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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175976
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】心身状態改善装置、及び美容方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20241212BHJP
   A61M 21/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61N1/36
A61M21/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094129
(22)【出願日】2023-06-07
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519220490
【氏名又は名称】株式会社おせっかい倶楽部
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】錦織 秀
(72)【発明者】
【氏名】森谷 敏夫
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ24
4C053JJ27
4C053JJ40
(57)【要約】
【課題】EMSを用いた新たな技術を提供すること。
【解決手段】EMS(Electrical Muscle Stimulation)電極を備えた筋肉刺激部と、対象の心身状態を改善する刺激パターンで発せられるパルス信号を前記筋肉刺激部に出力する制御部を有する、心身状態改善装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EMS(Electrical Muscle Stimulation)電極を備えた筋肉刺激部と、対象の心身状態を改善する刺激パターンで発せられるパルス信号を前記筋肉刺激部に出力する制御部を有する、心身状態改善装置。
【請求項2】
前記心身状態が、心理状態及び/又は精神状態に関する、請求項1に記載の心身状態改善装置。
【請求項3】
前記心理状態及び/又は精神状態が、長期的な心理状態及び/又は精神状態に関するものである、請求項2に記載の心身状態改善装置。
【請求項4】
前記の長期的な心理状態及び/又は精神状態が、メンタルヘルスである、請求項3に記載の心身状態改善装置。
【請求項5】
ストレス及びメンタル不調に関する評価項目、並びにポジティブ情動に関する評価項目から選択される複数の項目を改善する、請求項4に記載の心身状態改善装置。
【請求項6】
前記心理状態及び/又は精神状態が、幸福感である、請求項2に記載の心身状態改善装置。
【請求項7】
前記心身状態が、女性ホルモンに起因する症状である、請求項1に記載の心身状態改善装置。
【請求項8】
前記の女性ホルモンに起因する症状が、月経前症候群(PMS)及び/又は更年期障害である、請求項7に記載の心身状態改善装置。
【請求項9】
前記心身状態が、肌状態である、請求項1に記載の心身状態改善装置。
【請求項10】
前記肌状態が、シミ、シワ、毛穴、メラニンの量、赤みの量のうちの1種又は2種以上である、請求項9に記載の心身状態改善装置。
【請求項11】
前記心身状態が、睡眠に関する指標及び/又はむくみである、請求項1に記載の心身状態改善装置。
【請求項12】
前記心身状態が、βエンドルフィンの分泌、乳酸の分泌、血圧、仕事のパフォーマンス、セロトニンの分泌、1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)の増加、及びBDNF(Brain derived neurotrophic factor)の分泌のうちの1以上に関する状態であり、
前記制御部は、βエンドルフィンの分泌、乳酸の分泌、血圧降下、仕事のパフォーマンスの向上、セロトニンの分泌、1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)の分泌、及びBDNF(Brain derived neurotrophic factor)の分泌のうちの1以上を促す刺激パターンで発生されるパルス信号を出力する、請求項1に記載の心身状態改善装置。
【請求項13】
前記仕事のパフォーマンスの向上は、作業効率、労働生産性、判断力、思考力、注意力及び集中力のうちの1以上の改善又は向上である、請求項12に記載の心身状態改善装置。
【請求項14】
前記筋肉刺激部は、腰、ふくらはぎ、太腿、及び肩のうちの1又は2以上の身体部位に装着される、請求項1~13の何れか一項に記載の心身状態改善装置。
【請求項15】
身体に筋電気刺激を与える工程(但し、医療行為を除く)を含む、肌状態を改善するための、美容方法。
【請求項16】
前記身体が、頚部から下の領域である、請求項15に記載の美容方法。
【請求項17】
前記身体が、腰、ふくらはぎ、太腿、及び肩のうちの1以上である、請求項15に記載の美容方法。
【請求項18】
