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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175943
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】横編機
(51)【国際特許分類】
   D04B 15/56 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
D04B15/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094066
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】向野 恭平
【テーマコード(参考)】
4L054
【Fターム(参考)】
4L054AA01
4L054AB02
4L054FA08
4L054NA05
(57)【要約】
【課題】歯口の幅が狭くても歯口を通過でき、かつ編糸を捕捉できるルーパーを有する引下装置を備える横編機を提供する。
【解決手段】前針床と、前記前針床に向き合う後針床と、前記前針床と前記後針床との間に形成される歯口に編糸を供給するヤーンフィーダーと、前記ヤーンフィーダーから前記歯口に延びる前記編糸を捕捉して、前記歯口の下方に引き下げる引下装置と、を備える横編機において、前記引下装置は、前記前針床と前記後針床の長さ方向に沿って移動可能に構成された移動体と、前記移動体に対して上下動可能に支持されたルーパーと、を備え、前記ルーパーは、フックを有し、前記歯口の上方から見た前記フックの延伸方向が、前記歯口の幅方向に交差している、横編機。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前針床と、
前記前針床に向き合う後針床と、
前記前針床と前記後針床との間に形成される歯口に編糸を供給するヤーンフィーダーと、
前記ヤーンフィーダーから前記歯口に延びる前記編糸を捕捉して、前記歯口の下方に引き下げる引下装置と、を備える横編機において、
前記引下装置は、
前記前針床と前記後針床の長さ方向に沿って移動可能に構成された移動体と、
前記移動体に対して上下動可能に支持されたルーパーと、を備え、
前記ルーパーは、前記編糸を引っ掛けるフックを有し、
前記歯口の上方から見た前記フックの延伸方向が、前記歯口の幅方向に交差している、
横編機。
【請求項2】
前記延伸方向と前記幅方向とのなす角度が30°以上90°以下である、請求項1に記載の横編機。
【請求項3】
前記延伸方向と前記幅方向とのなす角度が45°以上80°以下である、請求項1に記載の横編機。
【請求項4】
前記ルーパーの上昇中または上昇後に、前記移動体と前記ヤーンフィーダーとが互いに近づくように前記移動体および前記ヤーンフィーダーの少なくとも一方の移動を制御する制御部を備える、請求項1に記載の横編機。
【請求項5】
前記制御部は、前記移動体を前記ヤーンフィーダーに近づく方向に移動するように制御する、請求項4に記載の横編機。
【請求項6】
前記ルーパーは、前記前針床に対応した前側ルーパーと、前記後針床に対応した後側ルーパーとを含み、
前記フックは、前記前側ルーパーに形成された前側フックと、前記後側ルーパーに形成された後側フックとを含み、
前記歯口の上方から見た前記前側フックは、前記前側フックの先端部が前記前針床に近づくように傾斜しており、
前記歯口の上方から見た前記後側フックは、前記後側フックの先端部が前記後針床に近づくように傾斜している、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の横編機。
【請求項7】
前記歯口の上方において、前記前側フックを前記前針床に向かって変位させ、前記後側フックを前記後針床に向かって変位させる変位機構を備える、請求項6に記載の横編機。
【請求項8】
前記変位機構は、
前記前側ルーパーと前記後側ルーパーとが重ねられた状態で配置されるガイド溝と、
前記前側ルーパーの下部と前記後側ルーパーの下部とを互いに回動可能に連結する連結軸と、
