(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175968
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】杭施工方法、杭撤去方法および杭構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20241212BHJP
E02D 9/02 20060101ALI20241212BHJP
E02D 5/34 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
E02D27/12
E02D9/02
E02D5/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094118
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】井出 雄介
(72)【発明者】
【氏名】田島 新一
【テーマコード(参考)】
2D041
2D046
2D050
【Fターム(参考)】
2D041AA01
2D041CB05
2D041DA01
2D041EB02
2D046CA01
2D046DA00
2D050AA01
2D050DA01
(57)【要約】
【課題】ケーシングの圧入にかかる手間およびコストを低減させることができる杭施工方法、杭撤去方法および杭構造を提供する。
【解決手段】一実施形態に係る杭施工方法は、所定期間が経過した後に撤去される杭構造を施工する杭施工方法である。杭施工方法は、地盤1に掘削孔2を形成する工程と、掘削孔2に、杭構造の撤去時に置換材が注入される配管20が固定された鉄筋かご10を建て込む工程と、配管20が固定された鉄筋かご10が立て込まれた掘削孔2にコンクリートを打設することによって、鉄筋かご10および配管20を埋設するコンクリート部を形成する工程と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定期間が経過した後に撤去される杭構造を施工する杭施工方法であって、
地盤に掘削孔を形成する工程と、
前記掘削孔に、前記杭構造の撤去時に置換材が注入される配管が固定された鉄筋かごを建て込む工程と、
前記配管が固定された前記鉄筋かごが立て込まれた前記掘削孔にコンクリートを打設することによって、前記鉄筋かごおよび前記配管を埋設するコンクリート部を形成する工程と、
を備える、
杭施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の杭施工方法によって施工された杭構造を撤去する杭撤去方法であって、
前記掘削孔から前記杭構造を引き抜く工程と、
前記杭構造を引き抜くとともに前記配管に前記置換材を注入することにより、前記掘削孔に前記置換材を充填する工程と、
を備える、
杭撤去方法。
【請求項3】
前記杭構造を引き抜く工程の前に、前記コンクリート部の外面と前記掘削孔の内面との間に滑剤を注入する工程を備える、
請求項2に記載の杭撤去方法。
【請求項4】
所定期間が経過した後に撤去される杭構造であって、
コンクリート部と、
前記コンクリート部に埋設されている鉄筋かごと、
前記コンクリート部に埋設されており、前記鉄筋かごに固定されるとともに前記杭構造の撤去時に置換材が注入される配管と、
を備え、
前記配管は、前記配管の下端部を封止し、前記置換材が注入されるときに外されるキャップを有する、
杭構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、杭構造を施工する杭施工方法、杭撤去方法および杭構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、杭引き抜き孔の地盤改良方法が記載されている。この地盤改良方法では、縁切・引抜工法により既存杭を引き抜いた後に杭引き抜き孔に堆積した孔底堆積土および泥水に体積調整砂を投入する。そして、杭引き抜き孔に撹拌装置を入れて体積調整砂を撹拌し、撹拌装置を引き抜きながら改良体を杭引き抜き孔に充填する。その後、改良体の天面と周辺地盤の表面との間を改良土等で埋め戻す埋め戻し工程が行われる。
