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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175872
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/30 20060101AFI20241212BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20241212BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241212BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20241212BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20241212BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241212BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B60W10/30 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/26 900
B60W20/15
B60L3/00 J
B60L1/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093947
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 純平
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 賢史
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB11
3D202BB22
3D202BB46
3D202CC45
3D202CC55
3D202CC61
3D202DD01
3D202DD29
3D202DD46
3D202EE00
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA09
5H125BC25
5H125CD06
5H125EE15
5H125EE51
5H125EE52
5H125EE70
5H125FF22
5H125FF23
(57)【要約】
【課題】第2温調媒体の流量を変化させた瞬間のオーバーシュートを抑制可能な車両を提供する。
【解決手段】車両Vは、バッテリBATと、モータMOT1と、電力変換装置PCUと、温調回路60と、温調回路60を制御する制御装置ECUと、を備える。温調回路60は、第1ポンプ611a、611bにより第1温調媒体TCM1を循環させてモータMOT1を冷却する第1温調回路61と、第2ポンプ621とラジエータ622とを備え、第2ポンプ621により第2温調媒体TCM2を循環させて電力変換装置PCUを冷却する第2温調回路62と、第1温調回路61の前記第1温度媒体と第2温調回路62の第2温調媒体TCM2との間で熱交換する熱交換器63と、を備える。制御装置ECUは、第1温調媒体TCM1の温度がデューティーアップ閾値To1以上になった場合に、第2ポンプ621の流量を増加させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリと、
モータと、
前記バッテリと前記モータとの電力伝達経路上に配置される電力変換装置と、
前記モータ及び前記電力変換装置の温度を調整する温調システムと、
前記温調システムを制御する制御装置と、を備える、車両であって、
前記温調システムは、
第1ポンプにより第1温調媒体を循環させて前記モータを冷却する第1温調回路と、
第2ポンプとラジエータとを備え、前記第2ポンプにより第2温調媒体を循環させて前記電力変換装置を冷却する第2温調回路と、
前記第1温調回路の第1温度媒体と前記第2温調回路の第2温調媒体との間で熱交換する熱交換器と、を備え、
前記制御装置は、
前記第1温調媒体の温度が所定値以上になった場合に、前記第2ポンプの流量を増加させる、車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両であって、
前記第1ポンプは、車速に応じて回転数が変動し、
前記第2ポンプは、前記第2温調媒体の温度に応じて基本回転数が設定されており、
前記制御装置は、前記第1温調媒体の温度が所定以上になった場合に、前記基本回転数よりも高い回転数で前記第2ポンプを駆動する、車両。
【請求項3】
請求項2に記載の車両であって、
前記所定値は、前記第1温度媒体の管理上限温度よりも低い温度である、車両。
【請求項4】
請求項1に記載の車両であって、
燃費を優先する省燃費制御モードと、前記省燃費制御モードよりも効率の低い通常モードと、を有し、
前記所定値は、前記省燃費制御モードでは到達しない値に設定される、車両。
【請求項5】
請求項2に記載の車両であって、
前記制御装置は、アイドリングストップ時に、前記第1温調媒体の温度に基づく前記第2ポンプの流量増加を禁止する、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の気候変動に対する具体的な対策として、低炭素社会または脱炭素社会の実現に向けた取り組みが活発化している。自動車などの車両においても、CO2排出量の削減やエネルギー効率の向上が要求され、駆動源の電動化が進んでいる。例えば、駆動輪を駆動する駆動源としてのモータと、このモータに電力を供給する電源としてのバッテリと、バッテリの電力を変換してモータに供給する電力変換装置と、を備える電気自動車やハイブリッド電気自動車が開発されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、モータの温調を行う第1温調回路と、電力変換装置の温調を行う第2温調回路と、第1温調回路を循環する第1温調媒体と第2温調回路を循環する第2温調媒体との間の熱交換を行う熱交換器と、を備える車両用温調システムが開示されている。第1温調媒体としては、典型的にはATF(Automatic transmission fluid)であり、第2温調媒体としては、典型的にはLLC(Long Life Coolant)である。
【0004】
電力変換装置には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのチップが搭載されており、ラジエータが冷やした第2温調媒体を電動ポンプで流すことによって冷却している。電動ポンプはデューティー(デューティー比)を上下させることで流量をコントロールできる。
【0005】
