(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175955
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】原子炉格納容器冷却装置
(51)【国際特許分類】
G21C 15/18 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G21C15/18 M
G21C15/18 R
G21C15/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094088
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】勝田 理史
(72)【発明者】
【氏名】小田 拓央
(72)【発明者】
【氏名】鈴田 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 喜之
(72)【発明者】
【氏名】石橋 崇
(72)【発明者】
【氏名】上野 隆司
(72)【発明者】
【氏名】今村 隆宏
(57)【要約】
【課題】少ない動力で事故発生初期段階から良好な冷却性能を得ることが可能な原子炉格納容器の冷却装置を実現する。
【解決手段】原子炉格納容器の冷却装置は、原子炉格納容器を少なくとも部分的に囲む壁部と、第1流路形成部材、及び、第2流路形成部材を備える。第1流路形成部材は、原子炉格納容器の上面との間に冷却材が通過可能な第1流路を形成する。第2流路形成部材は、壁部と第1流路形成部材と間に設けられ、第1流路形成部材との間に前記冷却材が通過可能な第2流路を形成する。第1流路及び第2流路は、壁部によって囲まれた空間に開口する第1開口部及び第2開口部をそれぞれ有し、第1開口部及び第2開口部より下方側に設けられた第1連通部を介して互いに連通する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器の上部を少なくとも部分的に囲む壁部と、
前記上部に設けられた上面に沿って延び、前記上面との間に冷却材が通過可能な第1流路を形成する第1流路形成部材と
前記壁部と前記第1流路形成部材と間に設けられ、前記第1流路形成部材との間に前記冷却材が通過可能な第2流路を形成する第2流路形成部材と、
を備え、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記壁部によって囲まれた空間に開口する第1開口部及び第2開口部をそれぞれ有し、前記第1開口部及び前記第2開口部より下方側に設けられた第1連通部を介して互いに連通する、原子炉格納容器冷却装置。
【請求項2】
前記第2開口部に前記冷却材が供給可能である、請求項1に記載の原子炉格納容器冷却装置。
【請求項3】
前記第2流路形成部材は、前記第1流路形成部材に沿って延びる、請求項1又は2に記載の原子炉格納容器冷却装置。
【請求項4】
前記第2流路形成部材と前記壁部との間に、前記第1流路又は前記第2流路から溢れた前記冷却材が貯留可能な貯留部が形成される、請求項1又は2に記載の原子炉格納容器冷却装置。
【請求項5】
前記第1流路形成部材は、前記第2流路形成部材より上端が高く設けられる、請求項4に記載の原子炉格納容器冷却装置。
【請求項6】
前記貯留部と前記第2流路とを連通する第2連通部と、
前記第2連通部に設けられ、前記貯留部から前記第2流路への前記冷却材の流れを許容する逆止弁と、
を備える、請求項4に記載の原子炉格納容器冷却装置。
【請求項7】
前記第2連通部は、前記第1連通部に対向するように設けられる、請求項6に記載の原子炉格納容器冷却装置。
【請求項8】
前記第1流路を少なくとも部分的に区画し、上下方向に沿って延びる第1リブを備える、請求項1又は2に記載の原子炉格納容器冷却装置。
【請求項9】
前記第1リブは、前記上面に立設される、請求項8に記載の原子炉格納容器冷却装置。
【請求項10】
前記第2流路を少なくとも部分的に区画し、上下方向に沿って延びる第2リブを備える、請求項1又は2に記載の原子炉格納容器冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子炉格納容器冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉を格納するための原子炉格納容器は、例えば事故や不具合によって高温になると、内部に存在する流体(例えば水等)が膨張して内圧が上昇し、場合によっては破裂などの損傷が発生するおそれがある。このような損傷を防止するために、従来の原子炉格納容器では、予め冷却設備を設置しておくことにより、必要に応じて原子炉格納容器を冷却し、損傷に至る事態を回避可能に対策がなされている。
