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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176001
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】グラフェン分散体
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20241212BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241212BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241212BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20241212BHJP
【FI】
C09D17/00
H01M4/62 Z
H01M4/139
C01B32/194
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094176
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 寛史
【テーマコード(参考)】
4G146
4J037
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB01
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD17
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA02
4G146CA02
4G146CA16
4G146CB10
4J037AA01
4J037CC02
4J037CC15
4J037DD07
4J037DD23
4J037DD24
4J037FF11
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA18
5H050EA08
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】 リチウムイオン電池などの電池電極などの製造に好適となるグラフェン分散体を提供する。
【解決手段】 本発明の電池電極用グラフェン分散体は、少なくとも、15m/g以上70m/g未満のBET比表面積を有し、ラマン分光法による2DバンドとGバンドのピーク高さ比(2D/G)が0.3以上0.9未満であり、Fe、Co、Niの合計の含有量が5000ppm未満であるグラフェン材料と分散剤と溶媒とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、15m/g以上70m/g未満のBET比表面積を有し、ラマン分光法による2DバンドとGバンドのピーク高さ比(2D/G)が0.3以上0.9未満であり、Fe、Co、Niの合計の含有量が5000ppm未満であるグラフェン材料と、分散剤と、溶媒とを含むことを特徴とするグラフェン分散体。
【請求項2】
前記分散剤が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、カルボキシメチルセルロース及びその塩、セルロースナノファイバーから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン分散体。
【請求項3】
水分含有量が5000ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のグラフェン分散体。
【請求項4】
グラフェン材料の濃度が50ppmになるように溶媒で希釈したとき、当該分散液の550nmにおける吸光度が1.30以上であり、且つ、380nm吸光度/780nm吸光度の比が1.20以上であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン分散体。
【請求項5】
グラフェン材料の濃度が1質量%以上20質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン分散体。
【請求項6】
グラフェン材料100質量部に対しての分散剤の量が、3質量部以上50質量部未満であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン分散体。
【請求項7】
少なくとも、請求項1~6に記載のグラフェン分散体、及び、正極用活物質もしくは負極用活物質を用いて調製される、電極用スラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池などの電池電極などの製造に好適となるグラフェン分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの携帯機器の小型軽量化及び高性能化に伴い、高いエネルギー密度を有する二次電池、さらに、その二次電池の高出力化、長寿命化が求められている。このような背景の下で高エネルギー密度、高電圧という特長から非水系電解液を用いるリチウムイオン電池を含む非水系二次電池が多くの機器に使われるようになってきており、開発が盛んに行われている。
【0003】
従来、リチウムイオン電池を含む非水系二次電池を構成する電極において、電極部材の抵抗値を低減させる目的で、アセチレンブラックやカーボンナノチューブ(CNT)などの導電材の活用が研究されている。しかしながら、アセチレンブラックは活物質に対して一定の量(例えば、活物質に対して4質量%など)を必要とするため、エネルギー密度を高め難く、高出力化についても不十分であることが周知である。また、CNTは活物質に対して必要とする量(例えば、活物質に対して0.1~1質量%など)は少ないものの、CNTを合成する際に用いる触媒由来の鉄やコバルトが不純物として混ざり、長寿命化の観点では課題が多いのが現状である。
【0004】
近年、次世代の導電材としてグラフェンが注目されており、数多くの技術が開示されている。
例えば、特許文献1には、「溶媒と、3:1を超える平均アスペクト比及び少なくとも1:1のラマン2D:Gピーク比を有するグラフェン炭素ナノ粒子と、ビニル複素環アミドの残基を含む付加重合体を含む重合体分散剤樹脂とを含む分散液。」が記載されている。
