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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175929
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20241212BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20241212BHJP
   F16H 57/021 20120101ALI20241212BHJP
   F16C 33/76 20060101ALI20241212BHJP
   H02K 7/06 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F16H25/24 B
F16H25/22 Z
F16H57/021
F16C33/76 Z
H02K7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094034
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】石田 亮
(72)【発明者】
【氏名】奥 雄太
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
【テーマコード(参考)】
3J062
3J063
3J216
5H607
【Fターム(参考)】
3J062AA02
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA11
3J062BA23
3J062BA27
3J062BA40
3J062CD23
3J062CD54
3J062CD68
3J063AA02
3J063BB01
3J063BB48
3J063CD09
3J063CD42
3J063XD02
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB04
3J216AB22
3J216BA12
3J216BA16
3J216CA01
3J216CA04
3J216CC68
3J216CC70
3J216GA03
5H607BB01
5H607CC03
5H607EE52
5H607GG01
5H607GG08
(57)【要約】
【課題】動作精度や耐久寿命に優れた電動アクチュエータを低コストに提供する。
【解決手段】電動アクチュエータ1は、電動モータ2とねじ機構3とを備え、ねじ機構3は、転がり軸受5,6を介してハウジング5に対して回転自在に支持されたナット31と、ナット31の回転に伴って直線運動するねじ軸32とを備える。転がり軸受6,7の構成部材とは異なる部材に、転がり軸受6(7)の内外輪間の一端開口部64(74)及び他端開口部65(75)のそれぞれを開口面積比で80%以上100%未満覆う第1カバー面8A及び第2カバー面8Bを設ける。第1カバー面8Aは一端開口部64(74)の内径端64a(74a)を開口させるように、また、第2カバー面8Bは他端開口部65(75)の外径端65a(75a)を開口させるように設けられる。一端開口部64,74の内径端側開口の開口幅Aは、他端開口部65,75の外径端側開口の開口幅Bよりも大きい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、該電動モータの回転運動を直線運動に変換するねじ機構と、前記電動モータ及び前記ねじ機構を保持したハウジングとを備え、
前記ねじ機構が、グリース潤滑される転がり軸受を介して前記ハウジングに対して回転自在に支持されたナットと、該ナットの回転に伴って直線運動するねじ軸とを備えた電動アクチュエータにおいて、
前記転がり軸受の構成部材とは異なる第1異部材に、前記転がり軸受の内輪と外輪の間の一端開口部の内径端を開口させた状態で、前記一端開口部を開口面積比で80%以上100%未満覆う第1カバー面が設けられ、
前記転がり軸受の構成部材とは異なる第2異部材に、前記転がり軸受の内輪と外輪の間の他端開口部の外径端を開口させた状態で、前記他端開口部を開口面積比で80%以上100%未満覆う第2カバー面が設けられ、
前記一端開口部の内径端側開口の開口幅Aを、前記他端開口部の外径端側開口の開口幅Bよりも大きくしたことを特徴とする電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記他端開口部の外径端側開口を形成すると共に、この外径端側開口を軸受外部空間に連通させる環状凹部が前記第2異部材に設けられ、
