(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175932
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】タイヤ温度推定方法及びタイヤ温度推定装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/00 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B60W40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094037
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 祐篤
(72)【発明者】
【氏名】初津 堅一
(72)【発明者】
【氏名】土屋 大
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241CA00
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241DA04Z
3D241DA20Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB09Z
3D241DB21Z
3D241DB27Z
3D241DB42Z
3D241DC46Z
3D241DC53Z
(57)【要約】
【課題】タイヤの表面温度を精度良く推定できるタイヤ温度推定方法及びタイヤ温度推定装置を提供する。
【解決手段】タイヤ温度推定装置100は、プロセッサ10を用いて、車両1のタイヤ2の表面温度を推定し、プロセッサ10は、タイヤ2に発生する前後力及び横力とタイヤ2のスリップ速度とに基づいてタイヤ2の発熱量を算出し、表面温度の前回温度推定値を取得し、車両1が走行する路面Rの温度である路面温度を取得し、外気温度及びタイヤ2の内部温度のいずれか一方又は両方を環境温度として取得し、前回温度推定値と路面温度との温度差に基づいてタイヤの第1放熱量を算出し、前回温度推定値と環境温度との温度差に基づいてタイヤの第2放熱量を算出し、発熱量、第1放熱量及び第2放熱量に基づいて表面温度の温度変化量を算出し、前回温度推定値及び温度変化量に基づいて表面温度を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを用いて、車両のタイヤの表面温度を推定するタイヤ温度推定方法であって、
前記プロセッサは、
前記タイヤに発生する前後力及び横力と前記タイヤのスリップ速度とに基づいて前記タイヤの発熱量を算出し、
前記表面温度の前回温度推定値を取得し、
前記車両が走行する路面の温度である路面温度を取得し、
外気温度及び前記タイヤの内部温度のいずれか一方又は両方を環境温度として取得し、
前記前回温度推定値と前記路面温度との温度差に基づいて前記タイヤの第1放熱量を算出し、
前記前回温度推定値と前記環境温度との温度差に基づいて前記タイヤの第2放熱量を算出し、
前記発熱量、前記第1放熱量及び前記第2放熱量に基づいて前記表面温度の温度変化量を算出し、
前記前回温度推定値及び前記温度変化量に基づいて前記表面温度を推定する、タイヤ温度推定方法。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記前回温度推定値と前記外気温度との温度差に所定の放熱係数を乗じた値に基づいて前記第2放熱量を算出し、
前記外気温度が第1の温度であるときの前記放熱係数は、前記外気温度が前記第1の温度よりも高い第2の温度であるときの前記放熱係数よりも大きい、請求項1に記載のタイヤ温度推定方法。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記前回温度推定値と前記外気温度との温度差に基づいて前記第2放熱量を算出する、請求項1に記載のタイヤ温度推定方法。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記前回温度推定値と前記内部温度との温度差に基づいて前記第2放熱量を算出する、請求項1に記載のタイヤ温度推定方法。
