(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175954
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法
(51)【国際特許分類】
B63B 21/04 20060101AFI20241212BHJP
B63B 77/10 20200101ALI20241212BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20241212BHJP
B63B 21/08 20060101ALI20241212BHJP
B63B 79/10 20200101ALI20241212BHJP
B63B 81/00 20200101ALI20241212BHJP
G01S 15/74 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B63B21/04 Z
B63B77/10
B63B35/00 T
B63B21/08
B63B79/10
B63B81/00
G01S15/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094086
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】南 佳成
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA03
5J083AD04
5J083AD15
5J083AE07
5J083AG02
(57)【要約】
【課題】係留索にセンサを設置して張力を計測する従来の方法の問題を一挙に解決でき、水中で長期間に亘って係留力が計測できるようにする。
【解決手段】浮体式洋上風力発電設備1の浮体4と海底との間に延びる係留索5と、前記係留索5の形状を計測する形状計測手段20とを備え、前記形状計測手段20によって前記係留索5の形状を計測し、この係留索5の形状から前記係留索5に作用する張力を推定する。前記形状計測手段20として、前記係留索5に沿って間隔を空けて固定された複数のトランスポンダ21と、前記トランスポンダ21との間で音波の送受信を行う前記浮体4に固定されたトランシーバ22とからなる水中測位装置、又は音波により水中構造物の形状を把握する水中音響探査装置を用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体式洋上風力発電設備の浮体と海底との間に延びる係留索と、前記係留索の形状を計測する形状計測手段とを備え、
前記形状計測手段によって前記係留索の形状を計測し、この係留索の形状から前記係留索に作用する張力を推定することを特徴とする浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法。
【請求項2】
前記係留索の形状を、
(1)前記係留索にたるみがあり、カテナリーとしてきかない状態、
(2)前記係留索の浮体側の一部がカテナリーとなり、その他の部分が海底面に着地しているスラック状態、
(3)前記係留索の海底側先端の固定着鎖点が海底面に対し接線方向に接する状態、
(4)前記係留索の海底側先端の固定着鎖点が海底面とある角度をなす緊張状態、
(5)前記係留索が完全に一直線となった破断状態、
の5つの状態に分類し、前記形状計測手段によって計測した前記係留索の形状が5つの状態のいずれであるかを推測し、その状態に適合した算出式から前記係留索に作用する張力を推定する請求項1記載の浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法。
【請求項3】
前記形状計測手段として、前記係留索に沿って間隔を空けて固定された複数のトランスポンダと、前記トランスポンダとの間で音波の送受信を行うトランシーバとからなる水中測位装置を用いるか、音波により水中構造物の形状を把握する水中音響探査装置を用いる請求項1記載の浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法。
【請求項4】