【0003】
特許文献2には、既設杭の撤去方法が記載されている。この撤去方法では、まず既設杭の杭頭に複数のPC鋼棒を埋設し、既設杭より断面積が大きい深礎ライナプレートを地表において既設杭と同心となるように位置決めする。その後、下端部が既設杭の杭頭高さより下方に到達するまで深礎ライナプレートを地中に貫入する。そして、既設杭と深礎ライナプレートとの間を排土して排土空間を形成した後、排土空間に流動化処理土を充填する。
【0004】
流動化処理土が固化した後には、下端部にビットを備えたケーシングを地表において既設杭と同心となるように位置決めした後、下端部が既設杭の底面の深さに達するまでケーシングを地中に貫入する。その後、ケーシングの内側を排土して排土空間を形成し、排土空間に安定液を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-169749号公報
【特許文献2】特許第6645098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した既設杭の撤去方法では、ケーシングを、その下端部が既設杭の底面の深さに達するまで地盤に圧入する必要がある。このケーシングは、孔壁を保護するために設けられる。しかしながら、ケーシングの圧入には、手間およびコストがかかっているという現状がある。したがって、ケーシングの圧入にかかる手間およびコストを低減させることが求められる。
【0007】
本開示は、ケーシングの圧入にかかる手間およびコストを低減させることができる杭施工方法、杭撤去方法および杭構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示に係る杭施工方法は、所定期間が経過した後に撤去される杭構造を施工する杭施工方法である。杭施工方法は、地盤に掘削孔を形成する工程と、掘削孔に、杭構造の撤去時に置換材が注入される配管が固定された鉄筋かごを建て込む工程と、配管が固定された鉄筋かごが立て込まれた掘削孔にコンクリートを打設することによって、鉄筋かごおよび配管を埋設するコンクリート部を形成する工程と、を備える。
【0009】
(2)本開示に係る杭撤去方法は、前述した杭施工方法によって施工された杭構造を撤去する杭撤去方法であって、掘削孔から杭構造を引き抜く工程と、杭構造を引き抜くとともに配管に置換材を注入することによって、掘削孔に置換材を充填する工程と、を備える。
【0010】
この杭施工方法および杭撤去方法では、地盤に形成された掘削孔に鉄筋かごが建て込まれ、鉄筋かごには置換材が注入される配管が固定されている。この配管が固定された鉄筋かごにコンクリートが打設されることによって、鉄筋かごおよび配管はコンクリート部に埋設される。そして、所定期間が経過して杭構造が掘削孔から引き抜かれるときには、鉄筋かごに固定された配管に置換材が注入される。置換材は、配管に注入されることによって掘削孔に充填される。杭構造の引き抜きとともに掘削孔に置換材が充填されることにより、置換材が掘削孔の孔壁を保護するので孔壁保護のためのケーシングを不要とすることができる。したがって、ケーシングの圧入を不要とすることができるので、ケーシングの圧入にかかる手間およびコストを低減させることができる。
【0011】
(3)上記(2)において、杭撤去方法は、杭構造を引き抜く工程の前に、コンクリート部の外面と掘削孔の内面との間に滑剤を注入する工程を備えてもよい。この場合、杭構造を引き抜く前にコンクリート部の外面と掘削孔の内面との間に滑剤が注入されるので、引き抜き時における杭構造の周面摩擦を低減できる。したがって、杭構造の引き抜きを容易に行うことができる。
【0012】
(4)本開示に係る杭構造は、所定期間が経過した後に撤去される杭構造である。杭構造は、コンクリート部と、コンクリート部に埋設されている鉄筋かごと、コンクリート部に埋設されており、鉄筋かごに固定されるとともに杭構造の撤去時に置換材が注入される配管と、を備える。配管は、配管の下端部を封止し、置換材が注入されるときに外されるキャップを有する。