【請求項5】
車両のタイヤの表面温度を推定するタイヤ温度推定装置であって、
前記タイヤに発生する前後力及び横力と前記タイヤのスリップ速度とに基づいて前記タイヤの発熱量を算出する発熱量算出部と、
前記表面温度の前回温度推定値を取得する前回温度推定値取得部と、
前記車両が走行する路面の温度である路面温度を取得する路面温度取得部と、
外気温度及び前記タイヤの内部温度のいずれか一方又は両方を環境温度として取得する環境温度取得部と、
前記路面温度と前記前回温度推定値との温度差に基づいて前記タイヤの第1放熱量を算出する第1放熱量算出部と、
前記環境温度と前記前回温度推定値との温度差に基づいて前記タイヤの第2放熱量を算出する第2放熱量算出部と、
前記発熱量、前記第1放熱量及び前記第2放熱量に基づいて前記表面温度の温度変化量を算出する温度変化量算出部と、
前記前回温度推定値及び前記温度変化量に基づいて前記表面温度を推定する表面温度推定部とを備える、タイヤ温度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ温度推定方法及びタイヤ温度推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載される車両制御装置が有するタイヤ温度検出手段は、タイヤ温度を推定するために、路面温度に基づいてタイヤの放熱量を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のタイヤ温度検出方法では、路面温度のみに基づいて放熱量を算出しているため、充分な精度でタイヤの温度を推定できない場合がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、タイヤの表面温度を精度良く推定できるタイヤ温度推定方法及びタイヤ温度推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、路面温度とタイヤの表面温度の前回温度推定値との温度差に基づいてタイヤの第1放熱量を算出し、外気温度及びタイヤの内部温度のいずれか一方又は両方と前回温度推定値との温度差に基づいてタイヤの第2放熱量を算出し、発熱量、第1放熱量及び第2放熱量に基づいて表面温度を推定することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、路面温度に加えて、外気温度及びタイヤの内部温度のいずれか一方又は両方に基づいて放熱量を算出するので、タイヤの表面温度を精度良く推定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るタイヤ温度推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】走行中の車両のタイヤの発熱及び放熱を模式的に示す図である。
【
図3】車両の各タイヤにかかる垂直荷重の変化量を模式的に示す図で有り、
図3(a)は、縦方向加速度に起因する垂直荷重の変化量を示し、
図3(b)は、横方向加速度に起因する垂直荷重の変化量を示す。
【
図4】
図1に示すタイヤ温度推定装置が実行するタイヤ温度推定方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、車両1はタイヤ温度推定装置100を有する。タイヤ温度推定装置100は、所定周期(例えば、10[msec])で、タイヤ2(右側前輪タイヤ2a、左側前輪タイヤ2b、右側後輪タイヤ2c及び左側後輪タイヤ2d)の表面温度を推定する。また、車両1は、舵角センサ31、加速度センサ32、車速センサ33、駆動力センサ34、路面温度センサ35、外気温度センサ36及びTPMS37(Tire Pressure Monitoring System)を有する。また、車両1は、車両1の運転を制御するための運転制御装置40を有する。
【0010】
舵角センサ31は、車両1のタイヤ2の舵角を検出する。