【0005】
特許文献2、3には、黒鉛をポリエチレングリコールとカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の存在下で、水中で分散した後、ポリエチレングリコールを高温で除去することで黒鉛を剥離させた状態にすることで、導電材としての機能を向上させた炭素材料が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のグラフェン分散液は、高Cレートにおける容量維持率が不十分で高出力化や長寿命化(サイクル特性)の面で未だ満足いくものではなく、上記特許文献2、3の炭素材料は、電極用スラリー等へ適用した際の分散が未だ不十分であり、同様に高Cレートにおける容量維持率が不十分で高出力化や長寿命化(サイクル特性)の面で未だ満足いくものではなく、課題があるのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2022-521587号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特許第6641538号(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特許第7164517号(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の課題等について解消しようとするものであり、高効率のリチウムイオン電池などの電池電極などの製造に好適となる電池電極用などとして有用なグラフェン分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来の課題について鋭意検討した結果、少なくとも、15m/g以上70m/g未満のBET比表面積を有し、ラマン分光法による2DバンドとGバンドのピーク高さ比(2D/G)が0.3以上0.9未満であり、Fe、Co、Niの合計の含有量が5000ppm未満であるグラフェン材料を分散剤と共に分散することにより、上記目的の電池電極用などとして有用なグラフェン分散体を得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明のグラフェン分散体は、少なくとも、15m/g以上70m/g未満のBET比表面積を有し、ラマン分光法による2DバンドとGバンドのピーク高さ比(2D/G)が0.3以上0.9未満であり、Fe、Co、Niの合計の含有量が5000ppm未満であるグラフェン材料と分散剤と溶媒を含むことを特徴とする。
【0011】
前記グラフェン材料は、鱗状黒鉛粒子、薄片状黒鉛粒子、球状黒鉛粒子、膨張化黒鉛粒子、薄片化した膨張化黒鉛粒子、薄片化した鱗状黒鉛粒子、グラフェン粒子などを原料として、必要に応じて粉砕・分級操作や脱金属操作を経て、選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグラフェン分散体は、グラフェン材料を均一に分散し、かつ、低粘度の分散体であるので、電極形成のための塗工を容易に行うことができる。
本発明によれば、電極形成のため塗工する際に導電剤及び活物質等を均一に分布させることができ、しかも、出力特性、サイクル特性を高度に維持した上で、電極自体の抵抗値等に悪影響を及ぼすことがなく、高効率のリチウムイオン電池などの電池電極などの製造に好適なグラフェン分散体を提供することができる。
【0013】
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識(設計事項、自明事項を含む)に基づいて実施することができる。
【0015】
〈電池電極用グラフェン分散体〉
本発明の電池電極用グラフェン分散体は、少なくとも、15m/g以上70m/g未満のBET比表面積を有し、ラマン分光法による2DバンドとGバンドのピーク高さ比(2D/G)が0.3以上0.9未満であり、Fe、Co、Niの合計の含有量が5000ppm未満であるグラフェン材料と、分散剤と、溶媒を含むことを特徴とするものである。
【0016】
〈グラフェン材料〉
本発明で使用されるグラフェン材料は、炭素原子からなる六角セルが集合した炭素原子1個の厚さのグラフェンシートが層状に集積した薄片(フレーク)であって、15m/g以上70m/g未満のBET比表面積を有し、ラマン分光法による2DバンドとGバンドのピーク高さ比(2D/G)が0.3以上0.9未満であり、Fe、Co、Niの合計の含有量が5000ppm未満であるという特徴を有する。
【0017】
前記グラフェン材料は、鱗状黒鉛粒子、薄片状黒鉛粒子、球状黒鉛粒子、膨張化黒鉛粒子、薄片化した膨張化黒鉛粒子、薄片化した鱗状黒鉛粒子、グラフェン粒子などの原料グラフェンから選ばれる少なくとも1種(単独又は2種以上の混合物、以下同様)であって、必要に応じてこれに粉砕・分級操作や脱金属操作を行うことを経て得られる、前記した特定の特性を有するグラフェンである。
【0018】
原料グラフェンは、化学気相成長法、熱分解法、機械的剥離法、化学処理法、超臨界流体剥離法、等の方法で製造されたものを使うことができ、さらに、必要に応じて粉砕操作、分級操作又は脱金属操作を経たものを使うことができる。
【0019】
用いることができる鱗状黒鉛粒子としては、市販品では、例えば、SP-270、J-SP-α、JB-5(何れも日本黒鉛(株)製)、FT-7J(富士黒鉛(株)製)、NOCSP等が挙げられる。
用いることができる薄片状黒鉛粒子としては、市販品では、例えば、CMX-40、UP-5N、UP-50N(何れも日本黒鉛(株)製)等が挙げられる。球状黒鉛としては、市販品では、例えば、CGB-6、CGB-20、CGC-50(何れも日本黒鉛(株)製)等が挙げられる。
用いることができる膨張化黒鉛粒子としては、市販品では、例えば、FS-5(東日本カーボン(株)製)等が挙げられる。
【0020】
グラフェン材料を粉砕する際に適用することができる粉砕操作としては、ピンミル、パルペライザー、ハンマーミル、ジェットミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、又はアトライターなどによる乾式粉砕、超音波分散機、ディスパー、ホモミキサー、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、高圧ホモジナイザー、ペイントコンディショナー、コロイドミル類、ビーズミル、コーンミル、湿式ジェットミル、又は薄膜旋回型高速ミキサーなどによる湿式粉砕が挙げられる。
