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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176002
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】鉄道車両用制振装置
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/24 20060101AFI20241212BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B61F5/24 F
B61F5/24 Z
F16F15/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094177
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】小林 将之
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】青木 淳
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AB11
3J048AD02
3J048EA36
(57)【要約】
【課題】正確に制御健全性の判断を行える鉄道車両用制振装置を提供する。
【解決手段】鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両Vにおける車体Bと台車Tf,Trとの間に介装されて車体Bの横方向の振動を抑制する推力を発生可能なアクチュエータAf,Arと、車体Bの横方向の振動を検知するセンサ2f,2rと、センサ2f,2rが検知した振動に基づいて少なくとも車体Bの振動を抑制するヨー制御力fyを求めてアクチュエータAf,Arを制御するコントローラCとを備え、コントローラCは、ヨー制御力fyが所定回数以上連続して飽和するとアクチュエータAf,Arの制御が不健全であると判断する判断部12を備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両における車体と台車との間に介装されて前記車体の横方向の振動を抑制する推力を発生可能なアクチュエータと、
前記車体の横方向の振動を検知するセンサと、
前記センサが検知した振動に基づいて少なくとも前記車体の振動を抑制するヨー制御力を求めて前記アクチュエータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記ヨー制御力が所定回数以上連続して飽和すると前記アクチュエータの制御が不健全であると判断する判断部を有する
ことを特徴とする鉄道車両用制振装置。
【請求項2】
鉄道車両における車体と台車との間に介装されて前記車体の横方向の振動を抑制する推力を発生可能なアクチュエータと、
前記車体の横方向の加速度を検知するセンサと、
前記センサが検知した横方向の加速度に基づいて前記車体のヨー方向の加速度であるヨー加速度を求めて前記アクチュエータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記ヨー加速度が所定回数以上連続して所定の閾値に到達すると前記アクチュエータの制御が不健全であると判断する判断部を有する
ことを特徴とする鉄道車両用制振装置。
【請求項3】
前記判断部は、前記ヨー制御力が交互に所定時間ヨー上限値に達するとともに所定時間ヨー下限値に達すると前記ヨー制御力が飽和すると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記ヨー制御力がヨー上限値以上およびヨー下限値以上になると前記ヨー制御力を前記ヨー上限値と前記ヨー下限値とにクランプするヨー制御力リミッタを有する
ことを特徴とする請求項3に記載の鉄道車両用制振装置。
【請求項5】
前記判断部は、前記ヨー加速度がプラス側閾値とマイナス側閾値とに交互に所定回数以上連続して到達すると前記アクチュエータの制御が不健全であると判断する
ことを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両用制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用制振装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鉄道車両用制振装置にあっては、たとえば、鉄道車両に車体の進行方向に対して左右方向の振動を抑制するアクチュエータと、車体の横方向の加速度を検知する加速度センサと、加速度センサが検知した加速度から車体のスエー方向とヨー方向の振動を抑制する制御力を求めて、求めた制御力通りに推力を発揮させるようにアクチュエータを制御するコントローラとを備えるものがある。
【0003】