加速度センサ32は、車両1にかかる縦方向の加速度(縦G)及び横方向の加速度(横G)を検出する。なお、縦方向とは車両1の前後方向であり、横方向とは車両1の幅方向である。
車速センサ33は、車両1の車速を検出する。
駆動力センサ34は、エンジンや電動モータ等の駆動源から入力される駆動力の大きさを検出する。
【0011】
路面温度センサ35は、車両1が走行する路面Rの路面温度Troadを検出する。なお、路面温度センサ35は、車両1の車体の下部に取り付けられる非接触式の温度センサである。路面温度センサ35は、車両1が走行する路面Rに対向する位置に配置される。
外気温度センサ36は、車両1の外側に取り付けられ、外気温度Tairを検出する。
TPMS37は、車両1のタイヤ2の空気圧を測定するとともに、タイヤ2の内部温度Tinneriを検出する。
なお、路面温度Troad、外気温度Tair及びタイヤ2の内部温度Tinneriを検出する手段は、上記の路面温度センサ35、外気温度センサ36及びTPMS37に限定されず、その他の検出装置であってもよい。
【0012】
運転制御装置40は、タイヤ温度推定装置100が推定したタイヤ2の表面温度に基づいて車両1の運転を制御する。たとえば、車両1が自動運転レベル3以上の自動運転車両である場合は、運転制御装置40は、タイヤ2の温度に基づいて、加減速度および車速を調整するための駆動機構の動作及びブレーキ動作を制御する。また、運転制御装置40は、タイヤ2の温度に基づいて、ステアリングアクチュエータの動作を制御することで、車両1の操舵制御を実行する。また、車両1が自動運転レベル2以下の車両である場合は、運転制御装置40は、タイヤ2の温度に基づいて、ドライバによる車両1の手動運転を支援する。これにより、タイヤ2の温度に依存してタイヤ2の特性が変化した場合であっても、運転制御装置40は、車両1の挙動が安定するように車両1の運転を制御できる。
【0013】
タイヤ温度推定装置100は、プロセッサ10を有する。プロセッサ10は、プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、ROMに格納されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)とを備える。プロセッサ10は、車両状態取得部11、発熱量算出部12、前回温度推定値取得部13、路面温度取得部14、環境温度取得部15、放熱量算出部16、温度変化量算出部17及び表面温度推定部18を有する。プロセッサ10は、ROMに格納されたプログラムをCPUにより実行することにより、車両状態取得部11、発熱量算出部12、前回温度推定値取得部13、路面温度取得部14、環境温度取得部15、放熱量算出部16、温度変化量算出部17及び表面温度推定部18の各機能を実行する。
【0014】
以下、プロセッサ10の構成について詳細に説明する。
車両状態取得部11は、舵角センサ31から車両1の舵角を取得する。また、車両状態取得部11は、加速度センサ32から車両1にかかる縦方向の加速度(縦G)及び横方向の加速度(横G)を取得する。また、車両状態取得部11は、車速センサ33から車両1の車速を取得する。また、車両状態取得部11は、駆動力センサ34から駆動力の大きさを取得する。車両状態取得部11は、車両1の舵角、縦方向の加速度(縦G)、横方向の加速度(横G)、車両1の車速、及び、駆動力の大きさを車両状態情報として発熱量算出部12に出力する。
【0015】
発熱量算出部12は、車両状態取得部11から入力された車両状態情報に基づいて、
図2に示すタイヤ2の発熱量Qgを算出する。
【0016】
発熱量Qgの具体的な算出方法を以下に説明する。
まず、発熱量算出部12は、縦方向の加速度(縦G)及び横方向の加速度(横G)に基づいて、右側前輪タイヤ2a、左側前輪タイヤ2b、右側後輪タイヤ2c及び左側後輪タイヤ2dの各々にかかる垂直荷重Fzfr[N],FzfL[N],Fzrr[N],FzrL[N]を算出する。具体的には、まず、
図3(a)に示すように、車両1に縦方向の加速度ax[m/s
2]がかかる場合は、発熱量算出部12は、縦方向の加速度ax[m/s