前記前側ルーパーと前記後側ルーパーとの間に配置されたバネと、を備える請求項7に記載の横編機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地の終端編目からヤーンフィーダーに延びる編糸を切断する際に、その編糸を捕捉する引下装置を備える横編機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、編糸保持切断装置を備える横編機を開示する。横編機は、前針床と後針床とヤーンフィーダーを備える。ヤーンフィーダーは、前針床と後針床との間に形成される歯口(needle bed gap)に編糸を供給する。ヤーンフィーダーから供給された編糸は、前針床と後針床の編針によって編成される。
【0003】
上記編糸保持切断装置は、針床で編成される編地の最終編目からヤーンフィーダーに延びる編糸を捕捉して、歯口の下方に引き下げる引下装置と、編糸を保持する保持装置と、編糸を切断する切断装置と、を備える。引下装置は、上下動可能に構成されたルーパー(looper)を備える。ルーパーは、ルーパーの上端にフックを有する。フックは、歯口の上方で編糸を引っ掛ける。歯口の上方から見たフックの延伸方向は、歯口の幅方向に沿っている。歯口の幅方向は、前針床と後針床の長さ方向に直交する方向である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-173248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
横編機において歯口の幅を小さくしたいというニーズがある。例えば、歯口の幅を小さくすると、編目が詰んだ編地が得られ易い。しかし、歯口の幅が小さくなると、歯口の下方に配置されたルーパーが上昇したとき、ルーパーのフックが歯口を通過できなくなる恐れがある。フックを小さくすると、フックが編糸を捕捉し損ねる恐れがある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、歯口の幅が狭くても歯口を通過でき、かつ編糸を捕捉できるルーパーを有する引下装置を備える横編機を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>本発明の横編機は、
前針床と、
前記前針床に向き合う後針床と、
前記前針床と前記後針床との間に形成される歯口に編糸を供給するヤーンフィーダーと、
前記ヤーンフィーダーから前記歯口に延びる前記編糸を捕捉して、前記歯口の下方に引き下げる引下装置と、を備える横編機において、
前記引下装置は、
前記前針床と前記後針床の長さ方向に沿って移動可能に構成された移動体と、
前記移動体に対して上下動可能に支持されたルーパーと、を備え、
前記ルーパーは、前記編糸を引っ掛けるフックを有し、
前記歯口の上方から見た前記フックの延伸方向が、前記歯口の幅方向に交差している。
【0008】
<2>上記<1>に記載される横編機の一形態として、
前記延伸方向と前記幅方向とのなす角度が30°以上90°以下であっても良い。
【0009】
<3>上記<1>に記載される横編機の一形態として、
前記延伸方向と前記幅方向とのなす角度が45°以上80°以下であっても良い。
【0010】
<4>上記<1>から<3>のいずれかに記載される横編機の一形態として、
前記ルーパーの上昇中または上昇後に、前記移動体と前記ヤーンフィーダーとが互いに近づくように前記移動体および前記ヤーンフィーダーの少なくとも一方の移動を制御する制御部を備えていても良い。
【0011】
<5>上記<4>に記載される横編機の一形態として、
前記制御部は、前記移動体を前記ヤーンフィーダーに近づく方向に移動するように制御しても良い。
【0012】
<6>上記<1>から<5>のいずれかに記載される横編機の一形態として、
前記ルーパーは、前記前針床に対応した前側ルーパーと、前記後針床に対応した後側ルーパーとを含み、
前記フックは、前記前側ルーパーに形成された前側フックと、前記後側ルーパーに形成された後側フックとを含み、
前記歯口の上方から見た前記前側フックは、前記前側フックの先端部が前記前針床に近づくように傾斜しており、
前記歯口の上方から見た前記後側フックは、前記後側フックの先端部が前記後針床に近づくように傾斜していても良い。
【0013】
<7>上記<6>に記載される横編機の一形態として、
前記歯口の上方において、前記前側フックを前記前針床に向かって変位させ、前記後側フックを前記後針床に向かって変位させる変位機構を備えていても良い。
【0014】
<8>上記<7>に記載される横編機の一形態として、
前記変位機構は、
前記前側ルーパーと前記後側ルーパーとが重ねられた状態で配置されるガイド溝と、
前記前側ルーパーの下部と前記後側ルーパーの下部とを互いに回動可能に連結する連結軸と、
前記前側ルーパーと前記後側ルーパーとの間に配置されたバネと、を備えていても良い。
