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特開2024-175965樹脂組成物、樹脂成形体及び樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175965
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂成形体及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241212BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L97/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094114
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】大林 佑美
(72)【発明者】
【氏名】古田 達郎
(72)【発明者】
【氏名】田上 英恵
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA01W
4J002AH00X
4J002BB03W
4J002BB06W
4J002BB07W
4J002BB12W
4J002BB15W
4J002BB17W
4J002BB213
4J002BC03W
4J002BE02W
4J002BE03W
4J002BF02W
4J002BG05W
4J002BG10W
4J002CF06W
4J002CF07W
4J002CF08W
4J002CG00W
4J002CK02W
4J002CL01W
4J002CL03W
4J002CM04W
4J002GG02
4J002GL00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】バイオマス原料を有効利用し、汎用樹脂に対して優れた機械特性、耐久性と、印刷適性、塗工性、密着性が両立した樹脂成形体用の樹脂組成物、及びその樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体、並びに樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、グリコール類により変性された変性リグニンと、を含有する、樹脂組成物。前記熱可塑性樹脂と前記変性リグニンとで作製した樹脂成形体の表面自由エネルギーが30mJ/m以上100mJ/m以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、グリコール類により変性された変性リグニンと、を含有する、樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂と前記変性リグニンとで作製した樹脂成形体の表面自由エネルギーが30mJ/m以上100mJ/m以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂を構成するモノマーのSP値が10以上40以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂と前記変性リグニンとで作製した樹脂成形体の水に対する接触角が30°以上120°以下であり、
前記熱可塑性樹脂と前記変性リグニンとで作製した樹脂成形体の表面自由エネルギーが40mJ/m以上90mJ/m以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂の230℃、100rad/sにおける溶融粘度が10Pa・s以上10000Pa・s以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記変性リグニンの質量平均分子量が100以上50000以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記変性リグニンで作製した塗膜の水に対する接触角が30°以上100°以下であり、
前記変性リグニンで作製した塗膜の表面自由エネルギーが40mJ/m以上120mJ/m以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記変性リグニンの230℃、100rad/sにおける溶融粘度が10Pa・s以上50000Pa・s以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記グリコール類が、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールおよびポリオキシアルキレンビスフェノールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
相溶化剤を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含む、樹脂成形体。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、グリコール類により変性された変性リグニンとを混練して樹脂組成物を得る工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び機能性を有する樹脂成形体、並びに、樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、セルロース、ヘミセルロースと共に植物を構成する天然バイオマスである。リグニンは、木材中におよそ20~35質量%含まれる。草本植物においても、リグニンを含むものが多い。リグニンは、植物細胞壁の物理強度を向上させると共に、生物による分解を防ぐ役目や、細胞壁に疎水性を付与して水の流動性を制御する役目も果たしている。リグニンの基本骨格は、パラヒドロキシフェニルプロパンである。リグニンは、メトキシル基を0~2個有するp-クマリルアルコール、コニフェニルアルコール、シナピルアルコールが脱水素重合して生成する不規則高分子である。
【0003】
近年、バイオマス原料の有効利用を目的として、リグニンを利用する試みが検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献3には、樹脂成形体において、石油材料の代替としてリグノフェノールを用いることにより、環境性能に優しく、高い耐衝撃性を有し、耐熱性及び難燃性に優れ、また成形外観も良好なポリカーボネート樹脂成形体が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-123717号公報
【特許文献2】国際公開第2021/015190号
【特許文献3】特許第5787354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3には、ポリカーボネート樹脂成形体が、機械特性、耐久性を有することが記載されているものの、ポリカーボネート樹脂成形体の印刷適性や塗工性、密着性に関しては記載されていなかった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、バイオマス原料を有効利用し、汎用樹脂に対して優れた機械特性、耐久性と、印刷適性、塗工性、密着性が両立した樹脂成形体用の樹脂組成物、及びその樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体、並びに樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討した結果、バイオマス原料である変性リグニンと汎用的な熱可塑樹脂を含む加工性に優れた樹脂組成物を用い、樹脂成形体に、機械特性、耐久性だけでなく、印刷適性、塗工性、密着性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]熱可塑性樹脂と、グリコール類により変性された変性リグニンと、を含有する、樹脂組成物。
[2]前記熱可塑性樹脂と前記変性リグニンとで作製した樹脂成形体の表面自由エネルギーが30mJ/m以上100mJ/m以下である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記熱可塑性樹脂を構成するモノマーのSP値が10以上40以下である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記熱可塑性樹脂と前記変性リグニンとで作製した樹脂成形体の水に対する接触角が30°以上120°以下であり、
前記熱可塑性樹脂と前記変性リグニンとで作製した樹脂成形体の表面自由エネルギーが40mJ/m以上90mJ/m以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記熱可塑性樹脂の230℃、100rad/sにおける溶融粘度が10Pa・s以上10000Pa・s以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記変性リグニンの質量平均分子量が100以上50000以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記変性リグニンで作製した塗膜の水に対する接触角が30°以上100°以下であり、
前記変性リグニンで作製した塗膜の表面自由エネルギーが40mJ/m以上120mJ/m以下である、[1]~[6]のいずれかにに記載の樹脂組成物。