【0021】
適用することができる分級操作としては、重力、慣性力、もしくは遠心力を利用した装置、又は、フィルターを利用した装置を、乾式法もしくは湿式法において実施することができる。
適用することができる脱金属操作としては、酸処理、塩基処理、又は不活性雰囲気における焼成処理、等の1種類以上を、必要に合わせ組み合わせて実施することができる。
【0022】
本発明においては、リチウムイオン電池等の出力特性、サイクル特性を高度に維持した上で、電極自体の抵抗値等に悪影響を及ぼさない点から、特に、粉砕操作、分級操作、脱金属操作を実施することが好ましい。
【0023】
本発明に用いるグラフェン材料のBET比表面積は、15m/g以上70m/g未満であり、好ましくは、25m/gを超え70m/g未満であり、より好ましくは、25m/gを超え50m/g未満である。
【0024】
上記のBET比表面積を有するグラフェン材料を得るためには、必要により粉砕操作及び分級操作を行う。これによりBET比表面積を好適な範囲に調整することができ、電池電極用分散体として好ましい性状となる。グラフェン材料のBET比表面積が70m/g以上である場合は、分散体の粘度が高くなるため、その製造を続けることが困難となり、電極形成の際には導電剤及び活物質等を均一に塗工することができない。
本発明(後述する実施例を含む)において、「BET比表面積」は、BET1点法により測定される。測定装置としては、例えば、Macsorb(マウンテック社製)が挙げられる。
【0025】
本発明に用いるグラフェン材料のラマン分光法によるグラフェンに特有の2DバンドとGバンドのピーク高さ比(2D/G)は、0.3以上0.9未満であり、好ましくは、0.3以上0.7未満であり、より好ましくは、0.3以上0.5未満であり、更に好ましくは、0.35以上0.5未満である。ここで、2Dバンドは、2680cm-1~2730cm-1のC-H伸縮運動に基づく散乱光であり、Gバンドは、1570cm-1~1620cm-1の芳香環C=C伸縮運動に基づく散乱光である。
【0026】
上記のラマンスペクトルのピーク高さ比(2D/G)を有するグラフェン材料を得るためには、必要により粉砕操作及び分級操作を行う。これによりピーク高さ比(2D/G)を好適な範囲に調整することができ、電池電極用分散体として好ましい性状となる。グラフェン材料のピーク高さ比(2D/G)が0.9以上となる場合は、分散体の粘度が高くなるため、分散体の製造を続けることが困難となり、電極形成の際に導電剤及び活物質等を均一に塗工することができない。
ラマンスペクトルの測定装置としては、ラマン分光装置が使用される。
【0027】
本発明に用いる上記グラフェン材料のFe、Co、Niの含有量の合計は、5000ppm未満であり、好ましくは3000ppm未満であり、より好ましくは1000ppm未満である。
【0028】
上記のFe、Co、Niの含有量を有するグラフェン材料を得るためには、必要により脱金属操作を行う。これによりFe、Co、Niの含有量を好適な範囲に調整することでき、電池電極用分散体として好ましい性状となる。グラフェン材料のFe、Co、Niの含有量の合計が5000ppm以上となる場合は、電池の充放電時にFe、Co、Niが電解液に溶解するなどして、サイクル特性を悪化させることになり、電池の長寿命化を実現することができない。
【0029】
本発明(後述する実施例を含む)において、グラフェン材料のFe、Co、Niの含有量の合計は、グラフェン材料を灰化させた後、硝酸で抽出し、測定装置でFe、Co、Niを定量し、合計することで測定される。測定装置としては、例えば、ICP発光分光分析装置SPECTROBLUE TI((株)日立ハイテク製)が挙げられる。
【0030】
本発明において、グラフェン分散体を溶媒でさらに希釈してグラフェン材料の濃度が50ppmの分散液になるようにしたとき、当該分散液の550nmにおける吸光度が1.30以上3.0以下であることが好ましい。550nmにおける吸光度は、グラフェン材料の分散に対応し、1.30以上であると、グラフェン材料の分散が十分進行していることを表すので好ましいが、3.0を越えると、グラフェン材料の粉砕が顕著になってしまい、好ましくない。且つ、前記希釈された分散液の380nm吸光度/780nm吸光度の比も、グラフェン材料の分散に対応し、1.20以上であると、グラフェン1枚1枚が破れないままに剥離して良好に分散していることを表すので、好ましい。
【0031】
本発明において、グラフェン材料は、分散媒及び分散剤と混合されてグラフェン分散体を形成する。本発明のグラフェン分散体は、グラフェンが均一に分散し、かつ、低粘度のスラリーである。
グラフェン分散体におけるグラフェン材料の含有量は、用途に応じて、好適な含有量を設定することができる。
【0032】
例えば、スラリー状態のグラフェン分散体を導電材、二次電池用電極スラリー、二次電池用電極などに用いる場合は、電極形成のため塗工する際に導電剤及び活物質等を均一に分布させることができる点から、グラフェン分散体におけるグラフェン材料の含有量は、グラフェン分散体全量に対して、1~20質量%とすることが好ましく、1~15質量%がさらに好ましく、3~10質量%がより好ましく、4~7質量%とすることが特に好ましい。
【0033】
グラフェン分散体におけるグラフェン材料の含有量を1質量%以上とすることにより、電極スラリー配合時の溶媒の持ち込み量が減る結果、配合の設計自由度が増し、また、充分な導電性を確保できるようになる。一方、グラフェン分散体におけるグラフェン材料の含有量を20質量%以下とすることにより、分散体の安定性と良好な導電性を確保することができる。
【0034】
本発明に用いる分散剤としては、分散媒が水又は水溶性溶媒である場合には、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース及びその塩(Li,Na,Kなどのアルカリ金属塩)、セルロースナノファイバー、ポリビニルブチラール、アクリルポリマー、スチレンアクリルポリマー等の少なくとも1種が好適である。これらのうち、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース及びその塩、セルロースナノファイバー、ポリビニルブチラールが特に好ましい。
