IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-制御装置 図1
  • 特開-制御装置 図2
  • 特開-制御装置 図3
  • 特開-制御装置 図4
  • 特開-制御装置 図5
  • 特開-制御装置 図6
  • 特開-制御装置 図7
  • 特開-制御装置 図8
  • 特開-制御装置 図9
  • 特開-制御装置 図10
  • 特開-制御装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175899
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20241212BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241212BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H02P21/05 ZHV
H02M7/48 E
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093987
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】浜田 栄太
(72)【発明者】
【氏名】竹本 晴輝
(72)【発明者】
【氏名】柳生 泰秀
(72)【発明者】
【氏名】大沼 裕樹
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ26
5H505LL22
5H505LL41
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】モータの動作によるノイズや振動の発生を抑制するための技術を開示すること。
【解決手段】制御装置は、各相のステータ巻線に流れる電流をd軸電流とq軸電流とに変換するdq電流変換部と、d軸指令電圧及びq軸指令電圧をそれぞれ算出するdq指令電圧算出部と、d軸指令電圧及びq軸指令電圧を受け取り、これらを三相電圧に変換する三相変換部と、三相電圧に基づいて、三相交流モータに電力を供給する供給部と、を備える。d軸電流指令値及びq軸電流指令値は電流高調波成分をそれぞれ含む。制御装置は、d軸電流指令値の時間変化量とd軸インダクタンスとに基づいてd軸インダクタ電圧を算出すると共に、q軸電流指令値の時間変化量とq軸インダクタンスとに基づいてq軸インダクタ電圧を算出するdqインダクタ電圧算出部と、d軸指令電圧及びq軸指令電圧に、d軸インダクタ電圧及びq軸インダクタ電圧をそれぞれ加算する加算部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流モータの制御装置であって、
前記三相交流モータの各相のステータ巻線に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記三相交流モータのロータの回転角度を検出する回転角度検出部と、
検出された前記ロータの前記回転角度に基づいて、検出された前記各相の前記ステータ巻線に流れる前記電流を、前記ロータの回転に同期して回転するdq回転座標系のd軸電流とq軸電流とに変換するdq電流変換部と、
d軸電流指令値と前記d軸電流との偏差であるd軸偏差、及び、q軸電流指令値と前記q軸電流との偏差であるq軸偏差とに基づいて、d軸指令電圧及びq軸指令電圧をそれぞれ算出するdq指令電圧算出部と、
前記d軸指令電圧及び前記q軸指令電圧を受け取り、これらを三相電圧に変換する三相変換部と、
前記三相電圧に基づいて、前記三相交流モータに電力を供給する供給部と、
を備え、
前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値は、前記ステータ巻線に流れる前記電流の基本波周波数の整数倍の電流高調波成分をそれぞれ含み、
前記ロータの前記回転角度に応じて変化する前記d軸電流指令値の時間変化量と、前記三相交流モータのd軸インダクタンスとに基づいて、d軸インダクタ電圧を算出すると共に、前記ロータの前記回転角度に応じて変化する前記q軸電流指令値の時間変化量と、前記三相交流モータのq軸インダクタンスとに基づいて、q軸インダクタ電圧を算出するdqインダクタ電圧算出部と、
前記d軸指令電圧及び前記q軸指令電圧に、前記d軸インダクタ電圧及び前記q軸インダクタ電圧をそれぞれ加算する加算部と、
