(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175880
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】燃料電池電極用の触媒インク
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20241212BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20241212BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241212BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/90 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093959
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】今 美知
(72)【発明者】
【氏名】高橋 駿介
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018EE17
5H018HH00
5H018HH02
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD05
5H126EE11
(57)【要約】
【課題】電極のひび割れを抑制できる燃料電池電極用の触媒インクを提供する。
【解決手段】燃料電池電極用の触媒インクであって、担体及び前記担体に担持された触媒金属を含む触媒粒子と、高酸素透過性を有し、且つ、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、前記触媒粒子および前記アイオノマーを分散させる分散用溶媒と、を含み、前記分散用溶媒が、Rohrschneiderの極性パラメータが5.1以上の極性溶媒であるか、又は、前記極性溶媒を70%以上の配合割合で含む混合溶媒である、ことを特徴とする触媒インク。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池電極用の触媒インクであって、
担体及び前記担体に担持された触媒金属を含む触媒粒子と、
高酸素透過性を有し、且つ、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、
前記触媒粒子および前記アイオノマーを分散させる分散用溶媒と、を含み、
前記分散用溶媒が、Rohrschneiderの極性パラメータが5.1以上の極性溶媒であるか、又は、前記極性溶媒を70%以上の配合割合で含む混合溶媒である、ことを特徴とする触媒インク。
【請求項2】
前記アイオノマーは単位構造中に5員環を有する、請求項1に記載の触媒インク。
【請求項3】
前記極性溶媒は、水、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、アセトニトリル及びアセトンからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の触媒インク。
【請求項4】
前記極性溶媒は、水及びエチレングリコールの内の少なくとも一方である、請求項1に記載の触媒インク。
【請求項5】
前記担体の比表面積が40~1600m2/gである、請求項1に記載の触媒インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池電極用の触媒インクに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(FC)について様々な研究がなされている。特許文献1では、触媒を担持した粒子である触媒担持粒子と、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、触媒担持粒子及びアイオノマーを分散させる分散用溶媒と、を含み、触媒担持粒子の単位比表面積当たりのアイオノマーの吸着量が、0.1(mg/m2)以上とすることで、燃料電池の電極に発生するひび割れを抑制する燃料電池の電極を製造するために用いられる触媒インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロトン伝導性を有するアイオノマーの代わりに高酸素透過性を有するアイオノマーを使用することが考えられるが、高酸素透過性を有するアイオノマーは触媒インク中でカーボン等の担体への吸着量が少なく、担体表面が露出するため、高酸素透過性を有するアイオノマーを使用した場合、電極にひび割れを生じ、電解質膜の劣化を促進させ燃料電池の耐久性を悪化させる。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、溶媒とアイオノマーの親和性を下げることができ、アイオノマーの担体への吸着量を向上させ、電極のひび割れを抑制できる燃料電池電極用の触媒インクを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、以下の特徴を有する燃料電池電極用の触媒インクを提供する。
