定値以上の場合に、前記電動ポンプの流量を増加させる、車両。
【請求項4】
請求項1に記載の車両であって、
燃費を優先する省燃費制御モードと、前記省燃費制御モードよりも消費電力が大きい通常モードと、を有し、
前記第1所定値は、前記省燃費制御モードでは到達しない値に設定される、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の気候変動に対する具体的な対策として、低炭素社会または脱炭素社会の実現に向けた取り組みが活発化している。自動車などの車両においても、CO2排出量の削減やエネルギー効率の向上が要求され、駆動源の電動化が進んでいる。例えば、駆動輪を駆動する駆動源としてのモータと、このモータに電力を供給する電源としてのバッテリと、バッテリの電力を変換してモータに供給する電力変換装置と、を備える電気自動車やハイブリッド電気自動車が開発されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、モータの温調を行う第1温調回路と、電力変換装置の温調を行う第2温調回路と、第1温調回路を循環する第1温調媒体と第2温調回路を循環する第2温調媒体との間の熱交換を行う熱交換器と、を備える車両用温調システムが開示されている。第1温調媒体としては、典型的にはATF(Automatic transmission fluid)であり、第2温調媒体としては、典型的にはLLC(Long Life Coolant)である。
【0004】
電力変換装置には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのチップが搭載されており、ラジエータが冷やした第2温調媒体を電動ポンプで流すことによって冷却している。電動ポンプはデューティーを上下させることで流量をコントロールできる。
【0005】
熱交換器としては、ハイブリッド用高圧バッテリからの電圧をさらに昇圧するコンバータ、コンバータとモータとの間で直流・交流の変換を行うインバータ、などが挙げられる。そのうち、コンバータのチップは熱容量が非常に小さく、アクセル開度が最大となるWOT(Wide-Open-Throttle)時や強回生時といった瞬間的に高負荷がかかる車両動作において急速に温度が上昇するという特徴を持つ。温度上昇が非常に速いため、チップ温度が上がってから電動ポンプのデューティーを引き上げて高流量を要求した場合、流量増加の応答性がチップ温度の上昇に間に合わず、十分にチップを冷却することが困難である。
【0006】
そのため、高負荷動作が行われるよりも事前に流量を増加させておく必要があり、第2温調媒体の温度が高い場合は車両動作に関わらず電動ポンプのデューティーを高く保つという制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、第2温調媒体の温度によりデューティー制御を行うと、高燃費が要求される省燃費制御モードや、騒音低減が求められる低暗騒音時にも、第2温調媒体の温度が高ければ高デューティーで電動ポンプを駆動するため、電動ポンプの電力消費や電動ポンプの作動音が課題となる。
【0009】
電動ポンプの作動音は車両走行音やエンジン音に比べて小さいが、アイドルストップ時のような車室内暗騒音がほとんどないような状況下において高デューティーで駆動し続けると課題となる場合がある。
【0010】
また、ハイブリッド自動車では車両停止時にエンジンルーム内の熱がラジエータに回り込むため第2温調媒体の温度が高くなりやすく、第2温調媒体の温度によってデューティー制御を行った場合、低負荷・低暗騒音の状況下において高デューティーで駆動してしまう場合が多くなる。
【0011】
チップサイズがある程度大きい場合は発熱に対する耐性が大きいため必要な第2温調媒体の流量が低く、チップ温度の適正化と燃費・騒音の悪化回避の両立が可能であるが、チップサイズが小さい場合、必要流量が多くなりチップ温度の適正化と燃費・騒音の悪化回避の両立が困難となる。チップ温度の適正化と燃費・騒音の悪化回避を両立させるために、低負荷走行時及び低暗騒音時には流量増加を抑えつつ、コンバータのチップが高負荷となる場面で確実に高流量を供給できるような制御が求められる。
【0012】
本発明は、高負荷走行時においてチップ温度を適正に維持しつつ、低負荷走行時における燃費の悪化及び低暗騒音時における騒音の発生を抑制可能な車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
バッテリと、
モータと、
前記バッテリから出力される直流電力を交流電力に変換して前記モータに供給するインバータと、
前記バッテリからの直流電圧を昇圧した昇圧電圧を前記インバータに供給するコンバータと、
電動ポンプによって冷媒を流通させて前記インバータ及び前記コンバータを冷却する冷却装置と、
前記冷却装置を制御する制御装置と、を備える車両であって、
前記制御装置は、
前記コンバータにより昇圧された前記昇圧電圧に基づいて前記電動ポンプの流量を制御し、
前記昇圧電圧が第1所定値以上の場合に、前記電動ポンプの流量を増加させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高負荷走行時においてチップ温度を適正に維持しつつ、低負荷走行時における燃費の悪化及び低暗騒音時における騒音の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の車両の一実施形態の車両Vの概略構成の一例を示す図である。
【
図2】主駆動ユニットDU1及び電力変換装置PCUの概略構成の一例を示す図である。
【
図3】従駆動ユニットDU2の概略構成の一例を示す図である。
【
図4】温調回路60の概略構成の一例を示す図である。
【
図5】エンジン走行モードにおいて一定の車速で通常走行している状態から、ブレーキペダルを踏んでモータMOT1で強回生した場合における、電流値I、昇圧電圧Vs、チップ温度T_VCUのタイミングチャートである。
【
図6】エンジン走行モードにおいて一定の車速で通常走行している状態から、ブレーキペダルを踏んでモータMOT1で強回生した場合における、コンバータVCUの熱損失、第2ポンプ621の流量、チップ温度T_VCUのタイミングチャートである。
【
図7】モータMOT1の回転数と、トルク及び出力との関係を示す図である。
【