をさらに備え、
3相2相変換行列をX、回転座標変換行列をY、及び、インダクタンス行列をLとしたときに、前記d軸インダクタンスは、(2/3)×XYLYの式で表現される行列の(1、1)成分として算出され、前記q軸インダクタンスは、前記行列の(2、2)成分として算出され、
前記インダクタンス行列Lは、前記ステータ巻線の各相の自己インダクタンスLU、LV、LW及び相互インダクタンスMUV、MVW、MWUからなり、
前記自己インダクタンスLU、LV、LW及び前記相互インダクタンスMUV、MVW、MWUのそれぞれは、インダクタンス高調波成分を含み、
前記3相2相変換行列X、前記回転座標変換行列Y、及び、前記インダクタンス行列Lは、次式、
【数1】
で定義される、制御装置。
【請求項2】
前記三相交流モータの回転速度に基づいて、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値を決定する電流指令値生成部をさらに備え、
前記電流指令値生成部は、前記三相交流モータの前記回転速度をパラメータとして、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値に付与する前記電流高調波成分の次数と、それぞれの振幅及び位相とを記述する高調波電流マップを有する、請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、三相交流モータを制御するための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、三相交流モータ制御装置が開示されている。この制御装置は、モータに流れる電流から高調波成分を除去する。そして、制御装置は、速度起電力の影響をフィードフォワード補償器で補償する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-312864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータに流れる電流の高調波の影響で、モータの各相の巻線の自己インダクタンス及び相互インダクタンスにも高調波成分が重畳する。上記の技術では、このような自己インダクタンス及び相互インダクタンスの高調波成分については考慮されていない。このような自己インダクタンス及び相互インダクタンスの高調波成分が存在すると、高調波成分を含む電流の制御において、指令値への追従性が低下する。指令値への追従性が低下すると、モータの動作によってノイズや振動が発生する。
【0005】
本明細書では、モータの動作によるノイズや振動の発生を抑制するための技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、三相交流モータの制御装置を開示する。制御装置は、前記三相交流モータの各相のステータ巻線に流れる電流を検出する電流検出部と、前記三相交流モータのロータの回転角度を検出する回転角度検出部と、検出された前記ロータの前記回転角度に基づいて、検出された前記各相の前記ステータ巻線に流れる前記電流を、前記ロータの回転に同期して回転するdq回転座標系のd軸電流とq軸電流とに変換するdq電流変換部と、d軸電流指令値と前記d軸電流との偏差であるd軸偏差、及び、q軸電流指令値と前記q軸電流との偏差であるq軸偏差とに基づいて、d軸指令電圧及びq軸指令電圧をそれぞれ算出するdq指令電圧算出部と、前記d軸指令電圧及び前記q軸指令電圧を受け取り、これらを三相電圧に変換する三相変換部と、前記三相電圧に基づいて、前記三相交流モータに電力を供給する供給部と、を備え、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値は、前記ステータ巻線に流れる前記電流の基本波周波数の整数倍の電流高調波成分をそれぞれ含み、前記ロータの前記回転角度に応じて変化する前記d軸電流指令値の時間変化量と、前記三相交流モータのd軸インダクタンスとに基づいて、d軸インダクタ電圧を算出すると共に、前記ロータの前記回転角度に応じて変化する前記q軸電流指令値の時間変化量と、前記三相交流モータのq軸インダクタンスとに基づいて、q軸インダクタ電圧を算出するdqインダクタ電圧算出部と、前記d軸指令電圧及び前記q軸指令電圧に、前記d軸インダクタ電圧及び前記q軸インダクタ電圧をそれぞれ加算する加算部と、をさらに備え、