【0003】
例えば特許文献1では、原子炉格納容器内で冷却に使用された流体を、原子炉格納容器の外部に設置された熱交換器で熱交換することにより冷却可能な冷却設備が開示されている。また特許文献2では、原子炉格納容器の下部に設けられた注水部から原子炉格納容器の内部に冷却水を注入することにより、原子炉格納容器を冷却可能な設備が開示されている。また特許文献3では、原子炉格納容器の上部に冷却水を貯留するスペースを確保し、当該スペースに貯留された冷却水を用いて原子炉格納容器の上部側を冷却可能な設備が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-77348号公報
【特許文献2】特開2015-227830号公報
【特許文献3】特開平2-122300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~2に開示された冷却設備は、外部から供給される動力を用いて動作するため、例えばSBO(Station Breakout)のように、外部からの動力供給が停止してしまうと、原子炉格納容器の冷却が不能になってしまう。また特許文献1では、原子炉格納容器を貫く配管により原子炉格納容器内の流体を、原子炉格納容器外の熱交換器へ運んで崩壊熱除去を行うため、事故シナリオによっては、冷却水に含まれる放射物質が外部に流出するおそれがある。また特許文献2では、原子炉格納容器の下部に対する注水が側方から行われるため、静的作動により注水される冷却水が原子炉格納容器内の目標区画全体に好適に行き渡らないおそれがある。
【0006】
一方の特許文献3では、原子炉格納容器の上部に冷却水を貯留するスペースを確保し、当該スペースに貯留された冷却水を用いて原子炉格納容器の上部側を冷却することで、外部からの動力が必要な冷却設備が動作不能な場合においても、ある程度の冷却性能を確保できる可能性がある。しかしながら、SBOのような事態では、この冷却水の使用量も限られる場合が想定される。そのため、限られた冷却水で原子炉格納容器を効率的に冷却するための性能が求められる。
【0007】
また特許文献3では、十分な冷却性能を得るためには、原子炉格納容器の上部に十分な冷却水を貯留する必要がある。そのため、事故発生初期の段階では、原子炉格納容器の上部における冷却水の貯留量が少なく、十分な冷却性能を得ることができない。言い換えると、十分な冷却性能を得るためには、原子炉格納容器の上部に冷却水が十分に貯留されるまで待つ必要があり、事故発生初期における冷却性能が不足するおそれがある。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、少ない動力で事故発生初期段階から良好な冷却性能を得ることが可能な原子炉格納容器冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態に係る原子炉格納容器冷却装置は、上記課題を解決するために、
原子炉格納容器の上部を少なくとも部分的に囲む壁部と、
前記上部に設けられた上面に沿って延び、前記上面との間に冷却材が通過可能な第1流路を形成する第1流路形成部材と
前記壁部と前記第1流路形成部材と間に設けられ、前記第1流路形成部材との間に前記冷却材が通過可能な第2流路を形成する第2流路形成部材と、
を備え、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記壁部によって囲まれた空間に開口する第1開口部及び第2開口部をそれぞれ有し、前記第1開口部及び前記第2開口部より下方側に設けられた第1連通部を介して互いに連通する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、少ない動力で事故発生初期段階から良好な冷却性能を得ることが可能な原子炉格納容器冷却装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る原子力プラントの概略構成図である。
【
図2】
図1の原子炉格納容器が備える冷却装置の構成を示す模式図である。
【
図3】
図2の範囲Aにおいて冷却水があふれる様子を模式的に示す拡大図である。
【
図4】他の実施形態に係る冷却装置の
図3に対応する簡易断面図である。
【
図5】
図4において逆止弁が動作する状況を示す簡易断面図である。
【
図6】他の実施形態に係る冷却装置の
図2の第1流路及び第2流路の近傍を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0013】