図8】2WDでのEV走行におけるモータトルクと、4WDでのEV走行におけるモータトルクと、を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の車両の一実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面は、符号の向きに見るものとする。また、以下では、同一または類似の要素には同一または類似の符号を付して、その説明を適宜省略または簡略化することがある。
【0017】
[車両]
図1は、本発明の車両の一実施形態の車両Vの概略構成の一例を示す図である。
図1において、太実線は機械連結を示し、破線は電気配線を示し、実線矢印は制御信号または検出信号を示す。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の車両Vは、主駆動ユニットDU1と従駆動ユニットDU2とを備える。
【0019】
主駆動ユニットDU1は、モータMOT1を含んで構成され、少なくともモータMOT1の動力によって車両Vの前輪FWRを駆動可能に構成される。また、主駆動ユニットDU1は、車両Vが備える温調回路60(例えば後述の第1温調回路61)によって温調(例えば冷却)される。
【0020】
従駆動ユニットDU2は、モータMOT2を含んで構成され、モータMOT2の動力によって車両Vの後輪RWRを駆動可能に構成される。例えば、従駆動ユニットDU2は、外気によって冷却される空冷式とされる。これにより、簡易な構成によって従駆動ユニットDU2を冷却することが可能となる。
【0021】
このように、主駆動ユニットDU1及び従駆動ユニットDU2を備える車両Vは、前輪FWR及び後輪RWRの双方を駆動可能に構成された、いわゆる「四輪駆動車両」となっている。
【0022】
また、車両Vは、バッテリBATと、電力変換装置PCUと、各種センサSNSRと、制御装置ECUとをさらに備える。
【0023】
バッテリBATは、充放電可能な二次電池であり、直列または直並列に接続された複数の蓄電セルを有し、例えば100~400[V]といった高電圧を出力可能に構成される。バッテリBATの蓄電セルとしては、リチウムイオン電池(固体電解質を用いた、いわゆる「全固体電池」を含む)や、ニッケル水素電池等を用いることができる。
【0024】
電力変換装置PCUは、主駆動ユニットDU1(例えばモータMOT1)とバッテリBATとの間、及び、従駆動ユニットDU2(例えばモータMOT2)とバッテリBATとの間で授受される電力の変換を行う装置である。また、電力変換装置PCUは、主駆動ユニットDU1(例えば後述のジェネレータGEN)と従駆動ユニットDU2(例えばモータMOT2)との間で授受される電力の変換を行ってもよい。電力変換装置PCUの詳細については後述するため、ここでの説明を省略する。
【0025】
各種センサSNSRは、車両Vに関する情報(以下、「車両情報」とも称する)を取得するためのセンサである。例えば、各種センサSNSRには、車両Vの走行速度(以下、「車速」とも称する)を検出する車速センサ、アクセルペダルに対する操作量(以下、「AP開度」とも称する)を検出するアクセルペダルセンサ、車両Vの各部(例えば電力変換装置PCU)の温度を検出する温度センサ(例えば後述の電力変換装置温度センサ62b)等が含まれる。各種センサSNSRによる検出結果は、検出信号として制御装置ECUへ送られる。
【0026】
制御装置ECUは、車両V全体を統括制御する装置(コンピュータ)である。制御装置ECUは、例えば、各種センサSNSRによって取得された車両情報に基づき、電力変換装置PCU、主駆動ユニットDU1、従駆動ユニットDU2、及び温調回路60を制御する。制御装置ECUによる具体的な制御の一例については後述するため、ここでの説明を省略する。
【0027】
制御装置ECUは、例えば、各種演算を行うプロセッサ、各種情報を記憶する非一過性の記憶媒体を有する記憶装置、制御装置ECUの内部と外部とのデータの入出力を制御する入出力装置等を備えるECU(Electronic Control Unit)によって実現される。なお、制御装置ECUは、1つのECUによって実現されてもよいし、複数のECUが協働することによって実現されてもよい。
【0028】
[電力変換装置]
図2は、主駆動ユニットDU1及び電力変換装置PCUの概略構成の一例を示す図である。
図2に示すように、電力変換装置PCUは、コンバータVCUと、第1インバータINV1と、第2インバータINV2と、第3インバータINV3とを含んで構成される。
【0029】
コンバータVCUは、コイル、コンデンサ、ダイオード、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)等のチップ化されたスイッチング素子(半導体素子)を有するDC-DCコンバータであり、スイッチング素子のスイッチングによって、入力された電圧を所定の電圧に変換して出力する機能を有する。例えば、コンバータVCUにはバッテリBATの出力電圧が入力され、コンバータVCUは、バッテリBATの出力電圧を昇圧することにより得られた電圧である昇圧電圧Vsを出力する。
【0030】
コンバータVCUには電流センサ11が設けられ、バッテリBATからコンバータVCUに出力される電流を検出する。また、コンバータVCUと第1インバータINV1及び第2インバータINV2との間には電圧センサ12が設けられ、コンバータVCUから第1インバータINV1及び第2インバータINV2に供給される昇圧電圧Vsを検出する。
【0031】
コンバータVCUから出力された昇圧電圧は、第2インバータINV2を介してモータMOT1に供給され得る。さらに、昇圧電圧は、第3インバータINV3を介してモータMOT2に供給され得る。すなわち、車両Vでは、単一のコンバータVCUによって生成された昇圧電圧がモータMOT1及びモータMOT2のそれぞれに対して共通して供給され得る。したがって、VCUチップのチップ温度が上昇しやすい。
【0032】
また、コンバータVCUは、第1インバータINV1、第2インバータINV2、または第3インバータINV3を介して入力された電圧を降圧して、バッテリBATへ出力してもよい。すなわち、コンバータVCUは、バッテリBATに入力(すなわち充電)される入力電圧を出力し得る。
【0033】
第1インバータINV1、第2インバータINV2、及び第3インバータINV3は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)等のチップ化されたスイッチング素子(不図示)を複数有し、これら複数のスイッチング素子のスイッチングによって、直流を交流に変換したり、交流を直流に変換したりする機能を有する。
【0034】