この車両用温調システムでは、第1温調回路の第1温度媒体と第2温調回路の第2温調媒体との間で熱交換させ、第2温調回路に設けられたラジエータで、モータ及び電力変換装置の熱を放熱する。第2温調回路に設けられた電動ポンプは、車両低負荷時は騒音・燃費観点での制約に基づいて低デューティーで制御され、電力変換装置の内部部品温度、第2温調媒体の温度、モータ内部部品温度、第1温調媒体の温度等がそれぞれの管理上限温度に近づいた場合にデューティーを引き上げて制御され、冷却性能が確保される。
【0006】
また、特許文献2には、LLC温度の方がATF温度よりも熱くなっている場合に、冷たいATFを利用してLLCを冷却するためにATFポンプ・LLCポンプを駆動することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-108684号公報
【特許文献2】特開2021-13287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電力変換装置を含む第2温調回路に対して、モータを含む第1温調回路は熱容量が非常に大きい。よって、第2温調媒体の流量や第1温調媒体の流量が増減することで熱交換器での熱交換量が変化したとき、第1温調回路の温度はすぐには変化せず、第2温調回路の温度が急激に変化する。特に第2温調媒体の流量が増加したとき、熱交換器からの第2温調媒体への受熱量が一時的に大きくなり、第2温調媒体の温度が高くなる。時間がたつと第1温調媒体の温度が徐々に下がるにしたがって熱交換量も減少し、第2温調媒体の温度も低下したところで温度飽和に至る。
【0009】
即ち、この車両用温調システムでは、第2温調媒体の流量を変化させた瞬間の第2温調媒体の水温が温度飽和時の水温よりも高くなってしまう現象(オーバーシュート)が起こりうる。これによって、電力変換装置の内部部品からの冷却要求によって第2温調媒体の流量を引き上げたとき、流量増加による第2温調媒体の温度上昇が発生し、電力変換装置の内部部品温度がむしろ上昇してしまうことが起こりうる。
【0010】
特許文献2には、走行中にATFがLLCより熱くなってオーバーシュートが発生し得ることについて想定されておらず改善の余地があった。
【0011】
本発明は、第2温調媒体の流量を変化させた瞬間のオーバーシュートを抑制可能な車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
バッテリと、
モータと、
前記バッテリと前記モータとの電力伝達経路上に配置される電力変換装置と、
前記モータ及び前記電力変換装置の温度を調整する温調システムと、
前記温調システムを制御する制御装置と、を備える、車両であって、
前記温調システムは、
第1ポンプにより第1温調媒体を循環させて前記モータを冷却する第1温調回路と、
第2ポンプとラジエータとを備え、前記第2ポンプにより第2温調媒体を循環させて前記電力変換装置を冷却する第2温調回路と、
前記第1温調回路の第1温度媒体と前記第2温調回路の第2温調媒体との間で熱交換する熱交換器と、を備え、
前記制御装置は、
前記第1温調媒体の温度が所定値以上になった場合に、前記第2ポンプの流量を増加させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第2温調媒体の流量を変化させた瞬間のオーバーシュートを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態の車両Vの概略構成の一例を示す図である。
図2】主駆動ユニットDU1及び電力変換装置PCUの概略構成の一例を示す図である。
図3】温調回路60の概略構成の一例を示す図である。
図4】制御装置ECUによる第2ポンプ621の流量制御における制御ロジックを示す図である。
図5】第2ポンプ621の流量(LLC流量)を変更したときの第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)による第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)の影響を示すグラフである。
図6】第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)と第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)との関係を示すグラフである。
図7】第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)による要求デューティーとの関係を示す図である。
図8】変形例の温調回路60を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の車両の一実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面は、符号の向きに見るものとする。また、以下では、同一または類似の要素には同一または類似の符号を付して、その説明を適宜省略または簡略化することがある。
【0016】
[車両]
図1は、本発明の車両の一実施形態の車両Vの概略構成の一例を示す図である。図1において、太実線は機械連結を示し、破線は電気配線を示し、実線矢印は制御信号または検出信号を示す。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の車両Vは、主駆動ユニットDU1を備える。
【0018】
主駆動ユニットDU1は、モータMOT1を含んで構成され、少なくともモータMOT1の動力によって車両Vの前輪FWRを駆動可能に構成される。また、主駆動ユニットDU1は、車両Vが備える温調回路60(例えば後述の第1温調回路61)によって温調(例えば冷却)される。
【0019】
このように、主駆動ユニットDU1を備える車両Vは、前輪FWRを駆動可能に構成されるが、後輪RWRを駆動する従駆動ユニットを備えた、いわゆる「四輪駆動車両」であってもよい。
【0020】
車両Vは、バッテリBATと、電力変換装置PCUと、各種センサSNSRと、制御装置ECUとをさらに備える。
【0021】
バッテリBATは、充放電可能な二次電池であり、直列または直並列に接続された複数の蓄電セルを有し、例えば100~400[V]といった高電圧を出力可能に構成される。バッテリBATの蓄電セルとしては、リチウムイオン電池(固体電解質を用いた、いわゆる「全固体電池」を含む)や、ニッケル水素電池等を用いることができる。
【0022】
電力変換装置PCUは、主駆動ユニットDU1(例えばモータMOT1)とバッテリBATとの間で授受される電力の変換を行う装置である。電力変換装置PCUの詳細については後述するため、ここでの説明を省略する。
【0023】