3相2相変換行列をX、回転座標変換行列をY、及び、インダクタンス行列をLとしたときに、前記d軸インダクタンスは、(2/3)×XYLYの式で表現される行列の(1、1)成分として算出され、前記q軸インダクタンスは、前記行列の(2、2)成分として算出され、前記インダクタンス行列Lは、前記ステータ巻線の各相の自己インダクタンスLU、LV、LW及び相互インダクタンスMUV、MVW、MWUからなり、前記自己インダクタンスLU、LV、LW及び前記相互インダクタンスMUV、MVW、MWUのそれぞれは、インダクタンス高調波成分を含み、前記3相2相変換行列X、前記回転座標変換行列Y、及び、前記インダクタンス行列Lは、次式、
【数1】

で定義される。
【0007】
上記の構成によると、制御装置は、d軸インダクタンスに基づいてd軸インダクタ電圧を算出すると共に、q軸インダクタンスに基づいてq軸インダクタ電圧を算出する。d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスは、三相交流モータの各相のステータ巻線の自己インダクタンス及び相互インダクタンスの高調波成分の情報を含む。即ち、d軸インダクタ電圧及びq軸インダクタ電圧も、自己インダクタンス及び相互インダクタンスの高調波成分の情報を含む。そして、制御装置は、d軸制御電圧にd軸インダクタ電圧を加算してd軸指令電圧を算出すると共に、q軸制御電圧にq軸インダクタ電圧を加算してq軸指令電圧を算出する。この結果、指令値への追従性が向上する。従って、モータの動作によるノイズや振動の発生を抑制することができる。
【0008】
本技術の一実施形態では、制御装置は、前記三相交流モータの回転速度に基づいて、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値を決定する電流指令値生成部をさらに備えてもよい。この場合、前記電流指令値生成部は、前記三相交流モータの前記回転速度をパラメータとして、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値に付与する前記電流高調波成分の次数と、それぞれ(即ち、各次数の電流高調波成分)の振幅及び位相とを記述する高調波電流マップを有してもよい。
【0009】
モータの動作によるノイズや振動は、当該モータが搭載された装置(例えば電動車)の特定の箇所(例えば車室内)に伝達して、当該特定の箇所において騒音又は振動が生じる。特に、伝達系の共振周波数に近い周波数成分の電磁強制力が生じると、特定の箇所における騒音又は振動の発生が顕著となる。伝達系の共振周波数はほぼ一定の値であるが、電磁強制力の各次数の周波数はモータの回転数に応じて変化する。この点に鑑みて、上記の構成は、回転速度をパラメータとして、電流指令値に付与する高調波の次数と、それぞれの振幅及び位相とを記述する高調波電流マップを有している。これにより、制御装置は、伝達系の共振周波数帯に含まれる高調波の次数、電流振幅、及び位相を、高調波電流マップを用いて特定することができる。このために、制御装置は、モータの回転速度によって変化する高調波の各次数の周波数のうち、特定の箇所における騒音又は振動の顕著な原因となる周波数の電磁強制力をキャンセルするようなd軸電流指令値及びq軸電流指令値を出力することができる。従って、モータの動作によるノイズや振動の影響を低減することができる。
【0010】
また、付与される高調波成分が限定される場合には、d軸電流指令値及びq軸電流指令値に全ての高調波成分が付与される場合と比較して、高調波電流が通電することによる損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】制御装置が搭載される電動車両のブロック図を示す。
図2】制御装置のブロック図を示す。
図3】インダクタ電圧推定部のブロック図を示す。
図4】インダクタ電圧推定部が実行する処理のフローチャートを示す。
図5】自己インダクタンス及び相互インダクタンスの波形の一例を示す。
図6図6(a)は、自己インダクタンス及び相互インダクタンスの高調波の振幅の一例を示し、図6(b)は、自己インダクタンスの高調波の位相の一例を示し、図6(c)は、相互インダクタンスの高調波の位相の一例を示す。
図7】d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスの波形の一例を示す。
