(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175901
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】トレーニング装置
(51)【国際特許分類】
A63B 22/16 20060101AFI20241212BHJP
A63B 24/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A63B22/16
A63B24/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093989
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 鋼人
(72)【発明者】
【氏名】下田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】奥井 学
(72)【発明者】
【氏名】西濱 里英
(57)【要約】
【課題】微小重力環境下であっても抗重力筋の維持を可能とするトレーニング装置を提供する。
【解決手段】抗重力筋を鍛えるためのトレーニング装置であって、地上において重力とバランスが取れた姿勢から前記バランスを崩すように負荷を与える負荷付与手段と、前記負荷付与手段が与えた負荷により崩れた姿勢を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された崩れた姿勢に基づいて負荷付与手段が与える負荷を算出する負荷算出手段とを備えた構成とした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗重力筋を鍛えるためのトレーニング装置であって、
地上において重力とバランスが取れた姿勢から前記バランスを崩すように負荷を与える負荷付与手段と、
前記負荷付与手段が与えた負荷により崩れた姿勢を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された崩れた姿勢に基づいて負荷付与手段が与える負荷を算出する負荷算出手段と、
を備えたトレーニング装置。
【請求項2】
前記負荷算出手段は、前記検出手段により検出された崩れた姿勢が大きくなるにしたがって負荷を大きく算出することを特徴とする請求項1に記載のトレーニング装置。
【請求項3】
前記負荷付与手段は、体の前後方向に負荷を付与することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトレーニング装置。
【請求項4】
前記負荷算出手段は、地上において重力とバランスが取れた姿勢から前記バランスを崩したときに曲がる関節に重力が作用したときのトルクが与えられるように負荷を算出することを特徴とする請求項1又は請求項3に記載のトレーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーニング装置に関し、特に、抗重力筋のトレーニングに好適なトレーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、国際宇宙ステーション等の有人拠点による宇宙空間への長期滞在が実現されている。宇宙空間における長期滞在は、重力環境の変化により、人の筋力を大きく低下させることが知られている。
そこで現在、地球に帰還後には、有人拠点でも筋力低下の対策として、従来からあるトレーニング装置を用いてトレーニングを行っているものの、地球に帰還後の重力環境の変化に伴う筋力低下の対策に有効な機器はなく、一般的な筋力トレーニング機器しかない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、筋力の中でも抗重力筋と呼ばれる地上での姿勢制御をつかさどる筋力の低下が著しく、この抗重力筋の筋力が低下すると、宇宙空間における有人拠点から地球への帰還後や、他惑星への探査時に宇宙飛行士は立つことができなくなり、生活や探査に支障をきたす虞がある。
例えば、単に抗重力筋に強い負荷をかけるトレーニングを行った場合、速筋繊維が発達してしまう。また、強い負荷をかけるトレーニングは、地上における抗重力筋の働きと異なるため重力再適応時の抗重力筋の働きに懸念が残る。
