(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175952
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】超伝導磁石装置
(51)【国際特許分類】
H01F 6/02 20060101AFI20241212BHJP
H01F 6/00 20060101ALI20241212BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20241212BHJP
H02H 9/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01F6/02
H01F6/00 160
H01F41/00 F
H02H9/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094082
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】江原 悠太
【テーマコード(参考)】
5G013
【Fターム(参考)】
5G013AA12
5G013CA09
(57)【要約】
【課題】超伝導コイルとその電源との極性の誤接続に対処する。
【解決手段】超伝導磁石装置10は、超伝導コイル12と、超伝導コイル12に並列接続され、単一方向に電流を許容するクエンチ保護回路22と、超伝導コイル12のクエンチ発生時にクエンチ保護回路22に単一方向に電流が流れるように定められた正規の極性で超伝導コイル12と接続され、超伝導コイル12を励磁する励磁電源24と、を備える。励磁電源24は、超伝導コイル12と正規の極性とは逆の極性で接続された場合に超伝導コイル12との誤接続を検知するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導コイルと、
前記超伝導コイルに並列接続され、単一方向に電流を許容するクエンチ保護回路と、
前記超伝導コイルのクエンチ発生時に前記クエンチ保護回路に前記単一方向に電流が流れるように定められた正規の極性で前記超伝導コイルと接続され、前記超伝導コイルを励磁する励磁電源と、を備え、
前記励磁電源は、前記超伝導コイルと前記正規の極性とは逆の極性で接続された場合に前記超伝導コイルとの誤接続を検知するように構成されていることを特徴とする超伝導磁石装置。
【請求項2】
前記クエンチ保護回路は、前記超伝導コイルまたはその一部分に並列接続された整流素子を備え、
前記励磁電源は、前記超伝導コイルを励磁するときの電流増加速度を、前記電流増加速度によって前記超伝導コイルまたは前記一部分に生じる誘導起電力が前記整流素子のしきい値電圧を超えるように制御するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の超伝導磁石装置。
【請求項3】
前記整流素子への通電を検知するセンサをさらに備え、
前記励磁電源は、前記誘導起電力が前記整流素子のしきい値電圧を超えるように前記電流増加速度を制御するとともに、前記センサの出力に基づいて前記誤接続を検知するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の超伝導磁石装置。
【請求項4】
前記励磁電源は、前記誘導起電力が前記整流素子のしきい値電圧を超えるように前記電流増加速度を制御するとともに、前記励磁電源の両端電圧を測定し、測定された両端電圧に基づいて前記誤接続を検知するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の超伝導磁石装置。
【請求項5】
前記励磁電源は、前記測定された両端電圧が電圧下限値を下回るとき前記励磁電源を停止させるように構成され、
前記励磁電源は、前記誘導起電力が前記電圧下限値を超えるように前記電流増加速度を制御するとともに、前記励磁電源の両端電圧を測定し、測定された両端電圧に基づいて前記誤接続を検知するように構成され、
前記電圧下限値は、前記整流素子のしきい値電圧を超えるように予め設定されていることを特徴とする請求項4に記載の超伝導磁石装置。
【請求項6】
前記超伝導コイルに接続された一組のコイル側端子を備え、
前記励磁電源は、前記一組のコイル側端子と接続される一組の電源側端子を備え、
前記超伝導磁石装置は、前記一組のコイル側端子と前記一組の電源側端子とが前記正規の極性で接続されているかを表し、または前記逆の極性で接続されているかを表す検知信号を生成する検知器をさらに備え、
前記励磁電源は、前記検知信号に基づいて前記誤接続を検知するように構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の超伝導磁石装置。
【請求項7】
超伝導コイルと、
前記超伝導コイルに並列接続され、単一方向に電流を許容するクエンチ保護回路と、
前記超伝導コイルのクエンチ発生時に前記クエンチ保護回路に前記単一方向に電流が流れるように定められた正規の極性で前記超伝導コイルと接続され、前記超伝導コイルを励磁する励磁電源と、
前記超伝導コイルに接続されたコイル側正極端子およびコイル側負極端子と、を備え、
前記励磁電源は、前記コイル側正極端子と接続される電源側正極端子と、前記コイル側負極端子と接続される電源側負極端子とを備え、
前記コイル側正極端子は、前記電源側負極端子と接続不能となるように構成され、