前記環状凹部の前記転がり軸受の外径側での開口幅Cを、前記開口幅Aよりも大きくした請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記環状凹部の内周壁面を、軸方向に対して傾斜した傾斜面に形成した請求項2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1カバー面を前記ハウジングに設けた請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記第2カバー面を前記ナットに設けた請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項6】
前記電動モータの回転運動を前記ナットに伝達する動力伝達機構をさらに備え、
前記第2カバー面を、前記ナットと一体回転する前記動力伝達機構の回転部材に設けた請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項7】
前記動力伝達機構が、前記電動モータの回転を減速して前記ナットに伝達する減速機構であり、前記回転部材が歯車である請求項6に記載の電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2014-37870号公報(特許文献1)には、自動車の変速機構やブレーキ機構などに使用される電動アクチュエータであって、電動モータと、動力伝達機構を介して伝達される電動モータの回転運動を当該アクチュエータの出力軸の軸方向の直線運動に変換するねじ機構(ボールねじ機構)と、ねじ機構を収容したハウジングと、を備えた電動アクチュエータが開示されている。この電動アクチュエータにおいて、動力伝達機構は、電動モータの回転軸と一体回転する入力歯車と、入力歯車に噛合すると共に、ナットと一体回転する出力歯車とを有する減速機構(歯車減速機構)で構成される。
【0003】
上記の電動アクチュエータにおいて、ナットは、出力歯車の軸方向両側に配設された一対の転がり軸受(例えば、深溝玉軸受)によってハウジングに対して回転自在に支持されている。上記の転がり軸受としては、転動体の軸方向両側に内外輪間の開口部をシールするためのシール部材が配置された、いわゆる密封型が採用される。これにより、転がり軸受の内部潤滑を行うグリースの外部漏洩、及び軸受内部(グリース)への異物侵入が防止される。なお、シール部材は、内輪又は外輪と摺接するシールリップを有する接触タイプと、内輪又は外輪との間に微小なシール隙間を形成する非接触タイプとに大別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-37870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
密封型の転がり軸受において、何れのタイプのシール部材を採用する場合でも所望のシール性能を適切に発揮可能とするためには厳密な寸法管理(接触代管理、あるいは隙間幅管理)が必要である。そのため、密封型の転がり軸受を採用した場合、シール部材を具備しない、いわゆる開放型の転がり軸受を採用する場合よりもコストが嵩む。従って、ナットの支持軸受として採用されている密封型の転がり軸受を開放型の転がり軸受に置き換えれば、電動アクチュエータを低コスト化することができる。しかしながら、密封型の転がり軸受を単に開放型の転がり軸受に置き換えるだけでは、グリースの外部漏洩や軸受内部への異物侵入を防止することができず、支持軸受の軸受性能や耐久寿命、ひいては電動アクチュエータの出力軸の動作精度や耐久寿命に悪影響が及ぶ。
【0006】
そこで、本発明は、出力軸の動作精度や耐久寿命に優れた電動アクチュエータを低コストに提供可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、電動モータと、電動モータの回転運動を直線運動に変換するねじ機構と、ねじ機構を収容したハウジングとを備え、ねじ機構が、グリース潤滑される転がり軸受を介してハウジングに対して回転自在に支持されたナットと、ナットの回転に伴って直線運動するねじ軸とを備えた電動アクチュエータにおいて、
上記転がり軸受の構成部材とは異なる第1異部材に、上記転がり軸受の内輪と外輪の間の一端開口部の内径端を開口させた状態で、上記一端開口部を開口面積比で80%以上100%未満覆う第1カバー面が設けられ、
上記転がり軸受の構成部材(及び上記第1異部材)とは異なる第2異部材に、上記転がり軸受の内輪と外輪の間の他端開口部の外径端を開口させた状態で、上記他端開口部を開口面積比で80%以上100%未満覆う第2カバー面が設けられ、
