(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175891
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】作業能力の判定方法及び作業能力判定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/372 20210101AFI20241212BHJP
A61B 5/18 20060101ALI20241212BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61B5/372
A61B5/18
G09B19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093974
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】宝来 淳史
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊行
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C038PQ03
4C038PS03
4C127AA03
(57)【要約】
【課題】判定対象者の脳波を用いた能力の判定に当たって精度の高い判定結果を提供することを可能とする。
【解決手段】脳活動強度、或いは、脳活動容積で表される特徴脳部位の脳活動量と作業能力との関係性に関する脳活動情報、特徴脳部位の脳活動と時間的に同期する連結関係にある連結関係部位の脳活動量から算出される特徴脳部位の脳活動との連結性と作業能力との関係性に関する連結性情報のいずれか一方、または、両方を記憶部から取得し(ST4)、作業能力を判定する判定対象者の特徴脳部位の脳活動量と連結関係部位についての連結性のいずれか一方、または、両方を取得し、脳活動情報に対する判定対象者の特徴脳部位の脳活動量、連結性情報に対する判定対象者の連結関係部位における連結性のいずれか一方、または、両方を用いて判定対象者の作業能力を判定する(ST6)。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳活動強度、或いは、脳活動容積で表される特徴脳部位の脳活動量と作業能力との関係性に関する脳活動情報、前記特徴脳部位の脳活動と時間的に同期する連結関係にある連結関係部位の脳活動量から算出される前記特徴脳部位の脳活動との連結性と作業能力との関係性に関する連結性情報のいずれか一方、または、両方を記憶部から取得し、
作業能力を判定する判定対象者の前記特徴脳部位の脳活動量と前記連結関係部位についての前記連結性のいずれか一方、または、両方を取得し、
前記脳活動情報に対する前記判定対象者の前記特徴脳部位の脳活動量、前記連結性情報に対する前記判定対象者の前記連結関係部位における前記連結性のいずれか一方、または、両方を用いて前記判定対象者の作業能力を判定することを特徴とする作業能力の判定方法。
【請求項2】
前記判定対象者の作業能力の判定に当たって、前記判定対象者の前記特徴脳部位の脳活動量と前記脳活動情報における前記特徴脳部位の脳活動量との比較、或いは、前記判定対象者の前記連結関係部位における前記連結性と前記連結性情報における連結性との比較に基づいて前記判定対象者の作業能力の高低を判定することを特徴とする請求項1に記載の作業能力の判定方法。
【請求項3】
前記判定対象者の前記特徴脳部位の脳活動量と前記連結関係部位における前記連結性のいずれか一方、または、両方は、脳活動計測装置によって取得されることを特徴とする請求項1に記載の作業能力の判定方法。
【請求項4】
前記脳活動計測装置による前記判定対象者の前記脳活動量と前記連結性のいずれか一方、または、両方の計測は、イメージ提示装置によって前記判定対象者に対して運転のイメージが提示された場合に行われることを特徴とする請求項3に記載の作業能力の判定方法。
【請求項5】
前記特徴脳部位は、下前頭回であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の作業能力の判定方法。
【請求項6】
前記特徴脳部位である下前頭回は、左下前頭回であることを特徴とする請求項5に記載の作業能力の判定方法。
【請求項7】
前記特徴脳部位の前記脳活動と前記連結関係にある前記部位は、左側頭部、左海馬傍回、左上頭頂小葉の少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の作業能力の判定方法。