[8]前記変性リグニンの230℃、100rad/sにおける溶融粘度が10Pa・s以上50000Pa・s以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]前記グリコール類が、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールおよびポリオキシアルキレンビスフェノールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]相溶化剤を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、樹脂成形体。
[12][1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、
熱可塑性樹脂と、グリコール類により変性された変性リグニンとを混練して樹脂組成物を得る工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物によれば、バイオマス原料を有効利用し、加工性が良好な樹脂組成物が得られる。本発明の樹脂組成物を用いれば、機械特性、耐久性のみならず、塗工性、印刷適性、密着性に優れた樹脂成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る樹脂成形体を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪樹脂組成物≫
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、グリコール類により変性された変性リグニンと、を含有する。
【0012】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂は、加熱により軟化する樹脂であり、加熱により成形可能な樹脂である。熱可塑性樹脂は、ガラス転移点及び融点の少なくとも一方の温度が、25℃以上400℃以下の樹脂である。
【0013】
熱可塑性樹脂を構成するモノマーのSP値は、10以上40以下であることが好ましく、より好ましくは20以上30以下である。SP値が前記下限値以上であると、変性リグニンとの相溶性が良好となり、機械特性に優れ、かつ印刷適性、塗工性、密着性に優れた樹脂成形体が得られる。また、SP値が前記上限値以下であると、耐水性に優れた樹脂成形体が得られる。
SP値は、ハンセン溶解度パラメーターソフトHSPiP(Hansen Solubility Parameter in Practice)を用いて分子構造より算出できる。ソフトの入力画面で化学構造をSmile記法で入力すると、Yamamoto Molecular Break(Y-MB)法と呼ばれるニュートラルネットワークを利用して原子団ごとに分割され、HSP値を算出でき、分散項、極性項、水素結合項の合計値をSP値として得ることができる。
複数のモノマーから、所定の割合で構成される熱可塑性樹脂は、最小単位であるオリゴマーにてSP値を算出する。
【0014】
熱可塑性樹脂と変性リグニンとで作製した樹脂成形体の水に対する接触角は30°以上120°以下であることが好ましく、より好ましくは50°以上110°以下であり、さらに好ましくは80°以上100°以下である。接触角が前記下限値以上であると、得られる樹脂成形体の耐水性が良好となる。接触角が前記上限値以下であると、変性リグニンが分散・相溶しやすくなり、得られる樹脂成形体の機械特性、塗工性や印刷適性、密着性も良好となる。
熱可塑性樹脂の水に対する接触角は、熱可塑性樹脂のペレットを熱プレス等で成形した樹脂成形体を用いて測定することができる。熱可塑性樹脂の水に対する接触角は、例えば、25℃において接触角計(協和界面科学社製、ポータブル接触角計 PCA-1)を用いて、液量1.5μLの水滴を熱可塑性樹脂シートに滴下し、1秒後の液滴の接触角を評価することで測定できる。
【0015】
熱可塑性樹脂と変性リグニンとで作製した樹脂成形体の表面自由エネルギーは、30mJ/m以上100mJ/m以下であることが好ましく、より好ましくは40mJ/m以上90mJ/m以下であり、さらに好ましくは60mJ/m以上80mJ/m以下である。表面自由エネルギーが、前記下限値以上であると、変性リグニンとの相溶性が良好となり、得られる樹脂成形体の機械特性及び、濡れ性が良好となり、滲みやハジキの発生を抑制でき、印刷性や密着性に優れる。また、表面自由エネルギーが、前記上限値以下であると、得られる樹脂成形体の耐水性が良好となる。
表面自由エネルギーは、熱可塑性樹脂の水に対する接触角の測定において、熱可塑性樹脂で作製した樹脂成形体について、3種類の溶媒で測定した接触角を、北崎・畑理論に当てはめて算出することができる。3種類の溶媒として、水(蒸留水)、ジヨードメタン及びヘキサデカンを用いることができる。表面自由エネルギーの値は、測定箇所を変更した10回の接触角の算術平均値に基づいて計算することができる。
【0016】
熱可塑性樹脂の230℃、100rad/sにおける溶融粘度が10Pa・s以上10000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは50Pa・s以上8000Pa・s以下であり、さらに好ましくは100Pa・s以上5000Pa・s以下である。熱可塑性樹脂の溶融粘度が前記下限値以上であると、溶融混練等の加工時における張力が保たれ、ペレットの作製が容易となる。熱可塑性樹脂の溶融粘度が前記上限値以下であると、溶融した樹脂の流動性が良好となり、変性リグニンと混合しやすくなり、また加工性が良好となる。
熱可塑性樹脂の溶融粘度は、レオメーターを用いて測定可能である。直径25mmのパラレルプレートを用い、窒素雰囲気下で、熱可塑性樹脂の軟化点及び融点の少なくとも一方の温度以上の温度で100rad/sから1rad/sの各周波数にて測定することにより、100rad/sにおける溶融粘度を測定できる。
【0017】
熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、セロファン、アルキド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン樹脂、エポキシ系樹脂、エンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、炭素数2~10のオレフィンの重合体、プロピレン-エチレン共重合体等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0018】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族系ポリアミド、ポリメタキシリレンアジパミド等の芳香族系ポリアミド等が挙げられる。
ビニル系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、エチレンメタクリル酸共重合体等の(メタ)アクリル系単量体の単独又は共重合体等が挙げられる。なお、(メタ)アクリル系単量体とは、アクリル酸系単量体及びメタクリル酸系単量体の少なくとも1種をいう。
【0019】
ウレタン系樹脂は、ポリオールとイソシアネート化合物によりウレタン結合を有する樹脂である。
ウレタン系樹脂に含まれるポリオール類としては、例えば、アクリルポリオール、ポリビニルアセタール、ポリスチルポリオール、及びポリウレタンポリオール等から選択される少なくとも一種が挙げられる。アクリルポリオールは、アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られるものであってもよく、アクリル酸誘導体モノマーとその他のモノマーとを共重合させて得られるものであってもよい。アクリル酸誘導体モノマーとしては、エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等が挙げられる。アクリル酸誘導体モノマーと共重合させるモノマーとしては、スチレン等が挙げられる。
【0020】
イソシアネート化合物としては、例えば、芳香族系のトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、脂肪族系のヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等のモノマー類、これらの重合体、及びこれらの誘導体等が挙げられる。上述のイソシアネート化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリイミド等が挙げられる。
【0021】
上記熱可塑性樹脂中でも、変性リグニンとの相溶性の観点から、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂が好ましい。
これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
樹脂組成物の総質量(100質量%)に対する熱可塑性樹脂の含有量は、10質量%以上97質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上80質量%以下である。熱可塑性樹脂の含有量が前記下限値以上であると、溶融混練時における流動性、加工性が良好となる。熱可塑性樹脂の含有量が前記上限値以下であると、バイオマス化度を上げることができ、また変性リグニンに由来する機能を発揮し、耐久性、機械特性、塗工性、印刷適性、密着性が良好な樹脂成形体が得られる。