また、抗重力筋を鍛えるものとして、例えば、特許文献1に開示される装置が提案されているものの、重力下での使用が前提とされるものであり、宇宙空間のような無重力、或いは、微小重力空間等ではトレーニングすることができない。
【0005】
そこで、本発明では、そこで他惑星探査も含めた宇宙空間での長期滞在への応用をめざし、微小重力環境下であっても抗重力筋の維持を可能とするトレーニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのトレーニング装置の構成として、抗重力筋を鍛えるためのトレーニング装置であって、地上において重力とバランスが取れた姿勢から前記バランスを崩すように負荷を与える負荷付与手段と、前記負荷付与手段が与えた負荷により崩れた姿勢を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された崩れた姿勢に基づいて負荷付与手段が与える負荷を制御する負荷算出手段と、を備えた構成とした。
本構成によれば、微小重力環境下であっても抗重力筋を維持することができ、自らの姿勢が崩れた時に、より姿勢が乱れるため正しい姿勢を意識しつつ、重力環境下と近い感覚でバランスが取れた姿勢を維持するための筋力をトレーニングできる。
また、前記負荷算出手段は、前記検出手段により検出された崩れた姿勢が大きくなるにしたがって負荷を大きくすることにより、重力を模した負荷を付与することができる。
また、前記負荷付与手段は、体の前後方向に負荷を付与することにより、バランスよく抗重力筋をトレーニングすることができる。
また、前記負荷付与手段は、地上において重力とバランスが取れた姿勢から前記バランスを崩したときに曲がる関節に重力が作用したときのトルクが与えられるように負荷を付与することにより、抗重力筋に対してより地上に近い環境のトレーニングをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】抗重力筋として作用する筋肉を示す図である。
【
図2】立位の姿勢を維持するための人の無意識の動作を示す図である。
【
図3】立位の姿勢(NP)からずれた際に姿勢を維持する動作を示すモデル図である。
【
図4】トレーニング装置の一実施形態を示す平面図である。
【
図6】制御装置の負荷算出手段による処理を示すブロック線図である。
【
図7】利用者の姿勢と付与する負荷との関係を示す概念図である。
【
図8】前傾時、後傾時の主導筋として働く抗重力筋を示す図である。
【
図10】評価試験における比較動作を示す図である。
【
図11】評価試験における実験結果を示す図である。
【
図12】評価試験における実験結果を示す図である。
【
図13】評価試験における実験結果を示す図である。
【
図14】評価試験における実験結果を示す図である。
【0008】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態に係るトレーニング装置について説明する。本実施形態に係るトレーニング装置は、抗重力筋のトレーニングに好適な装置として構成されている。
抗重力筋とは、地球の重力に対して立位や座位などの姿勢を保持するために働く筋肉のことであり、運動等のように積極的に体を動かしているときに働くものではなく、無意識に姿勢を保持している際に働く筋肉である。
【0010】
図1は、抗重力筋として作用する筋肉を示す図である。
図1に示すように、抗重力筋は、脊柱起立筋や腹直筋、大殿筋、下腿四頭筋といった筋肉を指し、下腿・大腿・腹部・胸部・首の各部の前後に配置される筋肉が互いに伸縮しながらバランスを取っている。
地上では、これらの抗重力筋が重力と釣り合うことで立位や座位等の姿勢を維持している。
【0011】
以下の説明では、抗重力筋の地上における作用について立位の姿勢を例にして説明する。立位は、人間が支持性、安定性、バランスを保ちながら移動や作業を行うために、抗重力筋が最も活動的に働いている姿勢といえる。
立位には、理想とされる基本的な姿勢があり、「ニュートラルポジション」(以下「NP」という)という。NPは、重力に対して効率的に身体を支えることができる姿勢であり、抗重力筋は、NPから体の重心線がずれた姿勢を直ちに補正する働きがある。
【0012】
例えば、立位では、いずれの抗重力筋の働きは極めて低い活動水準にあるが、前傾・後傾姿勢に際しては下肢筋がかなり高い活動水準に達することや、前傾或いは後傾のような比較的大きな筋力を必要とする立位姿勢では、姿勢を傾けるほど安定性の規定要因として筋力の重要性が増大することが知られている。