このように構成された鉄道車両用制振装置では、車体の振動を抑制するようにアクチュエータを制御しているにもかかわらず、車体の振動が発振する傾向にあると、制御健全性が損なわれていると判断して制御を停止して、振動の発振を防止する(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2018-026038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の鉄道車両用制振装置では、アクチュエータへの制御入力と車体の加速度の微分値とを乗じて得た健全性指標を用いて制御健全性を判断しているので、制御健全性が損なわれるとこれを速やかに判断できるのであるが、鉄道車両の走行中にランダムに入力される振動によってアクチュエータへの制御入力と加速度の微分値とが偶然大きな値を採ることがあって、そのような場合、アクチュエータの制御が健全に行われているにもかかわらず異常と判断されてしまう可能性がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、正確に制御健全性の判断を行える鉄道車両用制振装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の鉄道車両用制振装置は、鉄道車両における車体と台車との間に介装されて車体の横方向の振動を抑制する推力を発生可能なアクチュエータと、車体の横方向の振動を検知するセンサと、センサが検知した振動に基づいて少なくとも車体の振動を抑制するヨー制御力を求めてアクチュエータを制御するコントローラとを備え、コントローラは、ヨー制御力が所定回数以上連続して飽和するとアクチュエータの制御が不健全であると判断する判断部を備えている。
【0007】
また、本発明の他の鉄道車両用制振装置は、鉄道車両における車体と台車との間に介装されて車体の横方向の振動を抑制する推力を発生可能なアクチュエータと、車体の横方向の加速度を検知するセンサと、センサが検知した横方向の加速度に基づいて車体のヨー方向の加速度であるヨー加速度を求めてアクチュエータを制御するコントローラとを備え、コントローラは、車体のヨー加速度が所定回数以上連続して所定の閾値に到達するとアクチュエータの制御が不健全であると判断する判断部を備えている。
【0008】
このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、アクチュエータが発振すると波形の振幅が大きくなるという特徴が現れるヨー制御力或いはヨー加速度を用い、ヨー制御力が所定回数以上連続して飽和するか或いはヨー加速度が所定の閾値に所定回数以上連続して到達するとアクチュエータの制御が不健全であると判断するので、振動の入力で偶発的にヨー制御力或いはヨー加速度が大きくなるような状況を除外しつつ、正確にアクチュエータの発振を検知できる。
【0009】
また、鉄道車両用制振装置における判断部は、ヨー制御力が交互に所定時間ヨー上限値に達するとともに所定時間ヨー下限値に達するとヨー制御力が飽和すると判断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、鉄道車両に入力される振動によってヨー制御力がヨー上限値或いはヨー下限値のいずれか一方のみを偶発的に跨ぐような波形を呈した場合や極短い時間ヨー上限値或いはヨー下限値となる場合などを除外できるので、より正確にアクチュエータの発振を検知でき、制御の健全性の判断結果の正確性を向上できる。
【0010】
そして、鉄道車両用制振装置におけるコントローラは、ヨー制御力がヨー上限値以上およびヨー下限値を以上になるとヨー制御力をヨー上限値とヨー下限値とにクランプするヨー制御力リミッタを有してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、鉄道車両に入力される振動によってヨー制御力がヨー上限値或いはヨー下限値のいずれか一方のみを偶発的に跨ぐような波形を呈した場合や極短い時間ヨー上限値或いはヨー下限値となる場合などを除外できるとともに、ヨー制御力の飽和時の波形がヨー上限値或いはヨー下限値のまま変化しないフラットな波形となるので、より正確かつ容易にアクチュエータの発振を検知でき、制御の健全性の判断結果の正確性を向上できる。
【0011】
さらに、鉄道車両用制振装置における判断部は、ヨー加速度がプラス側閾値とマイナス側閾値とに交互に所定回数以上連続して到達するとアクチュエータの制御が不健全であると判断してもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置によれば、鉄道車両に入力される振動によってヨー加速度がプラス側閾値或いはマイナス側閾値のいずれか一方のみを偶発的に跨ぐような波形を呈した場合などを除外できるので、より正確にアクチュエータの発振を検知でき、制御の健全性の判断結果の正確性を向上できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の制御健全性判断装置によれば、正確に制御健全性の判断を行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施の形態における鉄道車両用制振装置を搭載した鉄道車両の断面図である。
図2】一実施の形態における鉄道車両用制振装置を搭載した鉄道車両の平面図である。
図3】一実施の形態における鉄道車両用制振装置のコントローラの制御ブロック図である。
図4】ヨー制御力リミッタで処理した後のヨー制御力の波形とヨー加速度の波形とを示した図である。
図5】コントローラにおける判断部の処理手順を示したフローチャートの一例を示した図である。
図6】コントローラにおける判断部の処理手順を示したフローチャートの他の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における鉄道車両用制振装置1は、図1から図3に示すように、鉄道車両Vにおける車体Bと前後の台車Tf,Trとの間に介装されて車体Bの横方向の振動を抑制する推力を発生可能なアクチュエータAf,Arと、車体Bの横方向の振動を検知するセンサとしての加速度センサ2f,2rと、加速度センサ2f,2rが検知した振動に基づいて車体Bの振動を抑制するスエー制御力fsとヨー制御力fyとを求めてアクチュエータAf,Arを制御するコントローラCとを備えており、車体Bの振動を抑制する。なお、加速度センサ2f,2r、台車Tf,Tr、アクチュエータAf,Arおよびその他の符号の添え字のうち、fは車体Bの前側に関連していることを示し、rは車体Bの後側に関連していることを示している。