上記一端開口部の内径端側開口の開口幅Aを、上記他端開口部の外径端側開口の開口幅Bよりも大きくしたことを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、転がり軸受の構成部材とは異なる第1及び第2異部材のそれぞれに設けた第1及び第2カバー面により、転がり軸受の内部空間(に介在するグリース)への異物侵入や、グリースの外部漏洩が抑制又は防止される。また、上記第1及び第2カバー面が設けられていることにより、転がり軸受としては、内外輪間の開口部を封口するためのシール部材を具備しない開放型の転がり軸受を採用することが可能となる。これにより、電動アクチュエータのコスト低減を図ることができる。
【0009】
但し、第1及び第2カバー面が内輪及び外輪の端面全域を覆うように形成されていると、転がり軸受、ひいては電動アクチュエータの作動性に悪影響が及ぶ懸念がある。そのため、第1カバー面は、内外輪間の一端開口部の内径端を開口させた状態で一端開口部を開口面積比で80%以上100%未満覆うように、転がり軸受の外径側から内径側に延びるように設け、第2カバー面は、内外輪間の他端開口部の外径端を開口させた状態で他端開口部を面積比で80%以上100%未満覆うように、転がり軸受の内径側から外径側に延びるように設けるのが好ましい。さらに、転がり軸受の運転中は、遠心力の影響により、内部空間の外径側領域にグリースが偏在し易いため、内外輪間の開口部がその外径側で大きく開口しているとグリース漏れが生じるおそれがある。特に、転がり軸受の高速回転に対応するような低粘度のグリースを用いた場合には、グリース漏れが生じ易くなる。従って、内外輪間の一端開口部の内径端側開口の開口幅Aを、内外輪間の他端開口部の外径端側開口の開口幅Bよりも大きくすれば、内外輪間の開口部を介してのグリース漏れや異物侵入を効果的に防止することができる。
ここで、上記の開口幅(開口幅A及び開口幅B)とは、軸受回転軸に対して直交する方向(半径方向)の開口寸法、を意味する。後述する開口幅Cについても同様である。
【0010】
上記構成において、第2異部材には、内外輪間の他端開口部の外径端側開口を形成すると共に、軸受内部空間と軸受外部空間とを連通させる環状凹部を設けることができる。この環状凹部の転がり軸受の外径側での開口幅Cは、上記一端開口部の内径端側開口の開口幅A(及び上記他端開口部の外径端側開口部の開口幅B)よりも大きくする。このようにすれば、電動アクチュエータが駆動されるのに伴って軸受内部で摩耗粉等が生じた場合でも、上記摩耗粉等を上記環状凹部を介して軸受外部に排出し易くなる。
【0011】
上記構成において、摩耗粉等の排出容易性を高める上では、上記環状凹部の内周壁面を、軸方向に対して傾斜した傾斜面(より詳細には、環状凹部の開口側に向けて徐々に拡径するように軸方向に対して傾斜した傾斜面)に形成しておくのが好ましい。
【0012】
上記第1カバー面及び第2カバー面は、それぞれ、本発明に係る電動アクチュエータの必須構成部材であるハウジング及びナットに設けることができる。これにより、部品点数増加による電動アクチュエータのコスト増を回避することができる。
【0013】
また、電動アクチュエータが、電動モータの回転運動をナットに伝達する動力伝達機構をさらに備える場合には、ナットと一体回転する動力伝達機構の回転部材に上記第2カバー面を設けることができる。この場合、上記動力伝達機構は、電動モータの回転を減速してナットに伝達する減速機構とすることができ、また、上記回転部材は、歯車とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上より、本発明によれば、出力軸の動作精度や耐久寿命に優れた電動アクチュエータを低コストに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータの縦断面図である。
図2図1の部分拡大図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る電動アクチュエータの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図1図3に基づいて説明する。
【0017】
図1に、本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータ1の縦断面図を示し、図2に、図1の部分拡大図を示す。図1及び図2に示す電動アクチュエータ1は、回転動力を発生させる電動モータ2と、電動モータ2の回転運動をその回転軸2aと平行な直線運動に変換して出力するねじ機構3と、電動モータ2の回転運動(回転動力)をねじ機構3に伝達する動力伝達機構4と、これらを保持したハウジング5とを備えている。