2]に起因する垂直荷重Fz[N]の変化量ΔFz[N]を以下の式(1)で算出する。但し、m[kg]は、車両1の質量である。また、L[m]は、ホイールベースの長さである。また、hcg[m]は、車両1の重心高である。
【数1】
【0017】
また、
図3(b)に示すように、車両1に横方向の加速度ay[m/s
2]がかかる場合は、発熱量算出部12は、横方向の加速度ay[m/s
2]に起因する垂直荷重Fz[N]の変化量ΔFz[N]を以下の式(2)で算出する。但し、d[m]は、車両1の左右輪の水平距離である。
【数2】
【0018】
従って、車両1に縦方向の加速度ax[m/s
2]及び横方向の加速度ay[m/s
2]がかかる場合において、右側前輪タイヤ2a、左側前輪タイヤ2b、右側後輪タイヤ2c及び左側後輪タイヤ2dの各々にかかる垂直荷重Fzfr[N],FzfL[N],Fzrr[N],FzrL[N]の各々は、以下の式(3)~(6)によって算出される。但し、
図3(a)に示すように、Lf[m]は、前輪車軸と車両重心との水平距離である。また、Lr[m]は、後輪車軸と車両重心との水平距離である。
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0019】
また、発熱量算出部12は、タイヤ2の合計横力Fytotal[N]に基づいて、右側前輪タイヤ2a、左側前輪タイヤ2b、右側後輪タイヤ2c及び左側後輪タイヤ2dの各々に発生する横力Fyfr[N],Fyfl[N],Fyrr[N],Fyrl[N]の各々を、以下の式(7)~(10)によって算出する。なお、タイヤ2の合計横力Fytotalは、横方向の加速度ay[m/s
2]及び車両1の荷重m[kg]に基づいて算出される。
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0020】
また、発熱量算出部12は、右側前輪タイヤ2a、左側前輪タイヤ2b、右側後輪タイヤ2c及び左側後輪タイヤ2dの各々に発生する縦力Fxi[N]の各々を、以下の式(11)によって算出する。なお、タイヤ2の合計縦力Fxtotal[N]は、車両1の駆動力に基づいて算出される。また、FxDestributionRatioiは、右側前輪タイヤ2a、左側前輪タイヤ2b、右側後輪タイヤ2c及び左側後輪タイヤ2dの各々の駆動力配分比である。
【数11】
【0021】
そして、発熱量算出部12は、データベースに記憶されたマップを参照して、右側前輪タイヤ2a、左側前輪タイヤ2b、右側後輪タイヤ2c及び左側後輪タイヤ2dの各々に発生する縦力Fxi[N]と、垂直荷重Fzfr[N],Fzfl[N],Fzfr[N],Fzfl[N]とに基づいて、各々のタイヤ2について縦方向蓄熱係数Wx[N・m/℃]を取得する。
また、発熱量算出部12は、マップを参照して、右側前輪タイヤ2a、左側前輪タイヤ2b、右側後輪タイヤ2c及び左側後輪タイヤ2dの各々に発生する横力Fyfr[N],Fyfl[N],Fyfr[N],Fyfl[N]と、垂直荷重Fzfr[N],Fzfl[N],Fzfr[N],Fzfl[N]とに基づいて、各々のタイヤ2について横方向蓄熱係数Wy[N・m/℃]を取得する。
なお、縦方向蓄熱係数Wx[N・m/℃]及び横方向蓄熱係数Wy[N・m/℃]を取得するために用いられるマップは、タイヤ2に所定値以上の大きな負荷(垂直荷重、タイヤ2に発生する前後力及び横力)がかかる場合にタイヤ2の発熱量Qgが飽和するという事情を反映して作成されたマップである。従って、発熱量算出部12が取得する縦方向蓄熱係数Wx[N・m/℃]及び横方向蓄熱係数Wy[N・m/℃]は、発熱量Qgの変曲点を考慮した値となる。
【0022】
さらに次に、発熱量算出部12は、車両1の舵角及び車両1の車速に基づいて、縦スリップ速度Vslipxi[m/s]及び横スリップ速度Vslipyi[m/s]を算出する。
【0023】
そして、発熱量算出部12は、タイヤ2に発生する縦方向の力である縦力Fxi[N](前後力)、タイヤ2に発生する横方向の力である横力Fyi[N]、縦方向蓄熱係数Wx[N・m/℃]、横方向蓄熱係数Wy[N・m/℃]、縦スリップ速度Vslipxi[m/s]及び横スリップ速度Vslipyi[m/s]に基づいて、下記の式(12)により、発熱量Qgを算出する。