各種センサSNSRは、車両Vに関する情報(以下、「車両情報」とも称する)を取得するためのセンサである。例えば、各種センサSNSRには、車両Vの走行速度(以下、「車速」とも称する)を検出する車速センサ、アクセルペダルに対する操作量(以下、「AP開度」とも称する)を検出するアクセルペダルセンサ、車両Vの各部(例えば電力変換装置PCU)の温度を検出する温度センサ(例えば後述の電力変換装置温度センサ62b)等が含まれる。各種センサSNSRによる検出結果は、検出信号として制御装置ECUへ送られる。
【0024】
制御装置ECUは、車両V全体を統括制御する装置(コンピュータ)である。制御装置ECUは、例えば、各種センサSNSRによって取得された車両情報に基づき、電力変換装置PCU、主駆動ユニットDU1、及び温調回路60を制御する。制御装置ECUによる具体的な制御の一例については後述するため、ここでの説明を省略する。
【0025】
制御装置ECUは、例えば、各種演算を行うプロセッサ、各種情報を記憶する非一過性の記憶媒体を有する記憶装置、制御装置ECUの内部と外部とのデータの入出力を制御する入出力装置等を備えるECU(Electronic Control Unit)によって実現される。なお、制御装置ECUは、1つのECUによって実現されてもよいし、複数のECUが協働することによって実現されてもよい。
【0026】
[電力変換装置]
図2は、主駆動ユニットDU1及び電力変換装置PCUの概略構成の一例を示す図である。図2に示すように、電力変換装置PCUは、コンバータVCUと、第1インバータINV1と、第2インバータINV2と含んで構成される。
【0027】
コンバータVCUは、コイル、コンデンサ、ダイオード、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)等のチップ化されたスイッチング素子(半導体素子)を有するDC-DCコンバータであり、スイッチング素子のスイッチングによって、入力された電圧を所定の電圧に変換して出力する機能を有する。例えば、コンバータVCUにはバッテリBATの出力電圧が入力され、コンバータVCUは、バッテリBATの出力電圧を昇圧することにより昇圧電圧を出力する。
【0028】
コンバータVCUには電流センサ11が設けられ、バッテリBATからコンバータVCUに出力される電流を検出する。また、コンバータVCUと第1インバータINV1及び第2インバータINV2との間には電圧センサ12が設けられ、コンバータVCUから第1インバータINV1及び第2インバータINV2に供給される昇圧電圧を検出する。
【0029】
コンバータVCUから出力された昇圧電圧は、第2インバータINV2を介してモータMOT1に供給され得る。
【0030】
また、コンバータVCUは、第1インバータINV1、第2インバータINV2を介して入力された電圧を降圧して、バッテリBATへ出力してもよい。すなわち、コンバータVCUは、バッテリBATに入力(すなわち充電)される入力電圧を出力し得る。
【0031】
第1インバータINV1、及び第2インバータINV2は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)等のチップ化されたスイッチング素子(不図示)を複数有し、これら複数のスイッチング素子のスイッチングによって、直流を交流に変換したり、交流を直流に変換したりする機能を有する。
【0032】
例えば、第1インバータINV1には、主駆動ユニットDU1のジェネレータGEN(後述)によって発電された電力(交流)が入力され得る。この場合、第1インバータINV1は、ジェネレータGENから受け付けた交流を直流に変換して、コンバータVCU、及び第2インバータINV2の一部または全部へ出力する。
【0033】
第2インバータINV2には、コンバータVCUを介して受け付けたバッテリBATの電力(直流)、または第1インバータINV1を介して受け付けたジェネレータGENの電力(直流)が入力され得る。この場合、第2インバータINV2は、バッテリBATまたはジェネレータGENから受け付けた直流を交流に変換して、主駆動ユニットDU1のモータMOT1へ出力(すなわち供給)する。また、第2インバータINV2は、モータMOT1によって回生発電が行われた場合に、モータMOT1から受け付けた電力(交流)を直流に変換して、コンバータVCU等へ出力してもよい。
【0034】
[主駆動ユニット]
図2に示すように、主駆動ユニットDU1は、エンジンENGと、ジェネレータGENと、モータMOT1と、第1変速機構T1と、を含んで構成される。エンジンENGとしては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等を用いることができる。ジェネレータGENやモータMOT1としては、例えば三相式の交流モータを用いることができる。第1変速機構T1についての詳細は省略する。
【0035】
[温調回路]
図3は、温調回路60の概略構成の一例を示す図である。図3に示すように、温調回路60は、第1温調回路61と、第2温調回路62と、熱交換器63とを含んで構成される。
【0036】
第1温調回路61は、非導電性の第1温調媒体TCM1が循環し、モータMOT1、ジェネレータGEN、及び第1変速機構T1(すなわち主駆動ユニットDU1)の温調を行う。第1温調回路61には、第1温調回路61を循環する第1温調媒体TCM1の温度を検出する第1温度センサ61aが設けられている。本実施形態では、第1温度センサ61aは、オイルパンである貯留部612に設けられており、貯留部612に貯留する第1温調媒体TCM1の温度を検出する。第1温度センサ61aは、貯留部612に貯留する第1温調媒体TCM1の温度の検出値を制御装置ECUに出力する。これにより、制御装置ECUは、第1温調媒体TCM1の温度を取得可能である。
【0037】
第2温調回路62は、導電性の第2温調媒体TCM2が循環し、電力変換装置PCUの温調を行う。第2温調回路62には、第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2の温度を検出する第2温度センサ62aが設けられている。本実施形態では、第2温度センサ62aは、ラジエータ622と分岐部624との間の圧送流路620aに設けられており、第2温調媒体TCM2の温度を検出する。第2温度センサ62aは、ラジエータ622から排出された第2温調媒体TCM2の温度の検出値を制御装置ECUに出力する。これにより、制御装置ECUは、第2温調媒体TCM2の温度を取得可能である。
【0038】