前記コイル側負極端子は、前記電源側正極端子と接続不能となるように構成されていることを特徴とする超伝導磁石装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導磁石装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導磁石装置の運転中に起こりうる望ましくない現象に、超伝導コイルの熱暴走(クエンチ)がある。クエンチが起こると、超伝導コイルは超伝導から常伝導に転移し、コイル内部に抵抗が発生する。それまでの超伝導状態でコイルに流れていた大電流から、大きなジュール熱が引き起こされうる。コイル内での電圧の上昇とそれに起因する放電も起こるかもしれない。加えて、クエンチ発生時の過渡的な電流のアンバランスにより、超伝導コイルに大きな電磁力が働きうる。コイルの近傍に配置された導体にも渦電流が生じて電磁力が働きうる。こうして発生しうる熱、放電、電磁力は、超伝導コイルおよびその周辺の構造や機器に損傷を与えうる。
【0003】
一般に、超伝導磁石装置には、クエンチが発生したとき超伝導コイルを保護するための保護回路が設けられている。保護回路の例として、互いに逆極性に並列接続された一対のダイオードを超伝導コイルと並列接続したものがある。保護回路は通例、超伝導コイルとともに極低温環境に配置され同じ温度に冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、超伝導磁石装置の保護回路について鋭意研究を重ねた結果、以下の課題を認識するに至った。極低温下で動作することが保証されたダイオードは、そうではない汎用のダイオードに比べて高価である。クエンチ保護回路で上述の一対のダイオードを単一のダイオードに置き換えたとすると、使用されるダイオードの数が半減するため、装置の低コスト化に有利である。この場合、超伝導磁石装置の設計上、通常動作(つまり超伝導コイルにクエンチが発生していない状態)で超伝導コイルに流す電流の方向は、クエンチ発生時にこのコイルからダイオードへとその順方向に電流が流入することになるように、予め定められているべきである。超伝導コイルとその電源とは、このように動作できるように正しい極性で接続されることが求められる。
【0006】
しかしながら、本発明者は、超伝導磁石装置の製造時や使用される現場への据付時など、超伝導コイルと電源との接続作業が行われるときに、これらを誤って逆の極性で接続するリスクが想定されることに気づいた。このような誤接続がされたとすると、通常動作で超伝導コイルに正しい方向とは逆向きに電流が流れる。そうすると、クエンチ発生時には、超伝導コイルからダイオードに向かう電流がダイオードの逆方向に流れようとすることとなってしまう。つまり、誤接続の結果、クエンチ保護回路の動作が妨げられうる。保護回路が動作しなければ、望ましくないことに、上述のようにクエンチ発生時に超伝導磁石装置に損傷が生じるリスクが高まる。
【0007】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、超伝導コイルとその電源との極性の誤接続に対処することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によると、超伝導磁石装置は、超伝導コイルと、超伝導コイルに並列接続され、単一方向に電流を許容するクエンチ保護回路と、超伝導コイルのクエンチ発生時にクエンチ保護回路に単一方向に電流が流れるように定められた正規の極性で超伝導コイルと接続され、超伝導コイルを励磁する励磁電源と、を備える。励磁電源は、超伝導コイルと正規の極性とは逆の極性で接続された場合に超伝導コイルとの誤接続を検知するように構成されている。
【0009】
本発明のある態様によると、超伝導磁石装置は、超伝導コイルと、超伝導コイルに並列接続され、単一方向に電流を許容するクエンチ保護回路と、超伝導コイルのクエンチ発生時にクエンチ保護回路に単一方向に電流が流れるように定められた正規の極性で超伝導コイルと接続され、超伝導コイルを励磁する励磁電源と、超伝導コイルに接続されたコイル側正極端子およびコイル側負極端子と、を備える。励磁電源は、コイル側正極端子と接続される電源側正極端子と、コイル側負極端子と接続される電源側負極端子とを備える。コイル側正極端子は、電源側負極端子と接続不能となるように構成され、コイル側負極端子は、電源側正極端子と接続不能となるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超伝導コイルとその電源との極性の誤接続に対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る超伝導磁石装置を概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る超伝導磁石装置を概略的に示す図である。
【
図3】実施の形態に係る超伝導磁石装置における励磁電源の誤接続を概略的に示す図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施の形態に係り、励磁電源と超伝導コイルの電気接続の一例を概略的に示す図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、実施の形態に係り、励磁電源と超伝導コイルの電気接続の他の一例を概略的に示す図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、実施の形態に係り、励磁電源と超伝導コイルの誤接続対策の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1および
図2は、実施の形態に係る超伝導磁石装置10を概略的に示す図である。超伝導磁石装置10は、例えば単結晶引き上げ装置、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)システム、MRI(Magnetic Resonance Imaging)システム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。
【0014】
超伝導磁石装置10は、超伝導コイル12と、真空容器14と、極低温冷凍機16と、熱シールド18と、電流導入ライン20と、クエンチ保護回路22と、励磁電源24とを備える。
【0015】