例えば、第1インバータINV1には、主駆動ユニットDU1のジェネレータGEN(後述)によって発電された電力(交流)が入力され得る。この場合、第1インバータINV1は、ジェネレータGENから受け付けた交流を直流に変換して、コンバータVCU、第2インバータINV2、及び第3インバータINV3の一部または全部へ出力する。
【0035】
第2インバータINV2には、コンバータVCUを介して受け付けたバッテリBATの電力(直流)、または第1インバータINV1を介して受け付けたジェネレータGENの電力(直流)が入力され得る。この場合、第2インバータINV2は、バッテリBATまたはジェネレータGENから受け付けた直流を交流に変換して、主駆動ユニットDU1のモータMOT1へ出力(すなわち供給)する。また、第2インバータINV2は、モータMOT1によって回生発電が行われた場合に、モータMOT1から受け付けた電力(交流)を直流に変換して、コンバータVCU等へ出力してもよい。
【0036】
第3インバータINV3には、コンバータVCUを介して受け付けたバッテリBATの電力(直流)、または第1インバータINV1を介して受け付けたジェネレータGENの電力(直流)が入力され得る。この場合、第3インバータINV3は、バッテリBATまたはジェネレータGENから受け付けた直流を交流に変換して、従駆動ユニットDU2のモータMOT2へ出力(すなわち供給)する(
図3も参照)。また、第3インバータINV3は、モータMOT2によって回生発電が行われた場合に、モータMOT2から受け付けた電力(交流)を直流に変換して、コンバータVCU等へ出力してもよい。
【0037】
[主駆動ユニット]
図2に示すように、主駆動ユニットDU1は、エンジンENGと、ジェネレータGENと、モータMOT1と、第1変速機構T1と、を含んで構成される。エンジンENGとしては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等を用いることができる。ジェネレータGENやモータMOT1としては、例えば三相式の交流モータを用いることができる。第1変速機構T1についての詳細は省略する。
【0038】
[従駆動ユニット]
図3は、従駆動ユニットDU2の概略構成の一例を示す図である。
図3に示すように、従駆動ユニットDU2は、モータMOT2と、第2変速機構T2とを含んで構成される。第2変速機構T2についての詳細は省略する。
【0039】
[温調回路]
図4は、温調回路60の概略構成の一例を示す図である。
図4に示すように、温調回路60は、第1温調回路61と、第2温調回路62と、熱交換器63とを含んで構成される。
【0040】
第1温調回路61は、非導電性の第1温調媒体TCM1が循環し、モータMOT1、ジェネレータGEN、及び第1変速機構T1(すなわち主駆動ユニットDU1)の温調を行う。第1温調回路61には、第1温調回路61を循環する第1温調媒体TCM1の温度を検出する第1温度センサ61aが設けられている。本実施形態では、第1温度センサ61aは、オイルパンである貯留部612に設けられており、貯留部612に貯留する第1温調媒体TCM1の温度を検出する。第1温度センサ61aは、貯留部612に貯留する第1温調媒体TCM1の温度の検出値を制御装置ECUに出力する。これにより、制御装置ECUは、第1温調媒体TCM1の温度を取得可能である。
【0041】
第2温調回路62は、導電性の第2温調媒体TCM2が循環し、電力変換装置PCUの温調を行う。第2温調回路62には、第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2の温度を検出する第2温度センサ62aが設けられている。本実施形態では、第2温度センサ62aは、ラジエータ622と分岐部624との間の圧送流路620aに設けられており、第2温調媒体TCM2の温度を検出する。第2温度センサ62aは、ラジエータ622から排出された第2温調媒体TCM2の温度の検出値を制御装置ECUに出力する。これにより、制御装置ECUは、第2温調媒体TCM2の温度を取得可能である。
【0042】
また、第2温調回路62によって温調される電力変換装置PCUには、電力変換装置PCUの温度を検出する電力変換装置温度センサ62bが設けられる。電力変換装置温度センサ62bは、電力変換装置PCUの温度の検出値を示す検出信号を制御装置ECUへ出力する。ここで、電力変換装置温度センサ62bは、第1インバータINV1、第2インバータINV2、第3インバータINV3、コンバータVCUに内蔵されるチップ化されたスイッチング素子の温度をそれぞれ検出可能に構成されていてもよい。これにより、制御装置ECUは、電力変換装置PCUに内蔵されるチップ温度を取得可能である。
【0043】
熱交換器63は、第1温調回路61を循環する第1温調媒体TCM1と、第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2との間で熱交換を行う。第1温調媒体TCM1としては、例えば、ATF(Automatic Transmission Fluid)と呼ばれる、モータMOT1、ジェネレータGEN、及び第1変速機構T1の潤滑と温調を行うオイルが用いられる。一方、第2温調媒体TCM2としては、例えば、LLC(Long Life Coolant)と呼ばれる冷却水が用いられる。
【0044】
第1温調回路61には、第1ポンプ611a、611bと、貯留部612とが設けられる。第1ポンプ611aは、エンジンENGの回転によって駆動され、第1ポンプ611bは、車両Vの車軸DSの回転力によって駆動される。第1ポンプ611a、611bは、第1温調媒体TCM1を圧送する機械式ポンプである。即ち、第1ポンプ611aの回転数はエンジンENGの回転数に応じて変動し、第1ポンプ611bの回転数は、車速に応じて変動する。貯留部612は、第1温調回路61を循環する第1温調媒体TCM1を貯留する。貯留部612は、例えば、モータMOT1、ジェネレータGEN、及び第1変速機構T1を収容する不図示のハウジングの底部に設けられたオイルパンである。
【0045】
また、第1温調回路61は、2つの第1ポンプ611a、611bが並列に設けられた圧送流路610aと、モータMOT1及びジェネレータGENが設けられた第1分岐流路610b1と、第1変速機構T1が設けられた第2分岐流路610b2と、圧送流路610aを第1分岐流路610b1及び第2分岐流路610b2に分岐する分岐部613と、を有する。
【0046】