また、第2温調回路62によって温調される電力変換装置PCUには、電力変換装置PCUの温度を検出する電力変換装置温度センサ62bが設けられる。電力変換装置温度センサ62bは、電力変換装置PCUの温度の検出値を示す検出信号を制御装置ECUへ出力する。ここで、電力変換装置温度センサ62bは、第1インバータINV1、第2インバータINV2、コンバータVCUに内蔵されるチップ化されたスイッチング素子の温度をそれぞれ検出可能に構成されていてもよい。これにより、制御装置ECUは、電力変換装置PCUに内蔵されるチップ温度を取得可能である。
【0039】
熱交換器63は、第1温調回路61を循環する第1温調媒体TCM1と、第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2との間で熱交換を行う。第1温調媒体TCM1としては、例えば、ATF(Automatic Transmission Fluid)と呼ばれる、モータMOT1、ジェネレータGEN、及び第1変速機構T1の潤滑と温調を行うオイルが用いられる。一方、第2温調媒体TCM2としては、例えば、LLC(Long Life Coolant)と呼ばれる冷却水が用いられる。
【0040】
第1温調回路61には、第1ポンプ611a、611bと、貯留部612とが設けられる。第1ポンプ611aは、エンジンENGの回転によって駆動され、第1ポンプ611bは、車両Vの車軸DSの回転によって駆動される。第1ポンプ611a、611bは、第1温調媒体TCM1を圧送する機械式ポンプである。即ち、第1ポンプ611aの回転数はエンジンENGの回転数に応じて変動し、第1ポンプ611bの回転数は、車速に応じて変動する。貯留部612は、第1温調回路61を循環する第1温調媒体TCM1を貯留する。貯留部612は、例えば、モータMOT1、ジェネレータGEN、及び第1変速機構T1を収容する不図示のハウジングの底部に設けられたオイルパンである。
【0041】
また、第1温調回路61は、2つの第1ポンプ611a、611bが並列に設けられた圧送流路610aと、モータMOT1及びジェネレータGENが設けられた第1分岐流路610b1と、第1変速機構T1が設けられた第2分岐流路610b2と、圧送流路610aを第1分岐流路610b1及び第2分岐流路610b2に分岐する分岐部613と、を有する。
【0042】
圧送流路610aは、上流側の端部が貯留部612に接続され、第1ポンプ611a、611bを通って、下流側の端部が分岐部613に接続される。第1分岐流路610b1は、上流側の端部が分岐部613に接続され、モータMOT1及びジェネレータGENを通って、下流側の端部が貯留部612に接続される。第2分岐流路610b2は、上流側の端部が分岐部613に接続され、第1変速機構T1を通って、下流側の端部が貯留部612に接続される。
【0043】
第1温調回路61において、熱交換器63は、第1分岐流路610b1におけるモータMOT1及びジェネレータGENよりも上流に配置される。したがって、第1温調回路61には、第1ポンプ611a、611bから圧送された第1温調媒体TCM1が、(i)分岐部613から第1分岐流路610b1を通って、熱交換器63で第2温調媒体TCM2と熱交換することによって冷却され、モータMOT1及びジェネレータGENに供給されてモータMOT1及びジェネレータGENを潤滑・温調した後、貯留部612に貯留する第1の流路と、(ii)分岐部613から第2分岐流路610b2を通って、第1変速機構T1に供給されて第1変速機構T1を潤滑・温調した後、貯留部612に貯留する第2の流路と、が並列に形成される。貯留部612に貯留した第1温調媒体TCM1は、圧送流路610aを流れて第1ポンプ611a、611bに供給されて、第1の流路と第2の流路とを循環する。
【0044】
また、第1温調回路61は、調圧バルブ619が設けられた調圧回路610cをさらに有する。調圧回路610cは、上流側の端部が貯留部612に接続され、下流側の端部が第1ポンプ611a、611bより下流側で圧送流路610aに接続される。調圧バルブ619は、逆止弁であってもよいし、ソレノイドバルブ等の電磁弁であってもよい。第1ポンプ611a、611bから圧送される第1温調媒体TCM1の液圧が所定圧以上となると調圧バルブ619は開状態となり、第1ポンプ611a、611bから圧送される第1温調媒体TCM1の一部が貯留部612に戻される。これにより、第1分岐流路610b1及び第2分岐流路610b2を流れる第1温調媒体TCM1の液圧は、所定圧以下に保持される。
【0045】
第2温調回路62には、第2ポンプ621と、ラジエータ622と、貯留タンク623とが設けられる。第2ポンプ621は、例えば、バッテリBATの電力、またはジェネレータGENによって発電された電力によって駆動し、第2温調媒体TCM2を圧送する電動式ポンプであり、制御装置ECUによって制御される。第2ポンプ621の流量は、デューティーを上げることで増加し、デューティーを下げることで減少する。
【0046】
また、第2ポンプ621には、第2ポンプ621の回転速度を検出する回転速度センサ621aが取り付けられている。回転速度センサ621aは、第2ポンプ621の回転速度の検出値を示す検出信号を制御装置ECUへ出力する。制御装置ECUは、回転速度センサ621aの検出値、すなわち第2ポンプ621の回転速度に基づき、第2ポンプ621の流量を推定可能である。
【0047】
ラジエータ622は、車両Vの前部に配置されており、車両Vの走行時における走行風によって、第2温調媒体TCM2を冷却する放熱装置である。貯留タンク623は、第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2を一時的に貯留するタンクである。第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2にキャビテーションが発生した場合でも、第2温調回路62を循環する第2温調媒体TCM2が貯留タンク623で一時的に貯留されることによって、第2温調媒体TCM2に発生したキャビテーションは消滅する。
【0048】
第2温調回路62は、分岐部624及び合流部625を有する。第2温調回路62は、貯留タンク623、第2ポンプ621、及びラジエータ622が、上流側からこの順に設けられる。また、第2温調回路62は、圧送流路620aをさらに有する。圧送流路620aは、上流側の端部が合流部625に接続され、貯留タンク623、第2ポンプ621、及びラジエータ622を通って、下流側の端部が分岐部624に接続される。貯留タンク623に貯留された第2温調媒体TCM2は、圧送流路620aを通って第2ポンプ621で圧送され、ラジエータ622で冷却される。
【0049】
また、第2温調回路62は、電力変換装置PCUが設けられた第1分岐流路620b1と、第1分岐流路620b1に並列に設けられ且つ熱交換器63が設けられた第2分岐流路620b2と、をさらに有する。
【0050】