まず本開示の少なくとも一実施形態に係る原子炉格納容器冷却装置を備える原子力プラントの全体構成について説明する。
図1は、一実施形態に係る原子力プラント1の概略構成図である。
【0014】
原子力プラント1は、核分裂反応で発生する熱エネルギーにより蒸気を生成するための原子炉2を備える。尚、
図1に示す原子炉2は、加圧水型原子炉(PWR:Pressurize Water Reactor)である。他の実施形態では、原子炉2は沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactorr)であってもよく、あるいは、加圧水型原子炉及び沸騰水型原子炉を含む軽水炉とは異なり、減速材又は冷却材として軽水以外の物質を用いるタイプの原子炉であってもよい。
【0015】
原子炉2は、一次冷却水(一次冷却材)が流れる一次冷却ループ10と、一次冷却ループ10に設けられる原子炉容器(圧力容器)11、加圧器14、蒸気発生器16及び一次冷却材ポンプ18と、を含む。一次冷却材ポンプ18は、一次冷却ループ10において一次冷却水を循環させるように構成される。また、加圧器14は、一次冷却ループ10において、一次冷却水が沸騰しないように、一次冷却水を加圧するように構成される。なお、原子炉2を構成する原子炉圧力容器11、加圧器14、蒸気発生器16及び一次冷却材ポンプ18は、原子炉格納容器19に格納される。
【0016】
原子炉圧力容器11にはペレット状の核燃料(例えばウラン燃料やMOX燃料等)を含む燃料棒が収容されており、この燃料の核分裂反応で発生する熱エネルギーにより、原子炉圧力容器11の中の一次冷却水が加熱される。原子炉圧力容器11には、原子炉出力を制御するために、核燃料を含む炉心で生成される中性子数を吸収して調整するための制御棒13が設けられている。尚、原子炉圧力容器11内で加熱された一次冷却水は蒸気発生器16に送られ、熱交換により二次冷却ループ(不図示)を流れる二次冷却水(二次冷却材)を加熱して蒸気を発生させる。
【0017】
蒸気発生器16において生成された蒸気は、不図示の蒸気タービンに送られて、蒸気タービンを回転駆動させる。また、蒸気タービンは回転軸を介して発電機と連結されており、発電機は該回転軸の回転により駆動されて、電気エネルギーを生成する。仕事をした後の蒸気は二次冷却ループを介して、蒸気発生器16に戻るようになっている。
尚、
図1では原子炉2として従来のPWRを例示しているが、原子炉2は小型炉であってもよい。
【0018】
続いて前述の原子炉格納容器19が備える原子炉格納容器冷却装置(以下、「冷却装置」と称する)について説明する。
図2は
図1の原子炉格納容器19が備える冷却装置30の構成を示す模式図であり、
図3は
図2の範囲Aにおいて冷却水があふれる様子を模式的に示す拡大図である。
【0019】
尚、
図2以降では、
図1を参照して前述した原子炉格納容器19の内部構成を、炉内構造物32としてまとめて簡略化して示している(例えば炉内構造物は、
図1に示す現白格納容器19内に収容された原子炉圧力容器11、制御棒13、加圧器14、蒸気発生器16及び一次冷却材ポンプ18等を含む)。
【0020】
原子炉格納容器19は、炉内構造物32を内部に収容する閉構造を有する。原子炉格納容器19は炉内構造物32を側方から囲む略円筒形状の本体部34と、本体部34の上下に組み合わされる上面36及び下面(不図示)とを含む。本体部34、上面36及び下面(不図示)はそれぞれ別体として構成され、互いに組み合わされて原子炉格納容器19を構成していてもよいし、これらの少なくとも一部が一体的として構成されていてもよい。
【0021】
図2では、このような原子炉格納容器19のうち上面36を含む比較的上方側に焦点を当てて示されている。上面36は、上方に向けて凸状の概略構成を有しており、より具体的には、本体部34の軸中心近傍において上方に突出する凸部36aと、凸部36aと本体部34との間に設けられた上側面36bとを有する。上側面36bは所定の曲率を有する曲面として構成されている。凸部36aは上側面36bに対して段差36cを介して、上側面36bに対して上方に向けて突出し、その上部もまた曲面として構成されている。
尚、このような上面36の形状は一例であり、これに限定されない。
【0022】
冷却装置30は、壁部44と、第1流路形成部材46と、第2流路形成部材48とを備える。壁部44は、原子炉格納容器19を収容する建屋の一部であり、原子炉格納容器19の上部を少なくとも部分的に覆う。本実施形態では壁部44は、原子炉格納容器19の全体を囲む(