【0018】
本実施形態においては、組み立ての都合上、ハウジング5が軸方向(電動モータ2の回転軸2aの軸心と平行な方向)で二分割されている。すなわち、ハウジング5は、電動モータ2を保持した第1ハウジング51と、ボルト部材53を用いて第1ハウジング51に対して軸方向に連結された第2ハウジング52とを備える。
【0019】
ねじ機構3は、電動モータ2の回転軸2a(の軸心)と平行な軸X回りに回転する筒状のナット31と、ナット31の内周に配置され、ナット31の回転に伴って軸方向に直線運動するねじ軸32と、ナット31の内周面に設けられた螺旋状溝31aとねじ軸32の外周面に設けられた螺旋状溝32aとの間に介在する複数のボール33と、を備えたボールねじ機構30によって構成されている。ボールねじ機構30のねじ軸32は、電動アクチュエータ1の出力軸を構成する。
【0020】
図示は省略しているが、ボールねじ機構30は、ナット31の回転時に両螺旋状溝31a,32aの間でボール33を循環させるための循環部材をさらに備える。循環部材としては、こま、エンドキャップ、リターンチューブ、リターンプレート等、公知のものが採用される。すなわち、ボールねじ機構30としては、いわゆるこま式、エンドキャップ式、リターンチューブ式、リターンプレート式などの公知のものを採用することができる。
【0021】
ねじ軸32の後端部(図1の紙面右側の端部)には、ねじ軸32の回転(軸X回りの回転)を規制する一対の回り止め部材34が設けられている。各回り止め部材34は、丸棒状(ピン状)に形成されており、その一部がねじ軸32の径方向外側に突出するようにしてねじ軸32に固定されている。第2ハウジング52内には、軸方向に延びる一対の案内溝35aを有する筒状のガイド部材35が収容されており、各回り止め部材34(の突出部)は、案内溝35aに沿って移動可能な状態で対応する案内溝35aに挿入されている。以上の構成により、ナット31の回転時、ねじ軸32は回り止めされた状態で軸方向に直線運動する。
【0022】
ナット31は、その軸方向一方側(図1の紙面左側)及び他方側の端部外周にそれぞれ配置された第1転がり軸受6及び第2転がり軸受7によってハウジング5に対して回転自在に支持されている。本実施形態のナット31は、その外周面から径方向外側に延び、第2転がり軸受7を軸方向で位置決め等するためのフランジ部31bを一体に有する。図2に示すように、フランジ部31bの外径端部(外周面)は、第2転がり軸受7を構成する外輪72の内周面よりも僅かに径方向内側に位置している。
【0023】
図2に示すように、第1転がり軸受6は、ナット31の外周面に嵌合された回転側の内輪61と、第1ハウジング51の内周面に嵌合された静止側の外輪62と、内輪61に設けられた内側軌道面と外輪62に設けられた外側軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体(ボール)63と、複数のボール63を周方向に間隔を空けて保持する図示しない保持器とを備えた、玉軸受(深溝玉軸受)で構成されている。第1転がり軸受6の内部空間(内輪61の外周面と外輪62の内周面との間に形成される環状空間)には、潤滑剤としてのグリースが充填されている。グリースとしては、ASTMちょう度が220以上のもの、具体的には、ASTMちょう度が220~250の範囲内にあるJIS分類で3号相当のもの、ASTMちょう度が265~295の範囲内にあるJIS分類で2号相当のもの、あるいはASTMちょう度が310~340の範囲内にあるJIS分類で1号相当のものを使用することができる。この第1転がり軸受6は、内輪61と外輪62の間の一端開口部64及び他端開口部65をシールする専用のシール部材を具備しない、いわゆる開放型の転がり軸受とされる。
【0024】
第2転がり軸受7は、ナット31の外周面に嵌合された回転側の内輪71と、第2ハウジング52の内周面に嵌合された静止側の外輪72と、内輪71に設けられた内側軌道面と外輪72に設けられた外側軌道面との間に転動自在に配された複数の転動体(ボール)73と、複数のボール73を周方向に間隔を空けて保持する図示しない保持器と、内部空間に充填されたグリースとを備える一方、内外輪間の開口部を封口する専用のシール部材を具備しない、第1転がり軸受7と同様の開放型の玉軸受(深溝玉軸受)で構成されている。
【0025】