前記肌状態が、シミ、しわ、毛穴、メラニンの量、赤みの量のうちの1種又は2種以上である、請求項15~17の何れか一項に記載の美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EMSによる心身状態改善装置、及び美容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医学、スポーツ分野において、筋肉増強、失禁の管理等を目的として、骨格筋収縮を誘発する電気筋肉刺激(Electrical Muscle Stimulation;EMS)を与える手法が知られている。また、筋肉運動だけでなく、血流促進、筋肉の肥大及び代謝促進を目的としたEMSの利用も提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、健康医療器具の一種である姿勢矯正サポータにEMSを組み合わせた発明もなされている。例えば、特許文献2には、EMS電極を備えた姿勢矯正器具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-142624号公報
【特許文献2】特開2015-142716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術のあるところ、本発明は、EMSを用いた新たな技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、EMS(Electrical Muscle Stimulation)電極を備えた筋肉刺激部と、対象の心身状態を改善する刺激パターンで発せられるパルス信号を前記筋肉刺激部に出力する制御部を有する、心身状態改善装置である。
本発明によれば、本発明の装置を適用した対象の心身状態を改善することができる。
【0007】
本発明の好ましい形態では、前記心身状態が、心理状態及び/又は精神状態に関する。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記心理状態及び/又は精神状態が、長期的な心理状態及び/又は精神状態に関するものである。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記の長期的な心理状態及び/又は精神状態が、メンタルヘルスである。
【0010】
本発明の好ましい形態では、ストレス及びメンタル不調に関する評価項目、並びにポジティブ情動に関する評価項目から選択される複数の項目を改善する。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記心理状態及び/又は精神状態が、幸福感である。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記心身状態が、女性ホルモンに起因する症状である。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記の女性ホルモンに起因する症状が、月経前症候群(PMS)及び/又は更年期障害である。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記心身状態が、肌状態である。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記肌状態が、シミ、シワ、毛穴、メラニンの量、赤みの量のうちの1種又は2種以上である。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記心身状態が、睡眠に関する指標及び/又はむくみである。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記心身状態が、βエンドルフィンの分泌、乳酸の分泌、血圧、仕事のパフォーマンス、セロトニンの分泌、1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)の増加、及びBDNF(Brain derived neurotrophic factor)の分泌のうちの1以上に関する状態であり、
前記制御部は、βエンドルフィンの分泌、乳酸の分泌、血圧降下、仕事のパフォーマンスの向上、セロトニンの分泌、1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)の増加、及びBDNF(Brain derived neurotrophic factor)の分泌のうちの1以上を促す刺激パターンで発生されるパルス信号を出力する。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記仕事のパフォーマンスの向上は、作業効率、労働生産性、判断力、思考力、注意力及び集中力のうちの1以上の改善又は向上である。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記筋肉刺激部は、腰、ふくらはぎ、太腿、及び肩のうちの1又は2以上の身体部位に装着される。
【0020】
また、本発明は、身体に筋電気刺激を与える工程(但し、医療行為を除く)を含む、肌状態を改善するための、美容方法にも関する。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記身体が、頚部から下の領域である。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記身体が、腰、ふくらはぎ、太腿、及び肩のうちの1以上である。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記肌状態が、シミ、しわ、毛穴、メラニンの量、赤みの量のうちの1種又は2種以上である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、対象の心身状態を改善可能な装置を提供することができる。