【0035】
分散媒が非水系である場合には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、アクリルポリマー、スチレンアクリルポリマー、ポリフッ化ビニリデン等の少なくとも1種が好適である。分散媒がパラフィン系やナフテン系の炭化水素等の低極性溶剤である場合、アクリルポリマーはカチオン基を含有していることが好ましく、アクリルポリマーのアミン価は13mgKOH/g以下であることが好ましい。また、分散媒には、トルエンまたはキシレンを含有しないことが分散安定性の面からさらに好ましい。
【0036】
本発明における分散剤の含有量は、用途に応じて、好適な含有量を設定することができる。例えば、導電用スラリー、二次電池用電極スラリー、二次電池用電極などに用いる場合は、本発明の効果を発揮せしめる点、他の性能を低下させることなく、グラフェン材料の分散性を高度に維持する点から、分散剤の含有量は、グラフェン材料100質量部に対して、3~50質量部とすることが好ましく、5~30質量部とすることがより好ましく、8~25質量部とすることが更に好ましく、10~20質量部とすることが特に好ましい。
【0037】
分散剤の含有量をグラフェン材料100質量部に対して3質量部以上とすることにより、充分な分散性を確保できるようになり、一方、100質量部に対して50部質量以下とすることにより、グラフェン分散体の安定性と良好な導電性を確保することができる。
【0038】
本発明のグラフェン分散体においては、水系分散媒又は非水系分散媒が使用される。
本発明のグラフェン分散体のひとつの形態における水系分散媒は、水(例えば、精製水、蒸留水、純水、超純水、水道水、イオン交換水等)である。また、水系分散媒として、有機系の水溶性溶媒を用いることができる。
【0039】
用いることができる水溶性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル1,3-ブタンジオール、2メチルペンタン-2,4-ジオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、1,2,3-ヘキサントリオール等のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール等のグリセロール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダリジノンが挙げられる。
【0040】
分散媒となる水溶性溶媒として、その他に、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類等の水溶性溶媒を単独又は混合して使用することもできる。水溶性溶媒には、水を混合しても良い。
【0041】
これらの水溶性溶媒の含有量は、分散体の固形分調整により変動するが、グラフェン材料の濡れ性及びスラリーの混合性を向上させる点から、分散体全量に対して、0.1~7質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることが更に好ましい。
【0042】
本発明の電池電極用グラフェン分散体の他のひとつの形態における非水系分散媒として、非水系溶媒を用いることができる。
【0043】
本発明に用いることができる非水系溶媒としては、例えば、γ-ブチロラクトン、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、2-ヘプタノン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソペンチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、シクロヘキシルアセテート、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジオキサン、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、
【0044】
アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルモノグリシジルエーテル、エチルモノグリシジルエーテル、ブチルモノグリシジルエーテル、フェニルモノグリシジルエーテル、メチルジグリシジルエーテル、エチルジグリシジルエーテル、ブチルジグリシジルエーテル、フェニルジグリシジルエーテル、メチルフェノールモノグリシジルエーテル、エチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェノールモノグリシジルエーテル、ミネラルスピリット、2-ヒドロキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、4-ビニルピリジン、N-メチル-2-ピロリドン、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、
【0045】
スチレン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジオキソラン、シクロヘキサノールアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、各種シリコーンオイル、各種ナフテン系溶媒、各種パラフィン系溶媒、各種イソパラフィン系溶媒からなる群から選ばれる1種類の溶媒、またはこれらの溶媒を2種以上含んでいるものが挙げられる。
【0046】
これらの溶媒の中で、好ましくは、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジオキソラン、酪酸ブチル、イソパラフィン系溶媒が挙げられる。
【0047】
本発明において、分散媒として非水系溶媒を使用する際は、グラフェン分散体の水分含有量は、5000ppm以下であることが好ましく、3000ppm以下であることがより好ましく、1000ppm以下であることがさらに好ましい。使用される非水系溶媒は、水分含有量が低いことが好ましい。
【0048】
本発明のグラフェン分散体において、上記グラフェン材料の他、本発明の効果を更に発揮せしめる点で、更に、黒鉛型の炭素質からなる導電性粒子を含有することができる。