【0015】
以下、鉄道車両用制振装置1の各部について詳細に説明する。鉄道車両用制振装置1が適用される鉄道車両Vは、図1に示すように、軌道上を走行する車輪Wを保持する台車Tf,Trと、台車Tf,Trに対してそれぞればねSを介して弾性支持される車体Bとを備えている。車体Bは、ばねSを介して弾性支持されているので、台車Tf,Trに対して図2中で上下左右への相対移動が許容される。
【0016】
アクチュエータAf,Arは、図1および図2に示すように、詳しくは図示はしないが、たとえば、シリンダ3と、シリンダ3内に摺動自在に挿入される図外のピストンと、シリンダ内に挿入されて前記ピストンに連結されるロッド4とを備えて、片ロッド型のアクチュエータとして構成されている。なお、アクチュエータAf,Arは、両ロッド型のアクチュエータとされてもよい。また、アクチュエータAf,Arは、シリンダ3内に作動流体を供給するポンプと、制御弁や切換弁等を有する流体圧回路とを備えており、ポンプおよび制御弁、切換弁の駆動により伸縮作動できる。そして、アクチュエータAf,Arは、コントローラCが求めた制御力Ff,Frに応じて、ポンプおよび流体圧回路に設けられた制御弁、切換弁を駆動して、制御力Ff,Frが指示する通りに推力を発揮する。また、アクチュエータAf,Arは、何ら通電を受けない状態では伸縮に伴って当該伸縮を妨げる減衰力を発揮するパッシブダンパとして機能する。
【0017】
このように構成されたアクチュエータAf,Arは、ともに、シリンダ3が鉄道車両Vの車体Bの下方に垂下されるピンPに連結され、ロッド4が台車Tf,Trに連結されて、車体Bと台車Tf,Trとの間に設置される。前後のアクチュエータAf,Arは、ともに伸長すると車体中心Gを回転中心として図2中時計回りに車体Bをヨー回転させ、ともに収縮すると車体中心Gを回転中心として図2中反時計回りに車体Bをヨー回転させる。また、前側のアクチュエータAfを伸長させるとともに後側のアクチュエータArを収縮させると、車体Bが図2中で右方へスエーし、前側のアクチュエータAfを収縮させるとともに後側のアクチュエータArを伸長させると、車体Bが図2中で左方へスエーする。
【0018】
本実施の形態の鉄道車両用制振装置1では、車体Bの振動として車体Bの横方向の加速度を検知する加速度センサ2f,2rを備えている。加速度センサ2fは、車体Bの前側に設置されており、車体前部の横方向加速度αfを検知し、加速度センサ2rは、車体Bの後側に設置されており、車体後部の横方向加速度αrを検知する。前側の加速度センサ2fと後側の加速度センサ2rは、図2中右側へ向く方向の横方向加速度αf,αrをプラスの値として検知し、反対に図2中左側へ向く方向の横方向加速度αf,αrをマイナスの値として検知する。なお、車体Bの振動として車体Bの台車Tf,Trに対する変位を検知してもよい。
【0019】
コントローラCは、本実施の形態では、車体Bの振動を抑制する制御を行う際に、加速度センサ2fが検知した横方向加速度αfと、加速度センサ2rが検知した横方向加速度αrとに基づいて前後のアクチュエータAf,Arが出力すべき推力を指示する制御力Ff,Frを求める制御演算部11と、アクチュエータAf,Arの制御の健全性を判断する判断部12と、制御力Ff,Fr通りにアクチュエータAf,Arを駆動する駆動部13とを備えている。なお、コントローラCは、駆動部13を除きハードウェア資源としては、図示はしないがたとえば、加速度センサ2f,2rが出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、アクチュエータAf,Arの制御および制御健全性の判断に必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記演算装置に記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、制御演算部11および判断部12における各部は、CPUの前記プログラムの実行により実現される。
【0020】
制御演算部11は、図3に示すように、車体Bのヨー方向の振動を抑制するヨー制御力fyを求めるヨー制御力演算部20と、車体Bのスエー方向の振動を抑制するスエー制御力fsを求めるスエー制御力演算部21と、ヨー制御力fyがヨー上限値fyu以上或いはヨー下限値fyl以下になるとヨー制御力fyをヨー上限値fyuとヨー下限値fylとにクランプするヨー制御力リミッタ22と、スエー制御力fsがスエー上限値以上或いはスエー下限値以上になるとスエー制御力fsをスエー上限値とスエー下限値とにクランプするスエー制御力リミッタ23と、各アクチュエータAf,Arが発揮すべき推力を指示する制御力Ff,Frを求める制御力演算部24とを備えている。
【0021】
ヨー制御力演算部20は、図3に示すように、横方向加速度αf,αrからヨー加速度αyを求め、求めたヨー加速度αyの車体Bの共振周波数帯の成分を抽出し、ヨー加速度αyの共振周波数成分からヨー制御力fyを求める。詳細には、ヨー制御力演算部20は、前側の加速度センサ2fと車体Bの車体中心Gとの前後方向距離Lfとし、後側の加速度センサ2rと車体Bの車体中心Gとの前後方向距離Lrとすると、αy=(αf-αr)/(Lf+Lr)を演算してヨー加速度αyを求める。なお、本例では、ヨー加速度αyを前側の加速度センサ2fと後側の加速度センサ2rで加速度を検知して求めているが、ヨー加速度センサを用いて検知するようにしてもよい。
【0022】