前記形状計測手段として、前記トランスポンダと前記トランシーバとからなる水中測位装置を用いた場合において、前記トランスポンダを、ダイバーが通常潜れる水深までの範囲に設け、この範囲の前記係留索の形状から、前記係留索全体の形状を推定する請求項3記載の浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法。
【請求項5】
前記形状計測手段として、前記トランスポンダと前記トランシーバとからなる水中測位装置を用いた場合において、各係留索毎に、その係留索に取り付けられた前記トランスポンダとの間で音波の送受信を行う前記トランシーバを設けている請求項3記載の浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体式洋上風力発電設備の浮体と海底との間に延びる係留索にかかる係留力を計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、主として水力、火力及び原子力発電等の発電方式が採用されてきたが、近年は環境や自然エネルギーの有効活用の点から自然風を利用して発電を行う風力発電が注目されている。この風力発電設備には、陸上設置式と、水上(主として海上)設置式とがあるが、沿岸域から後背に山岳地形をかかえる我が国の場合は、沿岸域に安定した風が見込める平野が少ない状況にある。一方、日本は四方を海で囲まれており、海上は発電に適した風が容易に得られるとともに、設置の制約が少ないなどの利点を有する。そこで、近年は洋上風力発電設備又は浮体構造が多く提案されている。
【0003】
洋上風力発電設備は、基礎構造の設置方式によって、ジャケット基礎やケーソン基礎などのように海底面に設置する着床式と、浮体を水面に浮かばせるポンツーン型、浮体を水面下に沈めた状態で浮かばせるセミサブ型、釣浮きのように起立状態で浮かせるスパー型、緊張係留で固定する半潜水タイプのTLP型などの海面又は海中に浮かせる浮体式とがある。
【0004】
前記着床式の洋上風力発電設備は、水深が概ね60m以下の遠浅の海が広がる地形での設置に適しており、それを超える水深では浮体式の方がコスト優位性があるとされている。このため、遠浅の海域が狭い我が国では前記浮体式の洋上風力発電設備の技術開発が必要不可欠である。
【0005】
浮体式洋上風力発電設備の浮体は、海底まで延びるチェーンなどの係留索によって係留される。浮体は長期間に亘って洋上に係留され、その間、波浪、潮流、風環境などによって係留索に常時繰り返し大きな張力が発生する。この張力によって、リンクの摩耗や腐食、疲労などの耐久性が低下する問題が生じる。したがって、係留索にかかる張力(係留力)を適切に把握することは、係留索の交換時期の把握や交換部品の事前の準備などの予防保全を図る上で、運転停止期間の削減などメンテナンスコストの低減につなげることができるため、極めて重要である。
【0006】
係留索の張力を計測する方法としては、下記特許文献1に開示されるように、歪ゲージが付設された荷重計を係留設備と係船鎖又は係船索との間に挿入して係留力を監視するものや、下記特許文献2に開示されるように、浮体の前端付近左右両側を係留する係留ラインの張力を張力センサにより計測するものなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-155796号公報
【特許文献2】特開2001-1980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載されるように、係留索に歪ゲージを設置したものは次の問題があった。すなわち、係留索は海中にあるため腐食などによって長期間の計測が困難になる。防水対策を施せば長期間の計測も可能になるが、海水でなおかつ常時水圧がかかる環境下では耐久性が問題となる。なお、出願人が歪ゲージを実機に取り付けて検証した結果、数ヶ月で使用できなくなった経緯がある。
【0009】
また、スパー型の浮体を横倒しにして現地に曳航する場合、係留索を浮体から切り離した状態で曳航し、洋上で浮体に係留索を取り付ける工事が行われる。このとき、歪ゲージ等の取付けも洋上での作業となるため、揺れなどによって取付工事が技術的に難しくなる。
【0010】
更に、歪ゲージが故障したとき、係留索が海中にあるため、新しい歪ゲージを係留索に固定する接着や溶接が困難であるという問題もある。