【発明の効果】
【0015】
上記<1>に記載される横編機では、歯口の上方から見たフックの延伸方向が、歯口の幅方向に沿っておらず、歯口の幅方向に交差している。このようなフックは、ルーパーが上下動したときに歯口を通過し易い。そのため、フックを小さくしなくても、幅が狭い歯口をフックが通過できる。また、フックを小さくする必要がないため、フックによって編糸を捕捉し易い。
【0016】
上記<2>に記載される横編機では、フックの延伸方向が歯口の幅方向に対して30°以上傾いている。そのため、ルーパーが上下動したときにフックが歯口を通過し易い。
【0017】
上記<3>に記載される横編機では、フックの延伸方向が歯口の幅方向に対して45°以上80°以下傾いている。幅方向に対して45°以上傾いたフックは歯口を通過し易い。また、幅方向に対して80°以下傾いたフックは編糸を捕捉し易い。
【0018】
上記<4>に記載される横編機では、ルーパーの上昇中または上昇後にヤーンフィーダーとルーパーとが近づくため、フックに編糸が捕捉され易い。
【0019】
上記<5>に記載される横編機では、ルーパーがヤーンフィーダーに近づくことで、ヤーンフィーダーがルーパーに近づくよりも、フックに編糸が捕捉され易い。実施形態で詳述するように、最終編目からヤーンフィーダーにいたる編糸の仰角が変化しないので、フックが編糸を引っ掛け易い。
【0020】
上記<6>に記載される横編機は、前針床に対応した前側ルーパーと、後針床に対応した後側ルーパーとを備える。そのため、ヤーンフィーダーから延びる編糸がつながる最終編目が前針床にあっても後針床にあっても、いずれかのルーパーによって編糸を確実に捕捉できる。
【0021】
上記<7>に記載される横編機では、歯口の上方において、前側フックが前針床に近づくと共に、後側フックが後針床に近づく。そのため、最終編目が前針床にあっても後針床にあっても、いずれかのルーパーのフックによって編糸を確実に捕捉できる。
【0022】
上記<8>に記載される横編機では、バネを挟んで重ねられた前側ルーパーと後側ルーパーとがガイド溝に配置され、かつ前側ルーパーの下部と後側ルーパーの下部とが連結されている。このような構成では、前側ルーパーと後側ルーパーとをガイド溝に沿って上昇させるだけで、前側ルーパーの前側フックを前針床に近づくように変位させ、後側ルーパーの後側フックを後針床に近づくように変位させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態1に示される横編機の概略側面図である。
図2図2は、実施形態1に示される横編機に備わる引下装置の概略側面図である。
図3図3は、ガイド溝に配置されたルーパーを示す概略説明図である。
図4図4は、実施形態1に示される引下装置のルーパーが下降した状態を示す概略図である。
図5図5は、実施形態1に示される引下装置のルーパーが上昇した状態を示す概略図である。
図6図6(A)は、ルーパーが下降した状態におけるルーパーのフックと編糸との位置関係を説明する上方から見た上面図、図6(B)は図6(A)を側方から見た側面図である。
図7図7(A)は、ルーパーが上昇した状態におけるルーパーのフックと編糸との位置関係を説明する上方から見た上面図、図7(B)は図7(A)を側方から見た側面図である。
図8図8(A)は、ルーパーがヤーンフィーダーに近づいた状態におけるルーパーのフックと編糸との位置関係を説明する上方から見た上面図、図8(B)は図8(A)を側方から見た側面図である。
図9図9(A)は、実施形態2に示される引下装置のルーパーが下降した状態を示す概略図、図9(B)は、図9(A)のルーパーが上昇した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施形態1>
以下、本発明の横編機の実施形態の一例を、図1から図8に基づいて説明する。
【0025】
≪全体構成≫
図1に示される本例の横編機1は、2枚ベッド横編機である。本例と異なり、4枚ベッド横編機に本発明の構成を適用しても構わない。図1に示されるように、本例の横編機1は、前針床1Fと後針床1Bと、ヤーンフィーダー11(図6から図8)と、編糸保持切断装置2と、を備える。横編機1はさらに、横編機1に備わる構成の動作を制御する制御部15を備える。制御部15は例えばコンピューターによって構成される。以下、横編機の各構成を詳細に説明する。
【0026】
≪針床≫