用いることができる導電性炭素粒子としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック粒子、グラフェンシートを丸めて筒状にした構造からなる単層のカーボンナノチューブ、筒径の異なる複数の筒状グラフェンシートが挿入された構造からなるマルチウォールカーボンナノチューブ等のカーボンナノファイバーなどが挙げられる。
【0049】
前記グラフェン材料との比重差が±0.2g/cm以内の範囲にある導電性炭素粒子が好ましく用いられる。この導電性炭素粒子を使用したグラフェン分散体は、それ自体又はこれを配合した電極スラリーとして保管しておいた際、比重差による分離が起こりにくい。
【0050】
用いることができるカーボンナノファイバーの平均外径は、導電性、安定性の点から、1nm以上90nm以下であることが好ましく、3nm以上30nm以下であることがより好ましく、3nm以上15nm以下であることがさらに好ましい。ここで、カーボンナノファイバーの平均外径とは、透過型電子顕微鏡の10万倍以上の倍率の画像を用いて測定した十分なn数の外径の算術平均値をいう。
【0051】
本発明のグラフェン分散体を電池電極用の使用する際に配合される導電性炭素粒子の含有量は、用途に応じて、また、本発明の効果を更に最大限に発揮せしめる点から、好適な含有量を設定することができる。例えば、導電用スラリー、二次電池用電極スラリー、二次電池用電極などに用いる場合は、導電性炭素粒子の含有量は、グラフェン分散体全量に対して、0.5~10質量%とすることが好ましく、0.5~7質量%とすることがさらに好ましく、0.5~5質量%とすることが特に好ましい。
【0052】
本発明の電池電極用グラフェン分散体の製造は、例えば、少なくとも、上記のグラフェン材料、分散剤、及び分散媒を投入し、撹拌・混合工程後、分散工程を経て得ることができる。
【0053】
上記グラフェン分散体の製造における分散工程は、例えば、超音波分散機や、ディスパー、ホモミキサー、自転公転ミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、(高圧)ホモジナイザー、ペイントコンディショナー、コロイドミル類、ビーズミル、コーンミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル、薄膜旋回型高速ミキサー等のメディアレス分散機、その他ロールミル等の分散装置を用いて分散処理することによって実施できるが、これらに限定されるものではない。
好ましい分散装置は、安定性や分散効率の点から、薄膜旋回型高速ミキサー及びビーズミルである。
【0054】
上記グラフェン分散体の製造において、分散工程(例えば、超音波分散機)での分散が進むにつれてグラフェン材料の破砕が進み、黒色度(吸光度)が増加することが、後述する実施例により確認できた。グラフェン材料の破砕は、グラフェンシート面自体の断裂よりも、層状となっているグラフェン材料の層間剥離が支配的である。グラフェンシート面自体の断裂が伴わないことで、グラフェン分散体から電池電極を作成した際、導電パスや熱伝導パスを形成・維持し易くなる。
【0055】
本発明のグラフェン分散体を使用して、流動性に優れた電池電極用スラリーを調製することができる。
電池電極用スラリーにおいて、電極スラリーの流動性を得る点などから、使用するグラフェン分散体は、E型回転粘度計〔TV-25(東機産業社製)ローター(1°34’×R24mm)〕、回転数10rpmにおける25℃の粘度値(mPa・s)が、3~700であることが好ましく、5~300であることがより好ましく、5~200であることが更に好ましい。同様に、回転数1rpmにおける25℃の粘度値(mPa・s)が、30~7000であることが好ましく、50~3000であることがより好ましく、50~2000であることが更に好ましい。
【0056】
また、本発明のグラフェン分散体は、これを使用して調製する電池電極用スラリーの流動性を得る点などから、非水系溶媒を使用した非水系組成物であることが好ましい。水分含有量(ppm)は、好ましくは5000以下であり、より好ましくは、3000以下、2500以下、2000以下、1800以下、1600以下、1400以下、1200以下であり、更に好ましくは、1000以下である。グラフェン分散体に含有される水分量は、カールフィッシャー水分計(電量滴定法)で測定できる。
【0057】
本発明のグラフェン分散体は、更に導電性粒子等の各種成分を加えて、リチウムイオン電池などの二次電池の正極用スラリー、負極用スラリーなどの電極用スラリーとして好適に利用することができる。
本発明のグラフェン分散体は、グラフェン材料等を均一に分散させ、かつ、低粘度とした分散体であるので、電極形成のため塗工する際に導電材及び活物質を均一に分布させることができる。しかも、本発明のグラフェン分散体をリチウムイオン電池電極に使用すると、Liイオンの出し入れや電極の抵抗値に悪影響を及ぼすことなく、リチウムイオン電池の高Cレート特性、サイクル特性を高度に維持することができる。
【0058】
また、導電性粒子を本発明のグラフェン分散体とともに使用した電極用スラリーでは、グラフェン材料はc軸面(エッジ部)を多く露出させているものと推測されるので、導電性粒子表面とc軸面(エッジ部)との接触が多くなり、この電極用スラリーから得られる塗膜は、低い抵抗値が期待される。特に、カーボンナノチューブのような繊維状の導電性粒子をグラフェン分散体とともに使用した電極用スラリーでは、導電性粒子の周囲にグラフェン材料のc軸面(エッジ部)が数多く接触することとなり、前記の抵抗値の低下の外、繊維状の導電性粒子と分散したグラフェン粒子のc軸面(エッジ部)との接触部周辺の隙間に、後述する活物質から遊離したイオンが出入りして、その保持が起こりやすくなることが期待される。
【0059】
〈正極用スラリー〉
本発明の正極用スラリーは、上記構成のグラフェン分散体及び少なくとも正極用活物質を含むことを特徴とするものである。
正極用活物質としては、リチウムイオン電池の正極にリチウムイオンを可逆的に出入りさせる物質を用いることができる。
【0060】