【請求項8】
脳活動強度、或いは、脳活動容積で表される特徴脳部位の脳活動量と作業能力との関係性に関する脳活動情報、前記特徴脳部位の脳活動と時間的に同期する連結関係にある連結関係部位の脳活動量から算出される前記特徴脳部位の脳活動との連結性と作業能力との関係性に関する連結性情報のいずれか一方、または、両方を記憶する記憶部と、
作業能力を判定する判定対象者の前記特徴脳部位の脳活動量、前記連結関係部位における前記連結性のいずれか一方、または、両方を取得して、前記脳活動情報と前記判定対象者の特徴脳部位の脳活動量との比較、前記連結性情報と前記判定対象者の前記連結関係部位における前記連結性のいずれか一方、または、両方を用いて前記判定対象者の作業能力を判定するコントローラと、
を備えることを特徴とする作業能力判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、作業能力の判定方法及び作業能力判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、実車での運転や自動車運転シミュレータを使用することなく、後頭部視覚野等で検出したγ帯域の脳波活動強度を記録し、その最大値と、予め実験により定めた運転能力との関係式により、判定対象者の運転能力を判定する自動車運転能力判定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、脳波の周波数帯域活動強度は、例えば、目をつぶる、眠くなるといった判定対象者の内的要因や、音や視覚等による外部からの刺激に基づく外的要因によって、変化する可能性がある。このように脳波の周波数帯域活動強度が運転能力以外の要因でも変化することになると、結果として判定精度は低くなってしまう。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、判定対象者の脳波を用いた能力の判定に当たって精度の高い判定結果を提供することが可能な解作業能力の判定方法及び作業能力判定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施の形態における作業能力の判定方法は、脳活動強度、或いは、脳活動容積で表される特徴脳部位の脳活動量と作業能力との関係性に関する脳活動情報、特徴脳部位の脳活動と時間的に同期する連結関係にある連結関係部位の脳活動量から算出される特徴脳部位の脳活動との連結性と作業能力との関係性に関する連結性情報を記憶部から取得し、作業能力を判定する判定対象者の特徴脳部位の脳活動量と連結関係部位についての連結性を取得し、脳活動情報に対する判定対象者の特徴脳部位の脳活動量、連結性情報に対する判定対象者の連結関係部位における連結性を用いて判定対象者の作業能力を判定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明はこのような構成を採用したことから、判定対象者の脳波を用いた能力の判定に当たって精度の高い判定結果を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態における作業能力判定装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図2】作業経験の多寡による脳における活動部位を示す模式図である。
【
図3】特徴脳部位の脳活動と連結関係にある連結関係部位を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施の形態における作業能力判定装置による作業能力の判定の流れを示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施の形態における作業能力判定装置による作業能力の判定の別の流れを示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施の形態における作業能力判定装置による作業能力の判定の別の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
図1は、本発明の実施の形態における作業能力判定装置1の内部構成を示すブロック図である。作業能力判定装置1は、判定対象者の作業能力の習熟を定量化して判定するために用いられる装置である。作業能力判定装置1は、記憶部11と、コントローラ12と、情報提供部13と、脳活動検出部14と、を備え、各部はバスBを介して情報のやり取りを行う。
【0011】