【0025】
また、本発明によれば、EMSを用いた肌状態改善のための美容方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態に係る心身状態改善装置の概略構成図である。
図2】介入群(EMS処理)における、更年期症状の改善結果を示すグラフであり、刺激強度が高い場合に更年期症状の一部が改善することを示す。
図3】介入群(EMS処理)における、仕事のパフォーマンスの向上結果を示すグラフであり、刺激強度が高い場合に仕事のパフォーマンスが向上することを示す。
図4】介入群(EMS処理、Case)と対照群(Control)における、血圧降下の促進結果を示すグラフである。
図5】介入群(EMS処理、Case)と対照群(Control)における、血中1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)量の測定結果を示すグラフである。
図6】介入群(EMS処理、Case)と対照群(Control)における、血中BDNF(Brain derived neurotrophic factor)量の測定結果を示すグラフである。
図7】単回介入試験における心理評価で使用した、VAS評価項目を示した図である。
図8】介入群(EMS処理)と対照群(歩行)における、POMS2短縮版により評価した心理状態の改善結果を示すグラフである。
図9】介入群(EMS処理)と対照群(歩行)における、VASにより評価した心理状態の改善結果を示すグラフである。
図10】介入群(EMS処理)と対照群(歩行)における、快適、集中及びストレスを示す脳波の測定結果を示すグラフである。
図11】介入群(EMS処理)と対照群(歩行)における、快適、好き及びストレスを示す脳波の測定結果を示すグラフである。
図12】介入群(EMS処理)と対照群(歩行)における、血中のβエンドルフィン量の測定結果を示すグラフである。
図13】介入群(EMS処理)と対照群(歩行)における、血中の乳酸量の測定結果を示すグラフである。
図14】介入群(EMS処理)における、心拍負荷と血漿セロトニン量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<心身状態改善装置>
本発明は、EMSによる心身状態改善装置に関する。EMSは、Electrical Muscle Stimulationの略である。
本発明において改善される心身状態とは、本発明にかかる装置を利用する対象の、身体的状態及び心理的状態の両面を含む。
【0028】
好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、心理状態及び/又は精神状態である。心理状態及び/又は精神状態としては、怒り、敵意、抑うつ、落ち込み、緊張、不安、腹立たしさ、へとへと、落ち着かない、ゆううつ、面倒さ、集中できない、気分が晴れない、悲しさ等のストレス・メンタル不調や、強気な、決心した、やる気がわいた、機敏な、爽快感、高揚感、活性、幸福感、快適さ(心地が良い、爽快感、高揚感)等のポジティブ情動等が挙げられる。また、心理状態及び/又は精神状態として、覚醒、集中(研ぎ澄まされた状態)等も好ましく挙げられる。
【0029】
本発明の心身状態改善装置は、上記心理状態及び/又は精神状態のうちの好ましくは1種以上、より好ましくは2種以上、3種以上、5種以上、8種以上、10種以上、15種以上、20種以上を改善することができる。
【0030】
本発明における心理状態及び/又は精神状態は、主観的評価及び客観的評価の何れの評価法により評価されたものであってもよい。本発明では、主観的評価により評価された心理状態及び/又は精神状態を含む形態であることが好ましく、主観的評価で評価された心理状態及び/又は精神状態並びに客観的評価により評価された心理状態及び/又は精神状態の何れも含む形態であることも好ましい。
【0031】
本発明における心理状態及び/又は精神状態の評価手法は特に限定されないが、質問紙法による評価であることが好ましい。質問紙法により、評価対象の主観的な心理状態及び/又は精神状態について評価することができる。なお、本発明における質問紙法による評価は、紙に質問を記載する形態だけでなく、スマートフォンやタブレット等の電子機器に質問を表示させる形態も含む。
質問紙法による質問形式は、認定尺度法であることが好ましく、中でも数値評定法であることがより好ましく、例えば、ある心身状態に関し「1.ほとんどなかった/2.ときどきあった/3.しばしばあった/4.ほとんどいつもあった」等の複数段階の評価項目の中から1つの評価を選択させる形式が好ましい。
【0032】
また、客観的評価の手法としては、評価対象の生理状態の測定が挙げられ、例えば、心拍、脳波の測定を行うことが好ましい。
【0033】
例えば、心理状態及び/又は精神状態は、POMS2(気分プロフィール検査:Profile of Mood States 2nd Edition)短縮版や、VAS(Visual Analogue Scale)により評価することができる。
POMS2は、怒り-敵意、混乱-当惑、抑うつ-落込み、疲労-無気力、緊張-不安、活気-活力、友好の7尺度と、ネガティブな気分状態を総合的に表すTMD得点から、評価対象の気分を測定するものである。
VASは、評定尺度法の一つの形式であるグラフ評定法(graphic rating method)に対応する評価法である。VASは、質問項目に対する主観的な程度を、回答票に示された直線上に印を付けて評定する。