【0013】
したがって、立位の姿勢を考えた場合、抗重力筋は、直立姿勢から外れた姿勢を取るときに大きく活動することから、例えば、微小重力の環境下であっても、このような姿勢状態を再現することで、抗重力筋をトレーニングすることができる。
【0014】
図2は、立位の姿勢を維持するための人の無意識の動作を示す図である。
図2に示すように、人は、立位姿勢を保持している際に、無意識のうちに身体が絶えず動揺している。この動揺は、目標とする姿勢からのずれとそこから立ち直ろうとする作用によるものであるとみなすことができる。
特に、矢状面方向(体の前後方向)における姿勢制御では、股関節、足関節による制御が特に重要と言われている。
【0015】
以上を踏まえると、地上において人が行う姿勢の維持は、人間自身が各関節につく筋肉を用いて制御を行う、股関節(体幹~頭部)と、足関節の2つの関節を持つ倒立二重振り子として考えることができる。
【0016】
図3は、立位の姿勢(NP)からずれた際に姿勢を維持する動作を示すモデル図である。なお、図中における添え字1は上半身、添え字2は下半身を示している。
NPから姿勢がずれた時の各関節(股関節及び足関節)に関わる関節トルクT
1、T
2は、NPを基準としたときの上半身と下半身の傾きの角度θ
1,θ
2を用いて以下の式(2.1)、(2.2)により求めることができる。
T
1=(M
Hl
1+m
1l
g1)gsin(θ
1+θ
2) (2.1)
T
2={m
2l
g2+(M
H+m
1)l
2}gsin(θ
2)+T
1 (2.2)
式(2.1),(2.2)は、人間が立位の姿勢を保持しようとする際に重力によって関節に与えられるトルクである。よって、このトルクを関節に加えることで重力がない環境においても重力環境化と同様の負荷を関節に与えることができる。
【0017】
式(2.1)、(2.2)は、sin関数を含む式であるため、人が直立姿勢から傾くと、θ1,θ2の値が大きくなり、関節(股関節及び足関節等)に加わるトルクが大きくなることは明らかである。そのため、人は歩行や走行などの移動や上肢の運動、転倒などの外乱に対して直立の姿勢を自然に維持することで身体への負荷を最小限にしていると考えられる。
【0018】
地上では、NPから離れると、各関節周りのモーメントが増加する。例えば、微小重力環境下での宇宙飛行中にみられる典型的な安静時姿勢は、胸腰部が屈曲し頸が前方へ移動したようになり、四肢が軽く屈曲した姿勢の胎児の姿勢に似たものとなり、すべての抗重力筋群が弛緩した状態にあるものと考えられる。
【0019】
このため宇宙飛行士に微小重力環境下において直立を指示すると、前傾姿勢をとることが報告されている。これは、微小重力下では外乱に対してNP等の負担の少ない姿勢の維持が不要であることに起因する。
【0020】
そこで、姿勢がNPから離れると、重力作用と同じように、姿勢が乱れる方向へトルクを加え、さらに負荷の小さいNP付近では一定の負荷をランダムな方向、例えば、前や後等で発生させることで実現する。
これにより、自らの姿勢が崩れた時に、より姿勢が乱れるため正しい姿勢を意識しつつ、重力環境下と近い感覚でNPを維持するための筋力をトレーニングできると考えた。
【0021】
[トレーニング装置の構成]
図4は、本実施形態に係るトレーニング装置1の一例を示す概略構成図である。
図4に示すように、トレーニング装置1は、基盤3と、利用者の足を固定するための足部固定台4と、利用者の腰部から下腿部を固定するための腰部-下腿部固定台5と、腰部から頭部に至る上体を固定するための上体固定台6と、を備えた構成とされる。
【0022】
基盤3は、トレーニング装置1における土台として機能する部材である。基盤3は、例えば、大きさが縦2000mm、横1000mmの一方長尺の長方形状の板状とされる。トレーニング装置1は、地上では、この基盤3を床に対して平置きするようにして利用される。
【0023】
なお、本実施形態でいう地上とは、単に地球上を意味するだけでなく、重力を有する他の惑星を含む。
【0024】
足部固定台4、腰部-下腿部固定台5及び上体固定台6は、基盤3の一方の板面側に設けられ、基盤3の長手方向一端側から足部固定台4、腰部-下腿部固定台5及び上体固定台6の順に配置される。
【0025】