図2では、壁部44のうち上面36の近傍における一部が代表的に示されている)。
【0023】
第1流路形成部材46及び第2流路形成部材48は、不図示の注水機構によって供給される冷却水の流路を形成するとともに、それらによって構成される構造内に冷却水を貯留することにより、原子炉格納容器19の上面36を冷却可能である。原子炉格納容器19は、例えばステンレス鋼のような金属材料によって構成されており、貯留された冷却水との熱交換によって、原子炉格納容器19の上面36が冷却される。
【0024】
尚、冷却装置30は、原子炉格納容器19の内側に注水するための注水機構(不図示)を備えてもよい。この場合、注水機構によって原子炉格納容器19の内側に注入された冷却水は、高温の炉内構造物32と熱交換することにより蒸気となり、原子炉格納容器19の内側に充満する。原子炉格納容器19は金属材料により構成されているため、原子炉格納容器19の内側に充満した蒸気は、第1流路形成部材46及び第2流路形成部材48を含む構造に貯留される冷却水との熱交換により冷却される。冷却された蒸気は、一部が凝縮されることで、冷却水に戻ってもよい。このように冷却された蒸気又は冷却水は、再び炉内構造物32の冷却に用いられることで、炉内構造物32の昇温が抑制される。
【0025】
第1流路形成部材46は、原子炉格納容器19の上部に設けられた上面36に沿って延びる。上面36と第1流路形成部材46との間には、冷却材が通過可能な第1流路50が形成される。前述のように原子炉格納容器19の上面36は曲面として構成されているため、第1流路規制部材46もまた、その大部分が上面36に沿う曲面として構成される。本実施形態では、原子炉格納容器19の上面36は、凸部36aと上側面36bとの間に段差部36cを有するため、第1流路形成部材46の上端部46aもまた、段差部36cに対応するように部分的に構成されている。
【0026】
第2流路形成部材48は、壁部44と第1流路形成部材46と間に設けられ、第1流路形成部材46に沿って延びる。第1流路形成部材46と第2流路形成部材48との間には、冷却材が通過可能な第2流路52が形成される。前述のように第1流路形成部材46は、その大部分が曲面として構成されているため、第2流路規制部材48もまた、その大部分が第1流路形成部材46に沿う曲面として構成される。本実施形態では、第2流路形成部材48の上端部48aは、第1流路形成部材46の上端部46aに対応するように部分的に構成されている。
尚、第1流路形成部材46には、第1流路形成部材46を貫通するように形成された少なくとも1つの穴部が設けられていてもよい。これにより、第1流路50及び第2流路52は、当該穴部を介して連通することにより、第2流路52から第1流路50に向かう循環流を促進することができる。この場合、第1流路形成部材46に設けられる穴部の数や形状は任意でよい。
【0027】
第1流路形成部材46及び第2流路形成部材48によって形成される第1流路50及び第2流路52は、その上方側に、それぞれ第1開口部54及び第2開口部56を有する。第1開口部54及び第2開口部56は、壁部44によって囲まれた、建屋内の空間Vに開口する。一方で、第1流路50及び第2流路52の下方側は、第1連通部58を介して、互いに連通する。
【0028】
冷却装置30は、第2開口部56に対して冷却水が供給可能である。
図2に矢印で示すように、冷却水は、第2開口部56に対して上方から供給される。第2開口部56に供給された冷却水は、第2開口部56からつながる第2流路52に沿って下方に向けて流れ、第1連通部58に達する。そして、冷却水は、第1連通部58から第1流路50に導入され、上方にある第1開口部54に向けて流れる。
【0029】
前述のように、第1流路形成部材46、及び、第2流路形成部材48は、互いに原子炉格納容器19の上面36に沿うように形成されるため、第1流路50及び第2流路52は比較的容積が狭く構成される。特に上面36,第1流路形成部材46、及び、第2流路形成部材48が互いに近い曲率を有するように設計されることで、第1流路50及び第2流路52の容積は比較的狭くなる。これにより第2開口部56に冷却水を供給すると、第1流路50及び第2流路52に対して、比較的短時間で冷却水を充填することができる。その結果、第2開口部56に対する冷却水の供給開始から早い段階で、第1流路50及び第2流路52に充填された冷却水と、原子炉格納容器19の上面36とを熱交換させて冷却を開始できる。
【0030】
第1流路50及び第2流路52に貯留される冷却水は、第2開口部56に上方から落下するように供給された際の慣性力、及び、上面36との熱交換によって生じる温度差によって、矢印Bで示す対流が形成される。これにより、第1流路50及び第2流路52に貯留される冷却水と上面36との間における熱交換が促進され、良好な冷却作用が得られる。