【0011】
一方、上記特許文献2に記載されるように、係留索に張力センサを設置したものでは次の問題があった。すなわち、張力センサによる計測は、チェーンやジョイントの端部に張力計を挟んでチェーンと連結して計測する方法であるため、歪ゲージを用いた計測と同様に水中での耐久性に課題がある。
【0012】
また、チェーンの途中に付加物を介在させるため、係留索としての信頼性が変化し、再度認証機関の規格を満足することを証明する必要があり、余計な手間がかかる問題がある。
【0013】
そこで本発明の主たる課題は、係留索にセンサを設置して張力を計測する従来の方法の問題を一挙に解決でき、水中で長期間に亘って係留力が計測できるようにした浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、浮体式洋上風力発電設備の浮体と海底との間に延びる係留索と、前記係留索の形状を計測する形状計測手段とを備え、
前記形状計測手段によって前記係留索の形状を計測し、この係留索の形状から前記係留索に作用する張力を推定することを特徴とする浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法が提供される。
【0015】
上記請求項1記載の発明では、係留索に歪ゲージや張力センサなどのセンサを設置して張力を計測するのではなく、前記形状計測手段によって係留索の形状を計測し、この係留索の形状から前記係留索に作用する張力を推定しているため、センサを設置した場合のようにセンサの劣化や耐久性などが問題となることはなく、水中で長期間に亘って係留力が計測できるようになる。
【0016】
請求項2に係る本発明として、前記係留索の形状を、
(1)前記係留索にたるみがあり、カテナリーとしてきかない状態、
(2)前記係留索の浮体側の一部がカテナリーとなり、その他の部分が海底面に着地しているスラック状態、
(3)前記係留索の海底側先端の固定着鎖点が海底面に対し接線方向に接する状態、
(4)前記係留索の海底側先端の固定着鎖点が海底面とある角度をなす緊張状態、
(5)前記係留索が完全に一直線となった破断状態、
の5つの状態に分類し、前記形状計測手段によって計測した前記係留索の形状が5つの状態のいずれであるかを推測し、その状態に適合した算出式から前記係留索に作用する張力を推定する請求項1記載の浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法が提供される。
【0017】
上記請求項2記載の発明では、前記形状計測手段によって計測した係留索の形状を5つの状態に分類し、この5つの状態に適合した算出式から係留索に作用する張力を推定している。このため、係留索の状態に応じた適切な係留力が推定できるようになる。
【0018】
請求項3に係る本発明として、前記形状計測手段として、前記係留索に沿って間隔を空けて固定された複数のトランスポンダと、前記トランスポンダとの間で音波の送受信を行うトランシーバとからなる水中測位装置を用いるか、音波により水中構造物の形状を把握する水中音響探査装置を用いる請求項1記載の浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法が提供される。
【0019】
上記請求項3記載の発明では、前記形状計測手段として具体的に、トランスポンダとトランシーバとからなる水中測位装置又は水中音響探査装置を用いている。
【0020】
請求項4に係る本発明として、前記形状計測手段として、前記トランスポンダと前記トランシーバとからなる水中測位装置を用いた場合において、前記トランスポンダを、ダイバーが通常潜れる水深までの範囲に設け、この範囲の前記係留索の形状から、前記係留索全体の形状を推定する請求項3記載の浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法が提供される。
【0021】
上記請求項4記載の発明では、前記形状計測手段としてトランスポンダとトランシーバとからなる水中測位装置を用いた場合において、前記トランスポンダの配置範囲を、ダイバーが通常潜れる水深までとし、この範囲の係留索の形状から、係留索全体の形状を推定している。
【0022】