【0034】
また、ストレス・メンタル不調は、例えば、職業性ストレス簡易調査票により評価することができる。
職業性ストレス簡易調査票では、職場における労働者の心理的な負担の原因に関する項目である「仕事のストレス要因」、心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目である「心身のストレス反応」、職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目である「周囲のサポート」の3領域が評価される。本発明では、ストレス・メンタル不調の評価として、上記「心身のストレス反応」にかかる評価を行うことが好ましい。
なお、職業性ストレス簡易調査票は、57項目のものと簡易版の23項目のものが存在するが、本発明における心理状態及び/又は精神状態は、57項目版で評価されたものであってよい。
【0035】
ポジティブ情動は、例えば、The Positive and Negative Affect Schedule(PANAS)により評価することができる。
PANASは、ポジティブ情動8項目、ネガティブ情動8項目の計16項目の評価により、評価対象の感情及び気分を評価する。本発明では、ポジティブ情動の評価項目の総合値である「総合ポジティブ情動」も本発明における心理状態及び/又は精神状態にかかる項目とすることができる。
【0036】
本発明において改善される心理状態及び/又は精神状態は、長期的な心理状態及び/又は精神状態であることが好ましい。長期的な心理状態及び/又は精神状態としては、メンタルヘルスが好ましく挙げられる。長期的な心理状態及び/又は精神状態は、職業性ストレス簡易調査票及び/又はPANASにより評価されることが好ましい。
なお、本発明において「メンタルヘルス」とは、一過的なストレスやその他各種要因によって引き起こされる長期的な心の健康のことをいい、一過性ではなく、継続的かつ慢性的な心理状態のことを指す。メンタルヘルスにて評価される項目は、上記の「ストレス・メンタル不調」「ポジティブ情動」で挙げた項目が好ましく例示される。
本発明において、メンタルヘルスは、主観的評価及び客観的評価の何れにより行ってもよい。本発明におけるメンタルヘルスの改善は、主観的評価及び/又は客観的評価にかかる、上記項目の複数項目を改善するものであることが好ましく、特に主観的評価にかかる上記項目の複数項目を改善するものであることが好ましい。
【0037】
また、本発明において改善される心理状態及び/又は精神状態は、一過的な心理状態及び/又は精神状態であってもよい。一過的な心理状態及び/又は精神状態としては、ストレス・メンタル不調、快適さ、幸福感等が挙げられる。
【0038】
また、他の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、女性ホルモンに起因する症状である。
女性ホルモンに起因する症状としては、月経前症候群(PMS)及び更年期障害が好ましく挙げられる。PMS症状は、具体的には、気分の沈み、悲しみ、落ち込み、気の滅入り、不安、緊張、ピリピリ、イライラ、怒り、人との衝突等が挙げられる。更年期障害の症状としては、疲れやすさ、総合更年期症状、顔のほてり、汗のかきやすさ等が挙げられる。
【0039】
本発明における女性ホルモンに起因する症状は、主観的評価により評価された症状であることが好ましい。
また、本発明における女性ホルモンに起因する症状の評価手法は特に限定されないが、質問紙法による評価であることが好ましい。質問紙法により、評価対象の主観的な症状について評価することができる。
質問紙法による質問形式は、認定尺度法であることが好ましく、中でも数値評定法であることがより好ましい。
【0040】
PMS症状の評価は、例えば、DRSP(Daily Record of Severity of Problems)により行うことができ、短縮版DRSPにより行ってもよい。
更年期障害の症状の評価は、例えば、簡略更年期指数(SMI:Simplified Menopausal Index)票により行うことができる。
【0041】
また、他の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、肌状態である。
肌状態としては、シミ、シワ、毛穴、メラニンの量、赤みの量が好ましく例示でき、このうち1種以上、より好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、より好ましくは4種以上、さらに好ましくは5種以上を改善するものであることが好ましい。
【0042】
肌状態は、既存の肌診断装置により測定することができる。
【0043】
また、他の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、睡眠に関する指標である。
【0044】
睡眠に関する指標は、主観的評価により評価された症状であることが好ましい。
また、本発明における睡眠に関する指標の評価手法は特に限定されないが、質問紙法による評価であることが好ましい。質問紙法により、評価対象の主観的な症状について評価することができる。
【0045】
睡眠に関する指標は、Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)にかかる指標であることが好ましい。