【0023】
<変性リグニン>
リグニンは、セルロース、ヘミセルロースと共に植物を構成する天然バイオマスである。リグニンは、パラヒドロキシフェニルプロパンを基本骨格とする高分子化合物である。リグニンは、非常に複雑な分子構造をしているため、化学構造を一般式等で一律に特定することは困難である。
本実施形態の樹脂組成物は、変性リグニンを含有することで、バイオマス原料を有効利用できる。
本実施形態の樹脂組成物において、変性リグニンは、植物に由来するリグニンであり、グリコール類により変性されたリグニンである。変性リグニンは、グリコール類により変性されたリグニンであればよく、細部の構造や調製方法等は特に限定されない。
【0024】
変性リグニンの質量平均分子量は、例えば、100以上50000以下であることが好ましく、1000以上30000以下であることがより好ましく、5000以上20000以下であることがさらに好ましい。変性リグニンの質量平均分子量が、前記下限値以上であると、得られる樹脂成形体の耐擦傷性が良好となる。また、変性リグニンの質量平均分子量が前記上限値以下であると、得られる樹脂成形体と印刷インキ等との付着性を高められ、樹脂成形体への印刷のしやすさ(印刷性)をより高められる。
変性リグニンの質量平均分子量は、例えば、ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定できる。
【0025】
変性リグニンの230℃、100rad/sにおける溶融粘度が10Pa・s以上50000Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは50Pa・s以上30000Pa・s以下であり、さらに好ましくは100Pa・s以上20000Pa・s以下である。変性リグニンの溶融粘度が前記下限値以上であると、溶融混練等の加工時における張力が保たれ、樹脂成形体の成形性が良好となる。変性リグニンの溶融粘度が前記上限値以下であると、溶融した樹脂の流動性が良好となり、混練が容易となり、熱可塑性樹脂と混合しやすくなる。
変性リグニンの溶融粘度は、レオメーターを用いて測定可能である。直径25mmのパラレルプレートを用い、窒素雰囲気下で、変性リグニンの軟化点及び融点の少なくとも一方の温度以上の温度で100rad/sから1rad/sの各周波数にて測定することにより、100rad/sにおける溶融粘度を測定できる。
【0026】
変性リグニンで作製した塗膜の水に対する接触角は30°以上100°以下であることが好ましく、より好ましくは50°以上90°以下であり、さらに好ましくは60°以上80°以下である。接触角が前記下限値以上であると、熱可塑性樹脂との相溶性に優れ、優れた耐水性、機械特性の樹脂成形体が得られる。接触角が前記上限値以下であると、加工性、流動性に優れ、濡れ性が良好で、印刷適性、密着性に優れた樹脂成形体が得られる。
変性リグニンの水に対する接触角は、変性リグニンをテトラヒドロフラン(THF)等の溶媒に溶解させ、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基材に塗工、乾燥することにより、膜厚約2μmの塗膜を作製し、25℃において接触角計(協和界面科学社製、ポータブル接触角計 PCA-1)を用いて、液量1.5μLの水滴を塗工フィルムに滴下し、1秒後の液滴の接触角を評価することで測定できる。
【0027】
変性リグニンで作製した塗膜の表面自由エネルギーは、40mJ/m以上120mJ/m以下であることが好ましく、より好ましくは50mJ/m以上100mJ/m以下であり、さらに好ましくは60mJ/m以上80mJ/m以下である。表面自由エネルギーが、前記下限値以上であると、濡れ性、印刷適性、密着性が良好となる。また、表面自由エネルギーが、前記上限値以下であると、樹脂との相溶性が良好となり、機械特性、耐水性に優れた樹脂成形体1を得ることができる。
表面自由エネルギーは、変性リグニンの水に対する接触角の測定において、変性リグニンの塗膜を作製し、3種類の溶媒で測定した接触角を北崎・畑理論に当てはめて、算出することができる。3種類の溶媒として、水(蒸留水)、ジヨードメタン及びヘキサデカンを用いることができる。表面自由エネルギーの値は、測定箇所を変更した10回の接触角の算術平均値に基づいて計算することができる。
【0028】
本実施形態における変性リグニンの原料として用いる、植物に由来するリグニンとしては、例えば、木本系植物由来リグニン、草本系植物由来リグニンが挙げられる。
木本系植物由来リグニンとしては、例えば、針葉樹に含まれる針葉樹系リグニン、広葉樹に含まれる広葉樹系リグニン等が挙げられる。
針葉樹としては、例えば、エゾマツ、アカマツ、スギ、ヒノキ等が挙げられる。
広葉樹としては、例えば、シラカバ、ブナ等が挙げられる。
草本系植物由来リグニンとしては、例えば、イネ科植物に含まれるイネ系リグニン等が挙げられる。
イネ科植物としては、例えば、麦わら、稲わら、トウモロコシ、竹、葦等が挙げられる。
特に限定されないが、材料の安定性から、木本径植物由来リグニンを用いることが好ましく、針葉樹系リグニンを用いることがより好ましく、スギのリグニンを用いることがさらに好ましい。
リグニンとしては、これらの材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本実施形態における変性リグニンを構成するグリコール類は、アルコールの1種で、2つ以上の炭素を有する脂肪族炭化水素、または、環式脂肪族炭化水素が持つ、2つの炭素原子に結合した水素が、1つずつヒドロキシ基に置換した構造を持った化合物である。
グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリセリン、エチルヘキシルグリセリン、ポリグリセリン、ペンチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、カプリリルグリコール、ポリオキシアルキレンビスフェノール等が挙げられる。
これらのグリコール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
グリコール類の質量平均分子量は、熱可塑性樹脂との相溶性や、加工性の観点から、50以上10000以下であることが好ましく、より好ましくは200以上2000以下であり、さらに好ましくは400以上800以下である。
グリコール類の質量平均分子量は、例えば、ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定できる。
【0031】
変性リグニン100質量部に対して、グリコール類に基づく単位の含有量の含有量は、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、より好ましくは20質量部以上100質量部以下であり、さらに好ましくは50質量部以上80質量部以下である。グリコール類に基づく単位の含有量の含有量が、前記下限値以上であると、溶融混練時における流動性、加工性が良好となり、且つ塗工性、印刷適性が良好な樹脂成形体が得られる。また、グリコール類に基づく単位の含有量の含有量が、前記上限値以下であると、樹脂成形体のバイオマス化度を上げることができ、耐久性、機械特性、密着性が良好となる。
【0032】
樹脂組成物における変性リグニンに基づく単位の含有量は、例えば、樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、3質量%以上90質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。変性リグニンに基づく単位の含有量が前記下限値以上であると、バイオマス化度を上げることができ、また変性リグニンに由来する機能を発揮し、耐久性、機械特性、塗工性、印刷適性、密着性が良好な樹脂成形体が得られる。変性リグニンに基づく単位の含有量が前記上限値以下であると、溶融混練時における流動性、加工性が良好となる。
【0033】
変性リグニンの製造方法は、特に限定されないが、例えば、リグニンの原料となる植物材料を、グリコール類を用いて蒸解することにより得ることができる。
蒸解方法としては、特に制限されないが、例えば、リグニンの原料となる植物材料と、グリコール類と、酸触媒としての無機酸(例えば、塩酸、硫酸など)とを混合し、反応させる。
グリコール類の配合割合は、リグニンの原料となる植物材料100質量部に対して、グリコール類が、例えば、200質量部以上、好ましくは、300質量部以上であり、例えば、1000質量部以下、好ましくは、600質量部以下である。
【0034】
また、無機酸の配合割合は、グリコール類100質量部に対して、無機酸(100%換算)が、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.2質量部以上であり、例えば、2質量部以下、好ましくは、1質量部以下である。
【0035】
反応条件としては、常圧下、反応温度が、例えば、120℃以上、好ましくは、130℃以上であり、例えば、180℃以下、好ましくは、150℃以下である。
また、反応時間が、例えば、60分以上であり、例えば、240分以下、好ましくは、120分以下である。
【0036】