【0013】
この杭構造では、鉄筋かごに置換材が注入される配管が固定されており、鉄筋かごおよび配管はコンクリート部に埋設されている。所定期間が経過して掘削孔から引き抜かれるときに、鉄筋かごに固定された配管に置換材が注入される。配管はその下端部を封止するキャップを有し、キャップは配管に置換材が注入されるときに外される。置換材は、キャップが外された配管に注入されることによって掘削孔に充填される。よって、杭構造の引き抜きとともに掘削孔に置換材が充填されることにより、前述した杭施工方法および杭撤去方法と同様、置換材が掘削孔の孔壁を保護するのでケーシングを不要とすることができる。したがって、ケーシングの圧入にかかる手間およびコストを低減させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、ケーシングの圧入にかかる手間およびコストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一例としての杭構造を備える鉄道高架橋を模式的に示す図である。
【
図2】(a)は、掘削孔を示す平面図である。(b)は、掘削孔を示す断面図である。
【
図3】(a)は、掘削孔に建て込まれた鉄筋かごと配管を示す平面図である。(b)は、掘削孔に建て込まれた鉄筋かごと配管を示す断面図である。
【
図4】(a)は、
図3(a)の掘削孔にトレミー管が配置された状態を示す平面図である。(b)は、
図3(b)の掘削孔にトレミー管が配置された状態を示す断面図である。
【
図5】(a)は、杭構造の引き抜きとともに置換材を掘削孔に充填する状態を示す模式的な断面図である。
【
図6】(a)は、変形例に係る配管が固定された鉄筋かごが掘削孔に建て込まれた状態を示す平面図である。(b)は、変形例に係る配管が固定された鉄筋かごが掘削孔に建て込まれた状態を示す断面図である。
【
図7】(a)は、
図6(a)の配管に滑剤を注入する状態を示す平面図である。(b)は、
図6(b)の配管に滑剤を注入した状態を示す断面図である。
【
図8】一例としての滑剤注入装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る杭施工方法、杭撤去方法および杭構造の実施形態について説明する。図面の説明において同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。図面は、理解の容易化のため一部を簡略化または誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0017】
本実施形態に係る杭施工方法および杭撤去方法は、所定期間後に地盤から撤去される杭構造に用いられる。本実施形態に係る杭構造100は、例えば、鉄道車両Tのための鉄道高架橋工事の現場Aにおいて一時的に構築される。本実施形態において、杭構造100は、撤去が確実に見込まれる杭である。例えば、杭構造100は、仮線施工方式において用いられる仮杭である。
【0018】
この場合、現場Aでは、杭構造100とその上方に位置する仮柱Cとが構築される。より具体的には、例えば、本杭E1、本柱F1、杭構造100および仮柱Cが構築されて上下線が高架化した後に、本杭E1と杭構造100との間に本杭E2が構築され、本柱F1と仮柱Cとの間に本柱F2が構築される。その後、仮柱Cおよび杭構造100が撤去される。
【0019】
このように、仮柱Cおよび杭構造100は、所定期間経過後(上記の例では本杭E2および本柱F2が構築された後)に撤去される。ここで、仮柱Cの撤去は比較的容易に行うことが可能であるが、杭構造100は20m以上(または30m以上)の長さを有する場合があり、このような場合には杭構造100を容易に撤去できないということが起こりうる。したがって、杭構造100を容易に撤去できることが望まれる。
【0020】