図1では、前針床1Fと後針床1Bの構成の一部のみを示している。前針床1Fと後針床1Bとはそれぞれ、編地を編成するための複数の編針19を備える。前針床1Fと後針床1Bとは、横編機1のフレーム10に固定されている。前針床1Fと後針床1Bとは、各針床の編針19の先端同士が互いに向き合うように山型に配置されている。前針床1Fの上端と後針床1Bの上端との間に歯口1Gが形成されている。図1,4,5では、歯口1Gの高さを紙面左右方向に延びる二点鎖線で示す。
【0027】
本例では、前針床1Fと後針床1Bとを基準にして方向を規定する。まず、前針床1Fと後針床1Bの長さ方向をX方向とする。図1においてX方向は紙面奥行き方向に延びる方向である。次いで、前針床1Fと後針床1Bとが向き合う方向をY方向とする。Y方向は、X方向に直交する方向である。最後に、横編機1の高さ方向をZ方向とする。Z方向は、X方向とY方向とに直交する方向である。
【0028】
≪ヤーンフィーダー≫
図6に示されるように、ヤーンフィーダー11は、歯口1Gよりも上方に配置され、歯口1Gに編糸11Yを供給する。歯口1Gに供給された編糸11Yは、編針19に引っ掛けられ、前針床1Fまたは後針床1Bに引き込まれることで編目を形成する。
【0029】
ヤーンフィーダー11は、X方向に沿った方向に移動可能に構成されている。ヤーンフィーダー11は自走式でも良いし、図示しないキャリッジによって連行されても良い。キャリッジは、X方向に沿って前針床1Fと後針床1B上を往復する部材である。キャリッジは、編針19に編成動作を行わせるカムシステムを備える。ヤーンフィーダー11の移動は、制御部15によって制御される。
【0030】
≪編糸保持切断装置≫
編糸保持切断装置2は、図2に示されるように、引下装置3と保持装置8と切断装置9とが一体となった構成である。図2は、編糸保持切断装置2を図1の紙面右側から見た図である。引下装置3は、図6から図8に示されるように、前針床1Fまたは後針床1Bで編成された編地の最終編目からヤーンフィーダー11に延びる編糸11Yを捕捉して、歯口1Gの下方に引き下げる装置である。最終編目は、編地において最後に編針19に係止された編目である。保持装置8は、歯口1Gの下方に引き下げられた編糸11Yを掴んで保持する装置である。切断装置9は、編糸11Yにおける保持装置8によって掴まれた部分よりも最終編目寄りの部分を切断する装置である。保持装置8が編糸11Yを保持することで、その編糸11Yを用いて別の編地の編成を開始することができる。編糸保持切断装置2の動作は、制御部15によって制御される。
【0031】
引下装置3は、図1,2に示されるように、X方向に沿って移動する移動体30と、移動体30に対して上下動可能に支持されるルーパー4とを備える。本例では、保持装置8と切断装置9は、移動体30に搭載され、移動体30と共に移動する。本例とは異なり、保持装置8と切断装置9は、引下装置3から独立した構成であっても良い。
【0032】
移動体30は、ベース部31と支持体32と回転体33とを備える。ベース部31は、固定軸部31Bと回転軸部31Sとによって下方から支持されている。ベース部31は、固定軸部31Bと回転軸部31Sに沿ってX方向に移動する。固定軸部31Bと回転軸部31Sは、X方向に沿って延びる棒状体である。固定軸部31Bは内側フレーム部31Fに不動に固定されている。回転軸部31Sは、その軸線を中心に回転可能に内側フレーム部31Fに支持されている。内側フレーム部31Fは、フレーム10に不動に固定されている。内側フレーム部31Fには、回転軸部31Sを回転させるモータが配置されている。ベース部31を移動させる駆動機構は例えば、ベース部31に固定されるラックと、フレーム10に配置されるピニオンとを備える構成である。ピニオンは例えば、フレーム10に配置されるモータによって駆動される。駆動機構は、移動体30を移動させることができる構成であれば特に限定されない。例えば駆動機構は、ベルトとプーリーとを備える構成であっても良い。
【0033】
支持体32は、ベース部31に固定されている。支持体32は、ルーパー4を上下方向にスライド可能に支持する。回転体33は、ルーパー4を上下動させる駆動機構である。支持体32は、図2に示されるように、移動体30におけるX方向を向いた面に不動に固定されている。そのため、ルーパー4は、移動体30に対して上下動可能に支持されているといえる。
【0034】
支持体32は、ルーパー4のスライダ4Sが配置されるスライダ溝32gと、ルーパー4の前側ルーパー5(図3など)と後側ルーパー6とが配置されるガイド溝70とを備える。スライダ溝32gは、支持体32におけるベース部31に向き合う面に形成されている。スライダ溝32gは、支持体32の上端から下端にまで延びている。ガイド溝70は、支持体32におけるスライダ溝32gが設けられる面とは反対側の面に形成されている。ガイド溝70は、支持体32の上端から下端寄りの途中の位置にまで延びている。