動力伝達機構4は、電動モータ2の回転軸2aと一体回転可能に設けられた第1歯車41と、第1歯車41と噛み合い、ナット31と一体回転可能に設けられた第2歯車42とを備える。第2歯車42は、第1歯車41よりも径が大きく、かつ歯数も多い。係る構成の動力伝達機構4により、電動モータ2の回転軸2aの回転は減速された上でナット31に伝達される。従って、本実施形態の動力伝達機構4は、減速機構としても機能する。
【0026】
以上の構成を有する本実施形態に係る電動アクチュエータ1において、電動モータ2の回転軸2aが回転すると、その回転運動が減速機構としての動力伝達機構4を介してナット31へ伝達される。そして、ナット31が回転すると、これに伴って、出力軸としてのねじ軸32が回り止めされた状態で軸方向に直線運動する。ねじ軸32が軸方向に直線運動することにより、図示しない操作対象(例えば、自動車の電動ブレーキシステムを構成する油圧シリンダのピストンロッド)が操作される。
【0027】
以上で説明した電動アクチュエータ1においては、前述したとおり、ボールねじ機構30のナット31を回転自在に支持する転がり軸受6,7に、いわゆる開放型の転がり軸受を使用している。但し、転がり軸受6,7の内部空間には潤滑剤としてのグリースを充填していることから、何らの対策も講じていなければ、内外輪間の開口部を介してのグリースの外部漏洩や軸受内部空間への異物侵入によって転がり軸受6,7の軸受性能、ひいてはボールねじ機構30の動作精度等に悪影響が及ぶ。
【0028】
そこで、本実施形態の電動アクチュエータ1では、ナット31を回転自在に支持する転がり軸受6,7のそれぞれに、以下説明するような特徴的構成を採用することにより、コスト増を抑えつつ、内外輪間の開口部を封口(シール)するようにしている。
【0029】
まず、第1転がり軸受6について説明する。
第1転がり軸受6の構成部材とは異なる第1異部材M1としての第1ハウジング51に、第1転がり軸受6の一端開口部64(図2において紙面左側の開口部)をその開口面積比で80%以上100%未満、好ましくは90%以上100%未満覆う第1カバー面8Aを設けている。この第1カバー面8Aは、第1転がり軸受6の外径側から内径側に向けて延びて外輪62の一端面(図2において紙面左側の端面)全域と面接触する環状面とされ、その内径端部が転がり軸受6の一端開口部64の径方向範囲内に位置する。そのため、一端開口部64の内径端64aには、第1カバー面8Aによって封口されていない、径方向の開口幅をAとする開口が存在している。
【0030】
また、第1転がり軸受6の構成部材とは異なる第2異部材M2としての第2歯車42に、第1転がり軸受6の他端開口部65(図2において紙面右側の開口部)をその開口面積比で80%以上100%未満、好ましくは90%以上100%未満覆う第2カバー面8Bを設けている。この第2カバー面8Bは、第1転がり軸受6の内径側から外径側に向けて延びて内輪61の他端面(図2において紙面右側の端面)全域と面接触する環状面とされ、その外径端部が転がり軸受6の他端開口部65の径方向範囲内に位置する。そのため、他端開口部65の外径端65aには、第2カバー面8Bによって封口されていない、径方向の開口幅をBとする開口が存在している。この開口の開口幅Bは、一端開口部64の内径端64aに存在する開口の開口幅Aよりも小さく設定され(A>B)、静止状態の転がり軸受6の内部空間のうち他端開口部65側に存在するグリースの液面を覆うことができるように第2カバー面8Bが形成される。
【0031】
なお、必要とされるシール性を確保できるのであれば、軸方向で互いに対向する第1カバー面8Aと外輪62の一端面との間、及び第2カバー面8Bと内輪61の他端面との間には、僅かな軸方向隙間を介在させても良い。
【0032】
第1転がり軸受6の内輪61の一端面は、軸方向隙間を介して第1ハウジング51と軸方向で対向する。これにより、ナット31が回転する時の摺動抵抗(電動アクチュエータ1の駆動時の内部抵抗)の増加を防止することができるので、ねじ軸32をスムーズに直線運動させることができる。上記の軸方向隙間(及び開口幅Aの開口)は、第1カバー面8Aが設けられた第1ハウジング51の端面の内径端に環状のヌスミ部(環状凹部)を設けることによって形成される。
【0033】
電動アクチュエータ1の駆動時の内部抵抗増加を防止するため、第1転がり軸受6の外輪62の他端面は、軸方向隙間を介して第2歯車42の一端面と軸方向で対向する。そのため、第2歯車42の一端面には、上記軸方向隙間を形成する環状凹部42aを設けている。環状凹部42aは、上記他端開口部65の外径端65a側開口(開口幅Bの開口)を形成すると共に、第1転がり軸受6の内部空間と軸受外部空間(ここでは、転がり軸受6の外径側に形成される空間)とを連通させるように形成されている。すなわち、環状凹部42aは、その内径端が他端開口部65の外径端65aの径方向内側に位置すると共に、その外径端が外輪62の外周面よりも径方向外側に位置するように形成される。