燃料電池電極用の触媒インクであって、
担体及び前記担体に担持された触媒金属を含む触媒粒子と、
高酸素透過性を有し、且つ、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、
前記触媒粒子および前記アイオノマーを分散させる分散用溶媒と、を含み、
前記分散用溶媒が、Rohrschneiderの極性パラメータが5.1以上の極性溶媒であるか、又は、前記極性溶媒を70%以上の配合割合で含む混合溶媒である、ことを特徴とする触媒インク。
【0007】
本開示においては、前記アイオノマーは単位構造中に5員環を有していてもよい。
【0008】
本開示においては、前記極性溶媒は、水、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、アセトニトリル及びアセトンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0009】
本開示においては、前記極性溶媒は、水及びエチレングリコールの内の少なくとも一方であってもよい。
【0010】
本開示においては、前記担体の比表面積が40~1600m2/gであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、電極のひび割れを抑制できる燃料電池電極用の触媒インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、触媒層のひび割れの○×判定基準を示す画像であり、左が×判定画像、中央が△判定画像、右が〇判定画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない燃料電池電極用の触媒インクの一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、数値範囲における上限値と下限値は任意の組み合わせを採用できる。
【0014】
本開示においては、以下の特徴を有する燃料電池電極用の触媒インクを提供する。
燃料電池電極用の触媒インクであって、
担体及び前記担体に担持された触媒金属を含む触媒粒子と、
高酸素透過性を有し、且つ、プロトン伝導性を有するアイオノマーと、
前記触媒粒子および前記アイオノマーを分散させる分散用溶媒と、を含み、
前記分散用溶媒が、Rohrschneiderの極性パラメータが5.1以上の極性溶媒であるか、又は、前記極性溶媒を70%以上の配合割合で含む混合溶媒である、ことを特徴とする触媒インク。
【0015】
特許文献1に用いられるプロトン伝導性を有するアイオノマーを高酸素透過性を有するアイオノマーに変更すると、電極にひび割れを生じさせる。電極のひびは、電解質膜の劣化を促進させ燃料電池の耐久性を悪化させる。
アイオノマーのカーボン等の担体への吸着量低下により、担体同士が凝集する。担体表面にアイオノマーが吸着していると、静電気的反発や立体障害効果で担体の凝集が抑制されるが、高酸素透過性を有するアイオノマーは担体への吸着量が著しく少ないため、担体表面が露出することで担体同士が凝集しやすくなる。
本開示では、触媒インクの分散用溶媒をRohrschneiderの極性パラメータが5.1以上の極性溶媒であるか、又は、前記極性溶媒を70%以上の配合割合で含む混合溶媒とする。これにより、溶媒とアイオノマーの親和性を下げることでアイオノマーの担体への吸着量を向上させることができ、高酸素透過性を有するアイオノマーを用いた電極に発生するひび割れを抑制することができる。なお、本開示においては、アイオノマーが吸着する対象である担体は、担体単独、及び、触媒金属を担持した担体(触媒金属担持担体)のいずれであってもよい。
【0016】
本開示の触媒インクは、触媒粒子と、アイオノマーと、分散用溶媒と、を含む。
【0017】
触媒粒子(触媒金属担持担体)は、担体及び前記担体に担持された触媒金属を含む。
触媒金属としては、例えば、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、及び、イットリウム等の金属が挙げられ、これらの金属を2種類以上用いてもよい。また、金属は酸化物、窒化物、硫化物、及び、リン化物等であってもよい。
触媒金属は、白金、及び、白金合金等であってもよい。
白金合金に含まれる、白金以外の金属は、例えば、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、及び、イットリウム等の金属が挙げられ、これらの金属を2種類以上含んでいてもよい。触媒金属は、白金、白金-コバルト合金、及び、白金-ニッケル合金等であってもよい。
触媒金属は、形状が粒子状である触媒金属粒子であってもよい。
触媒金属粒子の粒径は、特に限定されないが、1nm以上100nm以下であってもよい。
触媒金属は、担体に担持される。
【0018】