記憶部11は、例えば、半導体記憶装置や、磁気記憶装置、光学記憶装置等で構成されている。或いは、記憶部11は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでいても良い。
【0012】
記憶部11は、例えば、後述するコントローラ12で実行される、例えば、判定対象者の作業能力を判定する際に用いられる特徴脳部位の脳活動量と作業能力との関係性に関する脳活動情報を記憶している。また、特徴脳部位の脳活動と時間的に同期する連結関係にある連結関係部位の脳活動量から算出される前記特徴脳部位の脳活動との連結性と作業能力との関係性に関する連結性情報についても記憶されている。
【0013】
ここで特徴脳部位とは、判定対象者の作業能力と相関関係がある脳部位のことである。すなわち、例えばある作業に関して、当該作業に習熟している者と未習熟者との2群に分けて、それぞれに作業の様子を写した動画を見せて、自分でその作業を行っているところを想像してもらう。その際、例えば、磁気共鳴機能画像法(fMRI:functional Magnetic Resonance Imaging)を用いてそれぞれの群における判定対象者の脳活動を計測する
。
【0014】
この場合、判定対象者の脳活動を計測するために、例えば、脳波を検出する脳波センサが用いられる。また、上述したfMRIを用いて判定対象者の脳活動を測定する場合には、脳活動センサは、判定対象者の脳に磁場を印加する磁場印加機構と応答波を受信する受信コイルを備えても良い。
【0015】
以下においては、判定対象者の脳活動を計測するためにfMRIを用いて計測する場合を例に挙げて説明する。また、当該fMRIの方法を採用して判定対象者の脳活動を計測する装置が脳活動計測装置Mである。
【0016】
また、判定対象者の脳活動を計測して得られる脳活動量としては、例えば、脳活動強度、或いは、脳活動容積を挙げることができ、その両者を算出しても良く、或いは、いずれか一方を算出しても良い。さらに、作業習熟者に対する脳活動を計測したところ、前頭葉の下前頭回が活動しており、反対に未習熟者では、この下前頭回は活動していない、或いは、その活動が低調であることが把握された。そこで、以下の本発明の実施の形態においては、特徴脳部位が当該下前頭回である場合を例に挙げて説明する。
【0017】
図2は、作業経験の多寡による脳における活動部位を示す模式図である。
図2において示される脳の模式図は、脳を正面から見た状態を示す。そして紙面に向かって左が脳の右側、右が脳の左側である。また、上述した判定対象者に対してfMRIを用いて計測した際に、活動した脳の領域をハッチングで示している。
【0018】
図2Aは、未習熟者の脳活動量を計測した際に活動した脳の領域を示し、
図2Bは、習熟者の脳活動量を計測した際に活動した脳の領域を示している。習熟者と未習熟者における脳の活動領域の差を見てみると、習熟者では
図2Bにおいて丸で囲んで示される上述した下前頭回における活動が把握できるが、未習熟者では、当該下前頭回の活動が把握できなかった。すなわち、特徴脳部位(下前頭回)の脳活動と作業能力との間に相関性が見られた。
【0019】
また、記憶部11は、上述した特徴脳部位の脳活動と時間的に同期する連結関係にある連結関係部位の脳活動量から算出される特徴脳部位の脳活動との連結性と作業能力との関係性に関する連結性情報についても記憶する。ここで連結関係部位とは、特徴脳部位において脳活動が行われた際に、共に脳活動が行われる脳部位のことである。
【0020】
このことは、上述したfMRIを用いて作業習熟者の脳活動を計測した場合に、特徴脳部位である下前頭回の他、時間的に同期して活動する脳部位が存在することから把握されたものである。下前頭回の連結関係部位として把握された領域を示し、特徴脳部位と連結関係部位との関係を示したのが
図3である。
図3は、特徴脳部位の脳活動と連結関係にある連結関係部位を示す模式図である。
【0021】
特徴脳部位が下前頭回である場合に、下前頭回の脳活動に伴って同時期に活動する連結関係部位として把握されるのは、左海馬傍回、左上頭頂小葉、左上側頭回、左下側頭回の4つの部位である。
図3においては、それぞれの部位を丸で囲んで示している。
【0022】
また
図3では、特徴脳部位(下前頭回)と連結関係部位(左海馬傍回、左上頭頂小葉、左上側頭回、左下側頭回)とを実線で結ぶことによって、連結関係部位が特徴脳部位との間に連結性を有していることを示している。なお未習熟者では、このような特徴脳部位の脳活動と時間的に同期して活動する連結関係部位の存在を確認することができなかった。