超伝導コイル12は、真空容器14内に配置され、超伝導転移温度以下の極低温に冷却された状態で通電されることにより強力な磁場を発生するように構成されている。超伝導コイル12は、公知の超伝導コイル(たとえば、いわゆる低温超伝導コイル)であってもよい。超伝導コイル12は、真空容器14の外に配置された励磁電源24に電流導入ライン20によって接続される。励磁電源24から電流導入ライン20を通じて超伝導コイル12に励磁電流が供給される。それにより、超伝導磁石装置10は、強力な磁場を発生することができる。
【0016】
真空容器14は、超伝導コイル12を超伝導状態とするのに適する極低温真空環境を提供する断熱真空容器であり、クライオスタットとも呼ばれる。通例、真空容器14は、円柱状の形状、または中心部に中空部を有する円筒状の形状を有する。よって、真空容器14は、概ね平坦な円形状または円環状の天板14aおよび底板14bと、これらを接続する円筒状の側壁(円筒状外周壁、または同軸配置された円筒状の外周壁および内周壁)とを有する。極低温冷凍機16は真空容器14の天板14aに設置されてもよい。真空容器14は、周囲圧力(たとえば大気圧)に耐えるように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。
【0017】
極低温冷凍機16は、熱シールド18とクエンチ保護回路22を第1冷却温度に冷却するとともに、超伝導コイル12を第1冷却温度よりも低い第2冷却温度に冷却するように構成されている。この実施の形態では、極低温冷凍機16は、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であり、第1冷却ステージ16aと第2冷却ステージ16bを備える。第1冷却ステージ16aおよび第2冷却ステージ16bはそれぞれ、極低温冷凍機16内の第1膨張空間および第2膨張空間を囲むように設けられており、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成されている。第1冷却温度は、約20K~約100Kの温度範囲、例えば約30K~約50Kの温度範囲にあってもよく、第2冷却温度は、約3K~約20Kの温度範囲にあってもよく、例えば約4Kであってもよい。
【0018】
熱シールド18は、真空容器14内で超伝導コイル12を囲むように配置される。熱シールド18は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。熱シールド18は、極低温冷凍機16の第1冷却ステージ16aに直接取り付けられ、第1冷却ステージ16aと熱的に結合される。あるいは、熱シールド18は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材を介して第1冷却ステージ16aに取り付けられてもよい。超伝導磁石装置10の運転中、熱シールド18は、第1冷却ステージ16aによって第1冷却温度に冷却される。熱シールド18は、その内側に配置され熱シールド18よりも低温に冷却される極低温冷凍機16の第2冷却ステージ16b、超伝導コイル12などの低温部を、真空容器14からの輻射熱から熱的に保護することができる。
【0019】
超伝導コイル12は、伝熱部材26を介して第2冷却ステージ16bと熱的に結合される。伝熱部材26は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成され、超伝導コイル12を第2冷却ステージ16bに接続する。伝熱部材26は、超伝導コイル12と第2冷却ステージ16bを剛に接続する剛性部材であってもよいし、または、可撓性を有し超伝導コイル12と第2冷却ステージ16bの相対変位を許容するようにこれらを接続してもよい。あるいは、超伝導コイル12は、第2冷却ステージ16bに直接取り付けられ、第2冷却ステージ16bと熱的に結合されてもよい。超伝導磁石装置10の運転中、超伝導コイル12は、第2冷却ステージ16bによって第2冷却温度に冷却される。
【0020】
電流導入ライン20は、外部配線20aと、フィードスルー部20bと、外側電流リード部20cと、内側電流リード部20dとを備え、励磁電源24から超伝導コイル12への電流経路を形成する。典型的には、正極側の電流導入ライン20と負極側の電流導入ライン20が1本ずつ設けられる。
【0021】
真空容器14の外に配置された外部配線20aは、真空容器14の壁部に設けられたフィードスルー部20bに励磁電源24を接続する。外部配線20aは、適宜の給電ケーブルであってもよい。フィードスルー部20bは、真空容器14内に電流を導入するための気密端子であり、外部配線20aを真空容器14内の内部配線(すなわち外側電流リード部20cおよび内側電流リード部20d)に接続する。電流導入ライン20は、フィードスルー部20bにより真空容器14の気密性を保ちながら真空容器14の壁部を貫通することができる。
【0022】
外側電流リード部20cは、真空容器14内で熱シールド18の外側に配置され、フィードスルー部20bを内側電流リード部20dに接続する。外側電流リード部20cは、例えば無酸素銅などの純銅に代表される導電性に優れる金属材料で形成される。内側電流リード部20dに接続される外側電流リード部20cの端部は、熱シールド18と熱的に結合される。外側電流リード部20cのこの端部は、熱シールド18に固定され、または適宜の伝熱部材を介して熱シールド18に接続されて、熱シールド18と同様に第1冷却温度に冷却される。ただし、外側電流リード部20cは、熱シールド18から電気的に絶縁された状態にある。例えば、外側電流リード部20cは、熱シールド18または伝熱部材など固定部との間に絶縁材料(例えば絶縁性の樹脂材料のシート)を挟み込むようにしてこの固定部に取り付けられてもよい。
【0023】