また、車体Bの共振周波数は、1Hzから1.5Hzまでの間にあるので、ヨー制御力演算部20は、ヨー加速度αyを濾波してヨー加速度αyに含まれる1Hzから1.5Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
【0023】
さらに、ヨー制御力演算部20は、本実施の形態では、H∞制御器とされており、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用してヨー加速度αyの共振周波数成分に重みづけを行ってヨー制御力fyを求める。
【0024】
スエー制御力演算部21は、図3に示すように、横方向加速度αf,αrからスエー加速度αsを求め、求めたスエー加速度αsの車体Bの共振周波数帯の成分を抽出し、スエー加速度αsの共振周波数成分からスエー制御力fsを求める。詳細には、スエー制御力演算部21は、横方向加速度αfと横方向加速度αrの和を2で割って車体Bの車体中心Gのスエー加速度αsを求める。
【0025】
また、車体Bの共振周波数が1Hzから1.5Hzまでの間にあるので、スエー制御力演算部21は、スエー加速度αsを濾波してスエー加速度αsに含まれる1Hzから1.5Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
【0026】
さらに、スエー制御力演算部21は、本実施の形態では、H∞制御器とされており、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用してスエー加速度αsの共振周波数成分に重みづけを行ってスエー制御力fsを求める。
【0027】
なお、ヨー制御力fyは、アクチュエータAf,Arが車体Bのヨー方向の振動を抑制するために出力するべき推力であって、プラスの数値とマイナスの数値とを採り、数値によってアクチュエータAf,Arの推力の大きさを、符号によってアクチュエータAf,Arの推力の方向をそれぞれ指示するものとなっている。スエー制御力fsは、アクチュエータAf,Arが車体Bのスエー方向の振動を抑制するために出力するべき推力であって、プラスの数値とマイナスの数値とを採り、数値によってアクチュエータAf,Arの推力の大きさを、符号によってアクチュエータAf,Arの推力の方向をそれぞれ指示するものとなっている。なお、ヨー制御力演算部20およびスエー制御力演算部21は、スカイフック制御則に基づき、それぞれヨー加速度αyおよびスエー加速度αsにスカイフック減衰係数を乗じて制御力を求めてもよい。
【0028】
ヨー制御力リミッタ22は、ヨー制御力fyの値がヨー制御力fyに対して設定されるヨー上限値fyu或いはヨー下限値fylに達すると、ヨー制御力fyの値をヨー上限値fyu或いはヨー下限値fylに制限する。よって、ヨー制御力リミッタ22は、ヨー制御力fyがプラスの値でヨー上限値fyu以上の値になるとヨー制御力fyの値をヨー上限値fyuとして出力し、ヨー制御力fyがマイナスの値でヨー下限値fyl以下の値になるとヨー制御力fyの値をヨー下限値fylとして出力する。
【0029】
スエー制御力リミッタ23は、スエー制御力fsの値がスエー制御力fsに対して設定されるスエー上限値或いはスエー下限値に達すると、スエー制御力fsの値をスエー上限値或いはスエー下限値に制限する。よって、スエー制御力リミッタ23は、スエー制御力fsがプラスの値でスエー上限値以上の値になるとスエー制御力fsの値をスエー上限値として出力し、スエー制御力fsがマイナスの値でスエー下限値以下の値になるとスエー制御力fsの値をスエー下限値として出力する。
【0030】
制御力演算部24は、図3に示すように、ヨー制御力リミッタ22で処理したヨー制御力fyおよびスエー制御力リミッタ23で処理したスエー制御力fsとから前側のアクチュエータAfと後側のアクチュエータArとの制御力Ff,Frを求める。制御力演算部24は、ヨー制御力fyとスエー制御力fsとを加算した値を2で割って前側のアクチュエータAfの制御力Ffを求め、スエー制御力fsからヨー制御力fyを差し引いた値を2で割って後側のアクチュエータArの制御力Frを求める。
【0031】
駆動部13は、各アクチュエータAf,Arのポンプ、制御弁や切換弁等を駆動するドライバ回路を備えており、制御力Ff,Fr通りに各アクチュエータAf,Arに推力を発揮させる。
【0032】
鉄道車両用制振装置1では、前述したように、鉄道車両Vの車体Bのヨー方向の振動の抑制に対応するヨー制御力fyと車体のスエー方向の振動の抑制に対応するスエー制御力fsとから制御力Ff,Frを求めるので、車体Bの振動の抑制に最適な制御力Ff,Frを求め得る。
【0033】
つづいて、アクチュエータAf,Arの制御の健全性を判断する判断部12について説明する。本実施の形態の鉄道車両用制振装置1では、アクチュエータAf,Arでアクティブに車体Bを加振可能であるため、鉄道車両Vの走行中にコントローラCによるアクチュエータAf,Arの制御が何らかの原因により適切に行われず、車体Bの振動を抑制するようにアクチュエータAf,Arの推力を発生させる制御を行っているにもかかわらず、アクチュエータAf,Arの推力によって車体Bの振動を増幅する発振が発生する可能性がある。このように発振が生じているときアクチュエータAf,Arの制御を継続すると車体Bの振動が徐々に大きくなり車両における乗心地が損なわれることになる。ヨー制御力fyは、アクチュエータAf,Arが車体Bを車体中心G周りに回転させる推力を指示するものであるから、鉄道車両Vに入力される振動によってランダムな指令になりやすいスエー制御力fsと異なり、アクチュエータAf,Arが発振するとヨー制御力fyの波形が原点を中心に振動する波形になりやすい。発明者らは、このようなヨー制御力fyの性質に着目し、前記発振が生じる状況になると、特にヨー制御力fyの波形がヨー上限値fyuとヨー下限値fylとに交互に連続して到達することを発見し、ヨー制御力fyの推移を監視することによりアクチュエータAf,Arが発振しているか否かを判断できるとの知見に至った。