圧送流路610aは、上流側の端部が貯留部612に接続され、第1ポンプ611a、611bを通って、下流側の端部が分岐部613に接続される。第1分岐流路610b1は、上流側の端部が分岐部613に接続され、モータMOT1及びジェネレータGENを通って、下流側の端部が貯留部612に接続される。第2分岐流路610b2は、上流側の端部が分岐部613に接続され、第1変速機構T1を通って、下流側の端部が貯留部612に接続される。
【0047】
第1温調回路61において、熱交換器63は、第1分岐流路610b1におけるモータMOT1及びジェネレータGENよりも上流に配置される。したがって、第1温調回路61には、第1ポンプ611a、611bから圧送された第1温調媒体TCM1が、(i)分岐部613から第1分岐流路610b1を通って、熱交換器63で第2温調媒体TCM2と熱交換することによって冷却され、モータMOT1及びジェネレータGENに供給されてモータMOT1及びジェネレータGENを潤滑・温調した後、貯留部612に貯留する第1の流路と、(ii)分岐部613から第2分岐流路610b2を通って、第1変速機構T1に供給されて第1変速機構T1を潤滑・温調した後、貯留部612に貯留する第2の流路と、が並列に形成される。貯留部612に貯留した第1温調媒体TCM1は、圧送流路610aを流れて第1ポンプ611a、611bに供給されて、第1の流路と第2の流路とを循環する。
【0048】
また、第1温調回路61は、調圧バルブ619が設けられた調圧回路610cをさらに有する。調圧回路610cは、上流側の端部が貯留部612に接続され、下流側の端部が第1ポンプ611a、611bより下流側で圧送流路610aに接続される。調圧バルブ619は、逆止弁であってもよいし、ソレノイドバルブ等の電磁弁であってもよい。第1ポンプ611a、611bから圧送される第1温調媒体TCM1の液圧が所定圧以上となると調圧バルブ619は開状態となり、第1ポンプ611a、611bから圧送される第1温調媒体TCM1の一部が貯留部612に戻される。これにより、第1分岐流路610b1及び第2分岐流路610b2を流れる第1温調媒体TCM1の液圧は、所定圧以下に保持される。
【0049】
第2温調回路62には、第2ポンプ621と、ラジエータ622と、貯留タンク623とが設けられる。第2ポンプ621は、例えば、バッテリBATの電力、またはジェネレータGENによって発電された電力によって駆動し、第2温調媒体TCM2を圧送する電動式ポンプであり、制御装置ECUによって制御される。第2ポンプ621の流量は、デューティーを上げることで増加し、デューティーを下げることで減少する。
【0050】
また、第2ポンプ621には、第2ポンプ621の回転速度を検出する回転速度センサ621aが取り付けられている。回転速度センサ621aは、第2ポンプ621の回転速度の検出値を示す検出信号を制御装置ECUへ出力する。制御装置ECUは、回転速度センサ621aの検出値、すなわち第2ポンプ621の回転速度に基づき、第2ポンプ621の流量を推定可能である。
【0051】
ラジエータ622は、車両Vの前部に配置されており、車両Vの走行時における走行風によって、第2温調媒体TCM2を冷却する放熱装置である。貯留タンク623は、第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2を一時的に貯留するタンクである。第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2にキャビテーションが発生した場合でも、第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2が貯留タンク623で一時的に貯留されることによって、第2温調媒体TCM2に発生したキャビテーションは消滅する。
【0052】
第2温調回路62は、分岐部624及び合流部625を有する。第2温調回路62は、貯留タンク623、第2ポンプ621、及びラジエータ622が、上流側からこの順に設けられる。また、第2温調回路62は、圧送流路620aをさらに有する。圧送流路620aは、上流側の端部が合流部625に接続され、貯留タンク623、第2ポンプ621、及びラジエータ622を通って、下流側の端部が分岐部624に接続される。貯留タンク623に貯留された第2温調媒体TCM2は、圧送流路620aを通って第2ポンプ621で圧送され、ラジエータ622で冷却される。
【0053】
また、第2温調回路62は、電力変換装置PCUが設けられた第1分岐流路620b1と、第1分岐流路620b1に並列に設けられ且つ熱交換器63が設けられた第2分岐流路620b2と、をさらに有する。
【0054】
具体的に説明すると、第1分岐流路620b1は、上流側の端部が分岐部624に接続され、電力変換装置PCUを通って、下流側の端部が合流部625に接続される。第2分岐流路620b2は、上流側の端部が分岐部624に接続され、熱交換器63を通って、下流側の端部が合流部625に接続される。
【0055】
本実施形態では、第2分岐流路620b2における熱交換器63よりも上流部分に、第2分岐流路620b2を流れる第2温調媒体TCM2の流量(換言すると、第1分岐流路620b1を流れる第2温調媒体TCM2の流量)を調整する流量調整弁としてのバルブ装置626が設けられている。
【0056】
本実施形態では、バルブ装置626をON-OFFバルブとする。すなわち、バルブ装置626は、開放時には第2分岐流路620b2を全開状態とする一方、閉鎖時には第2分岐流路620b2を全閉状態とする。なお、バルブ装置626は、ON-OFFバルブに限られず、第2分岐流路620b2を流れる第2温調媒体TCM2の流量を調節可能な可変流量バルブであってもよい。バルブ装置626は、制御装置ECUによって制御される。
【0057】
圧送流路620aにおいて第2ポンプ621で圧送されてラジエータ622で冷却された第2温調媒体TCM2は、分岐部624で第1分岐流路620b1と第2分岐流路620b2とに分岐する。第1分岐流路620b1を流れる第2温調媒体TCM2は、電力変換装置PCUを冷却して合流部625で第2分岐流路620b2及び圧送流路620aと合流する。第2分岐流路620b2を流れる第2温調媒体TCM2は、熱交換器63で第1温調媒体TCM1と熱交換することによって第1温調媒体TCM1を冷却し、合流部625で第1分岐流路620b1及び圧送流路620aと合流する。第1分岐流路620b1を流れた第2温調媒体TCM2と第2分岐流路620b2を流れた第2温調媒体TCM2とは、合流部625で合流して圧送流路620aを流れて貯留タンク623に一時的に貯留される。そして、貯留タンク623に貯留された第2温調媒体TCM2が圧送流路620aを通って第2ポンプ621に再び供給されて、第2温調媒体TCM2が第2温調回路62を循環する。