トレーニング装置1は、利用者が基盤3の長手方向に沿うように体を延ばした状態で横たわるようにして利用される。詳細には、トレーニング装置1は、利用者が無重力、微小重力に近似した状態を再現するため横たわる、側臥位の姿勢で利用される。足部固定台4、腰部-下腿部固定台5及び上体固定台6は、利用者が側臥位の姿勢を取ったときに、体幹が水平になるように構成されている。
【0026】
足部固定台4は、基盤3に固定される。なお、足部固定台4が基盤3に固定される位置は、長手方向に沿って移動可能とされ、利用者の身長に応じて調整される。本実施形態では、利用者の身長が160cm~180cmまで対応可能に構成されている。
【0027】
足部固定台4は、基盤3に固定される基盤固定部4Aと、利用者の足底が接する底板4Bと、足部固定台4に足を固定するための複数の固定ベルト4Cとを備えた構成とされている。利用者は、基盤3上において側臥位の姿勢を取ったときに、足の自由な回転を確保しつつ(足首の自由な動きを妨げないように)、足底を底板4Bに押し付けるようにして固定ベルト4Cによって固定される。
【0028】
腰部-下腿部固定台5は、利用者の膝関節を固定するベルト(膝関節固定帯)を備え、伸展状態で膝関節が固定される。
【0029】
腰部-下腿部固定台5及び上体固定台6は、基盤3上を移動可能とされている。本実施形態では、例えば、腰部-下腿部固定台5及び上体固定台6の底面にボールローラを取り付け、平面内における全周方向への移動を可能にしている。
【0030】
また、基盤3には、腰部-下腿部固定台5及び上体固定台6と、基盤3との間に、腰部-下腿部固定台5及び上体固定台6の動きを阻害しないように、摩擦の小さいポリアセタール平板状の走行台8が設けられている。なお、走行台8は、トレーニング中の人の動きに対して腰部-下腿部固定台5及び上体固定台6に取り付けられたボールローラが該走行台8上から脱落しない十分な広さを有するように設けると良い。
【0031】
上体固定台6は、基盤3上における該上体固定台6を強制的に移動させるための負荷付与手段として機能する駆動機構9を備える。駆動機構9は、上体固定台6を基盤3の短手方向に沿うように移動させる。
【0032】
駆動機構9は、例えば、リニアガイド機構を利用して構成することができる。
リニアガイド機構は、例えば、直線状に延びるガイドレール9Aと、ガイドレール9Aの延長方向に沿って移動可能に設けられるステージ9Cとを備え、ガイドレール9Aに内蔵されたボールねじをモーター9Bで回転させることにより、ボールねじに噛み合うように取り付けられたステージ9Cがガイドレール9Aに沿って直線運動(移動)するように構成されている。このステージ9Cに上体固定台6を取り付けることにより、基盤3上における上体固定台6の位置を変化させることができる。
【0033】
図4,5に示すように、本実施形態では、駆動機構9を構成するガイドレール9Aは、トレーニング装置1の利用者の肩甲骨付近に位置するように設けられている。これは、足関節から距離をとることで、モーター9Bの出力を抑えつつ、重力下と同様に足関節に大きな関節トルクを与えることができる。
【0034】
上体固定台6は、ステージ9Cに固定され、利用者の上体を支持する基台6Aと、基台6Aから立ち上り利用者の背中が固定される背板6Bと、利用者の頭部を支持する枕6Cと、利用者の体を背板6Bに固定するベルト6Dとを備える。
【0035】
背板6Bは、ステージ9Cとともに上体固定台6が移動したときに、上体固定台6が移動する力を利用者に伝達し、ベルト6Dにより利用者の上体が固定されることで、側臥位の姿勢をとる利用者に対して前方だけでなく後方に力を伝達することができる。なお、背板6Bは、利用者の背中の動きに合わせて、基台6Aに対して回転可能とされている。
【0036】
また、駆動機構9には、上体固定台6の位置を計測するためのリニアエンコーダー10(検出手段)が取り付けられており、駆動機構9の動作により移動したステージ9Cの位置、即ち、上体固定台6の位置をリアルタイムでの計測を可能にしている。
リニアエンコーダー10により計測された位置は、制御装置100に出力され、トレーニングの制御に利用される。
【0037】
図4に示すように、制御装置100は、リニアエンコーダー10から出力された信号を変換するA/D変換器、A/D変換器により変換された信号に基づいて負荷(ステージ9Cの移動量)を算出する負荷算出手段と、負荷算出手段により算出された負荷をモーター9Bに出力するための信号に変換するD/A変換器及びモータードライバを備えた構成とされている。