請求項5に係る本発明として、前記形状計測手段として、前記トランスポンダと前記トランシーバとからなる水中測位装置を用いた場合において、各係留索毎に、その係留索に取り付けられた前記トランスポンダとの間で音波の送受信を行う前記トランシーバを設けている請求項3記載の浮体式洋上風力発電設備における係留力計測方法が提供される。
【0023】
上記請求項5記載の発明では、トランシーバがトランスポンダとの交信に要する時間を短縮化して、瞬時に浮体にかかる外力を正確に計測するため、各係留索毎にトランシーバを配置し、その係留索に取り付けられたトランスポンダとの間で音波の送受信を行うようにしている。
【発明の効果】
【0024】
以上詳説のとおり本発明によれば、係留索にセンサを設置して張力を計測する従来の方法の問題を一挙に解決でき、水中で長期間に亘って係留力が計測できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る浮体式洋上風力発電設備1を示す側面図である。
【
図2】係留索5による浮体4の固定状態を示す側面図である。
【
図3】トランシーバ22の配置を示す要部拡大図である。
【
図4】トランスポンダ21の配置を示す側面図である。
【
図5】水中音響探査装置23の配置を示す側面図である。
【
図7】係留索がカテナリーとしてきかない状態を示す側面図である。
【
図9】係留索端が海底面で接する状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔スパー型浮体式洋上風力発電設備1〕
はじめに、スパー型浮体式の洋上風力発電設備1の構造例について、
図1に基づいて説明する。
【0027】
前記洋上風力発電設備1は、
図1に示されるように、筒状形状の浮体4と、係留索5と、タワー6と、タワー6の頂部に設備されるナセル8及び複数のブレード9、9…からなる風車7とから構成されるものである。
【0028】
前記浮体4は、コンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体をPC鋼材により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部4Aと、この下側コンクリート製浮体構造部4Aの上側に連接された上側鋼製浮体構造部4Bとからなる。なお、前記浮体4は、全長に亘ってコンクリート製又は鋼製のものを使用してもよい。
【0029】
前記浮体4の中空部内には、水、砂利、細骨材又は粗骨材、金属粒などのバラスト材が投入又は排出可能とされ、浮力(喫水)が調整可能とされる。バラスト材の投入/排出は、本出願人が先に、特開2012-201217号公報において提案した流体輸送方法を採用することによって可能である。
【0030】
前記下側コンクリート製浮体構造部4Aは、高さ方向の全長に亘ってほぼ同一の外径寸法で形成されている。一方、前記上側鋼製浮体構造部4Bは、相対的に下段側に位置する鋼製筒状体4Baと、相対的に上段側に位置する鋼製筒状体4Bbとで構成されている。下段側の鋼製筒状体4Baは、下側部分がコンクリート製浮体構造部4Aと同一の外径寸法とされ、コンクリート製浮体構造部4Aに対して連結されている。前記鋼製筒状体4Baの上側部分は漸次直径を窄めた截頭円錐台形状を成している。
【0031】
上段側の鋼製筒状体4Bbは、前記下段側の鋼製筒状体4Baの上部外径に連続する外形寸法とされる筒状体とされ、下段側の鋼製筒状体4Baに対してボルト又は溶接等によって連結される。
【0032】
前記係留索5は、浮体4を2点以上、好ましくは3点以上で係留するように複数設けられる。前記係留索5は、
図2に示されるように、一端が浮体側着鎖点Bで浮体4に係留され、他端がアンカーに接続されて固定着鎖点Aで海底に固定される。また、前記係留索5は、後段で詳述するスラック状態において、固定着鎖点Aから接地点Cまでの間が海底面に着地する。前記係留索5は、全体が金属製の円環状部材を多数連結したチェーンで構成するのが好ましいが、一部又は全部をワイヤーなどで構成してもよい。
【0033】