【数12】
【0024】
次に、
図1に示す前回温度推定値取得部13は、表面温度推定部18から表面温度の前回温度推定値Ti[℃]を取得する。なお、前回温度推定値取得部13は、CANから読み込んだ外気温度のデータを前回温度推定値Ti[℃]の初期値として取得する。
【0025】
また、路面温度取得部14は、路面温度センサ35から路面温度Troad[℃]を取得する。
【0026】
また、環境温度取得部15は、外気温度センサ36から環境温度として外気温度Tair[℃]を取得する。外気温度Tair[℃]は、車両1のホイールハウス1aの雰囲気の温度である(
図2参照)。さらに、環境温度取得部15は、TPMS37から環境温度として各々のタイヤ2の内部温度Tinneri[℃]を取得する。なお、環境温度取得部15は、外気温度Tair[℃]及びタイヤ2の内部温度Tinneri[℃]のいずれか一方のみを取得してもよい。
【0027】
放熱量算出部16は、第1放熱量算出部16a及び第2放熱量算出部16bを有する。
第1放熱量算出部16aは、前回温度推定値Ti[℃]及び路面温度Troad[℃]に基づいて、以下の式(13)により、タイヤ2から路面Rへの放熱量である第1放熱量Qd1(
図2参照)を算出する。なお、係数k
1[1/s]は、路面温度Troad[℃]が低い程大きくなるように設定されてもよい。
【数13】
【0028】
第2放熱量算出部16bは、前回温度推定値Ti[℃]、外気温度Tair[℃]及びタイヤ2の内部温度Tinneri[℃]に基づいて、以下の式(14)により第2放熱量Qd2(
図2参照)を算出する。第2放熱量Qd2は、タイヤ2の表面から外気への放熱量Qd21及びタイヤ2の表面から内部への放熱量Qd22を含む。すなわち、第2放熱量算出部16bは、前回温度推定値Ti[℃]と外気温度Tair[℃]との温度差に所定の放熱係数k
2[1/s]を乗じた値、及び、前回温度推定値Ti[℃]とタイヤ2の内部温度Tinneri[℃]との温度差に所定の放熱係数k
3[1/s]を乗じた値に基づいて第2放熱量Qd2を算出する。なお、外気温度Tair[℃]が第1の温度であるときの放熱係数k
2[1/s]は、外気温度Tair[℃]が第1の温度よりも高い第2の温度であるときの放熱係数k
2[1/s]よりも大きい。すなわち、放熱係数k
2[1/s]は、外気温度Tair[℃]が低い程大きい。また、放熱係数k
3[1/s]も、放熱係数k
2[1/s]と同様に、タイヤ2の内部温度Tinneri[℃]が低い程大きくなるように設定されてもよい。
【数14】
【0029】
なお、第2放熱量算出部16bは、前回温度推定値Ti[℃]と外気温度Tair[℃]との温度差に所定の放熱係数k2[1/s]を乗じた値のみに基づいて第2放熱量Qd2を算出してもよい。また、第2放熱量算出部16bは、前回温度推定値Ti[℃]とタイヤ2の内部温度Tinneri[℃]との温度差に所定の放熱係数k3[1/s]を乗じた値のみに基づいて第2放熱量Qd2を算出してもよい。
【0030】
そして、温度変化量算出部17は、以下の式(15)により、温度変化量dTi/dtを算出する。すなわち、温度変化量算出部17は、発熱量Qg、第1放熱量Qd1(k
1(Ti-Troad))及び第2放熱量Qd2(k
2(Ti-Tair)+k
3(Ti-Tinneri))に基づいてタイヤ2の表面温度の温度変化量dTi/dtを算出する。なお、温度変化量dTi/dtは、単位時間(例えば、1秒)当たりのタイヤ2の表面温度の変化量である。
【数15】
【0031】
換言すれば、温度変化量算出部17は、以下の式(16)により、温度変化量dTi/dtを算出する。
【数16】
【0032】
そして、
図1に示す表面温度推定部18は、前回温度推定値Ti[℃]と温度変化量dTi/dtとに基づいて、各々のタイヤ2の表面温度、すなわち、最新の温度推定値Ti’[℃]を推定する。表面温度推定部18は、タイヤ2の表面温度の推定値(温度推定値Ti’[℃])を運転制御装置40に出力する。