【0035】
支持体32はさらに、支持体32のやや下方寄りの位置でスライダ溝32gとガイド溝70とをつなぐ連通孔32hと、支持体32の上端の位置でスライダ溝32gとガイド溝70とをつなぐスリット32sとを備える。図4,5に示されるように、連通孔32hは、Z方向、すなわち上下方向に延びる長孔形状を備える。連通孔32hは、後述するルーパー4の連結軸75を上下方向にスライド可能にするための空間である。スリット32sは、後述するルーパー4の前側シャンク部52(図3)と後側シャンク部62(図3)とを上下方向にスライド可能にするための空間である。図2に示されるように、スライダ溝32gの開口部は押え板34によって覆われており、ガイド溝70の開口部は押え板35に覆われている。これら押え板34,35によって、スライダ溝32gおよびガイド溝70の開口部からのルーパー4の脱落が防止される。
【0036】
図3に示されるように、ルーパー4が配置される本例のガイド溝70は、幅が異なる上部70Uと下部70Lとを備える。上部70UのY方向に沿った幅は、下部70LのY方向に沿った幅よりも広い。このガイド溝70に配置される本例のルーパー4は、スライダ4Sと前側ルーパー5と後側ルーパー6とを備える。図3では、スライダ4Sを二点鎖線によって示している。スライダ4Sは、スライダ4SからY方向に分岐する腕部41を備える。腕部41には、X方向に延びる突起43を備える。突起43は、後述する回転体33によって上方に押される。その結果、ルーパー4が上方に移動する。ルーパー4の構成については後段で詳述する。
【0037】
回転体33は、ベース部31に回転可能に取り付けられている。回転体33の構成は、特許文献1に記載される構成と同じである。ここでは、回転体33の構成を簡単に説明する。回転体33は、図4に示されるように、回転軸部31Sの外周に固定されている。回転軸部31Sは、内側フレーム部31F(図1)に搭載されるモータによって回転される。従って、回転軸部31Sの回転に伴い、回転体33が回転する。この回転体33は、レバー33Lと凹状の係合部33Eとを備える。レバー33Lの外周面は円弧状に形成されている。ルーパー4が下降した状態では、レバー33Lの先端の外周面が突起43に接触または近接している。回転体33が反時計回りに回転すると、図5に示されるように、係合部33Eに突起43が嵌まり込み、突起43が上方に押し上げられる。レバー33Lは、突起43を係合部33Eにスムーズに案内するガイドとして機能する。
【0038】
回転体33はカム面33Cを備える。カム面33Cは凹凸を有する面である。カム面33Cは、図1,2に示される回転軸部80を回転させるためのものである。回転軸部80の大部分はベース部31の内部に回転可能に配置されている。回転軸部80の下部は移動体30の下部から突出している。その突出部分には、アーム部材80Cが配置されている。アーム部材80Cはカム面33Cに接触している。回転体33の回転に沿ってカム面33Cにおけるアーム部材80Cに接触する部分が変化する。カム面33Cによってアーム部材80Cが押されることで回転軸部80が回転する。
【0039】
回転軸部80の上端には、後述する保持装置8の可動片82(図6(B)など)と切断装置9の可動刃92(図6(B)など)とが固定されている。従って、回転軸部80の回転によって、可動片82と可動刃92が回転する。本例では、ルーパー4が下降したとき、保持装置8が編糸11Yを保持し、切断装置9が編糸11Yを切断する。
【0040】
保持装置8と切断装置9の構成も特許文献1に記載される構成と同じである。保持装置8は、板状の固定片81,83と板状の可動片82とを備える。可動片82は、固定片81と固定片83との間に配置される。可動片82が回転することで、上方から見たときに固定片81,83と可動片82との間にV字状の隙間が形成される。この隙間に編糸11Yが配置された状態で可動片82が閉じることで、固定片81,83と可動片82とで編糸11Yが挟み込まれて保持される。切断装置9は、固定刃91と可動刃92とを備える。可動刃92が回動することで固定刃91と可動刃92とで挟まれた編糸11Yが切断される。
【0041】
≪ルーパー≫