【0034】
環状凹部42aの転がり軸受6の外径側での開口幅Cは、一端開口部64の内径端64a側開口の開口幅A(及び他端開口部65の外径端65a側開口の開口幅B)よりも大きくしている。これにより、電動アクチュエータ1の駆動時の軸受構成部材同士の摺動接触等に伴って軸受内部で摩耗粉等が生じた場合でも、この摩耗粉等を環状凹部42aを介して軸受外部に排出し易くなる。また、環状凹部42aの内周壁面は、軸方向に対して傾斜した傾斜面(厳密には、転がり軸受6側に向けて環状凹部42aの開口寸法を徐々に拡大させる方向に傾斜した傾斜面)に形成されている。これにより、上記摩耗粉等を環状凹部42aを介して軸受外部に一層排出し易くなる。
【0035】
図示例においては、第2歯車42の他端面にも上記同様の環状凹部42aを設けている。これにより、第2歯車42に表裏がなくなるので、ナット31の外周面に第2歯車42を固定する際の作業性を向上することができる。
【0036】
次に、第2転がり軸受7について説明する。
第2転がり軸受7の構成部材とは異なる第1異部材M1としての第2ハウジング52に、第2転がり軸受7の一端開口部74(図2において紙面右側の開口部)をその開口面積比で80%以上100%未満、好ましくは90%以上100%未満覆う第1カバー面8Aを設けている。この第1カバー面8Aは、第2転がり軸受7の外径側から内径側に向けて延びて外輪72の一端面(図2において紙面右側の端面)全域と面接触する環状面とされ、その内径端部が転がり軸受7の一端開口部74の径方向範囲内に位置する。そのため、一端開口部74の内径端74aには、第1カバー面8Aによって封口されていない、径方向の開口幅をAとする小開口が存在している。
【0037】
また、第2転がり軸受7の構成部材とは異なる第2異部材M2としてのナット31のフランジ部31bに、第2転がり軸受7の他端開口部75(図2において紙面左側の開口部)をその開口面積比で80%以上100%未満、好ましくは90%以上100%未満覆う第2カバー面8Bを設けている。この第2カバー面8Bは、第2転がり軸受7の内径側から外径側に向けて延び、内輪71の他端面(図2において紙面左側の端面)全域と面接触する環状面とされ、その外径端部が転がり軸受7の他端開口部75の径方向範囲内に位置する。そのため、他端開口部75の外径端75aには、第2カバー面8Bによって封口されていない、径方向の開口幅をBとする微小開口が存在している。この微小開口の開口幅Bは、一端開口部74の内径端74aに存在する微小開口の開口幅Aよりも小さく設定される(A>B)。
【0038】
必要とされるシール性を確保できるのであれば、軸方向で互いに対向する第1カバー面8Aと外輪72の一端面との間、及び第2カバー面8Bと内輪71の他端面との間には、僅かな軸方向隙間を介在させても良い。
【0039】
電動アクチュエータ1の駆動時の内部抵抗増加防止を目的として、第2転がり軸受7の内輪71の一端面は、第1転がり軸受6の内輪61と同様、軸方向隙間を介して第2ハウジング52と軸方向で対向する。この軸方向隙間(及び開口幅Aの微小開口)は、第1カバー面8Aが設けられた第2ハウジング52の端面の内径端に環状凹部を設けることによって形成される。
【0040】
以上で説明した本実施形態の電動アクチュエータ1では、第1転がり軸受6の構成部材とは異なる第1異部材M1としての第1ハウジング51に設けた第1カバー面8A、及び第2異部材M2としての第2歯車42に設けた第2カバー面8Bにより、第1転がり軸受6の一端開口部64及び他端開口部65がそれぞれシールされ、また、第2転がり軸受7の構成部材とは異なる第1異部材M1としての第2ハウジング52に設けた第1カバー面8A、及び第2異部材M2としてのナット31に設けた第2カバー面8Bにより、第2転がり軸受7の一端開口部74及び他端開口部75がそれぞれシールされる。これにより、転がり軸受6,7として、その一端及び他端開口部をシールする専用のシール部材を具備しない開放型の転がり軸受を使用しても、転がり軸受6,7の内部空間(に介在するグリース)への異物侵入や、グリースの外部漏洩を抑制又は防止することができる。これにより、転がり軸受6,7の軸受性能の低下や耐久寿命の短縮化を可及的に防止し、ねじ軸32の動作精度を安定的に維持することができる。そして、転がり軸受6,7に開放型の転がり軸受を使用することができれば、シール部材を具備する密封型の転がり軸受を使用する場合に必要となる厳密な寸法管理を省略することができるので、電動アクチュエータ1のコスト低減を図ることができる。