具体的に説明すると、第1分岐流路620b1は、上流側の端部が分岐部624に接続され、電力変換装置PCUを通って、下流側の端部が合流部625に接続される。第2分岐流路620b2は、上流側の端部が分岐部624に接続され、熱交換器63を通って、下流側の端部が合流部625に接続される。
【0051】
本実施形態では、第2分岐流路620b2における熱交換器63よりも上流部分に、第2分岐流路620b2を流れる第2温調媒体TCM2の流量(換言すると、第1分岐流路620b1を流れる第2温調媒体TCM2の流量)を調整する流量調整弁としてのバルブ装置626が設けられている。
【0052】
本実施形態では、バルブ装置626をON-OFFバルブとする。すなわち、バルブ装置626は、開放時には第2分岐流路620b2を全開状態とする一方、閉鎖時には第2分岐流路620b2を全閉状態とする。なお、バルブ装置626は、ON-OFFバルブに限られず、第2分岐流路620b2を流れる第2温調媒体TCM2の流量を調節可能な可変流量バルブであってもよい。バルブ装置626は、制御装置ECUによって制御される。
【0053】
圧送流路620aにおいて第2ポンプ621で圧送されてラジエータ622で冷却された第2温調媒体TCM2は、分岐部624で第1分岐流路620b1と第2分岐流路620b2とに分岐する。第1分岐流路620b1を流れる第2温調媒体TCM2は、電力変換装置PCUを冷却して合流部625で第2分岐流路620b2及び圧送流路620aと合流する。第2分岐流路620b2を流れる第2温調媒体TCM2は、熱交換器63で第1温調媒体TCM1と熱交換することによって第1温調媒体TCM1を冷却し、合流部625で第1分岐流路620b1及び圧送流路620aと合流する。第1分岐流路620b1を流れた第2温調媒体TCM2と第2分岐流路620b2を流れた第2温調媒体TCM2とは、合流部625で合流して圧送流路620aを流れて貯留タンク623に一時的に貯留される。そして、貯留タンク623に貯留された第2温調媒体TCM2が圧送流路620aを通って第2ポンプ621に再び供給されて、第2温調媒体TCM2が第2温調回路62を循環する。
【0054】
一例として、第1温調回路61において、モータMOT1、ジェネレータGEN、及び第1変速機構T1を冷却した後に貯留部612に貯留した第1温調媒体TCM1の温度が約100[℃]であるとすると、熱交換器63には、約100[℃]の第1温調媒体TCM1が供給される。
【0055】
一方、第2温調回路62において、ラジエータ622で冷却された第2温調媒体TCM2の温度が約40[℃]であるとすると、熱交換器63に供給される第2温調媒体TCM2は、被温調装置である電力変換装置PCUを通らないため、熱交換器63には、約40[℃]の第2温調媒体TCM2が供給される。
【0056】
この場合、熱交換器63は、熱交換器63に供給された約100[℃]の第1温調媒体TCM1と約40[℃]の第2温調媒体TCM2との間で、熱交換を行う。そして、例えば、熱交換器63からは、約80[℃]の第1温調媒体TCM1が第1温調回路61における第1分岐流路610b1の下流側に排出され、約70[℃]の第2温調媒体TCM2が第2温調回路62における第2分岐流路620b2の下流側に排出される。
【0057】
このようにして、第1温調媒体TCM1は熱交換器63で冷却されるので、温調回路60に第1温調媒体TCM1を冷却するためのラジエータを別途設けなくても、第1温調媒体TCM1を冷却することができる。したがって、温調回路60は、1つのラジエータ622で、第1温調回路61を流れる第1温調媒体TCM1と第2温調回路62を流れる第2温調媒体TCM2とを冷却することができるので、温調回路60を小型化できる。
【0058】
なお、図3の温調回路60の第1温調回路61では、分岐部624と合流部625との間において、第1分岐流路620b1に電力変換装置PCUが設けられ、電力変換装置PCUと並列となるように第2分岐流路620b2に熱交換器63が設けられていたが、これに限られない。例えば、図8に示すように、圧送流路620aに、貯留タンク623、第2ポンプ621、ラジエータ622、電力変換装置PCU、熱交換器63が設けられ、電力変換装置PCUと熱交換器63とが直列に設けられていてもよい。
【0059】
[制御装置]
次に、制御装置ECUによる具体的な制御の一例について説明する。まず、制御装置ECUによる主駆動ユニットDU1に関する制御について説明する。
【0060】
車両Vの走行に際し、制御装置ECUは、車速センサによって検出された車速、及びアクセルペダルセンサによって検出されたAP開度に基づき、車両Vの駆動力の目標値となる要求駆動力(換言すると車両Vの走行に要求される駆動力)を導出する。そして、制御装置ECUは、車両Vの駆動力が要求駆動力となるように、主駆動ユニットDU1からの出力を制御する。
【0061】
また、本実施形態では、制御装置ECUは、以下に説明する複数の駆動モードによって主駆動ユニットDU1を駆動可能に構成され、主駆動ユニットDU1の駆動モードを適宜切り替えながら車両Vを走行させる。これにより、車両Vの状態に応じた適切な駆動モードで車両Vを走行させることが可能となる。
【0062】
<<1.EV走行モード>>
EV走行モードは、モータMOT1に対してバッテリBATの電力を供給し、この電力に応じてモータMOT1が出力した動力によって車両Vを走行させる駆動モードである。
【0063】
EV走行モードでは、エンジンENGからの動力の出力が停止され、ジェネレータGENに対して動力が入力されず、ジェネレータGENによる発電は行われない。
【0064】
<<2.ハイブリッド走行モード>>
ハイブリッド走行モードは、モータMOT1に対して少なくともジェネレータGENが発電した電力を供給し、この電力に応じてモータMOT1が出力した動力によって車両Vを走行させる駆動モードである。
【0065】
ハイブリッド走行モードの場合、制御装置ECUは、エンジンENGへの燃料の噴射を行って、エンジンENGから動力をジェネレータGENに入力させ、ジェネレータGENによる発電を行う。制御装置ECUは、ジェネレータGENが発電した電力をモータMOT1に供給し、この電力に応じた動力をモータMOT1に出力させる。
【0066】
なお、ハイブリッド走行モードの場合、制御装置ECUは、必要に応じてバッテリBATの電力もモータMOT1に供給し得る。すなわち、制御装置ECUは、ハイブリッド走行モードにおいて、ジェネレータGEN及びバッテリBATの双方からモータMOT1に電力を供給し得る。
【0067】
<<3.エンジン走行モード>>
エンジン走行モードは、エンジンENGが出力した動力を、第1変速機構T1の動力伝達経路によって前輪FWRに伝達して車両Vを走行させる駆動モードである。
【0068】
エンジン走行モードの場合、車両Vの制動時には、モータMOT1による回生発電を行って、発電された電力によりバッテリBATを充電するようにしてもよい。