主に図3を参照し、本例のルーパー4の構成を説明する。ルーパー4は、少なくとも一つのフック40を備える。本例のルーパー4は、既に述べたように、スライダ4Sと前側ルーパー5と後側ルーパー6と、を備える。前針床1Fに対応した前側ルーパー5は、前針床1Fに係止される最終編目からヤーンフィーダー11に延びる編糸11Yを捕捉し易いように構成された部材である。後針床1Bに対応した後側ルーパー6は、後針床1Bに係止される最終編目からヤーンフィーダー11に延びる編糸11Yを捕捉し易いように構成された部材である。前側ルーパー5と後側ルーパー6はそれぞれ、フック40,40を有する。前側ルーパー5のフック40を前側フック50と呼ぶ。後側ルーパー6のフック40を後側フック60と呼ぶ。本例とは異なり、前側ルーパー5と後側ルーパー6とは個別に上下動する構成であっても良い。
【0042】
前側ルーパー5は、前側ベース部51と、前側ベース部51に固定された前側シャンク部52と、前側シャンク部52の先端に形成された前側フック50と、を備える。前側ベース部51は、Z方向に延びる剛体である。前側ベース部51におけるガイド溝70の内周面に対向する部分には、図3に示すように、張出部59が形成されている。前側シャンク部52は、Y方向に薄い板材であり、Y方向に弾性変形可能である。本例の前側シャンク部52の中間部は、図2では後側シャンク部62に隠れて見えないが、後側シャンク部62と同様にX方向に屈曲している。この屈曲部によって前側フック50がヤーンフィーダー11に近い位置に配置される。前側シャンク部52はさらに、図3に示されるようにX方向に屈曲する屈曲部の上部の位置でY方向に屈曲している。
【0043】
前側フック50は、前側シャンク部52の上端部からX方向、即ちヤーンフィーダー11に近づく方向に突出している。図6(A)に示されるように、歯口1Gの上方から見た前側フック50は、前側フック50の先端部50pが前針床1Fに近づくように傾斜している。歯口1Gの上方から見た前側フック50の延伸方向、すなわち前側シャンク部52から先端部50pに向かう方向は、歯口1Gの幅方向であるY方向に交差している。前側フック50の延伸方向が歯口1Gの幅方向に交差することで、歯口1Gの幅が狭くても前側フック50が歯口1Gを通過し易い。歯口1Gの幅方向と、前側フック50の延伸方向とのなす角度θ1が大きくなるほど、前側フック50を大きくしても前側フック50が歯口1Gを通過し易い。角度θ1は例えば、30°以上90°以下である。角度θ1が30°以上、さらには45°以上であれば、前側フック50が歯口1Gを通過し易い。角度θ1が小さくなり、歯口1Gの上方から見て、編糸11Yの延伸方向に対する前側フック50の延伸方向の角度が直角に近づくほど、前側フック50が編糸11Yを捕捉し易くなる。そのため、角度θ1は80°以下であることが好ましい。本例の角度θ1は75°である。
【0044】
図3に示されるように、後側ルーパー6は、ガイド溝70の内部において前側ルーパー5と並列に配置されている。後側ルーパー6は、ガイド溝70の中心軸を挟んで前側ルーパー5と対称な構成を備える。具体的には、後側ルーパー6は、後側ベース部61と、後側ベース部61に固定された後側シャンク部62と、後側シャンク部62の先端に形成された後側フック60と、を備える。後側ベース部61におけるガイド溝70の内周面に対向する部分には、図3に示すように、張出部69が形成されている。後側シャンク部62は、前側シャンク部52に向かって屈曲し、前側シャンク部52に当接している。
【0045】
後側フック60は、後側シャンク部62の上端部からX方向、即ちヤーンフィーダー11に近づく方向に突出している。図6(A)に示されるように、歯口1Gの上方から見た後側フック60は、後側フック60の先端部60pが後針床1Bに近づくように傾斜している。歯口1Gの上方から見た後側フック60の延伸方向、すなわち後側シャンク部62から先端部60pに向かう方向は、歯口1Gの幅方向であるY方向に交差している。歯口1Gの幅方向と、後側フック60の延伸方向とのなす角度θ2は例えば、30°以上90°以下、さらには45°以上80°以下である。本例のなす角度θ2は75°である。
【0046】
図3に示されるように、本例の引下装置3はさらに変位機構7を備える。変位機構7は、歯口1Gの上方において、前側フック50を前針床1Fに向かって変位させると共に、後側フック60を後針床1Bに向かって変位させる。変位機構7は必須ではないが、変位機構7によってルーパー4が編糸11Yを捕捉し易くなる。本例の変位機構7は、連結軸75とバネ79とを備える。本例では、ガイド溝70と前側ルーパー5の張出部59と後側ルーパー6の張出部69も変位機構7の一部を構成している。