従来、杭構造の撤去では、平面視において杭構造を囲むように筒状のケーシングを配置し、ケーシングを地盤に圧入し、ケーシングの内側を排土した状態で杭構造を撤去する方法がある。しかしながら、ケーシングには、その準備および圧入等に対して多大なコストがかかることがある。特に杭構造100が20m以上の長さを有する場合、ケーシングの圧入に時間およびコストがかかる。したがって、ケーシングを用いずに杭構造100を撤去できることが求められる。
【0021】
本実施形態に係る杭施工方法、杭撤去方法および杭構造100では、ケーシングを用いずに杭構造100を撤去することができる。以下では、本実施形態に係る杭施工方法および杭撤去方法の工程の例について説明する。まず、本実施形態に係る杭施工方法について説明する。
【0022】
例えば、
図1、
図2(a)および
図2(b)に示されるように、本杭E1および本柱F1の構築が完了している状態で現場Aの地盤1を掘削して掘削孔2を形成する(地盤に掘削孔を形成する工程)。例えば、オーガによって地盤1に削孔を行って掘削孔2を形成するとともに掘削孔2にベントナイト泥水等の安定液を注入して掘削孔2の孔壁を保護する。
【0023】
次に、
図3(a)および
図3(b)に示されるように、掘削孔2に鉄筋かご10を建て込む(鉄筋かごを建て込む工程)。例えば、平面視において、鉄筋かご10は円環状を呈する。鉄筋かご10は、鉛直方向に延びる複数の主筋11と、鉛直方向に並ぶ複数の帯筋12と、鉛直方向に並ぶ複数のスペーサ13とを備える。主筋11は掘削孔2の周方向に並んでおり、帯筋12は掘削孔2の周方向に延びている。
【0024】
スペーサ13は、平面視における鉄筋かご10の中心を平面視における掘削孔2の中心に位置合わせするために設けられる。鉄筋かご10は複数のスペーサ13を有し、複数のスペーサ13は鉄筋かご10の周方向に沿って並んでいる。スペーサ13は板状を呈する。スペーサ13は鉄筋かご10の径方向外側に突出する突出部を有し、複数のスペーサ13の突出部が掘削孔2の孔壁に対向することによって掘削孔2における鉄筋かご10の位置が合わされる。
【0025】
鉄筋かご10には、杭構造100の撤去時に置換材50(
図5参照)が注入される配管20が固定されている。例えば、配管20は、平面視における鉄筋かご10の内側に位置する。一例として、配管20は、平面視における鉄筋かご10の中心に位置する。しかしながら、配管20は平面視における鉄筋かご10の中心から偏心した位置に配置されていてもよく、平面視における配管20の位置は特に限定されない。
【0026】
配管20は、鉛直方向に沿って延在している。例えば、配管20の上端21は鉄筋かご10の上端よりも上方に突出しており、配管20の下端は鉄筋かご10の下端よりも下方に突出している。配管20の下端には、配管20の下端部を封止するキャップ22が固定されている。例えば、鉄筋かご10の下端には複数の鉄筋が格子状に配置された井桁構造が形成されており、配管20は当該井桁構造に固定されている。
【0027】
例えば、配管20の内径は100mmである。配管20は、例えば、金属製である。この場合、配管20は、当該井桁構造を鉛直方向に貫通した状態で、例えば、当該井桁構造に溶接によって固定されている。しかしながら、配管20は、金属製でなくてもよい。例えば、配管20は樹脂製であってもよく(一例として塩化ビニルによって構成されていてもよく)、配管20の材料は後述するコンクリートの打設時に変形しないものであれば特に限定されない。
【0028】
配管20が固定された鉄筋かご10を掘削孔2に建て込んだ後には、
図4(a)および
図4(b)に示されるように、掘削孔2にコンクリート打設配管30を挿入してコンクリートを打設してコンクリート部40(
図5参照)を形成する(コンクリート部を形成する工程)。コンクリート打設配管30は、一例として、トレミー管である。コンクリート打設配管30の内径は、例えば、200mmである。
【0029】
このとき、コンクリート打設配管30を平面視における鉄筋かご10の内側に配置し、コンクリート打設配管30の下端を掘削孔2の下端(底面)に接近させる。例えば、コンクリート打設配管30は、平面視における鉄筋かご10の中心から偏心した位置に配置される。しかしながら、コンクリート打設配管30は平面視における鉄筋かご10の中心に配置されていてもよく、平面視におけるコンクリート打設配管30の位置は特に限定されない。