本開示において触媒粒子の粒径とは、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定により測定される体積基準のメディアン径(D50)の値である。また、本開示においてメディアン径(D50)とは、粒径の小さい順に粒子を並べた場合に、粒子の累積体積が全体の体積の半分(50%)となる径(体積平均径)である。
【0019】
担体は、形状が粒子状である担体粒子である。
担体は、1次粒子であってもよく2次粒子であってもよい。
担体は、触媒金属を担持する。
触媒金属を担体に担持させる方法は、特に限定されず、従来公知の方法を適宜採用することができる。
担体は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、活性炭、黒鉛、グラッシーカーボン、グラフェン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、窒化カーボン、硫黄化カーボン、及び、リン化カーボン、またはこれらの内少なくとも2種類を含む混合物等であってもよい。
【0020】
担体の比表面積が、40~1600m2/gであってもよい。
本開示において比表面積は、BET法により測定されるBET比表面積である。
【0021】
担体の粒径は、30~1000nmであってもよい。
本開示の担体においては、電子顕微鏡により100~1000個の粒子の円相当径を粒径として算出し、これらの平均粒径を粒子の粒径としてもよい。担体粒子の粒径は3D-TEM等で測定することができる。
【0022】
アイオノマーは、高酸素透過性を有し、且つ、プロトン伝導性を有する。
触媒インク中に含まれるアイオノマーの量は、1質量%以上10質量%未満であってもよい。
【0023】
アイオノマーの数平均分子量Mnは、特に限定されるものではないが、化学的安定性と触媒層強度確保との観点から、5,000~100,000であってもよく、20,000~50,000であってもよい。
【0024】
アイオノマーの、温度80℃及び相対湿度30%の環境における酸素透過性は、2.0×10-14mol/m/sec/Pa以上であってもよい。酸素透過性が前記下限値以上であれば、アイオノマーは高酸素透過性を有する。酸素透過性の上限は特に限定されるものではないが、ガス透過性過剰によって乾きやすくなる観点から5.0×10-14mol/m/sec/Pa以下であってもよい。
酸素透過性は、例えば、電解質樹脂を厚さ0.2ミリメートル程度の薄い膜状にキャスト成型し、マイクロPt電極を用いたリニアスイープボルタンメトリー法(LSV法)を用いて測定することができる。
【0025】
アイオノマーはスルホン酸基等のプロトン伝導性基を有していてもよい。アイオノマーは、触媒層全体でのイオン伝導性の観点から、プロトン伝導性基(例えば、スルホン酸基)の当量重量を示すEW(Equivalent Weight;単位「g/mol」)が、1500g/mol以下であってもよく、1200g/mol以下であってもよく、1000g/mol以下であってもよい。ここで、前記プロトン伝導性基の当量重量とは、アイオノマーの総質量に対するプロトン伝導性基の乾燥重量を意味する。また、触媒層全体における親水性の観点から水の移動性を考慮すると、アイオノマーのEWの下限は、500g/mol以上であってもよく、600g/mol以上であってもよく、700g/mol以上であってもよい。プロトン伝導性基の乾燥重量は、例えば、NaOH水溶液を用いた逆滴定等公知の方法によって測定することができる。
【0026】
高酸素透過性を有するアイオノマーは、単位構造中に5員環を有していてもよい。高酸素透過性を有するアイオノマーとしては、例えば、下記式(1)で表される単位構造を有するアイオノマーが挙げられる。
【0027】
【0028】
(式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立して、F、又は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を示し、A1は、なし、F、SO3H、又は、SO2-NH-SO2-A2を示す。A2は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基、(CF2)a-SO2-NH-SO2R5、又は(CF2)b-SO3Hを示す。R5は、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を示し、aは、1~10の整数、bは1~10の整数を示す。)
【0029】
なお、前記式(1)で表される単位構造を有するアイオノマーは、A1を有さない場合など前記式(1)において酸基を有さない場合には、他に酸基等のプロトン伝導性基を含む構造単位を有する。高酸素透過性を有するアイオノマーとしては、具体的には、例えば、下記式(2)で表される単位構造を有するアイオノマーが挙げられる。
【0030】
【0031】
分散用溶媒は、前記触媒粒子および前記アイオノマーを分散させる。