【0023】
そして連結関係部位の脳活動量から、連結関係部位と特徴脳部位の脳活動との連結性が求められる。すなわち、例えば、特徴脳部位の脳活動に伴って活発に活動する連結関係部位は、特徴脳部位との連結性が強いと認められる。そしてさらに、当該連結性と作業能力との関係性を示す情報(以下、当該関係性を適宜「連結性情報」と表す)を算出し、この連結性情報を記憶部11が記憶する。
【0024】
なお、連結関係部位における特徴脳部位と連結関係部位との連結性の強さは連結関係部位ごとに異なる。但し、上述した下前頭回と左海馬傍回等とのように、1つの特徴脳部位の脳活動に連結性が見られる連結関係部位が複数存在する場合がある。このような場合における連結関係部位と特徴脳部位の脳活動との連結性については、個々の連結関係部位ごとに算出されても良く、或いは、複数の連結関係部位を1つにまとめて、まとまった連結関係部位と特徴脳部位との連結性が算出されても良い。
【0025】
コントローラ12は、上述した脳活動情報、連結性情報のいずれか一方、或いは、両方を用いて判定対象者の作業能力を判定する電子回路であり、例えば、図示しないプロセッサを含む。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)であって良い。
【0026】
なお、以下に説明するコントローラ12の機能は、例えばプロセッサが、記憶部11に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。また、コントローラ12を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。例えばコントローラ12は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。コントローラ12はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバ
イス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0027】
コントローラ12は、判定対象者の作業能力を判定するに当たって、後述する脳活動検出部14を介して、脳活動計測装置Mによって計測される特徴脳部位の脳活動量、前記連結関係部位における前記連結性のいずれか一方、または、両方を取得する。さらに、コントローラ12では、記憶部11から脳活動情報、連結性情報のいずれか一方、または、両方を取得する。
【0028】
その上で、コントローラ12は、判定対象者の特徴脳部位の脳活動量と脳活動情報との比較結果、判定対象者の連結関係部位における連結性と連結性情報との比較結果のいずれか一方、または、両方を用いて判定対象者の作業能力を判定する。
【0029】
情報提供部13は、コントローラ12が判定対象者の作業能力を判定した際の判定結果を報知する。従って情報提供部13は、モニタ等の表示装置や音声での報知が可能なスピーカ等、判定結果を確認する者の五感に訴えることができる装置である。
【0030】
脳活動検出部14は、上述したfMRIを用いて判定対象者の脳活動を計測した際の脳活動量を検出する。具体的には、例えば、fMRIによる計測が可能な、上述した脳活動計測装置Mを用いて、判定対象者の特徴脳部位の脳活動量や連結関係部位の脳活動量を検出する。
【0031】
なお、脳活動計測装置Mについては、例えば、判定対象者に作業の様子を映像で見せるイメージ提示装置M1や当該脳活動計測装置Mを制御する制御装置が必要となるが、当該脳活動計測装置Mの構成については、判定対象者の脳活動を計測することができるのであれば、どのような構成を採用しても良い。
【0032】
具体的にコントローラ12において判定される判定対象者の作業能力の判定方法の一例を挙げると次の通りである。まず事前に作業能力の異なる複数の者のデータを集めて、例えば、作業の様子を示す動画を見せて、脳活動計測装置MにおいてfMRIを用いて脳活動量を計測する。ここでは、特徴脳部位として下前頭回の脳活動強度、脳活動容積のいずれか一方、或いは、両方を計測する。
【0033】
そして統計的有意性が最も高い特徴脳部位の脳活動量を求める。その上で、特徴脳部位の脳活動量及び作業能力を2次元にプロットして、例えば、最小自乗法等を用いて近似曲線を算出する。この処理により、脳活動情報が得られる。
【0034】