本発明において改善される睡眠に関する指標としては、好ましくは睡眠の質、入眠時間、及び睡眠時間にかかる指標であることが好ましい。また、本発明において改善される「睡眠の質」は、好ましくは、PSQIの総合評価による、広義の睡眠の質であることが好ましい。
【0046】
また、他の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、むくみである。
むくみの評価は、身体の細胞外水分量(ECW:Extracellular Water)の測定により行うことができる。本発明におけるむくみの改善では、ECWの値が低下することが好ましい。また、むくみの評価は、ECW/TBW(Total Body Water)を用いて評価することもできる。かかる場合、むくみの改善とは、ECW/TBWの値の低下であることが好ましい。
また、本発明では、身体のうち下肢のむくみを改善するものであることが好ましい。
【0047】
また、他の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、βエンドルフィンの分泌である。本実施形態では、本発明は、βエンドルフィンの分泌向上のための装置である。
より好ましくは、本実施形態にかかる心身状態改善装置は、血中のβエンドルフィンの分泌向上のための装置である。
【0048】
また、他の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、乳酸の分泌である。本実施形態では、本発明は、乳酸の分泌向上のための装置である。
より好ましくは、本実施形態にかかる心身状態改善装置は、血中の乳酸の分泌向上のための装置である。
【0049】
また、他の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、血圧である。本実施形態では、本発明は、血圧降下のための装置である。
【0050】
また、他の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、仕事のパフォーマンスである。本実施形態では、本発明は、仕事のパフォーマンス向上のための装置である。
【0051】
本発明における仕事のパフォーマンスの改善とは、好ましくは、プレゼンティーズムやアブセンティーズムを改善することをいい、具体的には、作業効率、労働生産性、判断力、思考力、注意力及び集中力のうちの1以上の改善又は向上である。
【0052】
プレゼンティーズムとは、欠勤には至っていないが、健康問題が理由で労働生産性が低下している状態を意味する。また、アブセンティーズムとは、健康問題による仕事の欠勤(病欠、病気休業)を意味する。
【0053】
本発明において改善される仕事のパフォーマンスは、例えば、WHO Health and Work Performance Questionnaire(WHO-HPQ)の評価値であることが好ましい。
【0054】
また、本発明の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、セロトニンの分泌である。本実施形態では、本発明は、セロトニンの分泌向上のための装置である。
より好ましくは、本実施形態にかかる心身状態改善装置は、血中のセロトニンの分泌向上のための装置である。
【0055】
また、本発明の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)の増加である。本実施形態では、本発明は、1,5-AGの増加のための装置である。
より好ましくは、本実施形態にかかる心身状態改善装置は、血中の1,5-AGの増加のための装置である。
本実施形態の心身状態改善装置は、血糖コントロールの悪化を予防又は抑制するために用いることができる。
【0056】
また、本発明の好ましい形態では、本発明において改善される心身状態は、BDNF(Brain derived neurotrophic factor)の分泌である。本実施形態では、本発明は、BDNFの分泌向上のための装置である。
より好ましくは、本実施形態にかかる心身状態改善装置は、血中のBDNFの分泌向上のための装置である。
本実施形態の心身状態改善装置は、認知機能の改善のために用いることができる。
【0057】
本発明の心身状態改善装置は、上述した心身状態のうち、単一の状態を改善するものであってもよいし、複数の状態を改善するものであってもよいが、上述した複数の心身状態を改善するものであることがより好ましい。
【0058】
以下、図面を参照しつつ、本発明の心身状態改善装置の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではない。
【0059】
図1は、本発明の心身状態改善装置を人体に適用した場合の構成を示す概略構成図である。
本発明の心身状態改善装置は、EMS電極を備えた筋肉刺激部と、対象の心身状態を改善する刺激パターンで発せられるパルス信号を前記筋肉刺激部に出力する制御部を備える。
【0060】
制御部は、筋肉刺激部に人の骨格筋に電気刺激を与えることができる電流を供給する。筋肉刺激部は、制御部から出力されたパルス信号を人体に伝達するものであり、公知の装置により構成することができる。筋肉刺激部の一例には、例えば、配線、電極パッド、あるいはこれらを組み合わせたものが含まれる。
本発明の心身状態改善装置は、複数のEMS電極を備えることが好ましい。好ましくは、本発明の心身状態改善装置は、EMS電極対を備える。複数の電極は、それぞれが分離したものであってもよいし、一体のものであってもよい。例えば、複数の電極として第1、第2電極という2つの電極を用いる場合、第1、第2電極は、分離したものであってもよいし、一体化されたものであってもよい。複数の電極は、一体化したり分離させたりすることができるように構成されていてもよい。