【0031】
第1流路50及び第2流路52における冷却水の表面は略等しくなるが、冷却水の供給量が増加するに従って、その表面は次第に上昇していく。冷却水の供給量が十分に多くなると、第1流路50及び第2流路52における冷却水の表面は、第1開口部54及び第2開口部56に達する。そして、更に冷却水の供給量が増えると、
図3で矢印Cを用いて示すように、やがて冷却水は、第1開口部54及び第2開口部56から周囲に溢れる。
【0032】
ここで第2流路形成部材48と壁面44との間には、貯留部60が形成される。そのため、第1流路50及び第2流路52から溢れた冷却水は、貯留部60に貯留される。第1流路形成部材46及び第2流路形成部材48もまた、金属材料により形成されるため、貯留部60に貯留された冷却水は、間接的に原子炉格納容器19の冷却に貢献する。
【0033】
尚、第1流路形成部材46及び第2流路形成部材48の上端46a及び48aは、第1流路50及び第2流路52から溢れた冷却水が、貯留部60に導入されるように設計される。本実施形態では、第1流路形成部材46及び第2流路形成部材48の上端46a及び48aは互いに略等しい高さに設定されているが、これらは互いに異なるように設定されていてもよい。例えば、第2流路形成部材48は第1流路形成部材46より貯留部60に近いため、第2流路形成部材48の上端48aが、第1流路形成部材46の上端46aより低く設定されることで、第1流路50及び第2流路52から溢れた冷却水が、貯留部60に導入されやすくしてもよい。
【0034】
図4は他の実施形態に係る冷却装置30の
図3に対応する簡易断面図である(
図4では主要構成を簡略的に示しており、前述した構成に対応する構成には共通の符号を付している)。この実施形態では、冷却装置30は、貯留部60と第2流路52とを連通する第2連通部62に、逆止弁64が設けられている点で前述の実施形態と異なる。第2連通部62は、貯留部60と第2流路52とを連通するように第2流路52を規定する第2流路形成部材48の一部に開口を設けることで形成される。本実施形態では特に、第2連通部62は、第1連通部58に対向する位置(言い換えると、第1連通部58と略等しい高さ位置)に設けられる。
【0035】
逆止弁64は、第2流路52と貯留部60との間の差圧に基づいて、貯留部60から第2流路52への一方的な冷却水の流れを許容する構成である。具体的には、第2流路52における冷却水の圧力より、貯留部60に貯留された冷却水の圧力が十分に高くなった際に、貯留部60に貯留された冷却水が、逆止弁64を介して、第2流路52に供給されるようになっている。
【0036】
例えば、
図4では、第2流路52における水面位置と貯留部60における水面位置との差が比較的小さい。そのため第2流路52と貯留部60との間の差圧が小さく、逆止弁64は作動しない(この場合、貯留部60に貯留された冷却水は止水となる)。一方、
図5に示すように、例えば上面36との間の熱交換によって第1流路50又は第2流路52にある冷却水が蒸発することにより、第2流路52における水面位置が下がると、第2流路52と貯留部60との間の差圧が大きくなる。すると、逆止弁64が作動することにより、貯留部60に貯留された冷却水が、第2連通部62を介して第2流路52に導入される(
図5の矢印Cを参照)。これにより、貯留部60から第2流路52に導入された冷却水は、第2開口部56から供給された冷却水とともに、第2流路52から第1流路50側に循環することで、原子炉格納容器19の上面36との熱交換効率を向上し、より優れた冷却性能を得ることができる。
【0037】
図6は他の実施形態に係る冷却装置30の
図2の第1流路50及び第2流路52の近傍を示す斜視図である。この実施形態では、第1流路50又は第2流路52の少なくとも一方に、第1流路50又は第2流路52を少なくとも部分的に区画し、上下方向(すなわち、各流路に沿った方向)に沿って延びるリブ70を備える。
図6に例示される実施形態では、第2流路52に設けられたリブ70が代表的に示されてるが、第1流路50にも同様のリブ70が設けられていてもよい(リブ70は、第1流路50又は第2流路52の少なくとも一方に設けられていてもよい)。
【0038】