図8図8(a)は、d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスの高調波の振幅の一例を示し、図8(b)は、d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスの高調波の位相の一例を示す。
図9図9(a)は、q軸電流の指令値の波形(破線)と、q軸インダクタ電圧が印加される場合のq軸電流の波形(実線)と、q軸インダクタ電圧が印加されない場合のq軸電流の波形(点線)と、の一例を示し、図9(b)は、d軸電流の指令値の波形(破線)と、d軸インダクタ電圧が印加される場合のd軸電流の波形(実線)と、d軸インダクタ電圧が印加されない場合のd軸電流の波形(点線)と、の一例を示す。
図10】dq軸電流指令値生成部のブロック図を示す。
図11】dq軸電流指令値生成部が実行する処理のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書は、三相交流モータ14の制御装置30を開示する。図1に示されるように、本実施例の制御装置30は、バッテリ10と、走行用の三相交流モータ14と、を備える電動車2に搭載される。電動車2は、特に限定されないが、例えば電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車等である。
【0013】
電動車2は、バッテリ10と、コンデンサ12と、三相交流モータ14と、電流センサ16と、回転角センサ18と、インバータ20と、制御装置30と、を備える。バッテリ10は直流電力を出力する。バッテリ10は、例えばリチウムイオン電池である。バッテリ10の出力電力は、図示省略のコンバータに供給されて、バッテリ10の出力電力が昇圧される。コンバータによって昇圧された電力(直流電力)は、インバータ20に供給される。インバータ20は、供給された直流電力を三相交流電力に変換して、三相交流モータ14に供給する。
【0014】
本実施例の三相交流モータ14は、いわゆる三相Y結線(スター結線)モータであり、U相コイル14U、V相コイル14V、W相コイル14Wを備える。インバータ20は、6個のスイッチング素子22a~22fを備える。2個のスイッチング素子22a,22bは、三相交流モータ14のU相コイル14Uに供給する電力を制御する。2個のスイッチング素子22c,22dは、三相交流モータ14のV相コイル14Vに供給する電力を制御する。2個のスイッチング素子22e,22fは、三相交流モータ14のW相コイル14Wに供給する電力を制御する。
【0015】
電流センサ16は、三相交流モータ14に供給される電流を検出する。ここで、図1に示されるように、本実施例の電流センサ16は、U相コイル14Uに供給されるU相電流と、V相コイル14Vに供給されるV相電流と、を検出する。U相電流、V相電流、及びW相コイル14Wに供給されるW相電流のそれぞれの瞬時値の和は0になるので、U相電流とV相電流を検出できれば、W相電流も検出されたことになる。回転角センサ18は、三相交流モータ14のロータ(図示省略)の回転角度を検出する。
【0016】
制御装置30は、インバータ20の各スイッチング素子22a~22fを制御することで、三相交流モータ14を制御する。制御装置30は、電流センサ16及び回転角センサ18と通信可能に構成されており、それぞれの検出値を取得する。制御装置30は、電流センサ16及び回転角センサ18の検出値に基づいて、駆動信号(例えばPWM信号)を生成する。インバータ20の各スイッチング素子22a~22fは、上記の駆動信号に基づいて制御される。
【0017】
図2に示されるように、制御装置30は、UVW/dq変換部31と、dq軸電圧指令演算部32と、インダクタ電圧推定部33と、dq/UVW変換部34と、PWM信号生成部35と、dq軸非干渉項36と、4個の加算器A1~A4と、を備える。また、制御装置30は、dq軸電流指令値生成部40をさらに備える。dq軸電流指令値生成部40は、d軸直流電流指令値Id_DC 及びq軸直流電流指令値Iq_DC を受け取り、d軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I を生成して出力する。d軸直流電流指令値Id_DC 及びq軸直流電流指令値Iq_DC は、制御装置30よりも上位の制御装置(図示省略)において、例えばユーザによるアクセル開度等に基づいて決定される。