一方、前記タワー6は、鋼材、コンクリート又はPRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)から構成されるものが使用されるが、好ましいのは総重量が小さくなるように鋼材によって製作されたものを用いるのが望ましい。タワー6の外径と前記上段側の鋼製筒状体4Bbの外径とはほぼ一致しており、外形状は段差等が無く上下方向に連続している。図示例では、上段側の鋼製筒状体4Bbの上部に梯子13が設けられ、タワー6と上段側の鋼製筒状体4Bbとのほぼ境界部に周方向に歩廊足場14が設けられている。
【0034】
前記係留索5の浮体4への係留点である浮体側着鎖点Bは、
図1に示されるように、海面下であってかつ浮体4の重心Gよりも高い位置に設定してある。従って、船舶が係留索5に接触するのを防止できるようになる。また、浮体4の倒れ過ぎを抑えるように浮体側着鎖点Bに浮体4の重心Gを中心とする抵抗モーメントを発生させるため、タワー6の傾動姿勢状態を適正に保持し得るようになる。
【0035】
一方、前記ナセル8は、風車7の回転を電気に変換する発電機やブレード9の角度を自動的に変えることができる制御器などが搭載された装置である。
〔洋上風力発電設備1の係留力計測方法〕
以下、本発明に係る浮体式洋上風力発電設備1の係留力計測方法について説明を行う。
【0036】
本発明に係る係留力計測方法では、前記係留索5の形状を計測する形状計測手段20が備えられている。この形状計測手段20は、海面に浮遊する浮体4の位置や姿勢に応じて刻々と変化する海中における係留索5全体の曲線形状(カテナリー曲線の形状)又は直線形状をリアルタイムで計測するものである。
【0037】
前記形状計測手段20としては、具体的に、
図3及び
図4に示されるように、係留索5に沿って間隔を空けて固定された複数のトランスポンダ21、21…と、前記トランスポンダ21との間で音波の送受信を行う浮体4に固定されたトランシーバ22とからなる水中測位装置を挙げることができる。
【0038】
前記水中測位装置としては、USBL(Ultra Short Base Line)方式の水中測位装置を用いるのが好ましい。USBL方式水中測位装置は、トランシーバ22が水中に音波信号を送信するとともに、トランスポンダ21からの応答信号を受波アレイで受信し、音波の往復時間に基づく距離と、受波アレイ内の各素子へ到達した応答波号の位相差とからトランシーバ22に対するトランスポンダ21の三次元の相対位置を測定するものである。また、トランシーバ22の地球座標での位置(緯度・経度)と姿勢角(水平からの傾きと方位)にトランスポンダ21の相対位置を加えることで、トランスポンダ21の地球座標での位置(緯度・経度)を得ることができる。
【0039】
また、本発明に係る係留力計測方法では、
図3に示されるように、前記トランシーバ22で受信した各トランスポンダ21の情報が、コンピュータ24に送信され、このコンピュータ24で演算する演算手段が備えられている。この演算手段では、係留索5の形状に応じた係留力(水平張力T
H及び鉛直張力T
V)を演算する。この係留力の演算方法については後段で詳述する。
【0040】
また、前記形状計測手段20の他の具体例としては、
図5に示されるように、海底や海面に浮遊する浮体などに固定された、音波により水中構造物の形状を把握する水中音響探査装置23を挙げることができる。前記水中音響探査装置23は、水中構造物の立体的な(3D)形状が計測可能なものであり、例えば、特開2016-151460号公報に開示された水中3D音響ソナーを用いることができる。この水中3D音響ソナーは、音波を発射しながら鉛直方向に45°、水平方向に120°~360°それぞれ回転し、その反射波を捉えて水中の構造物を3D計測する。
【0041】
前記水中3D音響ソナーの構成をさらに詳述すると、水中3Dソナーは、鉛直方向(上下方向)に256個の音響ソナー(以下、これを「受波装置」という。)を一列に並べて配置し、この256個の受波装置を水平方向に360°回転させるとともに、一回転する毎に片側から順番に1個の受波装置を選択して切り換え駆動させる。この切り換えにより、チルト角が約0.1758°ずつ、段階的に鉛直方向に順に切り換わるようにして、水中3D音響ソナーが垂直方向に回転している状態を作り出している。
【0042】