【0034】
そこで、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1における判断部12は、制御演算部11におけるヨー制御力演算部20が求めたヨー制御力fyが所定回数以上連続して飽和すると、これを条件として各アクチュエータAf,Arの制御が不健全であると判断し、前記条件が成就していないと各アクチュエータAf,Arの制御が健全であると判断する。具体的には、判断部12は、ヨー制御力演算部20が求めたヨー制御力fyがヨー制御力リミッタ22によって所定回数以上連続してヨー上限値fyuとヨー下限値fylに到達すると制御が不健全であると判断する。
【0035】
アクチュエータAf,Arが発振する場合、ヨー制御力演算部20が求めたヨー制御力fyは、徐々に振幅が大きくなり、やがて、ヨー上限値fyu以上の値になるとともに、ヨー下限値fyl以下の値になり、アクチュエータAf,Arの発振によって車体Bの振動も大きくなる。よって、アクチュエータAf,Arが発振する場合、ヨー制御力リミッタ22によって処理した後のヨー制御力fyの波形は、図4中の実線で示すように、1周期でプラス側の一部がヨー上限値fyu以上となり、マイナス側の一部がヨー下限値fyl以下となる波形となるので、判断部12は、1周期内のヨー制御力fyの波形のプラス側の一部がヨー上限値fyu以上となるとともにマイナス側の一部がヨー下限値fyl以下となると、これを1回目のリミットサイクル状態として、本実施の形態ではリミットサイクル状態が5回連続すると、アクチュエータAf,Arが発振しており制御の健全性が損なわれた状態、つまり、不健全であると判断する。
【0036】
ヨー上限値fyuとヨー下限値fylとは、指令として許容されるヨー制御力fyの上限値と下限値となり、ヨー制御力fyは、交互に連続してヨー上限値fyu以上となるとともにヨー下限値fyl以上になると指令が飽和する状況となる。なお、ヨー上限値fyuとヨー下限値fylとは、アクチュエータAf,Arの発生可能な推力に応じて設定される。以上のように、本実施の形態では、ヨー制御力fyが1サイクルでヨー上限値fyu以上の値を採るととともにヨー下限値fyl以下の値を採るとヨー制御力fyが飽和したとし、連続して飽和した回数が所定回数である5回以上となると制御が不健全であると判断する。なお、所定回数は、任意に設定できるがあまり大きな値に設定されると不健全であると判断するタイミングが遅くなる。また、1回に設定されると偶然ヨー制御力fyが飽和した場合にも制御が不健全であると判断されるので少なくとも2回以上に設定されるのが好ましい。
【0037】
そして、コントローラCは、判断部12による判断結果がアクチュエータAf,Arの制御が不健全である場合、アクチュエータAf,Arの制御を中止して、アクチュエータAf,Arをパッシブダンパとして機能させる。発振が生じる状況は、加速度センサ2f,2rの故障、加速度センサ2f,2rのいずれか一方が加速度をプラスとして検知する方向をマイナスとして検知するように取り付けた場合等が考えられるが、判断部12は、ヨー制御力fyを監視することによってアクチュエータAf,Arの発振を早期に発見し得る。
【0038】
判断部12の具体的な処理について説明する。コントローラCは、ヨー制御力演算部20が求めたヨー制御力fyをヨー制御力リミッタ22で処理した後のヨー制御力fyを監視して、判断部12の処理を行う。ヨー制御力リミッタ22の処理は、ヨー制御力fyの値がヨー上限値fyu以上になるとヨー上限値fyuに制限し、ヨー制御力fyの値がヨー下限値fyl以下になるとヨー下限値fylに制限する処理であり、鉄道車両Vの共振周波数が既知であるため、一定時間毎にヨー制御力リミッタ22による処理後のヨー制御力fyがヨー上限値fyuであるか否か、ヨー下限値fylであるか否かを判断することで、簡単にヨー制御力fyが飽和しているかを判断できる。なお、判断部12の処理において、コントローラCは、ヨー制御力リミッタ22で処理する前、つまり、ヨー制御力演算部20が出力するヨー制御力fyを監視して、ヨー制御力fyが飽和しているか否かを判断してもよい。
【0039】
制御の健全性の判断のために、コントローラCは、具体的には、図5に示した処理を実行する。前述したように、コントローラCは、ヨー制御力リミッタ22で処理した後のヨー制御力fyを監視して処理を実行する。まず、コントローラCは、ヨー制御力fyが所定時間以上の間ヨー上限値fyuとなっているか否かを判断する(ステップF1)。ステップF1の判断においてヨー制御力fyがヨー上限値fyuでない場合、カウンタをリセットしてステップF1の判断へ戻る(ステップF10)。カウンタは、リミットサイクル状態の継続回数をカウントするカウンタであって判断部12が備えている。カウンタの初期値は0であり、カウンタはリセットされると数値を初期値の0とする。
【0040】
ステップF1の判断では、ヨー制御力fyが所定時間以上の間、継続してヨー上限値fyuとなっていることを判断している。これは、ヨー制御力fyが極短い時間の間だけヨー上限値fyuとなっている場合には、アクチュエータAf,Arが発振していないものの鉄道車両Vに入力される振動によってヨー制御力fyが偶然にヨー上限値fyu以上になっていて、アクチュエータAf,Arの発振によってヨー制御力fyの値がヨー上限値fyu以上となっていない場合があるためである。よって、本実施の形態では、振動の入力によってヨー制御力fyがヨー上限値fyu以上となるような状態を排除するべく、ステップF1での判断では、ヨー制御力fyが所定時間以上の間、継続してヨー上限値fyuとなっていることを制御の不健全の可能性があることの条件としている。具体的には、ステップF1の判断では、図4に示したように、ヨー制御力fyがヨー上限値fyuとなっている時間T1が所定時間以上であるか否かを判断すればよい。なお、所定時間は、アクチュエータAf,Arが発振した場合においてヨー制御力fyの値が継続してヨー上限値fyu以上となるであろう時間に設定されていればよい。