【0058】
一例として、第1温調回路61において、モータMOT1、ジェネレータGEN、及び第1変速機構T1を冷却した後に貯留部612に貯留した第1温調媒体TCM1の温度が約100[℃]であるとすると、熱交換器63には、約100[℃]の第1温調媒体TCM1が供給される。
【0059】
一方、第2温調回路62において、ラジエータ622で冷却された第2温調媒体TCM2の温度が約40[℃]であるとすると、熱交換器63に供給される第2温調媒体TCM2は、被温調装置である電力変換装置PCUを通らないため、熱交換器63には、約40[℃]の第2温調媒体TCM2が供給される。
【0060】
この場合、熱交換器63は、熱交換器63に供給された約100[℃]の第1温調媒体TCM1と約40[℃]の第2温調媒体TCM2との間で、熱交換を行う。そして、例えば、熱交換器63からは、約80[℃]の第1温調媒体TCM1が第1温調回路61における第1分岐流路610b1の下流側に排出され、約70[℃]の第2温調媒体TCM2が第2温調回路62における第2分岐流路620b2の下流側に排出される。
【0061】
このようにして、第1温調媒体TCM1は熱交換器63で冷却されるので、温調回路60に第1温調媒体TCM1を冷却するためのラジエータを別途設けなくても、第1温調媒体TCM1を冷却することができる。したがって、温調回路60は、1つのラジエータ622で、第1温調回路61を流れる第1温調媒体TCM1と第2温調回路62を流れる第2温調媒体TCM2とを冷却することができるので、温調回路60を小型化できる。
【0062】
なお、
図4の温調回路60の第1温調回路61では、分岐部624と合流部625との間において、第1分岐流路620b1に電力変換装置PCUが設けられ、電力変換装置PCUと並列となるように第2分岐流路620b2に熱交換器63が設けられていたが、これに限られない。例えば、
図9に示すように、圧送流路620aに、貯留タンク623、第2ポンプ621、ラジエータ622、電力変換装置PCU、熱交換器63が設けられ、電力変換装置PCUと熱交換器63とが直列に設けられていてもよい。
【0063】
[制御装置]
次に、制御装置ECUによる具体的な制御の一例について説明する。まず、制御装置ECUによる主駆動ユニットDU1及び従駆動ユニットDU2に関する制御について説明する。
【0064】
車両Vの走行に際し、制御装置ECUは、車速センサによって検出された車速、及びアクセルペダルセンサによって検出されたAP開度に基づき、車両Vの駆動力の目標値となる要求駆動力(換言すると車両Vの走行に要求される駆動力)を導出する。そして、制御装置ECUは、車両Vの駆動力が要求駆動力となるように、主駆動ユニットDU1及び従駆動ユニットDU2からの出力を制御する。
【0065】
例えば、制御装置ECUは、主駆動ユニットDU1及び従駆動ユニットDU2のそれぞれの出力配分比率を規定した出力配分マップ(不図示)を参照して、要求駆動力を、主駆動ユニットDU1からの出力と、従駆動ユニットDU2からの出力とに配分する。このとき、制御装置ECUは、主駆動ユニットDU1及び従駆動ユニットDU2のうちの一方(例えば従駆動ユニットDU2)からの出力を0としてもよい。
【0066】
[駆動モード]
また、本実施形態では、制御装置ECUは、以下に説明する複数の駆動モードによって主駆動ユニットDU1を駆動可能に構成され、主駆動ユニットDU1の駆動モードを適宜切り替えながら車両Vを走行させる。これにより、車両Vの状態に応じた適切な駆動モードで車両Vを走行させることが可能となる。
【0067】
<<1.EV走行モード>>
EV走行モードは、モータMOT1に対してバッテリBATの電力を供給し、この電力に応じてモータMOT1が出力した動力によって車両Vを走行させる駆動モードである。
【0068】
EV走行モードでは、エンジンENGからの動力の出力が停止され、ジェネレータGENに対して動力が入力されず、ジェネレータGENによる発電は行われない。
【0069】
<<2.ハイブリッド走行モード>>
ハイブリッド走行モードは、モータMOT1に対して少なくともジェネレータGENが発電した電力を供給し、この電力に応じてモータMOT1が出力した動力によって車両Vを走行させる駆動モードである。
【0070】
ハイブリッド走行モードの場合、制御装置ECUは、エンジンENGへの燃料の噴射を行って、エンジンENGから動力をジェネレータGENに入力させ、ジェネレータGENによる発電を行う。制御装置ECUは、ジェネレータGENが発電した電力をモータMOT1に供給し、この電力に応じた動力をモータMOT1に出力させる。
【0071】
なお、ハイブリッド走行モードの場合、制御装置ECUは、必要に応じてバッテリBATの電力もモータMOT1に供給し得る。すなわち、制御装置ECUは、ハイブリッド走行モードにおいて、ジェネレータGEN及びバッテリBATの双方からモータMOT1に電力を供給し得る。
【0072】
<<3.エンジン走行モード>>
エンジン走行モードは、エンジンENGが出力した動力を、第1変速機構T1の動力伝達経路によって前輪FWRに伝達して車両Vを走行させる駆動モードである。
【0073】
エンジン走行モードの場合、車両Vの制動時には、モータMOT1による回生発電を行って、発電された電力によりバッテリBATを充電するようにしてもよい。
【0074】
また、エンジン走行モードの場合、制御装置ECUは、必要に応じてバッテリBATからの電力をモータMOT1に供給し得る。これにより、エンジン走行モードでは、バッテリBATから供給された電力によってモータMOT1が出力した動力も用いて車両Vを走行させることができる。
【0075】
上記した走行モード(EV走行モード、ハイブリッド走行モード、エンジン走行モード)の説明では、主駆動ユニットDU1についてのみ説明したが、これらEV走行モード、ハイブリッド走行モード、エンジン走行モードにおいて、従駆動ユニットDU2のモータMOT2に対してバッテリBATの電力又はジェネレータGENが発電した電力を供給し、この電力に応じてモータMOT2が出力した動力によって車両Vの駆動をアシストしてもよい。また、車両Vの制動時には、モータMOT1による回生発電に加えて、従駆動ユニットDU2のモータMOT2による回生発電を行って、発電された電力によりバッテリBATを充電するようにしてもよい。
【0076】
車両Vは、燃費を優先する省燃費制御モードと、省燃費制御モードよりも消費電力が大きい通常モードと、を有する。省燃費制御モードでは、通常モードに比べて、エンジンENG、モータMOT1、MOT2の出力が制限され、第2ポンプ621の流量も低流量に制限される。