【0047】
連結軸75は、前側ルーパー5の下部と後側ルーパー6の下部とを互いに回動可能に連結する。本例では、連結軸75は、前側ベース部51の下端部と、後側ベース部61の下端部とを回動可能に連結している。連結軸75はスライダ4Sの中間部に配置されている。連結軸75はX方向に延びている。従って、連結軸75を中心に前側ルーパー5が回動することで、前側フック50が前針床1Fに近づく方向、または前針床1Fから離れる方向に変位する。同様に、連結軸75を中心に後側ルーパー6が回動することで、後側ルーパー6が後針床1Bに近づく方向、または後針床1Bから離れる方向に変位する。
【0048】
バネ79は、前側ベース部51と後側ベース部61との間に配置されている。バネ79の弾性力によって、前側ルーパー5の上部と後側ルーパー6の上部との距離が離れる方向に前側ルーパー5と後側ルーパー6とが押されている。ルーパー4が下降した状態では、前側ルーパー5の張出部59と後側ルーパー6の張出部69とがガイド溝70の下部70Lに当接し、前側ルーパー5と後側ルーパー6の上部は閉じた状態になっている。
【0049】
ルーパー4が上昇し、張出部59,69がガイド溝70の上部70Uの位置に配置されると、上部70UのY方向の幅が下部70LのY方向の幅よりも大きいため、前側ルーパー5と後側ルーパー6の上部が開いた状態になる。ルーパー4が下降すると、前側ルーパー5と後側ルーパー6の上部が閉じた状態、前側ルーパー5の前側シャンク部52と後側ルーパー6の後側シャンク部62とが接触した状態になる。本例では、張出部59,69の上部と下部とが傾斜面で構成され、またガイド溝70の上部70Uにおける下部70Lにつながる部分も傾斜面で構成されている。従って、張出部59,69は、ガイド溝70の下部70Lと上部70Uとの間を円滑に移動できる。
【0050】
≪編糸保持切断装置の動作≫
主に図6から図8を参照し、編糸保持切断装置2による編糸11Yの捕捉、編糸11Yの保持、および編糸11Yの切断の手順を説明する。図6から図8の(A)は、上方から見たヤーンフィーダー11とルーパー4の位置関係を示す図である。図6から図8の(B)は、Y方向から見たヤーンフィーダー11とルーパー4の位置関係を示す図である。図6から図8の(A)には切断装置9が、図6から図8の(B)には保持装置8と切断装置9とが示されている。
【0051】
図6は、図4に示されるルーパー4が下降した状態におけるヤーンフィーダー11とルーパー4の位置関係を示している。本例では後針床1Bの編針19に最終編目が形成されており、最終編目からヤーンフィーダー11に向かって編糸11Yが延びている。このとき、切断装置9の可動刃92は閉じている。図6(A)に示されるように、前側ルーパー5と後側ルーパー6とは、歯口1Gの幅を二分する中心線(一点鎖線)上で当接している。
【0052】
ここで、本例とは異なり、ルーパー4が下降した状態において、前側ルーパー5と後側ルーパー6とがそれぞれ、中心線よりも前針床1F寄りの位置と後針床1B寄りの位置とに配置されていても良い。前側ルーパー5と後側ルーパー6とが中心線から見て前針床1Fと後針床1B寄りに配置される構成では、変位機構7はなくても良い。また、この構成では、角度θ1と角度θ2が90°であっても前側フック50と後側フック60とが編糸11Yを捕捉し易い。
【0053】
図5に示されるように引下装置3の回転体33が反時計回りに回転し、回転体33によってルーパー4が上昇すると、ヤーンフィーダー11とルーパー4とは図7に示される状態になる。回転体33の回転、すなわち回転軸部31Sを回転させるモータは、制御部15(図1)によって制御される。ルーパー4が上昇し、前側ルーパー5の張出部59と後側ルーパー6の張出部69がガイド溝70の上部70Uに到達すると、前側ルーパー5の前側フック50と後側ルーパー6の後側フック60との間隔が開く。張出部59,69が上部70Uに到達した時点で、前側フック50と後側フック60とは、歯口1Gよりも上方に位置している。すなわち、前側フック50と後側フック60とが歯口1Gを通過した後に、両フック50,60の間隔が開くため、両フック50,60が歯口1Gに引っ掛からない。
【0054】
本例の構成では、回転体33の回転によって、図1,2の回転軸部80が回転し、切断装置9の可動刃92も回転する。その結果、固定刃91と可動刃92との間隔が開く。また、保持装置8の可動片82も回転し、可動片82と固定片81,83との間隔が開く。
【0055】