分散用溶媒は、Rohrschneiderの極性パラメータP’が5.1以上の極性溶媒であるか、又は、前記極性溶媒を70%以上の配合割合で含む混合溶媒である。
極性溶媒は、水(P’=10.2)、ジメチルスルホキシド(P’=7.2)、エチレングリコール(P’=6.9)、アセトニトリル(P’=5.8)及びアセトン(P’=5.1)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよく、水及びエチレングリコールの内の少なくとも一方であってもよい。
Rohrschneiderの極性パラメータが5.1未満の溶媒としては、エタノール(P’=4.3)、n-プロパノール(P’=4)、イソプロピルアルコール(P’=3.9)等が挙げられる。分散用溶媒は、Rohrschneiderの極性パラメータが5.1未満の溶媒を30%以下の配合割合で含んでいてもよい。
【0032】
本開示の触媒インクは、燃料電池電極用であり、具体的には燃料電池の電極の触媒層に用いられる。
本開示の触媒層は、本開示の触媒粒子を含む。
本開示の触媒層は、カソード触媒層であってもよいし、アノード触媒層であってもよいし、カソード触媒層及びアノード触媒層の両方であってもよい。
【0033】
[触媒層の製造]
本開示の触媒層は、触媒インクを基材に塗工して形成する。触媒インクを基材上に塗工した後、触媒インク中の分散用溶媒を除去してもよい。分散用溶媒は、基材上に塗工した後の触媒インクを加温し、乾燥して除去してもよい。
【0034】
触媒インクは、触媒粒子、担体、アイオノマー、及び、分散用溶媒を含む原料混合物を分散させることにより得てもよい。原料混合物を分散させる方法は、例えば、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、ビーズミル等のボールミル、ハイシェアー、フィルミックス等を用いる方法等であってもよい。分散時間等の分散条件は、特に限定されず、適宜設定することができる。
【0035】
基材は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。
【0036】
塗工方法は、例えば、ダイコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スキージ法、スプレーコート法、及び、アプリケーター法等が挙げられる。塗工時の触媒インクの加温速度や加温時間は、分散用溶媒種等によって適宜設定することができる。また、加温と同時に脱気することで分散用溶媒の除去速度を上げてもよい。
触媒層の塗工膜厚は、2.0~30μmであってもよい。
【0037】
燃料電池は、単セルを1つのみ有するものであってもよく、単セルを複数個積層した燃料電池スタックであってもよい。
本開示においては、単セル及び燃料電池スタックのいずれも燃料電池と称する場合がある。
単セルの積層数は特に限定されず、例えば、2~数百個であってもよい。
【0038】
単セルは、少なくとも膜電極ガス拡散層接合体を備える。
膜電極ガス拡散層接合体は、アノード側ガス拡散層、アノード触媒層、電解質膜、カソード触媒層、及び、カソード側ガス拡散層をこの順に有する。
【0039】
カソード(酸化剤極)は、カソード触媒層及びカソード側ガス拡散層を含む。
アノード(燃料極)は、アノード触媒層及びアノード側ガス拡散層を含む。
カソード及びアノードをまとめて電極と称する。
カソード触媒層及びアノード触媒層をまとめて触媒層と称する。
【0040】
カソード側ガス拡散層及びアノード側ガス拡散層をまとめてガス拡散層と称する。
ガス拡散層は、ガス透過性を有する導電性部材等であってもよい。
導電性部材としては、例えば、カーボンクロス、及びカーボンペーパー等のカーボン多孔質体、並びに、金属メッシュ、及び、発泡金属などの金属多孔質体等が挙げられる。
【0041】
電解質膜は、固体高分子電解質膜であってもよい。固体高分子電解質膜としては、例えば、水分が含まれたパーフルオロスルホン酸の薄膜等のフッ素系電解質膜、及び、炭化水素系電解質膜等が挙げられる。電解質膜としては、例えば、ナフィオン膜(デュポン社製)等であってもよい。
【0042】
単セルは、必要に応じて膜電極ガス拡散層接合体の両面を挟持する2枚のセパレータを備えてもよい。2枚のセパレータは、一方がアノード側セパレータであり、もう一方がカソード側セパレータである。本開示では、アノード側セパレータとカソード側セパレータとをまとめてセパレータという。
セパレータは、反応ガス及び冷却媒体等の流体を単セルの積層方向に流通させるための供給孔及び排出孔等のマニホールドを構成する孔を有していてもよい。
冷却媒体としては、低温時の凍結を防止するために例えばエチレングリコールと水との混合溶液を用いることができる。また、冷却媒体としては、冷却用の空気を用いることができる。
供給孔は、燃料ガス供給孔、酸化剤ガス供給孔、及び、冷却媒体供給孔等が挙げられる。
排出孔は、燃料ガス排出孔、酸化剤ガス排出孔、及び、冷却媒体排出孔等が挙げられる。
セパレータは、ガス拡散層に接する面に反応ガス流路を有していてもよい。また、セパレータは、ガス拡散層に接する面とは反対側の面に燃料電池の温度を一定に保つための冷却媒体流路を有していてもよい。