【0018】
UVW/dq変換部31は、電流センサ16によって検出されたU相電流I及びV相電流Iと、回転角センサ18によって検出されたロータ角度θと、を受け取り、三相電流I,I,Iを、d軸電流I及びq軸電流Iの二相電流に変換して出力する。変換されたd軸電流Iは、加算器A1に供給される。変換されたq軸電流Iは、加算器A2に供給される。上記の変換の具体的な手法は当業者によく知られているので、詳細な説明を省略する。
【0019】
dq軸電圧指令演算部32は、d軸指令電圧とq軸指令電圧とを算出する。具体的には、dq軸電圧指令演算部32は、まず、加算器A1から、dq軸電流指令値生成部40によって出力されるd軸電流指令値I と、UVW/dq変換部31によって出力されるd軸電流Iと、の偏差であるd軸偏差(I -I)を受け取る。そして、dq軸電圧指令演算部32は、当該d軸偏差を0にするような(即ち実際の電流を指令値に近づけるような)d軸指令電圧を算出して出力する。算出されたd軸指令電圧は、加算器A3に供給される。同様に、dq軸電圧指令演算部32は、加算器A2からq軸偏差(I -I)を受け取り、q軸指令電圧を算出して出力する。算出されたq軸指令電圧は、加算器A4に供給される。即ち、dq軸電圧指令演算部32は、フィードバック制御によって、d軸指令電圧及びq軸指令電圧を算出する。dq軸電圧指令演算部32は、例えばPI制御器によって実現される。なお、上記のd軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I は、三相交流モータ14の各相のコイル14U,14V,14Wに流れる電流の基本波周波数の整数倍の高調波成分を含む。
【0020】
上記の通り、d軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I は高調波成分を含む。d軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I が高調波成分を含むと、上記したdq軸電圧指令演算部32によって実行されるフィードバック制御だけでは、指令値に対する遅延が生じる(即ち、指令値への追従性が低下する)。指令値に対する遅延が生じると、三相交流モータ14の動作によるノイズや振動が発生する。そこで、この遅延を補償するために、本実施例の制御装置30は、インダクタ電圧推定部33を備える。インダクタ電圧推定部33は、d軸電流指令値I とq軸電流指令値I とロータ角度θとを受け取り、d軸指令電圧及びq軸指令電圧のそれぞれにフィードフォワード項として加算すべきd軸インダクタ電圧及びq軸インダクタ電圧を算出して出力する。算出されたd軸インダクタ電圧は、加算器A3に供給される。算出されたq軸インダクタ電圧は、加算器A4に供給される。
【0021】
特に、d軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I に含まれる高調波成分に起因して、三相交流モータ14の各相のコイル14U,14V,14Wの自己インダクタンス及び相互インダクタンスも、高調波成分を含む。本実施例では、d軸インダクタ電圧及びq軸インダクタ電圧は、自己インダクタンス及び相互インダクタンスに含まれる高調波の影響も加味した値として算出されて、d軸指令電圧及びq軸指令電圧のそれぞれに加算される。このため、上記の遅延の補償をより精密に実行することができる。d軸インダクタ電圧及びq軸インダクタ電圧の具体的な算出方法の詳細については図3を参照して後述する。
【0022】
制御装置30は、さらに、dq軸非干渉項36を加算器A3,A4のそれぞれに供給する。この結果、加算器A3によって、d軸指令電圧とd軸インダクタ電圧とdq軸非干渉項36とが加算されたd軸電圧V が算出されて出力される。同様に、加算器A4によって、q軸指令電圧とq軸インダクタ電圧とdq軸非干渉項36とが加算されたq軸電圧V が算出されて出力される。算出されたd軸電圧V 及びq軸電圧V は、dq/UVW変換部34に供給される。
【0023】
dq/UVW変換部34は、d軸電圧V 及びq軸電圧V を受け取り、これらを三相電圧に変換して出力する。そして、PWM信号生成部35は、変換された三相電圧を受け取り、PWM信号(即ち駆動信号)を生成して出力する。当該PWM信号が各スイッチング素子22a~22fに供給されることで、三相交流モータ14が制御される。
【0024】