また同様の手法を用いて、上述した特徴脳部位の脳活動と時間的に同期する連結関係にある連結関係部位の脳活動量を計測する。そして当該連結関係部位の脳活動量から算出される特徴脳部位の脳活動との連結性を算出する。その後、当該連結性と作業能力との関係性に関して、例えば、最小自乗法等を用いて近似曲線を算出する。この処理により、連結性情報が得られる。このようにして得られた脳活動情報、及び、連結性情報はいずれも記憶部11に記憶される。
【0035】
なお、上述した脳活動情報や連結性情報の取得時における特徴脳部位の脳活動量と作業
能力との関係性、或いは、連結性と作業能力との関係性に関して、作業能力の判定については、例えば、作業のトレーナが行っても良い。
【0036】
コントローラ12が判定対象者の作業能力を判定するに当たっては、判定対象者に対して、fMRIを用いて脳活動量を計測する。計測する脳活動量については、例えば、特徴脳部位の脳活動量であっても、或いは、連結関係部位の脳活動量であっても良い。fMRIによって取得された脳活動量は、脳活動検出部14を介してコントローラ12が取得する。また、コントローラ12は、計測された判定対象者の脳活動量に合わせて、記憶部11から脳活動情報、或いは、連結性情報のいずれか一方、或いは、両方を取得する。
【0037】
そして、脳活動情報、或いは、連結性情報を基に、判定対象者の作業能力の判定を行う。コントローラ12によって判定された判定対象者の作業能力については、例えば、情報提供部13を介して判定結果を確認する者に対して報知される。
【0038】
なお、これまで説明したようにコントローラ12が判定対象者の脳活動量を取得し、予め記憶部11に記憶されている脳活動情報、或いは、連結性情報を用いて判定対象者の作業能力を判定しているが、判定対象者の作業能力の判定に当たっては、このような方法でなくても良い。例えば、特徴脳部位や連結関係部位の脳活動量と作業能力との関係を機械学習によって学習させ、数理モデルを生成する。そして、取得された判定対象者の脳活動量を生成された当該数理モデルに当てはめることによって当該判定対象者の作業能力を判定することとしても良い。
【0039】
[動作]
次に、作業能力判定装置1による判定対象者の作業能力の判定の処理の流れについて説明する。なお、以下においては、判定対象者の作業能力を判定するに当たって、脳活動情報を用いる場合、連結性情報を用いる場合、及び、これらの両者を用いる場合に場合を分けて説明する。但し、脳活動情報と連結性情報とはそれぞれ取得の方法が異なることから、以下においては場合を分けて説明する。
【0040】
図4は、本発明の実施の形態における作業能力判定装置1による作業能力の判定の流れを示すフローチャートである。
図4に示す作業能力の判定の流れは、脳活動情報を用いる場合である。なお、以下に説明する判定対象者の作業能力の判定方法においては、事前に脳活動情報、及び、連結性情報が記憶部11に記憶されていることを前提とする。
【0041】
まず、判定対象者の脳活動量を測定するために評価対象となる作業動画を、例えば、イメージ提示装置M1において提示する(ST1)。そして脳活動計測装置MにおいてfMRIによって判定対象者の特徴脳部位の脳活動が計測される(ST2)。コントローラ12では、脳活動計測装置Mにおいて計測された脳活動の結果を脳活動検出部14から取得し、当該結果を基に判定対象者の特徴脳部位における脳活動量を算出する(ST3)。
【0042】
なお、このようにコントローラ12が脳活動量を算出するが、例えば、脳活動量の算出まで脳活動計測装置Mにおいて実行し、算出された脳活動量の結果をコントローラ12が脳活動検出部14を介して取得しても良い。
【0043】
またコントローラ12では記憶部11にアクセスして特徴脳部位の脳活動量と作業能力との関係性に関する情報(脳活動情報)を取得する(ST4)。そして、判定対象者の脳活動量と脳活動情報とを比較する(ST5)。
【0044】
コントローラ12では、脳活動量が脳活動情報を表す、例えば近似曲線を基に、判定対象者の作業能力を判定する。具体的には、脳活動情報において作業能力の高低を判定する
閾値を予め設定しておき、当該閾値と判定対象者の脳活動量とを比較する(ST6)。
【0045】
その結果、判定対象者の脳活動量が脳活動情報(閾値)以上であれば(ST6のYES)、コントローラ12は当該判定対象者の作業能力は高いと判定する(ST7)。一方、判定対象者の脳活動量が脳活動情報(閾値)よりも小さい場合には(ST7のNO)、コントローラ12は当該判定対象者の作業能力は低いと判定される(ST8)。
【0046】
一方、判定対象者の作業能力を判定するに当たって、連結性情報を用いる場合は次の通りである。
図5は、本発明の実施の形態における作業能力判定装置1による作業能力の判定の別の流れを示すフローチャートである。