【0041】
ステップF1の判断の結果、ヨー制御力fyが所定時間以上の間、継続してヨー上限値fyuとなっている場合、ステップF2に移行して、コントローラCは、一定の待ち時間の経過を待つ。アクチュエータAf,Arが発振する場合、図4中の実線に示したように、ヨー制御力fyの値がヨー上限値fyuとヨー下限値fylとに交互に切り換わるが、ヨー上限値fyuとヨー下限値fylとに切り換わるまでの間に時間を要する。待ち時間は、アクチュエータAf,Arが発振する場合にヨー制御力fyの値がヨー上限値fyuからヨー下限値fylに切り換わる時間に設定されればよく、ヨー制御力fyの周期が鉄道車両Vの固有周期とほぼ一致することから前記固有周期に応じて設定されればよい。具体的には、ステップF2の処理では、図4に示したように、ヨー制御力fyがヨー上限値fyuからヨー下限値fylへ変化するのに要する時間T2を待ち時間としている。
【0042】
つづいて、コントローラCは、ヨー制御力fyが所定時間以上の間ヨー下限値fylとなっているか否かを判断する(ステップF3)。ステップF3の判断においてヨー制御力fyがヨー下限値fylでない場合、カウンタをリセットしてステップF1の判断へ戻る(ステップF10)。ステップF3の判断では、ヨー制御力fyが所定時間以上の間、継続してヨー下限値fylとなっていることを判断している。これは、ステップF1での判断と同様に、ヨー制御力fyが所定時間以上の間、継続してヨー下限値fylとなっていることを条件とすることで、振動の入力によってヨー制御力fyがヨー下限値fyl以上となるような状態を排除できる。具体的には、ステップF3の判断では、図4に示したように、ヨー制御力fyがヨー下限値fylとなっている時間T1が所定時間以上であるか否かを判断すればよい。
【0043】
ステップF3の判断の結果、ヨー制御力fyが所定時間以上の間、継続してヨー下限値fylとなっている場合、ステップF4に移行して、コントローラCは、一定の待ち時間の経過を待つ。ステップF4でコントローラCが待ち時間の経過を待つのは、ステップF2と同様にヨー制御力fyの値がヨー下限値fylからヨー上限値fyuに切り換わる時間の経過を待つためである。具体的には、ステップF2の処理では、図4に示したように、ヨー制御力fyがヨー下限値fylからヨー上限値fyuへ変化するのに要する時間T2を待ち時間としている。
【0044】
さらに、コントローラCは、ヨー制御力fyがヨー上限値fyuとなっているか否かを判断する(ステップF5)。ヨー制御力fyが待ち時間の経過の後、ヨー上限値fyuになっている場合には、コントローラCは、リミットサイクル状態であると看做してステップF6の処理に移行する。これに対して、ヨー制御力fyが待ち時間の経過の後、ヨー上限値fyuになっていない場合には、コントローラCは、ステップF1の処理に移行する。
【0045】
ステップF6では、ステップF5の判断でヨー制御力fyがリミットサイクル状態になったと判断されるので、コントローラCは、リミットサイクル状態の回数をカウントするカウンタの現在の数値に1を加えるインクリメント処理をした後、ステップF7へ移行する。
【0046】
コントローラCは、カウンタの数値が5以上であるか否かを判断する(ステップF7)。カウンタの数値が4以下である場合、コントローラCは、ステップF1の処理に戻る。他方、カウンタの数値が5以上の場合、コントローラCは、リミットサイクル状態が5回以上継続しているので、アクチュエータAf,Arの制御が不健全であると判断し(ステップF8)、アクチュエータAf,Arの制御を中止する(ステップF9)。
【0047】
コントローラCは、アクチュエータAf,Arの制御中は、制御が不健全であると判断して制御を中止するまでは、前記処理を継続して行ってヨー制御力fyを監視する。
【0048】
以上、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両Vにおける車体Bと台車Tf,Trとの間に介装されて車体Bの横方向の振動を抑制する推力を発生可能なアクチュエータAf,Arと、車体Bの横方向の振動を検知する加速度センサ(センサ)2f,2rと、加速度センサ(センサ)2f,2rが検知した振動に基づいて少なくとも車体Bの振動を抑制するヨー制御力fyを求めてアクチュエータAf,Arを制御するコントローラCとを備え、コントローラCは、ヨー制御力fyが所定回数以上連続して飽和するとアクチュエータAf,Arの制御が不健全であると判断する判断部12を備えている。
【0049】
このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、アクチュエータAf,Arが発振すると波形の振幅が大きくなるという特徴が現れるヨー制御力fyを用い、当該ヨー制御力fyが所定回数以上連続して飽和するとアクチュエータAf,Arの制御が不健全であると判断するので、振動の入力で偶発的に車体Bの振動が大きくなるような状況を除外しつつ、正確にアクチュエータAf,Arの発振を検知でき、正確に制御健全性の判断を行える。
【0050】