リブ70は、第1流路50又は第2流路52を規定する各面の少なくとも一方に立設する。本実施形態で例示される第2流路52に設けられたリブ70は、第1流路形成部材46の表面から第2流路形成部材48の表面に至ることにより、第2流路52を複数の空間に分割するように仕切っている。このように第2流路52にリブ70が設けられることにより、第2流路52における冷却水が整流される。これにより、第2流路52における冷却水の不安定流動を抑制し、良好な冷却性能が得られる。またリブ70は第1流路形成部材46及び第2流路形成部材48の間に立設されることで、これらの部材を補強することで、機械的強度の向上に貢献する。
【0039】
図7は
図4の変形例である。この変形例では、第1流路50及び第2流路52の間を連通する第1連通部58にスリット部80が設けられる。スリット部80は局所的に流路面積が狭くなるように構成され、
図7において奥行方向(略水平方向)に沿って延在する。このようなスリット部80を有することで、第1連通部58を通過する冷却水が整流され、冷却水の不安定流動が抑制される。このスリット部80は、
図6に示すリブ70と併せて採用されることで、当該効果をより効果的に享受することも可能である。
【0040】
尚、
図7では、スリット部80が第1連通部58のうち第1流路50側に設けられている場合を例示しているが、第2流路52側に設けられていてもよい。
【0041】
以上説明したように上記各実施形態によれば、原子炉格納容器19の上面36に配置された第1流路形成部材46及び第2流路形成部材48によって、冷却水が通過可能な第1流路50及び第2流路52が形成される。第1流路50及び第2流路52のそれぞれの上端46a、48aには第1開口部54及び第2開口56が設けられるとともに、他端は第1連通部58を介して互いに連通する。これにより、原子炉格納容器19の上面36に接する第1流路50を流れる冷却水は、原子炉格納容器19の上面36から受け取る熱量によって昇温することによって第1流路50を上方に向けて移動するとともに、新たな冷却材が第2流路52から第1連通部58を介して第1流路50に導入される。これにより、原子炉格納容器19の上面36は、第1流路50を流れる冷却水と熱交換することにより好適に冷却される。その結果、少ない動力で事故発生初期段階から良好な冷却性能を得ることが可能な原子炉格納容器19の冷却装置30を提供できる。
【0042】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0043】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0044】
(1)一態様に係る原子炉格納容器冷却装置は、
原子炉格納容器の上部を少なくとも部分的に囲む壁部と、
前記上部に設けられた上面に沿って延び、前記上面との間に冷却材が通過可能な第1流路を形成する第1流路形成部材と
前記壁部と前記第1流路形成部材と間に設けられ、前記第1流路形成部材との間に前記冷却材が通過可能な第2流路を形成する第2流路形成部材と、
を備え、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記壁部によって囲まれた空間に開口する第1開口部及び第2開口部をそれぞれ有し、前記第1開口部及び前記第2開口部より下方側に設けられた第1連通部を介して互いに連通する。
【0045】
上記(1)の態様によれば、原子炉格納容器の上面に配置された第1流路形成部材及び第2流路形成部材によって、冷却材が通過可能な第1流路及び第2流路が形成される。第1流路及び第2流路のそれぞれの一端には開口部が設けられるとともに、他端は第1連通部を介して互いに連通する。これにより、原子炉格納容器の上面に接する第1流路を流れる冷却材は、原子炉格納容器の上面から受け取る熱量によって昇温することによって第1流路を上方に向けて移動するとともに、新たな冷却材が第2流路から第1連通部を介して第1流路に導入される。これにより、原子炉格納容器の上面は、第1流路を流れる冷却材と熱交換することにより好適に冷却される。
【0046】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記第2開口部に前記冷却材が供給可能である。
【0047】
上記(2)の態様によれば、第2開口に供給された冷却材は第2流路から、第1連通部を介して、第1流路に導入される。これにより、原子炉格納容器の上面に接する第1流路に対して、第2流路側から新たな冷却材を供給することで、原子炉格納容器の上面との熱交換を促進し、良好な冷却効果が得られる。
【0048】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記第2流路形成部材は、前記第1流路形成部材に沿って延びる。
【0049】