【0038】
図6は、制御装置100の負荷算出手段による処理を示すブロック線図である。
負荷算出手段は、例えば、所謂コンピュータで構成することができ、実測した上半身重心位置x(リニアエンコーダー10により計測した上体固定台6の位置x)に基づいて関節角度θ
1,θ
2を推定し(
図3参照)、推定した姿勢から各関節に重力模擬したトルクが与えられるように加えるべき力Fを算出する。
例えば、力Fは、
図7に示すように、利用者の姿勢に応じて付与する力F(負荷)が付与される。
【0039】
まず,関節角度θ1,θ2とxの関係は以下の式で表せる。
x=l2sinθ2+lg1sin(θ1+θ2) (3.1)
ここで、測定可能な上半身重心位置xに対して関節角度θは2つあるため定まらない。そこで、本実施形態では股関節と足関節の回転角度は同値で動くものとして計算した。
【0040】
なお、関節角度θ1,θ2を直接計測する方法もいくつか存在するが、例えば、モーションキャプチャによる動作解析は、宇宙にある有人拠点での利用を考えるとスペースをとりすぎてしまう。また、装着型装置は精度に欠ける。
これらのことから本実施形態では、関節角度θ1,θ2が同値で変化するものと見なした。
【0041】
踵から上半身重心まで結んだ直線距離をL、このLと下肢のなす角をαとして、式(2.2)で求めた足関節周りに加わるトルクT
2と、装置の出力Fの関係は以下の式で表せる。
F=T
2/Lcos(θ+α) (3.2)
式(3.2)によって求めたFを用いて、各被験者の位置xと出力Fの関係が、入力された値(位置)xに出力Fが割り当てられるように、式(2.2),式(3.1),式(3.2)に基づいて算出されるLook up tableを用いて変換した(
図6参照)。
【0042】
[評価実験について]
本実施形態に係るトレーニング装置1の効果を評価するため、本トレーニング装置を利用してトレーニングした場合(
図9参照)の筋電位と、トレーニング装置を利用せずに重力下で同様の動作をした場合(
図10参照)の筋電位とを計測し、筋肉の活動量を比較する実験を行った。
上半身に加わる外力に被験者が抵抗することで、抗重力筋に負荷を与えることが可能かを確認した。
【0043】
評価実験では、被験者に筋電位計を装着し、筋力の活動量を計測し、筋電位の値の変化における傾向が類似するかを確認した。
被験者には、男性5名、体形に関する情報は、174.6±1.62cm,57.2±7.11kgである。
【0044】
なお、実験中は、動作中の被験者をカメラで撮影し、ディスプレイに映すことで、被験者自身が現在どの位置まで傾いているのかを把握できるようした。
【0045】
評価実験では、横になった状態で、上半身重心を前方に約130mm傾ける前傾姿勢動作(以下「Keep」という)、後方に約50mm傾ける後傾姿勢動作(以下「Keep back」という)とした(
図9)。
動作中はリニアエンコーダー10の値に基づいて上半身重心位置を基準に、使用者が姿勢維持する動作を行わせた。
【0046】
そして比較対象として、起立した状態で、それぞれ同様の上半身重心を傾ける前傾姿勢(以下「GKeep」という)、後傾姿勢(以下「GKeep_back」という)を維持する2種類の運動を行い,この時の筋電位の計測を行った(
図10)。
【0047】
GKeep、GKeep_backでは,床反力計の上で動作を行い、動作中の重心位置を確認しながら姿勢を維持した。
実験動作中に装置の出力や重力に耐えることができず大きく動いてしまった場合は、再計測とした。
また、1試行ごとに7回運動を行い、すべての動作において計測時間は5秒間とした。
【0048】
評価実験では、Gkeep、Keepでは、伸展動作の主動筋である背筋、大殿筋、ヒラメ筋が活動的になり、Gkeep_back、Keep_backでは、屈曲動作の主導筋である腹筋、大腿直筋、前脛骨筋が活動的になり、筋電位の値も大きくなると推測する(
図8参照)。
【0049】
筋電位は、以下に示す筋肉(6か所)について計測した。
・腹筋:臍から約23cm外側で繊維走行に沿って設置
・背筋:棘突起の23cm外側の筋膜で繊維走行に沿って設置
・大殿筋:仙骨と大腿骨大転子ラインの50%上で上後腸骨棘と大腿後面中を結ぶライン上に設置