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1のコントローラCにおける判断部12は、ヨー制御力fyが交互に所定時間ヨー上限値fyuに達するとともに所定時間ヨー下限値fylに達するとヨー制御力fyが飽和すると判断する。このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、ヨー制御力fyがヨー上限値fyuとヨー下限値fylとに交互に達することを条件としてヨー制御力fyを飽和と判断しているので、鉄道車両Vに入力される振動によってヨー制御力fyがヨー上限値fyu或いはヨー下限値fylのいずれか一方のみを偶発的に跨ぐような波形を呈した場合や極短い時間ヨー上限値fyu或いはヨー下限値fylとなる場合などを除外できるので、より正確にアクチュエータAf,Arの発振を検知でき、制御の健全性の判断結果の正確性を向上できる。
【0051】
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1のコントローラCは、ヨー制御力fyがヨー上限値fyu以上およびヨー下限値fyl以上になるとヨー制御力fyをヨー上限値fyuとヨー下限値fylとにクランプするヨー制御力リミッタ22を備える。このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、鉄道車両Vに入力される振動によってヨー制御力fyがヨー上限値fyu或いはヨー下限値fylのいずれか一方のみを偶発的に跨ぐような波形を呈した場合や極短い時間ヨー上限値fyu或いはヨー下限値fylとなる場合などを除外できるとともに、ヨー制御力fyの飽和時の波形がヨー上限値fyu或いはヨー下限値fylのまま変化しないフラットな波形となるので、より正確かつ容易にアクチュエータAf,Arの発振を検知でき、制御の健全性の判断結果の正確性を向上できる。
【0052】
なお、ヨー制御力fyの絶対値がヨー上限値fyuおよびヨー下限値fylに相当するリミット値に到達するとヨー制御力fyの飽和として取り扱ってもよいが、この場合、ヨー制御力fyがプラス側のヨー上限値fyuとマイナス側のヨー下限値fylとを交互に到達しているかの否かが不明となるので、制御健全性の判断の正確性の点でヨー制御力fyがヨー上限値fyuとヨー下限値fylとに交互に達するとヨー制御力fyが飽和すると判断する方が有利となる。
【0053】
さらに、前述したところでは、ヨー制御力fyの飽和を条件としてアクチュエータAf,Arの制御が不健全であるかを判断しているが、ヨー制御力fyはヨー加速度αyに基づいて求められる。ヨー加速度αyが大きくなれば、コントローラCは、ヨー加速度αyを打ち消す方向のヨー制御力fyをアクチュエータAf,Arに出力させて車体Bの振動を低減することになるので、ヨー加速度αyはヨー制御力fyと同様に、アクチュエータAf,Arの制御の健全性が損なわれてアクチュエータAf,Arが発振するとヨー加速度αyの波形における振幅も大きくなる。よって、コントローラCは、ヨー制御力fyに代えてヨー加速度αyを監視して、図4に示すように、図4中二点鎖線で示すヨー加速度αyに対して所定のプラス側閾値βuとマイナス側閾値βlとを設定して、ヨー加速度αyが所定のプラス側閾値βuとマイナス側閾値βlとに所定回数以上連続して到達するとアクチュエータAf,Arの制御が不健全であると判断してもよい。ただし、ヨー制御力fyは、アクチュエータAf,Arが発生すべき推力を直接的に指示するものであるので、車体Bのヨー加速度αyを用いて制御の健全性を判断する場合と比較して、ヨー制御力fyを用いて制御の健全性を判断する方がアクチュエータAf,Arの発振状況を精度よく判断できるので好ましい。
【0054】
また、コントローラCがヨー加速度αyの値がプラス側閾値βuとマイナス側閾値βlとに交互に達する判断した場合、鉄道車両Vに入力される振動によってヨー加速度αyがプラス側閾値βu或いはマイナス側閾値βlのいずれか一方のみを偶発的に跨ぐような波形を呈した場合などを除外できるので、より正確にアクチュエータAf,Arの発振を検知でき、制御の健全性の判断結果の正確性を向上できる。コントローラCがヨー加速度αyの絶対値とヨー加速度αyの絶対値に対して設定される閾値とを比較してアクチュエータAf,Arの制御が不健全であるかを判断する場合、ヨー加速度αyがプラス側閾値βuとマイナス側閾値βlとに交互に到達しているか否かが不明となるので、制御健全性の判断の正確性の点でヨー加速度αyがプラス側閾値βuとマイナス側閾値βlとに交互に達すると制御の健全性が損なわれていると判断する方が有利となる。ヨー加速度αyに対して設定される所定の閾値、本実施の形態では、プラス側閾値βuおよびマイナス側閾値βlは、アクチュエータAf,Arが発振すると採りえるヨー加速度の値に設定される。
【0055】
また、コントローラCは、本実施の形態では、車体Bの前側に設けられるアクチュエータAfと後側に設けられるアクチュエータArとを制御しているが、アクチュエータAfとアクチュエータArとがそれぞれ別々のコントローラCによって制御されてもよく、その場合、前側のアクチュエータAfを制御するコントローラCがアクチュエータAfの制御の健全性を判断し、後側のアクチュエータArを制御するコントローラCがアクチュエータArの制御の健全性を判断してもよい。なお、コントローラCは、判断部12を含んで単一のハードウェアによって構成されているが、判断部12を構成するハードウェアと制御演算部11を構成するハードウェアとが互いに独立していてもよい。
【0056】
前述したところでは、判断部12は、ヨー制御力fyが所定回数以上連続して飽和するか、或いは、ヨー加速度αyが所定回数以上連続して所定の閾値に到達することをもってしてアクチュエータAf,Arの制御が不健全であると判断しているが、この処理に加えて、図6に示す処理を行って、アクチュエータAf,Arの制御の健全性を判断してもよい。