正極用活物質としては、例えば、リチウム-ニッケル複合酸化物、リチウム-コバルト複合酸化物、リチウム-マンガン複合酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物、リチウム-ニッケル-アルミニウム複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト複合酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-アルミニウム複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン-アルミニウム複合酸化物等のリチウムと遷移金属との複合酸化物、TiS、FeS、MoS等の遷移金属硫化物、MnO、V---、V13、TiO等の遷移金属酸化物、オリビン型リチウムリン酸化物等が挙げられる。
【0061】
オリビン型リチウムリン酸化物は、例えば、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nb、およびFeよりなる群のうちの少なくとも1種の元素と、リチウムと、リンと、酸素とを含んでいる。これらの化合物はその特性を向上させるために一部の元素を部分的に他の元素に置換したものであってもよい。
好ましい正極用活物質は、リチウム-ニッケル複合酸化物であり、更に好ましくは、式:LiNiM1M2(M1およびM2は、Al、B、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の元素のうち少なくとも1種以上の金属元素;0.8≦X≦1.0、0≦Y≦0.2、0≦Z≦0.2)で表されるリチウム-ニッケル複合酸化物、または、リン酸リチウムである。
これらの正極用活物質は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
本発明の正極用スラリーにおいて、上記正極用活物質の含有量は、正極用スラリー全量に対して、電池容量を確保する点、スラリーの流動性を確保する点から、50~70質量%が好ましく、50~63質量%が更に好ましい。
また、正極用スラリーにおけるグラフェン材料の含有量は、正極用活物質100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がより好ましく、0.05~1質量部が更に好ましい。
【0063】
本発明の正極用スラリーは、上記構成のグラフェン分散体及び正極用活物質を含むと共に、必要に応じて、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等の固体電解質を含有することができる。
【0064】
〈負極用スラリー〉
本発明の負極用スラリーは、上記構成のグラフェン分散体及び少なくとも負極用活物質を含むことを特徴とするものである。
負極用活物質としては、例えば、金属酸化物系活物質粒子、シリコン系活物質粒子、球状黒鉛を用いることができ、特に金属酸化物系負極活物質粒子を好適に用いることができる。
【0065】
金属酸化物系負極活物質粒子としては、例えば、チタン酸化物を使用できる。チタン酸化物としては、リチウムを吸蔵放出可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、スピネル型チタン酸リチウム、ラムスデライト型チタン酸リチウム、チタン含有金属複合酸化物、単斜晶系の結晶構造を有する二酸化チタン(TiO(B))、並びにアナターゼ型二酸化チタンなどを用いることができる。
【0066】
スピネル型チタン酸リチウムとしては、Li4+xTi12(xは充放電反応により0≦x≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。ラムスデライト型チタン酸リチウムとしては、Li2+yTi(yは充放電反応により0≦y≦2の範囲で変化する)などが挙げられる。TiO(B)及びアナターゼ型二酸化チタンとしては、Li1+zTiO(zは充放電反応により-1≦z≦0の範囲で変化する)などが挙げられる。
【0067】
チタン含有金属複合酸化物としては、TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素とを含有する金属複合酸化物などが挙げられる。TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する金属複合酸化物としては、例えば、TiO-P、TiO-V、TiO-P-SnO、TiO-P-MeO(MeはCu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)などを挙げることができる。
【0068】
このような金属複合酸化物は、結晶性が低く、結晶相とアモルファス相とが共存しているか、又は、アモルファス相が単独で存在しているミクロ構造であることが好ましい。ミクロ構造であることにより、サイクル性能を更に向上させることができる。
【0069】
本発明の負極用スラリーにおいて、上記負極用活物質の含有量は、負極用スラリー全量に対して、電池容量を確保する点、スラリーの流動性を確保する点から、30~60質量%が好ましく、35~55質量%が更に好ましい。
【0070】
また、上記構成の電池電極用グラフェン分散体の含有量は、負極用活物質100質量部に対して、グラフェン材料基準の量で、0.05~5質量部が好ましく、0.05~3質量部がより好ましく、0.05~1質量部が更に好ましい。
【0071】
本発明の負極用スラリーは、上記構成のグラフェン分散体及び負極用活物質を含むと共に、必要に応じて、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等の固体電解質、等を含有することができる。
【0072】
上記で得られた正極用スラリー及び負極用スラリーのそれぞれには、更に結着材(バインダー)を含むことが好ましい。
【0073】
用いることができる結着材(バインダー)としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル系樹脂などを挙げることができる。これらの結着材は2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
これらの結着材の量は、集電箔に対する密着性、セル化された後の電池容量や充放電特性の点から、二次電池用の電極スラリー中の活物質100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.1~4.5質量部がより好ましく、1.5~4.5質量部が更に好ましい。