上記(3)の態様によれば、第2流路形成部材が、原子炉格納容器の上面に沿った第1流路形成部材に沿って延びるように構成される。これにより、第1流路及び第2流路の容積が比較的少なくなるため、冷却材の供給開始から迅速に充填を完了できる。すなわち、事故発生時から冷却材の供給を開始する場合、第1流路及び第2流路への冷却材の充填を迅速に完了することで、早期に冷却効果を得ることができる。
【0050】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記第2流路形成部材と前記壁部との間に、前記第1流路又は前記第2流路から溢れた前記冷却材が貯留可能な貯留部が形成される。
【0051】
上記(4)の態様によれば、第1流路及び第2流路から溢れた冷却材が、第2流路形成部材と壁部との間に設けられた貯留部に貯留される。このような貯留部を設けることで、原子炉格納容器の冷却に用いられる冷却材の容積が増加されるため、本装置の冷却容量を増やすことで、原子炉格納容器をより好適に冷却することができる。
【0052】
(5)他の態様では、上記(4)の態様において、
前記第1流路形成部材は、前記第2流路形成部材より上端が高く設けられる。
【0053】
上記(5)の態様によれば、第1流路形成部材の上端が第2流路形成部材の上端より高い位置に設けられる。これにより、第1流路及び第2流路から溢れる冷却材を、貯留部に好適に導くことができる。
【0054】
(6)他の態様では、上記(4)又は(5)の態様において、
前記貯留部と前記第2流路とを連通する第2連通部と、
前記第2連通部に設けられ、前記貯留部から前記第2流路への前記冷却材の流れを許容する逆止弁と、
を備える。
【0055】
上記(6)の態様によれば、貯留部と第2流路とを連通する第2連通部には、貯留部から第2流路への冷却材の流れを許容する逆止弁が設けられる。これにより、貯留部側の圧力が第2流路側の圧力より大きくなると、両者間の差圧によって、貯留部に貯留された冷却材が第2流路に導入される。これにより、貯留部に貯留する冷却材は第2流路から第1流路側に循環することで、原子炉格納容器の上面との熱交換効率を向上し、より優れた冷却性能を得ることができる。
【0056】
(7)他の態様では、上記(6)の態様において、
前記第2連通部は、前記第1連通部に対向するように設けられる。
【0057】
上記(7)の態様によれば、第2連通部が第1連通部に対向するように設けられる。これにより、第2連通部を介して貯留部から第2流路に導入された冷却材は、第1連通部を介して、更に第1流路にスムーズに導かれる。これにより、原子炉格納容器の上面との熱交換効率を向上し、より優れた冷却性能を得ることができる。
【0058】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記第1流路を少なくとも部分的に区画し、上下方向に沿って延びる第1リブを備える。
【0059】
上記(8)の態様によれば、第1流路に第1リブが設けられることにより、第1流路における冷却材が整流される。これにより、第1流路における冷却材の不安定流動を抑制し、第1流路を流れる冷却材と原子炉格納容器の上面との間の熱交換を促進し、良好な冷却性能が得られる。
【0060】
(9)他の態様では、上記(8)の態様において、
前記第1リブは、前記上面に立設される。
【0061】
上記(9)の態様によれば、第1リブが原子炉格納容器の上面に立設される。これにより、第1リブによって上面を補強することができ、本装置の機械的強度を効果的に向上できる。
【0062】
(10)他の態様では、上記(1)から(9)のいずれか一態様において、
前記第2流路を少なくとも部分的に区画し、上下方向に沿って延びる第2リブを備える。
【0063】
上記(10)の態様によれば、第2流路に第2リブが設けられることにより、第2流路における冷却材が整流される。これにより、第2流路における冷却材の不安定流動を抑制し、第2流路から第1連通部を介して第1流路に効率的に冷却材を導くことで、良好な冷却性能が得られる。
【符号の説明】
【0064】
1 原子力プラント
2 原子炉
10 一次冷却ループ
11 原子炉容器(圧力容器)
14 加圧器
16 蒸気発生器
18 一次冷却材ポンプ
19 原子炉格納容器
20 二次冷却ループ
30 原子炉格納容器冷却装置
32 炉内構造物
34 本体部
36 上面
36a 凸部
36b 上側面
44 壁部
46 第1流路形成部材
46a 上端
48 第2流路形成部材
48a 上端
50 第1流路
52 第2流路
54 第1開口部
56 第2開口部
58 第1連通部
60 貯留部
62 第2連通路
64 逆止弁
70 リブ
80 スリット部