内側電流リード部20dは、熱シールド18の内側に配置され、外側電流リード部20cを超伝導コイル12に接続する。内側電流リード部20dは、第1端子20d1と、第2端子20d2と、これら2つの端子を接続する高温超伝導電流リード20d3とを備えてもよい。第1端子20d1は、外側電流リード部20cに接続され、第2端子20d2は、超伝導コイル12に接続される。第1端子20d1は、熱シールド18と熱的に結合され、熱シールド18と同様に第1冷却温度に冷却される。第2端子20d2は、超伝導コイル12と同様に第2冷却温度に冷却される。
【0024】
高温超伝導電流リード20d3は、例えば銅酸化物超伝導体またはその他の高温超伝導材料で形成されてもよい。こうした高温超伝導電流リードの材料は、断熱性をもつ。そのため、内側電流リード部20dが金属製の場合に比べて、内側電流リード部20dを伝熱経路としてクエンチ保護回路22から超伝導コイル12へと伝わりうる熱を低減することができる。これは、極低温冷凍機16の第2冷却ステージ16bへの熱負荷を低減し、超伝導コイル12の良好な冷却に役立ちうる。
【0025】
クエンチ保護回路22は、超伝導コイル12に並列接続されている。クエンチ保護回路22は、その一端が一方(例えば正極側)の電流導入ライン20に接続され、他端が他方(例えば負極側)の電流導入ライン20に接続され、それにより超伝導コイル12に並列接続される。例えば銅など導電性に優れる金属材料で形成されたブスバーを用いて、クエンチ保護回路22が電流導入ライン20に接続されてもよい。
【0026】
クエンチ保護回路22は、通電により発熱可能であり、一般的な線形の(つまりオームの法則に従う)抵抗素子を備えてもよく、または、非線形抵抗を備えてもよい。非線形抵抗は、この非線形抵抗にかかる電圧が小さいときは抵抗値が高く、非線形抵抗にかかる電圧が大きいとき抵抗値が低くなる非線形の特性を有してもよい(非線形抵抗は、非線形抵抗にかかる電圧が第1の値のとき第1の抵抗値を有し、非線形抵抗にかかる電圧が第1の値より大きい第2の値のとき第1の抵抗値より小さい第2の抵抗値を有してもよい)。
【0027】
非線形抵抗は、例えば、ダイオード、サイリスタなどの整流素子であってもよい。この実施の形態では、クエンチ保護回路22は、一例として、ダイオード28を備える。よって、あるいは、非線形抵抗は、バリスタであってもよい。なお、クエンチ保護回路22は、線形抵抗と非線形抵抗の両方を備えてもよく、例えばこれらが直列接続されていてもよい。
【0028】
互いに逆極性に並列接続された一対のダイオードを備える既存の典型的なクエンチ保護回路とは異なり、この実施の形態では、クエンチ保護回路22は、ダイオード28の順方向にあたる単一方向のみに電流を許容し、逆方向の電流は阻止する。このようなクエンチ保護回路22は、既存のものに比べて、超伝導磁石装置10の低コスト化に有利である。なぜなら、一対のダイオードに代えて単一のダイオード28が用いられるため、クエンチ保護回路22で使用されるダイオードの数が半減させることができるからである。極低温下で動作することが保証されたダイオードはそうではない汎用のダイオードに比べて高価であるため、使用されるダイオードの数を減らすことはコスト削減に大きく役立つ。
【0029】
クエンチ保護回路22は上述のように、超伝導コイル12の動作中に超伝導コイル12に比べて高い冷却温度に冷却される。クエンチ保護回路22は、極低温冷凍機16の第1冷却ステージ16aに熱的に結合され第1冷却温度に冷却されてもよい。
図2では便宜上、第1冷却温度に冷却される第1部分を破線30で囲んで示し、第2冷却温度に冷却される第2部分を破線32で囲んで示す。図示の例のように、クエンチ保護回路22は、外側電流リード部20c間に接続され、例えば熱シールド18など第1冷却温度に冷却される部位に設置されてもよい。クエンチ保護回路22は、内側電流リード部20d(すなわち高温超伝導電流リード20d3)を介して超伝導コイル12に接続されていてもよい。
【0030】
クエンチに伴う超伝導コイル12の温度上昇が大きければ、復旧のための再冷却に要する時間が延び、すなわち超伝導磁石装置10のダウンタイムの増加につながりうる。既存設計では超伝導コイルの保護回路が超伝導コイルと同じ温度に冷却されることが多い。この実施の形態ではクエンチ保護回路22が超伝導コイル12に比べて高い冷却温度に冷却されるため、保護回路が超伝導コイルと同じ温度(つまり第2冷却温度)まで冷却される既存設計に比べて、より短時間での再冷却が可能になる。超伝導磁石装置10をクエンチから復旧させるのに要する時間を短縮することができる。
【0031】
クエンチ保護回路22が極低温冷凍機16の第1冷却ステージ16aによって冷却されるため、クエンチ保護回路22が発する熱を効率的に除去することができる。通例、極低温冷凍機16の第1段の冷凍能力は第2段に比べて大きく(例えば数十倍に及び)、比較的余裕があるからである。これも、超伝導磁石装置10をクエンチから復旧させるのに要する時間を短縮するうえで有利である。
【0032】
クエンチ保護回路22が高温超伝導電流リード20d3を介して超伝導コイル12に接続されている場合には、内側電流リード部20dが金属製の場合に比べて、内側電流リード部20dを伝熱経路としてクエンチ保護回路22から超伝導コイル12へと伝わりうる熱を低減することができる。これは、極低温冷凍機16の第2冷却ステージ16bへの熱負荷を低減し、超伝導コイル12の良好な冷却に役立ちうる。
【0033】
超伝導コイル12は、
図2に示されるように、複数(例えばN個、Nは任意の自然数)の超伝導コイル部分12a_1~12a_Nに分割され、これら超伝導コイル部分12aが直列接続された構成を有してもよい。クエンチ保護回路22は、複数のダイオード28を備え、複数のダイオード28の各々が複数の超伝導コイル部分12aのうち対応する超伝導コイル部分12aに並列接続されている。高温超伝導電流リード20d3は、各ダイオード28と対応する超伝導コイル部分12aを接続する。このようなコイル分割構成は、非分割のコイル構成に比べて、クエンチ発生時に超伝導コイル12の両端にかかる電圧を低減することができるので、とくに超伝導コイル12が大型の場合に有利である。