【0033】
なお、上記の式(1)~(16)を構成する各要素の単位は、上述の実施形態に限定されない。また、以下の説明において、上記の式(1)~(16)を構成する各要素の単位は省略する。
【0034】
次に、
図4のフローチャートを用いて、タイヤ温度推定装置100のプロセッサ10が実行するタイヤ温度推定方法の手順を説明する。
まず、ステップS1において、発熱量算出部12は、各々のタイヤ2に発生する力(縦力Fxi、横力Fyi)を推定する。なお、縦力Fxiは、各々のタイヤ2に発生する前後力である。
次に、ステップS2において、発熱量算出部12は、各々のタイヤ2の垂直荷重Fzfr,FzfL,Fzrr,FzrLを推定する。
さらに次に、ステップS3において、発熱量算出部12は、各々のタイヤ2の縦力Fxi、横力Fyi及び垂直荷重Fzfr,FzfL,Fzrr,FzrLに基づいて、縦方向蓄熱係数Wx及び横方向蓄熱係数Wyを算出する。
次に、ステップS4において、発熱量算出部12は、各々のタイヤ2の縦スリップ速度Vslipxi及び横スリップ速度Vslipyiを算出する。
なお、ステップS1~S3の処理は、ステップS4の処理の後に実行されてもよく、ステップS1~S3の処理とステップS4の処理とは同時に実行されてもよい。
【0035】
そして、ステップS5において、発熱量算出部12は、縦力Fxi、横力Fyi、縦方向蓄熱係数Wx、横方向蓄熱係数Wy、縦スリップ速度Vslipxi及び横スリップ速度Vslipyiに基づいて、発熱量Qgを算出する。
【0036】
次に、ステップS6において、路面温度取得部14は、路面温度Troadを取得する。
また、ステップS7において、環境温度取得部15は、外気温度Tairを環境温度として取得する。
また、ステップS8において、環境温度取得部15は、タイヤ2の内部温度Tinneriを環境温度として取得する。
なお、ステップS6~S8の処理はいずれの順序で実行されてもよく、ステップS6~S8の処理は同時に実行されてもよい。また、ステップS7の処理とステップS8の処理とはいずれか一方のみが実行されてもよい。
【0037】
そして、ステップS9において、放熱量算出部16は、前回温度推定値Tiと路面温度Troadとの温度差に基づいて、第1放熱量Qd1を算出する。また、放熱量算出部16は、前回温度推定値Tiと外気温度Tairとの温度差、及び、前回温度推定値Tiとタイヤ2の内部温度Tinneriとの温度差に基づいて、第2放熱量Qd2を算出する。
【0038】
そして、ステップS10において、温度変化量算出部17は、以下の式(17)により、タイヤ2の表面温度の温度変化量dTi/dtを算出する。
【数17】
【0039】
そして、次に、ステップS11において、表面温度推定部18は、タイヤ2の表面温度の温度変化量dTi/dtに基づいて、タイヤ2の表面温度を推定する。すなわち、表面温度推定部18は、タイヤ2の表面温度の最新の温度推定値Ti’を算出する。
そして、処理は、ステップS1に戻り、プロセッサ10は、所定周期(例えば、10[msec])でステップS1~S11の処理を繰り返し実行する。
なお、発熱量Qgを推定するためのステップS1~S5の処理は、放熱量(第1放熱量Qd1,第2放熱量Qd2)を推定するためのステップS6~S9の処理の後に実行されてもよく、ステップS1~S5の処理とステップS6~S9の処理とは同時に実行されてもよい。
【0040】
以上より、本実施形態に係るタイヤ温度推定装置100は、路面温度Troadを取得し、外気温度Tair及びタイヤ2の内部温度Tinneriのいずれか一方又は両方を環境温度として取得する。タイヤ温度推定装置100は、前回温度推定値Tiと路面温度Troadとの温度差に基づいてタイヤ2の第1放熱量Qd1を算出し、前回温度推定値Tiと環境温度との温度差に基づいてタイヤ2の第2放熱量Qd2を算出する。そして、タイヤ温度推定装置100は、タイヤ2の発熱量Qg、第1放熱量Qd1及び第2放熱量Qd2に基づいてタイヤ2の表面温度の温度変化量dTi/dtを算出し、前回温度推定値Ti及び温度変化量に基づいて表面温度を推定する。