・大腿直筋:上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結ぶ線の中間点
・前脛骨筋:腓骨頭~外果の中心部とその5cm上方
・ヒラメ筋:膝窩~踵骨上縁の中心部とその5cm上方
【0050】
計測した筋電位のデータは、バンドパスフィルタリング(20-450Hz)し、その後全波整流化し、ローパスフィルタリング(10Hz)したのち、計測時間で積分を行った。そしてそれらの値を各筋肉で計測した等尺性最大随意筋力MVC発揮中の筋電図積分値により正規化(%MVC)することで各動作中の筋活動水準を評価した。
【0051】
[実験結果]
図11,12被験者5人分の筋電図積分値をまとめて箱ひげ図で表したグラフである。なお、縦軸が%MVC、横軸が計測した各筋肉を示す。
図11,12に示すように、重力下での動作も、トレーニング装置で行い重力を模した負荷から耐える動作も、各筋肉における筋電位の変化の傾向に類似する結果が得られた。
【0052】
まず、
図11,12に示すKeep、GKeepでは、両動作共に背筋、ヒラメ筋の筋電位がほかの筋肉と比較して大きいことが確認された。
これは背筋、ヒラメ筋が本動作(Keep、GKeep)においての主動筋であるためと考えられる。
主動筋は、ある動作においてメインの役割を果たす筋肉であるため、筋活動量を示す筋電位が大きくなったと考える。
【0053】
また、
図13,14に示すKeep_back,Gkeep_backでは、両動作共に腹筋、前脛骨筋の筋電位が他の筋肉と比較して大きいことが確認された。
これは腹筋、前脛骨筋が本動作(Keep_back,Gkeep_back)においての主動筋であるためと考えられる。
【0054】
本実験において、動作の主動筋である際の下腿筋前脛骨筋、ヒラメ筋の筋電位の中央値は、他のどの筋肉と比較しても最も大きい傾向にあることが確認された。
これは傾いた姿勢を維持する際に、身体において最も大きなトルクが加わる関節が足関節であり、足関節の回転を支える主な筋肉が前脛骨筋とヒラメ筋であるため、動作中に下腿筋に大きな負荷が加わることで筋電位が大きくなったと考える。
【0055】
これらのことより、GKeepとKeep、Gkeep_backとKeep_backのそれぞれにおいて、主動筋の筋電位が大きくなる傾向が確認でき、トレーニング装置によって重力を模した負荷を人間に与えることで、重力下における抗重力筋のトレーニングができたと考える。
【0056】
以上から、GKeepとKeep、Gkeep_backとKeep_backのそれぞれにおいて筋電位の値の変化が類似していることが確認された。
また、活動する筋肉の中でも、下腿筋,前脛骨筋,ヒラメ筋はそれぞれが主導筋となる動作において筋電位が大きい値であることを確認した。
即ち、本実施形態のトレーニング装置1によれば、抗重力筋が鍛えられることが確認された。
【0057】
上記実施形態では、立位の姿勢で横たわり、トレーニングをするように構成したが、座位の姿勢で横たえた状態であっても良い。
即ち、地上において利用者が横たわる姿勢でトレーニングすることにより、無重力、微小重力に近似した状態を再現することができ、宇宙空間のような無重力あるいは微小重力空間でのトレーニングにおいては、機器(トレーニング装置)の設置姿勢や使用者の姿勢は制限されない。
【0058】
また、トレーニング装置の構成は、上記実施形態で説明したものに限定されず、地上において重力とバランスが取れた姿勢からバランスを崩すように負荷を与える負荷付与手段と、負荷付与手段が与えた負荷により崩れた姿勢を検出する検出手段と、検出手段により検出された崩れた姿勢に基づいて負荷付与手段が与える負荷を算出する負荷算出手段とを備えた構成であれば良い。
【0059】
また、負荷算出手段が、検出手段により検出された崩れた姿勢が大きくなるにしたがって負荷を大きく算出するようにしたり、地上において重力とバランスが取れた姿勢から前記バランスを崩したときに曲がる関節に重力が作用したときのトルクが与えられるように負荷を算出するようにしたりすると良い。
また、負荷付与手段が体の前後方向に負荷を付与するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0060】
1 トレーニング装置、9 駆動機構、10 リニアエンコーダー、100 制御装置。