セパレータは、ガス不透過の導電性部材等であってもよい。導電性部材としては、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン、及び、プレス成形した金属(例えば、鉄、アルミニウム、及び、ステンレス等)等であってもよい。また、セパレータが集電機能を備えるものであってもよい。
【0043】
本開示においては、燃料ガス、及び、酸化剤ガスをまとめて反応ガスと称する。アノードに供給される反応ガスは、燃料ガスであり、カソードに供給される反応ガスは酸化剤ガスである。燃料ガスは、主に水素を含有するガスであり、水素であってもよい。酸化剤ガスは、酸素を含有するガスであり、空気(エア)等であってもよい。
【0044】
燃料電池スタックは、各供給孔が連通した入口マニホールド、及び、各排出孔が連通した出口マニホールド等のマニホールドを有していてもよい。
入口マニホールドは、燃料ガス入口マニホールド、酸化剤ガス入口マニホールド、及び、冷却媒体入口マニホールド等が挙げられる。
出口マニホールドは、燃料ガス出口マニホールド、酸化剤ガス出口マニホールド、及び、冷却媒体出口マニホールド等が挙げられる。
【実施例0045】
(実施例1~7、比較例1~3)
表1に示す溶媒を表1に示す配合割合で含む分散用溶媒を準備した。
【0046】
【0047】
(A)比表面積が40m2/gであるカーボン担体粒子を用いた場合
比表面積が40m2/gであるカーボン担体粒子に触媒金属粒子を担持させた触媒粒子(触媒金属担持カーボン担体A)と、高酸素透過性を有し、且つ、プロトン伝導性を有するアイオノマーとして上記式(2)で表される単位構造を有するアイオノマーと、を準備した。アイオノマーの密度ρは、1.93g/cm3、数平均分子量Mnは、39000、EWは、735g/mol、電気伝導率σHが0.10S/cm、温度80℃及び相対湿度30%の環境における酸素透過性が2.7×10-14mol/m/sec/Paであった。
そして、上記触媒粒子及びアイオノマーを分散用溶媒に分散させ、実施例1~7、比較例1~3の各触媒インクAを準備した。
各触媒インクAを各基材に塗工して触媒層Aを形成した。触媒層Aを2つ準備し、一方をカソード触媒層として用い、もう一方をアノード触媒層として用いた、膜電極ガス拡散層接合体を備える燃料電池Aを準備した。
【0048】
[評価A]
触媒インクAについて、触媒インクA中の触媒金属担持カーボン担体Aの単位比表面積当たりのアイオノマーの吸着量を測定した。触媒金属担持カーボン担体Aの単位比表面積当たりのアイオノマーの吸着量は、特許文献1に記載の方法に基づいて測定した。
また、触媒層Aについて、ひび割れの程度を評価した。ひび割れは、マイクロスコープにより観察された触媒層のひび割れの量、大きさを目視で○×判定した。ひび割れの量、大きさが大きいものを×、ひび割れの量、大きさが小さいものを△、ひび割れが無いか又はほとんど無いものを〇と判定した。
図1は、触媒層のひび割れの○×判定基準を示す画像であり、左が×判定画像、中央が△判定画像、右が〇判定画像である。
さらに、燃料電池Aについて、性能を評価した。性能は、所定の加速試験により燃料電池の発電時間とアノードとカソードの間のガスのリーク量から判定した。アノードとカソードの間のガスのリーク量が0.005MPa以上を閾値として、閾値以上となるまでの時間が、500時間未満を×、500時間以上1000時間未満を△、1000時間以上を〇と判定した。
これらの結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
(B)比表面積が1600m2/gであるカーボン担体粒子を用いた場合
比表面積が1600m2/gであるカーボン担体粒子に触媒金属粒子を担持させた触媒粒子(触媒金属担持カーボン担体B)と、高酸素透過性を有し、且つ、プロトン伝導性を有するアイオノマーとして上記式(2)で表される単位構造を有するアイオノマーと、を準備した。
そして、上記触媒粒子及びアイオノマーを分散用溶媒に分散させ、実施例1~7、比較例1~3の各触媒インクBを準備した。
各触媒インクBを各基材に塗工して触媒層Bを形成した。触媒層Bを2つ準備し、一方をカソード触媒層として用い、もう一方をアノード触媒層として用いた、膜電極ガス拡散層接合体を備える燃料電池Bを準備した。
【0051】
[評価B]
触媒インクBについて、触媒インクB中の触媒金属担持カーボン担体Bの単位比表面積当たりのアイオノマーの吸着量を評価Aと同様の方法で測定した。
また、触媒層Bについて、ひび割れの程度を評価Aと同様の方法で評価した。
さらに、燃料電池Bについて、性能を評価Aと同様の方法で評価した。
これらの結果を表3に示す。
【0052】
【0053】
表2~3に示すように、本開示では、溶媒とアイオノマーの親和性を下げることでアイオノマーの担体への吸着量を向上させることができ、高酸素透過性を有するアイオノマーを用いた電極に発生するひび割れを抑制することができることがわかる。