これにより、タイヤ温度推定装置100は、路面温度Troadのみならず、タイヤ2の内部温度Tinneri及び外気温度Tairのいずれか一方又は両方に基づいて放熱量を算出するので、タイヤ2の表面温度を精度良く推定できる。また、タイヤ温度推定装置100は、環境温度としてタイヤ2の内部温度Tinneriを取得する場合は、車両1が高いGや高い負荷がかかる状況でスポーツ走行を行っているとき等、タイヤ2の表面から内部への放熱が特に大きいときであっても、タイヤ2の表面温度を精度良く推定できる。また、タイヤ温度推定装置100は、タイヤ2の発熱量及び放熱量に基づいてタイヤ2の表面温度を精度良く推定できるため、タイヤ2の表面温度を検出するためのセンサの設置が不要となる。
【0041】
また、タイヤ温度推定装置100は、前回温度推定値Tiと外気温度Tairとの温度差に所定の放熱係数k2を乗じた値に基づいて第2放熱量Qd2を算出し、外気温度Tairが第1の温度であるときの放熱係数k2は、外気温度Tairが第1の温度よりも高い第2の温度であるときの放熱係数k2よりも大きい。すなわち、外気温度Tairが低い程、放熱係数k2は大きい。これにより、タイヤ温度推定装置100は、外気温度Tairが低い程、タイヤ2の表面からの放熱量が多くなるという傾向に基づいて、タイヤ2の表面温度を推定できる。
【0042】
また、タイヤ温度推定装置100は、タイヤ2に作用する垂直荷重及び縦力Fxiに基づいて縦方向蓄熱係数Wxを算出し、垂直荷重及び横力Fyiに基づいて横方向蓄熱係数Wyを算出する。また、タイヤ温度推定装置100は、縦スリップ速度Vslipxi及び横スリップ速度Vslipyiを算出する。そして、タイヤ温度推定装置100は、縦力Fxi、横力Fyi、縦方向蓄熱係数Wx、横方向蓄熱係数Wy、縦スリップ速度Vslipxi及び横スリップ速度Vslipyiに基づいて、下記の式(18)により、発熱量Qgを算出する。
【数18】
これにより、タイヤ温度推定装置100は、各々のタイヤ2において、縦方向と横方向とで発熱感度(単位時間当たりの仕事量に対する発熱量)が異なるという事情に応じて、発熱量Qgを算出できるため、タイヤ2の表面温度を精度良く推定できる。
【0043】
また、タイヤ温度推定装置100は、発熱量Qg、前回温度推定値Ti、路面温度Troad、外気温度Tair及び内部温度Tinneriに基づいて、下記の式(19)により、温度変化量dTi/dtを推定する。
【数19】
これにより、タイヤ温度推定装置100は、タイヤ2の表面からの放熱を複数の要素(路面への放熱、外気への放熱、タイヤ2の内部への放熱)に分解して、温度変化量dTi/dtを推定するため、タイヤ2の表面温度を精度良く推定できる。
【0044】
また、タイヤ温度推定装置100は、前回温度推定値Tiと外気温度Tairとの温度差のみに基づいて第2放熱量Qd2を算出してもよい。これにより、タイヤ温度推定装置100は、路面温度Troadのみならず、外気温度Tairに基づいて放熱量を算出するので、タイヤ2の表面温度を精度良く推定できる。
【0045】
また、タイヤ温度推定装置100は、前回温度推定値Tiとタイヤ2の内部温度Tinneriとの温度差のみに基づいて第2放熱量Qd2を算出してもよい。これにより、タイヤ温度推定装置100は、路面温度Troadのみならず、タイヤ2の内部温度Tinneriに基づいて放熱量を算出するので、タイヤ2の表面温度を精度良く推定できる。また、タイヤ温度推定装置100は、車両1が高いGや高い負荷がかかる状況でスポーツ走行を行っている場合等、タイヤ2の表面から内部への放熱が特に大きい場合であっても、タイヤ2の表面温度を精度良く推定できる。
【符号の説明】
【0046】
100…タイヤ温度推定装置
1…車両
2…タイヤ
12…発熱量算出部
13…前回温度推定値取得部
14…路面温度取得部
15…環境温度取得部
16a…第1放熱量算出部
16b…第2放熱量算出部
17…温度変化量算出部
18…表面温度推定部
Ti…前回温度推定値
Troad…路面温度
Tair…外気温度
Tinneri…内部温度
Qg…発熱量
Qd1…第1放熱量
Qd2…第2放熱量