【0034】
なお、超伝導磁石装置10は複数の超伝導コイル12を有してもよく、その場合、超伝導コイル12ごとにクエンチ保護回路22が設けられてもよい。つまり、複数のクエンチ保護回路22が設けられ、各クエンチ保護回路22が複数の超伝導コイル12のうち対応する超伝導コイル12に並列接続されていてもよい。複数の超伝導コイル12の各々が、複数の超伝導コイル部分12aに分割されていてもよい。
【0035】
この実施の形態では、超伝導磁石装置10の設計上、励磁電源24が超伝導コイル12に流す電流の方向は、この電流が超伝導磁石装置10の通常動作中にクエンチ保護回路22に流れないように予め定められている。励磁電源24が超伝導コイル12に供給する電流の方向は単一方向に固定されている。このように電流の方向を固定した励磁電源24は、例えば単結晶引き上げ装置など超伝導磁石装置10のいくつかの用途で採用されることがある。
図2に矢印34で例示されるように、励磁電源24から超伝導コイル12に流れる電流の方向は、クエンチ保護回路22のダイオード28にとって逆方向にあたるため、この電流はダイオード28によって阻止され、クエンチ保護回路22に流れない。
【0036】
一方、超伝導コイル12の動作中にクエンチが発生したときには、励磁電源24と超伝導コイル12の電気接続が遮断され、超伝導コイル12からの電流がクエンチ保護回路22に流れる。この電流の方向は、
図2に矢印36で例示されるように、ダイオード28の順方向にあたる。よって、超伝導コイル12からクエンチ保護回路22に電流を流すことができ、超伝導コイル12に蓄えられていた電磁気的なエネルギーの少なくとも一部をクエンチ保護回路22で熱に変換して消費することができる。このようにして、クエンチ保護回路22によって超伝導コイル12からエネルギーを取り出すことにより、クエンチ発生時に超伝導コイル12を保護することができる。超伝導コイル12のエネルギーが減少することで、これに起因して発生しうる超伝導コイル12およびその周囲への損傷を防止または軽減することができる。
【0037】
図3は、実施の形態に係る超伝導磁石装置10における励磁電源24の誤接続を概略的に示す図である。本書の冒頭でも述べたように、本発明者は、超伝導磁石装置10の製造時や使用される現場への据付時など、超伝導コイル12と励磁電源24との接続作業が行われるときに、これらを誤って逆の極性で接続するリスクが想定されることに気づいた。
図3では、このように逆向きに接続された励磁電源24を破線で図示している。
【0038】
このような誤接続がされたとすると、
図3に矢印38aで例示されるように、通常動作で超伝導コイル12に正しい方向とは逆向きに電流が流れる。そうすると、クエンチ発生時には、
図3に矢印38bで例示されるように、超伝導コイル12からダイオードに向かう電流がダイオードの逆方向に流れようとすることとなってしまう。つまり、誤接続の結果、クエンチ保護回路22の動作が妨げられうる。クエンチ保護回路22が動作しなければ、望ましくないことに、上述のようにクエンチ発生時に超伝導磁石装置10に損傷が生じるリスクが高まる。
【0039】
そこで、本書では、超伝導コイル12と励磁電源24との極性の誤接続に対処するいくつかの解決策を以下に提案する。
【0040】
図4(a)から
図4(c)は、実施の形態に係り、励磁電源24と超伝導コイル12の電気接続の一例を概略的に示す図である。
図4(a)には、励磁電源24と超伝導コイル12の接続前の状態が示され、
図4(b)には、励磁電源24と超伝導コイル12が正規の極性で正しく接続された状態が示されている。
図4(c)には、励磁電源24と正規の極性とは逆の極性で超伝導コイル12が誤って接続された状態が示されている。
【0041】
超伝導コイル12は上述のように、電流導入ライン20により励磁電源24と接続される。
図4(a)に示されるように、正極側の電流導入ライン20はコイル側正極端子40aを末端に有し、負極側の電流導入ライン20はコイル側負極端子40bを末端に有し、これら一組のコイル側端子は電流導入ライン20により超伝導コイル12へと接続されている。励磁電源24は、コイル側正極端子40aと接続される電源側正極端子42aと、コイル側負極端子40bと接続される電源側負極端子42bとを備える。コイル側と電源側の端子は、例えば締結、圧着、またはそのほか適宜の固定方法により、電気接続可能となるように結合される。
【0042】
コイル側正極端子40aは、電源側負極端子42bと接続不能となるように構成され、コイル側負極端子40bは、電源側正極端子42aと接続不能となるように構成されている。このような接続不能な構成の一例として、コイル側正極端子40aとコイル側負極端子40bの形状を互いに異ならせるとともに、電源側正極端子42aと電源側負極端子42bの形状も、コイル側正極端子40aとコイル側負極端子40bの形状の相違に対応して互いに異ならせてもよい。
【0043】
例えば、図示されるように、コイル側正極端子40aとコイル側負極端子40bが互いに異なる端子長さを有し、これに対応して電源側正極端子42aと電源側負極端子42bも互いに異なる端子長さを有してもよい。言い換えれば、コイル側正極端子40aと電源側正極端子42aが同じ端子長さを有し、コイル側負極端子40bと電源側負極端子42bが同じ端子長さを有し、正極側の端子長さと負極側の端子長さとが異なっていてもよい。
【0044】
したがって、
図4(b)に示されるように、端子形状の適合により、コイル側正極端子40aと電源側正極端子42aを接続することができ、コイル側負極端子40bと電源側負極端子42bを接続することができる。このようにして、励磁電源24と超伝導コイル12を正規の極性で正しく接続することができる。
【0045】