これにより、筋肉刺激部から複数の電極を介して、対象の人体に電気刺激が供給される。
【0061】
また、制御部は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置、制御プログラムを格納したROM(read only memory)等の記憶媒体、およびRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリを有するコンピュータであることが好ましい。この場合、筋肉刺激部への電流供給パターンは、CPU等が制御プログラムを実行することにより実現される。
【0062】
一実施形態では、制御部は、プロセッサ、メモリ、及びパルス信号供給手段を有している。これら各手段は、例えば集積回路や他の回路等を用いて構成することができる。制御部は、例えば、プロセッサがプログラムを実行することにより、パルス信号供給手段からパルス信号を出力する。プロセッサが実行するプログラムは、例えば、あらかじめ制御部のメモリに記憶されていてもよいし、使用者や制御部で動作するプログラムなどが、インターネット上のサーバ装置などの心身状態改善装置の外部装置から取得するようにしてもよい。
【0063】
また、対象は、心身状態改善装置を、身体の任意の部位に装着して使用する。対象は、心身状態改善装置の筋肉刺激部を身体に装着し、筋肉刺激部の電極から発せられる刺激を受ける。筋肉刺激部は、身体に装着しやすい形態であれば特に限定されず、例えば、帯状(バンド状)とすることができる。
装置を装着する部位は特に限定されず、顔、足首、脚(ふくらはぎ、太腿)、臀部、腹部、胸部、背中、腕、肩、首、または顔面等に装着することができる。本実施形態では、対象の頚部から下の領域に対して適用することが好ましい。好ましい適用部位としては、具体的には、腰、ふくらはぎ、太腿、及び肩のうちの1又は2以上が挙げられる。
特に頚部から下の領域に装置を装着し刺激を与えることで、本発明の心身状態改善装置は、装着部位から離れた顔領域の状態(例えば肌状態)の改善にも好適に利用できる。
【0064】
筋肉刺激部の発する電流(パルス信号)は、脳から筋肉に向けて出力される神経信号を模した信号である。パルス信号が人体に印加されることにより、筋肉は、脳から所定の動作の指令を受けたと理解し、パルス信号に応じた動作を脳から指令を受けた動作として行う。動作の一例には、例えば腕や脚の筋肉であれば、腕や脚を曲げたり伸ばしたりすることが含まれる。
【0065】
筋肉刺激部から発生されるパルス信号は、心身状態を改善できる条件であれば特に限定されず、矩形波のほか、台形波や三角波などの矩形波以外の信号が含まれる。パルス信号の極性は正であっても構わないし、負であっても構わない。
【0066】
本発明の心身状態改善装置における電流の条件は、改善目的に応じて適宜設定することができ、パルス周波数は3~50Hzの範囲から選択することができる。また、複数の周波数順に組み合わせ、対象に筋電気刺激を印加してもよい。一例として、低刺激を与える場合、パルス周波数は3~10Hzとしてもよく、3~5Hzとしてもよい。高刺激を与える場合、パルス周波数は10~30Hzとしてもよく、15~25Hzとしてもよい。
【0067】
<美容方法>
また、本発明は、対象の身体に筋電気刺激を与える工程を含む、肌状態を改善するための、美容方法である。本発明の美容方法における筋電気刺激を与える工程は、医療行為を含まず、美容目的で実施される行為である。
ここで、本発明における「医療行為」は、医師(医師の指示を受けた者を含む。)がヒトに対して手術、治療、又は診断を実施する行為を意味する。
【0068】
本発明の美容方法では、好ましくは、筋刺激を与える身体部位が、頚部から下の領域である。頚部から下の領域としては、腰、ふくらはぎ、太腿、及び肩が好ましく例示できる。
本発明の美容方法では、顔から離れた頚部から下の領域に筋電気刺激を与えることで、顔の肌状態を改善することができる。
【0069】
本発明の美容方法において改善される肌状態は、シミ、しわ、毛穴、メラニンの量、赤みの量のうちの1種以上であることが好ましく、2種以上であることがより好ましく、3種以上であることがより好ましく、4種以上であることがより好ましく、5種以上であることがさらに好ましい。
【0070】
本発明の美容方法は、上記の心身状態改善装置を用いて実施することができる。本発明の美容方法で筋電気刺激の付与方法の好ましい形態は、上記<心身状態改善装置>に記載の通りである。
【実施例0071】
以下、本発明者らによって行われた、EMS処理試験について説明する。なお、本発明は以下のような実験結果をもとになされたものであるが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0072】
また、本実施例の結果にかかる表及び図は、各項目の評価値又は測定値の平均値(±標準誤差)を記載している。なお、本実施例においては、有意水準をp<0.1としてデータ処理を行った。
【0073】
[1]長期介入試験(ランダム化比較試験)
(1)被験者
20~44歳の働く女性29名(月経周期が安定しており、かつ周期の長さが平均25~31日程度である者)について、DRSP短縮版の点数が13点以上の者をランダムで2群に分け、PMS試験における対照群(Control、14名)と介入群(Case、15名)とした。うち、対照群で13名、介入群で14名が試験を完遂した。