本例ではさらに、図8に示されるように、引下装置3がヤーンフィーダー11に向かって移動する。引下装置3の移動は、図1に示される制御部15が、移動体30をヤーンフィーダー11に向かって動かすことによって実施される。具体的には、制御部15は、移動体30がヤーンフィーダー11に近づく方向に移動するように移動体30の動作を制御する。本例とは異なり、制御部15は、ヤーンフィーダー11が引下装置3に近づく方向に移動するようにヤーンフィーダー11の動作を制御しても良い。
【0056】
ヤーンフィーダー11と引下装置3とがX方向に近づくことで、図8(A)に示されるように、後側フック60と編糸11Yとが交差する。この状態からルーパー4が下降することで、後側フック60によって編糸11Yが確実に引っ掛けられる。引下装置3がヤーンフィーダー11に向かって移動する場合、歯口1Gの上方から見た最終編目からヤーンフィーダー11に向かって延びる編糸11Yの角度が変化しないため、後側フック60に編糸11Yが捕捉され易い。後側フック60に引っ掛かった編糸11Yは、後側シャンク部62における後針床1Bに向いた面に巻き付き、後側フック60から外れ難い。
【0057】
図6では、後針床1Bに係止される編糸11Yを捕捉する例を説明したが、編糸11Yが前針床1Fに係止される場合、その編糸11Yは前側フック50によって捕捉される。
【0058】
ここで、図8に示される引下装置3とヤーンフィーダー11とを近づける操作は必須ではない。例えば、後側フック60を大きくしたり、歯口1Gの上方から見て編糸11Yの延伸方向に対する後側フック60の延伸方向の角度を直角に近づけたりすることで、引下装置3とヤーンフィーダー11とを近づけなくても、後側フック60によって編糸11Yを捕捉し損ねる可能性は低減される。
【0059】
<実施形態2>
実施形態2では、図9に基づいて実施形態1とは異なる変位機構7を説明する。図9には、ガイド溝70に配置された実施形態2のルーパー4が示されている。図9(A)は、ルーパー4が下降した状態、図9(B)はルーパー4が上昇した状態を示す。本例のルーパー4は、スライダ4Sと、スライダ4Sの上端に片持ち状に固定される前側ルーパー5および後側ルーパー6と、を備える。前側ルーパー5は、その上端部が前針床1Fに向かって湾曲した板バネ状の部材である。後側ルーパー6は、その上端部が後針床1Bに向かって湾曲した板バネ状の部材である。この構成では、ルーパー4がガイド溝70に収納された状態では、前側ルーパー5と後側ルーパー6とがガイド溝70の内径に沿って直線形状に近づくように弾性変形されている。ルーパー4が上昇し、ルーパー4の上部がガイド溝70から突出すると、前側ルーパー5と後側ルーパー6とはそれぞれ前針床1Fと後針床1Bとに近づく。そのため、前側ルーパー5は前針床1Fから延びる編糸11Yを捕捉し易く、後側ルーパー6は後針床1Bから延びる編糸11Yを捕捉し易い。ルーパー4が下降すると、前側ルーパー5と後側ルーパー6とがガイド溝70に収納されると共に、前側ルーパー5と後側ルーパー6とがガイド溝70の内径に沿って直線形状に近づくように弾性変形する。
【0060】
<その他の実施形態>
ルーパー4は、前側ルーパー5または後側ルーパー6のみで構成されていても良い。例えば、前側ルーパー5のみを備える横編機1では、最終編目が前針床1Fに形成されるように編成を制御すれば、前側ルーパー5のみであっても編糸11Yを捕捉できる。
【符号の説明】
【0061】
1 横編機
1B 後針床、1F 前針床、1G 歯口
10 フレーム
11 ヤーンフィーダー、11Y 編糸
15 制御部
19 編針
2 編糸保持切断装置
3 引下装置
30 移動体
31 ベース部、31B 固定軸部、31F 内側フレーム部、31S 回転軸部
32 支持体、32g スライダ溝、32h 連通孔、32s スリット
33 回転体
33C カム面、33E 係合部、33L レバー
34,35 押え板
4 ルーパー
4S スライダ、40 フック、41 腕部、43 突起
5 前側ルーパー
50 前側フック、50p 先端部
51 前側ベース部、52 前側シャンク部、59 張出部
6 後側ルーパー
60 後側フック、60p 先端部
61 後側ベース部、62 後側シャンク部、69 張出部
7 変位機構
70 ガイド溝、70L 下部、70U 上部、75 連結軸、79 バネ
8 保持装置
80 回転軸部、80C アーム部材
81,83 固定片、82 可動片
9 切断装置
91 固定刃、92 可動刃
θ1,θ2 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9