【0069】
また、エンジン走行モードの場合、制御装置ECUは、必要に応じてバッテリBATからの電力をモータMOT1に供給し得る。これにより、エンジン走行モードでは、バッテリBATから供給された電力によってモータMOT1が出力した動力も用いて車両Vを走行させることができる。
【0070】
車両Vは、燃費を優先する省燃費制御モードと、省燃費制御モードよりも消費電力が大きい通常モードと、を有する。省燃費制御モードでは、エンジンENG及びモータMOT1の出力が制限され、第2ポンプ621の流量も低流量に制限される。
【0071】
[温調回路に関する制御]
次に制御装置ECUによる温調回路60の制御について説明する。図4は、制御装置ECUによる第2ポンプ621の流量制御における制御ロジックを示す図である。
【0072】
図4に示すように、制御装置ECUは、第1温調媒体TCM1の温度(図中、ATF油温)、第2温調媒体TCM2の温度(図中、LLC水温)、第1インバータINV1、第2インバータINV2、コンバータVCUに内蔵されるチップ化されたスイッチング素子の温度(図中、チップ温度。以下、チップ温度とも称する。)に基づいて、第2ポンプ621の流量を制御する。
【0073】
より具体的に説明すると、制御装置ECUは、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)、チップ温度のうち、最も大きいデューティー要求に基づいて、第2ポンプ621の流量を制御する。各温度には、それぞれに閾値温度が設定されており、閾値温度未満では低デューティー(Duty_L)のデューティー要求を出力するように制御され、閾値温度以上では高デューティー(Duty_H)のデューティー要求を出力するように制御される。例えば、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)が、管理上限水温Tw1未満では低デューティー(Duty_L)のデューティー要求を出力するように制御され、管理上限水温Tw1以上では高デューティー(Duty_H)のデューティー要求を出力するように制御される。制御装置ECUが、低デューティー(Duty_L)で第2ポンプ621を駆動すると、第2ポンプ621は基本回転数で駆動し、高デューティー(Duty_H)で第2ポンプ621を駆動すると、第2ポンプ621は基本回転数よりも高い回転数で駆動する。
【0074】
ここで、第1温調媒体TCM1は第2温調媒体TCM2に比べて熱容量が非常に大きい(例えば、10倍)。また、チップ温度は、回生トルクが大きい強回生時、及び、EV走行モード及びハイブリッド走行モードにおいてアクセル開度が最大となるWOT時(Wide-Open-Throttle)において、瞬間的に発熱(損失)が大きくなる。そのため、制御装置ECUは、熱容量の小さい、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)及びチップ温度にのみ基づいて第2ポンプ621の流量を制御することが考えられる。
【0075】
図5は、第2ポンプ621の流量(LLC流量)を変更したときの第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)による第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)の影響を示すグラフである。図5の縦軸は第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)であり、横軸は第2ポンプ621の流量(LLC流量)を示しており、実線は3種類の第1温調媒体TCM1の温度(低油温、中油温、高油温)における第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)の変化を示している。
【0076】
例えば、一番下の実線は、第1温調媒体TCM1の温度が低油温であるとき、第2ポンプ621の流量(LLC流量)に伴って変化する第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)の推移を示している。
【0077】
図5に示すように、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)に関わらず、第2ポンプ621を低デューティー(Duty_L)から高デューティー(Duty_H)に引き上げて第2ポンプ621の流量(LLC流量)を増加させた場合、熱交換器63における第1温調媒体TCM1と第2温調媒体TCM2との熱交換が促進され、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)が上昇する。
【0078】
一方で、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)が異なると、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)への影響も異なる。即ち、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)が低い低油温時に、デューティーを増加させても第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)は管理上限水温Tw1未満を維持することができる。一方で第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)が中油温の場合、デューティーを増加させると第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)が管理上限水温Tw1近傍まで上昇する。さらに第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)が高油温の場合、デューティーを増加させると第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)が管理上限水温Tw1を超えてしまう。
【0079】
第1温調媒体TCM1と第2温調媒体TCM2との熱容量の違いから第2ポンプ621をデューティーの変更直後は、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)がすぐには変わらず第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)が急激に反応してしまい、管理上限水温Tw1を超える虞がある。例えば、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)が管理上限水温Tw1より低い状況で、チップ温度が所定の閾値温度を超えると、制御装置ECUは第2ポンプ621のデューティーを上げて流量を増加させるが、このとき第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)が高油温であると、デューティーの引き上げ直後に第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)が管理上限水温Tw1を超えてしまう。