続いて、図3及び図4を参照して、インダクタ電圧推定部33の構成及びインダクタ電圧推定部33によって実行される処理について説明する。図3に示されるように、インダクタ電圧推定部33は、LPF(Low Pass Filterの略)33aと、dq軸インダクタンスマップ33bと、微分器33cと、を備える。LPF33aは、d軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I を受け取り、高調波成分を除去して、d軸電流指令値I の直流成分Id_DC 、及び、q軸電流指令値I の直流成分Iq_DC を出力する(図4のS10)。微分器33cは、d軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I を受け取り、それぞれを時間微分した値(d/dt)I ,(d/dt)I (即ち、時間変化量)を出力する。
【0025】
dq軸インダクタンスマップ33bは、d軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I と、ロータ角度θと、を受け取り、d軸インダクタンスの瞬時値L (t)及びq軸インダクタンスの瞬時値L (t)を算出して出力する(図4のS12~S16)。具体的には、dq軸インダクタンスマップ33bは、以下のようにして、d軸インダクタンスの瞬時値L (t)及びq軸インダクタンスの瞬時値L (t)を算出する。
【0026】
まず、三相交流モータ14の各相のコイル14U,14V,14Wについて、自己インダクタンスLU、LV、LW及び相互インダクタンスMUV、MVW、MWUは、以下のように表わされる。
【0027】
【数2】
【0028】
ここで、自己インダクタンスLUは、U相コイル14Uの自己インダクタンスである。自己インダクタンスLVは、V相コイル14Vの自己インダクタンスである。自己インダクタンスLWは、W相コイル14Wの自己インダクタンスである。相互インダクタンスMUVは、U相コイル14UとV相コイル14Vとの間の相互インダクタンスである。相互インダクタンスMVWは、V相コイル14VとW相コイル14Wとの間の相互インダクタンスである。相互インダクタンスMWUは、W相コイル14WとU相コイル14Uとの間の相互インダクタンスである。
【0029】
また、上記の式中、LDCは自己インダクタンスの直流成分、Las_nは自己インダクタンスのn次成分の振幅、φLnは、自己インダクタンスのn次成分の位相、MDCは相互インダクタンスの直流成分、Mas_nは相互インダクタンスのn次成分の振幅、φMnは、相互インダクタンスのn次成分の位相である。上記の式中の総和(Σ)は、nを束縛変数とする総和であり、nは、正の偶数全体を動く。このように、自己インダクタンスLU、LV、LW及び相互インダクタンスMUV、MVW、MWUは、高調波成分を含む。各パラメータLDC,Las_n,φLn,MDC,Mas_n,及びφMnは、d軸電流Iの直流成分Id_DC及びq軸電流Iの直流成分Iq_DCに応じて変化する値である。このため、dq軸インダクタンスマップ33bは、d軸電流Iの直流成分Id_DC及びq軸電流Iの直流成分Iq_DCをパラメータとして、各パラメータLDC,Las_n,φLn,MDC,Mas_n,及びφMnを決定可能なマップ又は算出式を記憶している。図5は、自己インダクタンスLU、LV、LW及び相互インダクタンスMUV、MVW、MWUの波形の一例を示す。図6は、自己インダクタンスLU、LV、LW及び相互インダクタンスMUV、MVW、MWUの高調波成分の振幅(図6(a)参照)及び位相(図6(b)及び(c)参照)の一例を示す。インダクタ電圧推定部33は、d軸電流Iの直流成分Id_DC及びq軸電流Iの直流成分Iq_DCに基づいて、各パラメータLDC,Las_n,φLn,MDC,Mas_n,及びφMnを決定するためのマップ(又は算出式)を選択して、上記の各パラメータLDC,Las_n,φLn,MDC,Mas_n,及びφMnを決定する(図4のS12)。
【0030】