反応終了後、公知のアルカリ(例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム等)を、適宜の割合で添加し、pHを調整して、変性リグニンを溶液に抽出させる。調整後のpHは、例えば、8以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、10.5以上であり、例えば、14以下である。このような方法によって、固形成分としてパルプが得られるとともに、溶液成分(パルプ廃液)として変性リグニンが得られる。
【0037】
次いで、濾過、プレス、遠心分離等の公知の分離方法によって、反応生成物から固形成分(パルプ)を分離し、溶液成分(パルプ廃液)を回収する。必要に応じて、固形成分(パルプ)を洗浄し、固形成分に含浸される溶液(変性リグニン)を、回収することもできる。
【0038】
その後、無機酸(例えば、塩酸、硫酸など)等を添加し、pHを、調整して、変性リグニンを析出及び沈殿させる。調整後のpHは、例えば、1.5以上であり、例えば、5以下、好ましくは、3以下、より好ましくは、2以下である。これにより、変性リグニンを沈殿させることができる。また、得られた沈殿を、例えば、濾過、プレス、遠心分離等の公知の方法で回収することにより、固形分として、変性リグニンを得ることができる。
【0039】
<相溶化剤>
樹脂組成物は、相溶化剤を含むことが好ましい。相溶化剤は、非反応性と、反応性とがある。
非反応性の相溶化剤としては、水添スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレングロック共重合体(SEBS)、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレントリブロック共重合体(SIPS)等や、PE-g―PS、PE-g-PS、PE-g―AS、PP-g―AS、EEA-g―AS等のポリスチレン(PS)やアクリロニトリルスチレン共重合体(AS)グラフトポリマー等が挙げられる。
【0040】
反応性の相溶化剤は、熱可塑性樹脂と相溶性を示し、変性リグニンの官能基と反応する樹脂である。反応性の相溶化剤としては、無水マレイン酸変性PP(PP-MAH)、無水マレイン酸変性エチレン・ブテン共重合体(PE-MAH)、エチレンGMA共重合体(PE-GMA)、無水マレイン酸変性SEBS(SEBS-MAH)、グラフトポリマーPC-g-P(GMA/AS)、オキサゾリン基含有PS(PS-Ox)等が挙げられる。
中でも、無水マレイン酸変性樹脂を用いることで、熱可塑性樹脂と変性リグニンとの相溶性が良好となり、機械特性および印刷適性、塗工性、密着性に優れた樹脂成形体を得ることができる。無水マレイン酸変性樹脂の酸価は5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが好ましい。無水マレイン酸変性樹脂の酸価が前記範囲内であると、熱可塑性樹脂との相溶性と反応性を両立できる。酸価はJIS K 2510により評価できる。
【0041】
相溶化剤の含有量は、樹脂組成物の総質量(100質量%)に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。相溶化剤の含有量が前記下限値以上であると、熱可塑性樹脂と変性リグニンとの相溶性が良好となり、塗工性、印刷適性、密着性が良好な樹脂成形体が得られる。相溶化剤の含有量が前記上限値以下であると、耐久性、機械特性が良好な樹脂成形体が得られる。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物は、フィラー、アンチブロッキング剤(AB剤)、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物は、加工性、流動性の良好な変性リグニンを含むため、汎用の熱可塑性樹脂にバイオマス材料であるリグニンを相溶化させることが可能である。そのため、本実施形態の樹脂組成物は、流動性に優れ、溶融混練等の加工に好適であり、樹脂への分散・相溶性に優れる。従って、耐久性、機械特性に優れ、かつ塗工性、印刷適性、密着性に優れた樹脂成形体の製造に好適である。
【0044】
≪樹脂組成物の製造方法≫
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂と、グリコール類により変性された変性リグニンとを混練して樹脂組成物を得る工程を含む。
【0045】
熱可塑性樹脂と変性リグニンとを混練する方法としては、特に限定されないが、例えば、単軸混練機、二軸混練機、多軸混練機、ニーダー、ロールミル、プラネタリーミキサー、二軸ミキサー、などの装置を用いて、熱可塑性樹脂ペレットに乾燥固形物を添加しながら混練する方法が挙げられる。2種類以上の装置を組み合わせて用いて乾燥固形物と熱可塑性樹脂とを混練してもよい。混練処理を複数回実施することにより、熱可塑性樹脂中での変性リグニンの分散性をさらに向上させることが可能である。
【0046】
混練処理時の温度は用いる熱可塑性樹脂が溶融可能な温度の範囲で適宜設定することができるが、通常、100℃~300℃の範囲である。また、混練処理の際の滞留時間も特に限定されず、用いる熱可塑性樹脂の種類によって適宜設定することができるが、通常は0.5分~60分の範囲である。
混練温度は、特に限定されないが、160℃以上300℃以下であることが好ましい。より好ましくは180℃以上280℃以下、さらに好ましくは200℃以上260℃以下である。混練温度は上記下限値以上であると、熱可塑性樹脂や変性リグニンの流動性、加工性が良好となり、均一で、機械特性、塗工性、印刷適性が良好な樹脂成形体を得られる。混練温度が上記上限値以下であると、熱可塑性樹脂や変性リグニンの加熱による変質を抑制することができ、塗工性、印刷適性、密着性が良好な樹脂成形体を得られる。
混練時間は、特に限定されないが、0.5分以上20分以下であることが好ましく、より好ましくは1分以上10分以下であり、さらに好ましくは2分以上5分以下である。混練時間が上記下限値以上であると、熱可塑性樹脂と変性リグニンが相溶化した均一な樹脂成形体が得られる。混練時間が上記上限値以下であると、熱可塑性樹脂や変性リグニンの変質を抑制することができる。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、環境への負荷が低く、簡便な手順で、変性リグニンを含む樹脂組成体を提供することができる樹脂組成物が得られる。得られた樹脂組成物は、変性リグニンが十分に分散、相溶化しているため、強度特性の向上や熱寸法安定性の改善、塗工性、印刷適性、密着性といったリグニンの効果を十分に発揮する、樹脂成形体が得られる。
【0048】
≪樹脂成形体≫
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る樹脂成形体を説明する。
図1は、本実施形態の樹脂成形体を模式的に示す断面図である。
本実施形態の樹脂成形体は、上述の実施形態の樹脂組成物を含む。
図1に示すように、本実施形態の樹脂成形体1は、例えば、フィルム状の成形体である。
【0049】
樹脂組成体1における変性リグニンの含有量は、例えば、樹脂組成体1の総質量(100質量%)に対して3質量%以上90質量%以下であることが好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。変性リグニンの含有量が前記下限値以上であると、バイオマス化度を上げることができ、また変性リグニンに由来する抗酸化作用や難燃性、高耐熱性、高弾性率等により、良好な機械特性と耐久性を発揮できる。変性リグニンの含有量が前記上限値以下であると、溶融混練時における流動性、加工性が良好となる。
【0050】
樹脂成形体1の形態は特に限定されないが、例えば、フィルム等が挙げられる。フィルムの場合、樹脂成形体1の厚さは、材質や構成等を勘案して決定され、例えば、5μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上700μm以下であることがより好ましく、50μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。樹脂成形体1の厚さが前記下限値以上であると、樹脂成形体1の強度をより高められる。樹脂成形体1の厚さが前記上限値以下であると、樹脂成形体1の柔軟性が高められ、取扱いが容易になる。樹脂成形体1の厚さは、例えば、シックネスゲージ等で測定できる。
【0051】
樹脂成形体1は、単一の樹脂で構成された単層フィルム、複数の樹脂を用いた単層又は2層以上のフィルムのいずれでもよい。
【0052】
樹脂成形体1の抗酸化作用は、樹脂成形体1を2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)のヘキサン溶液に浸漬し、ラジカル状態のDPPHに由来する509nm吸光度の変化を測定することにより評価できる。吸光度変化率は15%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上である。
【0053】
樹脂成形体1の難燃性は、示差熱熱重量同時測定装置を用い、プラチナパンに試料約10mgを添加し、窒素雰囲気下で25℃から800℃まで10℃/min.で温度を上昇させ、空のアルミパンをリファレンスとして800℃における試料の残存率により、評価することができる。800℃における試料の残存率は1%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上である。
【0054】