【0080】
そのため、制御装置ECUは、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)及びチップ温度に加えて、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)にも基づいて、第2ポンプ621の流量を制御している。
【0081】
図6は、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)と第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)との関係を示すグラフである。図中、1点鎖線は、第2ポンプ621が低デューティー(Duty_L)で駆動している場合を示し、2点鎖線は、第2ポンプ621が高デューティー(Duty_H)で駆動している場合を示している。
【0082】
オーバーシュートによる第2温調媒体TCM2の到達水温は、ATF油温・ATF流量によって定まるATF放熱量、風温・風速によって決まるラジエータ放熱量、PCU損失量の3つの要素によって定まる。図6は、ATF流量、風温、風速、PCU損失についてワースト条件(第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)にとって最も不利な条件)を前提としたものである。
【0083】
図6から、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)の管理上限水温Tw1を守るには、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)がデューティーアップ閾値To1以下で、第2ポンプ621のデューティーを上げて流量を増加させればよいことがわかる。反対に、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)がデューティーアップ閾値To1を超えた状況では、ワースト条件下で、デューティーの引き上げ直後に第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)が管理上限水温Tw1を超えてしまう。言い換えると、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)をデューティーアップ閾値To1で第2ポンプ621のデューティーを上げて流量を増加させておけば、いかなる条件であっても第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)のオーバーシュートは発生しない。
【0084】
図7は、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)による要求デューティーとの関係を示す図である。
第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)による要求デューティーは、図6を用いて説明したように、デューティーアップ閾値To1未満では低デューティー(Duty_L)に設定され、デューティーアップ閾値To1以上では、高デューティー(Duty_H)に設定される。したがって、制御装置ECUは、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)がデューティーアップ閾値To1以上になった場合に、第2ポンプ621のデューティーを引き上げて流量を増加させる。
【0085】
デューティーアップ閾値To1は、図7に示す、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)の管理上限油温To2よりも低い値である。即ち、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)に基づく第2ポンプ621の流量の制御は、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)を保護するためのものではなく、第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)の急激な温度上昇から第2温調媒体TCM2の温度(LLC水温)を守るための制御である。このように、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)がデューティーアップ閾値To1以上になった場合に、第2ポンプ621の流量を増加させることにより、第2温調媒体TCM2の流量を変化させた瞬間のオーバーシュートを抑制することができる。また、第2温調媒体TCM2の流量増加時の水温上昇を抑えることで、温度飽和時の到達水温をもとにラジエータ622や電力変換装置PCUのスイッチング素子のチップサイズを設計することができるため、コストダウンやレイアウト自由度を向上させることができる。
【0086】
また、このデューティーアップ閾値To1は、省燃費制御モードにおける到達上限温度(図中、省燃費制御モード油温To3)よりも高い温度に設定されている。そのため、車両Vが省燃費制御モードで走行中に第2ポンプ621の流量が増加して第2ポンプ621の電力消費が増大することが抑制される。
【0087】
また、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)にも基づく第2ポンプ621の流量の制御は、車両Vのアイドリングストップ時、即ち、モータMOT1及びジェネレータGENの回転数が所定値以下の時、禁止される。即ち、制御装置ECUは、アイドリングストップ時に、第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)に基づく第2ポンプ621の流量増加を禁止する。
【0088】
第1温調媒体TCM1の温度(ATF油温)によって第2ポンプ621の流量を増加させると、第1温調媒体TCM1が高温且つ低暗騒音の状況において第2ポンプ621の駆動音が課題となる。第2ポンプ621の駆動音は走行騒音やエンジン音に比べて小さいので走行中及びエンジン駆動中は課題とならないが、高速走行で第1温調媒体TCM1の温度が上がった直後に車両停止・アイドリングストップした場合に第2ポンプ621の駆動音が目立ってしまう状況が発生しうる。