一方、
図4(c)に示されるように、作業者が励磁電源24と超伝導コイル12を正規の極性とは逆の極性で誤って接続しようとした場合には、端子形状の不適合により、正極側と負極側の少なくとも一方(図示の例では正極側)でコイル側と電源側の端子どうしを接続することができない。
【0046】
このようにして、励磁電源24と電流導入ライン20(ひいては超伝導コイル12)との誤接続を物理的に防ぐことができる。これにより、誤接続の結果としてクエンチ保護回路22が動作しないというリスクを回避することができる。互いに逆向きに接続された一対のダイオードに代えて単一のダイオード28をクエンチ保護回路22に用いることができ、超伝導磁石装置10の低コスト化を実現することができる。
【0047】
図5(a)から
図5(c)は、実施の形態に係り、励磁電源24と超伝導コイル12の電気接続の他の一例を概略的に示す図である。
図5(a)には、励磁電源24と超伝導コイル12の接続前の状態が示され、
図5(b)には、励磁電源24と超伝導コイル12が正規の極性で正しく接続された状態が示されている。
図5(c)には、励磁電源24と正規の極性とは逆の極性で超伝導コイル12が誤って接続された状態が示されている。
【0048】
上述の例と同様に、一組のコイル側端子(コイル側正極端子40aおよびコイル側負極端子40b)が電流導入ライン20に設けられ、一組の電源側端子(電源側正極端子42aおよび電源側負極端子42b)が励磁電源24に設けられている。コイル側正極端子40aと電源側正極端子42aが接続され、かつコイル側負極端子40bと電源側負極端子42bが接続されることで、超伝導コイル12が電流導入ライン20により励磁電源24と接続される。この例では、コイル側端子を電源側端子に挿し込むことにより、これら端子どうしを接続することができる。
【0049】
図示されるように、一組のコイル側端子と一組の電源側端子とが正規の極性で接続されているかを表し、または逆の極性で接続されているかを表す検知信号S1を生成する検知器44が設けられている。この例では、検知器44は、コイル側端子と電源側端子とが正規の極性で接続されたとき検知信号S1を生成する一方、正規の極性とは逆の極性で接続されたとき検知信号S1を生成しないように構成されていてもよい。
【0050】
一例として、検知器44は、電源側端子(図示の例では電源側負極端子42b)に設けられた検知信号生成器44aと、コイル側端子(図示の例ではコイル側負極端子40b)に設けられ検知信号生成器44aを操作する操作部44bとを備えてもよい。検知信号生成器44aは、操作部44bによって操作されるとき検知信号S1を生成するように構成されていてもよく、例えば、そのように検知信号S1を生成する押しボタンであってもよい。操作部44bは、電源側とコイル側の端子が接続されていないとき検知信号生成器44aから非接触とされ、両端子が接続されたとき検知信号生成器44aと接触してこれを操作するように構成されていてもよく、例えば、端子に装着されたカラーであってもよい。なお、検知信号生成器44aがコイル側端子に設けられ、操作部44bが電源側端子に設けられてもよい。
【0051】
励磁電源24は、検知信号S1に基づいて誤接続を検知するように構成されている。励磁電源24は、検知器44(具体的には、検知信号生成器44a)から検知信号S1を受信するように検知器44と接続されている。したがって、励磁電源24は、検知器44から検知信号S1を受け、検知信号S1に応答して誤接続を検知することができる。
【0052】
励磁電源24は、安全装置としてのインターロック機構46を内蔵していてもよい。検知信号S1が励磁電源24と超伝導コイル12の正しい接続を表す場合、励磁電源24は、検知信号S1の受信を条件としてインターロック機構46を解除するように構成されていてもよい。こうしたインターロック機構46としては、公知のインターロック機構を適宜採用することができる。このようにすれば、正しく接続された場合に励磁電源24から超伝導コイル12への給電が許可される一方、誤接続の場合にはインターロック機構46により給電を禁止することができる。
【0053】
また、励磁電源24は、誤接続が検知されたこと、または誤接続が検知されていないこと(つまり正しく接続されていること)を、視覚的に、または聴覚的に、またはその他適宜の方法で、作業者に通知するように構成されていてもよい。
【0054】
この例では、
図5(b)に示されるように、コイル側正極端子40aを電源側正極端子42aに接続し、コイル側負極端子40bを電源側負極端子42bに接続することができる。このとき、コイル側負極端子40bに装着された操作部44bが電源側負極端子42bに装着された検知信号生成器44aに接触し(つまり、カラーが押しボタンを押し)、検知信号S1が生成される。検知信号S1は、検知器44から励磁電源24に入力される。この場合、励磁電源24は、検知信号S1に基づいて、インターロック機構46を解除する。また、励磁電源24は、検知信号S1に基づいて、励磁電源24と超伝導コイル12が正しく接続されたことを作業者に通知してもよい。
【0055】
一方、
図5(c)に示されるように、作業者が励磁電源24と超伝導コイル12を正規の極性とは逆の極性で誤って接続した場合には、コイル側正極端子40aには操作部44bが設けられていないため、電源側負極端子42bの検知信号生成器44aは操作されない。よって、検知器44は、検知信号S1を生成しない。この場合、励磁電源24は、インターロック機構46によるインターロックを維持する。
【0056】
このようにして、励磁電源24と電流導入ライン20(ひいては超伝導コイル12)との誤接続を検知することができる。これにより、一度誤接続したとしても正しくつなぎ替えることができる。誤接続の結果としてクエンチ保護回路22が動作しないというリスクを回避することができる。互いに逆向きに接続された一対のダイオードに代えて単一のダイオード28をクエンチ保護回路22に用いることができ、超伝導磁石装置10の低コスト化を実現することができる。