【0041】
また、第1カバー面8Aは、内外輪間の一端開口部64,74の内径端を開口させた状態で一端開口部64,74を開口面積比で80%以上(好ましくは90%以上)100%未満覆うように設けられ、第2カバー面8Bは、内外輪間の他端開口部65,75の外径端を開口させた状態で他端開口部65,75を開口面積比で80%以上(好ましくは90%以上)100%未満覆うように設けてられている。これにより、転がり軸受6,7、ひいては電動アクチュエータ1の作動性を低下させることなく、開口部を適切にシールすることができる。
【0042】
また、転がり軸受6,7の運転中は、遠心力の影響によって軸受内部空間の外径側領域にグリースが偏在し易いため、内外輪間の開口部65,75がその外径側で大きく開口しているとグリース漏れが生じ易くなる。特に、転がり軸受6,7の高速回転に対応する、ちょう度310~340の範囲内にある低粘度のグリースを使用する場合には、グリース漏れが生じ易くなる。この点、転がり軸受6,7の一端開口部64,74の内径端64a,74a側開口の開口幅Aを、転がり軸受6,7の他端開口部65,75の外径端65a,75a側開口の開口幅Bよりも大きくしているので、意図せぬグリース漏れが生じる可能性を低減することができる。そのため、本実施の形態は、電動モータ2として、高速回転型の小型モータを採用する電動アクチュエータ1にも好適に適用し得る。
【0043】
以上のことから、本実施形態の電動アクチュエータ1は、低コストでありながら、出力軸(ねじ軸32)の動作精度や耐久寿命に優れる、という特徴を有する。
【0044】
以上、本発明の一実施形態に係る電動アクチュエータ1について説明を行ったが、本発明の実施の形態はこれに限られない。図3に本発明の他の実施形態に係る電動アクチュエータ1の部分縦断面図を示す。
【0045】
図3に示す電動アクチュエータ1が図1及び図2に示す電動アクチュエータ1と異なる主な点は、
・ナット31のフランジ部31bが省略され、動力伝達機構4を構成する第2歯車42がナット31と一体に設けられている点、及び、
・第2異部材M2としての第2歯車42に、第1転がり軸受6の他端開口部65を覆う第2カバー面8Bに加えて第2転がり軸受7の他端開口部75を覆う第2カバー面8Bが設けられ、この第2カバー面8Bにより、第2転がり軸受7の他端開口部75が開口面積比で80%以上100%未満(好ましくは90%以上100%未満)覆われている点、にある。
【0046】
第2転がり軸受7の他端開口部75を覆う第2カバー面8Bは、第1転がり軸受6の他端開口部65を覆う第2カバー面8Bと同様に、第2転がり軸受7の内径側から外径側に向けて延びた環状面とされ、その外径端部が転がり軸受7の他端開口部75の径方向範囲内に位置する。そのため、他端開口部75の外径端75aには、第2カバー面8Bによって封口されていない、径方向の開口幅をBとする開口が存在している。この開口の開口幅Bは、一端開口部74の内径端74aに存在する開口の開口幅Aよりも小さく設定される(A>B)。
【0047】
これ以外の構成において、図3に示す電動アクチュエータ1は、図1及び図2に示す電動アクチュエータ1と実質的に同一の構成を有する。従って、図3に示す電動アクチュエータ1によっても、図1及び図2に示す電動アクチュエータ1と同様の作用効果を享受することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態に係る電動アクチュエータ1について説明を行ったが、電動アクチュエータ1には、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更を施すことができる。
【0049】
例えば、電動モータ2の回転運動を直線運動に変換するねじ機構3は、ナット31の内周面に設けた螺旋状溝31aとねじ軸32の外周面に設けた螺旋状溝32aとがボールを介さずに直接的に螺合するすべりねじ機構であってもよい。また、動力伝達機構4は、以上で説明した一段減速式の減速機構に限らず、多段減速式の減速機構であっても良い。
【符号の説明】
【0050】
1 電動アクチュエータ
2 電動モータ
3 ねじ機構
4 動力伝達機構
5 ハウジング
6 第1転がり軸受
7 第2転がり軸受
8A 第1カバー面
8B 第2カバー面
30 ボールねじ機構
31 ナット
32 ねじ軸
33 ボール
42 第2歯車(歯車)
61,71 内輪
62,72 外輪
64,74 一端開口部
65,75 他端開口部
M1 第1異部材
M2 第2異部材
図1
図2
図3