【0089】
しかし、アイドリングストップ状態であればエンジンENGに連動する第1ポンプ611a及び車速に連動する第1ポンプ611bも停止しているため第1温調媒体TCM1の流量がゼロになり、第2温調媒体TCM2の流量によらず熱交換器63での放熱量もほとんどゼロとなるため、流量の引き上げをいつ行っても第2温調媒体TCM2のオーバーシュートは発生しない。このことから、アイドリングストップ時に第1温調媒体TCM1の温度に基づく第2ポンプ621の流量増加を禁止することで、騒音課題を回避することができる。
【0090】
以上、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0091】
例えば、前述した実施形態では、主駆動ユニットDU1が前輪FWRを駆動するものとしたが、主駆動ユニットDU1が後輪RWRを駆動するものとしてもよい。
【0092】
また、前述した実施形態では、主駆動ユニットDU1にエンジンENGを設けて、車両Vをハイブリッド電気自動車としたが、これに限られない。例えば、エンジンENGを主駆動ユニットDU1に設けず、車両Vを電気自動車としてもよい。
【0093】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0094】
本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0095】
(1) バッテリ(バッテリBAT)と、
モータ(モータMOT1)と、
前記バッテリと前記モータとの電力伝達経路上に配置される電力変換装置(電力変換装置PCU)と、
前記モータ及び前記電力変換装置の温度を調整する温調システム(温調回路60)と、
前記温調システムを制御する制御装置(制御装置ECU)と、を備える、車両(車両V)であって、
前記温調システムは、
第1ポンプ(第1ポンプ611a、611b)により第1温調媒体(第1温調媒体TCM1)を循環させて前記モータを冷却する第1温調回路(第1温調回路61)と、
第2ポンプ(第2ポンプ621)とラジエータ(ラジエータ622)とを備え、前記第2ポンプにより第2温調媒体(第2温調媒体TCM2)を循環させて前記電力変換装置を冷却する第2温調回路(第2温調回路62)と、
前記第1温調回路の第1温度媒体と前記第2温調回路の第2温調媒体との間で熱交換する熱交換器(熱交換器63)と、を備え、
前記制御装置は、
前記第1温調媒体の温度が所定値以上になった場合に、前記第2ポンプの流量を増加させる、車両。
【0096】
第1温調回路の第1温度媒体と第2温調回路の第2温調媒体との間で熱交換させ、第2温調回路に設けられたラジエータで、モータ及び電力変換装置の熱を放熱する統合冷却システムでは、第2温調媒体の流量を変化させた瞬間の第2温調媒体の水温が温度飽和時の水温よりも高くなってしまう現象(オーバーシュート)が起こりうる。(1)によれば、第1温調媒体を保護するために第1温調媒体に基づいて第2ポンプの流量を増加させるのではなく、第1温調媒体と第2温調媒体の熱容量差に起因する第2ポンプの回転数変化時の第2温調媒体の急激な温度上昇から第2温調媒体の温度を守るために第1温調媒体の温度に基づいて第2ポンプの流量を増加させる。これにより、第2温調媒体の流量を変化させた瞬間のオーバーシュートを抑制することができる。また、第2温調媒体の流量増加時の水温上昇を抑えることで、温度飽和時の到達水温をもとにラジエータや電力変換装置のスイッチング素子のチップサイズを設計することができるため、コストダウンやレイアウト自由度を向上させることができる。
【0097】
(2) (1)に記載の車両であって、
前記第1ポンプは、車速に応じて回転数が変動し、
前記第2ポンプは、前記第2温調媒体の温度に応じて基本回転数が設定されており、
前記制御装置は、前記第1温調媒体の温度が所定以上になった場合に、前記基本回転数よりも高い回転数で前記第2ポンプを駆動する、車両。
【0098】
(2)によれば、通常時は基本回転数で第2ポンプを回転させることで、第2ポンプの電力消費及び駆動音を抑制できる。一方で必要に応じて第2ポンプの回転数を基本回転数から上昇させることで、電力変換装置の内部部品温度、第2温調媒体の温度、モータ内部部品温度、第1温調媒体の温度等をそれぞれの管理温度に維持することができる。
【0099】
(3) (2)に記載の車両であって、
前記所定値は、前記第1温度媒体の管理上限温度(管理上限油温To2)よりも低い温度である、車両。
【0100】
(3)によれば、第1温度媒体の管理上限温度よりも低い温度で流量を増加しておくように第2ポンプを制御することで、第2温調媒体のオーバーシュートを抑制することができる。
【0101】
(4) (1)に記載の車両であって、
燃費を優先する省燃費制御モードと、前記省燃費制御モードよりも効率の低い通常モードと、を有し、
前記所定値は、前記省燃費制御モードでは到達しない値に設定される、車両。
【0102】
(4)によれば、第2ポンプの流量を増加させる第1温調媒体の温度は省燃費制御モードでは到達しない値に設定されるので、省燃費制御モードで走行中に第2ポンプの流量が増加して第2ポンプの電力消費が増大することが抑制される。
【0103】
(5) (2)に記載の車両であって、
前記制御装置は、アイドリングストップ時に、前記第1温調媒体の温度に基づく前記第2ポンプの流量増加を禁止する、車両。
【0104】
(5)によれば、第1温調媒体の温度によって第2ポンプの流量を増加させると、第1温調媒体が高温且つ低暗騒音の状況において第2ポンプの駆動音が課題となる。第2ポンプの駆動音は走行騒音やエンジン音に比べて小さいので走行中、エンジン駆動中は課題とならないが、高速走行で第1温調媒体の温度が上がった直後に車両停止・アイドリングストップした場合に第2ポンプの駆動音が目立ってしまう状況が発生しうる。しかし、アイドリングストップ状態であれば車速に連動するオイルポンプも停止しているため第1温調媒体の流量がゼロになり、第2温調媒体の流量によらず熱交換器での放熱量もほとんどゼロとなるため、流量の引き上げをいつ行っても第2温調媒体のオーバーシュートは発生しない。このことから、アイドリングストップ時に第1温調媒体の温度に基づく第2ポンプの流量増加を禁止することで、騒音課題を回避することができる。
【符号の説明】
【0105】
60 温調回路(温調システム)
61 第1温調回路
62 第2温調回路
63 熱交換器
611a、611b 第1ポンプ
621 第2ポンプ
622 ラジエータ
BAT バッテリ
ECU 制御装置
MOT1 モータ
PCU 電力変換装置
TCM1 第1温調媒体
TCM2 第2温調媒体
To2 管理上限油温(管理上限温度)
V 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8