【0077】
[温調回路に関する制御]
次に制御装置ECUによる温調回路60の制御について説明する。なお、以下の説明では、4WD走行の説明以外は、説明を簡単にするために主駆動ユニットDU1による駆動を前提に説明する。
【0078】
バッテリBATの電力をモータMOT1に供給する場合、及び、モータMOT1による回生発電で発生した電力をバッテリBATに供給する場合、電力は上記したようにコンバータVCU、及び第2インバータINV2を経由する。このとき、コンバータVCUに内蔵されるチップ化されたスイッチング素子(以下、VCUチップとも称する)、第2インバータINV2に内蔵されるチップ化されたスイッチング素子(以下、INVチップとも称する)が発熱する。
【0079】
回生トルクが大きい強回生時、及び、EV走行モード及びハイブリッド走行モードにおいてアクセル開度が最大となるWOT時(Wide-Open-Throttle)において、瞬間的にVCUチップやINVチップの発熱(損失)が大きくなる。これらVCUチップ及びINVチップの温度が所定の温度(後述の上限温度Th1)に達すると出力制限が行われるため、上記した温調回路60(第1温調回路61)でこれらのチップを適切に冷却する必要がある。出力制限を回避するためには、常時、電動式ポンプである第2ポンプ621の流量を増やして積極的に電力変換装置PCUを冷却することも考えられるが、車両Vの暗騒音が小さい場合に第2ポンプ621の駆動音が騒音となることを避ける必要がある。
【0080】
また、省燃費制御モードでの走行時に第2ポンプ621の消費電力が増加することも避ける必要がある。そのため、制御装置ECUは、基本的に第2ポンプ621を低流量モード(例えば、
図6のL1(L/min))で駆動し、所定の条件を満たした場合にのみ第2ポンプ621の流量を増やし高流量モード(例えば、
図6のL2(L/min))で駆動する。
【0081】
図5は、エンジン走行モードにおいて一定の車速で通常走行している状態(図中、通常一定走行、以下、通常一定走行と称する)から、ブレーキペダルを踏んでモータMOT1で強回生した場合(以下、強回生と称する)のタイミングチャートである。
図5は、上から、バッテリBATからコンバータVCUに出力される電流の電流値I、コンバータVCUから第2インバータINV2に供給される昇圧電圧Vs、VCUチップのチップ温度T_VCUである。
図5中、太い実線が高車速走行、一点鎖線が中車速走行、破線が低車速走行を示している。
図5からわかるように、昇圧電圧Vs及びチップ温度T_VCUは、車速に依存する。
【0082】
通常一定走行から強回生へ移行すると、移行時にバッテリBATからコンバータVCUに出力される電流の電流値Iは急増し、回生最大電流値をとる。また、このときのコンバータVCUから第1インバータINV1に供給される昇圧電圧Vsは、通常一定走行から大きく変わらず車両が減速するのに従って低下する。VCUチップのチップ温度T_VCUは、移行時に大きく上昇する。
【0083】
強回生におけるVCUチップのチップ温度T_VCUは、車速に依存し、車速が早ければ早いほど上昇する。図中の符号Th1をモータMOT1、MOT2の出力制限が行われる閾値温度(以下、上限温度Th1と称する)とすると、高車速走行時にはチップ温度T_VCUが上限温度Th1を超えてしまう。
【0084】
同じ車速でコンバータVCUの昇圧電圧Vsを見ると、強回生前の昇圧電圧Vsによって強回生中の昇圧電圧Vsの最大値が決まる。即ち、強回生中の昇圧電圧Vsの最大値は、強回生前の昇圧電圧Vsに基づいて取得することができるので、第2ポンプ621の流量の増加を、強回生前の昇圧電圧Vsに基づいて制御することが考えらえる。
【0085】
もう少し詳しく説明すると、コンバータVCUの昇圧比は、モータMOT1及び第2インバータINV2、ジェネレータGEN及び第1インバータINV1、コンバータVCUの合計損失が最小となるように制御され、主にモータMOT1の高回転時ほど昇圧比が高くなる。コンバータVCUのVCUチップでの発熱は昇圧比と電流が大きいほど大きいが、電流が主にモータトルクに比例するためWOT時や強回生の動作時に瞬間的に増大するのに対し、昇圧比は電流ほど急速な変化はなく、およそWOT時や強回生の動作前の車速によって決まる。
【0086】
図6は、
図5と同じく、エンジン走行モードにおける通常一定走行からモータMOT1で強回生した場合のタイミングチャートである。
図6は、上から、コンバータVCUの熱損失、第2ポンプ621の流量、VCUチップのチップ温度T_VCUである。
図6中、太い実線が流量増加要求なしで第2ポンプ621の流量をL1(L/min)で固定した場合、一点鎖線が移行後に第2ポンプ621の流量をL1(L/min)からL2(L/min)に変更した場合(以下、事後要求)、破線が移行前に第2ポンプ621の流量をL1(L/min)からL2(L/min)に変更した場合(以下、事前要求)を示している。
図6からわかるように、チップ温度T_VCUは、第2ポンプ621の流量と流量を変更するタイミングに依存する。
【0087】
通常一定走行状態から強回生状態へ移行すると、
図5で説明したように移行時にバッテリBATからコンバータVCUに出力される電流の電流値Iは急増する。これに伴ってコンバータVCUの熱損失も急増する。このとき、
図6の太い実線で示すように、第2ポンプ621に対し流量の増加を要求しない場合、チップ温度T_VCUは温度H1まで上昇する。これに対し、
図6の一点鎖線で示すように電流値Iの急増に基づいて第2ポンプ621の流量を増加した場合、即ち、移行後に流量増加を事後要求した場合、応答遅れが発生してコンバータVCUの熱損失が急増した所定時間後(例えば、1~3秒後)に第2ポンプ621の流量が増加する。この場合、チップ温度T_VCUは温度H2まで上昇する。
【0088】
また、
図6の破線で示すように強回生前の昇圧電圧Vsに基づいて第2ポンプ621の流量を予め増加した場合、即ち、移行前に流量増加を事前要求した場合、応答遅れが発生せずコンバータVCUの熱損失が急増する前から第2ポンプ621の流量が増加する。この場合、チップ温度T_VCUは温度H3まで上昇する。チップ温度H1~H3を比較すると、強回生前の昇圧電圧Vsに基づいて第2ポンプ621の流量を増加した場合の温度H3が最も低い温度となり、チップ温度T_VCUの上昇が効果的に抑制されることがわかる。
【0089】
したがって、制御装置ECUは、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsに基づいて第2ポンプ621の流量を制御する。より具体的には、