また、45~55歳の働く女性30名(月経周期が不安定、または完全閉経している者)について、SMIの点数が26点以上の者をランダムで2群に分け、更年期障害試験における対照群(Control、15名)と介入群(Case、15名)とした。うち、対照群で14名、介入群で15名が試験を完遂した。
なお、何れの試験における被験者も、十分な運動習慣がなく、かつEMSの使用習慣がない者とした。
【0074】
試験では、PMS試験及び更年期障害試験の被験者に対し、介入試験前に、以下の検査及び調査を実施した。
(1)ストレス・メンタルヘルス関係の調査(職業性ストレス簡易調査票(労働省作成))
(2)ポジティブ/ネガティブ情動の調査(The Positive and Negative Affect Schedule;PANAS))
(3)採血による各種血中成分の測定
(4)睡眠の質の評価(Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI))
(5)Daily Record of Severity of Problems(DRSP)短縮版(PMS試験の被験者29名のみ実施)
(6)簡略更年期指数(SMI: Simplified Menopausal Index)の算出(更年期障害試験の被験者30名のみ実施)
(7)両脚の細胞外水分量(ECW:Extracellular Water)の測定
(8)仕事のパフォーマンスの評価(WHO-HPQ:WHO Health and Work Performance Questionnaire)
(9)顔の皮膚画像解析(VISIA Evolution)
(10)体組成(Inbody770)
【0075】
介入試験前の検査・調査後、介入群に対し8週間EMSを自宅で実施させた。
また、刺激周波数EMSを発生させる装置は、電気刺激を発する電極を含む装着部位が帯状(バンド)になっているものを用いた。被験者の両太腿と胴体(高さは臍の位置)に当該バンドを装着させることで、太腿、腹部及び背部に刺激を与えた。
その後、介入前と同様の検査及び調査を行った。
【0076】
(2)結果
<ストレス・メンタル不調>
介入群において、表1に示す職業性ストレス簡易調査における複数項目の評価値が統計的有意に減少、または介入前後の変化値(Δ)が対照群と比較して介入群で統計的有意に減少していた。この結果より、EMS処理により、被験者のストレス、メンタル不調が改善することが示された。
【0077】
【表1】
【0078】
<ポジティブ情動>
介入群において、表2に示すPANASの複数項目の評価値が統計的有意に増加、または介入前後の変化値(Δ)が対照群と比較して介入群で統計的有意に増加していた。なお、表2における「ポジティブ情動_Total」は、PANAS評価における評価値の合計を示す。この結果より、EMS処理により、被験者のポジティブ情動が促進されることが示された。
【0079】
【表2】
【0080】
<睡眠の質>
介入群において、表3に示すPSQIの複数の評価値が統計的有意に減少、または介入前後の変化値(Δ)が対照群と比較して介入群で統計的有意に減少していた。この結果より、EMS処理により、被験者の睡眠の質が改善することが示された。
【0081】
【表3】
【0082】
<PMS>
介入群において、表4に示すDRSPの複数の項目について、評価値が統計的有意に減少、または介入前後の変化値(Δ)が対照群と比較して介入群で統計的有意に減少していた。
【0083】
【表4】
【0084】
上記の改善項目は、主としてメンタル症状に関する項目である。すなわち、PMS症状のメンタル症状の改善に対し、好適に用いることができることを示している。
【0085】
<更年期障害>
介入群において、表5に示すSMIの値が統計的有意に減少、または介入前後の変化値(Δ)が対照群と比較して介入群で統計的有意に減少していた。また、SMIの全体評価値、顔のほてり、及び汗のかきやすさの項目において、EMS刺激の強度(パルス振幅)が21以上の場合、当該刺激強度が20以下の場合と比して、評価値が有意に減少していた(図2)。この結果より、比較的高強度のEMS処理により、被験者の更年期障害の症状を改善できることが示された。
【0086】
【表5】
【0087】
<むくみ>
介入群において、表6に示す測定値両足のECWの平均値等が統計的有意に減少、または介入前後の変化値(Δ)が対照群と比較して介入群で統計的有意に減少していた。すなわち、EMS処理により、むくみが改善することが示された。
【0088】
【表6】
【0089】
<仕事のパフォーマンス>
EMSの刺激強度が21以上の場合、当該刺激強度(パルス振幅)が20以下の場合と比して、WHO-HPQの評価値が有意に増加していた(図3)。この結果は、比較的高強度のEMS処理により、被験者の仕事のパフォーマンスを向上できることを示している。
【0090】
<肌状態>
介入群において、表6に示す肌状態(シミ(Spots)、シワ(Wrinkles)、目立つ毛穴(Pores)、メラニン指数(Brown Spot)、赤身指数(Red Spot)、及び隠れシミ(UV Spot))のスコアが統計的有意に減少、または介入前後の変化値(Δ)が対照群と比較して介入群で統計的有意に減少していた。
この結果より、EMS処理により、被験者の肌状態が改善されることが示された。
【0091】
【表7】
【0092】
<血圧>