【0030】
例えば、コンクリート打設配管30は配管20の隣接位置において鉛直方向に延びるように配置される。そして、コンクリート打設配管30の下端が掘削孔2の下端に接近した状態でコンクリート打設配管30にコンクリートを注入し、コンクリート打設配管30の下端から掘削孔2にコンクリートを充填させながらコンクリート打設配管30を徐々に引き上げていく。
【0031】
コンクリート打設配管30を引き上げながら掘削孔2にコンクリートの充填を行って、当該コンクリートが掘削孔2の上端にまで達した後に当該コンクリートを硬化させる。このとき、配管20の上端21を封止する。そして、鉄筋かご10および配管20を埋設するコンクリート部40が形成されて杭構造100が完成し、杭施工方法の一連の工程が完了する。その後、例えば、杭構造100(コンクリート部40)の上に仮柱C(
図1参照)が構築されて鉄道の高架化が行われる。
【0032】
杭構造100は所定期間が経過した後に撤去される。「所定期間」とは、杭構造の構築が完了してから杭構造が不要となるまでの期間を示している。「所定期間」は、例えば、数ヶ月以上かつ数年以下である。本実施形態では、鉄道の高架化が進み本杭E2および本柱F2の構築が完了して仮柱Cが撤去された後に杭構造100が撤去される。
【0033】
以下では、本実施形態に係る杭撤去方法について説明する。まず、配管20の下端に位置するキャップ22を外す(キャップを外す工程)。例えば、キャップ22は壊されることによって外される。具体例として、配管20の上端21を開放して配管20の内径より細い棒状部材(一例として鉄筋)を下方に移動させてキャップ22が壊される。
【0034】
キャップ22を外した後には、
図5に示されるように、掘削孔2から杭構造100を引き抜く(杭構造を引き抜く工程)。例えば、杭構造100は多滑車引抜工法によって引き抜かれる。そして、杭構造100の引き抜きと同時に配管20の上端21から置換材50を注入して掘削孔2に置換材50を充填する。
【0035】
このとき、杭構造100を引き上げながら配管20に置換材50を注入して掘削孔2に置換材50を充填していく。置換材50は、配管20の上端21から注入されて配管20の内部を通り、コンクリート部40の下端に開口する配管20の下端から掘削孔2に吐出されて掘削孔2に充填される。
【0036】
置換材50は、杭構造100を引き抜いた後に掘削孔2の孔壁を保護するために掘削孔2に充填される。置換材50は、例えば、安定液である。例えば、置換材50はベントナイト泥水または流動化砂である。ベントナイト泥水は、ベントナイトが添加された泥水である。流動化砂は、砂が加水されて含水比が調整された砂であり、薬剤(流動化剤、例えばアニオン系高分子材)が添加および混練されて流動性が増した砂である。
【0037】
置換材50がベントナイト泥水である場合、置換材50が流動化砂である場合と比較して、入手しやすく置換材50のコストを抑えられる利点がある。一方、置換材50が流動化砂である場合、杭構造100を引き抜いた後の後処理が容易であるという利点がある。すなわち、杭構造100を引き抜き掘削孔2が置換材50で満たされた後に、置換材50がベントナイト泥水である場合、置換材50にセメントを添加することにより、置換材50の強度を周辺の地盤1の強度と同等にする。これに対し、置換材50が流動化砂である場合、置換材50へのセメントの添加は不要であり、置換材50が硬化するのを待てばよい。以上、掘削孔2に満たされた置換材50が硬化した後に、杭撤去方法の一連の工程が完了する。
【0038】
次に、本実施形態に係る杭施工方法、杭撤去方法および杭構造100から得られる作用効果について説明する。
図4(a)、
図4(b)および
図5に示されるように、本実施形態に係る杭施工方法、杭撤去方法および杭構造100では、地盤1に形成された掘削孔2に鉄筋かご10が建て込まれ、鉄筋かご10には置換材50が注入される配管20が杭構造100の施工時に予め固定されている。この配管20が固定された鉄筋かご10にコンクリートが打設されることによって、鉄筋かご10および配管20はコンクリート部40に埋設される。