樹脂成形体1の弾性率は、特に限定されないが、200MPa以上であることが好ましく、より好ましくは1200MPa以上である。樹脂成形体1の弾性率は、JIS K 7127に従い、得られたフィルム(樹脂成形体1)を、ダンベル形に切り出し、小型卓上試験機を用いて引張試験により測定できる。
【0055】
樹脂成形体1の水に対する接触角は40°以上105°以下であることが好ましく、より好ましくは50°以上90°以下である。接触角が前記下限値以上であると、耐久性、機械特性と印刷性、塗工性、密着性を両立した熱可塑性樹脂成形体1を得ることができる。接触角が前記上限値以下であると、加工性、流動性に優れ、濡れ性が良好で、印刷適性、密着性に優れた樹脂成形体1が得られる。
樹脂成形体1の水に対する接触角は、25℃において接触角計(協和界面科学社製、ポータブル接触角計 PCA-1)を用いて、液量1.5μLの水滴を樹脂成形体1に滴下し、1秒後の液滴の接触角を評価することで測定できる。
【0056】
樹脂成形体1の表面自由エネルギーは、30mJ/m以上100mJ/m以下であることが好ましく、より好ましくは60mJ/m以上80mJ/m以下である。表面自由エネルギーが、前記範囲内であると、優れた耐久性、機械特性及び印刷適性、塗工性、密着性を両立できる。
表面自由エネルギーは、樹脂成形体1の3種類の溶媒で測定した接触角を、北崎・畑理論に当てはめて、算出することができる。3種類の溶媒として、水(蒸留水)、ジヨードメタン及びヘキサデカンを用いることができる。表面自由エネルギーの値は、測定箇所を変更した10回の接触角の算術平均値に基づいて計算することができる。
【0057】
≪樹脂成形体の製造方法≫
本実施形態の樹脂成形体は、上述の実施形態の樹脂組成物を押出成形によりフィルム等に成形したものであってもよいし、紐状に押出したあと冷却水に浸漬し、さらにカッターで切断することで再ペレット化して、マスターバッチとしたものであってもよい。変性リグニンが熱可塑性樹脂の内部に分散したマスターバッチは、運送等の取扱いが容易である。そのため、マスターバッチを様々な他の熱可塑性樹脂に容易に混合することができ、変性リグニンを様々な他の熱可塑性樹脂に容易に混練させることができる。
【0058】
本実施形態の樹脂成形体1の製造方法は、環境への負荷が低く、簡便な手順で、変性リグニンを含む樹脂組成体1を提供することができる。得られた成形体中には変性リグニンが十分に分散、相溶化するため、強度特性の向上や熱寸法安定性の改善、塗工性、印刷適性、密着性といったリグニンの効果を十分に発揮することができる。
【0059】
≪積層フィルム≫
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る積層フィルムを説明する。
図2は、本実施形態の積層フィルムを模式的に示す断面図である。
図2に示すように、本実施形態の積層フィルム3は、例えば、樹脂成形体1と、樹脂成形体1の一方の主面1aに形成された機能層2とを備える。
【0060】
機能層2を形成する場合、例えば、樹脂成形体1の一方の主面1aに、フィルターを用いてろ過した塗液をウェットコート法により塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥(溶媒を除去)することで、樹脂組成物の硬化物である機能層2を形成できる。
塗液の塗布方法としては、公知のウェットコート法を用いることができる。
ウェットコート法としては、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法等が挙げられる。
【0061】
塗膜を乾燥する方法としては、例えば、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等の公知の乾燥方法を用いることができる。塗膜の乾燥温度は、例えば、50℃~200℃とできる。乾燥時間は、塗膜の厚さ、乾燥温度等によっても異なるが、例えば、1秒間~5分間とできる。
【0062】
機能層2に含まれる機能性材料としては、例えば、UV吸収剤、可塑剤、酸化防止剤、滑剤、意匠性材料、防黴剤、防腐剤、防曇剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、保湿剤、吸着剤等が挙げられる。
【0063】
樹脂成形体1において、機能層2が形成される一方の主面1aには、薬品処理、溶剤処理、コロナ処理、低温プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理が施されていてもよい。これにより、樹脂成形体1の一方の主面1aと機能層2との密着性をより高められる。
【0064】
≪ラミネーションフィルム≫
本発明の一実施形態に係るラミネーションフィルムは、上述の実施形態の樹脂成形体1と、樹脂成形体1の一方又は双方の主面に形成されたラミネート層とを備えたフィルムである。
ラミネート層としては、例えば、PPフィルム、ポリエチレン(PE)フィルム等のシーラント材が挙げられる。
これらのシーラント材は、加熱により溶融するため、ラミネート層同士を重ね合わせて加熱する(ヒートシールする)ことにより、容易に後述する包装体を得ることができる。
【0065】
ラミネート層の厚さは、例えば、1μm以上100μm以下であることが好ましく、2μm以上50μm以下であることがより好ましく、3μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。ラミネート層の厚さが前記下限値以上であると、得られる包装体のシール性をより高められる。ラミネート層の厚さが前記上限値以下であると、ラミネーションフィルムの柔軟性がより高められ、取扱いやすくなる。
ラミネート層の厚さは、例えば、ラミネーションフィルムを厚さ方向に切断した断面を顕微鏡等で観察することにより求められる。
【0066】
ラミネート層を形成する方法は、特に限定されず、例えば、樹脂成形体1の一方又は双方の面に接着剤を塗布し、シーラント材を貼り合わせる方法、樹脂成形体1の一方又は双方の主面にシーラント材を重ね、これを押圧しつつ加熱する方法、樹脂成形体1とシーラント材とを共押出する方法等が挙げられる。
ラミネート層を形成する方法としては、ラミネーションフィルムの物理強度をより高められることから、樹脂成形体1の一方又は双方の主面に接着剤を塗布し、シーラント材を貼り合わせる方法が好ましい。
【0067】
ラミネート層の形成に用いる接着剤としては、特に限定されず、例えば、2液硬化型のエステル系接着剤、エーテル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等が挙げられる。
【0068】
加熱してラミネート層を形成する際の加熱温度は、例えば、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。加熱してラミネート層を形成する際の加熱温度が前記下限値以上であると、樹脂成形体1とラミネート層との接着性をより高められる。加熱してラミネート層を形成する際の加熱温度の上限値は、ラミネーションフィルムを構成する各層が熱により損傷を受けることを抑制する観点から、例えば、250℃以下とされる。
【0069】
樹脂成形体1の一方の主面1aにラミネート層を形成する場合、樹脂成形体1か機能層2のどちらかの表面にラミネート層を形成することとなる。樹脂成形体1の表面にラミネート層を形成した場合、ラミネーションフィルムを製袋した包装体の最表層に機能層2が位置し、樹脂成形体1の効果により密着性が向上し、機能層2によって、樹脂成形体1及びラミネート層を保護することができる。また、機能層2の表面にラミネート層を形成した場合、ラミネーションフィルムを製袋した包装体の最表層に樹脂成形体1が位置し、樹脂成形体1によって、ラミネート層が酸素や紫外線によって劣化することを抑制でき、また機能層2が傷つくことを抑制できる。
【0070】
本実施形態のラミネーションフィルムは、機能層2を備える樹脂成形体1を用いたものであるため、バイオマス原料を有効利用できる。
本実施形態のラミネーションフィルムは、樹脂成形体1を用いたものであるため、積層フィルムと同様に、抗酸化性、紫外線吸収能、難燃性、高弾性率等の機能性を有する。
本実施形態のラミネーションフィルムは、抗酸化性を有するため、自身の酸化劣化を抑制でき、層間の剥離を抑制できる。このため、層間の密着性をより高められ、耐衝撃性に優れる。
【0071】
≪包装体≫
本発明の一実施形態に係る包装体は、樹脂成形体1や、積層フィルム3が製袋されたものである。
包装体としては、例えば、樹脂成形体1や、積層フィルム3の機能層2の表面に接着剤を塗布し、シーラント材を積層したラミネーションフィルムを得、得られたラミネーションフィルムのシーラント材同士をヒートシールして製袋された袋が挙げられる。
【0072】
接着剤としては、公知のホットメルト接着剤、反応性ホットメルト接着剤等を用いることができる。より具体的には、例えば、2液硬化型のエステル系接着剤、エーテル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等が挙げられる。
シーラント材としては、例えば、PPフィルム、ポリエチレン(PE)フィルム等が挙げられる。
【0073】
包装体の形態としては、例えば、合掌貼り袋、三方シール袋、四方シール袋、ガゼット袋、スタンド袋、これらのチャック付き袋等が挙げられる。
また、例えば、包装体としては、開口部を有する容器本体と、積層フィルム3からなる蓋体とを備え、容器本体の開口部周縁にシーラント材を当接し、上記積層フィルム3を容器本体にヒートシールした容器が挙げられる。
【0074】