介入群において、EMS処理により被験者の血圧が統計的有意に低下していた(図4上)。また、介入群は、対照群と比して血圧が低下していた(図4下)。この結果より、EMS処理により、被験者の血圧降下が促進されることが示された。
【0093】
<その他の項目>
血液検査の結果、対照群と比較した介入群の血中1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)量が、有意に増加していた(図5)。すなわち、EMS処理により、被験者の血糖コントロールの悪化を予防できることが示唆された。
また、対照群と比較した介入群の血中BDNF(Brain derived neurotrophic factor)量が、有意に増加した(図6)。すなわち、EMS処理により、被験者の認知機能が改善する可能性があることが示唆された。
【0094】
[2]単回介入試験(クロスオーバー比較試験)
長期介入試験における介入群から16名を選択し、ランダムで2群に分類した。次いで、被験者の血圧の測定、採血及び心理評価を行い、群ごとにタスクを実施した。タスク実施中は継続して脳波、心拍の計測を行った。使用評価方法、及び使用機器は、以下の通りである。
・血圧測定:HEM 705 IT ファジィ
・心理評価:POMS2(Profile of Mood States 2nd Edition)短縮版、VAS(評価項目は図7参照)
・脳波計測:電通サイエンスジャム_感性アナライザ
・心拍計測:POLAR_Verity Sense
【0095】
片方の群(8名)では1日目にタスクとして、14分間のプログラムに従いEMS処理を行った。EMS処置は、上記[1]と同様の装置を用いて実施した。一方の群(8名)では、タスクとして、EMS処理に代わり、約30分間のウォーキングを室内のトレッドミルで実施した。その一週間のウォッシュアウト期間を設け、2日目は各群で実施タスクを入れ替えて同様のタスクを実施した。
【0096】
タスクの実施後、タスク実施前と同様に上記の計測および評価を行った。
結果を図8~14に示す。
【0097】
<心理状態>
図8に示す通り、EMS介入群では、「怒り、敵意、抑うつ、落ち込み、緊張、不安、総合ネガティブ状態」の項目について数値の減少が見られた。
また、図9に示す通り、EMS介入群では、VASの全評価項目(心地が良い、爽快感、覚醒、ストレスレス、集中(研ぎ澄まされた)、高揚感、心が活性化、幸福感)の数値が上昇していた。中でも、「ストレスレス、集中(研ぎ澄まされた)、幸福感」の項目は、対照群では差が見られず、EMS介入群でのみ数値の減少が確認された。この結果より、14分間EMSを実施することで、30分間の歩行と同等又はそれ以上の心理状態の改善効果が見られることが示された。
【0098】
また、タスク実施前後の脳波測定の結果、快適、集中及びストレスの項目において、改善が確認された(図10)。特に「快適」の項目は、対照群では差が見られず、EMS介入群のみ改善が確認された。また、タスク実施中の脳波測定の結果、EMS介入群の方が対照群よりも「快適、好き、ストレス」の項目が有意に良好であった(図11)。すなわち、EMS処理により、快適さ、集中、ストレス等に関する心理状態が改善され、タスク実施中も歩行と比較して快適な、好ましい、ストレスレスな状態であるといえる。
【0099】
<血中成分>
図12に示す通り、EMS介入群でのみ、血中のβエンドルフィンの分泌が向上することが示された。また、EMS介入群は、対照群(歩行)よりもβエンドルフィンの増加量が有意に大きくなった。この結果より、EMS処理によってβエンドルフィンの分泌が誘導され、ストレス、及び心理状態が改善されたことが推認される。
【0100】
また、図13に示す通り、EMS介入群でのみ血中の乳酸の分泌量が増加していた(図13左)。また、EMS刺激の強度が上昇するにつれ、乳酸の分泌量が上昇することが明らかとなった(図13右)。そして、図14に示す通り、EMS介入群において、EMS処理中の心拍負荷が高いほど、血漿セロトニン量が増加した。
このように、EMS処理によって、心身状態に寄与する複数の因子の分泌が上昇することが明らかとなった。
【0101】
以上をまとめると、14分のEMS処理により、30分の歩行と同等以上に種々の心理状態改善されたことから、EMSは歩行よりも心理的に快適で好ましい刺激でありながら、短時間で歩行と同等以上の心理状態の即時改善を引き起こすことが明らかとなった。
そして、そのメカニズムの一つとして、EMSによりβエンドルフィンの分泌誘導が関与する可能性が示唆された。
【0102】
[3]まとめ
単回介入試験の結果から、EMSにより、怒り、敵意、抑うつ、落ち込み、緊張、不安、ストレス、爽快感、覚醒、集中、高揚感、活性、幸福感などの心理状態が改善されることが明らかとなった。また、長期介入試験の結果から、EMSの長期的な効果として、ストレス・各種メンタル不調、ポジティブ情動、PMS症状、更年期症状、睡眠、むくみ、仕事のパフォーマンスの改善が見られることが分かった。また、長期介入試験においてストレス・各種メンタル不調、ポジティブ情動の改善が見られたことから、継続してEMSを与えることでメンタルヘルスを改善できることが明らかとなった。
以上より、EMSを利用し、上記の各種心身状態の改善を行うことが可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、メンタルヘルスケア等の心身状態の改善のために利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14