【0075】
電極用スラリーには、各スラリーの性状に合わせて水系又は非水系の溶媒を更に添加してもよい。溶媒としては、水(精製水、イオン交換水、蒸留水、超純水など)、芳香族系溶媒、アルコール類、多価アルコール類、エーテル系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、エステル系溶媒、アミン系溶媒、アミド系溶媒、複素環系溶媒、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0076】
これらの溶媒の量は、電極用スラリーを塗工する際に、適切な粘性に仕上げる必要性の点から、好ましくは、二次電池用の電極スラリー全量に対して、0.5~80質量%、より好ましくは、1~70質量%添加することが望ましい。
【0077】
更に、電極用スラリーには、上記電池電極用グラフェン分散体、各活物質、結着材、溶媒の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、レベリング剤、固体電解質、防腐剤などを適宜配合することができる。
【0078】
このように構成される二次電池用の電極用スラリーは、上記電池電極用グラフェン分散体と、二次電池用の正極用又は負極用の各活物質と、結着材(バインダー)、溶媒などを混合することにより調製することができる。混合には、例えば、二軸型混練機を用いることができる。
【0079】
上記のようにして得られた電極用スラリーを用いることにより、二次電池用電極を得ることができる。
正極用又は負極用の電極スラリーをリチウムイオン二次電池の導電性部材である集電体上に塗布して乾燥することにより、所定のリチウムイオン二次電池用正極又は負極が得られる。すなわち、本発明の各電極スラリーを使用して、高出力且つ長期間の繰り返し充放電に耐えうる電池性能を実現する二次電池用電極が得られる。
【0080】
上記電極の基材として使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。
【0081】
集電体上に電極用スラリーを塗工し、乾燥することにより、電極が作成される。電極用スラリーを塗工する方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができる。また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。
【0082】
電極用スラリーを乾燥する方法としては自然乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できる。
集電体上に形成される電極の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0083】
本発明の正極用又は負極用スラリーは、上記特性のグラフェン分散体を用いているので、電極形成のため塗工する際に導電材及び活物質を均一に分布させることができ、高Cレート(高出力)特性、サイクル特性に悪影響が生じることがなく、塗工性と安定性に優れたものである。
【0084】
〈二次電池、リチウムイオン二次電池〉
二次電池は、通常、正極と、負極と、電解質と、非水系の溶媒と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。リチウムイオン二次電池の正極又は負極には、上記電極用スラリーを塗工して作成される電極を用いることができる。
以下において、リチウムイオン二次電池に用いた場合について説明する。
【0085】
正極としては、集電体上に正極活物質を含む上述の正極用スラリーを塗工乾燥して作製した電極を使用することができる。
負極としては、集電体上に負極活物質を含む上述の負極用スラリーを塗工乾燥して作製した電極を使用することができる。
【0086】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、又はLiBPh(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0087】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0088】
リチウムイオン二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、コイン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。セパレーターとしては、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布、及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられる。
本発明の電極用スラリーを使用して形成された電極から構成されるリチウムイオン二次電池等の二次電池は、高出力且つ長期間の繰り返し充放電に耐えうる電池性能を有する。
【実施例0089】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
〔グラフェン材料の調製〕
下記表1に示す原料グラフェンを使用して、各種の追加操作を適用することによりグラフェン分散体に用いるグラフェン材料を調製した。
原料グラフェンには、膨張化黒鉛GR-10(日本黒鉛(株)製)、膨張化黒鉛FS5(東日本カーボン(株)製)、薄片化黒鉛UP-5N(日本黒鉛(株)製)、Graphene powder GP(2D Materials Pte. Ltd.製)、CVDグラフェンを用いた。CVDグラフェンは、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)を用い、980℃の雰囲気下へメタンガスを流し、サファイア基板上に成膜した銅箔の上に形成し、銅箔をエッチングで取り除いた後、粉砕して得た、粉末状のグラフェン材料である。
【0091】
原料グラフェンへの追加操作としては、脱金属操作、粉砕操作及び分級操作の操作を適宜選択し、前記の順に実施した。適用した操作を表1に○で示す。各操作の詳細は、下記の通りである。各操作の後、得られた各グラフェン材料のBET比表面積(m/g)、ラマンスペクトルのピーク強度の2D/G比、Fe,Co,Niの含有量合計(ppm)を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