本実施形態の包装体は、変性リグニンを含む樹脂成形体1や、積層フィルム3が製袋されたものであるため、バイオマス原料を有効利用できる。
本実施形態の包装体は、樹脂成形体1又は積層フィルム3が製袋されたものであるため、積層フィルム3と同様に、抗酸化性、紫外線吸収能、機械特性、塗工性、印刷性、密着性等の機能性を有する。
本実施形態の包装体は、抗酸化性を有するため、自身の酸化劣化を抑制でき、層間の剥離を抑制できる。このため、層間の密着性をより高められ、耐衝撃性に優れる。
【実施例0075】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の各例において、特に断りのない限り、「%」は質量%(w/w%)を表し、「部」は質量部を表す。
【0076】
≪樹脂≫
熱可塑性樹脂
・ポリプロピレン(PP):プライムポリプロE-2000GV(プライムポリマー社製)
・ポリエチレン(PE):エボリューSP3530(プライムポリマー社製)
・熱可塑性ポリウレタン(TPU):エラストランET385(三井・デュポンポリケミカル社製)
・エチレンとメタクリル酸の共重合樹脂(EMAA):ニュクレルAN4228C(BASFジャパン社製)
・6-ナイロン(PA6):UBE NYLON 1022B(宇部興産社製)
熱硬化型樹脂
・フェノール樹脂(PF):ノボラック型フェノール樹脂(旭有機材工業社製)
【0077】
≪熱可塑性樹脂の溶融粘度測定≫
各例の熱可塑性樹脂の溶融粘度は、レオメーターを用いて測定した。直径25mmのパラレルプレートを用い、窒素雰囲気下で、230℃の温度で100rad/sから1rad/sの各周波数にて測定することにより、100rad/sにおける溶融粘度を測定した。
測定した溶融粘度の値から、下記評価基準に基づいて、各例の熱可塑性樹脂の溶融粘度を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。熱可塑性樹脂の溶融粘度の評価が「◎」又は「〇」であると、変性リグニンが分散、相溶しやすくなり、機械特性、塗工性、印刷適性、ラミネート性に優れた樹脂成形体を得ることができる。結果を表1に示す。
≪評価基準≫
◎:溶融粘度が100Pa・s以上5000Pa・s以下。
〇:溶融粘度が10Pa・s以上100Pa・s未満、又は、5000Pa・s超10000Pa・s以下。
×:溶融粘度が10°未満、又は、10000°超、又は、測定不可。
【0078】
≪熱可塑性樹脂の接触角測定≫
各例の熱可塑性樹脂ペレットを230℃に加熱し、圧縮成形、冷却して、樹脂成形体として熱可塑性樹脂のシートを作製した。上記熱可塑性樹脂シートに水(蒸留水)を滴下し、接触角計(協和界面科学社製、ポータブル接触角計 PCA-1)を用いて水の接触角を液滴法で測定した。測定時の気温と湿度は、それぞれ23℃、50%RHとし、液量は1.5μLで、着液してから1秒後の接触角を求めた。接触角は、測定箇所を変更して10回測定し、その算術平均値とした。測定した水の接触角の値から、下記評価基準に基づいて、各例の熱可塑性樹脂の接触角を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。熱可塑性樹脂の接触角の評価が「◎」又は「〇」であると、変性リグニンとの相溶性が良好であり、機械特性及び、塗工性、印刷性や密着性に優れた樹脂成形体が得られる。結果を表1に示す。
≪評価基準≫
◎:水の接触角が80°以上100°以下。
〇:水の接触角が30°以上80°未満、又は、100°超120°以下。
×:水の接触角が30°未満、又は、120°超。
【0079】
≪熱可塑性樹脂の表面自由エネルギー測定≫
上記で作製した各例の樹脂成形体について、3種類の溶媒で測定した接触角を北崎・畑理論に当てはめて、表面自由エネルギーを算出した。3種類の溶媒として、水(蒸留水)、ジヨードメタン及びヘキサデカンを用い、接触角の測定条件は、上記≪接触角の評価≫における測定条件と同様とした。表面自由エネルギーの値は、測定箇所を変更した10回の接触角の算術平均値に基づいて計算した。表面自由エネルギーの評価は、下記評価基準に基づいて、「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。表面自由エネルギーの評価が「◎」又は「〇」であると、濡れ性が良好で、滲みやハジキの発生を抑制でき、印刷性や密着性に優れた樹脂成形体を得られる。結果を表1に示す。
≪評価基準≫
◎:表面自由エネルギーの値が50mJ/m以上80mJ/m以下。
〇:表面自由エネルギーの値が30mJ/m以上50mJ/m未満、又は、80mJ/m超100mJ/m以上。
×:表面自由エネルギーの値が30mJ/m未満、又は、100mJ/m超。
【0080】
≪熱可塑性樹脂のSP値計算≫
ハンセン溶解度パラメーターソフトHSPiP(Hansen Solubility Parameter in Practice)を用い、熱可塑組成樹脂の分子構造から、構成モノマーのSP値を算出した。ソフトの入力画面で化学構造をSmile記法で入力し、Yamamoto Molecular Break(Y-MB)法によりHSP値を算出し、分散項、極性項、水素結合項の合計値から、SP値を得た。
測定した質量平均分子量の値から、下記評価基準に基づいて、各例の熱可塑性樹脂のSP値を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。SP値の評価が「◎」又は「〇」であると、変性リグニンとの相溶性が良好であり、機械特性、塗工性、印刷適性、ラミネート性に優れた樹脂成形体を得ることができる。結果を表1に示す。
≪評価基準≫
◎:SP値が20以上30以下。
〇:SP値が10以上20未満、又は、30超40以下。
×:SP値が10未満、又は、40超。
【0081】
表1に各熱可塑性樹脂の評価結果を示す。
【0082】
【表1】
【0083】
≪リグニン≫
≪製造例1≫
<変性リグニン1:PEG400変性リグニン>
数平均分子量400のポリエチレングリコールにより変性されたリグニンを製造した。数平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG400)230質量部と、酸触媒としての硫酸0.69質量部(PEG400の100質量部に対して、0.3質量部)とを、反応容器に入れて撹拌した。
次いで、絶乾スギ木粉46質量部を、反応容器に投入し、常圧下、140℃に昇温して、撹拌しながら90分反応させた。
次いで、反応容器を冷却し、温度が40℃以下になったことを確認した後、水酸化ナトリウム(0.2mol/L)を280質量部投入して、30分間撹拌した。得られた固形成分(パルプ)を、フィルタープレスにより除去し、溶液成分を回収した。得られた溶液成分に、硫酸を添加し、pHを2.0に調整した。これにより、変性リグニンの懸濁液を得て、遠心分離により回収した。
【0084】
<変性リグニン2:PEG200変性リグニン>
数平均分子量400のポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量200のポリエチレングリコールを用いた以外は、製造例1と同じ方法で変性リグニンを得た。
【0085】
<変性リグニン3:PEG1000変性リグニン>
数平均分子量400のポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量1000のポリエチレングリコールを用いた以外は、製造例1と同じ方法で変性リグニンを得た。
【0086】
<変性リグニン4:PEG2000変性リグニン>
数平均分子量800のポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量2000のポリエチレングリコールを用いた以外は、製造例1と同じ方法で変性リグニンを得た。
【0087】
<酢酸変性リグニン>
コーンストーバー100質量部を、95質量%の酢酸1000質量部および硫酸3質量部と混合し、還流下において4時間反応させた。反応後、濾過してパルプを除去し、パルプ廃液を回収した。
次いで、ロータリーエバポレーターを用いてパルプ廃液中の酢酸を除去し、体積が1/10になるまで濃縮した後、その濃縮液の10倍量(質量基準)の水を添加し、濾過することにより、固形分として酢酸変性リグニンを得た。
【0088】
<リグニンスルホン酸>
リグニンスルホン酸ナトリウム、サンエキス(登録商標)P252(質量平均分子量:1000超5000以下)、日本製紙社製。
【0089】
<アルカリリグニン>
アルカリリグニン、L0082(質量平均分子量:10000超20000以下)、東京化成工業社製。
【0090】
≪変性リグニンの質量平均分子量の測定≫
本実施例の変性リグニン1~4、酢酸変性リグニン、リグニンスルホン酸、アルカリリグニンの質量平均分子量は、以下の測定装置を用い、以下の測定条件等でGPCによって測定した値である。
<測定装置>
・GPC装置:HLC-8320GPC EcoSEC、東ソー社製。
・使用カラム:TSKgelguardcolumn SuperMP(HZ)―M、TSKgel SuperMultipore HZ-M、TSKgel SuperH―RC。
・検出器:RI検出器、東ソー社製。
<測定条件等>
・溶離液:THF。
・溶離液流速:0.35mL/min。
・カラム温度:40℃。
・測定サンプル濃度:0.2質量%。
・標準物質:、標準ポリスチレンPStQuickMP-M(東ソー社製)。
・検量線:ポリスチレン基準。