したがって、この水中3D音響ソナーは、一回転毎に256個の受波装置の1個を、片側から順番に切り換え駆動しながら水平方向に360°回転することにより、256個の受波装置の全ての駆動が終わったときには、チルト角がそれぞれ異なる256本のスキャンが完了する。また、そのスキャンの都度、単位空間が切り出され、その単位空間毎のソナー画像を得ることができるようになっている。その鉛直方向の回転は4回行われる。したがって、そのスキャン操作も4回繰り返して行われることになり、その各回のスキャンデータがそれぞれ制御装置に出力される。そして、制御装置では、水中3D音響ソナーからのスキャンデータを基に、水中3D音響ソナーの全周方向・広範囲に亘るデータを取得して、水中構造物の形状を立体的に解析し、その解析結果を出力してディスプレイに表示する。
【0043】
前記水中音響探査装置23は、
図5に示されるように、通常は海底に設置されるが、浮体4の喫水以下(海面より下側の海中)で、係留索5の浮体側着鎖点Bより上側の側面に取り付けてもよい。浮体4の側面に取り付けた場合において、水中音響探査装置23の水平方向の探査角度を120°としたときは、120°置きに合計3台の水中音響探査装置23を浮体4の側面に設置し、浮体4の全周に亘って探査できるようにするのがよい。すなわち、浮体4に3本の係留索5が設置される場合は、各係留索5に対応する位置に水中音響探査装置23が設置される。なお、
図5では、水中音響探査装置23を海底と浮体4の側面との両方に図示しているが、いずれか一方に設置すれば足りる。
【0044】
本発明に係る係留力計測方法は、前記形状計測手段20によって係留索5の形状を計測し、この係留索5の形状から前記係留索5に作用する張力を推定する。すなわち、本発明に係る係留力計測方法は、浮体4に作用する外力によって係留索5の形状が異なることに着目し、係留索5の立体的な形状を観測することによって、係留索5に生じている張力(係留力)を推定しようとするものである。
【0045】
海中の係留索5の形状は、一様重力場中に一様な重量線密度を有する索体の両端を固定して垂らしたときにできるカテナリー曲線で近似できる。カテナリー理論による係留索の張力の算出方法は、『上田茂、白石悟、“カテナリー理論による最適係留鎖の選定法および計算図表”、港湾技研資料、運輸省港湾技術研究所、No.379、1981年6月』に記載された方法を用いることができる。この資料に記載されたカテナリー理論による係留索の張力算出方法は、以下の通りである。
(カテナリー理論による係留索の張力算出方法)
1.カテナリーの基本式
海中に張られた係留索5の形状は、次のような仮定を設けるとカテナリー(懸垂線)で近似できる。
(1)係留索5の伸びを無視する。
(2)係留索5に働く流れによる力を無視する。
(3)係留索5と海底面の摩擦を無視する。
(4)係留索5自体の振動を考えない。
(5)係留索5の単位長さ当たりの重量は一定とする。
【0046】
ここでは、走錨については考慮しないので、係留索5と海底面との摩擦効果については考慮しないものとする。
【0047】
カテナリーの基本式は式(1)で示される。
【数1】
ここに、y:カテナリーのy座標、a:パラメータ、x:カテナリーのx座標である。なお、
図6は、式(1)の座標系を示したものである。
【0048】
係留索5によって係留された浮体4の標準状態を
図2に示す。
図2において、A点は海底の固定着鎖点、B点は浮体側の着鎖点、C点は係留索5が海底に接する点である。浮体が水平に移動するとB点およびC点が水平に移動する。
図2に示した記号は、それぞれ次の諸量である。
S
0:チェーン長
S
C:チェーンのカテナリー部分長
S
1:チェーンが海底面に横たわっている長さ(接地長)
x
s:チェーンのカテナリー部分の水平面(海底面)への投影長
h:水深
d:浮体喫水
H
0:固定着鎖点(A点)と浮体側着鎖点(B点)の水平距離
V
0:固定着鎖点(A点)と浮体側着鎖点(B点)の鉛直距離
【0049】
ところで、係留索5の状態には、以下の5つが考えられる。すなわち、
(1)係留索5にたるみがあり、カテナリーとしてきかない状態(
図7)
(2)スラック状態(係留索5の浮体4側の一部がカテナリーとなり、その他の部分が海底面に着地している状態)(
図8)
(3)係留索5の海底側先端の固定着鎖点Aが海底面に対し接線方向に接する状態(
図9)
(4)緊張状態(係留索5の海底側先端の固定着鎖点Aが海底面とある角度をなす状態)(