〔脱金属操作〕
精製水に10質量%のエタノールを混合した溶媒90質量部に、原料グラフェン10質量部を添加し、そこに硝酸を加えpH2.5以下に調整した。液温を40℃に制御し、2時間撹拌した後、濾過した。濾別物を精製水90質量部に投入し、再分散し、濾過する洗浄操作を、濾液のpHが5以上になるまで繰り返した。
【0094】
〔粉砕操作〕
精製水に10質量%のエタノールを混合した溶媒98部に、原料グラフェン2部を添加し、ディスパーで均一化した後に1200Wの連続式超音波分散機で、超音波分散機内における処理時間(滞留時間)が30分となる様に、冷却しながらポンプで循環させ粉砕処理をした。その後、吸引濾過で溶媒を除去した後、凍結乾燥により粉末のグラフェン材料を得た。
粉砕操作を行なわない場合は、原料グラフェンを単に凍結乾燥することにより粉末のグラフェン材料を得た。
【0095】
〔分級操作〕
脱金属操作及び/または粉砕操作を経た/経なかった原料グラフェンを、エルボージェット分級機((株)マツボー製)を用い、分級点2μmで分級処理をし、微粒子側の粉体を回収し、粉末のグラフェン材料を得た。
【0096】
〔グラフェン分散体の調製および評価〕
得られたグラフェン材料、分散剤及び溶媒を表2に示す配合組成にて分散装置(φ0.3mmのジルコニアビーズを用いたビーズミル)に投入し、周速を10m/sに設定し、滞留時間30分の条件の分散処理により分散して、実施例1~24、及び比較例1~9のグラフェン分散体を得た。
得られたグラフェン分散体について、分散体特性、および電池特性を評価した。電池特性は、下記のように、電極スラリー化、電極塗工、コインセル化を経て評価した。
【0097】
〔ラマンスペクトル〕
グラフェン分散体をアプリケーターで集電体上に塗布し、80℃で乾燥させた塗膜表面を、ラマン分光装置DXR2xi(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて100μm四方の面積でマッピングし、ラマンスペクトルのピークトップ位置を測定した。
【0098】
〔低剪断・高剪断粘度〕
E型回転粘度計〔東機産業(株)製TV-25;ローター(1°34’×R24mm)〕を用いて、回転数1rpmにおける25℃の粘度測定値(mPa・s)を低剪断粘度、10rpmにおける25℃の粘度測定値(mPa・s)を高剪断粘度として評価した。
〔水分〕
グラフェン分散体を、電量滴定法カールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製MKC-610)により評価した。
【0099】
〔550nm吸光度〕
グラフェン分散体を、グラフェン材料濃度が50ppmとなる様にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)で希釈して分散液とし、光路長10mmのセルを用い、分散液の550nmの吸光度を分光光度計(日立(株)製U-3300)にて測定した。
【0100】
〔380nm/780nm吸光度比〕
グラフェン分散体を、グラフェン材料濃度が50ppmとなる様にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)で希釈して分散液とし、光路長10mmのセルを用い、分散液の380nmの吸光度と780nmの吸光度を前記分光光度計を用いて測定し、380nmの吸光度を780nmの吸光度で除して、吸光度比を算出した。
【0101】
〔電池特性評価〕
リン酸鉄リチウム(LiFePO)92質量部、アセチレンブラック(デンカ(株)製デンカブラック)4質量部、ポリフッ化ビニリデン((株)クレハ製W#9700)4質量部、及び、グラフェン分散体をグラフェン材料が0.1質量部となる量、NMP中に各材料を配合してプラネタリーミキサーで混合し、電極スラリーを調製した。
得られた電極スラリーを、アプリケーターで厚さ25μmのアルミ箔集電体上に、目付が5mg/cmとなるように塗布し、80℃のオーブンで乾燥させて電極シートを得た。
得られた電極シートを打ち抜き、プレス機でアルミ箔を含む電極の密度が2.2g/cmとなる様にプレスし、対極をリチウム金属として、単極のコイン型セルからなるリチウム電池を各電極シートにつき3個作製し、各種電池特性を評価した。尚、電解液としては、カーボネート系溶媒を、セパレーターとしてはポリプロピレン製のものを用いた。
【0102】
〔初期放電容量〕
リン酸鉄リチウムの理論容量を170mAh/gとして、初回充放電を終えた後の2サイクル目の放電容量を3個のコイン型セルについて評価し、その平均値を初期放電容量とした。
〔5C充放電 容量維持率〕
高出力充放電への耐性試験として、3個のコイン型セルについて上記初期放電容量を評価した後、Cレートを5Cとして前記と同様にして放電容量を評価し、理論容量に対する放電容量の百分率を平均値で算出した。
〔30サイクル後 容量維持率〕
繰り返し充放電への耐性試験として、3個のコイン型セルについて上記5C充放電容量維持率を評価した後、1Cにおいて充放電するサイクルを25℃の環境で繰り返し、30サイクル後の放電容量を評価し、理論容量に対する放電容量の百分率を平均値で算出した。
【0103】
【表2】
【0104】
上記表1、表2の各評価結果等から明らかなように、本発明の範囲内である実施例1~24のグラフェン分散体を用いた電極用スラリーから作成された電極は、初期容量、出力特性、及びサイクル特性の面で高度に優れた特性を示した。これに対し、本発明の範囲外である比較例1~9のグラフェン分散体を用いた電極用スラリーから作成された電極は、上記特性を満足することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のグラフェン分散体は、安定性と導電性能に優れ、燃料電池、各種電極、電磁波シールド材、導電性樹脂、電界放出ディスプレイ用部材、建築部材、コーティング部材、船底塗料等の塗料用部材、などの材料として有用である。
本発明のグラフェン分散体は、特に、リチウムイオン二次電池の電極(正極、負極)の製造に好適な電極スラリーに用いることができ、本発明のグラフェン分散体を用いた電極用スラリーから作成された電極は、高出力充放電及び長期間の繰り返し充放電に耐えうる優れた電池性能を実現することができる。