【0039】
そして、所定期間が経過して杭構造100が掘削孔2から引き抜かれるときには、鉄筋かご10に固定された配管20に置換材50が注入される。置換材50は、配管20に注入されることによって掘削孔2に充填される。杭構造100の引き抜きとともに掘削孔2に置換材50が充填されることにより、置換材50が掘削孔2の孔壁を保護するので孔壁保護のためのケーシングを不要とすることができる。したがって、ケーシングの圧入を不要とすることができるので、ケーシングの圧入にかかる手間およびコストを低減させることができる。
【0040】
ところで、杭構造100が細くて短い場合は問題とならないが、杭構造100が太くて長い場合、掘削孔2の孔壁に対する杭構造100の周面摩擦によって杭構造100の引き抜きが難しくなる場合がある。したがって、杭構造100を引き抜く前に杭構造100の周面摩擦を低減させることが好ましい場合がある。
【0041】
以下では、変形例に係る杭施工方法、杭撤去方法および杭構造について
図6~
図8を参照しながら説明する。変形例に係る杭構造は、周面摩擦低減部材60を備える点が前述した杭構造100とは相違しており、その他の点では杭構造100と同一である。以下では、杭構造100の説明と重複する説明を同一の符号を付して適宜省略する。
【0042】
図6(a)および
図6(b)に示されるように、周面摩擦低減部材60は、鉛直方向に延びる第1管61と、第1管61の途中部分から鉄筋かご10の径方向外側に延びる第2管62とを有する。周面摩擦低減部材60は複数の第1管61、および複数の第2管62を有する。
【0043】
複数の第1管61、および複数の第2管62は、鉄筋かご10の周方向に並んでいる。一例として、周方向に並ぶ第1管61の数、および周方向に並ぶ第2管62の数は6である。例えば、第1管61は鉄筋かご10の帯筋12の径方向内側に固定されている。一例として、第1管61は溶接によって帯筋12に固定されている。
【0044】
複数の第2管62は鉛直方向に並んでいる。第2管62は、第1管61から枝分かれしており、第2管62の内部は第1管61の内部に連通している。例えば、第2管62は、鉄筋かご10のスペーサ13の位置に設けられる。具体的には、第2管62はスペーサ13に形成された貫通孔に挿入された状態でスペーサ13に取り付けられており、第2管62の径方向外側の端部は掘削孔2の孔壁に対向する。第1管61は、配管20と同様、上端に開口を有する。
【0045】
変形例に係る杭施工方法では、まず、前述した実施形態と同様、掘削孔2を削孔し、その後、鉄筋かご10の建て込みを行う。なお、鉄筋かご10には予め配管20および周面摩擦低減部材60が固定されている。この時点では、第2管62の径方向外側の端部は、キャップ22と同様、キャップによって封止されている。配管20および周面摩擦低減部材60が固定された鉄筋かご10を掘削孔2に建て込んだ後には、前述した実施形態と同様、掘削孔2にコンクリート打設配管30を挿入してコンクリートの打設を行い、コンクリート部40を形成して一連の工程が完了する。
【0046】
図7(a)、
図7(b)および
図8に示されるように、変形例に係る杭撤去方法では、杭構造を引き抜く前に、コンクリート部40の外面と掘削孔2の内面(孔壁)との間に滑剤70を注入する(滑剤を注入する工程)。例えば、周面摩擦低減部材60は、滑剤70の注入時に用いる注入管63と、注入管63の下部に固定された上下一対のパッカ64とを備える。
【0047】
注入管63の外径は第1管61の内径よりも小さく、注入管63は第1管61に挿入可能とされている。注入管63は、滑剤70が通される配管である。注入管63における一対のパッカ64の間の部分には、滑剤70が吐出する開口63bが形成されている。注入管63を通った滑剤70は、開口63bから第2管62に入り込む。
【0048】