測定した質量平均分子量の値から、下記評価基準に基づいて、各例の変性リグニンの質量平均分子量の値を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。変性リグニンの評価が「◎」又は「〇」であると、溶融混練において流動性、加工性に優れ、機械特性に優れた樹脂成形体を得ることができる。結果を表2に示す。
≪評価基準≫
◎:質量平均分子量が5000以上20000以下。
〇:質量平均分子量が100以上5000未満、又は20000超50000以下。
×:質量平均分子量が100未満、又は、50000超。
【0091】
≪リグニンの溶融粘度測定≫
各例のリグニンの溶融粘度はレオメーターを用いて測定した。直径25mmのパラレルプレートを用いて窒素雰囲気下で、230℃の温度で100rad/sから1rad/sの各周波数にて測定することにより、100rad/sにおける溶融粘度を測定した。
測定した溶融粘度の値から、下記評価基準に基づいて、各例の変リグニンの溶融粘度を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。リグニンの溶融粘度の評価が「◎」又は「〇」であると、溶融混練において流動性、加工性に優れ、機械特性に優れた樹脂成形体を得ることができる。結果を表2に示す。
≪評価基準≫
◎:溶融粘度が100Pa・s以上20000Pa・s以下。
〇:溶融粘度が10Pa・s以上100Pa・s未満、又は、20000Pa・s超50000°以下。
×:溶融粘度が10Pa・s未満、又は、50000Pa・s超、又は、測定不可。
【0092】
≪リグニンの接触角測定≫
各例のリグニンを10質量%の濃度でTHF等の溶媒に溶解させ、PET基材上に塗工し、100℃で1分乾燥させ、膜厚約2μmの変性リグニンの塗膜を作製した。上記変性リグニン塗膜表面に水(蒸留水)を滴下し、接触角計(協和界面科学株式会社製、ポータブル接触角計 PCA-1)用いて水の接触角を液滴法で測定した。測定時の気温と湿度は、それぞれ23℃、50%RHとし、液量は1.5μLで、着液してから1秒後の接触角を求めた。接触角は、測定箇所を変更して10回測定し、その算術平均値とした。測定した水の接触角の値から、下記評価基準に基づいて、各例の変性リグニンの接触角を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。変性リグニン接触角の評価が「◎」又は「〇」であると、濡れ性が良好で、滲みやハジキの発生を抑制でき、印刷性や密着性に優れた樹脂成形体を得られる。結果を表2に示す。
≪評価基準≫
◎:水の接触角が60°以上80°以下。
〇:水の接触角が30°以上60°未満、又は、80°超100°以下。
×:水の接触角が30°未満、又は、100°超。
【0093】
≪変性リグニンの表面自由エネルギー測定≫
上記で作製した各例の塗膜について、3種類の溶媒で測定した接触角を北崎・畑理論に当てはめて、表面自由エネルギーを算出した。3種類の溶媒として、水(蒸留水)、ジヨードメタン及びヘキサデカンを用い、接触角の測定条件は、上記≪リグニンの接触角測定≫における測定条件と同様とした。表面自由エネルギーの値は、測定箇所を変更した10回の接触角の算術平均値に基づいて計算した。表面自由エネルギーの評価は、下記評価基準に基づいて、「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。表面自由エネルギーの評価が「◎」又は「〇」であると、濡れ性が良好で、滲みやハジキの発生を抑制でき、印刷性や密着性に優れた樹脂成形体を得られる。結果を表2に示す。
≪評価基準≫
◎:表面自由エネルギーの値が60mJ/m以上80mJ/m以下。
〇:表面自由エネルギーの値が40mJ/m以上60mJ/m未満、又は、80mJ/m超120mJ/m以下。
×:表面自由エネルギーの値が40mJ/m未満、又は、120mJ/m超。
【0094】
表2に各例のリグニンの評価結果を示す。
【0095】
【表2】
【0096】
[実施例1]
≪樹脂組成物の作製≫
熱可塑性樹脂ペレットとしてPPを90質量部と、変性リグニンとして変性リグニン1(PEG400変性リグニン)を10質量部混合し、二軸混練機(ラボプラストミル、東洋精機製作所社製)を用いて混練処理を行った。混練処理温度を230℃とし、混練時のスクリュー回転数を10rpmとした。得られた樹脂組成物を紐状に押出した後、冷却水に浸漬し、さらにカッターで切断することで再ペレット化した。以上の工程によって、変性リグニンを含む樹脂組成物を得た。
【0097】
≪樹脂成形体の作製≫
前項で作製した樹脂組成物のペレットをマスターバッチとし、さらに押出フィルムを作製した。押出フィルムの成形には前項と同じくラボプラストミルを用い、ラボプラストミルより吐出された樹脂をラボプラストミル専用ユーティリティであるフィルム引取機を用いて巻取り、膜厚約250μmのフィルムとして、樹脂成形体を作製した。混練処理温度を230℃とし、混練時のスクリュー回転数を20rpmとした。
【0098】
[実施例2]
実施例1において、PPを95質量部と、変性リグニン1を5質量部とを混合して、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0099】
[実施例3]
実施例1において、PPを70質量部と、変性リグニン1を30質量部とを混合して、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0100】
[実施例4]
実施例1において、PPを50質量部と、変性リグニン1を50質量部とを混合して、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0101】
[実施例5]
実施例1において、PPを88質量部と、相溶化剤としてマレイン酸変性PPリケエイドMG-441P(理研ビタミン社製)を2質量部と、変性リグニンを10質量部とを混合して、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0102】
[実施例6]
実施例1において、熱可塑性樹脂としてPPの代わりにPEを用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0103】
[実施例7]
実施例1において、熱可塑性樹脂としてPPの代わりにTPUを用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0104】
[実施例8]
実施例1において、熱可塑性樹脂としてPPの代わりにEMAAを用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0105】
[実施例9]
実施例1において、熱可塑性樹脂ペレットとしてPA6を用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0106】
[実施例10]
実施例1において、変性リグニンとして変性リグニン1(PEG400変性リグニン)の代わりに変性リグニン2(PEG200変性リグニン)を用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0107】
[実施例11]
実施例1において、変性リグニンとして変性リグニン1(PEG400変性リグニン)の代わりに変性リグニン3(PEG1000変性リグニン)を用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0108】
[実施例12]
実施例1において、変性リグニンとして変性リグニン1(PEG400変性リグニン)の代わりにPEG2000変性リグニンを用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0109】
[比較例1]
実施例1において、変性リグニンとして変性リグニン1(PEG400変性リグニン)の代わりに酢酸変性リグニンを用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0110】
[比較例2]
実施例1において、変性リグニンとして変性リグニン1(PEG400変性リグニン)の代わりにリグニンスルホン酸ナトリウム(サンエキスP252)を用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0111】
[比較例3]
実施例1において、変性リグニンとして変性リグニン1(PEG400変性リグニン)の代わりにアルカリリグニン(L0082)を用いて、樹脂組成物及び樹脂成形体を作製した。
【0112】
[比較例4]
実施例2において、熱可塑性樹脂であるPPの代わりに熱硬化性樹脂としてPFを用い、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン(リグナイト社製)を配合して、樹脂組成物及び樹脂成形体の作製を試みたが、樹脂組成物のペレットが溶融せず、樹脂成形体を作製することができなかった。
【0113】
表3に実施例1~実施例12、比較例1~4における樹脂成形体の組成を示す。
【0114】
【表3】
【0115】
≪抗酸化性の評価≫