【0047】
図5に示すフローチャートのうち、判定対象者の脳活動量を測定するために評価対象となる作業動画を、例えば、イメージ提示装置M1において提示し(ST21)、脳活動計測装置MにおいてfMRIによって判定対象者の特徴脳部位の脳活動が計測される(ST22)点は上述した通りである。そして、さらに、判定対象者における特徴脳部位の脳活動と連結関係にある連結関係部位における脳活動を計測する(ST23)。
【0048】
コントローラ12では、取得された特徴脳部位の脳活動量と連結関係部位における脳活動量を基に両者の連結性を算出する(ST24)。また、記憶部11から当該連結性と作業能力との関係性に関する情報(連結性情報)を取得する(ST25)。
【0049】
そしてコントローラ12は、判定対象者の連結関係部位の脳活動量と連結性情報とを比較する(ST26)。コントローラ12は、脳活動量が連結性情報に示されている、上述した、例えば近似曲線を基に、判定対象者の作業能力を判定する。
【0050】
具体的には、連結性情報において作業能力の高低を判定する閾値を予め設定しておき、当該閾値と判定対象者の脳活動量とを比較する(ST27)。その結果、判定対象者の脳活動量が連結性情報(閾値)以上であれば(ST27のYES)、コントローラ12は、当該判定対象者の作業能力は高いと判定する(ST28)。
【0051】
一方、判定対象者の脳活動量が連結性情報(閾値)よりも小さい場合には(ST27のNO)、コントローラ12は、当該判定対象者の作業能力は低いと判定される(ST29)。
【0052】
ここまでは判定対象者の作業能力の判定に当たって脳活動情報、或いは、連結性情報のいずれかを用いた例を説明した。一方で、これらの脳活動情報、及び、連結性情報の両方を用いて判定対象者の作業能力を判定することもできる。
図6は、本発明の実施の形態における作業能力判定装置1による脳活動情報、及び、連結性情報の両方を用いた作業能力の判定の流れを示すフローチャートである。
【0053】
図6に示すフローチャートのうち、判定対象者の脳活動量を測定するために評価対象となる作業動画を、例えば、イメージ提示装置M1において提示し(ST41)、脳活動計測装置MにおいてfMRIによって判定対象者の特徴脳部位の脳活動が計測される(ST42)点は上述した通りである。そしてコントローラ12では、脳活動計測装置Mにおいて計測された結果を基に、判定対象者の特徴脳部位における脳活動量を算出する(ST43)。
【0054】
さらに、判定対象者における特徴脳部位の脳活動と連結関係にある連結関係部位における脳活動が計測され(ST44)、コントローラ12では、取得された特徴脳部位の脳活動量と連結関係部位における脳活動量を基に両者の連結性を算出する(ST45)。
【0055】
そしてコントローラ12は、記憶部11にアクセスして特徴脳部位の脳活動量と作業能力との関係性に関する情報(脳活動情報)を取得するとともに(ST46)、連結性と作業能力との関係性に関する情報(連結性情報)を取得する(ST47)。
【0056】
コントローラ12では、算出された判定対象者の脳活動量と脳活動情報とを比較し、併せて連結性と連結性情報とを比較する(ST48)。本発明の実施の形態における作業能力判定装置1において実行される判定処理では、まず、脳活動情報を用いて大きく判定対象者の作業能力の高低を判定する。
【0057】
すなわち、脳活動情報において予め設定されている作業能力の高低を判定する閾値と判定対象者の脳活動量とを比較した結果、判定対象者の脳活動量が脳活動情報(閾値)以上であれば(ST49のYES)、コントローラ12は、当該判定対象者の作業能力は高いと判定する。そしてさらに、コントローラ12は、連結性情報において予め設定されている作業能力の高低を判定する閾値と判定対象者の連結関係部位における脳活動量とを比較する(ST50)。
【0058】
その結果、判定対象者の連結関係部位における脳活動量が連結性情報(閾値)以上であれば(ST50のYES)、コントローラ12は、当該判定対象者の作業能力は高いと判定する(ST51)。一方、判定対象者の脳活動量が連結性情報(閾値)よりも小さい場合には(ST50のNO)、コントローラ12によって、当該判定対象者の作業能力は中程度と判定される(ST52)。
【0059】
これは、連結性情報を用いて判定を行う前に脳活動情報を用いて判定が行われ、判定対象者の作業能力の高低が判定されて、一旦は脳活動情報によって作業能力が高いと判定されていることから、作業能力は中程度と判定するものである。一方、判定対象者の脳活動量が脳活動情報(閾値)よりも小さい場合には(ST49のNO)、コントローラ12は、当該判定対象者の作業能力は低いと判定する(ST53)。