【0057】
なお、検知器44は、上述のような接触式の検知器に限られず、例えば光学式など非接触式の検知器であってもよい。
【0058】
検知器44を用いた誤接続対策に代えて、またはそれに加えて、励磁電源24が超伝導コイル12を励磁するときの電流の変化の仕方を工夫することにより、励磁電源24と超伝導コイル12の誤接続を検知することも可能である。ここで、超伝導コイル12の励磁とは、超伝導磁石装置10が磁場を発生させる通常動作のための準備段階の一部であり、励磁電源24から超伝導コイル12に供給するコイル電流をゼロから所定の電流(例えば超伝導コイル12の定格電流)まで増加するプロセスを指す。そうした誤接続検知の一例を以下に述べる。
【0059】
図6(a)および
図6(b)は、実施の形態に係り、励磁電源24と超伝導コイル12の誤接続対策の一例を概略的に示す図である。
図6(a)には、励磁電源24と超伝導コイル12が正規の極性で正しく接続された状態が示されている。
図6(b)には、励磁電源24と正規の極性とは逆の極性で超伝導コイル12が誤って接続された状態が示されている。
【0060】
励磁電源24は、超伝導コイル12を励磁するときの電流増加速度を、この電流増加速度によって超伝導コイル12またはその一部分(例えば超伝導コイル部分12a)に生じる誘導起電力が整流素子(例えばダイオード28)のしきい値電圧を超えるように制御するように構成されていてもよい。
【0061】
言い換えれば、励磁電源24は、超伝導コイル12の励磁中の電流増加速度(dI/dt)を次式を満たすように制御するように構成されていてもよい。
Vf<L(dI/dt)
ここで、Vfは整流素子のしきい値電圧を表し、Lはその整流素子と並列接続された超伝導コイル12またはその一部分のインダクタンスを表す。
【0062】
図6(a)に示されるように、励磁電源24と超伝導コイル12が正規の極性で接続されている場合には、励磁電源24による超伝導コイル12の励磁中、励磁電源24からの電流Iは、超伝導コイル12に流れる。この電流Iの向きは、ダイオード28の逆方向にあたるため、電流Iはダイオード28には流れない。
【0063】
一方、
図6(b)に示されるように、励磁電源24と超伝導コイル12が正規の極性とは逆の極性で誤って接続された場合には、励磁電源24による超伝導コイル12の励磁中、励磁電源24からの電流Iは、超伝導コイル12だけでなくダイオード28にも流れることになる。なぜなら、上述のように、励磁電源24は、超伝導コイル12に生じる誘導起電力L(dI/dt)がダイオード28のしきい値電圧Vfを超えるように制御しているからである。このとき、電流Iの向きはダイオード28の順方向にあたるため、誘導起電力L(dI/dt)によってダイオード28が通電(ターンオン)して、ダイオード28に順方向電流が流れることになる(
図6(b)において矢印48で示す)。
【0064】
そこで、超伝導磁石装置10には、整流素子、この例ではダイオード28への通電を検知するセンサ50が設けられていてもよい。例えば、センサ50は、整流素子に流れる電流を測定する電流センサ、例えば非接触式の電流センサであってもよい。あるいは、センサ50は、整流素子の近傍に配置され磁束を測定する磁気センサであってもよい。磁気センサにより、整流素子に電流が流れるとき発生する磁束を検出することができる。あるいは、センサ50は、整流素子の温度を測定する温度センサであってもよい。温度センサにより、整流素子に電流が流れるとき発生する整流素子の温度上昇を検出することができる。
【0065】
励磁電源24は、誘導起電力L(dI/dt)が整流素子のしきい値電圧Vfを超えるように電流増加速度dI/dtを制御するとともに、センサ50の出力に基づいて誤接続を検知するように構成されていてもよい。例えば、励磁電源24は、センサ50からその出力を受け、センサ50の出力とあるしきい値を比較してもよい。励磁電源24は、センサ50の出力がしきい値を下回る場合、励磁電源24と超伝導コイル12が正しく接続されていると判定し、センサ50の出力がしきい値を上回る場合、励磁電源24と超伝導コイル12が誤接続されていると判定してもよい。判定のためのしきい値は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0066】
このようにして、励磁電源24による超伝導コイル12の励磁中における電流増加速度を上述のように設定することにより、励磁電源24と電流導入ライン20(ひいては超伝導コイル12)との誤接続を検知することができる。これにより、一度誤接続したとしても正しくつなぎ替えることができる。誤接続の結果としてクエンチ保護回路22が動作しないというリスクを回避することができる。互いに逆向きに接続された一対のダイオードに代えて単一のダイオード28をクエンチ保護回路22に用いることができ、超伝導磁石装置10の低コスト化を実現することができる。
【0067】
なお、
図6(a)および
図6(b)では簡単のために1つの超伝導コイル12とこれに並列接続された1つの整流素子(ダイオード28)を示している。しかしながら、
図1から
図3を参照して説明したように、超伝導磁石装置10には、複数の超伝導コイル12(または複数の超伝導コイル部分12a)と、対応する複数の整流素子とが設けられていてもよい。この場合にも、上述の誤接続検知方法を同様に適用することができる。つまり、複数の整流素子のうち少なくとも1つの整流素子の通電の有無に基づいて誤接続を検知することができる。
【0068】
上述のセンサ50に代えて、励磁電源24は、励磁電源24の両端電圧を測定し、測定された両端電圧に基づいて誤接続を検知するように構成されていてもよい。励磁電源24と超伝導コイル12が正規の極性で接続されている場合には、励磁電源24による超伝導コイル12の励磁中、励磁電源24は、その両端電圧として誘導起電力L(dI/dt)に相当する電圧を測定することになる。一方、励磁電源24と超伝導コイル12が正規の極性とは逆の極性で誤って接続された場合には、励磁電源24の両端電圧は、ダイオード28のしきい値電圧Vfとなる。