図5に示すように、第2ポンプ621の流量が増加した状態(
図6のL2(L/min))で冷却されるVCUチップのチップ温度T_VCUが上限温度Th1を超えない昇圧電圧Vsの閾値電圧Th0を設定する。なお、この閾値電圧Th0は、省燃費制御モードでは、到達しない値である。また、アイドリングストップ時には、コンバータVCUで昇圧しないので言うまでもなく到達しない値である。
【0090】
そして、制御装置ECUは、閾値電圧Th0以下では第2ポンプ621の流量を増加せず(
図6のL1(L/min))、閾値電圧Th0以上の場合に第2ポンプ621の流量を増加させる(
図6のL2(L/min))。このように制御装置ECUがコンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsに基づいて第2ポンプ621の流量を制御し、昇圧電圧Vsが閾値電圧Th0以上の場合に、第2ポンプ621の流量を増加させることにより、高負荷動作時にVCUチップのチップ温度の上昇を抑制することができる。また、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsに基づいて第2ポンプ621の流量を制御することで、バッテリBATからコンバータVCUに出力される電流の電流値Iに基づいて第2ポンプ621の流量を制御する場合に比べて、応答遅れが発生しない。
【0091】
また、アイドルストップ時など低暗騒音時には、そもそもコンバータVCUによる昇圧は行わない。したがって、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsが閾値電圧Th0以上になることはなく、第2ポンプ621の流量を増加させることはない。そのため、低暗騒音時における第2ポンプ621の動作音による騒音を抑制できる。
【0092】
さらに、省燃費制御モードなどの低負荷走行時には、コンバータVCUの昇圧比は限られるので、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsが閾値電圧Th0以上になることはなく、第2ポンプ621の流量を増加させることはない。そのため、低負荷走行時における第2ポンプ621の電力消費の増加を回避できる。
【0093】
図7は、モータMOT1の回転数と、モータMOT1のトルク及び出力との関係を示す図である。
図7のS1で示される領域は、車両Vの高車速領域である。即ち、モータMOT1が高回転、低トルク、高出力で駆動している領域である。この領域では、制御装置ECUは、前述したように、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsに基づいて第2ポンプ621の流量を制御する。前述したように、スロットル全開時(WOT)や強回生時といった瞬間的に高負荷がかかる車両動作において急速にVCUチップのチップ温度が上昇することを事前に予測し、予め第2ポンプ621の流量を増加させておくことで、応答遅れによるチップ温度の上昇を抑制することができる。
【0094】
図7のS2で示される領域は、車両Vの低車速領域である。即ち、モータMOT1が低回転、高トルク、低出力で駆動している領域である。この領域では、制御装置ECUは、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsが閾値電圧Th0未満であっても、コンバータVCU等のチップ温度の上昇を抑制する必要がある。言い換えると、この領域では、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsが閾値電圧Th0未満であっても、コンバータVCU等のチップ温度が上限温度Th1を超える虞がある。上述したモータMOT1によるEV走行モード(2WD)では、コンバータVCU及び第2インバータINV2の負荷が高くなりこれらのチップ温度の上昇を抑制する必要がある。一方、モータMOT1及びモータMOT2によるEV走行(4WD)では、コンバータVCUの負荷が高くVCUチップのチップ温度の上昇を抑制する必要がある。
【0095】
図8は、2WDでのEV走行におけるモータトルクと、4WDでのEV走行におけるモータトルクと、を示す図である。太い実線が2WDでのEV走行時におけるモータMOT1のトルク(MOT1トルク(2WD))であり、一点鎖線が4WDでのEV走行時におけるモータMOT1のトルク(MOT1トルク(4WD))であり、二点鎖線が4WDでのEV走行時におけるモータMOT2のトルク(MOT2トルク(4WD))であり、破線が4WDでのEV走行時におけるモータMOT1のトルク(MOT1トルク(4WD))とモータMOT2のトルク(MOT2トルク(4WD))をあわせた合計トルク(合計トルク(4WD))である。
【0096】
制御装置ECUは、2WDでのEV走行時において、モータMOT1のトルク(MOT1トルク)が所定の閾値トルクTh2未満の場合、第2ポンプ621の流量を増加せず、閾値トルクTh2以上の場合に第2ポンプ621の流量を増加させる。また、4WDでのEV走行時に、モータMOT1とモータMOT2の合計トルク(合計トルク(4WD))が所定の閾値トルクTh2未満では第2ポンプ621の流量を増加せず、閾値トルクTh2以上の場合に第2ポンプ621の流量を増加させる。なお、この閾値トルクTh2は、省燃費制御モードでは、到達しない値である。また、言うまでもなく、アイドリングストップ時には、到達しない値である。
【0097】
このように低車速領域では、モータトルクがチップ温度と密接に関わるため、トルク値若しくはトルク指示値に基づいて第2ポンプ621の流量を制御することで、応答遅れを抑制することができる。また、4WDでのEV走行時にモータMOT1のトルク(MOT1トルク(4WD))とモータMOT2のトルク(MOT2トルク(4WD))をあわせた合計トルクと閾値トルクTh2を比較することで、応答遅れの発生を抑制することができる。これにより、昇圧電圧Vsによる基準ではカバーできない領域でも適切にチップ温度の上昇を抑制することができる。
【0098】
図7に戻って、S3で示される領域は、車両Vの中車速領域である。即ち、モータMOT1が中回転、高~中トルク、中~高出力で駆動している領域である。この領域では、制御装置ECUは、前述したように、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsが閾値電圧Th0未満であっても、VCUチップのチップ温度の上昇を抑制する必要がある。即ち、コンバータVCUにより昇圧された昇圧電圧Vsが閾値電圧Th0未満であっても、VCUチップのチップ温度が上限温度Th1を超える虞がある。