注入管63への滑剤70の注入は、例えば、コンプレッサによって行われる。コンプレッサが注入管63への滑剤70の圧入を行うことによって第2管62の径方向端部のキャップを外す(例えば壊す)。そして、開口63bから吐出されて第2管62に入った滑剤70は、第2管62を通って掘削孔2の孔壁に到達する。一対のパッカ64は、一対のパッカ64の間および第2管62以外の部分に滑剤70が漏れることを抑制するために設けられる。
【0049】
注入管63およびパッカ64を用いた滑剤70の注入は、例えば、下方から上方に向かって順次行われる。この場合、まず最下部の第2管62の高さに一対のパッカ64が位置するように第1管61の内部において注入管63を下方に移動させ、一対のパッカ64の間の高さが最下部の第2管62の高さに一致した状態で注入管63に滑剤70を注入する。これにより、最下部の第2管62から掘削孔2の孔壁に滑剤70が注入される。その後、注入管63を引き上げて一対のパッカ64の高さが下から2番目の第2管62の高さに一致した状態で注入管63に滑剤70を注入する。これにより、下から2番目の第2管62から掘削孔2の孔壁に滑剤70が注入される。
【0050】
以降は、上記同様の手順で注入管63を引き上げながら順次掘削孔2の孔壁への滑剤70の注入を行っていく。なお、上記とは異なり、滑剤70の注入は上方から下方に向かって順次行ってもよく、滑剤70の注入の手順は特に限定されない。また、
図7(b)では、滑剤70が注入された複数の領域が鉛直方向に並んでおり、当該複数の領域が互いに離れている(重なっていない)例を示している。しかしながら、鉛直方向に並ぶ第2管62の数を増やして滑剤70が注入される領域の数を増やすことによって、当該複数の領域を重ねることが可能である。この場合、掘削孔2の孔壁の全体に滑剤70を注入することも可能となる。
【0051】
掘削孔2の孔壁への滑剤70の注入が完了した後には、前述した実施形態と同様の手順でキャップ22を外して上から置換材50を注入しながら杭構造を引き抜く(杭構造を引き抜く工程)。そして、杭構造を引き抜いて掘削孔2を置換材50で満たした後に杭撤去方法の一連の工程が完了する。
【0052】
以上、変形例に係る杭構造、杭施工方法および杭撤去方法は、杭構造を引き抜く工程の前に、コンクリート部40の外面と掘削孔2の内面との間に滑剤70を注入する工程を備える。この場合、杭構造を引き抜く前にコンクリート部40の外面と掘削孔2の内面との間に滑剤70が注入されるので、引き抜き時における杭構造の周面摩擦を低減できる。したがって、杭構造の引き抜きを容易に行うことができる。
【0053】
以上、本開示に係る杭施工方法、杭撤去方法および杭構造の実施形態および変形例について説明した。しかしながら、本開示に係る杭施工方法、杭撤去方法および杭構造は、前述した実施形態または変形例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨の範囲内においてさらに変形されたものであってもよい。すなわち、杭施工方法および杭撤去方法の工程の内容および順序、ならびに、杭構造の各部の形状、大きさ、材料、数および配置は、上記の要旨の範囲内において適宜変更可能である。
【0054】
例えば、前述した実施形態では、ベントナイト泥水または流動化砂である置換材50が用いられる例について説明した。しかしながら、置換材は、ベントナイト泥水または流動化砂以外のものであってもよい。例えば、置換材は、流動化処理土であってもよいし、モルタルであってもよい。
【0055】
例えば、前述した実施形態では、鉄道高架化工事において構築される杭構造100について説明した。しかしながら、本開示に係る杭施工方法、杭撤去方法および杭構造は鉄道高架化工事以外の現場で採用することも可能であり、現場の種類については特に限定されない。
【符号の説明】
【0056】
1…地盤、2…掘削孔、10…鉄筋かご、11…主筋、12…帯筋、13…スペーサ、20…配管、21…上端、22…キャップ、30…コンクリート打設配管、40…コンクリート部、50…置換材、60…周面摩擦低減部材、61…第1管、62…第2管、63…注入管、63b…開口、64…パッカ、70…滑剤、100…杭構造、A…現場、C…仮柱、E1…本杭、E2…本杭、F1…本柱、F2…本柱、T…鉄道車両。