【0057】
このように図6に示す処理を行う場合、コントローラCは、図5に示した処理中のステップF7の処理でリミットサイクル状態が5回以上であると判断すると、コントローラCは、図5中のステップF8およびステップF9の代わりに、図6におけるステップF11に示した処理を行う。この図6の処理は、前側のアクチュエータAfと後側のアクチュエータArとのそれぞれについての制御の健全性を判断するべく独立に行われる。
【0058】
ステップF11では、コントローラCは、前側のアクチュエータAfの健全性指標Ifを求める。なお、後側のアクチュエータArの制御が不健全であるか判断する場合は、コントローラCは、ステップF11において後側のアクチュエータArの健全性指標Irを求める。
【0059】
前側のアクチュエータAfの健全性指標Ifは、加速度センサ2fが検知した横方向加速度αfを微分して得た加速度の微分値dαf/dtに制御力Ffを乗じて得た値であり、後側のアクチュエータArの健全性指標Irは、加速度センサ2rが検知した横方向加速度αrを微分して得た加速度の微分値dαr/dtに制御力Frを乗じて得た値である。
【0060】
つづいて、コントローラCは、健全性指標Ifの絶対値がそれぞれ閾値Iref以上であるか否かを判断する(ステップF12)。後側のアクチュエータArの制御が不健全であるか判断する場合は、コントローラCは、ステップF12において健全性指標Irの絶対値がそれぞれ閾値Iref以上であるか否かを判断する。その結果、健全性指標If(Ir)の絶対値が閾値Iref未満である場合、アクチュエータAfの制御に異常は無いと判断される(ステップF16)。
【0061】
ステップF12の判断で、健全性指標If(Ir)の絶対値が閾値Iref以上である場合、ステップF13へ移行して、コントローラCは、所定のサンプリング時間内において健全性指標If(Ir)の絶対値が閾値Iref以上となった累積回数が所定の異常値以上であるか否かを判断する。その結果、所定のサンプリング時間内において健全性指標If(Ir)の絶対値が閾値Iref以上となった累積回数が所定の異常値未満である場合、アクチュエータAf(Ar)の制御に異常は無いと判断される(ステップF16)。なお、異常値は、任意に設定できるが、あまりに小さな値に設定されると偶発的に健全性指標If(Ir)の絶対値が閾値Iref以上となった場合も異常と判断されてしまい、あまり大きな値に設定されてしまうと制御の不健全であることの検知が遅れてしまうため、制御周期等を勘案して適切な値に設定される。
【0062】
他方、ステップF13の判断で、健全性指標If(Ir)の絶対値が所定のサンプリング時間内において閾値Iref以上となった累積回数が異常値以上となると、コントローラCは、異常回数をカウントする異常カウンタの値をインクリメントする処理を行ってからステップF14の処理を行う。異常カウンタの値の初期値は0であるが、アクチュエータAf,Arの制御中はリセットされることはない。
【0063】
ステップF14では、コントローラCは、異常回数が3回以上であるかを判断し、異常回数が3回未満であるとアクチュエータAf(Ar)の制御に異常は無いと判断される(ステップF16)。他方、コントローラCは、異常回数が3回以上である場合、ステップF15へ移行してアクチュエータAf(Ar)の制御が不健全であると判断し、アクチュエータAf(Ar)の制御を中止する(ステップF17)。
【0064】
制御が不健全であり、アクチュエータAf,Arが発振して車体Bを加振してしまう場合、車体Bの振動が抑制されず横方向加速度αf,αrがどんどん大きくなる。コントローラCは、横方向加速度αf,αrを小さくするようにアクチュエータAf,Arに推力を発揮させるのであるが、横方向加速度αf,αrが大きくなると、コントローラCが求める制御力Ff,Frも大きくなっていく。つまり、制御が不健全になると、横方向加速度αf,αrも制御力Ff,Frも次第に大きくなる。横方向加速度αf,αrの微分値dαf/dt,dαr/dtは横方向加速度αf,αrが増加傾向にあるのか減少傾向にあるのか示す将来の傾向を示している。よって、健全性指標If,Irは、車体Bの振動が増加に向かうのか減少に向かうのかを加味した指標であり、制御性が悪化を予見した判断が可能な指標となっている。また、健全性指標If,Irは、制御力Ff,Frを横方向加速度αf,αrの微分値dαf/dt,dαr/dtに乗じて得られるので、制御力Ff,Frが小さくとも横方向加速度αf,αrの微分値dαf/dt,dαr/dtが大きくなると健全性指標If,Irが大きくなるので、このような状況でも制御性の悪化を正確に判断し得る。
【0065】
このように、判断部12は、ヨー制御力fyが所定回数以上連続して飽和するか、或いは、ヨー加速度αyが所定回数以上連続して所定の閾値に到達することに加えて、健全性指標If,Irの絶対値が閾値Iref以上となることを条件として、アクチュエータAf,Arの制御が不健全であると判断する場合、より一層正確にアクチュエータAf,Arの制御に異常があるか否かを判断できる。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1・・・鉄道車両用制振装置、2f,2r・・・加速度センサ(センサ)、12・・・判断部、22・・・ヨー制御力リミッタ、Af,Ar・・・アクチュエータ、B・・・車体、C・・・コントローラ、T・・・台車、V・・・鉄道車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6