【0099】
制御装置ECUは、VCUチップのチップ温度が上限温度Th1を超えないよう閾値温度Th3(
図5参照)未満では第2ポンプ621の流量を増加せず、閾値温度Th3以上の場合に第2ポンプ621の流量を増加させる。この領域S3では、チップ温度の上昇がそれほど早くなく、直接的にチップ温度に基づいて第2ポンプ621の流量を制御しても上限温度Th1に達することを回避することができる。なお、この閾値温度Th3は、省燃費制御モードでは、到達しない値である。また、言うまでもなく、アイドリングストップ時には、到達しない値である。これにより、昇圧電圧Vsによる基準ではカバーできない領域でも適切にチップ温度の上昇を抑制することができる。
【0100】
制御装置ECUは、
図7に示す領域S1と領域S3の重複領域、及び、領域S2と領域S3の重複領域において、いずれかの領域における流量増加の要件を満たした場合に、第2ポンプ621の流量を増加させる。これにより、チップ温度が閾値電圧Th0を超える可能性のある領域において、より適切にチップ温度を冷却することができる。
【0101】
以上、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0102】
例えば、前述した実施形態では、主駆動ユニットDU1が前輪FWRを駆動し、従駆動ユニットDU2が後輪RWRを駆動するものとしたが、主駆動ユニットDU1が後輪RWRを駆動し、従駆動ユニットDU2が前輪FWRを駆動するものとしてもよい。
【0103】
さらに、前述した実施形態では、主駆動ユニットDU1を車両Vの主要な駆動源とし、従駆動ユニットDU2を補助的な駆動源としたが、主駆動ユニットDU1を補助的な駆動源とし、従駆動ユニットDU2を車両Vの主要な駆動源としてもよい。
【0104】
さらに、前述した実施形態では、車両Vを、主駆動ユニットDU1により前輪FWRを、従駆動ユニットDU2により後輪RWRを、それぞれ駆動可能な四輪駆動車両としたが、これに限られない。例えば、従駆動ユニットDU2を車両Vに設けず、車両Vを、主駆動ユニットDU1により前輪FWRのみを駆動可能な二輪駆動車両としてもよい。
【0105】
また、前述した実施形態では、主駆動ユニットDU1にエンジンENGを設けて、車両Vをハイブリッド電気自動車としたが、これに限られない。例えば、エンジンENGを主駆動ユニットDU1に設けず、車両Vを電気自動車としてもよい。
【0106】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0107】
本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0108】
(1) バッテリ(バッテリBAT)と、
モータ(モータMOT1)と、
前記バッテリから出力される直流電力を交流電力に変換して前記モータに供給するインバータ(第2インバータINV2)と、
前記バッテリからの直流電圧を昇圧した昇圧電圧を前記インバータに供給するコンバータ(コンバータVCU)と、
電動ポンプ(第2ポンプ621)によって冷媒を流通させて前記インバータ及び前記コンバータを冷却する冷却装置(温調回路60)と、
前記冷却装置を制御する制御装置(制御装置ECU)と、を備える車両(車両V)であって、
前記制御装置は、
前記コンバータにより昇圧された前記昇圧電圧に基づいて前記電動ポンプの流量を制御し、
前記昇圧電圧が第1所定値(閾値電圧Th0)以上の場合に、前記電動ポンプの流量を増加させる、車両。
【0109】
電動ポンプの流量を増加してコンバータのスイッチング素子の温度(以下、チップ温度)の上昇を抑制するためには、スイッチング素子の高負荷動作が始まってからでは間に合わない。(1)によれば、チップ温度が上昇する事前要因としてコンバータの昇圧後の昇圧電圧に基づき電動ポンプの流量を増加させる。即ち、スイッチング素子の高負荷動作が始まる前にチップ温度が上昇することが予測されるときに電動ポンプの流量を増加させる。これにより、コンバータのチップを大型化させることなく、高負荷動作時におけるコンバータのチップ温度の上昇を適切に抑制することができる。また、アイドルストップ時などの低暗騒音時にはコンバータによる昇圧は行なわないので、電動ポンプの動作音による騒音を抑制できる。さらに、省燃費制御モードなどの低負荷走行時にはコンバータの昇圧比は限られるので、電動ポンプの電力消費の増加を回避できる。
【0110】
(2) (1)に記載の車両であって、
前記モータは、前輪を駆動する第1モータと、後輪を駆動する第2モータと、を有し、
前記制御装置は、さらに前記第1モータ及び前記第2モータの合計トルクに基づいて前記電動ポンプの流量を制御し、
前記合計トルクが第2所定値(閾値トルクTh2)以上の場合に、前記電動ポンプの流量を増加させる、車両。
【0111】
(2)によれば、昇圧電圧による基準ではカバーできない領域でも適切にチップ温度の上昇を抑制することができる。また、前輪用の第1モータと後輪用の第2モータの合計トルクでも電動ポンプの流量の増加の要否を判断することで、応答遅れを抑制できる。
【0112】
(3) (2)に記載の車両であって、
前記制御装置は、さらに前記コンバータのスイッチング素子の温度に基づいて前記電動ポンプの流量を制御し、
前記スイッチング素子の温度が第3所定値(閾値温度Th3)以上の場合に、前記電動ポンプの流量を増加させる、車両。
【0113】
(3)によれば、スイッチング素子の温度に基づいて電動ポンプの流量を増加しても間に合う場合には、スイッチング素子の温度に基づいて電動ポンプの流量を増加することで、昇圧電圧による基準ではカバーできない領域でも適切にチップ温度の上昇を抑制することができる。
【0114】
(4) (1)に記載の車両であって、
燃費を優先する省燃費制御モードと、前記省燃費制御モードよりも消費電力が大きい通常モードと、を有し、
前記第1所定値は、前記省燃費制御モードでは到達しない値に設定される、車両。
【0115】
(4)によれば、省燃費制御モードでは電動ポンプの流量を増加させないため、省燃費制御モードで電動ポンプの流量増加による燃費の悪化を回避できる。
【符号の説明】
【0116】
60 温調回路(冷却装置)
621 第2ポンプ(電動ポンプ)
BAT バッテリ
ECU 制御装置
INV2 第2インバータ(インバータ)
VCU コンバータ
MOT1 モータ(第1モータ)
Th0 閾値電圧(第1所定値)
Th2 閾値トルク(第2所定値)
Th3 閾値温度(第3所定値)
V 車両