【0060】
このように脳活動情報、及び、連結性情報の両者を用いることによって、判定対象者の作業能力をより細かく判定することができる。
【0061】
[実施例の効果]
(1)脳活動強度、或いは、脳活動容積で表される特徴脳部位の脳活動量と作業能力との関係性に関する脳活動情報、特徴脳部位の脳活動と時間的に同期する連結関係にある連結関係部位の脳活動量から算出される特徴脳部位の脳活動との連結性と作業能力との関係性に関する連結性情報のいずれか一方、または、両方を記憶部から取得し、作業能力を判定する判定対象者の特徴脳部位の脳活動量と連結関係部位についての連結性のいずれか一方、または、両方を取得し、脳活動情報に対する判定対象者の特徴脳部位の脳活動量、連結性情報に対する判定対象者の連結関係部位における連結性のいずれか一方、または、両方を用いて判定対象者の作業能力を判定する。
【0062】
このような判定方法を採用することによって、判定対象者の脳波を用いた能力の判定に当たって判定対象者の内的要因や外的要因に左右されずに精度の高い判定結果を提供することができる。
【0063】
(2)判定対象者の作業能力の判定に当たって、判定対象者の特徴脳部位の脳活動量と脳活動情報における特徴脳部位の脳活動量との比較、或いは、判定対象者の連結関係部位における連結性と連結性情報における連結性との比較に基づいて判定対象者の作業能力の高低を判定する。
【0064】
このように判定対象者の作業能力を判定するに当たって、脳活動量、或いは、連結性情報を用いることによって、精度の高い判定結果を提供することができる。
【0065】
(3)判定対象者の特徴脳部位の脳活動量と連結関係部位における連結性のいずれか一方、または、両方は、脳活動計測装置によって取得される。
【0066】
判定対象者の脳活動を計測する装置として例えば、fMRI等の脳活動計測装置を用いることによって、より精確な判定対象者の脳活動を計測することができる。
【0067】
(4)脳活動計測装置による判定対象者の脳活動量と連結性のいずれか一方、または、両方の計測は、イメージ提示装置によって判定対象者に対して運転のイメージが提示された場合に行われる。
【0068】
判定対象者の脳活動を計測する際に、実際の作業能力判定装置をイメージ提示装置によって見せることによって、実際の作業に即した脳活動をより精度良く計測することができ、結果として作業能力の判定精度が向上する。
【0069】
(5)特徴脳部位は、下前頭回であることを特徴とする。判定対象者の作業能力を判定する際に、実際に作業を行う際に機能する下前頭回を脳活動の計測対象とすることによって、判定精度のさらなる向上を図ることができる。
【0070】
(6)特徴脳部位である下前頭回は、左下前頭回である。判定対象者の作業能力を判定する際に、実際に作業を行う際に機能する下前頭回を脳活動の計測対象とすることによって、判定精度のさらなる向上を図ることができる。
【0071】
(7)特徴脳部位の脳活動と連結関係にある部位は、左側頭部、左海馬傍回、左上頭頂小葉の少なくともいずれか1つである。判定対象者の作業能力を判定する際に、実際に作業を行う際に機能する下前頭回と連結関係にある部位を脳活動の計測対象とすることによって、判定精度のさらなる向上を図ることができる。
【0072】
(8)脳活動強度、或いは、脳活動容積で表される特徴脳部位の脳活動量と作業能力との関係性に関する脳活動情報、特徴脳部位の脳活動と時間的に同期する連結関係にある連結関係部位の脳活動量から算出される特徴脳部位の脳活動との連結性と作業能力との関係性に関する連結性情報のいずれか一方、または、両方を記憶する記憶部と、作業能力を判定する判定対象者の特徴脳部位の脳活動量、連結関係部位における連結性のいずれか一方、または、両方を取得して、脳活動情報と判定対象者の特徴脳部位の脳活動量との比較、連結性情報と判定対象者の連結関係部位における連結性のいずれか一方、または、両方を用いて判定対象者の作業能力を判定するコントローラと、を備える作業能力判定装置である。
【0073】
このような判定装置を採用することによって、判定対象者の脳波を用いた能力の判定に当たって判定対象者の内的要因や外的要因に左右されずに精度の高い判定結果を提供することができる。
【符号の説明】
【0074】
1・・・作業能力判定装置、11・・・記憶部、12・・・コントローラ、13・・・情報提供部、14・・・脳活動検出部、M・・・脳活動計測装置、M1・・・イメージ提示装置