図10)
(5)破断状態(係留索5が完全に一直線となった状態)(
図11)
以上、5つの状態について次に説明する。
【0050】
2.係留索張力の算定式
(1)たるみがあり、カテナリーとしてきかない状態
この状態は、係留索5にたるみがあり、カテナリーとしてきかない状態である(
図7)。浮体には鉛直張力のみが作用し、水平張力は作用しない。鉛直張力T
Vは、式(2)で与えられる。なお、この状態となるH
0の範囲は、式(3)が成立するときである。
【数2】
【数3】
ここに、w:係留索5の単位重量(1mあたりの水中重量)(N/m)、T
V:鉛直張力(N)
【0051】
(2)スラック状態
この状態は、係留索5の一部がカテナリーとなり、その他の部分が海底面に着地している状態である(
図8)。カテナリー式は、式(4)で与えられる。
【数4】
ここに、a:カテナリーのパラメータ(長さの次元をもつ、m)。
【0052】
なお、パラメータaの求め方については、次節3.で示すこととする。
【0053】
式(4)でaが定まれば、係留索5のカテナリー部分の長さS
Cは、式(5)で与えられる。
【数5】
【0054】
また、係留索5の水平張力T
Hおよび鉛直張力T
Vは式(6)で与えられる。
【数6】
【0055】
(3)固定着鎖点が海底面で接する場合
この状態は、
図9に示されるように固定着鎖点が海底面で接する場合である。この場合には、式(4)において、S
C=S
0となった場合であるから、
【数7】
【数8】
【0056】
したがって、係留索5の水平張力T
Hおよび鉛直張力T
Vは、式(9)で求められる。
【数9】
【0057】
(4)緊張状態
図9に示した状態からさらに浮体4が水平方向に移動した状態である(
図10)。したがって、係留索5は固定着鎖点Aで海底面とある角度をなす。この場合には、カテナリーの形状は式(10)~式(12)であらわさられる。
【数10】
【数11】
【数12】
ここに、H’:固定着鎖点Aと係留索5が仮想的な水平面と接する点(C’点)との水平距離(m)である。したがって、係留索5の水平張力T
H及び鉛直張力T
Vは、式(13)で与えられる。
【数13】
【0058】
(5)破断状態
緊張状態(
図10)からさらに浮体4が水平移動すると、係留索5の形状は完全に一直線となり、破断に至る(
図11)。このとき、係留索5の長さS
0とH
0、V
0との間には、式(14)に示す関係がある。したがって、水平張力T
H、鉛直張力T
Vは、式(15)で得られる。
【数14】
【数15】
ここに、T
B:破断荷重(N)である。
【0059】
3.カテナリーのパラメータaの決め方について
(1)スラック状態
スラック状態のとき、カテナリーの形状は式(16)で示される(
図8参照)。
【数16】
【0060】
式(16)は式(17)を用いて式(18)のように書き換えられる。
【数17】
【数18】
【0061】
水平方向の関係より、式(19)が得られる。
【数19】
【0062】
式(19)は、式(17)を用いて式(20)のように書き換えられる。
【数20】
【0063】
係留索長の関係より、式(21)が得られる。
【数21】
【0064】
S
cは、式(22)であらわされるので、式(21)は式(23)に書き換えられる。
【数22】
【数23】
【0065】
式(18)、式(20)、式(23)は、S
0、H
0、V
0が与えられたとき、u、a、S
1を未知数とした三次元連立非線形方程式となっている。これらをまとめて式(24)に示す。
【数24】
【0066】
式(24)の未知数は、ニュートン・ラフソン法を用いて求めるものとする。
【0067】
なお、式(16)は、式(25)のように変形される。
【数25】
【0068】
ここで、式(20)及び式(22)の関係を用いると式(26)が得られる。
【数26】
【0069】
これは、上記2.で示した式(4)である。
【0070】
(2)緊張状態
緊張状態のとき、カテナリーの形状は式(27)で示される(
図10参照)。
【数27】
【0071】
式(27)は、式(28)及び式(29)を用いて、式(30)のように書き換えられる。
【数28】
【数29】
【数30】
【0072】
式(28)及び式(29)は式(31)、式(32)のように書き換えられる。