【0069】
そこで、励磁電源24の両端電圧に基づく判定のためのしきい値が、整流素子のしきい値電圧Vfより大きく、誘導起電力L(dI/dt)より小さい値に予め定められてもよい。励磁電源24は、励磁電源24による超伝導コイル12の励磁中、励磁電源24の両端電圧を測定し、測定された両端電圧をこのしきい値と比較してもよい。励磁電源24は、両端電圧がしきい値を上回る場合、励磁電源24と超伝導コイル12が正しく接続されていると判定し、両端電圧がしきい値を下回る場合、励磁電源24と超伝導コイル12が誤接続されていると判定してもよい。
【0070】
複数の超伝導コイル12(または複数の超伝導コイル部分12a)が設けられている場合には、この判定のためのしきい値は、対応する複数の整流素子のしきい値電圧の合計(ΣVf、例えば、しきい値電圧が等しいN個の整流素子が設けられている場合には、N×Vf)より大きく、誘導起電力の合計(ΣL(dI/dt))より小さくてもよい。
【0071】
励磁電源24は、測定された両端電圧が電圧下限値を下回るとき励磁電源24を停止させるように構成されていてもよい。例えば、励磁電源24は、インターロック機構46(
図5(a)参照)を備えてもよく、インターロック機構46は、励磁電源24の両端電圧が電圧下限値を下回るとき励磁電源24を停止させてもよい。
【0072】
この場合において、励磁電源24は、誘導起電力(L(dI/dt)、またはΣL(dI/dt))が電圧下限値を超えるように電流増加速度dI/dtを制御するとともに、励磁電源24の両端電圧を測定し、測定された両端電圧に基づいて誤接続を検知するように構成されてもよい。電圧下限値は、整流素子のしきい値電圧(Vf、またはΣVf)を超えるように予め設定されていてもよい。
【0073】
このようにすれば、励磁電源24と超伝導コイル12が正しく接続されている場合には、励磁電源24の両端電圧が電圧下限値を上回るためインターロック機構46によるインターロックが作動せず、超伝導コイル12を励磁することができる。一方、誤接続の場合には、励磁電源24の両端電圧が電圧下限値を下回るためインターロック機構46によるインターロックが作動し、励磁電源24による超伝導コイル12の励磁を停止することができる。
【0074】
なお、超伝導コイル12の種類や設計によっては、励磁開始直後の電流増加速度が小さい場合(または、小さくする必要がある場合)がある。この状況を誤接続と誤判断するのを避けるために、励磁電源24は、電流増加速度がある水準を下回るときには電圧下限値(またはインターロック機構46)を無効化してもよい。この場合、電流増加速度がある程度大きくなった段階で、励磁電源24は、電圧下限値(またはインターロック機構46)を有効化してもよい。
【0075】
このようにしても、励磁電源24と電流導入ライン20(ひいては超伝導コイル12)との誤接続を検知することができる。これにより、一度誤接続したとしても正しくつなぎ替えることができる。誤接続の結果としてクエンチ保護回路22が動作しないというリスクを回避することができる。互いに逆向きに接続された一対のダイオードに代えて単一のダイオード28をクエンチ保護回路22に用いることができ、超伝導磁石装置10の低コスト化を実現することができる。
【0076】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0077】
上述の実施の形態では、極低温冷凍機16がGM冷凍機である場合を例として説明しているが、本発明はこれに限定されない。ある実施の形態においては、極低温冷凍機16は、例えば、ソルベイ冷凍機、スターリング冷凍機、パルス管冷凍機など、第1冷却ステージ16aと第2冷却ステージ16bを有する他の形式の二段式極低温冷凍機であってもよい。
【0078】
図1では例として、1台の極低温冷凍機16を示しているが、例えば超伝導コイル12が大型の場合など、必要に応じて、超伝導磁石装置10は、一つの同じ超伝導コイル12を冷却する複数台の極低温冷凍機16を備えてもよい。
【0079】
上述の実施の形態では、超伝導磁石装置10は、超伝導コイル12を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸漬する浸漬冷却式ではなく、極低温冷凍機16によって直接冷却する、いわゆる伝導冷却式として構成されている。しかしながら、超伝導磁石装置10は、浸漬冷却式であってもよい。この場合、超伝導コイル12は例えば液体ヘリウムなどの極低温液体に浸漬され冷却されてもよく、クエンチ保護回路22はそれよりも高沸点の冷媒(例えば液体窒素など)を用いて冷却されてもよい。このようにして、クエンチ保護回路22は、超伝導コイル12の動作中に超伝導コイル12に比べて高い冷却温度に冷却されてもよい。
【0080】
上述の実施の形態では、クエンチ保護回路22が極低温冷凍機16の第1冷却ステージ16aに熱的に結合され第1冷却温度に冷却される場合を例として説明しているが、本発明はこれに限られない。クエンチ保護回路22は、極低温冷凍機16の第2冷却ステージ16bに熱的に結合され第2冷却温度に冷却されてもよい。あるいは、クエンチ保護回路22は、真空容器14の外部の周囲環境に配置され、周囲温度(例えば室温)とされてもよい。
【0081】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0082】
10 超伝導磁石装置、 12 超伝導コイル、 22 クエンチ保護回路、 24 励磁電源、 40a コイル側正極端子、 40b コイル側負極端子、 42a 電源側正極端子、 42b 電源側負極端子、 44 検知器、 50 センサ。