次いで、dq軸インダクタンスマップ33bは、上記の自己インダクタンスLU、LV、LW及び相互インダクタンスMUV、MVW、MWUを、d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスに変換する。具体的には、まず、dq軸インダクタンスマップ33bは、回転角センサ18から、ロータ角度θを受け取る(図4のS14)。次いで、dq軸インダクタンスマップ33bは、3相2相変換行列をX、回転座標変換行列をY、及び、インダクタンス行列をLとしたときに、(2/3)×XYLYの式で表現される行列の(1、1)成分、(2、2)成分をそれぞれ、d軸インダクタンスの瞬時値L (t)、q軸インダクタンスの瞬時値L (t)として算出する(図4のS16)。ここで、X,Yは、それぞれ、行列X,Yの転置行列であり、行列X,Y,Lは以下の式で定義される。
【0031】
【数3】
【0032】
図7は、d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLの波形の一例を示す。図8は、d軸インダクタンスL及びq軸インダクタンスLの高調波成分の振幅(図8(a)参照)と位相(図8(b)参照)との一例を示す。
【0033】
その後、dq軸インダクタンスマップ33bの出力であるd軸インダクタンスの瞬時値L (t)と、微分器33cの出力である(d/dt)I と、係数Kと、が乗算器M1によって乗算され、d軸インダクタ電圧VLd が算出される。同様に、dq軸インダクタンスマップ33bの出力であるq軸インダクタンスの瞬時値L (t)と、微分器33cの出力である(d/dt)I と、係数Kと、が乗算器M2によって乗算され、q軸インダクタ電圧VLq が算出される(図4のS18)。即ち、d軸インダクタ電圧VLd 及びq軸インダクタ電圧VLq は、それぞれ以下の式で算出される値である。
【0034】
【数4】
【0035】
なお、上記の係数K,Kは、製品の個体差によるロバスト性の担保等を目的に用いられる係数である。変形例では、d軸インダクタ電圧VLd 及びq軸インダクタ電圧VLq を算出する際に、係数K,Kが利用されなくてもよい。
【0036】
dq軸インダクタンスマップ33bは、上記のd軸インダクタ電圧VLd 及びq軸インダクタ電圧VLq が算出されると、これらを出力する(図4のS20)。この結果、d軸インダクタ電圧VLd は、加算器A3に供給される。q軸インダクタ電圧VLq は、加算器A4に供給される(図2参照)。インダクタ電圧推定部33は、電流指令値への高調波の重畳が継続している状況において、図4の処理を繰り返し実行する(図4のS22でYES:S10)。
【0037】
図9に示されるように、インダクタ電圧推定部33によるフィードフォワード項が算出されない比較例(即ちインダクタ電圧推定部33が設けられない比較例)では、指令値に対する遅延が生じている(図9の破線及び点線参照)。これに対して、本実施例では、自己インダクタンス及び相互インダクタンスを考慮した上で、d軸インダクタ電圧及びq軸インダクタ電圧を推定して、これらをフィードフォワード項として電圧指令値に加算する。この結果、図9に示されるように、指令値への追従性を高めることができる(図9の破線及び実線参照)。従って、三相交流モータ14の動作によるノイズや振動を抑制することができる。特に、上記の実施例では、フィードフォワード項は、自己インダクタンス及び相互インダクタンスの高調波成分も含めた上で考慮されるので、指令値への追従性をより高めることができる。
【0038】
ここで、三相交流モータ14の動作によるノイズや振動が生じると、そのノイズや振動が電動車2の車室内へ伝達することで、電動車2の車室内に騒音又は振動が生じる。特に、三相交流モータ14から電動車2の車室内への伝達系の共振周波数に近い周波数成分の電磁強制力が生じると、車室内の騒音又は振動の発生が顕著となる。伝達系の共振周波数はほぼ一定の値であるが、電磁強制力の各次数の周波数は三相交流モータ14の回転数に応じて変化する。即ち、車室内の騒音又は振動を抑制するために、d軸直流電流指令値Id_DC 及びq軸直流電流指令値Iq_DC に付与すべき高調波の次数は、三相交流モータ14の回転数に応じて変化する。そこで、本実施例のdq軸電流指令値生成部40は、以下のようにしてd軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I を制御することで、車室内の騒音又は振動の発生を抑制する。
【0039】
図10及び図11を参照して、dq軸電流指令値生成部40の構成及びdq軸電流指令値生成部40によって実行される処理を説明する。上記の通り、dq軸電流指令値生成部40は、高調波を含むd軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I を生成して、これらをdq軸電圧指令演算部32に供給する。