【数31】
【数32】
【0073】
また、係留索長の関係から式(33)が得られる。
【数33】
【0074】
式(33)は式(34)に書き換えられる。
【数34】
【0075】
式(30)、式(31)、式(32)、式(34)は、S
0、H
0、V
0が与えられたとき、u、v、a、H’を未知数とした四元連立非線形方程式となっている。これらをまとめて式(35)に示す。
【数35】
【0076】
式(35)の未知数は、ニュートン・ラフソン法を用いて決めるものとする。
【0077】
なお、式(27)は変形すると式(36)のようになる。
【数36】
【0078】
これは、上記2.で示した式(11)である。
【0079】
本発明に係る浮体式洋上風力発電設備1における係留力計測方法では、前記形状計測手段20によって係留索5の形状を計測した後、この係留索5の形状が、上記5つの状態のいずれに近いかを判断し、その状態の計算式に基づいて、係留索5に生じる張力を計算している。特に、極限状態での張力が係留索5の強度に影響するので、カテナリーでない状態においても係留力を推定する必要がある。
【0080】
〔係留力計測方法の変形例1〕
以下、本発明に係る浮体式洋上風力発電設備1における係留力計測方法の変形例について説明する。
【0081】
前記形状計測手段20としてトランスポンダ21とトランシーバ22とからなる水中測位装置を用いた場合において、前記トランスポンダ21は、係留索5の全長に亘って配置してもよいが、係留索5に対するトランスポンダ21の固定はダイバーが海中に潜って行うため、
図12に示されるように、ダイバーが通常潜れる水深までの範囲、具体的には水深30mまでの範囲に前記トランスポンダ21を設け、この範囲の係留索5の形状から、係留索5全体の形状を推定する方法を採用してもよい。水深30mまでの係留索5の形状が分かれば、上記5つの状態のいずれであるかも含めて、それ以深のカテナリー曲線のライン形状が容易に推定できる。
【0082】
〔係留力計測方法の変形例2〕
前記形状計測手段20としてトランスポンダ21とトランシーバ22とからなる水中測位装置を用いた場合において、複数の係留索5…に取り付けられた全てのトランスポンダ21…との間で一括して音波の送受信を行う1台のトランシーバ22を設けるようにしてもよいが、
図13に示されるように、各係留索5毎に、その係留索5に取り付けられたトランスポンダ21…との間で音波の送受信を行うトランシーバ22…を設けるようにするのが好ましい。1つのトランシーバ22で、複数の係留索5に備えられた多くのトランスポンダ21…と交信して情報を取得するのでは時間がかかり、瞬時に浮体4にかかる外力を正確に計測できないおそれがあるため、各係留索5毎にトランシーバ22を分担させて処理にかかる時間を短縮することにより、浮体4にかかる外力が正確に計測できるようになる。
【0083】
〔係留力計測方法の変形例3〕
前記形状計測手段20によって係留索5の形状を計測した後、この係留索5の形状がカテナリー曲線で近似できるか、他のモードの形状(直線形状など)で近似できるかを判断して、一致する係留索5の状態における係留力の算出式に基づいて張力を計算する演算手段が備えられている。この演算手段は、上述のトランスポンダ21とトランシーバ22とからなる水中測位装置の場合は、前記コンピュータ24(
図3)に備えられており、前記水中音響探査装置23(
図5)の場合は、水中音響探査装置23から送信されたデータを受信して解析を行うコンピュータ(図示せず)などに備えられている。
【0084】
〔係留力計測方法の変形例4〕
潮流流速の水深方向の分布が既知の場合、潮流による係留索5の変動成分を考慮して、係留索5に生じた張力を補正することができる。すなわち、前記形状計測手段20によって計測された係留索5の形状から、潮流流速による係留索5の変形の影響をシミュレーションによって差し引くことにより、潮流流速の影響がないときの係留索5の形状を推定し、この形状に基づいて、係留索5の張力を求めることができる。
【符号の説明】
【0085】
1…洋上風力発電設備、4…浮体、5…係留索、6…タワー、7…風車、8…ナセル、9…ブレード、13…梯子、14…歩廊足場、20…形状計測手段、21…トランスポンダ、22…トランシーバ、23…水中音響探査装置