上記で作製した樹脂成形体を、それぞれ1cm×1.5cmの大きさに切り出し、試料とした。各例の試料を濃度25mg/Lの2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)のヘキサン溶液6mLに浸漬し、25℃の恒温槽に静置した(以下、「DPPH含有ヘキサン溶液」と記載)。また、各例の試料をヘキサン5mLに浸漬し、25℃の恒温槽に静置した(以下、「DPPH非含有ヘキサン溶液」と記載)。試料を浸漬前で濃度が25mg/LであるDPPHのヘキサン溶液の吸光度Aと、浸漬24時間後のDPPH含有ヘキサン溶液の吸光度Aと、浸漬24時間後のDPPH非含有ヘキサン溶液の吸光度Aとを、紫外可視分光光度計(日立製作所製、U-4100)を用いて測定し、吸光度変化率(A-(A-A))/A×100[%]を算出した。なお、各溶液の吸光度は、509nmにおける値を採用した。下記評価基準に基づいて、各例の樹脂成形体の抗酸化性を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。結果を表4に示す。
≪評価基準≫
◎:吸光度変化率が40%以上。
〇:吸光度変化率が15%以上40%未満。
×:吸光度変化率が15%未満。
【0116】
≪800℃における残存率の評価≫
示差熱熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、STA7200RV)を用いて、800℃における残存率を評価した。プラチナパンに試料約10mgを添加し、窒素雰囲気下で25℃から800℃まで10℃/min.で温度を上昇させ、空のアルミパンをリファレンスとして800℃における試料の残存率を測定した。結果を表4に示す。
≪評価基準≫
◎:残存率が10%以上。
〇:残存率が1%以上10%未満。
×:残存率が1%未満。
【0117】
≪機械特性の評価≫
JIS K 7127に従い、得られたフィルム(樹脂成形体)を、ダンベル形に切り出し、小型卓上試験機EZ-LX(島津製作所社製)を用いて引張強度を測定した。測定条件は、以下の通りとした。結果を表4に示す。
<測定条件>
・サンプル片:ダンベル片(試験片5)。
・ロードセル:1kN。
・引張速度:50mm/min。
・標線間距離:80mm。
・N:5。
引張強度測定で得られた強度伸び曲線の最大強度となる上降伏点におけるひずみ(%)と応力(MPa)、破断時における伸び(%)と応力(MPa)、弾性率(MPa)の平均値を記録した。結果を表4に示す。表中「-」は、引張強度を測定しなかったことを示す。
測定した弾性率の値から、下記評価基準に基づいて、各例の樹脂成形体の弾性率を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。結果を表4に示す。
≪評価基準≫
◎:1200MPa以上。
〇:弾性率が200MPa以上、1200MPa未満。
×:弾性率が200MPa未満。
【0118】
≪接触角の評価≫
上記で作製した各例の樹脂成形体の表面に水(蒸留水)を滴下し、接触角計(協和界面科学株式会社製、ポータブル接触角計 PCA-1)にて水の接触角を液滴法で測定した。測定時の気温と湿度は、それぞれ23℃、50%RHとし、液量は1.5μLで、着液してから1秒後の接触角を求めた。接触角は、測定箇所を変更して10回測定し、その算術平均値とした。測定した水の接触角の値から、下記評価基準に基づいて、「◎」、「〇」、「×」の3段階で各例の樹脂成形体の接触角を評価した。接触角の評価が「◎」又は「〇」であると、樹脂成形体と液滴との濡れ性が良好で、滲みやハジキの発生を抑制でき、印刷性や密着性に優れる。結果を表4に示す。
≪評価基準≫
A:水の接触角が50°以上90°以下。
B:水の接触角が40°以上50°未満、又は、90°超105°以下。
C:水の接触角が40°未満、又は、105°超。
【0119】
≪表面自由エネルギーの評価≫
上記で作製した各例の樹脂成形体について、3種類の溶媒で測定した接触角を北崎・畑理論に当てはめて、表面自由エネルギーを算出した。3種類の溶媒として、水(蒸留水)、ジヨードメタン及びヘキサデカンを用い、接触角の測定条件は、上記≪接触角の評価≫における測定条件と同様とした。表面自由エネルギーの値は、測定箇所を変更した10回の接触角の算術平均値に基づいて計算した。表面自由エネルギーの評価は、下記評価基準に基づいて、「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。表面自由エネルギーの評価が「◎」又は「〇」であると、機能層と液滴との濡れ性が良好で、滲みやハジキの発生を抑制でき、印刷性や密着性に優れる。結果を表4に示す。
≪評価基準≫
◎:表面自由エネルギーの値が60mJ/m以上80mJ/m以下。
○:表面自由エネルギーの値が30mJ/m以上60mJ/m未満、又は、80mJ/m超100mJ/m以下。
×:表面自由エネルギーの値が30mJ/m未満、又は、100mJ/m超。
【0120】
≪印刷性の評価≫
上記で作製した各例の樹脂成形体について、以下に示す手順で、印刷性の評価を実施した。
印刷インキとして、水性グラビアインキ(大日精化工業社製、ハイドリック(登録商標)PRP-500)を樹脂成形体の表面に印刷し、5cm×5cmの範囲を画像解析により観察した。下記評価基準に基づいて、各例の積層フィルムの印刷性を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。下記評価基準において、「%」は、滲みやハジキが確認できる面積の割合を表す。結果を表4に示す。
≪評価基準≫
◎:滲みやハジキが10%未満である。
〇:滲みやハジキが10%以上30%未満である。
×:滲みやハジキが30%以上である。
【0121】
≪塗工性の評価≫
水系樹脂としてPVAを水(蒸留水)に溶解させ、PVAの10%水溶液を調製した。各例における樹脂成形体の一方の面に、孔径5.0μmのフィルターを用いて塗液をろ過した塗工液をワイヤーバーで塗布し、100℃で乾燥させて、厚さ10μmの機能層を形成し、積層フィルムを作製した。
5cm×5cmの範囲を画像解析により観察した。下記評価基準に基づいて、各例の積層フィルムの印刷性を「◎」、「〇」、「×」の3段階で評価した。下記評価基準において、「%」は、滲みやハジキが確認できる面積の割合を表す。結果を表4に示す。
≪評価基準≫
◎:滲みやハジキが10%未満である。
〇:滲みやハジキが10%以上30%未満である。
×:滲みやハジキが30%以上である。
【0122】
≪密着性の評価≫
各例の樹脂成形体について、以下に示す手順で、密着性の評価を実施した。
各例の樹脂成形体の両面に、2液型の接着剤(商品名「A-525/A-52」、三井化学社製)を用いて、厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、商品名「トレファン(登録商標)ZK207」、東レフィルム加工社製)を貼り付け、ラミネートフィルムを作製した。このラミネートフィルムを10cm×10cmの大きさに切り出し、オートクレーブ中で121℃、20分間、高温高圧蒸気処理を行った。処理後のラミネートフィルムについて、JIS Z1707:2019に記載の「7.2引張力及び引張破壊伸び試験」に準拠してラミネート強度を測定した。
具体的には、まず、上記ラミネートフィルムを幅15mmの短冊状にカットした。次に、短冊状にカットされた試験サンプルを、引張試験機(製品名「テンシロン(登録商標)RTC-1250」、オリエンテック社製)を用いて、樹脂成形体とCPPフィルムとが反対側に向かうように(すなわち剥離角度がT型になるように)、300mm/分の剥離速度でCPPフィルムから剥離し、剥離に要した強度(単位:N/15mm)をラミネート強度として測定した。下記評価基準に基づいて、各例の樹脂成形体の密着性をA~Cの3段階で評価した。結果を表4に示す。
≪評価基準≫
◎:ラミネート強度が2N/15mm以上。
〇:ラミネート強度が1.5N/15mm以上2N/15mm未満。
×:ラミネート強度が1.5N/15mm未満。
【0123】
実施例1~実施例12、比較例1~比較例3の評価結果を表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
表4に示すように、各種汎用熱可塑性樹脂に変性リグニンを適用した実施例1~実施例12は、高弾性率、難燃性、抗酸化作用を示し、機械特性と耐久性に優れると共に、印刷性、塗工性、密着性を両立することが確認できた。グリコール類で変性された変性リグニンを用いることにより、流動性、加工性に優れ、各種汎用熱可塑性樹脂との相溶性が良好となり、均一な樹脂成形体を得られる。このため、機械特性と耐久性、更に印刷性、塗工性、密着性を両立できたと考えられる。なお、抗酸化性は、変性リグニンの含有量が多いほど高くなる傾向があり、密着性は、抗酸化性が高いほど高くなる傾向があった。
これに対し、グリコール類で変性されていないリグニンを用いた比較例1~比較例3においては、機械特性、耐久性と、印刷性、塗工性、密着性を両立できなかった。比較例1~比較例3のリグニンにおいては、加工時の流動性や熱可塑性樹脂との相溶性が悪かったためと考えられる。
比較例4においては、加熱により樹脂が硬化してしまうために加工ができず、樹脂成形体を作製できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明によれば、汎用熱可塑性樹脂に、加工性が低下することなく、バイオマス材料を分散・相溶化することが可能であり、バイオマス材料の添加により熱可塑性樹脂成形体の機械特性、耐久性が向上すると共に、印刷適性に優れた樹脂成形体を得られる。この樹脂成形体は、建材や包装材料、電子部材等に活用可能である。
【符号の説明】
【0127】
1 樹脂成形体
2 機能層
3 積層フィルム
図1
図2