【0040】
図10に示されるように、dq軸電流指令値生成部40は、微分器41と、速度判定部42と、高調波電流マップ43と、加算器A5,A6と、を備える。微分器41は、回転角センサ18によって検出されたロータ角度θを受け取り、その時間微分(即ち回転速度ω)を算出する(図11のS110、S112)。速度判定部42は、伝達系の共振周波数帯を記憶しており、算出された回転速度ωを受け取り、d軸直流電流指令値Id_DC 及びq軸直流電流指令値Iq_DC に付与すべき高調波の次数(即ち伝達系の共振周波数帯に含まれる高調波の次数)を決定する(図11のS114)。高調波電流マップ43は、決定された高調波の次数に基づいて、当該高調波の次数の電流振幅及び位相をマップから選択する(図11のS116)。そして、高調波電流マップ43は、選択済みの電流振幅及び位相に基づいて、d軸直流電流指令値Id_DC 、q軸直流電流指令値Iq_DC 、及びロータ角度θを受け取り、d軸直流電流指令値Id_DC 及びq軸直流電流指令値Iq_DC のそれぞれに付与すべき高調波成分を算出する(図11のS118)。d軸直流電流指令値Id_DC に付与すべき高調波成分は、加算器A5に供給される。q軸直流電流指令値Iq_DC に付与すべき高調波成分は、加算器A6に供給される。加算器A5は、d軸直流電流指令値Id_DC と、付与すべき高調波成分と、を加算して、d軸電流指令値I を算出する(図11のS120)。同様に、加算器A6は、q軸直流電流指令値Iq_DC と、付与すべき高調波成分と、を加算して、q軸電流指令値I を算出する(図11のS120)。dq軸電流指令値生成部40は、三相交流モータ14が駆動を継続している状況において、図11の処理を繰り返し実行する(図11のS122でYES:S110)。
【0041】
このように、dq軸電流指令値生成部40は、三相交流モータ14の動作によるノイズや振動に起因して生じる電動車2の車室内の振動の抑制に特に貢献し得る次数の高調波成分を、d軸直流電流指令値Id_DC 及びq軸直流電流指令値Iq_DC に加算する。このために、車室内の振動を抑制することができる。
【0042】
また、dq軸電流指令値生成部40は、車室内の振動の抑制に特に貢献し得る次数の高調波成分のみをd軸直流電流指令値Id_DC 及びq軸直流電流指令値Iq_DC に加算すればよい(即ち全ての次数の高調波を加算しなくてもよい)ので、高調波電流が通電することによる損失の増加を抑制することができる。
【0043】
上記の実施例の制御装置30が、本技術の「制御装置」の一例である。上記の実施例のU相コイル14U,V相コイル14V、及びW相コイル14Wが、本技術の「ステータ巻線」の一例である。上記の実施例の電流センサ16、回転角センサ18が、それぞれ、本技術の「電流検出部」、「回転角度検出部」の一例である。上記の実施例のUVW/dq変換部31、dq軸電圧指令演算部32、インダクタ電圧推定部33、加算器A3及びA4、dq/UVW変換部34、PWM信号生成部35、dq軸電流指令値生成部40が、それぞれ、本技術の「dq電流変換部」、「dq指令電圧算出部」、「dqインダクタ電圧算出部」、「加算部」、「三相変換部」、「供給部」、「電流指令値生成部」の一例である。
【0044】
上記の実施例の変形例を述べる。dq軸電流指令値生成部40は、高調波電流マップ43を有しなくてもよい。この場合、dq軸電流指令値生成部40は、軸直流電流指令値及びq軸直流電流指令値に、全ての次数の高調波を加算してもよい。
【符号の説明】
【0045】
2:電動車、10:バッテリ、12:コンデンサ、14:三相交流モータ、14U:U相コイル、14V:V相コイル、14W:W相コイル、16:電流センサ、18:回転角センサ、20:インバータ、22a~22f:スイッチング素子、30:制御装置、31:UVW/dq変換部、32:dq軸電圧指令演算部、33:インダクタ電圧推定部、33a:微分器、33b:LPF、33c:dq軸インダクタンスマップ、34:dq/UVW変換部、35:PWM信号生成部、36:dq軸非干渉項、40:dq軸電流指令値生成部、41:微分器、42:速度判定部、43:高調波電流マップ、A1~A6:加算器、M1,M2:乗算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11